(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007750
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】測距装置及び測距方法
(51)【国際特許分類】
G01S 7/4913 20200101AFI20240112BHJP
G01S 17/34 20200101ALI20240112BHJP
G01C 3/06 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
G01S7/4913
G01S17/34
G01C3/06 120Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022109041
(22)【出願日】2022-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】飯山 宏一
【テーマコード(参考)】
2F112
5J084
【Fターム(参考)】
2F112AD01
2F112BA06
2F112CA12
2F112DA09
2F112DA25
2F112DA28
2F112DA30
2F112DA40
2F112EA20
2F112FA07
2F112FA33
2F112FA43
5J084AA05
5J084BA04
5J084BA22
5J084BA36
5J084BA45
5J084BA51
5J084BB14
5J084BB21
5J084BB24
5J084BB31
5J084BB40
5J084CA08
5J084CA27
5J084CA31
5J084CA48
5J084CA49
5J084CA70
5J084DA01
5J084DA08
5J084DA09
5J084EA11
(57)【要約】
【課題】光源からのレーザ光の光周波数が時間に対して非線形である場合でも、距離測定性能の低下を抑制することができる測距装置等を提供する。
【解決手段】測距装置1は、周波数が掃引されたレーザ光を生成するレーザ光源10と、レーザ光が分岐された2つのレーザ光のうちの一方のレーザ光が対象物によって反射された反射光と、他方のレーザ光とを干渉させて測定干渉信号として出力する測定干渉計30と、入射した測定干渉信号の強度を示す測定検出信号を出力する光検出器41と、レーザ光が分岐された他の2つのレーザ光のそれぞれに異なる遅延時間を与えて干渉させて補助干渉信号として出力する補助干渉計50と、入射した補助干渉信号の強度を示す補助検出信号を出力する光検出器42と、測定検出信号のビート周波数に基づく値と、補助検出信号のビート周波数に基づく値とを除算することで、距離Lを算出する信号処理部70とを備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式によって対象物までの距離を測定する測距装置であって、
周波数が掃引されたレーザ光を生成するレーザ光源と、
前記レーザ光源からの前記レーザ光が分岐された2つのレーザ光のうちの一方のレーザ光が前記対象物によって反射された反射光と、前記2つのレーザ光のうちの他方のレーザ光とを干渉させて測定干渉信号として出力する測定干渉計と、
前記測定干渉信号が入射され、入射した前記測定干渉信号の強度を示す測定検出信号を出力する第1検出器と、
前記レーザ光源からの前記レーザ光が分岐された他の2つのレーザ光のそれぞれに異なる遅延時間を与えて干渉させて補助干渉信号として出力する補助干渉計と、
前記補助干渉信号が入射され、入射した前記補助干渉信号の強度を示す補助検出信号を出力する第2検出器と、
前記測定検出信号のビート周波数に基づく第1の値と、前記補助検出信号のビート周波数に基づく第2の値とを除算することで、前記距離を算出する算出部とを備える
測距装置。
【請求項2】
前記第1の値は、前記測定検出信号の瞬時ビート周波数であり、
前記第2の値は、前記補助検出信号の瞬時ビート周波数であり、
前記算出部は、前記測定検出信号及び前記補助検出信号それぞれの瞬時ビート周波数を除算することで、前記距離を算出する
請求項1に記載の測距装置。
【請求項3】
前記測定検出信号の瞬時ビート周波数をfBs、前記補助検出信号の瞬時ビート周波数をfBa、前記補助干渉計が有する2つの光ファイバの屈折率をna、前記補助干渉計の前記2つの光ファイバの長さの差をLa、前記距離をLとすると、前記Lは以下の式を用いて算出される
L=(fBs/(2×fBa))×na×La (式)
請求項2に記載の測距装置。
【請求項4】
前記測定検出信号を、当該測定検出信号の瞬時ビート周波数に比例した電圧に変換する第1F-V変換部と、
前記補助検出信号を、当該補助検出信号の瞬時ビート周波数に比例した電圧に変換する第2F-V変換部とをさらに備え、
前記第1の値は、前記第1F-V変換部により変換された電圧であり、
前記第2の値は、前記第2F-V変換部により変換された電圧であり、
前記算出部は、前記第1F-V変換部により変換された電圧と、前記第2F-V変換部により変換された電圧とを除算することで、前記距離を算出する
請求項1に記載の測距装置。
【請求項5】
前記レーザ光源は、前記対象物が移動している場合と、前記対象物が停止している場合とで、前記レーザ光の周波数を同一の掃引率で掃引する
請求項1~4のいずれか1項に記載の測距装置。
【請求項6】
前記測定検出信号及び前記補助検出信号のそれぞれをデジタル信号に変換するAD変換部をさらに備え、
前記算出部は、デジタル信号に変換された前記測定検出信号及び前記補助検出信号をデジタル処理することで、前記距離を算出する
請求項1~4のいずれか1項に記載の測距装置。
【請求項7】
FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式によって対象物までの距離を測定する測距方法であって、
周波数が掃引されたレーザ光を生成し、
前記レーザ光が分岐された2つのレーザ光のうちの一方のレーザ光が前記対象物によって反射された反射光と、前記2つのレーザ光のうちの他方のレーザ光とを干渉させて測定干渉信号として出力し、
前記測定干渉信号が入射され、入射した前記測定干渉信号の強度を示す測定検出信号を出力し、
前記レーザ光が分岐された他の2つのレーザ光のそれぞれに異なる遅延時間を与えて干渉させて補助干渉信号として出力し、
前記補助干渉信号が入射され、入射した前記補助干渉信号の強度を示す補助検出信号を出力し、
前記測定検出信号のビート周波数に基づく第1の値と、前記補助検出信号のビート周波数に基づく第2の値とを除算することで、前記距離を算出する
測距方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave:周波数連続変調)方式によって対象物までの距離を測定する測距装置及び測距方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、対象物までの距離を測定する測距装置として、FMCW方式の装置(例えば、FMCWレーダ)が知られている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
FMCW方式の測距装置では、半導体レーザが光源に用いられることが多い。半導体レーザは、注入電流を三角波又はのこぎり波で変調することにより、周波数掃引している。しかしながら、現実的には、半導体レーザの光周波数応答は電流変化に対して遅れるため、レーザ光の光周波数が時間に対して非線形となり、測距装置の距離測定性能が低下することがある。
【0005】
そこで、本開示は、光源からのレーザ光の光周波数が時間に対して非線形である場合でも、距離測定性能の低下を抑制することができる測距装置及び測距方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一形態に係る測距装置は、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式によって対象物までの距離を測定する測距装置であって、周波数が掃引されたレーザ光を生成するレーザ光源と、前記レーザ光源からの前記レーザ光が分岐された2つのレーザ光のうちの一方のレーザ光が前記対象物によって反射された反射光と、前記2つのレーザ光のうちの他方のレーザ光とを干渉させて測定干渉信号として出力する測定干渉計と、前記測定干渉信号が入射され、入射した前記測定干渉信号の強度を示す測定検出信号を出力する第1検出器と、前記レーザ光源からの前記レーザ光が分岐された他の2つのレーザ光のそれぞれに異なる遅延時間を与えて干渉させて補助干渉信号として出力する補助干渉計と、前記補助干渉信号が入射され、入射した前記補助干渉信号の強度を示す補助検出信号を出力する第2検出器と、前記測定検出信号のビート周波数に基づく第1の値と、前記補助検出信号のビート周波数に基づく第2の値とを除算することで、前記距離を算出する算出部とを備える。
【0007】
本開示の一形態に係る測距方法は、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式によって対象物までの距離を測定する測距方法であって、周波数が掃引されたレーザ光を生成し、前記レーザ光が分岐された2つのレーザ光のうちの一方のレーザ光が前記対象物によって反射された反射光と、前記2つのレーザ光のうちの他方のレーザ光とを干渉させて測定干渉信号として出力し、前記測定干渉信号が入射され、入射した前記測定干渉信号の強度を示す測定検出信号を出力し、前記レーザ光が分岐された他の2つのレーザ光のそれぞれに異なる遅延時間を与えて干渉させて補助干渉信号として出力し、前記補助干渉信号が入射され、入射した前記補助干渉信号の強度を示す補助検出信号を出力し、前記測定検出信号のビート周波数に基づく第1の値と、前記補助検出信号のビート周波数に基づく第2の値とを除算することで、前記距離を算出する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、光源からのレーザ光の光周波数が時間に対して非線形である場合でも、距離測定性能の低下を抑制することができる測距装置等を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、従来例に係る測距装置の構成を示す概略図である。
【
図2】
図2は、レーザ光の光周波数の理想的な変化を示す図である。
【
図3】
図3は、
図2に示すレーザ光から生成される干渉信号波形を示す図である。
【
図4】
図4は、レーザ光の光周波数の実際の変化を示す図である。
【
図5】
図5は、
図4に示すレーザ光から生成される干渉信号波形を示す図である。
【
図6】
図6は、実施の形態に係る測距装置の構成を示す概略図である。
【
図7】
図7は、実施の形態に係る測距装置の動作を示すフローチャートである。
【
図8C】
図8Cは、検出信号x(t)及びr(t)の瞬時ビート周波数を示す図である。
【
図9】
図9は、実施の形態の変形例に係る測距装置の構成を示す概略図である。
【
図10】
図10は、実施の形態の変形例に係る測距装置の動作を示すフローチャートである。
【
図11】
図11は、実施の形態の変形例に係るF-V変換回路から出力される信号を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示に至った経緯)
本開示の説明に先立ち、本開示に至った経緯について、
図1~
図5を参照しながら説明する。
図1は、従来例に係る測距装置100の構成を示す概略図である。
図2は、レーザ光の光周波数の理想的な変化を示す図である。
図2は、参照光及び信号光の周波数と時間との理想的な関係を示している。
図3は、
図2に示すレーザ光から生成される干渉信号波形を示す図である。以下では、レーザ光源110から出射されるレーザ光の光周波数が時間に対して線形であり、測定対象Pは固定されている例について説明する。なお、本明細書において、理想的とは、レーザ光の光周波数が時間に対して線形である(レーザ光の光周波数が対称三角波で掃引されている)ことを意味する。測定対象Pは、対象物の一例である。
【0011】
図1に示すように、測距装置100は、レーザ光源110と、ビームスプリッタ120と、鏡130と、光検出器140と、信号処理部150とを備える。ビームスプリッタ120と、鏡130との間の距離は既知である。また、測距装置100は、測定対象Pまでの距離を測定する。測定対象Pまでの距離は、鏡130までの距離より長いとする。測定対象Pまでの距離を対象距離とも記載し、鏡130までの距離を基準距離とも記載する。
【0012】
レーザ光源110からのレーザ光がビームスプリッタ120により分配され、鏡130及び測定対象Pそれぞれに出射される。そして、ビームスプリッタ120から出射され鏡130で反射した参照光と、当該ビームスプリッタ120から出射され測定対象Pで反射した信号光とがビームスプリッタ120に入射する。
図2に示すように、基準距離より対象距離が長いので、信号光は、往復の伝搬遅延時間τだけ参照光より遅れた信号となる。往復の伝搬遅延時間τは、参照光が光検出器140に到着するタイミングと、信号光が光検出器140に到達するタイミングとの時間差を示す。
【0013】
レーザ光の光周波数が時間に対して線形である場合、信号光及び参照光も光周波数が時間に対して線形となる。つまり、どの光周波数をとっても、参照光と信号光との往復の伝搬遅延時間τは同一の値となる。
【0014】
ビームスプリッタ120に入射した参照光及び信号光が干渉した干渉信号が、ビームスプリッタ120から光検出器140に出力される。
図3に示すように、干渉信号は交流信号となり、その交流信号の周波数(ビート周波数fB)が一定である干渉信号がビームスプリッタ120から出力される。ビート周波数fBは、測定対象Pまでの距離に比例した周波数となる。
【0015】
光検出器140は、ビームスプリッタ120から出力された干渉信号の強度を検出し、ビート信号の強度を示す検出信号(電気信号)を信号処理部150に出力する。
【0016】
信号処理部150は、検出信号を周波数解析することで測定対象Pまでの距離を算出する。参照光及び信号光の光周波数が
図2に示すように時間に対して線形である場合、ビート周波数fBと測定対象Pまでの距離Lとの間には、以下の(式1)~(式3)の関係式が成り立つ。
【0017】
fB=γ×τ=(4×fm×ΔF/c)×L (式1)
γ=ΔF/(1/(2×fm))=2×fm×ΔF (式2)
τ=(2×L)/c (式3)
【0018】
なお、γは光周波数の掃引率(Hz/s)であり、fmは周波数掃引の繰り返し周波数(Hz)であり、△Fは周波数掃引幅の最大値(Hz)であり、cは光速(およそ3×108m/s)である。
【0019】
「発明が解決しようとする課題」でも説明したように、半導体レーザ(半導体レーザ素子)の光周波数応答は電流変化に対して遅れるため、レーザ光の光周波数が時間に対して非線形となる。つまり、レーザ光の光周波数が対称三角波で掃引されない。レーザ光源110が備える半導体レーザに注入電流を流すと、温度上昇により屈折率が変化することで波長(周波数)が変化するが、半導体レーザの温度が徐々にしか上昇しないために起こる現象である。また、半導体レーザの温度が冷えるときも同様のことが言える。
【0020】
図4は、レーザ光の光周波数の実際の変化を示す図である。
図5は、
図4に示すレーザ光から生成される干渉信号波形を示す図である。
【0021】
図4に示すように、レーザ光の光周波数が時間に対して非線形である場合、信号光及び参照光も光周波数が時間に対して非線形となる。つまり、光周波数によって、参照光と信号光との往復の伝搬遅延時間τが異なる値となる。
【0022】
図5に示すように、レーザ光の光周波数が時間に対して非線形である場合、信号光及び参照光の干渉信号のビート周波数fB1及びfB2も時間ごとに異なってしまう。高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform:FFT)処理は、干渉信号のビート周波数が時間ごとに変化しないことが前提の処理であるので、時間ごとにビート周波数が異なると正確な距離を算出することができない。
【0023】
波長掃引の非線形性を補正する手法として、距離測定用の干渉計(測定干渉計)とは別の補助干渉計を設ける手法が提案されている。この手法をハードウェア的に実現したのがk-サンプリング法であり、ソフトウェア的に実現したのがリサンプリング法である。しかしながら、k-サンプリング法では、測定距離に制限があり、リサンプリング法では、計算量が増えるという課題がある。
【0024】
そこで、本願発明者は、k-サンプリング法及びリサンプリング法以外の方法で、光源からの光の光周波数が時間に対して非線形である場合でも、距離測定性能の低下を抑制することができる測距装置及び測距方法について鋭意検討し、以下に示す測距装置及び測距方法を創案した。
【0025】
本開示の一態様に係る測距装置は、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式によって対象物までの距離を測定する測距装置であって、周波数が掃引されたレーザ光を生成するレーザ光源と、前記レーザ光源からの前記レーザ光が分岐された2つのレーザ光のうちの一方のレーザ光が前記対象物によって反射された反射光と、前記2つのレーザ光のうちの他方のレーザ光とを干渉させて測定干渉信号として出力する測定干渉計と、前記測定干渉信号が入射され、入射した前記測定干渉信号の強度を示す測定検出信号を出力する第1検出器と、前記レーザ光源からの前記レーザ光が分岐された他の2つのレーザ光のそれぞれに異なる遅延時間を与えて干渉させて補助干渉信号として出力する補助干渉計と、前記補助干渉信号が入射され、入射した前記補助干渉信号の強度を示す補助検出信号を出力する第2検出器と、前記測定検出信号のビート周波数に基づく第1の値と、前記補助検出信号のビート周波数に基づく第2の値とを除算することで、前記距離を算出する算出部とを備える。
【0026】
第1の値及び第2の値は、同一のレーザ光に基づく値であるので、第1の値及び第2の値にはレーザ光の光周波数が時間に対して非線形であること(掃引率の変動)の影響が同程度含まれ得る。第1の値及び第2の値を除算することで、光周波数が時間に対して非線形であることの影響を取り除くことができる。つまり、レーザ光の光周波数が時間に対して非線形であることが距離の算出に影響を与えなくなる。よって、測距装置は、光源からのレーザ光の光周波数が時間に対して非線形である場合でも、距離測定性能の低下を抑制することができる。
【0027】
また、例えば、前記第1の値は、前記測定検出信号の瞬時ビート周波数であり、前記第2の値は、前記補助検出信号の瞬時ビート周波数であり、前記算出部は、前記測定検出信号及び前記補助検出信号それぞれの瞬時ビート周波数を除算することで、前記距離を算出してもよい。また、例えば、前記測定検出信号の瞬時ビート周波数をfBs、前記補助検出信号の瞬時ビート周波数をfBa、前記補助干渉計が有する2つの光ファイバの屈折率をna、前記補助干渉計の前記2つの光ファイバの長さの差をLa、前記距離をLとすると、前記Lは以下の式を用いて算出されてもよい。
【0028】
L=(fBs/(2×fBa))×na×La (式)
【0029】
これにより、測距装置は、2つの瞬時ビート周波数を除算するだけで、距離を算出することができる。
【0030】
また、例えば、前記測定検出信号を、当該測定検出信号の瞬時ビート周波数に比例した電圧に変換する第1F-V変換部と、前記補助検出信号を、当該補助検出信号の瞬時ビート周波数に比例した電圧に変換する第2F-V変換部とをさらに備え、前記第1の値は、前記第1F-V変換部により変換された電圧であり、前記第2の値は、前記第2F-V変換部により変換された電圧であり、前記算出部は、前記第1F-V変換部により変換された電圧と、前記第2F-V変換部により変換された電圧とを除算することで、前記距離を算出してもよい。
【0031】
これにより、FFT処理などの複雑な処理を行うことなく、電圧を除算するだけで距離を算出できるので、信号処理部の処理量を削減することができる。つまり、測距装置は、処理を高速化することができる。
【0032】
また、例えば、前記レーザ光源は、前記対象物が移動している場合と、前記対象物が停止している場合とで、前記レーザ光の周波数を同一の掃引率で掃引してもよい。
【0033】
これにより、測距装置は、対象物が移動している場合でも回路負荷及び処理量を増加させることなく、距離を算出することができる。
【0034】
また、例えば、前記測定検出信号及び前記補助検出信号のそれぞれをデジタル信号に変換するAD変換部をさらに備え、前記算出部は、デジタル信号に変換された前記測定検出信号及び前記補助検出信号をデジタル処理することで、前記距離を算出してもよい。
【0035】
これにより、デジタル処理により距離を算出することができる。
【0036】
また、本開示の一態様に係る測距方法は、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式によって対象物までの距離を測定する測距方法であって、周波数が掃引されたレーザ光を生成し、前記レーザ光が分岐された2つのレーザ光のうちの一方のレーザ光が前記対象物によって反射された反射光と、前記2つのレーザ光のうちの他方のレーザ光とを干渉させて測定干渉信号として出力し、前記測定干渉信号が入射され、入射した前記測定干渉信号の強度を示す測定検出信号を出力し、前記レーザ光が分岐された他の2つのレーザ光のそれぞれに異なる遅延時間を与えて干渉させて補助干渉信号として出力し、前記補助干渉信号が入射され、入射した前記補助干渉信号の強度を示す補助検出信号を出力し、前記測定検出信号のビート周波数に基づく第1の値と、前記補助検出信号のビート周波数に基づく第2の値とを除算することで、前記距離を算出する。
【0037】
これにより、上記測距装置と同様の効果を奏する。
【0038】
なお、これらの全般的または具体的な態様は、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラムまたはコンピュータで読み取り可能なCD-ROM等の非一時的記録媒体で実現されてもよく、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラムまたは記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。プログラムは、記録媒体に予め記憶されていてもよいし、インターネット等を含む広域通信網を介して記録媒体に供給されてもよい。
【0039】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0040】
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的又は具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0041】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。したがって、例えば、各図において縮尺などは必ずしも一致しない。また、各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0042】
また、本明細書において、同一などの要素間の関係性を示す用語、並びに、数値、及び、数値範囲は、厳格な意味のみを表す表現ではなく、実質的に同等な範囲、例えば数%程度(例えば、10%程度)の差異をも含むことを意味する表現である。
【0043】
(実施の形態)
以下、本実施の形態に係る測距装置及び測距方法について、
図6~
図8Dを参照しながら説明する。
【0044】
[1.測距装置の構成]
まず、本実施の形態に係る測距装置の構成について、
図6を参照しながら説明する。
図6は、本実施の形態に係る測距装置1の構成を示す概略図である。測距装置1は、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式によって測定対象Pまでの距離Lを測定する装置である。なお、測定対象Pまでの距離Lとは、例えば、光ファイバコリメータ30aから測定対象Pまでの距離Lである。
【0045】
図1に示すように、測距装置1は、レーザ光源10と、発振器11と、光分岐部20と、測定干渉計30と、光検出器41、42と、補助干渉計50と、AD(Analog to Digital)変換器60(
図6中のADC)と、信号処理部70と、表示部80とを備える。なお、
図6に示す各構成要素は、光ファイバにより接続されている(
図6の黒線)。また、遅延ファイバ52a及び通常ファイバ52b以外の光ファイバの符号は、便宜上省略している。
【0046】
レーザ光源10は、規定された掃引波長範囲及び掃引率(掃引速度)でレーザ光の波長を掃引する。レーザ光源10は、例えば、半導体素子への注入電流が三角波で変調されることにより、周波数掃引を行う。波長の掃引は単発でもよく、所定の周期での繰返し掃引でもよい。また、掃引方向は短波長から長波長への掃引である例について説明するが、長波長から短波長への掃引であってもよい。
【0047】
発振器11は、制御信号に基づいて、レーザ光源10に対して供給する注入電流を変調する。これにより、レーザ光源10は、時間的に周波数掃引されたFM(Frequency Modulated:周波数変調)光(レーザ光)を発生することになるが、レーザ光の光周波数は、時間に対して非線形となる。
【0048】
光分岐部20は、レーザ光源10からのレーザ光を2つに分岐し、測定干渉計30と補助干渉計50とにそれぞれ出力する。光分岐部20は、例えば、光カプラにより実現される。光分岐部20により分岐された2つのレーザ光は、例えば、強度及び位相が実質的に等しい光である。例えば、分岐された2つのレーザ光は、距離の測定に影響がない程度に強度及び位相がズレていてもよい。
【0049】
測定干渉計30は、レーザ光源10からのレーザ光が分岐された2つのレーザ光のうちの一方のレーザ光が測定対象Pによって反射された信号光(反射光)と、当該2つのレーザ光のうちの他方のレーザ光である参照光とを干渉させて測定干渉信号として出力する。測定干渉計30は、例えば、レーザ光源10からのレーザ光の一部を測定対象Pに向けて出射し当該測定対象Pの反射で得られた信号光と、レーザ光源10からのレーザ光の別の一部(
図6に示す参照光)とを干渉させて干渉信号(測定干渉信号)を生成し、生成した干渉信号を出力する。測定干渉計30は、光カプラ31、33と、光サーキュレータ32とを有する。干渉信号は、ビート信号とも称される。
【0050】
光カプラ31は、光分岐部20からのレーザ光を2つに分岐し、一方のレーザ光を光サーキュレータ32に出力させ、他方のレーザ光(参照光)を光カプラ33に出力する。光カプラ31により分岐された2つのレーザ光は、例えば、強度及び位相が実質的に等しい光である。
【0051】
光サーキュレータ32は、光カプラ31からのレーザ光を光ファイバコリメータ30a側に透過させる。透過されたレーザ光は、光ファイバコリメータ30aにより測定対象Pに向けて出射される。また、光サーキュレータ32は、測定対象Pで反射され光ファイバコリメータ30aを通過した信号光を光カプラ33側に透過させる。
【0052】
光カプラ33は、光カプラ31からの参照光と光サーキュレータ32からの信号光とを合波して、光検出器41に出力する。つまり、光カプラ33は、参照光と信号光とから干渉信号を生成し、光検出器41に出力する。ここでの干渉信号は、レーザ光の非線形性の影響を含む信号であり、例えば、
図5に示すような時間ごとにビート周波数fBが変化する干渉信号となり得る。光検出器41に入力される干渉信号のビート周波数(瞬時ビート周波数)は、第1の値の一例である。
【0053】
このように、測定干渉計30は、入力されたレーザ光を2つに分岐し、内部で干渉させて、測定対象Pまでの距離Lによる光路差に相当する干渉信号を出力する。
【0054】
光検出器41、42は、受光素子であり、入射した信号(ここでは干渉信号)の強度を示す検出信号(電気信号)に変換し、AD変換器60に出力する。光検出器41、42は、光の強度に比例した電流又は電圧を出力する。光検出器41は、第1検出器の一例であり、測定干渉計30で合波された干渉信号を示す検出信号x(t)をAD変換器60に出力し、光検出器42は、第2検出器の一例であり、補助干渉計50で合波された干渉信号を示す検出信号r(t)をAD変換器60に出力する。
【0055】
光検出器41、42は、例えばフォトダイオードである。フォトダイオードは応答速度が速く、連続して測定する場合(例えば、測定対象Pの2次元形状を測定する場合など)に適している。なお、光検出器41、42は、フォトダイオードに限定されることはない。光検出器41、42は、干渉信号を検出信号に変換できればよいので、イメージセンサ、CCD(Charge Coupled Device)又はCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などでもよく、その他の受光素子でもよい。
【0056】
補助干渉計50は、レーザ光源10からのレーザ光が分岐された他の2つのレーザ光のそれぞれに異なる遅延時間を与えて干渉させて補助干渉信号として出力する。補助干渉計50は、入力されたレーザ光を2つに分岐し、それぞれ異なる遅延時間を与えて合波する。遅延時間を与えるとは、例えば、長さの異なる光ファイバにレーザ光を通過させることにより実現される。本実施の形態では、補助干渉計50は、レーザ光源10からのレーザ光のうち遅延ファイバ52aを経由したレーザ光と、通常ファイバ52bを経由したレーザ光とを干渉させて干渉信号(補助干渉信号)を出力する。補助干渉計50は、光カプラ51、53と、遅延ファイバ52aと、通常ファイバ52bとを有する。
【0057】
光カプラ51は、光分岐部20からのレーザ光を分岐し、一方のレーザ光を遅延ファイバ52aに出力し、他方のレーザ光を通常ファイバ52bに出力する。光カプラ51により分岐された2つのレーザ光は、例えば、強度及び位相が実質的に等しい光である。
【0058】
遅延ファイバ52a及び通常ファイバ52bは、それぞれが光カプラ51及び53に接続されており、2つのレーザ光に光路差を設けるために互いに長さが異なる光ファイバである。遅延ファイバ52aの長さは、通常ファイバ52bの長さより長い。遅延ファイバ52a及び通常ファイバ52bの屈折率は、例えば同じである。
【0059】
光カプラ53は、遅延ファイバ52aからのレーザ光と通常ファイバ52bからのレーザ光とを合波して、光検出器42に出力する。つまり、光カプラ53は、2つのレーザ光から
図5に示すような干渉信号を生成し、光検出器42に出力する。ここでの干渉信号は、レーザ光の非線形性の影響を含む信号であり、例えば、
図5に示すような時間ごとにビート周波数fBが変化する干渉信号となり得る。光検出器42に出力される干渉信号に含まれるレーザ光の非線形性の影響度合いは、光検出器41に出力される干渉信号に含まれるレーザ光の非線形性の影響度合いと同程度である。光検出器42に入力される干渉信号のビート周波数(瞬時ビート周波数)は、第2の値の一例である。
【0060】
このように、補助干渉計50は、入力されたレーザ光を2つに分岐し、それぞれ異なる遅延時間を与えて内部で干渉させて、遅延ファイバ52a及び通常ファイバ52bによる光路差に相当する干渉信号を出力する。
【0061】
AD変換器60は、光検出器41、42から出力された検出信号x(t)、r(t)のそれぞれをデジタル信号に変換し、信号処理部70に出力する。その際、検出信号x(t)、r(t)の周波数成分の2倍より高い周波数でサンプリングを行い、デジタル信号に変換する必要がある。AD変換器60では、例えば、光検出器41からの検出信号x(t)がチャネルch1に入力され、光検出器42からの検出信号r(t)、がチャネルch2に入力される。光検出器41からの検出信号x(t)がデジタル変換された信号を測定デジタル信号とも記載し、光検出器42からの検出信号r(t)がデジタル変換された信号を補助デジタル信号とも記載する。AD変換器60は、A/D変換部の一例である。
【0062】
信号処理部70は、検出信号x(t)のビート周波数(瞬時ビート周波数)に基づく第1の値と、検出信号r(t)のビート周波数(瞬時ビート周波数)に基づく第2の値とを除算することで、距離Lを算出する。信号処理部70は、第1の値から第2の値を除算する。信号処理部70は、第1の値と第2の値との比をとるとも言える。
【0063】
本実施の形態では、信号処理部70は、測定デジタル信号の瞬時ビート周波数と、補助デジタル信号の瞬時ビート周波数とを除算することで、距離Lを算出するデジタル信号処理部(デジタル処理回路)である。距離Lを算出するための2つの瞬時ビート周波数は、同じ時間(同時刻)の瞬時ビート周波数である。具体的には、信号処理部70は、以下の式6を用いて距離Lを算出する。
【0064】
補助デジタル信号のビート周波数fBa(つまり、補助干渉信号のビート周波数)は、以下の式4で算出される。
【0065】
fBa=γ×(na×La)/c (式4)
【0066】
naは、遅延ファイバ52aの屈折率であり、Laは、遅延ファイバ52a及び通常ファイバ52bの長さの差であり、na×Laは遅延ファイバ52a及び通常ファイバ52bの長さの差Laに対応する光路長を示す。また、通常ファイバ52bの屈折率も、遅延ファイバと同様、屈折率naであってもよい。
【0067】
また、測定デジタル信号のビート周波数fBs(つまり、測定干渉信号のビート周波数)は、以下の式5で算出される。
【0068】
fBs=γ×(2L)/c (式5)
【0069】
ここで、式4及び式5の比をとることにより、以下の式6が導出される。
【0070】
L=(fBs/(2×fBa))×na×La (式6)
【0071】
上記の式6において、補助干渉計50における遅延ファイバ52aの屈折率na及び長さLaは既知であるため、2つのビート周波数fBa、fBsの比から距離Lを求めることができる。また、式6には光周波数の掃引率γが含まれていない。これは、光周波数掃引が非線形で掃引率γが時間的に変動していたとしても、その影響はfBa及びfBsの双方に現れるため、その比を取ることで光周波数の掃引率γの変動の影響が除去されることを意味している。その結果、光周波数掃引が非線形であっても、正確な距離測定が可能である。
【0072】
このように、信号処理部70は、式6を用いて距離Lを算出するための情報処理装置である。測定デジタル信号のビート周波数fBsと補助デジタル信号のビート周波数fBaとを算出し、算出されたビート周波数fBa、fBsを式6に代入すること(ビート周波数fBsをビート周波数fBaの2倍で除算すること)で、距離Lを算出する。
【0073】
信号処理部70は、マイクロコントローラ(つまり、プロセッサ及びメモリを備えたIC)で構成されており、プロセッサがメモリに格納されたコンピュータプログラムを実行することにより信号処理部70の各機能が実現される。信号処理部70は、算出部の一例である。
【0074】
表示部80は、信号処理部70により算出された距離Lなどを表示するための表示装置である。表示部80は、例えば、液晶表示装置であるが、これに限定されない。
【0075】
[2.測距装置の動作]
続いて、上記のように構成される測距装置1の動作について、
図7~
図8Dを参照しながら説明する。
図7は、本実施の形態に係る測距装置1の動作(測距方法)を示すフローチャートである。なお、
図7では、遅延ファイバ52aの長さLaが50cmであり、測定対象Pには長さ2mの光ファイバ(つまり、距離L=2m)を用いている。
【0076】
図7に示すように、レーザ光源10は、光周波数が時間的に変化する光(レーザ光)を出射する(S10)。レーザ光は、「本開示に至った経緯」で説明したように、光周波数が時間に対して非線形である。
【0077】
これにより、測定干渉計30及び補助干渉計50のそれぞれに、光周波数が時間に対して非線形なレーザ光が入力される。測定干渉計30に入力されたレーザ光の一部は測定対象Pに向けて出射され、測定干渉計30は、参照光と測定対象Pで反射された信号光とを合波することで、測定干渉信号を生成し、光検出器41に出力する。また、補助干渉計50は、補助干渉計50に入力されたレーザ光のうち遅延ファイバ52aを通過した光と、通常ファイバ52bを通過した光とを合波することで、補助干渉信号を生成し、光検出器42に出力する(S20)。
【0078】
次に、光検出器41は、測定干渉信号を検出し、測定検出信号(検出信号x(t))をAD変換器60に出力し、光検出器42は、補助干渉信号を検出し、補助検出信号(検出信号r(t))をAD変換器60に出力する(S30)。ステップS30で出力される検出信号x(t)及びr(t)は、同一のレーザ光源10からの同時刻に出射されたレーザ光に基づく検出信号である。
【0079】
図8Aは、検出信号x(t)を示す図である。
図8Bは、検出信号r(t)を示す図である。
図8Aは、光検出器41から出力される検出信号x(t)を示し、
図8Bは、光検出器42から出力される検出信号r(t)を示す。
図8Aに示す0.0msと、
図8Bに示す0.0msとは、同時刻である。
【0080】
図8Aに示すように、検出信号x(t)は、ビート周波数fBsが徐々に高くなっており、一定でないことがわかる。
【0081】
図8Bに示すように、検出信号r(t)は、ビート周波数fBaが徐々に高くなっており、一定でないことがわかる。また、検出信号r(t)のビート周波数fBaは検出信号x(t)のビート周波数fBsより低いが、これは光ファイバ長の違い(補助干渉計50は50cm、測定干渉計30では光は往復するので実質的に4m)によるものである。
【0082】
図7を再び参照して、AD変換器60は、検出信号x(t)及びr(t)をAD変換する(S40)。AD変換器60は、AD変換された検出信号x(t)及びr(t)を信号処理部70に出力する。
【0083】
次に、信号処理部70は、AD変換された検出信号x(t)及びr(t)の瞬時ビート周波数を算出する(S50)。信号処理部70は、例えば、AD変換された検出信号x(t)及びr(t)のそれぞれをヒルベルト変換することで、瞬時ビート周波数を算出する。ヒルベルト変換は、1回の演算で高速フーリエ変換と逆高速フーリエ変換(Inverse Fast Fourier Transform:IFFT)とを行う演算処理である。なお、瞬時ビート周波数の算出は、ヒルベルト変換を用いることに限定されず、他の方法で算出されてもよい。
【0084】
図8Cは、検出信号x(t)及びr(t)の瞬時ビート周波数を示す図である。
図8Cの実線は、検出信号x(t)のビート周波数fBsの時間変化を示し、破線は、検出信号r(t)のビート周波数fBaの時間変化を示す。
【0085】
図8Cに示すように、レーザ光源10の光周波数掃引の非線形性により検出信号x(t)及びr(t)の瞬時ビート周波数は大きく変動しており、時間経過とともにビート周波数が高くなっている。
【0086】
なお、
図8C及び
図8Dにおいて、0ms付近及び0.48ms付近の信号は、ヒルベルト変換による位相変化又は瞬時ビート周波数の時間平均により安定していないので、図示を省略している。
【0087】
図7を再び参照して、次に、信号処理部70は、同じ時間(同時刻)ごとに、当該時間の検出信号x(t)及びr(t)の瞬時ビート周波数を除算することで、距離Lを算出する(S60)。信号処理部70は、ビート周波数fBsからビート周波数fBaを除算することで、距離Lを算出する。
【0088】
【0089】
図8Dに示すように、0ms付近及び0.48ms付近以外において、距離Lが2mで一定である。つまり、測定対象Pである光ファイバの長さを測定できていることがわかる。信号処理部70は、算出した距離Lを表示部80に出力する。
【0090】
なお、
図8Dでは複数時間で距離Lを算出した結果を示しているが、距離Lは任意の一時点での距離Lを算出すればよい。
【0091】
図7を再び参照して、次に、表示部80は、信号処理部70からの距離Lを出力する(S70)。具体的には、表示部80は、距離Lを表示する。また、表示部80は、
図8Dに示すグラフを表示してもよい。
【0092】
上記の方法は、比較的測定距離が短く、反射光量が大きな場合に特に有効であり、例えば金属などの加工部品の形状計測には有効であると考えられる。
【0093】
ここで、測定対象Pが移動している場合について説明する。
【0094】
例えば、従来のように、FFT処理から直接ビート周波数fBを算出する場合、掃引率γを高くして、三角波の1周期内では測定対象Pが移動していないと見なして距離Lを算出することが行われるが、掃引率γを高くするので回路負荷が大きくなる。一方、本開示では、測定対象Pが移動している場合、移動に応じて
図8Dに示す距離Lが時間経過とともに変化する、つまり
図8Dに示すグラフが移動に応じたグラフとなるので、掃引率γを高くすることなく、移動している測定対象Pの距離Lを正確に測定可能である。測距装置1は、例えば、測定対象Pが移動している場合と、測定対象Pが停止している場合とで、レーザ光の光周波数を同一の掃引率γで掃引しても、距離Lを精度よく算出することができる。
【0095】
なお、測定対象Pが移動している場合、
図8Cにおける検出信号r(t)のビート周波数fBaは変化せず、
図8Cにおける検出信号x(t)のビート周波数fBsが当該移動に応じて上下に変動することになる。
【0096】
(実施の形態の変形例)
以下では、本変形例に係る測距装置及び測距方法について、
図9~
図11を参照しながら説明する。なお、以下では、実施の形態との相違点を中心に説明し、実施の形態と同一又は類似の内容については説明を省略又は簡略化する。本変形例では、FFT処理などの演算量が多い方法を用いずに距離Lを算出可能な測距装置等について説明する。
【0097】
まず、本実施の形態に係る測距装置の構成について、
図9を参照しながら説明する。
図9は、本変形例に係る測距装置1aの構成を示す概略図である。本変形例に係る測距装置1aは、F-V(周波数-電圧)変換回路91、92を備える点において、実施の形態に係る測距装置1と相違する。
【0098】
図9に示すように、測距装置1aは、実施の形態に係る測距装置1に加えて、光検出器41とAD変換器60との間、及び、光検出器42とAD変換器60との間のそれぞれに、F-V変換回路91、92が接続されている。
【0099】
F-V変換回路91、92は、周波数(ここではビート周波数)を電圧(直流電圧)に変換する回路である。F-V変換回路91、92は、例えば、周波数を電圧に線形変換する。例えば、F-V変換回路91、92は、1kHzの信号が入力されると1Vを出力し、2kHzの信号が入力されると2Vを出力する。なお、出力される電圧は、例えば、アナログ電圧であるが、これに限定されない。
【0100】
F-V変換回路91は、第1F-V変換部の一例であり、検出信号x(t)を、当該検出信号x(t)の瞬時ビート周波数に比例した電圧に変換する。変換された電圧は、第1の値の一例である。
【0101】
F-V変換回路92は、第2F-V変換部の一例であり、検出信号r(t)を、当該検出信号r(t)の瞬時ビート周波数に比例した電圧に変換する。変換された電圧は、第2の値の一例である。
【0102】
これにより、信号処理部70には、横軸が時間であり、縦軸が電圧となる電圧信号が入力される(後述する
図11を参照)。
【0103】
F-V変換回路91、92は、ローパスフィルタなどを含んで構成されるが、これに限定されない。
【0104】
なお、F-V変換回路91、92の特性は同一であってもよいし、異なっていてもよい。例えば、F-V変換回路91、92のゲインは、同一であってもよい。また、信号処理部70が電圧を除算する場合にF-V変換回路91、92のゲインに応じた補正を行う場合、F-V変換回路91、92のゲインは、異なっていてもよい。例えば、F-V変換回路91、92のゲインを調整することで、長さLaにより測距装置1aの測定可能距離(距離L)に制限が加わることを抑制することができる。
【0105】
信号処理部70は、F-V変換回路91により変換された電圧と、F-V変換回路92により変換された電圧とを除算することで、距離Lを算出する。距離Lを算出するための2つの電圧は、同じ時間(同時刻)の電圧である。信号処理部70は、FFT処理などの複雑な処理を行うことなく距離Lを算出することができるので、信号処理部70の処理量を削減することができる。これにより、信号処理部70の処理性能が低くても距離Lを算出可能であるので、測距装置1aのコストを削減することができる。
【0106】
信号処理部70は、例えば、F-V変換回路91からの電圧をVs、F-V変換回路91からの電圧をVaとすると、距離Lは、以下の式7で算出される。
【0107】
L=(Vs/(2×Va))×na×La (式7)
【0108】
続いて、上記のように構成される測距装置1aの動作について、
図10及び
図11を参照しながら説明する。
図10は、本変形例に係る測距装置1aの動作(測距方法)を示すフローチャートである。
図11は、本変形例に係るF-V変換回路91、92から出力される信号を示す図である。なお、
図11においても、0ms付近及び0.48ms付近の信号の図示を省略している。また、
図11に示す信号は、F-V変換回路91、92が、10kHzの信号が入力されると1Vを出力し、20kHzの信号が入力されると2Vを出力するというように、周波数の数値の1万分の1の値を電圧として出力する場合を図示している。
【0109】
F-V変換回路91は、ステップS30の後、光検出器41からの検出信号x(t)を電圧信号に変換し、F-V変換回路92は、光検出器42からの検出信号r(t)を電圧信号に変換する(S110)。
図11の実線は、光検出器41からの検出信号x(t)を電圧変換した信号を示しており、
図11の破線は、光検出器42からの検出信号r(t)を電圧変換した信号を示している。電圧信号に変換された検出信号x(t)及びr(t)は、AD変換器60に出力される。
【0110】
次に、AD変換器60は、電圧信号に変換された検出信号x(t)及びr(t)をAD変換する(S120)。AD変換器60は、AD変換された検出信号x(t)及びr(t)を信号処理部70に出力する。
【0111】
次に、信号処理部70は、電圧変換された検出信号x(t)及びr(t)を除算することで、距離Lを算出する(S130)。信号処理部70は、同じ時間(同時刻)の、検出信号r(t)の電圧値及び検出信号x(t)の電圧値を除算することで、距離Lを算出する。信号処理部70は、検出信号x(t)の電圧値から検出信号r(t)の電圧値を除算することで、距離Lを算出する。
【0112】
このように本変形例では、信号処理部70は、FFT処理など複雑な演算をすることなく、電圧値を除算するだけで距離Lを算出することができる。
【0113】
(その他の実施の形態)
以上、一つまたは複数の態様に係る測距装置等について、実施の形態等に基づいて説明したが、本開示は、この実施の形態等に限定されるものではない。本開示の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したものや、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本開示に含まれてもよい。
【0114】
例えば、上記実施の形態の変形例では、F-V変換回路から出力された信号をAD変換し、デジタル信号同士を除算して距離を算出する例について説明したがこれに限定されず、アナログ信号を除算して距離を算出してもよい。アナログ信号を除算するアナログ信号処理部(例えば、除算器として機能する集積回路IC)によりアナログ信号同士を除算して距離を算出してもよい。アナログ信号処理部は、算出部の一例である。
【0115】
また、上記実施の形態の変形例に係る測距装置は、さらに、光検出器とF-V変換回路との間に、信号を増幅する増幅器(増幅回路)を備えていてもよい。増幅回路は、光検出器からの検出信号を増幅してF-V変換回路に出力する。
【0116】
また、上記実施の形態等に係るレーザ光源は、半導体レーザを有する例について説明したが、これに限定されず、気体レーザ、固体レーザ、光ファイバレーザなどを有していてもよい。
【0117】
また、上記実施の形態等では、レーザ光を分岐するために光カプラを用いる例について説明したが、例えば、ビームスプリッタが用いられてもよいし、他の光学部材が用いられてもよい。ビームスプリッタは、例えば、透過率と反射率とが等しいハーフミラーであるが、これに限定されない。
【0118】
また、上記実施の形態等において、各構成要素は、専用のハードウェアで構成されるか、各構成要素に適したソフトウェアプログラムを実行することによって実現されてもよい。各構成要素は、CPUまたはプロセッサなどのプログラム実行部が、ハードディスクまたは半導体メモリなどの記録媒体に記録されたソフトウェアプログラムを読み出して実行することによって実現されてもよい。
【0119】
また、フローチャートにおける各ステップが実行される順序は、本開示を具体的に説明するために例示するためのものであり、上記以外の順序であってもよい。また、上記ステップの一部が他のステップと同時(並列)に実行されてもよいし、上記ステップの一部は実行されなくてもよい。
【0120】
また、ブロック図における機能ブロックの分割は一例であり、複数の機能ブロックを一つの機能ブロックとして実現したり、一つの機能ブロックを複数に分割したり、一部の機能を他の機能ブロックに移してもよい。また、類似する機能を有する複数の機能ブロックの機能を単一のハードウェア又はソフトウェアが並列又は時分割に処理してもよい。
【0121】
また、上記実施の形態等に係る測距装置は、単一の装置として実現されてもよいし、複数の装置により実現されてもよい。測距装置が複数の装置によって実現される場合、当該測距装置が有する各構成要素は、複数の装置にどのように振り分けられてもよい。また、測距装置が複数の装置で実現される場合、当該複数の装置間の通信方法は、特に限定されず、無線通信であってもよいし、有線通信であってもよい。また、装置間では、無線通信および有線通信が組み合わされてもよい。
【0122】
また、上記実施の形態等で説明した各構成要素は、ソフトウェアとして実現されても良いし、典型的には、集積回路であるLSIとして実現されてもよい。これらは、個別に1チップ化されてもよいし、一部または全てを含むように1チップ化されてもよい。ここでは、LSIとしたが、集積度の違いにより、IC、システムLSI、スーパーLSI、ウルトラLSIと呼称されることもある。また、集積回路化の手法はLSIに限るものではなく、専用回路(専用のプログラムを実行する汎用回路)または汎用プロセッサで実現してもよい。LSI製造後に、プログラムすることが可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)又は、LSI内部の回路セルの接続若しくは設定を再構成可能なリコンフィギュラブル・プロセッサを利用してもよい。更には、半導体技術の進歩または派生する別技術によりLSIに置き換わる集積回路化の技術が登場すれば、当然、その技術を用いて構成要素の集積化を行ってもよい。
【0123】
システムLSIは、複数の処理部を1個のチップ上に集積して製造された超多機能LSIであり、具体的には、マイクロプロセッサ、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などを含んで構成されるコンピュータシステムである。ROMには、コンピュータプログラムが記憶されている。マイクロプロセッサが、コンピュータプログラムに従って動作することにより、システムLSIは、その機能を達成する。
【0124】
また、本開示の一態様は、
図7又は
図10に示される測距方法に含まれる特徴的な各ステップをコンピュータに実行させるコンピュータプログラムであってもよい。
【0125】
また、例えば、プログラムは、コンピュータに実行させるためのプログラムであってもよい。また、本開示の一態様は、そのようなプログラムが記録された、コンピュータ読み取り可能な非一時的な記録媒体であってもよい。例えば、そのようなプログラムを記録媒体に記録して頒布又は流通させてもよい。例えば、頒布されたプログラムを、他のプロセッサを有する装置にインストールして、そのプログラムをそのプロセッサに実行させることで、その装置に、上記各処理を行わせることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本開示は、測定対象までの距離を測定する測距装置等に有用である。
【符号の説明】
【0127】
1、1a 測距装置
10 レーザ光源
11 発振器
20 光分岐部
30 測定干渉計
30a 光ファイバコリメータ
31、33、51、53 光カプラ
32 光サーキュレータ
41 光検出器(第1検出器)
42 光検出器(第2検出器)
50 補助干渉計
52a 遅延ファイバ
52b 通常ファイバ
60 AD変換器(A/D変換部)
70 信号処理部(算出部)
80 表示部
91 F-V変換回路(第1F-V変換回路)
92 F-V変換回路(第2F-V変換回路)
L 距離
La 長さの差
P 測定対象