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特開2024-77449生分解性接着剤、硬化物、積層体、包装体、及び生分解性接着剤の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077449
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】生分解性接着剤、硬化物、積層体、包装体、及び生分解性接着剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 175/06 20060101AFI20240531BHJP
   C08L 101/16 20060101ALI20240531BHJP
   C08G 18/42 20060101ALI20240531BHJP
   C08G 18/10 20060101ALI20240531BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20240531BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20240531BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240531BHJP
   B65D 65/46 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
C09J175/06
C08L101/16
C08G18/42 080
C08G18/10
B32B27/40
B32B27/36
B32B27/00 D
B65D65/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189552
(22)【出願日】2022-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】榮 優介
(72)【発明者】
【氏名】門田 昌久
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
4J034
4J040
4J200
【Fターム(参考)】
3E086AD01
3E086BA04
3E086BA13
3E086BA14
3E086BA15
3E086BB52
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4F100AK51B
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4F100AS00C
4F100BA03
4F100BA06
4F100BA07
4F100CA02
4F100CA02B
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4F100CB00B
4F100EJ08B
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4F100JA07
4F100JB12
4F100JB12B
4F100JC00
4F100JC00B
4F100JK06
4F100JK07
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4J200DA17
4J200DA19
4J200EA04
4J200EA05
4J200EA21
(57)【要約】
【課題】吸湿性のある生分解性基材に対しても使用することができ、且つ高温での接着強度(耐熱ラミネート強度)に優れる生分解性接着剤の提供。
【解決手段】上記課題は、ポリオール化合物及びポリイソシアネート化合物を含有する生分解性接着剤であって、ポリオール化合物が、ポリエステル構造を有するグラフト鎖を備える水酸基含有ポリウレタン(X)を含有し、水酸基含有ポリウレタン(X)が、酸価が1~15mgKOH/gであり、前記ポリエステル構造を有するグラフト鎖が、乳酸に由来する構成単位を有する生分解性接着剤によって解決される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール化合物及びポリイソシアネート化合物を含有する生分解性接着剤であって、
前記ポリオール化合物が、ポリエステル構造を有するグラフト鎖を備える水酸基含有ポリウレタン(X)を含有し、
前記水酸基含有ポリウレタン(X)は、酸価が1~15mgKOH/gであり、
前記ポリエステル構造を有するグラフト鎖は、乳酸に由来する構成単位を有する、生分解性接着剤。
【請求項2】
前記水酸基含有ポリウレタン(X)が、乳酸に由来する構成単位を有するポリエステル構造を有し且つカルボキシ基を有するポリオール(A)と、ポリイソシアネート(B)との反応生成物である、請求項1に記載の生分解性接着剤。
【請求項3】
前記ポリオール(A)が、水酸基数が4~7であるポリオール(a1)と環状エステル化合物(a2)との開環重合物であるポリエステルポリオールの酸変性物である、請求項2に記載の生分解性接着剤。
【請求項4】
前記ポリオール(a1)が、下記一般式(1)で表される化合物である、請求項3に記載の生分解性接着剤。
一般式(1)
【化1】
[一般式(1)において、nは、2~5の整数である。]
【請求項5】
前記環状エステル化合物(a2)がラクチドを含む、請求項3に記載の生分解性接着剤。
【請求項6】
前記ポリイソシアネート(B)が、脂肪族ポリイソシアネートを含む、請求項2に記載の生分解性接着剤。
【請求項7】
前記ポリエステル構造を有するグラフト鎖が、さらにカプロラクトンに由来する構成単位を有する、請求項1~3いずれか1項に記載の生分解性接着剤。
【請求項8】
40℃、150時間の条件で硬化させた硬化物の120℃における貯蔵弾性率が、1×10~20×10(Pa)である、請求項1~3いずれか1項に記載の生分解性接着剤。
【請求項9】
前記水酸基含有ポリウレタン(X)は、重量平均分子量が10,000~100,000である、請求項1~3いずれか1項に記載の生分解性接着剤。
【請求項10】
水酸基含有ポリウレタン(X)は、水酸基価が、2~30(mgKOH/g)である、請求項1~3いずれか1項に記載の生分解性接着剤。
【請求項11】
請求項1~3いずれか1項に記載の生分解性接着剤を硬化させた硬化物。
【請求項12】
請求項1~3いずれか1項に記載の生分解性接着剤を接着剤層に用いた積層体。
【請求項13】
請求項12に記載の積層体を使用した包装体。
【請求項14】
幹ポリマーとグラフト鎖とからなる、酸価が1~15mgKOH/gのグラフトポリマーを含むポリオール化合物及びポリイソシアネート化合物を含有する生分解性接着剤の製造方法であって、下記工程を含むことを特徴とする生分解性接着剤の製造方法。
(工程1)下記一般式(1)で表される多価アルコールであるポリオール(a1)の両末端にある第一級水酸基を開始剤として、少なくともラクチドを含む環状エステル化合物(a2)を開環重合し、ポリエステルポリオールを得る工程。
(工程2)得られたポリエステルポリオールの両末端に生じた水酸基に、酸無水物を反応させてカルボキシ基を導入し、乳酸に由来する構成単位を有するポリエステル構造及びカルボキシ基を有するポリオール(A)を得る工程。
(工程3)上記得られたポリオール(A)の中間部にある、一般式(1)で表される多価アルコールに由来する第二級水酸基と、ポリイソシアネート(B)のイソシアネート基とを反応させて、ウレタン骨格を有する幹ポリマーと、末端にカルボキシ基を備えるポリエステル構造を有するグラフト鎖とからなるグラフトポリマーを得る工程。
一般式(1)
【化2】
[一般式(1)において、nは、2~5の整数である。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温での接着強度に優れる生分解性接着剤、該接着剤を用いてなる硬化物、積層体及び包装体、並びに該生分解性接着剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、環境問題の中でも廃プラスチック問題に対する関心は高く、包装材料分野において、生分解性を有する材料や再生可能な材料であるバイオマス由来の材料を使用することへのニーズが高まっている。また、生分解性を有する包装材料を目的として、生分解性を有する接着剤の開発も盛んに行なわれている。
例えば、特許文献1には、ラクチドとカプロラクトンを共重合して得られたポリ乳酸系樹脂と、イソシアネート硬化剤とを組み合わせた接着剤が開示されている。
特許文献2には、多分着の多価アルコールを開始剤として用いてなる、多分岐構造を有するポリ乳酸系接着剤が開示されている。
特許文献3には、酸無水物を反応させることで、自己乳化機能を有するポリ乳酸系樹脂が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-185108号公報
【特許文献2】特開2014-19764号公報
【特許文献3】国際公開第2013/12245号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のポリ乳酸系樹脂は、直鎖状の構造であるため柔軟性に劣り、分子鎖の絡み合いが少なく、高温での接着強度に劣るという課題がある。
特許文献2に記載のポリ乳酸系樹脂は多分岐構造を有し且つ高分子量であるため、粘度が高くハンドリング性に劣る。また、分子量を下げることでハンドリング性は改善できるが、高温での接着強度に劣るという課題がある。
特許文献3に記載のポリ乳酸系樹脂は、酸変性樹脂を用いた水系エマルジョンであり、例えばセロファンのような吸湿性のあるセルロース系生分解性フィルムに対しては、外観不良が起こり使用することができない。また、特許文献1と同様に、直鎖状の構造であるため、高温での接着強度に劣るという課題がある。
したがって、本発明が解決しようとする課題は、吸湿性のある生分解性基材に対しても使用することができ、且つ高温での接着強度(耐熱ラミネート強度)に優れる生分解性接着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明の一態様に係る生分解性接着剤は、ポリオール化合物及びポリイソシアネート化合物を含有する生分解性接着剤であって、前記ポリオール化合物が、ポリエステル構造を有するグラフト鎖を備える水酸基含有ポリウレタン(X)を含有し、前記水酸基含有ポリウレタン(X)は、酸価が1~15mgKOH/gであり、前記ポリエステル構造を有するグラフト鎖は、乳酸に由来する構成単位を有することを特徴とする。
【0006】
本発明の一態様に係る生分解性接着剤は、前記水酸基含有ポリウレタン(X)が、乳酸に由来する構成単位を有するポリエステル構造を有し且つカルボキシ基を有するポリオール(A)と、ポリイソシアネート(B)との反応生成物であることを特徴とする。
【0007】
本発明の一態様に係る生分解性接着剤は、前記ポリオール(A)が、水酸基数が4~7であるポリオール(a1)と環状エステル化合物(a2)との開環重合物であるポリエステルポリオールの酸変性物であることを特徴とする。
【0008】
本発明の一態様に係る生分解性接着剤は、前記ポリオール(a1)が、下記一般式(1)で表される化合物であることを特徴とする。
一般式(1)
【化1】
[一般式(1)において、nは、2~5の整数である。]
【0009】
本発明の一態様に係る生分解性接着剤は、前記環状エステル化合物(a2)がラクチドを含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の一態様に係る生分解性接着剤は、前記ポリイソシアネート(B)が、脂肪族ポリイソシアネートを含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の一態様に係る生分解性接着剤は、前記ポリエステル構造を有するグラフト鎖が、さらにカプロラクトンに由来する構成単位を有することを特徴とする。
【0012】
本発明の一態様に係る生分解性接着剤は、40℃、150時間の条件で硬化させた硬化物の120℃における貯蔵弾性率が、1×10~20×10(Pa)であることを特徴とする。
【0013】
本発明の一態様に係る生分解性接着剤は、前記水酸基含有ポリウレタン(X)の重量平均分子量が10,000~100,000であることを特徴とする。
【0014】
本発明の一態様に係る生分解性接着剤は、水酸基含有ポリウレタン(X)の水酸基価が、2~30(mgKOH/g)であることを特徴とする。
【0015】
本発明の一態様に係る硬化物は、上記生分解性接着剤を硬化させたことを特徴とする。
【0016】
本発明の一態様に係る積層体は、上記生分解性接着剤を接着剤層に用いたことを特徴とする。
【0017】
本発明の一態様に係る包装体は、上記積層体を使用したことを特徴とする。
【0018】
本発明の一態様に係る生分解性接着剤の製造方法は、幹ポリマーとグラフト鎖とからなる、酸価が1~15mgKOH/gのグラフトポリマーを含むポリオール化合物及びポリイソシアネート化合物を含有する生分解性接着剤の製造方法であって、下記工程を含むことを特徴とする。
(工程1)下記一般式(1)で表される多価アルコールであるポリオール(a1)の両末端にある第一級水酸基を開始剤として、少なくともラクチドを含む環状エステル化合物(a2)を開環重合し、ポリエステルポリオールを得る工程。
(工程2)得られたポリエステルポリオールの両末端に生じた水酸基に、酸無水物を反応させてカルボキシ基を導入し、乳酸に由来する構成単位を有するポリエステル構造及びカルボキシ基を有するポリオール(A)を得る工程。
(工程3)上記得られたポリオール(A)の中間部にある、一般式(1)で表される多価アルコールに由来する第二級水酸基と、ポリイソシアネート(B)のイソシアネート基とを反応させて、ウレタン骨格を有する幹ポリマーと、末端にカルボキシ基を備えるポリエステル構造を有するグラフト鎖とからなるグラフトポリマーを得る工程。
【0019】
一般式(1)
【化2】
[一般式(1)において、nは、2~5の整数である。]
【発明の効果】
【0020】
本発明により、吸湿性のある生分解性基材に対しても使用することができ、且つ高温での接着強度(耐熱ラミネート強度)に優れる生分解性接着剤、及び該生分解性接着剤の製造方法を提供することができる。また、本発明により、該接着剤を用いてなる、高温での接着強度に優れる硬化物、積層体及び包装体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の生分解性接着剤は、ポリオール化合物及びポリイソシアネート化合物を含有し、ポリオール化合物が、ポリエステル構造を有するグラフト鎖を備える水酸基含有ポリウレタン(X)を含有し、水酸基含有ポリウレタン(X)は、酸価が1~15mgKOH/gであり、ポリエステル構造は、乳酸に由来する構成単位を有することを特徴とする。
本発明における水酸基含有ポリウレタン(X)は、幹ポリマーと枝ポリマー(グラフト鎖)とからなる、酸価が1~15mgKOH/gのグラフトポリマーであり、幹ポリマーがポリウレタン構造を有し、グラフト鎖がポリエステル構造を有する。
水酸基含有ポリウレタン(X)は、所定の酸価を有し、且つ、幹ポリマーを構成するポリウレタン構造は剛直で凝集力が高く、グラフト鎖を構成するポリエステル構造は分子鎖の絡み合いが大きく柔軟性に優れるため、このような幹部と枝部とからなるグラフトポリマーを用いた接着剤は、従来の直鎖状ポリ乳酸系ポリオールや多分岐ポリ乳酸系ポリオールと比較して、耐熱性に優れ、特に高温での接着強度(耐熱ラミネート強度とも言う)に優れる。さらに、乳酸由来の構成単位を有するポリエステルグラフト鎖を備えることにより、生分解性を発現する。
なお、「生分解性接着剤」とは、接着剤における生分解性原料の使用比率が90質量%以上であるものを指す。
【0022】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に含まれるものである。また、本明細書において「~」を用いて特定される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値の範囲として含むものとする。また、本明細書中に出てくる各種成分は、特に注釈しない限り、それぞれ独立に一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0023】
<<ポリオール化合物>>
本発明の反応性接着剤は、ポリオール化合物として、グラフト鎖を有し、且つ酸価が1~15mgKOH/gである水酸基含有ポリウレタン(X)を含有する。該グラフト鎖は、乳酸に由来する構成単位を有するポリエステル樹脂である。
【0024】
<水酸基含有ポリウレタン(X)>
水酸基含有ポリウレタン(X)は、乳酸由来の構成単位を有するポリエステル樹脂であるグラフト鎖を有していることが重要である。水酸基含有ポリウレタン(X)が、幹ポリマーと枝ポリマー(グラフト鎖)とからなるグラフトポリマーであり、グラフト鎖が、柔軟性に優れ且つ分子鎖の絡み合いが大きいポリエステル構造を有することにより、優れた接着強度を発揮することができる。また、乳酸由来の構成単位を有するポリエステルグラフト鎖を備えることにより、生分解性を有することができる。
【0025】
また、水酸基含有ポリウレタン(X)の酸価は、1~15mgKOH/gであることが重要である。酸価が上記範囲内であることで、得られる接着剤は、優れた耐熱ラミネート強度を発揮する。また、水酸基含有ポリウレタン(X)の酸価が上記範囲内であると、水酸基含有ポリウレタン(X)の安定性に優れるため、最終的な接着剤としての使用の観点からも好ましい。
すなわち、水酸基含有ポリウレタン(X)は酸基を有するものであり、グラフト鎖が酸基を有していることが好ましい。グラフト鎖における酸基の位置は特に限定されないが、後述するポリイソシアネート化合物との反応性を制御する点、並びに、接着剤に柔軟性を付与する点から、グラフト鎖の末端にあることが好ましい。
酸基としては、例えばカルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基が挙げられ、中でもカルボキシ基が好適に用いられる。
【0026】
水酸基含有ポリウレタン(X)としては、例えば、乳酸に由来する構成単位を有するポリエステル構造及びカルボキシ基を有するポリオール(A)と、ポリイソシアネート(B)との反応生成物を用いることができる。
【0027】
[ポリオール(A)]
このようなポリオール(A)は、例えば、ポリオール(a1)と、環状エステル化合物(a2)とを開環重合し、得られた開環重合体であるポリエステルポリオールにおける水酸基の一部を、酸変性することで得ることができる(以下、酸変性物ともいう)。
【0028】
(ポリオール(a1))
ポリオール(a1)は、水酸基数が4~7であることが好ましく、より好ましくは5~6である。ポリオール(a1)は、好ましくは、下記一般式(1)で表される多価アルコールである。
このような多価アルコールを用いると、多価アルコールの両末端にある第一級水酸基を重合開始点として、各々環状エステル化合物(a2)の開環重合が進行する。これにより、乳酸に由来する構成単位を有するポリエステル構造を備えるポリエステルポリオールを得ることができる。なお、多価アルコールには第一級水酸基と第二級水酸基とが存在するが、反応性の観点から、主に第一級水酸基が開環重合に寄与し、第二級水酸基の大半は残存する。よって、当該ポリエステルポリオールは、重合鎖の途中(中間部)に、一般式(1)で表される多価アルコールに由来する第二級水酸基を有し、且つ、重合鎖の末端部に、環状エステル化合物の開環重合によって生じた水酸基を有する構造をとる。
【0029】
一般式(1)
【化3】
[一般式(1)において、nは、2~5の整数である。]
【0030】
(環状エステル化合物(a2))
上記開環重合に使用される環状エステル化合物(a2)は、乳酸の環状二量体であるラクチドを必須成分として含む。上記ラクチドとしては、例えば、L-ラクチド、D-ラクチド、メソラクチドが挙げられる。
環状エステル化合物(a2)は、さらに、ラクチド以外のその他環状エステル化合物を含有してもよい。このようなその他環状エステル化合物としては、例えば、グリコリド、β-プロピオラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトンが挙げられ、好ましくはカプロラクトンである。
環状エステル化合物(a2)がε-カプロラクトンを含む場合、水酸基含有ポリウレタン(X)は、カプロラクトンに由来する構成単位を有する。水酸基含有ポリウレタン(X)が、乳酸に由来する構成単位に加えて、さらにカプロラクトンに由来する構成単位を有すると、柔軟性と生分解性に優れるため好ましい。
【0031】
これらの環状エステル化合物(a2)は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。特に、生分解性に優れ、かつ生成する樹脂の柔軟性に優れるため、メソラクチドと、ε-カプロラクトンとを組み合わせて用いることが好ましい。
【0032】
(酸無水物)
次いで、上記開環重合によって得られたポリエステルポリオールの末端部にある、水酸基に、酸無水物を反応させてカルボキシ基を導入することで、乳酸に由来する構成単位を有するポリエステル構造を有し、且つ、カルボキシ基を有するポリオール(A)を得ることができる。酸無水物としては、例えば、無水マレイン酸、無水トリメリット酸、無水コハク酸が挙げられる。これらの化合物は一種類に限定されず、複数種類を用いることができる。
酸無水物の配合において、酸無水物中の酸無水物基数と上記ポリエステルポリオールの末端にある水酸基数との比(酸無水物基のモル数/ポリエステルポリオールの末端水酸基のモル数)は、好ましくは0.8以上、より好ましくは0.9以上、さらに好ましくは1.0以上である。上記範囲とすることで、後述するポリイソシアネート(B)やポリイソシアネート化合物との反応性を制御し、接着剤に柔軟性を付与できるため好ましい。
なお、該ポリエステルポリオールは、上述するように、重合鎖の中間部に第二級水酸基を有するが、立体障害の観点から、中間部の第二級水酸基よりも、末端部の水酸基が優先的に酸無水物と反応すると考えられる。
【0033】
このようにして得られたポリオール(A)は、乳酸に由来する構成単位を有するポリエステル構造を有し、末端にカルボキシ基を有し、さらに、開環重合の開始剤であるポリオール(a1)に由来する第二級水酸基を有する。
ポリオール(A)の重量平均分子量は、好ましくは5,000~30,000であり、より好ましくは10,000~20,000である。
【0034】
[ポリイソシアネート(B)]
水酸基含有ポリウレタン(X)は、乳酸に由来する構成単位を有するポリエステル構造、カルボキシ基、及び複数の水酸基を有するポリオール(A)と、ポリイソシアネート(B)との反応生成物である。具体的には、上述したポリオール(A)の重合鎖に導入された、一般式(1)で表される多官能アルコールに由来する第二級水酸基と、ポリイソシアネート(B)中のイソシアネート基との反応により得ることができる。
上述するポリオール(A)において、乳酸に由来する構成単位を有するポリエステル構造の末端に生じた水酸基の大半を、酸無水物との反応により酸変性することで、一般式(1)で表される多官能アルコールに由来する第二級水酸基と、ポリイソシアネート(B)とを反応させることができる。これにより、ウレタン骨格を有する幹ポリマーと、末端にカルボキシ基を備えるポリエステル構造を有する枝ポリマー(グラフト鎖)とからなるグラフトポリマー(水酸基含有ポリウレタン(X))が得られる。
【0035】
ポリイソシアネート(B)としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート;トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート;及びこれらの変性物が挙げられる。
変性物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット体(HDI-B)、ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート体(HDI-N)、イソホロンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体(IPDI-TMP)トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体(TDI-TMP)が挙げられる。
これらのポリイソシアネート(B)は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。ポリイソシアネート(B)は、生成する幹ポリマーの柔軟性の観点から、好ましくは脂肪族ポリイソシアネートである。
【0036】
ポリオール(A)とポリイソシアネート(B)との反応における配合比は、接着強度と生分解性の観点から、ポリオール(A)中の水酸基数とポリイソシアネート(B)中のイソシアネート基数との比(NCO/OH)が0.1~0.8であることが好ましく、より好ましくは、0.2~0.5である。
【0037】
水酸基含有ポリウレタン(X)の重量平均分子量は、好ましくは10,000~100,000、より好ましくは30,000~80,000である。重量平均分子量が10,000以上であると、凝集力が向上し接着強度の観点で優れる。重量平均分子量が100,000以下であると、粘度が高くなりすぎずハンドリング性に優れる。
【0038】
水酸基含有ポリウレタン(X)の水酸基価は、接着剤の硬化速度の観点から、好ましくは2~30(mgKOH/g)、より好ましくは3~25(mgKOH/g)、さらに好ましくは5~20(mgKOH/g)である。
【0039】
<<ポリイソシアネート化合物>>
本発明の生分解性接着剤は、ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物とを含む反応性接着剤であり、ポリイソシアネート化合物としては、特に制限されず、公知のポリイソシアネート化合物を使用できる。
ポリイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート;トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート;及びこれらの変性物が挙げられる。
変性物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット体(HDI-B)、ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート体(HDI-N)、イソホロンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体(IPDI-TMP)トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体(TDI-TMP)が挙げられる。
これらのポリイソシアネート化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
中でも、NCO含有量が高いため、少ない配合量で接着強度を発現し、且つ、接着剤塗膜の生分解性を損ねないという観点から、好ましくはヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット体(HDI-B)、ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート体(HDI-N)である。
【0040】
ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物との配合比は、接着強度と接着剤塗膜の生分解性の観点から、ポリオール化合物中の水酸基数とポリイソシアネート化合物中のイソシアネート基数との比(NCO/OH)が1.0~10であることが好ましく、より好ましくは1.0~5.0、さらに好ましくは1.0~2.0である。
接着剤を硬化させた硬化膜の生分解性の観点から、ポリイソシアネート化合物の配合量は、接着剤の質量を基準として、好ましくは10質量%以下である。
【0041】
<<有機溶剤>>
本発明の接着剤は、有機溶剤を含有して溶剤型接着剤として用いてもよく、有機溶剤を含有させずに無溶剤型接着剤として用いてもよい。含有してもよい有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤;酢酸エチル等のエステル系溶剤;トルエン、キシレン等の炭化水素系溶剤;ジフェニルエーテル等のエーテル系溶剤;が挙げられる。これらの中でもの溶解性及び沸点の点から、好ましくはエステル系溶剤、炭化水素系溶剤である。
【0042】
<<その他成分>>
本発明の接着剤は、生分解性に影響を与えない範囲において、公知の添加剤を含有してもよい。
【0043】
(シランカップリング剤)
本発明の接着剤は、金属箔等の金属系素材に対する接着強度を向上させる観点から、シランカップリング剤を含有することができる。シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニル基を有するトリアルコキシシラン;3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基を有するトリアルコキシシラン;3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)-エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のグリシジル基を有するトリアルコキシシラン;が挙げられる。
シランカップリング剤の含有量は、ポリオール化合物の固形分を基準として、好ましくは0.1~5質量%であり、より好ましくは0.2~3質量%である。上記範囲とすることで、金属箔に対する接着強度を向上することができるため好ましい。
【0044】
(リン酸又はリン酸誘導体)
本発明の接着剤は、金属箔等の金属系素材に対する接着強度を向上させる観点から、リン酸又はリン酸誘導体を含有することができる。
前記リン酸としては、遊離の酸素酸を少なくとも1個有しているものであればよく、例えば、次亜リン酸、亜リン酸、オルトリン酸、次リン酸のようなリン酸類;メタリン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、ポリリン酸、ウルトラリン酸のような縮合リン酸類;が挙げられる。また、リン酸の誘導体としては、例えば、上述のリン酸を遊離の酸素酸を少なくとも1個残した状態でアルコール類と部分的にエステル化したものが挙げられる。該アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、エチレングリコール、グリセリンのような脂肪族アルコール;フェノール、キシレノール、ハイドロキノン、カテコール、フロログリシノールのような芳香族アルコール;が挙げられる。
リン酸又はその誘導体の含有量は、ポリオール化合物の固形分を基準として、好ましくは0.01~10質量%であり、より好ましくは0.05~5質量%、特に好ましくは0.05~1質量%である。
【0045】
(レベリング剤又は消泡剤)
本発明の接着剤は、積層体の外観を向上させるため、さらにレベリング剤及び/又は消泡剤を含有することができる。レベリング剤としては、例えば、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、アラルキル変性ポリメチルアルキルシロキサン、ポリエステル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン、ポリエーテルエステル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン、アクリル系共重合物、メタクリル系共重合物、ポリエーテル変性ポリメチルアルキルシロキサン、アクリル酸アルキルエステル共重合物、メタクリル酸アルキルエステル共重合物、レシチンが挙げられる。
消泡剤としては、例えば、シリコーン樹脂、シリコーン溶液、アルキルビニルエーテルとアクリル酸アルキルエステルとメタクリル酸アルキルエステルとの共重合物が挙げられる。
【0046】
(反応促進剤)
本発明の接着剤は、硬化反応を促進するため、さらに反応促進剤を含有することができる。反応促進剤としては、例えば、ジブチルチンジアセテート、ジブチルチンジラウレート、ジオクチルチンジラウレート、ジブチルチンジマレートのような金属系触媒;1,8-ジアザ-ビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7、1,5-ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン-5、6-ジブチルアミノ-1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7のような3級アミン;トリエタノールアミンのような反応性3級アミン;が挙げられる。
【0047】
(その他添加剤)
本発明の接着剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、各種の添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、シリカ、アルミナ、マイカ、タルク、アルミニウムフレーク、ガラスフレーク等の無機充填剤、層状無機化合物、安定剤(酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、加水分解防止剤等)、防錆剤、増粘剤、可塑剤、帯電防止剤、滑剤、ブロッキング防止剤、着色剤、フィラー、結晶核剤が挙げられる。
【0048】
<貯蔵弾性率>
本発明の生分解性接着剤は、40℃、150時間の条件で硬化させた硬化物の120℃における貯蔵弾性率が、1×10~20×10(Pa)であることが好ましい。貯蔵弾性率が上記範囲内であると、接着剤層の耐熱性に優れるため好ましい。より好ましくは5×10~12×10(Pa)の範囲である。
上記硬化物は、例えば以下の条件にて作製することができる。まず、CPPフィルム(東レ社製ZK207)の未処理面に、硬化膜の厚みが20μmとなるようにして、アプリケーターを用いて接着剤を塗工する。接着剤が溶剤を含む場合は溶剤を乾燥させた後、40℃で150時間エージングを行うことで、硬化物を得ることができる。
上記硬化物の貯蔵弾性率は、例えば、動的粘弾性測定装置(DVA-200、アイティー計測制御株式会社製)を用い、測定周波数10Hz、昇温速度10℃/分の条件下で、JIS K7244に従い、測定することにより求める。
【0049】
<<硬化物、積層体>>
本発明の生分解性接着剤は、後述する基材同士を貼り合わせた後、例えば30~80℃の条件下で硬化させることで、本発明の硬化物となる。本発明の積層体は、上述の生分解性接着剤からなる接着剤層が、少なくとも2つのシート状基材の間に積層されたものである。一例として、生分解性接着剤を第一のシート状基材に塗布した後、塗布面に第二のシート状基材を積層し、両シート状基材の間に位置する接着剤層を硬化させて得ることができる。生分解性接着剤の塗布量は、好ましくは1.0~5.0g/m、より好ましくは1.5~4.5g/mである。積層体の厚みは、好ましくは10μm以上である。
【0050】
[シート状基材]
シート状基材は特に制限されず、例えば、従来公知のプラスチックフィルム、紙、アルミ箔等の金属箔が挙げられ、2つのシート状基材は同種のものでも異種のものでもよい。プラスチックフィルムとしては、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂のフィルムを用いることができ、好ましくは熱可塑性樹脂のフィルムである。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、アセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、繊維素系プラスチックが挙げられる。
またシート状基材として生分解性の基材を用いることができる。生分解性基材としては、例えば、繊維素系プラスチックであるセロファン;ポリエステル樹脂であるポリ乳酸(PLA)、ポリポリブチレンサクシネート(PBS);が挙げられる。
シート状基材は、金属又は金属酸化物の蒸着層等からなるバリア層を備えていてもよく、該バリア層としては、アルミニウム(AL)、シリカ、アルミナ等の蒸着層等が挙げられる。
【0051】
第一のシート状基材は、好ましくはプラスチックフィルムである。プラスチックフィルムとしては、包装材に一般的に使用されるものが挙げられ、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリ乳酸(PLA)のようなポリエステル樹脂フィルム;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)のようなポリオレフィン樹脂フィルム;ポリスチレン樹脂フィルム;ナイロン(NY)6、ポリ-p-キシリレンアジパミド(MXD6ナイロン)のようなポリアミド樹脂フィルム;ポリカーボネート樹脂フィルム;ポリアクリルニトリル樹脂フィルム;ポリイミド樹脂フィルム;セロファンフィルム;これらの複層体(例えば、ナイロン6/MXD6/ナイロン6、ナイロン6/エチレン-ビニルアルコール共重合体/ナイロン6)や混合体等が挙げられる。中でも、機械的強度や寸法安定性を有するものが好ましい。
プラスチックフィルムは、好ましくは5~50μm、より好ましくは10~30μmの厚さを有するものである。
【0052】
第二のシート状基材が積層体の最外層となる場合、第二のシート状基材はシーラント基材であることが好ましい。
シーラント基材としては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)や高密度ポリエチレン(HDPE)等のポリエチレン、酸変性ポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、酸変性ポリプロピレン、共重合ポリプロピレン、エチレン-ビニルアセテート共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、アイオノマー、ポリブチレンサクシネート(PBS)が挙げられる。
シーラント基材の厚みは特に制限されず、包装材への加工性やヒートシール性等を考慮すると、好ましくは10~150μmであり、より好ましくは20~70μmである。また、シーラント基材に数μm程度の高低差を有する凸凹を設けることで、滑り性や包装材の引き裂き性を付与することができる。
第二のシート状基材が、積層体の中間層となる場合、第二のシート状基材としては、前述のプラスチックフィルム、紙、金属箔等を好適に用いることができる。
【0053】
[インキ層]
シート状基材は、基材上にインキ層を有していてもよく、該インキ層は、接着剤層に接していてもよい。
インキ層は、装飾、内容物の表示、賞味期間の表示、製造者、販売者等の表示、その他等の表示や美感の付与のために、文字、数字、絵柄、図形、記号、模様等の所望の任意の印刷模様を形成する層であり、全面印刷であるベタ印刷層であってもよい。
一般的にインキ層は、顔料や染料等の着色剤を含む印刷インキを用いて形成される。印刷インキとしては、例えば、油性インキ、水性インキ、UVインキ等が挙げられる。印刷方法としては、例えば、グラビアコート法、フレキソコート法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スピンコート法、インクジェット法が挙げられる。印刷工程では、必要に応じて、送風、加熱、減圧乾燥、紫外線照射等を行ってもよい。
インキ層は、好ましくは0.1~10μm、より好ましくは1~5μm、さらに好ましくは1~3μmの厚みを有するものである。
【0054】
<<包装体>>
本発明の包装体は、上記積層体を使用したものであればよく、例えば、二方袋、三方袋、チャック付三方袋、合掌袋、ガゼット袋、底ガゼット袋、スタンド袋、スタンドチャック袋、二方袋、四方柱平底ガゼット袋、サイドシール袋、ボトムシール袋が挙げられる。特に本発明の接着剤を用いた包装体は生分解性を有し、且つ、生分解性基材への接着強度に優れるため、生分解性包装袋に好適に用いられる。
【実施例0055】
以下、本発明の実施態様について実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、「部」は「質量部」を意味し、「%」は「質量%」を意味する。また、以下実施例中及び表中に記載された原料(溶剤を除く)の配合量は、不揮発分換算である。
【0056】
<酸価>
共栓三角フラスコ中に試料約1gを精密に量り採り、トルエン/エタノール(容量比:トルエン/エタノール=2/1)混合液100mlを加えて溶解した。これに、フェノールフタレイン試液を指示薬として加え、30秒間保持した。その後、溶液が淡紅色を呈するまで0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液で滴定し、次式により酸価(mgKOH/g)を求めた。
酸価(mgKOH/g)=(5.611×a×F)/S
S:試料の採取量(g)
a:0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の消費量(ml)
F:0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の力価
【0057】
<水酸基価>
共栓三角フラスコ中に試料約1gを精密に量り採り、トルエン/エタノール(容量比:トルエン/エタノール=2/1)混合液100mLを加えて溶解した。更にアセチル化剤(無水酢酸25gをピリジンで溶解し、容量100mLとした溶液)を正確に5mL加え、約1時間攪拌した。これに、フェノールフタレイン試液を指示薬として加え、30秒間の攪拌を持続した。その後、溶液が淡紅色を呈するまで0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液で滴定した。水酸基価は次の(式2)により求めた。水酸基価は樹脂の乾燥状態の数値とした(単位:mgKOH/g)。
水酸基価(mgKOH/g)=[{(b-a)×F×28.05}/S]/(不揮発分濃度/100)+D
S:試料の採取量(g)
a:0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の消費量(mL)
b:空実験の0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の消費量(mL)
F:0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の力価
D:酸価(mgKOH/g)
【0058】
<重量平均分子量>
重量平均分子量(Mw)は、昭和電工社製GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)「ShodexGPCSystem-21」を用いて測定した。GPCは溶媒に溶解した物質をその分子サイズの差によって分離定量する液体クロマトグラフィーであり、溶媒としてはテトラヒドロフラン、分子量の決定はポリスチレン換算で行った。
【0059】
<生分解性原料の使用比率>
生分解性原料の使用比率(質量%)とは、接着剤の総質量に対し、接着剤を製造する際に使用した生分解性原料の質量割合(質量%)である。なお、各質量は不揮発分換算である。
また上記原料における生分解性は、ISO17556、ISO14851、ISO14852、ISO15985、ISO13975、ISO14853、ISO14855-1、ISO14855-2、ISO18830、ISO19679、ASTMD7081、ASTMD6691等、並びにISO規格に対応するJIS規格に基づき決定した。上記規格のいずれかにおいて生分解性が認められるものを生分解性原料とし、原料の生分解性度を100%とした。
【0060】
<ポリオール(A)の製造例>
(ポリオール(A-1))
撹拌機、温度計、留出用冷却機を備えた反応容器内に、ポリオール(a1)としてソルビトール1.1部、環状エステル(a2)としてメソラクチド60部、ε-カプロラクトン40部、及び触媒としてアセチルアルミニウムアセトナート0.1部を仕込み、窒素雰囲気の常圧下で、190℃まで昇温させた後、7時間開環重合反応を行った。これにより、ソルビトールの両末端にある第一級水酸基を起点として、メソラクチドとε-カプロラクトンとが開環重合したポリエステルポリオールを得た。ソルビトールの第二級水酸基の大半は、反応性の違いから開環重合には寄与しないと考えられる。
その後、未反応で残存する原料を減圧留去した。さらに、酸無水物として無水マレイン酸1.2部を仕込み、150℃に昇温後、2時間反応させて、開環重合によりポリエステルポリオールの末端に生じた水酸基を酸変性してポリオール(A-1)を得た。
【0061】
(ポリオール(A-2~A-12))
原料及び配合量(部)を表1に示す内容に変更した以外は、ポリオール(A-1)の製造と同様にして、各々ポリオール(A-2~A-12)を得た。
なお、A-10及びA-12は、酸変性の工程を実施しなかった。
また、A-12は、開始剤として用いたジペンタエリスリトールの水酸基はいずれも第一級水酸基であるため、開環重合後にジペンタエリスリトールに由来する水酸基は残存しないと考えられる。
【0062】
【表1】
【0063】
表1中の略称を以下に示す。
[ポリオール(a1)]
ソルビトール(分子量182、水酸基数6、生分解性度100%)
キシリトール(分子量152、水酸基数5、生分解性度100%)
エリスリトール(分子量122、水酸基数4、生分解性度100%)
ペルセイトール(分子量212、水酸基数7、生分解性度100%)
ジペンタエリスリトール(分子量254、水酸基数4、生分解性度100%)
【0064】
[環状エステル化合物(a2)]
メソラクチド(生分解性度100%)
ε-カプロラクトン(生分解性度100%)
L-ラクチド(生分解性度100%)
D-ラクチド(生分解性度100%)
【0065】
[酸無水物]
無水マレイン酸(分子量98、生分解性度0%)
無水トリメリット酸(分子量192、生分解性度0%)
無水コハク酸(分子量100、生分解性度100%)
【0066】
[酸無水物中の酸無水物基数と上記ポリエステルポリオールの末端にある水酸基数との比]
ポリオール(A)の製造において、以下の計算式によりモル比(酸無水物基のモル数/ポリエステルポリオールの末端水酸基のモル数)を算出した。
なお、ポリエステルポリオールの末端水酸基は、ポリオール(a1)の2つの第一級水酸基が開始点となり環状エステル化合物(a2)と反応して生成するため、
ポリエステルポリオールの末端水酸基のモル数は、ポリオール(a1)のモル数×2の値を代用した。
式:(酸無水物基のモル数/ポリエステルポリオールの末端水酸基のモル数)
=[(酸無水物の仕込み量/酸無水物の分子量)/(ポリオール(a1)の仕込み量/ポリオール(a1)の分子量)×2]
【0067】
<水酸基含有ポリウレタン(X)の製造例>
(水酸基含有ポリウレタン(X-1))
100℃に加熱し融解させたポリオール(A-1)100部に、イソホロンジイソシアネート0.7部を仕込み、150℃で2時間反応させた。これにより、ポリオール(A-1)中のソルビトールに由来する第二級水酸基の一部と、ポリイソシアネート(B)のイソシアネート基とが反応し、水酸基含有ポリウレタン(X-1)を得た。
当該ポリウレタンは、ソルビトールに由来する第二級水酸基の一部が反応せずに残存するため水酸基を有する、また、ラクチドを含む環状エステル化合物の開環重合物であるポリオールを用いているため、乳酸に由来する構成単位を有するポリエステルグラフト鎖を備えるものである。
【0068】
(水酸基含有ポリウレタン(X-2~X-13))
原料及び配合量(部)を表2に示す内容に変更した以外は、水酸基含有ポリウレタン(X-1)の製造と同様にして、各々水酸基含有ポリウレタン(X-2~X-13)を得た。
【0069】
<水酸基含有ポリウレタン(X)の安定性評価>
得られた水酸基含有ポリウレタン(X)の安定性を評価した。評価方法を以下に示す。
酢酸エチルで不揮発分60%に調整した水酸基含有ポリウレタン(X)溶液を50℃で1か月間保存した後、重量平均分子量を測定し、分子量変化率を算出し、以下の基準で評価した。結果を表2に示す。
(評価基準)
A:重量平均分子量の変化率が5%未満。
B:重量平均分子量の変化率が5%以上、10%未満。
C:重量平均分子量の変化率が10%以上。
【0070】
【表2】
【0071】
表2中の略称を以下に示す。
IPDI:イソホロンジイソシアネート
HDI:ヘキサメチレンジイソシアネート
TDI:トリレンジイソシアネート
【0072】
<生分解性接着剤の製造>
[実施例1]
水酸基含有ポリウレタン(X-1)、ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット体(HDI-B)、及び酢酸エチルを用いて、水酸基含有ポリウレタン(X-1)とヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット体の不揮発分質量比が100/5、不揮発分が30%となるように調整し接着剤を得た。得られた接着剤における生分解性原料の使用比率は94%であり生分解性を有する。
【0073】
[実施例2~14、比較例1~5]
ポリオール化合物、ポリイソシアネート化合物及び配合比を、表3に示す内容に変更した以外は、実施例1と同様にして、各々実施例2~14、比較例1~5の接着剤を得た。得られた接着剤における生分解性原料の使用比率を表3に示す。
【0074】
<生分解性接着剤の評価>
得られた接着剤について、以下の評価を行った。
【0075】
[硬化物の貯蔵弾性率]
接着剤を用いてCPPフィルム(東レ社製ZK207)の未処理面にアプリケーターで塗膜を引き、溶剤乾燥後、40℃150時間エージングを行い、硬化物を得た。硬化物の厚みは20μmとなるようにアプリケーターで調整した。
硬化物を幅5mm、長さ3cmにカットして測定用サンプルを作成した。測定用サンプルを動的粘弾性測定装置(DVA-200、アイティー計測制御株式会社製)にチャック間距離が2cmとなるように保持し、昇温速度10℃/分、周波数10Hzの条件で、-50℃から200℃の範囲の貯蔵弾性率を測定し、120℃における貯蔵弾性率の値を得た。
【0076】
[ラミネート強度]
得られた接着剤をセロファンフィルム(レンゴー社製セロファン、厚み20μm)にバーコーターを用いて乾燥後塗布量が3g/mになるように塗布し、80℃で30秒間乾燥した。次いで、50℃、0.5MPaでポリブチレンサクシネート(PBS)フィルム(三菱ケミカル社製生分解性フィルムBiOPBS、厚み40μm)と貼り合わせ、40℃にて3日間エージングし積層体を得た。
得られた積層体について、引張試験機を用いて測定温度60℃及び20℃でT型剥離試験を各々行い、ラミネート強度を測定した。測定条件は、サンプル幅:15mm、引張速度:30mm/分とした。いずれも△以上が使用可能レベルである。
(60℃ラミネート強度(耐熱ラミネート強度)の評価基準)
◎ :ラミネート強度が3N/15mm以上
○ :ラミネート強度が2N/15mm以上、3N/15mm未満
△ :ラミネート強度が1N/15mm以上、2N/15mm未満
× :ラミネート強度が1N/15mm未満
(20℃ラミネート強度の評価基準)
◎ :ラミネート強度が5N/15mm以上
○ :ラミネート強度が3N/15mm以上、5N/15mm未満
△ :ラミネート強度が1N/15mm以上、3N/15mm未満
× :ラミネート強度が1N/15mm未満
【0077】
【表3】
【0078】
表3中の略称を以下に示す。
HDI-B:ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット体
TDI-TMP:トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体
【0079】
表3に示すように本発明の生分解性接着剤は、生分解性原料を高濃度で含有し、かつ、グラフトポリマーである水酸基含有ポリウレタン(X)を用いることで、生分解性基材に対し、優れた耐熱ラミネート強度を示した。
特に実施例2、実施例5及び実施例10において使用した水酸基含有ポリウレタン(X-1)、(X-2)及び(X-7)は、メソラクチドを用いた結晶性の低いポリエステルポリオールであり、且つ、ポリエステルポリオールの両末端水酸基に導入したカルボキシ基量が好適であるため、剛直で凝集力が高いウレタン構造を有する幹ポリマーと、柔軟性に優れるグラフト鎖とを兼ね備えた、高度に構造制御されたグラフトポリマーが形成されたと推察される。そのため、硬化の際に、高密度で架橋構造を形成することが可能となり、優れた耐熱ラミネート強度を示した。