(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077415
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】巻線用テンション制御装置
(51)【国際特許分類】
H01F 41/094 20160101AFI20240531BHJP
H01F 41/064 20160101ALI20240531BHJP
H01F 41/073 20160101ALI20240531BHJP
H01F 41/04 20060101ALI20240531BHJP
B65H 59/22 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
H01F41/094
H01F41/064
H01F41/073
H01F41/04 F
B65H59/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189503
(22)【出願日】2022-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下谷 純一
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 原
【テーマコード(参考)】
3F111
5E002
【Fターム(参考)】
3F111AA05
3F111CA11
3F111CB01
5E002AA12
(57)【要約】
【課題】 巻枠に巻かれる線材に生じるテンションの過大な変動を抑制する巻線用テンション制御装置を提供する。
【解決手段】 ボビンから供給される線材3は、回転駆動される巻枠8に巻回される。巻枠に供給される線材3の経路中に、ループ状に線材を移動させる遠回り経路15を形成する。遠回り経路15は、基盤10に対して軸受17を介して自由回転可能に支持されるボス部18から放射状に延びる複数の板ばね20を設け、複数の板ばね20の各先端に周上に配置される複数のガイド部30を備える。複数のガイド部30に線材が案内され巻き掛けられる。線材3と接触するとき作用する摩擦力により複数のガイド部30が軸受17の周りに回転し、板ばね20の撓みによって線材のテンション変動を抑制する。これにより、ノズルから供給する線材3のテンション変動を抑制するから、巻枠の整列巻きを適切に実現することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻枠(8)に線材を供給する経路に設けられる巻線用テンション制御装置(1)であって、
基盤(10)と、
前記基盤に対して中心軸(9)を支点として自由回転可能に支持されるボス部(18)と、
前記ボス部から放射状に延びる複数のばね部材(20)と、
前記複数のばね部材の先端に固定され、周上に配置される複数のガイド部(30)とを備え、
前記複数のガイド部に巻き掛けられる線材と接触するとき作用する外力により前記複数のガイド部が前記中心軸の周りに回転し、前記ばね部材の撓みによって線材のテンション変動を抑制する巻線用テンション制御装置。
【請求項2】
一端(201)が前記ボス部に固定され、他端(202)が前記ガイド部に固定される前記ばね部材を有する請求項1記載の巻線用テンション制御装置。
【請求項3】
前記ばね部材の撓み量の増減によって、前記ボス部の前記中心軸の位置と前記ガイド部の位置との距離で示される有効半径を可変にし、前記巻枠に供給される線材のテンションを加減する請求項2記載の巻線用テンション制御装置。
【請求項4】
前記ばね部材は板ばねである請求項3記載の巻線用テンション制御装置。
【請求項5】
線材を巻き取る巻枠と、巻枠に線材を供給する線材供給源(2)との間に設けられる、請求項4記載の巻線用テンション制御装置。
【請求項6】
前記複数のばね部材は4個以上のばね部材である請求項4記載の巻線用テンション制御装置。
【請求項7】
回転駆動する巻枠(8)に巻かれる線材のテンションの変動を抑制する巻線方法であって、
前記巻枠に供給する線材の経路に遠回り経路(15)を形成し、前記遠回り経路の長さを可変にし、前記巻枠の入口側の巻線速度の変動を抑制する巻線用テンション制御方法。
【請求項8】
前記遠回り経路をループ状に形成し、このループ状経路の有効半径を可変にする請求項7記載の巻線用テンション制御方法。
【請求項9】
線材の供給速度が低下すると、ばね部材(20)の撓み量を減少し、ループ状経路の有効半径を増大する請求項7又は8記載の巻線用テンション制御方法。
【請求項10】
線材の高テンション時にばね部材の撓み量の増大によりループ経路長さを短くする請求項7記載の巻線用テンション制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻線用テンション制御装置及び巻線用テンション制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
巻線対象物に線材を巻く巻線工法において巻枠に線材(銅線)を整列して巻くためにはテンションの変動を所定範囲内に保つことが要求される。しかし、線材が巻き取られる巻枠の形状や巻線の移動速度が変動すると、テンションも変動してしまう。
従来技術ではバネ等を使用して線材に一定の荷重を付与し、テンションを制御していたが、高速でテンションが変動する場合には変動に追従できなくなる。テンションが低下すると線材にたるみが発生し、巻枠への整列巻が困難となる。
【0003】
また別の従来技術として、特許文献1に開示される巻線装置は、巻枠に複数本の導線を巻き付けてコイルを形成する巻線装置であって、複数本の導線を整列させた状態で巻き付ける場合に各導線に対して均等にテンションを付与しようとするものである。
【0004】
この文献1の開示によると、複数本の導線が予め巻き貯められたリールから巻枠に対してテンション発生機構を経由して導線が供給され、巻枠にコイルが形成される。具体的には、リールを自転させながら巻枠の周りを公転させて、リールから供給する複数の導線を巻枠に巻き付け、巻枠に供給される複数の導線はテンション発生機構を通過し、ここで整列状態で蛇行させることにより、各導線自体の弾性力により各導線に対して均等にテンションを付与しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の巻線装置によると、巻枠に供給する導線は、複数本の導線を帯状に並列配置したワイヤをワークとしており、このワークを構成する各導線に対して均等にテンションを付与するテンション発生機構を備えたものである。
これに対し、本発明は、並列配置した複数の導線に均等にテンションを付与する構成ではなく、導線の本数は問わず、複数の導線を蛇行させる構成でもない。
【0007】
本発明は、特許文献1と対比して、巻枠に供給する線材の経路中に作用するテンションの変動を抑制する課題である点で特許文献1の課題の異なり、課題を解決しようとする手段(構成)を上記の通り特許文献1の構成と異にするものである。
本発明の目的は、巻枠に巻かれる線材に生じるテンションの過大な変動を抑制する巻線用テンション制御装置及び巻線用テンション制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の巻線用テンション制御装置は、巻枠に線材を供給する経路に設けられる巻線用テンション制御装置(1)であって、
基盤(10)と、 前記基盤に対して中心軸(9)を支点として自由回転可能に支持されるボス部(18)と、
前記ボス部から放射状に延びる複数のばね部材(20)と、
前記複数のばね部材の先端に固定され、周上に配置される複数のガイド部(30)とを備え、
前記複数のガイド部に巻き掛けられる線材と接触するとき作用する摩擦力(外力)により前記複数のガイド部が前記中心軸の周りに回転し、前記ばね部材の撓みによって線材のテンション変動を抑制する構成を採用する。
【0009】
一般に、回転駆動される巻枠の形状や、巻枠に巻き取られる線材の移動速度により、巻枠に供給する線材のテンションが変動する。巻枠形状、線材の移動速度等に応じて線材に生じるたるみの度合いは推移する。また、長辺、短辺の比(アスペクト比)が大きな巻枠の場合、線材の移動速度の急激な変化が発生するため、線材が緩む量が大きくなる。
【0010】
本発明の巻線用テンション制御装置は、線材の供給源から巻枠へ線材を供給する経路の途中に設ける。線材の通る経路の途中に、迂回経路を設ける。ここに、迂回経路とは、回り道する経路をいい、遠回り経路をいう。遠回りする経路に、本発明の巻線用テンション制御装置を設ける。
【0011】
巻枠に供給される線材のテンションが増大すると、テンションに抗してばね部材が撓み、撓むばね部材の径外方向のガイド部が回転する有効半径を小さくする。したがって、ばね部材の撓み量の増大によってテンションを低下(緩和)させる方向にテンション制御が働く。
反対に、巻枠に供給する線材のテンションが低下すると、ばね部材の撓み量を小さくしガイド部が回転する有効半径を大きくするから、線材のたるみを抑制する。したがって、テンションを増大する方向にテンション制御される。
【0012】
本発明の巻線用テンション制御装置によると、巻枠に巻き取られる線材に作用するテンションの変化に高い応答性で低遅延に追従し、テンションの変動を小さくする。
基盤に対し自由回転可能なボス部に一端が固定されるばね部材が撓み可能であって、このばね部材の他端のガイド部に線材が巻き掛けられることで、基本的には線材の移動速度に対応する回転速度でボス部が回転する。
【0013】
線材の移動する経路から遠回りして形成されるループ状の経路において、線材の移動速度の変動(加速又は減速)が、線材の巻き掛けられるガイド部を支持するばね部材の撓み量の変動を緩和し、線材のテンションが増大するタイミングでばね部材の撓み量を増大し、線材のテンションが減少するタイミングでばね材の撓み量を減少する。これにより、線材の過剰な緊張と過剰な緩みの発生を防止する。
本発明の巻線用テンション制御装置によると、線材の通るルート上の経路負荷を小さくしながら、小型の構成で線材のテンションの変動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態に用いた巻線用テンション制御装置の正面図、
【
図2】第1実施形態の巻線用テンション制御装置の斜視図、
【
図3】
図1の巻線用テンション制御装置の作用を示す部分正面図、
【
図5】巻枠回転角度と線材の移動速度の関係、及び巻枠回転角度と巻枠の巻取開始位置の関係を示す図、
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態による巻線用テンション制御装置及び制御方法を図面に基づいて説明する。なお、複数の実施形態において実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0016】
(第一実施形態)
本発明の第一実施形態について
図1から
図4に基づいて説明する。
第一実施形態は、
図4に示すように、線材供給源に相当するボビン2から供給される線材3にテンションを付与するテンション付与部4と、テンション付与部4から供給される線材3の噴出位置を決めるノズル6と、ノズル6から供給される線材3を巻回する巻枠8と、巻枠8を回転中心9の周りに矢印7方向に回転駆動する駆動源(図示せず)とを備える。
【0017】
巻線用テンション制御装置1は、テンション付与部4の出口とノズル6の入口との間で線材を通す経路に設けられる。
巻枠8は、回転軸9を中心として短辺面82、83と長辺面84、85とを有し、前記駆動源から駆動力を受けて回転中心9を中心として矢印7方向に回転する。巻枠8の回転に伴い線材3は巻枠8の外周壁に巻回され、巻枠8の外周壁に巻線を構成する。
【0018】
巻枠8の回転軸9とノズル6との距離は基本的には一定である。回転速度が等速で回転
する巻枠8に供給される線材3の移動速度(線速)は、短辺面82、83と長辺面84、85を有する巻枠8の回転角度に応じて変動する。巻枠8との接点位置81とノズル6の先端との距離は、巻枠8の回転角度に応じて変化する。
【0019】
ボビン2に巻回される線材3は、テンション付与部4と巻線用テンション制御装置1を経由し、ノズル6から噴出されて巻枠8に巻回される。
線材3にはテンション付与部4により第1のテンション(張力)が付与され、続いて、
図1及び
図2に示す巻線用テンション制御装置1により第二のテンションが付与される。
巻線用テンション制御装置1からノズル6を通して供給される線材3は、回転中心9を中心として一方向に矢印7の方向に回転する巻枠8に巻き取られる。
【0020】
巻枠8は短辺面82、83と長辺面84、85とを有する。これにより、巻枠8の外周
壁に巻き掛けられる線材3の引き込み移動速度(線速)が変動する。この線速の変動につ
いては後述する。
巻線用テンション制御装置1は、テンション付与部4とノズル6の間で線材3の通る経路の途中に、線材の経路を遠回りさせるループ状の経路(遠回り経路)に設けられる。
【0021】
巻線用テンション制御装置1は、
図1及び
図2(線材を図示せず)に示すように、基盤10に固定される軸受11、12に自由回転可能に支持するローラ13、14を設け、このローラ13、14に線材3が巻き掛けられて、線材を遠回りさせるループ状の遠回り経路15を形成する。
【0022】
ローラ13、14の重力下方向の位置の基盤10に軸受17が設けられ、軸受17に円盤状のボス部18が矢印19方向に回転自在に支持されている。
ボス部18の外周壁に複数のばね部材に相当する板ばね20の各一端201が周方向に等間隔に固定されている。板ばね20は、ボス部18の中心位置から偏心する位置から径外方向から外れる偏心方向に傾斜して延びている。板ばね20は、実質的な弾性係数を大きくするように、板ばね20が外力で撓みやすい向きに延びている。
【0023】
板ばね20は、形状が薄板状の長尺状で、各板ばねがボス部18の外周面から放射状に延びており、各板ばね20の各他端202には各ガイド部30が固定されている。
ガイド部30は、線材3を支持する支持面31を有する基台32と、この基台32に対し板ばね20の幅方向の両縁から径外方向に立ち上がる案内板33、34を有している。複数のガイド部30は、ボス部18から放射状に延びる複数の板ばね20の各先端(他端202)に固定され、ボス部18の周囲に周方向に配置される。
【0024】
図4に示すように、ボビン2から引き出される線材3は、テンション付与部4を経由して、ローラ13から遠回り経路15を通ってローラ14からノズル6の方向に移動する。
遠回り経路15において、複数のガイド部30に巻き掛けられる線材3とガイド部30の支持面31と接触するとき作用する摩擦力(外力)により複数のガイド部30が中心軸(ボス部18)の周りに回転し、板ばね20の撓みによって、遠回り経路の長さが可変となる。これにより、線材3のテンション変動を抑制することができる。
【0025】
図3に示すように、線材に作用するテンションが相対的に高テンションのとき、板ばね20の撓み量が大きくなって例えば実線30に示すガイド部30の位置にある。線材の移動速度が低下すると、ガイド部30の慣性力で板ばね20の位置を矢印36方向に戻し(復元し)、実線に示すガイド部30の位置から一点鎖線に示すガイド部30の位置にガイド部30を戻す方向に動き、ガイド部30が径外方向に実質的に移動(ガイド部の有効半径を増大)する。これにより、線材の遠回り経路長さを延長し、線材の緩みを抑制する。
【0026】
本実施形態では、遠回り経路をループ状になるようにガイド部を配置することにより、経路負荷の増加を低減すことができる。
本実施形態によると、前記板ばねの先端に連結され、前記巻線を周方向にガイドし、前記巻線のテンションにより引っ張られたり緩み、前記巻線のテンションを調整する。
【0027】
本実施形態によると、複数の板ばねを円周上に配置する構成になっているから、大きな緩み量に高い応答性で追従し、且つ経路負荷を小さくすることができる。
本実施形態によると、回転体の中心を軸受けで保持しており、線材が巻きとられることで、線材の線速に合わせて、ボス部18、複数の板ばね20及び複数のガイド部30が回転する。回転時の加減速により先端のガイド部30に慣性力が発生し、線材3のテンションが緩むタイミングで板ばね20の撓み量が減少し、ガイド部30が拡がって緩みを防止する。
【0028】
本実施形態によると、線材3にテンションがかかると板ばね20が撓み、巻線の線材移動速度に合わせてガイド部30、板ばね20及びボス部18が一体に自由回転する。
回転中心の周りにガイド部30が円周上に配置されることで、板ばね20の撓み時の屈折による変形をし、経路負荷の増加を低減可能である。線材移動速度が低下するとローラ14の回転速度が減速するため、そのときのローラ14に近い位置のガイド部30の慣性力で板ばね20が戻る方向に動く。これにより、線材の緩み防止がはかられる。
【0029】
次に、長辺と短辺をもつ巻枠に供給される線材の移動速度と巻枠回転角度の一般的な関係を
図5に基づいて説明する。なお、
図5は本発明の理解を助けるためのイメージ図である。
図5の横軸は、巻枠回転角0°から180°を示す。
図5の上部に巻枠回転角に対応する巻枠回転位置を示す。
【0030】
図5の上部は、巻枠の回転角度、巻枠の回転位置、巻枠入口における線材の巻取位置の関係を示す。
図5の下部に示すグラフは、巻枠の回転角度と線材の移動速度(
図5中に「線速」と表示する)の関係、並びに、長辺巻きと短辺巻きの巻枠回転角領域を示す。
【0031】
巻枠8の回転位置801から長辺巻きを開始し、進角するにしたがい線材の弛みが生じ、線材の移動速度は次第に低下(線速低下)する。巻枠の回転位置802を経由してさらに線材の移動速度を低下させる。巻枠8の回転角0°から線材の移動速度が最低速となる回転位置803まで巻枠の長辺巻きを継続する。
【0032】
長辺巻きから短辺巻きに切り替わると、進角するにしたがい、線材のテンションが急速に増大し、線材の移動速度が急速に増加(線速増大)し、回転位置804を経由し、線材の最高速度に到達した後に回転位置805に移行する。続いて、同様に、上記回転位置801から、同様の線材の巻き状態変化を繰り返す。
【0033】
上記線材の移動速度の低下及び増大に対応して線材の過剰な弛みと引っ張りを緩和するように、上述した実施形態が作動する。
図5に示すように、巻枠8は、線材の巻取開始位置801、802、803、804、805に応じて、巻枠8の入口におけるノズル6から供給される線材3の移動速度が変化する。
【0034】
初期の巻枠回転角0°の巻取開始位置801から線材移動速度は次第に低下し、巻取開始位置803のとき線材移動速度は最低速度となる。その後に巻取開始位置804に向かう途中に最大移動速度となる。線材の平均移動速度(平均線速)は図示の通りである。一般に、長辺巻きの期間、線材の移動速度は低下し、短辺巻きの期間、線材の移動速度は増大する。
【0035】
本実施形態によると、上記の線材の移動速度の変動を生じる一般的な関係性がある巻線供給装置において、巻枠に線材を供給する入口側で、上記実施形態の装置を設けることで巻線装置の線材テンションの変動を抑制する。これにより、線材の整列巻きを適切にすることができる。
【0036】
次に、本発明と比較形態とを対比して説明する。
【0037】
(第1比較形態との対比)
図6に示す第1比較形態1は、線材3を供給する経路にばね50の撓み量の大きなテンション制御装置を設けた例である。
図6において、上記実施形態に示す構成と実質的に同じ構成には上記実施形態を示す図中の符号と同一符号を付す。
【0038】
図6に示す第1比較形態は、線材の移動速度の急激な変化(例えば急減速)が発生すると、線材に生じる緩み量が大きくなるから、この緩み量を低減するため、ばね50の変動量(撓み量)を大きくし、線材の緩み量に追随させる構成を採っている。ばね50の先端に自由ローラ51を設けている。この場合、巻線(線材の移動速度)を高速化していくと、テンション変動の周期が小さくなるため、ばね50に高い応答性が求められる。応答性を高めるためにばね定数を高くすると、小さい振福によりばね50を動作させる必要があり、現実にはこの形態を採用することは困難である。
【0039】
(第2比較形態との対比)
図7に示す第2比較形態は、線材3を供給する経路に複数のばね55、56、57を使用する複数のテンション制御装置を設けた例である。
図7において、上記実施形態に示す構成と実質的に同じ構成には上記実施形態を示す図中の符号と同一符号を付す。
【0040】
この第2比較形態は、複数のばね55、56、57を使用する例である。この場合、線材の緩みを低減するためのばね55、56、57を複数個(3個)設けるから、線材の経路内の負荷が大きくなるという問題がある。線材の移動経路が複数個所で屈折したり、あるいは複数(3個)のローラ51による回転抵抗が増えたりし、経路負荷が増大する。
【0041】
上記2つの比較形態に対比すると、本発明の実施形態については次の作用効果がある。
一般に、巻枠の形状、駆動部の位相、線材の移動速度、テンション付与部によるテンションの大小などの環境変化がある
本発明の巻線用テンション制御装置によると、巻枠の回転角度に対応する弛み度と、前記テンション付与部の出口と前記巻枠の入口との間に線材の弛み度の変動を緩和するように緩み度を調整する動作を行うから、巻枠の入口で線材のテンションを所定範囲内に規制することができる。このため、テンションの変動幅を抑え、巻線の整列巻きなどの適切な巻線制御を行うことができる。
【0042】
本発明の巻線用テンション制御装置によると、テンション付与部の出口と巻枠の入口との間の線材の経路に、遠回りする(寄り道する)遠回り経路を形成し、この遠回り経路長さを可変にする構成にした。しかも、線材の遠回りする遠回り経路をガイド部が自由回転することで経路を形成し、線材の移動速度の急変にばね部材の撓みによって対応する高応答性の構成をもつ緩み調整装置とした。複数のガイド部によりガイド部群を形成し、自由回転する回転体と、この回転体の有効半径をばねの撓みによって加減する構成にしたから、経路負荷を低減することができる。したがって、巻枠の入口において線材のテンションの変動幅を抑え、巻線の整列巻きなどの適切な巻線制御を行うことができる。
【0043】
(その他の実施形態)
上記実施形態では、巻枠の形状について短辺面と長辺面を有するものについて説明したが、本発明では、線材を巻回する巻枠の外周面の形状について周方向に任意の外輪郭形状のものに適用できる。
上記実施形態では巻線用テンション制御装置1に用いた板ばねの例を示したが、本発明では、板ばねに代えて、コイルばね、板ばねを複数枚重ねたばね、形状は矩形状、三角形状、台形状等の薄板であってもよい。
【0044】
上記実施形態では、線材を1本の例で説明したが、本発明では、線材の本数は1本でも複数本でもよい。また本発明では線材の材料を特定するものではない。
本発明では、テンション付与部と巻枠との間にノズル(6)を備えることができる。
本発明では、複数のばね部材を周方向に配置し、しかも自由回転で、回転速度を広範囲に許容するから、装置の大型化を免れながらも、線材の平均移動速度が低速域から高速域までの広い速度域における移動速度の変動にも適応できるという効果がある。
【0045】
以上、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。
本発明の巻線用テンション制御装置は、一端(201)が前記ボス部に固定され、他端(202)が前記ガイド部に固定される前記ばね部材を有する。前記ばね部材の撓み量の増減によって、前記ボス部の前記中心軸の位置と前記ガイド部の位置との距離で示される有効半径を可変にし、前記巻枠に供給される線材のテンションを加減することができる。
【0046】
本発明の巻線用テンション制御装置は、線材の供給経路において、線材を巻き取る巻枠と、巻枠に線材を供給する線材供給源(2)との間に設けることができる。
本実施形態の巻線用テンション制御装置1は、ガイド部30の例を示したが、ガイド部の個数に相当する複数のばね部材は4個以上のばね部材であることが望ましい。機械的構成として機能するためには4個以上のばね部材を設けることが望ましい。
【0047】
本発明の巻線用テンション制御方法は、回転駆動する巻枠(8)に巻かれる線材のテンションの変動を抑制する巻線方法であって、前記巻枠に供給する線材の経路に遠回り経路(15)を形成し、前記遠回り経路の長さを可変にし、前記巻枠の入口側の巻線速度の変動を抑制することができる。
【0048】
本発明の巻線用テンション制御方法は、線材の経路中に、前記遠回り経路をループ状に形成し、ループを描く周上に、線材を巻き掛ける複数のガイド部を配置し、これらの複数のガイド部を各支持するばね部材の回転中心側のボス部を回転し、ばね部材の撓み量に応じてループ状経路の実質的長さあるいはループ経路の有効半径を可変にすることができる。
【0049】
本発明の巻線用テンション制御方法は、線材の供給速度が低下すると、ばね部材(20)の撓み量を減少し、前記ループ経路の有効半径を増大することができる。
本発明の巻線用テンション制御方法は、線材の高テンション時にばね部材の撓み量の増大によりループ経路長さを短くすることができる。
【符号の説明】
【0050】
1 巻線用テンション制御装置
2 ボビン(線材供給源)
3 線材
6 ノズル
8 巻枠
9 回転軸(中心軸)
10 基盤
13、14 ローラ
15 遠回り経路
18 ボス部
20 板ばね(ばね部材)
30 ガイド部