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特開2024-77457工作機械システムおよび工作機械システムの制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077457
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】工作機械システムおよび工作機械システムの制御方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/404 20060101AFI20240531BHJP
   B23B 13/00 20060101ALI20240531BHJP
   B23Q 1/76 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
G05B19/404 K
B23B13/00 Z
B23Q1/76 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189570
(22)【出願日】2022-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】000107642
【氏名又は名称】スター精密株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107102
【弁理士】
【氏名又は名称】吉延 彰広
(74)【代理人】
【識別番号】100172498
【弁理士】
【氏名又は名称】八木 秀幸
(74)【代理人】
【識別番号】100164242
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 直人
(72)【発明者】
【氏名】厚原 昌太
(72)【発明者】
【氏名】篠宮 克宏
【テーマコード(参考)】
3C045
3C048
3C269
【Fターム(参考)】
3C045FC14
3C045FC36
3C048BB15
3C269AB02
3C269BB03
3C269CC01
3C269EF10
3C269MN16
3C269QA09
(57)【要約】
【課題】加工精度の低下を防止した工作機械システムおよび工作機械システムの制御方法を提供する。
【解決手段】旋盤システム1は、棒材Wを把持する主軸25と、主軸25に把持された棒材Wを加工する第1工具T1の刃先位置と棒材Wとの相対位置の補正量を決定する補正量決定部20bと、補正量決定部20bが決定した補正量を用いて相対位置を補正して棒材Wを加工させる機械制御部20aとを備え、補正量決定部20bは、加工の進行とともに変化する要素の変化量に応じて補正量を減少させた量に決定するものである。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒材を把持する主軸と、
前記主軸に把持された前記棒材を加工する加工工具の刃先位置と該棒材との相対位置の補正量を決定する補正量決定部と、
前記補正量決定部が決定した前記補正量を用いて前記相対位置を補正して前記棒材を加工させる機械制御部とを備え、
前記補正量決定部は、加工の進行とともに変化する要素の変化量に応じて前記補正量を減少させた量に決定するものであることを特徴とする工作機械システム。
【請求項2】
前記補正量決定部は、所定処理の後に行われる前記棒材の加工における前記補正量を決定するものであり、該所定処理の後の前記変化量に応じて減少させた量に前記補正量を決定するものであることを特徴とする請求項1記載の工作機械システム。
【請求項3】
前記補正量決定部は、前記棒材の交換の後に行われる該棒材の加工における前記補正量を決定するものであり、該交換の後の前記変化量に応じて減少させた量に前記補正量を決定するものであることを特徴とする請求項1記載の工作機械システム。
【請求項4】
前記棒材に接して振れ止めを行う振止位置と該棒材から離間した退避位置とに移動自在な振止部材を有する振止装置を備え、
前記補正量決定部は、前記振止部材を前記振止位置から前記退避位置に移動させた後に行われる前記棒材の加工における前記補正量を決定するものであり、該振止部材を該退避位置に移動させた後の前記変化量に応じて減少させた量に前記補正量を決定するものであることを特徴とする請求項1記載の工作機械システム。
【請求項5】
前記振止装置の動作を制御する給材制御部を備え、
前記補正量決定部は、前記給材制御部から受信した信号に基づいて前記振止部材を前記振止位置から前記退避位置に移動させたか否かを判定するものであることを特徴とする請求項4記載の工作機械システム。
【請求項6】
棒材を把持する主軸と、該主軸に把持された該棒材の先端部分を加工する加工工具の刃先位置と該棒材との相対位置の補正量を決定する補正決定部とを備えた工作機械の制御方法であって、
第1補正量によって前記相対位置を補正して前記棒材を加工する第1加工工程と、
前記第1加工工程よりも後に実行され、前記第1補正量よりも少ない第2補正量によって前記相対位置を補正して前記棒材を加工する第2加工工程とを有することを特徴とする工作機械システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、棒材を把持する主軸を備えた工作機械システムおよび工作機械システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工作機械システムには、主軸や刃物台が設けられた加工装置と、加工装置に長尺状の棒材を供給する給材機とを備えたものがある(例えば特許文献1参照)。加工装置の主軸は、把持解除可能に棒材を把持して回転する。加工装置には第1制御装置が組み込まれている。第1制御装置は、工作機械システムのオペレータなどが作成した加工プログラム(NCプログラム)や加工装置に設けられた操作パネルを用いた入力操作に従って、加工工具が取り付けられた刃物台や主軸などの動作を制御する。第1制御装置が加工プログラムに従って刃物台や主軸の動作を制御することで、棒材の先端部分が所望の形状に加工され、加工された加工済み部分が切り離される。
【0003】
給材機は、加工装置と並んで加工装置よりも棒材の後端側に設置される。給材機は、送り矢と、送り矢を棒材の軸心方向に移動させる送り矢駆動機構と、給材機の動作を制御する第2制御装置とを備えている。送り矢は、先端にフィンガーチャックを備えている。そのフィンガーチャックが棒材の後端部分を掴むことで、送り矢は棒材と連結される。そして、送り矢駆動機構によって送り矢が棒材の先端側に向かって送り出されることで給材機に投入された棒材が加工装置に供給される。また、給材機は、加工によって短くなった棒材である残材を加工装置から引き抜いて排出する。給材機は、残材を排出した後にあらたな棒材を加工装置に送り出す。
【0004】
主軸よりも後端側には、振止装置が取り付けられていることがある。振止装置は、棒材の周面に接することで棒材が回転によって振れてしまうことを防止する振止部材を有している。送り矢のフィンガーチャックは棒材よりも外径が大きく、またフィンガーチャックには切り欠きが形成されていることもある。このため、振止部材がフィンガーチャックに接してしまうと振止部材が破損してしまう虞がある。そこで、振止部材がフィンガーチャックと接することがないように、送り矢が所定の範囲に位置する場合、振止部材は棒材から径方向に離間した退避位置に退避するように制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-313267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
給材機が残材を引き抜いてあらたな棒材を加工装置に送り出す間は、加工装置が動作を休止している。このため、あらたな棒材を加工装置に送り出した後に実行する加工においては、加工を継続していたときとは加工装置の構成部材などの熱変位量が変わってしまい加工工具の刃先位置と棒材との相対位置が一時的にズレて加工精度が低下することがある。また、振止装置の振止部材が退避位置に退避した後に実行される加工においては、棒材の振れが一時的に微増して加工精度が低下してしまうことがある。
【0007】
本発明は上述の課題に鑑みてなされたものであり、加工精度の低下を防止した工作機械システムおよび工作機械システムの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の工作機械システムは、
棒材を把持する主軸と、
前記主軸に把持された前記棒材を加工する加工工具の刃先位置と該棒材との相対位置の補正量を決定する補正量決定部と、
前記補正量決定部が決定した前記補正量を用いて前記相対位置を補正して前記棒材を加工させる機械制御部とを備え、
前記補正量決定部は、加工の進行とともに変化する要素の変化量に応じて前記補正量を減少させた量に決定するものであることを特徴とする。
【0009】
この工作機械システムによれば、前記相対位置のズレや前記棒材の振れの微増などの一時的な変動の発生からその後の該変動の減少に合わせて、減少させた量に補正量を決定することができるので加工精度の低下が防止される。なお、加工の進行とともに変化する要素の変化量とは、加工時間であってもよく、サイクル数であってもよく、前記加工工具の選択回数であってよく、前記送り矢の前進量であってもよい。
【0010】
ここで、前記加工工具が取り付けられて前記棒材の軸心方向とは直交する直交方向に移動可能な刃物台を備え、前記補正量決定部は、前記刃物台の前記直交方向への移動位置の補正量を決定するものであってもよい。また、前記補正量決定部は、前記主軸の移動位置の補正量を決定するものであってもよい。
【0011】
この工作機械システムにおいて、
前記補正量決定部は、所定処理の後に行われる前記棒材の加工における前記補正量を決定するものであり、該所定処理の後の前記変化量に応じて減少させた量に前記補正量を決定するものであってもよい。
【0012】
前記所定処理によって一時的な変動が生じた後に行われる加工において前記補正量決定部が前記補正量を決定してその後の前記変化量に応じて該補正量減少させていくことができるので加工精度の低下が防止される。
【0013】
ここで、前記補正量決定部は、前記所定処理の後の最初の前記棒材の加工において用いる前記補正量を初期補正量に決定し、前記変化量に応じて該補正量を減少させた量に決定するものであってもよい。前記所定処理は、加工精度を一時的に悪化させる処理であってもよい。加えて前記補正量決定部は、前記変化量が所定量を超えた後は実質的に補正量をゼロにするものであってもよい。
【0014】
この工作機械システムにおいて、
前記補正量決定部は、前記棒材の交換の後に行われる該棒材の加工における前記補正量を決定するものであり、該交換の後の前記変化量に応じて減少させた量に前記補正量を決定するものであってもよい。
【0015】
前記交換の後の加工における前記相対位置の一時的なズレとその後のズレ量の減少に対応して前記補正量を減少させることができるので、該相対位置の一時的なズレによる加工精度の低下が防止される。
【0016】
この工作機械システムにおいて、
前記棒材に接して振れ止めを行う振止位置と該棒材から離間した退避位置とに移動自在な振止部材を有する振止装置を備え、
前記補正量決定部は、前記振止部材を前記振止位置から前記退避位置に移動させた後に行われる前記棒材の加工における前記補正量を決定するものであり、該振止部材を該退避位置に移動させた後の前記変化量に応じて減少させた量に前記補正量を決定するものであってもよい。
【0017】
前記振止部材を前記退避位置に移動させた後の加工における前記棒材の振れの一時的な増加とその後の振れの減少に対応して前記補正量を減少させることができるので、該棒材の一時的な増加による加工精度の低下が防止される。
【0018】
また、この工作機械システムにおいて、
前記振止装置の動作を制御する給材制御部を備え、
前記補正量決定部は、前記給材制御部から受信した信号に基づいて前記振止部材を前記振止位置から前記退避位置に移動させたか否かを判定するものであってもよい。
【0019】
前記補正量決定部が前記信号に基づいて判定することで、前記振止部材を前記退避位置に移動させたことを正確に判定することができる。
【0020】
ここで、前記棒材を前記主軸に供給する給材機を備え、前記給材制御部は、前記給材機が有するものであってもよく、該給材機の動作を制御するものであってもよい。また、前記給材機は、前記棒材を前記主軸に向かって送り出すものであってもよい。さらに、前記給材制御部は、前記振止部材を前記振止位置から前記退避位置に移動させた際に前記補正量決定部に前記信号を送信するものであってもよい。またさらに、前記信号は、前記振止部材を前記振止位置から前記退避位置に移動させたことを示す情報を含んでいてもよい。
【0021】
上記課題を解決する本発明の工作機械システムの制御方法は、
棒材を把持する主軸と、該主軸に把持された該棒材の先端部分を加工する加工工具の刃先位置と該棒材との相対位置の補正量を決定する補正決定部とを備えた工作機械の制御方法であって、
第1補正量によって前記相対位置を補正して前記棒材を加工する第1加工工程と、
前記第1加工工程よりも後に実行され、前記第1補正量よりも少ない第2補正量によって前記相対位置を補正して前記棒材を加工する第2加工工程とを有することを特徴とする。
【0022】
この工作機械システムの制御方法によれば、前記相対位置のズレや振れ微増などの一時的な変動が発生した後に第1加工工程が実行され、該変動が減少したときに第2加工工程が実行されることで、該変動の減少に応じた補正が行われるので加工精度の低下が防止される。
【0023】
ここで、前記第2加工工程は、前記第1加工工程に続いて実行される工程であってもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、加工精度の低下を防止した工作機械システムおよび工作機械システムの制御方法を提供するこができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本実施形態にかかる旋盤システムの正面図である。
図2図1に示した旋盤システムの内部構成を簡易的に示す平面図である。
図3】(a)は、振止部材が振止位置にある様子を示す振止装置の左側面図であり、(b)は、振止部材が退避位置にある様子を示す振止装置の左側面図である。
図4】(a)は、図1に示した旋盤システムの主軸に内装管を取り付けた様子を示す断面図であり、(b)は、主軸から内装管を半分引き抜いた様子を示す断面図であり、(c)は、主軸から内装管を全て引き抜いた様子を示す断面図である。
図5図1に示した旋盤システムのハードウェア構成を示すブロック図である。
図6図1に示した旋盤システムの機能構成を示す機能ブロック図である。
図7図1に示した旋盤システムの動作を示すフローチャートである。
図8】第2実施形態の旋盤システムの動作を示すフローチャートである。
図9】第3実施形態の旋盤システムの動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。本実施形態では、本発明をNC旋盤と給材機とを備えた旋盤システムに適用した例を用いて説明する。
【0027】
図1は、本実施形態にかかる旋盤システムの正面図である。
【0028】
図1に示すように、本実施形態の旋盤システム1は、加工装置であるNC旋盤2と、材料供給装置である給材機4とを備えている。この旋盤システム1が、工作機械システムの一例に相当する。本実施形態のNC旋盤2は、いわゆるスイス型旋盤である。NC旋盤2は、切削室22と、主軸室23と、旋盤操作パネル24とを備えている。切削室22は、棒材W(図2参照)の先端部分を加工する空間が形成された部屋であり、正面側から見てNC旋盤2の右側に配置されている。主軸室23は、主軸25(図2参照)が配置された部屋であり、正面側から見てNC旋盤2の左側に配置されている。主軸室23には、取り外し可能な主軸室カバー231が設けられており、この主軸室カバー231を取り外すことで主軸25(図2参照)の後端部分と主軸25よりも後端側に設けられた空間が露出する。
【0029】
旋盤操作パネル24は、旋盤操作部241と旋盤表示画面242とを有している。旋盤操作部241は、旋盤システム1のオペレータによる入力操作を受け付ける複数のボタンやキー等からなる。なお、旋盤操作部241は、旋盤表示画面242と一体化されたタッチパネルであってもよい。旋盤システム1のオペレータは、旋盤操作部241や外部コンピューターを用いて作成した加工プログラムを、後述する記憶部203(図5参照)に記憶させることができる。また、旋盤システム1のオペレータは、旋盤操作部241を用いて加工プログラムの修正を行い、修正した加工プログラムを記憶部203に記憶させることもできる。さらに、旋盤システム1のオペレータは、旋盤操作部241を用いて旋盤システム1の各構成要素を個別または連携して動作させることもできる。旋盤表示画面242は、記憶部203に記憶された加工プログラム、旋盤システム1の各種設定値およびエラー内容などの旋盤システム1に関する各種情報を表示するディスプレイである。
【0030】
給材機4は、長尺な棒材W(図2参照)をNC旋盤2に供給する。給材機4は、NC旋盤2と並んで設置される。給材機4には、複数の棒材Wが格納されている。給材機4は、格納された棒材Wのうちの1本をNC旋盤2に向かって送り出す。また、給材機4は、加工によって短くなった棒材Wである残材をNC旋盤2から引き抜いて排出する。残材を排出した後、給材機4は、格納された棒材Wからあらたに1本をNC旋盤2に向かって送り出す。以下、この残材をNC旋盤2から引き抜いて排出してあらたな棒材WをNC旋盤2に送り出す動作を棒材交換と称することがある。給材機4には、給材機4を操作するための入力装置である給材機操作パネル42が設けられている。
【0031】
図2は、図1に示した旋盤システムの内部構成を簡易的に示す平面図である。
【0032】
図2に示すように、NC旋盤2は、主軸25と、ガイドブッシュ26と、第1刃物台27と、背面主軸28と、第2刃物台29とを備えている。主軸25、ガイドブッシュ26、第1刃物台27、背面主軸28および第2刃物台29は、土台である脚の上に配置されている。主軸25、第1刃物台27、背面主軸28および第2刃物台29は、加工動作が記述された加工プログラムや旋盤操作パネル24(図1参照)からの入力操作に従って動作する。
【0033】
主軸25は、Z1軸方向に移動可能である。主軸25は、主軸台25A(図4参照)によって主軸台25AとともにZ1軸方向に移動する。Z1軸方向は、水平方向であり、図2においては左右方向である。このZ1軸方向は、棒材Wの軸心方向と一致している。主軸25は、その内部を貫通している棒材Wを把持解除可能に把持するためのコレットチャック251を先端部分に有している。主軸25は、棒材Wを把持して主軸中心線CLを中心として回転可能である。主軸中心線CLの方向はZ1軸方向と一致している。以下、主軸25が棒材Wの先端側に移動することを前進と称し、主軸25が棒材Wの後端側に移動することを後退と称することがある。図2においては、右方向が前進方向であり、左方向が後退方向である。
【0034】
ガイドブッシュ26は、土台である脚に固定されている。ガイドブッシュ26の、主軸25が配置された側とは反対側の端面は、切削室22(図1参照)内に露出している。ガイドブッシュ26は、主軸25の内部を貫通した棒材Wの先端側部分をZ1軸方向へ摺動自在に支持する。このガイドブッシュ26の、棒材Wを支持している部分は、主軸25と同期して主軸中心線CLを中心にして回転可能である。ガイドブッシュ26から切削室22内に突出した棒材Wの先端部分が第1刃物台27に取り付けられた第1工具T1によって加工される。この第1工具T1が、加工工具の一例に相当する。ガイドブッシュ26により、加工時の棒材Wの撓みが抑制されるので、特に細長い棒材WをNC旋盤2によって高精度に加工できる。
【0035】
第1刃物台27は、Z1軸方向と直交しかつ水平方向を向いたX1軸方向と、垂直方向を向いたY1軸方向に移動可能である。この第1刃物台27が、刃物台の一例に相当する。図2では、上下方向がX1軸方向であり、紙面に直交する方向がY1軸方向である。また、図2における上方向がX1軸のプラス方向であり、図2における下方向がX1軸のマイナス方向である。第1刃物台27には、切削工具、突切工具などを含む複数種類の第1工具T1がY1軸方向に並んで櫛歯状に取り付けられている。また、第1工具T1として、エンドミルやドリルなどの回転工具を第1刃物台27に取り付けることもできる。第1刃物台27がY1軸方向に移動することで、それらの複数種類の第1工具T1から任意の第1工具T1が選択される。そして、第1刃物台27がX1軸方向に移動することで、選択されている第1工具T1が、主軸25に把持されガイドブッシュ26に支持された棒材Wの先端部分に切り込んで加工したり、棒材Wの加工済み部分を切り離したりする。なお、加工済み部分を切り離すための工具が突切工具である。
【0036】
背面主軸28は、X2軸方向およびZ2軸方向に移動可能である。背面主軸28は、背面主軸台によって背面主軸台とともにX2軸方向およびZ2軸方向に移動するが、背面主軸台は図示省略し説明も省略する。X2軸方向は上述したX1軸方向と同一の方向であり、Z2軸方向は上述したZ1軸方向と同一の方向である。また、Z2軸方向は、背面主軸28の軸線方向に相当する。図2には、背面主軸28が、ガイドブッシュ26を挟んで主軸25に対向した位置にある様子が示されている。この位置では背面主軸28の回転中心である背面主軸中心線は、主軸中心線CLと同一線上に配置されている。背面主軸中心線の方向はZ2軸方向と一致している。背面主軸28には、主軸25を用いた加工が完了した棒材Wの加工済み部分が、突切工具によって切り離されて受け渡される。以下、切り離された加工済み部分を切断済み部分と称する。背面主軸28は、主軸25から受け渡された切断済み部分を把持解除可能に把持する。また、背面主軸28は、X2軸方向およびZ2軸方向に移動することで把持した切断済み部分を移送する。
【0037】
第2刃物台29は、Y2軸方向へ移動可能である。なお、第2刃物台29は、X2軸方向に移動可能に構成されていてもよい。Y2軸方向は上述したY1軸方向と同一の方向である。第2刃物台29には、切断済み部分を加工するドリルやエンドミル等の第2工具T2が取り付けられている。なお、第2工具T2は、Y2軸方向に並んで第2刃物台29に複数取り付けられている。第2刃物台29のY2軸方向への移動によって、それらの複数の第2工具T2から任意の第2工具T2が選択される。そして、背面主軸28がX2軸方向やZ2軸方向に移動することで、背面主軸28に把持された切断済み部分の切断端側が加工される。この切断端側の加工が完了した切断済み部分が旋盤システム1によって製造された製品になる。ただし、背面主軸28を用いた加工を行わない場合もある。その場合、切断済み部分がそのまま製品になる。第2刃物台29には、製品を受け入れる製品受入口291と不図示のシューターとが設けられている。シューターは、第2刃物台29内に設けられている。背面主軸28は、製品を製品受入口291に挿入した後、把持を解除して背面主軸28に設けられたシリンダーによって押し出すことでシューターに製品を投下する。投下された製品は、不図示のコンベアによって所定位置まで移送されて旋盤システム1の外部に設けられた製品貯留部に排出される。
【0038】
給材機4は、上述した給材機操作パネル42(図1参照)の他に、送り矢44と、送り矢駆動機構45と、送り矢モータ46と、先端センサ47と、原点センサ48と、振止装置31とを有している。送り矢44は、不図示のガイドによってZ1軸方向に移動自在に案内されている。送り矢44の先端には、棒材Wの後端を把持するフィンガーチャック441が設けられている。このフィンガーチャック441は、送り矢44の他の部分に対して回転自在に取り付けられることで、主軸中心線CLを回転中心軸として回転自在になっている。フィンガーチャック441が棒材Wの後端を把持することで、送り矢44は棒材Wに連結される。すなわち、フィンガーチャック441が棒材Wを把持している間、送り矢44は棒材ととともにZ1軸方向に移動する。
【0039】
送り矢駆動機構45は、給材機4の先端側と後端側それぞれに設けられた不図示のプーリと、そのプーリに掛け渡された駆動ベルトによって構成されている。駆動ベルトには、連結部451が固定されている。この連結部451によって駆動ベルトと送り矢44の後端部分とが連結されている。給材機4の後端側に設けられたプーリは、送り矢モータ46の出力軸に固定されている。
【0040】
送り矢モータ46の出力軸が一方向に回転すると、送り矢駆動機構45と連結部451によって送り矢44はZ1軸に沿ってNC旋盤2に向かって移動する。反対に、送り矢モータ46の出力軸が他方向に回転すると、送り矢駆動機構45と連結部451によって送り矢44はZ1軸に沿ってNC旋盤2から離間する方向に移動する。給材機4内に格納された複数の棒材Wのうち軸心が主軸中心線CLと一致した位置にある棒材Wがフィンガーチャック441によって把持される。そして、送り矢44が移動することで、フィンガーチャック441に把持された棒材Wは、棒材Wの軸心方向に移動する。すなわち、送り矢モータ46の出力軸が一方向に回転すると、棒材Wはその先端側に移動し、送り矢モータ46の出力軸が他方向に回転すると、棒材Wはその後端側に移動する。送り矢モータ46は、送り矢エンコーダ461を有している。なお、送り矢エンコーダ461は、送り矢モータ46とは別に設置されていてもよい。送り矢エンコーダ461によって、送り矢モータ46の回転数や回転量が検出される。送り矢エンコーダ461の検出結果は、第2制御装置40(図5参照)に送信される。
【0041】
先端センサ47は、棒材Wの先端を検出する。また、原点センサ48は、送り矢44が原点に位置しているか否かを検出する。送り矢44の原点は、送り矢44の移動範囲のうち最も後端側に位置している。原点センサ48は、送り矢44の後端を検出するセンサである。これらの先端センサ47と原点センサ48の検出結果は、それぞれ第2制御装置40(図5参照)に送信される。第2制御装置40は、先端センサ47の検出結果と送り矢エンコーダ461の検出結果によって、電源投入後最初に棒材WをNC旋盤2に供給する際やあらたに棒材WをNC旋盤2に供給する際の棒材Wの先端位置がどの位置にあるかを把握する。また、第2制御装置40は、原点センサ48の検出結果と送り矢エンコーダ461の検出結果によって、送り矢44の位置を把握する。
【0042】
振止装置31は、主軸台25A(図4参照)に取り付けられている。なお、振止装置31は、NC旋盤2内に配置されているものの給材機4に属する構成である。振止装置31は、主軸25とともにZ1軸方向に移動する。振止装置31は、棒材Wの周面に接して棒材Wの振れ止めを行う振止部材311を有している。振止装置31の構造については後に詳述する。
【0043】
図3(a)は、振止部材が振止位置にある様子を示す振止装置の左側面図であり、図3(b)は、振止部材が退避位置にある様子を示す振止装置の左側面図である。図3(a)および図3(b)には棒材Wも示されている。
【0044】
図3(a)および図3(b)に示すように、振止装置31は、中心部近傍に棒材Wを貫通させるための振止貫通孔310aが形成された振止筐体310と、3つの振止部材311とを有している。なお、振止部材311の数は、2つでもよく、4つ以上であってもよい。振止部材311は、主軸中心線CLを中心として120度づつ回転した位置に配置されている。振止部材311は、棒材Wに接して振れ止めを行う図3(a)に示す振止位置と、棒材Wから離間した図3(b)に示す退避位置とに移動自在に構成されている。振止位置と退避位置の切換えは、振止アクチュエータ313(図5参照)によって行われる。振止アクチュエータ313は、第2制御装置40(図5参照)によって制御されている。振止位置では、基本的には図3(a)に示すように3つの振止部材311が棒材Wの周面に接している。ただし、棒材Wの振れ状況などによって3つの振止部材311うちの1つまたは2つのみが棒材Wに接して他の振止部材311との間に微小な隙間が生じることもある。退避位置では、3つの振止部材311は、それぞれ棒材Wの径方向に退避することで棒材Wから離間している。
【0045】
図4(a)は、図1に示した旋盤システムの主軸に内装管を取り付けた様子を示す断面図であり、図4(b)は、主軸から内装管を半分引き抜いた様子を示す断面図であり、図4(c)は、主軸から内装管を全て引き抜いた様子を示す断面図である。なお、この図4では、断面を示すハッチングは省略している。
【0046】
図4(a)に示すように、主軸25の内部に内装管250が取り付けられることがある。内装管250は、特に細い径の棒材W(図2参照)を加工する際に用いられるものである。内装管250を取り付けることで、細い径の棒材Wを回転させたときの棒材Wのバタつきを抑制することができる。主軸25内に差し込まれた内装管250は、先端がコレットチャック251の後端から少しだけ離間した位置にあり、後端部分が主軸台25Aの後端部分に形成された内装管支持部25A1によって支持されている。この実施形態の内装管250は、前側内装管2501と後側内装管2502の2つが長手方向に連結されたものである。前側内装管2501と後側内装管2502は、長手方向の長さがほぼ同一である。前側内装管2501の後端部分には雌ネジが形成されている。また、後側内装管2502の前端部分には雄ネジが形成されている。前側内装管2501と後側内装管2502は、それらのネジによって連結されている。
【0047】
内装管250を主軸25から取り外す際には、図1に示した主軸室カバー231を外して主軸25の後端部分と主軸25よりも後端側に設けられた空間を露出させる。そして、図4(b)に示すように前側内装管2501と後側内装管2502との連結部分が主軸25の外に出てくるまで内装管250を引き出す。次いで、前側内装管2501に対して後側内装管2502を回転させることでネジによる連結を解除する。これにより、前側内装管2501と後側内装管2502とが分離され、後側内装管2502を主軸室23(図1参照)から取り出すことができる。後側内装管2502を取り出したら、図4(c)に示すように前側内装管2501を主軸25から引き抜く。その後、前側内装管2501を主軸室23から取り出す。以上で内装管250を主軸25から取り外すことができる。また、取り外すときとは逆の手順で内装管250を主軸25に取り付けることができる。以下、内装管250の取り付けと取り外しを併せて着脱と称する。
【0048】
内装管250が1本の長尺な管で構成されている場合、着脱に際してコレットチャック251を取り外して主軸25の前方から内装管250を抜出および挿入するか、給材機4(図1参照)をNC旋盤2(図1参照)から離間させて主軸25の後方から内装管250を抜出および挿入する必要があり作業性が悪い。これに対し本実施形態の構成によれば、内装管250を分離可能に2体化することで、コレットチャック251の取り外しや給材機4をNC旋盤2から離間させることなく、主軸25の後方から内装管250を着脱することができるができるので作業性がよい。なお、内装管250は3つ以上に分離可能に構成してもよい。
【0049】
図5は、図1に示した旋盤システムのハードウェア構成を示すブロック図である。なお、この図5では、旋盤システム1のハードウェア構成のうち本発明との関連性の低いものは、これまで説明した構成要素を動作させるものであっても図示省略している。
【0050】
図5に示すように、NC旋盤2は、第1制御装置20と、上述した旋盤操作パネル24と、Z1軸モータ252と、主軸モータ253と、主軸アクチュエータ254と、X1軸モータ271とを有している。第1制御装置20は、いわゆるNC(Numerical Control)装置であり、CPU201と、PLC(Programmable Logic Controller)202と、記憶部203と、タイマー204とを有している。第1制御装置20は、CPU201による演算機能を有するコンピュータである。第1制御装置20は、記憶部203に記憶されている加工プログラムや旋盤操作パネル24からの入力操作に従って図2に示した主軸25、第1刃物台27、背面主軸28および第2刃物台29等の各構成要素の動作を制御する。図5には、各構成要素を駆動するモータやアクチュエータのうちの一部が示されている。第1制御装置20は、主にNC旋盤2に設けられたサーボモータに対して数値制御を行う。また、第1制御装置20が有しているPLC202は、主にNC旋盤2に設けられたシリンダーやバルブ等のサーボモータ以外の機器の動作をシーケンス制御する。
【0051】
記憶部203は、ROM、HDDおよびSSD等の不揮発性メモリとRAM等の揮発性メモリとから構成されている。記憶部203には、ラダープログラムやマクロプログラムなどの各種プログラムがあらかじめ記憶されている。さらに、記憶部203には、加工プログラムの他に、工具に関するデータ、棒材Wの径データおよび製品長データなどの諸情報がオペレータによって記憶される。また、記憶部203には、オペレータによって設定された交換初期補正量およびその補正方向並びに交換後補正量の減少度合いを決定するための第1関数が記憶されている。この第1関数は、棒材交換後のサイクル数などの加工の進行とともに変化する要素の変化量を変数として交換後補正量を求めるものであり、変化量が増加すると交換後補正量が減少するような関数である。なお、第1関数として、N次関数や指数関数などの各種関数をあらかじめ記憶部203に記憶しておき、それらの中からオペレータが所望の関数を選択できるように構成してもよい。その場合、選択した関数に用いる係数などを書き換え可能に構成してもよい。また、交換初期補正量およびその補正方向並びに第1関数は、NC旋盤2の工場出荷時に製造メーカによって設定されたものであってもよい。その場合、交換初期補正量およびその補正方向並びに第1関数は、旋盤操作パネル24の操作または加工プログラムによって書き換え可能に構成されていることが好ましい。
【0052】
タイマー204は、CPU201からの要求に応じて時間の計測を開始し、CPUから送信要求があった場合や必要なタイミングに到達したときにCPU201に計測開始からの経過時間を送信する。
【0053】
Z1軸モータ252は、第1制御装置20からの指令を受けて回転するサーボモータである。Z1軸モータ252が回転することで主軸25(図2参照)はZ1軸方向に移動する。なお、第1制御装置20とZ1軸モータ252の間には不図示のアンプが設けられており、第1制御装置20がアンプに指令を送信することでZ1軸モータ252が制御されている。以下、アンプについては説明を省略する。Z1軸モータ252は、Z1軸エンコーダ2521を有している。Z1軸エンコーダ2521の出力が第1制御装置20にフィードバックされることで、第1制御装置20は、主軸25(図2参照)のZ1軸方向における位置を常時把握している。
【0054】
主軸25(図2参照)には、ビルトインモーター等の主軸モータ253が設けられている。主軸モータ253は、第1制御装置20から指令を受けて回転する。主軸モータ253が回転することで、主軸25および主軸25に把持された棒材W(図2参照)は、主軸中心線CL(図2参照)を中心にして回転する。なお、主軸25と同様に、背面主軸28にも背面主軸モータが設けられているが説明は省略する。主軸アクチュエータ254は、コレットチャック251(図2参照)を動作させるための油圧シリンダー等のアクチュエータである。主軸アクチュエータ254によって不図示のチャックスリーブが前進方向に移動することで、コレットチャック251が閉じて棒材Wが主軸25によって把持される。また、チャックスリーブが後退方向に移動することで、コレットチャック251が開いて主軸25による棒材Wの把持が解除される。
【0055】
X1軸モータ271は、第1制御装置20からの指令を受けて回転するサーボモータである。X1軸モータ271が回転することで第1刃物台27(図2参照)はX1軸方向に移動する。X1軸モータ271には、X1軸エンコーダ2711が設けられている。X1軸エンコーダ2711の出力が第1制御装置20にフィードバックされることで、第1制御装置20は、第1刃物台27のX1軸方向における位置を常時把握している。
【0056】
給材機4は、上述した給材機操作パネル42、送り矢モータ46、先端センサ47および原点センサ48の他に第2制御装置40と振止アクチュエータ313とを有している。第2制御装置40は、給材機4の各構成要素についてシーケンス制御を行う制御装置である。振止アクチュエータ313は、振止部材311を図3(a)に示した振止位置と図3(b)に示した退避位置とに移動させるための油圧シリンダー等のアクチュエータである。第2制御装置40は、各センサや送り矢エンコーダ461等から受信した情報に基づいて送り矢モータ46や給材機4に設けられた不図示のアクチュエータの動作を制御する。また、第2制御装置40は、第1制御装置20からの動作要求に応じて給材機4の動作を制御する。さらに、第2制御装置40は、振止アクチュエータ313を制御することでNC旋盤2内に配置されている振止装置31の動作も制御する。
【0057】
送り矢モータ46は、第2制御装置40からの指令を受けて回転するサーボモータである。送り矢モータ46が回転することで送り矢44(図2参照)はZ1軸方向に移動する。上述したように、第2制御装置40は、送り矢44の原点からの移動距離を原点センサ48の検出結果と送り矢エンコーダ461の検出結果によって把握することで、送り矢44のZ1軸方向における位置を常時把握し、給材機4に関する情報として第1制御装置20に送信している。また、第2制御装置40は、あらたに供給する棒材Wの先端や電源投入後最初にNC旋盤2に送り出した棒材Wの先端のZ1軸方向における位置を第1制御装置20に送信する。NC旋盤2が加工を開始した後、残材の引き抜き開始までは、第2制御装置40によって送り矢モータ46は基本的に一定のトルクで一方向に回転しようとするように制御される。これにより、棒材Wは、設定された荷重で棒材Wの先端側に向かって送り矢44によって付勢される。この荷重は、主軸25が棒材Wを把持しているときに棒材Wと主軸25との間に滑りが生じる虞が無い比較的弱い荷重に設定される。
【0058】
給材機操作パネル42は、操作部と表示画面とが一体になったタッチパネルである。なお、給材機4には、給材機操作パネル42の他に非常停止ボタンや送り矢モータ46のトルク設定スイッチ等が設けられている。旋盤システム1のオペレータは、給材機操作パネル42を用いて、送り矢44(図2参照)をZ1軸方向に手動操作で移動させたり、給材機4の各種設定値を入力することができる。また、給材機操作パネル42には、給材機4の各種設定値およびエラー内容などの給材機4に関する各種情報並びに給材機4の操作ボタンが表示される。
【0059】
第1制御装置20と第2制御装置40とは信号ケーブルで接続されている。第1制御装置20は、信号ケーブルを介して第2制御装置40に動作要求などを送信する。また、第2制御装置40は、送り矢44の位置情報を含む給材機4に関する各種情報を信号ケーブルを介して第1制御装置20に随時送信する。さらに、第2制御装置40は、電源投入時および棒材W(図2参照)の交換時にNC旋盤2への棒材Wの供給が完了した際並びに振止部材311を振止位置または退避位置に移動させた際に、それぞれ第1制御装置20にその旨を送信する。
【0060】
図6は、図1に示した旋盤システムの機能構成を示す機能ブロック図である。なお、図6でも、本発明に特に関連性の高い機能構成のみを示し、旋盤システム1が有するその他の機能構成は図示省略し説明も省略する。
【0061】
図6に示すように、第1制御装置20によって、機械制御部20aと補正量決定部20bとが構成されている。機械制御部20aは、主に図3に示したCPU201とPLC202と記憶部203によって達成される機能構成である。また、補正量決定部20bは、主にCPU201と記憶部203によって達成される機能構成である。また、第2制御装置40によって、給材制御部40aが構成されている。
【0062】
機械制御部20aは、NC旋盤2の各構成要素の動作を制御するものである。機械制御部20aは、補正量決定部20bが決定した補正量を用いて第1刃物台27を移動させることで、第1工具T1の刃先位置と棒材Wとの相対位置を補正しながら棒材Wを加工させる。また、機械制御部20aは、第2制御装置40に動作要求や情報送信要求を送信することもある。補正量決定部20bは、加工における第1工具T1の刃先位置と主軸25(図2参照)に把持された棒材Wとの相対位置を補正するための補正量を決定するものである。具体的には、補正量決定部20bは、旋盤システム1が所定の動作を実行した直後の棒材Wの加工において用いる補正量を記憶部203に記憶された初期補正量に決定し、その後、加工の進行とともに変化する要素の変化量に応じて初期補正量に対して減少させた補正量に決定する。加工の進行とともに変化する要素の変化量として、本実施形態ではサイクル数を用いる例で説明する。
【0063】
給材制御部40aは、給材機4に設けられた各種センサからの出力、給材機操作パネル42からの入力操作および第1制御装置20からの動作要求に従って送り矢モータ46や振止アクチュエータ313などの動作を制御する機能構成である。
【0064】
図7は、図1に示した旋盤システムの動作を示すフローチャートである。
【0065】
図7に示すフローチャートは、旋盤システム1のサイクル動作を示している。サイクル動作では、加工プログラムに従って、棒材Wの先端部分の加工と加工が行われた加工済み部分の切り離しと主軸25による棒材Wの掴みかえとを含む加工サイクルが繰り返し実行される。加工サイクルが一巡することで製品が1つ製造され、複数回巡回することで同一形状の製品が複数製造される。
【0066】
図7に示すように、補正量決定部20bは、棒材交換が実行されたか否かを判定する(ステップS11)。この棒材交換が、所定処理の一例に相当する。棒材交換が実行されたと判定したら(ステップS11でYES)、補正量決定部20bは、記憶部203に保存されている交換後サイクル数N1をリセットして(ゼロにして)記憶部203に保存する(ステップS12)。そして、補正量決定部20bは、棒材交換直後の加工に用いる初期の補正量である交換初期補正量を記憶部203から取得して交換後補正量として決定する(ステップS13)。この交換初期補正量が第1補正量の一例に相当し、交換後補正量が補正量の一例に相当する。その後、機械制御部20aは、加工プログラムに記述された移動位置に対して、記憶部203に記憶された交換初期補正量の補正方向に補正量決定部20bが決定した交換後補正量だけ補正した位置に第1刃物台27を移動させることで第1工具T1によって棒材Wを加工させる(ステップS14)。換言すれば、機械制御部20aは、補正量決定部20bが決定した交換後補正量を用いて補正した位置に第1刃物台27を移動させることで棒材Wを加工させる。この交換初期補正量を交換後補正量として用いて行う加工が、第1加工工程の一例に相当する。なお、交換初期補正量の補正方向は、X1軸のプラス方向とX1軸のマイナス方向の何れか一方であり、上述したように記憶部203に記憶されている。また、ここでいう加工とは、切削などにより棒材Wの先端部分を所望の形状にすることと加工済み部分を切り離すことと主軸25が棒材Wを掴みかえることとを含む。ただし、機械制御部20aは、それらのうち第1工具T1が棒材Wに接触する動作のみについて補正をして棒材Wを加工させてもよい。
【0067】
ステップS14の加工が完了したら、補正量決定部20bは、交換後サイクル数N1をカウントアップして記憶部203に保存されている交換後サイクル数N1を書き換える(ステップS15)。カウントアップが完了したら、機械制御部20aは、サイクル動作を開始してから、加工プログラムで指定されたサイクル数の加工が完了したか判定する(ステップS16)。指定されたサイクル数の加工が完了していたら(ステップS16でYES)、サイクル動作を終了する。指定されたサイクル数の加工が完了していない場合(ステップS16でNO)はS11に戻る。
【0068】
一方、ステップS11の判定において棒材交換が実行されていないと判定したら(ステップS11でNO)、補正量決定部20bは、記憶部203から交換初期補正量と交換後サイクル数N1と第1関数とを取得し、それらを用いて交換後補正量を演算により決定する(ステップS17)。ただし、前のサイクルにおける交換後補正量がゼロである場合には、ステップS17の処理を省略して交換後補正量をゼロにしてもよく、ステップS14で交換後補正量を用いた補正を行わないで加工を実行してもよい。このステップS17において決定した補正量が、第2補正量の一例に相当する。ステップS17で補正量を決定したらステップS14に進む。このステップS14で機械制御部20aは、加工プログラムに記述された移動位置に対して、ステップS17において補正量決定部20bが決定した交換後補正量だけ補正した位置に第1刃物台27を移動させることで第1工具T1によって棒材Wを加工させる。
【0069】
例えば、求める交換後補正量をY1(μm)として、第1関数がY1=X1-N1(Y1≧0)、交換初期補正量X1が3(μm)である場合、補正量決定部20bは、棒材交換後最初の加工サイクルでは交換初期補正量X1である3(μm)を交換後補正量として決定し、次の加工サイクルでは2(μm)を交換後補正量として決定し、その次の加工サイクルでは1(μm)を交換後補正量として決定し、それ以降の加工サイクルでは交換後補正量を0(μm)に決定する。これらのうち次の加工サイクル以降に実行されるステップS14の加工が、第2加工工程の一例に相当する。すなわち、ステップS17において決定された交換後補正量を用いて実行されるステップS14が、第2加工工程の一例に相当する。なお、第1関数は、求める交換後補正量がゼロ以上になるようにY1≧0に設定されている。ただし、第1関数を用いた演算自体は交換後補正量がマイナスになることを許容し、マイナスである場合には補正量決定部20bが交換後補正量をゼロに決定してもよい。
【0070】
以上説明した旋盤システム1および旋盤システム1の制御方法によれば、第1工具T1の刃先位置と棒材Wとの接触位置の一時的な変化の発生からその後の変化の減少に合わせた量に補正量決定部20bが補正量を決定していくので、旋盤システム1の加工精度の低下が防止される。具体的には、棒材Wを交換することで加工が中断されてNC旋盤2が冷え、第1工具T1の刃先位置と棒材Wの相対位置が連続加工していたときとは一時的にズレてしまい、その後加工が再開されることで徐々にそのズレが解消されていくことに対応して補正量決定部20bが補正量を減少させていくことになるので、棒材Wの交換によって旋盤システム1の加工精度が低下してしまうことを防止できる。
【0071】
続いて、第2実施形態の旋盤システム1について説明する。以下の説明では、これまで説明した構成要素の名称と同じ構成要素、制御および動作には、これまで用いた符号と同じ符号を付して重複する説明は省略することがある。
【0072】
第2実施形態の旋盤システム1の記憶部203には、オペレータによって設定された退避初期補正量およびその補正方向並びに退避後補正量の減少度合いを決定するための第2関数が記憶されている。この第2関数は、交換後のサイクル数などの加工の進行とともに変化する要素の変化量を変数として交換後補正量を求めるものであり、変化量が増加すると交換後補正量が減少するような関数である。なお、第2関数として、N次関数や指数関数などの各種関数をあらかじめ記憶部203に記憶しておき、それらの中からオペレータが所望の関数を選択できるように構成してもよい。その場合、選択した関数に用いる係数などを書き換え可能に構成してもよい。また、退避初期補正量およびその補正方向並びに第2関数は、NC旋盤2の工場出荷時に製造メーカによって設定されたものであってもよい。その場合、退避初期補正量およびその補正方向並びに第2関数は、旋盤操作パネル24の操作および加工プログラムによって書き換え可能に構成されていることが好ましい。
【0073】
図8は、第2実施形態の旋盤システムの動作を示すフローチャートである。このフローチャートは、旋盤システム1のサイクル動作を示している。
【0074】
図8に示すように、補正量決定部20bは、第2制御装置40から受信した信号に基づいて第2制御装置40が振止部材311を退避位置に移動させたか否かを判定する(ステップS31)。この振止部材311を退避位置に移動させる処理が、所定処理の一例に相当する。振止部材311を退避位置に移動させたと判定したら(ステップS31でYES)、補正量決定部20bは、記憶部203に保存されている退避後サイクル数N2をリセットして(ゼロにして)記憶部203に保存する(ステップS32)。そして、補正量決定部20bは、退避直後の加工に用いる初期の補正量である退避初期補正量を記憶部203から取得して退避後補正量として決定する(ステップS33)。この退避初期補正量が第1補正量の一例に相当し、退避後補正量が補正量の一例に相当する。その後、機械制御部20aは、加工プログラムに記述された移動位置に対して、記憶部203に記憶された退避初期補正量の補正方向に退避後補正量だけ補正した位置に第1刃物台27の移動させることで第1工具T1によって棒材Wを加工させる(ステップS34)。換言すれば、機械制御部20aは、補正量決定部20bが決定した退避初期補正量を用いて補正した位置に第1刃物台27を移動させることで棒材Wを加工させる。この退避初期補正量を退避後補正量として用いて行う加工が、第1加工工程の一例に相当する。なお、退避初期補正量の補正方向は、X1軸のプラス方向とX1軸のマイナス方向の何れか一方であり、上述したように記憶部203に記憶されている。
【0075】
ステップS34の加工が完了したら、補正量決定部20bは、退避後サイクル数N2をカウントアップして記憶部203に保存されている退避後サイクル数N2を書き換える(ステップS35)。カウントアップが完了したら、機械制御部20aは、サイクル動作を開始してから、加工プログラムで指定されたサイクル数の加工が完了したか判定する(ステップS36)。指定されたサイクル数の加工が完了していたら(ステップS36でYES)、サイクル動作を終了する。指定されたサイクル数の加工が完了していない場合(ステップS36でNO)はS31に戻る。
【0076】
一方、ステップS31の判定において振止部材311を退避位置に移動させていないと判定したら(ステップS31でNO)、補正量決定部20bは、記憶部203から退避初期補正量と退避後サイクル数N2と第2関数とを取得し、それらを用いて退避後補正量を演算により決定する(ステップS37)。ただし、前のサイクルにおける退避後補正量がゼロである場合には、ステップS37の処理を省略して退避後補正量をゼロにしてもよく、ステップS34で退避後補正量を用いた補正を行わないで加工を実行してもよい。このステップS37において決定した補正量が、第2補正量の一例に相当する。ステップS37で補正量を決定したらステップS34に進む。このステップS34で機械制御部20aは、加工プログラムに記述された移動位置に対して、ステップS37において補正量決定部20bが決定した退避後補正量だけ補正した位置に第1刃物台27を移動させることで第1工具T1によって棒材Wを加工させる。
【0077】
例えば、求める退避後補正量がY2(μm)として、第2関数がY2=X2-N1(Y2≧0)、退避初期補正量X2が3(μm)である場合、補正量決定部20bは、棒材W退避後最初の加工サイクルでは退避初期補正量X2である3(μm)を退避後補正量として決定し、次の加工サイクルでは2(μm)を退避後補正量として決定し、その次の加工サイクルでは1(μm)を退避後補正量として決定し、それ以降の加工サイクルでは退避後補正量を0(μm)に決定する。これらのうち次の加工サイクル以降に実行されるステップS34の加工が、第2加工工程の一例に相当する。すなわち、ステップS37において決定された退避後補正量を用いて実行されるステップS34が、第2加工工程の一例に相当する。なお、第2関数は、求める退避後補正量がゼロ以上になるようにY2≧0に設定されている。ただし、第2関数を用いた演算自体は退避後補正量がマイナスになることを許容し、マイナスである場合には補正量決定部20bが退避後補正量をゼロに決定してもよい。
【0078】
以上説明した第2実施形態の旋盤システム1および旋盤システム1の制御方法によっても、旋盤システム1の加工精度の低下が防止される。具体的には、振止部材311を退避位置に移動させることで振止部材311が振止位置にあるときに対して一時的に棒材Wの振れが増加し、その後の加工において棒材Wの長さが短くなることで徐々に振れが低減されていくことに対応して補正量決定部20bが補正量を減少させていくことになるので、振止部材311を退避位置に移動させたことによって旋盤システム1の加工精度が低下してしまうことを防止できる。
【0079】
続いて、第3実施形態の旋盤システム1について説明する。この第3実施形態の旋盤システム1は、上述した2つの実施形態の動作を同時に実行する例である。
【0080】
記憶部203には、交換初期補正量およびその補正方向並びに第1関数に加え、退避初期補正量およびその補正方向並びに第2関数が記憶されている。
【0081】
図9は、第3実施形態の旋盤システムの動作を示すフローチャートである。
【0082】
図9に示すように、第3実施形態の旋盤システム1の補正量決定部20bは、ステップS11~S13またはステップS11とS17の次にステップS31~S33またはステップS31とS37を実行することで交換後補正量と退避後補正量の両方を決定する。
【0083】
そして、機械制御部20aは、交換後補正量と退避後補正量とから合計補正量を演算する。この合計補正量が、補正量の一例に相当する。ここで、機械制御部20aは、交換初期補正量の補正方向と退避初期補正量の補正方向が同一方向である場合は交換後補正量と退避後補正量を加算することで合計補正量を演算する。そして、機械制御部20aは、加工プログラムに記述された移動位置に対して、その補正方向に合計補正量だけ補正した位置に第1刃物台27を移動させることで第1工具T1によって棒材Wを加工させる。逆に交換初期補正量の補正方向と退避初期補正量の補正方向が逆方向である場合、機械制御部20aは、交換初期補正量と退避初期補正量のうち大きい方から小さい方を減算して合計補正量を演算する。そして、機械制御部20aは、加工プログラムに記述された移動位置に対して、交換初期補正量と退避初期補正量のうち大きい方の補正方向に合計補正量だけ補正した位置に第1刃物台27を移動させることで第1工具T1によって棒材Wを加工させる。(以上、ステップS54)。
【0084】
ステップS54の加工が完了したら、補正量決定部20bは、交換後サイクル数N1をカウントアップして記憶部203に保存されている交換後サイクル数N1を書き換える(ステップS15)。また、補正量決定部20bは、退避後サイクル数N2をカウントアップして記憶部203に保存されている退避後サイクル数N2を書き換える(ステップS35)。それぞれのカウントアップが完了したら、機械制御部20aは、サイクル動作を開始してから、加工プログラムで指定されたサイクル数の加工が完了したか判定する(ステップS16)。指定されたサイクル数の加工が完了していたら(ステップS16でYES)、サイクル動作を終了する。指定されたサイクル数の加工が完了していない場合(ステップS16でNO)はS11に戻る。
【0085】
以上説明した第3の実施形態の旋盤システム1および旋盤システム1の制御方法においても、上述した2つの実施形態と同様に旋盤システム1の加工精度の低下が防止される。また、棒材Wを交換したこと及び振止部材311を退避位置に移動させたことの両方に対して旋盤システム1の加工精度が低下してしまうことを防止できる。
【0086】
本発明は上述の実施形態に限られることなく特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変形を行うことができる。例えば、本実施形態では、補正量決定部20bは、第1刃物台27のX1軸方向の移動位置を補正する補正量を決定するものであったが、第1刃物台27のY1軸方向の移動位置を補正する補正量を決定するものであってもよい。また、補正量決定部20bは、第2刃物台29に取り付けられた第2工具T2の刃先位置と、背面主軸28に把持された切断済み部分との相対位置の補正量を決定するものであってもよい。すなわち、補正量決定部20bは、背面主軸28のX2軸方向またはZ2軸方向の移動位置若しくは第2刃物台29のY2軸方向の移動位置を補正する補正量を決定するものであってもよい。その場合、背面主軸28が主軸の一例に相当し、第2刃物台29が刃物台の一例に相当し、第2工具T2が加工工具の一例に相当する。
【0087】
また、本実施形態では、加工サイクルごとに補正量を減少させる例を示したが、補正量決定部20bは、加工時間(加工開始後の経過時間)を計測してその経過に応じて補正量を減少させるものであってもよい。または、補正量決定部20bは、第1工具T1の選択ごとに補正量を減少させるものであってもよい。若しくは、補正量決定部20bは、送り矢44の前進量に応じて補正量を減少させものであってもよい。すなわち、加工の進行とともに変化する要素の変化量とは、サイクル数であってもよく、加工時間であってもよく、第1工具T1の選択回数であってよく、送り矢44の前進量であってもよい。補正量決定部20bは、加工の進行とともに変化する要素の変化量に対して、補正量を階段状に減少させるものであってもよく曲線状に変化させるものであってもよく直線状に変化に減少させるものであってよい。またさらに、機械制御部20aは、補正量決定部20bが決定した補正量に工具摩耗補正などの他の補正を加味した補正位置に第1刃物台27を移動させることで第1工具T1によって棒材Wを加工させるものであってもよい。
【0088】
加えて、本実施形態では、ガイドブッシュ26を備え主軸25がZ1軸方向に移動するNC旋盤2を備えた旋盤システム1に本発明を適用する例で説明したが、主軸25がZ1軸方向に移動するもののガイドブッシュ26がないNC旋盤2を備えた旋盤システム1に本発明を適用してもよい。また、主軸25がZ1軸方向に移動不能に固定されたNC旋盤2を備えた旋盤システム1に本発明を適用してもよい。
【0089】
なお、以上説明した各実施形態や各変形例の記載それぞれにのみ含まれている構成要件であっても、その構成要件を他の実施形態や他の変形例に適用してもよい。
【符号の説明】
【0090】
1 旋盤システム(工作機械システム)
20a 機械制御部
20b 補正量決定部
25 主軸
T1 第1工具T1(加工工具)
W 棒材
図1
図2
図3
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図5
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図8
図9