(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077571
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】医用画像処理装置、及び医用画像処理方法
(51)【国際特許分類】
A61B 6/03 20060101AFI20240531BHJP
A61B 5/055 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
A61B6/03 370E
A61B6/03 377
A61B6/03 360D
A61B6/03 360B
A61B5/055 380
A61B5/055 390
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090898
(22)【出願日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】18/059,063
(32)【優先日】2022-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マレー・カットフォース
(72)【発明者】
【氏名】エヴァン・ヘミングウェイ
【テーマコード(参考)】
4C093
4C096
【Fターム(参考)】
4C093AA22
4C093AA26
4C093CA50
4C093FD08
4C093FF06
4C093FF19
4C093FF28
4C093FF34
4C096AA18
4C096AD14
4C096DC09
4C096DC35
(57)【要約】
【課題】焼灼治療中に計画した加熱レベルに達したか否かを判断するための温度情報を提供すること。
【解決手段】実施形態に係る医用画像処理装置は、処理回路を備える。処理回路は、サーモグラフィ画像又はサーモグラフィ画像を取得可能な1対の医用画像を取得し、前記サーモグラフィ画像または前記1対の医用画像に対応する温度場を推定し、前記サーモグラフィ画像または前記1対の医用画像および推定された温度場に基づいて、補正済みサーモグラフィ画像を生成する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーモグラフィ画像又はサーモグラフィ画像を取得可能な1対の医用画像を取得し、
前記サーモグラフィ画像または前記1対の医用画像に対応する温度場を推定し、
前記サーモグラフィ画像または前記1対の医用画像および推定された温度場に基づいて、補正済みサーモグラフィ画像を生成する、処理回路
を備える医用画像処理装置。
【請求項2】
前記サーモグラフィ画像は、第1の時刻に得られた第1のCT画像と、第1の時刻とは異なる第2の時刻に得られた第2のCT画像とを減算することによって取得される減算画像を含む、
請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項3】
前記1対の医用画像は、第1の時刻に得られた第1のCT画像と、第1の時刻とは異なる第2の時刻に得られた第2のCT画像とを含み、
前記補正済みサーモグラフィ画像の生成は、
前記推定された温度場に基づいて、前記第1のCT画像から補正済み第1のCT画像を生成し、
前記推定された温度場に基づいて、前記第2のCT画像から補正済み第2のCT画像を生成し、
前記補正済み第1のCT画像と前記補正済み第2のCT画像とを減算することによって補正済みCTサーモグラフィ画像を取得すること、を含む、
請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項4】
前記温度場の推定は、前記推定された温度場に関する1つ以上の関数パラメータを最適化することによって、前記推定された温度場を前記サーモグラフィ画像に適合させることを含む、
請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項5】
前記最適化は、前記推定された温度場と、前記サーモグラフィ画像または前記1対の医用画像との差異を最小化することを含む、
請求項4に記載の医用画像処理装置。
【請求項6】
前記温度場の推定は、前記最適化に用いるため、前記サーモグラフィ画像の一部を選択し、前記サーモグラフィ画像の選択された一部に基づいて最適化を実行することを含む、
請求項4に記載の医用画像処理装置。
【請求項7】
前記補正済みサーモグラフィ画像の生成は、
前記推定された温度場に基づいて、前記サーモグラフィ画像または前記1対の医用画像の内、同一または同等の温度になることが予想されるサブ領域を決定し、
優先的に前記サブ領域を平均化することを含む平均化処理を実行する、ことを含む、
請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項8】
前記サーモグラフィ画像または前記1対の医用画像の平滑化は、
前記推定された温度場内の温度の勾配を決定し、
前記温度の勾配に対して直交する方向に優先的に平滑化することを含む平滑化処理を実行する、ことを含む、
請求項4に記載の医用画像処理装置。
【請求項9】
前記補正済みサーモグラフィ画像の生成は、前記サーモグラフィ画像または前記1対の医用画像のそれぞれを平滑化することを含み、
前記サーモグラフィ画像または前記1対の医用画像の平滑化の平滑度は、ユーザによって選択される、
請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項10】
前記サーモグラフィ画像または前記1対の医用画像は、被検体の細胞組織に対して行われる焼灼術に関する、
請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項11】
前記温度場は、前記サーモグラフィ画像または前記1対の医用画像上の細胞組織への加熱に関する少なくとも1つの加熱パラメータに基づいて、推定される
請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項12】
前記少なくとも1つの加熱パラメータは、プローブ位置、プローブの出力、プローブパラメータ、焼灼時間、電界パラメータ、蓄熱率、細胞組織の種類、細胞組織の表面形状の内の少なくとも1つを含む、
請求項11に記載の医用画像処理装置。
【請求項13】
前記温度場の推定は、解析関数式を用いることを含む、
請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項14】
前記温度場の推定は、熱拡散シミュレーションを用いることを含む、
請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項15】
前記熱拡散シミュレーションは、有限要素法およびデータ駆動型代用モデルの少なくとも一方を用いることを含む、
請求項14に記載の医用画像処理装置。
【請求項16】
前記温度場の推定は、ルックアップテーブルを用いることを含む、
請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項17】
前記補正済みサーモグラフィ画像の生成は、前記サーモグラフィ画像または前記1対の医用画像に対して、
以下のa)からe)の内の少なくとも一つを適用することを含む、
a) 空間依存的な平均化処理
b) 空間依存的、等方的な平滑化処理
c) 空間依存的、異方的な平滑化処理
d) 3次元条件付き確率場推論処理
e) 異方的拡散、
請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項18】
前記処理回路は、サーモグラフィ画像と少なくとも一つの別のサーモグラフィ画像を取得し、
前記温度場の推定は、前記温度場を前記サーモグラフィ画像と前記別のサーモグラフィ画像の双方に適合させること、を含む、
請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項19】
前記サーモグラフィ画像と前記別のサーモグラフィ画像は、異なる時刻に取得され、
前記温度場の前記サーモグラフィ画像および前記別のサーモグラフィ画像に対する適合は、
前記サーモグラフィ画像に関して、前記推定された温度場の少なくとも1つの関数パラメータの第1の値を決定し、
前記別のサーモグラフィ画像に関して、前記推定された温度場の前記少なくとも1つの関数パラメータの異なる第2の値を決定する、ことを含む、
請求項18に記載の医用画像処理装置。
【請求項20】
前記サーモグラフィ画像は、磁気共鳴(MR)サーモグラフィ画像であり、
前記補正済みサーモグラフィ画像は、補正済みMRサーモグラフィ画像である、
請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項21】
サーモグラフィ画像またはサーモグラフィ画像を取得可能な1対の医用画像を受信すること、
前記サーモグラフィ画像または前記1対の医用画像に対応する温度場を推定すること、
前記サーモグラフィ画像または前記1対の医用画像および前記推定された温度場に基づいて、補正済みサーモグラフィ画像を生成すること、
を含む医用画像処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、一般に、医用画像処理装置及び医用画像処理方法に関し、例えば、医用画像データを処理することによって、補正済みのコンピュータ断層(CT)サーモグラフィ画像を生成することに関する。
【0002】
コンピュータ断層(Computed Tomography:CT)撮像によって医用画像データを取得することが知られている。医用撮像データは、撮像または診断目的で広く利用されている。
【0003】
CT画像データは、ボクセルの3次元アレイから成る。各ボクセルは3次元空間内の特定の位置を表す。各ボクセルは、輝度値を有し、輝度値は、そのボクセルが示す位置における照射されたX線の減衰を表す。輝度値は、画像値、濃淡値、階調レベル、ボクセル値またはCT値等とも称される。輝度値は、ハウンスフィールド単位(Hounsfield Unit:HU)で測定される。
【0004】
ある細胞組織のCT輝度値(HU)は温度によって異なることが分かっている。例えば、Pohlan他の
図4を参照(Pohlan, Julian MD; Kress, Wiebke; Hermann, Kay-Geert MD; Mews, Jurgen; Kroes, Maarten PhD; Hamm, Bernd MD; Diekhoff, Torsten MD. Computed Tomography Thermography for Ablation Zone Prediction in Microwave Ablation and Cryoablation: Advantages and Challenges in an Ex Vivo Porcine Liver Model(マイクロ波アブレーションおよび冷凍アブレーションにおける焼灼野予測に関するコンピュータ断層サーモグラフィ:生体外豚肝臓モデルの利点と課題). Journal of Computer Assisted Tomography: 9/10 2020 - Volume 44 - Issue 5 - p 744-749 doi: 10.1097/RCT.0000000000001081)。上記文献は、参照することによりここに援用される。Pohlan他の
図4は、横軸に輝度変化(HU、ΔHU)を、縦軸に温度差(ΔT)を示す。大きな温度変化は大きなHU変化と対応している。
【0005】
CTサーモグラフィとは、HU値の温度依存性を利用して、非侵襲性のCTスキャンによって体積温度を測定する撮像技術である。CTサーモグラフィは、過去10年の間に、マイクロ波焼灼術などの、熱焼灼術の介入を支援する有用なツール候補として登場してきたものである。
【0006】
図1は、マイクロ波焼灼術の一例を示す。マイクロ波アンテナ12を備えるプローブ10が患者の肝臓16内にある腫瘍14に挿入される。プローブ使用時に、マイクロ波アンテナ12から焼灼野18内にマイクロ波放射線が放出され、焼灼治療が行われる。このマイクロ波放射線によって焼灼野18内の細胞が熱せられる。焼灼野内の細胞の少なくとも一部は熱によって破壊されることもある。
【0007】
CTサーモグラフィを用いて生体内焼灼画像を取得することができる。CTサーモグラフィ画像を取得するために、焼灼治療が行われる患者の部位、例えば
図1の画像の範囲に対応する部位の焼灼前CT画像および焼灼後CT画像が取得される。焼灼前CT画像および焼灼後CT画像は、それぞれボリューム画像データを含む。焼灼前に取得される焼灼前画像と、例えばマイクロ波照射の停止後などの焼灼後に取得される焼灼後CT画像と、は異なると考えられる。画像間の違いの少なくとも一部は、マイクロ波アンテナ12を用いて細胞組織を加熱することにより生じた温度変化に起因する。
【0008】
焼灼前CT画像を焼灼後CT画像に対して位置合わせする。そして、位置合わせ後の焼灼前CT画像を焼灼後CT画像から減算して、減算画像を得る。減算画像は、焼灼前の温度と焼灼後の温度との差異を表すと考えられる。
【0009】
減算画像に温度感度変換係数を乗算することによって、体積温度を得る。減算画像内の各ボクセルは、焼灼前画像と焼灼後画像内の対応するボクセル間の輝度(HU)の差を表すデータ値を有する。各ボクセルデータ値に温度感度変換係数を乗算することによって、HU値を温度値に変換することができる。これにより、減算画像の各ボクセルのそれぞれの温度値が取得される。
【0010】
マイクロ波アブレーション治療の成功率は操作者の経験に大きく依存するため、この治療の支援として、CTサーモグラフィを利用することに臨床上の動機がある。例えば、CTサーモグラフィによって、焼灼治療中に計画した加熱レベルに達したか否かを判断するための温度情報を提供することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】中国特許出願公開第106157275号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本明細書及び図面に開示の実施形態が解決しようとする課題の一つは、焼灼治療中に計画した加熱レベルに達したか否かを判断するための温度情報を提供することである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置づけることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
実施形態に係る医用画像処理装置は、処理回路を備える。処理回路は、サーモグラフィ画像又はサーモグラフィ画像を取得可能な1対の医用画像を取得し、前記サーモグラフィ画像または前記1対の医用画像に対応する温度場を推定し、前記サーモグラフィ画像または前記1対の医用画像および推定された温度場に基づいて、補正済みサーモグラフィ画像を生成する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】
図2は、一実施形態に係る医用画像処理装置の概略図である。
【
図3】
図3は、一実施形態に係る医用画像処理方法の概要を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、推定温度場として用いられるガウス関数のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施形態に係る医用画像処理装置は、処理回路を備える。該処理回路は、サーモグラフィ画像またはサーモグラフィ画像を取得可能な1対の医用画像を受信し、サーモグラフィ画像または1対の医用画像に対応する温度場を推定し、サーモグラフィ画像または1対の医用画像および推定された温度場に基づいて、補正済みサーモグラフィ画像を生成する。
【0016】
実施形態に係る医用画像処理方法は、サーモグラフィ画像またはサーモグラフィ画像を取得可能な1対の医用画像を受信すること、サーモグラフィ画像または1対の医用画像に対応する温度場を推定すること、サーモグラフィ画像または1対の医用画像および推定された温度場に基づいて、補正済みサーモグラフィ画像を生成することを含む。
【0017】
図2に、実施形態に係る医用画像処理装置20の概要を示す。医用画像処理装置20は、データ記憶部30を介してスキャナ24と接続される演算装置22を備える。演算装置22は、パーソナルコンピュータ(PC)やワークステーションである。
【0018】
さらに、医用画像処理装置20は、1つ以上の表示画面26およびコンピュータキーボード、マウス、トラックボール等の1つまたは複数の入力装置28を備える。
【0019】
本実施形態において、スキャナ24は、コンピュータ断層(Computed Tomography:CT)スキャナである。スキャナ24は、患者または他の被検体の少なくとも一つの解剖学的領域を表す画像データを生成する。画像データは、データ値をそれぞれ有する複数のボクセルを含む。本実施形態において、データ値は、ハウンスフィールドユニットの輝度を表す。
【0020】
別の実施形態において、スキャナ24は、任意の撮像モダリティによって2次元、3次元、または4次元の画像データを取得してもよい。例えば、スキャナ24は、磁気共鳴(Magnetic Resonance:MR)スキャナ、コンピュータ断層(CT)スキャナ、または円錐ビームCTスキャナを備えてもよい。
【0021】
本実施形態において、スキャナ24によって取得された画像データセットは、データ記憶部30に保存され、演算装置22に提供される。別の実施形態では、画像データセットは、離れた場所にあるデータ記憶部(図示せず)から供給される。データ記憶部30又は離れた場所のデータ記憶部は任意の形式のメモリを備える。一実施形態において、医用画像処理装置20はスキャナに接続されない。
【0022】
演算装置22は、データ処理用の処理装置32を備える。処理装置32は、中央演算装置(Central Processing Unit:CPU)およびグラフィックス・プロセッシング・ユニット(Graphical Processing Unit:GPU)を備える。処理装置32は、医用画像データセットを自動的または半自動的に処理する処理資源を提供する。別の実施形態では、処理対象のデータは、医用画像データ以外の任意の画像データでもよい。
【0023】
処理装置32は、温度場を推定するシミュレーション回路34、推定温度場に基づいて補正済みCTサーモグラフィ画像を生成する補正回路36、および補正済みCTサーモグラフィ画像を表示する表示回路38を備える。
【0024】
本実施形態において、シミュレーション回路34、補正回路36、表示回路38は、それぞれCPUおよび/またはGPU内で、実施形態の方法を実行させるコンピュータ読み取り可能な指示を含むコンピュータプログラムによって実現される。別の実施形態では、これらの回路は、1つ以上の特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated circuit:ASIC)またはフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA)として実現されてもよい。
【0025】
また、演算装置22は、ハードドライブとPCの他のコンポーネント、すなわちRAM、ROM、データバス、種々のデバイスドライバを含むオペレーティングシステム、およびグラフィックカードを含むハードウェアデバイス等を備える。明瞭性のため、
図2はこれらのコンポーネントを示していない。
【0026】
図2の医用画像処理装置20は、
図3に従って方法を実行するように構成される。
図3は、CTサーモグラフィ画像を平滑化によって補正する方法の概要を示す。
【0027】
状況によっては、CTサーモグラフィによって取得される温度測定値は、撮像アーチファクトによって重大な影響を受ける場合がある。撮像アーチファクトは、焼灼前画像と焼灼後画像との間の不完全な位置合わせの結果、起こり得る。例えば、焼灼前画像のボクセルが、焼灼後画像のボクセルと正しく対応付けられていないと、レジストレーション誤差によって、HU値の減算が不正確になりかねない。撮像対象の細胞組織が変形可能な場合、位置合わせは困難である。例えば、腹部内の位置合わせは困難を伴う。
【0028】
一般に、レジストレーション・アーチファクトは、輝度勾配の大きい特徴の縁周辺、例えば、骨の縁や体内の気腔の周辺で発生する。レジストレーション・アーチファクトは、輝度勾配の大きい特徴の縁周辺に輪郭として現れる。
【0029】
または、金属に起因する撮像アーチファクトが、マイクロ波アンテナ12の周辺で発生することもある。このような金属による撮像アーチファクトは、関心領域の中央に起きる場合がある。金属による撮像アーチファクトは、非常に減衰度の高い金属物体内の光子不足およびビーム硬化によって発生し、金属物体から発せられる明暗の縞のように見える。
【0030】
状況によっては、過去の生体外研究では観察されていないようなノイズおよび/またはアーチファクトが、生体内CTサーモグラフィ撮像によって発生することがある。CTサーモグラフィ画像に対して追加的な処理を実行しない限り、ノイズおよび/またはアーチファクトの存在は、CTサーモグラフィを日常的に臨床に利用する際の大きな障害になり得ることが、観察結果から予想される。生体内CTサーモグラフィ画像内のノイズおよびアーチファクトは、熱焼灼治療を支援するための未処理のCTサーモグラフィ画像の利用を低下させる、または妨げることになりかねない。
【0031】
図3に示す方法は、CTサーモグラフィ画像を向上させ、臨床用途により適した画像にするための追加的な処理を提供する。
図3の方法において、温度は別々に推定され、前回の推定温度は、CTサーモグラフィ画像の知的な平滑化に使用される。平滑化によって、CTサーモグラフィ画像からノイズおよび/またはアーチファクトが除去され、臨床目的のユーザにとって、より使い勝手のよい画像が得られる。
【0032】
ステップ40において、補正回路36は、CTサーモグラフィ・ボリュームデータ群を受信する。すなわち、補正回路36は、CTサーモグラフィ・ボリュームデータ群を取得する。CTサーモグラフィ・ボリュームデータ群は、CTサーモグラフィ画像42、CTサーモグラフィ測定結果、またはCTサーモグラフィ測定結果群とも称される。本実施形態において、CTサーモグラフィ画像42は、データ記憶部30から読み出される。別の実施形態において、CTサーモグラフィ画像42は、適宜、任意の装置、回路、またはデータ記憶部から読み出されてもよい。
【0033】
CTサーモグラフィ画像は、複数のボクセルのそれぞれの温度値を含む。CTサーモグラフィ画像は、補正処理前の画像のため、サーモグラフィ生画像とも称される。CTサーモグラフィ画像はノイズおよび/または1つ以上の画像アーチファクトを含むこともある。
【0034】
図3の実施形態において、CTサーモグラフィ画像は、焼灼プロセス、例えば、
図1に示す焼灼プロセスに関する。同じ患者の同じ細胞領域の焼灼前画像と焼灼後画像との位置合わせを行い、位置合わせ後の焼灼前画像と焼灼後画像との減算によって減算画像を取得し、減算画像に温度感度変換係数を乗算して体積温度を取得することによって、CTサーモグラフィ画像は生成される。CTサーモグラフィ画像は、第1の時刻に得られた第1のCT画像と、第1の時刻とは異なる第2の時刻に得られた第2のCT画像とを減算することによって取得される減算画像を含む。別の実施形態において、CTサーモグラフィ画像は、任意の一対のCT画像、例えば、医療処置中の異なる時点に取得されたCT画像などから生成されてもよい。すなわち、任意の一対のCT画像は、CTサーモグラフィ画像を取得可能な1対の医用画像の一例である。サーモグラフィ実行中に取得される画像は、焼灼中(peri-ablation)画像とも称される。一実施形態において、減算画像は、焼灼前画像と焼灼中画像との減算によって取得することもできる。別の実施形態において、1つ以上の減算画像を、適宜、焼灼前、焼灼中、焼灼後画像の組み合わせを用いて取得してもよい。
【0035】
一実施形態において、表示回路38は、ユーザに対して、CTサーモグラフィ画像から得られた2次元画像を表示する。例えば、2次元画像は、3次元サーモグラフィ画像の2次元スライス、又は温度の異なる等値面の3次元描画を含んでもよい。ノイズおよび/またはアーチファクトのため、CTサーモグラフィ生画像から得られた画像は、ユーザにとって読み取りにくい場合がある。例えば、
図3に示す例では、CTサーモグラフィ画像42の熱を加えた領域44は、熱せられた部位を正確に反映しない、奇異な形状に見える。
【0036】
ステップ50において、シミュレーション回路34は温度場の推定値を取得する。推定値は、前回の推定値とも称される。推定値は、CTサーモグラフィ画像に基づくものではない。
【0037】
温度場は、温度分布とも称される。温度場は、CTサーモグラフィ画像のボクセルに対応する複数のボクセルのそれぞれの温度値を含む。
【0038】
別の実施形態において、温度場の推定値を、CTサーモグラフィ画像の受信前に取得してもよい。一実施形態において、温度場の推定値は、CTサーモグラフィ画像の基になるCT画像の内の一つに基づいてもよい。例えば、温度場の推定値は、CT画像から網状の血管領域を作成してもよい。網状の血管領域は、温度場推定値を求めるための熱伝導方程式のシミュレーションにおいて境界条件として用いられる。
【0039】
図3の実施形態において、シミュレーション回路34は、焼灼プロセスに関する1つ以上の加熱パラメータの値を受信する。例えば、シミュレーション回路34は、CTサーモグラフィ画像の座標系におけるプローブ10の位置、プローブ10を介して与えられた電力、および/または焼灼の実行時間を受信する。別の実施形態において、シミュレーション回路34は、適宜、任意の加熱パラメータの値を受信してもよい。加熱パラメータは、プローブ10に関する1つ以上のパラメータを含む。例えば、加熱パラメータは、プローブの形状や電力プロファイルに関する1つ以上のパラメータ、または使用されるプローブの型を規定する1つ以上のパラメータなどである。また、加熱パラメータは、プローブが生成する電界に関する1つ以上のパラメータを含んでもよい。さらに、加熱パラメータは、時間と空間の関数で示される、細胞組織内に蓄積された電力に関する1つ以上のパラメータを含んでもよい。加熱パラメータは、時間と空間の関数で示される、細胞組織内の蓄熱率に関する1つ以上のパラメータを含んでもよい。また、加熱パラメータは、電力を受ける細胞組織に関する1つ以上のパラメータ、例えば、細胞組織の種類およびその表面形状、を含んでもよい。細胞組織に関するパラメータは、細胞の血管系、例えば、血管の形状に関する1つ以上のパラメータ、および/または血流率を示す1つ以上のパラメータを含んでもよい。細胞組織に関するパラメータは、焼灼前CTスキャン等の前回のスキャンから取得されてもよい。
【0040】
一実施形態において、加熱パラメータの内の1つ以上、例えば電力および/または時間に初期値を設定してもよい。
【0041】
次に、シミュレーション回路34は、サブステップ52またはサブステップ54に進み、温度場の推定を行うことによって、推定温度場を取得する。推定温度場は、与えられた既知の加熱パラメータから予想される温度変化を表す。言い換えると、推定温度場は、CTサーモグラフィ画像またはCTサーモグラフィ画像を取得可能な1対の医用画像上の細胞組織への加熱に関する少なくとも1つの加熱パラメータに基づいて、推定される。
【0042】
図3の方法の変形例において、ステップ50はサブステップ52を含む。サブステップ52において、シミュレーション回路34は、人体の順方向熱拡散方程式を解くために有限要素シミュレーションを実行する。有限要素シミュレーションは、ステップ50で受信された加熱パラメータの値に基づく。有限要素シミュレーションの出力は、細胞組織内の熱拡散シミュレーションの結果としての推定温度場である。
【0043】
別の実施形態において、順方向熱拡散方程式は、適宜、任意の方法によって解くことができる。例えば、データ駆動型代用モデルを用いて順方向熱拡散方程式を解くことが可能である。データ駆動型代用モデルとは、熱拡散方程式を迅速に解くように訓練されたモデルである。データ駆動型代用モデルは、初期条件および境界条件から温度場解へのマッピングを含む。マッピングは、ニューラルネットワーク・アーキテクチャによってパラメータ化されてもよい。マッピングは、初期条件および境界条件と対応する温度場解の対である、多くの学習対(training pairs)を用いて訓練することができる。学習対は、有限要素法によって生成してもよい。実行時、データ駆動型代用モデルは、非常に高速に温度場を予測することができる。他の実施形態において、任意の熱シミュレーションを利用可能である。
【0044】
サブステップ52において、シミュレーションは、一般細胞、例えば、軟細胞の同質領域等の加熱シミュレーションを含む。別の実施形態において、シミュレーションは、焼灼プロセスの対象となる細胞組織の種類や解剖学的構造に合わせて実行されてもよい。
【0045】
図3の方法の別の変形例において、ステップ50は、サブステップ52の代わりにサブステップ54を含む。サブステップ54において、シミュレーション回路34は、規定の解析関数を用いて推定温度場を得る。例えば、規定の解析関数はガウス関数を含む。規定の解析関数は、解析関数式とも称される。
【0046】
有限要素シミュレーションのパラメータは、ステップ50で受信された加熱パラメータの値に基づく。一実施形態において、規定の解析関数は、環状対称である。非対称な加熱が予想される場合でも、規定の解析関数は対称である。
【0047】
状況によっては、規定の解析関数の使用は、有限要素シミュレーションや他のシミュレーションを使用する場合と比較して、推定温度場の取得に要する演算資源の削減が可能になる。
【0048】
推定温度場は、例えば、プローブ位置、プローブの出力、および焼灼プロセスの実行に使用される焼灼時間等の加熱パラメータが与えられた場合の予想温度を提供する。温度場の推定は、
図3の後続ステップから独立している。
【0049】
他の実施形態では、温度場の推定値は適宜別の方法によって取得されてもよい。例えば、推定温度場はルックアップテーブルから取得されてもよい。推定温度場は、リスト、表、関数等から適宜取得可能である。
【0050】
ステップ60において、補正回路36は、最適化処理を実行することによって、推定温度場をCTサーモグラフィ画像に適合させる。推定温度場は1つ以上の関数パラメータを用いてパラメータ化される。例えば、関数パラメータは、推定温度場の尺度を表すスケール因数および/または推定温度場の形状を表す形状パラメータを含む。使用される関数パラメータの数は任意である。任意の複合パラメータ化式を用いてもよい。
【0051】
最適化処理において、推定温度場がCTサーモグラフィ画像にできるだけ近づくように、推定温度場の1つ以上の関数パラメータの値が最適化される。これによって、推定温度場と観察されるCTサーモグラフィ画像の差異が最小になる。すなわち、最適化は、推定温度場と、CTサーモグラフィ画像又はCTサーモグラフィ画像を取得可能な1対の医用画像との差異を最小化することを含む。例えば、既成の最適化アルゴリズム等の、任意の最適化方法を利用可能である。また、例えば、スケールパラメータの最適化によって、推定温度場を縮小・拡大してもよい。
【0052】
最適化処理によって、推定温度場を更新することができる。すなわち、推定温度場の関数パラメータは、より高い適合を達成するように変更される。
【0053】
図3に、CTサーモグラフィ生画像に対する最適合を提供できるように最適化された、ガウス関数64の一例を示す。ガウス関数64は、簡略化のため2次元で図示されているが、3次元のガウス関数である。
【0054】
ステップ60の最適化処理によって、予測と実際の差異を低減することができる。一実施形態において、ステップ60の最適化処理は省略可能である。状況によっては、正確なシミュレーションを達成するために、ステップ60の最適化処理は必要ではない。
【0055】
一実施形態において、ステップ60の最適化処理がCTサーモグラフィ画像全体に対して実行される。別の実施形態において、補正回路36は、最適化の対象として、CTサーモグラフィ画像の一部を選択する。最適化は、CTサーモグラフィ画像全体ではなく、選択された一部のCTサーモグラフィ画像の選択された部分に基づく。
【0056】
CTサーモグラフィ画像の選択された部分は、CTサーモグラフィ画像の選択されたボクセルのサブセットを含む。ボクセルのサブセットは、矩形制約に基づく。矩形制約は、最小および最大ボクセル値を設定して、最小および最大ボクセル値間にあるボクセルのみを選択することを含む。CTサーモグラフィ画像の部分選択は、CTサーモグラフィ画像の内、温度値の高い部分、すなわち、非常に高温の細胞を含む部分を選択することを含む。一実施形態において、CTサーモグラフィ画像の部分選択は、非常に高いおよび/または非常に低い温度値などの外れ値を除去することを含む。
【0057】
ステップ70おいて、補正回路36は、ステップ60で出力された推定温度場に基づいて、CTサーモグラフィ画像を処理することにより補正済みCTサーモグラフィ画像82を生成する。この処理は、CTサーモグラフィ画像の平滑化処理を含む。補正済みCTサーモグラフィ画像82とは、平滑化されたCTサーモグラフィ画像である。
図3の実施形態において、平滑化処理は、同等の温度を示す領域全体の平均化を含む。
【0058】
ステップ70で実行される平滑化は、CTサーモグラフィ画像の知的平滑化とも称される。
【0059】
図4は、推定温度場として利用可能なガウス関数を表すグラフ100を示す。推定値温度場として用いられるガウス関数は3次元であるが、簡略化のため2次元で図示する。矢印102は、推定温度場に基づいて、異なる温度になることが予想される方向を示す。矢印104は、推定温度場に基づいて、同等な温度になることが予想される方向を示す。
【0060】
ステップ70の平滑化処理では、推定温度場に基づいて、同一または同等な温度になることが予想される、CTサーモグラフィ画像のサブ領域間を優先的に平均化する。各サブ領域は、所定の数のボクセルを含む。CTサーモグラフィ画像の内、同等な温度になることが予想されるサブ領域は平均化されるが、異なる温度になることが予想されるサブ領域は平均化されない。従って、平滑化処理は異方的である。すなわち、補正回路36は、推定温度場に基づいて、CTサーモグラフィ画像または1対の医用画像の内、同一または同等の温度になることが予想されるサブ領域を決定し、優先的にサブ領域を平均化することを含む平均化処理を実行する。
【0061】
使用される平滑化方法は任意である。
図3の実施形態において、平滑化方法は、同等な予想温度の領域全体を優先的に平滑化する、空間依存的な異方性の平滑化カーネルを用いる。CTサーモグラフィ画像をIとし、推定温度場から予想される温度をTとする。空間依存的な異方性の平滑化カーネルgを画像Iと畳み込み積分することによって、補正済みCTサーモグラフィ画像82とも称される、平滑化されたCTサーモグラフィ画像が得られる。
【0062】
平滑化されたCTサーモグラフィ画像は、以下の数式(1)で表される。
【数1】
【0063】
Yは、画像ドメイン、gは平滑化カーネル、xは、予想温度T(x)の取得位置を示す。この式は、同等な温度の別の領域の平滑化に用いられる。
【0064】
平滑化カーネルgは、以下の数式(2)で表される。
【数2】
【0065】
A、λ、Hは、定数、Tは予想温度を示す。指数の第1項は、平滑化処理において、同一の予想温度の領域をより高く重み付けすることを示す。指数の第2項は、距離関数である。
【0066】
図3の平滑化処理として、従来のカーネルベースの平滑化法またはフィルタリング法と同様な数学的なフレームワークの利用も考えられるが、推定温度場を追加することによって、同等な温度になることが予想されるサブ領域を優先的に平滑化することができる。
【0067】
一実施形態の平均化処理において、予想温度分布に基づいて決定された温度範囲外のボクセルは無視される。
【0068】
一実施形態において、ユーザは、入力値を与えることによって、平滑度を決定してもよい。平滑度は、ユーザ操作可能なハイパーパラメータとも称される。補正回路36は、ユーザ入力に応じて、例えば、平滑化に用いられる定数の内の1つ以上を変更することによって、平滑化処理を調整してもよい。別の実施形態において、ユーザ入力によって、ステップ60のCTサーモグラフィ画像に対する処理に影響を与えてもよい。
【0069】
また別の実施形態において、平滑化処理に、推定温度場から予想される温度に依存する異方的カーネルを用いる。推定温度場の勾配に直交する方向に、CTサーモグラフィ画像がより大きく平滑化されるように、カーネルは構成される。勾配は、ボクセル間の温度差として理解され得る。例えば、第1のボクセルが高温で、第2のボクセルが低温の場合、この2つのボクセル間は大きな温度勾配となる。別の例として、第1のボクセルが第1の温度で、第2のボクセルが同程度の第2の温度の場合、2つのボクセル間の勾配は小さくなる。すなわち、補正回路36は、推定温度場内の温度の勾配を決定し、温度の勾配に対して直交する方向に優先的に平滑化することを含む平滑化処理を実行する。
【0070】
大きな温度変化が予想される勾配の大きい方向では、平滑化は行われない。
【0071】
例えば、平滑化された画像は、以下の数式(3)で表される。
【数3】
【0072】
Yは画像領域、gは平滑化カーネルを示す。
【0073】
空間依存性の異方的な平滑化カーネルは、以下のように数式(4)で定義される。
【数4】
【0074】
【0075】
aおよびbは定数、Inは単位行列、Tは推定温度場から予想される温度を示す。
【0076】
他の実施形態において、平滑化処理には、予想温度分布に応じて拡大・縮小される、空間依存性の等方的な平滑化カーネルが用いられる。
【0077】
例えば、平滑化された画像は、以下の数式(6)で表される。
【数6】
【0078】
Yは画像ドメインを示す。
【0079】
平滑化カーネルgは、以下の数式(7)で表される。
【数7】
【0080】
A、T0、Σは定数、σはシグモイド関数、Tは予想温度を示す。この数式(7)は通常のガウス関数と同様であるが、変化の度合いが予想温度場に依存するため、高温が予想される領域には小さい平滑化カーネルが用いられ、低温が予想される領域には大きい平滑化カーネルが用いられる。
【0081】
他の実施形態において、ステップ70のCTサーモグラフィ画像に対する処理は、3次元条件付き確率場(Conditional Random Field:CRF)からの推論を含む。温度場は、3次元CRFアルゴリズムによって予測される。3次元CRFアルゴリズムは、観察温度、予測温度および平滑度制約を考慮の上、エネルギー最小化問題を解決して最適な温度場を求める。
【0082】
一実施形態において、3次元CRFに基づき最小化されたエネルギー関数は、以下の数式(8)で表される。
【数8】
【0083】
このエネルギー関数は、過去に算出された予想温度分布に基づくデータ項と平滑度項との組み合わせである。
【0084】
別の実施形態において、ステップ70のCTサーモグラフィ画像に対する処理は、異方性拡散を含む。異方性拡散の拡散係数は、推定温度場から得られた予想温度に依存する。
【0085】
例えば、画像Iは、以下の部分微分方程式が示す数式(9)から展開できる。
【数9】
【0086】
Tは予想温度、tは疑似時間変数、Kは問題依存定数示す。
【0087】
他の実施形態において、ステップ70のサーモグラフィ画像の処理は、適宜、任意の方法によって実行可能である。
【0088】
ステップ80において、補正回路36は補正済みCTサーモグラフィ画像82を表示回路38に渡す。表示回路38は、表示画面26または任意のディスプレイに補正済みCTサーモグラフィ画像82から描画された画像を表示させる。補正済みCTサーモグラフィ画像82上で、加熱領域84は、ステップ40で受信された元のCTサーモグラフィ画像に比べて、より滑らかに、より連続的に見える。アーチファクトおよび/またはノイズは除去される。
【0089】
また、
図3は、ステップ70の処理の代わりに、単純なガウス平均化処理を実行した場合に得られるCTサーモグラフィ画像90を示す。単純なガウス平均化は、例えば、温度や温度勾配を考慮せず、推定温度場を利用しない。そのため、CTサーモグラフィ画像には、非物質的なアーチファクトが残存する。
【0090】
図3の方法は、CTサーモグラフィ画像を推定温度場に応じて処理することで、細胞内の蓄熱という基本的な物理プロセスに関する知識を活用できる。アーチファクトおよび/またはノイズは除去される。サーモグラフィ信号の小さいS/N比については、平均化処理を定める際に過去の物理的な結果を利用することによって、対処できる。アーチファクトおよびノイズを除去することにより、熱焼灼治療の支援として、CTサーモグラフィの利用が可能になる。補正済みCTサーモグラフィ画像82は、ユーザにとって読み取りが容易である。補正済みCTサーモグラフィ画像82によって、ユーザは焼灼治療によって与えられた熱を評価することが可能になる。
【0091】
図3の実施形態において、同一の解剖学的領域の焼灼前画像および焼灼後画像である1対のCT画像から1つのCTサーモグラフィ画像が取得される。この1つのCTサーモグラフィ画像は、推定温度場を決定し、適合させ、推定温度場に応じてCTサーモグラフィ画像を平滑化することによって、補正される。
【0092】
別の実施形態において、例えば、焼灼治療などの治療中の離れた時点で、CTサーモグラフィの複数の測定結果が取得される。CTサーモグラフィ画像またはサーモグラフィ画像を取得可能な1対の医用画像は、被検体の細胞組織に対して行われる焼灼術に関する。例えば、焼灼前画像および焼灼術中に取得された第1のCT画像から第1のCTサーモグラフィ画像が得られる。すなわち、補正回路36は、推定温度場に基づいて、第1のCT画像から、補正済み第1のCT画像を生成する。焼灼前画像および焼灼術中に第1のCT画像より後に取得された第2のCT画像から第2のCTサーモグラフィ画像が得られる。すなわち、補正回路36は、推定温度場に基づいて、第2のCT画像から、補正済み第2のCT画像を生成する。焼灼前画像および焼灼術中に第2のCT画像より後に取得された第3のCT画像から第3のCTサーモグラフィ画像が得られる。そして、最終CTサーモグラフィ画像は、焼灼前画像および焼灼術の終わりに取得された最終CT画像から得られる。別の実施形態において、複数のCTサーモグラフィ画像は、焼灼前、焼灼中、焼灼後画像などの組み合わせ可能な全ての対から取得されてもよい。例えば、4つのCT画像から6つのサーモグラフィ画像が取得可能である。一実施形態では、所定の時点における、利用可能な全ての画像の対が平均化される。
【0093】
温度場は、上述の推定方法の内の一つに従って推定される。温度場の推定は、焼灼治療全体が行われるタイミングに合わせて実行される。
【0094】
補正回路36は、推定温度場をCTサーモグラフィ画像のそれぞれに適合させ、各CTサーモグラフィ画像に対して異なるスケーリング・パラメータを取得する。次に、補正回路36は、適合後の温度場に基づいてCTサーモグラフィ画像の内の1つ以上を補正する。
【0095】
状況によっては、1つ以上の画像に適合させることによって、ノイズ低減効果を奏することができる。
【0096】
図3の実施形態において、受信された1つのCTサーモグラフィ画像が補正される。別の実施形態では、ステップ40において、1対の測定されたCT画像が受信される。例えば、1対の測定されたCT画像は、焼灼前画像と焼灼後画像である。すなわち、補正回路36は、CTサーモグラフィ画像と、少なくとも一つの別のCTサーモグラフィ画像を取得する。ステップ50において、
図3の実施形態と同様な方法で温度場が推定され、
図3のステップ60に記載した通りに適合される。ステップ70において、補正回路36は、推定温度場に基づいて、1対のCT画像のそれぞれを処理することによって、各CT画像から補正済みCT画像を得る。例えば、この処理は、温度および/または温度勾配に応じて優先的に平滑化を行うことを含む。次に、補正回路36は、1対の補正済みCT画像の減算によって、1つの補正済みCTサーモグラフィ画像82を得る。
【0097】
別の実施形態において、1つのCTサーモグラフィ画像の代わりに1対のCT画像が受信される実施形態に、上述の温度場推定方法また画像処理方法のいずれかを適用してもよい。
【0098】
上記の実施形態において、焼灼治療に関する1つのCTサーモグラフィ画像が処理される。別の実施形態において、人または動物の被検体に対する任意のほかの加熱処理に関する1つのCTサーモグラフィ画像または1対のCT画像を処理して、補正済みCTサーモグラフィ画像82を取得してもよい。
【0099】
一実施形態において、CTサーモグラフィ画像の取得に用いられるCT画像は、ハウンスフィールドユニット(HU)に正規化された円錐ビームCTデータを含む場合もある。
【0100】
他の実施形態において、予想温度分布に基づく平滑化処理を、任意のサーモグラフィ法および、MRサーモグラフィなどの任意のモダリティによって収集されたサーモグラフィ画像に対して適用してもよい。MRサーモグラフィでは、減算ステップを省略し、1つの画像に対して平滑化処理を適用してもよい。予想温度分布は、例えば、上述の予想温度場取得方法の内いずれか等の任意の方法に従って、取得可能である。平滑化処理は、例えば上述の平滑化方法の内いずれか等の任意の方法に従って実現可能である。
【0101】
上記の実施形態において、平滑化は3Dサーモグラフィ画像に対して実行される。別の実施形態において、例えば、1つのスライスなどの2Dサーモグラフィ画像に対して平滑化を実行してもよい。このような実施形態においても、予想温度場の算出には3次元計算が含まれる。
【0102】
実施形態に係る医用画像処理装置は、処理回路を備える。該処理回路は、補正対象のCT(Computed Tomography)サーモグラフィ画像を受信し、CTサーモグラフィ画像に対応する温度場を推定し、推定温度場に基づいてCTサーモグラフィ画像を補正するように構成される。
【0103】
さらに、処理回路は、CTサーモグラフィ画像を温度場に適合させ、サブ領域で適合後のCTサーモグラフィ画像を平均化することによって、CTサーモグラフィ画像を補正してもよい。
【0104】
実施形態に係る医用画像処理装置は、処理回路を備える。該処理回路は、(1)CTサーモグラフィ測定データを受信し、(2)予想される温度変化を規定する、プローブ位置、プローブの出力、焼灼時間等のパラメータを受信し、(3)(2)で受信したパラメータに基づいて、予想温度分布を決定し、(4)(3)で決定した予想温度分布に基づいて、(1)で受信した元のCTサーモグラフィデータを平滑化する。
【0105】
予想温度分布は、解析関数式によって定められてもよい。
【0106】
予想温度分布は、細胞内の熱拡散シミュレーションの結果に基づいて定められてもよい。
【0107】
予想温度分布は、ルックアップテーブルから取得されてもよい。
【0108】
予想温度分布の決定は、予想温度分布と観察されたCTサーモグラフィ画像との差異を最小にするための関数パラメータの最適化を含んでもよい。
【0109】
最適化には、元のCT値およびCTサーモグラフィ値に対する矩形制約に基づくボクセルのサブセットのみが使用される。
【0110】
CTサーモグラフィ処理は、平均化カーネルが予想温度分布に依存するような空間依存的な平均化処理を含んでもよい。
【0111】
平均化処理では、予想温度分布に基づいて決定された境界外のボクセルは無視されてもよい。
【0112】
CTサーモグラフィ処理は、予想温度分布に応じて拡大・縮小される、空間依存的、等方的な平滑化カーネルを備えてもよい。
【0113】
例えば、平滑化された画像は以下の数式(10)で表される。
【数10】
【0114】
Yは画像ドメイン、A、T0、Σは定数、σはシグモイド関数、Tは予想温度を示す。これは通常のガウス平滑化処理と同様であるが、変化の大きさが予想温度場に依存するため、高温が予想される領域には小さい平滑化カーネルが用いられ、低温が予想される領域には大きい平滑化カーネルが用いられる。
【0115】
CTサーモグラフィ処理は、予想温度場の勾配に直交する方向に優先的に平滑化する、空間依存的、異方的な平滑化カーネルを備えてもよい。
【0116】
例えば、空間依存的、異方的なカーネルg(x)は以下の数式(11)のように定義することができる。
【数11】
【0117】
a、bは定数、Iは単位行列を示す。この異方的カーネルは、サーモグラフィ画像を予想温度場の勾配に直交する方向により大きく平滑化するように構成される。
【0118】
CTサーモグラフィ処理は、予想温度が同等な領域全体を優先的に平滑化する、空間依存的、異方的な平滑化カーネルを備えてもよい。
【0119】
例えば、平滑化された画像は、以下の数式(12)で表される。
【数12】
【0120】
Yは画像ドメイン、A、λ、Hは定数、Tは予想温度を示す。指数の第1項は、平滑化処理において、同一の予想温度の領域をより高く重み付けすることを示す。
【0121】
また、CTサーモグラフィ処理は、3次元条件付き確率場(CRF)からの推論を備えてもよい。
【0122】
3次元CRFに基づき最小化されたエネルギー関数は、以下の数式(13)で表される。
【数13】
【0123】
このエネルギー関数は、過去に算出された予想温度分布に基づくデータ項と平滑度項との組み合わせである。
【0124】
また、CTサーモグラフィ処理は、予想温度に依存する異方的拡散を備えてもよい。
【0125】
異方的拡散平滑化方法において、画像Iは、以下の部分微分方程式が示す数式(14)から展開できる。
【数14】
【0126】
Tは予想温度、tは疑似時間変数、Kは問題依存定数示す。
【0127】
順方向熱拡散方程式を、データ駆動型代用モデルを用いて解くことができる。
【0128】
順方向熱拡散方程式を有限要素法に基づいて解くことができる。
【0129】
CTサーモグラフィの複数の測定結果は、治療中の離れたる時点で取得されてもよい。異なるスケーリング・パラメータを介して、最後の時点における予想温度場を全ての測定結果に適合させてもよい。
【0130】
平滑度はユーザが操作可能なハイパーパラメータであってもよい。
【0131】
実施形態に係る医用画像処理装置は、処理回路を備える。該処理回路は、(1)1対のCT測定画像を受信し、(2)予想される温度変化を規定する、プローブ位置、プローブの出力、焼灼時間等のパラメータを受信し、(3)(2)で受信したパラメータに基づいて、予想温度分布を決定し、(4)減算によってサーモグラフィ画像を得る前に、(1)で受信した元のCTデータを、(3)で決定した予想温度分布に基づいて、平滑化する。
【0132】
本明細書では特定の回路について説明したが、別の実施形態では、これらの回路の内1つ以上の機能を単一の処理資源や他のコンポーネントで実現することができる。または、単一の回路で実現される機能を2つ以上の処理資源または他のコンポーネントを組み合わせて実現することができる。単一の回路とは、該回路の機能を実現する複数のコンポーネント、互いに離間しているか否かに拘わらず、の意を含む。複数の回路とは、それらの回路の機能を実現する単一のコンポーネントの意を含む。
【0133】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。新規の方法やシステムは、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0134】
10 プローブ
12 マイクロ波アンテナ
20 医用画像処理装置
22 演算装置
24 スキャナ
26 表示画面
28 入力装置
30 データ記憶部
32 処理装置
34 シミュレーション回路
36 補正回路
38 表示回路
42 CTサーモグラフィ画像
82 補正済みCTサーモグラフィ画像
90 CTサーモグラフィ画像