(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077307
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 29/786 20060101AFI20240531BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
H01L29/78 616V
H01L29/78 618B
H01L29/78 619A
H01L29/78 617S
H01L29/78 626C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189329
(22)【出願日】2022-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】502356528
【氏名又は名称】株式会社ジャパンディスプレイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】渡壁 創
(72)【発明者】
【氏名】津吹 将志
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 俊成
(72)【発明者】
【氏名】田丸 尊也
(72)【発明者】
【氏名】望月 真里奈
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 涼
【テーマコード(参考)】
5F110
【Fターム(参考)】
5F110AA30
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5F110BB03
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5F110NN46
5F110NN47
5F110NN49
5F110PP01
5F110PP10
5F110QQ09
5F110QQ11
(57)【要約】
【課題】保護絶縁層に含まれる窒化シリコンに依存することなく、低抵抗化されたソース領域およびドレイン電極を含む半導体装置を提供すること。
【解決手段】半導体装置は、酸化物絶縁層と、酸化物絶縁層の上の酸化物半導体層と、酸化物半導体層の上において、酸化物半導体層と接するゲート絶縁層と、ゲート絶縁層の上のゲート電極と、を含み、酸化物半導体層は、ゲート電極と重畳するチャネル領域と、ゲート電極と重畳しないソース領域およびドレイン領域と、を含み、ソース領域およびドレイン領域とゲート絶縁層との界面において、ソース領域およびドレイン領域の表面における不純物の濃度は、1×10
19cm
-3以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物絶縁層と、
前記酸化物絶縁層の上の酸化物半導体層と、
前記酸化物半導体層の上において、前記酸化物半導体層と接するゲート絶縁層と、
前記ゲート絶縁層の上のゲート電極と、を含み、
前記酸化物半導体層は、
前記ゲート電極と重畳するチャネル領域と、
前記ゲート電極と重畳しないソース領域およびドレイン領域と、を含み、
前記ソース領域およびドレイン領域と前記ゲート絶縁層との界面において、前記ソース領域およびドレイン領域の表面における不純物の濃度は、1×1019cm-3以上である、半導体装置。
【請求項2】
前記不純物は、ホウ素、リン、アルゴン、および窒素からなる群から選択される1つである、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記酸化物半導体層は、複数の金属元素を含み、
前記複数の金属元素のうちの1つは、インジウム元素であり、
前記複数の金属元素に対するインジウム元素の原子比率は、50%以上である、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記酸化物半導体層は、多結晶構造を有する、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記ソース領域およびドレイン領域の結晶構造は、前記チャネル領域の結晶構造と同じである、請求項4に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記ソース領域およびドレイン領域のシート抵抗は、1×102kΩ/sq.以下である、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記酸化物絶縁層は、酸化アルミニウムを含む、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項8】
さらに、前記ソース領域およびドレイン領域のそれぞれと接続されるソース電極およびドレイン電極を含み、
前記ソース電極およびドレイン電極は、前記ゲート電極と接する前記ゲート絶縁層の表面と接する、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記ゲート絶縁層は、水素をトラップする水素トラップ領域を含む、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記水素トラップ領域は、前記ゲート電極をマスクとして注入される前記不純物によって形成される、請求項9に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、酸化物半導体をチャネルとして用いる半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アモルファスシリコン、低温ポリシリコン、および単結晶シリコンなどのシリコン半導体に替わり、酸化物半導体をチャネルとして用いる半導体装置の開発が進められている(例えば、特許文献1~特許文献6参照)。このような酸化物半導体を含む半導体装置は、アモルファスシリコンを含む半導体装置と同様に、単純な構造かつ低温プロセスで形成することができる。また、酸化物半導体を含む半導体装置は、アモルファスシリコンを含む半導体装置よりも高い電界効果移動度を有することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-141338号公報
【特許文献2】特開2014-099601号公報
【特許文献3】特開2021-153196号公報
【特許文献4】特開2018-006730号公報
【特許文献5】特開2016-184771号公報
【特許文献6】特開2021-108405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
酸化物半導体では、酸素欠陥に水素がトラップされるとキャリアが生成される。このメカニズムを利用し、半導体装置においては、酸化物半導体層に酸素欠陥を形成し、形成された酸素欠陥に水素を供給することによって、酸化物半導体層に、ソース電極およびドレイン電極と電気的に接続されるチャネル領域よりもキャリア濃度の大きいソース領域およびドレイン領域を形成することができる。窒化シリコンは水素を多く含んでいる。そのため、半導体装置の保護絶縁層として窒化シリコンを成膜し、窒化シリコンに含まれる水素をソース領域およびドレイン領域に供給することにより、低抵抗なソース領域およびドレイン領域を形成することができる。換言すると、ソース領域およびドレイン領域を低抵抗化するためには、窒化シリコンを含む保護絶縁層が必要であった。
【0005】
本発明の一実施形態は、保護絶縁層に含まれる窒化シリコンに依存することなく、低抵抗化されたソース領域およびドレイン領域を含む半導体装置を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態に係る半導体装置は、酸化物絶縁層と、酸化物絶縁層の上の酸化物半導体層と、酸化物半導体層の上において、酸化物半導体層と接するゲート絶縁層と、ゲート絶縁層の上のゲート電極と、を含み、酸化物半導体層は、ゲート電極と重畳するチャネル領域と、ゲート電極と重畳しないソース領域およびドレイン領域と、を含み、ソース領域およびドレイン領域とゲート絶縁層との界面において、ソース領域およびドレイン領域の表面における不純物の濃度は、1×1019cm-3以上である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の一実施形態に係る半導体装置の構成を示す模式的な断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る半導体装置の構成を示す模式的な平面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る半導体装置の構成を示す模式的な部分拡大断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を示す模式的な断面図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を示す模式的な断面図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を示す模式的な断面図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を示す模式的な断面図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を示す模式的な断面図である。
【
図10】本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を示す模式的な断面図である。
【
図11】本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を示す模式的な断面図である。
【
図12】本発明の一実施形態に係る半導体装置の製造方法を示す模式的な断面図である。
【
図13】実施例サンプルおよび比較例サンプルにおける、ソース領域およびドレイン領域の表面におけるホウ素の濃度とシート抵抗との相関関係を示すグラフである。
【
図14】保護絶縁層から供給される水素をトラップする水素トラップ領域を説明する模式的な断面図である。
【
図15】実施例サンプル1-1~実施例サンプル1-4の電気特性を示すグラフである。
【
図16】実施例サンプル2-1~実施例サンプル2-4の電気特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明の各実施形態について、図面を参照しつつ説明する。以下の開示はあくまで一例にすぎない。当業者が、発明の主旨を保ちつつ、実施形態の構成を適宜変更することによって容易に想到し得る構成は、当然に本発明の範囲に含有される。図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合がある。しかし、図示された形状はあくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0009】
本明細書において、基板から酸化物半導体層に向かう方向を上または上方という。逆に、酸化物半導体層から基板に向かう方向を下または下方という。このように、説明の便宜上、上方または下方という語句を用いて説明するが、例えば、基板と酸化物半導体層との上下関係が図示と逆になるように配置されてもよい。以下の説明で、例えば基板上の酸化物半導体層という表現は、上記のように基板と酸化物半導体層との上下関係を説明しているに過ぎず、基板と酸化物半導体層との間に他の部材が配置されていてもよい。上方または下方は、複数の層が積層された構造における積層順を意味するものであり、半導体装置の上方の画素電極と表現する場合、平面視において、半導体装置と画素電極とが重ならない位置関係であってもよい。一方、半導体装置の鉛直上方の画素電極と表現する場合は、平面視において、半導体装置と画素電極とが重なる位置関係を意味する。
【0010】
本明細書において、「膜」という用語と、「層」という用語とは、場合により、互いに入れ替えることができる。
【0011】
「表示装置」とは、電気光学層を用いて映像を表示する構造体を指す。例えば、表示装置という用語は、電気光学層を含む表示パネルを指す場合もあり、または表示セルに対して他の光学部材(例えば、偏光部材、バックライト、タッチパネル等)を装着した構造体を指す場合もある。「電気光学層」には、技術的な矛盾が生じない限り、液晶層、エレクトロルミネセンス(EL)層、エレクトロクロミック(EC)層、電気泳動層が含まれ得る。したがって、後述する実施形態について、表示装置として、液晶層を含む液晶表示装置、および有機EL層を含む有機EL表示装置を例示して説明するが、本実施形態における構造は、上述した他の電気光学層を含む表示装置へ適用することができる。
【0012】
本明細書において「αはA、BまたはCを含む」、「αはA、BおよびCのいずれかを含む」、「αはA、BおよびCからなる群から選択される一つを含む」、といった表現は、特に明示が無い限り、αがA~Cの複数の組み合わせを含む場合を排除しない。さらに、これらの表現は、αが他の要素を含む場合も排除しない。
【0013】
図1~
図12を参照して、本発明の一実施形態に係る半導体装置10について説明する。半導体装置10は、例えば、表示装置、マイクロプロセッサ(Micro-Processing Unit:MPU)などの集積回路(Integrated Circuit:IC)、またはメモリ回路などに用いることができる。
【0014】
[1.半導体装置10の構成]
図1および
図2を参照して、本発明の一実施形態に係る半導体装置10の構成について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る半導体装置10の構成を示す模式的な断面図である。
図2は、本発明の一実施形態に係る半導体装置10の構成を示す模式的な平面図である。具体的には、
図1は、
図2のA-A’線に沿って切断された断面図である。
【0015】
図1に示すように、半導体装置10は、基板100、遮光層105、窒化物絶縁層110、第1の酸化物絶縁層120、第2の酸化物絶縁層130、酸化物半導体層140、ゲート絶縁層150、ゲート電極160、ソース電極201、およびドレイン電極203を含む。遮光層105は、基板100の上に設けられている。窒化物絶縁層110は、遮光層105の上面および端面を覆い、基板100の上に設けられている。第1の酸化物絶縁層120は、窒化物絶縁層110の上に設けられている。第2の酸化物絶縁層130は、所定のパターンを有し、第1の酸化物絶縁層120の上に設けられている。酸化物半導体層140は、第2の酸化物絶縁層130と同様のパターンを有し、第2の酸化物絶縁層130の上に設けられている。ゲート絶縁層150は、第2の酸化物絶縁層130および酸化物半導体層140のそれぞれの上面および端面を覆い、第1の酸化物絶縁層120の上に設けられている。ゲート電極160は、酸化物半導体層140と重畳し、ゲート絶縁層150の上に設けられている。ゲート絶縁層150には、酸化物半導体層140の上面の一部が露出される開口171および173が設けられている。ソース電極201は、ゲート絶縁層150の上および開口171の内部に設けられ、酸化物半導体層140と接している。同様に、ドレイン電極203は、ゲート絶縁層150の上および開口173の内部に設けられ、酸化物半導体層140と接している。ソース電極201およびドレイン電極203は、ゲート電極160と接するゲート絶縁層150の表面と接している。なお、以下では、ソース電極201およびドレイン電極203を特に区別しない場合、これらを併せてソース・ドレイン電極200という場合がある。
【0016】
酸化物半導体層140は、ゲート電極160を基準として、ソース領域S、ドレイン領域D、およびチャネル領域CHに区分される。すなわち、酸化物半導体層140は、ゲート電極160と重畳するチャネル領域CH、ならびにゲート電極160と重畳しないソース領域Sおよびドレイン領域Dを含む。酸化物半導体層140の膜厚方向において、チャネル領域CHの端部は、ゲート電極160の端部と一致している。チャネル領域CHは、半導体の性質を有する。ソース領域Sおよびドレイン領域Dの各々は、導体の性質を有する。そのため、ソース領域Sおよびドレイン領域Dのキャリア濃度は、チャネル領域CHのキャリア濃度よりも大きい。ソース電極201およびドレイン電極203は、それぞれ、ソース領域Sおよびドレイン領域Dと接しており、酸化物半導体層140と電気的に接続されている。また、酸化物半導体層140は、単層構造であってもよく、積層構造であってもよい。
【0017】
図2に示すように、遮光層105およびゲート電極160の各々は、D1方向に一定の幅を有し、D1方向に直交するD2方向に延在している。D1方向において、遮光層105の幅は、ゲート電極160の幅よりも大きい。チャネル領域CHは、遮光層105と完全に重畳している。半導体装置10において、D1方向は、酸化物半導体層140を介して、ソース電極201からドレイン電極203へ電流が流れる方向に対応する。そのため、チャネル領域CHのD1方向の長さがチャネル長Lであり、チャネル領域CHのD2方向の幅がチャネル幅Wである。
【0018】
基板100は、半導体装置10を構成する各層を支持することができる。基板100として、例えば、ガラス基板、石英基板、またはサファイア基板などの透光性を有する剛性基板を用いることができる。また、基板として、シリコン基板などの透光性を有しない剛性基板を用いることもできる。また、基板として、ポリイミド樹脂基板、アクリル樹脂基板、シロキサン樹脂基板、またはフッ素樹脂基板などの透光性を有する可撓性基板を用いることができる。基板100の耐熱性を向上させるために、上記の樹脂基板に不純物を導入してもよい。なお、上述した剛性基板または可撓性基板の上に酸化シリコン膜または窒化シリコン膜が成膜された基板を、基板100として用いることもできる。
【0019】
遮光層105は、外光を反射または吸収することができる。上述したように、遮光層105は、酸化物半導体層140のチャネル領域CHよりも大きい面積を有して設けられているため、チャネル領域CHに入射する外光を遮光することができる。遮光層105として、例えば、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、もしくはタングステン(W)、またはこれらの合金もしくは化合物などを用いることができる。また、遮光層105として、導電性が不要である場合には、必ずしも金属を含まなくてもよい。例えば、遮光層105として、黒色樹脂でなるブラックマトリクスを用いることもできる。また、遮光層105は、単層構造であってもよく、積層構造であってもよい。例えば、遮光層105は、赤色カラーフィルタ、緑色カラーフィルタ、および青色カラーフィルタの積層構造であってもよい。
【0020】
窒化物絶縁層110は、酸化物半導体層140に、基板100に含まれる不純物(例えば、ナトリウムなど)または外部から侵入する不純物(例えば、水など)が拡散することを防止することができる。窒化物絶縁層110として、例えば、シリコンまたはアルミニウムを含む窒化物を用いることができる。具体的には、窒化物絶縁層110として、窒化シリコン(SiNx)、窒化酸化シリコン(SiNxOy)、窒化アルミニウム(AlNx)、または窒化酸化アルミニウム(AlNxOy)などを用いることができる。窒化物絶縁層110は、単層構造であってもよく、積層構造であってもよい。
【0021】
第1の酸化物絶縁層120、第2の酸化物絶縁層130、およびゲート絶縁層150の各々は、チャネル領域CHへの水素の拡散を抑制することができる。特に、第1の酸化物絶縁層120、第2の酸化物絶縁層130、およびゲート絶縁層150の少なくとも1つに、後述する水素トラップ領域が形成されていると、その効果が高い。第1の酸化物絶縁層120、第2の酸化物絶縁層130、およびゲート絶縁層150の各々として、例えば、シリコンまたはアルミニウムを含む酸化物を用いることができる。具体的には、第1の酸化物絶縁層120、第2の酸化物絶縁層130、およびゲート絶縁層150の各々として、酸化シリコン(SiOx)、酸化窒化シリコン(SiOxNy)、酸化アルミニウム(AlOx)、または酸化窒化アルミニウム(AlOxNy)などを用いることができる。第2の酸化物絶縁層130に含まれる酸化物は、第1の酸化物絶縁層120に含まれる酸化物と異なる。第2の酸化物絶縁層130は、エッチングにより所定のパターンが形成されるため、第1の酸化物絶縁層120と第2の酸化物絶縁層130とはエッチングレートが異なる酸化物であることが好ましい。第2の酸化物絶縁層130として、酸化アルミニウムを用いることが好ましい。第1の酸化物絶縁層120、第2の酸化物絶縁層130、およびゲート絶縁層150の各々は、単層構造であってもよく、積層構造であってもよい。
【0022】
なお、本実施形態において、第2の酸化物絶縁層130を設けない構成を適用することも可能である。
【0023】
ここで、酸化窒化シリコン(SiOxNy)および酸化窒化アルミニウム(AlOxNy)は、それぞれ、酸素(O)よりも少ない比率(x>y)の窒素(N)を含有する酸化物である。また、窒化酸化シリコン(SiNxOy)および窒化酸化アルミニウム(AlNxOy)は、窒素よりも少ない比率(x>y)の酸素を含有する窒化物である。
【0024】
ゲート電極160、ソース電極201、およびドレイン電極203は、導電性を有する。ゲート電極160、ソース電極201、およびドレイン電極203の各々として、例えば、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、もしくはビスマス(Bi)、またはこれらの合金もしくは化合物を用いることができる。ゲート電極160、ソース電極201、およびドレイン電極203の各々は、単層構造であってもよく、積層構造であってもよい。
【0025】
酸化物半導体層140として、インジウム(In)元素を含む2以上の金属元素を含む酸化物半導体が用いられる。インジウム元素以外の金属元素として、ガリウム(Ga)元素、亜鉛(Zn)元素、アルミニウム(Al)元素、ハフニウム(Hf)元素、イットリウム(Y)元素、ジルコニウム(Zr)元素、およびランタノイドが用いられる。酸化物半導体層140は、アモルファス構造を有していてもよく、多結晶構造を有していてもよい。但し、電気特性を向上させるためには、酸化物半導体層140は、多結晶構造を有することが好ましい。特に、ソース領域Sおよびドレイン領域Dの結晶構造は、チャネル領域CHの結晶構造と同じであることが好ましい。
【0026】
酸化物半導体層140が多結晶構造を有する場合、酸化物半導体層140として、全金属元素に対するインジウム元素の比率が原子比率で50%以上である酸化物半導体が用いられることが好ましい。インジウム元素の比率が大きくなると、酸化物半導体層140が結晶化しやすくなる。また、インジウム元素以外の金属元素として、ガリウム元素を含むことが好ましい。ガリウム元素は、インジウム元素と同じ第13族元素に属する。そのため、酸化物半導体層140の結晶性がガリウム元素によって阻害されることなく、酸化物半導体層140は多結晶構造を有する。
【0027】
酸化物半導体層140の詳細な製造方法は後述する半導体装置10の製造方法において説明するが、酸化物半導体層140は、スパッタリング法を用いて形成することができる。スパッタリングによって形成される酸化物半導体層140の組成は、スパッタリングターゲットの組成に依存する。酸化物半導体層140が多結晶構造を有する場合、スパッタリングターゲットの組成と酸化物半導体層140の組成とは略一致する。この場合、酸化物半導体層140の金属元素の組成は、スパッタリングターゲットの金属元素の組成に基づき特定することができる。また、酸化物半導体層140が多結晶構造を有する場合、X線回折(X-ray Diffraction:XRD)法を用いて、酸化物半導体膜の組成を特定してもよい。具体的には、XRD法から取得された酸化物半導体膜の結晶構造および格子定数に基づき、酸化物半導体膜の金属元素の組成を特定することができる。さらに、酸化物半導体層140の金属元素の組成は、蛍光X線分析または電子プローブマイクロアナライザ(Electron Probe Micro Analyzer:EPMA)分析などを用いて特定することもできる。なお、酸化物半導体層140に含まれる酸素元素は、スパッタリングのプロセス条件などにより変化するため、この限りではない。
【0028】
上述したように、酸化物半導体層140は、アモルファス構造を有していてもよく、多結晶構造を有していてもよい。多結晶構造を有する酸化物半導体は、Poly-OS(Poly-crystalline Oxide Semiconductor)技術を用いて作製することができる。以下では、アモルファス構造を有する酸化物半導体と区別するとき、多結晶構造を有する酸化物半導体をPoly-OSとして説明する場合がある。
【0029】
[2.水素トラップ領域の構成]
図3は、本発明の一実施形態に係る半導体装置10の構成を示す模式的な部分拡大断面図である。具体的には、
図3は、
図1における領域Pを拡大した断面図である。なお、
図3に示す領域Pは、ドレイン領域D近傍の領域であるが、ソース領域S近傍も領域Pと同様の構成を有する。
【0030】
詳細は後述するが、酸化物半導体層140のソース領域Sおよびドレイン領域Dは、ゲート電極160をマスクとした不純物のイオン注入によって形成される。不純物として、例えば、ホウ素(B)、リン(P)、アルゴン(Ar)、または窒素(N)などが用いられる。イオン注入によって、酸化物半導体層140のソース領域Sおよびドレイン領域Dには酸素欠陥が形成される。そして、形成された酸素欠陥に水素がトラップされることにより、ソース領域Sおよびドレイン領域Dは低抵抗化する。
【0031】
イオン注入は、ゲート絶縁層150を介して行われる。このとき、ゲート絶縁層150には、イオン注入によるダングリングボンド欠陥DB(
図3中の×印)が形成される。また、イオン注入では、深さ方向に不純物の分布を有しており、ゲート絶縁層150だけでなく、第1の酸化物絶縁層120および第2の酸化物絶縁層130にも不純物が注入される。そのため、第1の酸化物絶縁層120および第2の酸化物絶縁層130にもダングリングボンド欠陥DBが形成される。なお、上述したように、ゲート電極160をマスクとして不純物のイオン注入が行われるため、ゲート電極160と重畳している領域には不純物が注入されず、ダングリングボンド欠陥DBが形成されない。
【0032】
ある領域におけるダングリングボンド欠陥DBの欠陥量が所定の値を超えると、その領域は、水素をトラップする水素トラップ領域として機能する。すなわち、ゲート絶縁層150中に所定の欠陥量を超えるダングリングボンド欠陥DBが形成されると、ゲート絶縁層150中に水素トラップ領域が形成される。水素トラップ領域は、イオン注入によって形成されるため、ゲート電極160とは重畳しない。詳細は後述するが、ゲート絶縁層150と酸化物半導体層140(具体的には、ソース領域Sおよびドレイン領域D)との界面において、ソース領域Sおよびドレイン領域Dの表面における不純物の濃度が2×1017cm-3以上であるとき、ゲート絶縁層150中に水素トラップ領域が形成される。なお、半導体装置10が、良好な電気特性を得るためには、ソース領域Sおよびドレイン領域Dの表面における不純物の濃度が2×1019cm-3以上であることが好ましい。
【0033】
ここで、「表面における不純物の濃度」とは、表面近傍における不純物の濃度をいう。表面近傍とは、ゲート絶縁層150と酸化物半導体層140との界面(または酸化物半導体層140の上面)から酸化物半導体層140の膜厚方向に深さ4nmまでに含まれる領域をいう。但し、表面近傍における深さは4nmに限られない。例えば、表面近傍における深さは、酸化物半導体層140の膜厚を基準とし、酸化物半導体層140の膜厚の1/5であってもよい。また、不純物の濃度は、イオン注入のドーズ量が換算された値であってもよく、二次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectroscopy:SIMS)などの分析によって測定された値であってもよい。
【0034】
上述したように、ダングリングボンド欠陥DBは、ゲート絶縁層150だけでなく、第1の酸化物絶縁層120および第2の酸化物絶縁層130にも形成される。そのため、第1の酸化物絶縁層120および第2の酸化物絶縁層130にも、ゲート電極160と重畳しない水素トラップ領域が形成されていてもよい。第1の酸化物絶縁層120、第2の酸化物絶縁層130、およびゲート絶縁層の各々の水素トラップ領域は、チャネル領域CHへの水素の拡散を大幅に抑制することができる。
【0035】
第1の酸化物絶縁層120として酸化シリコンが用いられるとき、第1の酸化物絶縁層120には、シリコンのダングリングボンド欠陥DBが形成される。第2の酸化物絶縁層130として酸化アルミニウムが用いられるとき、第2の酸化物絶縁層130には、アルミニウムのダングリングボンド欠陥DBが形成される。このように、第1の酸化物絶縁層120および第2の酸化物絶縁層130において、種類の異なるダングリングボンド欠陥DBを形成し、水素トラップ領域における水素のトラップ性能に差をつけることもできる。
【0036】
なお、水素トラップ領域には水素がトラップされるため、ゲート電極160と重畳しない水素トラップ領域は、ゲート電極160と重畳する領域よりも水素の濃度が大きい。
【0037】
以上、半導体装置10の構成について説明したが、上述した半導体装置10は、いわゆるトップゲート型トランジスタである。半導体装置10は様々な変形が可能である。例えば、遮光層105が導電性を有する場合、半導体装置10は、遮光層105がゲート電極として機能し、窒化物絶縁層110、第1の酸化物絶縁層120、および第2の酸化物絶縁層130がゲート絶縁層として機能する構成であってもよい。この場合、半導体装置10は、いわゆるデュアルゲート型トランジスタである。また、遮光層105が導電性を有する場合、遮光層105はフローティング電極であってもよく、ソース電極201と接続されていてもよい。さらに、半導体装置10は、遮光層105を主なゲート電極として機能させる、いわゆるボトムゲート型トランジスタであってもよい。
【0038】
[3.半導体装置10の製造方法]
図4~
図12を参照して、本発明の一実施形態に係る半導体装置10の製造方法について説明する。
図4は、本発明の一実施形態に係る半導体装置10の製造方法を示すフローチャートである。
図5~
図12は、本発明の一実施形態に係る半導体装置10の製造方法を示す模式的な断面図である。
【0039】
図4に示すように、半導体装置10の製造方法は、ステップS1010~ステップS1110を含む。以下、ステップS1010~ステップS1110を順に説明するが、半導体装置10の製造方法は、ステップの順序が入れ替わる場合がある。また、半導体装置10の製造方法には、さらなるステップが含まれていてもよい。
【0040】
ステップS1010では、基板100の上に所定のパターンを有する遮光層105が形成される(
図5参照)。遮光層105のパターニングは、フォトリソグラフィー法を用いて行われる。
【0041】
ステップS1020では、遮光層105の上に、窒化物絶縁層110および第1の酸化物絶縁層120が順に形成される(
図6参照)。窒化物絶縁層110および第1の酸化物絶縁層120は、CVD法を用いて成膜される。例えば、窒化物絶縁層110および第1の酸化物絶縁層120として、それぞれ、窒化シリコン膜および酸化シリコン膜が成膜される。窒化シリコン膜と酸化シリコン膜とは、同一チャンバー内で反応性ガスを変えることによって連続して成膜することもできる。
【0042】
後述するステップにおいて、第1の酸化物絶縁層120の所定の領域に水素トラップ機能を有するダングリングボンド欠陥が形成される。そのため、第1の酸化物絶縁層120は、水素トラップとなる過剰酸素を含む膜でなくてもよく、350℃以上で成膜される欠陥の少ない緻密な膜であることが好ましい。第1の酸化物絶縁層120が過剰酸素を含む膜である場合、半導体装置10の信頼性が低下するが、第1の酸化物絶縁層120を緻密な膜とすることにより、半導体装置10の信頼性を向上させることができる。
【0043】
窒化物絶縁層110の厚さは、例えば、50nm以上500nm以下、好ましくは150nm以上300nm以下である。また、第1の酸化物絶縁層120の厚さは、例えば、50nm以上500nm以下、好ましくは150nm以上300nm以下である。
【0044】
ステップS1030では、第1の酸化物絶縁層120の上に第2の酸化物絶縁膜135および酸化物半導体膜145が成膜される(
図7参照)。第2の酸化物絶縁膜135および酸化物半導体膜145は、スパッタリング法によって成膜される。第2の酸化物絶縁膜135として、酸化アルミニウム膜が成膜される。第2の酸化物絶縁膜135の厚さは、例えば、1nm以上30nm以下であり、好ましくは1nm以上20nm以下であり、さらに好ましくは1nm以上10nm以下である。酸化物半導体膜145の厚さは、例えば、10nm以上100nm以下、好ましくは15nm以上70nm以下、さらに好ましくは15nm以上40nm以下である。
【0045】
ステップS1030における酸化物半導体膜145はアモルファスである。Poly-OS技術において、酸化物半導体層140が基板面内で均一な多結晶構造を有するためには、成膜後かつ熱処理前の酸化物半導体膜145がアモルファスであることが好ましい。そのため、酸化物半導体膜145の成膜条件は、成膜直後の酸化物半導体層140ができるだけ結晶化しない条件であることが好ましい。スパッタリング法によって酸化物半導体膜145が成膜される場合、被成膜対象物(基板100および基板100上に形成された層)の温度を100℃以下、好ましくは80℃以下、さらに好ましくは50℃以下に制御しながら酸化物半導体膜145が成膜される。また、酸素分圧の低い条件の下で酸化物半導体膜145が成膜される。酸素分圧は、2%以上20%以下であり、好ましくは3%以上15%以下であり、さらに好ましくは3%以上10%以下である。
【0046】
ステップS1040では、第2の酸化物絶縁膜135および酸化物半導体膜145のパターニングが行われる(
図8参照)。第2の酸化物絶縁膜135および酸化物半導体膜145のパターニングは、フォトリソグラフィー法を用いて行われる。第2の酸化物絶縁膜135および酸化物半導体膜145のエッチングとして、ウェットエッチングが用いられてもよく、ドライエッチングが用いられてもよい。ウェットエッチングでは、酸性のエッチャントを用いてエッチングを行うことができる。エッチャントとして、例えば、シュウ酸、PAN、硫酸、過酸化水素水、またはフッ酸を用いることができる。ステップS1040における酸化物半導体膜145はアモルファスであるため、ウェットエッチングにより酸化物半導体膜145を容易に所定の形状にパターニングすることができる。また、酸化物半導体膜145をマスクとして、第2の酸化物絶縁膜135も所定の形状にパターニングすることができる。これにより、第2の酸化物絶縁層130が形成される。
【0047】
ステップS1050では、酸化物半導体膜145に対して熱処理が行われる。以下、ステップS1050で行われる熱処理を「OSアニール」という。OSアニールでは、酸化物半導体膜145が、所定の到達温度で所定の時間保持される。所定の到達温度は、300℃以上500℃以下であり、好ましくは350℃以上450℃以下である。また、到達温度での保持時間は、15分以上120分以下であり、好ましくは30分以上60分以下である。OSアニールにより、酸化物半導体膜145が結晶化され、多結晶構造を有する酸化物半導体層140(すなわち、Poly-OSを含む酸化物半導体層140)が形成される。
【0048】
ステップS1060では、第2の酸化物絶縁層130および酸化物半導体層140の上にゲート絶縁層150が成膜される(
図9参照)。ゲート絶縁層150は、CVD法を用いて成膜される。例えば、ゲート絶縁層150として、酸化シリコンが成膜される。ゲート絶縁層150の欠陥を低減するため、350℃以上の成膜温度でゲート絶縁層150を成膜してもよい。ゲート絶縁層150の厚さは、50nm以上300nm以下、好ましくは60nm以上200nm以下、さらに好ましくは70nm以上150nm以下である。
【0049】
ステップS1070では、酸化物半導体層140に対して熱処理が行われる。以下、ステップS1070で行われる熱処理を「酸化アニール」という。酸化物半導体層140の上にゲート絶縁層150が形成されると、酸化物半導体層140の上面および側面には多くの酸素欠陥が形成される。酸化物半導体層140が第2の酸化物絶縁層130およびゲート絶縁層150によって囲まれた状態で酸化アニールが行われると、第2の酸化物絶縁層130およびゲート絶縁層150を介して酸化物半導体層140に酸素が供給され、酸化物半導体層140の酸素欠陥が修復される。
【0050】
ステップS1080では、ゲート絶縁層150の上に所定のパターンを有するゲート電極160が形成される(
図10参照)。ゲート電極160は、スパッタリング法または原子層体積法によって成膜され、ゲート電極160のパターニングは、フォトリソグラフィー法を用いて行われる。
【0051】
ステップS1090では、酸化物半導体層140中にソース領域Sおよびドレイン領域Dが形成される(
図11参照)。ソース領域Sおよびドレイン領域Dは、イオン注入によって形成される。イオン注入は、イオンドーピング装置またはイオン注入装置を用いて行うことができる。具体的には、ゲート電極160をマスクとして、ゲート絶縁層150を介して酸化物半導体層140に不純物が注入される。注入される不純物として、例えば、ホウ素(B)、リン(P)、アルゴン(Ar)、または窒素(N)などが用いられる。ゲート電極160と重畳しないソース領域Sおよびドレイン領域Dでは、イオン注入によって酸素欠陥が形成され、形成された酸素欠陥に水素がトラップされる。これにより、ソース領域Sおよびドレイン領域Dの抵抗が低下する。一方、ゲート電極160と重畳するチャネル領域CHでは、不純物が注入されないため、酸素欠陥が形成されず、チャネル領域CHの抵抗は低下しない。
【0052】
また、ステップS1090では、ゲート絶縁層150、第2の酸化物絶縁層130、および第1の酸化物絶縁層120にも不純物が注入される。ゲート絶縁層150、第2の酸化物絶縁層130、および第1の酸化物絶縁層120では、イオン注入によってダングリングボンド欠陥DBが形成される。すなわち、ゲート絶縁層150、第2の酸化物絶縁層130、および第1の酸化物絶縁層120の各々に、ダングリングボンド欠陥DBに起因する水素トラップ領域が形成される。イオン注入によって水素トラップ領域が形成されるため、水素トラップ領域には、ホウ素(B)、リン(P)、アルゴン(Ar)、または窒素(N)などの不純物が含まれる。
【0053】
ステップS1090におけるイオン注入では、ゲート絶縁層150と酸化物半導体層140(具体的には、ソース領域Sおよびドレイン領域D)との界面において、ソース領域Sおよびドレイン領域Dの表面における不純物の濃度が1×1019cm-3以上であるように、イオン注入のプロセスパラメータ(例えば、ドーズ量、加速電圧、プラズマ電力など)を制御する。例えば、ドーズ量は1×1014cm-2以上であり、および加速電圧は20keV以上であるが、プロセスパラメータはこれらに限られない。
【0054】
酸化物半導体層140の表面における不純物の濃度が1×1019cm-3以上であると、ソース領域Sおよびドレイン領域Dに十分な酸素欠陥が形成される。また、第1の酸化物絶縁層120、第2の酸化物絶縁層130、およびゲート絶縁層150において、ダングリングボンド欠陥DBが形成されるとともに、水素が発生する。この場合、窒化シリコンを含む保護絶縁層をゲート絶縁層150上に設けなくても、ソース領域Sおよびドレイン領域Dに形成された酸素欠陥に、第1の酸化物絶縁層120、第2の酸化物絶縁層130、およびゲート絶縁層150で発生した水素が供給される。したがって、ソース領域Sおよびドレイン領域Dは、十分に低抵抗化される。
【0055】
ステップS1100では、ゲート絶縁層150に開口171および173が形成される(
図12参照)。開口171および173の形成により、酸化物半導体層140のソース領域Sおよびドレイン領域Dが露出される。
【0056】
ステップS1110では、ソース電極201が、ゲート絶縁層150の上および開口171の内部に形成され、ドレイン電極203が、ゲート絶縁層150の上および開口173の内部に形成される。ソース電極201およびドレイン電極203は、同一層として形成される。具体的には、ソース電極201およびドレイン電極203は、成膜された1つの導電膜をパターニングして形成される。以上のステップにより、
図1に示す半導体装置10が製造される。
【0057】
半導体装置10の製造方法は、上述したステップに限られない。例えば、ステップS1110の後に、保護絶縁層を形成するステップが含まれていてもよい。本実施形態では、ステップS1090においてソース領域Sおよびドレイン領域Dが十分に低抵抗されているため、保護絶縁層に窒化シリコンを含まない構成も可能である。例えば、保護絶縁層として、ポリイミド樹脂などの平坦化膜を用いることができる。
【0058】
以上説明したように、本発明の一実施形態に係る半導体装置10では、ゲート絶縁層150に水素トラップ領域が形成されるとともに、ソース領域Sおよびドレイン領域Dに酸素欠陥が形成される。また、イオン注入により、第1の酸化物絶縁層120、第2の酸化物絶縁層130、およびゲート絶縁層150において、水素が発生する。ソース領域Sおよびドレイン領域Dの表面における不純物の濃度が1×1019cm-3以上であると、ソース領域Sおよびドレイン領域Dに十分な酸素欠陥が形成される。この場合、ソース領域Sおよびドレイン領域Dに形成された酸素欠陥に、第1の酸化物絶縁層120、第2の酸化物絶縁層130、およびゲート絶縁層150で発生した水素が供給される。したがって、半導体装置10は、窒化シリコンを含む保護絶縁層の形成の有無に依らず、低抵抗化されたソース領域Sおよびドレイン領域Dを含み、ディプリートが抑制された電気特性を有する。
【実施例0059】
作製したサンプルに基づき、半導体装置10について、さらに詳細に説明する。
【0060】
[1.実施例サンプルの作製]
実施例1として、上述した製造方法を用いて、加速電圧およびドーズ量を制御し、ソース領域およびドレイン領域の表面における不純物(ホウ素)の濃度が1×1019cm-3以上である4個の半導体装置(実施例サンプル1-1~実施例サンプル1-4)を作製した。また、実施例2として、窒化シリコンを含む保護絶縁層が設けられ、ソース領域およびドレイン領域の表面における不純物(ホウ素)の濃度が1×1019cm-3以上である4個の半導体装置(実施例サンプル2-1~実施例サンプル2-4)を作製した。具体的には、実施例2では、ステップS1090の後で、窒化シリコンを含む保護絶縁層を形成した。その後、ステップS1100およびステップS1110と同様に、保護絶縁層およびゲート絶縁層を開口し、開口を介してソース領域およびドレイン領域のそれぞれと電気的に接続されるように、ソース電極およびドレイン電極を形成した。
【0061】
[2.比較例サンプルの作製]
比較例1として、実施例1と同様の製造方法を用いて、加速電圧およびドーズ量を制御し、ソース領域およびドレイン領域の表面における不純物(ホウ素)の濃度が1×1019cm-3未満である9個の半導体装置(比較例サンプル1-1~比較例サンプル1-9)を作製した。また、比較例2として、実施例2と同様の製造方法を用いて、窒化シリコンを含む保護絶縁層が設けられ、ソース領域およびドレイン領域の表面における不純物(ホウ素)の濃度が1×1019cm-3未満である9個の半導体装置(比較例サンプル2-1~比較例サンプル2-9)を作製した。
【0062】
なお、実施例サンプルおよび比較例サンプルのいずれも、酸化物半導体層は、インジウム元素を含み、全金属元素に対するインジウム元素の原子比率は50%以上であった。また、酸化物半導体層は、OSアニール前はアモルファス構造を有したが、OSアニール後は結晶化され、多結晶構造を有した。すなわち、実施例サンプルおよび比較例サンプルのいずれの酸化物半導体層も、Poly-OSを含んでいた。
【0063】
実施例サンプルにおける、ソース領域およびドレイン領域の表面のホウ素の濃度は、表1のとおりである。また、比較例サンプルにおける、ソース領域およびドレイン領域の表面のホウ素の濃度は、表2のとおりである。ホウ素の濃度は、イオン注入におけるドーズ量から換算した。
【0064】
【0065】
【0066】
[3.シート抵抗の測定]
図13は、実施例サンプルおよび比較例サンプルにおける、ソース領域およびドレイン領域の表面におけるホウ素の濃度とシート抵抗との相関関係を示すグラフである。なお、
図13のグラフでは、説明の便宜上、比較例サンプル1-1および比較例サンプル2-1については、ホウ素の濃度が2×10
15cm
-3であるとしてプロットしている。
【0067】
図13に示すグラフは、ソース領域およびドレイン領域の表面におけるホウ素の濃度に基づき、3つの範囲に区分される。第1の範囲は2×10
17cm
-3未満の範囲であり、第2の範囲は2×10
17cm
-3以上1×10
19cm
-3未満の範囲であり、および第3の範囲は1×10
19cm
-3以上の範囲である。比較例サンプル1-1~比較例サンプル1-6および比較例サンプル2-1~比較例サンプル2-6は、第1の範囲に属する。比較例サンプル1-7~比較例サンプル1-9および比較例サンプル2-7~比較例サンプル2-9は、第2の範囲に属する。実施例サンプル1-1~実施例サンプル1-4および実施例サンプル2-1~実施例サンプル2-4は、第3の範囲に属する。
【0068】
第1の範囲において、比較例サンプル1-1~比較例サンプル1-6のソース領域およびドレイン領域のシート抵抗は、比較例サンプル2-1~比較例サンプル2-6のソース領域およびドレイン領域のシート抵抗よりも大きい。比較例サンプル2-1~比較例サンプル2-6では、窒化シリコンを含む保護絶縁層が設けられているため、保護絶縁層からソース領域およびドレイン領域に十分な水素が供給される。そのため、比較例サンプル2-1~比較例サンプル2-5のソース領域およびドレイン領域が低抵抗化される。一方、比較例サンプル1-1~比較例サンプル1-6では、窒化シリコンを含む保護絶縁層が設けられていない。そのため、比較例サンプル1-1~比較例サンプル1-6のソース領域およびドレイン領域には水素が供給されず、低抵抗化しない。
【0069】
このように、第1の範囲は、窒化シリコンを含む保護絶縁層からの水素の供給によってソース領域およびドレイン領域が低抵抗化される範囲である。しかしながら、第1の範囲では、ソース領域およびドレイン領域中に、十分な酸素欠陥が形成されていない。そのため、ソース領域およびドレイン領域に供給された水素は、ソース領域およびドレイン領域中でトラップされることなく、チャネル領域に拡散する。したがって、第1の範囲では、スイッチング性能を示す電気特性が得られにくい。
【0070】
第2の範囲では、比較例2-7~比較例2-9の傾向から理解されるように、ソース領域およびドレイン領域のシート抵抗が上昇する。同様に、比較例サンプル1-7~比較例サンプル1-9においても、全体としてソース領域およびドレイン領域のシート抵抗が低下する傾向にあるものの、ソース領域およびドレイン領域のシート抵抗が上昇している範囲を有する。ここで、
図14を参照して、ソース領域およびドレイン領域のシート抵抗が上昇する理由について説明する。
【0071】
図14は、保護絶縁層170から供給される水素をトラップする水素トラップ領域を説明する模式的な断面図である。
【0072】
図14に示すように、ゲート絶縁層150に十分なダングリングボンド欠陥DBが形成されて水素トラップ領域が形成されると、窒化シリコンを含む保護絶縁層170からソース領域Sおよびドレイン領域Dへの水素の供給は、水素トラップ領域によって抑制される。そのため、ソース領域Sおよびドレイン領域Dは酸素欠陥を有するものの、酸素欠陥に水素が供給されないため、ソース領域Sおよびドレイン領域Dのシート抵抗が上昇する。
【0073】
このように、第2の範囲は、イオン注入によってゲート絶縁層中に水素トラップ領域が形成される範囲である。第2の範囲では、水素トラップ領域に優先的に水素がトラップされるため、ソース領域およびドレイン領域への水素の供給が抑制される。そのため、第2の範囲では、ソース領域およびドレイン領域のそれぞれとソース電極およびドレイン電極との間におけるコンタクト抵抗が大きくなり、チャネル領域を流れる電流が抑制される。その結果、オン電流が低下した電気特性が得られる。
【0074】
第3の範囲では、実施例サンプル1-1~実施例サンプル1-4のソース領域およびドレイン領域のシート抵抗は1×102kΩ/sq.以下に低下し、実施例サンプル2-1~実施例サンプル2-4のソース領域およびドレイン領域のシート抵抗と同程度である。すなわち、実施例サンプル1-1~実施例サンプル1-4では、保護絶縁層からの水素の供給がなくても、ソース領域およびドレイン領域が十分に低抵抗化される。
【0075】
このように、第3の範囲では、イオン注入によってソース領域およびドレイン領域に十分な酸素欠陥が形成された結果、第1の酸化物絶縁層および第2の酸化物絶縁層からソース領域およびドレイン領域の酸素欠陥に水素が供給される。すなわち、ソース領域およびドレイン領域に供給される水素の量が酸素欠陥に応じて制御されるため、チャネル領域への水素の拡散が抑制される。したがって、スイッチング性能を示し、ディプリートが抑制される電気特性が得られる。
【0076】
[4.電気特性の測定]
図15は、実施例サンプル1-1~実施例サンプル1-4の電気特性を示すグラフである。
図16は、実施例サンプル2-1~実施例サンプル2-4の電気特性を示すグラフである。
図15および
図16に示すグラフのそれぞれには、チャネル幅W/チャネル長L=4.5μm/3.0μmを有する26個のサンプルの電気特性が示されている。電気特性を示すグラフの縦軸にはドレイン電流Idが示され、横軸にはゲート電圧Vgが示されている。各サンプルの電気特性の測定条件は、表3のとおりである。
【0077】
【0078】
図15および
図16に示すように、窒化シリコンを含む保護絶縁層が設けられていない実施例サンプル1-1~実施例サンプル1-4および窒化シリコンを含む保護絶縁層が設けられている実施例サンプル2-1~実施例サンプル2-4のいずれにおいても、スイッチング性能を示し、ディプリートが抑制された電気特性が得られた。
【0079】
本発明の実施形態として上述した各実施形態は、相互に矛盾しない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。また、各実施形態を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除、もしくは設計変更を行ったもの、または工程の追加、省略、もしくは条件変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0080】
上述した各実施形態の態様によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、または当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと解される。
10:半導体装置、 100:基板、 105:遮光層、 110:窒化物絶縁層、 120:第1の酸化物絶縁層、 130:第2の酸化物絶縁層、 135:第2の酸化物絶縁膜、 140:酸化物半導体層、 145:酸化物半導体膜、 150:ゲート絶縁層、 160:ゲート電極、 171:開口、 173:開口、 200:ソース・ドレイン電極、 201:ソース電極、 203:ドレイン電極