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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077475
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】冷凍野菜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23B 7/04 20060101AFI20240531BHJP
   A23B 7/00 20060101ALI20240531BHJP
   A23B 7/06 20060101ALI20240531BHJP
   A23B 7/005 20060101ALI20240531BHJP
   A23L 3/37 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
A23B7/04
A23B7/00
A23B7/06
A23B7/005
A23L3/37 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189599
(22)【出願日】2022-11-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.口頭発表 2-1.集会名:食品開発展2022 2-2.発表タイトル:見てキレイ、食べておいしい!冷凍食品の品質改善 2-3.発表日:令和4年10月13日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.口頭発表 2-1.集会名:食品開発展2022 2-2.発表タイトル:見てキレイ、食べておいしい!冷凍食品の品質改善 2-3.発表日:令和4年10月13日
(71)【出願人】
【識別番号】390028897
【氏名又は名称】阪本薬品工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】市邊 愛佳
(72)【発明者】
【氏名】稲岡 知和
(72)【発明者】
【氏名】村井 卓也
【テーマコード(参考)】
4B022
4B169
【Fターム(参考)】
4B022LA05
4B022LB02
4B022LJ01
4B022LJ04
4B169AA01
4B169CA04
4B169HA06
4B169KA10
4B169KB03
4B169KC18
4B169KC32
(57)【要約】
【課題】野菜を冷凍し解凍する工程での食感の悪化やドリップを抑制し、その結果冷凍野菜の品質を向上することのできる、冷凍野菜の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明では、加熱処理をした野菜を冷凍し冷凍野菜を製造する方法であって、グリセリンと無機塩類の水溶液の存在下において、野菜を加熱処理するブランチング工程と、該野菜を冷凍する工程を含む方法であり、下式により計算される冷凍処理野菜の破断時の応力ひずみ曲線における冷解凍後の見かけの弾性率の比が40%以内であることを特徴とする冷凍野菜の製造方法を提供することで上記課題を解決する。
弾性率の比(%)=(1-冷解凍後の弾性率/ブランチング処理後の野菜の弾性率)×100
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱処理をした野菜を冷凍し冷凍野菜を製造する方法であって、グリセリンと無機塩類の水溶液の存在下において、野菜を加熱処理するブランチング工程と、該野菜を冷凍する工程を含む方法であり、下式により計算される冷凍処理野菜の破断時の応力ひずみ曲線における冷解凍後の見かけの弾性率の比が40%以内であることを特徴とする冷凍野菜の製造方法。
弾性率の比(%)=(1-冷解凍後の弾性率/ブランチング処理後の野菜の弾性率)×100
【請求項2】
前記ブランチング工程において、グリセリンを1~15重量%、無機塩類を0.05~5重量%含有する水溶液を用いることを特徴とする請求項1に記載の冷凍野菜の製造方法。
【請求項3】
前記ブランチング工程において、野菜を80℃以上にて1分以上ボイルし、-18℃以下で冷凍することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の冷凍野菜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍野菜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍野菜は保存がきき、手軽に調理できることから、様々な種類の冷凍野菜が販売されている。これに伴い、昨今では冷凍野菜の品質の向上が求められている。
【0003】
しかし、冷凍野菜では冷凍時に氷結晶が生成し、細胞を破壊することで食感が悪くなる。また、冷凍中に粗大化した氷結晶は解凍時に水分として分離するため、問題となっている。
【0004】
冷凍前に添加剤を含む溶液にて処理することで冷凍による品質劣化を防止する方法が検討されており、例えば冷凍前の糖類や澱粉を主成分とする食品に、α,α-トレハロースを添加する方法(特許文献1)が開示されている。しかし、この方法は糖類や澱粉を主成分とする食品が対象であり、効果は限定的である。
【0005】
さらに、尿素を含む溶液に野菜類を浸漬させる方法(特許文献2)が提案されている。しかし、この方法では尿素溶液の処理に時間がかかる。
【0006】
有機酸モノグリセリドを含有する分散液の存在下において、野菜を加熱処理する方法(特許文献3)が開示されているものの、ラメラ構造体を調製するために好ましい温度が70℃以下であり、ブランチングによって酵素を失活させるには時間がかかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001-169766号公報
【特許文献2】特開2001-224304号公報
【特許文献3】特開2017-042160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明では、野菜を冷凍し解凍する工程における食感の悪化とドリップの発生を抑制し、冷凍野菜の品質を向上することのできる、冷凍野菜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、加熱処理をした野菜を冷凍し冷凍野菜を製造する方法であって、グリセリンと無機塩類の水溶液の存在下において、野菜を加熱処理するブランチング工程と、該野菜を冷凍する工程を含む方法であり、下式により計算される冷凍処理野菜の破断時の応力ひずみ曲線における冷解凍後の見かけの弾性率の比が40%以内であることを特徴とする冷凍野菜の製造方法を提供することで上記課題を解決する。
弾性率の比(%)=(1-冷解凍後の弾性率/ブランチング処理後の野菜の弾性率)×100
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、グリセリンと無機塩類を添加した水溶液をブランチング工程に使用することでグリセリンが野菜に浸透し、一般家庭の冷凍庫で長期間保管しても食感が悪化せず、ドリップ量が抑制されるため品質の高い冷凍野菜を提供することができる。さらに、ブランチング工程における加熱温度を80~100℃とすることで、調味液等に浸漬させる工程を必要とせず、冷凍野菜の製造工程が煩雑にならない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0012】
本発明の実施の形態の冷凍野菜の製造方法は、加熱処理された野菜を冷凍する方法であって、グリセリンと無機塩類を含む水溶液で野菜を加熱処理した後、野菜を冷凍することを特徴とする。
【0013】
本発明の製造方法で用いられる野菜は、限定されないが、例えば、果菜類、根菜類、葉菜類、茎菜類、花菜類、発芽野菜等が挙げられ、果菜類としては、例えば、ナス、トマト、ピーマン、シシトウ、トウガラシ、キュウリ、ズッキーニ、カボチャ、エンドウ、インゲン、ソラマメ、トウモロコシ、オクラ等が挙げられる。根菜類としては、例えば、ジャガイモ、ダイコン、カブ、ニンジン、サツマイモ、サトイモ、ゴボウ、ハス等が挙げられる。葉菜類としては、例えば、キャベツ、ハクサイ、レタス、シュンギク、ホウレンソウ、コマツナ、チンゲンサイ、ミズナ、ニラ等が挙げられる。茎菜類としては、例えば、アスパラガス、タマネギ、ネギ、ニンニク、ショウガ、フキノトウ等が挙げられる。花菜類としては、例えば、ブロッコリー、カリフラワー、ミョウガ、フキノトウ等が挙げられる。発芽野菜としては、例えば、もやし、かいわれ大根、豆苗等が挙げられる。
【0014】
これらのうち、特に優れた冷凍野菜の食感改良効果やドリップ抑制効果が得られる観点から、根菜類、果菜類、茎菜類が好ましく、根菜類が特に好ましい。
【0015】
本発明に係る冷凍野菜は、加熱処理、急速冷凍の工程で製造される。加熱処理は、お湯を用いて行う浸漬処理やボイル処理、蒸気処理、マイクロ波加熱等のブランチング工程のことで、野菜の酵素を不活性化させて保存中の変質や変色を防ぐことを目的に行われる。また、必要に応じて加熱処理前に洗浄、皮むき、面取り、その他不要部の除去を施す前処理を行っても良い。
【0016】
前処理として、根菜類は泥や土が付着している場合が多いため、水道水で表面をよく洗い、布やペーパータオル等で水分を拭き取る。また、必要に応じて、皮を剥いたり、ひげ根を取ったり、面取りを行う。
【0017】
また、野菜は適用する調理や野菜の形に合わせて適当な大きさに切断する。この際、加熱処理時の熱を均一にかけるため、大きさや切り方を統一するようにする。
【0018】
本発明に係るブランチングに用いる水溶液は、グリセリンを含有する。グリセリンは、他のトレハロース等の糖類や糖アルコールとは異なり、低分子物質のため細胞内に浸透することができる。グリセリンが浸透することにより凝固点が降下するため、氷晶の生成が抑制されると考えられる。
【0019】
本発明に係るブランチングに用いる水溶液は、無機塩類を含有する。無機塩類としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウムが挙げられる。これらのいずれか1種又は2種以上の組み合わせを用いることができる。また、乳酸カルシウム、酢酸カルシウムなどの有機塩類を併用しても良い。
【0020】
本発明に係るブランチングに用いる水溶液は、グリセリンを好ましくは1~15質量%含有し、より好ましくは5~10重量%含有し、無機塩類を好ましくは0.05~5質量%含有し、より好ましくは0.1~3重量%含有する。
【0021】
本発明の製造方法に係るブランチング工程において、該野菜を加熱する温度は、野菜への水溶液の浸透の観点から、好ましくは60℃以上、より好ましくは80℃以上で処理することが望ましい。該水溶液の量は、該野菜の全体を浸漬させることができる量であればよい。処理時間は、該野菜の大きさ、水溶液の温度等に応じて変更することができるが、好ましくは1分以上、より好ましくは3分以上処理する。この時、より高温で水溶液を処理するほど、より短い時間で浸透させることができる。例えば、80~90℃の水溶液であれば、処理時間は、好ましくは3~10分であり、より好ましくは3~5分であり得る。あるいは、90℃以上の水溶液であれば、処理時間は、好ましくは1~3分であり、より好ましくは2~3分であり得る。加熱処理した野菜は水溶液から取り出し、乾燥しないように室温まで冷却する。
【0022】
本発明の製造方法に係る急速冷凍工程においては、-30℃以下にて1時間以上冷凍する。その後、-18℃以下で保存してもよい。
【0023】
本発明で提供される冷凍野菜は、該冷凍野菜のみ包装してもよいが、他の食材を含めて調理加工し包装してもよい。他の食材の種類は特に限定されない。
【0024】
本発明の製造方法で製造された冷凍野菜は、使用の際に解凍処理を施す。この解凍処理としては、例えば、常温解凍、低温解凍、流水解凍等の緩慢解凍であってもよく、マイクロ波加熱解凍等の急速解凍であってもよい。
【実施例0025】
以下、実施例に基づいて本発明を説明する。
なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0026】
<実施例1>
ニンジンを水洗いし、皮を剥き、1cm角の立方体となるように包丁で切断した。表1の実施例1に示すようにグリセリン10重量%と塩化ナトリウム0.9重量%を含有する水溶液を調製し、90℃で保温した。カットしたニンジンを入れて3分間加熱した後、網杓子でニンジンを掬って水を切り、紙製シートの上に移して30分間放冷した。-30℃で1時間急速冷凍した後、ラップでニンジンを包み、ポリエチレン製のチャック袋に入れて-20℃で24時間冷凍した。解凍は、25℃のインキュベーターに30分間入れ行った。
【0027】
<実施例2、3>
水溶液に無機塩類として塩化カリウムや塩化カルシウムを配合したこと以外は、実施例1と同様にして冷凍野菜を製造した。
【0028】
<実施例4>
水溶液において塩化ナトリウムの配合量を0.1重量%に変えたこと以外は、実施例1と同様にして冷凍野菜を製造した。
【0029】
<実施例5>
水溶液においてグリセリンの配合量を5重量%に変えたこと以外は、実施例1と同様にして冷凍野菜を製造した。
【0030】
<比較例1>
水溶液にグリセリンも無機塩類も配合しなかったこと以外は、実施例1と同様にして冷凍野菜を製造した。
【0031】
<比較例2>
水溶液に無機塩類を配合せず、有機塩類として乳酸ナトリウムを配合したこと以外は、実施例1と同様にして冷凍野菜を製造した。
【0032】
<比較例3>
水溶液においてグリセリンの配合量を20重量%に変えたこと以外は、実施例1と同様にして冷凍野菜を製造した。
【0033】
<比較例4>
ブランチング工程において加熱温度と時間を60℃、2時間に変えたこと以外は、実施例1と同様にして冷凍野菜を製造した。
【0034】
実施例1~5と比較例1~4の冷凍野菜について食感とドリップ抑制効果を評価し、結果を表1に示した。
【0035】
<食感の評価方法>
(弾性率)
レオメーター(レオテック製)にくさび型のアダプタを取り付け、テーブルスピード6cm/minとし冷凍ニンジンを破断した。破断時の荷重(N/cm)を破断歪率で除した傾きを弾性率とし、冷解凍後の荷重勾配を測定した。弾性率が大きいものほど食感が良好であると考えられ、冷凍処理によって弾性率は低下する。冷凍前の野菜の状態が最も良い食感を示すと考え、比較例1のブランチング処理直後の野菜の弾性率を基準とした。冷解凍後の弾性率を用いて、下記式(1)にしたがって冷解凍による弾性率の比を算出した。
弾性率の比(%)=(1-冷解凍後の弾性率/ブランチング処理後の野菜の弾性率)×100 ・・・(1)
【0036】
(官能評価)
7人の熟練したパネラーが以下の基準に従って食感を評価した。
[食感の評価基準]
◎:ニンジン特有の歯ごたえがあり、食感がとてもよい
○:ニンジン特有の歯ごたえが残り、食感がよい
△:ニンジン特有の歯ごたえはなく、食感が悪い
×:スポンジのように軟らかく、食感がとても悪い
【0037】
<ドリップの評価方法>
解凍後のニンジンを破断し、破断前後の重量差からドリップ量を算出した。
[ドリップ抑制効果の評価基準]
◎:破断前のニンジンの重量に対しドリップ量が9%未満
○:破断前のニンジンの重量に対しドリップ量が9%以上13%未満
△:破断前のニンジンの重量に対しドリップ量が13%以上20%未満
×:破断前のニンジンの重量に対しドリップ量が20%以上
【0038】
【表1】
【0039】
本発明に係るグリセリンと無機塩類からなる水溶液でブランチング処理した実施例1~5の冷凍野菜は、食感が向上しており、かつドリップも抑制されていた。一方、グリセリンおよび無機塩類を添加していない比較例1、無機塩類に替えて有機塩類を添加した比較例2、弾性率の比が40%よりも大きい比較例3および比較例4では、食感、ドリップの抑制効果のいずれかもしくは両方の評価が好ましくない結果となった。