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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077390
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】細胞培養容器及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20240531BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189456
(22)【出願日】2022-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】000158208
【氏名又は名称】AGCテクノグラス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 亨
(72)【発明者】
【氏名】三輪 達明
(72)【発明者】
【氏名】龍腰 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】高橋 邦尚
(72)【発明者】
【氏名】桃井 弘
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA08
4B029BB01
4B029CC02
4B029GA03
4B029GB09
(57)【要約】
【課題】スフェロイドが形成されやすく、且つスフェロイドを観察しやすい細胞培養容器を提供する。
【解決手段】凹部11が複数形成された透明な底部10と、底部10上に設けられ、上方から見たときに複数の凹部11に対応する位置に複数の貫通孔を形成する側壁部を有する枠体と、を有し、それぞれの凹部11と前記貫通孔とによって複数のウェルが形成される、細胞の培養及び観察に使用するための細胞培養容器において、凹部11の内面11aを細胞低接着面とし、凹部11の内面11aの最大高さ粗さRzを0.170μm以下とし、凹部11の底の平均厚さをt(mm)と、凹部11を上方から見て前記底から、凹部11の開口の半径の50~60%の円環領域上の位置の前記凹部の平均厚さをt(mm)としたときの厚さ比率t/tを0.80~1.20以上とし、凹部11内における上方から見たときの前記円環領域よりも内側の領域を培養部とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の培養及び観察に使用するための細胞培養容器であって、
凹部が複数形成された透明な底部と、前記底部上に設けられ、上方から見たときに複数の前記凹部に対応する位置に複数の貫通孔を形成する側壁部を有する枠体と、を有し、
それぞれの前記凹部と前記貫通孔とによって複数のウェルが形成され、
前記凹部は少なくとも底が丸みを帯びた形状であり、
前記凹部の内面が細胞低接着面であり、
前記凹部の底の平均厚さをt(mm)とし、前記凹部を上方から見て前記底から、前記凹部の開口の半径の50~60%の円環領域上の位置の前記凹部の平均厚さをt(mm)としたとき、厚さ比率t/tが0.80~1.20であり、
前記凹部内における上方から見たときの前記円環領域よりも内側の領域を培養部とし、
前記培養部の表面の最大高さ粗さRzが0.170μm以下である、細胞培養容器。
【請求項2】
前記培養部の表面粗さRaが0.024μm以下である、請求項1に記載の細胞培養容器。
【請求項3】
前記培養部の表面の最大十点高さ粗さRzjisが0.150μm以下である、請求項1又は2に記載の細胞培養容器。
【請求項4】
前記培養部の蛍光染色試薬で染めたスフェロイドに対して蛍光測定を行ったときのS/N比が11.5以下である、請求項1又は2に記載の細胞培養容器。
【請求項5】
前記底部がガラスからなる、請求項1又は2に記載の細胞培養容器。
【請求項6】
前記枠体の前記側壁部が着色剤を含有している、請求項1又は2に記載の細胞培養容器。
【請求項7】
細胞の培養及び観察に使用するための細胞培養容器であって、
凹部が複数形成された透明な底部と、前記底部上に設けられ、上方から見たときに複数の前記凹部に対応する位置に複数の貫通孔を形成する側壁部を有する枠体と、を有し、
それぞれの前記凹部と前記貫通孔とによって複数のウェルが形成され、
前記凹部は少なくとも底が丸みを帯びた形状であり、
前記凹部の底の平均厚さをt(mm)とし、前記凹部を上方から見て前記底から、前記凹部の開口の半径の50~60%の円環領域上の位置の前記凹部の平均厚さをt(mm)としたとき、厚さ比率t/tが0.80~1.20であり、
前記凹部内における上方から見たときの前記円環領域よりも内側の領域を培養部とし、
前記培養部の表面の最大高さ粗さRzが0.170μm以下である、細胞培養容器。
【請求項8】
前記培養部の表面粗さRaが0.024μm以下である、請求項7に記載の細胞培養容器。
【請求項9】
前記培養部の表面の最大十点高さ粗さRzjisが0.150μm以下である、請求項7又は8に記載の細胞培養容器。
【請求項10】
前記底部がガラスからなる、請求項7又は8に記載の細胞培養容器。
【請求項11】
前記枠体の前記側壁部が着色剤を含有している、請求項7又は8に記載の細胞培養容器。
【請求項12】
凹部が複数形成された透明な底部と、前記底部上に設けられ、上方から見たときに複数の前記凹部に対応する位置に複数の貫通孔を形成する側壁部を有する枠体と、を有し、
それぞれの前記凹部と前記貫通孔とによって複数のウェルが形成される、細胞の培養及び観察に使用するための細胞培養容器を製造する方法であって、
複数の穴の開いた金型の上に板状部材を置き、加熱しながら各穴の前記板状部材が置かれた側とは反対側から真空引きし、前記板状部材を部分的に変形させて複数の凹部を形成して前記底部を得ることと、
前記底部と前記枠体とを結合することと、を含む、細胞培養容器の製造方法。
【請求項13】
前記板状部材がガラスシートである、請求項12に記載の細胞培養容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養容器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3次元培養で得られる細胞塊(スフェロイド)は、従来の2次元培養と比して、より生体内に近い生物活性を有していることが期待されている。
特許文献1には、樹脂の射出成形又は熱成形で得た不透明な孔空きプレート部分と、樹脂の射出成形又は熱成形で得た透明で丸みを帯びたウェル底部プレート部分とが結合されて形成された、複数のウェルを有する3次元培養用の細胞培養容器が開示されている。
特許文献2には、開口部を形成する側壁と、前記開口部の下端を塞ぐ底部とからなるウェルを有し、前記ウェルを構成する底部の上面に複数の凹部が形成され、前記凹部の内面に細胞接着を抑制する表層が形成された、3次元培養用の細胞培養容器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2016-520307号公報
【特許文献2】国際公開第2019/151114号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1、2のような従来の細胞培養容器では、ウェルによって、スフェロイドの形成が不充分となる、形成されたスフェロイドが観察しにくいといった問題が生じ得る。
【0005】
本発明は、スフェロイドが形成されやすく、且つスフェロイドを観察しやすい細胞培養容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが検討した結果、特許文献1のような樹脂を射出成形や熱成形して得た底部を有する従来の細胞培養容器では、金型の切削痕が転写されて底部の凹部表面に凹凸が形成され、細胞のスムーズな移動が阻害されることによってスフェロイドの形成性が低下したり、スフェロイドの観察性が低下したりし得ることが判明した。また、特許文献2のような上面に複数の凹部を設けた底部を有する細胞培養容器では、凹部の厚さが場所によって異なるために、観察像が劣化する場合がある。
そして、さらに検討を進め、後述の凹部の内面の最大高さ粗さRz、及び厚さ比率t/tを特定の範囲に制御することにより、スフェロイドの形成性及び観察性が優れたものになることを見出して本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は以下の態様を含む。
[1]細胞の培養及び観察に使用するための細胞培養容器であって、
凹部が複数形成された透明な底部と、前記底部上に設けられ、上方から見たときに複数の前記凹部に対応する位置に複数の貫通孔を形成する側壁部を有する枠体と、を有し、
それぞれの前記凹部と前記貫通孔とによって複数のウェルが形成され、
前記凹部は少なくとも底が丸みを帯びた形状であり、
前記凹部の内面が細胞低接着面であり、
前記凹部の底の平均厚さをt(mm)とし、前記凹部を上方から見て前記底から、前記凹部の開口の半径の50~60%の円環領域上の位置の前記凹部の平均厚さをt(mm)としたとき、厚さ比率t/tが0.80~1.20であり、
前記凹部内における上方から見たときの前記円環領域よりも内側の領域を培養部とし、
前記培養部の表面の最大高さ粗さRzが0.170μm以下である、細胞培養容器。
[2]前記培養部の表面粗さRaが0.024μm以下である、[1]に記載の細胞培養容器。
[3]前記培養部の表面の最大十点高さ粗さRzjisが0.150μm以下である、[1]又は[2]に記載の細胞培養容器。
[4]前記培養部の蛍光染色試薬で染めたスフェロイドに対して蛍光測定を行ったときのS/N比が11.5以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の細胞培養容器。
[5]前記底部がガラスからなる、[1]~[4]のいずれかに記載の細胞培養容器。
[6]前記枠体の前記側壁部が着色剤を含有している、[1]~[5]のいずれかに記載の細胞培養容器。
[7]細胞の培養及び観察に使用するための細胞培養容器であって、
凹部が複数形成された透明な底部と、前記底部上に設けられ、上方から見たときに複数の前記凹部に対応する位置に複数の貫通孔を形成する側壁部を有する枠体と、を有し、
それぞれの前記凹部と前記貫通孔とによって複数のウェルが形成され、
前記凹部は少なくとも底が丸みを帯びた形状であり、
前記凹部の底の平均厚さをt(mm)とし、前記凹部を上方から見て前記底から、前記凹部の開口の半径の50~60%の円環領域上の位置の前記凹部の平均厚さをt(mm)としたとき、厚さ比率t/tが0.80~1.20であり、
前記凹部内における上方から見たときの前記円環領域よりも内側の領域を培養部とし、
前記培養部の表面の最大高さ粗さRzが0.170μm以下である、細胞培養容器。
[8]前記培養部の表面粗さRaが0.024μm以下である、[7]に記載の細胞培養容器。
[9]前記培養部の表面の最大十点高さ粗さRzjisが0.150μm以下である、[7]又は[8]に記載の細胞培養容器。
[10]前記底部がガラスからなる、[7]~[9]のいずれかに記載の細胞培養容器。
[11]前記枠体の前記側壁部が着色剤を含有している、[7]~[10]のいずれかに記載の細胞培養容器。
[12]凹部が複数形成された透明な底部と、前記底部上に設けられ、上方から見たときに複数の前記凹部に対応する位置に複数の貫通孔を形成する側壁部を有する枠体と、を有し、
それぞれの前記凹部と前記貫通孔とによって複数のウェルが形成される、細胞の培養及び観察に使用するための細胞培養容器を製造する方法であって、
複数の穴の開いた金型の上に板状部材を置き、加熱しながら各穴の前記板状部材が置かれた側とは反対側から真空引きし、前記板状部材を部分的に変形させて複数の凹部を形成して前記底部を得ることと、
前記底部と前記枠体とを結合することと、を含む、細胞培養容器の製造方法。
[13]前記板状部材がガラスシートである、[12]に記載の細胞培養容器の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、スフェロイドが形成されやすく、且つスフェロイドを観察しやすい細胞培養容器を提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態の一例の細胞培養容器を模式的に示した断面図である。
図2図1の細胞培養容器の底部の凹部を拡大して示した断面図である。
図3】実施形態の他の例の細胞培養容器の底部を拡大して示した断面図である。
図4】実施形態の細胞培養容器の底部を製造する様子を模式的に示した断面図である。
図5】実験例1の培養後の各ウェルを蛍光顕微鏡で観察した写真である。
図6】実験例3の培養後の各ウェルを蛍光顕微鏡で観察した写真である。
図7】実験例1及び3のウェル内のスフェロイドの光学的測定によるS/N比の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の細胞培養容器の実施形態例について、図面に基づいて説明する。なお、以下の説明において例示される図の寸法等は一例であって、本発明はそれらに必ずしも限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0011】
[細胞培養容器]
本発明の細胞培養容器は、細胞の培養及び観察に使用するための細胞培養容器である。
図1に示すように、一態様に係る細胞培養容器1は、複数の凹部11が形成された透明な底部10と、底部10上に設けられた、複数の貫通孔21を形成する側壁部22を有する枠体20と、を備える。
【0012】
底部10に形成される各凹部11と、枠体20に形成される各貫通孔21とは、細胞培養容器1を上方から見たときに対応する位置にあり、それぞれの凹部11と貫通孔21とによって複数のウェル30が形成される。
細胞培養容器1を上方から見た形状は、典型的には長方形状であるが、限定されるものではなく、正方形や、円形等であってもよい。
【0013】
細胞培養容器1における各ウェル30の配置パターン、すなわち底部10における各凹部11の配置パターン、もしくは枠体20における各貫通孔21の配置パターンは、特に限定されない。例えば、正方格子パターン、千鳥パターン等の配置パターンとすることができる。
通常のマイクロプレートの場合、ウェル30の数は6穴、12穴、24穴、48穴、96穴、384穴、1536穴等の規格化されたものを用いられるが、特に限定されず、細胞培養容器1のサイズや、所望のウェル2の大きさ等により適宜調整可能である。2~1600個程度とすることが好ましい。凹部11の数及び貫通孔21の数は、ウェル30の数と同じである。
【0014】
底部10は板状部材からなり、該板状部材が部分的に窪むように湾曲されて各々の凹部11が形成されている。
凹部11の形状は、少なくとも底が丸みを帯びた形状であればよく、例えば、円錐の底が丸みを帯びている略円錐状、半球状、すり鉢状、釣鐘状等を例示できる。また、凹部11の形状は、その内面11aが底から開口に向かうにつれて曲率が大きくなる曲面形状であってもよい。
図3に示すように、凹部11の底(最深部)を通り、且つ底部の厚さ方向に平行な切断面における凹部11の形状は、凹部11の底部は曲率中心が凹部11の内面11aよりも内側に位置する円弧状(図3において下に凸の円弧状)で、底から開口縁に向かう途中から直線的に広がった形状であってもよい。この場合、開口縁は丸みを帯びていてもよい。
凹部11の底部曲率半径は0mm超~3.0mmであれば細胞が集まりやすい。好ましくは0mm超~2.8mm、より好ましくは0.5mm~2.5mm、さらに好ましくは0.8mm~2.3mmである。
【0015】
また、図3に例示した形状の凹部11の場合、凹部11の内面11aにおける円弧部分よりも上側の直線部分の傾斜角度θは、23°~63°が好ましく、33°~58°がより好ましく、38°~53°がさらに好ましい。傾斜角度θが前記範囲内であれば、細胞が集まりやすい。
なお、傾斜角度θは、図3の断面における、凹部11の内面11aの直線部分と、底部10の凹部11以外の部分の上面の面方向に平行な方向とがなす角度である。
【0016】
凹部11の開口形状は、典型的には円形であるが、限定はされず、楕円形、角形、ハニカム形、ドーナツ型等であってもよい。
凹部11の開口の直径は、特に限定されず、例えば、2.0~36.0mmが好ましい。96穴のウェルの場合は、6.0~8.0mm程度とする。なお、凹部11の開口形状が円形でない場合、開口の直径は、当該開口が含まれ得る円のうち最小の円の直径を意味するものとする。
凹部11の底(最深部)の深さ(凹部の開口面から、培養面の一番底部分の間の長さ)は、特に限定されず、1~15mm程度とすることができる。
図3に例示した凹部11の場合、底部の厚さ方向に平行な切断面において、凹部11の開口面から、凹部11の内面11aの円弧部分と直線部分との境界点dまでの深さDは、特に限定されず、例えば1~2mmとすることができる。
凹部11の開口の直径や、底の深さは、細胞培養容器1の大きさや、ウェル30の数、開口形状等によって適宜調整される。
【0017】
図2に示すように、凹部11の底(図2の地点a、最深部)の平均厚さをt(mm)とする。また、凹部11における、上方から見たときに底(図2の地点a、最深部)から、凹部の開口の半径rの50~60%の円環領域C、すなわち底(地点a)を中心とする半径0.5rの円と半径0.6rの円に囲まれた円環領域C上の位置(図2の地点b)の平均厚さをt(mm)とする。ただし、平均厚さtは、2個以上の凹部11について測定した底の厚さの平均値である。また、平均厚さtは、2個以上の凹部11について測定した、凹部11の開口の半径rの50~60%の円環領域C上の位置の厚さの平均値である。
細胞培養容器1においては、凹部11内における上方から見たときの半径0.5rの円周よりも内側(円環領域Cよりも内側)の領域が、スフェロイドが培養される培養部12となる。
【0018】
厚さ比率t/tは、0.80~1.20であれば、培養部12における凹部11の厚さが均一であるためにスフェロイドの観察時に背景がクリアになり、また蛍光観察の際にノイズが低減されるため、スフェロイドの観察性に優れる。
がtより小さい場合は、t/tは、0.80以上1.00未満とする。好ましくは0.85以上1.00未満であり、より好ましくは0.90以上1.00未満であり、さらに好ましくは0.95以上1.00未満である。
また、tがtより大きい場合は、t/tは、1.00超1.20以下とする。好ましくは1.00超1.15以下であり、より好ましくは1.00超1.10以下であり、さらに好ましくは1.00超1.05以下である。
最も好ましくは、tとtが同じ値、すなわちt/t=1.00である。
【0019】
凹部11の底の平均厚さtは、好ましくは0.025~0.350mm、より好ましくは0.05~0.30mm、さらに好ましくは0.10~0.25mmである。
凹部11における前記円環領域C上の位置の平均厚さtは、好ましくは0.025~0.35mm、より好ましくは0.05~0.30mm、さらに好ましくは0.10~0.25mmである。
【0020】
培養部12の表面(凹部11の内面11a)の最大高さ粗さRzは、0.170μm以下である。これにより、培養部12で細胞が底に向かって集まりやすくなり、スフェロイドが形成されやすくなる。また、培養部12で細胞が凹凸に引っ掛かりにくくスムーズに集まりやすくなるため、形成されるスフェロイドを上方から見たときの形状は真円に近づく。
培養部12の表面の最大高さ粗さRzは、好ましくは0.150μm以下、より好ましくは0.120μm以下、さらに好ましくは0.090μm以下である。
最大高さ粗さRz(μm)は、粗さ曲線から、大きな傷を避けて基準長さLだけ抜き出したときの一番高い部分と一番低い部分の高さの差であり、本発明で規定する数値は、凹形状に沿って直線状に測定した値である。Rzの値は、例えば、三次元測定機UA3P(パナソニックプロダクションエンジニアリング社製)等によって測定できる。
【0021】
培養部12の表面(凹部11の内面11a)の最大十点高さ粗さRzjisは、好ましくは0.150μm以下、より好ましくは0.100μm以下、さらに好ましくは0.080μm以下である。凹部11の内面11aの表面粗さRaが前記上限値以下であれば、培養部12で細胞が底に向かって集まりやすくなり、スフェロイドが形成されやすくなる傾向がある。
最大十点高さ粗さRzjisは、粗さ曲線の山頂部と谷底部をとり、山頂高さの高い順に5番目まで、谷底の低い順に5番目まで値をとり、高い方5つの中央値からのずれの平均と、低い方5つの中央値からのずれの平均を出し、それら2つを足し合わせた値であって、例えば、三次元測定機UA3P(パナソニックプロダクションエンジニアリング社製)等によって測定できる。
【0022】
培養部12の表面(凹部11の内面11a)の表面粗さRaは、好ましくは0.024μm以下、より好ましくは0.020μm以下、さらに好ましくは0.018μm以下である。培養部12の表面(凹部11の内面11a)の表面粗さRaが前記上限値以下であれば、形成されたスフェロイドを蛍光観察する際などにノイズが小さくなり、スフェロイドの観察性に優れる傾向がある。
表面粗さRaは、例えば、三次元測定機UA3P(パナソニックプロダクションエンジニアリング社製)等によって測定できる。
【0023】
底部10を構成する材料としては、例えば、ガラス又は樹脂を例示でき、スフェロイドがより形成されやすく、またスフェロイドの観察性に優れる培養部が形成されやすい点から、ガラスが好ましい。
底部10に用い得るガラスとしては、特に限定されず、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、リン酸ガラス、アルミノシリケートガラス、強化ガラスを例示できる。底部10に用いられるガラスは、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0024】
底部10に用い得る樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリプロピレン樹脂、シリコーン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、高密度ポリエチレン、ポリエーテルサルファン、PET共重合体、パーマノックス(商標)、シクロオレフィンポリマー樹脂、サイトップ(商標)等を例示できる。底部10に用いられる樹脂は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0025】
この例の凹部11の内面11aは、細胞低接着面である。「凹部の内面が細胞接着面である」とは、凹部の内面が、細胞の接着を抑制する処理が施された面であることを意味し、例えば、細胞接着抑制剤を塗布して被膜が形成された面が挙げられる。凹部(培養部)の内面が細胞低接着面であれば、凹部内で細胞同士が凝集してスフェロイドが形成されやすくなる。
【0026】
細胞接着抑制剤としては、例えば、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)等のリン脂質ポリマー、ポリヒドロキシエチルメタアクリレート、フッ素含有化合物、ポリエチレングリコール、MPCポリマー鎖を持つシランカップリング剤を例示できる。細胞接着抑制剤としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
枠体20の形状及び厚みは、底部10の凹部11に対応する貫通孔21を有する範囲であれば特に限定されず、目的の細胞培養容器1の形状に合わせて適宜設計できる。
【0028】
貫通孔21の形状は、凹部11の開口形状に応じて適宜設定でき、典型的には円柱状である。
貫通孔21の高さは、枠体20の厚さに一致する。
貫通孔21の開口の直径は、典型的には凹部11の開口の直径と同じであるが、本発明の効果を損なわない範囲であれば異なっていてもよい。
【0029】
枠体20の側壁部22を構成する材料としては、特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリプロピレン樹脂、シリコーン樹脂、PET樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、高密度ポリエチレン、ポリエーテルサルファン、PET共重合体、パーマノックス(商標)、シクロオレフィンポリマー樹脂、サイトップ(商標)等の樹脂を例示できる。これらの樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
枠体20の側壁部22を構成する材料としてガラスを用いてもよい。ガラスを用いる場合は、例えば、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、リン酸ガラス、アルミノシリケートガラス、強化ガラスを例示できる。これらのガラスは1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
枠体20の側壁部22は、透明でも不透明でもよい。例えば蛍光等の発光を利用してスフェロイドを観察する際、隣のウェルからの光を遮ってノイズを低減でき、観察性が向上する観点では、側壁部22は不透明が好ましい。側壁部22を不透明とする場合、色調としては黒がより好ましい。側壁部22を不透明にする方法としては、特に限定されず、例えば、顔料等の着色剤を配合する方法を使用できる。
【0031】
実施形態の細胞培養容器1では、蛍光測定法により、凹部11内の蛍光染色試薬で染めたスフェロイドの蛍光を測定したときのS/N比は、好ましくは11.5以上、より好ましくは12.0以上、さらに好ましくは12.5以上である。S/N比が前記数値以上であれば、スフェロイドの観察性に優れる。
スフェロイドの蛍光は、例えば、ハイコンテント共焦点イメージングシステム(パーキンエルマー社Operetta)等によって測定できる。
なお、Sは、蛍光染色試薬で染めたスフェロイドが存在する状態のシグナル量(蛍光強度)であり、Nは、バックグラウンド(スフェロイドがない状態)のシグナル量(蛍光強度)である。
【0032】
[細胞培養容器の製造方法]
以下、前記した細胞培養容器の製造方法について説明する。
実施形態の細胞培養容器の製造方法は、以下のステップ(i)及び(ii)を含む。
(i)複数の穴の開いた金型の上に板状部材を置き、加熱しながら各穴の前記板状部材が置かれた側とは反対側から真空引きし、前記板状部材を部分的に変形させて複数の凹部を形成して底部を得ること。
(ii)前記底部と枠体とを結合すること。
以下、ステップ(i)及び(ii)についてさらに詳しく説明する。
【0033】
(ステップ(i))
例えば、図4に示すように、真空チャンバ112に通じる複数の穴111が上面に開いた金型(下型)110の上に、それら複数の穴111が塞がれるように板状部材10Aを載置し、さらにその上に金型(上型)120を載せる。この状態で、板状部材10Aを加熱しながら真空チャンバ112側から真空引きすることにより、板状部材10Aの穴111を塞いでいる部分が真空チャンバ112側に引っ張られて部分的に変形し、凹部が形成される。
【0034】
金型110に形成されている穴111は、開口から下方に向かうにつれて縮径する円錐台状部111aと、円錐台状部111aと真空チャンバ112とを繋ぐ円柱状の連結部111bとを有する。
真空引きの際、板状部材10Aにおける各穴111で変形する部分の中央部は金型110には接触せず、その周辺部分のみが円錐台状部111aの表面に接触する。これにより、形成される凹部の底周辺部には、金型110に穴111を形成する際の切削痕が転写されることがない。そのため、凹部において金型110とは接触していない底周辺部を培養部とすることで、スフェロイドが形成されやすくなり、また形成されたスフェロイドの観察性が良好になる。
【0035】
穴111における円錐台状部111aの下端の開口形状は、典型的には円形であるが、限定はされない。
円錐台状部111aの下端の開口の直径は、目的の培養部のサイズに応じて適宜設定することができ、例えば0.8~20.0mmとすることができる。
【0036】
板状部材としては、例えばガラスシート、樹脂シート等を用いることができ、スフェロイドの形成性及び観察性の観点から、ガラスシートが好ましい。
板状部材の厚さは、特に限定されず、例えば0.03~1.0mm、0.04~0.8mm、又は0.05~0.6mmとすることができる。最も好ましくは、通常の顕微鏡観察用のカバーガラスと同等の厚みの0.18mmとする。
【0037】
ステップ(i)における金型温度は、真空引きによって板状部材10Aを充分に変形させて凹部を形成させることができる範囲で、板状部材10Aの材質に応じて設定する。具体的には、板状部材10Aのlogηが6.0~10.0ポイズとなる温度とし、好ましくは7.0~9.0ポイズ、さらに好ましくは7.5~8.5ポイズとなる温度とする。例えば板状部材10Aがホウケイ酸ガラスからなるガラスシートの場合、金型温度は、好ましくは600~800℃、より好ましくは630~780℃、さらに好ましくは650~750℃である。
真空吸引の時間は、目的の形状の凹部が形成されるように適宜設定すればよく、例えば1~4分とすることができる。
【0038】
凹部の内面を細胞低接着面とする際には、例えば公知の塗布方法を利用して凹部の内面に細胞接着抑制剤を塗布し、被膜を形成する。
【0039】
(ステップ(ii))
板状部材に凹部を形成して得た底部と枠体との結合方法は、特に限定されず、例えば圧着、溶着、接着剤による接着等を例示できる。具体的には、例えば基材シートの両面に接着剤層を有する両面テープを用いて底部を枠体に貼り付ける方法が挙げられる。
接着剤としては、特に限定されず、例えば、シリコーン系、瞬間系、エポキシ系、紫外線硬化系、ポリプロピレン系、アクリル系、ゴム系、ポリエチレン系の接着剤を例示できる。
【0040】
以上説明したように、本発明の細胞培養容器では、凹部内の培養部の表面の最大高さ粗さRzや、t/tが特定の範囲に制御されていることにより、スフェロイドの形成性及び観察性に優れている。このような細胞培養容器は、前記したステップ(i)及び(ii)を含む方法によって効率良く製造できる。
【0041】
なお、本発明の細胞培養容器は、前記した細胞培養容器1には限定されない。
例えば、凹部(培養部)の内面は細胞低接着面でなくてもよい。すなわち、凹部(培養部)の内面には、細胞接着抑制剤による被膜が形成されていなくてもよい。この場合、形成されるスフェロイドが凹部の内面に接着しやすくなるものの、形成されるスフェロイドの観察性は良好である。
【0042】
凹部の内面が細胞低接着面でない場合、厚さ比率t/tは、0.80~1.20であれば、培養部における凹部の厚さが均一であるためにスフェロイドの観察時に背景がクリアになり、また蛍光観察の際にノイズが低減されるため、スフェロイドの観察性に優れる。
がtより小さい場合は、t/tは、0.80以上1.00未満とする。好ましくは0.85以上1.00未満であり、より好ましくは0.90以上1.00未満であり、さらに好ましくは0.95以上1.00未満である。
また、tがtより大きい場合は、t/tは、1.00超1.20以下とする。好ましくは1.00超1.15以下であり、より好ましくは1.00超1.10以下であり、さらに好ましくは1.00超1.05以下である。
最も好ましくは、tとtが同じ値、すなわちt/t=1.00である。
【0043】
凹部の内面が細胞低接着面でない場合、培養部の表面(凹部の内面)の最大高さ粗さRzは、0.170μm以下であり、好ましくは0.150μm以下、より好ましくは0.120μm以下、さらに好ましくは0.090μm以下である。
【0044】
凹部の内面が細胞低接着面でない場合、培養部の表面(凹部の内面)の最大十点高さ粗さRzjisは、好ましくは0.150μm以下、より好ましくは0.100μm以下、さらに好ましくは0.080μm以下である。
【0045】
凹部の内面が細胞低接着面でない場合、培養部の表面(凹部の内面)の表面粗さRaは、好ましくは0.024μm以下、より好ましくは0.020μm以下、さらに好ましくは0.018μm以下である。
【0046】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【実施例0047】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
【0048】
[実験例1]
板状部材として、ホウケイ酸ガラスからなる111mm×75mmのガラスシート(厚さ0.3mm)を用意し、図4に例示した金型110,120を用いて凹部を形成して底部を得た。
具体的には、金型(下型)110の上に、複数の穴111が塞がれるようにガラスシート(板状部材10A)を載置し、さらにその上に金型(上型)120を載せ、715℃で加熱しながら真空引きし、96個の凹部を有する底部を得た。
各凹部の内面に、細胞接着抑制剤であるMPCポリマー鎖を持つシランカップリング剤を塗布し、被膜を形成した。
次いで、両面テープを用い、得られた底部をポリスチレン製の枠体に貼り付けて96ウェルの細胞培養容器を作製した。
【0049】
[実験例2]
各凹部の内面に細胞接着抑制剤の被膜を形成しなかった以外は、実験例1と同様の方法で96ウェルの細胞培養容器を作製した。
【0050】
[実験例3]
比較対象として、96個の凹部を有する底部であるポリスチレン製の市販品を用意し、実験例1と同様にして96ウェルの細胞培養容器を作製した。
【0051】
[最大高さ粗さRz]
最大高さ粗さRzは、三次元測定機UA3P(パナソニックプロダクションエンジニアリング社製)によって測定した。
【0052】
[最大十点高さ粗さRzjis]
最大十点高さ粗さRzjisは、三次元測定機UA3P(パナソニックプロダクションエンジニアリング社製)によって測定した。
【0053】
[表面粗さRa]
表面粗さRaは、三次元測定機UA3P(パナソニックプロダクションエンジニアリング社製)によって測定した。
【0054】
[凹部の厚さ]
凹部の底の厚さ、及び、上方から見たときの底から凹部の開口の半径の50~60%の円環領域上の位置の凹部の厚さは、ダイヤルゲージ(ミツトヨ社製)によって測定した。
【0055】
各実験例の凹部について、底の平均厚さt、上方から見たときの底から凹部の開口の半径の50~60%の円環領域上の位置の凹部の平均厚さt、厚さ比率t/t、培養部の表面の最大高さ粗さRz、表面粗さRa、及び最大十点高さ粗さRzjisを測定した結果を表1に示す。
【0056】
[培養試験1]
各実験例の96ウェルの細胞培養容器を用い、各ウェルにHepG2細胞(ヒト肝癌由来細胞株)を1ウェルあたりの細胞数が5×10個となるように播種し、37℃、培地E-MEM/血清10%の条件下で2日間培養した。培養後、DRAQ5(コスモバイオ社製)を用いて細胞塊を蛍光染色した後、ハイコンテント共焦点イメージングシステム(パーキンエルマー社Operetta)を用いて、蛍光イメージを取得した。実験例1の顕微鏡写真を図5(実験例1)、実験例3の顕微鏡写真を図6に示す。
また、画像解析ソフト(イメージ解析ソフトウェアHarmonyTM)によってスフェロイドのサイズ(面積)及び真円率を測定した。結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
図5及び図6に示すように、培養部の表面の最大高さ粗さRzと厚さ比率t/tの条件を満たす実験例1の細胞培養容器は、最大高さ粗さRzとt/tの条件を満たさない実験例3の細胞培養容器に比べて背景がクリアであり、培養したスフェロイドの観察性が優れていた。
また、表1に示すように、実験例1の細胞培養容器では、実験例3の細胞培養容器で培養するよりも真円率が高いスフェロイドが形成された。これは、実験例3に比べて実験例1の方が培養部で細胞が底に向かってスムーズに集まってスフェロイドが形成やすかったことを示している。
【0059】
[培養試験2]
実験例1及び3の96ウェルの細胞培養容器を用い、各ウェルにHepG2細胞(ヒト肝癌由来細胞株)細胞を1ウェルあたりの細胞数が5×10個となるように播種し、37℃、培地E-MEM/血清10%の条件下で2日間培養した。培養後、DRAQ5(コスモバイオ社製)を用いて細胞塊を蛍光染色した後、ハイコンテント共焦点イメージングシステム(パーキンエルマー社Operetta)を用いて、蛍光イメージを取得した。スフェロイドのシグナル量(S)とバックグラウンドのシグナル量(N)を取得してS/N比を算出した。結果を図7に示す。
【0060】
図7に示すように、実験例1の細胞培養容器では、実験例3の細胞培養容器に比べ、スフェロイドの蛍光観察においてS/N比が高く、スフェロイドの観察性が優れていた。なお、実験例1のS/N比の最小値は11.90、最大値は19.17であり、実験例3のS/N比の最小値は6.48、最大値は11.14であった。
【符号の説明】
【0061】
1…細胞培養容器、10…底部、11…凹部、11a…内面、12…培養部、20…枠体、21…貫通孔、22…側壁部、30…ウェル、110…金型(下型)、111…穴、111a…円錐台状部、111b…連結部、112…真空チャンバ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7