(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000774
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】電力分配装置
(51)【国際特許分類】
H02J 1/00 20060101AFI20231226BHJP
B60R 16/03 20060101ALI20231226BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
H02J1/00 306G
H02J1/00 306B
B60R16/03 Z
H02J7/00 302B
H02J1/00 306M
H02J1/00 309F
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099670
(22)【出願日】2022-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098497
【弁理士】
【氏名又は名称】片寄 恭三
(74)【代理人】
【識別番号】100099748
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 克志
(74)【代理人】
【識別番号】100103171
【弁理士】
【氏名又は名称】雨貝 正彦
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【弁理士】
【氏名又は名称】橘 和之
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 文仁
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 哲雄
(72)【発明者】
【氏名】島津 賢二
(72)【発明者】
【氏名】内山 端葵
【テーマコード(参考)】
5G165
5G503
【Fターム(参考)】
5G165BB02
5G165BB06
5G165EA02
5G165FA01
5G165GA09
5G165HA02
5G165HA03
5G165HA09
5G165HA20
5G165KA08
5G503AA04
5G503BA01
5G503BA02
5G503BB01
5G503DA02
5G503DA17
5G503GB03
(57)【要約】
【課題】 アイドリングストップに対応して複数の電子機器に電力を分配することができる電力分配装置を提供する。
【解決手段】 本発明のUSB電力分配ユニット110は、優先のポート1に接続されたスマートフォン70および非優先のポート2に接続されたモバイルバッテリー72に、バッテリー60から供給された電力を分配する機能を備える。USB電力分配機能110は、アイドリングストップ検知部120、エンジン再始動検知部130、PDネゴシエーション部140、昇降圧ユニット150を含み、アイドリングストップが検知されたとき、PDネゴシエーション部140を介してモバイルバッテリー72へ供給する電力を決定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子機器に電力を分配する機能を備えた電力分配装置であって、
複数の電子機器をそれぞれ接続可能な複数のポートと、
バッテリーから供給される電力を前記ポートを介して電子機器に分配可能な分配手段と、
車両のアイドリングストップを検知する検知手段とを含み、
前記分配手段は、前記検知手段によってアイドリングストップが検知されたとき、優先の電子機器への電力供給を維持した状態で非優先の電子機器への電力供給を削減する、電力分配装置。
【請求項2】
優先の電子機器は、優先のポートに接続され、非優先の電子機器は、非優先のポートに接続される、請求項1に記載の電力分配装置。
【請求項3】
前記分配手段は、電圧を昇圧する昇圧手段を含み、前記分配手段は、アイドリングストップ時に昇圧された電圧を電子機器に分配可能である、請求項1に記載の電力分配装置。
【請求項4】
前記分配手段は、ヒューズを介してバッテリーに接続され、前記分配手段は、前記ヒューズが切れないような電力を非優先の電子機器に供給する、請求項1に記載の電力分配装置。
【請求項5】
前記分配手段は、アイドリングストップが検知されたとき、非優先の電子機器とネゴシエーションを行うことで非優先の電子機器に供給する電力を決定する、請求項1に記載の電力分配装置。
【請求項6】
前記ネゴシエーションは、選択可能な電力を規定したパワープロファイルを非優先の電子機器に送信することと、選択されたパワープロファイルを非優先の電子機器からから受信することを含む、請求項5に記載の電力分配装置。
【請求項7】
前記検知手段はさらに、アイドリングストップ後のエンジン再始動を検知し、
前記分配手段は、アイドリングストップ後のエンジン再始動が検知されたとき、非優先の電子機器とネゴシエーションを行うことで非優先の電子機器に供給する電力を再決定する、請求項5に記載の電力分配装置。
【請求項8】
前記ポートは、USBポートであり、前記電子機器は、USB対応機器である、請求項1に記載の電力分配装置。
【請求項9】
前記優先のポートは、USB通信および充電用のポートであり、前記非優先のポートは、充電専用ポートである、請求項2に記載の電力分配装置。
【請求項10】
優先の電子機器は、アプリケーションを実行可能な携帯端末であり、前記優先のポートに接続された優先の電子機器は、電力分配装置に接続された他の電子ユニットとUSB通信をする、請求項9に記載の電力分配装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のポートにそれぞれ接続された複数の電子機器への電力分配を行う電力分配装置に関し、特に、アイドリングストップに対応した電力分配に関する。
【背景技術】
【0002】
車載装置にはスマートフォンなどの種々の電子機器が接続可能であり、接続された電子機器は、車載装置から供給される電力によって動作しあるいは充電される。一方、省エネルギー化のため、駐停車や信号待ちの間にエンジンを停止させるアイドリングストップ車両が実用化されている。アイドリングストップ後のエンジン再始動時のクランキングにおいて、バッテリーから供給される電圧が低下すると、バッテリーから給電された車載装置の動作が不安定になることがある。
【0003】
そこで、特許文献1は、アイドリングストップ状態からエンジン再始動期間に、バッテリーからの電圧を昇圧する車両用電源装置を開示し、特許文献2は、アイドリングストップの移行状態を検出すると、スマートフォンの充電電流を所定値以下に制限する充電電流制御部を備えた給電制御装置を開示し、特許文献3は、エンジン始動時にACC電源の電圧の低下期間に、コンデンサに蓄えた電荷を供給することでACC電源の電圧がしきい値以下に低下することを防止する表示装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-182657号公報
【特許文献2】特開2017-77847号公報
【特許文献3】特開2019-93821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図1は、従来の車載装置の一構成例を示すブロック図である。車載装置10は、アイドリングストップ用昇圧ユニット20、オーディオやビデオを再生するためのオーディオ・ディスプレイユニット30、USB充電ユニット40を含んで構成される。アイドリングストップ用昇圧ユニット20は、ヒューズ50を介してバッテリー60に接続され、USB充電ユニット40は、ヒューズ52を介してバッテリー60に接続される。
【0006】
USB充電ユニット40は、USB(Universal Serial Bus)に対応した電子機器(以下、USB対応機器と称す)を接続するための2つのポート1、ポート2を有する。ポート1は、USB通信および充電用ポートであり、USB充電ユニット40は、ポート1に接続されたUSB対応機器を充電しつつ、USB通信による信号をオーディオ・ディスプレイユニット30などに供給する。USB通信による信号は、例えば、USB充電ユニット40において増幅または波形整形される。ポート1には、例えば、スマートフォン70が接続され、スマートフォン70は、ポート1を介してUSB充電ユニット40から充電されつつ、アプリケーションの実行によりオーディオ・ディスプレイユニット30と連携した動作が可能である。ポート2は、充電専用ポートであり、USB充電ユニット40は、ポート2に接続されたUSB対応機器を充電する。ポート2には、例えば、モバイルバッテリー72が接続され、モバイルバッテリー72は、ポート2を介してUSB充電ユニット40から充電される。
【0007】
USB充電ユニット40がUSB対応機器に供給することができる最大電力は、例えば、1ポート当たり最大で15W(例えば、5V×3A)、2つのポートの合計で30Wである。バッテリー60から供給されるバッテリー電圧VBTは、通常、約12Vであり、USB充電ユニット40は、ポート1、2から例えば5Vの電圧を供給するため、降圧ユニット42によりバッテリー電圧VBTを降圧する。アイドリングストップ状態からエンジン再始動時にバッテリー電圧VBTが約6Vに降下するが、5Vの電圧を供給する場合には、バッテリー電圧VBTが降圧ユニット42によって降圧される。オーディオ・ディスプレイユニット30には、アイドリングストップ用昇圧ユニット20が接続されており、バッテリー電圧VBTが6Vに降下しても、これを昇圧した電圧が供給されるため、オーディオ再生等が途切れることはない。
【0008】
近年、USB対応機器の機能や性能等の向上により、USB充電ユニット40には、ポート1、ポート2から供給することができる最大電力の増加や、ポート毎にUSB対応機器に応じた電力を供給することが求められている。仮に、USB充電ユニット40が供給することができる最大電力が60Wに増加された場合、例えば、ポート1に最大で15Wの電力を供給し、ポート2に最大で45Wの電力を供給したり、あるいは、ポート1に最大で30Wの電力を供給し、ポート2に最大で30Wの電力を供給することが求められる。
【0009】
従来のUSB充電ユニット40には、大電流を消費することを考慮し、昇圧ユニットが備わっていない。このため、エンジン再始動時にバッテリー電圧VBTが降下すると、降下したバッテリー電圧VBTよりも大きな電圧をUSB対応機器に供給することができない。他方、USB充電ユニット40に昇圧ユニットを設け、バッテリー電圧VBTを昇圧した電圧をUSB対応機器に供給する場合、バッテリー電圧VBTが降下すると、その分、バッテリー60からUSB充電ユニット40に大きな電流が流れてしまい、ヒューズ52が切れてしまう可能性がある。
【0010】
また、ヒューズ52が切れないようにUSB充電ユニット40に電流制限回路を設けると、USB充電ユニット40からスマートフォン70への供給電圧が停止し、あるいは低下し、オーディオ・ディスプレイユニット30が動作できるにもかかわらず、スマートフォン70とオーディオ・ディスプレイユニット30とのUSB通信を介した連携動作(例えば、CarPlay(登録商標)など)が強制終了してしまうという課題もある。
【0011】
さらに、ヒューズ52の定格電流を大きくすることで、エンジン再始動時にヒューズ52の切断を防止することも可能であるが、レアなショート時など肝心なときヒューズ52が切れず、バッテリーハーネスが溶けて発煙などを引き起こすおそれがある。
【0012】
本発明は、上記した従来の課題を解決するものであり、アイドリングストップに対応して複数の電子機器に電力を分配することができる電力分配装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る電力分配装置は、複数の電子機器をそれぞれ接続可能な複数のポートと、バッテリーから供給される電力を前記ポートを介して電子機器に分配可能な分配手段と、車両のアイドリングストップを検知する検知手段とを含み、前記分配手段は、前記検知手段によってアイドリングストップが検知されたとき、優先の電子機器への電力供給を維持した状態で非優先の電子機器への電力供給を削減する。
【0014】
ある態様では、優先の電子機器は、優先のポートに接続され、非優先の電子機器は、非優先のポートに接続される。ある態様では、前記分配手段は、電圧を昇圧する昇圧手段を含み、前記分配手段は、アイドリングストップ時に昇圧された電圧を電子機器に分配可能である。ある態様では、前記分配手段は、ヒューズを介してバッテリーに接続され、前記分配手段は、前記ヒューズが切れないような電力を非優先の電子機器に供給する。ある態様では、前記分配手段は、アイドリングストップが検知されたとき、非優先の電子機器とネゴシエーションを行うことで非優先の電子機器に供給する電力を決定する。ある態様では、前記ネゴシエーションは、選択可能な電力を規定したパワープロファイルを非優先の電子機器に送信することと、選択されたパワープロファイルを非優先の電子機器からから受信することを含む。ある態様では、前記検知手段はさらに、アイドリングストップ後のエンジン再始動を検知し、前記分配手段は、アイドリングストップ後のエンジン再始動が検知されたとき、非優先の電子機器とネゴシエーションを行うことで非優先の電子機器に供給する電力を再決定する。ある態様では、前記ポートは、USBポートであり、前記電子機器は、USB対応機器である。ある態様では、前記優先のポートは、USB通信および充電用のポートであり、前記非優先のポートは、充電専用ポートである。ある態様では、優先の電子機器は、アプリケーションを実行可能な携帯端末であり、前記優先のポートに接続された優先の電子機器は、電力分配装置に接続された他の電子ユニットとUSB通信をする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アイドリングストップが検知されたとき、優先の電子機器への電力供給を維持した状態で非優先の電子機器への電力供給を削減するようにしたので、アイドリングストップ後のエンジン始動時にバッテリー電圧が降下してもバッテリーから電力分配装置へ流れる電流の増加を抑制し、かつ優先の電子機器の動作を継続させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】従来の車載装置の一構成例を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施例に係る車載装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】本発明の実施例に係る電力分配の動作フローである。
【
図4】本発明の実施例に係るPDネゴシエーションの動作フローである。
【
図5】アイドリングストップ時のパワープロファイルの一例を示す図である。
【
図6】エンジン再始動時のパワープロファイルの一例を示す図である。
【
図7】本発明の実施例に係る電力分配の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態について説明する。本発明の電力分配装置は、複数のポートにそれぞれ接続された複数の電子機器(携帯機器など)への電力分配をアイドリングストップに対応して行うものであり、例えば、車載装置内に実装される。好ましい態様では、本発明の電力分配装置は、バッテリーから供給された電力を、USBポートに接続された複数のUSB対応機器に分配し、アイドリングストップの際にUSB対応機器の動作が不安定になるのを回避させる。
【実施例0018】
次に、本発明の実施例について詳細に説明する。
図2は、本発明の実施例に係る車載装置の構成を示すブロック図であり、
図1と同一構成については同一参照番号を附している。本実施例の車載装置100は、アイドリングストップ用昇圧ユニット20、オーディオ・ディスプレイユニット30、ヒューズ50、52、バッテリー60、USB電力分配ユニット110を含んで構成される。
【0019】
USB電力分配ユニット110は、車両がアイドリングストップに突入したことを検知するアイドリングストップ検知部120、アイドリングストップ状態からエンジンの再始動を検知するエンジン始動検知部130、USB対応機器との間で電力分配のネゴシエーションを行うPD(Power Delivery)ネゴシエーション部140、バッテリー60から供給されるバッテリー電圧VBTを昇圧しあるいは降圧する昇降圧ユニット150、USB通信および充電用のポート1、充電専用のポート2を有する。
【0020】
USB電力分配ユニット110は、ハードウエアおよび/またはソフトウエアにより構成され、例えば、ROM/RAMを含むマイクロコンピュータを含み、そこに搭載されたプログラムによって電力分配に関する動作を制御する。
【0021】
ポート1のUSB通信は、USB電力分配ユニット110を介してオーディオ・ディスプレイユニット30に電気的に接続され、USB通信による信号は、USB電力分配ユニット110内において増幅ないし波形整形される。ポート1には、USB対応機器として、例えばスマートフォン70が接続され、ポート2には、USB対応機器として、例えばモバイルバッテリー72が接続される。
【0022】
アイドリングストップ検知部120は、車内バス(例えば、CAN(Control Area Network))に接続され、車内バスを通して車両の速度情報、ブレーキ情報、パーキング情報などの車両情報を取得し、車両がアイドリングストップに突入したことを検知する。例えば、車速が一定以下に減速されたとき、あるいは車速がゼロになったとき、アイドリングストップへの突入または移行が検出される。また、車内バスに接続されたECU(Engine Control Unit)からエンジン情報を取得することによってアイドリングストップへの突入を検知したり、あるいは、IG(イグニッション:点火信号、TACHO信号)信号に基づいてエンジンのオン/オフを判定することでアイドリングストップへの突入を検知するようにしてもよい。
【0023】
エンジン再始動検知部130は、アイドリングストップ検知部120によってアイドリングストップが検知された場合、その後のエンジンの再始動を検知する。エンジン再始動検知部130は、車内バスからの車両情報やECUからのエンジン情報に基づきエンジン始動を検知したり、あるいは、IG信号に基づいてエンジンのオン/オフを判定することでエンジンの再始動を検知するようにしてもよい。
【0024】
PDネゴシエーション部140は、ポート1、2にUSB対応機器が接続されたとき、USB対応機器との間で電力分配に関するネゴシエーションを行う。例えば、USB電力分配ユニット110が供給することができる最大電力が60Wであると仮定したとき、USB電力分配ユニット110は、2つのポート1、2の合計の電力が60Wの範囲内で、USB対応機器に供給する電力を決定する(パワーシェアリングと称される)。パワーシェアリングする電力を決定するため、PDネゴシエーション部140は、ポート1、2を介して接続されたUSB対応機器との間でネゴシエーションを行う。
【0025】
PDネゴシエーション部140は、ポート1またはポート2へのUSB対応機器の接続が検知されると、供給可能な電力を規定したパワープロファイルをUSB対応機器に送信し、USB対応機器から希望するパワープロファイルを受信することで、USB対応機器に供給する電力を決定する。
【0026】
本実施例において特徴的な点は、PDネゴシエーション部140は、アイドリングストップ検知部120によってアイドリングストップが検知されると、非優先のUSB対応機器への電力供給を削減するため、非優先のUSB対応機器との間で電力分配に関するネゴシエーションを行う。その後、エンジン再始動検知部130によってアイドリングストップ後のエンジン再始動が検知されると、PDネゴシエーション部140は、非優先のUSB対応機器への電力供給をアイドリングストップ前の元の状態に回復させるべく、再度、非優先のUSB対応機器との間で電力分配に関するネゴシエーションを行う。一方、優先のUSB対応機器への電力供給は、アイドリングストップ期間中においてもそのまま維持させるため、PDネゴシエーション部140は、優先のUSB対応機器との間でネゴシエーションを行わない。
【0027】
優先のUSB対応機器か非優先のUSB対応機器かの識別は、例えば、ポートに割り当てられている機能に基づき行われる。ここでは、アイドリングストップ後のエンジン再始動時のバッテリー電圧VBTの低下によってUSB通信による動作が停止するのを防ぐため、USB通信および充電をサポートするポート1を優先とし、ポート1に接続されたUSB対応機器(スマートフォン70)を優先とする。ポート2は、充電専用であり、バッテリー電圧VBTが一時的に降下しても、モバイルバッテリー72の充電に特に問題は生じない。
【0028】
また、別な態様として、PDネゴシエーション部140は、ポートに割り当てられた機能よって優先または非優先のUSB対応機器を識別するのではなく、ポートの機能とは無関係に、接続されたUSB対応機器に付与されたデバイスIDによって優先または非優先の識別を行うようにしてもよい。この場合、ポート1、2は、いずれもUSB通信および充電をサポートするようにしてもよく、例えば、ポート1にモバイルバッテリー72が接続され、ポート2にスマートフォン70が接続されたとき、PDネゴシエーション部140は、ポート2に接続されたスマートフォン70を優先のUSB対応機器と識別し、ポート1に接続されたモバイルバッテリー72を非優先のUSB対応機器と識別する。
【0029】
昇降圧ユニット150は、バッテリー60から供給されるバッテリー電圧VBTまたは走行中に発電システムによって発電された発電電圧を昇圧または降圧する。昇降圧ユニット150は、例えば、USB電力分配ユニット内のマイクロコンピュータ等の電子回路の供給電圧(例えば、3.3V)を生成したり、PDネゴシエーション部140によって決定されたUSB対応機器へ供給する電圧(例えば、5V、9V、15V、20Vなど)を生成する。アイドリングストップ状態からエンジン再始動時にバッテリー電圧VBTが降下したとき、バッテリー電圧VBTよりも高い電圧をUSB対応機器へ供給する必要があれば、昇降圧ユニットは、バッテリー電圧VBTを昇圧する。
【0030】
次に、本実施例のUSB電力分配ユニット110の動作について
図3のフローを参照して説明する。ここで、USB電力分配ユニット110は、2つのポートの合計で最大60Wの電力を供給可能とし、アイドリングストップ前の通常時に、ポート1に接続されたスマートフォン70に27W(9V×3A)の電力を供給し、ポート2に接続されたモバイルバッテリー72に27W(9V×3A)の電力を供給しているものとする。また、ポート1に接続されたスマートフォン70が優先のUSB対応機器であり、ポート2に接続されたモバイルバッテリー72が非優先のUSB対応機器とする。
【0031】
車両の走行が開始され、アイドリングストップ検知部120によってアイドリングストップの有無が監視され、アイドリングストップが検知されると(S100)、PDネゴシエーション部140は、ポート2に接続されたモバイルバッテリー72への電力供給を削減すべく、モバイルバッテリー72との間で電力分配に関するネゴシエーションを実行する(S110)。
【0032】
図4に、ネゴシエーションの動作フローを示す。PDネゴシエーション部140は、アイドリングストップ後のエンジン再始動時にバッテリー電圧V
BTが降下したとき、バッテリー60からUSB電力分配ユニット110に流れる電流によってヒューズ52が切れないような電力を規定したパワープロファイルを作成する(S200)。
【0033】
例えば、バッテリー60から供給されるバッテリー電圧VBTは、通常、約12Vであるが、エンジン再始動時のクランキングによりバッテリー電圧VBTが約6Vに降下する。もし、昇降圧ユニット150が6Vのバッテリー電圧VBTを9Vに昇圧し、27Wの電力をモバイルバッテリー72に供給し続けると、バッテリー電圧VBTが降下した分、バッテリー60からUSB電力分配ユニット110に大きな電流が流れ、ヒューズ52が切れてしまう。本実施例では、このような事態を回避するべく、モバイルバッテリー72への供給電力を削減すべくモバイルバッテリー72との間でネゴシエーションが行われる。
【0034】
PDネゴシエーション部140は、選択可能な複数の電圧と選択可能な複数の電流との組み合わせによって、1つもしくは複数の電力を規定したパワープロファイルを作成する。パワープロファイルのフォーマット等は特に限定されないが、
図5(A)に、パワープロファイルの一例を示す。ここに示される、3つのパワープロファイルPF1~PF3に規定した電力は、通常時にモバイルバッテリー72に供給している27Wよりも小さく、かつヒューズ52が切断されるのを防ぐ大きさである。
【0035】
モバイルバッテリー72は、PDネゴシエーション部140からパワープロファイルを受け取ると(S210)、その中から希望するパワープロファイルを選択し(S210)、選択したパワープロファイルをPDネゴシエーション部140に送信する。
図5(B)は、モバイルバッテリー72がパワープロファイルPF1を選択した例を示している。
【0036】
PDネゴシエーション部140は、モバイルバッテリー72からパワープロファイルを受け取ると、受け取ったパワープロファイルに従いモバイルバッテリー72に分配する電力を決定する(S220)。
【0037】
PDネゴシエーションの完了には、一定の時間(例えば、100ms程度)を要するため、エンジン再始動時のクランキングによるバッテリー電圧VBTの降下を検知してからPDネゴシエーションをしても遅すぎる。このため、アイドリングストップに突入することを検知してから速やかにPDネゴシエーションを行う必要がある。
【0038】
再び
図3を参照する。USB電力分配ユニット110は、PDネゴシエーション部140のネゴシエーション結果に基づき、モバイルバッテリー72に供給する電力を削減する(S120)。その後、エンジン再始動検知部130によってエンジン再始動の有無が監視され、エンジン再始動が検知されると(S130)、これに応答して、PDネゴシエーション部140は、再び、モバイルバッテリー72との間で電力分配に関するネゴシエーションを実行する(S140)。このネゴシエーションは、モバイルバッテリー72に、アイドリングストップに突入する前の通常時の電力供給を回復させるためのものであり、上記と同様に
図4に示すフローで行われる。
図6(A)は、PDネゴシエーション部140によって作成されたパワープロファイルの例である。ここには、アイドリングストップに突入する前の通常時のパワープロファイルPF1が含まれる。
図6(B)は、モバイルバッテリー72がパワープロファイルPF1を選択した例を示している。
【0039】
USB電力分配ユニット110は、PDネゴシエーション部140のネゴシエーション結果に基づき、モバイルバッテリー72に供給する電力を元の電力に回復させる(S150)。一方、スマートフォン70への電力供給は、アイドリングストップに突入する前の状態が維持されるため、スマートフォン70は、エンジン再始動時のバッテリー電圧VBTの降下の影響を受けることなく、USB通信を介してオーディオ・ディスプレイユニット30と連携する動作を継続することができる。
【0040】
図7(A)、(B)は、それぞれ電力分配の例を示している。
図7(A)の例では、非優先のUSB対応機器には、通常時に27Wの電力が供給されるが、アイドリングストップ時には15Wの電力供給に削減され、
図7(B)の例では、非優先のUSB対応機器には、通常時に45Wの電力が供給されるが、アイドリングストップ時には18Wの電力供給に削減される。優先のUSB対応機器への電力供給は、アイドリングストップ時に変更されず一定である。
【0041】
このように本実施例によれば、アイドリングストップ状態からエンジン始動した場合に、ヒューズが切れることを防止し、かつ、優先のUSB対応機器(スマートフォン70)との連係動作を停止させることなくユーザービリティを確保することができる。
【0042】
上記実施例では、USBポートに接続されたUSB対応機器について電力を供給ないし分配する例を示したが、本発明は、これに限定されるものではなく、USBポートと同様に充電および/または通信をサポートするポートに接続された電子機器への電力の供給ないし分配にも適用することが可能である。
【0043】
また、上記実施例では、2つのUSBポートにUSB対応機器が接続される構成を示したが、これに限らず、本発明は、3つ以上のUSBポートにそれぞれUSB対応機器が接続される構成にも適用することが可能である。例えば、3つのUSBポートの中の2つを優先にし、残りの1つを非優先にし、この非優先のUSB対応機器への電力供給を削減するようにしてもよい。
【0044】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の要旨の範囲において、種々の変形、変更が可能である。