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特開2024-77381顔料分散液、紫外線硬化型インクジェットインク、及び印刷皮膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077381
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】顔料分散液、紫外線硬化型インクジェットインク、及び印刷皮膜
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/322 20140101AFI20240531BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20240531BHJP
   C09C 3/10 20060101ALI20240531BHJP
   C09C 3/08 20060101ALI20240531BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20240531BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
C09D11/322
C09D17/00
C09C3/10
C09C3/08
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189446
(22)【出願日】2022-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】田口 優介
(72)【発明者】
【氏名】小尾 俊介
(72)【発明者】
【氏名】荒井 一孝
(72)【発明者】
【氏名】岩田 稜平
(72)【発明者】
【氏名】村上 賀一
(72)【発明者】
【氏名】嶋中 博之
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J037
4J039
【Fターム(参考)】
2C056FC01
2H186AB11
2H186BA08
2H186DA09
2H186FB04
2H186FB15
2H186FB36
2H186FB37
2H186FB44
2H186FB46
2H186FB48
2H186FB53
2H186FB54
4J037AA30
4J037CB28
4J037CC16
4J037EE08
4J037EE28
4J037EE43
4J037FF15
4J039AD21
4J039BC53
4J039BC75
4J039BC79
4J039BE01
4J039BE02
4J039BE27
4J039GA24
(57)【要約】      (修正有)
【課題】SP値が比較的小さいモノマーを含有する場合であっても、低粘度で顔料が微分散されているとともに、保存安定性に優れた、紫外線硬化型インクジェットインクを調製する原料として有用な顔料分散液を提供する。
【解決手段】そのSP値が7.0~10.5のモノマーと、樹脂処理顔料とを含有し、樹脂処理顔料が、マゼンタ色の有機顔料及び一般式(1)で表される色素誘導体を含有する混合物に、一般式(3)で表される構成単位(ii)を有する所定量の樹脂Aを添加し、樹脂Bを析出させて得られるものである顔料分散液。

(Mはナトリウム原子等;Eは有機色素骨格;RはH等;Rはメチル基等;Rはメチル基等;CはO又はNH;Dはエチレン基又はプロピレン基;XはCl等)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
そのSP値が7.0~10.5のモノマーと、前記モノマー中に分散した樹脂処理顔料と、を含有し、
前記樹脂処理顔料が、
マゼンタ色の有機顔料100質量部、下記一般式(1)で表される色素誘導体5~20質量部、及び水を含有する混合物に、
下記一般式(2)で表される構成単位(i)40~80質量%、下記一般式(3)で表される構成単位(ii)3~30質量%、及びその他の構成単位(iii)1~57質量%を有する、その数平均分子量が10,000~30,000である、室温条件下で液状の樹脂A25~60質量部を添加して、
前記構成単位(ii)の少なくとも一部が下記一般式(4)で表される構成単位(iv)に変換された樹脂Bを析出させて得られるものであり、
前記樹脂Aの添加量が、下記一般式(1)中のスルホン酸イオンの量に対する、下記一般式(3)中の第4級アンモニウム塩の量が、1.45~1.80モル等量となる量である顔料分散液。
(前記一般式(1)中、Mはリチウム原子、ナトリウム原子、又はカリウム原子を示し、Eは有機色素骨格を示す)
(前記一般式(2)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは水素原子、メチル基、又はブチル基を示し、AはO又はNHを示し、Bはエチレン基又はメチルエチレン基を示し、XはO、NHCOO、又はNHCONHを示し、nは平均繰り返し単位数を表す20~100の数であり、pは任意の繰り返し数を示す)
(前記一般式(3)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは、それぞれ独立にメチル基、エチル基、又はプロピル基を示し、Rはメチル基又はベンジル基を示し、CはO又はNHを示し、Dはエチレン基又はプロピレン基を示し、Xは塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を示し、qは任意の繰り返し数を示す)
(前記一般式(4)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは、それぞれ独立にメチル基、エチル基、又はプロピル基を示し、Rはメチル基又はベンジル基を示し、CはO又はNHを示し、Dはエチレン基又はプロピレン基を示し、Eは有機色素骨格を示し、rは任意の繰り返し数を示す)
【請求項2】
前記一般式(4)中、Eで表される有機色素骨格が、キナクリドン色素骨格である請求項1に記載の顔料分散液。
【請求項3】
構成単位(iii)が、α-メチルスチレンに由来する構成単位である請求項1に記載の顔料分散液。
【請求項4】
構成単位(iii)が、下記一般式(5)で表される構成単位(iii-1)を含む請求項3に記載の顔料分散液。
(前記一般式(5)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、CはO又はNHを示し、Dはエチレン基又はプロピレン基を示し、Rは、それぞれ独立にメチル基、エチル基、又はプロピル基を示し、sは任意の繰り返し数を示す)
【請求項5】
前記モノマーが、紫外線硬化性モノマーであり、
紫外線硬化型インクジェットインクに用いられる請求項1~4のいずれか一項に記載の顔料分散液。
【請求項6】
請求項5に記載の顔料分散液を含有する紫外線硬化型インクジェットインク。
【請求項7】
請求項6に記載の紫外線硬化型インクジェットインクの硬化物である印刷皮膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料分散液、紫外線硬化型インクジェットインク、及び印刷皮膜に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷方法は、版が不要であり、パソコンからのデータ出力によりオンデマンドで画像を印刷することが可能な印刷方法である。インクジェット印刷方法では、水性インクジェットインク、溶剤系インクジェットインク、及び紫外線硬化型インクジェットインク等が用いられる。溶剤系インクジェットインクを用いると、放出されるインク中の有機溶剤が環境に負荷を与えることが懸念される。このため、水を溶媒とする水性インクジェットインクや、揮発成分を実質的に含有せず、すべての成分が塗膜となる紫外線硬化型インクジェットインクが産業用途で広範囲にわたって用いられている。
【0003】
なかでも、乾燥工程が不要であるとともに、耐久性に優れた画像を得ることが可能な紫外線硬化型インクジェット(以下、「UVIJ」とも記す)インクを用いる印刷方法が、サインディスプレイ、パッケージング、及びプラスチック容器への印刷などの産業用途で検討されている。UVIJインクを用いる印刷方法は、従来のシングルパスによる印刷から、ラインヘッドから一度に吐出させて大面積の画像を一度に印刷しうる高速印刷へとシフトしている。そして、このような高速印刷に対応しうるUVIJインクが必要とされている。
【0004】
UVIJインクは、紫外線硬化性モノマーを液媒体とする顔料分散液、オリゴマー、及び光開始剤等を配合して調製される。UVIJインクの色相としては、シアン、マゼンタ、及びイエローの三原色の他、ブラック及びホワイト、さらにはグリーン、オレンジ、及びブルー等の補色がある。そして、各色のUVIJインクの調製には、各色の顔料を含有する顔料分散液が用いられる。記録ヘッドから安定的に吐出できるとともに、顔料が微分散されており、かつ、低粘度のインクを調製するには、顔料が微分散されており、保存後でも顔料が凝集しにくく、粘度が安定している顔料分散液が必要とされる。そして、このような特性を有する顔料分散液が種々検討されている(特許文献1~6)。顔料が微分散されているとともに、低粘度であり、かつ、顔料の分散状態が安定に保たれたインクは、記録ヘッドからの吐出性が良好であり、ドットが鮮明な画像を記録することができ、さらには、前述の高速印刷にも対応することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-282758号公報
【特許文献2】特開2004-2528号公報
【特許文献3】特開2014-145053号公報
【特許文献4】特開2001-288386号公報
【特許文献5】特開2003-321628号公報
【特許文献6】特開2008-285677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、顔料を微細に分散させようとすると、表面エネルギーの増大によって顔料が凝集しやすくなる。その結果、保存中の顔料分散液の粘度が上昇する、顔料の粒子径が増大する等の不具合が生じ、顔料分散液の保存安定性が低下するといった課題が生ずる。また、紫外線硬化性モノマー、顔料、及び顔料分散剤を含有する顔料分散液の低粘度化及び顔料の微分散化を達成するには、長時間の分散工程が必要とされるので、コストやエネルギー消費の増大といった課題がある。
【0007】
さらに、紫外線硬化性モノマーの種類は、コーティングする基材によって選択して用いられる。このため、紫外線硬化性モノマーの種類に応じた顔料分散液を個別に調製しておく必要があり、用意しておくべき顔料分散液の種類が多くなる場合があった。また、各種のモノマーを含有する顔料分散液を輸送する際には様々な規制があるとともに、コストやエネルギー消費の増大といった課題もある。
【0008】
ところで、近年、インクジェットインクのバイオマス化がすすめられている。なかでも、UVIJインク等に配合するモノマーとして、バイオマス由来のモノマーを用いることが、インクのバイオマス化率を向上させるための有用な手法の一つである。しかし、例えば、バイオマス由来の単官能モノマーであるイソボルニルアクリレート(IBXA)は、SP値が比較的小さい(SP値:8.34)。そして、このようにSP値の小さいモノマーを用いる場合、SP値の大きいモノマーを用いる場合に比して、顔料を分散させるのに長時間を要することがあった。さらに、SP値の小さいモノマーを含有する顔料分散液を用いて調製したUVIJインクで記録する画像の発色性を高めることが困難な場合があった。
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、SP値が比較的小さいモノマーを含有する場合であっても、低粘度で顔料が微分散されているとともに、保存安定性に優れた、紫外線硬化型インクジェットインクを調製する原料として有用な顔料分散液を提供することにある。
【0010】
また、本発明の課題とするところは、上記の顔料分散液を用いた、低粘度で顔料が微分散されているとともに、保存安定性に優れており、かつ、発色性及び基材への密着性等に優れた印刷皮膜を形成することが可能な紫外線硬化型インクジェットインクを提供することにある。さらに、本発明の課題とするところは、上記の紫外線硬化型インクジェットインクを用いて形成される、発色性及び基材への密着性等に優れた印刷皮膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明によれば、以下に示す顔料分散液が提供される。
[1]そのSP値が7.0~10.5のモノマーと、前記モノマー中に分散した樹脂処理顔料と、を含有し、前記樹脂処理顔料が、マゼンタ色の有機顔料100質量部、下記一般式(1)で表される色素誘導体5~20質量部、及び水を含有する混合物に、下記一般式(2)で表される構成単位(i)40~80質量%、下記一般式(3)で表される構成単位(ii)3~30質量%、及びその他の構成単位(iii)1~57質量%を有する、その数平均分子量が10,000~30,000である、室温条件下で液状の樹脂A25~60質量部を添加して、前記構成単位(ii)の少なくとも一部が下記一般式(4)で表される構成単位(iv)に変換された樹脂Bを析出させて得られるものであり、前記樹脂Aの添加量が、下記一般式(1)中のスルホン酸イオンの量に対する、下記一般式(3)中の第4級アンモニウム塩の量が、1.45~1.80モル等量となる量である顔料分散液。
【0012】
(前記一般式(1)中、Mはリチウム原子、ナトリウム原子、又はカリウム原子を示し、Eは有機色素骨格を示す)
【0013】
(前記一般式(2)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは水素原子、メチル基、又はブチル基を示し、AはO又はNHを示し、Bはエチレン基又はメチルエチレン基を示し、XはO、NHCOO、又はNHCONHを示し、nは平均繰り返し単位数を表す20~100の数であり、pは任意の繰り返し数を示す)
【0014】
(前記一般式(3)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは、それぞれ独立にメチル基、エチル基、又はプロピル基を示し、Rはメチル基又はベンジル基を示し、CはO又はNHを示し、Dはエチレン基又はプロピレン基を示し、Xは塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を示し、qは任意の繰り返し数を示す)
【0015】
(前記一般式(4)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは、それぞれ独立にメチル基、エチル基、又はプロピル基を示し、Rはメチル基又はベンジル基を示し、CはO又はNHを示し、Dはエチレン基又はプロピレン基を示し、Eは有機色素骨格を示し、rは任意の繰り返し数を示す)
【0016】
[2]前記一般式(4)中、Eで表される有機色素骨格が、キナクリドン色素骨格である前記[1]に記載の顔料分散液。
[3]構成単位(iii)が、α-メチルスチレンに由来する構成単位である前記[1]又は[2]に記載の顔料分散液。
[4]構成単位(iii)が、下記一般式(5)で表される構成単位(iii-1)を含む前記[1]~[3]のいずれかに記載の顔料分散液。
【0017】
(前記一般式(5)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、CはO又はNHを示し、Dはエチレン基又はプロピレン基を示し、Rは、それぞれ独立にメチル基、エチル基、又はプロピル基を示し、sは任意の繰り返し数を示す)
【0018】
[5]前記モノマーが、紫外線硬化性モノマーであり、紫外線硬化型インクジェットインクに用いられる前記[1]~[4]のいずれかに記載の顔料分散液。
【0019】
また、本発明によれば、以下に示す紫外線硬化型インクジェットインク及び印刷皮膜が提供される。
[6]前記[5]に記載の顔料分散液を含有する紫外線硬化型インクジェットインク。
[7]前記[6]に記載の紫外線硬化型インクジェットインクの硬化物である印刷皮膜。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、SP値が比較的小さいモノマーを含有する場合であっても、低粘度で顔料が微分散されているとともに、保存安定性に優れた、紫外線硬化型インクジェットインクを調製する原料として有用な顔料分散液を提供することができる。
【0021】
また、本発明によれば、上記の顔料分散液を用いた、低粘度で顔料が微分散されているとともに、保存安定性に優れており、かつ、発色性及び基材への密着性等に優れた印刷皮膜を形成することが可能な紫外線硬化型インクジェットインクを提供することができる。さらに、本発明によれば、上記の紫外線硬化型インクジェットインクを用いて形成される、発色性及び基材への密着性等に優れた印刷皮膜を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<顔料分散液>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明の顔料分散液の一実施形態は、そのSP値が7.0~10.5のモノマーと、このモノマー中に分散した樹脂処理顔料と、を含有する。以下、本実施形態の顔料分散液の詳細について説明する。
【0023】
(樹脂処理顔料)
樹脂処理顔料は、以下に示す製造方法によって製造されるものである。すなわち、樹脂処理顔料の製造方法は、マゼンタ色の有機顔料100質量部、下記一般式(1)で表される色素誘導体5~20質量部、及び水を含有する混合物に、樹脂A25~60質量部を添加する工程を有する。樹脂Aは、下記一般式(2)で表される構成単位(i)40~80質量%、下記一般式(3)で表される構成単位(ii)3~30質量%、及びその他の構成単位(iii)1~57質量%を有する、その数平均分子量が10,000~30,000である、室温条件下で液状の樹脂である。上記の工程では、有機顔料、色素誘導体、及び水を含有する混合物に樹脂Aを添加することで、樹脂A中の構成単位(ii)の少なくとも一部が下記一般式(4)で表される構成単位(iv)に変換された樹脂Bを析出させて、樹脂処理顔料を得る。そして、上記の工程における、混合物に対する樹脂Aの添加量は、下記一般式(1)中のスルホン酸イオンの量に対する、下記一般式(3)中のアンモニウム塩の量が、1.45~1.80モル等量となる量である。
【0024】
(前記一般式(1)中、Mはリチウム原子、ナトリウム原子、又はカリウム原子を示し、Eは有機色素骨格を示す)
(前記一般式(2)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは水素原子、メチル基、又はブチル基を示し、AはO又はNHを示し、Bはエチレン基又はメチルエチレン基を示し、XはO、NHCOO、又はNHCONHを示し、nは平均繰り返し単位数を表す20~100の数であり、pは任意の繰り返し数を示す)
(前記一般式(3)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは、それぞれ独立にメチル基、エチル基、又はプロピル基を示し、Rはメチル基又はベンジル基を示し、CはO又はNHを示し、Dはエチレン基又はプロピレン基を示し、Xは塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を示し、qは任意の繰り返し数を示す)
(前記一般式(4)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは、それぞれ独立にメチル基、エチル基、又はプロピル基を示し、Rはメチル基又はベンジル基を示し、CはO又はNHを示し、Dはエチレン基又はプロピレン基を示し、Eは有機色素骨格を示し、rは任意の繰り返し数を示す)
【0025】
[有機顔料]
有機顔料としては、マゼンタ色の有機顔料を用いる。マゼンタ色の有機顔料としては、アゾ顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、アントラキノン顔料、ペリノン顔料、ジケトピロロピロール顔料、ペリレン顔料、アントラキノン顔料、ジアンスラキノニル顔料等を挙げることができる。また、異種顔料の混合結晶化物や固溶体顔料等の複合体を用いることもできる。
【0026】
有機顔料としては、インクジェット用のインクに用いられる有機顔料が好ましく、C.I.ピグメントレッド122、177、192、202、207、209、254、255、264、296;C.I.ピグメントバイオレット19、23、29;等がさらに好ましい。なお、顔料分散液中の有機顔料の含有量は、2~50質量%であることが好ましい。
【0027】
有機顔料は、通常、粒子状である。粒子状の有機顔料の数平均粒子径(一次粒子径)は、150nm以下であることが好ましい。数平均粒子径が150nm以下の有機顔料を用いることで、記録される画像の光学濃度、彩度、発色性、及び印字品質を向上させることができるとともに、記録ヘッドの詰まりを防止して良好に吐出することができる。有機顔料の数平均粒子径は、例えば、電子顕微鏡や光散乱粒度分布計等を使用して測定することができる。
【0028】
[色素誘導体]
色素誘導体は、下記一般式(1)で表される、スルホン酸基のアニオンが有機色素骨格に結合した化合物である。一般式(1)中、Eで表される有機色素骨格が、有機顔料と同等又は類似の構造であることが、有機顔料に強く吸着しやすいために好ましい。色素誘導体に由来する対イオンを持った構成単位(iv)を有する樹脂Bは、水や有機溶媒等の液媒体に不溶となる。そして、有機顔料に吸着してスルホン酸基のアニオンを導入するとともに、吸着した有機顔料から脱離しにくく、液媒体中に有機顔料を安定して微分散させることができる。
【0029】
(前記一般式(1)中、Mはリチウム原子、ナトリウム原子、又はカリウム原子を示し、Eは有機色素骨格を示す)
【0030】
一般式(1)中、Eで表される有機色素骨格としては、アゾ色素骨格、アントラキノン色素骨格、キナクリドン色素骨格、及びジケトピロロピロール色素骨格等を挙げることができる。なかでも、一般式(4)中、Eで表される有機色素骨格は、キナクリドン色素骨格であることが好ましい。一般式(1)中、Mは、リチウム原子、ナトリウム原子、又はカリウム原子であり、なかでも、ナトリウム原子又はカリウム原子であることが好ましい。一般式(1)中のMがリチウム原子であると、水中で解離しにくくなる場合がある。スルホン酸のアニオンは、Eで表される有機色素骨格に1つ結合していればよく、2以上結合していてもよい。
【0031】
アゾ色素骨格を有する色素誘導体としては、下記式(A)及び(B)で表される化合物等を挙げることができる。
【0032】
【0033】
アントラキノン色素骨格を有する色素誘導体としては、下記式(C)及び(D)で表される化合物等を挙げることができる。
【0034】
【0035】
キナクリドン色素骨格を有する色素誘導体としては、下記式(E)及び(F)で表される化合物等を挙げることができる。
【0036】
【0037】
ジケトピロロピロール色素骨格を有する色素誘導体としては、下記式(G)で表される化合物等を挙げることができる。
【0038】
【0039】
[樹脂A]
樹脂Aは、下記一般式(2)で表される構成単位(i)、下記一般式(3)で表される構成単位(ii)、及びその他の構成単位(iii)を有する。
【0040】
(前記一般式(2)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは水素原子、メチル基、又はブチル基を示し、AはO又はNHを示し、Bはエチレン基又はメチルエチレン基を示し、XはO、NHCOO、又はNHCONHを示し、nは平均繰り返し単位数を表す20~100の数であり、pは任意の繰り返し数を示す)
【0041】
(前記一般式(3)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは、それぞれ独立にメチル基、エチル基、又はプロピル基を示し、Rはメチル基又はベンジル基を示し、CはO又はNHを示し、Dはエチレン基又はプロピレン基を示し、Xは塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を示し、qは任意の繰り返し数を示す)
【0042】
構成単位(i)は、ポリアルキレングリコール鎖を有するマクロモノマーに由来する構成単位である。構成単位(i)が紫外線硬化性モノマー等の分散媒体に溶解して粒子間の立体障害となって反発し、分散媒体中に有機顔料を長期間にわたって安定して分散させることができる。また、ポリアルキレングリコール鎖を多く含有することで、樹脂Aを室温条件下で液状とすることができる。
【0043】
一般式(2)中、nで表される平均繰り返し単位数は20~100の数であることから、マクロモノマーの分子量は880~5,800の範囲内である。
【0044】
構成単位(i)を構成するマクロモノマーはとしては、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコールモノメチルモノ(メタ)アクリレート;ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノブチル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートとポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノブチルエーテル等との反応物;(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートとポリエチレングリコールモノメチルエーテルモノアミン、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノメチルエーテルモノアミンとの反応物;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸クロライド、(メタ)アクリル酸無水物とポリエチレングリコールモノメチルエーテルモノアミン、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノメチルエーテルモノアミンとの反応物;等を挙げることができる。なかでも、水不溶性のモノマーが好ましく、グリコール鎖中にポリプロピレングリコールを50モル%以上含むマクロモノマーが好ましく、70モル%以上含むモノマーがさらに好ましい。
【0045】
構成単位(ii)は、塩素、臭素、又はヨウ素のアニオンを対イオンとする第4級アンモニウム塩基を有するモノマーである。構成単位(ii)を有することで、樹脂Aは水に親和して溶解する。一般式(1)で表される色素誘導体と樹脂Aを水中で混合すると、アニオン交換反応が生ずるとともに、アルカリ金属イオンとハロゲン化物イオンで形成された塩が脱離し、樹脂A中の第4級アンモニウム塩基の対イオンが、色素誘導体のスルホン酸基のアニオンとなる。これにより、構成単位(ii)の少なくとも一部が一般式(4)で表される構成単位(iv)に変換された樹脂Bが生成する。
【0046】
色素誘導体中のスルホン酸基のアニオンが有機顔料に吸着している状態で、樹脂Aが樹脂Bへと変換され、変換した樹脂Bが有機顔料の少なくとも一部の表面に吸着し、有機顔料が表面処理されることになる。構成単位(ii)の構造で水に親和、溶解していた樹脂Aは、ハロゲン化物イオンから色素誘導体のスルホン酸イオンが対イオンとなることで水に不溶となり、脱塩、イオン交換しつつ顔料表面に析出する。そして、構成単位(i)の溶解性及び立体反発によって、有機顔料の分散性が長期間にわたって良好な状態に維持される。
【0047】
構成単位(ii)を構成するモノマーとしては、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジエチルメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルベンジルジメチルクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルベンジルジエチルクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジエチルメチルアンモニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシエチルベンジルジメチルブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシエチルベンジルジエチルブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムアイオダイド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジエチルメチルアンモニウムアイオダイド、(メタ)アクリロイルオキシエチルベンジルジメチルアイオダイド、(メタ)アクリロイルオキシエチルベンジルジエチルアイオダイド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジエチルメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルベンジルジエチルクロライド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジブチルメチルクロライド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルベンジルジブチルアンモニウムクロライド等を挙げることができる。
【0048】
その他の構成単位(iii)は、構成単位(i)及び(ii)と連結しうる構成単位である。構成単位(iii)を構成するモノマーとしては、ラジカル重合しうる従来公知のモノマーを用いることができる。構成単位(iii)を構成するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸系モノマー;スチレン、ビニルトルエン、ビニルピリジン、ビニルカプロラクトン、ビニルイミダゾール、α-メチルスチレン、酢酸ビニル等のビニルモノマー;等を挙げることができる。なかでも、分子量の調整及び重合の制御が容易であることから、α-メチルスチレンが好ましい。
【0049】
構成単位(iii)は、下記一般式(5)で表される構成単位(iii-1)を含むことが好ましい。
【0050】
(前記一般式(5)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、CはO又はNHを示し、Dはエチレン基又はプロピレン基を示し、Rは、それぞれ独立にメチル基、エチル基、又はプロピル基を示し、sは任意の繰り返し数を示す)
【0051】
構成単位(iii-1)を構成するモノマーとしては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノエチルプロピル(メタ)アクリルアミド、ジブチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等を挙げることができる。
【0052】
樹脂A中、構成単位(i)の割合は40~80質量%、好ましくは50~70質量%であり、構成単位(ii)の割合は3~30質量%、好ましくは5~20質量%であり、構成単位(iii)の割合は1~57質量%である。なお、構成単位(i)~(iii)の合計を100質量%とする。構成単位(i)の割合が40質量%未満であると、立体障害が不十分となり、有機顔料の分散性が低下する。一方、構成単位(i)の割合が80質量%超であると、マクロモノマーが高分子量であることから、末端の重合性基が希薄になり、重合せずに残存しやすくなる。
【0053】
構成単位(ii)の割合が3質量%未満であると、結合する色素誘導体の量が減少し、有機顔料の吸着部が少なくなる。これにより、分散時や保存時に樹脂Bが有機顔料から脱離してしまい、分散安定性が低下する。一方、構成単位(ii)の割合が30質量%超であると、結合する色素誘導体の量が増大し、顔料分散性が低下したり、顔料が凝集したりする。また、色素誘導体が多く導入されるので、色素誘導体の色相が表れやすくなる。
【0054】
樹脂Aの数平均分子量は10,000~30,000であり、好ましくは12,000~24,000である。本明細書における「数平均分子量(Mn)」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の数平均分子量を意味する。樹脂Aの数平均分子量が10,000未満であると、顔料の分散性が低下し、顔料分散液の増粘や、顔料の沈降等が生ずる場合がある。一方、樹脂Aの数平均分子量が30,000超であると、高分子量とするために重合時間が長くなる、又は工程が煩雑になる場合があるとともに、顔料分散液の粘度が過度に高くなることがある。
【0055】
樹脂Aは、室温(25℃)条件下で液状の樹脂である。室温条件下で固体状の樹脂で顔料を処理して乾燥粉末とした場合、液媒体に分散させる際に固体状の樹脂を液媒体に溶解させる必要があるので、分散に時間がかかるとともに、樹脂が溶解しきれずに「ブツ」が形成されることがある。これに対して、室温条件下で液状の樹脂Aを用いると、樹脂が液媒体に速やかに親和し、目的とする樹脂処理顔料を容易に得ることができる。
【0056】
樹脂Aは、従来公知の方法によって合成することができる。例えば、従来公知のラジカル重合法;チオール等の連鎖移動剤を使用して分子量を調整する重合法;主鎖の分子量をより均一に揃えることが可能であるとともに、添加方法によってA-Bブロックコポリマーとすることができるリビングラジカル重合法、具体的には原子移動ラジカル重合法(ATRP法)、可逆的付加開裂型連鎖移動重合法(RAFT法)、ニトロキサイド法(NMP法)、有機テルル法(TERP法)、ヨウ素移動重合法(ITP法)、可逆的移動触媒重合法(RTCP法)、可逆的触媒媒介重合法(RCMP法)等のリビングラジカル重合法;により合成することができる。
【0057】
重合は、熱重合及び光重合のいずれであってもよく、アゾ系ラジカル発生剤、過酸化物系ラジカル発生剤、光増感剤等を重合反応系に添加してもよい。重合形式は、無溶剤、溶液重合、及び乳化重合のいずれであってもよく、なかでも溶液重合が好ましい。本発明の製造方法では、有機顔料、色素誘導体、及び樹脂Aを水中で混合する際に、水溶性有機溶剤を用いることができる。このため、重合反応して得た樹脂Aを単離せずにそのまま用いることができるので、水溶性有機溶剤中で溶液重合して樹脂Aを合成することが好ましい。水溶性有機溶剤としては、低級アルコール類、多価アルコール類、グリコール類、グリコールエーテル類、グリコールエステル類、アミド類、スルホキシド類、及び尿素類等を挙げることができる。なお、重合反応して得た樹脂Aを単離してもよい。
【0058】
[樹脂処理顔料の製造方法]
有機顔料100質量部、色素誘導体5~20質量部、及び水を含有する混合物に、樹脂A25~60質量部を添加して混合する。これにより、構成単位(ii)中の第4級アンモニウム塩の対イオン(X)と、色素誘導体中のカチオン(M)とで形成された塩が脱離(脱塩)するとともに、イオン交換により、構成単位(ii)の少なくとも一部が下記一般式(4)で表される構成単位(iv)に変換された樹脂Bが生成する。生成した樹脂Bは、実質的に水に不溶であることから、析出して顔料の少なくとも一部の表面に吸着して堆積すると考えられる。これにより、顔料の少なくとも一部の表面に樹脂Bが吸着して堆積した、目的とする樹脂処理顔料を得ることができる。
【0059】
(前記一般式(4)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは、それぞれ独立にメチル基、エチル基、又はプロピル基を示し、Rはメチル基又はベンジル基を示し、CはO又はNHを示し、Dはエチレン基又はプロピレン基を示し、Eは有機色素骨格を示し、rは任意の繰り返し数を示す)
【0060】
有機顔料、色素誘導体、及び水を含有する混合物には、必要に応じて、水溶性有機溶剤をさらに含有させることができる。水溶性有機溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジエチレングリコールブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコール類;グリセリン;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド系溶剤;テトラメチル尿素等の尿素系溶媒;エチレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;等を挙げることができる。
【0061】
有機顔料の一次粒子の表面に、樹脂Bが均一に吸着して堆積することが好ましい。このため、混合物を調製する際に用いる有機顔料は、粉末状の乾燥物であってもよいが、好ましくは水ペーストの状態であることが好ましい。水ペーストの場合、乾燥していないので、有機顔料が二次粒子を形成していたとしても凝集力は弱く、撹拌することで容易に微細な一次粒子とすることができる。混合物中の有機顔料の量は、1~10質量%とすることが好ましい。
【0062】
色素誘導体は、有機顔料の表面に予め吸着させておいてもよい。色素誘導体中のスルホン酸基は、中和されていないフリーの酸であってもよいが、樹脂Aを添加する前にアルカリ金属水酸化物の水溶液等を加えて塩を形成しておくとよい。有機顔料、色素誘導体、及び水を含有する混合物(水スラリー)をよく混合及び撹拌し、有機顔料の粒子を微細に分散させておくことが好ましい。
【0063】
樹脂Aを添加する際の混合物の液性は、中性~アルカリ性であることが好ましく、pH6.5~9.5の範囲内であることがさらに好ましい。混合物の液性が酸性であると、樹脂Bが形成されにくく(析出しにくく)なる場合がある。また、樹脂Aがアミノ基を有する場合、そのアミノ基がイオン化されやすくなるので、樹脂Bが析出しにくくなるとともに、後処理の際にろ過しにくくなる場合がある。一方、混合物の液性が強アルカリ性(例えば、pH9.5超)であると、樹脂Bが水中に析出しにくくなることがある。また、樹脂Aが酸性基を有する場合、その酸性基がイオン化されやすくなるので、樹脂Bが析出しにくくなるとともに、後処理の際にろ過しにくくなる場合がある。混合物に樹脂Aを添加して樹脂Bを析出させた後は、ろ過しやすくするために、好ましくは80℃以下、さらに好ましくは60℃以下に加温してからろ過するとよい。
【0064】
混合物をろ過して得た固形分を洗浄した後、必要に応じて乾燥及び粉砕することで、目的とする樹脂処理顔料を得ることができる。乾燥時の温度は、150℃以下とすることが好ましく、110℃以下とすることがさらに好ましい。固形分を粉砕する際、あまりに細かく粉砕しようとすると、粉砕時の熱で粒子同士が融着しやすくなる可能性がある。100メッシュパス等の粗い粒子径であっても十分に用いることができる。
【0065】
有機顔料100部に対する色素誘導体の量は、5~20質量部であり、好ましくは6~15質量部、さらに好ましくは6.5~10質量部である。5質量部未満であると、色素誘導体の量が少ないために樹脂Bが有機顔料の粒子表面から脱離しやすくなり、分散安定性が低下する。一方、20質量部超であると、色素誘導体の色相が有機顔料の色相に影響を及ぼすことがあるとともに、分散液の粘度が過度に高くなる場合がある。
【0066】
樹脂Aの添加量は、有機顔料100質量部に対して25~60質量部であり、好ましくは25~45質量部、さらに好ましくは30~45質量部である。25質量部未満であると、樹脂分が不足し、分散安定性が低下する。一方、60質量部超であると、分散液の粘度が過度に高くなる場合がある。
【0067】
混合物に添加する樹脂Aの量(添加量)は、一般式(1)中のスルホン酸イオンの量に対する、下記一般式(3)中の第4級アンモニウム塩の量が、1.45~1.80モル等量となる量、好ましくは1.50~1.70モル等量となる量である。第4級アンモニウム塩の量が少なすぎると、脱離する塩の量が少なくなり、析出する樹脂Bの量が不足する。このため、有機顔料を十分に被覆することが困難になるとともに、SP値の小さいモノマー中に分散させて得られる顔料分散液の粘度が過剰に高くなったり、凝集物が生じたりする。一方、第4級アンモニウム塩の量が多すぎると、過剰となって残存する第4級アンモニウム塩の影響により、得られる顔料分散液の粘度が過剰に高くなったり、ろ過が困難になったりする。
【0068】
[樹脂B]
樹脂Bは、下記一般式(2)で表される構成単位(i)35~70質量%、その他の構成単位(iii)、及び下記一般式(4)で表される構成単位(iv)10~50質量%を有することが好ましい。
【0069】
(前記一般式(2)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは水素原子、メチル基、又はブチル基を示し、AはO又はNHを示し、Bはエチレン基又はメチルエチレン基を示し、XはO、NHCOO、又はNHCONHを示し、nは平均繰り返し単位数を表す20~100の数であり、pは任意の繰り返し数を示す)
【0070】
(前記一般式(4)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは、それぞれ独立にメチル基、エチル基、又はプロピル基を示し、Rはメチル基又はベンジル基を示し、CはO又はNHを示し、Dはエチレン基又はプロピレン基を示し、Eは有機色素骨格を示し、rは任意の繰り返し数を示す)
【0071】
樹脂B中、構成単位(i)の割合は35~70質量%であることが好ましく、40~65質量%であることがさらに好ましい。また、樹脂B中、構成単位(iv)の割合は10~50質量%であることが好ましく、15~45質量%であることがさらに好ましい。なお、すべての構成単位の合計を100質量%とする。構成単位(i)の割合が35質量%未満であると、ポリアルキレングリコール鎖の量が不十分になって立体反発がやや不足し、分散安定性が低下することがある。構成単位(iv)の割合が10質量%未満であると、製造時の配合で色素誘導体の量が5質量%未満になってしまい、有機顔料への吸着量がやや不足して分散安定性が低下することがある。一方、50質量%超であると、色素誘導体の量が過剰になるため、色相が変化しやすくなるとともに、耐水性が低下することがある。
【0072】
樹脂Bは、下記一般式(3)で表される構成単位(ii)をさらに有してもよい。そして、樹脂B中、構成単位(ii)及び構成単位(iii)の合計含有量は、0.5~60質量%であることが好ましい。以下、便宜上、「構成単位(ii)」と「構成単位(iii)」を、纏めて「構成単位(v)」とも記す。すなわち、構成単位(v)は、樹脂A中の構成単位(iii)と、イオン交換せずに残った構成単位(ii)とを含む構成単位である。
【0073】
(前記一般式(3)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは、それぞれ独立にメチル基、エチル基、又はプロピル基を示し、Rはメチル基又はベンジル基を示し、CはO又はNHを示し、Dはエチレン基又はプロピレン基を示し、Xは塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を示し、qは任意の繰り返し数を示す)
【0074】
樹脂処理顔料中、有機顔料100質量部に対する樹脂Bの量は、30~70質量部であることが好ましく、30~50質量部であることがさらに好ましい。樹脂Bの量が、有機顔料100質量部に対して30質量部未満であると、分散安定性が不十分になることがある。一方、樹脂Bの量が、有機顔料100質量部に対して70質量部超であると、顔料分散液の粘度が過度に上昇することがある。また、室温条件下で液状の樹脂Aを使用しているため、粉砕時に熱で融着したり、保存中に融着したりする場合がある。
【0075】
(モノマー)
モノマーは、樹脂処理顔料を分散させる液媒体として用いられる成分である。モノマーのSP値は7.0~10.5、好ましくは8.0~10.0である。本実施形態の顔料分散液は、前述の通り、所定の方法によって製造された、なかでも、スルホン酸イオンの量に対して特定量(モル等量)の第4級アンモニウム塩を用いて製造された樹脂処理顔料を含有するため、SP値が比較的小さい上記のモノマーを含有しながらも、低粘度で顔料が微分散されているとともに、保存安定性に優れている。
【0076】
モノマーのSP値が7.0未満であると、樹脂処理顔料を分散させることが困難になり、得られる顔料分散液の粘度が過剰に高くなるとともに、凝集物が生じやすくなる。一方、モノマーのSP値が10.5超であると、得られる顔料分散液の粘度が過剰に高くなるとともに、顔料の分散安定性が低下する。なお、顔料分散液中、有機顔料とモノマーの質量比は、有機顔料:モノマー=2:98~50:50であることが好ましい。
【0077】
本明細書における「SP値」は、Hansenの溶解度パラメーター(HSP値)から算出されるHildebrand溶解度パラメーター(SP値:δ)である。HSP値は、HSPiP(version5.4.03)ソフトウェアにおけるY-MB法を用いて算出される値であり、分散力項(δ)、極性項(δ)、及び水素結合項(δ)の三成分からなる。HSP値とSP値の関係は、式:δ=δ +δ +δ 、にて表される。
【0078】
モノマーとしては、紫外線硬化性モノマーを用いることが好ましい。紫外線硬化性モノマーを液媒体として使用し、液媒体中に樹脂処理顔料を分散させることで、紫外線硬化型インクジェット(UVIJ)インクを調製するために用いられる顔料分散液とすることができる。
【0079】
紫外線硬化性モノマーとしては、紫外線を照射することで硬化する従来公知のモノマーを用いることができる。紫外線硬化性モノマーは、通常、反応性基を1つ有する単官能モノマーであってもよく、2以上の反応性基を有する多官能モノマーであってもよい。さらに、紫外線硬化性基を有する光硬化性オリゴマーや光硬化性ポリマーを併用してもよい。
【0080】
単官能モノマーとしては、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イルメチル)(メタ)アクリレート、2-(アリルオキシメチル)アクリル酸メチル、環状トリメチロールプロパンホルマール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のラジカル重合性モノマーを挙げることができる。なかでも、紫外線硬化性が良好なアクリレート骨格を含むものことが好ましい。
【0081】
多官能モノマー及び光硬化性オリゴマーとしては、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。なかでも、紫外線硬化性が良好なアクリレート骨格を含むものが好ましい。
【0082】
光硬化性ポリマーとしては、ポリ(メタ)アクリレート、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、及びポリエポキシ樹脂等のポリマーの末端や側鎖に、(メタ)アクリロイルオキシ基等のラジカル重合性基を複数有するもの等を挙げることができる。
【0083】
一般的な油性の顔料分散液では、顔料の酸性基と、分散剤として用いる樹脂の塩基性基とのイオン結合によって、分散剤が顔料に吸着する。このため、紫外線硬化性モノマーとして、高極性のモノマー(アクリロイルモルホリン、ビニルピロリドン、ビニルカプロラクトン等のアミド結合を有する化合物;アクリロイルオキシエチルビニルエーテル等のエーテル系化合物等)を用いると、イオン結合が容易に解離して分散剤が顔料から脱離し、顔料の分散性が低下しやすい。これに対して、本発明の顔料分散液に用いる上述の樹脂処理顔料の場合、顔料に吸着した樹脂Bに有機色素骨格が導入されているため、樹脂Bは顔料に強固に吸着しており、容易に脱離することがない。さらに、構成単位(iv)が高極性のモノマーにも溶解しにくいので、顔料の分散安定性を高いレベルに維持することができる。
【0084】
(その他の成分)
顔料分散液及び後述するUVIJインクには、各種添加剤をさらに含有させてもよい。添加剤としては、重合禁止剤、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、レベリング剤、増粘剤、粘度調整剤、防腐剤、防カビ剤、染料、ワックス、フィラー、酸発生剤、及びアルカリ発生剤等を挙げることができる。重合禁止剤としては、p-メトキシフェノール、t-ブチルカテコール、ジ-t-ブチルパラクレゾール、ヒドロキノンモノメチルエーテル、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)等のフェノール化合物;p-ベンゾキノン等のキノン化合物;p-ベンジルアミノフェノール、ジ-β-ナフチルパラフェニレンジアミン、フェニルヒドロキシルアミン、ジエチルヒドロキシルアミン等のアミン化合物;キノンジオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム化合物;フェノチアジン等の硫黄化合物;等を挙げることができる。顔料分散液には、光開始剤を予め配合しておいてもよい。
【0085】
顔料分散液の組成は任意に設定することができる。具体的な一例を挙げると、顔料分散液中、樹脂処理顔料5~30質量%、高分子分散剤0.5~30質量%、及びモノマー40~94.5質量%とすることが好ましい。また、顔料分散液中、樹脂処理顔料10~25質量%、高分子分散剤1~25質量%、モノマー60~90質量%とすることがさらに好ましい。
【0086】
(顔料分散液の製造方法)
顔料分散液は、従来公知の方法にしたがって調製することができる。例えば、モノマー、樹脂処理顔料、及び高分子分散剤等の混合物を調製し、必要に応じて有機溶剤を添加する。ペイントシェイカー、ボールミル、アトライター、サンドミル、横型メディアミル、コロイドミル、ロールミル等を使用して分散処理することで、顔料分散液を得ることができる。得られた顔料分散液にモノマーを添加して顔料の濃度を調整することができる。また、必要に応じて他の添加剤を添加してもよい。さらに、遠心分離機やフィルターで処理して粗大粒子を除去することが好ましい。
【0087】
顔料の数平均粒子径(粒度分布)を所望の範囲とするには、サイズの小さな粉砕メディアを用いる;粉砕メディアの充填率を高める;分散処理時間を長くする;吐出速度を遅くする;粉砕後にフィルターや遠心分離機等で分級する;等の手法が採用される。25℃における顔料分散液の粘度は、3~100mPa・sであることが好ましい。
【0088】
<紫外線硬化型インクジェットインク及び印刷皮膜>
本発明の紫外線硬化型インクジェットインク(UVIJインク)の一実施形態は、紫外線硬化性モノマーを用いた前述の顔料分散液を含有するものである。そして、本発明の印刷皮膜の一実施形態は、このUVIJインクの硬化物である。本実施形態のUVIJインクは、紫外線硬化性モノマーを液媒体とする、有機顔料が微分散されたインクジェット用のインクである。本実施形態のUVIJインクは、記録媒体に塗布された成分が照射された紫外線により硬化して画像(印刷皮膜)を形成する、揮発成分を実質的に含有しない環境に配慮されたインクである。
【0089】
本実施形態のUVIJインクは、前述の顔料分散液の他、例えば、光重合開始剤、紫外線硬化性ポリマー、及び前述の各種添加剤等をさらに含有してもよい。光重合開始剤としては、光ラジカル重合開始剤、光カチオン重合開始剤を使用することができる。なかでも、光ラジカル重合開始剤を用いることが好ましい。光開始剤としては、ベンゾフェノン系光重合開始剤、チオキサントン系光重合開始剤、ケトオキシムエステル系光重合開始剤、及びアシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤等を挙げることができる。UVIJインク中の光重合開始剤の含有量は、3~12質量%とすることが好ましい。光重合開始剤の含有量が3質量%未満であると、硬化不良が生じやすくなることがある。一方、光重合開始剤の含有量が12質量%超であると、光重合開始剤が残存したり、光重合開始剤による着色が生じたりする場合がある。
【0090】
以上の各成分を混合して十分に撹拌した後、フィルターでろ過すること等により、目的とするUVIJインクを得ることができる。UVIJインクの25℃における表面張力は、15~45mN/mであることが好ましく、20~40mN/mであることがさらに好ましい。
【0091】
本発明のUVIJインクを用いれば、インクジェット記録法によって種々の基材に、高彩度、高発色性、密着性及び耐摩擦性等の耐久性に優れた印刷皮膜である画像を記録する(印刷する)ことができる。基材(記録媒体)としては、紙、印画紙、写真光沢紙、プラスチックフィルム、布地、セラミックス、金属等を挙げることができる。
【実施例0092】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0093】
<樹脂Aの合成>
(合成例1:樹脂A-1)
反応容器に、プロピレングリコールモノメチルエーテル(MPG)156部、プロピレングリコールモノメタクリレート(MAC)(商品名「ブレンマーPP-2000」、日油社製、水酸基価26mgKOH/g、水酸基価から換算した分子量2,160、テトラヒドロフラン(THF)を展開溶媒とするGPC(THF-GPC)により測定されるポリスチレン換算の数平均分子量3,400)100部、α-メチルスチレン(MSt)5.2部、メチルメタクリレート(MMA)10部、及びジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)35.5部を入れ、窒素を流しながら撹拌して75℃に加温した。2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチル(V-601)(商品名「V-601」、富士フイルム和光純薬社製)5部を添加し、8時間重合した後に冷却して、樹脂の前駆体溶液を得た。一部をサンプリングし、赤外水分計を使用して180℃で測定した前駆体溶液の固形分は50.1%であり、ほとんど重合していることを確認した。0.1mol/Lイソプロパノール性塩酸溶液を用いる電位差自動滴定装置により測定した前駆体のアミン価は、85.1mgKOH/gであった。前駆体溶液を水に添加したところ、白濁して白色粘稠物が析出した。すなわち、生成した樹脂の前駆体は水に不溶であった。
【0094】
別容器に、塩化ベンジル10部及びMPG10部を入れ、さらに、室温条件下で前駆体溶液を添加した。1時間撹拌した後、80℃に加温して5時間反応させて、若干の濁りが生じた粘稠な樹脂A-1の溶液を得た。一部をサンプリングして測定した樹脂A-1の溶液の固形分は52.0%であった。また、固形分(樹脂A-1)は、室温条件下で粘稠な液体であった。0.1mmol/Lリチウムブロマイドのジメチルホルムアミド(DMF)溶液を展開溶媒とするGPC(DMF-GPC)により測定した、ポリスチレン換算の樹脂A-1の数平均分子量(Mn)は9,600であり、分子量分布(PDI=重量平均分子量/数平均分子量)は1.90であった。DMF-GPCでは、MACのピークはほとんど検出されず、MACのほとんどが樹脂A-1に導入されたことがわかった。樹脂A-1のアミン価は50.1mgKOH/gであり、前駆体中のアミノ基の35mol%が第4級化されたこと、すなわち、第4級化率が35mol%であったことがわかる。樹脂A-1 1gに含まれる第4級塩の量は、0.470mmolと算出される。得られた樹脂A-1中、構成単位(i)の割合は59.5%、構成単位(ii)の割合は13.3%、構成単位(iii)の割合は27.2%であった。樹脂A-1の溶液を水に添加したところ、不溶物は生成せずに水に溶解した。
【0095】
得られた樹脂A-1の詳細を表1に示す。
【0096】
【0097】
<樹脂処理顔料の製造>
(製造例1:樹脂処理顔料1)
ビーカーに、C.I.ピグメントレッド122(PR122)(商品名「6111T」、大日精化工業社製)の水ペースト(純分29.4%)340部及びイオン交換水1,600部を入れ、ディスパーを使用して2,000回転で撹拌し、水スラリーを得た。式(F)で表されるモノフタルイミドメチル化キナクリドンモノスルホン酸ナトリウム(MSPQNa)水溶液(純分3%、pH8.9、透明感のある赤色溶液)173.3部を水スラリーに添加し、2,000回転で2時間撹拌した。撹拌後の水スラリーをろ紙にスポットしたところ、顔料がろ紙上に乗るとともに、顔料の周囲にMSPQNaによる滲みが生じ、ろ紙の裏面が赤色に滲んだ。また、水スラリーのpHは7.2となった。
【0098】
別容器に、樹脂A-1の溶液57.7部及びイオン交換水57.7部を入れて混合し、均一な混合物を得た。得られた混合物を水スラリーに徐々に添加した。水スラリーをろ紙にスポットしたところ、滲みや裏抜けは生じなかった。60℃に加温して30分間撹拌した後、ろ過してイオン交換水で洗浄した。乾燥機を使用して80℃で24時間乾燥した後、粉砕機を使用して粉砕し、樹脂処理顔料1 124.9部を得た。収率は92.4%であり、120℃で乾燥して測定した不揮発分は99.3%であった。樹脂A中の構成単位(ii)の少なくとも一部が構成単位(iv)に変換され、樹脂Aに由来する樹脂Bが形成されている。スルホン酸イオンの量に対する、第4級アンモニウム塩(DMQ)の量は、1.57モル等量であった。また、顔料100部に対する樹脂Bの量は、34.7部であった。形成された樹脂B中、構成単位(i)の割合は51.4%、構成単位(iv)の割合は20.9%、構成単位(v)の割合(構成単位(ii)及び構成成分(iii)の合計)は27.7%であった。
【0099】
(製造例2及び3:樹脂処理顔料2及び3)
表2に示す処方としたこと以外は、前述の製造例1と同様にして、樹脂処理顔料2及び3を得た。得られた樹脂処理顔料の詳細を表2に示す。
【0100】
【0101】
<UVIJインク用の顔料分散液の製造>
(実施例1:顔料分散液1)
樹脂製の容器に、樹脂処理顔料1 19.3部及びイソボルニルアクリレート(IBXA、SP値:8.34)80.7部を入れた。直径0.5mmφのジルコニアビーズ400部をさらに入れて密栓し、ペイントシェイカーを使用して分散処理した。ジルコニアビーズを分離して除去し、UVIJインク用の顔料分散液1を得た。E型粘度計を使用し、60rpm、25℃の条件で測定した顔料分散液1の粘度(初期粘度)は28.9mPa・sであった。動的光散乱式の粒度分布計を使用して測定した顔料分散液1中の顔料の数平均粒子径(初期数平均粒子径)は112nmであった。
【0102】
得られた顔料分散液1を60℃で1週間保存する保存試験を行った。初期粘度を基準とする、保存試験後の粘度の割合(粘度維持率)は、96%であった。また、初期数平均粒子径を基準とする、保存試験後の顔料の数平均粒子径の割合(粒子径維持率)は、99%であった。
【0103】
保持粒子径5μmのフィルター(商品名「PF-050」、ADVANTEC社製)を用いて得られた顔料分散液1 30gを0.04MPaの負荷圧でろ過するろ過性試験を実施した。そして、以下に示す評価基準にしたがってろ過性を評価したところ、「○」評価であった。
[ろ過性の評価基準]
○:全量が通液し、ろ過時間が良好であった。
△:全量が通液した。
×:あまり通液せず、目詰まりが生じた。
【0104】
(実施例2~4、比較例1~3:顔料分散液2~7)
表3に示す処方としたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、UVIJインク用の顔料分散液2~7を得た。得られた顔料分散液の詳細を表3に示す。表3中、「PEA」はフェノキシエチルアクリレート(SP値:9.5)であり、「ACMO」はアクリロイルモルホリン(SP値:10.9)である。
【0105】
【0106】
<UVIJインクの製造>
(実施例5:UVIJINK-M-1)
顔料分散液1 18部、PEA53.5部、アクリロイルオキシエトキシエチルビニルエーテル(VEEA、日本触媒社製)19部、光重合開始剤1(商品名「ルシリンTPO」、BASF社製)5部、及び光重合開始剤2(商品名「イルガキュア819」、BASF社製)4.5部を混合した。十分撹拌した後、5μmのフィルターでろ過して、UVIJインク(UVIJINK-M-1)を得た。得られたインクの粘度及び顔料の数平均粒子径を測定した。結果を表4に示す。また、得られたインクを褐色サンプル瓶に入れて60℃で1週間保存する前述の保存試験を行った。そして、初期粘度を基準とする、保存試験後の粘度の割合(粘度維持率)、及び初期数平均粒子径を基準とする、保存試験後の顔料の数平均粒子径の割合(粒子径維持率)を算出した。結果を表4に示す。
【0107】
(実施例6~8、比較例4~6:UVIJINK-M-2~7)
表4に示す処方としたこと以外は、前述の実施例5と同様にして、UVIJインク(UVIJINK-M-2~7)を得た。得られたUVIJインクの詳細を表4に示す。
【0108】
<UV硬化塗膜(印刷皮膜)の製造及び評価>
自動バーコーターを使用し、厚さ100μmのPETフィルム上に膜厚6μmとなるようにUVIJインクを塗布して塗膜を形成した。次いで、UV硬化装置を使用して形成した塗膜を硬化させて、UV硬化塗膜(印刷皮膜)を形成した。
【0109】
(1)反射濃度
測色計(商品名「i1PRO」、X-Rite社製)を使用し、形成したUV硬化塗膜の反射濃度(位置を変えて10回測定した値の平均値)を測定した。そして、以下に示す評価基準にしたがってUV硬化塗膜の反射濃度を評価した。結果を表4に示す。
[反射濃度の評価基準]
◎:反射濃度が1.15以上1.20未満であった。
○:反射濃度が1.10以上1.15未満であった。
△:反射濃度が1.05以上1.10未満であった。
【0110】
(2)光沢度
表面光沢測定器(商品名「micro-tri-gloss」、BYK社製)を使用し、形成したUV硬化塗膜の20°における光沢度(位置を変えて7回測定した値の平均値)を測定した。そして、以下に示す評価基準にしたがってUV硬化塗膜の光沢度を評価した。結果を表4に示す。
[光沢度の評価基準]
◎:光沢度が135以上140未満であった。
○:光沢度が130以上135未満であった。
△:光沢度が125以上130未満であった。
【0111】
(3)密着性
自動バーコーターを使用し、厚さ250μmのPETフィルム上に膜厚6μmとなるようにUVIJインクを塗布して塗膜を形成した。次いで、UV硬化装置を使用して形成した塗膜を硬化させて、UV硬化塗膜(印刷皮膜)を形成した。そして、JIS規格(JIS K 5600-5-6)に準拠したクロスカット法による密着性試験を実施し、以下に示す評価基準にしたがってUV硬化塗膜の密着性を評価した。結果を表4に示す。
[密着性の評価基準]
0:どの格子の目にも剥がれがなかった。
1:カットの交差点において小さな剥がれがあり、クロスカット部分で影響を受けたのは5%未満であった。
2:カットの縁や交差点において剥がれ、影響を受けたのは5%以上15%未満であった。
3:カットの縁に沿って大きく剥がれており、影響を受けたのは15%以上35%未満であった。
4:カットの縁に沿って大きく剥がれており、影響を受けたのは35%以上65%未満であった。
5:剥がれの程度が評価「4」を超えた。
【0112】
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明の顔料分散液は、紫外線硬化型インクジェットインクを調製するための原料として有用であり、バイオマス由来のモノマーを積極的に用いることができる。