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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077310
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】水系接着剤
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/00 20060101AFI20240531BHJP
   C09J 133/20 20060101ALI20240531BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
C09J133/00
C09J133/20
C09J11/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189336
(22)【出願日】2022-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】000222417
【氏名又は名称】トーヨーポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142365
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100146064
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 玲子
(72)【発明者】
【氏名】清水 謙次
(72)【発明者】
【氏名】桶本 真悟
【テーマコード(参考)】
4J040
【Fターム(参考)】
4J040DF001
4J040DF082
4J040DM002
4J040JA02
4J040KA17
4J040KA38
4J040LA05
4J040LA08
4J040MA10
4J040MB03
4J040PA30
(57)【要約】
【課題】 水系であるにもかかわらず、従前のニトリルゴム系溶剤形接着剤と同等以上の耐熱性を示すとともに、十分な張付け可能時間を有する接着剤を提供する。
【解決手段】 少なくとも1種類のアクリルエマルションを含み、前記アクリルエマルションのうちの少なくとも1種類のアクリルエマルションは、アクリロニトリルをコモノマーとして含むアクリルコポリマーを含んでおり、前記アクリロニトリルをコモノマーとして含むアクリルコポリマーのガラス転移点温度は、-30℃以下であることを特徴とする水系接着剤。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種類のアクリルエマルションを含み、
前記アクリルエマルションのうちの少なくとも1種類のアクリルエマルションは、アクリロニトリルをコモノマーとして含むアクリルコポリマーを含んでおり、
前記アクリロニトリルをコモノマーとして含むアクリルコポリマーのガラス転移点温度は、-30℃以下であることを特徴とする水系接着剤。
【請求項2】
さらに両親媒性ブロック共重合体を含み、前記両親媒性ブロック共重合体のHLB値は、7以上10以下の範囲内にある、請求項1に記載の水系接着剤。
【請求項3】
前記両親媒性ブロック共重合体が、前記アクリルエマルション100質量部に対し、1質量部以上10質量部以下の範囲内で含まれている、請求項2に記載の水系接着剤。
【請求項4】
前記アクリロニトリルをコモノマーとして含むアクリルコポリマーのガラス転移点温度は、-70℃以上-30℃以下の範囲内にある、請求項1から3のいずれか1項に記載の水系接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、接着対象の被着体への接着に、有機溶剤を含む接着剤が用いられる場合がある。例えば、塩化ビニルシートのような樹脂シートを接着する場合、ニトリルゴム系の溶剤形接着剤が用いられる場合がある。しかし、近年では、できるだけ有機溶剤を含まない、環境にやさしい接着剤が求められており、溶剤形接着剤から水性接着剤への転換について、各種の検討がなされている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-187608号公報
【特許文献2】特開平10-292164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、室内、室外を問わず、高温環境下で接着作業を行う場合がある。例えば、熱源からの熱や、太陽光によって、接着対象と被着体とのいずれか一方、または、両方の温度が上昇した状態で、接着対象と被着体とを張り付ける場合がある。そのため、上述のような水系接着剤においては、十分な耐熱性が求められる場合がある。また高温環境下で、接着剤塗布後の張付け可能な時間〈張付け可能時間〉が短い水系接着剤もある。
【0005】
本発明は上記課題を解決するものであり、水系であるにもかかわらず、従前のニトリルゴム系溶剤形接着剤と同等以上の耐熱性を示すとともに、十分な張付け可能時間を有する水系接着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の水系接着剤は、少なくとも1種類のアクリルエマルションを含み、前記アクリルエマルションのうちの少なくとも1種類のアクリルエマルションは、アクリロニトリルをコモノマーとして含むアクリルコポリマーを含んでおり、前記アクリロニトリルをコモノマーとして含むアクリルコポリマーのガラス転移点温度は、-30℃以下であることを特徴とする。
【0007】
本発明の水系接着剤において、さらに両親媒性ブロック共重合体を含み、前記両親媒性ブロック共重合体のHLB値は、7以上10以下の範囲内にあることが好ましい。
【0008】
本発明の水系接着剤において、前記両親媒性ブロック共重合体が、前記アクリルエマルション100質量部に対し、1質量部以上10質量部以下の範囲内で含まれていることが好ましい。
【0009】
本発明の水系接着剤において、前記アクリロニトリルをコモノマーとして含むアクリルコポリマーのガラス転移点温度は、-70℃以上-30℃以下の範囲内にあることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水系であるにもかかわらず、従前のニトリルゴム系溶剤形接着剤と同等以上の耐熱性を示すとともに、十分な張付け可能時間を有する接着剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の水系接着剤は、少なくとも1種類のアクリルエマルションを含んでいる。前記アクリルエマルションのうちの少なくとも1種類のアクリルエマルションは、アクリロニトリルをコモノマーとして含むアクリルコポリマーを含んでいる。前記アクリロニトリルをコモノマーとして含むアクリルコポリマーのガラス転移点温度(Tg)は、-30℃以下である。
【0012】
アクリロニトリルは重合成分として含まれている。このようなアクリルエマルションを含む本発明の水系接着剤は、耐熱性に優れており、高温環境下において良好に用いることができる。一例としては、床暖用のシート及びパネル、屋内及び屋外の廊下に張り付けられるシート、屋上のような建築物及び構造物の外面に張り付けられるシートのような接着対象の、被着体への接着施工に良好に用いることができる。
【0013】
ガラス転移点温度の高い樹脂を用いることによって、接着剤の耐熱性が上がる場合があるが、接着剤の張付け可能時間は短くなる傾向にある。
【0014】
そこで、発明者は、アクリロニトリルを含有し、かつ、ガラス転移点温度が-30℃以下であるアクリルコポリマーを含むエマルションを用いることで、トレードオフの関係にある耐熱性の向上と、十分長い張付け可能時間との両立を実現した。本発明の実施形態に係る接着剤は高い耐熱性を有するので、例えば、気温が高い、または、接着対象もしくは被着体の温度が高くても、接着対象と被着体とを接着することができる。しかも、実施形態に係る接着剤は張付け可能時間が長い。
【0015】
また、例えば、ニトリルゴム系溶剤形接着剤では、強固な接着には、接着対象と被着体との両面に接着剤を塗布する必要があった。しかし、実施形態に係る接着剤は、接着対象と被着体とのいずれか一方への片面塗布によって、接着対象と被着体とを接着することができる。これにより、両面塗布が必要な接着剤に比べて、施工作業性がよい。
【0016】
また、前記アクリルコポリマーのガラス転移点温度は、-70℃以上-30℃以下の範囲内の温度であることが好ましい。前記アクリルコポリマーのガラス転移点温度は、-60℃以上-30℃以下の範囲内の温度であることがより好ましく、-55℃以上-30℃以下の範囲内の温度であることがさらに好ましく、-47℃以上-30℃以下の範囲内の温度であることが最も好ましい。
【0017】
前記アクリルエマルションのうちの少なくとも1種類のアクリルエマルションは、アクリロニトリルをコモノマー(単量体成分)として含むアクリルコポリマー(アクリル樹脂)を含む。つまり、前記アクリルエマルションのうちの少なくとも一部のアクリルエマルションは、アクリロニトリルを含んでいる。前記アクリルコポリマー(アクリル樹脂)を構成する他のコモノマーとして、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルおよびアクリル酸2-エチルヘキシル等のアクリル酸エステル単量体、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルおよびメタクリル酸2-エチルヘキシル等のメタクリル酸エステル単量体、アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミドおよびジアセトンアクリルアミド等のアクリルアミド系単量体、アクリロニトリル等のニトリル系単量体およびその誘導体、スチレンおよびα-メチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体およびその誘導体、ブタジエン、イソプレンおよびクロロプレンなどのジエン系単量体およびその誘導体、アクリル酸、メタクリル酸およびイタコン酸等の不飽和酸が挙げられる。また、アクリルコポリマーは、他のコモノマーとして、酢酸ビニルを含んでいてもよい。例えば、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ブチルおよびアクリロニトリルの共重合体を、アクリルコポリマーとして含むアクリルエマルションが好ましい。アクリロニトリルをコモノマーとして含むアクリルコポリマーにおけるアクリロニトリルの比率は、ガラス転移点温度が-30℃以下となるような範囲に調整して配合することができる。つまり、ガラス転移点温度は重合成分(モノマー)の選択と配合比率によって制御可能である。アクリルコポリマーを構成するコモノマーの全体のうち、アクリロニトリルの配合比率は、使用するコモノマーとの兼ね合いもあるが、例えば、1質量%以上37質量%以下であることが好ましく、1質量%以上25質量%以下であることがより好ましい。
【0018】
アクリルエマルションとしては、ガラス転移点温度が-30℃以下であるアクリルコポリマー(アクリル樹脂)を含む1種類のアクリルエマルションを単独で使用してもよい。
【0019】
なお、2種類以上のアクリルエマルションを混合したアクリルエマルション(混合アクリルエマルション)を用いることもできる。具体的に、混合する複数種類のアクリルエマルションのうち、混合アクリルエマルション全体に対して、質量パーセントが最も大きいアクリルエマルションを、第1アクリルエマルション(主たるアクリルエマルション)と称し、質量パーセントが第2位以下のアクリルエマルションを第2アクリルエマルション(従たるアクリルエマルション)と称する。なお、第2アクリルエマルションは、複数であってもよい。
【0020】
前記第1アクリルエマルション(主たるアクリルエマルション)には、ガラス転移点温度が-30℃以下のアクリルコポリマー(アクリル樹脂)を含むアクリルエマルションを使用することができる。前記第2アクリルエマルション(従たるアクリルエマルション)には、ガラス転移点温度が-30℃以下のアクリルコポリマーを含むアクリルエマルションを使用することもできるし、ガラス転移点温度が-30℃を超えるアクリルコポリマーを含むアクリルエマルションを使用することもできる。さらに、前記第2アクリルエマルションが複数の場合、それぞれの前記第2アクリルエマルションに含まれるそれぞれのアクリルコポリマーのガラス転移点温度が-30℃以下であってもよいし、一部のアクリルコポリマーのガラス転移点温度が-30℃を超えていてもよい。
【0021】
本発明の水系接着剤において、さらに両親媒性ブロック共重合体を含み、前記両親媒性ブロック共重合体のHLB値は、7以上10以下の範囲内、好ましくは、7.2以上9.8以下の範囲内、さらに好ましくは、7.8以上9.3以下の範囲内にあることが好ましい。前記両親媒性ブロック共重合体は、界面活性剤であり、乾燥調整剤として作用する。なお、前記両親媒性ブロック共重合体のHLB値は、7未満であってもよいし、10を超えていてもよい。
【0022】
ここで、HLB(Hydrophile Lipophile Balance)値とは、界面活性剤の親水性と親油性のバランスの程度を表す値であって、グリフィン法で以下のように定義される値である。疎水基部分の疎水性に対して、親水基の親水性が大きければ大きいほどHLB値が大きく、水に溶けやすい性質となり、逆の場合は水に溶けにくい性質となる。
HLB値=20×親水部の式量の総和/分子量
【0023】
本説明で述べる前記両親媒性ブロック共重合体は、アクリルエマルションの調製の際に使用される乳化剤としての界面活性剤と異なる。前記両親媒性ブロック共重合体は、乳化状態のアクリルエマルションに追加(さらに添加)される。水系接着剤の塗布前の段階で、添加された前記両親媒性ブロック共重合体は、水系接着剤内に分散している。本発明者は、HLB値7以上10以下の範囲の両親媒性ブロック共重合体が、水分の単位時間あたりの蒸発量を適度に調整できることを見出した。
【0024】
このような、両親媒性ブロック共重合体によって、水分の単位時間あたりの蒸発量を調整することができる。これにより、十分な粘着力が発揮されるまでの待ち時間が短く、かつ、張付け可能時間が十分に長い接着剤が得られる。
【0025】
本発明において、両親媒性ブロック共重合体としては、ノニオン系界面活性剤であるアデカ(登録商標)プルロニックLシリーズ(株式会社ADEKA製)等を好適に用いることができる。アデカ(登録商標)プルロニックとしては、L-23、L-31、L-44、L-61、L-62、L-64、L-71、L-72、L-101、L-121、P-84、P-85、P-103、F-68、F-88、F-108、25R-1、25R-2、17R-2、17R-3、17R-4が挙げられる。HLB値が7以上10以下の範囲内にある両親媒性ブロック共重合体としては、アデカ(登録商標)プルロニックL-64(HLB値7.8)、L-34(HLB値8.5)、L-84(HLB値9.3)等が挙げられる。なお、上記以外の両親媒性ブロック共重合体を用いることも可能である。
【0026】
本発明の水系接着剤において、前記両親媒性ブロック共重合体が、前記アクリルエマルション100質量部に対し、1質量部以上10質量部以下の範囲内で含まれていることが好ましく、2.5質量部以上7.5質量部以下の範囲内で含まれていることがより好ましい。1質量部未満の含有量であると、効果が十分に得られない場合があり、10質量部を超えると、コストの観点からあまり好ましくなく、また、耐水性が損なわれてしまう場合があるため、上記範囲内であることが好ましい。また、10質量部を超えると、水分の単位時間あたりの蒸発量が飽和する。なお、耐水性を確保するため、前記両親媒性ブロック共重合体の量は多すぎないことが好ましい。
【0027】
前記両親媒性ブロック共重合体が、前記アクリルエマルション100質量部に対し、1質量部以上10質量部以下の範囲内で含まれていることによって、十分な粘着力が発揮されるまでの待ち時間が短く、かつ、張付け可能時間が十分に長い接着剤が得られる。
【0028】
本発明の水系接着剤は、上記成分に加えて、その他、任意の成分として、消泡剤、分散剤、希釈剤、充填剤、増粘剤、安定剤、顔料、染料、難燃剤、酸化防止剤等の一般的な添加剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で含んでいてもよい。
【0029】
例えば、消泡剤には、「SNデフォーマー364」(商品名、サンノプコ株式会社製)を用いることができる。しかし、他の消泡剤が用いられてもよい。また、分散剤には、「SNディスパーサント5029」(商品名、アニオン系界面活性剤、サンノプコ株式会社製)を用いることができる。しかし、他の分散剤が用いられてもよい。また、充填剤には、ろう石クレー(株式会社勝光山製)を用いることができる。しかし、他の充填剤が用いられてもよい。また、増粘剤としては、「SNシックナー612」(商品名、ウレタン変性ポリエーテル、サンノプコ株式会社製)を用いることができる。しかし、他の増粘剤が用いられてもよい。
【0030】
本発明の水系接着剤の粘度(ロータを毎分20回転させた場合の粘度)は、5,000mPa・s/25℃以上40,000mPa・s/25℃以下の範囲内であることが好ましい。粘度が低すぎると、接着剤が垂れる、くし山が潰れるといったことが発生しやすく、粘度が高すぎると、容器から出しにくい、接着剤塗布時にカスレが生じるといったことが発生しやすいため、前記の範囲内であることが好ましい。より好ましい粘度の範囲は、10,000mPa・s/25℃以上30,000mPa・s/25℃以下の範囲である。
【0031】
(アクリルエマルションの製造例)
以下、アクリルエマルションの製造方法の一例を説明する。例えば、界面活性剤の存在下でコモノマー(単量体成分)を重合することによって、コモノマーが重合したアクリルコポリマー(アクリル樹脂)を含有する水性のエマルションを製造することができる。
【0032】
具体的に、水性媒体中で、アクリルコポリマーを形成する1種又は2種以上のコモノマーを乳化重合させることによって、アクリルエマルションを製造することができる。なお、前記水性媒体は、水を含む。前記水性媒体は、水溶性有機溶媒(アルコール、ケトン、エーテル等)と水との混合物であってもよい。
【0033】
例えば、水性媒体、コモノマー、及び界面活性剤を混合して攪拌し、単量体乳化物(プレエマルション)を生成し、プレエマルションを利用して、アクリルエマルションが製造されてもよい。なお、アクリルエマルションの製造時に使用する界面活性剤及び重合開始剤には、公知のものを使用することができる。そして、水性媒体を別途用意し、プレエマルションと、重合開始剤とを、それぞれ、用意した水性媒体に滴下し、水性媒体中でコモノマーの乳化重合がなされてもよい。また、プレエマルションを、重合開始剤を添加した水性媒体に滴下し、滴下されたコモノマーの乳化重合がなされてもよい。
【0034】
なお、水性媒体、コモノマー、重合開始剤、及び界面活性剤をまとめて混合した後、攪拌して乳化重合がなされてもよい。
【0035】
重合温度及び重合時間のようなアクリルコポリマーの重合条件は、使用するコモノマーの種類並びに使用量、重合開始剤の種類並びに使用量に応じて、適宜決めることができる。例えば、重合温度は、0~170℃の全範囲のうち、50~120℃の温度範囲内のいずれかの温度でもよいし、60~110℃の温度範囲内のいずれかの温度でもよい、例えば、20~100℃の範囲内のいずれかの温度であることが好ましく、より好ましくは40~90℃の範囲内のいずれかの温度であることが好ましい。また、重合時間は、1~15時間程度の範囲が好ましい。
【0036】
なお、乳化重合以外の方法によって、アクリルエマルションが製造されてもよい。例えば、塊状重合、溶液重合、沈殿重合もしくは懸濁重合の方法を用いて、アクリルエマルションが製造されてもよい。
【実施例0037】
本発明について、実施例および比較例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
[実施例1]
1.水系接着剤の作製
アクリルエマルション(A)を100質量部、両親媒性ブロック共重合体(B)を2.5質量部、消泡剤を0.10質量部、分散剤を0.10質量、希釈剤として、アジピン酸ジイソノニル(「DINA」(商品名)、株式会社ジェイ・プラス製)を2.90質量部と水1.5質量部、充填剤を42質量部、増粘剤を0.08質量部を攪拌し、水系接着剤を調製した。
【0039】
実施例1においては、アクリルエマルション(A)として、アクリルエマルション(A-1)を、両親媒性ブロック共重合体(B)として、両親媒性ブロック共重合体(B-3)を用いた。アクリルエマルション(A-1)は、アクリル酸10%、アクリル酸2-エチルヘキシル78%、アクリロニトリル12%からなる、ガラス転移温度-47℃を有するアクリルコポリマー(アクリル樹脂、アクリル共重合体)の分散液であり、固形分は60%である。両親媒性ブロック共重合体(B-3)は、「アデカ(登録商標)プルロニックL-34」(商品名、株式会社ADEKA製、HLB値8.5)である。
【0040】
消泡剤としては、「SNデフォーマー364」(商品名、サンノプコ株式会社製)を使用した。分散剤としては、「SNディスパーサント5029」(商品名、アニオン系界面活性剤、サンノプコ株式会社製)を使用した。充填剤としては、ろう石クレー(株式会社勝光山製)を、増粘剤としては、「SNシックナー612」(商品名、ウレタン変性ポリエーテル、サンノプコ株式会社製)を使用した。
【0041】
2.水系接着剤の物性評価
【0042】
得られた水系接着剤について、作業性および耐熱性の評価を行った。作業性の評価としては、オープンタイム(20分)強度および転写50%保持時間の測定を、耐熱性の評価としては、耐熱クリープ試験を行った。
【0043】
<オープンタイム(20分)強度>
得られた水系接着剤を、雰囲気温度40℃の条件下で、スレート板上にJIS A5536記載のクシ目ごてを用いて塗布した。塗布後、オープンタイム20分後に、長さ170mm、幅25mmの塩化ビニルシートのうち、一端から長さ50mmの部分を残し、長さ120mmの部分をスレート板に張り付けた。塩化ビニルシートを張り合わせた後、直ちに、塩化ビニルシートのうちの張り付けていない部分を、200mm/分の引っ張り速度かつスレート板に対して90度の角度で引っ張ることによって90度剥離接着強さを測定した。本測定においては、次の基準で判定を行った。
G :200gf/25mm(1.96N/25mm)以上
NG:200gf/25mm(1.96N/25mm)未満
【0044】
本実施例にかかる水系接着剤は、90度剥離接着強さが380gf/25mmであり、本評価では「G」と判定された。
【0045】
<転写50%保持時間>
得られた水系接着剤を、雰囲気温度40℃の条件下で、スレート板上にJIS A5536記載のクシ目ごてで塗布した。塗布後、オープンタイム10分毎に25mm幅の塩化ビニルシートを張り合わせ、直ちに、塩化ビニルシートのうちの張り付けていない部分を、塩化ビニルシートの張り付けられた部分に対して90度の方向に引っ張ることによって90度剥離を行った。引っ張り速度は、200mm/分である。そして、塩化ビニルシートへの転写率(目視計測)が50%に満たなくなった時間を測定した。転写50%保持時間は、張付け可能時間を示す指標である。本測定においては、次の基準で判定を行った。
A:40分以上
B:20分以上40分未満
C:20分未満
【0046】
本実施例にかかる水系接着剤は、転写50%保持時間が73分であり、本評価では「A」と判定された。
【0047】
<耐熱クリープ試験>
得られた水系接着剤を、雰囲気温度25℃の条件下で、一方向の長さが150mmのスレート板上にJIS A5536記載のクシ目ごてを用いて塗布した。塗布後、オープンタイム10分後に、5kgローラーを用いて、長さ170mm、幅25mm幅の塩化ビニルシートのうち、一端から長さ50mmの部分を残し、長さ120mmの部分をスレート板に張り付けた。スレート板に張り付けた部分の塩化ビニルシート上を、前記ローラーを約50Nの荷重で2回往復させて圧着した。塩化ビニルシート上面に100mm当たり質量10gのおもりを載せた状態で168時間養生した後に、塩化ビニルシートが他の部材と接触しないように、かつ、スレート板が水平状態となるように、スレート板の長手方向の両端部分であって、塩化ビニルシートが貼り付けられていない部分をオーブン内の固定用部材に置き、60℃のオーブン中に1時間放置した。雰囲気温度60℃で、塩化ビニルシートのうちの張り付けていない部分に、100gの静荷重をかけた。荷重をかける方向は、塩化ビニルシートの張り付けられた部分に対して90度の方向である。30分後に剥離した部分の長さを測定した。本測定においては、次の基準で判定を行った。
A:50mm以下
B:50mmを超え、100mm以下
C:100mmを超える
【0048】
本実施例にかかる水系接着剤は、前記30分後の長さが74mmであり、本評価では「B」と判定された。
【0049】
<総合判定>
次の3項目を全て満たすものを総合判定「G」とし、いずれかの項目を満たさないものを総合判定「NG」と判定した。本実施例では「G」と判定された。
(1)オープンタイム(20分)強度が「G」である
(2)転写50%保持時間が「B」以上(20分以上)である
(3)耐熱クリープ試験が「B」以上(100mm以下)である
【0050】
[実施例2]
1.水系接着剤の作製
アクリルエマルション(A)として、アクリルエマルション(A-2)を100質量部、両親媒性ブロック共重合体(B)として、両親媒性ブロック共重合体(B-3)を2.5質量部、増粘剤を1.50質量部とした他は、実施例1と同様に、水系接着剤を調製した。アクリルエマルション(A-2)は、アクリル酸10%、アクリル酸ブチル76%、アクリロニトリル14%からなる、ガラス転移温度-31℃を有するアクリルコポリマー(アクリル樹脂、アクリル共重合体)の分散液であり、固形分は62%である。
【0051】
2.水系接着剤の物性評価
実施例1と同様にして、得られた水系接着剤の物性評価を行った。本例にかかる水系接着剤は、90度剥離接着強さが360gf/25mmであり、オープンタイム(20分)強度は「G」であった。転写50%保持時間は46分であり、本評価では「A」であった。耐熱クリープ試験では、長さが0mmであり、本評価では「A」であった。したがって、総合判定は「G」であった。
【0052】
[実施例3]
1.水系接着剤の作製
アクリルエマルション(A)として、アクリルエマルション(A-2)を100質量部、両親媒性ブロック共重合体(B)として、両親媒性ブロック共重合体(B-2)を2.5質量部、増粘剤を2.25質量部とした他は、実施例1と同様に、水系接着剤を調製した。両親媒性ブロック共重合体(B-2)は、「アデカ(登録商標)プルロニックL-64」(商品名、株式会社ADEKA製、HLB値7.8)である。
【0053】
2.水系接着剤の物性評価
実施例1と同様にして、得られた水系接着剤の物性評価を行った。本例にかかる水系接着剤は、90度剥離接着強さが440gf/25mmであり、オープンタイム(20分)強度は「G」であった。転写50%保持時間は53分であり、本評価では「A」であった。耐熱クリープ試験では、長さが0mmであり、本評価では「A」であった。したがって、総合判定は「G」であった。
【0054】
[実施例4]
1.水系接着剤の作製
アクリルエマルション(A)として、アクリルエマルション(A-2)を100質量部、両親媒性ブロック共重合体(B)として、両親媒性ブロック共重合体(B-3)を5質量部、増粘剤を4.05質量部とした他は、実施例1と同様に、水系接着剤を調製した。
【0055】
2.水系接着剤の物性評価
実施例1と同様にして、得られた水系接着剤の物性評価を行った。本例にかかる水系接着剤は、90度剥離接着強さが550gf/25mmであり、オープンタイム(20分)強度は「G」であった。転写50%保持時間は58分であり、本評価では「A」であった。耐熱クリープ試験では、長さが0mmであり、本評価では「A」であった。したがって、総合判定は「G」であった。
【0056】
[実施例5]
1.水系接着剤の作製
アクリルエマルション(A)として、アクリルエマルション(A-2)を100質量部、両親媒性ブロック共重合体(B)として、両親媒性ブロック共重合体(B-3)を7.5質量部、増粘剤を4.05質量部とした他は、実施例1と同様に、水系接着剤を調製した。
【0057】
2.水系接着剤の物性評価
実施例1と同様にして、得られた水系接着剤の物性評価を行った。本例にかかる水系接着剤では、90度剥離接着強さが500gf/25mmであり、オープンタイム(20分)強度は「G」であった。転写50%保持時間は64分であり、本評価では「A」であった。耐熱クリープ試験では、長さが0mmであり、本評価では「A」であった。したがって、総合判定は「G」であった。
【0058】
[実施例6]
1.水系接着剤の作製
アクリルエマルション(A)として、アクリルエマルション(A-2)を100質量部、両親媒性ブロック共重合体(B)として、両親媒性ブロック共重合体(B-3)を10質量部、増粘剤を4.05質量部とした他は、実施例1と同様に、水系接着剤を調製した。
【0059】
2.水系接着剤の物性評価
実施例1と同様にして、得られた水系接着剤の物性評価を行った。本例にかかる水系接着剤では、90度剥離接着強さが430gf/25mmであり、オープンタイム(20分)強度は「G」であった。転写50%保持時間は66分であり、本評価では「A」であった。耐熱クリープ試験では、長さが4mmであり、本評価では「A」であった。したがって、総合判定は「G」であった。
【0060】
[実施例7]
1.水系接着剤の作製
アクリルエマルション(A)として、アクリルエマルション(A-2)を100質量部、両親媒性ブロック共重合体(B)として、両親媒性ブロック共重合体(B-4)を2.5質量部、増粘剤を2.23質量部とした他は、実施例1と同様に、水系接着剤を調製した。両親媒性ブロック共重合体(B-4)は、「アデカ(登録商標)プルロニックL-84」(商品名、株式会社ADEKA製、HLB値9.3)である。
【0061】
2.水系接着剤の物性評価
実施例1と同様にして、得られた水系接着剤の物性評価を行った。本例にかかる水系接着剤では、90度剥離接着強さが520gf/25mmであり、オープンタイム(20分)強度は「G」であった。転写50%保持時間は46分であり、本評価では「A」であった。耐熱クリープ試験では、長さが1mmであり、本評価では「A」であった。したがって、総合判定は「G」であった。
【0062】
[実施例8]
1.水系接着剤の作製
アクリルエマルション(A)として、アクリルエマルション(A-2)を100質量部、両親媒性ブロック共重合体(B)は添加せず、増粘剤を2.23質量部とした他は、実施例1と同様に、水系接着剤を調製した。
【0063】
2.水系接着剤の物性評価
実施例1と同様にして、得られた水系接着剤の物性評価を行った。本例にかかる水系接着剤では、90度剥離接着強さが1300gf/25mmであり、オープンタイム(20分)強度は「G」であった。転写50%保持時間は25分であり、本評価では「B」であった。耐熱クリープ試験では、長さが1mmであり、本評価では「A」であった。したがって、総合判定は「G」であった。なお、本例において、転写50%保持時間が「B」となった原因は、両親媒性ブロック共重合体を含んでいないことに起因すると考えられる。
【0064】
[実施例9]
1.水系接着剤の作製
アクリルエマルション(A)として、アクリルエマルション(A-2)を100質量部、両親媒性ブロック共重合体(B)として、両親媒性ブロック共重合体(B-1)を2.5質量部、増粘剤を2.23質量部とした他は、実施例1と同様に、水系接着剤を調製した。両親媒性ブロック共重合体(B-1)は、「アデカ(登録商標)プルロニックL-61」(商品名、株式会社ADEKA製、HLB値2.4)である。
【0065】
2.水系接着剤の物性評価
実施例1と同様にして、得られた水系接着剤の物性評価を行った。本例にかかる水系接着剤では、90度剥離接着強さが670gf/25mmであり、オープンタイム(20分)強度は「G」であった。転写50%保持時間は36分であり、本評価では「B」であった。耐熱クリープ試験では、長さが2mmであり、本評価では「A」であった。したがって、総合判定は「G」であった。なお、本例において、転写50%保持時間の評価が「B」となった原因は、両親媒性ブロック共重合体は含んでいるが、そのHLB値が2.5であり、7以上10以下の範囲内にないことに起因すると考えられる。
【0066】
[実施例10]
1.水系接着剤の作製
アクリルエマルション(A)として、アクリルエマルション(A-2)を100質量部、両親媒性ブロック共重合体(B)として、両親媒性ブロック共重合体(B-5)を2.5質量部、増粘剤を2.23質量部とした他は、実施例1と同様に、水系接着剤を調製した。両親媒性ブロック共重合体(B-5)は、「アデカ(登録商標)プルロニックL-88」(商品名、株式会社ADEKA製、HLB値15.8)である。なお、両親媒性ブロック共重合体(B-5)は、常温で固体であるため、加熱によって液体の状態にしてから、アクリルエマルション(A-2)等の攪拌物に両親媒性ブロック共重合体(B-5)を投入した。
【0067】
2.水系接着剤の物性評価
実施例1と同様にして、得られた水系接着剤の物性評価を行った。本例にかかる水系接着剤では、90度剥離接着強さが750gf/25mmであり、オープンタイム(20分)強度は「G」であった。転写50%保持時間は26分であり、本評価では「B」であった。耐熱クリープ試験では、長さが3mmであり、本評価では「A」であった。したがって、総合判定は「G」であった。なお、本例において、転写50%保持時間が「B」となった原因は、両親媒性ブロック共重合体は含んでいるが、そのHLB値が15.8と高いことに起因すると考えられる。このような両親媒性ブロック共重合体は、結晶性が高く、固体となる。そのため、HLB値が7以上10以下の範囲内の両親媒性ブロック共重合体と比較すると、接着剤への分散性が良好ではなく、乾燥遅延効果が弱くなったことが考えられる。
【0068】
[比較例1]
1.水系接着剤の作製
アクリルエマルション(A)として、アクリルエマルション(A-3)を100質量部、両親媒性ブロック共重合体(B)として、両親媒性ブロック共重合体(B-3)を2.5質量部、増粘剤を0.75質量部とした他は、実施例1と同様に、水系接着剤を調製した。アクリルエマルション(A-3)は、アクリル酸2-エチルヘキシル67%、メタクリルメチル17%、酢酸ビニル16%からなる、ガラス転移温度-39℃を有するアクリロニトリルを含有しない共重合体(アクリル重合体)粒子の分散液であり、固形分は55%である。両親媒性ブロック共重合体(B-3)は、「アデカ(登録商標)プルロニックL-34」(商品名、株式会社ADEKA製、HLB値8.5)である。
【0069】
2.水系接着剤の物性評価
実施例1と同様にして、得られた水系接着剤の物性評価を行った。本例にかかる水系接着剤では、90度剥離接着強さが115gf/25mmであり、オープンタイム(20分)強度は「NG」であった。転写50%保持時間は35分であり、本評価では「B」であった。耐熱クリープ試験では、長さが115mmを超え、本評価では「C」であった。したがって、総合判定は「NG」であった。なお、本例において、総合判定がNGとなった原因は、アクリルエマルションを構成するアクリルコポリマー(アクリル樹脂)がアクリロニトリルを含んでいないことに起因すると考えられる。
【0070】
[比較例2]
1.水系接着剤の作製
アクリルエマルション(A)として、アクリルエマルション(A-4)を100質量部、両親媒性ブロック共重合体(B)として、両親媒性ブロック共重合体(B-3)を2.5質量部、増粘剤を0.20質量部とした他は、実施例1と同様に、水系接着剤を調製した。アクリルエマルション(A-4)は、アクリル酸ブチル62%、スチレン38%からなる、ガラス転移温度-14℃を有するアクリロニトリルを含有しない共重合体(アクリル重合体)粒子の分散液であり、固形分は56%である。
【0071】
2.水系接着剤の物性評価
実施例1と同様にして、得られた水系接着剤の物性評価を行った。本例にかかる水系接着剤では、90度剥離接着強さが940gf/25mmであり、オープンタイム(20分)強度は「G」であった。転写50%保持時間は14分であり、本評価では「C」であった。耐熱クリープ試験では、長さが2mmであり、本評価では「A」であった。したがって、総合判定は「NG」であった。なお、本例において、総合判定がNGとなった原因は、アクリルエマルションを構成するアクリルコポリマー(アクリル樹脂)のガラス転移点温度が-30℃を超えており、さらに、アクリロニトリルを含んでいないことに起因すると考えられる。
【0072】
実施例および比較例について、各例の組成および評価結果を表1および表2に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
実施形態及び実施例に係る水系接着剤は、上述した耐熱クリープ性の基準値を満たすので、熱源近傍、又は、直射日光が当たる屋外等の高温環境下で使用しても、部材を問題なく接着することができる。つまり、実施形態及び実施例に係る水系接着剤は、従前のニトリルゴム系溶剤形接着剤と同等以上の耐熱性を示す。また、オープンタイム(20分)強度が十分に大きい。また、転写50%保持時間(張付け可能時間)が長い。さらに、片面塗布による施工が可能である。以上のように、本発明によって、優れた耐熱性と十分な張付け可能時間とを有する水系接着剤が得られることがわかる。
【0076】
なお、樹脂のガラス転移点温度が低いと、張付け可能時間は長くなるものの、粘着力強度の立ち上がりは悪くなる、すなわち、十分な粘着力が発揮されるまでの待ち時間が長くなる傾向にある。しかし、本発明の実施形態に係る接着剤は粘着力強度の立ち上がりも、良好である。