(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077455
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】タイヤ状態推定システム、タイヤ状態推定方法および演算モデル生成方法
(51)【国際特許分類】
B60C 19/00 20060101AFI20240531BHJP
G01M 17/02 20060101ALI20240531BHJP
B60C 23/00 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
B60C19/00 Z
G01M17/02
B60C23/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189563
(22)【出願日】2022-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】土本 壮至
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131LA34
(57)【要約】
【課題】タイヤの状態の推定精度を向上することができるタイヤ状態推定システム、タイヤ状態推定方法および演算モデル生成方法を提供する。
【解決手段】タイヤ状態推定システム100は、車両情報取得部12、原点シフト量算出部13、補正処理部14およびタイヤ状態推定部15を備える。車両情報取得部12は、車両で計測される加速度データを含む情報を取得する。原点シフト量算出部13は、車両情報取得部12によって取得した加速度データに生じている原点シフト量を算出する。補正処理部14は、車両情報取得部12によって取得した加速度データを原点シフト量に基づいて補正する。タイヤ状態推定部15は、補正処理部14によって補正された加速度データを演算モデル15aに入力し、タイヤ7の状態を推定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両で計測される加速度データを含む情報を取得する車両情報取得部と、
前記車両情報取得部によって取得した加速度データに生じている原点シフト量を算出する原点シフト量算出部と、
前記車両情報取得部によって取得した加速度データを前記原点シフト量に基づいて補正する補正処理部と、
前記補正処理部によって補正された加速度データを演算モデルに入力し、タイヤの状態を推定するタイヤ状態推定部と、
を備えることを特徴とするタイヤ状態推定システム。
【請求項2】
前記車両情報取得部は、車両の走行速度を取得し、
前記原点シフト量算出部は、前記車両情報取得部により取得した走行速度が所定値以下である場合の加速度データを用いて原点シフト量を算出することを特徴とする請求項1に記載のタイヤ状態推定システム。
【請求項3】
前記原点シフト量算出部は、走行速度が所定値以下である場合の加速度データの平均値を原点シフト量とすることを特徴とする請求項2に記載のタイヤ状態推定システム。
【請求項4】
前記原点シフト量算出部は、前記演算モデルの学習において教師データとして用いるタイヤの状態の計測期間よりも短い期間ごとに加速度データを補正することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のタイヤ状態推定システム。
【請求項5】
車両で計測される加速度データを含む情報を取得する車両情報取得ステップと、
前記車両情報取得ステップによって取得した加速度データに生じている原点シフト量を算出する原点シフト量算出ステップと、
前記車両情報取得ステップによって取得した加速度データを前記原点シフト量に基づいて補正する補正処理ステップと、
前記補正処理ステップによって補正された加速度データを演算モデルに入力し、タイヤの状態を推定するタイヤ状態推定ステップと、
を備えることを特徴とするタイヤ状態推定方法。
【請求項6】
車両で計測される加速度データを含む情報を取得する車両情報取得ステップと、
前記車両情報取得ステップによって取得した加速度データに生じている原点シフト量を算出する原点シフト量算出ステップと、
前記車両情報取得ステップによって取得した加速度データを前記原点シフト量に基づいて補正する補正処理ステップと、
前記補正処理ステップによって補正された加速度データを演算モデルに入力し、タイヤの状態を推定するタイヤ状態推定ステップと、
タイヤにおいて計測されたタイヤの状態を教師データとして前記演算モデルを学習させる学習処理ステップと、
を備えることを特徴とする演算モデル生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に装着されるタイヤの状態を推定するタイヤ状態推定システム、タイヤ状態推定方法および演算モデル生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、タイヤは走行状態や走行距離等に応じて摩耗が進行する。また昨今ではタイヤの圧力および温度を計測するセンサをタイヤに取り付け、計測した圧力および温度を表示する装置などが製品化されている。
【0003】
特許文献1には従来のタイヤ摩耗推定システムが記載されている。このタイヤ摩耗推定システムは、第1の予測変数を生成するためにタイヤに取り付けられた少なくとも1つのセンサと、第2の予測変数に関するデータを記憶するルックアップテーブルおよびデータベースの少なくとも一方と、少なくとも1つの乗物影響を含む予測変数のうちの一方と、予測変数を受け取り、少なくとも1つのタイヤに関する推定摩耗率を生成するモデルと、を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のタイヤ摩耗推定システムは、センサ出力から第1の予測変数を生成し、例えばホイール位置およびドライブトレーンを乗物影響として用いてタイヤの摩耗量を推定する。本発明者は、車両で計測される加速度データを演算モデルに入力して摩耗量等のタイヤの状態を推定する場合に、加速度センサによる計測データにおいて原点シフトが生じることがあり、タイヤの状態の推定精度が劣化していることに気づいた。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、タイヤの状態の推定精度を向上することができるタイヤ状態推定システム、タイヤ状態推定方法および演算モデル生成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様のタイヤ状態推定システムは、車両で計測される加速度データを含む情報を取得する車両情報取得部と、前記車両情報取得部によって取得した加速度データに生じている原点シフト量を算出する原点シフト量算出部と、前記車両情報取得部によって取得した加速度データを前記原点シフト量に基づいて補正する補正処理部と、前記補正処理部によって補正された加速度データを演算モデルに入力し、タイヤの状態を推定するタイヤ状態推定部と、を備える。
【0008】
本発明の別の態様はタイヤ状態推定方法である。タイヤ状態推定方法は、車両で計測される加速度データを含む情報を取得する車両情報取得ステップと、前記車両情報取得ステップによって取得した加速度データに生じている原点シフト量を算出する原点シフト量算出ステップと、前記車両情報取得ステップによって取得した加速度データを前記原点シフト量に基づいて補正する補正処理ステップと、前記補正処理ステップによって補正された加速度データを演算モデルに入力し、タイヤの状態を推定するタイヤ状態推定ステップと、を備える。
【0009】
本発明の別の態様は演算モデル生成方法である。演算モデル生成方法は、車両で計測される加速度データを含む情報を取得する車両情報取得ステップと、前記車両情報取得ステップによって取得した加速度データに生じている原点シフト量を算出する原点シフト量算出ステップと、前記車両情報取得ステップによって取得した加速度データを前記原点シフト量に基づいて補正する補正処理ステップと、前記補正処理ステップによって補正された加速度データを演算モデルに入力し、タイヤの状態を推定するタイヤ状態推定ステップと、タイヤにおいて計測されたタイヤの状態を教師データとして前記演算モデルを学習させる学習処理ステップと、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、タイヤの状態の推定精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態1に係るタイヤ状態推定システムの機能構成を示すブロック図である。
【
図2】車載計測装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図3】演算モデルのタイヤ状態推定および学習について説明するための模式図である。
【
図4】演算モデル生成システムの機能構成を示すブロック図である。
【
図5】タイヤ状態推定システムによるタイヤ摩耗量の推定処理の手順を示すフローチャートである。
【
図6】演算モデル生成システムによる演算モデルの生成処理の手順を示すフローチャートである。
【
図7】実施形態2に係るタイヤ状態推定システムの機能構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに
図1から
図7を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0013】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係るタイヤ状態推定システム100の機能構成を示すブロック図である。タイヤ状態推定システム100は、車両に搭載された車載計測装置70と、気象情報サーバ装置80と、車両に装着された各タイヤ7の状態を推定するタイヤ状態推定装置10とを備える。
【0014】
タイヤ状態推定装置10は、例えばインターネット等の通信ネットワーク9を介して車両に搭載された車載計測装置70から車両の速度、加速度および位置情報等の車両計測情報、並びにタイヤ7で計測されるタイヤ計測情報を取得する。またタイヤ状態推定装置10は、気象情報サーバ装置80から気象情報を取得する。タイヤ状態推定装置10は、取得した情報に基づいて学習型の演算モデルによる演算を行って各タイヤ7の状態を推定する。
【0015】
タイヤ状態推定装置10が推定する各タイヤ7の状態は、タイヤ7の摩耗量、摩耗率などの情報によって表されるタイヤ7の摩耗状態や、タイヤ7の材質における物性の変化によって表されるタイヤ7の劣化状態を含む。タイヤ7の摩耗状態は、摩耗量を比率で表す場合を含んでおり、例えば摩耗した量(1mm等の値)であってもよいし、初期の溝深さに対する摩耗した量の比率(10%等の値)であってもよい。タイヤ7の物性は、ゴム硬度、ゴムの破断伸び、100%モジュラスなどであり、タイヤゴムの経年的な酸化や、タイヤゴムに加えられる熱環境にも依存して変化する。タイヤ7の劣化状態は、経年的に、または熱環境等の外部要因によって変化して劣化するタイヤ7の物性値に関する情報によって表される。
【0016】
図2は、車載計測装置70の機能構成を示すブロック図である。車載計測装置70は、車両計測部71、タイヤ計測部72、情報取得部73および通信部74を備える。車載計測装置70における各部は、ハードウェア的には、コンピュータのCPUをはじめとする電子素子や機械部品などで実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラムなどによって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろな形態で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0017】
車両計測部71は、車両に搭載された速度メータ71a、GPS受信機71bおよび加速度センサ71cを有する。速度メータ71aは、車両の走行速度を計測する。GPS受信機71bは、車両の現在の位置情報(緯度、経度および高度)を計測する。加速度センサ71cは、車両の3軸方向の加速度を計測する。3軸方向は、例えば車両の前後方向、左右方向および上下方向とする。
【0018】
タイヤ計測部72は、温度センサ72aおよび圧力センサ72bを有する。温度センサ72aおよび圧力センサ72bは、車両に装着されたタイヤ7のエアバルブ等に配設されていたり、あるいはベルト等でホイールに強固に巻き付け固定されており、タイヤ7の温度および空気圧を計測する。温度センサ72aは、タイヤ7のインナーライナー等に配設されていてもよい。尚、加速度センサ71cがタイヤ7のインナーライナーに配設されていてもよい。
【0019】
情報取得部73は、車両計測部71で計測された車両計測情報(走行速度、位置情報、加速度等)、タイヤ計測部72で計測されたタイヤ計測情報(タイヤの温度および空気圧等)および後述するタイヤ識別情報等を取得する。情報取得部73は、車両計測情報およびタイヤ計測情報に含まれる各計測データに対して、計測された時刻情報、または取得した時刻情報を対応付ける。情報取得部73は、車両計測情報およびタイヤ計測情報を各計測データに対応付けられた時刻情報とともに通信部74からタイヤ状態推定装置10へ送信する。
【0020】
情報取得部73は、車両の電子制御装置または車両にデジタルタコメータ等の装置が搭載されている場合には、当該装置において収集した車両の走行速度、加速度および位置情報等を取得するようにしてもよい。通信部74は、例えばWiFi(登録商標)等の無線通信によって通信ネットワーク9に通信接続し、情報取得部73が取得した車両計測情報、タイヤ計測情報および時刻情報を通信ネットワーク9を介してタイヤ状態推定装置10へ送信する。
【0021】
図1に戻り、気象情報サーバ装置80は各地における気象情報を提供する。気象情報サーバ装置80が提供する気象情報は、各地における降水量、積雪量、降雪量、気温および日照時間等を含む情報である。タイヤ状態推定装置10は、気象情報サーバ装置80から車両が走行している場所における気象情報を取得する。
【0022】
タイヤ状態推定装置10は、通信部11、車両情報取得部12、原点シフト量算出部13、補正処理部14、タイヤ状態推定部15および記憶部16を備える。タイヤ状態推定装置10における各部は、ハードウェア的には、コンピュータのCPUをはじめとする電子素子や機械部品などで実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラムなどによって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろな形態で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0023】
通信部11は、無線または有線通信によって通信ネットワーク9に通信接続し、車載計測装置70の通信部74との間で通信する。また通信部11は、通信ネットワーク9を介して気象情報サーバ装置80との間で通信する。
【0024】
車両情報取得部12は、車両に搭載された車載計測装置70から送信された車両計測情報(走行速度、位置情報、加速度等)およびタイヤ計測情報(タイヤの温度および空気圧等)を取得する。車両情報取得部12は、車両計測情報に基づいて車両の走行距離を算出して取得する。
【0025】
車両情報取得部12は、車両計測情報の位置情報に基づいて走行距離を算出して取得することができる。また、車両の走行距離は、車両計測情報における走行速度のデータと、当該データに対応付けられた時刻のデータに基づいて算出してもよい。即ち、時系列的に並んだ速度データに、次の時点までの時間差分を乗算することによって車両の走行距離を算出することができる。車両の走行速度は、時系列的に並んだ位置情報に基づく車両の走行距離と位置情報の取得間隔から算出したものを使用してもよい。
【0026】
車両情報取得部12は、車両の走行距離に関する情報が車両または車両管理用の外部装置等から提供されていれば、自ら走行距離を算出する必要はなく、車両または外部装置から走行距離に関する情報を取得してもよい。
【0027】
車両情報取得部12は、取得した走行距離をタイヤ状態推定部15へ出力する。車両情報取得部12は、取得したタイヤ計測情報(タイヤの温度および空気圧等)をタイヤ状態推定部15へ出力する。車両情報取得部12は、車両計測情報における走行速度のデータおよび加速度データを原点シフト量算出部13へ出力する。
【0028】
また車両情報取得部12は、車両仕様データ16a、タイヤ仕様データ16bおよびタイヤ位置データ16cのうちタイヤ7の摩耗量の推定に用いるデータを記憶部16から取得し、タイヤ状態推定部15へ出力する。記憶部16は、例えばSSD(Solid State Drive)、ハードディスク、CD-ROM、DVD等によって構成される記憶装置であり、予め各種の車両およびタイヤ7の仕様に関して提供されているデータを記憶している。
【0029】
車両仕様データ16aには、例えばメーカー、車両名、車両型式、車体重量、ドライブトレーン、全長、車幅、車高、最大積載荷重などの車両の性能等に関する情報が含まれる。また、タイヤ仕様データ16bには、例えばメーカー、商品名、タイヤサイズ、タイヤ幅、扁平率、耐摩耗性能、タイヤ強度、静的剛性、動的剛性、タイヤ外径、ロードインデックス、製造年月日など、タイヤ7の性能に関する情報が含まれる。また、タイヤ位置データ16cには、摩耗量等の状態を推定するタイヤの車両における位置、タイヤ識別情報や取り付けられている車軸に関する情報が含まれる。タイヤ識別情報は、各タイヤを特定するために各タイヤに付された例えば製造番号などの一連番号である。タイヤ識別情報、タイヤの配置位置および車軸に関する情報は、例えば車両へのタイヤ装着時などに作業者が入力操作することによって記憶部16に記憶させるようにするとよい。
【0030】
原点シフト量算出部13は、車両情報取得部12から入力された加速度データに生じている原点シフト量を算出する。原点シフト量は、加速度センサ71cで加速度を計測する際に生じる計測値の原点の変動量を表しており、原点のオフセット量、原点のずれ量などとも呼ばれる。加速度センサ71cによる計測値の原点シフトは、例えば車両における加速度センサ71cの設置アライメントが初期状態からずれていることや、内部構造および電気回路における特性が時間の経過とともに変化することなどによって生じる。
【0031】
原点シフト量算出部13は、車両情報取得部12から入力された走行速度が0(ゼロ)であるときの加速度データを抽出し、3軸方向の加速度データの原点シフト量を算出する。原点シフト量算出部13は、車両情報取得部12から入力された走行速度が所定値(例えば数m/s)以下であるときの加速度データを抽出して原点シフト量を算出するようにしてもよい。
【0032】
原点シフト量算出部13は、例えば、走行速度が所定値以下である場合の加速度データの平均値を原点シフト量とする。原点シフト量算出部13は、加速度データの原点シフト量を他の統計学的な手法を用いて算出するようにしてもよい。原点シフト量算出部13は、算出した原点シフト量と、車両情報取得部12から入力された加速度データとを補正処理部14へ出力する。
【0033】
補正処理部14は、原点シフト量算出部13から入力された原点シフト量に基づいて加速度データを補正し、タイヤ状態推定部15へ出力する。
【0034】
タイヤ状態推定部15は、演算モデル15aを有し、摩耗量等のタイヤ7の状態を推定する。演算モデル15aは、入力された情報に基づいてタイヤ7の状態を算出する学習型モデルである。
図3は、演算モデル15aのタイヤ状態推定および学習について説明するための模式図である。演算モデル15aへの入力データは、概ね車両計測情報、タイヤ計測情報およびその他情報の各系統に分類される。
【0035】
車両計測情報関連の入力データは、車両の加速度および走行距離を含む。走行距離は、上述のように車両情報取得部12において取得される。タイヤ計測情報関連の入力データは、タイヤ7の温度および空気圧を含む。尚、加速度データは、上述のように補正処理部14によって補正されている。
【0036】
その他情報による入力データは、気象情報に基づいて推定される路面状態、気温および降水量等、車両仕様データ16aに含まれる車両の最大積載荷重、並びにタイヤ仕様データ16bに含まれるタイヤ7の耐摩耗性能等である。タイヤ7の耐摩耗性能は、例えばランボーン摩耗試験に基づき標準配合を100として各種トレッド配合の耐摩耗性能を指標化したタイヤ摩耗指標値等を用いる。また、その他情報による入力データは、タイヤ位置データ14cに含まれるタイヤ7の位置、タイヤ識別情報や車軸に関する情報である。
【0037】
演算モデル15aは、例えばニューラルネットワーク等の学習型モデルを用いる。演算モデル15aは、例えばDNN(Deep Neural Network)や、決定木などの手法を用いて構築される。また演算モデル15aは、例えば入力情報に対する多重線形回帰モデルとし、学習によってモデル生成されるものであってもよい。
【0038】
教師データである摩耗量等のタイヤ7の状態は、タイヤ7の摩耗量やタイヤゴムの物性値等を計測することによって取得される。ここではタイヤ7の摩耗量の計測について説明するが、他の物性値等についても例えば硬さ試験などの公知の手法を用いて計測される。タイヤ7の摩耗量は、タイヤ7のトレッドに設けられた溝の深さを直接計測することによって取得される。タイヤ7の各溝の深さは、計測器具やカメラ、作業者の目視等によって計測される。また、タイヤ7の各溝の深さは、機械的あるいは光学的な方法によって自動的に計測されてもよい。
【0039】
タイヤ7の溝深さは、例えば、タイヤの溝が4本あった場合に、幅方向の4か所で計測し、さらに同一溝の周方向、例えば120°間隔で、3か所計測される。これにより、タイヤの幅方向または周方向での偏摩耗データを取得することができる。尚、タイヤの摩耗で直径が変わるため、走行距離とタイヤの回転数・速度の情報から計算によって溝の深さを間接的に計測してもよい。加えて、溝の深さを直接計測するものに、走行距離とタイヤの回転数・速度から計算によって予測するもの、とを併用してもよい。
【0040】
図4は演算モデル生成システム110の機能構成を示すブロック図である。演算モデル生成システム110は、タイヤ状態推定システム100の構成に加えて、学習処理部21を有する演算モデル生成装置20を備える。演算モデル生成装置20は、タイヤ状態推定装置10の各構成に加えて学習処理部21を有する。演算モデル生成装置20におけるタイヤ状態推定装置10の各構成に相当する部分は、タイヤ状態推定装置10のそれらと同等の機能を有するが、演算モデル15aは学習前または学習中のものとなる。
【0041】
演算モデル15aの学習過程において、学習処理部21は、入力情報に基づいて演算モデル15aによって推定された摩耗量等のタイヤ7の状態と、教師データとを比較する。演算モデル15aの学習過程においても、補正処理部14は加速度データの原点シフト量を算出して加速度データを補正している。
【0042】
学習処理部21は、推定した摩耗量等のタイヤ7の状態と教師データとの比較結果に基づき、重みづけ等の演算過程における各種係数を演算モデル15aに新たに設定し、モデルの更新を繰り返すことで学習を実行する。尚、演算モデル15aの学習過程では、勾配ブースティングなどの公知の学習方法を用いることができる。また演算モデル15aの検証には、ランダムデータサンプリングや交差検証などの公知の検証方法を用いることができる。
【0043】
次にタイヤ状態推定システム100の動作を説明する。
図5は、タイヤ状態推定システム100によるタイヤ摩耗量の推定処理の手順を示すフローチャートである。車両情報取得部12は、車両計測情報およびタイヤ計測情報の取得を開始する(S1)。また車両情報取得部12は、ステップS1において、その他情報として車両仕様、タイヤ仕様、タイヤ位置、車両の最大積載荷重、およびタイヤの耐摩耗性能など必要な情報を記憶部16から読み出す。車両情報取得部12は、走行距離の算出を開始する(S2)。
【0044】
原点シフト量算出部13は、車両の走行速度が所定値以下である場合の加速度データを抽出し、原点シフト量を算出する(S3)。補正処理部14は、ステップS3により算出した原点シフト量に基づき加速度データを補正する(S4)。
【0045】
タイヤ状態推定部15は、車両情報取得部12および補正処理部14からの入力データを取得し、演算モデル15aによってタイヤ7の摩耗量を算出して推定し(S5)、処理を終了する。尚、タイヤ状態推定システム100によって、他の物性値等のタイヤ7の状態を推定する場合も、上記の推定処理と同等の処理が実行される。
【0046】
タイヤ状態推定システム100は、演算モデル15aへの入力データとして用いる加速度データに生じている原点シフト量を補正することによって、摩耗量等のタイヤ7の状態の推定精度を向上することができる。原点シフト量算出部13は3軸方向の加速度データについて、それぞれ原点シフト量を算出し、補正処理部14によって補正を行う。
【0047】
原点シフト量算出部13は、車両の走行速度が所定値以下である場合の加速度データを抽出し、抽出した加速度データを用いて原点シフト量を算出することによって、より正確に加速度データの原点シフト量を算出することができる。原点シフト量算出部13は、車両の走行速度が0である場合の加速度データを抽出し、抽出した加速度データを用いて原点シフト量を算出してもよい。
【0048】
原点シフト量算出部13は、車両の走行速度が所定値以下である場合の加速度データを抽出し、抽出した加速度データの平均値を軸方向ごとに算出して原点シフト量を求めるようにしてもよい。これにより、原点シフト量算出部13は、簡潔的に原点シフト量を算出することができる。原点シフト量算出部13は、車両の走行速度が0である場合の加速度データを抽出し、抽出した加速度データの平均値を軸方向ごとに算出して原点シフト量を求めるようにしてもよい。
【0049】
また原点シフト量算出部13は、演算モデル15aの学習において教師データとして用いる摩耗量等のタイヤ7の状態の計測期間よりも短い期間ごとに加速度データを補正するようにしてもよい。例えば、摩耗量等のタイヤ7の状態が1か月ごとに計測され、演算モデル15aの学習に用いられている場合、原点シフト量算出部13によって、1週間ごとに加速度データの原点シフト量を算出し、補正処理部14によって、加速度データを補正する。これにより、タイヤ状態推定装置10は、より細かい期間ごとに加速度データを補正することができ、摩耗量等のタイヤ7の状態の推定精度を向上することができる。
【0050】
また原点シフト量算出部13は、例えば車両が所定期間(30分間など)の間、停車する事象が発生する度に停車期間中の加速度データによって原点シフト量を算出するようにしてもよい。補正処理部14は、算出された原点シフト量によって停車期間の前または後に計測される加速度データを補正する。補正処理部14は、車両が停車する事象が発生する度に、逐次、算出された原点シフト量によって加速度データを補正する。これにより、タイヤ状態推定装置10は、より細かい期間ごとに加速度データを補正することができ、タイヤ7の状態の推定精度を向上することができる。
【0051】
また原点シフト量算出部13は、一定期間に亘って取得された加速度データから、車両が停車する事象が発生している複数の期間を求め、各期間において原点シフト量を算出してもよい。補正処理部14は、原点シフト量算出部13によって算出された原点シフト量に基づいて、一定期間における加速度データを補正する。これにより、タイヤ状態推定装置10は、より細かい期間ごとに加速度データを補正することができ、タイヤ7の状態の推定精度を向上することができる。
【0052】
図6は、演算モデル生成システム110による演算モデル15aの生成処理の手順を示すフローチャートである。
図6に示すステップS11からS15までの処理は、
図5に示すステップS1からS5までの処理と同等であり、記載の簡潔化のため説明を省略する。演算モデル生成装置20の学習処理部21は、演算モデル15aによって算出されたタイヤ7の摩耗量と、計測された教師データとしてのタイヤ7の摩耗量とを比較する(S16)。学習処理部21は、ステップS16による比較結果に基づいて演算モデル15aを更新し(S17)、処理を終了する。
【0053】
演算モデル生成装置20は、ステップS11からS17までの処理を繰り返すことによって演算モデル15aを更新し、演算モデル15aの学習を実行する。尚、演算モデル生成システム110によって、他の物性値等のタイヤ7の状態を推定する演算モデルを生成する場合も、上記の生成処理と同等の処理が実行される。演算モデル生成システム110は、演算モデル15aへの入力データとして用いる加速度データに生じている原点シフト量を補正することによって、摩耗量等のタイヤ7の状態を精度良く推定する演算モデル15aを生成することができる。
【0054】
(実施形態2)
図7は、実施形態2に係るタイヤ状態推定システム100の機能構成を示すブロック図である。タイヤ状態推定システム100は、実施形態1において説明した各部の構成に加えて、タイヤ過酷度生成部17を備える。タイヤ過酷度生成部17は、車両情報取得部12から車両の走行距離の情報を取得し、補正処理部14から補正された加速度データを取得する。
【0055】
タイヤ過酷度生成部17は、車両の加速度の二乗和に基づいて算出される値を、タイヤ摩耗等のタイヤの状態に対する過酷度情報(以下、タイヤ過酷度情報と表記する。)として生成する。タイヤ過酷度生成部17は、3軸方向の加速度のうち、任意の1軸方向または2軸方向の加速度について二乗和を求めるようにしてもよい。
【0056】
タイヤ過酷度生成部17は、加速度の二乗和(V1)、加速度の二乗和に当該加速度で車両が走行した距離を乗算した値を時々刻々算出し積算した値(V2)、および加速度の二乗和に当該加速度で車両が走行した距離を乗算した値を時々刻々算出し積算した値を全走行距離で除算した値(V3)をタイヤ過酷度情報として生成する。タイヤ過酷度生成部17は、これらの3つの値のうち、任意の一つ、または二つの値をタイヤ過酷度情報として生成してもよい。
【0057】
タイヤ7の摩耗において車両の加速度が大きくなることによって、顕著に摩耗や物性の劣化等が進行する傾向にあることから、加速度の二乗和の値(V1)を求めてタイヤ過酷度情報の一つの指標としている。
【0058】
値V2は、時々刻々変化する加速度で、車両がどれだけの距離を移動したかを考慮している。大きな加速度が発生した状態で、車両の走行距離が大きい場合に摩耗量や物性値変化は多くなることに対して、大きな加速度が発生した状態であっても、車両の走行距離が小さい場合には摩耗量や物性値変化は少ないと考えられる。
【0059】
値V3は、値V2を全走行距離で除算して得られる。タイヤ状態の推定は、一時点における推定から次の時点における推定まで期間を空けて行うが、当該期間内における車両の全走行距離で値V2を除算することで、各期間における値V2を走行距離に関して平準化して評価する。
【0060】
タイヤ過酷度生成部17は、生成したタイヤ過酷度情報をタイヤ状態推定部15へ出力する。タイヤ状態推定部15は、タイヤ過酷度生成部17から入力されたタイヤ過酷度情報を演算モデル15aの入力データとして用いて摩耗量等のタイヤ7の状態を推定する。
【0061】
タイヤ状態推定システム100は、走行距離、および車両の加速度の二乗和に基づくタイヤ過酷度情報を演算モデル15aの入力データとして用いることにより、摩耗量等のタイヤ7の状態の推定精度を向上することができる。またタイヤ状態推定システム100は、補正処理部14において原点シフト量が補正された加速度データに基づいてタイヤ過酷度情報が算出されており、摩耗量等のタイヤ7の状態の推定精度をより向上することができる。
【0062】
次に実施形態に係るタイヤ状態推定システム100、タイヤ状態推定方法および演算モデル生成方法の特徴について説明する。
タイヤ状態推定システム100は、車両情報取得部12、原点シフト量算出部13、補正処理部14およびタイヤ状態推定部15を備える。車両情報取得部12は、車両で計測される加速度データを含む情報を取得する。原点シフト量算出部13は、車両情報取得部12によって取得した加速度データに生じている原点シフト量を算出する。補正処理部14は、車両情報取得部12によって取得した加速度データを原点シフト量に基づいて補正する。タイヤ状態推定部15は、補正処理部14によって補正された加速度データを演算モデル15aに入力し、タイヤ7の状態を推定する。これにより、タイヤ状態推定システム100は、摩耗量等のタイヤ7の状態の推定精度を向上することができる。
【0063】
また車両情報取得部12は、車両の走行速度を取得する。原点シフト量算出部13は、車両情報取得部12により取得した走行速度が所定値以下である場合の加速度データを用いて原点シフト量を算出する。これにより、タイヤ状態推定システム100は、より正確に加速度データの原点シフト量を算出することができる。
【0064】
また原点シフト量算出部13は、走行速度が所定値以下である場合の加速度データの平均値を原点シフト量とする。これにより、タイヤ状態推定システム100は、簡潔的に原点シフト量を算出することができる。
【0065】
また原点シフト量算出部13は、演算モデル15aの学習において教師データとして用いるタイヤ7の状態の計測期間よりも短い期間ごとに加速度データを補正する。これにより、タイヤ状態推定システム100は、より細かい期間ごとに加速度データを補正することができ、摩耗量等のタイヤ7の状態の推定精度を向上することができる。
【0066】
タイヤ状態推定方法は、車両情報取得ステップ、原点シフト量算出ステップ、補正処理ステップおよびタイヤ状態推定ステップを備える。車両情報取得ステップは、車両で計測される加速度データを含む情報を取得する。原点シフト量算出ステップは、車両情報取得ステップによって取得した加速度データに生じている原点シフト量を算出する。補正処理ステップは、車両情報取得ステップによって取得した加速度データを原点シフト量に基づいて補正する。タイヤ状態推定ステップは、補正処理ステップによって補正された加速度データを演算モデル15aに入力し、タイヤ7の状態を推定する。この方法によれば、摩耗量等のタイヤ7の状態の推定精度を向上することができる。
【0067】
演算モデル生成方法は、車両情報取得ステップ、原点シフト量算出ステップ、補正処理ステップ、摩耗量算出ステップおよび学習処理ステップを備える。車両情報取得ステップは、車両で計測される加速度データを含む情報を取得する。原点シフト量算出ステップは、車両情報取得ステップによって取得した加速度データに生じている原点シフト量を算出する。補正処理ステップは、車両情報取得ステップによって取得した加速度データを原点シフト量に基づいて補正する。タイヤ状態推定ステップは、補正処理ステップによって補正された加速度データを演算モデル15aに入力し、タイヤ7の状態を推定する。学習処理ステップは、タイヤ7において計測されたタイヤの状態を教師データとして演算モデル15aを学習させる。この方法によれば、摩耗量等のタイヤ7の状態を精度良く推定する演算モデル15aを生成することができる。
【0068】
以上、本発明の実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態は例示であり、いろいろな変形および変更が本発明の特許請求範囲内で可能なこと、またそうした変形例および変更も本発明の特許請求の範囲にあることは当業者に理解されるところである。従って、本明細書での記述および図面は限定的ではなく例証的に扱われるべきものである。
【符号の説明】
【0069】
7 タイヤ、12 車両情報取得部、 13 原点シフト量算出部、
14 補正処理部、 15 タイヤ状態推定部、 15a 演算モデル、
100 タイヤ状態推定システム。