(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077350
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】炭素および水素の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/05 20170101AFI20240531BHJP
C01B 3/02 20060101ALI20240531BHJP
C25B 1/24 20210101ALI20240531BHJP
C25B 9/19 20210101ALI20240531BHJP
【FI】
C01B32/05
C01B3/02 B
C25B1/24
C25B9/19
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189401
(22)【出願日】2022-11-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2022年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/二酸化炭素排出削減・有効利用実用化技術開発/コンクリート、セメント、炭酸塩、炭素、炭化物などへの二酸化炭素利用技術開発/二酸化炭素の化学的分解による炭素材料製造技術開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】戴 文斌
(72)【発明者】
【氏名】堀内 伸剛
(72)【発明者】
【氏名】鷹尾 康一朗
(72)【発明者】
【氏名】山本 雅納
【テーマコード(参考)】
4G146
4K021
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB04
4G146AC02A
4G146BA09
4G146BC22
4G146BC32
4K021AB05
4K021DB05
4K021DB18
4K021DB31
4K021DC15
(57)【要約】
【課題】二酸化炭素と水から炭素と水素とを効率的に生成し、還元剤を繰り返し生成、利用する。
【解決手段】表面に炭素を付着させたマグネタイトを生成する二酸化炭素分解工程と、炭素と、塩化鉄とを生成する炭素分離工程と、マグネタイトと、水素と、塩化水素ガスとを生成する水素製造工程と、前記二酸化炭素分解工程で用いる前記還元剤を生成する還元剤再生工程とを有し、前記水素製造工程は、3価の塩化鉄を電気分解によって還元して2価の塩化鉄を生成する電解還元過程と、該電解還元過程で得られた2価の塩化鉄と水とを反応させて、マグネタイトと、水素と、塩化水素ガスとを生成する加水分解過程と、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素と還元剤とを反応させて、表面に炭素を付着させたマグネタイトを生成する二酸化炭素分解工程と、
前記二酸化炭素分解工程で得られた表面に炭素を付着させたマグネタイトと、塩酸、または塩化水素ガスとを反応させて、炭素と、塩化鉄とを生成する炭素分離工程と、
前記炭素分離工程で得られた塩化鉄と、水とを反応させて、マグネタイトと、水素と、塩化水素ガスとを生成する水素製造工程と、
前記水素製造工程で得られたマグネタイトおよび水素を互いに反応させて、前記二酸化炭素分解工程で用いる前記還元剤を生成する還元剤再生工程と、を有し、
前記水素製造工程は、3価の塩化鉄を電気分解によって還元して2価の塩化鉄を生成する電解還元過程と、該電解還元過程で得られた2価の塩化鉄と水とを反応させて、マグネタイトと、水素と、塩化水素ガスとを生成する加水分解過程と、を有し、
前記還元剤は、マグネタイトの結晶構造を維持したままマグネタイトを還元することで得られるFe3O4-δ(但し、δは1以上4未満)で表される酸素欠陥鉄酸化物、またはマグネタイトの結晶構造を維持したままマグネタイトを完全に還元することで得られる酸素完全欠陥鉄(δ=4)、またはヘマタイトや使用済みカイロを還元することで得られるマグネタイトの結晶構造を維持した酸素欠陥鉄酸化物、またはヘマタイトや使用済みカイロを完全に還元することで得られるマグネタイトの結晶構造を維持した酸素完全欠陥鉄であることを特徴とする炭素および水素の製造方法。
【請求項2】
前記電解還元過程は、3価の塩化鉄を含む陰極液を収容する陰極槽と、電解質を含む陽極液を収容する陽極槽と、前記陰極槽および前記陽極槽の間に形成され、イオンを透過させる隔壁と、前記陰極槽に設けられる陰極電極と、前記陽極槽に設けられる陽極電極と、を有する電解装置を用いて行うことを特徴とする請求項1に記載の炭素および水素の製造方法。
【請求項3】
前記陰極液のpHを0.5以下に保つことを特徴とする請求項2に記載の炭素および水素の製造方法。
【請求項4】
前記陽極液は、希硫酸を含むことを特徴とする請求項2に記載の炭素および水素の製造方法。
【請求項5】
前記陰極液は、3価の塩化鉄が溶解された塩酸水溶液を含むことを特徴とする請求項2に記載の炭素および水素の製造方法。
【請求項6】
前記陰極電極は、炭素電極、または白金電極であることを特徴とする請求項2に記載の炭素および水素の製造方法。
【請求項7】
前記陽極電極は、炭素電極、または白金電極であることを特徴とする請求項2に記載の炭素および水素の製造方法。
【請求項8】
前記隔壁は、陽イオン交換膜、またはガラスフィルターであることを特徴とする請求項2に記載の炭素および水素の製造方法。
【請求項9】
前記陰極槽は、不活性ガス雰囲気中に設けられることを特徴とする請求項2に記載の炭素および水素の製造方法。
【請求項10】
前記炭素は、粒子径が1μm以下のナノサイズの炭素であることを特徴とする請求項1または2に記載の炭素および水素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、二酸化炭素および水を用いて、炭素と水素とを製造する炭素および水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、製鉄所、火力発電所、セメント工場、ゴミ焼却施設などでは、多量の二酸化炭素(CO2)が排出されている。このため、地球温暖化防止の観点から、二酸化炭素を大気中に放出させずに回収することが重要になっている。
一方、燃料電池自動車(FCV)や水素発電など水素需要の増大に伴って、低コストで大量に供給が可能な水素が求められている。
【0003】
従来、二酸化炭素を分離回収する技術として、化学吸収法,物理吸収法,膜分離法などが知られている。また、回収した二酸化炭素を分解する技術として、半導体光触媒法、金属コロイド触媒,金属錯体,触媒等を用いた光化学的還元法、電気化学的還元法、化学的固定変換反応、例えば、塩基との反応,転移反応,脱水反応,付加反応などを用いる分解方法などが知られている。しかしながら、これらの二酸化炭素の分解方法は、何れも反応効率、コスト、消費エネルギーなどの面から実用的ではないという課題があった。
【0004】
このため、例えば、特許文献1では、格子中に酸素欠陥部位である空孔のあるマグネタイト、即ち酸素欠陥鉄酸化物を用いて二酸化炭素を還元して炭素を生成し、炭素からメタンやメタノールを得る方法が開示されている。こうした特許文献1の発明では、酸素欠陥鉄酸化物によって二酸化炭素を分解(還元反応)し、酸化されて生じた鉄酸化物を水素で還元して再び酸素欠陥鉄酸化物に戻すことによって、連続的かつ効率的に二酸化炭素を分解可能なクローズドシステムを実現できるとされている。
【0005】
一方、高純度の水素を製造する方法として、例えば、特許文献2では、塩化鉄と水とを410℃以上で反応させ、マグネタイト、塩化水素、および水素を生成し、生成した水素を分離膜を用いて回収する方法が開示されている。こうした特許文献2の発明では、各種プラントから排出されるプロセス廃熱を有効利用し、水を原料として、クリーンなエネルギー燃料である水素を、熱化学分解技術によって得ることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5-184912号公報
【特許文献2】特開2001-233601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1で開示された反応条件では、酸素欠陥鉄酸化物の酸素欠陥度が小さく(酸素欠陥鉄酸化物をFe3O4-δで示した場合に、δは最大で0.16程度)、二酸化炭素の分解能力が低いため、効率的に二酸化炭素を分解処理できないという課題があった。また、特許文献1の方法で二酸化炭素を連続して分解する場合、マグネタイトを酸素欠陥鉄酸化物に還元するための水素を外部から供給する必要があり、水素供給に係るコストが大きいという課題もあった。
更に、特許文献1では、高価なナノサイズのマグネタイトを使用しているため、二酸化炭素の分解コストが高い。また、生成した炭素は付加価値の高いナノ炭素ではないため(>1μm)、二酸化炭素分解プラントの経済性が低いという課題がある。
【0008】
特許文献2では、水素製造反応に関与する物質が多く(鉄化合物であるマグネタイト以外にマグネシウム化合物もある)、反応機構が複雑である。また、反応に必要な温度が高いため(~1000℃程度)、エネルギー消費量が多く、製造コストが高くなるという課題がある。
また、特許文献2では、エネルギーを多量に消費する各種プラントから排出される排熱の有効利用だけに着目したものであり、こうしたプラントの多くから排熱と共に排出される二酸化炭素も有効利用することが求められている。
【0009】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、二酸化炭素と水から、炭素と水素とを効率的に生成するとともに、反応に用いる還元剤を繰り返し生成、利用することが可能な炭素および水素の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の一実施形態の炭素および水素の製造方法は、以下の手段を提案している。
(1)本発明の態様1の炭素および水素の製造方法は、二酸化炭素と還元剤とを反応させて、表面に炭素を付着させたマグネタイトを生成する二酸化炭素分解工程と、前記二酸化炭素分解工程で得られた表面に炭素を付着させたマグネタイトと、塩酸、または塩化水素ガスとを反応させて、炭素と、塩化鉄とを生成する炭素分離工程と、前記炭素分離工程で得られた塩化鉄と、水とを反応させて、マグネタイトと、水素と、塩化水素ガスとを生成する水素製造工程と、前記水素製造工程で得られたマグネタイトおよび水素を互いに反応させて、前記二酸化炭素分解工程で用いる前記還元剤を生成する還元剤再生工程と、を有し、前記水素製造工程は、3価の塩化鉄を電気分解によって還元して2価の塩化鉄を生成する電解還元過程と、該電解還元過程で得られた2価の塩化鉄と水とを反応させて、マグネタイトと、水素と、塩化水素ガスとを生成する加水分解過程と、を有し、前記還元剤は、マグネタイトの結晶構造を維持したままマグネタイトを還元することで得られるFe3O4-δ(但し、δは1以上4未満)で表される酸素欠陥鉄酸化物、またはマグネタイトの結晶構造を維持したままマグネタイトを完全に還元することで得られる酸素完全欠陥鉄(δ=4)、またはヘマタイトや使用済みカイロを還元することで得られるマグネタイトの結晶構造を維持した酸素欠陥鉄酸化物、またはヘマタイトや使用済みカイロを完全に還元することで得られるマグネタイトの結晶構造を維持した酸素完全欠陥鉄であることを特徴とする。
【0011】
(2)本発明の態様2は、態様1の炭素および水素の製造方法において、前記電解還元過程は、3価の塩化鉄を含む陰極液を収容する陰極槽と、電解質を含む陽極液を収容する陽極槽と、前記陰極槽および前記陽極槽の間に形成され、イオンを透過させる隔壁と、前記陰極槽に設けられる陰極電極と、前記陽極槽に設けられる陽極電極と、を有する電解装置を用いて行うことを特徴とする。
【0012】
(3)本発明の態様3は、態様2の炭素および水素の製造方法において、前記陰極液のpHを0.5以下に保つことを特徴とする。
【0013】
(4)本発明の態様4は、態様2または3の炭素および水素の製造方法において、前記陽極液は、希硫酸を含むことを特徴とする。
【0014】
(5)本発明の態様5は、態様2から4のいずれか1つの炭素および水素の製造方法において、前記陰極液は、3価の塩化鉄が溶解された塩酸水溶液を含むことを特徴とする。
【0015】
(6)本発明の態様6は、態様2から5のいずれか1つの炭素および水素の製造方法において、前記陰極電極は、炭素電極、または白金電極であることを特徴とする。
【0016】
(7)本発明の態様7は、態様2から6のいずれか1つの炭素および水素の製造方法において、前記陽極電極は、炭素電極、または白金電極であることを特徴とする。
【0017】
(8)本発明の態様8は、態様2から7のいずれか1つの炭素および水素の製造方法において、前記隔壁は、陽イオン交換膜、またはガラスフィルターであることを特徴とする。
【0018】
(9)本発明の態様9は、態様2から8のいずれか1つの炭素および水素の製造方法において、前記陰極槽は、不活性ガス雰囲気中に設けられることを特徴とする。
【0019】
(10)本発明の態様10は、態様2から9のいずれか1つの炭素および水素の製造方法において、前記炭素は、粒子径が1μm以下のナノサイズの炭素であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、二酸化炭素と水から、炭素と水素とを効率的に生成するとともに、反応に用いる還元剤を繰り返し生成、利用することが可能な炭素および水素の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】マグネタイトの1/4単位格子の結晶構造を示す模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態の炭素および水素の製造方法を示すフローチャートである。
【
図3】水素製造工程S3を構成する電解還元過程S3-1で用いる電解装置の一例を示す模式図である。
【
図4】塩化鉄(III)の電解還元における電位-pHグラフである。
【
図6】検証例の結果を示すXRDのピークパターン図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態の炭素および水素の製造方法について説明する。なお、以下に示す実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0023】
まず最初に、本実施形態の炭素および水素の製造方法で用いる還元剤について説明する。
還元剤は、後述する二酸化炭素分解工程S1において、二酸化炭素と反応させることによって、二酸化炭素を還元して炭素と酸素に分解する材料である。本実施形態で用いる還元剤は、Fe3O4-δ(但し、δは1以上4未満)で表されるマグネタイト(四酸化三鉄)の酸素欠陥鉄酸化物、ヘマタイトや使用済みカイロ(主成分は水酸化鉄)の酸素欠陥鉄酸化物、または酸素完全欠陥鉄を用いる。
【0024】
図1は、マグネタイトの1/4単位格子の結晶構造を示す模式図である。
マグネタイトは、結晶学的に、スピネル型結晶格子構造を有し、酸素イオン(O
2-)が立方最密充填配置にされ、その隙間(Asite、Bsite)に、+3価の鉄(Fe
+3)、+2価の鉄(Fe
2+)が2:1の割合で配置されている。マグネタイトは、一般式としてFe
3O
4で表される。
【0025】
本実施形態で用いる還元剤は、このようなマグネタイトの結晶構造、即ちスピネル型結晶格子構造を保った状態で、
図1に示す任意の位置の酸素イオンを離脱させることで得られる酸素欠陥鉄酸化物(1≦δ<4未満)、またはマグネタイトを完全に還元することで得られるスピネル型結晶格子構造を保った酸素完全欠陥鉄(δ=4)、またはヘマタイトや使用済みカイロを還元することで得られるスピネル型結晶格子構造を保った酸素欠陥鉄酸化物、またはヘマタイトや使用済みカイロを完全に還元することで得られるスピネル型結晶格子構造を保った酸素完全欠陥鉄である。こうした還元剤は、後述する還元剤再生工程S4において生成される。
【0026】
マグネタイトを還元することで得られるスピネル型結晶格子構造を保った酸素欠陥鉄酸化物は、Fe3O4-δで表され、マグネタイトから離脱させた酸素イオン(O2-)の離脱割合によって、δが1以上4未満の範囲にされる。また、マグネタイトから酸素イオンを全て離脱させた(即ち、δ=4)ものが、上述した酸素完全欠陥鉄となる。
【0027】
δは酸素欠陥度とされ、マグネタイトの結晶構造、即ちスピネル型結晶格子構造を保った状態の酸素欠陥鉄酸化物のマグネタイトに対する酸素の欠陥割合である。こうした酸素欠陥度δは、還元剤再生工程S4においてマグネタイトが水素と反応する前の質量と、反応後の質量との差分を計測し、質量の減少量(差分)がマグネタイトから離脱した酸素量(この離脱した酸素の格子中の配置位置が原子空孔、即ち欠陥となる)と等しいことから、この質量の減少量から酸素欠陥度δ(δ=1~4)を算出することができる。
【0028】
そして、マグネタイトから酸素イオンが離脱した部位は、スピネル型結晶格子構造を保った状態で原子空孔となり、離脱分だけカチオンが結晶格子内に多く閉じ込められ、格子間隔が拡がった状態になる。このような酸素離脱による原子空孔が、還元剤として二酸化炭素の脱酸素反応(還元反応)を生じさせる。
【0029】
本実施形態の還元剤(酸素欠陥鉄酸化物、酸素完全欠陥鉄)は、平均粒子径が、例えば1μmよりも大きければよく、1μm以上20μm未満であることが好ましく、また、50μmを超え200μm未満であることも好ましい。
【0030】
還元剤の平均粒子径が1μmよりも小さいものにした場合は、実験結果によれば、二酸化炭素を分解する際に一酸化炭素の生成割合が高くなり、炭素の回収率が低くなる可能性がある。平均粒子径が1μm以上の還元剤を用いることで、高い炭素回収率が維持できると同時に、還元剤粒子の凝集性が低くなるため、反応器の壁面への固着現象などのトラブルが回避でき、ロータリーキルンなどの工業用反応装置への適用が可能となる。
【0031】
更に、還元剤の平均粒子径を20μm未満にすることで、高い反応速度を維持することができる。また、還元剤の平均粒子径を50μmを超え200μm以下にする場合、粒子の飛散性が下がり、流動化性能が良くなるため、流動層などの工業用の反応装置への適用が可能となる。この場合、ロータリーキルン式の反応装置と比べて、固-気接触性や伝熱性が良く、設備費が低く、反応装置のサイズをコンパクトにすることができる。
【0032】
図2は、本発明の一実施形態に係る炭素および水素の製造方法を段階的に示したフローチャートである。
本実施形態の炭素および水素の製造方法は、表面に炭素を付着させたマグネタイトを生成する二酸化炭素分解工程S1と、炭素と、塩化鉄とを生成する炭素分離工程S2と、マグネタイトと、水素と、塩化水素ガスとを生成する水素製造工程S3と、還元剤を生成する還元剤再生工程S4と、を有する。こうした各工程で、マグネタイトやこれを還元させた還元剤を循環利用して、外部から供給される二酸化炭素及び水から、炭素および水素を製造する。
【0033】
<二酸化炭素分解工程S1>
二酸化炭素分解工程S1は、ロータリーキルンや気泡流動層などの反応装置(二酸化炭素分解炉)を用いて、例えば、平均粒子径が1μm~500μm程度の粉末状の還元剤を攪拌しつつガス状の二酸化炭素に接触させることによって、二酸化炭素を分解(還元)する。そして、表面に炭素を付着させたマグネタイトを生成する。
【0034】
二酸化炭素分解工程S1に用いる反応装置としては、循環流動層を用いることもできるが、気泡流動層と比較して、反応器全体の高さが高い、設備費が高い、粒子再循環ループの設計と操作が複雑、粒子の滞留時間が短い(反応装置内での滞留時間は秒のオーダー)、使用できる還元剤の粒子径が限られる、粒子の摩耗を促進される、高いガス流速の維持や粉体の循環に必要なエネルギーコストが大きい、などのデメリットがある。
【0035】
この二酸化炭素分解工程S1に用いる二酸化炭素の供給源としては、例えば、二酸化炭素を多量に排出する施設、例えば製鉄所、火力発電所、セメント工場、ゴミ焼却施設、バイオガス生成施設、天然ガス井戸などから排出される二酸化炭素を用いればよい。また、還元剤は、後述する還元剤再生工程S4から供給される。
【0036】
二酸化炭素分解工程S1における反応温度は、300℃以上、450℃以下、好ましくは350℃以上、400℃以下の範囲であればよい。
このように、反応温度を300℃以上、450℃以下といった温度範囲にすることで、還元剤がスピネル型結晶格子構造を維持することができる。反応温度が例えば500℃以上といった高温であると、マグネタイトの繰り返し利用により、還元剤がスピネル型結晶格子構造を維持できなくなる懸念がある。かつ反応する時の消費エネルギーが増える懸念がある。
【0037】
二酸化炭素分解工程S1では、こうした反応温度範囲に昇温させるために、二酸化炭素供給源である製鉄所、火力発電所、セメント工場、ゴミ焼却施設などの稼働に伴って発生した熱(排熱)、再生可能エネルギー、及び高温の熱を取り出せる原子炉である高温ガス炉の熱エネルギーを熱源として有効利用することも好ましい。
【0038】
二酸化炭素分解工程S1における反応圧力は、0.01MPa以上、5MPa以下、好ましくは0.1MPa以上、1MPa以下の範囲であればよい。
反応圧力が0.01MPa以上であれば、実用プロセスとして必要な反応速度を得ることができ、更に、0.1MPa以上であれば、二酸化炭素濃度が低い実際の排気ガスへの直接対応も可能となる。また、反応圧力が5MPa以下であれば、装置の製作コストを抑えることができる。
【0039】
二酸化炭素分解工程S1では、反応温度、反応圧力を高めることによって、二酸化炭素の分解速度が高まり、二酸化炭素の処理効率を高めることができる。一方、反応温度が高すぎると、還元剤のスピネル構造が破壊されるおそれがある。
【0040】
二酸化炭素分解工程S1での二酸化炭素の分解には、以下の式(1)、(2)の2段階と式(3)の1段階の反応が生じる。
CO2+2e-→CO(中間生成物)+O2-・・・(1)
CO+2e-→C+O2-・・・(2)
CO2+2e-→C+2O2-・・・(3)
そして、上述した式(1)、(2)、(3)で生じた酸素は、以下の式(4)、(5)で酸素欠陥鉄酸化物(式(4))や酸素完全欠陥鉄(式(5))の原子空孔に挿入される。
Fe3O4-δ+δO2-→Fe3O4+2δe-(但し、δ=1以上4未満)・・・(4)
3Fe+4O2-→Fe3O4+8e-・・・(5)
【0041】
上記の式(1)によって得られた一酸化炭素(CO)は、水素添加によって、メタン、メタノールなどの炭化水素や各種樹脂などの有用な化成品を得るための原料として用いることができる。
【0042】
二酸化炭素分解工程S1での上述した反応で、すべての二酸化炭素を式(2)まで、または式(3)で反応させた場合には、最終的な生成物としてガスの発生を伴わない。即ち、二酸化炭素中の酸素は、酸素欠陥鉄酸化物、または酸素完全欠陥鉄に全て取り込まれると考えられる。これを考慮して二酸化炭素と酸素欠陥鉄酸化物の反応は、式(6)、二酸化炭素と酸素完全欠陥鉄の反応は、式(7)で表される。
2Fe3O4-δ+δCO2→2Fe3O4・δC(炭素付着マグネタイト。但し、δ=1以上4未満)・・(6)
3Fe+2CO2→Fe3O4・2C(炭素付着マグネタイト)・・・(7)
【0043】
二酸化炭素分解工程S1で還元剤として用いる酸素欠陥鉄酸化物や酸素完全欠陥鉄が、二酸化炭素を炭素まで分解できるのは、これらの還元剤が非平衡状態で形成される準安定な結晶構造であるスピネル型結晶格子構造を有しており、室温においても酸素と徐々に反応し、酸素イオンを取り組み、より安定なFe3O4に変化しようとするためである。即ち、格子中に原子空孔を有する不安定なスピネル型結晶格子構造がより安定な原子空孔のないスピネル型結晶格子構造に変化しようとすることから生じるものと考えられる。
【0044】
こうした酸素欠陥鉄酸化物や酸素完全欠陥鉄の安定化(マグネタイト化)の過程で、酸素イオンが結晶中に取り込まれると結晶は電気的に中性を維持しようとするために、電子を結晶表面から放出しようとする。酸素欠陥鉄酸化物や酸素完全欠陥鉄では+2価のFe(Fe2+)が電子を放出し得る原子として存在するが、酸素欠陥鉄酸化物や酸素完全欠陥鉄の結晶の不安定性のために、通常と異なる還元ポテンシャルを生じているものと考えられる。
【0045】
二酸化炭素分解工程S1では、還元剤として用いる酸素欠陥鉄酸化物や酸素完全欠陥鉄による二酸化炭素の分解能力を最大限にするため、反応環境における酸素濃度を5体積%以下に保つようにすることが好ましい。
【0046】
二酸化炭素分解工程S1における反応環境で酸素濃度が5体積%よりも高いと、二酸化炭素を構成する酸素が還元剤(酸素欠陥鉄酸化物、または酸素完全欠陥鉄)に取り込まれる前に、この還元剤の酸素欠陥部位に、反応雰囲気中の酸素が取り込まれて、還元剤の二酸化炭素分解能力が低下する懸念がある。
【0047】
二酸化炭素分解工程S1で二酸化炭素の分解によって生じた炭素は、粒子径が1μm以下のナノサイズの炭素として生成される。二酸化炭素分解工程S1において、同一温度条件では、上述した式(1)の反応速度は、式(2)の反応速度よりも遅いが、式(1)の反応速度を高めることによって式(2)の反応が迅速に進行するようになり、微細なナノサイズの炭素粒子を生成できる。式(1)と式(2)の反応速度は、酸素欠陥度δを大きくすることと、反応温度、反応圧力を高くすることにより、高めることができる。
【0048】
こうしたナノサイズの炭素は、酸素欠陥鉄酸化物や酸素完全欠陥鉄が酸化されて生じたマグネタイトの表面に付着する、あるいは表面を覆うように生成される。こうした表面に炭素を付着させたマグネタイトは、次の炭素分離工程S2に送られる。
【0049】
一方、本実施形態では、二酸化炭素分解工程S1で二酸化炭素の分解によって、還元剤はマグネタイト(Fe3O4)になる。
本実施形態では、炭素は、マグネタイトの表面に比較的強固に付着した状態で生じる。
【0050】
<炭素分離工程S2>
炭素分離工程S2は、マグネタイトの塩化反応(マグネタイトから塩化鉄(III)(FeCl3)と塩化鉄(II)(FeCl2)への転換)と炭素回収操作より構成される。
マグネタイトの塩化反応は、塩酸溶解による湿式塩化法と塩化水素ガスによる乾式塩化法がある。
【0051】
(湿式塩化)
マグネタイトの塩化反応を湿式塩化で行う場合、二酸化炭素分解工程S1で得られた表面に炭素を付着させたマグネタイトと、塩酸(塩化水素の水溶液)とを反応させることにより、マグネタイトを塩酸に溶解させ、塩酸に不溶な炭素をマグネタイトから分離する。塩酸に溶解したマグネタイトは、塩化水素との反応によって塩化鉄(塩化鉄(III)と塩化鉄(II))と水とを生成する。
【0052】
塩酸に溶解させたマグネタイトと炭素の分離は、例えば、濾過などの固液分離によって行えばよい。また、生成した塩化鉄(塩化鉄(III)と塩化鉄(II)の混合物)は、次の水素製造工程S3に送られる。こうした湿式塩化の場合、生成する酸化鉄が全て溶解されて炭素を分離することができる。
【0053】
炭素分離工程S2(湿式塩化)で用いる塩酸は、塩化水素濃度が例えば5質量%~37質量%の範囲のものを用いればよい。
塩酸の塩化水素濃度が5質量%未満では反応が遅くなる懸念がある。また、37質量%を超える濃塩酸は塩化水素の揮発が速く取り扱いが難しい。
炭素分離工程S2(湿式塩化)における反応温度は、10℃以上、150℃以下、好ましくは50℃以上、100℃以下の範囲であればよい。
10℃未満では反応速度が遅く、また冷却設備が必要となる。150℃を超えると消費エネルギーが多く、かつ溶液の蒸発が起きてしまって効率が悪い。
炭素分離工程S2(湿式塩化)では、こうした反応温度範囲に昇温させるために、例えば、二酸化炭素分解工程S1と同様の熱源を有効利用することも好ましい。
【0054】
炭素分離工程S2(湿式塩化)でのマグネタイトの塩化反応は、以下の式(8)~(9)で表される。
2Fe3O4・δC+16HCl→4FeCl3+2FeCl2+8H2O+δC(湿式塩化:10~150℃)(但し、δ=1~4)・・・(8)
2Fe3O4+16HCl→4FeCl3+2FeCl2+8H2O(湿式塩化:10℃~150℃)・・・(9)
【0055】
(乾式塩化)
マグネタイトの塩化反応を乾式塩化で行う場合、二酸化炭素分解工程S1で得られた表面に炭素を付着させたマグネタイト、または水素製造工程S3で得られたマグネタイトと、塩化水素ガスとを反応させることによって塩化鉄(塩化鉄(III)と塩化鉄(II))と水とを生成する。
【0056】
炭素分離工程S2(乾式塩化)で用いる塩化水素ガスは、塩化水素濃度が例えば50質量%~100質量%の範囲のものを用いればよい。
塩化水素の濃度が50質量%未満では反応が遅くなる懸念がある。
炭素分離工程S2(乾式塩化)における反応温度は、50℃以上、300℃以下、好ましくは80℃以上、200℃以下の範囲であればよい。
50℃未満では反応速度が遅く、また300℃を超えると消費エネルギーが多く効率が悪くなると同時に、塩化反応が発熱反応であるため高温では反応の進行に不利となる。
炭素分離工程S2(乾式塩化)では、こうした反応温度範囲に昇温させるために、例えば、二酸化炭素分解工程S1と同様の熱源を有効利用することも好ましい。
【0057】
炭素分離工程S2(乾式塩化)でのマグネタイトの塩化反応は、以下の式(8)~(9)で表される。
2Fe3O4・δC+16HCl→4FeCl3+2FeCl2+8H2O+δC(乾式塩化:50~300℃)(但し、δ=1~4)・・・(8)
2Fe3O4+16HCl→4FeCl3+2FeCl2+8H2O(乾式塩化:50℃~300℃)・・・(9)
【0058】
消費エネルギーを低減するため、炭素が付着されていないマグネタイト(水素製造工程S3で得られた単なる水素製造のために循環されているマグネタイト)は、こうした塩化水素ガスによる乾式塩化を用いることが好ましい。乾式塩化の場合、炭素付着マグネタイトを塩化水素ガスによって塩化鉄に転換した後、生成物を水に溶解させることによって、不溶成分として炭素を分離することができる。
【0059】
炭素分離工程S2でマグネタイトから分離された炭素(炭素材料)は、粒子径が1μm以下のナノサイズの炭素であり、粒子径が1μmを超えるものは殆ど生成しない。こうしたナノサイズの炭素粉末は、純度が例えば99%以上の高純度の炭素であり、カーボンブラック、活性炭として、ゴム補強用添加剤、電池材料、トナー、着色剤、導電材料、触媒、吸着剤などの機能性の炭素材料に、または還元剤として、製鉄用コークス代替などに直接用いることができる。また、人造黒鉛、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ等の炭素材料の製造原料として用いることができる。
【0060】
<水素製造工程S3>
水素製造工程S3は、電解装置を用いて、炭素分離工程S2で得られた塩化鉄(III)の還元反応(塩化鉄(III)から塩化鉄(II)への還元)を行う電解還元過程S3-1と、この電解還元過程S3-1で得られた2価の塩化鉄と水とを反応させて、マグネタイトと、水素と、塩化水素ガスとを生成する加水分解過程S3-2と、を有している。この水素製造工程S3で生じたマグネタイトは、次の還元剤再生工程S4に送られる。また、塩化水素は、炭素分離工程S2で用いる塩酸の製造原料として用いることができる。
なお、塩化鉄(II)溶液の濃縮、乾燥、造粒等の操作は膜分離装置、蒸発装置、晶析装置、スプレードライヤー等の装置を用いて、所定の粒子径を持った塩化鉄(II)粒子にした後、水素、マグネタイト製造反応に送ることもある。
【0061】
(電解還元過程S3-1)
図3は、水素製造工程S3を構成する電解還元過程S3-1で用いる電解装置の一例を示す模式図である。
本実施形態の電解装置10は、陰極槽11と、陽極槽12と、陰極槽11および陽極槽12の間に形成される隔壁13と、を有している。また、陰極槽11には、陰極電極(作用極)21、および参照電極22が設けられ、また陽極槽12には、陽極電極(対極)23が設けられている。更に、陰極電極21と陽極電極23との間に電圧を印加する電源装置14が設けられている。
【0062】
陰極槽11は、例えば、ガラスなどの誘電体材料から形成された液槽であり、内部に3価の塩化鉄を含む陰極液、本実施形態では、前工程である炭素分離工程S2で得られた塩化鉄(塩化鉄(III)と塩化鉄(II)の混合物)の塩酸溶液(陰極液)を収容する。こうした塩化鉄の塩酸溶液(陰極液)は、例えばpHが0.5以下になるように、塩酸濃度が調整される。
【0063】
陽極槽12は、例えば、ガラスなどの誘電体材料から形成された液槽であり、内部に電解質を含む陽極液、本実施形態では希硫酸水溶液(陽極液)を収容する。こうした希硫酸水溶液(陽極液)は、硫酸濃度が例えば0.1モル/L以上、5.0モル/L以下の範囲にされればよい。
【0064】
隔壁13は、陰極槽11および陽極槽12にそれぞれ形成された開口どうしの間に配される膜状の部材である。隔壁13は、一方の面が陰極液に接し、他方の面が陽極液に接する。こうした隔壁13は、例えば水素イオンが透過可能な材料であればよく、例えば、陽イオン交換膜やガラスフィルターなどを用いることができる。本実施形態では、Nafion(登録商標)膜(陽イオン交換膜)を用いている。
【0065】
陰極槽11に配される陰極電極(作用極)21は、電源装置14の負極に接続される。こうした陰極電極21は、導電体、例えば、炭素電極や白金電極などであればよい。本実施形態では、陰極電極21として炭素棒を用いた。
陰極槽11に配される参照電極(基準電極)22は、酸化還元電位を測定するものであり、本実施形態では、銀/塩化銀電極(電極電位+0.199 V (vs. SHE、25℃))を用いた。
【0066】
陽極槽12に配される陽極電極(対極)23は、電源装置14の正極に接続される。こうした陽極電極23は、導電体、例えば、炭素電極や白金電極などであればよい。本実施形態では、陽極電極23として白金線を用いた。
【0067】
電解還元過程S3-1では、上述したような電解装置10を用いて、炭素分離工程S2で得られた塩化鉄(III)の電解還元を行い、下記の式(10)の通り、塩化鉄(II)に還元する。
FeCl3+e-+H+→FeCl2+HCl ・・・(10)
具体的には、例えば、電解装置10の陰極槽11に、炭素分離工程S2で得られた塩化鉄(塩化鉄(III)と塩化鉄(II)の混合物)の塩酸溶液(陰極液)を収容する。この陰極液は、pHが0.5以下、例えばpHが0.1になるように、塩酸濃度を調整しておく。
【0068】
また、陽極槽12に、電解質として希硫酸水溶液(陽極液)を収容する。この陽極液は、硫酸濃度が0.1モル/L以上、5.0モル/L以下の範囲、例えば硫酸濃度が0.2モル/Lの希硫酸水溶液であればよい。0.1モル/L未満だとFeCl3からFeCl2への電解還元に伴って陽極槽12から供給されるH+が不足する懸念がある。一方、5.0モル/Lより大きいと陰極槽11と陽極槽12の間に生じる浸透圧が大きくなりすぎて、隔壁13の破壊や液漏れが生じる可能性がある。
【0069】
なお、電解装置10は、空気中に載置してもよいが、より好ましくは内部を不活性ガス、例えばアルゴンガスもしくは窒素ガスで置換したチャンバー内に設置すればよい。
【0070】
次に、電源装置14によって陰極電極21と陽極電極23との間に電圧を印加して、陰極槽11内で塩化鉄(III)の電解還元を行い、2価の塩化鉄である塩化鉄(II)を生成する。
こうした塩化鉄(III)の電解還元は、
図4に示す電位-pHグラフに基づいて、pH0.5以下の条件でFe(II)/Fe(III)酸化還元反応が以下の式(11)に従い、標準水素電極(SHE)に対して+0.70Vの酸化還元電位(E
0)で生じる。
FeCl
2
++e
-→Fe
2++2Cl
- E
0=0.70Vvs.SHE ・・・(11)
なお、
図4の電位-pHグラフは、熱力学データベース(NIST Critically Selected Stability Constants of Metal Complexes; NIST Standard Reference Database 46, version 8.0)から抽出したFe
2+、Fe
3+、Cl
-およびH
+に関する各種安定度定数に基づくものである(総Fe濃度:0.1M、総Cl
-濃度:3モル/L、イオン強度:3モル/L、温度:25℃)。
【0071】
式(11)の酸化還元電位(E
0)は、水の電位窓(
図4のグラフの上下2本の破線に挟まれた領域)に収まっていることから、標準水素電極(SHE)に対して+0.7Vから0.0Vの領域における定電位電解では水が電解されることなく式(11)を支配的に進行させることが可能である。
【0072】
また、定電流電解の場合でも陰極液中におけるFe(III)の陰極電極(作用極)21への供給が十分であるうちは水が電解されることなく式(11)を支配的に進行させることが可能である。一方、陰極液のpHが0.5を超えるとFe(III)の加水分解反応の進行によって陰極液中にFe(III)を保持することができなくなるため、陰極液のpHは0.5以下に保つ必要がある。
【0073】
上述した式(11)で示すFe(III)の電解還元反応が陰極電極(作用極)21で進行すると、陽極槽12内の陽極電極(対極)23においても、何らかの酸化反応を進ませる必要がある。反応系を清浄に保つためには、この酸化反応として式(12)に示す水の電解が最も適している。
【0074】
H2O→2H++2e-+1/2O2(g)・・・(12)
上述した式(11)および式(12)を組み合わせることにより、陰極槽11内で生じる正味の反応は式(13)で表される。
【0075】
2FeCl2
++H2O→2Fe2++2H++4Cl-+1/2O2(g)・・・(13)
そして、式(13)の進行に伴い、陽極槽12から陰極槽11に向けて、隔壁13を介してH+が移動する。こうしたH+の移動をスムーズに進行させるため、陽極液は酸性であることが好ましい。しかしながら、陰極液と同様の塩酸水溶液を陽極液として用いると、Cl-の酸化によりCl2の生成(式(14))、およびそれに付随して次亜塩素酸が生成(式(15))するおそれがある。
2Cl-→Cl2+2e-・・・(14)
Cl2+H2O=HCl+HClO・・・(15)
【0076】
このような式(14)、式(15)に示す副生成物の生成は、反応系を清浄に保つ上で望ましくない。よって、陽極電極(対極)23での酸化反応に耐性のある酸性物質を含む陽極液を用いる必要がある。硫酸はこの目的にかなう酸性物質であることから、本実施形態では陽極液として希硫酸を用いている。但し、陰極液への硫酸もしくは硫酸イオンの混入を防ぐことも反応系を清浄に保つ上で重要であるため、陰極槽11と陽極槽12との間に陽イオン交換膜を隔壁13として用いている。
【0077】
なお、反応完了後の陰極液は、減圧乾固によって塩化鉄(II)を回収することができる。例えば、ロータリーエバポレータを用いて反応完了後の陰極液を減圧乾固することで、塩化鉄(II)を回収することができる。
【0078】
以上のような電解還元過程S3-1によって、炭素分離工程S2で得られた塩化鉄(III)を塩化鉄(II)にして、次の加水分解過程S3-2行う。
【0079】
(加水分解過程S3-2:水素、マグネタイト製造反応)
加水分解過程S3-2では、上述した電解還元過程S3-1において、塩化鉄(III)の電解還元反応で生じた塩化鉄(II)と水とを反応させる水素、マグネタイト製造反応を行う。この水素、マグネタイト製造反応における反応温度は、300℃以上、800℃以下、好ましくは400℃以上、600℃以下の範囲であればよい。水素製造工程S3では、こうした反応温度範囲に昇温させるために、例えば、二酸化炭素分解工程S1と同様の熱源を有効利用することも好ましい。
【0080】
水素製造工程S3での塩化鉄(II)と水との反応では、以下の式(16)の反応が生じる。
3FeCl2+4H2O→Fe3O4+6HCl+H2・・・(16)
こうした反応によって得られる水素は、例えば、純度が99%以上といった高純度水素であり、燃料電池自動車(FCV)用の水素ステーション、水素発電、各種工業用水素源として用いることができる。
【0081】
なお、水素製造工程S3で生じた水素は、次の還元剤再生工程S4でもその一部が用いられるが、外部に取り出す水素量を増やすには、炭素分離工程S2でマグネタイト(炭素付着の無いマグネタイト)を追加投入したり、或いは水素製造工程S3で塩化鉄(FeCl2)を追加投入したりして、還元剤再生工程S4で必要な水素よりも水素を多く生成することができ、高純度で低コストな水素源として利用することができる。
【0082】
ただし、追加投入された鉄化合物(マグネタイト、塩化鉄)から水素製造工程S3で生じるマグネタイトを還元剤再生工程S4に供給すると、マグネタイトが過剰となって還元剤再生工程S4の工程負荷が増大する。そのため、水素製造工程S3で生成したマグネタイトから、追加投入した鉄化合物に由来する量は抜き出して、炭素付着の無い状態で炭素分離工程S2に投入することがよい。すなわち、二酸化炭素分解工程S1に必要な量のマグネタイトのみを還元剤再生工程S4に供給し、残りは炭素分離工程S2と水素製造工程S3を循環させることで、二酸化炭素分解工程S1と還元剤再生工程S4に影響を与えることなく、水素製造工程S3で生成する水素の量を増やすことができる。
例えば、本実施形態では、水素製造工程S3で生じたマグネタイトのうち、25質量%を還元剤再生工程S4に供給し、残りの75質量%を炭素分離工程S2に供給している。
【0083】
(還元剤再生工程S4)
還元剤再生工程S4は、水素製造工程S3で生成させた水素とマグネタイトとを反応させることで、マグネタイトに含まれる酸素イオンを離脱(脱酸素(還元)反応)させて、マグネタイトの結晶構造、即ちスピネル型結晶格子構造を保った状態で、マグネタイトの酸素原子の任意の位置が空孔となった酸素欠陥鉄酸化物(Fe3O4-δ(但し、δは1以上4未満))、または酸素完全欠陥鉄を生成する。
【0084】
なお、還元剤再生工程S4に導入されるマグネタイトは、水素製造工程S3で得られたマグネタイトを用いるが、各工程の開始初期段階、および各工程の実施中に減量したマグネタイトの補充は、純粋なマグネタイトに限らず、他の物質を含むものでもよい。
【0085】
外部からマグネタイトを導入する場合のマグネタイトの原料(マグネタイト材)としては、例えば、天然鉱物である砂鉄、製鉄所などで用いられる鉄鉱石に含まれる砂鉄を用いることができる。これらの砂鉄をマグネタイトとして用いることによって、マグネタイトを安価で容易に入手することができる。
また、マグネタイト材としては、ヘマタイト(赤鉄鉱:Fe2O3)、鉄酸化方式の使用済みカイロ(主成分は水酸化鉄)などを用いることもできる。
【0086】
本実施形態のマグネタイトは、BET法による比表面積が0.1m2/g以上、10m2/g以下の範囲、好ましくは0.3m2/g以上、8m2/g以下の範囲、より好ましくは1m2/g以上、6m2/g以下の範囲である。
【0087】
マグネタイトの比表面積が0.1m2/g以上であれば、固気反応に必要な固体と気体の接触面積を確保でき、実用プロセスとして必要な反応速度が得られる。また、マグネタイトの比表面積が10m2/g以下であれば、速い反応速度を確保できると共に、二酸化炭素を分解する時の一酸化炭素の生成割合が低くなり、炭素の回収率を向上させることができる。
【0088】
なお、本実施形態の還元剤再生工程S4によってマグネタイトを還元して得られる還元剤は、還元前のマグネタイトよりも比表面積が大きい。還元剤の比表面積は、0.1m2/g以上、30m2/g以下、好ましくは0.3m2/g以上、25m2/g以下、より好ましくは1m2/g以上、18m2/g以下である。また、還元剤の比表面積は、マグネタイトの比表面積の1倍以上、3倍以下、好ましくは1倍以上、2.5倍以下、より好ましくは1倍以上、2.0倍以下である。
【0089】
また、本実施形態のマグネタイトは、平均粒子径が1μm以上、1000μm以下の範囲、好ましくは1μm以上、20μm未満の範囲、または50μm超え、200μm以下の範囲である。
【0090】
マグネタイトの平均粒子径が1μm以上であれば、二酸化炭素を分解する時の一酸化炭素の生成割合が低くなり、炭素の回収率を向上させることができる。更に、平均粒子径が1μmよりも大きいものにすることで、粒子の凝集性、飛散性が低くなり、流動性、ハンドリング性が良くなるため、反応器壁面への固着現象やクリンカーの形成などのトラブルが回避でき、ロータリーキルンや流動層などの工業用反応装置への適用が可能となる。
また、マグネタイトの平均粒子径が1000μm以下であれば、固気反応に必要な固体と気体の接触面積を確保でき、実用プロセスとして必要な反応速度を得ることができる。
【0091】
また、本実施形態のマグネタイトは、かさ密度が0.3g/cm3以上、3g/cm3以下の範囲、好ましくは0.4g/cm3以上、2g/cm3以下の範囲、より好ましくは0.5g/cm3以上、1g/cm3以下の範囲である。
【0092】
マグネタイトのかさ密度が0.3g/cm3以上であれば、粒子の凝集性、飛散性が低くなり、流動性が良くなるため、ロータリーキルンや流動層などの工業用反応装置への適用が可能となる。また、マグネタイトのかさ密度が3g/cm3以下であれば、粒子間、粒子内の空隙率が確保でき、反応気体が粒子内へ拡散し易くなり、実用プロセスとして必要な反応速度が得られる。
【0093】
還元剤再生工程S4では、例えば、ロータリーキルンや流動層などの固気反応装置を用いて、粉末状のマグネタイトを攪拌しつつ、水素製造工程S3で生成させた水素に接触させることによって、マグネタイトを構成する酸素原子が離脱して水素と反応して水(水蒸気)が生じる。また、酸素原子が離脱したマグネタイトは、マグネタイトの結晶構造、即ちスピネル型結晶格子構造を保った状態で、離脱した酸素原子の位置が空孔となった酸素欠陥鉄酸化物、または酸素完全欠陥鉄となる。
【0094】
還元剤再生工程S4において、マグネタイト材がヘマタイトを含む場合、ヘマタイトは還元されてマグネタイトとなり、さらに還元されて酸素欠陥鉄酸化物または酸素完全欠陥鉄となる。
【0095】
還元剤再生工程S4の反応温度は、300℃以上、450℃以下、好ましくは350℃以上、400℃以下の範囲であればよい。
反応温度が300℃以上であれば、実用プロセスとして必要な反応速度が得られる。また、反応温度が450℃以下であれば、反応する時に還元剤の結晶構造が壊れることなく、高い反応性が維持でき、還元剤が繰り返し使用することができる。かつ反応する時の消費エネルギーを抑えることができる。
還元剤再生工程S4では、こうした反応温度範囲に昇温させるために、例えば、二酸化炭素分解工程S1と同様の熱源を有効利用することも好ましい。
【0096】
還元剤再生工程S4の反応圧力は、0.1MPa以上、5MPa以下、好ましくは0.1MPa以上、1MPa以下の範囲であればよい。
反応圧力が0.1MPa以上であれば、実用プロセスとして必要な反応速度を得ることができ、反応装置のサイズをコンパクトにすることができる。また、反応圧力が5MPa以下であれば、装置の製作コストを抑えることができる。
【0097】
還元剤再生工程S4で用いる水素ガスの濃度は、5体積%以上、100体積%以下の範囲、好ましくは10体積%以上、90体積%以下の範囲であればよい。水素ガスの濃度が例えば90体積%程度であっても、実質的に濃度100体積%の水素ガスと還元能力に大きな差は無い。よって、濃度が100体積%の水素ガスよりもコストが低い濃度が90体積%程度の水素ガスを用いれば、マグネタイトから低コストに還元剤を生成することができる。
【0098】
還元剤再生工程S4でのマグネタイトの水素による還元では、以下の式(17)、(18)のように還元剤が生成される。
Fe3O4+δH2→Fe3O4-δ+δH2O(但し、δ=1以上4未満)・・・(17)
Fe3O4+4H2→3Fe+4H2O・・・(18)
【0099】
ここで、得られた還元剤の活性を維持するため、還元剤再生工程S4から二酸化炭素分解工程S1までのあいだは、還元剤への空気混入等による酸化を防止することが好ましい。例えば、還元剤再生工程S4から二酸化炭素分解工程S1に向けて還元剤を移送する際に、密閉状態として空気混入を防ぎつつ、還元剤を移送可能な構成とすれば、還元剤再生工程S4で得られた還元剤を酸化させることなく二酸化炭素分解工程S1に供給することができる。
【0100】
なお、炭素分離工程S2で生成される炭素の生成効率を高めるために、二酸化炭素分解工程S1と還元剤再生工程S4とを2回以上繰り返し行い、二酸化炭素分解工程S1で生成される炭素付着マグネタイトの炭素濃度を高めてから、炭素分離工程S2および水素製造工程S3を行うこともできる。これにより、より低コストにナノサイズの炭素を製造することができる。
【0101】
以上のような本実施形態の炭素材料および水素の製造方法によれば、マグネタイトの結晶構造が維持され、かつ酸素原子の離脱による原子空孔の多い酸素欠陥鉄酸化物(Fe3O4-δ(但し、δ=1以上4未満))、またはマグネタイトを完全に還元することで得られる、酸素完全欠陥鉄(δ=4)を還元剤として用いて、二酸化炭素を還元することにより、低コストで効率的に二酸化炭素から炭素材料を製造することができる。
【0102】
また、水素製造工程S3を構成する電解還元過程S3-1で塩化鉄(III)を電解還元によって塩化鉄(II)にすることにより、炭素分離工程S2で得られた塩化鉄(III)と塩化鉄(II)の混合物を、高温に加熱して還元するなどコストの掛かる方法によらず、常温で反応させることができる簡易で低コストな方法で、水との反応によって容易に水素を生成させることができる塩化鉄(II)の割合を高めることができる。
【0103】
そして、電解還元過程S3-1で得られた塩化鉄(II)と水とを反応させることによって、低コストで効率的に水を分解して、高純度な水素を製造することができる。こうした水素製造では、マグネタイトの循環量を増やすだけで、容易に水素の生成量を増加させることができ、例えば、次世代製鉄所の水素還元製鉄プロセス、製油所の水素化精製プロセス、二酸化炭素回収・再利用(CCU)技術、水素燃料電池用の水素源、水素発電用の水素源などに幅広く用いることができる。
【0104】
そして、水素製造工程S3で生成したマグネタイトを還元剤再生工程に供給して、水素製造工程で生成させた水素を用いて還元剤を再生することによって、外部からの供給は二酸化炭素と水だけで、二酸化炭素を分解して炭素材料を製造し、また、水を分解して水素を製造するクローズドシステムを構築することができる。
【0105】
こうした各工程の途上で発生する水素と酸素は、それぞれ生成する工程が異なっており、互いに1つの工程内で接触することが無い。例えば、水素は水素製造工程S3で生成され、酸素は炭素分離工程S2で生成され、これらが互いに同一の反応槽などで混在することが無い。これにより、酸素と水素とが接触して爆発的に反応するといった懸念もなく、安定的に各工程の反応を行うことができる。
【0106】
こうした炭素材料および水素の製造方法に用いるマグネタイトは、処理の過程で還元されて還元剤となるなど、その物質形態を変えながら循環利用されるので、ロス分以外外部からマグネタイトを供給しなくても、低コストに炭素および水素の製造を行うことができる。
【0107】
また、炭素分離工程S2において、表面に炭素が付着したマグネタイトを塩酸(塩化水素の水溶液)で溶解して塩酸に不溶性の炭素を分離させることで、粒子径が1μm以下のナノサイズの炭素材料を得ることができる。
【0108】
また、二酸化炭素分解工程S1、炭素分離工程S2、水素製造工程S3、還元剤再生工程S4において、例えば、製鉄所、火力発電所、セメント工場、ゴミ焼却施設などの稼働に伴って発生した熱(排熱)を、反応時の熱源として有効利用することで、排熱の大気中への放出量を抑制でき、温暖化防止に寄与する。また、再生可能エネルギー由来の電気・蓄熱、及び高温の熱を取り出せる原子炉である高温ガス炉の熱エネルギーを有効利用することで、CO2の発生を抑制でき、カーボンニュートラルや脱炭素社会の実現に寄与する。
【0109】
以上、本発明の実施形態を説明したが、こうした実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0110】
例えば、上述した実施形態では、マグネタイトの一般的な組成をFe3O4としているが、こうしたマグネタイトは、他の物質、例えば、チタン(Ti)などが含まれている砂鉄であってもよい。こうした他の物質、例えば、チタンは、触媒として二酸化炭素の還元に寄与している可能性がある。
【実施例0111】
以下、本発明の炭素および水素の製造方法のうち、電解還元過程S3-1の効果を検証した。
検証にあたって、
図4に示す構成の電解装置を用意した。
条件は以下の通りである。
(1)温度:25℃。
(2)圧力:大気圧(1気圧)。
(3)陰極液:アルゴン雰囲気下において濃度2モル/Lの塩酸水溶液60mL中に、Fe
3+の濃度20.7モル/Lとなるようにマグネタイトを溶解したものを用いた。pHは0.4以下になるように保った。
(4)陽極液:濃度1モル/Lの希硫酸水溶液を用いた。
(5)陰極電極(作用極):炭素棒(φ6mm:有効電極面積9.7cm
2)を用いた。
(6)陽極電極(対極):白金線を用いた。
(7)参照電極:銀/塩化銀電極(Ag/AgCl, SHEに対して+0.199 V)を用いた。
(8)隔壁:ナフィオン(登録商標)膜を用いた。
(9)陰極槽の雰囲気:アルゴンガス雰囲気とした。
(10)陰極電極への印加電位:標準水素電極(SHE)に対して+0.7V~0.0Vの範囲(参照電極に対して+0.5V~-0.2Vの範囲)とした。
【0112】
上述した条件で、0秒~54000秒経過までの電流値および電気量の変化を測定した。この結果を
図5に示す。本検証例で用いたFe(III)の物質量は1.242mmolであることから、上記の式(1)の反応完了に必要となる理論電気量は119.85Cである。これに対し、
図5に示す電解終了時までに消費された電気量は119.66Cであることから、式(1)の電解還元反応が99.8%完了したと考えられる。反応完了後の陰極液を、ロータリーエバポレータを用いて減圧乾固したところ、0.1833gの淡緑色粉末が得られた。
【0113】
次に、この淡緑色粉末をX線回折装置(XRD)を用いて解析した。この結果を
図6に示す。なお、
図6の上側の線が今回の測定結果、下側の線がFeCl
2・2H
2Oの文献値である。
図6に示す結果によれば、得られた淡緑色粉末のピークパターンは、FeCl
2・2H
2Oの既知のピークパターンと近似したピークを有している。よって、式(1)に示した電解還元反応が支配的かつ定量的に進行することを確認できた。
本発明は、二酸化炭素および水を用いて、炭素材料と水素とを低コストで効率的に生成することができる。例えば、製鉄プラント、火力発電所、セメント製造プラント、ゴミ焼却施設など、二酸化炭素、および排熱を多く排出するプラント等に適用することで、二酸化炭素の排出削減、水素の有効利用と、これに付随してナノサイズの炭素などの高付加価値の炭素材料の製造を行うことができる。したがって、産業上の利用可能性を有する。