(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077353
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】清涼性生地及びこれを用いた清涼性衣料
(51)【国際特許分類】
D04B 1/14 20060101AFI20240531BHJP
D03D 15/217 20210101ALI20240531BHJP
D03D 15/56 20210101ALI20240531BHJP
D06M 14/04 20060101ALI20240531BHJP
D06M 13/203 20060101ALI20240531BHJP
D02G 3/04 20060101ALI20240531BHJP
A41D 31/00 20190101ALI20240531BHJP
A41D 31/04 20190101ALI20240531BHJP
A41D 31/18 20190101ALI20240531BHJP
D06M 101/06 20060101ALN20240531BHJP
【FI】
D04B1/14
D03D15/217
D03D15/56
D06M14/04
D06M13/203
D02G3/04
A41D31/00 502A
A41D31/00 503B
A41D31/04 F
A41D31/18
D06M101:06
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189406
(22)【出願日】2022-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】小山田 亮
(72)【発明者】
【氏名】山形 啓祐
【テーマコード(参考)】
4L002
4L033
4L036
4L048
【Fターム(参考)】
4L002AA01
4L002AA02
4L002AB01
4L002AC01
4L002BA00
4L002EA03
4L002FA01
4L002FA03
4L033AA02
4L033AB01
4L033AC15
4L033BA19
4L036MA09
4L036MA35
4L036MA39
4L036MA40
4L036PA26
4L036PA31
4L036UA06
4L048AA07
4L048AA51
4L048AA54
4L048AB05
4L048AB12
4L048AC12
4L048AC15
4L048CA04
4L048CA07
4L048DA01
(57)【要約】
【課題】天然セルロース系繊維がリッチで、特に肌着用途に適した清涼性生地および当該清涼性生地を用いた清涼性衣料を提供する。
【解決手段】本発明の吸湿性生地は、吸放湿加工された天然セルロース系繊維(a1)と吸放湿加工されていないセルロース系繊維(a2)を含む混紡紡績糸(A)を含む清涼性生地であり、前記繊維(a2)は、吸放湿加工されていない天然セルロース系繊維を含み、前記紡績糸(A)は撚り係数Kが3.6以上の糸であり、前記紡績糸(A)のうちの前記吸放湿加工された天然セルロース系繊維(a1)に代えて吸放湿加工がなされていない天然セルロース系繊維を含むこと以外は前記清涼性生地と同一の生地Xの吸湿率と、前記清涼性生地の吸湿率との比が1.10以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸放湿加工された天然セルロース系繊維(a1)と吸放湿加工されていないセルロース系繊維(a2)を含む混紡紡績糸(A)を含む清涼性生地であり、
前記繊維(a2)は、吸放湿加工されていない天然セルロース系繊維を含み、
前記混紡紡績糸(A)は、撚り係数Kが3.6以上の糸であり、
前記清涼性生地の吸湿率と、前記混紡紡績糸(A)のうちの前記吸放湿加工された天然セルロース系繊維(a1)に代えて吸放湿加工がなされていない天然セルロース系繊維を含むこと以外は前記清涼性生地と同一の生地Xの吸湿率との比が1.10以上である、清涼性生地。
【請求項2】
弾性糸をさらに含む、請求項1に記載の清涼性生地。
【請求項3】
前記清涼性生地における前記弾性糸の含有量が5質量%以下である、請求項2に記載の清涼性生地。
【請求項4】
前記清涼性生地を100質量%とすると、前記吸放湿加工された天然セルロース系繊維(a1)の含有量が5質量%以上40質量%以下である、請求項1に記載の清涼性生地。
【請求項5】
前記混紡紡績糸(A)における前記吸放湿加工された天然セルロース系繊維(a1)の混紡割合が、3質量%以上50質量%以下である、請求項1に記載の清涼性生地。
【請求項6】
前記吸放湿加工していないセルロース系繊維(a2)は、再生セルロース繊維を更に含む、請求項1に記載の清涼性生地。
【請求項7】
前記吸放湿加工した天然セルロース系繊維(a1)は、天然セルロース系繊維にエチレン性不飽和二重結合を含む化合物がグラフト結合された繊維である、請求項1に記載の清涼性生地。
【請求項8】
前記吸放湿加工した天然セルロース系繊維(a1)におけるグラフト率が、1%以上40%以下である、請求項7に記載の清涼性生地。
【請求項9】
前記清涼性生地の放湿速度と前記生地Cの放湿速度との比が、1.03以上である、請求項1に記載の清涼性生地。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の清涼性生地を含む清涼性衣料。
【請求項11】
前記清涼性衣料はインナー衣料であり、シャツ又はパンツである請求項9に記載の清涼性衣料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、清涼性生地及びこれを用いた清涼性衣料に関する。
【背景技術】
【0002】
綿繊維に代表される天然セルロース繊維は、環境に優しく、しかも風合いや染色性、吸水性等にも優れているため、種々の衣料に幅広く使用されている。しかし、綿(コットン)の下着は、吸汗性に優れるために大量の汗を吸収するが、肌にべたつき、貼り付き、汗処理機能が十分でないという欠点がある。この欠点を改良するために、特許文献1は、強撚糸を使用した下着を提案している。
【0003】
特許文献1は、具体的には、レーヨン等のセルロースマルチフィラメントと特定の異形度を有する合成繊維マルチフィラメントとからなり、繊度比(D1/D2)、セルロースマルチフィラメントを構成するフィラメントの単繊維度、およびセルロースマルチフィラメントの表面占有率を、各々特定の範囲の値とした、清涼編み地を開示している。特許文献1には、上記清涼編み地は、セルロース表面占有率が高く、吸湿性、汗処理機能に優れ、独特のシャリ感、肌触りを有していると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、コットン等の天然セルロース系繊維がリッチな製品を求める声も多く存在し、合成繊維の使用量が少ないか、または実質用いずとも、さらりとした肌触りをもつ生地、特に肌着用途の生地が求められている。
本発明は、天然セルロース系繊維がリッチで、特に肌着用途に適した清涼性生地および当該清涼性生地を用いた清涼性衣料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、一態様において、
吸放湿加工された天然セルロース系繊維(a1)と吸放湿加工されていないセルロース系繊維(a2)を含む混紡紡績糸(A)を含む清涼性生地であり、
前記繊維(a2)は、吸放湿加工されていない天然セルロース系繊維を含み、
前記混紡紡績糸(A)は、撚り係数Kが3.6以上の糸であり、
前記清涼性生地の吸湿率と、前記混紡紡績糸(A)のうちの前記吸放湿加工された天然セルロース系繊維(a1)に代えて吸放湿加工がなされていない天然セルロース系繊維を含むこと以外は前記清涼性生地と同一の生地Xの吸湿率との比が1.10以上である、清涼性生地に関する。
【0007】
本発明は、一態様において、本発明の清涼性生地を含む清涼性衣料に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、天然セルロースがリッチで、特に肌着用途に適した清涼性生地および当該清涼性生地を用いた清涼性衣料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態におけるインナー衣料の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[清涼性生地]
本発明の清涼性生地は、吸放湿加工された天然セルロース系繊維(a1)と吸放湿加工されていないセルロース系繊維(a2)で構成された混紡紡績糸(A)を主たる構成糸として含む。混紡紡績糸(A)は、単糸、双糸または3本交撚糸のいずれであってもよい。前記吸放湿加工された天然セルロース系繊維(a1)は、例えば、天然セルロース系繊維に、放射線照射等の方法を用いてカルボキシル基等の親水基を導入する処理がなされた繊維であり、一方、前記吸放湿加工されていないセルロース系繊維(a2)は、前記処理がなされていない、通常のセルロース系繊維である。
【0011】
木綿(コットン)等の天然セルロース系繊維はもともと吸湿発熱性を有するが(本宮達也ら著「繊維の百科事典」830頁左欄、2002年3月25日、丸善)、混紡紡績糸(A)が、吸放湿加工された天然セルロース系繊維(a1)を含むことで、生地の吸湿発熱性だけでなく吸放湿性が向上しており、本発明の清涼性生地は、下記吸湿率比が1.10以上となる、優れた吸放湿特性を備える。加えて、混紡紡績糸(A)は、撚り係数が3.6以上の強撚糸であるので、生地は肌離れが良い。このように、本発明の清涼性生地は、水分の吸放湿特性が優れており、さらりとした着心地で、肌着用途に適している。
【0012】
尚、上記吸湿率比とは、本発明の清涼性生地の吸湿率と、前記混紡紡績糸(A)のうちの前記吸放湿加工された天然セルロース系繊維(a1)に代えて吸放湿加工がされていない天然セルロース系繊維を含むこと以外は前記清涼性生地と同一の生地Xの吸湿率との比(本発明の清涼性生地の吸湿率/生地Xの吸湿率)である。
【0013】
「前記混紡紡績糸(A)のうちの前記吸放湿加工された天然セルロース系繊維(a1)に代えて吸放湿加工がなされていない天然セルロース系繊維を含むこと以外は前記清涼性生地と同一の生地X」において、「吸放湿加工がなされていない天然セルロース系繊維」は、「前記吸放湿加工された天然セルロース系繊維(a1)」の調製に使用される、吸放湿加工がされる前の天然セルロース系繊維を意味する。故に、本発明の清涼性生地と生地Xの、織り又は編み組織、後述する弾性糸の有無およびその含有量、吸放湿加工されていないセルロース系繊維(a2)の組成等は同一である。また、前記混紡紡績糸(A)と、生地Xを構成する混紡紡績糸の撚り係数Kは等しい。
【0014】
例えば、本発明の清涼性生地の一例を構成する糸が、弾性糸5質量%と混紡紡績糸(A)95質量%であり、前記混紡紡績糸(A)は、吸放湿加工されたコットン(a1)10質量%と吸放湿加工されていないコットン(a2)90質量%とからなる混紡紡績糸(A1)である場合、前記生地Xを構成する糸は下記の通りである。
・弾性糸5質量%
・前記混紡紡績糸(A1)のうちの吸放湿加工がされたコットン(a1)を、吸放湿加工がされる前のコットン(通常のコットン)に置き換えた混紡紡績糸(B1)95質量%
【0015】
例えば、本発明の清涼性生地の一例を構成する糸が、混紡紡績糸(A)100質量%であり、前記混紡紡績糸(A)は、吸放湿加工されたコットン(a1)10質量%と吸放湿加工されていないコットン(a2)90質量%とからなる混紡紡績糸(A1)である場合、前記生地Xを構成する糸は下記の通りである。
・前記混紡紡績糸(A1)のうちの吸放湿加工がされたコットン(a1)を、吸放湿加工がされる前のコットン(通常のコットン)に置き換えた混紡紡績糸(B1)100質量%
【0016】
前記吸湿率比(本発明の清涼性生地の吸湿率/生地Xの吸湿率)は、1.10以上であるが、好ましくは1.15以上であり、放湿特性との両立の観点から、好ましくは4.00以下である。
【0017】
前記混紡紡績糸(A)の撚り係数Kは、清涼性向上の観点から、3.6以上、好ましくは4.0以上であり、紡績糸の品質の観点から、好ましくは8.5以下、より好ましくは8.0以下である。撚り係数Kは次の式によって求めることができる。
K=t/√S
但し、t:1インチ(2.54cm)当たりの撚り数、S:英国式番手(基準重量1ポンド(0.4536kg)での単位長さ840ヤード(0.9144m)の倍数)である。
【0018】
本発明の清涼性生地の放湿速度と前記生地Xの放湿速度との比(本発明の清涼性生地の放湿速度/生地Xの放湿速度、以下「放湿速度比」と言う場合がある。)は、好ましくは1.03以上、より好ましくは1.05以上であり、吸湿性との両立の理由から、好ましくは4.00以下である。
【0019】
本発明の清涼性生地は、一態様において、混紡紡績糸(A)の他に、弾性糸(C)を含んでいてもよい。この場合、清涼性生地を100質量%としたとき、両糸の質量割合は、好ましくは、混紡紡績糸(A)が85~95質量%、弾性糸(C)が5~15質量%である。これにより適度な吸放湿性を具備し、かつ洗濯を繰り返しても型崩れしにくい清涼性衣料を実現できる。同様の観点から、混紡紡績糸(A)と弾性糸(C)の質量割合は質量%で、より好ましくは88(混紡紡績糸(A)):12(弾性糸(C))~95:5であり、さらに好ましくは90:10~94:6である。
【0020】
また、混紡紡績糸(A)における、吸放湿加工された天然セルロース系繊維(a1)の質量割合を、好ましくは3~50質量%とすることで、吸放湿加工による天然セルロース系繊維の傷み(強度劣化)を、吸放湿加工されていないセルロース系繊維(a2)により補うことができる。清涼性生地を100質量%としたとき、吸放湿加工された天然セルロース系繊維(a1)の質量割合は、より好ましくは3~40質量%、さらに好ましくは4~35%、さらにより好ましくは5~30質量%である。
【0021】
吸放湿加工された天然セルロース系繊維(a1)は、エチレン性不飽和二重結合を含む化合物がグラフト結合されている天然セルロース系繊維が好ましい。エチレン性不飽和二重結合を含む化合物は、例えば、1つのエチレン性不飽和二重結合と、1つまたは2つのカルボキシ基(-COOH)とを含む化合物が挙げられる。具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸及びフマル酸から選ばれる少なくとも一つのカルボン酸、又はこれらのエステル若しくは塩であることが好ましい。これらの化合物をコットン等の天然セルロース系繊維の表面に化学結合させると、耐洗濯性のある吸放湿機能を付与できる。
【0022】
前記グラフト結合は、電子線を照射することにより、天然セルロース系繊維表面にラジカル(反応活性種)を発生させる反応、発生したラジカルに官能基(-OH、-NH2等)を含むエチレン性不飽和二重結合を有する化合物を接触させることで天然セルロース系繊維の表面に当該化合物をグラフト結合する反応、前記活性種が前記化合物のカルボキシ基と反応して共有結合する反応等、様々な反応が関与して形成される。エチレン性不飽和二重結合を含む化合物は天然セルロース系繊維に対して1~40質量%の範囲付与されているのが好ましく、より好ましくは3~35質量%付与され、さらに好ましくは5~30質量%付与されている。前記の範囲であれば、吸放湿加工されていないセルロース系繊維(a2)と混紡しても吸放湿機能を発揮できる。
【0023】
前記吸放湿加工された天然セルロース系繊維(a1)におけるグラフト率は、好ましくは1~40wt%、より好ましくは3~35wt%、さらに好ましくは5~30wt%である。繊維との接触に使用される前記エチレン性不飽和二重結合を有する化合物の使用量は、グラフト率が上記範囲内の値となるような量であると好ましい。
なお、グラフト率(owf%)は、加工前後の質量差より算出する質量の増加率(wt%)であり、下記の計算式により算出できる。Owfは、on the weight of fiberの略である。下記式中、Wgは加工後の天然セルロース系繊維の質量であり、W0は加工前の天然セルロース系繊維質量である。
グラフト率(owf%)=(Wg-W0)/W0×100
【0024】
混紡紡績糸(A)において、好ましくは、吸放湿加工された天然セルロース系繊維(a1)は3~50質量%であり、吸放湿加工されていないセルロース系繊維(a2)は50~97質量%である。より好ましくは、吸放湿加工された天然セルロース系繊維(a1)は3~40質量%であり、吸放湿加工されていないセルロース系繊維(a2)は60~97質量%である。さらに好ましくは、吸放湿加工された天然セルロース系繊維(a1)は4~35質量%であり、吸放湿加工されていないセルロース系繊維(a2)は65~96質量%である。さらにより好ましくは、吸放湿加工された天然セルロース系繊維(a1)は5~30質量%であり、吸放湿加工されていないセルロース系繊維(a2)は70~95質量%である。
【0025】
吸放湿加工された天然セルロース系繊維(a1)の調製の際に、吸放湿加工の対象となる天然セルロース系繊維としては、コットン(木綿)、麻等が挙げられるが、好ましくはコットンである。一方、吸放湿加工されていないセルロース系繊維(a2)は、天然セルロース系繊維を含むが、天然セルロース系繊維の他、化学繊維が含まれていてもよく、例えば、コットンの他、レーヨンなどの再生セルロース繊維が含まれていてもよい。より具体的には、吸放湿加工されていないセルロース系繊維(a2)は、好ましくは、コットンのみからなるか、またはコットンとレーヨンとからなる。
【0026】
本発明の清涼性生地は、肌着等のインナー衣料に好適に使用される生地であることから、清涼性生地中のコットンの含有量は、好ましくは85質量%以上、より好ましくは88質量%以上、更に好ましくは90質量%である。
【0027】
本発明の清涼性生地は編み物又は織物が好ましい。編み物及び織物はインナー衣料にするのに好適である。とくに編み物は伸縮性があり、柔軟でインナー衣料に好適である。編み物は、丸編、緯編、経編(トリコット編、ラッセル編を含む)、パイル編等を含み、平編、天竺編、リブ編、スムース編(両面編)、ゴム編、パール編、デンビー組織、コード組織、アトラス組織、鎖組織、挿入組織、及びこれらを組み合わせた織物等いずれの織組織でもよい。編地を作製するには種々の交編方法が用いられる。交編編地は、経編みでも緯編みでもよく、例えば、トリコット、ラッセル、丸編み等が挙げられる。また編組織は、ハーフ編み、逆ハーフ編み、ダブルアトラス編み、ダブルデンビー編み、及びこれらを組み合わせた編み物等いずれの編組織でもよい。織物組織としては、平織、斜文織、朱子織、変化平織、変化斜文織、変化朱子織、変わり織、紋織、片重ね織、二重組織、多重組織、経パイル織、緯パイル織、絡み織、またはこれらを組み合わせた組織がある。この中でも丸編みを含む緯編み生地、又は経編み生地が好ましい。
【0028】
本発明の清涼性生地の単位面積当たりの質量は80~300g/m2が好ましく、より好ましくは90~250g/m2であり、さらに好ましくは100~200g/m2である。前記の範囲であればインナー衣料として好適である。
【0029】
前記弾性糸は、ポリウレタン糸及び異なる収縮率を持つ少なくとも2種類のポリマーを複合紡糸したコンジュゲート糸から選ばれる少なくとも一つであるのが好ましい。ポリウレタン弾性糸は、ポリマージオールおよびジイソシアネートを出発物質とするものであれば任意のものでよく、特に限定されるものではない。前記コンジュゲート糸とは、異なる収縮率を持つ少なくとも2種類のポリマーを複合紡糸したコンジュゲート糸であり、原糸の段階からクリンプ(捲縮)を発現しているが、熱が加わることにより、さらに大きいクリンプ(捲縮)を発現する。具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)とポリトリメチレンテレフタレート(PTT)とのコンジュゲート糸(バイコンポーネント糸)が好ましい。このような潜在捲縮型ストレッチ糸として、例えば東レ・オペロンテックス社製、商品名"ライクラT400"、KBセーレン社製、商品名"エスパンディ"、ユニチカ社製、商品名"Z10"などがある。通常使用される弾性糸はポリウレタン糸である。
【0030】
緯編み生地、丸編み生地の場合、スパンデックス裸糸(弾性糸)をループ糸の添え糸として入れることが好ましく、経編み生地の場合、スパンデックス裸糸(弾性糸)を挿入組織、又は緯糸挿入によって入れる。いわゆるインナー衣料の場合は、通常丸編みが採用され、弾性糸、特に、ポリウレタン弾性糸は、ループ糸の添え糸として用いられる。ポリウレタン弾性糸は、通常20~40decitexの糸が2.5倍程度に引き延ばされた状態で添え糸として挿入される。
【0031】
本発明の吸放湿性生地は、これを用いて作製された衣料において弾性糸を身体の周囲方向に沿って配置させることができる、いわゆるワンウェイストレッチ生地が好ましい。身体の周囲方向とは、胴体の周囲方向、及び腕の周囲方向のことである。弾性糸をこのように配置すれば、着心地が良く、洗濯を繰り返しても型崩れしにくいインナー衣料となる。この衣料は、具体的には、シャツ又はパンツが好ましい。本発明の清涼性衣料は、好ましくはコットンが85質量%以上、より好ましくは88質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上含む、肌にやさしいインナー衣料である。
【0032】
[清涼性生地の製造方法]
次に本発明の清涼性生地の製造方法について、天然セルロース系繊維としてコットンを使用した場合を例示して説明する。
【0033】
天然セルロース系繊維への吸放湿加工は例えば以下のようにして行う。
紡績用コットンスライバーに対して、連続法の場合は窒素雰囲気下で電子線を照射し、コットン繊維表面にラジカルを発生させ、直後に連続的にエチレン性不飽和二重結合を含む化合物をコットン繊維の表面に接触させる。電子線照射直後にエチレン性不飽和二重結合を含む化合物をコットン繊維の表面に接触させるのは、電子線照射により発生したラジカルを減衰させないためである。ラジカルは時間とともに減衰する傾向が高いので、電子線照射直後にエチレン性不飽和二重結合を含む化合物をコットン繊維の表面に接触させるのが好ましい。また、電子線照射後、エチレン性不飽和二重結合を含む化合物をコットン繊維の表面に接触させることを連続的に行うのは、エチレン性不飽和二重結合を含む化合物をコットン繊維の表面に発生したラジカルに効果的に接触できるためである。連続的に行うことは、長尺物の紡績用スライバーを処理するのに好都合である。窒素雰囲気下で電子線を照射すると、発生したラジカルが失活しにくいので好ましい。
【0034】
エチレン性不飽和二重結合を含む化合物をコットン繊維の表面に接触させる方法は、浸漬法又はスプレー法等、いかなる方法でも良い。例えば、エチレン性不飽和二重結合を含む化合物の水溶液を調製し、当該水溶液に、スライバーを浸漬させるかまたは、スライバーにスプレーする方法が好ましい。
【0035】
本発明においては、吸放湿加工された紡績用スライバーと、吸放湿加工されていない(未加工の)紡績用スライバーとを混紡し精紡することにより、吸放湿機能を有する混紡紡績糸(A)が得られる。混紡は、通常は、複数のスライバーを併合するダブリングを行い、繊維の方向性と太さを均整化する練条工程で行うのが好ましい。しかし、梳綿工程(カード)、粗紡工程、精紡工程でも可能であり、ウエブ、スライバー、フリース、または粗紡糸を複数本引き揃え、所定倍率引き伸ばすことにより混紡できる。粗紡工程や精紡工程では、撚り掛けする際に構成繊維のマイグレーションにより混紡できる。さらには、吸放湿加工後の紡績用スライバーを混打綿工程まで戻して所望の混紡割合にすることも可能である。
【0036】
このようにして、前記吸放湿加工されたコットンと吸放湿加工されていないコットンを混紡した後は、常法に従い撚りをかけ、混紡紡績糸(A)とする。前記混紡紡績糸(A)のみ、または前記混紡紡績糸(A)と弾性糸(C)を各々所定量使用して、清涼性生地を作製する。この生地に対して、常法にしたがい、晒、染色、柔軟仕上げなどの後加工することは任意である。
【0037】
[清涼性衣料]
図1は本発明の一実施形態におけるインナー衣料1の正面図である。このインナー衣料1は長袖シャツの例である。身体の周囲方向、すなわち胴体の周囲方向(矢印2)、及び腕の周囲方向(矢印3)には弾性糸が配置されている。
【実施例0038】
以下実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。なお本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0039】
<吸放湿性試験>
吸放湿性試験として、一般財団法人ボーケン品質評価機構において、評価項目「吸放湿性試験(ボーケン規格:BQE A 034)」を実施した。具体的には、下記の通りである。
試験片(10cm×10cm)を、初期条件ボックス(25℃・40%RH)内で調湿後、吸湿ボックス(25℃・80%RH)に移動し、試験片の質量が平衡に達するまで、吸湿ボックス(25℃・80%RH)内に置く。その後、初期条件ボックス(25℃・40%RH)に戻し、試験片の質量が平衡に達した時点で、試験片の質量の測定を終了する。この間、10秒毎に試験片の質量を計測する。計測結果から吸湿量、吸湿率、初期条件ボックスに戻してから5分経過の単位質量当たり放湿速度を算出する。結果は表1に示した。
【0040】
(実施例1)
以下のようにして、実施例1の清涼性編み物を作製した。
<スライバーの処理>
コットンスライバー(単位長さあたりの質量、単位ゲレン:25.0g/6yd(4.6g/m))に対し、エレクトロカーテン型電子線照射装置EC250/30/90L(岩崎電気社製)を使用して、窒素雰囲気下で電子線を照射線量40kGy、加速電圧200kVで照射した。電子線が照射されたスライバーをその直後に0.5重量%の浸透剤を含有するアクリル酸(ナカライテスク株式会社製)の16質量%水溶液に浸漬し、マングルでスライバー重量に対して約100質量%のピックアップ率となるように絞った。その後、連続して未反応のアクリル酸を除去するため前記スライバーを水洗した後、80℃で乾燥し、容器にコイリングして収納した。このようにして得られたアクリル酸グラフト化コットンスライバーを、以下、“処理コットン”と呼ぶ。この処理コットンにはアクリル酸が16質量%結合していた。また、上記コットンスライバー(単位長さあたりの質量、単位ゲレン:25.0g/6yd(4.6g/m))を“未処理コットン”と呼ぶ。
【0041】
<紡績糸>
前記処理コットンと前記未処理コットンとを混打綿工程で混紡し、綿番手40番、撚り係数Kが4.0の糸を紡績した。混紡紡績糸中の前記処理コットンの質量割合が10質量%、前記未処理コットンの質量割合が90質量%となるようにした。
【0042】
<編み物の編成>
前記混紡紡績糸を用いて筒編み生地を作成し、この生地を実施例1とした。当該生地の単位面積当たりの質量は、163g/m2であった。
【0043】
(比較例1)
前記処理コットンの代わりに前記未処理コットンを使用した。それ以外は、実施例1と同様の条件で紡績糸を作製し、比較例1の生地を作成した。
比較例1の生地について、実施例1と同様に吸放湿性試験を行い、その結果を表1に示した。
【0044】
【0045】
表1から明らかなとおり、実施例1は吸湿率および放湿速度が比較例1よりも大きいことが分かる。実施例1の生地を用いて
図1に示した男性向けの肌着を作製したところ、吸湿率と放湿速度に優れており、加えて、撚り係数Kが3.6以上の強撚糸で作製されているため、さらりとした着心地の清涼性肌着であることが確認できた。