(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077459
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】X線回折測定装置、及び、位置決め治具
(51)【国際特許分類】
G01N 23/20008 20180101AFI20240531BHJP
G01N 23/20 20180101ALI20240531BHJP
【FI】
G01N23/20008
G01N23/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189572
(22)【出願日】2022-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100176072
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 功
(74)【代理人】
【識別番号】100169225
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 明
(72)【発明者】
【氏名】中原 良太
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA18
2G001CA01
2G001JA01
2G001QA01
(57)【要約】
【課題】X線回折測定におけるX線照射距離を高精度に求める。
【解決手段】測定対象物WにX線を照射する照射端子21と、照射端子21の周囲に設けられ、レーザ光を出力する複数のレーザ発振器22,23,24と、各レーザ発振器22,23,24を、照射端子21との離隔距離d1が互いに略同一の位置において、各レーザ光LR,LG,LBが照射軸Oを向き、各レーザ光LR,LG,LBと照射軸Oとの成す角度であるレーザ出射角度θ
Lが互いに略同一で、レーザ出射角度θ
Lが互いに略同一であることを維持したままレーザ出射角度θ
Lが可変となるようにして支持する支持部材25と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物にX線を照射する照射端子と、
前記照射端子の周囲に設けられ、レーザ光を出力する複数のレーザ発振器と、
各レーザ発振器を、前記照射端子との離隔距離が互いに略同一の位置において、各レーザ光が当該照射軸を向き、各レーザ光と当該照射軸との成す角度であるレーザ出射角度が互いに略同一で、当該レーザ出射角度が互いに略同一であることを維持したまま当該レーザ出射角度が可変となるようにして支持する支持部材と、
を備えるX線回折測定装置。
【請求項2】
各レーザ発振器は三個以上であり、互いに異なる色の前記レーザ光を出力する、
請求項1に記載のX線回折測定装置。
【請求項3】
前記支持部材は、
各レーザ発振器の一部が、各レーザ光がそれぞれ前記照射軸を向くようにして回転自在に取り付けられ、軸心が前記照射軸と一致する環状の内側部材と、
各レーザ発振器の前記一部よりも径方向外側の他部が回転自在に取り付けられ、軸心が前記照射軸と一致する環状の外側部材と、を備え、
前記内側部材及び前記外側部材のうち少なくとも一方が、前記照射軸方向に移動可能である、
請求項1又は2に記載のX線回折測定装置。
【請求項4】
各レーザ発振器は、前記内側部材及び前記外側部材に対して、周方向に移動可能に支持される、
請求項3に記載のX線回折測定装置。
【請求項5】
測定対象物にX線を照射する照射端子の周囲に設けられ、レーザ光を出力する複数のレーザ発振器と、
各レーザ発振器を、前記照射端子との離隔距離が互いに略同一の位置において、各レーザ光が当該照射軸を向き、各レーザ光と当該照射軸との成す角度であるレーザ出射角度が互いに略同一で、当該レーザ出射角度が互いに略同一であることを維持したまま当該レーザ出射角度が可変となるようにして支持する支持部材と、
を備える位置決め治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線回折測定装置、及び、位置決め治具に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に開示されるようなX線回折測定装置は、照射端子から測定対象物に向けてX線を照射し、当該測定対象物にて回折されたX線の回折強度に基づき、当該測定対象物の残留応力等の測定を行う装置である。
【0003】
照射端子から測定対象物に向けてX線を照射する際、照射端子から測定対象物の照射点までの距離(以下、「X線照射距離」と呼称)を求める必要がある。従来のX線回折測定装置にはレーザ変位計が設けられており、このレーザ変位計を用いて測定対象物までの距離を測定していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
照射端子から照射されるX線は、測定対象物に対して垂直に入射することが望ましい。一方で、レーザ変位計においても、測定対象物に対して垂直にレーザ光を入射させることが望ましい。そのため、照射端子とレーザ変位計は、測定対象物に対する望ましい設置箇所が重なってしまう。
【0006】
したがって従来は、ロボットにX線回折測定装置を取り付けることで、X線回折測定装置を移動可能とし、例えば、下記1~4の手順によりX線回折測定を行っていた。
1:測定対象物の真上にレーザ変位計が位置するように、X線回折測定装置を配置する。
2:レーザ変位計を用いて測定対象物までの距離を測定し、これをX線照射距離と見做す。
3:測定対象物の真上に照射端子が位置するように、ロボット制御によりX線回折測定装置を平行移動させる。
4:照射端子からX線を照射しX線回折測定を行う。
【0007】
しかしながら、このような手順では、レーザ変位計を用いて測定対象物までの距離を求めてから照射端子によってX線を照射するまでの間に、X線回折測定装置を移動させるため、X線照射距離の測定に誤差が生じる恐れがあった。
【0008】
上記課題に鑑み、本発明では、X線照射距離を高精度に求めることができるX線回折測定装置、及び、位置決め治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の第一態様に係るX線回折測定装置は、測定対象物にX線を照射する照射端子と、前記照射端子の周囲に設けられ、レーザ光を出力する複数のレーザ発振器と、各レーザ発振器を、前記照射端子との離隔距離が互いに略同一の位置において、各レーザ光が当該照射軸を向き、各レーザ光と当該照射軸との成す角度であるレーザ出射角度が互いに略同一で、当該レーザ出射角度が互いに略同一であることを維持したまま当該レーザ出射角度が可変となるようにして支持する支持部材と、を備える。
【0010】
また、本発明の第二態様では、各レーザ発振器は三個以上であり、互いに異なる色の前記レーザ光を出力する。
【0011】
また、本発明の第三態様では、前記支持部材は、各レーザ発振器の一部が、各レーザ光がそれぞれ前記照射軸を向くようにして回転自在に取り付けられ、軸心が前記照射軸と一致する環状の内側部材と、各レーザ発振器の前記一部よりも径方向外側の他部が回転自在に取り付けられ、軸心が前記照射軸と一致する環状の外側部材と、を備え、前記内側部材及び前記外側部材のうち少なくとも一方が、前記照射軸方向に移動可能である。
【0012】
また、本発明の第四態様では、各レーザ発振器は、前記内側部材及び前記外側部材に対して、周方向に移動可能に支持される。
【0013】
また、本発明の第五態様に係る位置決め治具は、測定対象物にX線を照射する照射端子の周囲に設けられ、レーザ光を出力する複数のレーザ発振器と、各レーザ発振器を、前記照射端子との離隔距離が互いに略同一の位置において、各レーザ光が当該照射軸を向き、各レーザ光と当該照射軸との成す角度であるレーザ出射角度が互いに略同一で、当該レーザ出射角度が互いに略同一であることを維持したまま当該レーザ出射角度が可変となるようにして支持する支持部材と、を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るX線回折測定装置、及び、位置決め治具によれば、X線照射距離を高精度に求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係るX線回折測定装置の全体斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るX線回折測定装置の概略的上面図である。
【
図4A】第一のレーザ出射角度としたレーザ発振器を示す概略図である。
【
図4B】第二のレーザ出射角度としたレーザ発振器を示す概略図である。
【
図5A】各レーザ発振器から出力されたレーザ光の測定対象物の測定面における重複部分の面積が最大の状態を示す模式図である。
【
図5B】各レーザ発振器から出力されたレーザ光の測定対象物の測定面における重複部分の面積が最大でない状態を示す模式図である。
【
図5C】各レーザ発振器から出されたレーザ光が照射軸に対して垂直ではなく傾いた測定面に出力された状態を示す模式図である。
【
図6】本実施形態に係るX線回折測定装置によるX線回折測定までの手順を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。なお、説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては極力同一の符号を付して、重複する説明は適宜省略する。
【0017】
≪構成≫
図1は、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」と記載)に係るX線回折測定装置1の全体斜視図である。
図1に示すように、X線回折測定装置1は、X線回折測定装置本体10、及び、位置決め治具11を主要部として備えている。
【0018】
X線回折測定装置本体10は、X線が照射された測定対象物Wにて回折されたX線の回折強度を測定(X線回折測定)する装置である。X線回折測定装置本体10は、先端側に照射端子21を備えている。また、位置決め治具11は、X線回折測定装置本体10の下方に配置される。
【0019】
照射端子21は、下方に向けてX線を照射する。なお、
図1中に一点鎖線で示した照射軸Oは、照射端子21から照射されるX線の光軸を示す仮想線を指している。
【0020】
X線回折測定装置1は、測定対象物Wの上方に位置決め治具11が位置するようにして配置される。X線回折測定時には、照射端子21から測定対象物Wの測定面W1に対してX線を照射する。
【0021】
また、位置決め治具11は、第一レーザ発振器22、第二レーザ発振器23、第三レーザ発振器24、及び、支持部材25を主要部として備えている。
【0022】
第一レーザ発振器22、第二レーザ発振器23、第三レーザ発振器24は、照射端子21の周囲に設けられ、それぞれレーザ光LR、レーザ光LG、レーザ光LBを出力するものである。
【0023】
本実施形態では、第一レーザ発振器22は赤色のレーザ光LRを出力し、第二レーザ発振器23は緑色のレーザ光LGを出力し、第三レーザ発振器24は青色のレーザ光LBを出力するものとする。
【0024】
図2は、本実施形態に係るX線回折測定装置1の概略的上面図であり、
図3は、
図2のIII-III断面矢視図である。
【0025】
図2に示すように、支持部材25は、内側部材25A及び外側部材25Bを備えている。また、図示していないが、内側部材25A及び外側部材25Bは、別体の部材に支持されている。
【0026】
図3に示すように、支持部材25は、第一レーザ発振器22、第二レーザ発振器23、第三レーザ発振器24を、照射端子21との離隔距離d1、及び、照射端子21との離隔方向と照射端子21の照射軸Oとが成す角度である離隔角度θ
dが互いに略同一の位置において支持している。なお、ここでの「略同一」とは、離隔距離d1においては0mm以上1mm以下、離隔角度θ
dにおいては0度以上1度以下であるものとする。
【0027】
また支持部材25は、上記位置において、第一レーザ発振器22、第二レーザ発振器23、第三レーザ発振器24を、レーザ光LR、レーザ光LG、レーザ光LBが、それぞれ照射軸Oを向き、レーザ光LR、レーザ光LG、レーザ光LBと照射軸Oとの成す角度であるレーザ出射角度θLが略同一で、レーザ出射角度θLが互いに略同一であることを維持したままレーザ出射角度θLが可変となるようにして支持している。なお、ここでの「略同一」とは、0度以上1度以下であるものとする。
【0028】
内側部材25Aは、その軸心が照射軸Oと一致する環状の部材である。そして、
図1に示すように、内側部材25Aには、第一レーザ発振器22の一部22Aが、レーザ光LRが照射軸Oを向くようにして回転自在に取り付けられている。
【0029】
また、
図3に示すように、内側部材25Aには、第二レーザ発振器23の一部23Aが、レーザ光LGが照射軸Oを向くようにして回転自在に取り付けられている。さらに、同じく
図3に示すように、内側部材25Aには、第三レーザ発振器24の一部24Aが、レーザ光LBが照射軸Oを向くようにして回転自在に取り付けられている。
【0030】
外側部材25Bは、内側部材25Aよりも径方向外側に設けられ、その軸心が照射軸O(及び内側部材25Aの軸心)と一致する環状の部材である。そして、
図1に示すように、外側部材25Bには、第一レーザ発振器22の一部22Aよりも径方向外側の他部22Bが回転自在に取り付けられている。
【0031】
また、
図3に示すように、外側部材25Bには、第二レーザ発振器23の一部23Aよりも径方向外側の他部23Bが回転自在に取り付けられている。さらに、
図3に示すように、外側部材25Bには、第三レーザ発振器24の一部24Aよりも径方向外側の他部24Bが回転自在に取り付けられている。
【0032】
図4Aは、第一のレーザ出射角度θ
L1とした第二レーザ発振器23を示す概略図である。
図4Bは、第二のレーザ出射角度θ
L2とした第二レーザ発振器23を示す概略図である。なお、以下では第二レーザ発振器23のレーザ出射角度θ
Lについて説明しているが、第一レーザ発振器22のレーザ出射角度θ
L及び第三レーザ発振器24のレーザ出射角度θ
Lについても同様である。
【0033】
図4A及び
図4Bにおいては、内側部材25A及び外側部材25Bの断面を図示している。
図4A及び
図4Bにおいて破線矢印で示すように、外側部材25B(あるいは内側部材25A)は、照射軸O方向に移動可能である。
【0034】
第二レーザ発振器23は、一部23Aが略円筒形状に抉られた凹部となっている。この一部23Aは、内側部材25Aの円形の断面形状よりも大径になっている。また、一部23Aは、図示していないが、内側部材25Aの周方向に沿った形状となっている。そして、この一部23Aには、内側部材25Aが嵌まっている。
【0035】
また、第二レーザ発振器23は、他部23Bが略円筒形状に抉られた凹部となっている。この他部23Bは、外側部材25Bの円形の断面形状よりも大径になっている。また、他部23Bは、図示していないが、外側部材25Bの周方向に沿った形状となっている。そして、この他部23Bには、外側部材25Bが嵌まっている。
【0036】
外側部材25Bが照射軸O方向に移動することができるので、第二レーザ発振器23は、上述のような構成によりレーザ出射角度θLを変化させることができる。
【0037】
図4Aでは、レーザ出射角度θ
Lが第一のレーザ出射角度θ
L1である状態が示されている。この状態から、外側部材25Bを上方(照射端子21に近づく方向)に移動させることで、
図4Bに示すように、レーザ出射角度θ
Lが第二のレーザ出射角度θ
L2(θ
L2<θ
L1)となる。
【0038】
また、第一レーザ発振器22、第二レーザ発振器23、及び、第三レーザ発振器24は、それぞれ同じようにして内側部材25A及び外側部材25Bに支持されていることで、既に説明したとおり、第一レーザ発振器22のレーザ出射角度θLと、第二レーザ発振器23のレーザ出射角度θLと、第三レーザ発振器24のレーザ出射角度θLとは、略同一の角度を保ちつつ可変となる。
【0039】
図5Aは、第一レーザ発振器22から出力されたレーザ光LR、第二レーザ発振器23から出力されたレーザ光LG、第三レーザ発振器24から出力されたレーザ光LBの、測定対象物Wの測定面W1における重複部分Dの面積が、最大の状態を示す模式図である。ただし、
図5Aでは、測定面W1が照射軸Oに対して垂直であるものとする。
【0040】
照射端子21の下方に測定対象物Wを設置し、測定対象物Wに対して第一レーザ発振器22、第二レーザ発振器23、第三レーザ発振器24からそれぞれレーザ光LR、レーザ光LG、レーザ光LBを出力し、
図5Aに示すとおり、測定対象物Wの測定面W1における、レーザ光LR、レーザ光LG、レーザ光LBの重複部分Dの面積が最大となるように、レーザ出射角度θ
Lを調整する。
【0041】
なお、重複部分Dは、測定面W1における照射軸Oが当たる箇所、すなわち照射点O1と一致している。この重複部分Dの面積が最大の状態とは、レーザ光LR、レーザ光LG、レーザ光LBの全ての光軸が、照射点O1と正確に一致していることを表している。
【0042】
赤色のレーザ光LR、緑色のレーザ光LG、青色のレーザ光LBの重複部分Dは白色となるため、作業者は、白色部分の面積が最も大きくなるようにレーザ出射角度θLを調整すればよい。
【0043】
また、重複部分Dの面積が最大となるときのレーザ出射角度θLとX線照射距離dOとの関係を予め求めておく。ただし、X線照射距離dOとは、照射端子21と照射点O1との距離である。
【0044】
なお、上記関係については、内側部材25Aと外側部材25Bの照射軸O方向の離隔距離d2と、X線照射距離dOとの関係としてもよい。
【0045】
そして、実際に重複部分Dの面積が最大となった状態における、第一レーザ発振器22、第二レーザ発振器23、第三レーザ発振器24のレーザ出射角度θL、あるいは、内側部材25Aと外側部材25Bの照射軸O方向の離隔距離d2から、X線照射距離dOを求めることができる。
【0046】
図5Bは、第一レーザ発振器22から出力されたレーザ光LR、第二レーザ発振器23から出力されたレーザ光LG、第三レーザ発振器24から出力されたレーザ光LBの、測定対象物Wの測定面W1における重複部分Dの面積が、最大でない状態を示す模式図である。ただし、
図5Bにおいても、測定面W1が照射軸Oに対して垂直であるものとする。
【0047】
図5Bに示すように、重複部分Dが最大でない場合、測定面W1において重複部分Dからはみ出るレーザ光LR、レーザ光LG、レーザ光LBが大きくなる。つまり、
図5Aに示すような重複部分Dが最大となる状態と比べ、白色の重複部分Dが小さくなり、かつ、その周囲にはみ出した赤色のレーザ光LR、緑色のレーザ光LG、青色のレーザ光LBが大きくなる。したがって、
図5Aの状態と
図5Bの状態とを視認によって区別することができるので、
図5Bの状態となってしまった場合は、レーザ出射角度θ
Lを調整して
図5Aの状態となるようにする。
【0048】
ところで、X線回折測定は、測定面W1が照射軸Oに対して垂直でないと測定誤差が生じる恐れがあるため、X線回折測定の開始前に、X線照射距離dOを測定するとともに、測定面W1が照射軸Oに対して垂直か否かを判断する必要がある。
【0049】
既に説明したように、第一レーザ発振器22、第二レーザ発振器23、第三レーザ発振器24は、照射端子21との離隔距離d1、及び、照射端子21との離隔方向と照射端子21の照射軸Oとが成す角度である離隔角度θ
dが略同一の位置に配置されている。そのため、
図5A及び
図5Bのように、測定面W1が照射軸Oに対して垂直である場合には、レーザ光LR、レーザ光LG、レーザ光LBは、測定面W1において重複部分Dからはみ出した部分の形状が同じになる。
【0050】
図5Cは、レーザ光LR、レーザ光LG、レーザ光LBが、照射軸Oに対して垂直ではなく傾いた測定面W1に出力された状態を示す模式図である。
【0051】
図5Cに示すように、照射軸Oに対して垂直ではない測定面W1に出力されたレーザ光LR、レーザ光LG、レーザ光LBは、測定面W1において重複部分Dからはみ出した部分が互いに異なる形状となる。これを視認することで、測定面W1が照射軸Oに対して垂直か否かを判断することができる。
【0052】
また、
図2には、第一レーザ発振器22、第二レーザ発振器23、第三レーザ発振器24が、内側部材25A及び外側部材25Bにおいて周方向に等間隔の位置に配置された状態を示しているが、第一レーザ発振器22、第二レーザ発振器23、第三レーザ発振器24は、内側部材25A及び外側部材25Bに対して、周方向に固定されているのではなく、周方向に移動可能に支持されているものとする。
【0053】
例えば、第一レーザ発振器22、第二レーザ発振器23、第三レーザ発振器24が、内側部材25A及び外側部材25Bに対して、周方向に固定されているとした場合、測定対象物Wがいびつな形状をしていると、レーザ光LR、レーザ光LG、レーザ光LBが、照射点O1に到達する前に、測定対象物Wの別の箇所に遮られてしまう可能性がある。
【0054】
そのため本実施形態では、第一レーザ発振器22、第二レーザ発振器23、第三レーザ発振器24を(内側部材25A及び外側部材25Bにおける)周方向の位置を調整することで、測定対象物Wがいびつな形状をしていても、レーザ光を測定対象物Wの別の箇所に遮られてしまうことなく照射点O1に到達させることができる。
【0055】
≪測定手順≫
X線回折測定装置1によるX線回折測定までの手順を、
図6のフローチャートを用いて説明する。なお、以下のステップはあくまでも一例であり、その順番及び内容は、適宜変更することができる。
【0056】
(ステップSP1)
作業者が、レーザ出射角度θLとX線照射距離dOとの関係、あるいは、離隔距離d2とX線照射距離dOとの関係を、予め求めておく。ただしこの関係については、計算ソフトを用いて計算することで求めてもよく、あるいは、作業者が実際にレーザ出射角度θLを変えながらX線照射距離dOを測定することで求めてもよい。
【0057】
(ステップSP2)
作業者が、実際に測定する測定対象物Wを設置し、測定対象物Wの上方に位置決め治具11が位置するようにして、X線回折測定装置1を配置する。
【0058】
(ステップSP3)
第一レーザ発振器22、第二レーザ発振器23、及び、第三レーザ発振器24が、測定面W1に向けて、それぞれレーザ光LR、レーザ光LG、レーザ光LBを出力する。
【0059】
(ステップSP4)
作業者が、測定対象物Wの測定面W1における、レーザ光LR、レーザ光LG、レーザ光LBの重複部分Dの面積が最大となるように、外側部材25B(あるいは内側部材25A)を移動させてレーザ出射角度θLを調整する。
【0060】
(ステップSP5)
作業者が、測定面W1が照射軸Oに対して垂直であるか否かを判断する。すなわち、レーザ光LR、レーザ光LG、レーザ光LBの、測定面W1における重複部分Dからはみ出した部分の形状が同じであれば、測定面W1が照射軸Oに対して垂直であると判断し、当該部分が同じでなければ垂直でないと判断する。垂直でない場合(No)はステップSP6へ移行し、垂直である場合(Yes)はステップSP7へ移行する。
【0061】
(ステップSP6)
作業者が、測定対象物W又はX線回折測定装置1の配置を調整する。調整後、再度ステップSP4へ移行する。
【0062】
(ステップSP7)
作業者が、ステップSP1で求めた関係と、実際に重複部分Dの面積が最大となった状態の第一レーザ発振器22、第二レーザ発振器23、第三レーザ発振器24のレーザ出射角度θL、あるいは、離隔距離d2から、X線照射距離dOを求める。
【0063】
(ステップSP8)
X線回折測定装置1の照射端子21からX線を測定面W1の照射点O1へ照射し、X線回折測定を行う。
【0064】
≪作用効果≫
本実施形態に係るX線回折測定装置1は、測定対象物WにX線を照射する照射端子21と、照射端子21の周囲に設けられ、レーザ光を出力する複数のレーザ発振器22,23,24と、各レーザ発振器22,23,24を、照射端子21との離隔距離d1が互いに略同一の位置において、各レーザ光LR,LG,LBが照射軸Oを向き、各レーザ光LR,LG,LBと照射軸Oとの成す角度であるレーザ出射角度θLが互いに略同一で、レーザ出射角度θLが互いに略同一であることを維持したままレーザ出射角度θLが可変となるようにして支持する支持部材25と、を備える。
これにより本実施形態では、照射端子21の下方に測定対象物Wを設置し、測定対象物Wに対して複数のレーザ発振器22,23,24からそれぞれレーザ光LR,LG,LBを出力し、測定対象物Wの測定面W1における、レーザ光LR、レーザ光LG、レーザ光LBの重複部分Dの面積が最大となるときのレーザ出射角度θLから、実際のX線照射距離dOを求める。そして、そこからX線回折測定装置1を移動させずに、照射端子21から測定面W1にX線を照射し、X線回折測定を行う。
したがって本実施形態では、従来のように、レーザ変位計を用いて測定対象物Wまでの距離を求めてから照射端子によってX線を照射するまでの間に、X線回折測定装置を移動させる必要がないため、X線照射距離を高精度に求めることができる。
【0065】
また本実施形態では、レーザ発振器は三個以上であり、互いに異なる色のレーザ光を出力する。
これにより本実施形態は、測定対象物Wの測定面W1における各レーザ光同士の重複部分Dに色の変化が現れるので、重複部分Dの面積が最大であるか否かを容易に判断することができる。したがって、レーザ出射角度θLあるいは離隔距離d2を高精度に求めることができ、X線照射距離をより高精度に求めることができる。
さらに、測定面W1に対して、三以上の方向からレーザ光が重複して当たるようにすることができるので、測定面W1が照射端子21に対して傾斜している場合、各レーザ光が測定面W1において重複部分Dからはみ出した部分が、必ず異なる形状となる。そのため、これを視認することで、測定面W1が照射軸Oに対して垂直か否かを判断することができる。
なお従来は、別途用意した水平器を用いて、まず、レーザ変位計のレーザが測定対象物Wに垂直に入射するように互いの角度を調整し、さらに、ロボット制御によりX線回折測定装置を移動した後、照射端子の照射軸が測定面に対して垂直となるように、互いの角度を調整しており手間がかかっていた。
すなわち、本実施形態では、従来に比べて測定面W1が照射軸Oに対して垂直か否かの判断を容易に行うことができる。
【0066】
また本実施形態では、支持部材25は、各レーザ発振器22,23,24の一部22A,23A,24Aが、各レーザ光LR,LG,LBがそれぞれ照射軸Oを向くようにして回転自在に取り付けられ、軸心が照射軸Oと一致する環状の内側部材25Aと、各レーザ発振器22,23,24の一部22A,23A,24Aよりも径方向外側の他部22B,23B,24Bが回転自在に取り付けられ、軸心が照射軸Oと一致する環状の外側部材25Bと、を備え、内側部材25A及び外側部材25Bのうち少なくとも一方が、照射軸O方向に移動可能である。
これにより本実施形態では、簡便な構成で、各レーザ発振器22,23,24のレーザ出射角度θLを可変にすることができる。また、レーザ光LR、レーザ光LG、レーザ光LBの重複部分Dの面積が最大となるときの、内側部材25Aと外側部材25Bの照射軸O方向の離隔距離d2から、実際のX線照射距離dOを求めることができる。
【0067】
また本実施形態では、各レーザ発振器22,23,24は、内側部材25A及び外側部材25Bに対して、周方向に移動可能に支持される。
これにより本実施形態では、各レーザ発振器22,23,24の(内側部材25A及び外側部材25Bにおける)周方向の位置を調整することで、測定対象物Wがいびつな形状をしていても、各レーザ光LR,LG,LBを、測定対象物Wの別の箇所に遮られてしまうことなく照射点O1に到達させることができる。
【0068】
また本実施形態に係る位置決め治具11は、測定対象物WにX線を照射する照射端子21の周囲に設けられ、レーザ光LR,LG,LBを出力する複数のレーザ発振器22,23,24と、各レーザ発振器22,23,24を、照射端子21との離隔距離d1が互いに略同一の位置において、各レーザ光LR,LG,LBが照射軸Oを向き、各レーザ光LR,LG,LBと照射軸Oとの成す角度であるレーザ出射角度θLが互いに略同一で、レーザ出射角度θLが互いに略同一であることを維持したままレーザ出射角度θLが可変となるようにして支持する支持部材25と、を備える。
これにより本実施形態では、従来のように、レーザ変位計を用いて測定対象物Wまでの距離を求めてから照射端子によってX線を照射するまでの間に、X線回折測定装置を移動させる必要がないため、X線照射距離を高精度に求めることができる。
【0069】
≪変形例≫
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。すなわち、上述した具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。また、上記実施形態及び下記変形例が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【0070】
例えば、上記実施形態では、第一レーザ発振器22は赤色のレーザ光LRを出力し、第二レーザ発振器23は緑色のレーザ光LGを出力し、第三レーザ発振器24は青色のレーザ光LBを出力するものとしたが、これらは、それぞれ別の色の組み合わせとしてもよく、あるいは、一部又は全部のレーザ光の色を同じにしてもよい。ただし、各レーザ光は互いに異なる色とした方が、重複部分Dを容易に視認することができるので好ましい。
【0071】
また、上記実施形態では、第一レーザ発振器22、第二レーザ発振器23、及び、第三レーザ発振器24の三つのレーザ発振器を備えるものとしたが、レーザ発振器は複数であればいくつであってもよい。ただし、上記実施形態において説明したごとく、レーザ発振器を三個以上とすることで、測定面W1が照射軸Oに対して垂直か否かの判断を容易に行うことができる。
【0072】
また、支持部材25は環状でなくともよい。例えば、内側部材が、照射軸Oを挟んで互いに平行に配される二本の直線状部材、外側部材が、照射軸Oを挟んで、かつ内側部材よりも照射軸Oから離れた位置において、互いに平行に配される二本の直線状部材であるものとしてもよい。
その場合は、内側部材における一方の直線状部材と外側部材における一方の直線状部材が一方のレーザ発振器を支持し、内側部材における他方の直線状部材と外側部材における他方の直線状部材が他方のレーザ発振器を支持する。
ただし、このように設定した場合、レーザ発振器を内側部材及び外側部材の延伸方向(上記実施形態中における周方向に相当)に移動させてしまうと、レーザ光が照射軸Oから外れてしまうので、当該移動はできないことになる。
【0073】
また、支持部材25は、外側部材25B(あるいは内側部材25A)が照射軸O方向に移動可能であるものとしたが、内側部材25A及び外側部材25Bの両方が照射軸O方向に移動可能としてもよい。
ただし、その場合は、レーザ出射角度θLや離隔距離d2が決まっても、X線照射距離dOが一つに定まらない状態が起こり得るため、照射軸O方向における内側部材25Aと外側部材25Bの可動域について限定するのが好ましい。
すなわち、当該可動域については、内側部材25Aが最も照射端子21側にある状態の位置が、外側部材25Bが最も照射端子21から離れた状態の位置と等しいか、あるいはそれよりも照射端子21から離れているものとする。
【0074】
また、上記実施形態では、レーザ出射角度θLが、レーザ光LR、レーザ光LG、レーザ光LBと照射軸Oとの成す角度であるものとしたが、これに代えて、レーザ光LR、レーザ光LG、レーザ光LBの水平方向や鉛直方向からの傾斜角度とする等、レーザ光LR、レーザ光LG、レーザ光LBの傾きを特定することができれば適宜変更可能である。
【0075】
また、上記実施形態では、重複部分Dが最大か否かを作業者が視認するものとしているが、カメラによって測定面W1を撮影し、撮影された重複部分Dが最大か否かをコンピュータによって判断するものとしてもよい。
【0076】
また、上記実施形態では、作業者が、重複部分Dの面積が最大となるように、外側部材25B(あるいは内側部材25A)を移動させてレーザ出射角度θLを調整するものとしたが、これをロボット制御により自動化してもよい。
【符号の説明】
【0077】
1…X線回折測定装置、10…X線回折測定装置本体、11…位置決め治具、21…照射端子、22…第一レーザ発振器、23…第二レーザ発振器、24…第三レーザ発振器、25…支持部材、25A…内側部材、25B…外側部材