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特開2024-77557水素産生菌の水素発生量を向上させる組成物
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  • 特開-水素産生菌の水素発生量を向上させる組成物 図1
  • 特開-水素産生菌の水素発生量を向上させる組成物 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077557
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】水素産生菌の水素発生量を向上させる組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20240531BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20240531BHJP
【FI】
A23L33/10
A23L33/135
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022199813
(22)【出願日】2022-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】394021270
【氏名又は名称】MiZ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 文武
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 文平
(72)【発明者】
【氏名】市川 祐介
【テーマコード(参考)】
4B018
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LB10
4B018MD31
4B018MD32
4B018MD49
4B018MD70
4B018MD73
4B018MD77
4B018MD85
4B018MD90
4B018ME06
4B018ME14
(57)【要約】
【課題】水素をより多く産生させるためのクロストリジウム・ブチリカムと食品との組成物を提供する。
【解決手段】
(1)水素を産生させるための組成物であって、フィルミクテスと、食品および/または食品添加物と、から成る組成物である。(2)前記フィルミクテスがクロストリジウム・ブチリカムであることを特徴とする(1)に記載の組成物である。(3)前記食品および/または食品添加物が、鶏がらスープ、デンプン、および/または、米粉を含むことを特徴とする(1)または(2)に記載の組成物である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を産生させるための組成物であって、
フィルミクテスと、
食品および/または食品添加物を含む組成物。
【請求項2】
前記フィルミクテスがクロストリジウム・ブチリカムであることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記食品および/または食品添加物が食肉およびまたは骨の粉末、食肉およびまたは骨の抽出物、糖類、および、米粉から選択される1以上の食品および/または食品添加物を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記食品および/または食品添加物がさらに、アミラーゼ、ガラクトオリゴ糖、還元麦芽糖、および、はちみつから選択される1以上の食品および/または食品添加物をさらに含むことを特徴とする請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物を液体に溶かして液体状にしたことを特徴とする請求項3または4に記載の組成物。
【請求項6】
体温においてより多くの水素を発生させる請求項3または4に記載の組成物。
【請求項7】
前記体温がヒトを含む哺乳類の体温であることを特徴とする請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
ヒトを含む哺乳類によって食されるための請求項3または4に記載の組成物。
【請求項9】
前記フィルミクテスと前記食品および/または食品添加物がヒトを含む哺乳類によって別々に摂取され、胃腸内で混合されることを特徴とする請求項3または4に記載の組成物
【請求項10】
健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、疾病リスク低減表示が付された食品、または病者用食品である、請求項3または4に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素産生菌の水素発生量を向上させる組成物に関する。
本発明はまた、水素産生菌の水素発生量を向上させる組成物を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水素分子が細胞内および細胞のミトコンドリア内部で発生するヒドロキシルラジカルを消去することにより慢性炎症を抑制し、慢性炎症に起因する多くの疾病に対し効果を奏する可能性があることを提唱されている(非特許文献1)。また、腸内には水素産生菌が存在し、腸内の水素産生菌が産生する水素がヒトを含む哺乳類の健康の維持に貢献している可能性があることが知られている(非特許文献2)。
しかしながら、これらの水素産生菌そのものを積極的に外部から摂取して腸内の水素産生菌から産生する水素量を向上させようとする報告はこれまでにない。また、特定の食品および/または食品添加物と共に水素産生菌を摂取ことでより水素産生量を向上させようとする報告もない。また、ただ単に水素産生菌だけを摂取しても、腸内に食物がなければ水素産生菌は水素を発生させることができないという問題もあった。そして、従来の水素ガス吸入機による水素の補給であると、水素を吸入する時間が制限されてしまうという問題もあった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献】Shin-ichi Hirano,Yusuke Ichikawa,Bunpei Sato,Haru Yamamoto,Yoshiyasu Takefuji,Fumitake Satoh“Potential Therapeutic Applications of Hydrogen in Chronic Inflammatory Diseases:Possible Inhibiting Role on Mitochondrial Stress”International Journal of Molecular Science,2021,22,2549
【非特許文献2】Yusuke Ichikawa,Haru Yamamoto,Shin-ichi Hirano,Bunpei Sato,Yoshiyasu Takefuji,Fumitake Satoh“The overlooked benefits of hydrogen-producing bacteria”Medical Gas Research Ahed of print DOI:10.4103/2045-9912.344977
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、水素産生菌の水素発生量を向上させる組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意研究の結果、意外にも、水素産生菌であるクロストリジウム・ブチリカムと特定の食品または食品添加物を共に食するとクロストリジウム・ブチリカムの水素の発生量が跳躍的に向上することを見出した。また、本発明によれば、水素ガス吸入機などを用いずとも、水素産生菌を食品および/または食品添加物と共に摂取することで腸内で水素を摂取した水素産生菌から発生させることができ、また、空腹時に水素産生菌だけを摂取しても水素が発生しない、または、発生しにくいという問題を解決することができる。
従って、本発明は、以下の特徴を包含する。
(1)水素を産生させるための組成物であって、フィルミクテスと、食品および/または食品添加物を含む組成物である。
(2)前記フィルミクテスがクロストリジウム・ブチリカムであることを特徴とする(1)に記載の組成物である。
(3)前記食品および/または食品添加物が、鶏がらスープ、デンプン、および/または、米粉を含むことを特徴とする(1)または(2)に記載の組成物である。
(4)前記食品および/または食品添加物がさらに、ガラクトオリゴ糖、還元麦芽糖、および、はちみつから選択される1以上の食品および/または食品添加物をさらに含むことを特徴とする(1)から(3)のいずれかひとつに記載の組成物である。
(5)前記組成物を液体に溶かして液体状にしたことを特徴とする(1)から(4)のいずれかひとつに記載の組成物である。
(6)体温においてより多くの水素を発生させる(1)から(5)のいずれかひとつに記載の組成物である。
(7)前記体温がヒトを含む哺乳類の体温であることを特徴とする(1)から(6)のいずれかひとつに記載の組成物である。
(8)ヒトを含む哺乳類によって食されるための(1)から(7)のいずれかひとつに記載の組成物である。
(9)前記フィルミクテスと前記食品および/または食品添加物がヒトを含む哺乳類によって別々に摂取され、胃腸内で混合されることを特徴とする(1)から(8)のいずれかひとつに記載の組成物である。
(10)健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、疾病リスク低減表示が付された食品、または病者用食品である、(1)から(9)のいずれかひとつに記載の組成物である。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、水素産生菌の水素発生量を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明をさらに詳細に説明する。
1.水素産生菌
我々人間の大腸にはおよそ100兆もの腸内細菌が1000種類以上存在しているといわれている。そのうち、70%の腸内細菌が水素代謝の酵素であるヒドロゲナーゼを有している水素産生菌であって、炭水化物を代謝して酢酸や酪酸等とともに水素を産生する(3)。メタゲノム調査によれば、ヒト大腸の水素産生菌としては、フィルミクテスとバクテロイデスが支配的で、フィルミクテスが51%、バクテロイデスが41%で両者を合計すると92%に及ぶ。
【0008】
本発明におけるフィルミクテス門とは、細菌の門の一つである。フィルミクテス門は270以上の属が分類されており、細菌の中ではプロテオバクテリア門に次ぐ多様性を持つ。フィルミクテス門におけるクロストリジウム目とは、クロストリジウム綱に属する偏性嫌気性のグラム陽性菌の目である。クロストリジウム目細菌群は、主要な腸内細菌群の一種となっている。クロストリジウム目のなかでも、クロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)は、世界中の様々な地域の土壌や健康な子供や大人の便から培養されている。本発明に係るクロストリジウム・ブチリカムは、そのように培養され市販されている乾燥され粉末や錠剤として市販されているものを用いる事ができる。本発明に用いる事ができるクロストリジウム・ブチリカムとしては、例えば、エースバイオプロダクト株式会社(長野県、日本)の酪酸菌ABP末や、ミヤリサン製薬株式会社(長野県、日本)の強ミヤリサン(商標登録)を用いる事ができるが、これに限定されることはない。本発明におけるクロストリジウム・ブチリカムはヒドロゲナーゼを有していることから水素を産生することができる。
【0009】
本発明における食品および/または食品添加物には、クロストリジウム・ブチリカムの水素産生量を向上させることができるあらゆる食品および/または食品添加物が含まれる。そのような、食品および/または食品添加物には、動物性食物、植物性食物が含まれる。動物性食物としては、牛、豚、鳥、魚の肉や骨、それらを加工またはそれらから抽出して生産された加工食品が含まれる。動物性食物の加工食品には、コンソメ、鶏がら粉末、牛、豚、鳥、魚の肉や骨などから抽出した出汁などが含まれるがこれに限定されることはない。植物性食物とは、野菜、果物、米、海藻、それらを加工またはそれらから抽出して生産された加工食品が含まれる。そのような食品および/または食品添加物としては、粉末化した野菜、粉末化した果物、米粉、米の研ぎ汁、出汁、はちみつを含む糖類、緑茶、ウーロン茶、ジャスミン茶、昆布茶、などのお茶類や牛乳などのミルクを含む。本発明における糖類としては、グルコース、マンノース、ガラクトース、ラクトース、マルトース、スクロース、ラクトース、トレハロース、デキストリン、グリコーゲン、アミロース、デンプン、セルロースなど、一般に食品に含まれている糖が含まれるが、これに限られることはない。
【0010】
さらに、本発明における食品および/または食品添加物には、食塩、香料、酒、人工甘味料、グルタミン酸を含むアミノ酸、タンパク質などが含まれる。本発明に係る組成物は、ヒトのみならず、犬、猫、鳥を含む哺乳類、その他、爬虫類、魚類、昆虫のエサに用いる事ができる。
【0011】
本発明における組成物の形態は、粉末、錠剤、飴、カプセル状のような固体状のものから、水や飲料などの液体に溶かした状態の状態のものを含む。また、これらが商品として販売される場合には、プラスチック、アルミニウム、紙、ペットボトルなどの包装用の素材に包装されて市場に出すことができる。販売の態様としては、市販されている粉末のスープの粉に本発明に係る組成物を含ませて粉末スープとして販売することもできる。クロストリジウム・ブチリカムは80℃では30分、90℃では10分の湿熱条件において全試験菌株が生存し、90℃20分では95%、100℃5分では30%生存することができる。したがって、本発明における組成物を熱湯に溶かしてスープや飲料を作成しても、クロストリジウム・ブチリカムの一部は生存することができ、生きたままヒトや哺乳類の腸内に到達することができる。
【0012】
水素は常温常圧下で約1.6ppm(1.6mg/L)の濃度で水に溶解し、温度による溶解度差が比較的小さいことが知られている。本発明にかかる組成物を溶液状態でペットボトルなどの密閉された容器内で水素を発生させると、容器内が加圧され、ヘンリーの法則によりより多くの水素を溶液に含ませることができる。これらの溶液は飲用食品として供することが可能である。
【0013】
本発明における「水素」は分子状水素(すなわち、気体状水素)であり、特に断らない限り、単に「水素」又は「水素ガス」と称する。また、本明細書中で使用する用語「水素」は、分子式でH、D(重水素)、HD(重水素化水素)、又はそれらの混合ガスを指す。
【0014】
本発明の組成物によって産生された水素は全身を巡る。
本発明の組成物を摂取することにより、腸内でクロストリジウム・ブチリカムがより多くの水素ガスを発生させうことができる。腸内でクロストリジウム・ブチリカムによって産生された水素は、細胞膜を透過して全身に拡散するほか、血液を介して全身に送達される。
【0015】
本発明に係る組成物は、健康な人や動物の他、慢性炎症を原因とする疾病の患者によって摂取されてもよく、それにより、全身で発生しているヒドロキシルラジカルが消去され、ヒトを含む哺乳類のQOL(生活の質)の改善を可能にするだろう。
【実施例0016】
以下の実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
クロストリジウム・ブチリカムが産生する水素量の測定
(材料)
本実験では以下の材料、実験器具を用いた。
・酪酸菌 ABP末 10(エースバイオプロダクト株式会社(長野県、日本)製)
・耐圧性ペットボトル500ml
・恒温槽(AS ONE製 パーソナルインキュベーター、型番PIC-100)
・溶存水素濃度判定試薬(MiZ株式会社製 特許番号4511361号)
・ガラクトオリゴ糖(healthy-company製)
・還元麦芽糖(パリジェンヌ、伊藤忠製)
・タンパク質(株式会社明治製ザバスミルクプロテイン脂肪0 ヨーグルト風味)
・鶏がらスープ(味の素食品株式会社製 丸鶏がらスープ)
・ごはんと研ぎ汁に用いたお米(アイリスフーズ株式会社製(宮城県仙台市) 新潟県産こしひかり2022年産)
・はちみつ(天長食品工業株式会社製(愛知県稲取市)純粋はちみつ)
・でんぷん(西日本食品工業株式会社製片栗粉)
・米粉200メッシュ、300メッシュ、400メッシュ(みどりの里 山居館製 山形県酒田市)
・アミラーゼ(第一三共ヘルスケア「新タカヂア錠」)
【0017】
(実験方法)
(1)クロストリジウム・ブチリカムの培養
耐圧性ペットボトル500mlにクロストリジウム・ブチリカム1と各種食品を入れる。純粋をペットボトル内に満水になるまで入れてペットボトル内の気泡をペットボトルの側面を手でたたいて追い出す。その後、できるだけ空気が入らないようにペットボトルのキャップを閉める。クロストリジウム・ブチリカムと食品と純水が入ったペットボトルを37℃の恒温槽に入れて静置する。18時間後に溶存水素濃度判定試薬で濃度を測定する。水素は常温常圧下で約1.6ppm(1.6mg/L)の濃度で水に溶解する。ペットボトルのような密閉空間内でクロストリジウム・ブチリカムが水素を発生すると、ペットボトル内が加圧され、ヘンリーの法則に従って、ペットボトル内の溶液の水素濃度は高くなる。
(2)自製鶏がらスープの作成
鶏がら200gを水2Lにいれて電気圧力鍋で1時間加圧して自製鶏がらスープを作製した。
【0018】
(結果)
結果を[図1]および[図2]に示す。
果汁100%リンゴジュース、果汁100%オレンジジュース、デンプン3g、はちみつ3g、デンプン3g、デキストリン3g、デキストリン1.5+還元麦芽糖1.5g、デキストリン1.5g+ガラクトオリゴ糖1.5g、プロテイン飲料、還元麦芽糖3gにクロストリジウム・ブチリカム1gを培養した培地では水素の発生量はいずれも0.1ppm以下であった。
ガラクトオリゴ糖1.5g+還元麦芽糖1.5g、ガラクトオリゴ糖3gを溶かした培地に1gのクロストリジウム・ブチリカムを培養した培地では水素発生量はそれぞれ1.2ppm、1.3ppmであった。
自家製鶏がらスープ、自家製鶏がらスープ+還元麦芽糖3g、自家製鶏がらスープ+還元麦芽糖3g、自家製鶏がらスープ+ガラクトオリゴ糖3g、自家製鶏がらスープ+はちみつ3gを溶かした培地に1gのクロストリジウム・ブチリカムを培養した培地では水素発生量はそれぞれ2.1ppm、2.5ppm、6ppm、2.7ppmであった。
鶏がらスープ(味の素)、鶏がらスープ(味の素)+ガラクトオリゴ糖3g、鶏がらスープ(味の素)+還元麦芽糖3g、鶏がらスープ(味の素)+はちみつ3gを溶かした培地に1gのクロストリジウム・ブチリカムを培養した培地では水素発生量はそれぞれ2.3ppm、2.6ppm、3.8ppm、5.2ppmであった。
【0019】
上南粉3g、米粉(メッシュ200)3g、米粉(メッシュ300)、米粉(メッシュ400)、炊いたお米3g、お米の研ぎ汁にクロストリジウム・ブチリカム1gを培養した培地では水素の発生量は培養開始から18時間後で、いずれも0.1ppm以下であった。
米粉をアミラーゼで分解させるために新タカヂア錠1錠をさらに添加して培養を行い水素濃度を測定した。
上南粉3g+アミラーゼ、米粉(メッシュ200)3g+アミラーゼ、米粉(メッシュ300)+アミラーゼ、米粉(メッシュ400)+アミラーゼ、炊いたお米3g+アミラーゼにクロストリジウム・ブチリカム1gを培養した培地では水素の発生量は培養開始から72時間後で、水素濃度はそれぞれ2.4ppm、2.0ppm、2.5ppm、2.1ppm、2.0ppmであった。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明により、水素産生菌であるクロストリジウム・ブチリカムの水素発生量を向上させることができる。水素自体に、副作用が知られていないため、ヒトや動物の健康維持に寄与し、QOLを高めることができる。
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2023-04-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素産生菌の水素発生量を向上させる組成物に関する。
本発明はまた、水素産生菌の水素発生量を向上させる組成物を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水素分子が細胞内および細胞のミトコンドリア内部で発生するヒドロキシルラジカルを消去することにより慢性炎症を抑制し、慢性炎症に起因する多くの疾病に対し効果を奏する可能性があることを提唱されている(非特許文献1)。また、腸内には水素産生菌が存在し、腸内の水素産生菌が産生する水素がヒトを含む哺乳類の健康の維持に貢献している可能性があることが知られている(非特許文献2)。
しかしながら、これらの水素産生菌そのものを積極的に外部から摂取して腸内の水素産生菌から産生する水素量を向上させようとする報告はこれまでにない。また、特定の食品および/または食品添加物と共に水素産生菌を摂取ことでより水素産生量を向上させようとする報告もない。また、ただ単に水素産生菌だけを摂取しても、腸内に食物がなければ水素産生菌は水素を発生させることができないという問題もあった。そして、従来の水素ガス吸入機による水素の補給であると、水素を吸入する時間が制限されてしまうという問題もあった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Shin-ichi Hirano,Yusuke Ichikawa,Bunpei Sato,Haru Yamamoto,Yoshiyasu Takefuji,Fumitake Satoh ”Potential Therapeutic Applications of Hydrogen in Chronic Inflammatory Diseases: Possible Inhibiting Role on Mitochondrial Stress”International Journal of Molecular Science,2021,22,2549
【非特許文献2】Yusuke Ichikawa,Haru Yamamoto,Shin-ichi Hirano,Bunpei Sato,Yoshiyasu Takefuji,Fumitake Satoh ”The overlooked benefits of hydrogen-producing bacteria”Medical Gas Research Ahed of print DOI:10.4103/2045-9912.344977
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、水素産生菌の水素発生量を向上させる組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意研究の結果、意外にも、水素産生菌であるクロストリジウム・ブチリカムと特定の食品または食品添加物を共に食するとクロストリジウム・ブチリカムの水素の発生量が跳躍的に向上することを見出した。また、本発明によれば、水素ガス吸入機などを用いずとも、水素産生菌を食品および/または食品添加物と共に摂取することで腸内で水素を摂取した水素産生菌から発生させることができ、また、空腹時に水素産生菌だけを摂取しても水素が発生しない、または、発生しにくいという問題を解決することができる。
従って、本発明は、以下の特徴を包含する。
(1)水素を産生させるための組成物であって、フィルミクテスと、食品および/または食品添加物を含む組成物である。
(2)前記フィルミクテスがクロストリジウム・ブチリカムであることを特徴とする(1)に記載の組成物である。
(3)前記食品および/または食品添加物が、鶏がらスープ、デンプン、および/または、米粉を含むことを特徴とする(1)または(2)に記載の組成物である。
(4)前記食品および/または食品添加物がさらに、ガラクトオリゴ糖、還元麦芽糖、および、はちみつから選択される1以上の食品および/または食品添加物をさらに含むことを特徴とする(1)から(3)のいずれかひとつに記載の組成物である。
(5)前記組成物を液体に溶かして液体状にしたことを特徴とする(1)から(4)のいずれかひとつに記載の組成物である。
(6)体温においてより多くの水素を発生させる(1)から(5)のいずれかひとつに記載の組成物である。
(7)前記体温がヒトを含む哺乳類の体温であることを特徴とする(1)から(6)のいずれかひとつに記載の組成物である。
(8)ヒトを含む哺乳類によって食されるための(1)から(7)のいずれかひとつに記載の組成物である。
(9)前記フィルミクテスと前記食品および/または食品添加物がヒトを含む哺乳類によって別々に摂取され、胃腸内で混合されることを特徴とする(1)から(8)のいずれかひとつに記載の組成物である。
(10)健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、疾病リスク低減表示が付された食品、または病者用食品である、(1)から(9)のいずれかひとつに記載の組成物である。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、水素産生菌の水素発生量を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明をさらに詳細に説明する。
1.水素産生菌
我々人間の大腸にはおよそ100兆もの腸内細菌が1000種類以上存在しているといわれている。そのうち、70%の腸内細菌が水素代謝の酵素であるヒドロゲナーゼを有している水素産生菌であって、炭水化物を代謝して酢酸や酪酸等とともに水素を産生する(3)。メタゲノム調査によれば、ヒト大腸の水素産生菌としては、フィルミクテスとバクテロイデスが支配的で、フィルミクテスが51%、バクテロイデスが41%で両者を合計すると92%に及ぶ。
【0008】
本発明におけるフィルミクテス門とは、細菌の一つである。フィルミクテス門は270以上のが分類されており、細菌の中ではプロテオバクテリア門に次ぐ多様性を持つ。フィルミクテス門におけるクロストリジウム目とは、クロストリジウム綱に属する偏性嫌気性グラム陽性菌の目である。クロストリジウム目細菌群は、主要な腸内細菌群の一種となっている。クロストリジウム目のなかでも、クロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)は、世界中の様々な地域の土壌や健康な子供や大人の便から培養されている。本発明に係るクロストリジウム・ブチリカムは、そのように培養され市販されている乾燥され粉末や錠剤として市販されているものを用いる事ができる。本発明に用いる事ができるクロストリジウム・ブチリカムとしては、例えば、エースバイオプロダクト株式会社(長野県、日本)の酪酸菌ABP末や、ミヤリサン製薬株式会社(長野県、日本)の強ミヤリサン(商標登録)を用いる事ができるが、これに限定されることはない。本発明におけるクロストリジウム・ブチリカムはヒドロゲナーゼを有していることから水素を産生することができる。
【0009】
本発明における食品および/または食品添加物には、クロストリジウム・ブチリカムの水素産生量を向上させることができるあらゆる食品および/または食品添加物が含まれる。そのような、食品および/または食品添加物には、動物性食物、植物性食物が含まれる。動物性食物としては、牛、豚、鳥、魚の肉や骨、それらを加工またはそれらから抽出して生産された加工食品が含まれる。動物性食物の加工食品には、コンソメ、鶏がら粉末、牛、豚、鳥、魚の肉や骨などから抽出した出汁などが含まれるがこれに限定されることはない。植物性食物とは、野菜、果物、米、海藻、それらを加工またはそれらから抽出して生産された加工食品が含まれる。そのような食品および/または食品添加物としては、粉末化した野菜、粉末化した果物、米粉、米の研ぎ汁、出汁、はちみつを含む糖類、緑茶、ウーロン茶、ジャスミン茶、昆布茶、などのお茶類や牛乳などのミルクを含む。本発明における糖類としては、グルコース、マンノース、ガラクトース、ラクトース、マルトース、スクロース、ラクトース、トレハロース、デキストリン、グリコーゲン、アミロース、デンプン、セルロースなど、一般に食品に含まれている糖が含まれるが、これに限られることはない。
【0010】
さらに、本発明における食品および/または食品添加物には、食塩、香料、酒、人工甘味料、グルタミン酸を含むアミノ酸、タンパク質などが含まれる。本発明に係る組成物は、ヒトのみならず、犬、猫、鳥を含む哺乳類、その他、爬虫類、魚類、昆虫のエサに用いる事ができる。
【0011】
本発明における組成物の形態は、粉末、錠剤、飴、カプセル状のような固体状のものから、水や飲料などの液体に溶かした状態の状態のものを含む。また、これらが商品として販売される場合には、プラスチック、アルミニウム、紙、ペットボトルなどの包装用の素材に包装されて市場に出すことができる。販売の態様としては、市販されている粉末のスープの粉に本発明に係る組成物を含ませて粉末スープとして販売することもできる。クロストリジウム・ブチリカムは80℃では30分、90℃では10分の湿熱条件において全試験菌株が生存し、90℃20分では95%、100℃5分では30%生存することができる。したがって、本発明における組成物を熱湯に溶かしてスープや飲料を作成しても、クロストリジウム・ブチリカムの一部は生存することができ、生きたままヒトや哺乳類の腸内に到達することができる。
【0012】
水素は常温常圧下で約1.6ppm(1.6mg/L)の濃度で水に溶解し、温度による溶解度差が比較的小さいことが知られている。本発明にかかる組成物を溶液状態でペットボトルなどの密閉された容器内で水素を発生させると、容器内が加圧され、ヘンリーの法則によりより多くの水素を溶液に含ませることができる。これらの溶液は飲用食品として供することが可能である。
【0013】
本発明における「水素」は分子状水素(すなわち、気体状水素)であり、特に断らない限り、単に「水素」又は「水素ガス」と称する。また、本明細書中で使用する用語「水素」は、分子式でH、D(重水素)、HD(重水素化水素)、又はそれらの混合ガスを指す。
【0014】
本発明の組成物によって産生された水素は全身を巡る。
本発明の組成物を摂取することにより、腸内でクロストリジウム・ブチリカムがより多くの水素ガスを発生させうことができる。腸内でクロストリジウム・ブチリカムによって産生された水素は、細胞膜を透過して全身に拡散するほか、血液を介して全身に送達される。
【0015】
本発明に係る組成物は、健康な人や動物の他、慢性炎症を原因とする疾病の患者によって摂取されてもよく、それにより、全身で発生しているヒドロキシルラジカルが消去され、ヒトを含む哺乳類のQOL(生活の質)の改善を可能にするだろう。
【実施例0016】
以下の実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
クロストリジウム・ブチリカムが産生する水素量の測定
(材料)
本実験では以下の材料、実験器具を用いた。
・酪酸菌 ABP末 10(エースバイオプロダクト株式会社(長野県、日本)製)
・耐圧性ペットボトル500ml
・恒温槽(AS ONE製 パーソナルインキュベーター、型番PIC-100)
・溶存水素濃度判定試薬(MiZ株式会社製 特許番号4511361号)
・ガラクトオリゴ糖(healthy-company製)
・還元麦芽糖(パリジェンヌ、伊藤忠製)
・タンパク質(株式会社明治製 ザバスミルクプロテイン脂肪0 ヨーグルト風味)
・鶏がらスープ(味の素食品株式会社製 丸鶏がらスープ)
・ごはんと研ぎ汁に用いたお米(アイリスフーズ株式会社製(宮城県仙台市) 新潟県産こしひかり2022年産)
・はちみつ(天長食品工業株式会社製(愛知県稲取市)純粋はちみつ)
・でんぷん(西日本食品工業株式会社製片栗粉)
・米粉200メッシュ、300メッシュ、400メッシュ(みどりの里 山居館製 山形県酒田市)
・アミラーゼ(第一三共ヘルスケア「新タカヂア錠」)
【0017】
(実験方法)
(1)クロストリジウム・ブチリカムの培養
耐圧性ペットボトル500mlにクロストリジウム・ブチリカム1と各種食品を入れる。純粋をペットボトル内に満水になるまで入れてペットボトル内の気泡をペットボトルの側面を手でたたいて追い出す。その後、できるだけ空気が入らないようにペットボトルのキャップを閉める。クロストリジウム・ブチリカムと食品と純水が入ったペットボトルを37℃の恒温槽に入れて静置する。18時間後に溶存水素濃度判定試薬で濃度を測定する。水素は常温常圧下で約1.6ppm(1.6mg/L)の濃度で水に溶解する。ペットボトルのような密閉空間内でクロストリジウム・ブチリカムが水素を発生すると、ペットボトル内が加圧され、ヘンリーの法則に従って、ペットボトル内の溶液の水素濃度は高くなる。
(2)自製鶏がらスープの作成
鶏がら200gを水2Lにいれて電気圧力鍋で1時間加圧して自製鶏がらスープを作製した。
【0018】
(結果)
結果を[図1]および[図2]に示す。
果汁100%リンゴジュース、果汁100%オレンジジュース、デンプン3g、はちみつ3g、デンプン3g、デキストリン3g、デキストリン1.5g+還元麦芽糖1.5g、デキストリン1.5g+ガラクトオリゴ糖1.5g、プロテイン飲料、還元麦芽糖3gにクロストリジウム・ブチリカム1gを培養した培地では水素の発生量はいずれも0.1ppm以下であった。
ガラクトオリゴ糖1.5g+還元麦芽糖1.5g、ガラクトオリゴ糖3gを溶かした培地に1gのクロストリジウム・ブチリカムを培養した培地では水素発生量はそれぞれ1.2ppm、1.3ppmであった。
自家製鶏がらスープ、自家製鶏がらスープ+還元麦芽糖3g、自家製鶏がらスープ+還元麦芽糖3g、自家製鶏がらスープ+ガラクトオリゴ糖3g、自家製鶏がらスープ+はちみつ3gを溶かした培地に1gのクロストリジウム・ブチリカムを培養した培地では水素発生量はそれぞれ2.1ppm、2.5ppm、6ppm、2.7ppmであった。
鶏がらスープ(味の素)、鶏がらスープ(味の素)+ガラクトオリゴ糖3g、鶏がらスープ(味の素)+還元麦芽糖3g、鶏がらスープ(味の素)+はちみつ3gを溶かした培地に1gのクロストリジウム・ブチリカムを培養した培地では水素発生量はそれぞれ2.3ppm、2.6ppm、3.8ppm、5.2ppmであった。
【0019】
上南粉3g、米粉(メッシュ200)3g、米粉(メッシュ300)、米粉(メッシュ400)、炊いたお米3g、お米の研ぎ汁にクロストリジウム・ブチリカム1gを培養した培地では水素の発生量は培養開始から18時間後で、いずれも0.1ppm以下であった。
米粉をアミラーゼで分解させるために新タカヂア錠1錠をさらに添加して培養を行い水素濃度を測定した。
上南粉3g+アミラーゼ、米粉(メッシュ200)3g+アミラーゼ、米粉(メッシュ300)+アミラーゼ、米粉(メッシュ400)+アミラーゼ、炊いたお米3g+アミラーゼにクロストリジウム・ブチリカム1gを培養した培地では水素の発生量は培養開始から72時間後で、水素濃度はそれぞれ2.4ppm、2.0ppm、2.5ppm、2.1ppm、2.0ppmであった。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明により、水素産生菌であるクロストリジウム・ブチリカムの水素発生量を向上させることができる。水素自体に、副作用が知られていないため、ヒトや動物の健康維持に寄与し、QOLを高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】クリストリジウム・ブチリカムが産生する水素量に関するグラフである。
図2】クリストリジウム・ブチリカムが産生する水素量に関するグラフである。