(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077319
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】白金族金属の可溶化方法及び金属の分離方法
(51)【国際特許分類】
C22B 11/00 20060101AFI20240531BHJP
C22B 1/02 20060101ALI20240531BHJP
C22B 3/04 20060101ALI20240531BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20240531BHJP
C22B 3/10 20060101ALI20240531BHJP
C22B 3/22 20060101ALI20240531BHJP
C22B 3/26 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
C22B11/00 101
C22B1/02
C22B3/04
C22B3/44 101A
C22B3/10
C22B3/22
C22B3/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189353
(22)【出願日】2022-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(71)【出願人】
【識別番号】514132268
【氏名又は名称】日本管機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 耕輔
(72)【発明者】
【氏名】馬場 広太郎
(72)【発明者】
【氏名】永井 良介
(72)【発明者】
【氏名】田尻 浩範
(72)【発明者】
【氏名】岡田 敬志
(72)【発明者】
【氏名】西出 勉
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA41
4K001BA22
4K001CA11
4K001DB04
4K001DB07
4K001DB26
4K001JA05
(57)【要約】
【課題】原料に含まれる白金族金属を酸化することにより水や希薄酸に可溶な白金族金属化合物を生成する白金族金属の可溶化方法において、処理にかかるコストを削減する。
【解決手段】白金族金属の可溶化方法は、白金族金属を含む原料と、アルカリ金属の炭酸塩及び水酸化物の少なくとも一方、並びに、酸化ホウ素を含む添加剤との混合物を加熱して、水溶性の白金族金属化合物を含む熱処理物を得ること、熱処理物を水に浸漬し、熱処理物から添加剤の成分が浸出した水溶媒と、熱処理物の水浸出残渣とを分離すること、水溶媒を蒸発乾固させて固体残渣を得ること、及び、固体残渣を加熱前の混合物に添加すること、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金族金属を含む原料と、アルカリ金属の炭酸塩及び水酸化物の少なくとも一方、並びに、酸化ホウ素を含む添加剤との混合物を加熱して、水溶性の白金族金属化合物を含む熱処理物を得ること、
前記熱処理物を水に浸漬し、前記熱処理物から前記添加剤の成分が浸出した水溶媒と、前記熱処理物の水浸出残渣とを分離すること、
前記水溶媒を蒸発乾固させて固体残渣を得ること、及び、
前記固体残渣を加熱前の前記混合物に添加すること、を含む、
白金族金属の可溶化方法。
【請求項2】
前記水溶媒の水を蒸発させる前に、前記水溶媒を中性に調整して沈殿物を除去することを、更に含む、
請求項1に記載の白金族金属の可溶化方法。
【請求項3】
前記水溶媒に二酸化炭素ガスを吹き込むことにより前記水溶媒を中性に調整する、
請求項2に記載の白金族金属の可溶化方法。
【請求項4】
前記白金族金属は、Pd、Pt、Rh、Ir、Os、及びRuの少なくとも1つである、
請求項1又は2に記載の白金族金属の可溶化方法。
【請求項5】
前記アルカリ金属は、Na、K、Li、Rb、及びCsの少なくとも1つである、
請求項1又は2に記載の白金族金属の可溶化方法。
【請求項6】
請求項1の白金族金属の可溶化方法で得られた前記水浸出残渣を希塩酸水溶液に浸漬し、前記白金族金属化合物が浸出した酸溶媒と不溶性残渣とを分離すること、及び、
前記酸溶媒から前記白金族金属を抽出して回収すること、を含む、
金属の分離方法。
【請求項7】
前記不溶性残渣から金属を回収することを、更に含む、
請求項6に記載の金属の分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、原料に含まれる白金族金属を水溶性の白金族金属化合物とする白金族金属の可溶化方法、及び、この方法を用いた金属の分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白金族金属は、優れた触媒性能を有することから、自動車の排ガス浄化触媒等の様々な用途に用いられている。白金族金属は希少性が高い。そこで、天然の鉱石よりも白金族金属濃度が高い廃触媒等の廃製品から白金族金属を抽出する方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示された分離方法では、水酸化カリウム及び酸化ホウ素の混合物を加熱して溶融物を得る溶融工程と、原料、溶融物、及び炭酸カリウムの混合物を加熱して熱処理産物を得る熱処理工程と、熱処理産物を水、0.01M塩酸、0.1M塩酸及び1M塩酸の順にそれぞれ2時間浸漬した後、浸漬により熱処理産物の成分が溶出した各溶液と不溶性の残渣とを得る浸漬工程と、各溶液に溶解した白金族金属をそれぞれ回収し、且つ、不溶性の残渣として金を回収する回収工程とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法では、王水と比較して安価な水や希薄酸溶液に白金族金属を溶解させた白金族金属溶液が得られる。一方で、白金族金属の酸化剤である炭酸カリウムや、白金族金属を酸化するための反応助剤である水酸化カリウム及び酸化ホウ素などの「添加剤」に係るコストが嵩むという課題が残されている。また、高濃度の酸化ホウ素を含む排水の処理のためのコストが嵩むという課題も残されている。
【0006】
本開示は以上の事情に鑑みてされたものであり、原料に含まれる白金族金属を酸化することにより水や希薄酸に可溶な白金族金属化合物を生成する白金族金属の可溶化方法において、処理にかかるコストを削減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る白金族金属の可溶化方法は、
白金族金属を含む原料と、アルカリ金属の炭酸塩及び水酸化物の少なくとも一方、並びに、酸化ホウ素を含む添加剤との混合物を加熱して、水溶性の白金族金属化合物を含む熱処理物を得ること、
前記熱処理物を水に浸漬し、前記熱処理物から前記添加剤の成分が浸出した水溶媒と、前記熱処理物の水浸出残渣とを分離すること、
前記水溶媒を蒸発乾固させて固体残渣を得ること、及び、
前記固体残渣を加熱前の前記混合物に添加すること、を含むものである。
【0008】
また、本開示の一態様に係る金属の分離方法は、
前記白金族金属の可溶化方法で得られた前記水浸出残渣を希塩酸水溶液に浸漬し、前記白金族金属化合物が浸出した酸溶媒と不溶性残渣とを分離すること、及び、
前記酸溶媒から前記白金族金属を抽出して回収すること、を含むものである。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、原料に含まれる白金族金属を酸化することにより水や希薄酸に可溶な白金族金属化合物を生成する白金族金属の可溶化方法において、処理にかかるコストを削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本開示に係る金属の分離方法の流れ図である。
【
図3】
図3は、変形例に係る添加剤の再生方法の流れ図である。
【
図4】
図4は、各溶媒へ浸出した金属元素を調べた実験結果を表す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
〔第1実施形態〕
本開示の第1実施形態に係る金属の分離方法は、白金族金属を含む原料1から、白金族金属を分離する方法である。金属の分離方法は、原料1に含まれる白金族金属を水や希薄酸溶液に可溶な状態とする白金族金属の可溶化方法を含む。
図1は、本開示に係る金属の分離方法の流れ図である。
図1に示す金属の分離方法は、熱処理工程S1と、水浸出工程S2と、酸浸出工程S3と、回収工程S4と、添加剤再生工程S5とを含む。
【0013】
(熱処理工程S1)
熱処理工程S1では、白金族金属を含む原料1と添加剤2の混合物を加熱して、熱処理物5を得る。熱処理物5は、白金族金属が添加剤2と共に加熱されることにより生成した酸化生成物である、水溶性の白金族金属化合物50を含む。添加剤2は、白金族金属の酸化剤3と、白金族金属を酸化させるための反応助剤4とを含む。
【0014】
上記の原料1に含まれる白金族金属は、例えば、Pd、Pt、Rh、Ir、Os、及びRuのうち少なくとも1つである。また、このような白金族金属を含む原料1として、廃自動車触媒及び電子機器スクラップ等が例示される。
【0015】
上記の酸化剤3は、アルカリ金属の炭酸塩及び/又は水酸化物である。このアルカリ金属として、例えば、Na、K、Li、Rb、又はCsが挙げられる。より効率良く白金族金属を水溶性の物質に変換するという観点から、この中でも、Na及びKが好ましく、Kがより好ましい。上記アルカリ金属の炭酸塩及び水酸化物は、単独で用いられてもよく、複数種類の混合物で用いられてもよい。
【0016】
上記の反応助剤4は、酸化物である。この酸化物は、例えば、Na2O、B2O3、K2O、SiO2、Li2O、Rb2O、Cs2O、及びP2O5からなる群から選択される少なくとも1つであってもよい。このような酸化物として、例えば、ガラス(例えば、廃ガラス)等が挙げられる。上記酸化物は、単独で用いられてもよく、複数種類の混合物として用いられてもよい。単独の酸化物を用いる場合は、酸化物はB2O3(酸化ホウ素)であることが好ましい。また、酸化物を複数種類の混合物として用いる場合、少なくともB2O3を含む混合物であることが好ましい。
【0017】
原料1及び添加剤2の混合物の加熱温度は、600℃以上1100℃以下が好ましく、800℃以上1100℃以下がより好ましい。加熱の時間は30分以上であることが好ましく、60分以上であることがより好ましく、120分であることがより好ましい。
【0018】
混合物の加熱によって原料1中の白金族金属が酸化されて白金族金属化合物50が生成する。白金族金属化合物50を水性溶媒に溶解した溶解液にはアニオンが多く含まれている。このアニオンが白金族金属に対して配位結合を形成することで白金族金属の溶解液が得られる。即ち、熱処理物5に含まれる白金族金属化合物50は水や希薄塩酸水溶液等の水性溶媒に可溶である。ここで、「水性溶媒」は、水を主成分として含む溶媒である。
【0019】
(水浸出工程S2)
水浸出工程S2では、熱処理物5を水に浸漬する。このとき、熱処理物5を水に沈めた浸漬槽内が攪拌されてもよい。水浸漬の時間は、30分以上であることが好ましく、60分以上であることがより好ましく、120分程度であることが更に好ましい。水浸漬で用いられる水は、イオン交換水、蒸留水、及び純水等であってもよく、水道水等のように微量の不純物(塩素等)が含まれる水であってもよい。熱処理物5を水に浸漬すると、熱処理物5に含まれる添加剤2の成分が溶媒としての水に浸出する。水浸漬後の熱処理物5の残渣(以下、「水浸出残渣51」と称する)は、水から分離されて次の酸浸出工程S3へ送られる。また、熱処理物5を浸漬した後の水(以下、「水溶媒6」と称する)は添加剤再生工程S5へ送られる。
【0020】
(酸浸出工程S3)
酸浸出工程S3では、水浸出残渣51を、複数の異なる濃度の希塩酸水溶液に段階的に浸漬させる。希塩酸水溶液の濃度は、段階ごとに高くなる。例えば、三段階で酸浸出を行う場合、0.01M塩酸水溶液、0.1M塩酸水溶液、及び、1M塩酸水溶液の順に熱処理物5を浸漬させる。なお、M=mol/dm3である。具体的には、先ず、水浸出残渣51を0.01M塩酸水溶液に浸漬する。次いで、0.01M塩酸水溶液に溶解せずに残った固体の残渣を、0.1M塩酸水溶液に浸漬する。最後に、0.1M塩酸水溶液に溶解せずに残った固体の残渣を、1M塩酸水溶液に浸漬する。各希塩酸水溶液への浸漬時間は30分以上であることが好ましく、60分以上であることがより好ましく、120分程度であることが更に好ましい。水浸出残渣51やその酸浸出残渣を希塩酸水溶液に浸漬すると、これらの残渣に含まれる白金族金属化合物50が溶媒としての希塩酸水溶液に浸出する。このように、水浸出残渣51やその酸浸出残渣を浸漬した後の希塩酸水溶液(以下、「酸溶媒7」と称する)は残渣から分離されて回収工程S4へ送られる。また、1M塩酸水溶液に溶解せずに残った固体の残渣(以下、「不溶性残渣52」と称する)が回収工程S4へ送られてもよい。
【0021】
酸浸出工程S3では、異なる溶媒を用いて白金族金属化合物50の溶出操作を行うことで、特定の種類の白金族金属を溶解した酸溶媒7が得られる。但し、複数種類の白金族金属を1つの溶媒に溶解させてもよく、複数種類の溶媒に1つの白金族金属を溶解させてもよい。
【0022】
(回収工程S4)
回収工程S4では、酸浸出工程S3で得られた酸溶媒7から白金族金属53を抽出して回収する。なお、回収工程S4において、不溶性残渣52から金属の回収が行われてもよい。酸溶媒7からの白金族金属53の抽出は、公知の有機溶媒よる白金族金属の溶媒抽出法によって行われてよい。このような白金族金属の抽出方法によれば、有害な王水又は濃塩酸等の強酸性溶媒を用いることなく、低腐食環境下において、廃触媒やスクラップ中の白金族金属を選択的に抽出できる。
【0023】
(添加剤再生工程S5)
水浸出工程S2で得られた水溶媒6には、添加剤2の成分が溶け出している。そこで、添加剤再生工程S5では、水浸出工程S2において熱処理物5を浸漬したあとの水溶媒6を回収し、水溶媒6から再生添加剤8を生成する。再生添加剤8は、熱処理工程S1で原料1と混合されて再利用される。
【0024】
図2は、添加剤2の再生方法の流れ図である。
図2に示すように、添加剤再生工程S5では、水溶媒6を200℃以上で加熱することにより、水溶媒6の水を蒸発させて残渣を乾固させる。この乾固した固体残渣が再生添加剤8である。水溶媒6に溶出していた酸化剤3及び反応助剤4の成分は、加熱によって水分子が除去されることにより無水物となる。例えば、酸化剤3としてのアルカリ金属の炭酸塩が炭酸カリウムである場合、水溶媒6に存在する炭酸カリウムは加熱によって無水炭酸カリウムK
2CO
3となる。また、反応助剤4が酸化ホウ素である場合、水溶媒6に存在するホウ酸イオンB(OH)
4-は、加熱によって水分子が除去されることにより酸化ホウ素(無水ホウ酸)B
2O
3となる。このように、水溶媒6を乾固させて得られる固体残渣である再生添加剤8には、酸化剤3及び反応助剤4が含まれる。
【0025】
固体残渣として回収された再生添加剤8は、熱処理工程S1において添加剤2の一部として用いられる。このように、再生添加剤8が熱処理工程S1において添加剤2として再利用されることによって、新規に導入する添加剤2の量を低減できるので薬剤コストを削減できる。また、水溶媒6がホウ素を含む場合には、水溶媒6を排水する際にホウ素含有水に定められた排水基準を順守するために所定の排水処理が必要となる。これに対し、水溶媒6から加熱によって分離された水(即ち、蒸留水)にはホウ素が含まれないためホウ素の排水処理が不要であり、排水処理コストを削減できる。更に、水溶媒6に含まれる酸化剤3及び反応助剤4の成分が水と分離された固体残渣(即ち、再生添加剤8)の状態で取り扱われることで、原料1に添加される再生添加剤8の量の調整が容易である。更に、再生添加剤8に存在する酸化剤3及び反応助剤4は何れも無水物の状態とされているので、水溶媒6の状態で再利用に供される場合と比較して設備等の腐食が抑制される。
【0026】
なお、熱処理工程S1においてアルミナ製坩堝が使用されると、水溶媒6に僅かなアルミニウム化合物(アルミン酸塩)が含まれる。この水溶媒6を加熱すると、再生添加剤8にはアルミニウム化合物が含まれる。この再生添加剤8が熱処理工程S1で再利用されて、熱処理工程S1における混合物中のアルミニウム混入量が過剰となると、白金族金属の可溶化が阻害されるおそれがある。そこで、
図3に示すように、加熱前の水溶媒6からアルミニウム化合物を除去するために、水溶媒6を中性(pH6)にして生じた沈殿物9を除去してから、水溶媒6を加熱することが好ましい。水溶媒6のpHの調整は、水溶媒6の収容容器への二酸化炭素ガスの吹き込みによって行われることが好ましい。或いは、水溶媒6のpHの調整は、塩酸などの酸をpH調整剤として添加することによって行われてもよい。水溶媒6が中性となると、水酸化アルミニウムの沈殿が生じ、水溶媒6からアルミニウム化合物を除去できる。
【0027】
〔第2実施形態〕
本開示の第2実施形態に係る金属の分離方法は、複数種類の白金族金属とAuを含む原料1から、白金族金属とAuを分離する方法である。金属の分離方法は、原料1に含まれる白金族金属を水や希薄酸溶液に可溶な状態とする白金族金属の可溶化方法を含む。第2実施形態に係る金属の分離方法は、第1実施形態に係る金属の分離方法と同様に
図1を参照して、熱処理工程S1と、水浸出工程S2と、酸浸出工程S3と、回収工程S4と、添加剤再生工程S5とを含む。
【0028】
(熱処理工程S1)
熱処理工程S1では、複数種類の白金族金属及び金を含む原料1と添加剤2との混合物を加熱することにより熱処理物5を得る。熱処理物5は、白金族金属が添加剤2と共に加熱されることにより生成した酸化生成物である、水溶性の白金族金属化合物50を含む。添加剤2は、酸化剤3及び反応助剤4を含む。
【0029】
原料1に含まれる複数種類の白金族金属は、例えば、Pd、Pt及びRhからなる群から選択される少なくとも2つ(例えば、(i)Pd及びPt、(ii)Pd及びRh、(iii)Pt及びRh、又は、(iv)Pd、Pt及びRh)であってよい。また、複数種類の白金族金属及びAuを含む原料1として、廃自動車触媒及び電子機器スクラップ等が例示される。
【0030】
上記の反応助剤4は、アルカリ金属の水酸化物及び酸化ホウ素の溶融物である。このアルカリ金属として、例えば、Na、K、Li、Rb、又はCsが挙げられる。より効率良く白金族金属を水溶性の物質に変換するという観点から、この中でも、Na及びKが好ましく、Kがより好ましい。溶融物は、アルカリ金属の水酸化物及び酸化ホウ素の混合物が600℃以上1100℃以下、好ましくは800℃以上1100℃以下の温度で加熱されることにより生成される。
【0031】
上記の酸化剤3は、アルカリ金属の炭酸塩である。このアルカリ金属として、例えば、Na、K、Li、Rb、又はCsが挙げられる。より効率良く白金族金属を水溶性の物質に変換するという観点から、この中でも、Na及びKが好ましく、Kがより好ましい。アルカリ金属の炭酸塩の量は、反応助剤4である溶融物の量の4倍以上8倍以下、より好ましくは5倍以上7倍以下、最も好ましくは6倍である。
【0032】
原料1と添加剤2の混合物はアルミナ製坩堝に投入されて加熱される。混合物の加熱温度は、600℃以上1100℃以下が好ましく、800℃以上1100℃以下がより好ましい。混合物の加熱時間は、30分以上であることが好ましく、60分以上であることがより好ましく、120分であることが更に好ましい。
【0033】
(水浸出工程S2)
水浸出工程S2では、熱処理物5を水に浸漬する。このとき、熱処理物5を水に沈めた浸漬槽内が攪拌されてもよい。水浸漬の時間は、30分以上であることが好ましく、60分以上であることがより好ましく、120分以上であることが更に好ましい。水浸漬で用いられる水は、イオン交換水、蒸留水、及び純水等であってもよく、水道水等のように微量の不純物(塩素等)が含まれる水であってもよい。熱処理物5を水に浸漬すると、熱処理物5に含まれる添加剤2の成分が溶媒としての水に浸出する。水浸漬後の熱処理物5の残渣である水浸出残渣51は、水から分離されて次の酸浸出工程S3へ送られる。また、熱処理物5を浸漬した後の水である水溶媒6は添加剤再生工程S5へ送られる。
【0034】
(酸浸出工程S3)
酸浸出工程S3では、水浸出残渣51を、複数の異なる濃度の希塩酸水溶液に段階的に浸漬させる。希塩酸水溶液の濃度は、段階ごとに高くなる。例えば、三段階で酸浸出を行う場合、0.01M塩酸水溶液、0.1M塩酸水溶液、及び、1M塩酸水溶液の順に熱処理物5を浸漬させる。具体的には、具体的には、先ず、水浸出残渣51を0.01M塩酸水溶液に浸漬する。次いで、0.01M塩酸水溶液に溶解せずに残った固体の残渣を、0.1M塩酸水溶液に浸漬する。最後に、0.1M塩酸水溶液に溶解せずに残った固体の残渣を、1M塩酸水溶液に浸漬する。各塩酸水溶液への浸漬時間は30分以上であることが好ましく、60分以上であることがより好ましく、120分以上であることが更に好ましい。これにより、溶媒の各々に特定の白金族金属化合物が選択的に溶解する。水浸出残渣51やその酸浸出残渣を浸漬した後の希塩酸水溶液である酸溶媒7は残渣から分離されて回収工程S4へ送られる。なお、原料1に含まれるAuは、いずれの溶媒にもほとんど溶解しない。そのためAuは1M塩酸水溶液に溶解せずに残った不溶性残渣52に主に含まれる。不溶性残渣52は、1M塩酸水溶液から分離されて回収工程S4へ送られる。
【0035】
酸浸出工程S3では、異なる溶媒を用いて白金族金属化合物の溶出操作を行うことで、各溶媒に特定の種類の白金族金属を溶解した酸溶媒7が得られる。例えば、0.01M塩酸水溶液に第1の白金族金属を選択性高く溶解し、0.1M塩酸水溶液に第2の白金族金属を選択性高く溶解し、1M塩酸水溶液に第3の白金族金属を選択性高く溶解できる。但し、複数種類の白金族金属を1つの溶媒に溶解させてもよく、複数種類の溶媒に1つの白金族金属化合物を溶解させてもよい。
【0036】
(回収工程S4)
回収工程S4では、酸浸出工程S3で得られた酸溶媒7(即ち、水浸出残渣51を浸漬後の0.01M塩酸水溶液、酸浸出残渣を浸漬後の0.1M塩酸水溶液、及び、酸浸出残渣を浸漬後の1M塩酸水溶液)に溶解した白金族金属53をそれぞれ抽出し、且つ、不溶性残渣52としてAuを回収する。酸溶媒7からの白金族金属53の抽出は、公知の有機溶媒よる白金族金属の溶媒抽出法によって行われてよい。このような白金族金属の抽出方法によれば、有害な王水又は濃塩酸等の強酸性溶媒を用いることなく、低腐食環境下において、廃触媒やスクラップ中の白金族金属を選択的に抽出できる。また、Auは、水、0.01M塩酸水溶液、0.1M塩酸水溶液及び1M塩酸水溶液に対する溶解性が低いことから、Auを不溶性残渣52として回収できる。
【0037】
(添加剤再生工程S5)
水浸出工程S2において熱処理物5を浸漬したあとの水には、添加剤2の成分が溶け出している。そこで、添加剤再生工程S5では、水浸出工程S2において熱処理物5を浸漬した水を水溶媒6として回収し、水溶媒6から再生添加剤8を生成する。再生添加剤8は、熱処理工程S1で原料1と混合されて再利用される。第2実施形態の添加剤再生工程S5は、第1実施形態の添加剤再生工程S5と実施雨滴に同じであり、第1実施形態の添加剤再生工程S5を引用することにより詳細な説明を省略する。
【0038】
〔実施例1〕
以下に説明する実施例1では、水浸出工程S2において熱処理物5を浸漬したあとの水溶媒6に添加剤2の成分が溶け出していることを確認した。
【0039】
-実験方法-
白金族金属を含む原料(二輪排ガス浄化用触媒)と、炭酸カリウムと、酸化ホウ素を含むガラスと水酸化カリウムの溶融物(K
2O-B
2O
3)との混合物を、大気雰囲気の1000℃で2時間加熱して熱処理物5を生成した。この熱処理物5について、各種金属元素の溶解率を分析した。溶解率の分析方法は次の通りである。
〈溶解率の分析方法〉
熱処理物5をイオン交換水に2時間浸漬し、水に溶解せずに残った水浸出残渣51をろ過で回収して0.01M塩酸水溶液に2時間浸漬し、0.01M塩酸水溶液に溶解せずに残った固体の残渣をろ過で回収して0.1M塩酸水溶液に2時間浸漬し、0.1M塩酸水溶液に溶解せずに残った固体の残渣をろ過で回収して1M塩酸水溶液に2時間浸漬した。そして、熱処理物5が浸漬された後の水(水溶媒6)と、水浸出残渣51が浸漬された後の0.01M塩酸水溶液(第1酸溶媒7)、0.1M塩酸水溶液(第2酸溶媒7)、及び、1M塩酸水溶液(第3酸溶媒7)とをそれぞれ回収し、水溶媒6及び酸溶媒7に溶け出している金属元素について溶解率を測定した。ここで、加熱前の原料1及び添加剤2に含まれる各金属元素の量[a]をICP発光分析により測定し、回収した各溶媒に溶解している各金属元素の量[b]をICP発光分析により測定して、原料1及び添加剤2に含まれる各金属元素の量[a]を100%として、各金属元素の溶解率[溶解率(%)=b÷a×100]を算出した。なお、金属元素の量として質量を用いた。
この溶解率の分析結果が
図4に示されている。
【0040】
-実験結果-
図4に示す棒グラフは、金属元素ごとに、各溶媒への溶解率を表している。
図4に示された溶解率の分析結果から、熱処理物5に含まれていたアルミニウムAl、カリウムK、及びホウ素Bの各元素の大部分が熱処理物5を浸漬した水(即ち、水溶媒6)に溶け出していることが分かった。また、熱処理物5に含まれていたパラジウムPd、ロジウムRh、セリウムCe、ジルコニウムZrの各元素の大部分が第2酸溶媒7に溶け出していることが分かった。この実験結果から、熱処理工程S1で添加した添加剤2の多くを熱処理物5を浸漬した水である水溶媒6から回収することが可能であり、水溶媒6から回収した再生添加剤8を再利用することによって、添加剤2の使用量が抑えられることが明らかとなった。
【0041】
〔実施例2〕
以下に説明する実施例2では、水溶媒6に溶解しているアルミニウムがpHの調整によって除去可能であることを確認した。
【0042】
-実験方法-
炭酸カリウムと、酸化ホウ素を含むガラスと水酸化カリウムの溶融物(K2O-B2O3)との混合物を、大気雰囲気の1000℃で2時間加熱して熱処理物5を生成した。この熱処理物5をイオン交換水に2時間浸漬し、その水溶媒6に対して収容容器内で二酸化炭素ガスを0.3L/minで1時間吹き込むことで、pHをアルカリ性から中性に調整した。中性に調整された水溶媒6には白色の沈殿が生じていたため、この沈殿物をろ過により除去した。pH調整前及びpH調整後(沈殿物を除去後)の水溶媒6についてICP発光分析を行い、溶解している各金属元素の濃度を測定した。その測定結果が、次表1に示されている。
【0043】
【0044】
-実験結果-
表1に示すように、水溶媒6には熱処理に用いたアルミナ坩堝由来のアルミニウムが溶解していることが確認された。二酸化炭素の吹き込みによるpHの調整によって、水溶媒6に溶解していたアルミニウムの90%以上が除去されたことが確認された。また、カリウム及びホウ素については、pH調整前の水溶媒6に溶解していたものの90%以上がpH調整後も水溶媒6に残留していることが確認された。なお、本実施例において水溶媒6に含まれていたアルミニウムはアルミナ坩堝に由来するものであったが、実際の触媒の担体に含まれているアルミニウムに由来して水溶媒6に溶解するアルミニウムAlについても同様にpHの調整で除去可能であることが推察される。
【0045】
〔実施例3〕
以下に説明する実施例3では、水溶媒6から回収した再生添加剤8を添加剤として使用した際も、白金族の溶解率は低下しないことを確認した。
【0046】
-実験方法-
実施例2で得た水溶媒6をホットスターラーにより加熱して水を蒸発させ、その固体残渣を200℃で1時間加熱し、再生添加剤8を得た。得られた再生添加剤8を白金族金属の試薬と混合し、再び、大気雰囲気の1000℃で2時間加熱して熱処理物5を得た。再生添加剤8を用いた熱処理物5について、各種金属元素の溶解率を分析した。溶解率の分析方法は、実施例1と同様である。溶解率の分析結果が次の表2に示されている。
【0047】
【0048】
-実験結果-
表2に示すように、新品の(即ち、再生添加剤8ではない)炭酸カリウム及び酸化ホウ素を含むガラスと水酸化カリウムの溶融物(K2O-B2O3)との混合物である添加剤2を用いた場合と比較して、再生添加剤8を使用した場合にも同程度の溶解率が得られた。このことから、再生添加剤8を使用しても目的の白金族金属の可溶化が進行することが確認された。
【0049】
〔総括〕
本開示の第1の項目に係る白金族金属の可溶化方法は、
白金族金属53を含む原料1と、アルカリ金属の炭酸塩及び水酸化物の少なくとも一方、並びに、酸化ホウ素を含む添加剤2との混合物を加熱して、水溶性の白金族金属化合物50を含む熱処理物5を得ること、
熱処理物5を水に浸漬し、熱処理物5から添加剤2の成分が浸出した水溶媒6と、熱処理物5の水浸出残渣51とを分離すること、
水溶媒6を蒸発乾固させて固体残渣(即ち、再生添加剤8)を得ること、及び、
固体残渣8を加熱前の混合物に添加すること、を含むものである。
【0050】
上記の白金族金属の可溶化方法によれば、固体残渣として回収された再生添加剤8は添加剤2の一部として用いられる。このように、再生添加剤8が添加剤2として再利用されることによって、新規に導入する添加剤2の量を低減できるので薬剤コストを削減できる。また、水溶媒6はホウ素を含むが、水溶媒6から加熱によって分離された水(即ち、蒸留水)にはホウ素が含まれないためホウ素の排水処理が不要であり、排水処理コストを削減できる。このように、本開示の白金族金属の可溶化方法によれば、白金族金属を可溶化する処理にかかるコストを削減できる。更に、再生添加剤8が水と分離された固体の状態で取り扱われることで、固体状の再生添加剤8を原料1と混ぜて1000℃近くの高温で再度加熱することが可能であるため、アルカリと白金族の可溶化反応が安定して進行する。更に、再生添加剤8が水と分離された固体の状態で取り扱われることで、原料1に添加される再生添加剤8の量の調整が容易であり、また、水溶媒6の状態で再利用に供される場合と比較して設備等の腐食が抑制される。
【0051】
本開示の第2の項目に係る白金族金属の可溶化方法は、第1の項目に係る白金族金属の可溶化方法において、水溶媒6の水を蒸発させる前に、水溶媒6を中性に調整して沈殿物9を除去することを、更に含むものである。
【0052】
本開示の第3の項目に係る白金族金属の可溶化方法は、第2の項目に係る白金族金属の可溶化方法において、水溶媒6に二酸化炭素ガスを吹き込むことにより水溶媒6を中性に調整するものである。
【0053】
上記第2及び第3の項目に係る白金族金属の可溶化方法によれば、水溶媒6にアルミニウム成分が含まれている場合にそれが沈殿物9として除去されるので、固体残渣(即ち、再生添加剤8)から、白金族金属の可溶化を阻害するおそれのあるアルミニウム成分を低減できる。
【0054】
本開示の第4の項目に係る白金族金属の可溶化方法は、第1乃至3のいずれかの項目に係る白金族金属の可溶化方法において、白金族金属は、Pd、Pt、Rh、Ir、Os、及びRuの少なくとも1つであるものである。
【0055】
本開示の第5の項目に係る白金族金属の可溶化方法は、第1乃至4のいずれかの項目に係る白金族金属の可溶化方法において、アルカリ金属は、Na、K、Li、Rb、及びCsの少なくとも1つであるものである。
【0056】
本開示の第6の項目に係る金属の分離方法は、
第1乃至5のいずれかの項目に係る白金族金属の可溶化方法で得られた水浸出残渣51を希塩酸水溶液に浸漬し、白金族金属化合物50が浸出した酸溶媒7と不溶性残渣52とを分離すること、及び、
酸溶媒7から白金族金属53を抽出して回収すること、を含むものである。
【0057】
また、本開示の第7の項目に係る金属の分離方法は、第6の項目に係る金属の分離方法において、不溶性残渣52から金属を回収することを、更に含むものである。
【0058】
上記第6及び第7の項目に係る金属の分離方法によれば、前述の通り白金族金属を可溶化する処理にかかるコストを削減できるうえ、可溶化された白金族金属を水性溶媒に溶解させたのち抽出することによって、原料1から白金族金属53を分離して回収できる。
【符号の説明】
【0059】
1 :原料
2 :添加剤
3 :酸化剤
4 :反応助剤
5 :熱処理物
6 :水溶媒
7 :酸溶媒
8 :再生添加剤(固体残渣)
9 :沈殿物
50:白金族金属化合物
51:水浸出残渣
52:不溶性残渣
53:白金族金属