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  • 特開-細胞分離材及び診断機器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077387
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】細胞分離材及び診断機器
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/40 20060101AFI20240531BHJP
   C09D 175/14 20060101ALI20240531BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20240531BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20240531BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20240531BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240531BHJP
   G01N 1/04 20060101ALI20240531BHJP
   G01N 1/10 20060101ALI20240531BHJP
   C08F 22/22 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
G01N1/40
C09D175/14
A61L31/04 110
C12M1/00 A
C12M1/34 B
C12Q1/02
G01N1/04 H
G01N1/10 C
C08F22/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189452
(22)【出願日】2022-11-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年4月1日 一般社団法人日本医療機器学会発行の医療機器学,第92巻,第2号,第97回日本医療機器学会大会 予稿集,第199頁にて公開 令和4年5月10日 ウェブサイト(アドレス:https://main.spsj.or.jp/nenkai/71nenkai/index.html)にて公開 令和4年8月17日 ウェブサイト(アドレス:https://main.spsj.or.jp/tohron/71tohron/)にて公開
(71)【出願人】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】田中 賢
(72)【発明者】
【氏名】谷口 将太
(72)【発明者】
【氏名】中村 賢一
【テーマコード(参考)】
2G052
4B029
4B063
4C081
4J038
4J100
【Fターム(参考)】
2G052AA30
2G052AA33
2G052BA21
2G052HC23
2G052JA09
2G052JA16
4B029AA07
4B029BB11
4B029CC02
4B029FA15
4B063QA01
4B063QA18
4B063QA20
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QR90
4B063QS40
4B063QX10
4C081AC16
4C081CA081
4J038DG191
4J038KA06
4J038MA14
4J038PB01
4J038PC08
4J100AL08P
4J100BA02P
4J100BA37P
4J100BA38P
4J100CA04
4J100JA50
(57)【要約】
【課題】優れた細胞接着性を示しながら、血液成分の吸着による細胞分離性の低下を抑制でき、かつ接着した細胞を効率的に増殖させることができる細胞分離材を提供すること。
【解決手段】ウレタン結合又はウレア結合を有するエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位(A)を含む重合体を含有する細胞分離材とする。細胞分離材に含有される重合体は、当該重合体に水を含ませ、示差走査熱量計を用いて速度5℃/分の条件にて昇温して得られるDSC曲線において、氷の融解による吸熱のピークトップが0℃に現れるときの重合体の含水状態を飽和含水状態とした場合に条件(i)を満たす。条件(i):飽和含水状態での中間水量が、飽和含水状態の重合体の全量に対し2.0質量%以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレタン結合又はウレア結合を有するエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位(A)を含む重合体を含有し、
前記重合体は、当該重合体に水を含ませ、示差走査熱量計(DSC)を用いて速度5℃/分の条件にて昇温することにより得られるDSC曲線において、氷の融解による吸熱のピークトップが0℃に現れるときの前記重合体の含水状態を飽和含水状態とした場合に、下記の条件(i):
条件(i):飽和含水状態の前記重合体に含まれる中間水量が、飽和含水状態の前記重合体の全量に対して2.0質量%以上である、
を満たす、細胞分離材。
【請求項2】
ウレタン結合又はウレア結合を有するエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位(A)を有する重合体を含有し、
前記重合体は、当該重合体に水を含ませ、示差走査熱量計(DSC)を用いて速度5℃/分の条件にて昇温することにより得られるDSC曲線において、氷の融解による吸熱のピークトップが0℃に現れるときの前記重合体の含水状態を飽和含水状態とした場合に、下記の条件(ii):
条件(ii):飽和含水状態の前記重合体に含まれる水和水量が、飽和含水状態の前記重合体の全量に対して6.0質量%以上である、
を満たす、細胞分離材。
【請求項3】
ウレタン結合又はウレア結合を有するエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位(A)を有する重合体を含有し、
前記重合体は、当該重合体に水を含ませ、示差走査熱量計(DSC)を用いて速度5℃/分の条件にて昇温することにより得られるDSC曲線において、氷の融解による吸熱のピークトップが0℃に現れるときの前記重合体の含水状態を飽和含水状態とした場合に、下記の条件(iii):
条件(iii):飽和含水状態の前記重合体に含まれる、不凍水量に対する中間水量の比率が0.50以上である、
を満たす、細胞分離材。
【請求項4】
前記重合体は、下記の条件(ii):
条件(ii):飽和含水状態の前記重合体に含まれる水和水量が、飽和含水状態の前記重合体の全量に対して6.0質量%以上である、
を更に満たす、請求項1に記載の細胞分離材。
【請求項5】
前記重合体は、下記の条件(iii):
条件(iii):飽和含水状態の前記重合体に含まれる、不凍水量に対する中間水量の比率が0.50以上である、
を更に満たす、請求項1、2又は4に記載の細胞分離材。
【請求項6】
前記重合体は、前記構造単位(A)を、前記重合体が有する全構造単位に対して10質量%以上含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の細胞分離材。
【請求項7】
前記構造単位(A)は、エーテル基を更に有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の細胞分離材。
【請求項8】
前記重合体は、(メタ)アクリル系重合体である、請求項1~3のいずれか一項に記載の細胞分離材。
【請求項9】
請求項1~3のいずれか一項に記載の細胞分離材により基材表面の少なくとも一部が被覆された診断機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞分離材及び診断機器に関し、より詳しくは、生体液に含まれる細胞を接着して分離する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
血液等の生体液に含まれる細胞やタンパク質等の物質情報は、被験者の病気の診断や治療等の医療行為において非常に重要である。このような生体液を用いた診断方法はリキッドバイオプシーと呼ばれ、従来の生体組織検査(バイオプシー)に比べ低侵襲性であることから、近年注目されている。
【0003】
リキッドバイオプシーには、生体液から細胞を選択的に回収する技術が必要になる。生体液からの細胞の回収法として一般には、膜分離や遠心分離による物理的な細胞回収法や、抗体抗原反応を用いた回収技術が知られている。物理的な細胞回収法は、細胞の大きさや比重が異なる場合には効果的であるが、物理的な性状の差異が小さい場合には細胞の分離が困難になる。また、抗体抗原反応を利用した細胞の回収技術は、抗原としての細胞が抗体に特異的に結合するため選択性が高い一方で、抗体に強固に結合した細胞を損傷なく回収することが困難な場合があるというデメリットがある。
【0004】
上記のような細胞の回収法に対し、特許文献1には、非水溶性の合成ポリマーであるポリ(2-メトキシエチルアクリレート)やポリ[2-(2-メトキシエトキシ)エチルメタクリレート]をがん細胞接着性向上剤として用いることにより、血液中からがん細胞を回収し濃縮することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2012/173097号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
血液等の生体液中に含まれる検体種(例えば、血中循環腫瘍細胞(CTC)や、血中循環腫瘍DNA(ctDNA)、細胞外小胞(EVs)等)はごく微量である。そのため、リキッドバイオプシーによる疾病の早期検出や早期診断、適切な治療方針の決定等を可能にする診断機器を開発するにあたり、検出系の高感度化を図ることが重要である。
【0007】
例えば、特許文献1に記載の技術のように、ポリマーが細胞を接着する性質を利用して血液中から細胞を分離する場合、当該ポリマーには、検体種となる細胞を接着する能力(細胞接着性)に加え、検体種以外の成分の吸着による細胞分離性の低下を抑制するべく、血液成分が吸着しにくい性質(抗吸着性)や、血液の異物反応による血栓の形成を抑制する性質(抗血栓性)が求められる。特に、接着により生体液中から細胞を分離する方法は、生体液中の細胞をそのままの状態で回収し解析できる利点があり、こうした点からも、検体種となる細胞を接着する能力と、血液成分の抗吸着性及び抗血栓性とを併せ持つ新たな材料を開発し、当該材料を用いてリキッドバイオプシーによる検出系の高感度化を実現することが望ましい。
【0008】
また、細胞接着性を利用して生体液中から分離した細胞をそのまま被接着体上で培養して増殖できれば、リキッドバイオプシーによる検出系の更なる高感度化を簡便に実現可能といえる。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、優れた細胞接着性を示しながら、血液成分の吸着による細胞分離性の低下を抑制でき、かつ接着した細胞を効率的に増殖させることができる細胞分離材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば以下の手段が提供される。
【0011】
〔1〕 ウレタン結合又はウレア結合を有するエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位(A)を含む重合体を含有し、前記重合体は、当該重合体に水を含ませ、示差走査熱量計(DSC)を用いて速度5℃/分の条件にて昇温することにより得られるDSC曲線において、氷の融解による吸熱のピークトップが0℃に現れるときの前記重合体の含水状態を飽和含水状態とした場合に、下記の条件(i):
条件(i):飽和含水状態の前記重合体に含まれる中間水量が、飽和含水状態の前記重合体の全量に対して2.0質量%以上である、
を満たす、細胞分離材。
【0012】
〔2〕 ウレタン結合又はウレア結合を有するエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位(A)を有する重合体を含有し、前記重合体は、当該重合体に水を含ませ、示差走査熱量計(DSC)を用いて速度5℃/分の条件にて昇温することにより得られるDSC曲線において、氷の融解による吸熱のピークトップが0℃に現れるときの前記重合体の含水状態を飽和含水状態とした場合に、下記の条件(ii):
条件(ii):飽和含水状態の前記重合体に含まれる水和水量が、飽和含水状態の前記重合体の全量に対して6.0質量%以上である、
を満たす、細胞分離材。
【0013】
〔3〕 ウレタン結合又はウレア結合を有するエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位(A)を有する重合体を含有し、前記重合体は、当該重合体に水を含ませ、示差走査熱量計(DSC)を用いて速度5℃/分の条件にて昇温することにより得られるDSC曲線において、氷の融解による吸熱のピークトップが0℃に現れるときの前記重合体の含水状態を飽和含水状態とした場合に、下記の条件(iii):
条件(iii):飽和含水状態の前記重合体に含まれる、不凍水量に対する中間水量の比率が0.50以上である、
を満たす、細胞分離材。
【0014】
〔4〕 前記重合体は、下記の条件(ii):
条件(ii):飽和含水状態の前記重合体に含まれる水和水量が、飽和含水状態の前記重合体の全量に対して6.0質量%以上である、
を更に満たす、上記〔1〕に記載の細胞分離材。
【0015】
〔5〕 前記重合体は、下記の条件(iii):
条件(iii):飽和含水状態の前記重合体に含まれる、不凍水量に対する中間水量の比率が0.50以上である、
を更に満たす、上記〔1〕、〔2〕又は〔4〕に記載の細胞分離材。
【0016】
〔6〕 前記重合体は、前記構造単位(A)を、前記重合体が有する全構造単位に対して10質量%以上含む、上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の細胞分離材。
〔7〕 前記構造単位(A)は、エーテル基を更に有する、上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の細胞分離材。
〔8〕 前記重合体は、(メタ)アクリル系重合体である、上記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の細胞分離材。
〔9〕 上記〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の細胞分離材により基材表面の少なくとも一部が被覆された診断機器。
【発明の効果】
【0017】
本発明の細胞分離材は、優れた細胞接着性を示しつつ、血液成分の吸着による細胞分離性の低下を抑制することができる。したがって、本発明の細胞分離材により基材表面の少なくとも一部を被覆することにより、優れた細胞接着性を基材表面に付与しながら、血液成分の吸着による細胞分離性の低下を抑制することができる。また、本発明の細胞分離材により被覆された部分に接着した細胞については、細胞分離材から脱離させるといった操作を行わなくても、そのまま培養することにより効率良く増殖させることができる。これにより、生体液(特に血液)を用いた細胞検出系の高感度化を図ることができ、ひいては、リキッドバイオプシーによる疾病の早期検出や早期診断等を可能にする診断機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】水和時に中間水を含む重合体の飽和含水状態におけるDSC曲線の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳しく説明する。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。
【0020】
≪細胞分離材≫
本発明の細胞分離材(以下、「本分離材」ともいう)は、生体液との接触により生体液中に含まれる細胞を接着し、これにより生体液中から細胞を分離するための材料である。本分離材は、ウレタン結合(-NH-COO-)又はウレア結合(-NH-CO-NH-)を有するエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位(A)を含む重合体(以下、「重合体(P)」ともいう)を含有する。具体的には、以下の第1の細胞分離材、第2の細胞分離材及び第3の細胞分離材を含む。
【0021】
第1の細胞分離材:重合体(P)を含有し、当該重合体(P)は、重合体(P)に水を含ませ、示差走査熱量計(DSC)を用いて速度5℃/分の条件にて昇温することにより得られるDSC曲線において、氷の融解による吸熱のピークトップが0℃に現れるときの重合体(P)の含水状態を「飽和含水状態」と定義した場合に、下記の条件(i)を満たす。
条件(i):飽和含水状態の重合体(P)に含まれる中間水量が、飽和含水状態の重合体(P)の全量に対して2.0質量%以上である。
【0022】
第2の細胞分離材:重合体(P)を含有し、当該重合体(P)は、重合体(P)に水を含ませ、DSCを用いて速度5℃/分の条件にて昇温することにより得られるDSC曲線において、氷の融解による吸熱のピークトップが0℃に現れるときの重合体(P)の含水状態を「飽和含水状態」と定義した場合に、下記の条件(ii)を満たす。
条件(ii):飽和含水状態の重合体(P)に含まれる水和水量が、飽和含水状態の重合体(P)の全量に対して6.0質量%以上である。
【0023】
第3の細胞分離材:重合体(P)を含有し、当該重合体(P)は、重合体(P)に水を含ませ、DSCを用いて速度5℃/分の条件にて昇温することにより得られるDSC曲線において、氷の融解による吸熱のピークトップが0℃に現れるときの重合体(P)の含水状態を「飽和含水状態」と定義した場合に、下記の条件(iii)を満たす。
条件(iii):飽和含水状態の重合体(P)に含まれる不凍水量に対する中間水量の比率が0.50以上である。
【0024】
重合体(P)に水を含ませたときに、重合体(P)と相互作用している水(すなわち水和水)は、ポリマーとの相互作用の強弱に応じて、「自由水」、「不凍水」及び「中間水」の3種類の形態をとり得る。これらのうち、「自由水」は、ポリマーとの相互作用が弱く凝固点が0℃である水をいう。「不凍水」は、ポリマーとの相互作用が強く凝固点が検出されない水をいう。「中間水」は、ポリマーとの相互作用が自由水と不凍水との中間であって(すなわち、ポリマーと比較的緩やかに相互作用し)、凝固点が0℃未満である水をいう。ポリマーが細胞の選択的接着性や生体適合性を獲得することは、水和されたポリマーが中間水を適量含むことに関連していると考えられている(例えば、特開2012-105579号公報、特開2016-35000号公報参照)。
【0025】
ここで、血液等の生体液中に含まれる検体種はごく微量であるため、リキッドバイオプシーによる疾病の早期検出や早期診断、適切な治療方針の決定等を可能にするためには、生体液中からの細胞の回収効率を高め、検出系の高感度化を図ることが重要である。
【0026】
その一方で、例えば血液を利用したリキッドバイオプシーにおいて、診断機器と血液が接触した場合には、血液中の血小板やタンパク質が機器表面に吸着したり、血液の異物反応によって機器表面に血栓が形成されたりすることにより、検出感度の低下や検出機能の阻害が引き起こされることが考えられる。一方、中間水を適量含むポリマーは血液中の血小板やタンパク質を吸着しにくく、優れた抗血栓性を機器表面に付与できると考えられる。
【0027】
また、血栓の形成に関与する血液中の成分としては、血小板やフィブリノーゲンが知られている。血小板は、異物によって活性化を受け、異物上に凝集することによって血栓(血小板血栓)を形成する血球細胞であり、止血の過程において一次止血に寄与する。凝固第I因子であるフィブリノーゲンは、血液凝固の最終段階でフィブリンに転換され凝固血栓を形成するタンパク質であり、止血の過程において二次止血に寄与する。すなわち、血小板及びフィブリノーゲンはいずれも血栓形成を行う主要な成分であり、これらの成分の少なくともいずれかがポリマーに吸着しにくいことが、抗血栓性を獲得し、ひいてはリキッドバイオプシーの検出感度を高めるために重要と考えられる。
【0028】
この点、本発明の第1~第3の細胞分離材に含まれる重合体(P)は、水和時に中間水を保持しやすく、これにより優れた細胞接着性を示しながら、血液成分の吸着による細胞分離性の低下を抑制できると考えられる。また、重合体(P)に接着した細胞については、細胞分離材から脱離させる操作を行わなくても、そのまま細胞分離材上で培養することにより効率良く増殖させることができる。これにより、細胞の更なる詳細な解析を可能にし、疾病の特定や治療方針の決定等に結び付けることが可能となる。なお、重合体(P)が水和時に適量の中間水を保持できる理由としては、水素結合点の増加により適度な水和構造が形成されたことや、重合体の分子運動性が高いことに因るものと推測される。
【0029】
以下、本発明の第1の細胞分離材、第2の細胞分離材及び第3の細胞分離材に含まれる各成分及び特性について説明する。
【0030】
≪第1の細胞分離材≫
<重合体(P)>
重合体(P)は、ウレタン結合又はウレア結合を有するエチレン性不飽和単量体(以下、「単量体(M)」ともいう)に由来する構造単位を含む。
【0031】
重合体(P)は、単量体の反応率を容易に上げることができる点や、工業的に製造しやすい点で、(メタ)アクリル系重合体であることが好ましい。具体的には、重合体(P)を構成する単量体に由来する全構造単位のうち、(メタ)アクリル系単量体に由来する構造単位の割合は、50質量%を超えることが好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上が更に好ましく、80質量%以上がより更に好ましく、90質量%以上が一層好ましい。
【0032】
単量体(M)は、好ましくは、ウレタン結合又はウレア結合を有する構造を重合体の側鎖に導入可能な化合物であり、中でも、ウレタン結合又はウレア結合を有する(メタ)アクリル系単量体であることが好ましい。単量体(M)としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を使用してもよい。
【0033】
(ウレタン結合を有する(メタ)アクリル系単量体)
ウレタン結合を有する(メタ)アクリル系単量体(以下、「単量体(M-1)」ともいう)としては、重合体(P)と水とを接触させたときに重合体(P)が保持する水和水量を多くできる点、及び飽和含水状態の重合体(P)のガラス転移温度を十分に低くできる点において、エーテル基を更に有する化合物を好ましく使用できる。具体的には、単量体(M-1)としては、(メトキシカルボニル)アミノアルキル(メタ)アクリレート及び下記一般式(I):
CH=CR-COO-R-NH-COO-R-R …(I)
(一般式(I)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは炭素数1~5のアルキレン基又は「-(RO)-R-」で表される基(ただし、Rは炭素数1~3のアルキレン基であり、Rは炭素数1~3のアルキレン基であり、mは1~3の整数である)であり、Rは炭素数1~3のアルキレン基であり、当該アルキレン基が有する任意の水素原子が炭素数1~10のアルコキシ基で置換されていてもよく、Rは炭素数1~10のアルコキシ基である)
で表される化合物を好ましく使用できる。
【0034】
さらに、フィブリノーゲンの抗吸着性を十分に高める観点から、一般式(I)中のRは、炭素数1~4のアルコキシ基が好ましく、炭素数1~2のアルコキシ基がより好ましい。
【0035】
(メトキシカルボニル)アミノアルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、(メトキシカルボニル)アミノメチル(メタ)アクリレート、2-((メトキシカルボニル)アミノ)エチル(メタ)アクリレート、3-((メトキシカルボニル)アミノ)プロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。飽和含水状態の重合体(P)のガラス転移温度を十分に低くできる点で、これらのうち、2-((メトキシカルボニル)アミノ)エチルアクリレートを好ましく使用できる。
【0036】
上記一般式(I)で表される化合物の具体例としては、2-(((2-メトキシエトキシ)カルボニル)アミノ)エチル(メタ)アクリレート、2-(((2-エトキシエトキシ)カルボニル)アミノ)エチル(メタ)アクリレート、2-(((2-プロポキシエトキシ)カルボニル)アミノ)エチル(メタ)アクリレート、2-((((1,3-ジメトキシプロパン-2-イル)オキシ)カルボニル)アミノ)エチル(メタ)アクリレート、2-((((1,3-ジエトキシプロパン-2-イル)オキシ)カルボニル)アミノ)エチル(メタ)アクリレート、2-((((1-メトキシ-3-エトキシプロパン-2-イル)オキシ)カルボニル)アミノ)エチル(メタ)アクリレート、6-オキソ-2,5,10-トリオキサ-7-アザドデカン-12-イル(メタ)アクリレート、7-オキソ-3,6,11-トリオキサ-8-アザトリデカン-13-イル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0037】
(ウレア結合を有する(メタ)アクリル系単量体)
ウレア結合を有する(メタ)アクリル系単量体(以下、「単量体(M-2)」ともいう)は、非水溶性の重合体(P)を得る観点、重合体(P)と水とを接触させたときに重合体(P)が保持する水和水量を多くする観点、及び飽和含水状態の重合体(P)のガラス転移温度を十分に低くする観点から、エーテル基を更に有することが好ましい。具体的には、単量体(M-2)は、下記一般式(II):
CH=CR-COO-R-NH-CO-NH-(RO)n-R10
…(II)
(一般式(II)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは炭素数2~5のアルキレン基であり、Rは炭素数1~3のアルキレン基であり、R10は炭素数1~12のアルキル基であり、nは0~2の整数であり、ただし「-(RO)n-」の炭素数の合計(すなわち、Rの炭素数にnを乗じた数)とR10の炭素数との合計が4以上である)
で表される化合物であることが好ましい。
【0038】
さらに、フィブリノーゲンの抗吸着性を十分に高め、優れた抗血栓性を確保する観点から、一般式(II)中のnは、1又は2が好ましく、1がより好ましい。同様の観点から、一般式(I)中のR10は、炭素数1~5のアルキル基がより好ましく、炭素数1又は2のアルキル基が更に好ましい。
【0039】
上記一般式(II)で表される化合物の具体例としては、2-(3-(2-エトキシエチル)ウレイド)エチル(メタ)アクリレート、2-(3-(3-メトキシプロピル)ウレイド)エチル(メタ)アクリレート、2-(3-(3-エトキシプロピル)ウレイド)エチル(メタ)アクリレート、2-(3-(4-メトキシブチル)ウレイド)エチル(メタ)アクリレート、3-(3-(2-エトキシエチル)ウレイド)プロピル(メタ)アクリレート、3-(3-(3-メトキシプロピル)ウレイド)プロピル(メタ)アクリレート、4-(3-(2-エトキシエチル)ウレイド)ブチル(メタ)アクリレート、2-(3-(n-ブチル)ウレイド)エチル(メタ)アクリレート、2-(3-(n-オクチル)ウレイド)エチル(メタ)アクリレート、2-(3-(n-ドデシル)ウレイド)エチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0040】
単量体(M-2)は上記の中でも、一般式(II)中のnが1であって、かつR10が炭素数1~5のアルキル基である化合物が好ましく、一般式(II)中のnが1であって、かつR10が炭素数1又は2のアルキル基である化合物がより好ましい。これらのうち、2-(3-(2-エトキシエチル)ウレイド)エチル(メタ)アクリレート、2-(3-(3-メトキシプロピル)ウレイド)エチル(メタ)アクリレート、3-(3-(2-エトキシエチル)ウレイド)プロピル(メタ)アクリレート及び3-(3-(3-メトキシプロピル)ウレイド)プロピル(メタ)アクリレートよりなる群から選択される少なくとも1種が特に好ましい。
【0041】
重合体(P)は、構造単位(A)のみから構成されていてもよいが、重合体のガラス転移温度を調整すること等を目的として、本発明の効果を損なわない範囲において、単量体(M)以外の単量体(以下、「その他の単量体」ともいう)に由来する構造単位を更に有していてもよい。
【0042】
その他の単量体としては、ウレタン結合及びウレア結合のいずれも有さず、かつ単量体(M)と共重合可能な単量体であればよい。このような単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸、不飽和酸無水物、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸の脂肪族環式エステル、(メタ)アクリル酸の芳香族エステル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、複素環構造を有するビニル化合物、アミノ基含有ビニル化合物、アミド基含有ビニル化合物、ニトリル基含有ビニル化合物、芳香族ビニル化合物、マレイミド化合物等が挙げられる。
【0043】
これらの具体例としては、不飽和カルボン酸として、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、桂皮酸、コハク酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ω-カルボキシ-カプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、4-カルボキシスチレン等が挙げられる。不飽和酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。
【0044】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル及び(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等が挙げられる。
【0045】
(メタ)アクリル酸の脂肪族環式エステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸tert-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロドデシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル及び(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸の芳香族エステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェノキシメチル、(メタ)アクリル酸2-フェノキシエチル及び(メタ)アクリル酸3-フェノキシプロピル等が挙げられる。
【0046】
(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸n-プロポキシエチル、(メタ)アクリル酸n-ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸3-メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-エトキシプロピル、(メタ)アクリル酸n-プロポキシプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブトキシプロピル、(メタ)アクリル酸メトキシブチル、(メタ)アクリル酸エトキシブチル、(メタ)アクリル酸n-プロポキシブチル及び(メタ)アクリル酸n-ブトキシブチル等が挙げられる。
【0047】
(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、及び(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等が挙げられる。ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートの具体例としては、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート及びポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0048】
複素環構造を有するビニル化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル等が挙げられる。
【0049】
アミノ基含有ビニル化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノメチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノメチル、(メタ)アクリル酸2-ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2-ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2-(ジ-n-プロピルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸2-ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸2-ジエチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ジ-n-プロピルアミノ)プロピル、(メタ)アクリル酸3-ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸3-ジエチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸3-(ジ-n-プロピルアミノ)プロピル等が挙げられる。
【0050】
アミド基含有ビニル化合物の具体例としては、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0051】
ニトリル基含有ビニル化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸シアノメチル、(メタ)アクリル酸1-シアノエチル、(メタ)アクリル酸2-シアノエチル、(メタ)アクリル酸1-シアノプロピル、(メタ)アクリル酸2-シアノプロピル、(メタ)アクリル酸3-シアノプロピル、(メタ)アクリル酸4-シアノブチル、(メタ)アクリル酸6-シアノヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチル-6-シアノヘキシル、(メタ)アクリル酸8-シアノオクチル、(メタ)アクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリル、α-イソプロピルアクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、α-フルオロアクリロニトリル等が挙げられる。
【0052】
芳香族ビニル化合物の具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、ビニルキシレン、メチルスチレン、エチルスチレン、ブチルスチレン、メトキシスチレン、ヒドロキシスチレン、イソプロペニルフェノール、ビニル安息香酸、ビニルナフタレン等が挙げられる。
【0053】
マレイミド化合物の具体例としては、マレイミド及びN-置換マレイミド化合物が挙げられる。N-置換マレイミド化合物としては、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-n-プロピルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-n-ブチルマレイミド、N-イソブチルマレイミド、N-tert-ブチルマレイミド等のN-アルキル置換マレイミド;N-シクロペンチルマレイミド及びN-シクロヘキシルマレイミド等のN-シクロアルキル置換マレイミド;N-ベンジルマレイミド等のN-アラルキル置換マレイミド;N-フェニルマレイミド、N-(4-ヒドロキシフェニル)マレイミド、N-(4-アセチルフェニル)マレイミド、N-(4-メトキシフェニル)マレイミド等のN-アリール置換マレイミドが挙げられる。なお、その他の単量体としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
その他の単量体は、非水溶性かつ生体適合性が高い重合体を得る観点から、上記のうち、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸の脂肪族環式エステル、(メタ)アクリル酸の芳香族エステル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル、アミノ基含有ビニル化合物、及びアミド基含有ビニル化合物よりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルよりなる群から選択される少なくとも1種がより好ましく、炭素数1~12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び炭素数3~12のアルコキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルよりなる群から選択される少なくとも1種が更に好ましい。
【0055】
重合体(P)が、単量体(M)とその他の単量体との共重合体である場合、重合体(P)は、ランダム共重合体、ブロック共重合体及びグラフト共重合体等のいずれであってもよい。重合体(P)が、その他の単量体に由来する構造単位を有する場合、その他の単量体に由来する構造単位の割合は、重合体(P)を構成する単量体に由来する全構造単位に対して、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下が更に好ましく、20質量%以下がより更に好ましく、10質量%以下が一層好ましい。
【0056】
重合体(P)の重量平均分子量(Mw)は特に限定されるものではないが、例えば2,000~2,000,000である。Mwが2,000以上である場合、細胞分離材により形成されたポリマー層の厚みや強度を十分に確保することができる。また、Mwが2,000,000以下である場合、細胞分離材の粘度が高くなり過ぎることを抑制でき、良好な塗工性及び取扱い性を確保することができる。重合体(P)のMwは、例えば5,000以上であり、また例えば10,000以上であり、また例えば30,000以上である。重合体(P)のMwの上限については、例えば1,500,000以下であり、また例えば1,000,000以下である。なお、本明細書において、重合体のMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて得られた標準ポリスチレン換算値である。
【0057】
重合体(P)を製造するための重合方法は特段制限されるものではない。重合体(P)は、例えば溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法、塊状重合等の公知のラジカル重合方法を採用して、単量体を重合することにより得ることができる。溶液重合法による場合、例えば、有機溶剤及び単量体を反応器に仕込み、重合開始剤(例えば、アゾ化合物)を添加して、40~250℃に加熱して重合することにより、目的とする重合体を得ることができる。重合反応により得られた重合体につき、単離及び/又は精製の処理を行う場合、それらの処理としては公知の方法を採用することができる。重合体(P)の単離及び/又は精製の処理を再沈殿法により行う場合、水系溶媒を用いることによって、非水溶性の重合体を高純度で回収するようにしてもよい。
【0058】
含水状態の重合体(P)において、重合体(P)と相互作用している水(水和水)は、自由水、不凍水及び中間水に分類することができる。含水状態の重合体(P)における中間水の存在や、含水状態の重合体(P)に含まれる水和水量、中間水量、不凍水量及び自由水量は、含水状態の重合体(P)を試料として示差走査熱量測定を行うことにより算出することができる。
【0059】
図1に、水和時に中間水を含む重合体の飽和含水状態におけるDSC曲線の一例を示す。なお、昇温過程において0℃付近で融解する水を「自由水」と定義し、結晶化温度が自由水とは異なり、自由水よりも低温で結晶形成し、かつ昇温過程において0℃よりも低温で融解する水を「中間水」と定義する。図1は、水を十分に含ませた重合体につき、示差走査熱量計(DSC)を用いて、-100℃から40℃までの温度範囲を昇降温速度5℃/分の条件にて降温及び昇温したときのDSC曲線を表す。
【0060】
40℃から-100℃の降温過程では、まず自由水の過冷却による結晶化ピークが観察され、更に低温において、中間水による低温結晶化ピーク(図1中のP1の発熱ピーク)が観察される。続く-100℃から40℃の昇温過程では、中間水(より具体的には、降温過程で凍結できなかった中間水)による低温結晶化ピーク(図1中のP2の発熱ピーク)が観察される。なお、降温過程での低温結晶化ピークは、自由水に近い中間水の低温結晶形成によるものであり、昇温過程での低温結晶化ピークは、降温過程で凍結できなかった中間水によるものであり、共に中間水に分類される。
【0061】
さらに、自由水及び中間水が結晶化した氷の融解により、ピークトップが0℃に現れる吸熱ピークが観察される(図1中のP3参照)。P3の吸熱ピークのうち0℃よりも低温側は、中間水が結晶化した氷の融解による融解ピークであり、0℃よりも高温側は、自由水が結晶化した氷の融解による融解ピークである。
【0062】
含水した重合体に含まれる水和水量、自由水量、不凍水量及び中間水量(単位:g)の関係は、下記の数式(1)により表される。
水和水量=自由水量+不凍水量+中間水量 …(1)
また、含水した重合体に含まれる自由水量及び中間水量は、相転移に起因する潜熱の移動量(すなわち、エンタルピー変化量)から算出することができる。重合体の水和水量は、含水した重合体の全量から、含水前の重合体(すなわち、乾燥状態の重合体)の質量を差し引くことにより算出することができる。不凍水は、上記数式(1)に従い、水和水量から自由水量及び中間水量を差し引くことにより算出することができる。含水した重合体における水和水量、自由水量、不凍水量及び中間水量の測定及び算出方法の詳細は、後述する実施例に記載の方法に従う。
【0063】
なお、本明細書では、水を含んだ状態の重合体を速度5℃/分の条件にて昇温することにより得られるDSC曲線において、氷の融解による吸熱のピークトップが0℃に現れたときの重合体の含水状態を「飽和含水状態」としている。これは、水和時に中間水を形成する重合体は、水を十分に含んだ状態、すなわち飽和含水状態では、氷の融解による吸熱のピークトップが0℃に現れることを考慮したものである(図1中のP3参照)。ただし、本明細書において「氷の融解による吸熱のピークトップが0℃に現れるとき」とは、重合体が十分に水を含んでおり、飽和含水状態であるとみなすことができる限り、吸熱のピークトップが0℃付近に現れる多少の誤差(例えば0℃±0.2℃)は許容される。
【0064】
第1の細胞分離材に含まれる重合体(P)は、上述した条件(i)を満たす。すなわち、飽和含水状態の重合体(P)に含まれる中間水量は、飽和含水状態の重合体(P)の全量に対して2.0質量%以上である。中間水量が2.0質量%以上であることにより、第1の細胞分離材により基材表面を被覆した場合に、基材表面に対し優れた細胞接着性を付与しながら、フィブリノーゲンに対する高い抗吸着性と抗血栓性とを付与することができるとともに、接着した細胞を効率良く培養することができる。このような観点から、飽和含水状態の重合体(P)に含まれる中間水量は、飽和含水状態の重合体(P)の全量に対して、3.0質量%以上であることが好ましく、4.0質量%以上であることがより好ましく、5.0質量%以上であることが更に好ましく、6.0質量%以上であることがより更に好ましく、10質量%以上であることが一層好ましい。
【0065】
飽和含水状態の重合体(P)に含まれる中間水量の上限については、細胞接着性とフィブリノーゲンに対する抗吸着性との両立を図る観点から、飽和含水状態の重合体(P)の全量に対して、例えば30質量%以下であり、接着した細胞の培養を効率良く行う観点から、25質量%以下であることが好ましい。
【0066】
第1の細胞分離材に含まれる重合体(P)は、条件(i)に加えて更に、下記の条件(ii)及び条件(iii)の少なくともいずれかを満たすことが好ましく、条件(ii)及び条件(iii)を共に満たすことがより好ましい。
条件(ii):飽和含水状態の重合体(P)に含まれる水和水量が、飽和含水状態の重合体(P)の全量に対して6.0質量%以上である。
条件(iii):飽和含水状態の重合体(P)に含まれる、不凍水量に対する中間水量の比率が0.50以上である。
【0067】
条件(ii)について、飽和含水状態の重合体(P)に含まれる水和水量(以下、「飽和含水量」ともいう)は、自由水、不凍水及び中間水の合計量により表される。飽和含水量が、飽和含水状態の重合体(P)の全量に対して6.0質量%以上であると、重合体(P)の表面に中間水が十分量存在し、基材表面に対し優れた細胞接着性を付与しつつ、フィブリノーゲンに対する高い抗吸着性及び抗血栓性を付与できると考えられる。こうした観点から、重合体(P)の飽和含水量は、飽和含水状態の重合体(P)の全量に対して、より好ましくは7.0質量%以上であり、更に好ましくは10質量%以上であり、より更に好ましくは15質量%以上であり、一層好ましくは20質量%以上である。
【0068】
また、飽和含水状態の重合体(P)に含まれる飽和含水量の上限については特に限定されるものではないが、飽和含水状態の重合体(P)の全量に対して、例えば60質量%以下であり、接着した細胞の培養を効率良く行う観点から、50質量%以下であることが好ましい。
【0069】
条件(iii)について、飽和含水状態の重合体(P)に含まれる、不凍水量に対する中間水量の比率が更に上記範囲にあると、重合体(P)が不凍水に対し中間水を比較的多く含むことによって重合体(P)の表面に中間水が十分量存在し、これにより、第1の細胞分離材によって被覆した基材に対し優れた細胞接着性を付与しつつ、フィブリノーゲンに対する高い抗吸着性及び抗血栓性を付与できると考えられる。飽和含水状態の重合体(P)が保持する水和水につき、不凍水量に対する中間水量の比率は、より好ましくは0.60以上であり、更に好ましくは0.70以上であり、より更に好ましくは0.80以上であり、一層好ましくは1.00以上である。
【0070】
飽和含水状態の重合体(P)に含まれる、不凍水量に対する中間水量の比率の上限については特に限定されるものではないが、例えば2.50以下であり、2.00以下であることが好ましい。
【0071】
飽和含水状態の重合体(P)における中間水量、飽和含水量、及び不凍水量に対する中間水量の比率の好ましい数値範囲は、上述したそれぞれの好ましい数値範囲を適宜組み合わせることにより設定することができる。具体的には、飽和含水状態の重合体(P)における水和水特性は、中間水量が飽和含水状態の重合体(P)の全量に対して3.0質量%以上であり、飽和含水量が飽和含水状態の重合体(P)の全量に対して7.0質量%以上であり、かつ飽和含水状態の重合体(P)に含まれる不凍水量に対する中間水量の比率が0.60以上であることが好ましく、中間水量が飽和含水状態の重合体(P)の全量に対して4.0質量%以上であり、飽和含水量が飽和含水状態の重合体(P)の全量に対して10質量%以上であり、かつ飽和含水状態の重合体(P)に含まれる不凍水量に対する中間水量の比率が0.70以上であることがより好ましい。
【0072】
重合体(P)につき、飽和含水状態におけるガラス転移温度(Tg)は、-35℃以下であることが好ましい。重合体(P)の飽和含水状態におけるガラス転移温度が-35℃以下であると、重合体(P)のフィブリノーゲンの抗吸着性を十分に高めることができ、ひいては血栓の形成を抑制することができる。フィブリノーゲンの抗吸着性を十分に高める観点から、重合体(P)の飽和含水状態におけるガラス転移温度は、-40℃以下がより好ましく、-45℃以下が更に好ましい。重合体(P)の飽和含水状態におけるガラス転移温度の下限については、例えば-100℃以上である。本明細書において、重合体(P)のガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)により昇温速度5℃/分の条件にて測定した値である。測定方法の詳細は、後述する実施例に記載の方法に従う。
【0073】
なお、重合体(P)の飽和含水状態におけるガラス転移温度は、重合体(P)を構成するモノマーの種類及び量を調整することにより所望の温度範囲内の値になるよう調整することができる。例えば、重合体(P)の製造に使用する単量体(M)から構成される単独重合体の飽和含水状態におけるガラス転移温度が所望の温度よりも高い場合、単独重合体としたときの飽和含水状態におけるガラス転移温度が当該単量体(M)よりも低いモノマーを共重合成分として用いることにより、重合体(P)の飽和含水状態におけるガラス転移温度を適宜調整することができる。
【0074】
<その他の成分>
第1の細胞分離材には、使用する目的等に応じて、重合体(P)とは異なる成分(以下、「その他の成分」ともいう)が更に含有されていてもよい。第1の細胞分離材が液体である場合、当該細胞分離材の一態様は、重合体(P)が、必要に応じて溶剤に溶解又は分散された重合体組成物である。
【0075】
第1の細胞分離材が溶剤を含む場合、当該溶剤としては、重合体(P)を溶解可能な溶媒が好ましく用いられる。第1の細胞分離材に含有される溶剤は有機溶媒であることが好ましい。その具体例としては、例えばメタノール、エタノール、n-プロパノール及びイソプロパノール等のアルコール類;アセトン及びメチルエチルケトン等のケトン類;エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸エチル等のエステル類;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類;n-ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン及びキシレン等の炭化水素類;ジメチルスルホキシド等が挙げられる。なお、溶剤としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0076】
第1の細胞分離材に配合されてもよいその他の成分としては、溶剤のほか、例えば抗菌剤、抗炎症剤、酸化防止剤等の各種薬剤等が挙げられる。その他の成分は、1種又は複数種を使用することができる。その他の成分の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲において、各成分に応じて適宜選択することができる。
【0077】
第1の細胞分離材において、重合体(P)の含有量は、細胞分離材に含まれる固形分(すなわち、細胞分離材中の溶剤以外の成分)の合計量100質量部に対して、50質量部以上が好ましく、70質量部以上がより好ましく、80質量部以上が更に好ましく、90質量部以上がより更に好ましく、95質量部以上が一層好ましい。重合体(P)の含有量を上記範囲とすることにより、細胞接着性とフィブリノーゲンの抗吸着性との両者をバランス良く保ちながら、接着した細胞を効率良く培養することができる。
【0078】
第1の細胞分離材が溶液状態である場合、細胞分離材における固形分濃度(ここでは、細胞分離材の調製に用いた溶剤の体積量に対する、細胞分離材中の溶剤以外の成分の質量の割合)は、特に限定されないが、好ましくは0.001~30(w/v)%である。固形分濃度を0.001(w/v)%以上とすることにより、十分な厚みを有するポリマー層を基材上に形成することができ、細胞接着性を十分に発現することが可能である。固形分濃度が30(w/v)%以下であると、良好な塗工性を確保でき、また均一な厚みのポリマー層を形成しやすい。細胞分離材における固形分濃度は、より好ましくは0.01~25(w/v)%、更に好ましくは0.05~20(w/v)%である。
【0079】
≪第2の細胞分離材≫
次に、第2の細胞分離材について説明する。なお、以下の説明では、第1の細胞分離材と同様の構成については第1の細胞分離材の説明を援用し、その説明を省略する。第2の細胞分離材に含有される重合体(P)は、上記の条件(ii)を満たす。すなわち、第2の細胞分離材に含有される重合体(P)は、飽和含水状態の重合体に含まれる水和水量が、飽和含水状態の重合体の全量に対して6.0質量%以上である。
【0080】
なお、第2の細胞分離材に含まれる重合体(P)を構成するモノマーの種類及び配合量や、重合体(P)の各種特性、条件(ii)の好ましい範囲、第2の細胞分離材に含まれていてもよいその他の成分等の詳細については、第1の細胞分離材の説明を援用することができる。
【0081】
第2の細胞分離材に含まれる重合体(P)は、条件(ii)に加えて更に、上記の条件(iii)を満たすことが好ましい。条件(iii)の詳細については、第1の細胞分離材の説明を援用することができる。
【0082】
≪第3の細胞分離材≫
次に、第3の細胞分離材について説明する。なお、以下の説明では、第1の細胞分離材と同様の構成については第1の細胞分離材の説明を援用し、その説明を省略する。第3の細胞分離材に含有される重合体(P)は、上記の条件(iii)を満たす。すなわち、第3の細胞分離材に含有される重合体(P)は、飽和含水状態の重合体(P)に含まれる、不凍水量に対する中間水量の比率が0.50以上である。
【0083】
なお、第3の細胞分離材に含まれる重合体(P)を構成するモノマーの種類及び配合量や、重合体(P)の各種特性、条件(iii)の好ましい範囲、第3の細胞分離材に含まれていてもよいその他の成分等の詳細については、第1の細胞分離材の説明を援用することができる。
【0084】
≪診断機器≫
本発明の診断機器は、上述した本発明の第1~第3の細胞分離材のいずれかにより基材表面が被覆されてなるものである。すなわち、本発明の診断機器は、その表面の一部又は全部が、本発明の第1~第3の細胞分離材に含まれる重合体(P)によって被覆されている。このため、当該診断機器は、優れた細胞接着性を示しながら、血液成分の吸着による細胞分離性の低下を抑制でき、更には接着した細胞を細胞分離材上で効率的に増殖させることができる。このため、本発明の診断機器をリキッドバイオプシーに適用することにより、検出系の高感度化を図ることができる。
【0085】
本発明の診断機器により生体液(特に血液)から分離可能な物質としては、生体液中で水和殻を形成して存在する物質が挙げられる。本発明の診断機器による生体液からの分離対象の物質は、正常細胞及びがん細胞のいずれであってもよい。当該物質の具体例としては、がん細胞、幹細胞、血管内皮細胞、神経細胞、樹状細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、肝実質細胞、肝非実質細胞及び膵ラ島細胞の少なくとも1種が挙げられる。がん細胞の種類は特に限定されず、上皮細胞がん(肺がん、乳がん、胃がん、大腸がん、肝臓がん、子宮がん、卵巣がん等)、非上皮細胞がん(骨肉腫、軟骨肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、血管肉腫等)、血液がん(白血病、悪性リンパ腫、骨髄腫等)等の各種がん細胞が挙げられる。
【0086】
診断機器において、第1~第3の細胞分離材により被覆される基材の形状や材質は特に限定されない。基材の形状としては、例えばプレート状、シート状、フィルム状、チューブ状、フィルタ状、メッシュ状等が挙げられる。また基材は、医療用診断キット等として通常用いられる形態を適宜採用することができ、例えば多孔質体やウェルプレート、保存チューブ、コーティングシート等であってもよい。
【0087】
基材の材質としては、例えば樹脂やゴム、金属、ガラス、セラミック、繊維等の各種材料が挙げられる。これらのうち、樹脂としては、例えばポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリウレタン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリスチレン、ポリアセタール、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、フッ素系樹脂(ポリフッ化ビニリデン、四フッ化ポリエチレン等)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、ポリアミド、エチレン-酢酸ビニル系樹脂等の各種樹脂材料が挙げられる。ゴムとしては、シリコーンゴム、ウレタンゴム等が挙げられる。金属としては、ステンレス、チタン、アルミニウム等の各種金属材料が挙げられる。基材を構成する材料は、2種以上の材料の混合物であってもよい。
【0088】
第1~第3の細胞分離材により基材表面を被覆する方法は特に限定されない。例えば、細胞分離材が溶液状態である場合、細胞分離材を基材表面に塗工し、加熱等の手段により溶剤を除去することにより、基材表面の少なくとも一部が重合体(P)により被覆された診断機器を得ることができる。
【0089】
塗工方法は、基材の形状や使用目的等に応じて適宜設定することができる。塗工方法としては、例えば、バーコーター、アプリケーター、ドクターブレード、ディップコーター、ロールコーター、スピンコーター、フローコーター、ナイフコーター、コンマコーター、リバースコーター、ダイコーター、リップコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、インジェット等の各種塗工方法が挙げられる。細胞分離材の塗工量としては、細胞分離材により形成されるポリマー層の厚みが所望の範囲内になるように、診断機器の用途や材料等に応じて適宜選択することができる。
【0090】
本発明の診断機器により生体液中から細胞を分離するには、第1~第3の細胞分離材によって被覆された基材表面に生体液を接触させることにより行うことができる。当該細胞分離材による被覆部分と生体液との接触により、含水状態の重合体(P)に生体液中の細胞が接着し、生体液中から細胞を回収することができる。回収した細胞の培養は、検出対象の細胞の種類に応じた条件により適宜行うことができる。
【実施例0091】
以下、実施例に基づいて本開示を具体的に説明する。なお、本開示は、これらの実施例により限定されるものではない。以下において「部」及び「%」は、特に断らない限り「質量部」及び「質量%」をそれぞれ意味する。
【0092】
1.エチレン性不飽和単量体の合成
〔合成例1:2-(((2-メトキシエトキシ)カルボニル)アミノ)エチルアクリレートの合成〕
300mLの3口フラスコに撹拌子を加え、溶剤としてテトラヒドロフラン(富士フイルム和光純薬社製)を50mL、触媒としてジブチルスズジラウレート(富士フイルム和光純薬社製)を0.09g、原料アルコールとして2-メトキシエタノール(富士フイルム和光純薬社製)6.28g加え、温度計、50mL滴下漏斗及び三方コックを取り付けた。その後、滴下漏斗に、2-アクリロイルオキシエチルイソシアナート(昭和電工社製、商品名:カレンズAOI、以下「AOI」ともいう)を10.58g加えた。
次いで、三方コックを経由して、10分間窒素を100mL/分でフローした。窒素フローの後、三方コックに窒素封入のゴム風船を取り付け、フラスコを氷浴にて5℃以下まで冷却した。続けて、内温が10℃以下を保つようにしながら、滴下漏斗からAOIを滴下した。滴下が終了した段階で、室温(25℃)まで昇温して一晩撹拌を継続した。
その後、10mLの炭酸水素ナトリウム飽和水溶液をフラスコに滴下し、反応を終了させた。内液200mLを分液漏斗に移し、有機層と水層を分けた。水層に酢酸エチル(富士フイルム和光純薬社製、特級)を30mL加えて振盪し、水層の抽出を行い、続けてこの振盪及び水層の抽出の操作を2回行った。回収した有機層に飽和食塩水を30mL加えて振盪し、洗浄を行い、続けてこの振盪及び有機層の洗浄の操作を2回行った。洗浄後の有機層に無水硫酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬社製)を30mg加えて1時間撹拌し、脱水させた。ひだ付き濾紙を用いて濾過を行い、硫酸ナトリウムを除去し、パラメトキシフェノールを理論収量の250ppmになるように加えた。
続いて、ロータリーエバポレーターを用いて、40℃の湯浴に浸した状態で溶剤を除去した。溶剤を除去した後、真空ポンプを用いて、減圧状態のまま1時間静置し、残存溶剤を再度除去した。回収したサンプルを、ヘキサン/酢酸エチルを1:1の体積比率で混合した溶剤を用いて、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製を実施し、2-(((2-メトキシエトキシ)カルボニル)アミノ)エチルアクリレート(以下、「MEOCNA」ともいう)を得た。
【0093】
〔合成例2:6-オキソ-2,5,10-トリオキサ-7-アザドデカン-12-イルメタクリレート〕
AOIに代えて、2-(2-メタクリロイルオキシエチルオキシ)エチルイソシアナート(昭和電工社製、商品名:カレンズMOI-EG)を14.94g、原料アルコールとして2-メトキシエタノール(富士フイルム和光純薬社製)を6.28g加えた以外は、合成例1と同様の操作を行い、6-オキソ-2,5,10-トリオキサ-7-アザドデカン-12-イルメタクリレート(以下、「MEOCNMA-EG」ともいう)を得た。
【0094】
〔合成例3:2-(((2-エトキシエトキシ)カルボニル)アミノ)エチルアクリレート〕
原料アルコールとして2-エトキシエタノール(富士フイルム和光純薬社製)を7.44g加えた以外は、合成例1と同様の操作を行い、2-(((2-エトキシエトキシ)カルボニル)アミノ)エチルアクリレート(以下、「EEOCNA」ともいう)を得た。
【0095】
〔合成例4:2-(3-(2-エトキシエチル)ウレイド)エチルアクリレート〕
300mLの3口フラスコに撹拌子を加え、溶剤としてテトラヒドロフランを50mL、イソシアネート化合物としてAOIを10.58g加えた。その後、温度計、100mL滴下漏斗及び三方コックを取り付けた。取り付けた滴下漏斗に、原料アミンとして2-エトキシエチルアミン(富士フイルム和光純薬社製)を4.41g加え、溶剤としてテトラヒドロフランを50mL加えた。
次いで、三方コックを経由して、10分間窒素を100mL/minでフローした。窒素フローの後、三方コックに窒素封入のゴム風船を取り付けた。続けて、滴下漏斗からアミン溶液を滴下した。その後、一晩室温(25℃)で撹拌を継続した。
10mLの1規定希塩酸をフラスコに滴下し、反応を終了させた。内液を200mL分液漏斗に移し、有機層と水層を分けた。水層に酢酸エチルを30mL加えて振盪し、水層の抽出を行い、続けてこの操作を2回行った。回収した有機層に飽和食塩水を30mL加えて振盪し、洗浄を行い、続けてこの操作を2回行った。洗浄後の有機層に無水硫酸ナトリウムを30mg加えて、1時間撹拌し、脱水させた。ひだ付きろ紙を用いて濾過を行い、硫酸ナトリウムを除去し、パラメトキシフェノールを理論収量の250ppmになるように加えた。
ロータリーエバポレーターを用いて、40℃の湯浴に浸した状態で溶剤を除去した。溶剤を除去した後、真空ポンプを用いて、減圧状態のまま1時間静置し、残存溶剤を再度除去し、2-(3-(2-エトキシエチル)ウレイド)エチルアクリレート(以下、「EEA-UA」ともいう)を得た。
【0096】
2.重合体の製造及び分析
以下の製造例1~4及び比較製造例1、2に従い各重合体を製造した。また、得られた各重合体につき、飽和含水状態における重合体のガラス転移温度(Tg)を測定するとともに、飽和含水状態の重合体に含まれる水和水の定量を行い、中間水量、不凍水量及び飽和含水量をそれぞれ算出した。また、各重合体につき、重量平均分子量(Mw)を測定した。測定・算出方法の詳細は以下のとおりである。
【0097】
<飽和含水状態における重合体のガラス転移温度(Tg)の測定>
各重合体を大過剰の純水中にそれぞれ浸漬し、3日間静置して含水させた。薬包紙を用いて、含水した各重合体に付着している水分を取り除いた後、含水後の各重合体0.003~0.005gをアルミパンにそれぞれ秤量した。示差走査熱量計(測定機器:NETZSCH社製DSC214Polyma、測定雰囲気:空気雰囲気下)を用いて、昇降温速度5℃/分の速度にて、40℃から-100℃まで冷却し、-100℃で5分間保持した後、40℃まで昇温することにより、飽和含水状態における重合体のガラス転移温度(Tg)を求めた。なお、昇温速度5℃/分の条件によるDSC測定によって得られたDSC曲線において、氷の融解による吸熱のピークトップが0℃に現れたときの重合体の含水状態を「飽和含水状態」とし、氷の融解による吸熱のピークトップが0℃に現れたときのDSC曲線から、飽和含水状態における重合体のガラス転移温度(Tg)を求めた。
【0098】
<水和水の定量>
重合体に含まれる水和水の定量は、示差走査熱量計(DSC)を用いて行った。
(示差走査熱量測定)
得られた重合体を大過剰の純水(重合体30mgに対し10gの純水)中にそれぞれ浸漬し、室温(25℃)で3日間静置して含水させた。含水した重合体をピンセットで挟んで純水中から取り出し、薬包紙を用いて、含水した各重合体に付着している水分を取り除いた後、含水状態の各重合体0.003~0.005gをアルミパンにそれぞれ秤量した。このときの秤量値を「X(単位:g)」とした。秤量した各重合体を、示差走査熱量計(測定機器:NETZSCH社製DSC214Polyma、測定雰囲気:空気雰囲気下)を用いて、昇降温速度5℃/分にて、40℃から-100℃まで冷却し、-100℃で5分間保持した後、40℃まで昇温した。観測された水の低温結晶形成時の発熱推移により、含水状態の各重合体に含まれる水を、以下の方法に従い中間水、自由水及び不凍水に分類し、定量を行った。
【0099】
(水和水の分類)
示差走査熱量測定の降温(冷却)過程において、発熱ピーク温度が-35℃以下で観測された水、及び昇温(加熱)過程において発熱ピークが観測された水を共に「中間水」とした。また、降温過程において、発熱ピーク温度が-35℃を超える温度で観測された水を「自由水」とした。示差走査熱量測定の温度範囲の下限値である-100℃でも低温結晶形成しない水を「不凍水」とした。
【0100】
(定量)
示差走査熱量測定後のアルミパンに穴を開け、110℃、1Paの条件で4日間真空乾燥させた。乾燥前後の質量変化量を、各重合体に含まれていた水和水量(これを「重合体の水和水量」という(単位:g))とした。上記で分類した水和水(中間水、自由水及び不凍水)の定量は下記数式(2)~(4)に従った。
(中間水量:g)=(中間水のエンタルピー総変化量:J)÷(水の融解潜熱:334J/g) …(2)
(自由水量:g)=(自由水のエンタルピー総変化量:J)÷(水の融解潜熱:334J/g) …(3)
(不凍水量:g)=(重合体の水和水量:g)-(中間水量:g)-(自由水量:g) …(4)
なお、中間水のエンタルピー総変化量は、降温過程において発熱ピーク温度が-35℃以下で観測されたピークのピーク面積と、昇温過程において観測された発熱ピークのピーク面積との合計量に基づき算出される。
【0101】
最後に、下記数式(5)及び(6)に従い、秤量値(X(単位:g))に対する中間水量(単位:g)及び不凍水量(単位:g)の各比率を算出した。また、大過剰の純水(重合体30mgに対し10gの純水)中に浸漬し、室温(25℃)で3日間静置して含水させた重合体を用い、昇温速度5℃/分の条件によるDSC測定によって得られたDSC曲線において、氷の融解による吸熱のピークトップが0℃に現れたときの重合体の含水状態を「飽和含水状態」とし、飽和含水状態における重合体の水和水量を「飽和含水量」と定義して、下記数式(7)により、秤量値(X(単位:g))に対する飽和含水量の比率(単位:質量%)を算出した。
(中間水量:質量%)=(中間水量:g)÷X×100 …(5)
(不凍水量:質量%)=(不凍水量:g)÷X×100 …(6)
(飽和含水量:質量%)=(重合体の水和水量:g)÷X×100 …(7)
【0102】
<重合体の重量平均分子量(Mw)の測定>
重合体の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析にて以下の測定条件により測定した。
(GPC分析の測定条件)
・装置:東ソー社製、型番HLC-8320GPC
・検出器:RI検出器
・カラム:東ソー製TSKgel SuperMultiporeHZ-M×3本
・カラムの温度:40℃
・溶離液:テトラヒドロフラン(内部標準として硫黄を0.03%含むもの)
・流量:350μL/分
・検量線:標準ポリスチレン
【0103】
〔製造例1:重合体Aの製造〕
2口試験管に、単量体としてMEOCNAを3g、ラジカル開始剤として2、2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(富士フイルム和光純薬社製、以下、「V-59開始剤」ともいう)を0.358g、溶剤として酢酸エチルを27g加えた。その後、試験管に撹拌子を入れ、側管に温度計、主管に三方コックを取り付けた。三方コックからシリンジ針を差し込み、アルゴンを100mL/minで30分間溶液に吹き込み、脱酸素した。その後、三方コックを閉止し、試験管を密閉した。60℃に設定したヒートブロックに試験管を挿入し、重合を開始した。内温が60℃になるように適宜ヒートブロックの温度を調整した。3時間経過後、試験管を氷浴で冷却して、重合を停止させた。再沈殿精製用溶剤としてヘキサンとアセトンを4:6の質量比で混合した溶媒を用いて、反応液の再沈殿精製を2回実施した。その後、回収した重合体の再沈殿精製を、水系の再沈殿精製用溶剤として純水を用いて実施し、重合体Aを得た。飽和含水状態の重合体Aにおける飽和含水量は31.5質量%、中間水量は12.5質量%、不凍水量は11.9質量%であった。また、重合体AのGPC測定を行った結果、重量平均分子量は100,800であった。
【0104】
〔製造例2:重合体Bの製造〕
単量体としてMEOCNMA-EGを4.5g、ラジカル開始剤として2、2’-アゾビス(2、4-ジメチルバレロニトリル)(富士フイルム和光純薬社製、以下、「V-65開始剤」ともいう)を0.029g、溶剤として酢酸エチルを10.5g、再沈殿精製用溶剤としてヘキサンとアセトンを9:1の質量比で混合した溶媒を用いた以外は、製造例1と同様の操作を行い、重合体Bを得た。飽和含水状態の重合体Bにおける飽和含水量は31.9質量%、中間水量は11.5質量%、不凍水量は13.1質量%であった。また、重合体BのGPC測定を行った結果、重量平均分子量は135,100であった。
【0105】
〔製造例3:重合体Cの製造〕
単量体としてEEOCNAを3g、ラジカル開始剤としてV-65開始剤を0.129g、溶剤として酢酸エチルを12g、再沈殿精製用溶剤としてヘキサンとアセトンを6:4の質量比で混合した溶媒を用いた以外は、製造例1と同様の操作を行い、重合体Cを得た。飽和含水状態の重合体Cにおける飽和含水量は17.8質量%、中間水量は6.1質量%、不凍水量は9.1質量%であった。また、重合体CのGPC測定を行った結果、重量平均分子量は146,300であった。
【0106】
〔製造例4:重合体Dの製造〕
2口試験管に、単量体としてEEA-UAを3g、ラジカル開始剤としてV-65開始剤を0.129g、溶剤としてジメチルホルムアミド(富士フイルム和光純薬社製)を12g、再沈殿精製用溶剤として酢酸エチルを用いた以外は、製造例1と同様の操作を行い、重合体Dを得た。飽和含水状態の重合体Dにおける飽和含水量は34.5質量%、中間水量は19.1質量%、不凍水量は14.2質量%であった。なお、重合体DのGPC測定を行った結果、カラムへの吸着により、上記条件では重量平均分子量を測定できなかった。
【0107】
〔比較製造例1:重合体Eの製造〕
単量体としてMEAを3g、ラジカル開始剤としてV-59開始剤を0.555g、溶剤として酢酸エチルを27g、再沈殿精製用溶剤としてヘキサンとアセトンを6:4の質量比で混合した溶媒を用いた以外は製造例1と同様の操作を行い、重合体Eを得た。飽和含水状態の重合体Eにおける飽和含水量は8.4質量%、中間水量は3.4質量%、不凍水量は3.7質量%であった。また、重合体EのGPC測定を行った結果、重量平均分子量は84,000であった。
【0108】
〔比較製造例2:重合体Fの製造〕
2口試験管に、単量体として2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(東京化成工業社製、以下「MPC」ともいう)を2g及びメタクリル酸ブチル(東京化成工業社製、以下「BMA」ともいう)を2g、ラジカル開始剤としてt-ブチルパーオキシネオデカノエート(日油社製)を0.007g、溶剤として水/エタノールを3:7の質量比率で混合した溶液を16g加えた。その後、試験管に撹拌子を入れ、側管に温度計、主管に三方コックを取り付けた。三方コックからシリンジ針を差し込み、アルゴンを100mL/minで30分間溶液に吹き込み、脱酸素した。
その後、三方コックを閉止し、試験管を密閉した。50℃に設定したヒートブロックに試験管を挿入し、重合を開始した。内温が50℃になるように適宜ヒートブロックの温度を調整した。6時間経過後、試験管を氷浴で冷却して、重合を停止させた。
再沈殿精製用溶剤としてヘキサンを用いて、反応液の再沈殿精製を行った。その後、回収した重合体の再沈殿精製を、水系の再沈殿精製用溶剤として純水を用いて実施し、重合体Fを得た。飽和含水状態の重合体Fにおける飽和含水量は56.1質量%、中間水量は29.4質量%、不凍水量は26.7質量%であった。また、重合体FのGPC測定を行った結果、重量平均分子量は583,000であった。
【0109】
3.細胞分離材の製造及び評価
〔実施例1~4及び比較例1、2〕
製造例1~4及び比較製造例1、2で製造した各重合体を含む0.2(w/v)%の重合体溶液(メタノール溶液)を調製し、この重合体溶液を細胞分離材として用いて、フィブリノーゲン吸着量試験(MicroBCAアッセイ)、がん細胞接着/培養試験及び線維芽細胞接着/培養試験を行った。各試験方法の詳細は以下のとおりである。
【0110】
<フィブリノーゲン吸着量試験(MicroBCAアッセイ)>
各細胞分離材15μLを、96ウェルプレート(コーニング社製、ジェネラルアッセイプレートポリプロピレン製96ウェルパーフェクトプレート平底 非滅菌)の各ウェルに滴下し、3日間静置乾燥させ、評価用コーティング基材を得た。その後、フィブリノーゲンを1mg/mLになるようにPBS(-)(富士フイルム和光純薬社製)に溶解させた溶液を50μLずつ各ウェルに加えた。その後、37℃で10分間培養させた。培養後、内液を除去し、PBS(-)を各ウェルに200μL入れて洗浄し、これを7回繰り返した。乾燥させた後、各ウェルに抽出液(5%SDS水溶液と0.1N水酸化ナトリウム水溶液を1:1の体積比率で混合した溶液)を50μL加えた。その後、37℃で2時間培養させた。
培養後の各ウェルに、PBS(-)を50μL加え、更にMicro BCA Protein Assay Kit(Thermo Scientific社製)の説明書に従い作製したWorking Reagentを100μL加えた。その後、60℃で1時間加熱した。加熱後、プレートリーダー(富士フイルム和光純薬社製、Vmax KINETIC MICROPLATE READER)を用いて、540nmの吸光度を測定した。得られた抽出液のフィブリノーゲン濃度を基に、評価用コーティング基材上の単位面積当たりのフィブリノーゲン吸着量(以下、「FIB吸着量」ともいう)を算出した。この値が小さいほど、フィブリノーゲンの抗吸着性及び抗血栓性に優れていると判断できる。なお、濃度算出のための標線は、Micro BCA Protein Assay Kit(Thermo Scientific社製)付属のウシ血清アルブミンを用い、説明書に従って作成した。
【0111】
<がん細胞接着/培養試験>
ポリエチレンテレフタレート(PET)シート(サイズ:5センチメートル四方、厚さ:125μm、三菱ケミカル社製、商品名「DIAFOILT-100E」)をアセトンで十分に洗浄した後、各細胞分離材を650μL用いてPETシート上にスピンコートにより塗工した。スピンコート条件は、500rpm,5s→1,500rpm,10s→1,500 to 4,000rpm(slope),5s→4,000rpm,10s→4,000 to 0rpm(slope),5sとした。その後、室温(25℃)で3日間乾燥することで、評価用コーティング基材を細胞分離材毎に得た。
得られた評価用コーティング基材を直径14mmの円状に切り出した。切り出した評価用コーティング基材を、24ウェルプレート(IWAKI社製、接着細胞培養用ポリスチレン製(TCPS)24ウエルプレート 平底)にコーティング面が上向きになるように敷き、UV光にさらして1時間滅菌を行った。滅菌後、PBS(-)を各ウェルに1mL加えて洗浄した。その後、10%FBS添加DMEM/F12培地溶液を各ウェルに1mL加えて、37℃で1時間静置した。静置後の各ウェルに、播種密度1×10細胞/cmに調整したHeLa細胞(子宮頸部類上皮腫、以下単に「がん細胞」ともいう)を1mL加えたのち、がん細胞を37℃で1時間培養した。なお、同時に、同一の手順でがん細胞を播種した基材を用意し、がん細胞を37℃で20時間培養した。
培養終了後、PBSを各ウェルに1mL加えて、評価用コーティング基材を洗浄した。その後、4%パラホルムアルデヒドのPBS(-)溶液を各ウェルに500μL加えて、37℃で20分静置し、評価用コーティング基材の表面に接着した細胞を固定化した。
固定化終了後、PBSを各ウェルに1mL加えて、評価用コーティング基材を2回洗浄した。その後、0.2質量%クリスタルバイオレット(富士フイルム和光純薬社製)水溶液を、各ウェルに500μL加え、室温(25℃)で15分静置し、評価用コーティング基材に接着した細胞を染色した。
染色後、蒸留水を各ウェルに1mL加えて、評価用コーティング基材を3回洗浄した。その後、位相差顕微鏡(OLYMPUS社製、CKX53 培養顕微鏡)を用いて、基材表面に接着したがん細胞の計測(10倍視野)を行った。1時間培養時の細胞接着数に対する20時間培養時の細胞接着数の比率(20時間培養時の細胞接着数/1時間培養時の細胞接着数)を、基材表面上のがん細胞増殖率とした。この増殖率が高いほど、接着した細胞を効率よく増殖させる能力に優れていると判断できる。
【0112】
<線維芽細胞接着/培養試験>
播種する細胞をがん細胞からヒト皮膚線維芽細胞に変更し、培養時間を1時間と19時間にした以外は、がん細胞接着/培養試験と同一の方法で試験を行い、基材表面に接着した線維芽細胞の計測を行った。1時間培養時の細胞接着数に対する19時間培養時の細胞接着数の比率を、基材表面上の線維芽細胞増殖率とした。この増殖率が高いほど、接着した細胞を効率よく増殖させる能力に優れていると判断できる。
【0113】
〔比較例3〕
フィブリノーゲン吸着量試験、がん細胞接着/培養試験及び線維芽細胞接着/培養試験において、PETシートに対し細胞分離材によるコーティング処理を行わなかった以外は実施例1~4及び比較例1、2と同様にして各試験を行った。
【0114】
実施例1~4及び比較例1、2で用いた重合体の特性及び細胞分離材の評価結果、並びに、比較例3の評価結果を表1に示す。
【0115】
【表1】
【0116】
4.評価結果
表1の結果から明らかなように、実施例1~4の細胞分離材は、細胞接着性に優れるとともに、接着した細胞の増殖性に優れていることが確認された。さらに、実施例1~4の細胞分離材は、フィブリノーゲン吸着量(FIB吸着量)が少なかった。これに対して、重合体Eを含む比較例1の細胞分離材、及び重合体Fを含む比較例2の細胞分離材は、例えば実施例4と比較して、繊維芽細胞の増殖率は同等であるもののがん細胞の増殖率が低く、またフィブリノーゲン吸着量(FIB吸着量)が多いことが確認された。
以上の結果は、実施例1~4の細胞分離材に含まれる重合体A~Dによるコーティング表面上には中間水が適正量存在していることによるものと考えられる。
図1