(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077296
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】マイクロ流路チップ及びマイクロ流路チップの製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 35/08 20060101AFI20240531BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20240531BHJP
B81B 1/00 20060101ALI20240531BHJP
B81C 1/00 20060101ALI20240531BHJP
B01J 19/00 20060101ALN20240531BHJP
【FI】
G01N35/08 A
G01N37/00 101
B81B1/00
B81C1/00
B01J19/00 321
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189305
(22)【出願日】2022-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】村田 広大
(72)【発明者】
【氏名】福上 典仁
(72)【発明者】
【氏名】波木井 秀充
【テーマコード(参考)】
2G058
3C081
4G075
【Fターム(参考)】
2G058CC05
2G058DA07
3C081AA01
3C081AA17
3C081BA23
3C081BA30
3C081CA02
3C081CA23
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3C081CA43
3C081DA03
3C081DA06
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3C081DA21
3C081EA27
4G075AA13
4G075AA39
4G075AA56
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4G075BA10
4G075BB10
4G075DA01
4G075DA02
4G075DA18
4G075EB50
4G075FA05
4G075FA12
4G075FB01
4G075FB04
4G075FB06
4G075FB12
4G075FC20
(57)【要約】
【課題】マイクロ流路チップ内での液漏れを防ぎ、流路間での反応液の混入(コンタミネーション)を抑制することが可能なマイクロ流路チップ、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】マイクロ流路チップ11は、基板20と、基板20上に設けられて流路部13の底面を形成する床材21と、床材21上に設けられて流路部13の側面を形成する隔壁層22と、隔壁層22の床材21とは反対の表面22a側に設けられて流路部13の上面を形成する蓋材23と、隔壁層22における蓋材23側の表面22aの一部分または全体に設けられた撥液層24と、を備え、撥液層24は、水接触角が90度以上130度以下であり、隔壁層22および蓋材23における流路部13側の面(裏面23a、側面22b)は、水接触角が90度未満である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられて流路の底面を形成する床材と、
前記床材上に設けられて前記流路の側面を形成する隔壁層と、
前記隔壁層の前記床材とは反対の面側に設けられて前記流路の上面を形成する蓋材と、
前記隔壁層における前記蓋材側の表面の一部分または全体に設けられた撥液層と、
を備え、
前記撥液層は、水接触角が90度以上130度以下であり、
前記隔壁層および前記蓋材における前記流路側の面は、水接触角が90度未満である、
ことを特徴とするマイクロ流路チップ。
【請求項2】
前期撥液層は、前記隔壁層の前記表面上において、前記流路の外周に沿って形成される、
ことを特徴とする請求項1に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項3】
前記隔壁層の前記表面に占める前記隔壁層と前記撥液層との接合面積の割合が、10%以上である、
ことを特徴とする請求項1に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項4】
前記撥液層は、前記隔壁層の前記表面の一部分に形成され、
前記隔壁層は、前記表面上に前記撥液層が設けられていない非撥液領域を有する
ことを特徴とする請求項3に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項5】
前記非撥液領域は、前記隔壁層の前記表面上において前記流路と接していない
ことを特徴とする請求項4に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項6】
前記非撥液領域は、前記隔壁層の前記表面上において前記流路と接している
ことを特徴とする請求項4に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項7】
前期撥液層の膜厚が1μm以上20μm以下である、
ことを特徴とする請求項3に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項8】
前記蓋材は、ポリエチレンテレフタレート、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、塩化ビニル、ポリウレタン、軟質ポリプロピレン、ポリエチレン、シリコーンゴム、ガラスのうち少なくとも1種類で形成される、
ことを特徴とする請求項7に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項9】
前記撥液層は、フッ素系化合物又はケイ素系化合物を含有する、
ことを特徴とする請求項8に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項10】
前記撥液層の水接触角は、前記蓋材における前記流路側の面の水接触角との差が25度以上である、
ことを特徴とする請求項1に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項11】
前記撥液層の水接触角は、前記隔壁層における前記流路側の面の水接触角との差が20度以上である、
ことを特徴とする請求項1に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項12】
前記床材、前記隔壁層及び前記撥液層の樹脂材料は、紫外光領域である190nm以上400nm以下の波長の光に対して感光性を有する感光性樹脂を含む、
ことを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項13】
前記床材、前記隔壁層及び前記撥液層の樹脂材料は、熱硬化性の樹脂材料をさらに含む、
ことを特徴とする請求項12に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項14】
基板上に、第一の感光性樹脂を塗工する工程と、
塗工した前記第一の感光性樹脂を露光する工程と、
露光した前記第一の感光性樹脂を現像および洗浄およびポストベークし、前記基板上に 流路の底面を形成する床材のパターンを形成する工程と、
前記床材上に、第二の感光性樹脂を塗工する工程と、
塗工した前記第二の感光性樹脂を露光する工程と、
露光した前記第二の感光性樹脂を現像および洗浄およびポストベークし、前記床材上に流路の側面を形成する隔壁層のパターンを形成する工程と、
前記隔壁層のパターン上に、第三の感光性樹脂を塗工する工程と、
塗工した前記第三の感光性樹脂を露光する工程と、
露光した前記第三の感光性樹脂を現像および洗浄およびポストベークし、前記隔壁層における前記蓋材側の表面の一部分または全体に撥液層のパターンを形成する工程と、
前記撥液層を形成した前記隔壁層の前記床材と反対の面側に蓋材を重ねて、温度が40℃以上200℃以下、プレス時間が3分以上120分以下の条件でプレスし、前記隔壁層と前記蓋材とを貼合する工程と、を含み、
前記撥液層は、水接触角を90度以上130度以下とし、
前記蓋材および前記隔壁層の前記流路側の面は、水接触角を90度未満とする
ことを特徴とするマイクロ流路チップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マイクロ流路チップ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、リソグラフィプロセスや厚膜プロセス技術を応用して、微細な反応場を形成し、数μLから数nL単位での微量な液体等の検査を可能とする技術が提案されている。このような微細な反応場を利用した技術をμ-TAS(Micro Total Analysis system)という。
【0003】
μ-TASは、遺伝子検査、染色体検査、細胞検査、医薬品開発などの領域や、バイオ技術、環境中の微量な物質検査、農作物等の飼育環境の調査、農作物の遺伝子検査などに応用される。μ-TAS技術の導入により、自動化、高速化、高精度化、低コスト、迅速性、環境インパクトの低減など、大きな効果を得られる。
【0004】
μ-TASでは、多くの場合、基板上に形成されたマイクロメートルサイズの流路(マイクロ流路、マイクロチャンネル)を利用して反応や観察等が行われており、このようなデバイスはマイクロ流路チップなどと呼ばれる。
【0005】
従来、こうしたマイクロ流路チップは、射出成形、モールド成形、切削加工、エッチングなどの技術を用いて作製されていた。またマイクロ流路チップの基板としては、製造が容易であり、光学的な検出も可能であることから、主にガラス基板が用いられている。一方で、軽量でありながらガラス基板に比べて破損しにくく、且つ、安価な樹脂材料を用いたマイクロ流路チップの開発も進められている。樹脂材料を用いたマイクロ流路チップの製造方法としては、主にフォトリソグラフィーにより流路用樹脂パターンを成形し、そこに蓋材を接合してマイクロ流路チップを作製する方法がある。この方法によれば、従来技術では困難な側面もあった微細な流路パターンの形成も可能である。
【0006】
また、マイクロ流路チップでは、種類の異なる薬剤を流路内の異なる場所に予め固定しておき、流路の入口から試験液を導入させて試験液と薬剤とを反応させる感受性評価を行うことができる。感受性評価では、試験液と複数の薬剤との反応を一度にまとめて評価できるメリットがある。一方で、このようなマイクロ流路チップで重要なのは、各反応液同士の混入(コンタミネーション)を防ぐことである。例えばマイクロ流路チップ内での液漏れによって反応液同士が混ざり合ってしまうと、正確な評価が出来なくなるためである。
例えば、特許文献1には、複数の流路間とのコンタミネーションを防ぐために、流路を含む基板とその蓋材に同種の材料を塗工し、化学的反応を用いて基板と蓋材との密着性を高めたマイクロ流路デバイス(チップ)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
マイクロ流路チップは、例えば蓋材と流路を構成する基材(例えば隔壁層)とを接合(貼合)して作製される。このとき、蓋材と基材との接合部(貼合部)における微小異物の混入や各部材の表面粗さ(マイクロラフネス)等により、貼合部に微小な凹凸空間(隔壁層表面と蓋材との貼合部の隙間)が生じることがある。
例えば複数の流路を設けたマイクロ流路チップでは、基材(隔壁層)によって各流路が画定されるが、基材表面と蓋材との貼合部において微小な凹凸空間が存在すると、流路に通液した際に接合部に浸入した液体(反応液)が濡れ広がり、マイクロ流路チップ内で液漏れが生じて流路間での反応液の混入(コンタミネーション)が発生し得る。
したがって、マイクロ流路チップ内での貼合部を介した液漏れを防ぎ、反応液の混入(コンタミネーション)を抑制することが求められる。
【0009】
しかしながら、従来のマイクロ流路チップでは、貼合部に液体(反応液)が浸入して濡れ広がりマイクロ流路チップ内で液漏れが生じることを防止できず、結果として流路間での反応液のコンタミネーション(混入)を抑制できない。
【0010】
そこで、本開示は上記課題に鑑み、マイクロ流路チップ内での液漏れを防ぎ、流路間での反応液の混入(コンタミネーション)を抑制することが可能となる、マイクロ流路チップおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係るマイクロ流路チップは、基板と、前記基板上に設けられて流路の底面を形成する床材と、前記床材上に設けられて前記流路の側面を形成する隔壁層と、前記隔壁層の前記床材とは反対の面側に設けられて前記流路の上面を形成する蓋材と、前記隔壁層における前記蓋材側の表面の一部分または全体に設けられた撥液層と、を備え、前記撥液層は、水接触角が90度以上130度以下であり、前記隔壁層および前記蓋材における前記流路側の面は、水接触角が90度未満である、ことを特徴とする。
【0012】
また、本開示の一態様に係るマイクロ流路チップの製造方法は、基板上に、第一の感光性樹脂を塗工する工程と、塗工した前記第一の感光性樹脂を露光する工程と、露光した前記第一の感光性樹脂を現像および洗浄およびポストベークし、前記基板上に流路の底面を形成する床材のパターンを形成する工程と、前記床材上に、第二の感光性樹脂を塗工する工程と、塗工した前記第二の感光性樹脂を露光する工程と、露光した前記第二の感光性樹脂を現像および洗浄およびポストベークし、前記床材上に流路の側面を形成する隔壁層のパターンを形成する工程と、前記隔壁層のパターン上に、第三の感光性樹脂を塗工する工程と、塗工した前記第三の感光性樹脂を露光する工程と、露光した前記第三の感光性樹脂を現像および洗浄およびポストベークし、前記隔壁層における前記蓋材側の表面の一部分または全体に撥液層のパターンを形成する工程と、前記撥液層を形成した前記隔壁層の前記床材と反対の面側に蓋材を重ねて、温度が40℃以上200℃以下、プレス時間が3分以上120分以下の条件でプレスし、前記隔壁層と前記蓋材とを貼合する工程と、を含み、前記撥液層は、水接触角を90度以上130度以下とし、前記蓋材および前記隔壁層の前記流路側の面は、水接触角を90度未満とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本開示の態様によればマイクロ流路チップ内での液漏れを防ぎ、流路間での反応液の混入(コンタミネーション)を抑制することが可能なマイクロ流路チップを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本開示の一実施形態のマイクロ流路チップの概略を示す平面図である。
【
図2】
図1のA-A線でマイクロ流路チップを切断した断面を模式的に示す図である。
【
図3】
図2に示すマイクロ流路チップの断面の一部を拡大して示す図である。
【
図4】本開示の一実施形態に係るマイクロ流路チップの製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図5】本開示の一実施形態の第1変形例に係るマイクロ流路チップの構成例を模式的に示す断面図である。
【
図6】本開示の一実施形態の第2変形例に係るマイクロ流路チップの構成例を模式的に示す断面図である。
【
図7】比較例におけるマイクロ流路チップを切断した断面を示す図である。
【
図8】
図7に示すマイクロ流路チップの断面の一部を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施形態を通じて本開示を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。また、図面は特許請求の範囲にかかる発明を模式的に示すものであり、各部の幅、厚さ等の寸法は現実のものとは異なり、これらの比率も現実のものとは異なる。
【0016】
本開示の第一実施形態に係るマイクロ流路チップについて説明する。なお、以下の説明では、マイクロ流路チップの基板側を「下」、マイクロ流路チップの基板側と反対側(蓋材側)を「上」として説明する場合がある。
また図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。同一あるいは同様の機能を有する構成要素が複数ある場合には、同一の符号に異なる添字を付して説明する場合がある。また、これらの複数の構成要素を区別する必要がない場合には、添字を省略して説明する場合がある。
【0017】
本発明者らは、鋭意検討の結果、マイクロ流路チップにおいて隔壁層表面の全面、または一部に撥液性を有する層(撥液層)を設け、かつ撥液層の水接触角よりも、流路の上面(蓋材)および側面(隔壁層)の水接触角差を小さくすることにより、蓋材と隔壁層との貼合部分に浸入しようとする液体を水接触角の小さい流路内部に押し戻し、流路内部からの液漏れを防止できることを見出した。これにより、本発明者らは、マイクロ流路チップ内での液漏れを防ぎ、流路間での反応液のコンタミネーションを抑制することができるマイクロ流路チップおよびマイクロ流路チップの製造方法を発明するに至った。
以下、図面を参照して本発明の各実施形態の各態様について説明する。
【0018】
1.マイクロ流路チップの基本構成
図1、
図2及び
図3は、本開示の第一実施形態(以下、「本実施形態」という)に係るマイクロ流路チップ11の一構成例を説明するための概略図である。具体的には、
図1は本実施形態のマイクロ流路チップ11の一構成例を説明するための概略平面図である。また、
図2は、
図1に示すA-A線でマイクロ流路チップ1を切断した断面を示す概略断面図である。また
図3は、
図2に示すマイクロ流路チップ11の断面の一部を拡大して示す図である。
【0019】
図1に示すように、マイクロ流路チップ11は、流体(例えば液体)を導入するための入力部12(単に「入口」ということもある。)と、入力部12から導入された流体が流れる流路部(流路の一例)13と、流路部13から流体を排出するための出力部14、15(単に「出口」ということもある。)と、を備えている。マイクロ流路チップ11において、流路部13は、蓋材23に覆われており、入力部12および出力部14、15は、蓋材23に設けられた貫通孔の真下に位置する。
図1では、透明性を有する蓋材を介して視認される流路部13を図示している。
なお、流路部13は、1つの流路が分岐部250において出力部14、15に向かって2つの流路(分岐流路25a,25b)に分かれる。具体的には、入力部12から分岐部250までを主流路25、分岐部16から出力部14までの分岐流路25a、分岐部16から出力部15までの分岐流路25bで構成される。また、出力部14,15付近には、薬剤を固定し、入力部12から導入された流体と薬剤が接触する薬剤固定部(以下、便宜上「出口付近」ということがある。)が設けられてもよい。薬剤固定部が設けられる場合、出力部14,15は必ずしも設けられないこともある。以下、特に断りのない限り狭義の出力部14,15と薬剤固定部を、表現を統一して「出力部」という。なお、薬剤は、マイクロ流路チップを用いて検査される物質を含むものであり、薬品等に限定されない。
また
図1に示すように、マイクロ流路チップ11は、上述のように入口から途中で流路が2つに分岐して2つの出口につながる構成のマイクロ流路チップであり、簡易的な流路構成でありながら、試験液と2つの薬剤との反応を同時に評価することができる。
【0020】
マイクロ流路チップ11において、入力部は1つ以上設けられていればよく、出力部は2つ以上設けられていればよい。またマイクロ流路チップ11において、流路部13(主流路25、分岐流路25a,25bを含む流路構成)は、複数設けられてもよいし、入力部12から導入された流体の合流や分離が可能な設計であってもよい。
【0021】
ここで、
図1に示すマイクロ流路チップ11において流路部13を構成する部材の詳細について
図2を用いて説明する。
図2では、流路部13のうち分岐流路25a,25bを例示して流路部13の詳細を説明するが、主流路25においても構成は同様である。
図2に示されるようにマイクロ流路チップ11は、基板20と、基板20上に設けられ床材21と、床材21上に設けられて流路を形成する隔壁層22と、撥水性を有する層であって隔壁層22表面22aに設けられた撥液層24と、隔壁層22の基板20とは反対側の面(表面22a)側に設けられた蓋材23と、を備えている。本例において撥液層24は、隔壁層22の表面22aの全体に設けられている。すなわち撥液層24は、隔壁層22の表面22aの全体を覆うように形成されている。
【0022】
入力部12(
図1参照)から導入された流体が流れる流路部13(本例では分岐流路25a,25b)は、基板20と床材21と隔壁層22と撥液層24と蓋材23とに囲まれた領域である。流路部13は、基板20に形成された床材21上において対向して設けられた隔壁層22によって画定され、床材21とは反対側を蓋材23に覆われている。つまり、流路部13は、床材21、隔壁層22、撥液層24および蓋材23で構成される空間である。流路部13は、底面が床材21で形成され、側面が隔壁層22及び撥液層で形成され、上面が蓋材23で形成されている。上述のように、当該空間である流路部13には、蓋材23に設けられた入力部12から流体が導入され、流路部13を流れた流体は出力部14,15から排出される。
【0023】
つまり、マイクロ流路チップ11は、基板20と、基板20上に設けられて流路部13の底面を形成する床材21と、床材21上に設けられて流路部13の側面を形成する隔壁層22と、隔壁層22の床材21とは反対の面(表面22a)側に設けられて流路部13の上面を形成する蓋材23と、隔壁層22における蓋材23側の表面22aの全体に設けられた撥液層24と、を備えている。
【0024】
以下に、
図2における基板20、床材21、隔壁層22、蓋材23、及び撥液層24についてさらに説明する。
【0025】
(1.1)基板
基板20は、マイクロ流路チップ11の基礎(本体部)となる部材であり、基板20上に設けられた隔壁層22が流路幅を画定することによって流路部13の流路(主流路25、分岐流路25a,25b)の形状、すなわち流路パターンが形成される。
基板20は、透光性材料又は非透光性材料のいずれかによって形成することができる。例えば、流路部13内の状態(例えば流体の状態)を光によって検出、観察する場合は、当該光に対して透明性に優れる材料を用いることができる。透光性材料としては、樹脂又はガラス等を用いることができる。基板20を形成する透光性材料に用いる樹脂としては、マイクロ流路チップ11の本体部の形成に適しているという観点から、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリプロピレン、ポリカーボネート樹脂、シクロオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。また、ガラス基板においては、表面にシリコーンやフッ素がコーティングされたものを使用してもよい。
【0026】
また例えば、流路部13内の状態(例えば流体の状態)を光によって検出、観察する必要がない場合は、非透光性材料を用いてもよい。非透光性材料としては、シリコンウエハ、銅板等が挙げられる。基板20の厚みは特に限定されないが、流路形成工程においてはある程度の剛性は必要となることから、10μm(0.01mm)以上10mm以下の範囲内が好ましい。
【0027】
(1.2)床材
床材21は、基板20上に設けられる。上述のように、床材21は、流路部13(主流路25、分岐流路25a,25b)の底面を形成する部材である。具体的には、床材21において基板20と反対側の表面21aが流路部13側の底面を形成している。床材21は、樹脂材料で形成することができる。床材21の樹脂材料としては、例えば感光性樹脂を用いることができる。
【0028】
床材21を形成する感光性樹脂は、紫外光領域である190nm以上400nm以下の波長の光に対して感光性を有することが望ましい。当該感光性樹脂としては、液体レジスト又はドライフィルムレジスト等のフォトレジストを用いることができる。これらの感光性樹脂は、感光領域が溶解するポジ型、又は感光領域が不溶化するネガ型のいずれであってもよい。マイクロ流路チップ11における床材21の形成に適する感光性樹脂組成物としては光硬化性の樹脂材料、例えばアルカリ可溶性高分子と付加重合性モノマーと光重合開始剤とを含むラジカルネガ型の感光性樹脂を挙げることができる。例えば、感光性樹脂材料としては、アクリル系樹脂、アクリルウレタン系樹脂(ウレタンアクリレート系樹脂)、エポキシ系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ノルボルネン系樹脂、フェノールノボラック系樹脂、その他の感光性を有する樹脂を単独で又は複数混合あるいは共重合して用いることができる。
【0029】
また床材21の樹脂材料は上述の感光性樹脂に加えて熱硬化性樹脂をさらに含んでいてもよい。熱硬化性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ジアレルフタレート系樹脂のいずれか1種類の樹脂、或いは2種類以上の樹脂の混合物が挙げられる。また例えば熱硬化性樹脂として2液硬化型ウレタン系樹脂を用いてもよい。2液硬化型ウレタン系樹脂としては特に限定されないが、中でも主剤としてOH基を有するポリオール成分(アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、エポキシポリオール等)と、硬化剤成分であるイソシアネート成分(トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、メタキシレンジイソシアネート等)とを含むものが使用できる。また熱硬化性樹脂としてはこれらに限られず、1液反応硬化型のポリウレタン系樹脂や、1液又は2液反応硬化型のエポキシ系樹脂などを用いてもよい。
【0030】
床材21の厚みは特に限定されないが、基板20と隔壁層22との密着性を上げること、あるいは、という観点においては、特に厚膜である必要はなく、薄膜が好ましい。また
図2では流路部13において基板20の表面は床材21に覆われているが、本開示においては床材21をパターニングすることで流路部13において基板20を露出させてもよい。このため、床材21をパターニングするという観点においても床材21は薄膜が好ましい。具体的には、床材21の厚みは1μm以上10μm以下の範囲内が好ましい。
【0031】
(1.3)隔壁層
隔壁層22は、基板20上に設けられて、流路部13を形成する構成要素のひとつである。具体的には、隔壁層22は床材21上に設けられて、流路部13の側面を形成する部材である。隔壁層22は、樹脂材料で形成することができる。隔壁層22の樹脂材料としては、例えば感光性樹脂を用いることができる。
【0032】
隔壁層22を形成する感光性樹脂は、紫外光領域である190nm以上400nm以下の波長の光に対して感光性を有することが望ましい。つまり隔壁層22の樹脂材料は、紫外光領域である190nm以上400nm以下の波長の光に対して感光性を有する感光性樹脂を含むことが望ましい。当該感光性樹脂としては、液体レジスト又はドライフィルムレジスト等のフォトレジストを用いることができる。これらの感光性樹脂は、感光領域が溶解するポジ型、又は感光領域が不溶化するネガ型のいずれであってもよい。マイクロ流路チップ11における隔壁層22の形成に適する感光性樹脂組成物としては、光硬化性の樹脂材料、例えばアルカリ可溶性高分子と付加重合性モノマーと光重合開始剤とを含むラジカルネガ型の感光性樹脂を挙げることができる。例えば、感光性樹脂材料としては、アクリル系樹脂、アクリルウレタン系樹脂(ウレタンアクリレート系樹脂)、エポキシ系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ノルボルネン系樹脂、フェノールノボラック系樹脂、その他の感光性を有する樹脂を単独で又は複数混合あるいは共重合して用いることができる。
【0033】
また隔壁層22の樹脂材料は上述の感光性樹脂に加えて熱硬化性樹脂をさらに含んでいてもよい。熱硬化性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ジアレルフタレート系樹脂のいずれか1種類の樹脂、或いは2種類以上の樹脂の混合物が挙げられる。また例えば熱硬化性樹脂として2液硬化型ウレタン系樹脂を用いてもよい。2液硬化型ウレタン系樹脂としては特に限定されないが、中でも主剤としてOH基を有するポリオール成分(アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、エポキシポリオール等)と、硬化剤成分であるイソシアネート成分(トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、メタキシレンジイソシアネート等)とを含むものが使用できる。また熱硬化性樹脂としてはこれらに限られず、1液反応硬化型のポリウレタン系樹脂や、1液又は2液反応硬化型のエポキシ系樹脂などを用いてもよい。
【0034】
なお本実施形態においては、隔壁層22の樹脂材料は感光性樹脂に限定されるものではなく、例えば、シリコーンゴム(PDMS:ポリジメチルシロキサン)や、合成樹脂を用いてもよい。合成樹脂としては、例えばポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン樹脂(PS)、ポリプロピレン(PP)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)などを用いることができる。隔壁層22の樹脂材料は、用途に応じて適宜選択されることが望ましい。
【0035】
また、基板20上(床材21上)における隔壁層22の厚み、すなわち流路部13(主流路25、分岐流路25a,25b)の高さは特に限定されないが、流路部13に導入される流体に含まれる解析・検査対象の物質(例えば、薬剤、菌、細胞、赤血球、白血球等)よりは流路部13の高さを大きくする必要がある。このため、隔壁層22の厚み、すなわち流路部13の高さ(深さ)は、1μm以上500μm以下の範囲内が好ましく、10μm以上100μmの範囲内がより好ましく、40μm以上60μm以下の範囲内がさらに好ましい。なお、流路部の高さ(深さ)は、基板面に垂直な方向の長さである。
【0036】
同様に、解析・検査対象の物質よりは流路部13の幅を大きくする必要がある為、隔壁層22によって画定される流路部13の幅は、1μm以上1000μm以下の範囲内が好ましく、10μm以上500μmの範囲内がより好ましく、10μm以上100μm以下の範囲内がさらに好ましい。なお、流路の幅は、基板面に平行で、流路長の方向に垂直な方向の長さである。
【0037】
また、隔壁層22により確定される流路長は、反応溶液の十分な反応時間を確保する必要から、10mm以上100mm以下の範囲内が好ましく、30mm以上70mm以下の範囲内がより好ましく、40mm以上60mm以下の範囲内がさらに好ましい。
【0038】
(1.4)蓋材
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係るマイクロ流路チップ11において蓋材23は、流路部13(主流路25、分岐流路25a,25b)を覆う部材である。上述のように、蓋材23は、隔壁層22の床材21とは反対の面側に設けられて、流路部13の上面を形成する部材である。より具体的には、マイクロ流路チップ11において蓋材23は、床材21、隔壁層22、及び撥液層24がこの順に積層される基板20とは反対側に設けられている。つまり、蓋材23は、床材21上に形成され表面22aに撥液層24が設けられた隔壁層22を挟んで、基板20と対向している。より具体的には、
図2に示すように、例えば蓋材23は隔壁層22と対向する領域(後述する貼合領域231)が撥液層24に支持され、貼合領域231以外の領域が床材21を設けた基板20と対向しており、基板20と対向する領域が流路部13の上部(上面)を画定している。
【0039】
蓋材23は、透光性材料又は非透光性材料のいずれかによって形成することができる。例えば、流路部13内の状態(例えば流体の状態)を光によって検出、観察する場合は、当該光に対して透明性に優れる材料を用いることができる。透光性材料としては、樹脂又はガラス等を用いることができる。蓋材23を形成する樹脂としては、マイクロ流路チップ11(
図1)の本体部の形成に適しているという観点から、アクリル樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、メタクリル樹脂、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)樹脂、シクロオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂(ポリウレタン)、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂、塩化ビニル樹脂等が挙げられる。ポリプロピレンとしては、例えば軟質ポリプロピレン(軟質PP)が挙げられる。
【0040】
なお本実施形態においては、蓋材23の樹脂材料は上記に限定されるものではなく、例えば、シリコーンゴム(PDMS:ポリジメチルシロキサン)や、合成樹脂を用いてもよい。合成樹脂としては、例えばポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリスチレン樹脂(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)などを用いることができる。蓋材23の樹脂材料は、用途に応じて適宜選択されることが望ましいが、例えばPET、PMMA、PC、COP、塩化ビニル、ポリウレタン、軟質PP、PE、シリコーンゴム、ガラスのうち少なくとも1種類で形成されることが好ましい。
【0041】
蓋材23の厚みは特に限定されないが、蓋材23に対して入力部12および出力部14、15それぞれに該当する貫通孔を設けることを鑑みると、10μm以上10mm以下の範囲内が好ましい。また蓋材23には、隔壁層22との接合前に、流体を導入する入力部12、流体を排出する出力部14、15のそれぞれに相当する孔を予め開けておくことが望ましい。
【0042】
(1.5)撥液層
撥液層24は、隔壁層22表面22a上に設けられる。撥液層24は、隔壁層22において基板20上の床材21とは反対の面側に設けられている。撥液層24は、撥液性(ここでは、撥水性)を有する層であって、水接触角が90度以上130度以下の範囲内である。本実施形態に係るマイクロ流路チップ11は、撥液層24の水接触角が上述の範囲内であること、及び撥液層の水接触角よりも、流路部13の上面(蓋材23)および側面(隔壁層22)の水接触角差を小さくすることで、マイクロ流路チップ内での液漏れを防ぎ、流路間での反応液の混入(コンタミネーション)を抑制することができる。マイクロ流路チップ11における液漏れ防止機構の詳細は後述する。
撥液層24は、樹脂材料で形成することができる。撥液層24は、例えばフッ素系化合物またはケイ素系化合物を含有することが好ましい。より詳細には、撥液層24の樹脂材料としては、フッ素系化合物またはケイ素系化合物を含有する感光性樹脂を用いることができる。
【0043】
撥液層24を形成する感光性樹脂は、紫外光領域である190nm以上400nm以下の波長の光に対して感光性を有することが望ましい。つまり撥液層24の樹脂材料は、紫外光領域である190nm以上400nm以下の波長の光に対して感光性を有する感光性樹脂を含むことが望ましい。当該感光性樹脂としては、液体レジスト又はドライフィルムレジスト等のフォトレジストを用いることができる。これらの感光性樹脂は、感光領域が溶解するポジ型、又は感光領域が不溶化するネガ型のいずれであってもよい。マイクロ流路チップ11(
図1)における撥液層24の形成に適する感光性樹脂組成物としては、フッ素系化合物、もしくはケイ素系化合物を含有する光硬化性の樹脂材料、例えばアルカリ可溶性高分子と付加重合性モノマーと光重合開始剤とを含むラジカルネガ型の感光性樹脂を挙げることができる。例えば、感光性樹脂材料としては、アクリル系樹脂、アクリルウレタン系樹脂(ウレタンアクリレート系樹脂)、エポキシ系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ノルボルネン系樹脂、フェノールノボラック系樹脂、その他の感光性を有する樹脂を単独で又は複数混合あるいは共重合して用いることができる。
【0044】
また撥液層24の樹脂材料は上述の感光性樹脂に加えて熱硬化性樹脂をさらに含んでいてもよい。熱硬化性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ジアレルフタレート系樹脂のいずれか1種類の樹脂、或いは2種類以上の樹脂の混合物が挙げられる。また例えば熱硬化性樹脂として2液硬化型ウレタン系樹脂を用いてもよい。2液硬化型ウレタン系樹脂としては特に限定されないが、中でも主剤としてOH基を有するポリオール成分(アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、エポキシポリオール等)と、硬化剤成分であるイソシアネート成分(トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、メタキシレンジイソシアネート等)とを含むものが使用できる。また熱硬化性樹脂としてはこれらに限られず、1液反応硬化型のポリウレタン系樹脂や、1液又は2液反応硬化型のエポキシ系樹脂などを用いてもよい。
【0045】
撥液層24の厚みは特に限定されないが、水接触角が90度以上130度以下の塗膜を形成すること、あるいは、隔壁層22表面上で良好な解像性を保ったままパターニングするという観点においては、1μm以上20μm以下の範囲内が好ましい。
【0046】
(1.6)撥液層による液漏れの防止機構
ここで、マイクロ流路チップ11における液漏れ防止機構について説明する。まず、撥液層24と、隔壁層22及び蓋材23との関連について説明する。
図2に示すように、撥液層24は、隔壁層22と蓋材23との間に形成されている。具体的には、例えば撥液層24は隔壁層22と蓋材23とに挟まれており、隔壁層22と蓋材23とは、撥液層24を介して貼合される。つまり、
図2に示す例において隔壁層22と蓋材23とは、撥液層24が形成された領域において貼合されている。このため、隔壁層22及び蓋材23において撥液層24と接している(接合している)領域を貼合領域という。
図2では、隔壁層22の表面22aにおいて撥液層24と接する貼合領域を貼合領域221とし、蓋材23の裏面23aにおいて撥液層24と接する領域を貼合領域231とした。つまり、貼合領域221は隔壁層22(表面22a)と撥液層24との界面であり、貼合領域231は蓋材23(裏面23a)と撥液層24(表面24a)との界面である。
【0047】
本例では、隔壁層22の表面22aの全体を覆うように撥液層24が設けられている。このため、隔壁層22の表面22aに占める貼合領域221の面積(隔壁層22と撥液層24との接合面積)の割合は、100%となる。また、本例において、蓋材23における貼合領域231の面積の合計は、隔壁層の表面22aの面積の合計と同等である。
なお、本開示において撥液層24は隔壁層22の表面の一部分または全体に設けられていればよい。つまり、隔壁層の表面に占める貼合領域の割合は100%に限られない。隔壁層の表面の一部に撥液層を設ける構成については、後述の変形例で説明する。
【0048】
また、本例では、隔壁層22の表面22aの全体を覆うように撥液層24が設けられている。このため、流路部13の側面は、撥液層24の側面24bと隔壁層22の側面22bとで構成される。すなわち、撥液層24の側面24bと隔壁層22の側面22bとが連続している。言い換えれば、撥液層24の側面24bは、隔壁層22の表面22a上において流路部13の外周、つまり隔壁層22が流路幅を画定する流路パターンの外周に沿って設けられている。ここで、流路パターンの外周は、流路部13内における隔壁層22の側面22bの領域に相当する。
【0049】
ここで、貼合領域221,231について、
図3を用いてより詳細に説明する。
図3は、
図2の領域αを拡大して示す図である。
マイクロ流路チップ11において、隔壁層22の貼合領域221では、撥液層24と隔壁層22との間に微小な凹凸空間が生じ得る。また、同様に蓋材23の貼合領域231では、撥液層24と蓋材23との間に微小な凹凸空間が生じ得る。
図3では、撥液層24と蓋材23との間に微小な凹凸空間112が生じた例を図示している。微小な凹凸空間112は、蓋材23と隔壁層22との貼合時における微小異物の混入や蓋材23の裏面23aの表面粗さ(数十μm程度)等に起因する。また、図示はしないが、隔壁層22の貼合領域221における微小な凹凸空間も同様に、微小異物の混入や隔壁層22の表面22aの表面粗さ(数百μm程度)等に起因する。
【0050】
通常、凹凸空間112のような空間が蓋材と隔壁層との貼合領域に存在すると、流路内の液体が貼合領域の凹凸空間に浸入して濡れ広がり、マイクロ流路チップ内外に液漏れが生じる。これにより、マイクロ流路チップ内では流路間で反応液の混入(コンタミネーション)が発生して、適切な試験結果が得られない状態となり得る。つまり、マイクロ流路チップは、マイクロ流路チップ内での貼合部を介した液漏れを防ぎ、反応液の混入(コンタミネーション)を抑制することが求められる。
【0051】
そこで、マイクロ流路チップ11は、上述のように、撥液層24の水接触角が90度以上130度以下であり、且つ、撥液層24の水接触角よりも、隔壁層22および蓋材23の水接触角差を小さく構成されている。より詳細には、撥液層24の水接触角が90度以上130度以下であり、且つ、隔壁層22および蓋材23における流路部13側の面は、水接触角が90度未満である。これにより、マイクロ流路チップ内での液漏れを防ぎ、流路間での反応液の混入(コンタミネーション)を抑制することが可能となる。
【0052】
ここで、蓋材23における流路部13側の面は、
図2に示す蓋材23の裏面23aである。また、隔壁層22における流路部13側の面は、
図2に示す隔壁層22の側面22bである。なお本開示は、少なくとも隔壁層22および蓋材23における流路部13側の面の水接触角が90度未満であればよく、隔壁層22全体および蓋材23全体における水接触角が90度未満であってもよい。
【0053】
図3に示すように、凹凸空間(例えば凹凸空間112)は、水接触角が90度以上130度以下であって撥液性を有する撥液層24が存在する貼合領域(例えば、貼合領域231)に生じる。液体は、接触角(本例では水接触角)が大きい方から小さい方へ向かって流れる性質があるため、撥液層24へ浸入して濡れ広がることはなく、撥液層24よりも水接触角が小さい流路部13の内部、つまり隔壁層22および蓋材23における流路部13側の面側に押し戻される。また、撥液層24自体に凹凸空間が生じてしまっても、撥液層24自体が撥液性を有しており、液体の濡れ広がりを阻止する効果を果たす。
したがって、撥液層24の水接触角が90度以上130度以下であり、且つ、隔壁層22および蓋材23における流路部13側の面は、水接触角が90度未満である構成を有するマイクロ流路チップ11は、マイクロ流路チップ内での液漏れを防ぎ、流路間での反応液の混入(コンタミネーション)を抑制することが可能となる。さらに、マイクロ流路チップ11は、貼合領域221,231の凹凸空間を介してマイクロ流路チップ外へ反応液が漏れ出すことも抑制することができる。
【0054】
一方、従来のマイクロ流路チップとして流路を含む基材の表面、及び蓋材の表面には同種の材料を塗工する構成が知られているが、撥液層を備えていない構成では、流路を含む流路基材および蓋材の裏面、つまり流路を構成する全面が同じ接触角となる。言い換えると、本来液体が流れる流路部も、液体の浸入を阻止すべき貼合領域も同じ接触角となる。したがって、蓋材と隔壁層との貼合領域に凹凸空間があった場合、貼合領域と流路内部とに水接触角の差がないため双方で液体の濡れ拡がりやすさに差は生じず、流路内の液体が貼合領域の微小な凹凸空間に流れ込んで濡れ広がり、流路間のコンタミネーションが生じることを抑止できない。さらに流路チップの外に液漏れが生じることも防止できない。
【0055】
また、本実施形態に係るマイクロ流路チップ11において、撥液層24の水接触角は、蓋材23における流路部13側の面(裏面23a)の水接触角との差が25度以上であることが好ましい。これにより、貼合領域231を介した液漏れをより確実に防止し、流路間における反応液の混入(コンタミネーション)を確実に抑制することができる。
また、撥液層24の水接触角は、隔壁層22における流路部13側の面(側面22b)の水接触角との差が20度以上であることが好ましい。これにより、貼合領域221を介した液漏れをより確実に防止し、流路間における反応液の混入(コンタミネーション)を確実に抑制することができる。
【0056】
本実施形態において、撥液層24の水接触角は、撥液層24の樹脂材料、プロセス条件及び厚みによって制御することができる。より具体的にはプロセス条件のうち露光量を調整することで、撥液層24の水接触角を制御することができる。また、隔壁層22、蓋材23の水接触角は、それぞれに用いる材料等によって制御することができる。なお隔壁層22については、撥液層24と同様に、樹脂材料に加えてプロセス条件(具体的には露光量)の調整によって水接触角を制御することができる。つまり、本実施形態に係るマイクロ流路チップ11は、隔壁層22上への撥液層24のパターニングによる簡便な方法により、マイクロ流路チップ内での液漏れを防止し、流路間における反応液の混入(コンタミネーション)の抑制を実現することができる。
【0057】
以上、マイクロ流路チップ11の基板20、床材21、隔壁層22、蓋材23、及び撥液層24の各部材について説明した。なお本実施形態に係るマイクロ流路チップ11における各部材の構成は、上述した構成に限られない。
【0058】
例えば、床材21、隔壁層22、及び撥液層24は、感光性樹脂を用いて形成され熱硬化性樹脂をさらに含んでもよいとしたが、本開示はこれに限られない。例えば床材21、隔壁層22、及び撥液層24は、樹脂材料として熱硬化性樹脂のみを含んで形成されてもよい。この場合、隔壁層22および隔壁層では、露光量の調整に代えて、加熱温度の調整によって水接触角を制御することができる。
また、感光性樹脂を含まずに熱硬化性樹脂によって床材21、隔壁層22、及び撥液層24を形成する場合、露光工程を省略し、ポストベーク処理、すなわち加熱工程(焼成工程)によって硬化を行うことができる。感光性樹脂を用いる場合には、露光工程後にポストベーク処理を行うため、熱硬化性樹脂によって床材21、隔壁層22、及び撥液層24を形成することで、マイクロ流路チップ11の製造工程を簡略化することができる。
なお、床材21、隔壁層22、及び撥液層24のうちの全てを熱硬化性樹脂で形成してもよいし、床材21、隔壁層22、及び撥液層24のうちいずれか1又は2の部材を熱硬化性樹脂で形成し、残余の部材を感光性樹脂で形成してもよい。
【0059】
(1.7)マイクロ流路チップの製造方法
次に、本実施形態に係るマイクロ流路チップ11の製造方法について説明する。
図4は、本実施形態に係るマイクロ流路チップ11の製造方法の一例を示すフローチャートである。
ここでは、床材21、隔壁層22、及び撥液層24を感光性樹脂で形成する場合を例にとって説明する。
【0060】
図4に示すように、マイクロ流路チップ11の製造方法は、床材21の形成(ステップS1~ステップS6)、隔壁層22の形成(S7~ステップS12)、及び撥液層24(S13~ステップS18)、表面改質処理(UV処理)および隔壁層22と蓋材23との接合(ステップS19)に関する工程を含む。
【0061】
(ステップS1)
本実施形態に係るマイクロ流路チップ11の製造方法では、まず基板20上へ第一感光性樹脂を塗工する工程を行う。これにより、基板20上に床材21を形成するための樹脂層を設ける。
【0062】
基板20上への床材の形成方法は、例えば、基板20への感光性樹脂(第一感光性樹脂)の塗工により行われる。塗工は、例えば、スピンコーティング、スプレーコーティング、バーコーティングなどにより行われることができ、膜厚制御性の観点からはスピンコーティングが好ましい。基板20上には、例えば液状、固体状、ゲル状、フィルム状など種々の形態の感光性樹脂を第一感光性樹脂として塗工することができる。例えば、液体レジストによって床材21となる感光性樹脂層を形成することは、好ましい方法の一つである。
また、基板20上には、樹脂層(例えば、感光性樹脂層)の厚み、すなわち床材21の厚みが1μm以上10μm以下の範囲内となるように樹脂(例えば、感光性樹脂)を塗工すればよい。
【0063】
(ステップS2)
基板20上に第一感光性樹脂による樹脂層を形成すると、次に、基板20上に塗工した当該樹脂層内に含まれる溶媒(溶剤)を除去する目的で加熱処理(プリベーク処理)をする工程を行う。なお、本実施形態に係るマイクロ流路チップ11の製造方法において、プリベーク処理は必須の工程ではなく、適宜、樹脂の特性に合わせて最適な温度、時間で実施すればよい。例えば、基板20上の樹脂層が感光性樹脂である場合は、プリベーク温度、時間は感光性樹脂の特性に応じて、適宜、最適な条件で行う。
【0064】
(ステップS3)
次に、基板20上に塗工した樹脂(例えば感光性樹脂)を露光する工程を行う。具体的には、基板20上に塗工した第一感光性樹脂には、露光により流路を構成する床材のパターンが描画される。露光は、例えば、紫外線を光源とした露光装置、レーザー描画装置により行うことができる。例えば、紫外線を光源としたプロキシミティ露光やコンタクト露光装置を用いた露光が好ましい方法の一つである。プロキシミティ露光装置の場合、マイクロ流路チップ11における床材のパターン配列を有するフォトマスクを介して露光が行われる。フォトマスクはクロムおよび酸化クロムの二層構造を遮光膜とするフォトマスクなどを使用すればよい。
また上述のように、床材21には、紫外光領域である190nm以上400nm以下の波長の光に対して感光性を有する感光性樹脂が用いられる。したがって、本工程(露光工程)では、基板20上に塗工される感光性樹脂を、190nm以上400nm以下の波長の光に感光させればよい。
【0065】
図2、
図3では流路部13側の基板20の表面全体が床材21に覆われている構成(ベタ塗工)であるが、本開示はこれに限られない。例えばマイクロ流路チップ11の製造時において、基板20上の一部の領域に床材21が配置されるようにパターニングを行ってもよい。
例えば基板20上に塗工された感光性樹脂がポジ型レジストの場合、露光領域が溶解して基板20が露出することになり、未露光領域に残存する感光性樹脂が床材21となる。また、基板20上に塗工された感光性樹脂がネガ型レジストの場合、露光領域に残存する感光性樹脂が床材21となり、未露光領域が溶解して基板20が露出することになる。このように、第一実施形態に係るマイクロ流路チップ11の製造方法では、フォトリソグラフィーを用いて基板20上に床材21を形成することができる。
【0066】
(ステップS4)
次に、露光した第一感光性樹脂に対して現像を行い、流路を構成する床材のパターンを形成する工程を行う。
現像は、例えば、スプレー、ディップ、パドル形式などの現像装置にて感光性樹脂と現像液の反応により行われる。現像液は、例えば炭酸ナトリウム水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化カリウム、有機溶剤などを用いることができる。現像液は感光性樹脂の特性に応じた最適なものを適宜使用すればよく、これらに限定されるものではない。また、濃度や現像処理時間は、感光性樹脂の特性に合わせて適宜最適な条件に調整することができる。
【0067】
(ステップS5)
次に、洗浄により基板20上の第一感光性樹脂による樹脂層(感光性樹脂層)から現像に用いた現像液を除去する工程を行う。洗浄は、例えば、スプレー、シャワー、浸漬形式などの洗浄装置によって行うことができる。洗浄水としては、例えば純水、イソプロピルアルコールなどから、現像処理に用いた現像液を除去するために最適な洗浄水を適宜使用すればよい。洗浄後はスピンドライヤ、IPAベーパドライヤ、自然乾燥などにより乾燥を行う。
【0068】
(ステップS6)
次に、床材21に対して加熱処理(ポストベーク)する工程を行う。このポストベーク処理により、現像や洗浄時の残留水分を除去する。ポストベーク処理は、例えば、ホットプレート、オーブン、などを用いて行われる。上記ステップS5の洗浄工程での乾燥が不十分な場合、現像液や洗浄時の水分が床材21に残留している場合がある。また、プリベーク処理において除去されなかった溶剤も床材21に残留している場合がある。ポストベーク処理を行うことで、それらを除去することができる。
このように、ステップS1からステップS6の各処理の実行により、基板20上に床材21が形成される。
【0069】
(ステップS7)
次に、床材21上へ感光性樹脂(第二感光性樹脂)を塗工する工程を行う。これにより、床材21上に隔壁層22を形成するための樹脂層を設ける。本実施形態に係るマイクロ流路チップ11の製造方法では、例えば床材21上に第二感光性樹脂による樹脂層(感光性樹脂層)を形成する。
【0070】
床材21上への第二感光性樹脂による樹脂層の形成方法は、例えば、床材21への第二感光性樹脂の塗工により行われる。上記ステップS1と同様に塗工は、例えば、スピンコーティング、スプレーコーティング、バーコーティングなどにより行われることができ、膜厚制御性の観点からはスピンコーティングが好ましい。床材21上には、例えば液状、固体状、ゲル状、フィルム状など種々の形態の感光性樹脂を塗工することができる。例えば、液体レジストによって隔壁層22を形成するための感光性樹脂層を形成することは好ましい方法の一つである。
また、床材21上には、樹脂層(例えば、感光性樹脂層)の厚み、すなわち隔壁層22の厚みが5μm以上100μm以下の範囲内となるように樹脂(例えば、感光性樹脂)を塗工すればよい。
【0071】
(ステップS8)
床材21上に感光性樹脂を形成すると、次に、床材21上に塗工した第二感光性樹脂内に含まれる溶媒(溶剤)を除去する目的で加熱処理(プリベーク処理)する工程を行う。なお、ステップS2と同様に、本実施形態に係るマイクロ流路チップ11の製造方法において、ここでのプリベーク処理は必須の工程ではなく、適宜、樹脂の特性に合わせて最適な温度、時間で実施すればよい。例えば、床材21上の樹脂層が感光性樹脂である場合は、プリベーク温度、時間は感光性樹脂の特性に応じて、適宜、最適な条件で行う。
【0072】
(ステップS9)
次に、床材21上に塗工した樹脂(第二感光性樹脂)を露光する工程を行う。具体的には、床材21上に塗工した第二感光性樹脂には、露光により流路パターンが描画される。露光は、例えば、上記ステップS3と同様に紫外線を光源とした露光装置、レーザー描画装置により行うことができる。例えば、紫外線を光源としたプロキシミティ露光やコンタクト露光装置を用いた露光は好ましい方法の一つである。プロキシミティ露光装置の場合、マイクロ流路チップ11における流路パターン配列を有するフォトマスクを介して露光が行われる。フォトマスクはクロムおよび酸化クロムの二層構造を遮光膜とするフォトマスクなどを使用すればよい。
また上述のように、隔壁層22には、紫外光領域である190nm以上400nm以下の波長の光に対して感光性を有する感光性樹脂が用いられる。したがって、本工程(露光工程)では、床材21上に塗工される感光性樹脂を、190nm以上400nm以下の波長の光に感光させればよい。
【0073】
床材21上に塗工された第二感光性樹脂がポジ型レジストの場合、露光領域が溶解して流路部13(主流路25、分岐流路25a,25b)となり、未露光領域に残存する第二感光性樹脂が隔壁層22となる。また、床材21上に塗工された第二感光性樹脂がネガ型レジストの場合、露光領域に残存する第二感光性樹脂が隔壁層22となり、未露光領域が溶解して流路部13となる。このように、本実施形態に係るマイクロ流路チップ11の製造方法では、フォトリソグラフィーを用いて床材21上に流路部13を構成する隔壁層22を形成することができる。
【0074】
なお、床材21上における樹脂層の形成に化学増幅型レジストなどを用いる場合には、露光により発生した酸の触媒反応を促すために、露光後にさらに加熱処理(ポストエクスポージャーベーク:PEB)を行うとよい。
【0075】
(ステップS10)
次に、露光した第二感光性樹脂に対して現像を行い、流路パターンを形成する工程を行う。
現像は、例えば、スプレー、ディップ、パドル形式などの現像装置にて感光性樹脂と現像液の反応により行われる。現像液は、例えば炭酸ナトリウム水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化カリウム、有機溶剤などを用いることができる。現像液は感光性樹脂の特性に応じた最適なものを適宜使用すればよく、これらに限定されるものではない。また、濃度や現像処理時間は、感光性樹脂の特性に合わせて適宜最適な条件に調整することができる。
【0076】
(ステップS11)
次に、洗浄により床材21上の樹脂層(第二感光性樹脂の層)から現像に用いた現像液を完全に除去する工程を行う。洗浄は、ステップS5と同様に例えば、スプレー、シャワー、浸漬形式などの洗浄装置によって行うことができる。洗浄水としては、例えば純水、イソプロピルアルコールなどから、現像処理に用いた現像液を除去するために最適な洗浄水を適宜使用すればよい。洗浄後はスピンドライヤ、IPAベーパドライヤ、自然乾燥などにより乾燥を行う。
【0077】
(ステップS12)
次に、流路パターン、すなわち流路部13を形成する隔壁層22に対して加熱処理(ポストベーク)する工程を行う。このポストベーク処理により、現像や洗浄時の残留水分を除去する。ポストベーク処理は、ステップS6と同様に例えば、ホットプレート、オーブン、などを用いて行われる。上記ステップS11の洗浄工程での乾燥が不十分な場合、現像液や洗浄時の水分が隔壁層22に残留している場合がある。また、プリベーク処理において除去されなかった溶剤も隔壁層22に残留している場合がある。ポストベーク処理を行うことで、それらを除去することができる。
【0078】
このように、ステップS7からステップS12の各処理の実行により、床材21上に隔壁層22が形成される。隔壁層22の水接触角は、樹脂材料の選択、及びプロセス条件によって90度未満となるように制御し、また撥液層24の水接触角との差が20度以上となるように制御することができる。
【0079】
(ステップS13)
次に、隔壁層22表面22a上の全面に撥液層24を塗工する工程を行う。これにより、蓋材23の貼合部に微小異物やマイクロラフネス等が起因となる微小な凹凸空間への液体の浸入および濡れ広がりを阻止して、マイクロ流路チップ内の液漏れを防ぐことができる。
【0080】
隔壁層22の表面22a上の全面に撥液層24を形成する方法は、例えば、隔壁層22への感光性樹脂(第三感光性樹脂)の塗工により行われる。塗工は、上記ステップS1と同様に例えば、スピンコーティング、スプレーコーティング、バーコーティングなどにより行われることができ、膜厚制御性の観点からはスピンコーティングが好ましい。隔壁層22の表面22a上には、例えば液状、固体状、ゲル状、フィルム状など種々の形態の感光性樹脂を塗工することができる。例えば、液体レジストによって感光性樹脂層を形成することは、好ましい方法の一つである。
また、隔壁層22上には、撥液層24の厚みが1μm以上20μm以下の範囲内となるように樹脂(例えば、感光性樹脂)を塗工すればよい。
【0081】
(ステップS14)
隔壁層22の表面22a上の全面に第三感光性樹脂による層を形成すると、次に、隔壁層22の表面22a上の全面に塗工した樹脂(例えば、第三感光性樹脂)内に含まれる溶媒(溶剤)を除去する目的で加熱処理(プリベーク処理)をする工程を行う。なお、本実施形態に係るマイクロ流路チップ11の製造方法において、ステップS2と同様にプリベーク処理は必須の工程ではなく、適宜、樹脂の特性に合わせて最適な温度、時間で実施すればよい。例えば、隔壁層22上の樹脂層が感光性樹脂である場合は、プリベーク温度、時間は感光性樹脂の特性に応じて、適宜、最適な条件で行う。
【0082】
(ステップS15)
次に、隔壁層22上に塗工した樹脂(例えば第三感光性樹脂)を露光する工程を行う。具体的には、隔壁層22上に塗工した感光性樹脂には、露光により流路を構成する撥液層24のパターンが描画される。露光は、ステップS3と同様に例えば、紫外線を光源とした露光装置、レーザー描画装置により行うことができる。例えば、紫外線を光源としたプロキシミティ露光やコンタクト露光装置を用いた露光が好ましい方法の一つである。プロキシミティ露光装置の場合、マイクロ流路チップ11における撥液層24のパターン配列を有するフォトマスクを介して露光が行われる。フォトマスクはクロムおよび酸化クロムの二層構造を遮光膜とするフォトマスクなどを使用すればよい。
また上述のように、撥液層24には、紫外光領域である190nm以上400nm以下の波長の光に対して感光性を有する感光性樹脂が用いられる。したがって、本工程(露光工程)では、隔壁層22上に塗工される第三感光性樹脂を、190nm以上400nm以下の波長の光に感光させればよい。
【0083】
隔壁層22上に塗工された第三感光性樹脂がポジ型レジストの場合、露光領域が溶解して撥液層24が露出することになり、未露光領域に残存する感光性樹脂が撥液層24となる。また、隔壁層22上に塗工された第三感光性樹脂がネガ型レジストの場合、露光領域に残存する感光性樹脂が撥液層24となり、未露光領域が溶解して撥液層24が露出することになる。このように、本実施形態に係るマイクロ流路チップ11の製造方法では、フォトリソグラフィーを用いて隔壁層22上に撥液層24を形成することができる。また、事の時の撥液層24のマスクパターンは、隔壁層22と同じマスクを使用し、隔壁層22表面22aの全面上に撥液層24を形成した。また撥液層のマスクパターンを隔壁層と異なるマスク(例えば、感光性樹脂が撥液層として残存する領域が隔壁層よりも少ないマスク)を用いることで、例えば隔壁層の表面の一部分に撥液層を形成することができる。
【0084】
(ステップS16)
次に、露光した第三感光性樹脂に対して現像を行い、流路を構成する撥液層24のパターンを形成する工程を行う。
現像は、ステップS4と同様に例えば、スプレー、ディップ、パドル形式などの現像装置にて第三感光性樹脂と現像液の反応により行われる。現像液は、例えば炭酸ナトリウム水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化カリウム、有機溶剤などを用いることができる。現像液は感光性樹脂の特性に応じた最適なものを適宜使用すればよく、これらに限定されるものではない。また、濃度や現像処理時間は、感光性樹脂の特性に合わせて適宜最適な条件に調整することができる。
【0085】
(ステップS17)
次に、洗浄により撥液層24の樹脂層(第三感光性樹脂の層)から現像に用いた現像液を除去する工程を行う。洗浄は、ステップS5と同様に例えば、スプレー、シャワー、浸漬形式などの洗浄装置によって行うことができる。洗浄水としては、例えば純水、イソプロピルアルコールなどから、現像処理に用いた現像液を除去するために最適な洗浄水を適宜使用すればよい。洗浄後はスピンドライヤ、IPAベーパドライヤ、自然乾燥などにより乾燥を行う。
【0086】
(ステップS18)
次に、撥液層24に対して加熱処理(ポストベーク)をする工程を行う。このポストベーク処理により、現像や洗浄時の残留水分を除去する。ポストベーク処理は、例えば、ホットプレート、オーブン、などを用いて行われる。上記ステップS17の洗浄工程での乾燥が不十分な場合、現像液や洗浄時の水分が撥液層24に残留している場合がある。また、プリベーク処理において除去されなかった溶剤も撥液層24に残留している場合がある。ポストベーク処理を行うことで、それらを除去することができる。
【0087】
このように、ステップS13からステップS18の各処理の実行により、隔壁層22上に撥液層24が形成される。撥液層24の水接触角は、樹脂材料の選択、及びプロセス条件によって90度以上130度以下となるように制御することができる。
【0088】
(ステップS19)
撥液層24のポストベーク処理後に、撥液層24への蓋材23の接合を行い、隔壁層22上に蓋材23を設ける。本工程では、蓋材23の接合時にあたり、撥液層24、および撥液層24との接合前の蓋材23に対して表面改質処理する工程を行ってもよい。本実施形態において表面改質処理の一例として、UV処理を行う。なお、表面改質処理は、必要に応じて適宜実行すればよく、本実施形態に係るマイクロ流路チップ11の製造方法において必須の工程ではない。
蓋材23は、上述した材料によって別途作製される。蓋材23の水接触角は、材料の選択や、表面改質処理(UV処理)によって90度未満となるように制御することができる。
【0089】
表面改質処理を行った蓋材23を撥液層24と接合(貼合)させる方法としては、例えば熱プレス機や熱ロール機を用いた熱圧着を用いることができる。これは、硬質の樹脂板を使用して蓋材23を作成した場合、蓋材23は隔壁層22の表面形状(例えば表面粗さ)に追従しない為、加熱および圧着(プレス)して撥液層24と蓋材23とを密着させ、貼合領域221,231において隔壁層22と蓋材23とを貼合する為に用いる方法である。
熱プレス条件は、例えば温度が40℃以上200℃以下、プレス時間が3分以上120分以下の条件とする。
蓋材23には、撥液層24との接合前に、予め流体の入力部12、出力部14、15に相当する孔をおくことが望ましい。これにより、撥液層24との接合後に孔を開ける場合よりも、ゴミやコンタミネーションの問題が生じることを抑制することができる。
【0090】
隔壁層22、撥液層24と蓋材23との接合方法は、上記熱プレスに限られず、接着剤を用いて貼合する方法を実施してもよい。
接着剤を用いて接合する場合、隔壁層22、または撥液層24、及び蓋材23を構成する材料との親和性などに基づいて決定することができる。接着剤は、隔壁層22と蓋材23とを接合できるものであれば、特に限定されない。例えば、本実施形態における接着剤としては、アクリル樹脂系接着剤や、ウレタン樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤等を用いることができる。
【0091】
また、接着剤や熱プレス(熱圧着)を用いずに表面改質処理によって蓋材23を接合する方法としては、UV処理、プラズマ処理、コロナ放電処理、エキシマレーザー処理などがある。この場合、隔壁層22上の撥液層24の表面24aの反応性を向上させ、隔壁層22、または撥液層24と蓋材23との親和性および接着の相性に応じて、適宜最適な処理方法を選択すればよい。
【0092】
ここでは、基板20上に感光性樹脂(第一感光性樹脂、第二感光性樹脂、第三感光性樹脂)を順次塗工し、フォトリソグラフィーを用いて流路部13を構成するために床材21、隔壁層22、撥液層24を形成し、さらに別途作製した蓋材23を接合する例を説明したが、本発明はこれに限らない。基板20上において隔壁層22となる樹脂層の形成に用いる樹脂は、例えばシリコーンゴム(PDMS)や、合成樹脂(PMMA、PC、PS、PP、COP、COCなど)であってもよい。例えば、シリコーンゴムを用いて隔壁層22を形成する場合は、フォトリソグラフィーを用いて流路パターンの鋳型を形成し、当該流路パターンの鋳型をシリコーンゴムに転写し、シリコーンゴムに直接流路パターンを形成してもよい。
【0093】
以上説明したように、本実施形態に係るマイクロ流路チップ11の製造方法は、基板20上に、第一感光性樹脂を塗工する工程(ステップS1)と、塗工した第一感光性樹脂を露光する工程(ステップS3)と、露光した第一感光性樹脂を現像および洗浄およびポストベークし、基板20上に 流路部13の底面を形成する床材21のパターンを形成する工程(ステップS4~6)と、床材21上に、第二感光性樹脂を塗工する工程(ステップS7)と、塗工した第二の感光性樹脂を露光する工程(ステップS9)と、露光した第二感光性樹脂を現像および洗浄およびポストベークし、床材21上に流路部13の側面を形成する隔壁層22のパターンを形成する工程(ステップS10~12)と、隔壁層22のパターン上に、第三感光性樹脂を塗工する工程(ステップS13)と、塗工した第三感光性樹脂を露光する工程(ステップS15)と、露光した第三の感光性樹脂を現像および洗浄およびポストベークし、隔壁層22における蓋材23側の表面22aの一部分または全体に撥液層24のパターンを形成する工程(ステップS16~18)と、撥液層24を形成した隔壁層22の床材21と反対の面(表面22a)側に蓋材23を重ねて、温度が40℃以上200℃以下、プレス時間が3分以上120分以下の条件でプレスし、隔壁層22と蓋材23とを貼合する工程(ステップS19)と、を含んでいる。さらに、撥液層24は、水接触角を90度以上130度以下とし、蓋材23および隔壁層22の少なくとも流路部13側の面(裏面23a、側面22b)は、水接触角を90度未満とする。
これにより、マイクロ流路チップ内での液漏れを防ぎ、流路間での反応液の混入(コンタミネーション)を抑制することが可能なマイクロ流路チップを得ることができる。
【0094】
(1.8)変形例
以下、本実施形態の変形例に係るマイクロ流路チップについて、
図5及び
図6を用いて説明する。本変形例では、隔壁層の一部分に撥液層を設けた構成について説明する。上述のように、本開示において撥液層は、隔壁層の蓋材側の表面の一部分または全体に設けられていればよい。
【0095】
(1.8.1)第1変形例
図5は、本実施形態の第1変形例に係るマイクロ流路チップ110の一構成例を説明するための断面図である。
マイクロ流路チップ110は、基板20と、基板20上に形成された床材21と、分岐流路35a,35bを有する流路部130を形成する隔壁層32と、流路部130の蓋となる蓋材33と、撥液層34とを備えている。
図5に示すように、マイクロ流路チップ110は、隔壁層32の蓋材33側の表面32aの一部分に撥液層34が設けられている点で、上記実施形態に係るマイクロ流路チップ11と相違するが、その点以外は上記実施形態に係るマイクロ流路チップ11と同等である。
【0096】
以下、隔壁層32、蓋材33、撥液層34及び流路部130について説明する。なお、基板20および床材21については、マイクロ流路チップ11の基板20および床材21と同様の構成であるため、同一の符号を付して説明を省略する。
【0097】
隔壁層32は、上述のように表面32aの一部分に撥液層34が設けられている点で、上記実施形態における隔壁層22と相違するが、その点を除き隔壁層22と同等の構成である。また
図5に示すように、撥液層34は、隔壁層32の表面32aの一部に形成される点で、上記実施形態における撥液層24と相違するが、その点を除き隔壁層22と同等の構成である。また、蓋材33は撥液層34を介して隔壁層32と貼合される点で上記実施形態における蓋材23と相違するが、その点を除き蓋材23と同等の構成である。また、流路部130(分岐流路35a,35b)は、床材21(表面21a)、隔壁層32(側面32b)、蓋材23(裏面23a)および撥液層34(側面34b)で構成される空間である点で上記実施形態における流路部13と相違するが、その点を除き流路部13と同等の構成である。図示は省略するが、分岐流路35a,35bは流路部13の分岐流路25a,25bと同様に、主流路から分岐した流路である。
【0098】
以下、本変形例に係るマイクロ流路チップ110における液漏れ防止機構について、説明する。本変形例においても、撥液層34の水接触角は0度以上130度以下であり、隔壁層32および蓋材33における少なくとも流路部130側の面(側面32b、裏面33a)は、水接触角が90度未満である。これにより、マイクロ流路チップ内での液漏れを防ぎ、流路間での反応液の混入(コンタミネーション)を抑制することが可能である。
【0099】
図5に示すように、撥液層34は、隔壁層32と蓋材33との間の一部の領域に形成されている。
図5では、隔壁層32の表面32aにおいて撥液層34と接する貼合領域を貼合領域321とし、蓋材33の裏面33aにおいて撥液層34と接する領域を貼合領域331とした。貼合領域321は隔壁層32と撥液層34との界面であり、貼合領域331は蓋材33と撥液層34との界面である。
【0100】
本例では、隔壁層32の表面32aの一部分を覆うように撥液層34が設けられており、隔壁層32は、表面32a上に撥液層34が設けられていない非貼合領域(非撥液領域の一例)320を有する。つまり、本変形例において隔壁層32の表面32aに占める貼合領域321の面積(隔壁層32と撥液層34との接合面積)の割合は、100%未満となる。本変形例において、隔壁層32の表面32aに占める貼合領域321の面積の割合は、10%以上であることが好ましい。これにより、隔壁層32上における撥液層34の塗工量を削減しつつ、貼合領域321,331における反応液の濡れ広がりを確実に阻止してマイクロ流路チップ110内外での液漏れを防止することができる。
【0101】
本変形例において流路部130の側面は、上述のように撥液層34の側面34bと隔壁層32の側面32bとで構成される。すなわち、撥液層34の側面34bと隔壁層32の側面32bとが連続している。言い換えれば、撥液層34の側面34bは、隔壁層32の表面32a上において流路部130の外周、つまり隔壁層32が流路幅を画定する流路パターンの外周に沿って設けられている。したがって、隔壁層22上において、撥液層34が設けられていない非貼合領域320は、流路部130には接していない。つまり、非貼合領域320は、流路部130と連続していない。また、
図5に示すように流路間を区切る隔壁層32(図の中央に示す隔壁層32)では、非貼合領域320を挟んで撥液層34が形成されている。これにより、マイクロ流路チップ110は、上記実施形態に係るマイクロ流路チップ11と同等に、貼合領域321,331への液体の浸入および濡れ広がりを阻止してマイクロ流路チップ110内の液漏れ、さらにマイクロ流路チップ110外への液漏れを防止することができる。
【0102】
図5では、隔壁層32の表面32a上に形成される撥液層34のパターンは、例えば流路部3の流路長方向に沿った線状パターンとする。具体的には、撥液層34のパターンは、側面34bが隔壁層32によって画定する流路パターンに沿うように形成され、撥液層34のパターン長さは、流路部130の流路長と同等である。
また、撥液層34のパターン幅は、5μm以上であることが好ましい。
【0103】
(1.8.2)第2変形例
図6は、本実施形態の第2変形例に係るマイクロ流路チップ210の一構成例を説明するための断面図である。
マイクロ流路チップ210は、基板20と、基板20上に形成された床材21と、分岐流路45a,45bを有する流路部131を形成する隔壁層42と、流路部131の蓋となる蓋材43と、撥液層44とを備えている。
図6に示すように、マイクロ流路チップ210は、隔壁層42の蓋材43側の表面42aの一部分に撥液層44が設けられている点で、上記実施形態に係るマイクロ流路チップ11と相違するが、その点以外は上記実施形態に係るマイクロ流路チップ11と同等である。
【0104】
以下、隔壁層42、蓋材43、撥液層44及び流路部131について説明する。なお、基板20および床材21については、マイクロ流路チップ11の基板20および床材21と同様の構成であるため、同一の符号を付して説明を省略する。
【0105】
隔壁層42は、上述のように表面42aの一部分に撥液層44が設けられている点で、上記実施形態における隔壁層22と相違するが、その点を除き隔壁層42と同等の構成である。また
図6に示すように、撥液層44は、隔壁層42の表面42aの一部に形成される点で、上記実施形態における撥液層44と相違するが、その点を除き隔壁層42と同等の構成である。また、蓋材43は撥液層44を介して隔壁層42と貼合される点で上記実施形態における蓋材43と相違するが、その点を除き蓋材43と同等の構成である。また、流路部131(分岐流路45a,45b)は、床材21(表面21a)、隔壁層42(側面42b)、蓋材43(裏面43a)で構成される空間である点で上記実施形態における流路部13と相違するが、その点を除き流路部13と同等の構成である。図示は省略するが、分岐流路45a,45bは流路部13の分岐流路25a,25bと同様に、主流路から分岐した流路である。詳しくは後述するが、本変形例において撥液層44は流路部131の側面を形成していない。
【0106】
以下、本変形例に係るマイクロ流路チップ210における液漏れ防止機構について、説明する。本変形例においても、撥液層44の水接触角は0度以上130度以下であり、隔壁層42および蓋材43における少なくとも流路部130側の面(側面42b、裏面43a)は、水接触角が90度未満である。これにより、マイクロ流路チップ内での液漏れを防ぎ、流路間での反応液の混入(コンタミネーション)を抑制することが可能である。
【0107】
図6に示すように、撥液層44は、隔壁層42と蓋材43との間の一部の領域に形成されている。
図6では、隔壁層42の表面42aにおいて撥液層44と接する貼合領域を貼合領域421とし、蓋材43の裏面43aにおいて撥液層44と接する領域を貼合領域431とした。貼合領域421は隔壁層42と撥液層44との界面であり、貼合領域431は蓋材43と撥液層44との界面である。
【0108】
本例では、隔壁層42の表面42aの一部分を覆うように撥液層44が設けられており、隔壁層42は、表面42a上に撥液層44が設けられていない非貼合領域(非撥液領域の一例)420を有する。つまり、本変形例において隔壁層42の表面42aに占める貼合領域421の面積(隔壁層42と撥液層44との接合面積)の割合は、100%未満となる。本変形例において、隔壁層42の表面42aに占める貼合領域421の面積の割合は、10%以上であることが好ましい。これにより、隔壁層42上における撥液層44の塗工量を削減しつつ、貼合領域421,431における反応液の濡れ広がりを確実に阻止してマイクロ流路チップ210内外での液漏れを防止することができる。
【0109】
本変形例において流路部131の側面は、上述のように隔壁層42の側面42bで構成され、撥液層34の側面34bは流路部131の側面に相当しない。すなわち、撥液層44の側面44bと隔壁層42の側面42bとは連続していない。言い換えれば、撥液層44の側面44bは、隔壁層42の表面42a上において流路部131の外周、つまり隔壁層32が流路幅を画定する流路パターンの外周に沿って設けられていない。したがって、隔壁層42上において、撥液層44が設けられていない非貼合領域420が、流路部131に接している。つまり、非貼合領域320は、流路部131と連続している。なお、非貼合領域320は流路部131の一部ではなく、場合により非貼合領域420に液体が浸入することがあっても意図的に送液するものではない。
【0110】
図6に示すように流路間を区切る隔壁層42(図の中央に示す隔壁層42)では、非貼合領域420を挟んで撥液層44が形成されている。つまり、隣接する分岐流路45a,45bの間に撥液層44が設けられている。これにより、マイクロ流路チップ210は、非貼合領域420に液体が浸入した場合も撥液層44において液体が水接触角の小さい流路部131側に押し戻される。このため、貼合領域421,431への液体の浸入および濡れ広がりを阻止してマイクロ流路チップ210内の液漏れ、さらにマイクロ流路チップ110外への液漏れを防止することができる。つまり、分岐流路45a,45b間の反応液の混入(コンタミネーション)を抑制することができる。
【0111】
図6では、隔壁層42の表面42a上に形成される撥液層44のパターンは、例えば流路部3の流路長方向に沿った線状パターンとする。線状パターンである撥液層34のパターン長さは、流路部130の流路長と同等である。なお本変形例において隔壁層42上には非貼合領域420が設けられていればよく、撥液層44の線状パターンは複数形成されていてもよい。
また、撥液層44のパターン幅は、3μm以上であることが好ましい。
【0112】
(1.8.3)その他の変形例
上記実施形態および第1変形例、第2変形例では、複数の分岐流路を有する流路部を備えたマイクロ流路チップの構成を説明したが、本開示はこれに限られない。例えば、流路部13は、分岐流路25a,25bを有しておらず、主流路25のみで構成されてもよい。この場合も、撥液層24の水接触角は0度以上130度以下であり、隔壁層22および蓋材23における少なくとも流路部13側の面(側面22b、裏面23a)は、水接触角が90度未満とすることで、流路部13外への液漏れを防ぐことができる。液漏れが広がると、通液量が減少して流れが悪くなり、流路部13内で滞留がおき場合がる。流路部13が1つの流路で構成される場合も、撥液層24および隔壁層22、蓋材23の水接触角を上記構成とすることで、送液性が低減することを防止できる。
【0113】
上記実施形態および第1変形例、第2変形例では、撥液層が隔壁層および蓋材と接合している構成、すなわち隔壁層と蓋材23とが撥液層を介して貼合される構成のマイクロ流路チップの構成を説明したが、本開示はこれに限られない。本開示において撥液層と蓋材とは接合していなくてもよい。例えば本開示におけるマイクロ流路チップは、蓋材と隔壁層とが撥液層を介さずに貼合され、貼合された蓋材と隔壁層との間の空間に撥液層が存在する構成であってもよい。この場合、隔壁層は凸部(ツノ部)を有しており当該凸部において蓋材と貼合されていればよい。また撥液層は隔壁層上において凸部以外の領域に設けられていればよい。このような形状であっても、マイクロ流路チップ内での貼合部を介した液漏れを防ぎ、反応液の混入(コンタミネーション)を抑制することが求められる。
【0114】
(本実施形態の効果)
以上のようなマイクロ流路チップは、以下の効果を有する。
(1)
本実施形態に係るマイクロ流路チップ11は、基板20と、基板20上に設けられて流路部13の底面を形成する床材21と、床材21上に設けられて流路部13の側面を形成する隔壁層22と、隔壁層22の床材21とは反対の面(表面22a)側に設けられて流路部13の上面を形成する蓋材23と、隔壁層22における表面22aの一部分または全体に設けられた撥液層24と、を備え、撥液層24は、水接触角が90度以上130度以下であり、隔壁層22および蓋材23における流路部13側の面は、水接触角が90度未満である、ことを特徴とするマイクロ流路チップ。
このような構成であれば、マイクロ流路チップ内での液漏れを防ぎ、流路間での反応液の混入(コンタミネーション)を抑制することが可能となる。
【0115】
(2)
マイクロ流路チップ110において撥液層34は、隔壁層32の表面32a上において、流路部130の外周に沿って形成される。
このような構成であれば、マイクロ流路チップ110は、貼合領域への液体の浸入および濡れ広がりを阻止してマイクロ流路チップ内の液漏れ、さらにマイクロ流路チップ外への液漏れを防止することができる。
(3)
マイクロ流路チップ110,210において、隔壁層32,42の表面32a,42aに占める隔壁層32,42と撥液層34,44との接合面積の割合が、10%以上である。
このような構成であれば、貼合領域における反応液の濡れ広がりを確実に阻止してマイクロ流路チップ内外での液漏れを防止することができる。
【0116】
(4)
マイクロ流路チップ110,210において撥液層34,44は、隔壁層32,42の表面32a,42aの一部分に形成され、隔壁層32,42は、表面32a,42a上に撥液層34,44が設けられていない非撥液領域である非貼合領域320,420を有する。
このような構成であれば、隔壁層上における撥液層の塗工量を削減しつつ、貼合領域における反応液の濡れ広がりを確実に阻止してマイクロ流路チップ内外での液漏れを防止することができる。
(5)
マイクロ流路チップ110において、非撥液領域である非貼合領域320は、隔壁層32の表面32a上において流路部130と接していない。
このような構成であれば、貼合領域への液体の浸入および濡れ広がりを阻止してマイクロ流路チップ内の液漏れ、さらにマイクロ流路チップ外への液漏れを防止することができる。
(6)
マイクロ流路チップ210において、非撥液領域である非貼合領域420は、隔壁層42の表面42a上において流路部131と接している。
このような構成であれば、非貼合領域に液体が浸入した場合も、撥液層において液体が流路部側に押し戻され、貼合領域への液体の浸入および濡れ広がりを阻止してマイクロ流路チップ内の液漏れ、さらにマイクロ流路チップ外への液漏れを防止することができる。
【0117】
(7)
マイクロ流路チップ11において、撥液層24の膜厚が1μm以上20μm以下である。
このような構成であれば、水接触角が90度以上130度以下の塗膜を良好に形成することができ、隔壁層表面上で良好な解像性を保ったまま撥液層をパターニングすることができる。
(8)
マイクロ流路チップ11において、撥液層24の水接触角は、隔壁層22における流路部13側の面(側面22b)の水接触角との差が20度以上である。
このような構成であれば、これにより、貼合領域を介した液漏れをより確実に防止し、流路間における反応液の混入(コンタミネーション)を確実に抑制することができる。
(9)
マイクロ流路チップ11において、撥液層24は、フッ素系化合物又はケイ素系化合物を含有する。
このような構成であれば、撥液層の水接触角を90度以上130度以下の範囲内に良好に制御することができる。
(10)
マイクロ流路チップ11において、撥液層24の水接触角は、蓋材23における流路側の面(裏面23a)の水接触角との差が25度以上である。
このような構成であれば、貼合領域を介した液漏れをより確実に防止し、流路間における反応液の混入(コンタミネーション)を確実に抑制することができる。
(11)
マイクロ流路チップ11において、撥液層24の水接触角は、隔壁層22における流路部13側の面(側面22b)の水接触角との差が20度以上である。
このような構成であれば、貼合領域を介した液漏れをより確実に防止し、流路間における反応液の混入(コンタミネーション)を確実に抑制することができる。
【0118】
(12)
マイクロ流路チップ11において、床材21、隔壁層22及び撥液層24の樹脂材料は、紫外光領域である190nm以上400nm以下の波長の光に対して感光性を有する感光性樹脂を含む。
このような構成であれば、フォトリソグラフィーを用いて基板上に床材、隔壁層および撥液層を良好に形成することができる。
(13)
マイクロ流路チップ11において、床材21、隔壁層22及び撥液層24の樹脂材料は、熱硬化性の樹脂材料をさらに含んでもよい。
この構成によれば、感光性樹脂単体で形成する場合と同等の露光条件により、感光性樹脂を含む各層をより良好に形成することができる。
【0119】
(14)
またマイクロ流路チップ11の製造方法は、基板20上に、第一の感光性樹脂を塗工する工程と、塗工した該第一の感光性樹脂を露光する工程と、露光した該第一の感光性樹脂を現像および洗浄およびポストベークし、基板20上に流路部13の底面を形成する床材21のパターンを形成する工程と、床材21上に、第二の感光性樹脂を塗工する工程と、塗工した該第二の感光性樹脂を露光する工程と、露光した第二の感光性樹脂を現像および洗浄およびポストベークし、床材21上に流路部13の側面を形成する隔壁層22のパターンを形成する工程と、隔壁層22のパターン上に、第三の感光性樹脂を塗工する工程と、塗工した該第三の感光性樹脂を露光する工程と、露光した該第三の感光性樹脂を現像および洗浄およびポストベークし、隔壁層22における蓋材側の表面22aの一部分または全体に撥液層24のパターンを形成する工程と、撥液層24を形成した隔壁層22の表面22a側に蓋材23を重ねて、温度が40℃以上200℃以下、プレス時間が3分以上120分以下の条件でプレスし、隔壁層22と蓋材23とを貼合する工程と、を含み、撥液層24は、水接触角を90度以上130度以下とし、蓋材23および隔壁層22の流路部13側の面(裏面23a、側面22b)は、水接触角を90度未満とする。
この構成によれば、マイクロ流路チップ内での液漏れを防ぎ、流路間での反応液の混入(コンタミネーション)を抑制することが可能となるマイクロ流路チップを提供することができる。
【0120】
<実施例>
以下に本開示の実施例について具体的に説明するが、本開示はこれに限定されるものではない。以下の実施例および比較例において床材、隔壁層および撥液層のそれぞれに用いた樹脂材料および各層の形成時のプロセス条件について表1から表3に示す。なお、表1から表3における「水接触角」は、各感光性樹脂を用いて形成した各層の水接触角を示す。
【0121】
【0122】
【0123】
【0124】
[マイクロ流路チップの作製]
(実施例1)
表1に示す材料特性の第一感光性樹脂(床材用の樹脂)をガラス基板上に塗工し、表1における第一感光性樹脂に対応したプロセス条件に従ってフォトリソグラフィー法で第s一感光性樹脂の床材を形成した。床材の厚みは3μmとした。
その後、表2に示す材料特性を有する第二感光性樹脂Aを床材上に塗工し、当該第二感光性樹脂Aに対応したプロセス条件で床材上に第二感光性樹脂Aによる隔壁層を形成した。隔壁層の厚みは50μmとし、パターン幅は500μmとした。
さらにその後、表3に示す材料特性を有する第三感光性樹脂A(フッ素系樹脂を含有)を隔壁層上に塗工し、当該第三感光性樹脂Aに対応したプロセス条件で隔壁層上に撥液層を形成した。撥液層は隔壁層と全く同様のマスクパターンを用いてパターニングを行った。つまり、隔壁層および撥液層のパターン幅は同じであって隔壁層表面に占める撥液層と隔壁層との接合面積の割合は100%であり、隔壁層表面は全面が撥液層に覆われている状態とした。この時の撥液層の膜厚は1μmであった。
その後、作製した基材(基板上の床材、隔壁層および撥液層)と別途作製した蓋材とを油圧式加熱プレス機で貼合した。蓋材はポリエチレンテレフタレート(PET)を用いて作製した。また、蓋材と撥液層と貼合面には表面改質処理を施した。
貼合条件は、プレス盤温度40℃、プレス圧120kgf/cm
2とし、5分間プレスを行った。これにより、
図1及び
図2に示す構成の実施例1によるマイクロ流路チップを作製した。
【0125】
実施例1によるマイクロ流路チップの作製時において、隔壁層、撥液層および蓋材それぞれの水接触角をポータブル接触角計PCA-1(協和界面科学社製)を用いて測定した結果、隔壁層が70°撥液層が110°、蓋材が60°であった。撥液層および蓋材それぞれの水接触角は、撥液層および蓋材における流路側の面についての水接触角を示す。
具体的には、実施例1によるマイクロ流路チップは、入口(入力部12)から途中で主流路25が分岐部250において分岐流路25a,25bに分岐し、2つの出口(出力部14,15)を備えるマイクロ流路チップである。これは試験液と2つの薬剤との反応を同時に評価するための簡易的な流路である。
また
図2に示すように、実施例1によるマイクロ流路チップは、主流路25が床材21、隔壁層22、蓋材23、撥液層24で囲まれており、隔壁層22の表面には撥液層24が全面に形成されている。
【0126】
(実施例2)
表3に示すケイ素系樹脂を含有する第三感光性樹脂Bを隔壁層上に塗工し、第三感光性樹脂Bに対応したプロセス条件で隔壁層上に水接触角が90°、膜厚3μmの撥液層を形成した。またポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)を用いて水接触角が40°の蓋材を作製した。それ以外は、実施例1と同様にして実施例2のマイクロ流路チップを作製した。
(実施例3)
撥液層の膜厚を5μmとし、ポリカーボネート(PC)を用いて水接触角が50°の蓋材を作製した。それ以外は、実施例1と同様にして実施例3のマイクロ流路チップを作製した。
(実施例4)
実施例2と同様の第三感光性樹脂B(表3参照)を隔壁層上に塗工し、第三感光性樹脂Bに対応したプロセス条件で隔壁層上に水接触角が90°、膜厚5μmの撥液層を形成した。またシクロオレフィンポリマー(COP)を用いて水接触角が50°の蓋材を作製した。それ以外は、実施例1と同様にして実施例4のマイクロ流路チップを作製した。
【0127】
(実施例5)
撥液層の膜厚を8μmとした。また撥液層のパターン幅を50μmとし、隔壁層表面に対する撥液層の面積(接合面積)割合を10%とした。また塩化ビニル樹脂(塩ビ)を用いて水接触角が50°の蓋材を作製した。それ以外は、実施例1と同様にして実施例5のマイクロ流路チップを作製した。
(実施例6)
実施例2と同様の第三感光性樹脂B(表3参照)を隔壁層上に塗工し、第三感光性樹脂Bに対応したプロセス条件で隔壁層上に水接触角が90°、膜厚8μmの撥液層を形成した。撥液層のパターン幅は100μmとし、隔壁層表面に対する撥液層の面積(接合面積)割合を20%とした。またポリウレタンを用いて水接触角が40°の蓋材を作製した。それ以外は、実施例1と同様にして実施例6のマイクロ流路チップを作製した。
(実施例7)
撥液層の膜厚を10μmとした。また撥液層のパターン幅を150μmとし、隔壁層表面に対する撥液層の面積(接合面積)割合を25%とした。また軟質ポリプロピレン(軟質PP)を用いて水接触角が30°の蓋材を作製した。それ以外は、実施例1と同様にして実施例7のマイクロ流路チップを作製した。
(実施例8)
実施例2と同様の第三感光性樹脂B(表3参照)を隔壁層上に塗工し、第三感光性樹脂Bに対応したプロセス条件で隔壁層上に水接触角が90°、膜厚20μmの撥液層を形成した。撥液層のパターン幅は300μmとし、隔壁層表面に対する撥液層の面積(接合面積)割合を50%とした。またポリエチレン(PE)樹脂を用いて水接触角が50°の蓋材を作製した。それ以外は、実施例1と同様にして実施例8のマイクロ流路チップを作製した。
(実施例9)
撥液層の膜厚を20μmとした。また撥液層のパターン幅を400μmとし、隔壁層表面に対する撥液層の面積(接合面積)割合を70%とした。またシリコーンゴムを用いて蓋材を作製した。このとき、蓋材の水接触角が85°となるように表面改質処理(UV処理)の処理時間を適宜調整した。それ以外は、実施例1と同様にして実施例9のマイクロ流路チップを作製した。
(実施例10)
実施例2と同様の第三感光性樹脂B(表3参照)を隔壁層上に塗工し、第三感光性樹脂Bに対応したプロセス条件で隔壁層上に水接触角が90°、膜厚20μmの撥液層を形成した。撥液層のパターン幅は500μmとし、隔壁層表面に対する撥液層の面積(接合面積)割合を85%とした。またガラスを用いて水接触角が20°の蓋材を作製した。それ以外は、実施例1と同様にして実施例10のマイクロ流路チップを作製した。
【0128】
(実施例11)
表3に示すフッ素系樹脂を含有する第三感光性樹脂Cを隔壁層上に塗工し、第三感光性樹脂Cに対応したプロセス条件で隔壁層上に水接触角が130°、膜厚20μmの撥液層を形成した。それ以外は、実施例1と同様にして実施例11のマイクロ流路チップを作製した。
(実施例12)
表2に示す第二感光性樹脂Bを床材上に塗工し、第二感光性樹脂Bに対応したプロセス条件で床材上に水接触角が80°の隔壁層を形成した。また撥液層の膜厚を20μmとした。また実施例2と同様にポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)を用いて水接触角が40°の蓋材を作製した。それ以外は、実施例1と同様にして実施例12のマイクロ流路チップを作製した。
(実施例13)
表2に示す第二感光性樹脂Cを床材上に塗工し、第二感光性樹脂Cに対応したプロセス条件で床材上に水接触角が50°の隔壁層を形成した。また実施例2と同様の第三感光性樹脂B(表3参照)を隔壁層上に塗工し、第三感光性樹脂Bに対応したプロセス条件で隔壁層上に水接触角が90°、膜厚20μmの撥液層を形成した。また実施例2と同様にポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)を用いて水接触角が40°の蓋材を作製した。それ以外は、実施例1と同様にして実施例13のマイクロ流路チップを作製した。
(実施例14)
表2に示す第二感光性樹脂Dを床材上に塗工し、第二感光性樹脂Dに対応したプロセス条件で床材上に水接触角が30°の隔壁層を形成した。また撥液層の膜厚を20μmとし、実施例2と同様にポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)を用いて水接触角が40°の蓋材を作製した。それ以外は、実施例1と同様にして実施例14のマイクロ流路チップを作製した。
(実施例15)
表3に示す第三感光性樹脂Dを隔壁層上に塗工し、第三感光性樹脂Dに対応したプロセス条件で隔壁層上に水接触角が100°、膜厚15μmの撥液層を形成した。また実施例9と同様にシリコーンゴムを用いて蓋材を作製した。このとき、水接触角が80°となるように表面改質処理(UV処理)の処理時間を調整した。それ以外は、実施例1と同様にして実施例15のマイクロ流路チップを作製した。
(実施例16)
実施例15と同様に第三感光性樹脂D(表3参照)による水接触角が100°、膜厚15μmの撥液層を形成した。また実施例9と同様にシリコーンゴムを用いて水接触角が85°の蓋材を作製した。それ以外は、実施例1と同様にして実施例16のマイクロ流路チップを作製した。
(実施例17)
表2に示す第二感光性樹脂Eを床材上に塗工し、第二感光性樹脂Eに対応したプロセス条件で床材上に水接触角が75°の隔壁層を形成した。また実施例2と同様の第三感光性樹脂B(表3参照)により水接触角が90°、膜厚15μmの撥液層を形成した。また実施例2と同様にポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)を用いて水接触角が40°の蓋材を作製した。それ以外は、実施例1と同様にして実施例17のマイクロ流路チップを作製した。
(実施例18)
実施例12と同様に第二感光性樹脂Bにより水接触角が80°の隔壁層を形成した。また実施例2と同様の第三感光性樹脂B(表3参照)により水接触角が90°、膜厚15μmの撥液層を形成した。また実施例2と同様にポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)を用いて水接触角が40°の蓋材を作製した。それ以外は、実施例1と同様にして実施例18のマイクロ流路チップを作製した。
【0129】
(実施例19)
撥液層の膜厚を0.5μmとした。それ以外は実施例1と同様にして実施例19のマイクロ流路チップを作製した。
(実施例20)
撥液層の膜厚を25μmとした。それ以外は実施例1と同様にして実施例20のマイクロ流路チップを作製した。
(実施例21)
隔壁層表面に対する撥液層の面積(接合面積)割合を5%とした。それ以外は実施例1と同様にして実施例21のマイクロ流路チップを作製した。
【0130】
(比較例1)
撥液層を設けなかったこと以外は、実施例2と同様にして比較例1のマイクロ流路チップを作製した。
【0131】
ここで比較例1によるマイクロ流路チップの構成について
図7、
図8を用いて説明する。
図7は、比較例1によるマイクロ流路チップ510の一構成例を説明するための断面図である。また
図8は
図7に示すマイクロ流路チップ510の一部を拡大して示す図である。
マイクロ流路チップ510は、基板50と、基板50上に形成された床材51と、分岐流路54a,54bを有する流路部54を形成する隔壁層52と、流路部54の蓋となる蓋材53とを備えている。
図7に示すように、マイクロ流路チップ510は、撥液層を備えていない点で、上記実施形態に係るマイクロ流路チップ11の一例である実施例2と相違するが、その点以外は実施例2によるマイクロ流路チップと同等である。
図7に示すように、マイクロ流路チップ510は、隔壁層52の蓋材53側の面(表面ん52a)に撥液層が設けられておらず、隔壁層52と蓋材53とが所定の接着剤又は表面改質処理によって貼合されていない。つまり、隔壁層52と蓋材53との間には撥液層が存在していない。また、
図8に示すように蓋材53と隔壁層52との間には微小な凹凸空間512が生じている。
(比較例2)
表3に示す第三感光性樹脂Eを隔壁層上に塗工し、第三感光性樹脂Eに対応したプロセス条件で隔壁層上に水接触角が85°、膜厚30μmの撥液層を形成した。撥液層のパターン幅は40μmとし、隔壁層表面に対する撥液層の面積(接合面積)割合を70%とした。また実施例9と同様にシリコーンゴムを用いて蓋材を作製した。このとき、蓋材の水接触角が110°となるように表面改質処理(UV処理)の処理時間を適宜調整した。それ以外は、実施例1と同様にして比較例2のマイクロ流路チップを作製した。
【0132】
[評価方法]
各実施例及び比較例のマイクロ流路チップにおいて、カバー層の接合後に以下の方法により、液漏れ・反応液の混入(コンタミネーション)の評価を行った。
【0133】
(液漏れ・コンタミネーション評価)
作製したマイクロ流路チップに試験液と薬剤を入れ、試験液と薬剤の反応を進めるため、温度50℃、湿度80%のインキュベーターにマイクロ流路チップを入れ1時間放置した。1時間後にインキュベーターからマイクロ流路チップを取り出し、顕微鏡にて観察した。
観察結果に基づいて、以下の基準により「〇」、「△」「×」の3段階でマイクロ流路チップの液漏れ状態について評価した。
<評価基準>
〇:蓋材と隔壁層との貼合領域における反応液の滲出及び濡れ広がりもなく流路内からの液漏れが観察されず、隣接する流路間における反応液の混入(コンタミネーション)もなかった。
△:貼合領域への反応液の滲出は若干あったが濡れ広がりはなく、流路内からの液漏れが観察されず、隣接する流路間における反応液の混入もなかった
×:貼合領域において流路内からの液漏れが観察され、反応液の混入が確認された
【0134】
実施例および比較例の評価結果を、マイクロ流路チップの撥液層の構成、各層(撥液層、蓋材、隔壁層)の水接触角のデータ、撥液層に対する蓋材、隔壁層それぞれの水接触角の差を示すデータとともに表4に示す。なお、表4における水接触角の差は、撥液層の水接触角の値から、隔壁層それぞれの水接触角の値を減算したデータを示す。
【0135】
【0136】
表4に示すように、実施例1-21では、「液漏れ・コンタミネーション評価」の結果が合格(△以上)となり、マイクロ流路チップ内での液漏れを防ぐことが可能であることが分かった。
具体的には、撥液層の水接触角が90度以上130度以下であり、隔壁層および蓋材における流路側の面の水接触角が90度未満である各実施例のマイクロ流路チップは、マイクロ流路チップ内での液漏れを防ぎ、流路間での反応液の混入(コンタミネーション)を抑制することが可能であることが分かった。
【0137】
より詳細には、各実施例のマイクロ流路チップにおいて、撥液層の水接触角と蓋材(流路側の面)の水接触角との差が25度以上、撥液層の水接触角と隔壁層(流路側の面)の水接触角との差が20度以上、撥液層の厚みが1μm以上20μm以下の範囲内、隔壁層と撥液層との接合面積の割合が10%以上である場合(実施例1-14)に、評価が「〇」となりマイクロ流路チップ内での液漏れをより確実に防止できることが分かった。
【0138】
一方、撥液層を備えていない比較例1によるマイクロ流路チップでは、隔壁層と蓋材とが貼合された領域において流路内からの液漏れが観察され、反応液の混入が確認された。このため、比較例1では評価結果が不合格(×)となった。具体的には、比較例1によるマイクロ流路チップ510には、上述のように隔壁層52の蓋材53側の面(表面52a)、つまり隔壁層52と蓋材53との間に撥液層が設けられていない。このため、
図8に示すように蓋材53と隔壁層52との間に生じた微小な凹凸空間512において凹凸空間512に浸入した流路内の液体はそのまま濡れ広がり、マイクロ流路チップ510内外に液漏れが生じた。これにより、比較例1によるマイクロ流路チップ(マイクロ流路チップ510)内では流路間で反応液の混入(コンタミネーション)が発生した。
【0139】
また、比較例2によるマイクロ流路チップでは、撥液層の水接触角が90度未満(85度)であり、さらに蓋材(流路側の面)の水接触角が90度以上(110度)であった。このため、撥液層の撥水性が十分でなく、さらに撥液層よりも流路の上面の水接触角が大きいことで撥液層に浸入した液体が流路側に押し戻されずに濡れ広がった。これにより、比較例2によるマイクロ流路チップ内外に液漏れが生じて流路間で反応液の混入(コンタミネーション)が発生した。
【0140】
また、例えば、本開示は以下のような構成を取ることができる。
(1)
基板と、
前記基板上に設けられて流路の底面を形成する床材と、
前記床材上に設けられて前記流路の側面を形成する隔壁層と、
前記隔壁層の前記床材とは反対の面側に設けられて前記流路の上面を形成する蓋材と、
前記隔壁層における前記蓋材側の表面の一部分または全体に設けられた撥液層と、
を備え、
前記撥液層は、水接触角が90度以上130度以下であり、
前記隔壁層および前記蓋材における前記流路側の面は、水接触角が90度未満である、
ことを特徴とするマイクロ流路チップ。
(2)
前期撥液層は、前記隔壁層の前記表面上において、前記流路の外周に沿って形成される、
ことを特徴とする上記(1)に記載のマイクロ流路チップ。
(3)
前記隔壁層の前記表面に占める前記隔壁層と前記撥液層との接合面積の割合が、10%以上である、
ことを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のマイクロ流路チップ。
(4)
前記撥液層は、前記隔壁層の前記表面の一部分に形成され、
前記隔壁層は、前記表面上に撥液層が設けられていない非撥液領域を有する
ことを特徴とする上記(1)から(3)のいずれか1項に記載のマイクロ流路チップ。
(5)
前記非撥液領域は、前記隔壁層の前記表面上において前記流路と接していない
ことを特徴とする上記(4)に記載のマイクロ流路チップ。
(6)
前記非撥液領域は、前記隔壁層の前記表面上において前記流路と接している
ことを特徴とする上記(4)に記載のマイクロ流路チップ。
(7)
前期撥液層の膜厚が1μm以上20μm以下である、
ことを特徴とする上記(1)から(6)のいずれか1項に記載のマイクロ流路チップ。
(8)
前記蓋材は、ポリエチレンテレフタレート、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、塩化ビニル、ポリウレタン、軟質ポリプロピレン、ポリエチレン、シリコーンゴム、ガラスのうち少なくとも1種類で形成される、
ことを特徴とする上記(1)から(7)のいずれか1項に記載のマイクロ流路チップ。
(9)
前記撥液層は、フッ素系化合物又はケイ素系化合物を含有する、
ことを特徴とする(1)から(8)のいずれか1項に記載のマイクロ流路チップ。
(10)
前記撥液層の水接触角は、前記蓋材における前記流路側の面の水接触角との差が25度以上である、
ことを特徴とする上記(1)から(9)のいずれか1項に記載のマイクロ流路チップ。
(11)
前記撥液層の水接触角は、前記隔壁層における前記流路側の面の水接触角との差が20度以上である、
ことを特徴とする上記(1)から(10)のいずれか1項に記載のマイクロ流路チップ。
(12)
前記床材、前記隔壁層及び前記撥液層の樹脂材料は、紫外光領域である190nm以上400nm以下の波長の光に対して感光性を有する感光性樹脂を含む、
ことを特徴とする上記(1)から(11)のいずれか1項に記載のマイクロ流路チップ。
(13)
前記床材、前記隔壁層及び前記撥液層の樹脂材料は、熱硬化性の樹脂材料をさらに含む、
ことを特徴とする上記(12)に記載のマイクロ流路チップ。
(14)
基板上に、第一の感光性樹脂を塗工する工程と、
塗工した前記第一の感光性樹脂を露光する工程と、
露光した前記第一の感光性樹脂を現像および洗浄およびポストベークし、前記基板上に 流路の底面を形成する床材のパターンを形成する工程と、
前記床材上に、第二の感光性樹脂を塗工する工程と、
塗工した前記第二の感光性樹脂を露光する工程と、
露光した前記第二の感光性樹脂を現像および洗浄およびポストベークし、前記床材上に流路の側面を形成する隔壁層のパターンを形成する工程と、
前記隔壁層のパターン上に、第三の感光性樹脂を塗工する工程と、
塗工した前記第三の感光性樹脂を露光する工程と、
露光した前記第三の感光性樹脂を現像および洗浄およびポストベークし、前記隔壁層における前記蓋材側の表面の一部分または全体に撥液層のパターンを形成する工程と、
前記撥液層を形成した前記隔壁層の前記床材と反対の面側に蓋材を重ねて、温度が40℃以上200℃以下、プレス時間が3分以上120分以下の条件でプレスし、前記隔壁層と前記蓋材とを貼合する工程と、を含み、
前記撥液層は、水接触角を90度以上130度以下とし、
前記蓋材および前記隔壁層の前記流路側の面は、水接触角を90度未満とする
ことを特徴とするマイクロ流路チップの製造方法。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明は、研究用途、診断用途、検査、分析、培養などを目的としたマイクロ流路チップにおいて、流路を構成する隔壁層表面の全面、または一部に撥液層を設けることで、隔壁層と蓋材の貼合時に入り込んだ微小異物や、蓋材表面や隔壁層表面の持つ表面粗さなどにより、貼合部に生じた微小な凹凸空間から反応液が液漏れする事を防止し、反応液同士のコンタミネーションを防ぐことができるマイクロ流路チップおよびマイクロ流路チップの製造方法として好適に使用することができる。
また特別な工程を設けず、UV照射や接合といったマイクロ流路チップを製造する上で通常行われる工程において接触角の制御も実現可能であることから、製造効率が向上する効果もある。
【符号の説明】
【0142】
11、110、210 … マイクロ流路チップ
12 … 入力部
13、130、131 … 流路部
14、15 … 出力部
20 … 基板
21 … 床材
22、32、42 … 隔壁層
23、33,43 … 蓋材
24、34、44 … 撥液層
25 … 主流路
25a、25b、35a、35b、45a、45b … 分岐流路
221、231、321、331、421、431 … 貼合領域
320、420 … 非貼合領域