(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077573
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】バンドブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
F16D 65/42 20060101AFI20240531BHJP
F16D 49/08 20060101ALI20240531BHJP
F16D 65/80 20060101ALI20240531BHJP
F16D 65/10 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
F16D65/42
F16D49/08
F16D65/80
F16D65/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099960
(22)【出願日】2023-06-19
(31)【優先権主張番号】202223162791.7
(32)【優先日】2022-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】595031605
【氏名又は名称】柵木 貞雄
(74)【代理人】
【識別番号】110003535
【氏名又は名称】スプリング弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】柵木 貞雄
【テーマコード(参考)】
3J058
【Fターム(参考)】
3J058AA03
3J058AA06
3J058AA13
3J058AA18
3J058AA23
3J058AA30
3J058AA37
3J058BA37
3J058BA57
3J058BA70
3J058CB02
3J058CC08
3J058CC66
3J058DA01
3J058DA13
3J058DE01
3J058DE08
3J058DE13
3J058EA08
3J058FA02
(57)【要約】
【課題】シンプルな構成でありながら、放熱性の改良、容易且つ正確なブレーキ隙間調整作業、低価格の維持といった3つの課題を満足することができる。
【解決手段】ハブ15と一体的に回転するドラム12と、ドラム12を囲繞する円筒碗状の囲繞部分を有するハウジング14と、ドラム12の外周面12Aを囲うように配設された円弧状の帯状バンド16と、ドラム12の外周面12Aと帯状バンド16との隙間距離を調整する調整ボルト18と、を備え、帯状バンド16がドラム12の外周面12Aを圧接して摩擦を発生させてハブ15の回転にブレーキをかけるバンドブレーキ装置10において、ドラム12に設けられ、外周面12Aの外側円周方向に延設された略円板状の放熱板20と、ハウジング14に形成され、調整ボルト18によってドラム12の外周面12Aと帯状バンド16との隙間距離を調整する際の覗き孔22と、を有する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と共に回転するハブに固定され、前記ハブと一体的に回転すると共に円筒状の外周面を有するドラムと、
車両の車両本体部に固定され、前記ドラムの外周面の外側に円状空間部を有して前記ドラムを囲繞する円筒碗状の囲繞部分を有するハウジングと、
前記ハウジングに設けられ、前記円状空間部に前記ドラムの前記外周面を囲うように配設された円弧状の帯状バンドと、
前記ハウジングに設けられ、前記帯状バンドの外面を前記ドラムの側に押すことによって前記ドラムの前記外周面と前記帯状バンドとの隙間距離を調整する調整ボルトと、を備え、
前記帯状バンドが前記ドラムの前記外周面を圧接して摩擦を発生させて前記ハブの回転にブレーキをかけるバンドブレーキ装置において、
前記ドラムに設けられ、前記外周面の外側円周方向に延設された略円板状の放熱板と、
前記ハウジングの前記円状空間部に対応するエリアに形成され、前記調整ボルトによって前記ドラムの前記外周面と前記帯状バンドとの隙間距離を調整する際の覗き孔と、を有することを特徴とするバンドブレーキ装置。
【請求項2】
前記覗き孔及び前記調整ボルトは同じ数だけ複数形成されると共に、前記複数の調整ボルトの延長線上に前記複数の覗き孔がそれぞれ位置する位置関係に形成されている請求項1に記載のバンドブレーキ装置。
【請求項3】
前記覗き孔は、前記ドラムの前記外周面と同心円上に円弧状長孔として形成されている請求項1又は2に記載のバンドブレーキ装置。
【請求項4】
前記覗き孔は、前記円弧状長孔の幅方向の下側円弧線が前記ドラムの前記外周面に一致すると共に前記円弧状長孔の幅方向中央部に前記調整ボルトで前記隙間距離を適切に調整した適切調整位置がくるように形成されている請求項3に記載のバンドブレーキ装置。
【請求項5】
前記覗き孔には、透明板が設けられていると共に前記透明板には前記適切調整位置であることを示すマーキング線が施されている請求項4に記載のバンドブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バンドブレーキ装置に係り、特に自転車のバンドブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ママチャリやシティサイクルなどの日常生活で使用される軽快車といわれている自転車の後輪用のブレーキとして、バンドブレーキ装置が使用されていることが多い。バンドブレーキ装置としては、例えば特許文献1がある。
【0003】
図8に一般的なバンドブレーキ装置の構造を示す。
図8に示すように、従来のバンドブレーキ装置101は、後輪と共に回転するハブに固定されたドラム104と、自転車のフレーム106に固定され、ドラム104の外周面104Aの外側に円状空間部を有してドラム104を囲繞する囲繞部分108Aを有するハウジング108と、ハウジング108内の円状空間部108Bにドラム104の外周面104Aを囲うように配設された帯状バンド110とを有している。なお符号の102は車軸である。
【0004】
そして、ブレーキワイヤ(図示せず)を介してブレーキ把手(図示せず)に連結されたブレーキレバー112をA方向に作動することによって回動中心114の右側部分が持ち上がり(回動中心114の左側部分は、右側部分とは接合しておらずフレームに固定されているので、回動中心114の右側部分が持ち上がっても不動である。)帯状バンド110でドラム104の外周面104Aを圧接する。これにより、帯状バンド110とドラム104の外周面104Aとの間に摩擦を発生させてハブの回転にブレーキをかけるようにしている。
【0005】
この場合、帯状バンド110とドラム104の外周面104Aとの隙間距離が均等ではない状態でブレーキレバー112を作動させて帯状バンド110でドラム104の外周面104Aを圧接すると、ブレーキの片当たり現象によってブレーキが上手くかからないことがある。また、帯状バンド110とドラム104の外周面104Aとの隙間距離が無い接触した状態では、ブレーキが常にかかっているブレーキの引きずり現象が生じる。したがって、一般的に自転車の出荷時に、作業者が上記の円状空間部の側方の開放口からドラム104の外周面104Aと帯状バンド110との間隔を目視しながら、調整ボルト116で帯状バンド110とドラム104の外周面104Aとの隙間距離を適切に調整して適正なブレーキ隙間になるようにブレーキ隙間調整作業をしている。
【0006】
ところで、日本自転車協会は、自転車に乗る人の安心・安全で環境に優しい自転車の供給を目的として、「自転車安全基準」を自主基準として制定しており、これに合格した自転車はBAAマークを貼付することができる。この「自転車安全基準」の項目にはブレーキの制動性能に関する検査もあり、晴天時だけでなく雨天時でも安全円滑に自転車を停止できるようにブレーキ制動力を検査する。このように、自転車の安全基準の観点からも、ブレーキ隙間調整作業を行ってブレーキの片当たり現象やブレーキの引きずり現象を無くすことが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に示された従来のバンドブレーキ装置は、帯状バンドでドラムの外周面を圧接することによって摩擦を発生させる際に発生する摩擦熱がドラム内にこもり易く、放熱性が悪い。これにより、ブレーキ性能が不安定になるという問題がある。例えば長い坂道等を下る場合のようにブレーキをかけ続ける必要がある場合、ブレーキが熱を持ちブレーキのききが悪くなる等の問題があり、「自転車安全基準」に合格しない恐れがある。また、放熱性が悪いとバンドブレーキ装置自体の耐久性も悪くなるという問題がある。
【0009】
このことから、バンドブレーキ装置の放熱性の改良が望ましいが、バンドブレーキ装置は低価格なブレーキ装置として軽快車等に採用されており、放熱性の改良のために大きな価格アップを行うことはできない。
【0010】
また、上記したように、自転車の出荷時に、適正なブレーキ隙間になるようにブレーキ隙間調整作業をしてから出荷しなくてはならず、ブレーキ隙間調整作業を容易且つ正確に行うことを満足した上で放熱性の改良を行う必要がある。
【0011】
したがって、バンドブレーキ装置の課題として、放熱性の改良、容易且つ正確なブレーキ隙間調整作業、低価格の維持といった3つの課題を満足することが必要になる。
このような背景から、発明者は、従来有りそうで無かった上記3つの課題を満足したバンドブレーキ装置の発明を行ったものである。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、シンプルな構成でありながら放熱性の改良、容易且つ正確なブレーキ隙間調整作業、低価格の維持といった3つの課題を満足することができるバンドブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のバンドブレーキ装置は前記目的を達成するために、車輪と共に回転するハブに固定され、ハブと一体的に回転すると共に円筒状の外周面を有するドラムと、車両の車両本体部に固定され、ドラムの外周面の外側に円状空間部を有してドラムを囲繞する円筒碗状の囲繞部分を有するハウジングと、ハウジングに設けられ、円状空間部にドラムの外周面を囲うように配設された円弧状の帯状バンドと、ハウジングに設けられ、帯状バンドの外面をドラムの側に押すことによってドラムの外周面と帯状バンドとの隙間距離を調整する調整ボルトと、を備え、帯状バンドがドラムの外周面を圧接して摩擦を発生させてハブの回転にブレーキをかけるバンドブレーキ装置において、ドラムに設けられ、外周面の外側円周方向に延設された略円板状の放熱板と、ハウジングの円状空間部に対応するエリアに形成され、調整ボルトによってドラムの外周面と帯状バンドとの隙間距離を調整する際の覗き孔と、を有することを特徴とする。
本発明のバンドブレーキ装置によれば、ドラムの外周面の外側円周方向に略円板状の放熱板をドラムに延設するようにしたので、ブレーキをかけた際の帯状バンドとドラムの外周面の間で発生する摩擦熱の放熱性を顕著に高めることができる。
【0014】
しかしながら、ドラムの外周面の外側円周方向に放熱板を延設することによって、帯状バンドが配設されたハウジングの円状空間部が放熱板によって遮蔽されてしまうため、ブレーキ隙間調整作業を容易且つ正確に行えないという問題が生じる。そこで、本発明では、ドラムに単に放熱板を設けるのではなく、調整ボルトによってブレーキ隙間調整作業を行う際の覗き孔を、ハウジングの円状空間部に対応するエリアに形成することで問題を解決した。
このように、本発明のバンドブレーキ装置は、放熱性の改良、容易且つ正確なブレーキ隙間調整作業、低価格の維持といった3つの課題をシンプルな構成で解決することに成功した。
【0015】
本発明のバンドブレーキ装置の更に好ましい態様として、ハウジングに形成された覗き孔及びハウジングに設けられた調整ボルトは同じ数だけ複数形成されると共に、複数の調整ボルトの延長線上に複数の覗き孔がそれぞれ位置する位置関係に形成されていることが好ましい。
覗き孔及び調整ボルトの数はそれぞれ1つでもよいが、同じ数だけ複数形成することが好ましい。覗き孔及び調整ボルトを複数形成した場合、複数の調整ボルトの延長線上に複数の覗き孔がそれぞれ位置する位置関係に形成されていることが好ましい。このように、複数の覗き孔は複数の調整ボルトの延長線上にそれぞれ形成したので、それぞれの調整ボルトが帯状バンドをドラム側に押す様子をそれぞれの覗き孔から見ながらブレーキ隙間調整作業を行うことができる。これによって、ブレーキ隙間調整作業の作業効率が向上するだけでなく、作業を正確に行うことができる。
なお、本実施の形態のように、覗き孔及び調整ボルトの数を同じ数だけ複数形成することが好ましいが、同じ数に限定するものではなく、異なる数であっていてもよい。
【0016】
本発明のバンドブレーキ装置の好ましい態様として、ハウジングに形成された覗き孔は、ドラムの外周面と同心円上に円弧状長孔として形成されていることが好ましい。このように、覗き孔をドラムの外周面と同心円上に円弧状長孔として形成することによって、帯状バンドの円弧状態に偏りがないことを目視で確認し易いので、ブレーキ隙間調整作業も容易且つ正確に行うことができる。
【0017】
本発明のバンドブレーキ装置の更に好ましい態様として、ハウジングに形成された覗き孔は、円弧状長孔の幅方向の下側円弧線がドラムの外周面に一致すると共に円弧状長孔の幅方向中央部に調整ボルトで隙間距離を適切に調整した適切調整位置がくるように形成されていることが好ましい。これにより、ブレーキ隙間調整作業を容易且つ正確に行うことと、覗き孔の形成によって放熱板の放熱性が低下する問題を最小限におおさえることとを一層効果的に行うことができる。
【0018】
本発明のバンドブレーキ装置の更に好ましい態様として、ハウジングに形成された覗き孔には、透明板が設けられていると共に透明板には適切調整位置であることを示すマーキング線が施されていることが好ましい。これにより、ブレーキ隙間調整作業を一層容易且つ正確に行うことができるだけでなく、作業の効率性も一層向上すると共に、ブレーキ隙間調整作業を行うための覗き孔の大きさをできる限り小さくすることができるので、覗き孔の形成によって放熱板の放熱性が低下する問題を更に最小限に抑え易くなる。また、透明板によって覗き孔が塞がれるので、覗き孔から雨水等が侵入してブレーキの利きが悪くなることもない。
【発明の効果】
【0019】
本発明のバンドブレーキ装置によれば、シンプルな構成でありながら、放熱性の改良、容易且つ正確なブレーキ制動調整作業、低価格の維持といった3つの課題を満足することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明のバンドブレーキ装置のハウジングの平面図である。
【
図2】本発明のバンドブレーキ装置のハウジングの底面図である。
【
図3】本発明のバンドブレーキ装置の放熱板を設けたドラムの平面図である。
【
図4】本発明のバンドブレーキ装置の放熱板を設けたドラムの底面図である。
【
図5】本発明のバンドブレーキ装置の放熱板を設けたドラムの側面図である。
【
図6】本発明のバンドブレーキ装置の組み立て完成図(底面図)である。
【
図7】本発明のバンドブレーキ装置の部分拡大平面図(平面図)である。
【
図8】従来のバンドブレーキ装置の構成とブレーキ作動方法を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面にしたがって本発明のバンドブレーキ装置の好ましい実施の形態について説明する。
本発明は以下の好ましい実施の形態により説明される。本発明の範囲を逸脱することなく、多くの手法により変更を行うことができ、本実施の形態以外の他の実施の形態を利用することができる。したがって、本発明の範囲内における全ての変更が特許請求の範囲に含まれる。
【0022】
[バンドブレーキ装置の全体構成]
本発明の実施の形態のバンドブレーキ装置10は、主として、ドラム12と、ハウジング14と、帯状バンド16と、調整ボルト18と、放熱板20と、ハウジング14に形成された覗き孔22とで構成される。そして、帯状バンド16が例えば車輪(図示せず)と共に回転するハブ15(
図6参照)と一体的に回転するドラム12の外周面12Aを圧接することによって摩擦を発生させてハブ15の回転にブレーキをかけるようにしている。なお、ハブは車輪と共に回転する。
【0023】
本発明の実施の形態のバンドブレーキ装置10は、自転車の後輪用のブレーキとして使用されていることが多いが、他の車両、例えば車椅子や乳母車等のブレーキとして使用することもでき、自転車に限定するものではない。但し、以下の説明では、バンドブレーキ装置10を取り付ける車両として自転車(図示せず)の例で説明し、自転車の後輪のハブ15に本発明のバンドブレーキ装置10を取り付けた例で説明する。また、車両本体部として自転車のフレーム26(
図6参照)の場合で説明する。
なお、
図6の符号24は回転しない車軸を示し、ハブ15は車軸24上にベアリング(図示せず)を介して回転自在に支持される。
【0024】
帯状バンド16がドラム12の外周面12Aを圧接するための機構については、本発明の本質ではないので、詳しい説明はしないが、例えば従来技術の
図8で説明したレバー機構及びブレーキ把手(図示せず)に連結されたブレーキワイヤを使用することができる。なお、本実施の形態では、レバー機構としてクランク部材28を使用する例で説明する。
【0025】
図1は、ハウジング14を、ドラム12が収容されるのと反対側から見た平面図である。
図2は、ハウジング14を、ドラム12が収容される側から見た底面図である。
図3、及び、
図4は、それぞれ、放熱板20が設けられたドラム12の図面であるが、組み立てた状態で、ハウジング14を基準にその方向を説明する。すなわち、
図3は放熱板20が設けられたドラム12の平面図である。この図面における、紙面手前側は、組み立てた状態において、
図1の紙面手前側と同様となる方向である。同様に、
図4は、放熱板20が設けられたドラム12の平面図である。この図面における、紙面手前側は、組み立てた状態において、
図2の紙面手前側と同様となる方向である。
また、
図5は、放熱板20が設けられたドラム12の側面図である。
【0026】
図6は、ドラム12を自転車のハブ15(
図6参照)に固定すると共にハウジング14をフレーム26に固定して、ドラム12とハウジング14とを自転車に取り付けるようにドラム12とハウジング14とを組み合わせたバンドブレーキ装置10の組み立て完成図である(底面図)。紙面手前側は、
図2、4と同様の方向となる。また、
図7は、ドラム12とハウジング14とを組み合わせたバンドブレーキ装置10の組み立て完成図の一部拡大図である。なお、
図7は、
図6とは反対の向きから見た図(平面図)となっている。
(ハウジング)
【0027】
図1及び
図2に示すように、ハウジング14は、円弧状外周枠14Aとハウジング側板14Bとによって、略円筒碗状に形成された囲繞部分14Cと、囲繞部分14Cから略U字板状に延設された支持部分14Dとで構成されている。即ち、ハウジング14の円弧状外周枠14Aは
図2の場合には表面側に突起しており、
図1の場合には裏面側に突起している。囲繞部分14Cは円弧状外周枠14Aとハウジング側板14Bの円板板状部分で構成され、支持部分14Dはハウジング側板14Bの略U字板状部分で構成される。
【0028】
ハウジング14の囲繞部分14Cのハウジング側板14Bの中心部には車軸24に貫通する貫通孔14Eが形成されている。また、支持部分14Dには、自転車のフレーム26(
図6参照)に固定するための固定孔14Fが形成されている。なお、フレーム26とハウジング14の支持部分14Dとは、固定部材30(
図6参照)を介して固定される。本実施の形態では、フレーム26とハウジング14の支持部分14Dとは、固定部材30を介して固定するようにしたが、ハウジング14を車軸24に固定することも可能である。この場合、車軸24はフレーム26の構成要素として含まれる。
【0029】
ハウジング14の囲繞部分14Cを形成する円弧状外周枠14Aは、ドラム12の円筒状外周枠12Bよりも大径に形成されている。そして、ドラム12とハウジング14とを自転車に取り付けてドラム12とハウジング14とが組み合わされたときに、ハウジング14はドラム12の外周面12Aの外側に円状空間部14Gを有してドラム12を囲繞する。この場合、略円筒碗状のドラム12と、略円筒碗状のハウジング14の囲繞部分14Cとが対面する向きで合わされる。また、ハウジング14の支持部分14Dには、クランク部材28が取り付けられる。クランク部材28は、揺動中心である支点部28Aに設けられた揺動軸32を介して指示部分14Dに対して揺動自在に支持される。
【0030】
(ドラム)
図3~
図5に示すように、ドラム12は円筒状の外周面12Aを有する円筒状外周枠12Bと円板状のドラム側板12Cとからなる略円筒碗状に形成される。即ち、ドラム12の円筒状外周枠12Bは
図3の場合には表面側に突起しており、
図4の場合には裏面側に突起している。略円筒碗状に形成されたドラム12の円筒状外周枠12Bの幅Dは、帯状バンド16の幅よりも僅かに大きい程度の小幅に形成されている(
図5参照)。
【0031】
そして、ドラム12のドラム側板12Cの中心部には、ハブ15(
図6参照)に固定するための固定用孔12Dが形成され、固定用孔12Dには雌ネジが刻設されている。これにより、ドラム12はハブ15に設けられた雄ネジ部材(図示せず)に螺合することにより固定され、ハブ15と一体的に回転する。
【0032】
(帯状バンド)
図2に示すように、帯状バンド16は、ハウジング14の円弧状外周枠14Aの内面側に円弧状に配設される。これにより、ドラム12とハウジング14とを自転車に取り付けてドラム12とハウジング14とが組み立てられたときに、帯状バンド16はドラム12の外周面12Aを囲うように円弧状に配設される。そして、帯状バンド16の一方端が円弧状外周枠14Aの一端部に固定ピン34で固定され、帯状バンド16の他方端がクランク部材28の作用点部28Bに設けられた連結ピン36に連結される。また、クランク部材28の力点部28Cには、ブレーキワイヤ(図示せず)の一端を連結する連結ボルト38が設けられる。
【0033】
帯状バンド16は板バネ材料で形成された帯状金属板16Aと、帯状金属板16Aの内面側(ドラム12の外周面12Aの側)に貼設された帯状摩擦部材16B(例えば帯状ゴム板)とで構成される。
【0034】
これにより、帯状バンド16は、ハウジング14の円弧状外周枠14Aの内面側に沿って円弧状に湾曲することによって、外側(ドラム12の外周面12Aから離間する方向)に付勢力が働いている。
【0035】
したがって、自転車にブレーキをかけていない通常時には、帯状バンド16とドラム12の外周面12Aとの間には隙間が形成されている。これにより、ハブ15(
図6参照)と共に回転するドラム12の回転を帯状バンド16が阻害することはない。そして、自転車にブレーキをかけてクランク部材28の力点部28Cをブレーキワイヤ(図示せず)で
図2のX方向に引っ張ることによって、クランク部材28が揺動軸32(支点部28A)を揺動中心として揺動して、クランク部材28の作用点部28Bは
図2の矢印Yに揺動する。
【0036】
これにより、帯状バンド16の湾曲が縮小する方向に帯状バンド16が引っ張られるので、帯状バンド16の帯状摩擦部材16Bがドラム12の外周面12Aを圧接する。その結果、帯状バンド16と回転するドラム12との間に摩擦が発生し、自転車にブレーキがかかる。
【0037】
(調整ボルト)
図1及び
図2に示すように、調整ボルト18はハウジング14の円弧状外周枠14Aに複数個設けられる。本実施の形態では、調整ボルト18を2本設けた例で説明する。2本の調整ボルト18は、円弧状外周枠14Aの円弧中央部近傍に所定間隔を置いて形成された雌ネジ孔に螺合した状態で支持される。
【0038】
即ち、2本の調整ボルト18は、調整ボルト18を回して円弧状外周枠14Aからドラム12の方向への出没量を調整することによって、調整ボルト18の先端が帯状バンド16の外面に当接して押し付ける。また、調整ボルト18は、その先端が車軸24の中心軸に向くように円弧状外周枠14Aに螺合されている。
【0039】
2本の調整ボルト18のハウジング14の円弧状外周枠14Aへの設置位置及び所定間隔は、2本の調整ボルト18で帯状バンド16の外側を押し付けたときに、ドラム12の外周面12Aに対する帯状バンド16全体の隙間距離が略均等になる設置位置及び所定間隔とすることが好ましい。
【0040】
これにより、2本の調整ボルト18で帯状バンド16の外面の2箇所をドラム12の側に押すことによって、帯状バンドの帯状摩擦部材16Bとドラム12の外周面12Aとの隙間距離を均等に調整することができる。
【0041】
(放熱板)
図3~
図5に示すように、放熱板20は、ドラム12の外周面12Aの外側円周方向に延設された略円板状に形成され、中心部にはドラム12がハブ15に固定される固定用孔12Dと同径の中心孔20Bが形成されている。
【0042】
そして、ドラム12の固定用孔12Dと放熱板20の中心孔20Bを一致させた状態で、放熱板20はドラム12のドラム側板12Cにネジ40によって固定される。放熱板20としては、熱伝導性の良い金属で比較的安価なアルミニウム等を使用することができる。
【0043】
なお、本実施の形態では、ドラム12と放熱板20とを別々の部材として形成し、ネジ40によって放熱板20をドラム12に固定するようにしたが、ドラム12と放熱板20とを一体成形することもできる。
【0044】
放熱板20におけるドラム12の外周面12Aよりも外側の外周面部には、複数の襞状の窪み部20Aが形成されており、これにより放熱板20の表面積を大きくしている。また、放熱板20におけるドラム12の外周面12Aと固定用孔12Dとの間の内周面部には、複数個の孔20Cが形成されている。孔20Cは無くてもよいが、ドラム12をハブ15から着脱する際に工具を引っ掛ける孔として利用すると便利である。
【0045】
(覗き孔)
図1、2に示すように、ハウジング14のハウジング側板14Bにおけるドラム12の外周に近い部分には、調整ボルト18によってドラム12の外周面12Aと帯状バンド16との隙間距離を調整する際の覗き孔22が形成されている。これにより、ドラム12とハウジング14とを自転車に取り付けるようにドラム12とハウジング14とを組み立てたときに、ハウジング14の円状空間部14Gに対応するエリアに覗き孔22が形成されことになる。ハウジング14に形成される覗き孔22は、ドラム12の外周面12Aと同心円上に円弧状長孔として形成されるが、この形状には限定されない。覗き孔は、丸形状や四角形状でもよい。また、この覗き孔には、相補的な形状の蓋(栓)が嵌め合わされていてもよい。蓋(栓)の材質は特に限定されないが、覗き孔の内外を水密に区画できる点で、弾性部材、特にゴム(エラストマー)等であることが好ましい。覗き孔に蓋(栓)が嵌め合わされる場合、調整時には、これを取り除き、通常の使用時にはこれを嵌め合わせておくことができる。このようにすることで、ハウジング14内に、水、砂、及び、埃等がより侵入しにくくなり、ブレーキ性能がより長期間維持されやすい。
【0046】
覗き孔22及び調整ボルト18の数はそれぞれ1つでもよいが、同じ数だけ複数形成することが好ましい。
図1-2、6-7は、2個の覗き孔22と2本の調整ボルト18を形成した場合である(なお、
図7は、部分拡大図であるため、図面上、調整ボルト18は1本のみが図示されている、以下の説明において同様である。)。覗き孔22及び調整ボルト18を複数形成した場合、複数の調整ボルト18の長手方向の延長線M上に複数の覗き孔22がそれぞれ位置する位置関係に形成されていることが好ましい。このように、複数の覗き孔22は複数の調整ボルト18の延長線M上にそれぞれ形成したので、それぞれの調整ボルト18が帯状バンド16をドラム12側に押す様子をそれぞれの覗き孔22から見ながらブレーキ隙間調整作業を行うことができる。これによって、ブレーキ隙間調整作業の作業効率が向上するだけでなく、作業を正確に行うことができる。
なお、本実施の形態のように、覗き孔22及び調整ボルト18の数を同じ数だけ複数形成することが好ましいが、同じ数に限定するものではなく、異なる数であっていてもよい。
【0047】
また、
図1-2、6-7では、2本の調整ボルト18の数に合わせて2個の覗き孔22を形成したが、2個の覗き孔22を繋げた1個の長い覗き孔22にすることも可能である。
【0048】
覗き孔22及び調整ボルト18の数を同じ2個とする場合、2本の調整ボルト18の延長線M上に2個の覗き孔22のそれぞれの中心が位置することが一層好ましい。即ち、放熱板20を設けたドラム12を自転車(図示せず)のハブ15に固定し、帯状バンド16、調整ボルト18及びクランク部材28を設けたハウジング14を自転車(図示せず)のフレーム26に取り付けて本発明のバンドブレーキ装置10を完成させたときに、2本の調整ボルト18の延長線M上に2個の覗き孔22のそれぞれの中心が位置するように、覗き孔22の位置と、2本の調整ボルト18の位置とを設計する。
ここでは、2本の調整ボルト18の例で説明するので、2個の覗き孔22が形成されているが、3本以上の調整ボルト18の場合にも同様である。覗き孔22は、調整ボルト18の個数分、設けられることが好ましい。
【0049】
また、
図6に示すように、覗き孔22は、円弧状長孔における幅方向の下側円弧線22Aがドラム12の外周面12Aに一致すると共に円弧状長孔の幅方向中央部分に調整ボルト18で隙間距離を適切に調整した適切調整位置がくるように覗き孔22の幅を設計することが好ましい。
【0050】
また、覗き孔22の円弧長さとしては、ドラム12の外周面12Aを囲うように円弧状に配設された帯状バンド16の円弧状態に偏りがないかを2個の覗き孔22で確認できる最小限の長さがあればよい。例えば、2個の覗き孔22の円弧長さの合計が帯状バンド16の全長の1/4~1/3に入るように設計することが好ましい。
【0051】
更に、
図7に示すように、ハウジング14に形成された覗き孔22には、透明板42が設けられていると共に透明板42には適切調整位置であることを示すマーキング線Pが施されていることが好ましい。透明板42としては透明であればどのような材質でもよいが、プラスチック製のものが低価格で好ましい。透明板42は覗き孔22に隙間なく嵌め込まれ、覗き孔22から雨水等の水が外部から入らないようにする。
【0052】
[バンドブレーキ装置の作用]
次に、
図6-7を使用して、上記の如く構成された本発明の実施の形態のバンドブレーキ装置10の作用について説明する。なお、
図6-7では、帯状バンド16を破線で図示すると図が混雑するので、帯状バンド16は図示していない。
【0053】
バンドブレーキ装置10は、帯状バンド16でドラム12の外周面12Aを圧接することによってハブ15と一体的に回転するドラム12にブレーキがかかるが、帯状バンド16とドラム12とが摩擦することで摩擦熱が発生する。この場合、ブレーキ制動面であるドラム12の外周面12Aに摩擦熱が最も蓄積され易い。
【0054】
そこで、上記の如く構成した本発明のバンドブレーキ装置10によれば、ドラム12の外周面12Aの外側円周方向に略円板状の放熱板20を延設するようにしたので、摩擦熱は放熱板20を伝って効率的に外部に放熱され易くなる。これにより、ドラム12に発生した摩擦熱の放熱性を顕著に高めることができるので、シンプルな構成でありながら、放熱性に優れたバンドブレーキ装置10を提供できる。
【0055】
しかしながら、ドラム12の外周面12Aの外側円周方向に放熱板20を延設することによって、ドラム12の外周面12Aの外側に形成されているハウジング14の円状空間部14G、即ち帯状バンド16が配設された円状空間部14Gが放熱板20によって遮蔽されてしまう。これにより、帯状バンド16が見えなくなるので、例えば自転車の出荷時に、調整ボルト18によって、帯状バンド16とドラム12の外周面12Aとの隙間距離を調整する作業者はブレーキ隙間調整作業を容易且つ正確に行えないという問題が生じる。
【0056】
そこで、本発明の実施の形態のバンドブレーキ装置10では、ドラム12に単に放熱板20を設けるのではなく、ハウジング14の円状空間部14G、即ち帯状バンド16が配設される円状空間部14Gの対応位置のハウジング14のハウジング側板14Bに、帯状バンド16とドラム12の外周面12Aとの隙間距離を調整する際の覗き孔22を形成することで問題を解決した。
【0057】
また、本発明の実施の形態では、ブレーキ隙間調整作業を容易且つ正確に行うために以下の工夫を行った。
【0058】
即ち、本発明の実施の形態のバンドブレーキ装置10では、覗き孔22を、ドラム12の外周面12Aと同心円上に円弧状長孔として形成すると共に2本の調整ボルト18の延長線M上に2個の覗き孔22を形成するようにした。
【0059】
このように、覗き孔22をドラム12の外周面と同心円上に円弧状長孔として形成することによって、帯状バンド16の円弧状態に偏りがないことを確認し易いので、ブレーキ隙間調整作業も容易且つ正確に行うことができる。
【0060】
そして、覗き孔22の適切な円弧長さについては、ドラム12の外周面12Aを囲うように円弧状に配設された帯状バンド16の円弧状態に偏りがないかを2個の覗き孔22で確認できる最小限の長さにした。
【0061】
即ち、車軸24の方向に向かって配設された調整ボルト18の延長線Mが覗き孔22の長さの方向の中央位置に一致するように調整ボルト18と覗き孔22との位置関係になるように設計することで、覗き孔22の円弧長さを、ブレーキ隙間調整作業も容易且つ正確に行うための最小限の長さにした。
【0062】
また、覗き孔22の適切な幅については、円弧状長孔における幅方向の下側円弧線22Aがドラム12の外周面12Aに一致すると共に円弧状長孔の幅方向中央部分に調整ボルト18で隙間距離を適切に調整した適切調整位置がくるように覗き孔22の幅を設計することで、覗き孔22の幅を最小限の幅とした。
【0063】
このように、本発明の実施の形態のバンドブレーキ装置10では、覗き孔22の円弧長さ及び幅を、ブレーキ隙間調整作業を容易且つ正確に行うことができる最小限の円弧長さ及び幅にすることができるので、覗き孔22の形成によってハウジング14の剛性が低下する問題を最小限におさえることができる。
【0064】
また、本発明の本実施の形態のバンドブレーキ装置10では、覗き孔22には、透明板42を設けると共に透明板42に適切調整位置であることを示すマーキング線Pを施すようにした。これにより、ブレーキ隙間調整作業を容易且つ正確に行うことができるだけでなく、覗き孔22からハウジング14の円状空間部14G即ち帯状バンド16が設けられている円状空間部14Gに、水(例えば雨水)が侵入してブレーキの利きを悪くする等の弊害をなくすことができる。
【0065】
この場合、透明板42が、凸レンズとしての機能を有するようにすれば、透明板42の拡大機能によって覗き孔22の内部の帯状バンド16を拡大することができるので、ブレーキ隙間調整作業を一層容易且つ正確に行うことができる。
【0066】
更には、透明板42にマーキング線Pを施したり、透明板42に凸レンズとしての機能をもたせたりすることで、ブレーキ隙間調整作業を行うための覗き孔の大きさをできる限り小さくすることができるので、覗き孔22の形成によってハウジング14の剛性が低下する問題を更に最小限におさえ易くなる。
【0067】
このように、本発明の実施の形態のバンドブレーキ装置10は、ドラム12に設けた放熱板20と、ハウジング14に形成された覗き孔22によって、放熱性と作業性(ブレーキ隙間調整作業が容易且つ正確にできる)が両立し、シンプルな構成なので、従来のバンドブレーキ装置と比較しても価格のアップを極力抑えることができる。
【0068】
したがって、本発明の実施の形態のバンドブレーキ装置10は、放熱性の改良、容易且つ正確なブレーキ隙間調整作業、低価格の維持といった3つの課題を解決することができる。
【符号の説明】
【0069】
10…バンドブレーキ装置、12…ドラム、12A…外周面、12B…円筒状外周枠、12C…ドラム側板、12D…固定用孔、14…ハウジング、14A…円弧状外周枠、14B…ハウジング側板、14C…囲繞部分、14D…支持部分、14E…貫通孔、14F…固定孔、14G…円状空間部、15…ハブ、16…帯状バンド、16A…帯状金属板、16B…帯状摩擦部材、18…調整ボルト、20…放熱板、20A…窪み部、20B…中心孔、22…覗き孔、22A…(覗き孔の)下側円弧線、24…車軸、26…フレーム、28…クランク部材、28A…支点部、28B…作用点部、28C…力点部、30…固定部材、32…揺動軸、34…固定ピン、36…連結ピン、38…連結ボルト、40…ネジ、42…透明板、P…マーキング線、101…バンドブレーキ装置、102…車軸、104…ドラム、104A…外周面、106…フレーム、108…ハウジング、108A…囲繞部分、108B…円状空間部、110…帯状バンド、112…ブレーキレバー、114…回動中心、116…調整ボルト