(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077294
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20240531BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20240531BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20240531BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20240531BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20240531BHJP
B62D 117/00 20060101ALN20240531BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D101:00
B62D113:00
B62D119:00
B62D117:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189302
(22)【出願日】2022-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 鳴
(72)【発明者】
【氏名】外山 英次
(72)【発明者】
【氏名】工藤 佳夫
【テーマコード(参考)】
3D232
3D333
【Fターム(参考)】
3D232CC16
3D232DA03
3D232DA09
3D232DA13
3D232DA15
3D232DA23
3D232DA63
3D232DA64
3D232DC02
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3D232GG01
3D333CB02
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3D333CB46
3D333CC06
3D333CC15
3D333CC18
3D333CD09
3D333CD10
3D333CD14
3D333CE45
(57)【要約】
【課題】車両の直進走行中にトルクステアが発生する状況であれ、車両の直進性を維持することができる操舵制御装置を提供する。
【解決手段】操舵制御装置1は、目標ピニオン角演算部62と、ピニオン角フィードバック制御部63と、第1の判定部67とを有する。目標ピニオン角演算部62は、ステアリングホイールの操舵状態に応じて目標ピニオン角θ
p
*を演算する。ピニオン角フィードバック制御部63は、目標ピニオン角θ
p
*に実角度を追従させるフィードバック制御を実行することにより、転舵トルク指令値T
p
*を演算する。第1の判定部67は、判定条件が成立するとき、車両の直進走行中にトルクステアが発生していると判定する。目標ピニオン角演算部62は、第1の判定部67によりトルクステアが発生していると判定されている期間、ステアリングホイールの操舵状態にかかわらず、目標ピニオン角θ
p
*を車両の直進状態に対応する角度に設定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の転舵シャフトに付与されるトルクを発生するモータに対する給電を制御するように構成される制御部を有する操舵制御装置であって、
前記制御部は、前記車両の転舵輪の転舵動作に連動して回転するシャフトの目標角度をステアリングホイールの操舵状態に応じて演算するように構成される第1の演算部と、
前記第1の演算部により演算される前記目標角度に実角度を追従させるフィードバック制御を実行することにより、前記モータが発生するトルクに対する指令値である転舵トルク指令値を演算するように構成されるフィードバック制御部と、
定められた判定条件が成立するとき、前記車両の直進走行中にトルクステアが発生していると判定するように構成される判定部と、を備え、
前記第1の演算部は、前記判定部により前記車両の直進走行中に前記トルクステアが発生していると判定されている期間、前記ステアリングホイールの操舵状態にかかわらず、前記目標角度を前記車両の直進状態に対応する角度に設定するように構成される操舵制御装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記判定条件が成立してから、定められた期間だけ経過したとき、前記トルクステアの発生を確定するとともに、前記トルクステアの前記判定条件が成立した後であって、前記トルクステアの発生が確定される前の前記目標角度を保持するように構成され、
前記第1の演算部は、前記トルクステアの発生が確定されたとき、前記ステアリングホイールの操舵状態にかかわらず、前記判定部に保持されている前記目標角度を使用するように構成される請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項3】
前記トルクステアの前記判定条件は、
前記ステアリングホイールの操舵状態が前記車両の直進状態に対応していること、および
前記車両の進行方向に対する左右2つの前記転舵輪の駆動力が異なること、を含む請求項1または請求項2に記載の操舵制御装置。
【請求項4】
前記判定部は、左右2つの前記転舵輪の回転数差を吸収するためのディファレンシャルギヤを通じて、左右2つの前記転舵輪の駆動力を検出するように構成される請求項3に記載の操舵制御装置。
【請求項5】
前記モータは、前記ステアリングホイールとの間の動力伝達が分離された前記転舵シャフトに付与されるトルクであって、前記転舵トルク指令値に応じたトルクを発生するように構成される転舵モータと、
前記ステアリングホイールに付与されるトルクである操舵反力を発生するように構成される反力モータと、を含み、
前記制御部は、前記ステアリングホイールの操舵状態に応じて、前記反力モータが発生するトルクに対する指令値である反力トルク指令値を演算するように構成される第2の演算部を有し、
前記第2の演算部は、前記判定部により前記車両の直進走行中に前記トルクステアが発生していると判定されている期間、前記ステアリングホイールの操舵状態にかかわらず、前記反力トルク指令値を前記車両の直進状態に対応する値、または近似した値に設定するように構成される請求項1または請求項2に記載の操舵制御装置。
【請求項6】
前記第2の演算部は、前記実角度または前記目標角度に基づき前記転舵シャフトに作用する第1の軸力と、前記転舵モータに供給される電流の値に基づき前記転舵シャフトに作用する第2の軸力とを演算するとともに、前記第1の軸力と前記第2の軸力とを定められた配分比率で混合することにより、前記反力トルク指令値に反映させる最終的な軸力である第3の軸力を演算するように構成される軸力演算部を備え、
前記軸力演算部は、前記判定部により前記車両の直進走行中に前記トルクステアが発生していると判定されている期間、前記第3の軸力に対する前記第1の軸力の割合を、前記第3の軸力に対する前記第2の軸力の割合よりも大きくするように構成される請求項5に記載の操舵制御装置。
【請求項7】
左右2つの前記転舵輪は、独立して転舵できるように、かつ前記ステアリングホイールとの間の動力伝達が分離されるように構成され、
前記モータは、左の前記転舵輪を転舵させるためのトルクを発生する第1の転舵モータと、右の前記転舵輪を転舵させるためのトルクを発生する第2の転舵モータと、前記ステアリングホイールに付与されるトルクである操舵反力を発生するように構成される反力モータと、を含み、
前記判定部は、前記第1の転舵モータに供給される電流の値に基づき左の前記転舵輪の駆動力を検出する一方、前記第2の転舵モータに供給される電流の値に基づき右の前記転舵輪の駆動力を検出するように構成される請求項3に記載の操舵制御装置。
【請求項8】
前記モータは、前記転舵輪に動力伝達可能に連結された前記ステアリングホイールの操舵を補助するためのアシスト力を発生するアシストモータである請求項1に記載の操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達を分離した、いわゆるステアバイワイヤ方式の操舵装置が存在する。操舵装置は、ステアリングシャフトに付与される操舵反力の発生源である反力モータ、および転舵輪を転舵させる転舵力の発生源である転舵モータを有している。車両の走行時、操舵装置の制御装置は、反力モータに対する給電制御を通じて操舵反力を発生させるとともに、転舵モータに対する給電制御を通じて転舵輪を転舵させる。
【0003】
たとえば、特許文献1の操舵装置は、ディファレンシャルギヤを有している。ディファレンシャルギヤは、左右の車輪の回転数差を調整するための機構である。操舵装置の制御装置は、操舵装置の異常が検出されるとき、車両状態に基づいてディファレンシャルギヤをアクティブ制御することによって代替操舵補助を行う。このため、操舵装置に異常が発生した場合であれ、運転者の操舵感に違和感を与えることなく操舵補助を継続することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
たとえば、車両が直進状態で加速する際、トルクステアが発生することがある。トルクステアは、ステアリング操作を行っていないにもかかわらず、車両が直進せず、左右どちらかに曲がりながら進む現象である。トルクステアは、車両の構造上の不均衡に起因して、左右の駆動輪の回転数あるいは駆動力に差が生じることにより発生する。特許文献1のように、ディファレンシャルギヤを搭載した車両においては、トルクステアが発生しやすい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決し得る操舵制御装置は、車両の転舵シャフトに付与されるトルクを発生するモータに対する給電を制御するように構成される制御部を有する。前記制御部は、第1の演算部と、フィードバック制御部と、判定部と、を備えている。第1の演算部は、前記車両の転舵輪の転舵動作に連動して回転するシャフトの目標角度をステアリングホイールの操舵状態に応じて演算するように構成される。フィードバック制御部は、前記第1の演算部により演算される前記目標角度に実角度を追従させるフィードバック制御を実行することにより、前記モータが発生するトルクに対する指令値である転舵トルク指令値を演算するように構成される。判定部は、定められた判定条件が成立するとき、前記車両の直進走行中にトルクステアが発生していると判定するように構成される。前記第1の演算部は、前記判定部により前記車両の直進走行中に前記トルクステアが発生していると判定されている期間、前記ステアリングホイールの操舵状態にかかわらず、前記目標角度を前記車両の直進状態に対応する角度に設定するように構成される。
【0007】
この構成によれば、トルクステアの発生に伴い転舵輪の転舵位置が変化するとき、転舵輪が転舵中立位置に戻るように、モータの駆動が制御される。転舵中立位置は、車両の直進状態に対応する転舵輪の転舵位置である。このため、トルクステアによる転舵輪の転舵が抑制される。したがって、車両の直進走行中にトルクステアが発生する状況であれ、車両の直進性を維持することができる。
【0008】
上記の操舵制御装置において、前記判定部は、前記判定条件が成立してから、定められた期間だけ経過したとき、前記トルクステアの発生を確定するとともに、前記トルクステアの前記判定条件が成立した後であって、前記トルクステアの発生が確定される前の前記目標角度を保持するように構成されてもよい。この場合、前記第1の演算部は、前記トルクステアの発生が確定されたとき、前記ステアリングホイールの操舵状態にかかわらず、前記判定部に保持されている前記目標角度を使用するように構成されてもよい。
【0009】
この構成によれば、トルクステアの発生が確定されたとき、ステアリングホイールの操舵状態にかかわらず、判定部に保持されている目標角度が使用される。トルクステアの判定条件は、車両の直進走行中にトルクステアが発生していることを判定するための条件である。このため、判定条件が成立したとき、判定部により保持される目標角度は、車両の直進状態に対応する角度である。このため、車両の直進走行中にトルクステアが発生する状況であれ、車両の直進性を維持することができる。
【0010】
上記の操舵制御装置において、前記トルクステアの前記判定条件は、前記ステアリングホイールの操舵状態が前記車両の直進状態に対応していること、および前記車両の進行方向に対する左右2つの前記転舵輪の駆動力が異なること、を含んでいてもよい。
【0011】
この構成によるように、車両の直進走行中であるにもかかわらず、左右の転舵輪の駆動力が異なる場合、車両にトルクステアが発生しているといえる。判定部は、判定条件が成立するかどうかに基づき、トルクステアの発生を適切に判定することができる。
【0012】
上記の操舵制御装置において、前記判定部は、左右2つの前記転舵輪の回転数差を吸収するためのディファレンシャルギヤを通じて、左右2つの前記転舵輪の駆動力を検出するように構成されてもよい。
【0013】
ディファレンシャルギヤが左右2つの転舵輪の駆動力を検出する機能を有することがある。この場合、上記の構成によるように、判定部は、ディファレンシャルギヤを通じて、左右2つの転舵輪の駆動力を検出することができる。
【0014】
上記の操舵制御装置において、前記モータは、転舵モータと、反力モータと、を含んでいてもよい。転舵モータは、前記ステアリングホイールとの間の動力伝達が分離された前記転舵シャフトに付与されるトルクであって、前記転舵トルク指令値に応じたトルクを発生するように構成される。反力モータは、前記ステアリングホイールに付与されるトルクである操舵反力を発生するように構成される。前記制御部は、前記ステアリングホイールの操舵状態に応じて、前記反力モータが発生するトルクに対する指令値である反力トルク指令値を演算するように構成される第2の演算部を有していてもよい。前記第2の演算部は、前記判定部により前記車両の直進走行中に前記トルクステアが発生していると判定されている期間、前記ステアリングホイールの操舵状態にかかわらず、前記反力トルク指令値を前記車両の直進状態に対応する値、または近似した値に設定するように構成されてもよい。
【0015】
この構成によれば、車両の直進走行中にトルクステアが発生していると判定されている期間、前記反力トルク指令値が、車両の直進状態に対応した値、または近似する値に設定される。このため、車両の直進状態に対応した操舵反力、または近似する操舵反力がステアリングホイールに付与される。このため、ステアリングホイールの回転位置を車両の直進状態に対応する位置に維持しやすくなる。したがって、車両を直進走行させやすくなる。
【0016】
上記の操舵制御装置において、前記第2の演算部は、軸力演算部を備えていてもよい。軸力演算部は、前記実角度または前記目標角度に基づき前記転舵シャフトに作用する第2の軸力と、前記転舵モータに供給される電流の値に基づき前記転舵シャフトに作用する第1の軸力とを演算するとともに、前記第1の軸力と前記第2の軸力とを定められた配分比率で混合することにより、前記反力トルク指令値に反映させる最終的な軸力である第3の軸力を演算するように構成される。前記軸力演算部は、前記判定部により前記車両の直進走行中に前記トルクステアが発生していると判定されている期間、前記第3の軸力に対する前記第1の軸力の割合を、前記第3の軸力に対する前記第2の軸力の割合よりも大きくするように構成されてもよい。
【0017】
この構成によれば、車両の直進走行中にトルクステアが発生していると判定されている期間、第1の軸力が、反力トルク指令値により大きく反映される。第1の軸力は、車両の直進状態に対応するシャフトの実角度または目標角度に基づく軸力である。このため、第1の軸力が反力トルク指令値により大きく反映されることにより、反力トルク指令値が車両の直進状態に対応した値、または近似する値となる。したがって、車両の直進状態に対応した操舵反力、または近似する操舵反力がステアリングホイールに付与される。
【0018】
上記の操舵制御装置において、左右2つの前記転舵輪は、独立して転舵できるように、かつ前記ステアリングホイールとの間の動力伝達が分離されるように構成されてもよい。前記モータは、左の前記転舵輪を転舵させるためのトルクを発生する第1の転舵モータと、右の前記転舵輪を転舵させるためのトルクを発生する第2の転舵モータと、前記ステアリングホイールに付与されるトルクである操舵反力を発生するように構成される反力モータと、を含んでもよい。前記判定部は、前記第1の転舵モータに供給される電流の値に基づき左の前記転舵輪の駆動力を検出する一方、前記第2の転舵モータに供給される電流の値に基づき右の前記転舵輪の駆動力を検出するように構成されてもよい。
【0019】
上記の構成によるように、左右2つの転舵輪が独立して転舵される場合、第1の転舵モータおよび第2の転舵モータに供給される電流に基づき、左右2つの転舵輪の駆動力を検出することができる。
【0020】
上記の操舵制御装置において、前記モータは、前記転舵輪に動力伝達可能に連結された前記ステアリングホイールの操舵を補助するためのアシスト力を発生するアシストモータであってもよい。
【0021】
この構成によれば、トルクステアの発生に伴い転舵輪の転舵位置が変化するとき、転舵輪が転舵中立位置に戻るように、アシストモータの駆動が制御される。このため、トルクステアによる転舵輪の転舵が抑制される。したがって、車両の直進走行中にトルクステアが発生する状況であれ、車両の直進性を維持することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の操舵制御装置によれば、車両の直進走行中にトルクステアが発生する状況であれ、車両の直進性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】操舵制御装置の第1の実施の形態が搭載されるステアバイワイヤ方式の操舵装置の構成図である。
【
図2】操舵制御装置の第1の実施の形態のブロック図である。
【
図3】操舵制御装置の第2の実施の形態の要部を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<第1の実施の形態>
以下、操舵制御装置の一実施の形態について説明する。
<全体構成>
図1に示すように、操舵制御装置1の制御対象は、ステアバイワイヤ式の操舵装置2である。操舵装置2は、操舵機構3と、転舵機構4とを有している。操舵機構3は、ステアリングホイール5を介して、運転者により操舵される機構部分である。転舵機構4は、ステアリングホイール5の操舵に応じて、車両の転舵輪6を転舵させる機構部分である。車両は、たとえば前輪駆動車である。転舵輪6は、駆動輪としての前輪である。
【0025】
車両は、LSD(Limited-Slip-Differential gear)7を有している。LSD7は、ディファレンシャルギヤの一種であって、左右の転舵輪6の回転数差、あるいは駆動力差を吸収するための機構である。左右の転舵輪6は、ドライブシャフト8を介して、LSD7に連結されている。ドライブシャフト8の第1の端部は、LSD7に連結されている。ドライブシャフト8の第2の端部は、転舵輪6に組み込まれたハブユニット軸受を介して、転舵輪6に連結されている。エンジンなどの走行用駆動源が発生する駆動力は、トランスミッションおよびLSD7を介して、ドライブシャフト8に伝達される。左右のドライブシャフト8の長さは異なっている。
【0026】
なお、LSD7には、センサが内蔵されている。センサは、左右の転舵輪6の駆動力TR,TLを検出する。駆動力TRは、車両の進行方向に対して右側の転舵輪6の回転方向のトルクである。駆動力TLは、車両の進行方向に対して左側の転舵輪6の回転方向のトルクである。
【0027】
操舵機構3は、ステアリングシャフト11と、反力モータ12と、減速機13と、を有している。ステアリングホイール5は、ステアリングシャフト11に一体回転可能に連結される。反力モータ12は、ステアリングシャフト11に付与する操舵反力の発生源である。操舵反力は、ステアリングホイール5の操舵方向と反対方向の力である。反力モータ12は、たとえば三相のブラシレスモータである。減速機13は、反力モータ12の回転を減速し、減速された回転をステアリングシャフト11に伝達する。
【0028】
転舵機構4は、ピニオンシャフト21と、転舵シャフト22と、ハウジング23と、を有している。ハウジング23は、ピニオンシャフト21を回転可能に支持する。また、ハウジング23は、転舵シャフト22を往復動可能に収容する。転舵シャフト22は、ステアリングホイール5との間の動力伝達が分離されている。ピニオンシャフト21は、転舵シャフト22に対して交わるように設けられている。ピニオンシャフト21のピニオン歯21aは、転舵シャフト22のラック歯22aと噛み合う。転舵シャフト22の両端には、ボールジョイントからなるラックエンド24を介して、タイロッド25が連結されている。タイロッド25の先端は、転舵輪6が組み付けられたナックルに連結される。
【0029】
転舵機構4は、転舵モータ31と、伝動機構32と、変換機構33とを備えている。転舵モータ31は、転舵シャフト22に付与する転舵力の発生源である。転舵力は、転舵輪6を転舵させるための力である。転舵モータ31は、たとえば三相のブラシレスモータである。伝動機構32は、たとえばベルト伝動機構である。伝動機構32は、転舵モータ31の回転を変換機構33に伝達する。変換機構33は、たとえばボールねじ機構である。変換機構33は、伝動機構32を介して伝達される回転を、転舵シャフト22の軸方向の運動に変換する。
【0030】
転舵シャフト22が軸方向に移動することによって、転舵輪6の転舵角θwが変更される。ピニオンシャフト21のピニオン歯21aは、転舵シャフト22のラック歯22aと噛み合っているため、転舵シャフト22の移動に連動して回転する。ピニオンシャフト21は、転舵輪6の転舵動作に連動して回転するシャフトである。
【0031】
操舵制御装置1は、反力モータ12および転舵モータ31の動作を制御する。操舵制御装置1は、つぎの3つの構成A1,A2,A3のうちいずれか一を含む処理回路を有している。
【0032】
A1.ソフトウェアであるコンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ。プロセッサは、CPU(Central Processing Unit)およびメモリを含む。
A2.各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する特定用途向け集積回路(ASIC)などの1つ以上の専用のハードウェア回路。ASICは、CPUおよびメモリを含む。
【0033】
A3.構成A1,A2を組み合わせたハードウェア回路。
メモリは、コンピュータで読み取り可能とされた媒体であって、コンピュータに対する処理あるいは命令を記述したプログラムを記憶している。本実施の形態では、コンピュータは、CPUである。メモリは、RAM(Random Access Memory)およびROM(Read Only Mmemory)を含む。CPUは、メモリに記憶されたプログラムを定められた演算周期で実行することによって各種の制御を実行する。
【0034】
操舵制御装置1は、車載のセンサの検出結果を取り込む。センサは、車速センサ41、トルクセンサ42、回転角センサ43、および回転角センサ44を含む。
車速センサ41は、車速Vを検出する。トルクセンサ42は、ステアリングシャフト11における減速機13の連結部分を基準として、ステアリングホイール5側に設けられている。トルクセンサ42は、ステアリングシャフト11に付与される操舵トルクThを検出する。操舵トルクThは、ステアリングシャフト11に設けられるトーションバー42aのねじれ量に基づき演算される。回転角センサ43は、反力モータ12に設けられている。回転角センサ43は、反力モータ12の回転角θaを検出する。回転角センサ44は、転舵モータ31に設けられている。回転角センサ44は、転舵モータ31の回転角θbを検出する。
【0035】
操舵トルクTh、反力モータ12の回転角θa、および転舵モータ31の回転角θbは、たとえば、ステアリングホイール5を右に操舵する場合は正の値であり、ステアリングホイール5を左に操舵する場合は負の値である。
【0036】
操舵制御装置1は、各種のセンサの検出結果に基づき、反力モータ12と転舵モータ31とを制御する。操舵制御装置1は、操舵トルクThに応じた操舵反力を反力モータ12に発生させるように、反力モータ12に対する給電を制御する。操舵制御装置1は、ステアリングホイール5の操舵状態に応じて転舵輪6が転舵されるように、転舵モータ31に対する給電を制御する。
【0037】
<操舵制御装置1の構成>
つぎに、操舵制御装置1の構成について説明する。
図2に示すように、操舵制御装置1は、反力制御を実行する反力制御部50、および転舵制御を実行する転舵制御部60を有している。
【0038】
反力制御部50は、操舵角演算部51、反力トルク指令値演算部52、および通電制御部53を有している。
操舵角演算部51は、回転角センサ43を通じて検出される反力モータ12の回転角θaに基づき、ステアリングホイール5の操舵角θsを演算する。
【0039】
反力トルク指令値演算部52は、操舵トルクThおよび車速Vに基づき反力トルク指令値T*を演算する。反力トルク指令値T*は、反力モータ12に発生させるべき、操舵反力の目標値である。操舵反力は、ステアリングホイール5の操舵方向と反対方向のトルクである。操舵トルクThの絶対値が大きいほど、また車速Vが遅いほど、反力トルク指令値T*の絶対値は、より大きくなる。
【0040】
通電制御部53は、反力トルク指令値T*に応じた電力を反力モータ12へ供給する。具体的には、通電制御部53は、反力トルク指令値T*に基づき、反力モータ12に対する電流指令値を演算する。通電制御部53は、反力モータ12に対する給電経路に設けられた電流センサ54を通じて、給電経路に生じる電流Iaの値を検出する。電流Iaの値は、反力モータ12に供給される電流の値である。通電制御部53は、電流指令値と電流Iaの値との偏差を求め、当該偏差を無くすように反力モータ12に対する給電を制御する。これにより、反力モータ12は、反力トルク指令値T*に応じたトルクを発生する。
【0041】
転舵制御部60は、ピニオン角演算部61、目標ピニオン角演算部62、ピニオン角フィードバック制御部63、および通電制御部64を有している。
ピニオン角演算部61は、回転角センサ43を通じて検出される転舵モータ31の回転角θbに基づき、ピニオン角θpを演算する。ピニオン角θpは、ピニオンシャフト21の回転角であって、実際の角度である実角度に相当する。転舵モータ31とピニオンシャフト21とは、伝動機構32、変換機構33、および転舵シャフト22を介して連動する。このため、転舵モータ31の回転角θbとピニオン角θpとの間には相関関係がある。この相関関係を利用して、転舵モータ31の回転角θbからピニオン角θpを求めることができる。ピニオンシャフト21は、転舵シャフト22に噛合されている。このため、ピニオン角θpと転舵シャフト22の移動量との間にも相関関係がある。すなわち、ピニオン角θpは、転舵輪6の転舵角θwを反映する値である。
【0042】
目標ピニオン角演算部62は、操舵角演算部51により演算される操舵角θsに基づき目標ピニオン角θp
*を演算する。目標ピニオン角θp
*は、ピニオン角θpの目標角度である。目標ピニオン角演算部62は、製品仕様などに応じて設定される舵角比が実現されるように、目標ピニオン角θp
*を演算する。舵角比は、操舵角θsに対する転舵角θwの比である。
【0043】
目標ピニオン角演算部62は、たとえば、車速Vなどの車両の走行状態に応じて舵角比を設定し、この設定される舵角比に応じて目標ピニオン角θp
*を演算する。目標ピニオン角演算部62は、車速Vが遅くなるにつれて操舵角θsに対する転舵角θwが大きくなるように、目標ピニオン角θp
*を演算する。目標ピニオン角演算部62は、車速Vが速くなるにつれて操舵角θsに対する転舵角θwが小さくなるように、目標ピニオン角θp
*を演算する。目標ピニオン角演算部62は、車両の走行状態に応じて設定される舵角比を実現するために、操舵角θsに対する補正角度を演算し、この演算される補正角度を操舵角θsに加算することにより舵角比に応じた目標ピニオン角θp
*を演算する。
【0044】
ちなみに、製品仕様などによっては、目標ピニオン角演算部62は、車両の走行状態にかかわらず、舵角比が「1:1」となるように、目標ピニオン角θp
*を演算するようにしてもよい。
【0045】
ピニオン角フィードバック制御部63は、目標ピニオン角演算部62により演算される目標ピニオン角θp
*、およびピニオン角演算部61により演算されるピニオン角θpを取り込む。ピニオン角フィードバック制御部63は、ピニオン角θpが目標ピニオン角θp
*に追従するように、ピニオン角θpのフィードバック制御を通じて、転舵トルク指令値Tp
*を演算する。転舵トルク指令値Tp
*は、転舵力の目標値である。
【0046】
通電制御部64は、転舵トルク指令値Tp
*に応じた電力を転舵モータ31へ供給する。具体的には、通電制御部64は、転舵トルク指令値Tp
*に基づき、転舵モータ31に対する電流指令値を演算する。通電制御部64は、転舵モータ31に対する給電経路に設けられた電流センサ65を通じて、給電経路に生じる電流Ibの値を検出する。電流Ibの値は、転舵モータ31に供給される電流の値である。通電制御部64は、電流指令値と電流Ibの値との偏差を求め、当該偏差を無くすように転舵モータ31に対する給電を制御する。これにより、転舵モータ31は転舵トルク指令値Tp
*に応じたトルクを発生する。
【0047】
なお、目標ピニオン角演算部62は、第1の演算部に相当する。反力トルク指令値演算部52は、第2の演算部に相当する。
<トルクステアについて>
たとえば、車両が直進状態で加速する際、トルクステアが発生することがある。トルクステアは、ステアリングホイール5の操作を行っていないにもかかわらず、車両が直進せず、左右どちらかに曲がりながら進む現象である。トルクステアは、車両の構造上の不均衡に起因して、駆動輪である左右の転舵輪6の回転数、あるいは駆動力に差が生じることにより発生する。車両の構造上の不均衡は、たとえば、左右のドライブシャフト8の長さの違い、あるいは車両の重量アンバランスを含む。特に、前輪駆動車の場合、LSD7を装着すると、トルクステアが発生しやすい。
【0048】
そこで、本実施の形態では、トルクステアによる転舵輪6の転舵を抑制するために、操舵制御装置1として、つぎの構成を採用している。
<トルクステア抑制処理>
図2に示すように、転舵制御部60は、微分器66と、第1の判定部67とを有している。
【0049】
微分器66は、操舵角演算部51により演算される操舵角θsを取り込む。微分器66は、操舵角θsを微分することにより、操舵角速度ωsを演算する。
第1の判定部67は、トルクステアが発生しているかどうかを判定する。第1の判定部67は、車両が直進走行中であるにもかかわらず、左右の転舵輪6の駆動力TR,TLが異なる場合にトルクステアが発生している蓋然性が高いという観点に基づき、トルクステアが発生しているかどうかを判定する。具体的には、つぎの通りである。
【0050】
第1の判定部67は、操舵角演算部51により演算される操舵角θs、および微分器66により演算される操舵角速度ωsを取り込む。また、第1の判定部67は、LSD7のセンサを通じて検出される左右の転舵輪6の駆動力TR,TLを取り込む。
【0051】
第1の判定部67は、つぎの3つの式(1)~(3)の全部が成立するとき、車両にトルクステアが発生しているおそれがあると判定する。式(1)~(3)は、トルクステアが発生しているかどうかを判定するための判定条件である。式(1)は、左右の転舵輪6の駆動力が異なっているかどうかを判定するための判定条件である。式(2),(3)は、車両が直進走行中であるかどうかを判定するための判定条件である。
【0052】
│TR-TL│≧Tth …(1)
ただし、「TR」は、右側の転舵輪6の駆動力である。「TL」は、左側の転舵輪6の駆動力である。「Tth」は、駆動力しきい値であって、たとえば、トルクステアが発生するときの左右の転舵輪6の駆動力の差を基準として設定される。
【0053】
│θs│≦θsth …(2)
ただし、「θs」は、操舵角である。「θsth」は、操舵角しきい値であって、車両が直進状態であるかどうかを判定する基準である。操舵角しきい値θsthは、たとえば、車両が直進状態であるときの操舵角θsを基準として設定される。
【0054】
│ωs│≦ωsth …(3)
ただし、「ωs」は、操舵角速度である。「ωsth」は、操舵角速度しきい値であって、車両が直進状態であるかどうかを判定する基準である。操舵角速度しきい値ωsthは、たとえば、車両が直進状態であるときの操舵角速度ωsを基準として設定される。
【0055】
第1の判定部67は、先の3つの式(1)~(3)の全部が成立するとき、つぎの式(4)が成立するかどうかを判定する。式(4)は、セルフステアの確定条件である。第1の判定部67は、式(4)が成立しないとき、第1の判定フラグF1の値を「0」にセットする。第1の判定部67は、式(4)が成立するとき、第1の判定フラグF1の値を「1」にセットする。
【0056】
N≧Nth …(4)
ただし、「N」は、カウント値である。「Nth」は、カウントしきい値であって、先の3つの式(1)~(3)の全部が成立した時点を基準とした所定の経過時間に基づき設定される。経過時間は、トルクステアが発生していると確定してもよいとして定められる時間である。
【0057】
第1の判定部67は、カウンタを有している。第1の判定部67は、先の3つの式(1)~(3)の全部が成立するとき、カウントを開始する。第1の判定部67は、定められた演算周期でカウント値を一定値ずつ増加させる。
【0058】
ただし、第1の判定部67は、カウントを開始する際、カウントを開始する直前の目標ピニオン角θp
*を取り込み、取り込まれた目標ピニオン角θp
*を保持する。すなわち、第1の判定部67は、先の3つの式(1)~(3)の全部が成立した後、トルクステアの発生が確定される前の目標ピニオン角θp
*を取り込み、取り込まれた目標ピニオン角θp
*を保持する。
【0059】
目標ピニオン角演算部62は、第1の判定フラグF1の値を取り込む。目標ピニオン角演算部62は、第1の判定フラグF1の値が「1」であるとき、第1の判定部67に保持されている目標ピニオン角θp
*を取り込む。取り込まれる目標ピニオン角θp
*は、第1の判定部67がカウントを開始する際に保持した目標ピニオン角θp
*であって、車両の直進状態に対応する値の目標ピニオン角θp
*である。目標ピニオン角演算部62は、ステアリングホイール5の操舵状態にかかわらず、第1の判定部67から取り込んだ目標ピニオン角θp
*を、ピニオン角フィードバック制御部63が使用する目標ピニオン角θp
*として設定する。
【0060】
したがって、トルクステアの発生に伴い転舵輪6の転舵位置が変化するとき、転舵輪6の転舵位置を転舵中立位置に戻すように、転舵モータ31が駆動する。転舵中立位置は、車両の直進状態に対応する転舵輪6の転舵位置である。このため、トルクステアによる転舵輪6の転舵が抑制される。また、転舵輪6の転舵位置が、転舵中立位置に保持されるため、トルクステアが発生する場合であれ、車両の直進性を維持することができる。
【0061】
<第1の実施の形態の効果>
第1の実施の形態は、以下の効果を奏する。
(1-1)目標ピニオン角演算部62は、第1の判定部67により車両の直進走行中にトルクステアが発生していると判定されている期間、ステアリングホイール5の操舵状態にかかわらず、目標ピニオン角θp
*を車両の直進状態に対応する角度に設定する。目標ピニオン角θp
*は、たとえば、第1の判定部67が、式(1)~(3)の成立後、セルフステアの発生が確定する前に保持した目標ピニオン角θp
*である。この目標ピニオン角θp
*は、車両の直進状態に対応する角度である。このため、トルクステアの発生に伴い転舵輪6の転舵位置が変化するとき、転舵輪6が転舵中立位置に戻るように、転舵モータ31の駆動が制御される。したがって、トルクステアによる転舵輪6の転舵が抑制される。また、転舵輪6の転舵位置が、転舵中立位置に保持されるため、車両の直進走行中にトルクステアが発生する状況であれ、車両の直進性を維持することができる。
【0062】
(1-2)トルクステアの判定条件は、ステアリングホイール5の操舵状態が車両の直進状態に対応していること、および車両の進行方向に対する左右2つの転舵輪6の駆動力TR,TLが異なること、を含んでいる。この判定条件によるように、車両の直進走行中であるにもかかわらず、左右の転舵輪6の駆動力TR,TLが異なる場合、車両にトルクステアが発生しているといえる。第1の判定部67は、判定条件が成立するかどうかに基づき、トルクステアの発生を適切に判定することができる。
【0063】
(1-3)LSD7は、左右2つの転舵輪6の駆動力TR,TLを検出する機能を有している。このため、第1の判定部67は、LSD7を通じて、左右2つの転舵輪6の駆動力TR,TLを検出することができる。
【0064】
<第2の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置の第2の実施の形態について説明する。本実施の形態は、基本的には、先の
図1および
図2に示される第1の実施の形態と同様の構成を有している。このため、第1の実施の形態と同一の部材および構成については同一の符号を付し、その詳細な説明を割愛する。
【0065】
図3に示すように、反力トルク指令値演算部52は、アシストトルク指令値演算部81と、軸力演算部82と、減算器83とを有している。
アシストトルク指令値演算部81は、トルクセンサ42を通じて検出される操舵トルクT
h、および車速センサ41を通じて検出される車速Vを取り込む。アシストトルク指令値演算部81は、操舵トルクT
hおよび車速Vに基づき、アシストトルク指令値T1を演算する。アシストトルク指令値T1は、操舵装置2が電動パワーステアリング装置である場合のアシストトルクの目標値に相当する。アシストトルクは、ステアリングホイール5の操舵を補助するための力である。アシストトルク指令値T1は、ステアリングホイール5の操舵方向と同じ方向のトルクである。操舵トルクT
hの絶対値が大きいほど、また車速Vが遅いほど、アシストトルク指令値T1の絶対値は、より大きくなる。
【0066】
軸力演算部82は、ピニオン角演算部61により演算されるピニオン角θp、電流センサ65を通じて検出される転舵モータ31の電流Ibの値、車速センサ41を通じて検出される車速V、および操舵角演算部51により演算される操舵角θsを取り込む。軸力演算部82は、ピニオン角θp、転舵モータ31の電流Ibの値、車速V、および操舵角θsに基づき、転舵シャフト22に作用する軸力を演算する。軸力演算部82は、演算される軸力をステアリングシャフト11に対するトルクに換算することにより、軸力トルクT2を演算する。
【0067】
軸力演算部82は、第1の軸力としての角度軸力を演算する。角度軸力は、たとえばピニオン角θpに応じた軸力である。軸力演算部82は、ピニオン角θpに基づき、角度軸力を演算する。ピニオン角θpの絶対値が増大するほど、また車速Vが遅いほど、角度軸力の絶対値は、より大きくなる。角度軸力の絶対値は、ピニオン角θpの絶対値の増加に対して、線形的に増加する。角度軸力は、ピニオン角θpの符号と同符号である。角度軸力は、路面状態あるいは転舵輪6を介して転舵シャフト22に作用する力が反映されない軸力である。なお、軸力演算部82は、ピニオン角θpに代えて、目標ピニオン角θp
*を取り込んでもよい。
【0068】
軸力演算部82は、第2の軸力としての電流軸力を演算する。電流軸力は、転舵モータ31の電流Ibの値に応じた軸力である。軸力演算部82は、転舵モータ31の電流Ibの値に基づき、電流軸力を演算する。転舵モータ31の電流Ibの値は、路面摩擦抵抗などの路面状態に応じた外乱が転舵輪6に作用することに起因して、目標ピニオン角θp
*と実際のピニオン角θpとの間に発生する差に応じて変化する。すなわち、転舵モータ31の電流Ibの値には、転舵輪6に作用する実際の路面状態が反映される。このため、転舵モータ31の電流Ibの値に基づき、路面状態の影響を反映した軸力を演算することが可能である。軸力演算部82は、たとえば車速Vに応じた係数であるゲインを転舵モータ31の電流Ibの値に乗算することにより、電流軸力を演算する。
【0069】
軸力演算部82は、第3の軸力としての混合軸力を演算する。混合軸力は、角度軸力と電流軸力とが所定の比率で混合された軸力である。軸力演算部82は、車両挙動、路面状態あるいは操舵状態が反映される各種の状態変数に応じて、角度軸力および電流軸力に対する配分比率を個別に設定する。軸力演算部82は、角度軸力および電流軸力に対して、個別に設定される配分比率を乗じて得られた値を合算することにより、混合軸力を演算する。混合軸力は、軸力トルクT2の演算に使用される最終的な軸力である。軸力演算部は、混合軸力をステアリングシャフト11に対するトルクに換算することにより、軸力トルクT2を演算する。
【0070】
減算器83は、アシストトルク指令値T1から軸力トルクT2を減算することにより、反力トルク指令値T*を演算する。
反力トルク指令値演算部52は、第2の判定部84と、配分比率演算部85とを、さらに有している。
【0071】
第2の判定部84は、第1の判定フラグF1の値を取り込む。第2の判定部84は、第1の判定フラグF1の値が「0」であるとき、第2の判定フラグF2の値を「0」にセットする。第2の判定部84は、第1の判定フラグF1の値が「1」であるとき、第2の判定フラグF2の値を「1」にセットする。第2の判定フラグF2の値を「1」にセットすることは、軸力演算部82に対して、混合軸力に占める角度軸力の割合を、混合軸力に占める電流軸力の割合よりも大きくすることを要求するための処理である。
【0072】
配分比率演算部85は、第2の判定フラグF2の値が「0」であるとき、車両挙動、路面状態あるいは操舵状態が反映される各種の車両状態変数に応じて、角度軸力および電流軸力に対する配分比率を個別に設定する。
【0073】
軸力演算部82は、角度軸力および電流軸力に対してそれぞれ個別に設定される配分比率を乗算し、それら乗算した値を合算することにより、混合軸力AF3を演算する。混合軸力AF3は、反力トルク指令値T*に反映させる最終的な軸力である。混合軸力AF3は、次式(5)で表される。
【0074】
AF3=AF1・DR1+AF2・DR2 …(5)
ただし、「AF1」は角度軸力、「AF2」は電流軸力である。「DR1」は角度軸力AF1に対する配分比率、「DR2」は電流軸力AF2に対する配分比率である。配分比率DR1は、角度軸力AF1を混合軸力AF3に反映させる度合いを示す。配分比率DR2は、電流軸力AF2を混合軸力AF3に反映させる度合いを示す。
【0075】
配分比率演算部85は、車両挙動、路面状態あるいは操舵状態が反映される各種の車両状態変数に基づき、2つの配分比率DR1,DR2の値を設定する。軸力演算部82は、2つの配分比率DR1,DR2の値を「0(0%)」~「1(100%)」の範囲において、たとえば「0.1」刻みで設定することが可能である。ただし、軸力演算部82は、2つの配分比率DR1,DR2の値の合計が「1」となるように、2つの配分比率DR1,DR2の値をそれぞれ設定する。
【0076】
配分比率演算部85は、第2の判定フラグF2の値が「1」であるとき、車両挙動、路面状態あるいは操舵状態が反映される各種の状態変数にかかわらず、混合軸力AF3に占める角度軸力AF1の割合を、混合軸力AF3に占める電流軸力AF2の割合よりも大きくするための処理を実行する。具体的には、角度軸力AF1に対する配分比率DR1の値を、電流軸力AF2に対する配分比率DR2の値よりも大きくする。これにより、ピニオン角θpが、反力トルク指令値T*より大きく反映される。
【0077】
角度軸力AF1と電流軸力AF2の配分パターンとして、たとえば、つぎの第1の配分パターンB1および第2の配分パターンB2のうち、いずれか一方が採用される。
B1.AF1:AF2=1.0:0
B2.AF1:AF2=0.6:0.4
第1の配分パターンB1が採用される場合、混合軸力AF3に対する角度軸力AF1の配分比率が100%、混合軸力AF3に対する電流軸力AF2の配分比率が0%となる。第2の配分パターンB2が採用される場合、混合軸力AF3に対する角度軸力AF1の配分比率が60%、混合軸力AF3に対する電流軸力AF2の配分比率が40%となる。
【0078】
なお、配分比率演算部85は、第2の判定フラグF2の値が「1」であるとき、車速Vに応じて、第1の配分パターンB1と第2の配分パターンB2とを、切り替えて使用してもよい。配分比率演算部85は、たとえば、次式(6)が成立するときには第1の配分パターンB1を使用し、次式(7)が成立するときには第2の配分パターンB2を使用する。
【0079】
V<Vth …(6)
V≧Vth …(7)
ただし、「Vth」は、車速しきい値である。車速しきい値Vthは、極低速域の車速であって、たとえば5km/hに設定される。
【0080】
第2の判定フラグF2の値が「1」であるときは、第1の判定部67によって、直進走行中にトルクステアが発生していると判定されているときであって、目標ピニオン角θp
*がステアリングホイール5の操舵角θsにかかわらず、直進走行中の目標ピニオン角θp
*に設定されているときである。このため、ピニオン角θpは、基本的には、車両の直進状態に対応した値に維持されている。
【0081】
また、第2の判定フラグF2の値が「1」であるとき、混合軸力AF3に占める角度軸力AF1の割合が、混合軸力AF3に占める電流軸力AF2の割合よりも大きくなるように調節される。角度軸力AF1が反力トルク指令値T*により大きく反映されることにより、反力トルク指令値T*が、車両の直進状態に対応した値、または近似する値となる。このため、車両の直進状態に対応した操舵反力、または近似する操舵反力がステアリングホイール5に付与される。これにより、ステアリングホイール5の回転位置を、車両の直進状態に対応する操舵中立位置に維持しやすくなる。ステアリングホイール5の回転位置と、転舵輪6の転舵位置とが、共に車両の直進状態に対応した位置、あるいは近似する位置に維持されるため、運転者は、車両を直進走行させやすくなる。車両は、直進状態により近い走行状態に維持される。
【0082】
<第2の実施の形態の効果>
第2の実施の形態は、先の第1の実施の形態の(1-1)~(1-3)の効果に加え、以下の効果を奏する。
【0083】
(2-1)反力トルク指令値演算部52は、第1の判定部67により車両の直進走行中にトルクステアが発生していると判定されている期間、ステアリングホイール5の操舵状態にかかわらず、反力トルク指令値T*を車両の直進状態に対応する値、または近似した値に設定する。このため、車両の直進状態に対応した操舵反力、または近似する操舵反力がステアリングホイール5に付与される。このため、ステアリングホイール5の回転位置を車両の直進状態に対応する位置に維持しやすくなる。したがって、車両を直進走行させやすくなる。
【0084】
(2-2)反力トルク指令値演算部52は、第1の判定部67により車両の直進走行中にトルクステアが発生していると判定されている期間、混合軸力AF3に占める角度軸力AF1の割合が、混合軸力AF3に占める電流軸力AF2の割合よりも大きくなるように調節する。すなわち、角度軸力AF1が、反力トルク指令値T*に、より大きく反映される。角度軸力AF1は、車両の直進状態に対応するピニオンシャフト21の実角度または目標ピニオン角θp
*に基づく軸力である。このため、角度軸力AF1が反力トルク指令値T*により大きく反映されることにより、反力トルク指令値T*が車両の直進状態に対応した値、または近似する値となる。したがって、車両の直進状態に対応した操舵反力、または近似する操舵反力がステアリングホイール5に付与される。これにより、ステアリングホイール5の回転位置を操舵中立位置に維持しやすくなる。操舵中立位置は、車両の直進状態に対応するステアリングホイール5の回転位置である。
【0085】
<他の実施の形態>
なお、各実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・第2の実施の形態において、反力トルク指令値演算部52として、第2の判定部84を割愛した構成を採用してもよい。この場合、配分比率演算部85は、第1の判定部67によりセットされる第1の判定フラグF1の値を取り込む。配分比率演算部85は、第1の判定フラグF1の値が「1」であるとき、車両挙動、路面状態あるいは操舵状態が反映される各種の車両状態変数に基づき、2つの配分比率DR1,DR2の値を設定する。配分比率演算部85は、第2の判定フラグF2の値が「1」であるとき、車両挙動、路面状態あるいは操舵状態が反映される各種の状態変数にかかわらず、角度軸力AF1に対する配分比率DR1の値を、電流軸力AF2に対する配分比率DR2の値よりも大きくする。配分パターンとしては先の第1の配分パターンB1および第2の配分パターンB2のうち、いずれか一方が採用される。
【0086】
・第1および第2の実施の形態において、第1の判定部67は、トルクステアが発生した場合、すなわち先の3つの式(1)~(3)の全部が成立するとき、カウントを開始する直前の目標ピニオン角θp
*を保持しないようにしてもよい。この場合、目標ピニオン角演算部62として、つぎの構成を採用してもよい。すなわち、目標ピニオン角演算部62は、車両の直進状態に対応した目標ピニオン角θp
*を記憶している。目標ピニオン角演算部62は、トルクステアが発生した場合、ステアリングホイール5の操舵角θsにかかわらず、記憶している目標ピニオン角θp
*を、ピニオン角フィードバック制御部63が使用する目標ピニオン角θp
*として設定する。このようにしても、トルクステアの発生に伴い転舵輪6の転舵位置が変化するとき、転舵輪6が転舵中立位置に戻るように、転舵モータ31の駆動が制御される。
【0087】
・第1および第2の実施の形態において、第1の判定部67は、車速Vを考慮して、トルクステアが発生したかどうかを判定してもよい。第1の判定部67は、先の式(1)~(3)に加え、たとえば次式(8)が成立するとき、トルクステアが発生したと判定する。
【0088】
α≧αth …(8)
ただし、「α」は、車両の加速度である。「αth」は、加速度しきい値であって、たとえば、トルクステアが発生しやすいとされる加速度にもとづき設定される。
【0089】
・第1および第2の実施の形態において、転舵機構4は、左右の転舵輪6をそれぞれ独立して転舵させる、いわゆる左右独立型の転舵ユニットであってもよい。この場合、転舵機構4は、左の転舵輪6に対応する第1の転舵モータ、第1の伝動機構、および第1の変換機構を有する。また、転舵機構4は、右の転舵輪6に対応する第2の転舵モータ、第2の伝動機構、および第2の変換機構を有する。操舵制御装置1は、第1の転舵モータおよび第2の転舵モータの制御を通じて、左右の転舵輪6を独立して転舵させる。この場合、操舵制御装置1は、第1の転舵モータおよび第2の転舵モータに供給される電流に基づき、左右の転舵輪6の駆動力TR,TLを検出するようにしてもよい。第1の転舵モータおよび第2の転舵モータに供給される電流は、電流センサを通じて検出される。このようにすれば、操舵制御装置1は、駆動力TR,TLを簡単に検出することができる。また、LSD7として、左右の転舵輪6の駆動力TR,TLの検出機能を有さない構成を採用することができる。
【0090】
・第1および第2の実施の形態において、第1の判定部67は、LSD7に代えて、車載される他のセンサを通じて、左右の転舵輪6の駆動力TR,TLを検出してもよい。センサとしては、たとえば、各車輪のハブユニット軸受に設けられる力検出センサが使用される。
【0091】
・第1および第2の実施の形態において、操舵装置2は、クラッチを有していてもよい。この場合、ステアリングシャフト11とピニオンシャフト21とは、クラッチを介して連結される。クラッチは、たとえば、励磁コイルに対する通電の断続を通じて動力の断続を行う電磁クラッチである。操舵制御装置1は、クラッチの断続を切り替える断続制御を実行する。クラッチが切断されるとき、ステアリングホイール5と転舵輪6との間の動力伝達が機械的に切断される。クラッチが接続されるとき、ステアリングホイール5と転舵輪6との間の動力伝達が機械的に連結される。
【0092】
・第1の実施の形態において、操舵装置2は、電動パワーステアリング装置であってもよい。電動パワーステアリング装置においては、先の
図1に示されるステアリングホイール5と転舵輪6とが動力伝達可能に連結されている。すなわち、ステアリングシャフト11、ピニオンシャフト21、および転舵シャフト22は、ステアリングホイール5と転舵輪6との間の動力伝達経路として機能する。ステアリングホイール5の操舵に伴い転舵シャフト22が直線運動することにより、転舵輪6の転舵角θ
wが変更される。
【0093】
電動パワーステアリング装置は、アシストモータと、アシスト制御装置とを有している。アシストモータは、たとえば、先の
図1に示される転舵モータ31と同じ位置に設けられる。アシスト制御装置は、操舵制御装置に相当する。アシスト制御装置は、アシストモータの駆動を制御する。アシスト制御装置は、アシストモータにアシスト力を発生させるためのアシスト制御を実行する。アシスト力は、ステアリングホイール5の操作を補助するためのトルクであって、ステアリングホイール5の操舵方向と同じ方向のトルクである。
【0094】
電動パワーステアリング装置が搭載される車両においても、直進走行中に加速する際、トルクステアが発生することがある。アシスト制御装置は、車両が直進走行している際にトルクステアが発生した場合、目標ピニオン角θp
*を、カウントを開始する直前の目標ピニオン角θp
*、すなわち車両の直進走行時の目標ピニオン角θp
*に設定する。このようにすれば、トルクステアの発生に伴い転舵輪6の転舵位置が変化するとき、転舵輪6が転舵中立位置に戻るように、アシストモータの駆動が制御される。したがって、トルクステアが発生する場合であれ、車両の直進性を維持することができる。
【符号の説明】
【0095】
1…操舵制御装置
5…ステアリングホイール
7…LSD(ディファレンシャルギヤ)
12…反力モータ
22…転舵シャフト
31…転舵モータ
50…反力制御部
52…反力トルク指令値演算部(第2の演算部)
60…転舵制御部
62…目標ピニオン角演算部(第1の演算部)
63…ピニオン角フィードバック制御部
67…第1の判定部
82…軸力演算部