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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077582
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】不織布
(51)【国際特許分類】
   D01D 5/08 20060101AFI20240531BHJP
   D04H 1/728 20120101ALI20240531BHJP
   D04H 1/4382 20120101ALI20240531BHJP
   D04H 3/16 20060101ALI20240531BHJP
   D01F 6/92 20060101ALI20240531BHJP
   D01F 6/62 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
D01D5/08 Z
D01D5/08 D
D01D5/08 C
D04H1/728
D04H1/4382
D04H3/16
D01F6/92 301C
D01F6/62 306V
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023124873
(22)【出願日】2023-07-31
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-03-11
(31)【優先権主張番号】P 2022189675
(32)【優先日】2022-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100164345
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】米田 敬太郎
(72)【発明者】
【氏名】近藤 裕貴
【テーマコード(参考)】
4L035
4L045
4L047
【Fターム(参考)】
4L035AA05
4L035BB02
4L035BB21
4L035BB31
4L035DD13
4L035EE20
4L035FF05
4L045AA05
4L045AA06
4L045AA08
4L045BA05
4L045BA34
4L047AA13
4L047AA19
4L047AA29
4L047AB07
4L047AB08
4L047BA08
4L047EA05
(57)【要約】
【課題】極細繊維を含む幅広の不織布及び該不織布を構成する極細繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】繊維を含む不織布であって、前記繊維の内部に下記の成分A及び成分Bを含み、前記不織布全体の質量に対し、前記成分Aを50質量%以上95質量%以下と、前記成分Bを5質量%以上50質量%以下含み、前記不織布が含む繊維の数平均繊維径が4μm以下であり、前記不織布のシート幅が50mm以上である不織布。
成分A:固化点が100℃以下である熱可塑性樹脂
成分B:固化点が前記熱可塑性樹脂のうち最も固化点が高いものの固化点より高く、融点が150℃より低い化合物
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂組成物全体の質量に対し、下記の成分Aを50質量%以上95質量%以下と、下記の成分B’を5質量%以上50質量%以下含む前記熱可塑性樹脂組成物に対し、加熱溶融する(I)の工程及びノズルから吐出する(II)の工程を行い、繊維径4μm以下にて紡糸する繊維の製造方法。
成分A:固化点が100℃以下である熱可塑性樹脂
成分B’:固化点が前記熱可塑性樹脂のうち最も固化点が高いものの固化点より高く、融点が加工温度より低い化合物
【請求項2】
前記(II)の工程において、加熱流体の吹き付け処理を行う、請求項1記載の繊維の製造方法。
【請求項3】
前記加熱流体の温度が、前記成分Aが含む前記熱可塑性樹脂のうち最も固化点が高いものの固化点より高い、請求項2記載の繊維の製造方法。
【請求項4】
前記(II)の工程において、静電紡糸処理を行う、請求項1~3のいずれか1項に記載の繊維の製造方法。
【請求項5】
前記(II)の工程において、前記熱可塑性樹脂組成物の溶融液の前記ノズルからの吐出速度を0.1g/分・ノズル以上とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の繊維の製造方法。
【請求項6】
前記成分B’が、脂肪酸、高級アルコール、脂肪酸アミド化合物、多価アルコール有機酸エステル化合物、ワックス、スフィンゴ脂質、アルキルアンモニウム塩及び脂肪酸金属塩から選ばれる1又は2以上を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の繊維の製造方法。
【請求項7】
前記成分Aは、固化点が0℃以上75℃以下の熱可塑性樹脂を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の繊維の製造方法。
【請求項8】
前記成分B’を、前記熱可塑性樹脂組成物の質量全体に対し、10質量%以上40質量%以下含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の繊維の製造方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の繊維の製造方法により得られる繊維を捕集してシート状に形成する工程を有する、不織布の製造方法。
【請求項10】
前記不織布は、構成繊維のメジアン繊維径が、0.1μm以上2μm以下である、請求項9記載の不織布の製造方法。
【請求項11】
繊維を含む不織布であって、
前記繊維の内部に下記の成分A及び成分Bを含み、
前記不織布全体の質量に対し、前記成分Aを50質量%以上95質量%以下と、前記成分Bを5質量%以上50質量%以下含み、
前記不織布が含む繊維の数平均繊維径が4μm以下であり、
前記不織布のシート幅が50mm以上である不織布。
成分A:固化点が100℃以下である熱可塑性樹脂
成分B:固化点が前記熱可塑性樹脂のうち最も固化点が高いものの固化点より高く、融点が150℃より低い化合物
【請求項12】
前記成分Bが、質量平均分子量が1,000g/mol以下である化合物を含む、請求項11記載の不織布。
【請求項13】
前記成分Bが、脂肪酸、高級アルコール、脂肪酸アミド化合物、多価アルコール有機酸エステル化合物、ワックス、スフィンゴ脂質、アルキルアンモニウム塩及び脂肪酸金属塩から選ばれる1又は2以上を含む、請求項11又は12記載の不織布。
【請求項14】
前記成分Bが含む化合物のうち、塩構造を持つ化合物の割合が0質量%超5質量%以下である、請求項11~13のいずれか1項に記載の不織布。
【請求項15】
前記不織布は、構成繊維のメジアン繊維径が2μm以下である、請求項11~14のいずれか1項に記載の不織布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
融点が100℃未満の低融点熱可塑性樹脂は、加工温度が低く、設備投資やエネルギー消費量が少なくて済むことから、不織布の繊維素材として注目されている(例えば、特許文献1)。
また、前記低融点熱可塑性樹脂を用いて極細繊維(例えば繊維径10μm以下)を含む不織布の製造に関する技術について、いくつか提案されている(例えば、特許文献2~5)。極細繊維はフィルターや衛生材料、電池セパレータ、医療材料など様々な場面で使用され、例えば医療分野では足場材として用いることが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-70207号公報
【特許文献2】特開2020-169201号公報
【特許文献3】特表2013-520583号公報
【特許文献4】国際公開第2006/022430号
【特許文献5】特表平10-500741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の低融点熱可塑性樹脂を用いて極細繊維を製造する場合、従来の技術では生産性において難があり、工業化に至っていないのが現実であった。具体的には、繊維を細くするには、エレクトロスピニング法(溶融法、溶液法)やメルトブロー法において、一般的にノズルからの吐出量を抑えてゆっくりと紡糸しなければならないという制約がある。
加えて、低融点熱可塑性樹脂は、溶融状態ないしは溶液状態でノズルから吐出した後でもその流動性が維持されやすい。そのため、液体的な挙動をとって延伸不足となったり、また冷却不足のまま融着を起こして集合体となったりするものが出てくる。これにより玉状物(ショット)や繊維の糸切れ(フライ状物)が起きやすく、安定した繊維化を生産性良く行うことが難しい。そのため、更に吐出量を絞ることが必要となり、紡糸速度が極めて遅くなることは避けられなかった。例えば、1ノズル当たりの吐出量を約0.001g/分・ノズルとするように、製造ラインにおいて工業生産上一般的に求められる紡糸速度の約1/100から1/1000の低速にしなければならなかった。
このように吐出量の極端な抑制を必要とすることから、低融点熱可塑性樹脂を用いた極細繊維の不織布は工業的な生産が困難であり、試験片レベルの小さなものに限られていた。そのため、極細繊維で所望の幅を有する幅広の不織布(例えばフィルターなど実際の製品に求められる十分な幅の品質が良い不織布)は、従来の製造ラインにて効率良く量産することが難しく、工業生産化の観点から極細繊維で構成した幅広不織布の開発が切望されていた。この問題点及びその解決について、前述の特許文献1~5には示されていない。
本発明は、上記の点に鑑み、極細繊維を含む幅広の不織布及び該不織布を構成する極細繊維の製造方法の提供に関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、繊維の内部に、下記の成分Aと成分Bとを含む不織布を提供する。
前記成分Aは、不織布全体の質量に対し、50質量%以上95質量%以下であることが好ましい。
前記成分Bは、不織布全体の質量に対し、5質量%以上50質量%以下であることが好ましい。
前記不織布が含む繊維の数平均繊維径は4μm以下であることが好ましい。
前記不織布のシート幅は50mm以上を含むことが好ましい。
前記成分Aは、固化点が100℃以下である熱可塑性樹脂であることが好ましい。
前記成分Bは、固化点が前記熱可塑性樹脂のうち最も固化点が高いものの固化点より高く、融点が150℃より低い化合物を含むことが好ましい。
【0006】
また、本発明は、以下の成分A及び成分B’を含む熱可塑性樹脂組成物を紡糸する繊維の製造方法を提供する。
成分Aは、固化点が100℃以下である熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。
成分B’は、固化点が前記熱可塑性樹脂の固化点より高く、融点が加工温度より低い化合物を含むことが好ましい。
熱可塑性樹脂組成物全体の質量に対し、成分Aの含有量は50質量%以上95質量%以下であることが好ましい。
熱可塑性樹脂組成物全体の質量に対し、成分B’の含有量は5質量%以上50質量%以下であることが好ましい。
前記熱可塑性樹脂組成物に対し、加熱溶融する(I)の工程及びノズルから吐出する(II)の工程を行うことが好ましい。
前記熱可塑性樹脂組成物を繊維径4μm以下にて紡糸することが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の不織布は、極細繊維を含む幅広のものとなる。本発明の繊維の製造方法によれば、前記不織布を構成する極細繊維を効率良く量産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係る不織布を構成する繊維の一実施形態を模式的に示す断面斜視図である。
図2】(A)は、実施例1において成分Aの熱可塑性樹脂、成分Bの化合物、及び両者を混合して作製した熱可塑性樹脂組成物それぞれについて、DSC(降温)の結果を示すグラフである。(B)はこれらの温度と粘度との関係を示すグラフである。(C)はこれらの温度と弾性率との関係を示すグラフである。
図3】(A)は、実施例1において得た不織布試料の繊維状態を示す図面代用写真である。(B)はその繊維径の個数分布を示すグラフである。(C)はその繊維径の体積分布を示すグラフである。
図4】比較例1において得た試料の状態を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の不織布及び該不織布を構成する繊維の製造方法について説明する。
【0010】
本発明の不織布は、繊維の内部に、固化点が100℃以下である熱可塑性樹脂(以下、成分Aと呼ぶ。)、及び固化点が熱可塑性樹脂の固化点より高く、融点が150℃より低い化合物(以下、成分Bと呼ぶ。)を含むことが好ましい。
本発明の不織布全体の質量に対し、前記成分Aを50質量%以上95質量%以下と、前記成分Bを5質量%以上50質量%以下含むことが好ましい。ここで言う成分A及び成分Bそれぞれの上記の含有割合は、本発明の不織布全体の質量を100質量%としたときの割合を意味する。
【0011】
(固化点の測定方法)
前記「固化点」は固化温度とも言い、示差走査熱量測定(DSC)にて、試料を昇温していき溶融後に5℃/分で降温した際に最初に発現する発熱ピークのピーク温度をいう。この測定は具体的には次のようにして行う。まず、不織布を、繊維が溶解しない溶媒、例えば水、で洗浄し、乾燥する。その後、質量が1mgになるように切片を切り出して測定対象の構成成分を抽出する。不織布が製品に組み込まれている場合は、該当する部分のみを剥離させたり、切り出したりすることで、不織布を取り出してから行う。抽出した構成成分をアルミ製サンプルパンに封入して加温し、5℃/分で昇温していく。昇温によって加温温度が200℃に到達した後600秒以内に5℃/分で降温していく。次いで、0℃に到達した時点で測定を終了する。
なお、上記のピーク温度は、加温された成分が溶融状態から降温によって凝固し始める温度を意味する。前記「溶融状態」とは、外力を加えたときに上記の成分が流動する状態であり、例えば対象成分の融点以上に加温した状態をいう。前記「凝固」とは、結晶化すること、結晶化が見られない場合はガラス転移することを意味する。
【0012】
(成分A、成分Bの含有割合の測定方法)
前記(固化点の測定方法)に示される各構成成分の抽出方法により抽出した構成成分を、それぞれが可溶な溶媒であり、重水素化した溶媒に溶解させ、プロトンNMRを用いて、各構成成分を同定する。これにより成分A,Bに該当する構成成分を同定する。
次いで、同定された成分A又はBを溶解可能な溶媒で、繊維集合体からその成分を抽出することで、その含有割合を求める。
例えば、成分Bが溶解可能な有機溶媒に繊維集合体を24時間浸漬し、成分Bを抽出する。有機溶媒から繊維を取り出し、40℃減圧乾燥-0.04MPaにて24時間乾燥する。その後、乾燥後繊維重量を測定することで成分Bの質量%を測定することができる。
成分B含有割合(質量%)=100-(減圧乾燥後繊維質量/繊維初期質量)×100
上記で同定された各構成成分について、測定対象繊維を飛行型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)にて測定を行い、繊維形状内から検出されるか否かを検出する。繊維形状内から成分A,Bに相当する構成成分が検出されれば、それらが繊維の内部に含まれると判断する。
【0013】
成分Aは、不織布全体の質量に対し50質量%以上95質量%以下含有され、本発明の不織布の構成繊維の主基剤となる。このような熱可塑性樹脂が固化点100℃以下であることで、これを主基剤として含む構成繊維の粘度及び弾性の低下が比較的低い温度で生じる。これにより、本発明の不織布は、エンボス等による貼り合わせ温度を低くすることができ、加工性の高いものとなる。また、後述の製造方法において、紡糸しやすくなり、低温で熱接着等が可能なため、エネルギー消費や設備投資が抑えられる。
【0014】
上記の観点から、成分Aが含む熱可塑性樹脂の固化点は、75℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましい。
また、成分Aが含む熱可塑性樹脂の固化点は、現実的には、0℃以上である。
【0015】
成分Aが含む熱可塑性樹脂の融点は、150℃以下が好ましく、120℃以下がより好ましく、90℃以下が更に好ましい。これにより、エンボス等による貼り合わせ温度を低くすることができ、加工性の高いものとなる。
また、前記融点は、50℃以上が好ましい。これにより、夏場などの高温環境における形状安定性が高くなる。
【0016】
成分Aは、上記の作用をより高める観点から、不織布全体の質量に対する含有割合を、60質量%以上とすることが好ましく、65質量%以上とすることがより好ましく、70質量%以上とすることが更に好ましい。
また、成分Aは、後述の成分Bによる作用をより高める観点から、不織布全体の質量に対する含有割合を、95質量%以下とすることが好ましく、90質量%未満とすることがより好ましく、85質量%以下とすることが更に好ましい。
【0017】
成分Bは、固化点が、成分Aが含む熱可塑性樹脂のうち最も固化点が高いものの固化点よりも高く、不織布全体の質量に対し5質量%以上50質量%以下含有されることで、本発明の不織布の構成繊維の固化点を成分A単独の固化点から適度に上げることができる。また、後述の製造方法において、ノズルから吐出した熱可塑性樹脂組成物(成分A+成分B)の溶融液が延伸、冷却される過程で、成分Aが含む熱可塑性樹脂よりも成分Bが含む化合物が先に固化されやすい。
また、後述の製造方法において、前記熱可塑性樹脂組成物全体としても、前記固化点の適度の上昇により、成分A単独の場合よりも、溶融状態から急激に粘度及び弾性率が上昇する基準温度が適度に上がる。これにより吐出後の固化のタイミングが良好になる。そして、繊維の主基剤である成分Aが溶融状態で延伸されながら、成分Bが、4μm以下という極細径の強度を補って延伸を良好なものとし、良好に繊維化できる。また、成分Bの融点が150℃より低いことで、後述の製造方法における加工温度の環境下で、成分Bがノズルから吐出される溶融液内において溶融状態で存在しやすくなる。これにより、後述の製造方法において、成分Bと成分Aとの混合溶融性が高められ、成分Bを核とした樹脂塊の発生を抑制し、ノズルの詰まりや繊維破断が起きにくくなる。
その結果、本発明の不織布は、穴などの欠陥が少なくなる。また、玉状物の発生が抑えられて繊維径がより細く、かつ、その均一性が高められる。そして、本発明の不織布は、良好な手触りの品質の良いものとなる。
【0018】
上記作用をより良好にする観点から、成分Bが含む化合物の固化点と、成分Aが含む熱可塑性樹脂のうち最も固化点が高いものの固化点との差は5℃以上が好ましい。
また、余分なエネルギー消費を抑える観点から、その差は100℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましい。
【0019】
成分Bが含む化合物の融点は、上記作用をより良好にする観点から、150℃未満が好ましく、135℃以下がより好ましく、120℃以下が更に好ましい。
また、成分Bが含む化合物の融点は、原料供給におけるハンドリングを容易にする観点から、30℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、50℃以上が更に好ましい。
【0020】
後述の製造方法における成分Aと成分Bとの相溶性をより高める観点から、成分Aが含む熱可塑性樹脂の融点と成分Bが含む化合物の融点との差が最も大きくなる組み合わせの場合のその差の値は、0℃超100℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましく、50℃以下が更に好ましい。
この温度範囲とすることで、一方の原料を過剰に加熱させることなく混錬することができ、相溶するのに十分な時間の混錬を行うことができる。
【0021】
成分Bは、上記の作用をより高める観点から、不織布全体の質量に対する含有割合を、10質量%以上とすることが好ましく、10質量%超とすることがより好ましい。
また、成分Bは、不織布全体の質量に対する含有割合を、40質量%以下とすることが好ましく、35質量%以下とすることがより好ましく、30質量%以下とすることが更に好ましい。上記上限以下とすることにより、押出機などの溶融混練機によって成分Aと十分に相溶させることができ、上記作用をより高めることができる。
【0022】
本発明の不織布は、構成繊維の構成成分として上記の成分Aと成分Bを含むことで、後述の製造方法によって良好なものとして製造され、その結果、本発明の不織布は、数平均繊維径が4μm以下の極細でシート幅の広いものとなる。
【0023】
数平均繊維径とは、下記方法により測定される繊維径であり、本発明の不織布の構成繊維全体の平均の繊維径を示す。このような数平均繊維径は、不織布の肌触りをより柔らかく滑らかなものとする観点から、3μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましい。
また、前記数平均繊維径は、繊維強度維持の観点から、0.1μm以上が好ましく、0.2μm以上がより好ましい。
【0024】
(本発明の不織布の構成繊維の数平均繊維径の測定方法)
走査性電子顕微鏡観察による二次元画像から、構成繊維の塊、構成繊維の交差部分、ポリマー液滴といった欠陥を除いた繊維を任意に100本選び出し、繊維1本1本の長手方向(繊維長方向)に直交する幅を測定する。その値の合計を測定した繊維本数で除して、測定対象の不織布の数平均繊維径とする。なお、構成繊維の長手方向に直交する断面が円でない場合、上記の繊維径を円相当直径に換算する。
【0025】
本発明の不織布において、肌触りの柔らかさ及び滑らかさを更に向上させる観点から、構成繊維のメジアン繊維径が2μm以下であることが好ましく、1.5μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることが更に好ましい。
また、繊維強度維持の観点から、構成繊維のメジアン繊維径が0.1μm以上であることが好ましく、0.2μm以上であることがより好ましい。
ここで言うメジアン繊維径とは、前述の数平均繊維径の測定方法により得られた繊維径の頻度分布(ヒストグラム)から累積頻度が全体の50%(中央値)となる繊維径を意味する。
本発明の不織布において、前述の数平均繊維径の要件に加え、前記メジアン繊維径の要件を満たすことで、より細い繊維の本数が多くなり、清拭性や肌への密着性が向上する。
【0026】
本発明の不織布において、前述の「シート幅」とは、本発明の不織布の平面の中心を通って外線同士を結ぶ線分のうち最も長い線分の長さを意味する。例えば、平面が円の場合はその直径であり、楕円形の場合は長径である。四角形の場合は、上記のように中心を通り、対向する2辺を結ぶ直線のうち最も長い線分の長さである。正方形の場合は1辺の長さに相当し、長方形の場合は長辺の長さに相当する。多角形など上記の形状に含まれない平面形状の場合は、面積から算出される円相当直径を前記シート幅とみなす。ただし、連続シートの場合は平面の中心が定まらないため、便宜上、長手方向に直交する幅方向に沿う長さをシート幅とする。
【0027】
従来の方法で同様の繊維径の繊維から作製した不織布は、ノズルからの吐出量が著しく低かったため、シート幅が広いシートを作製するには長時間が必要であり実際的ではなかった。これに対し、本発明の不織布は、構成繊維が前述の成分Aと成分Bとを含むものであるため、後述の製造方法において前述の極細の繊維径が効率良く迅速に形成されて、前記極細の繊維径の均一性が高められたより大きな面積のものとなる。本発明の不織布の前記シート幅は、50mm以上が好ましく、100mm以上がより好ましく、150mm以上が更に好ましく、200mm以上が更に好ましく、300mm以上が更に好ましい。
また、前記シート幅は長い程好ましく、その上限は製造装置幅の増大を抑制する観点から3000mm以下が実際的である。
実際の製品に求められる寸法の観点から「シート幅」/「シート幅に直交する長さ」は好ましくは8以下、より好ましくは4以下、さらに好ましくは2以下、殊更の好ましくは1.5以下である。
同様に実際の製品に求められる寸法の観点から、「シート幅」/「シート幅に直交する長さ」は1以上が実際的である。
【0028】
本発明の不織布において、成分Aは、固化点が100℃以下である種々の熱可塑性樹脂を含むことができる。
例えば、成分Aはポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、脂肪族ポリアミド樹脂、ビニル系ポリマー樹脂、アクリル系ポリマー樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリ酢酸ビニル-エチレン共重合体及びポリエーテル樹脂から選ばれる1又は2以上を含むことができる。
ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン及びエチレン-α-オレフィンコポリマーから選ばれる1又は2以上を含むことができる。
ポリエステル樹脂としては、脂肪族ポリエステル、半芳香族ポリエステル、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリヒドロキシアルカン酸、及び液晶ポリマーから選ばれる1又は2以上を含むことができる。
脂肪族ポリエステルとしては、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリグリコール酸、及びポリジオキサノンから選ばれる1又は2以上を含むことができる。
半芳香族ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、及びポリブチレンテレフタレートから選ばれる1又は2以上を含むことができる。
脂肪族ポリアミド樹脂としては、ナイロン6及びナイロン66から選ばれる1又は2以上を含むことができる。
ビニル系ポリマー樹脂としては、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン及びポリスチレンから選ばれる1又は2以上を含むことができる。
アクリル系ポリマー樹脂としては、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸及びポリメタクリル酸エステルから選ばれる1又は2以上を含むことができる。
ポリエーテル樹脂としては、ポリエチレンオキサイドを含むことができる。
この中でも、成分Aは、成分Bとの相溶性が高まる観点から、ポリエステル樹脂及びポリエーテル樹脂から選ばれる1又は2以上を含むことが好ましい。
脂肪族ポリエステル樹脂は生分解性であることが好ましい。これにより、本発明の不織布の構成繊維が環境中へ流出した場合(例えば、本発明の不織布を化粧品材として用い、再利用等のために洗浄する際に繊維が流された場合)に環境への影響を軽減することができる。なお、ここで言う「生分解性」とは、JIS K 6953-1に準じて測定されるポリエステルの生分解度が30%以上のものをいう。
生分解性を有する脂肪族ポリエステル樹脂としては、ポリカプロラクトン(以下、PCLともいう)、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリジオキサノン、及びポリグリコール酸から選ばれる1又は2以上を含むことが好ましい。
生分解性を有するポリエーテル樹脂としては、ポリエチレンオキシドを含むことが好ましい。
また、加工性と生分解性を向上する観点から、ポリエステル樹脂の中でもPCLを含むことがより好ましい。
上記のいずれにおいても、固化点100℃以下となるものとして、後述の質量平均分子量の要件を満たすものであることが好ましい。
【0029】
成分Aが含む熱可塑性樹脂は、繊維の主基剤として、前述の細い繊維径でより大きな面積の本発明の不織布とする観点から、質量平均分子量200,000g/mol以下が好ましく、150,000g/mol以下がより好ましく、100,000g/mol以下が更に好ましい。
成分Aが含む熱可塑性樹脂の質量平均分子量は、紡糸の際に溶融状態で首尾よく延伸する観点から5,000g/mol以上が好ましく、10,000g/mol以上がより好ましい。
【0030】
(質量平均分子量の測定方法)
前述の(成分A、成分Bの含有割合の測定方法)で同定された成分A,Bに基づき、測定対象の不織布片を成分Aまたは成分Bのどちらかのみを溶解する溶媒に浸漬し、溶媒と残留物を分離したのち、乾燥させることで成分A又は成分Bを分離する。
前述の(成分A、成分Bの含有割合の測定方法)の測定で成分Bの分子量は求められる。
分離された成分Aに対し、ゲル浸透クロマトグラフィーを用い、ポリスチレン換算の質量平均分子量として、以下の条件に従って測定する。ポリスチレン標準試料としては、質量平均分子量が既知であり且つ質量平均分子量がそれぞれ異なるポリスチレン試料(例えば、東ソー株式会社製の単分散ポリスチレン(型番:F450、F288、F128、F80、F40、F20、F10、F4、F1、A5000、A2500、A1000、A500及びA300)を用いて分子量較正曲線を予め作成し、該較正曲線と測定試料の結果とを比較することによって測定する。
<ゲル浸透クロマトグラフィー条件>
・測定装置:HLC-8220GPC(東ソー株式会社製)
・カラム:GMHHR-H+GMHHR-H(東ソー株式会社製)
・溶離液:1mmol ファーミンDM20(花王株式会社製)/CHCl3
・溶離液流量:1.0mL/min
・カラム温度:40℃
・検出器:RI
・サンプル濃度:0.1体積%(クロロホルム溶液)
・サンプル注入量:100mL
【0031】
本発明の不織布において、成分Bが含む化合物は、質量平均分子量1,000g/mol以下が好ましい。ポリマーを避けることにより、成分Aの熱可塑性樹脂との相溶性を高める。
成分Bが含む化合物は、現実的には、100g/mol以上である。
【0032】
成分Bが含む化合物としては、成分Aが含む熱可塑性樹脂のうち最も固化点が高いものの固化点よりも高い固化点を有し、かつ、150℃より低い融点を有するものを種々採用できる。
例えば、成分Bは、脂肪酸、高級アルコール、脂肪酸アミド化合物、多価アルコール有機酸エステル化合物、ワックス、スフィンゴ脂質、アルキルアンモニウム塩、脂肪酸金属塩から選ばれる1又は2以上を含むことができる。
【0033】
脂肪酸としては、例えば、ステアリン酸、ベヘン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸から選ばれる1又は2以上を含むことができる。
高級アルコールとしては、例えば、セタノール、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコールから選ばれる1又は2以上を含むことができる。
脂肪酸アミド化合物としては、例えば、ステアリン酸モノアミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、エチレン・ビスステアリン酸アミドから選ばれる1又は2以上を含むことができる。
【0034】
多価アルコール有機酸エステル化合物としては、例えば、多価アルコールと脂肪酸のエステル化合物、多価アルコールと多価カルボン酸のエステル化合物、多価アルコールとヒドロキシ酸のエステル化合物から選ばれる1又は2以上を含むことができる。
このエステル化合物は、モノエステルであってもよく、ジエステルであってもよく、トリエステルであってもよい。
【0035】
多価アルコール有機酸エステル化合物としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル化合物、ポリグリセリン脂肪酸エステル化合物、ショ糖脂肪酸エステル化合物、ソルビタン脂肪酸エステル化合物から選ばれる1又は2以上を含むことができる。
グリセリン脂肪酸エステル化合物としては、例えば、ベヘン酸グリセリル、ステアリン酸グリセリル、12-ヒドロキシステアリン酸グリセリルから選ばれる1又は2以上を含むことができる。
ポリグリセリン脂肪酸エステル化合物としては、例えば、ステアリン酸ポリグリセリル、ベヘン酸ポリグリセリルから選ばれる1又は2以上を含むことができる。
ショ糖脂肪酸エステル化合物としては、例えば、ショ糖ステアリン酸エステル化合物、ショ糖ベヘニン酸グリセリルから選ばれる1又は2以上を含むことができる。
ソルビタン脂肪酸エステル化合物としては、例えば、ジステアリン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、トリベヘン酸ソルビタンから選ばれる1又は2以上を含むことができる。
【0036】
ワックスとしては、例えば、パラフィンワックス、カルナバワックスなどの各種植物系ワックスから選ばれる1又は2以上を含むことができる。
スフィンゴ脂質としては、例えば、セラミド、スフィンゴ糖脂質、スフィンゴリン脂質から選ばれる1又は2以上を含むことができる。
アルキルアンモニウム塩としては、例えば、ジステアリルジモニウムクロリドから選ばれる1又は2以上を含むことができる。
脂肪酸金属塩としては、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウムから選ばれる1又は2以上を含むことができる。
【0037】
上記の化合物の具体例において、成分Bの要件を満たすものとして、前述の質量平均分子量の要件を満たすものであることが好ましい。
【0038】
成分Aと相溶させる観点から、成分Bは、脂肪酸、高級アルコール、脂肪酸アミド化合物、多価アルコール有機酸エステル化合物、ワックス及び脂肪酸金属塩から選ばれる1又は2以上を含むことが好ましい。
また、成分Bと成分Aとの相溶性をより高める観点から、成分Aが極性を持つ脂肪族ポリエステル樹脂を含み、成分Bが脂肪酸、高級アルコール、及び多価アルコールと脂肪酸のエステル化合物から選ばれる1又は2以上を含むが好ましい。
その際、前記エステル化合物は、炭素原子同士が単結合された骨格を有することが好ましく、該骨格が直鎖であることがより好ましい。
この中でも、成分Bは、ステアリン酸、ベヘン酸、ミリスチルアルコール、及びベヘン酸グリセリルから選ばれる1又は2以上を含むことがより好ましい。これらの成分を選択することで、繊維径が細い不織布を得ることができる。
成分Bが含む化合物のうち、塩構造、特に金属塩構造を持つ化合物は、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。これにより、静電紡糸工程において繊維中の成分Bを伝って電荷が逃げてしまうことを防ぐことができる。
また、成分Bが含む化合物のうち、塩構造、特に金属塩構造を持つ化合物は、好ましくは0質量%超、より好ましくは0.5質量%以上である。これにより、静電紡糸処理を効果的に行うことができる。
ここで言う「塩構造」とは、正電荷部と負電荷部とを有し、溶融時に電離する構造を意味する。例えば、1分子中に正電荷部と負電荷部とを有する構造(双性イオン、分子内塩ともいう)であって、1分子としては中和状態にあるものが挙げられる。また、1分子中に正電荷部を有するカチオン性化合物と、1分子中に負電荷部を有するアニオン性化合物との複数の分子間で塩を形成するものであってもよい。
【0039】
このような本発明の不織布において、成分Aが繊維の芯部層を構成して該繊維の長手方向(繊維長方向)に延在し、成分Bが繊維表面(すなわち熱可塑性繊維の表面)に配されていることが好ましい。この場合、成分Bは繊維の内部に存在しつつも、その一部が繊維表面側に表出されることとなる。また、繊維の内部にある成分Bは、成分Aと混合されているものがあってもよい。
また、図1に示す構成繊維1のように、成分Aの芯部層2の周囲表面を成分Bが表皮層3として被覆していることが好ましい。その際、成分Bの表皮層3と成分Aの芯部層2との成分濃度の界面が明瞭でなくてもよく、ぼやけていることが好ましい。成分Bの表皮層3は、繊維表面の全体を被覆していてもよく、部分的に被覆していてもよい。部分的に被覆する場合、成分Bの表皮層3のある領域の中に成分Bの表皮層3の無い領域を含む海島構造の配置でもよく、成分Bの表皮層3のある領域と無い領域とが分かれた配置でもよい。
芯部層2と表皮層3とは、後述の製造方法において次のようにして形成される。
固化点が異なる成分Aと成分Bが紡糸されると、固化点の高いほうが紡糸中に早く固まるため安定となる。空気と溶融樹脂の界面として安定な状態のものが形成されるため、固化しやすいものが空気側にできやすい。そのため、成分A及び成分Bが繊維の内部に存在しつも、固化点の違いにより、芯部層2と表皮層3ができる。
【0040】
次に本発明の不織布を構成する繊維の製造方法の好ましい実施形態について説明する。
本実施形態の繊維の製造方法は熱可塑性樹脂組成物を用いる。熱可塑性樹脂組成物は、その全体の質量に対し、固化点が100℃以下である熱可塑性樹脂(以下、成分Aと呼ぶ。)を50質量%以上95質量%以下と、固化点が前記熱可塑性樹脂のうち最も固化点が高いものの固化点より高く、融点が加工温度より低い化合物(以下、成分B’と呼ぶ。)を5質量%以上50質量%以下含むことが好ましい。該熱可塑性樹脂組成物に対し、加熱溶融する(I)の工程及びノズルから吐出する(II)の工程を行うことが好ましい。これにより、好ましくは繊維径4μm以下にて繊維を紡糸する。なお、成分B’は、前述の本発明の不織布において示した成分Bの性質と同様のものとすることができ、成分Bの具体例として示した化合物を含むことができる。
なお、前記「加工温度」とは、本発明の製造方法において付与される熱の温度を言い、主に前記(I)の工程における加熱溶融のために加温する温度をいう。また(II)の工程で吹き付ける後述の加熱流体の温度を意味する。この加工温度は、繊維の主基剤である成分Aが含む熱可塑性樹脂のうち最も融点が高いものの融点に応じて適宜設定されるものである。前記加工温度は、成分B’の融点も考慮して、成分Aが含む熱可塑性樹脂のうち最も融点が高いものの融点よりも高くされる(例えば、融点+20℃以上200℃以下)。例えば150℃とされる。
【0041】
成分Aは、前記熱可塑性樹脂組成物の質量全体に対する含有割合を、60質量%以上とすることが好ましく、65質量%以上とすることがより好ましく、70質量%以上とすることが更に好ましい。
また、成分Aは、前記熱可塑性樹脂組成物の質量全体に対する含有割合を、95質量%以下とすることが好ましく、90質量%未満とすることがより好ましく、85質量%以下とすることが更に好ましい。
成分B’は、前記熱可塑性樹脂組成物の質量全体に対する含有割合を、10質量%以上とすることが好ましく、10質量%超とすることがより好ましい。
また、成分B’は、前記熱可塑性樹脂組成物の質量全体に対する含有割合を、40質量%以下とすることが好ましく、35質量%以下とすることがより好ましく、30質量%以下とすることが更に好ましい。
これにより、前述の不織布に関する記載の中で示した製造方法における成分A及び成分B’の作用をより高めることができる。
【0042】
前記(I)の工程においては、例えば、ホッパーを介して、該ホッパーに接続された筐体内に、成分Aと成分B’とを投入する。筐体内でこれら成分A及び成分B’を加熱溶融して、前記熱可塑性樹脂組成物の溶融液(以下、単に樹脂混合溶融液ともいう)を作製する。この樹脂混合溶融液をスクリューの回転により吐出用のノズルに向けて押し出し、ノズル先端部の吐出口へと供給する。この場合のノズルは、1本でもよく複数本でもよい。
次に、前記(II)の工程において、供給された樹脂混合溶融液をノズルから吐出し、紡糸を行う。吐出された樹脂混合溶融液は、ノズル先端部の吐出口から離れるに従って延伸、冷却されて固化されていき、繊維となる。このとき、ノズル先端部の吐出口の孔径を適宜設定することにより、繊維径4μm以下の繊維を紡糸することができる。また、前述の通り、成分Aと成分Bとの樹脂混合溶融液を紡糸するため、吐出速度を従来の試験片作製レベルの低速ではなく、実際の製造ラインにて工業的に実施される高速(例えば0.5g/分~5g/分)にして実施しても、玉状物(ショット)や繊維の糸切れ(フライ状物)が生じ難い。これにより、数平均繊維径4μm以下の極細繊維を均一に効率よく、安定して繊維化することが可能となる。
【0043】
前記(II)の工程において、前記熱可塑性樹脂組成物の溶融液のノズルからの吐出速度は、0.1g/分・ノズル以上とすることが好ましく、0.2g/分・ノズル以上とすることがより好ましく、0.5g/分・ノズル以上とすることが更に好ましい。
また、前記熱可塑性樹脂組成物の溶融液のノズルからの吐出速度は、紡糸される繊維の径を細くする観点から、20g/分・ノズル以下とすることが好ましく、10g/分・ノズル以下とすることがより好ましい。
【0044】
樹脂混合溶融液のノズル吐出時の粘度は、極細繊維径での均一な紡糸性をより高める観点から、1Pa・s以上が好ましく、2Pa・s以上がより好ましく、5Pa・s以上が更に好ましい。
また、樹脂混合溶融液のノズル吐出時の粘度は、粘性を下げて繊維を細くしやすくする観点から、40Pa・s以下が好ましく、20Pa・s以下がより好ましく、15Pa・s以下が更に好ましい。
【0045】
(樹脂混合溶融液の粘度の測定方法)
回転型レオメーターを用いて溶融粘度の測定を行う。具体的にはアントンパール社製MCR305装置を用いて測定を行う。測定治具にφ50mmのパラレルプレートを用いて、せん断速度0.1s-1にて粘度測定を行う。測定時温度については、紡糸条件に合わせた温度に設定する。サンプルをプレートにセットし、樹脂が溶融した後にクリアランスを1mmにセットし、Φ50mmのパラレルプレートからはみ出した部分をトリミングする。その後、サンプルが測定温度に到達するまで待ち、その後、測定をスタートする。粘度値の取得は回転がスタートしてから、100秒後の値を測定値として使用する。
【0046】
本実施形態の繊維の製造方法は、前記(II)の工程において、加熱流体の吹き付け処理を行うことが好ましい。この吹き付けは、ノズルから吐出する樹脂混合溶融液が完全に固化する前の状態に対して行う。吹き付けた加熱流体の熱により、吐出した樹脂混合溶融液をより積極的に延伸することができ、一層極細の繊維を形成することができる。加熱流体の吹き付けは、樹脂混合溶融液の吐出方向に沿って行ってもよく、吐出方向と交差する方向に行ってもよい。
【0047】
前記加熱流体の温度は、上記の延伸をより効果的にする観点から、成分Aが含む熱可塑性樹脂のうち最も固化点が高いものの固化点より高いことが好ましい。
具体的には、加熱流体の温度と成分Aが含む熱可塑性樹脂のうち最も固化点が高いものの固化点との差は、30℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、50℃以上が更に好ましい。
また、加熱流体の温度と成分Aの熱可塑性樹脂の固化点との差は、樹脂の分解抑制の観点から、200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましく、130℃以下が更に好ましい。
【0048】
本実施形態の繊維の製造方法は、前記(II)の工程において、静電紡糸処理を行うことが好ましい。この静電紡糸処理は、前述の加熱流体の吹き付け処理と共に行ってもよく、加熱流体の吹き付け処理に代えて行ってもよい。
静電紡糸処理は、電界紡糸法(エレクトロスピニング法)とも呼ばれる処理であり、樹脂が吐出されるノズルを直接または間接的に帯電させて樹脂に電荷を付与し紡糸する処理である。これにより、より積極的に延伸することができ、一層極細の繊維を形成することができる。例えば、ノズルと離間して対応する位置に、帯電電極と該帯電電極に接続された高電圧発生装置を配置する。この構成によって、ノズル先端部と帯電電極との間に高電圧を印加して両者間に電場を形成することができ、ノズル先端部から吐出される樹脂混合溶融液を帯電することができる。帯電電極は金属などの導電性材料で構成されているか、誘電体で覆われていることが好ましい。
【0049】
本実施形態の繊維の製造方法において、成分A及び成分B’に加えて、本発明の効果を損なわない限り、更に他の剤を含ませてもよい。例えば、上記の帯電量を増加させる観点から、電荷調整剤、滑剤、帯電防止剤、親水化剤、界面活性剤、可塑剤等が挙げられる。また、これ以外に、酸化防止剤、中和剤、光安定剤、紫外線吸収剤などが含まれていてもよい。
【0050】
このようにして本実施形態の繊維の製造方法により得られる繊維を捕集してシート状に形成する工程を経て、前述の本発明の不織布を好適に製造することができる。例えば、ノズル先端部から吐出した樹脂混合溶融液を冷却、延伸しながら捕集部にて捕集してシート状に堆積させることで不織布化することができる。前記捕集部は、捕集性を高める観点から、捕集電極と該捕集電極に接続された高電圧発生装置を備えることが好ましい。この捕集部における捕集電極及び高電圧発生装置は、前述の帯電電極及び高電圧発生装置を兼ねてもよく、これとは別に設けてもよい。
本実施形態の不織布の製造方法においては、前述のとおり、成分Aと成分B’との樹脂混合溶融液から極細繊維を均一に効率良く高速製造することができるため、より大きな面積の本発明の不織布を、実際の製造ラインにて工業的に効率良く製造することができる。すなわち、数平均繊維径が4μm以下でシート幅の広い本発明の不織布の工業生産化(量産化)を実現できる。
本実施形態の不織布の製造方法は、溶融液を用いる溶融法を採用することが好ましい。他の手段として、ポリマーを溶媒に溶解させたポリマー溶液を用いて紡糸する溶液法が挙げられる。溶融法は、溶媒回収などの工程が無いため製造ラインにて効率よく製造できるし、また製造品への残留溶媒などを懸念する必要が無く安定した生産が実現できるため、好ましい。
【0051】
本実施形態の繊維の製造方法において、前述の本発明の不織布について述べた通り、前記繊維の繊維径は、2μm以下が好ましく、1.5μm以下がより好ましく、1μm以下が更に好ましい。
前記繊維の繊維径は、0.1μm以上が好ましく、0.2μm以上がより好ましい。
本実施形態の不織布の製造方法において、前述の本発明の不織布について述べた通り、前記不織布の構成繊維の数平均繊維径は、3μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましい。
前記数平均繊維径は、0.1μm以上が好ましく、0.2μm以上がより好ましい。
また、本実施形態の不織布の製造方法において、前述の本発明の不織布について述べた通り、前記不織布の構成繊維のメジアン繊維径は、2μm以下が好ましく、1.5μm以下がより好ましく、1μm以下が更に好ましい。
前記メジアン繊維径は、0.1μm以上が好ましく、0.2μm以上がより好ましい。
【0052】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の繊維の製造方法、不織布の製造方法及び不織布を開示する。
【0053】
<1>
熱可塑性樹脂組成物全体の質量に対し、下記の成分Aを50質量%以上95質量%以下と、下記の成分B’を5質量%以上50質量%以下含む前記熱可塑性樹脂組成物に対し、加熱溶融する(I)の工程及びノズルから吐出する(II)の工程を行い、繊維径4μm以下にて紡糸する繊維の製造方法。
成分A:固化点が100℃以下である熱可塑性樹脂
成分B’:固化点が前記熱可塑性樹脂のうち最も固化点が高いものの固化点より高く、融点が加工温度より低い化合物
<2>
前記(II)の工程において、加熱流体の吹き付け処理を行う、前記<1>に記載の繊維の製造方法。
<3>
前記加熱流体の温度が、前記成分Aが含む前記熱可塑性樹脂のうち最も固化点が高いものの固化点より高く、その差は、好ましくは30℃以上200℃以下、より好ましくは40℃以上150℃以下、更に好ましくは50℃以上130℃以下である、前記<1>又は<2>に記載の繊維の製造方法。
<4>
前記(II)の工程において、静電紡糸処理を行う、前記<1>~<3>のいずれか1に記載の繊維の製造方法。
<5>
前記(II)の工程において、前記熱可塑性樹脂組成物の溶融液の前記ノズルからの吐出速度を0.1g/分・ノズル以上とし、好ましくは0.1g/分・ノズル以上20g/分・ノズル以下、より好ましくは0.2g/分・ノズル以上10g/分・ノズル以下、更に好ましくは0.5g/分・ノズル以上10g/分・ノズル以下とする、前記<1>~<4>のいずれか1に記載の繊維の製造方法。
<6>
前記成分B’が、脂肪酸、高級アルコール、脂肪酸アミド化合物、多価アルコール有機酸エステル化合物、ワックス、スフィンゴ脂質、アルキルアンモニウム塩及び脂肪酸金属塩から選ばれる1又は2以上を含む、前記<1>~<5>のいずれか1に記載の繊維の製造方法。
<7>
前記成分Aは、固化点が0℃以上75℃以下、好ましくは0℃以上60℃以下の熱可塑性樹脂を含む、前記<1>~<6>のいずれか1に記載の繊維の製造方法。
【0054】
<8>
前記加工温度は前記前記熱可塑性樹脂のうち最も融点が高いものの融点より高くし、その差は20℃以上200℃以下である、前記<1>~<7>のいずれか1に記載の繊維の製造方法。
<9>
前記成分Aを、前記熱可塑性樹脂組成物の質量全体に対し、60質量%以上95質量%以下、好ましくは65質量%以上90質量%未満、より好ましくは70質量%以上85質量%以下含む、前記<1>~<8>のいずれか1に記載の繊維の製造方法。
<10>
前記成分B’を、前記熱可塑性樹脂組成物の質量全体に対し、10質量%以上40質量%以下、好ましくは10質量%超35質量%以下、より好ましくは10質量%超30質量%以下含む、前記<1>~<9>のいずれか1に記載の繊維の製造方法。
<11>
前記繊維は、繊維径が、0.1μm以上2μm以下、好ましくは0.2μm以上1.5μm以下、より好ましくは0.2μm以上1μm以下である、前記<1>~<10>のいずれか1に記載の繊維の製造方法。
【0055】
<12>
前記<1>~<11>のいずれか1に記載の繊維の製造方法により得られる繊維を捕集してシート状に形成する工程を有する、不織布の製造方法。
<13>
前記不織布は、構成繊維のメジアン繊維径が、0.1μm以上2μm以下、好ましくは0.2μm以上1.5μm以下、より好ましくは0.2μm以上1μm以下である、前記<12>に記載の不織布の製造方法。
【0056】
<14>
繊維を含む不織布であって、
前記繊維の内部に下記の成分A及び成分Bを含み、
前記不織布全体の質量に対し、前記成分Aを50質量%以上95質量%以下と、前記成分Bを5質量%以上50質量%以下含み、
前記不織布が含む繊維の数平均繊維径が4μm以下であり、
前記不織布のシート幅が50mm以上である不織布。
成分A:固化点が100℃以下である熱可塑性樹脂
成分B:固化点が前記熱可塑性樹脂のうち最も固化点が高いものの固化点より高く、融点が150℃より低い化合物
【0057】
<15>
前記成分Bが、質量平均分子量が1,000g/mol以下である化合物を含み、好ましくは100g/mol以上1,000g/mol以下の化合物を含む、前記<14>に記載の不織布。
<16>
前記成分Bが、脂肪酸、高級アルコール、脂肪酸アミド化合物、多価アルコール有機酸エステル化合物、ワックス、スフィンゴ脂質、アルキルアンモニウム塩及び脂肪酸金属塩から選ばれる1又は2以上を含み、好ましくは前記成分Bが、脂肪酸、高級アルコール、脂肪酸アミド化合物、ポリグリセリン脂肪酸エステル化合物、ショ糖脂肪酸エステル化合物及びソルビタン脂肪酸エステル化合物から選ばれる1又は2以上を含む、前記<14>又は<15>に記載の不織布。
<17>
前記成分Bが含む化合物のうち、塩構造を持つ化合物の割合が0質量%超5質量%以下、好ましくは0.5質量%以上3質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上1質量%以下である、前記<14>~<16>のいずれか1に記載の不織布。
<18>
前記不織布は、構成繊維のメジアン繊維径が2μm以下である、前記<14>~<17>のいずれか1に記載の不織布。
【0058】
<19>
前記成分Aは、固化点が0℃以上75℃以下、好ましくは0℃以上60℃以下の熱可塑性樹脂を含む、前記<14>~<18>のいずれか1に記載の不織布。
<20>
前記成分Aは、融点が50℃以上150℃以下、好ましくは50℃以上120℃以下、より好ましくは50℃以上90℃以下の熱可塑性樹脂を含む、前記<14>~<19>のいずれか1に記載の不織布。
<21>
前記成分Aを、前記不織布全体の質量に対し、60質量%以上95質量%以下、好ましくは65質量%以上90質量%未満、より好ましくは70質量%以上85質量%以下含む、前記<14>~<20>のいずれか1に記載の不織布。
<22>
前記成分Aが含む熱可塑性樹脂の融点と前記成分Bが含む化合物の融点との差が最も大きくなる組み合わせの場合のその差の値は0℃超100℃以下が好ましく、0℃超60℃以下がより好ましく、0℃超50℃以下が更に好ましい、前記<14>~<21>のいずれか1に記載の不織布。
<23>
前記成分Bは、融点が30℃以上150℃未満、好ましくは40℃以上135℃以下、より好ましくは50℃以上120℃以下の化合物を含む、前記<14>~<22>のいずれか1に記載の不織布。
<24>
前記成分Bを、前記不織布全体の質量に対し、10質量%以上40質量%以下、好ましくは10質量%超35質量%以下、より好ましくは10質量%超30質量%以下含む、前記<14>~<23>のいずれか1に記載の不織布。
<25>
前記不織布は、構成繊維の数平均繊維径が、0.1μm以上3μm以下、好ましくは0.2μm以上2μm以下である、前記<14>~<24>のいずれか1に記載の不織布。
<26>
前記不織布は、構成繊維のメジアン繊維径が、0.1μm以上2μm以下、好ましくは0.2μm以上1.5μm以下、より好ましくは0.2μm以上1μm以下である、前記<14>~<25>のいずれか1に記載の不織布。
<27>
前記不織布は、シート幅が、50mm以上3000mm以下、好ましくは100mm以上3000mm以下、より好ましくは150mm以上3000mm以下、更に好ましくは200mm以上3000mm以下、より更に好ましくは300mm以上3000mm以下である、前記<14>~<26>のいずれか1に記載の不織布。
<28>
前記不織布は、「シート幅」/「シート幅に直交する長さ」が、1以上8以下、好ましくは1以上4以下、より好ましくは1以上2以下、更に好ましくは1以上1.5以下である、前記<14>~<27>のいずれか1に記載の不織布。
<29>
前記成分Aはポリエステル樹脂及びポリエーテル樹脂から選ばれる1又は2以上を含む、前記<14>~<28>のいずれか1に記載の不織布。
<30>
前記成分Aはポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリジオキサノン、及びポリグリコール酸から選ばれる1又は2以上を含む、前記<14>~<29>のいずれか1に記載の不織布。
<31>
前記成分Aはポリカプロラクトンを含む、前記<30>に記載の不織布。
<32>
前記成分Aが含む熱可塑性樹脂の質量平均分子量は、5,000g/mol以上200,000g/mol以下、好ましくは10,000g/mol以上150,000g/mol以下、より好ましくは10,000g/mol以上100,000g/mol以下である、前記<14>~<31>のいずれか1に記載の不織布。
<33>
前記成分Bはステアリン酸、ベヘン酸、ミリスチルアルコール、及びベヘン酸グリセリルから選ばれる1又は2以上を含み、好ましくはステアリン酸、ベヘン酸及びベヘン酸グリセリルから選ばれる1又は2以上を含む、前記<14>~<32>のいずれか1に記載の不織布。
【実施例0059】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳しく説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。なお、本実施例において「部」および「%」は、特に断らない限りいずれも質量基準である。表1~3において、「←」は、左側の欄と同じ内容であることを意味し、「-」はその項目に該当する値等が無いことを意味する。
【0060】
(実施例1~4)
成分Aの熱可塑性樹脂をPCL「Capa6250」(商品名、Ingevity社製)とし、成分Bの化合物をステアリン酸「ルナックS-70V」(商品名、花王株式会社製)として、表1に示す割合で混合して熱可塑性樹脂組成物とした。該熱可塑性樹脂組成物の溶融液を作製し、表1に示す孔径のノズル1本を用いて表1に示す紡糸条件にて紡糸を行った。紡糸と同時にシート状に捕集して、実施例1~4それぞれの不織布試料を形成した。実施例1において、成分A、成分B、及び両者を混合して作製した熱可塑性樹脂組成物それぞれのDSC(降温)の結果は、図2に示す通りであった。
【0061】
(実施例5)
成分Bの化合物をベヘン酸「NAA-222S」(商品名、日油株式会社製)とした以外は、実施例2と同様にして不織布試料を作製した。
(実施例6)
成分Bの化合物をベヘン酸とした以外は、実施例4と同様にして不織布試料を作製した。
【0062】
(実施例7)
成分Bの化合物をベヘン酸グリセリル「サンソフト No.8100-C」(商品名、太陽化学株式会社製)とした以外は、実施例2と同様にして不織布試料を作製した。
(実施例8)
成分Bの化合物をジステアリルジモニウムクロリド「Varisoft TA 100」(商品名、Evonik Operations GmbH製)とした以外は、実施例2と同様にして不織布試料を作製した。
(実施例9)
成分Bの化合物をN-(ヘキサデシロキシヒドロキシプロピル)-N-ヒドロキシエチルヘキサデカナミド「スフィンゴリピッドE」(商品名、花王株式会社製)とした以外は、実施例2と同様にして不織布試料を作製した。
【0063】
(実施例10)
帯電剤としてステアロイル乳酸ナトリウム(SSL)(株式会社武蔵野化学研究所製)を用いて表2に示す負の電荷を印加した以外は、実施例7と同様にして不織布試料を作製した。
(実施例11)
成分Aの熱可塑性樹脂を、表2に示すように2種類の質量平均分子量のPCLとした以外は、実施例10と同様にして不織布試料を作製した。
(実施例12)
成分Bの化合物をステアリン酸グリセリル「エキセルS-95」(商品名、花王株式会社製)とした以外は、実施例2と同様にして不織布試料を作製した。
【0064】
(実施例13)
成分Bの化合物をステアリン酸モノアミド「アルフローS-10」(商品名、日油株式会社製)とし、表2に示す孔径のノズル1本を用いて表2に示す紡糸条件にて紡糸を行った以外は、実施例2と同様にして実施例13の不織布試料を作製した。
(実施例14)
成分Bの化合物をミリスチルアルコール「カルコール4098」(商品名、花王株式会社製)とし、加熱流体の温度を130℃にした以外は、実施例13と同様にして実施例14の不織布試料を作製した。
(実施例15)
成分Bの化合物をステアリン酸亜鉛「ジンクステアレートG」(商品名、日油株式会社製)とし、溶融液形成時の加熱温度及び加熱流体温度を150℃にした以外は、実施例13と同様にして不織布試料を作製した。
(実施例16)
成分Bの化合物をベヘン酸グリセリルとし、添加量を5質量%とし、溶融液形成時の加熱温度を120℃にした以外は、実施例15と同様にして不織布試料を作製した。
【0065】
(実施例17)
成分Bの添加量を11質量%とした以外は、実施例16と同様にして不織布試料を作製した。
【0066】
(実施例18)
成分Bの添加量を40質量%とした以外は、実施例16と同様にして不織布試料を作製した。
【0067】
(比較例1)
成分Bの化合物を用いなかった以外は、実施例1と同様にして紡糸した。しかし、繊維化できず不織布を作製することはできなかった。
(比較例2)
成分Bの添加剤をラウリルアルコール「カルコール2098」(商品名、花王株式会社製)とし、紡糸条件を表3に示す通りとした以外は実施例2と同様にして不織布試料を作製した。
(比較例3)
成分Bの添加剤をN-ステアロイル-N-メチルタウリンナトリウム「NIKKOL-SMT」(商品名、日光ケミカルズ株式会社製)とし、溶融液形成時の加熱温度を180℃とし、紡糸条件を表3に示す通りとした以外は実施例2と同様にして紡糸を試みたが、ノズルが閉塞し不織布を作製することはできなかった。
(比較例4)
成分Bの添加剤をベヘン酸グリセリルとし、添加量を1質量%とし、紡糸条件を表3に示す通りとした以外は、実施例2と同様にして不織布試料を作製した。
(比較例5)
成分Bの添加剤をベヘン酸グリセリルとし、添加量を60質量%として紡糸することを試みたが、混合することができず紡糸することができなかった。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】
【0070】
【表3】
【0071】
比較例1においては、紡糸中に固化せず、図4に示すように溶融した熱可塑性樹脂組成物が塊になってしまい、繊維にならなかった。これに対し、実施例1においては、図3(A)~(C)に示すように繊維径の中央値が1μm近辺となる極細繊維を均一に形成され、その結果、表1に示すように数平均繊維径1.9μm、メジアン繊維径0.7μmでシート幅300mmの不織布試料を製造することができた。
また、実施例2~18において、良好に繊維を形成して不織布化でき、表1及び2に示す数平均繊維径、メジアン繊維径及びシート幅の不織布試料を製造することができた。
【符号の説明】
【0072】
1 構成繊維
2 成分Aの芯部層
3 成分Bの表皮層

図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2023-12-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂組成物全体の質量に対し、下記の成分Aを50質量%以上95質量%以下と、下記の成分B’を5質量%以上50質量%以下含む前記熱可塑性樹脂組成物に対し、加熱溶融する(I)の工程及びノズルから吐出する(II)の工程を行い
前記(II)の工程において加熱流体の吹き付け処理を行い、前記加熱流体の温度を、前記成分Aが含む前記熱可塑性樹脂のうち最も固化点が高いものの固化点より高くし、前記加熱流体の温度と前記固化点との差を30℃以上200℃以下として、
繊維径4μm以下にて紡糸する繊維の製造方法。
成分A:固化点が100℃以下である熱可塑性樹脂
成分B’:固化点が前記熱可塑性樹脂のうち最も固化点が高いものの固化点より高く、融点が加工温度より低い化合物
【請求項2】
熱可塑性樹脂組成物全体の質量に対し、下記の成分Aを50質量%以上95質量%以下と、下記の成分B’を5質量%以上50質量%以下含む前記熱可塑性樹脂組成物に対し、加熱溶融する(I)の工程及びノズルから吐出する(II)の工程を行い、
前記(II)の工程において、前記熱可塑性樹脂組成物の溶融液の前記ノズルからの吐出速度を0.1g/分・ノズル以上として、
繊維径4μm以下にて紡糸する繊維の製造方法。
成分A:固化点が100℃以下である熱可塑性樹脂
成分B’:固化点が前記熱可塑性樹脂のうち最も固化点が高いものの固化点より高く、融点が加工温度より低い化合物
【請求項3】
熱可塑性樹脂組成物全体の質量に対し、下記の成分Aを50質量%以上90質量%以下と、下記の成分B’を10質量%以上50質量%以下含む前記熱可塑性樹脂組成物に対し、加熱溶融する(I)の工程及びノズルから吐出する(II)の工程を行い、繊維径4μm以下にて紡糸する繊維の製造方法。
成分A:固化点が100℃以下である熱可塑性樹脂
成分B’:固化点が前記熱可塑性樹脂のうち最も固化点が高いものの固化点より高く、融点が加工温度より低い化合物
【請求項4】
前記(II)の工程において加熱流体の吹き付け処理を行う、請求項2又は3記載の繊維の製造方法。
【請求項5】
前記(II)の工程において、静電紡糸処理を行う、請求項1~3のいずれか1項に記載の繊維の製造方法。
【請求項6】
前記成分Aを、前記熱可塑性樹脂組成物の質量全体に対し、90質量%以下含む、請求項1又は2記載の繊維の製造方法。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の繊維の製造方法により得られる繊維を捕集してシート状に形成する工程を有する、不織布の製造方法。
【請求項8】
前記不織布は、構成繊維のメジアン繊維径が、0.1μm以上2μm以下である、請求項記載の不織布の製造方法。
【請求項9】
繊維を含む不織布であって、
前記繊維の内部に下記の成分A及び成分Bを含み、
前記不織布全体の質量に対し、前記成分Aを50質量%以上95質量%以下と、前記成分Bを5質量%以上50質量%以下含み、
前記不織布が含む繊維の数平均繊維径が4μm以下であり、
前記不織布のシート幅が50mm以上である不織布。
成分A:固化点が100℃以下、融点が150℃以下である熱可塑性樹脂
成分B:固化点が前記熱可塑性樹脂のうち最も固化点が高いものの固化点より高く、融点が150℃より低い化合物
【請求項10】
繊維を含む不織布であって、
前記繊維の内部に下記の成分A及び成分Bを含み、
前記不織布全体の質量に対し、前記成分Aを50質量%以上95質量%以下と、前記成分Bを5質量%以上50質量%以下含み、
前記不織布が含む繊維の数平均繊維径が4μm以下であり、
前記不織布のシート幅が50mm以上である不織布。
成分A:固化点が100℃以下である熱可塑性樹脂であって、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリジオキサノン、及びポリグリコール酸から選ばれる1又は2以上を含む
成分B:固化点が前記熱可塑性樹脂のうち最も固化点が高いものの固化点より高く、融点が150℃より低い化合物
【請求項11】
繊維を含む不織布であって、
前記繊維の内部に下記の成分A及び成分Bを含み、
前記不織布全体の質量に対し、前記成分Aを50質量%以上95質量%以下と、前記成分Bを5質量%以上50質量%以下含み、
前記成分Bが含む化合物のうち、塩構造を持つ化合物の割合が0質量%超5質量%以下であり、
前記不織布が含む繊維の数平均繊維径が4μm以下であり、
前記不織布のシート幅が50mm以上である不織布。
成分A:固化点が100℃以下である熱可塑性樹脂
成分B:固化点が前記熱可塑性樹脂のうち最も固化点が高いものの固化点より高く、融点が150℃より低い化合物
【請求項12】
繊維を含む不織布であって、
前記繊維の内部に下記の成分A及び成分Bを含み、
前記不織布全体の質量に対し、前記成分Aを50質量%以上90質量%以下と、前記成分Bを10質量%以上50質量%以下含み、
前記不織布が含む繊維の数平均繊維径が4μm以下であり、
前記不織布のシート幅が50mm以上である不織布。
成分A:固化点が100℃以下である熱可塑性樹脂
成分B:固化点が前記熱可塑性樹脂のうち最も固化点が高いものの固化点より高く、融点が150℃より低い化合物
【請求項13】
前記成分Aを、前記熱可塑性樹脂組成物の質量全体に対し、90質量%以下含む、請求項9~11のいずれか1項に記載の繊維の製造方法。
【請求項14】
前記成分Bが、質量平均分子量が1,000g/mol以下である化合物を含む、請求項9~12のいずれか1項に記載の不織布。
【請求項15】
前記成分Aは、固化点が0℃以上75℃以下の熱可塑性樹脂を含む、請求項9~12のいずれか1項に記載の不織布。