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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077376
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】極低温吸着器および極低温装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/04 20060101AFI20240531BHJP
【FI】
B01D53/04 600
B01D53/04 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189439
(22)【出願日】2022-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】出村 健太
【テーマコード(参考)】
4D012
【Fターム(参考)】
4D012BA03
4D012CA20
4D012CB05
4D012CH10
4D012CK05
4D012CK07
4D012CK08
(57)【要約】
【課題】低コストで製造可能な極低温吸着器を提供する。
【解決手段】極低温吸着器100は、吸着材102と、吸着材102を非接着状態で機械的に保持するとともに吸着材102と熱的に結合される吸着材ホルダ104と、を備える。吸着材ホルダ104は、吸着材102を収容する吸着材チャンバ106を形成し、吸着材チャンバ106内で吸着材102を機械的に保持してもよい。極低温吸着器100は、真空容器内の真空環境32から仕切られた真空領域34に配置されてもよい。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着材と、
前記吸着材を非接着状態で機械的に保持するとともに前記吸着材と熱的に結合される吸着材ホルダと、を備えることを特徴とする極低温吸着器。
【請求項2】
前記吸着材ホルダは、前記吸着材を収容する吸着材チャンバを形成し、前記吸着材チャンバ内で前記吸着材を機械的に保持することを特徴とする請求項1に記載の極低温吸着器。
【請求項3】
前記吸着材ホルダは、前記吸着材チャンバ内で前記吸着材ホルダと前記吸着材の間に挟み込まれた緩衝材を備えることを特徴とする請求項2に記載の極低温吸着器。
【請求項4】
前記緩衝材は、前記吸着材を前記吸着材ホルダに押し付けるように構成されていることを特徴とする請求項3に記載の極低温吸着器。
【請求項5】
前記緩衝材は、前記吸着材ホルダと前記吸着材の熱的結合を支援するように構成されていることを特徴とする請求項3に記載の極低温吸着器。
【請求項6】
真空容器内の真空環境に配置され、前記真空容器内で前記真空環境から仕切られた真空領域を定める仕切壁と、
前記真空領域に配置された極低温吸着器と、を備え、
前記極低温吸着器は、
吸着材と、
前記吸着材を非接着状態で機械的に保持するとともに前記吸着材と熱的に結合される吸着材ホルダと、を備えることを特徴とする極低温装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極低温下でガスを吸着可能な極低温吸着器、およびこれを備える極低温装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、真空容器内でガスを吸着して真空度を高めるために、吸着材として活性炭を搭載したクライオパネルが知られている。活性炭は、接着剤によりクライオパネルに接着され固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-76713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のクライオパネルの製造には、活性炭の接着工程が必須である。接着工程では、クライオパネルに接着剤が塗布され、そこに活性炭が配置される。接着剤の硬化には比較的長い時間(例えば24時間程度)を要する。その間活性炭はクライオパネル上で大気にさらされ、空気中の水蒸気を吸着することになる。そこで、多くの場合、活性炭の「再生」が接着工程後に行われる。再生は、活性炭の吸着能力を初期の水準まで回復させるために、活性炭が接着されたクライオパネルを真空炉内で加熱しながら真空排気して、吸着された水蒸気を除去する処理である。このように、従来のクライオパネルの製造には、手間とコストがかかる。
【0005】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、低コストで製造可能な極低温吸着器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によると、極低温吸着器は、吸着材と、吸着材を非接着状態で機械的に保持するとともに吸着材と熱的に結合される吸着材ホルダと、を備える。
【0007】
本発明のある態様によると、極低温装置は、真空容器内の真空環境に配置され、真空容器内で真空環境から仕切られた真空領域を定める仕切壁と、真空領域に配置された極低温吸着器と、を備える。極低温吸着器は、吸着材と、吸着材を非接着状態で機械的に保持するとともに吸着材と熱的に結合される吸着材ホルダと、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低コストで製造可能な極低温吸着器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態に係る極低温システムを概略的に示す図である。
図2】実施の形態に係る極低温吸着器を概略的に示す図である。
図3図3(a)および図3(b)は、変形例に係る極低温吸着器を概略的に示す図である。
図4】別の変形例に係る極低温吸着器を概略的に示す図である。
図5】実施の形態に係る極低温装置の一例を概略的に示す図である。
図6】実施の形態に係る極低温装置の他の一例を概略的に示す図である。
図7】実施の形態に係る極低温装置の他の一例を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。説明および図面において同一または同等の構成要素、部材、処理には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施の形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0011】
図1は、実施の形態に係る極低温システム10を概略的に示す図である。極低温システム10は、被冷却物の一例としての超伝導コイル12を周囲温度(例えば室温)から極低温に冷却するとともに、超伝導コイル12の使用中、超伝導コイル12を極低温に維持するように構成される。
【0012】
超伝導コイル12は、例えば単結晶引き上げ装置、NMR(Nuclear Magnetic Resonance)システム、MRI(Magnetic Resonance Imaging)システム、サイクロトロンなどの加速器、核融合システムなどの高エネルギー物理システム、またはその他の高磁場利用機器(図示せず)の磁場源として高磁場利用機器に搭載され、その機器に必要とされる高磁場を発生させることができる。超伝導コイル12は、超伝導転移温度以下の極低温に冷却された状態で超伝導コイル12に通電することにより強力な磁場を発生するように構成される。
【0013】
極低温システム10は、極低温冷凍機20と、真空容器30と、輻射シールド40とを備える。この実施の形態では、極低温システム10は、超伝導コイル12を極低温冷凍機20で直接冷却する伝導冷却式として構成される。極低温冷凍機20は、超伝導コイル12を伝導冷却により冷却するように超伝導コイル12と熱的に結合されている。なお、極低温システム10は、超伝導コイル12を液体ヘリウムなどの極低温液体冷媒に浸して冷却する浸漬冷却式として構成されてもよい。
【0014】
極低温冷凍機20は、物体を伝導冷却により冷却する冷却ステージ22、より具体的には、第1冷却ステージ22aと第2冷却ステージ22bを備える。極低温冷凍機20は、真空容器30に設置され、第1冷却ステージ22aと第2冷却ステージ22bは、真空容器30の中に配置される。極低温冷凍機20は、一例として、二段式のギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon;GM)冷凍機である。
【0015】
極低温冷凍機20は、作動ガス(たとえばヘリウムガス)の圧縮機(図示せず)と、コールドヘッドとも呼ばれる膨張機とを備え、圧縮機と膨張機により極低温冷凍機20の冷凍サイクルが構成され、それにより第1冷却ステージ22aおよび第2冷却ステージ22bがそれぞれ所望の極低温に冷却される。第1冷却ステージ22aは、第1冷却温度、例えば30K~80Kに冷却され、第2冷却ステージ22bは、第1冷却温度よりも低い第2冷却温度、例えば3K~20Kに冷却される。第2冷却温度は、超伝導コイル12の超伝導転移温度より低い温度である。第1冷却ステージ22aおよび第2冷却ステージ22bは、例えば銅(例えば純銅、以下同様)などの金属材料またはその他の高い熱伝導率をもつ材料で形成される。
【0016】
なお、図1では例として、1台の極低温冷凍機20を示しているが、例えば超伝導コイル12が大型の場合など、必要に応じて、極低温システム10は、一つの同じ被冷却物を冷却する複数台の極低温冷凍機20を備えてもよい。
【0017】
真空容器30は、外部環境14から真空環境32を隔てるように構成される。外部環境14は、例えば室温大気圧環境であってもよい。真空環境32は、真空容器30内に定められる。真空容器30は、例えばクライオスタットであってもよい。超伝導コイル12、極低温冷凍機20の冷却ステージ22、輻射シールド40は、真空環境32に配置され、外部環境14から真空断熱される。
【0018】
輻射シールド40は、第1冷却ステージ22aと熱的に結合され第1冷却温度に冷却される。輻射シールド40は、第1冷却ステージ22aに直接取り付けられ、第1冷却ステージ22aと熱的に結合される。あるいは、輻射シールド40は、可撓性または剛性をもつ伝熱部材を介して第1冷却ステージ22aに取り付けられてもよい。輻射シールド40は、第2冷却温度に冷却される超伝導コイル12、極低温冷凍機20の第2冷却ステージ22b、および極低温システム10のその他の低温部を囲むように配置され、外部からの輻射熱からこれら低温部を熱的に保護することができる。輻射シールド40は、例えば銅などの金属材料またはその他の高い熱伝導率をもつ材料で形成される。
【0019】
超伝導コイル12は、伝熱部材50を介して第2冷却ステージ22bと熱的に結合される。伝熱部材50は、例えば銅などの金属材料またはその他の高い熱伝導率をもつ材料で形成され、超伝導コイル12を第2冷却ステージ22bに接続する。
【0020】
伝熱部材50は、超伝導コイル12と第2冷却ステージ22bを剛に接続する剛性部材であってもよい。伝熱部材50は、互いに接続された複数の伝熱板で構成されてもよい。例えば、図示されるように、第2冷却ステージ22bに取り付けられた第1伝熱板と、超伝導コイル12に取り付けられた第2伝熱板と、第1伝熱板と第2伝熱板を接続する第3伝熱板とを備えてもよい。これら伝熱板は、例えばろう付けまたははんだ付けにより接合されてもよく、またはボルトなどの締結部材を用いて互いに固定されてもよい。あるいは、伝熱部材50は、可撓性を有し超伝導コイル12と第2冷却ステージ22bの相対変位を許容するようにこれらを接続してもよい。
【0021】
図示の例では、伝熱部材50は、第2冷却ステージ22bの底面に固定されるが、第2冷却ステージ22bの側面または上面など他の部位に固定されてもよい。同様に、伝熱部材50は、例えば、超伝導コイル12の上面に固定されるが、超伝導コイル12の側面または底面など他の部位に固定されてもよい。
【0022】
また、極低温システム10は、真空容器30内に配置され、超伝導コイル12などの被冷却物を真空容器30に支持する支持構造60を備える。支持構造60は、縦方向支持体61と横方向支持体62を備えてもよい。縦方向支持体61は、真空容器30に固定され、鉛直方向に沿って輻射シールド40を貫通して延在し、被冷却物に突き当てられている。縦方向支持体61は、例えば超伝導コイル12の自重など被冷却物に鉛直方向下向きに働く力を支持することができる。また、横方向支持体62は、真空容器30に固定され、水平方向に沿って輻射シールド40を貫通して延在し、被冷却物に突き当てられている。横方向支持体62は、例えば超伝導コイル12に働く電磁力など、被冷却物に水平方向に働く力を支持することができる。
【0023】
縦方向支持体61および横方向支持体62は、たとえば繊維強化プラスチック(FRP)などの断熱材料で形成される。あるいは、これら支持体は、たとえばステンレス鋼など、極低温システム10において伝熱経路を形成する高熱伝導材料よりも熱伝導率が小さい材料で形成されてもよい。
【0024】
この実施の形態では、極低温システム10は、極低温下でガスを吸着可能な極低温吸着器100を備える。極低温吸着器100は、極低温冷凍機20によって冷却されるように構成される。例えば、極低温吸着器100は、超伝導コイル12などの被冷却物、及び/または、伝熱部材50などの極低温システム10内の伝熱部材を介して、極低温冷凍機20の冷却ステージ22に熱的に結合されてもよい。極低温吸着器100は、例えば第2冷却ステージ22bに熱的に結合され、第2冷却温度に冷却されてもよい。極低温吸着器100の例示的な構造の詳細は後述する。
【0025】
極低温システム10は、極低温吸着器100が組み込まれた極低温装置を備えてもよい。極低温装置は、真空容器30内の真空環境32に配置され、真空容器30内で真空環境32から仕切られた真空領域(例えば図2に示される真空領域34)を定める仕切壁と、真空領域に配置された極低温吸着器100と、を備えてもよい。仕切壁は、気密性を有し、仕切壁によって仕切られた真空領域を真空容器30内の真空環境32から隔離された閉鎖空間とするものであってもよい。あるいは、仕切壁は、気密性を有していなくてもよく、真空領域と真空環境32との間でいくらかのガス流通が許容されていてもよい。
【0026】
こうした極低温装置の一例として、極低温吸着器100は支持構造60に設けられてもよい。極低温吸着器100は、縦方向支持体61と横方向支持体62の少なくとも一方(図示の例では両方)の内部に配置されてもよい。縦方向支持体61および横方向支持体62は、中空の筒状の形状を有してもよく、支持体内の空洞は真空領域となる。極低温吸着器100は、この真空領域に配置されてもよい。縦方向支持体61および横方向支持体62はそれぞれ、真空容器30内で真空環境32から仕切られた真空領域を定める仕切壁にあたる。このようにすれば、極低温吸着器100は、支持体の内部空洞の残留ガスや支持体の材料からのアウトガスを吸着により除去し、この真空領域の真空度を維持または向上することができる。
【0027】
既存技術では支持体内に吸着器は存在しない。そのため、支持体の内部空洞を真空排気するには、この内部空洞を真空容器30内の真空環境32と接続し、内部空洞から真空環境32にガスを排出しなければならない。しかし、支持体の内部空洞を真空容器30内の真空環境32に接続する通路のコンダクタンスはたいてい小さく、内部空洞の真空排気は不十分となりがちである。加えて、支持体の内部空洞の真空度は、支持体材料(例えばGFRP)に由来するアウトガスの放出によって低下しやすい。真空度が大きく低下すれば、内部空洞での対流熱伝達が無視できなくなり、支持体が真空容器から超伝導コイルなど低温部への顕著な伝熱経路となることも懸念される。
【0028】
これに対して、実施の形態によると、上述のように極低温吸着器100が真空容器30内で真空環境32から仕切られた真空領域に配置される。したがって、極低温吸着器100を利用して、このような仕切られた真空領域からアウトガスや残留ガスを除去し、上述の懸念に対処することができる。
【0029】
極低温吸着器100の例示的な他の配置として、極低温吸着器100は、真空容器30内の真空環境32に露出されていてもよい。例えば、極低温吸着器100は、伝熱部材50に、または真空容器30内のその他の極低温表面に設置されてもよい。このようにして、極低温吸着器100が組み込まれた極低温装置が提供されてもよい。この場合、極低温装置は、クライオパネルと称されてもよく、真空容器30内の真空環境32の真空度を維持または向上することができる。
【0030】
図2は、実施の形態に係る極低温吸着器100を概略的に示す図である。極低温吸着器100は、吸着材102と、吸着材102を非接着状態で機械的に保持するとともに吸着材102と熱的に結合される吸着材ホルダ104と、を備える。
【0031】
吸着材102は、例えば活性炭である。吸着材102は、粒状に成形されていてもよい。この例では、吸着材102の一つのペレットが吸着材ホルダ104に保持されている。吸着材102のペレットは、例えば円柱状、またはそのほか任意の形状を有してもよい。吸着材102のペレットは、直径に比べて軸方向長さが長い細長柱状であってもよく、直径が例えば1~5mm程度、軸方向長さが例えば4~8mm程度であってもよい。
【0032】
吸着材ホルダ104は、吸着材102を収容する吸着材チャンバ106を形成し、吸着材チャンバ106内で吸着材102を機械的に保持する。一例として、吸着材ホルダ104は、互いに組み合わされて両者間に吸着材チャンバ106を形成するベース104aおよびカバー104bを備える。吸着材102は、ベース104aとカバー104bに挟み込まれることで機械的に保持される。吸着材102は吸着材ホルダ104と物理的に接触するにすぎず、接着されてはいない。吸着材チャンバ106内で接着剤は使用されていない。
【0033】
ベース104aは、図1に示される極低温冷凍機20の冷却ステージ22と同様に、例えば純銅などの高熱伝導材料で形成される。ベース104aは、可撓性または剛性をもつ伝熱部材を介して図1に示される第2冷却ステージ22bに取り付けられ、または第2冷却ステージ22bに直接取り付けられて、第2冷却ステージ22bに熱的に結合され第2冷却温度に冷却されてもよい。
【0034】
図示の例では、ベース104aは、縦方向支持体61(または横方向支持体62)の端部を気密に塞ぐ閉塞部材である。縦方向支持体61は上述のように中空の筒状であり、その内部スペースが真空領域34となる。真空領域34は、縦方向支持体61によって真空環境32から仕切られている。ベース104aは、例えばろう付けにより縦方向支持体61に接合されてもよい。ベース104aは、超伝導コイル12に隣接して接触し、超伝導コイル12によって第2冷却温度に冷却されてもよい。
【0035】
ベース104aは、吸着材チャンバ106として使用される穴を有し、この穴に吸着材102を受け入れる。穴の中で吸着材102とベース104aとが物理的に接触し、吸着材102は、ベース104aと熱的に結合される。吸着材102は、ベース104aによって第2冷却温度に冷却される。
【0036】
カバー104bは、吸着材チャンバ106を塞ぐように(例えば、吸着材102のためのベース104aの穴に蓋をするように)、ベース104aに取り付けられている。カバー104bは、さまざまな形態をとりうる。例えば、カバー104bは、ねじまたはボルトであってもよく、ベース104aの穴の内周面に刻まれた雌ねじに螺合することでベース104aに取り付けられてもよい。あるいは、カバー104bは、ベース104aの穴を覆うプレートであってもよく、このプレートが例えばボルトでベース104aに固定されてもよい。カバー104bは、ベース104aと同様に高熱伝導材料であってもよいし、あるいは例えばステンレス鋼などベース104aに比べて熱伝導率の低い材料で形成されてもよい。
【0037】
カバー104bには、極低温吸着器100の外部領域(図示の例では真空領域34)を吸着材チャンバ106に接続する連通穴108が形成されている。従って、カバー104bがベース104aに取り付けられた状態で、真空領域34に存在しうるガスを真空領域34から連通穴108を通じて吸着材チャンバ106に受け入れることが可能である。こうして吸着材チャンバ106に進入したガスは、吸着材102に吸着されることができる。
【0038】
図示されるように、吸着材ホルダ104は、吸着材チャンバ106内で吸着材ホルダ104と吸着材102の間に挟み込まれた緩衝材、例えば押さえばね110を備える。押さえばね110は、吸着材102を吸着材ホルダ104に押し付けるように構成され、それにより、吸着材ホルダ104と吸着材102の機械的保持および熱的結合を支援する。押さえばね110によって吸着材102に作用する押し付け力を適切に調整することで、吸着材102の破損を避けつつ吸着材102と吸着材ホルダ104の良好な熱接触を得ることができる。
【0039】
一例として、押さえばね110は、カバー104bに設けられてもよく、カバー104bがベース104aに取り付けられたときカバー104bと吸着材102との間で押さえばね110が圧縮され、それにより、吸着材102が押さえばね110によってベース104aに押し付けられてもよい。押さえばね110は、例えばステンレス鋼またはそのほか適宜の金属材料で形成されてもよい。あるいは、押さえばね110は、熱接触の改善のために、純銅などの高熱伝導材料で形成されてもよい。
【0040】
あるいは、押さえばね110は、ベース104aに設けられてもよく、カバー104bがベース104aに取り付けられたときベース104aと吸着材102との間で押さえばね110が圧縮され、それにより、吸着材102が押さえばね110によってカバー104bに押し付けられてもよい。
【0041】
緩衝材は、ばねには限られず、例えば金属ウール(銅ウール、スチールウールなど)であってもよい。このようにしても、緩衝材は、吸着材102を吸着材ホルダ104に押し付け、吸着材ホルダ104と吸着材102の機械的保持および熱的結合を支援することができる。
【0042】
なお、吸着材ホルダ104は、押さえばね110、金属ウールなどの緩衝材を備えなくてもよく、吸着材102が、ベース104aとカバー104bとの間に直接挟み込まれてもよい。
【0043】
図2では例として、1つの極低温吸着器100が縦方向支持体61に組み込まれる場合を示しているが、必要に応じて、複数の極低温吸着器100が縦方向支持体61(または横方向支持体62)に組み込まれてもよい。
【0044】
実施の形態に係る極低温吸着器100は、吸着材102を吸着材チャンバ106に格納し、吸着材ホルダ104を組み立てるという簡単な作業で製造することができる。具体的には、吸着材102をベース104aの穴に入れ、この穴をカバー104bで塞ぐようにカバー104bをベース104aに取り付ければよい。こうして、吸着材102を接着することなく吸着材ホルダ104で機械的に保持することができる。したがって、従来のクライオパネル製造では活性炭の接着工程で接着剤の硬化を長時間待たなければならないのに対して、極低温吸着器100は、短時間で低コストに製造することができる。
【0045】
従来のクライオパネルでは接着剤の変質を避けるために接着後の工程で使用可能な加熱温度が制限される。そのため、接着工程後の活性炭の再生は比較的低温の加熱で行わなければならない。これに対して、実施の形態に係る極低温吸着器100では、吸着材102が吸着材ホルダ104に機械的に保持される。極低温吸着器100に接着剤は使用されない。そのため、極低温吸着器100は、高温の加熱が可能となる。極低温吸着器100の吸着材102の再生を行うことが望まれたとしても、従来に比べて高温の加熱により再生を短時間で済ませることができる。
【0046】
また、ろう付けを利用して極低温吸着器100が縦方向支持体61など他の部材に組み込まれる場合、ろう付け工程での高温加熱によって、吸着材102の再生と極低温吸着器100のベーキングをろう付けと同時に行うこともできる。このような製造工程の効率化により、極低温吸着器100を低コストに製造することができる。
【0047】
従来のクライオパネルでは接着剤からのアウトガスが吸着材に吸着され、その結果吸着材の寿命が短くなることが懸念される。しかし、実施の形態に係る極低温吸着器100は接着剤を使用しないので、こうした問題は生じない。
【0048】
従来のように吸着材が接着される場合には、使用時に吸着材が接着剤から剥がれて脱落するリスクが懸念される。これに対して、実施の形態に係る極低温吸着器100では、吸着材102が吸着材ホルダ104に機械的に保持され吸着材チャンバ106に収められているため、そうしたリスクは低減または無視しうる。
【0049】
なお、吸着材102にガスが吸着されるとき吸着熱が発生しうる。極低温吸着器100が縦方向支持体61内の真空領域34のような限られた容積の真空排気を担う場合には、吸着材102に吸着されるガス量は少なく、かつその結果発生する吸着熱は吸着材102と吸着材ホルダ104の熱接触により吸着材102から除去されうる。したがって、吸着熱による吸着材102の温度上昇は実用上問題とならないものと期待される。
【0050】
図3(a)および図3(b)は、変形例に係る極低温吸着器100を概略的に示す図である。極低温吸着器100は、吸着材102と、吸着材102を非接着状態で機械的に保持するとともに吸着材102と熱的に結合される吸着材ホルダ104と、を備える。吸着材ホルダ104は、互いに組み合わされて両者間に吸着材チャンバ106を形成するベース104aおよびカバー104bを備える。吸着材102は、吸着材チャンバ106内で吸着材ホルダ104と物理的に接触する。吸着材102は、吸着材ホルダ104に接着されてはいない。
【0051】
図2の実施の形態のようにベース104aに吸着材102を受け入れる穴を形成する代わりに、図3(a)および図3(b)に示されるように、カバー104bが例えばカップ状に形成され、その内側に吸着材チャンバ106として吸着材102を受け入れる凹部を有してもよい。図示の例では、ベース104aは平坦面を有するが、上述の実施の形態と同様にベース104aに穴が設けられ、この穴とカバー104bの凹部により吸着材チャンバ106が形成されてもよい。
【0052】
図3(a)では、カバー104bに設けられた押さえばね110が、吸着材102をベース104aに押し付け、それにより、吸着材ホルダ104と吸着材102の機械的保持および熱的結合を支援する。
【0053】
図3(b)では、緩衝材として金属ウール112が吸着材チャンバ106内で吸着材102と吸着材ホルダ104との間に挟み込まれている。金属ウール112は、例えば銅ウールである。あるいは、金属ウール112は、他の金属材料で形成された金属ウールであってもよい。図示されるように、吸着材102は、多数の吸着材の粒であってもよい。カバー104bがベース104aに取り付けられるとき吸着材102とベース104aとの間に金属ウール112が挟み込まれる。金属ウール112は吸着材102およびベース104aと物理的に接触し、吸着材102は金属ウール112を介してベース104aと熱的に結合される。このようにして、金属ウール112は、吸着材ホルダ104への吸着材102の機械的保持および熱的結合を支援することができる。なお、金属ウール112は、吸着材102とカバー104bとの間に挟み込まれてもよい。
【0054】
カバー104bは、例えばボルトなどの締結部材114によりベース104aに取り付けられる。ベース104aは、上述の実施の形態と同様に、例えば純銅などの高熱伝導材料で形成され、極低温冷凍機20の第2冷却ステージ22bに熱的に結合され第2冷却温度に冷却される。したがって、吸着材102は、ベース104aによって第2冷却温度に冷却される。
【0055】
カバー104bには、極低温吸着器100の外部領域(図示の例では真空領域34)を吸着材チャンバ106に接続する連通穴108が形成されている。従って、カバー104bがベース104aに取り付けられた状態で、真空領域34に存在しうるガスを真空領域34から連通穴108を通じて吸着材チャンバ106に受け入れることが可能である。こうして吸着材チャンバ106に進入したガスは、吸着材102に吸着されることができる。
【0056】
図4は、別の変形例に係る極低温吸着器100を概略的に示す図である。以下に述べるように、極低温吸着器100は、組立により部材間に形成される閉鎖空間118に設けられてもよい。例えば、第1部材121と第2部材122が伝熱部材123を介して接続された組立体120を考える。この組立体120は真空環境32に配置されている。第1部材121と伝熱部材123が第1締結部材124で固定され、第2部材122と伝熱部材123が第2締結部材125で固定されている。真空環境32から隔離された閉鎖空間118が第2締結部材125と第1部材121との間に形成されている。
【0057】
この場合においても、極低温吸着器100は、吸着材102と、吸着材102を非接着状態で機械的に保持するとともに吸着材102と熱的に結合される吸着材ホルダと、を備える。吸着材ホルダは、第2締結部材125と第1部材121により形成され、これらの間に吸着材102が機械的に保持される。上述の実施の形態と同様に、吸着材102と第1部材121(または第2締結部材125)との間には、ばねや金属ウールなどの緩衝材が設けられてもよい。
【0058】
図4では図示を省略するが、伝熱部材123は、極低温冷凍機20の第2冷却ステージ22bに熱的に結合され第2冷却温度に冷却される。第1部材121および第2部材122は、伝熱部材123との物理的接触により熱的に結合されており、第2冷却温度に冷却される。吸着材102は、第1部材121または第2締結部材125との物理的接触により伝熱部材123に熱的に結合され、第2冷却温度に冷却される。したがって、極低温吸着器100は、閉鎖空間118の残留ガスやアウトガスを吸着により除去し、閉鎖空間118の真空度を維持または向上することができる。
【0059】
実施の形態に係る極低温吸着器100は、真空容器30内で真空環境32から仕切られたさまざまな真空領域に設置されうる。いくつかの例を図5から図7を参照して以下に挙げる。
【0060】
図5は、実施の形態に係る極低温装置の一例を概略的に示す図である。極低温装置は、超伝導電流リード200であり、高温側電極201と、低温側電極202と、高温側電極201と低温側電極202とを接続する電流経路となる超伝導材203とを備える。高温側電極201は、真空容器外の電源に接続され、低温側電極202は超伝導コイル12に接続される。図5では図示を省略するが、高温側電極201は、極低温冷凍機20の第1冷却ステージ22aに熱的に結合され第1冷却温度に冷却され、低温側電極202は、第2冷却ステージ22bに熱的に結合され第2冷却温度に冷却される。
【0061】
また、超伝導電流リードを構造的に補強するために、高温側電極201と低温側電極202は荷重支持体204で接続されている。荷重支持体204は、上述の実施の形態における縦方向支持体61と同様に、たとえば繊維強化プラスチック(FRP)などの断熱材料で形成された中空のパイプであってもよい。
【0062】
図示されるように、極低温吸着器100は、荷重支持体204の内部空洞に収容され、低温側電極202に組み込まれていてもよい。このようにすれば、荷重支持体204の内部空洞の残留ガスやアウトガスを吸着により除去し、真空度を維持または向上することができる。
【0063】
図6は、実施の形態に係る極低温装置の他の一例を概略的に示す図である。極低温装置は、ガス式の熱スイッチ210であり、高温側伝熱要素211と、低温側伝熱要素212と、高温側伝熱要素211と低温側伝熱要素212とを接続するガスチャンバ213とを備える。高温側伝熱要素211と低温側伝熱要素212は、例えば純銅などの高熱伝導材料で形成される。図6では図示を省略するが、高温側伝熱要素211は、極低温冷凍機20の第1冷却ステージ22aに熱的に結合され第1冷却温度に冷却され、低温側伝熱要素212は、第2冷却ステージ22bに熱的に結合され第2冷却温度に冷却される。
【0064】
ガスチャンバ213は、中空のパイプであってもよい。このガスチャンバ213の一端が高温側伝熱要素211で塞がれ、他端が低温側伝熱要素212で塞がれてもよい。ガスチャンバ213は、たとえば繊維強化プラスチック(FRP)などの断熱材料で形成されてもよい。あるいは、ガスチャンバ213は、上述の高熱伝導材料よりも熱伝導率が小さい材料(たとえばステンレス鋼など)で形成されてもよい。
【0065】
ガスチャンバ213には、第1冷却温度と第2冷却温度との間の中間温度を沸点とする作動ガスが封入されている。高温側伝熱要素211と低温側伝熱要素212が冷却されていない状態など、これら伝熱要素が作動ガスの沸点よりも高温であるときには、ガスチャンバ213内の作動ガスを介した伝熱要素間の熱伝達により高温側と低温側とを熱接続することができる。これが熱スイッチ210のオン状態である。一方、低温側伝熱要素212が作動ガスの沸点よりも低温に冷却されているときには、ガスチャンバ213内の作動ガスが低温側伝熱要素212の表面に凝縮する。ガスチャンバ213の内部は真空となり高温側伝熱要素211と低温側伝熱要素212は真空断熱される。これが熱スイッチ210のオフ状態である。
【0066】
図示されるように、極低温吸着器100は、ガスチャンバ213の内部空洞に収容され、低温側伝熱要素212に組み込まれていてもよい。このようにすれば、ガスチャンバ213の内部空洞の残留ガスやアウトガスを吸着により除去し、真空度を維持または向上することができる。熱スイッチ210を確実にオフ状態にすることができる。
【0067】
図7は、実施の形態に係る極低温装置の他の一例を概略的に示す図である。極低温装置は、真空環境32に配置され、超伝導コイル12などの被冷却物を予冷するための冷媒リザーバ220であってもよい。冷媒リザーバ220は、冷媒槽221と、冷媒槽221に設けられた冷媒供給口222および冷媒排出口223と、を備える。外部の冷媒源から冷媒供給口222を通じて冷媒槽221に冷媒が供給される。冷媒は、例えば液体ヘリウムであってもよく。または他の極低温液体であってもよい。冷媒リザーバ220は、超伝導コイル12に熱的に結合されており、冷媒槽221に冷媒が貯留されている間、超伝導コイル12を冷却することができる。冷却後、気化した冷媒は冷媒槽221から冷媒排出口223を通じて外部に排出される。
【0068】
図示されるように、極低温吸着器100は、冷媒槽221に組み込まれていてもよい。このようにすれば、冷媒槽221から残留ガスを吸着により除去し、冷媒槽221内の真空度を維持または向上することができる。
【0069】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。ある実施の形態に関連して説明した種々の特徴は、他の実施の形態にも適用可能である。組合せによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態それぞれの効果をあわせもつ。
【0070】
上述の実施の形態では、吸着材102が極低温冷凍機20の第2冷却ステージ22bに熱的に結合され第2冷却温度に冷却される場合を例として説明しているが、吸着材102は他の温度に冷却されてもよい。例えば、吸着材102は、極低温冷凍機20の第1冷却ステージ22aに熱的に結合され第1冷却温度に冷却されてもよい。このようにしても、極低温吸着器100は、吸着材102の冷却温度に応じて吸着可能なガス種を吸着材102に吸着し、真空容器30内の真空環境32または真空領域34の真空度を維持または向上することができる。
【0071】
上述の実施の形態では、吸着材102が活性炭である場合を例として説明しているが、本発明はこれに限られない。吸着材102は、例えばモレキュラーシーブなどの多孔質材料、またはその他の吸着材であってもよい。
【0072】
上述の実施の形態では、極低温冷凍機20が多段式のギフォード・マクマホン冷凍機である場合を例として説明しているが、本発明はこれに限られない。極低温冷凍機20は、単段式のギフォード・マクマホン冷凍機であってもよい。あるいは、極低温冷凍機20は、パルス管冷凍機、スターリング冷凍機、またはそのほかのタイプの単段式または多段式の極低温冷凍機であってもよい。
【0073】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用の一側面を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0074】
10 極低温システム、 30 真空容器、 32 真空環境、 34 真空領域、 100 極低温吸着器、 102 吸着材、 104 吸着材ホルダ、 106 吸着材チャンバ、 110 押さえばね。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7