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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077584
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】自動溶接仕上システム
(51)【国際特許分類】
   B23K 31/00 20060101AFI20240531BHJP
   B23K 9/167 20060101ALI20240531BHJP
   B23K 9/173 20060101ALI20240531BHJP
   B23K 37/08 20060101ALI20240531BHJP
   B23K 9/00 20060101ALI20240531BHJP
   B23K 9/23 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
B23K31/00 A
B23K9/167 Z
B23K9/173 Z
B23K37/08 Z
B23K9/00 501C
B23K9/23 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023125695
(22)【出願日】2023-08-01
(31)【優先権主張番号】P 2022189031
(32)【優先日】2022-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】521475989
【氏名又は名称】川崎車両株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 元基
(72)【発明者】
【氏名】宮下 基希
(72)【発明者】
【氏名】藤田 裕也
(72)【発明者】
【氏名】西原 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】藤井 博之
(72)【発明者】
【氏名】中村 幸二郎
【テーマコード(参考)】
4E001
4E081
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001AA05
4E001BB06
4E001BB07
4E001CB01
4E001QA03
4E081YC10
4E081YY02
(57)【要約】
【課題】集約された場所で溶接処理及び表面処理を自動で適切に行うことにより、構造物の手動操作による仕上りのバラツキを抑制しつつ、構造物の製造効率を向上させる。
【解決手段】
自動溶接仕上システムは、溶極式のガスシールドアーク溶接装置と、TIG溶接装置とを含む、装置群と、装置群から選択された特定の装置が着脱自在に装着される多関節ロボットと、プロセッサを有する制御装置とを備える。プロセッサは、多関節ロボットにガスシールドアーク溶接装置が装着された状態で、複数の部品を含むワーク中の複数の部品をガスシールドアーク溶接するように、ガスシールドアーク溶接装置と多関節ロボットとを制御することと、多関節ロボットにTIG溶接装置が装着された状態で、ワークの溶接ビードをTIG溶接装置により再溶融仕上げするようにTIG溶接装置と多関節ロボットとを制御することとを実行する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶極式のガスシールドアーク溶接装置と、TIG溶接装置とを含む、装置群と、
前記装置群から選択された特定の装置が着脱自在に装着される多関節ロボットと、
プログラムが格納されたメモリと、前記メモリに格納された前記プログラムを実行するプロセッサとを有し、前記特定の装置と前記多関節ロボットとを制御する制御装置と、を備え、
前記プログラムを読み込んだ前記プロセッサが、
前記多関節ロボットに前記ガスシールドアーク溶接装置が装着された状態で、複数の部品を含むワーク中の前記複数の部品を前記ガスシールドアーク溶接装置によりガスシールドアーク溶接するように、前記ガスシールドアーク溶接装置と前記多関節ロボットとを制御することと、
前記多関節ロボットに前記TIG溶接装置が装着された状態で、前記ガスシールドアーク溶接により形成された前記ワークの溶接ビードを、前記TIG溶接装置により再溶融仕上げするように前記TIG溶接装置と前記多関節ロボットとを制御することと、を実行するように構成されている、自動溶接仕上システム。
【請求項2】
前記ガスシールドアーク溶接装置と前記ワークとの接触点の座標位置を検出し且つ当該座標位置の情報を含む溶接座標位置情報を前記制御装置に送信するガスシールドアーク溶接位置検出センサを更に備え、
前記プログラムを読み込んだ前記プロセッサが、
前記多関節ロボットに前記ガスシールドアーク溶接装置が装着された状態で、前記ワークと、前記ガスシールドアーク溶接装置とを接触させて、前記溶接座標位置情報を前記ガスシールドアーク溶接位置検出センサから受信するように前記多関節ロボットを制御することと、
前記溶接座標位置情報に基づいて、前記ワーク中の前記複数の部品を前記ガスシールドアーク溶接するように前記ガスシールドアーク溶接装置と前記多関節ロボットとを制御することと、を実行するように構成されている、請求項1に記載の自動溶接仕上システム。
【請求項3】
前記TIG溶接装置と前記ワークとの接触点の座標位置を検出し且つ当該座標位置の情報を含む再溶融座標位置情報を前記制御装置に送信する再溶融位置検出センサを更に備え、
前記プログラムを読み込んだ前記プロセッサが、
前記ワーク中の前記複数の部品を前記ガスシールドアーク溶接するように、前記ガスシールドアーク溶接装置と前記多関節ロボットとを制御することと、前記溶接ビードを前記TIG溶接装置により前記再溶融仕上げするように、前記TIG溶接装置と前記多関節ロボットとを制御することとの間において、前記多関節ロボットに前記TIG溶接装置が装着された状態で、前記ガスシールドアーク溶接された前記ワークと、前記TIG溶接装置とを接触させて、前記再溶融座標位置情報を前記再溶融位置検出センサから受信するように前記多関節ロボットを制御することと、
前記再溶融座標位置情報に基づいて、前記溶接ビードを前記TIG溶接装置により前記再溶融仕上げするように前記TIG溶接装置と前記多関節ロボットとを制御することと、を実行するように構成されている、請求項1に記載の自動溶接仕上システム。
【請求項4】
前記ワークの表面形状を光学的に検出して当該表面形状の情報を含むワーク表面情報を前記制御装置に送信するワーク表面検出センサを更に備え、
前記プログラムを読み込んだ前記プロセッサが、
前記ワーク中の前記複数の部品を前記ガスシールドアーク溶接するように、前記ガスシールドアーク溶接装置と前記多関節ロボットとを制御することと、前記溶接ビードを前記TIG溶接装置により前記再溶融仕上げするように、前記TIG溶接装置と前記多関節ロボットとを制御することとの間において、前記ワーク表面検出センサから前記ワーク表面情報を受信し、且つ、前記ワーク表面情報から前記溶接ビードの所定の座標位置を検出することと、
前記検出した前記溶接ビードの前記座標位置の情報に基づいて、前記溶接ビードを前記TIG溶接装置により前記再溶融仕上げするように前記TIG溶接装置と前記多関節ロボットとを制御することと、を実行するように構成されている、請求項1に記載の自動溶接仕上システム。
【請求項5】
前記ワークの表面を撮像して前記ワークの表面形状の情報を含む画像データを前記制御装置に送信する撮像装置を備え、
前記プログラムを読み込んだ前記プロセッサが、
前記ワーク中の前記複数の部品を前記ガスシールドアーク溶接するように、前記ガスシールドアーク溶接装置と前記多関節ロボットとを制御することと、前記溶接ビードを前記TIG溶接装置により前記再溶融仕上げするように、前記TIG溶接装置と前記多関節ロボットとを制御することとの間において、前記撮像装置から前記画像データを受信し、且つ、前記画像データ中に示される前記溶接ビードの所定の座標位置を検出することと、
前記検出した前記溶接ビードの前記座標位置の情報に基づいて、前記溶接ビードを前記TIG溶接装置により前記再溶融仕上げするように前記TIG溶接装置と前記多関節ロボットとを制御することと、を実行するように構成されている、請求項1に記載の自動溶接仕上システム。
【請求項6】
前記溶接ビードの前記座標位置の情報は、前記溶接ビードの止端部の座標位置の情報を含む、請求項4又は5に記載の自動溶接仕上システム。
【請求項7】
前記装置群は、前記ワークの表面に存在するスラグを除去するスラグ除去装置を更に含み、
前記プログラムを読み込んだ前記プロセッサが、
前記ワーク中の前記複数の部品を前記ガスシールドアーク溶接するように、前記ガスシールドアーク溶接装置と前記多関節ロボットとを制御することと、前記溶接ビードを前記TIG溶接装置により再溶融仕上げするように、前記TIG溶接装置と前記多関節ロボットとを制御することとの間において、前記多関節ロボットに前記スラグ除去装置が装着された状態で、前記ガスシールドアーク溶接された前記ワークの前記スラグを除去するように前記スラグ除去装置と前記多関節ロボットとを制御すること、を実行するように構成されている、請求項1に記載の自動溶接仕上システム。
【請求項8】
前記ガスシールドアーク溶接装置と前記ワークとの接触点の座標位置を検出し且つ当該座標位置の情報を含む溶接座標位置情報を前記制御装置に送信するガスシールドアーク溶接位置検出センサを更に備え、
前記プログラムを読み込んだ前記プロセッサが、
前記多関節ロボットに前記ガスシールドアーク溶接装置が装着された状態で、前記ワークと、前記ガスシールドアーク溶接装置とを接触させて、前記溶接座標位置情報を前記ガスシールドアーク溶接位置検出センサから受信するように前記多関節ロボットを制御することと、
前記溶接座標位置情報に基づいて、前記ワーク中の前記複数の部品を前記ガスシールドアーク溶接するように前記ガスシールドアーク溶接装置と前記多関節ロボットとを制御することと、
前記溶接座標位置情報に基づいて、前記ガスシールドアーク溶接された前記ワークの前記スラグを除去するように前記スラグ除去装置と前記多関節ロボットとを制御することと、を実行するように構成されている、請求項7に記載の自動溶接仕上システム。
【請求項9】
前記複数の部品は、一対の部品を含み、
前記溶接ビードは、前記一対の部品間で一方向に延びる長尺形状を有し、
前記プログラムを読み込んだ前記プロセッサが、前記溶接座標位置情報に基づいて、少なくとも式1及び式2に示される関係を満たす前記溶接ビードの裾の幅内の前記スラグを除去するように前記スラグ除去装置と前記多関節ロボットとを制御すること、を実行するように構成されている、請求項8に記載の自動溶接仕上システム。

[式1]
slg = ρ/tan{(180°-Φ)/2}

[式2]
0.26 < slg/ρ < 1

但し、Φは、前記溶接ビードの前記一方向に対する垂直断面において示される、前記一対の部品のうちの一方の部品である母材の前記溶接ビードの止端部を通る接線と、前記溶接ビードの前記止端部を通る接線との間に位置する、前記溶接ビードの立ち上がり角度である。slgは、前記垂直断面において示される、前記溶接ビードの幅方向一端に位置する前記裾の幅である。ρは、前記垂直断面において示される、前記溶接ビードの前記幅方向一端に位置する前記裾の輪郭を円周の一部とする円の半径である。
【請求項10】
前記ガスシールドアーク溶接された前記ワークの前記溶接ビードの表面を撮像して当該表面についての画像データを前記制御装置に送信する撮像装置を備え、
前記プログラムを読み込んだ前記プロセッサが、
前記ワーク中の前記複数の部品を前記ガスシールドアーク溶接するように、前記ガスシールドアーク溶接装置と前記多関節ロボットとを制御することと、前記ガスシールドアーク溶接された前記ワークの前記スラグを除去するように、前記スラグ除去装置と前記多関節ロボットとを制御することとの間において、前記撮像装置から前記画像データを受信し、且つ、前記画像データに基づいて前記ガスシールドアーク溶接された前記ワークの前記スラグの有無を判定することと、
前記画像データに基づいて前記ガスシールドアーク溶接された前記ワークの前記スラグが有ると判定した場合にのみ、前記スラグを除去するように前記スラグ除去装置と前記多関節ロボットとを制御することと、を実行するように構成されている、請求項7に記載の自動溶接仕上システム。
【請求項11】
前記プログラムを読み込んだ前記プロセッサが、前記多関節ロボットへの前記特定の装置を着脱するように前記多関節ロボットを制御すること、を実行するように構成されている、請求項1に記載の自動溶接仕上システム。
【請求項12】
前記ワークを前記多関節ロボットに対して位置決めするポジショナーを更に備え、
前記プログラムを読み込んだ前記プロセッサが、
前記ワークが前記ポジショナーにより前記位置決めされた状態で、前記ワーク中の前記複数の部品を前記ガスシールドアーク溶接するように、前記ガスシールドアーク溶接装置と前記多関節ロボットとを制御することと、
前記溶接ビードを前記TIG溶接装置により前記再溶融仕上げするように前記TIG溶接装置と前記多関節ロボットとを制御することと、を実行するように構成されている、請求項1に記載の自動溶接仕上システム。
【請求項13】
前記ワークは高張力鋼を含む、請求項1に記載の自動溶接仕上システム。
【請求項14】
前記ワークは、鉄道車両台車枠の製造途中の中間品である、請求項13に記載の自動溶接仕上システム。
【請求項15】
前記ワークはアルミニウム合金を含む、請求項1に記載の自動溶接仕上システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自動溶接仕上システムに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の部品を溶接処理して、構造物の製造途中の中間品を製造した後、中間品の溶接部分を表面処理することで溶接部分の応力集中を緩和して構造物を製造する製造方法が知られている。非特許文献1には、溶接処理と表面処理とを自動化することで、溶接処理を安定化すると共に、手動操作による仕上りのバラツキを抑えて、本溶接で形成した溶接ビードの形状を均一な外観に仕上げることを図った自動TIG(Tangsten Inert Gas)溶接仕上装置が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「車両台車枠の溶接ビード仕上げ工法に関する研究」、川崎重工技報85号1984年7月、川崎重工業株式会社技術研究所
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
構造物を製造する際、集約された場所で前記溶接処理と前記表面処理とを自動化して連続且つ迅速に行うことができれば、手動操作による仕上りのバラツキを抑制して、構造物を効率よく製造できる。しかしながら、非特許文献1記載の前記装置では、溶接処理と表面処理の両方が、溶極式ガスシールド法に比べて溶接速度が低速であるTIG溶接法により行われる。また、TIG溶接法により溶接処理が行われる場合、溶極式ガスシールド法に比べて入熱量が増大して中間品が熱変形する場合がある。これにより、中間品の熱変形を修正する作業が発生する。よって、構造物の製造効率が低下する。
【0005】
そこで本開示は、複数の部品を溶接処理して中間品を製造し、中間品の溶接部分を表面処理して構造物を製造する工程を自動で行う場合において、集約された場所で溶接処理及び表面処理を適切に行うことにより、構造物の手動操作による仕上りのバラツキを抑制しつつ、構造物の製造効率を向上させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る自動溶接仕上システムは、溶極式のガスシールドアーク溶接装置と、TIG溶接装置とを含む、装置群と、前記装置群から選択された特定の装置が着脱自在に装着される多関節ロボットと、プログラムが格納されたメモリと、前記メモリに格納された前記プログラムを実行するプロセッサとを有し、前記特定の装置と前記多関節ロボットとを制御する制御装置と、を備え、前記プログラムを読み込んだ前記プロセッサが、前記多関節ロボットに前記ガスシールドアーク溶接装置が装着された状態で、複数の部品を含むワーク中の前記複数の部品を前記ガスシールドアーク溶接装置によりガスシールドアーク溶接するように、前記ガスシールドアーク溶接装置と前記多関節ロボットとを制御することと、前記多関節ロボットに前記TIG溶接装置が装着された状態で、前記ガスシールドアーク溶接により形成された前記ワークの溶接ビードを、前記TIG溶接装置により再溶融仕上げするように前記TIG溶接装置と前記多関節ロボットとを制御することと、を実行するように構成されている。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、複数の部品を溶接処理して中間品を製造し、中間品の溶接部分を表面処理して構造物を製造する工程を自動で行う場合において、集約された場所で溶接処理及び表面処理を適切に行うことにより、構造物の手動操作による仕上りのバラツキを抑制しつつ、構造物の製造効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1実施形態に係る自動溶接仕上システムの概要図である。
図2図2は、図1の自動溶接仕上システムの機能ブロック図である。
図3図3は、図1の自動溶接仕上システムにより処理されるワークの外観図である。
図4図4は、図1の自動溶接仕上システムにより実行される工程の流れの概要を示す図である。
図5図5は、図4に示されるガスシールドアーク溶接による溶接処理工程の様子を示す図である。
図6図6は、図4に示されるスラグ除去処理工程を行う際に用いられる式1及び式2中のL1、L2、slg、ρの関係を示す図である。
図7図7は、図4に示されるスラグ除去処理工程の様子を示す図である。
図8図8は、図4に示される表面処理工程の様子を示す図である。
図9図9は、第2実施形態に係る自動溶接仕上システムの概要図である。
図10図10は、第3実施形態に係る自動溶接仕上システムの概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して実施形態を説明する。図1は、実施形態に係る自動溶接仕上システム1の概要図である。以下、自動溶接仕上システム1を単にシステム1とも称する。以下に詳細を説明するように、システム1は、構造物の製造途中の中間品である、複数の部品を含むワークWをガスシールドアーク溶接装置20を用いてガスシールドアーク溶接した後、TIG溶接装置21を用いて、溶接後のワークWの溶接ビードBを再溶融仕上げにより表面処理する。システム1は、予め定められた装置群2に含まれる複数の装置を使い分けて使用することにより、ワークWを別の場所に移動させることなく、1台でワークWを溶接処理及び表面処理する。ガスシールドアーク溶接としてはMAG(Metal Active Gas)溶接を例示できるが、これに限定されず、例えばMIG(Metal Inert Gas)溶接でもよい。
【0010】
具体的にシステム1は、装置群2、多関節ロボット3、制御装置4、第1検出センサ5、第2検出センサ6、及び、ポジショナー7を備える。装置群2は、溶極式のガスシールドアーク溶接装置20と、TIG溶接装置21とを含む。ガスシールドアーク溶接装置20は、ワークWと接触可能に配置された溶接ワイヤ23を有する。TIG溶接装置21は、ワークWと接触可能に配置された電極棒24を有する。本実施形態の装置群2は、更に、ワークWの表面に存在するスラグを除去するスラグ除去装置22を含む。スラグは、例えば金属酸化物を含む。スラグ除去装置22は、一例として、スラグに繰り返し衝突することでスラグを破壊し且つワークW表面からスラグを剥離させる振動式である。例えばスラグ除去装置22は、多芯タガネを有していてもよい。なお、スラグ除去装置22の形式はこれに限定されず、例えば、レーザをスラグに照射することによりスラグを除去する光学式でもよい。装置群2に含まれる複数の装置20~22は、所定のラック10に配置されている。複数の装置20~22には、駆動に必要な電力等を外部から装置20~22に供給するためのパワーケーブル25~27が接続されている。本実施形態のラック10は、一例として多関節ロボット3の上方で装置群2と着脱自在に係合して装置群2を保持する複数のホルダー10aを有している。ラック10の構成は、これに限定されない。
【0011】
多関節ロボット3は、多軸式であり、連結された複数のアーム30~32を有する。また多関節ロボット3は、複数のアーム30~32の関節部分に配置されて複数のアーム30~32の相対位置を変化させる複数のサーボモータを有する。多関節ロボット3の関節数は限定されない。
【0012】
多関節ロボット3には、装置群2から選択された特定の装置が着脱自在に装着される。一例としてシステム1は、複数のアーム30~32のうち、特定のアームに配置されて前記特定の装置を多関節ロボット3に対して着脱自在に装着するツールチェンジャー33を備える。本実施形態のツールチェンジャー33は、後述する制御装置4に制御される。ツールチェンジャー33は、例えば前記特定のアームと前記特定の装置とを相対移動させることで、前記特定の装置を前記特定のアームに着脱自在に係合させる。ツールチェンジャー33については、例えば特開2020-93348号公報の記載を参照できる。なお、システム1がツールチェンジャー33を備える代わりに、多関節ロボット3は、前記特定のアームと前記特定の装置とを相対移動させることで、前記特定の装置を前記特定のアームに係合させる係合構造を有していてもよい。この係合構造としては、例えば螺合構造が例示されるが、これに限定されない。
【0013】
制御装置4は、前記特定の装置と多関節ロボット3とを制御する。本実施形態の制御装置4は、前記特定の装置と多関節ロボット3とを制御する制御処理回路を有する。本実施形態の制御装置4は、プログラムが格納されたメモリ40と、メモリ40に格納されたプログラムを実行するプロセッサ41とを有する。一例として、前記制御処理回路は、メモリ40とプロセッサ41とにより実現される。本実施形態では、一例として、プログラムを読み込んだプロセッサ41が、多関節ロボット3への前記特定の装置を着脱するように多関節ロボット3を制御することを実行するように構成されている。
【0014】
第1検出センサ5は、ガスシールドアーク溶接装置20とワークWとの接触点の座標位置を検出し且つ当該座標位置の情報を含む溶接座標位置情報IF1を制御装置4に送信するガスシールドアーク溶接位置検出センサである。第1検出センサ5は、一例として、ガスシールドアーク溶接装置20が有する溶接ワイヤ23と、ワークWとの間に電圧が付与された状態で、溶接ワイヤ23をワークWに接触させて溶接ワイヤ23とワークWとの間の通電を検出したときの溶接ワイヤ23とワークWとの接触点の座標位置を検出する接触式センサである。
【0015】
第2検出センサ6は、TIG溶接装置21とワークWとの接触点の座標位置を検出し且つ当該座標位置の情報を含む再溶融座標位置情報IF2を制御装置4に送信する再溶融位置検出センサである。第2検出センサ6は、一例として、TIG溶接装置21が有する電極棒24と、ワークWとの間に電圧が付与された状態で、電極棒24をワークWに接触させて電極棒24とワークWとの間の通電を検出したときの電極棒24とワークWとの接触点の座標位置を検出する接触センサである。
【0016】
検出センサ5、6が接触式センサである場合、例えば、検出センサ5は、ワイヤタッチセンサであってもよく、検出センサ6は、電極タッチセンサであってもよい。なお検出センサ5、6の検出方式は、これに限定されない。また本実施形態のシステム1は、一例として、個別に配置された検出センサ5、6を備えるが、検出センサ5、6の機能を兼ねる単一の検出センサを備えていてもよい。
【0017】
ポジショナー7は、ワークWを多関節ロボット3に対して位置決めする。ポジショナー7は、基台70と、基台70の上方に配置されたテーブル71とを有する。テーブル71には、ワークWが載置される。テーブル71は、水平面に対する上面の傾斜角度を調整可能に基台70に支持されている。テーブル71には、ワークWを着脱自在に保持するホルダーが別途配置されていてもよい。ポジショナー7は、制御装置4により制御される。一例として、テーブル71の上面の傾斜角度は、基台70とテーブル71との接続部分に配置されたサーボモータの駆動力により調整される。鉛直方向に延びる所定の軸線回りにテーブル71が回転自在に配置されていてもよい。また、ポジショナー7は必須の構成ではなく、適宜省略されてもよい。例えば、多関節ロボット3の関節数が十分に多い場合、ポジショナー7を省略できる。また本実施形態のシステム1は、例えば、多関節ロボット3の関節に配置された回転軸と、多関節ロボット3を所定位置に移動させるために配置された移動軸と、ポジショナー7の関節に配置された移動軸及び回転軸との合計軸数が、12であってもよい。この場合、多関節ロボット3の回転軸の軸数は、6又は7であってもよい。なお、前記合計軸数は、12に限定されない。
【0018】
図2は、図1のシステム1の機能ブロック図である。図2に示されるように、システム1の制御装置4には、検出センサ5、6、ポジショナー7、多関節ロボット3、及び、装置群2に含まれる各装置20~22が接続される。制御装置4には、検出センサ5、6の検出信号が送信される。制御装置4のプログラムを読み込んだプロセッサ41は、所定のタイミングで、ポジショナー7、多関節ロボット3、及び、装置群2に含まれる各装置20~22を個別に制御する。
【0019】
図3は、図1のシステム1により処理されるワークWの外観図である。図3に示されるワークWは、一例として、鉄道車両台車枠の製造途中の中間品である。ワークWは、高張力鋼を含む。またワークWは、前記複数の部品として、部品W1~W4を有する。一例として、部品W1、W2は、曲面状の表面を有する円筒状の一対の横梁である。また一例として、部品W3、W4は、長尺状の一対のツナギ梁である。部品W1、W2は、平行に配置されている。部品W3、W4は、平行に配置されている。部品W1、W2は、互いの長手方向に離隔した2カ所で、一対の部品W3、W4と溶接により接続されている。即ち、ワークWの溶接ビードBは、部品W1、W2と部品W3、W4との溶接部分に形成される。部品W1、W2上の溶接ビードBの止端部は、部品W1、W2の曲面状の表面上に位置している。なお、部品W1~W4は、これに限定されず、例えば主電動機受、歯車箱吊受等、ツナギ梁や横梁以外のものを含んでいてもよい。また当然ながら、ワークWは、鉄道車両台車枠の製造途中の中間品以外のものであってもよい。
【0020】
図4は、図1のシステム1により実行される工程の流れの概要を示す図である。図4に示すように、システム1によれば、ワークWをガスシールドアーク溶接する溶接処理工程S1と、溶接後のワークWの溶接ビードBに付着しているスラグを除去するスラグ除去処理工程S2と、スラグを除去したワークWの溶接ビードBを再溶融仕上げすることで表面処理する表面処理工程S3とが順次自動的に実行される。本実施形態では、複数のワークWがシステム1により処理される場合、一例として、全てのワークWに対してスラグ除去処理工程S2が実行される。
【0021】
本実施形態のシステム1では、溶接処理工程S1に先立ち、予めガスシールドアーク溶接装置20とワークWとの接触点の座標位置の測定が行われる。これにより得られた溶接座標位置情報IF1に基づき、溶接処理工程S1とスラグ除去処理工程S2とが高い精度で行われる。また本実施形態のシステム1では、表面処理工程S3に先立ち、予めTIG溶接装置21とワークWとの接触点の座標位置の測定が行われる。これにより得られた再溶融座標位置情報IF2に基づき、表面処理工程S3が高い精度で行われる。以下、工程S1~S3の詳細を説明する。
【0022】
図1に示すように、まず、溶接処理工程S1が実行される際、プログラムを読み込んだプロセッサ41は、ラック10からガスシールドアーク溶接装置20を多関節ロボット3に装着するように、多関節ロボット3とツールチェンジャー33とを制御する。その後、プロセッサ41は、多関節ロボット3にガスシールドアーク溶接装置20が装着された状態で、ワークWと、ガスシールドアーク溶接装置20とを接触させて、ワークWとガスシールドアーク溶接装置20との接触点の溶接座標位置情報IF1を制御装置4が第1検出センサ5から受信するように、多関節ロボット3を制御する。
【0023】
次にプロセッサ41は、多関節ロボット3にガスシールドアーク溶接装置20が装着された状態で、溶接座標位置情報IF1に基づいて、ワークW中の複数の部品W1~W4をガスシールドアーク溶接するようにガスシールドアーク溶接装置20と多関節ロボット3とを制御する。
【0024】
ここで図5は、図4に示されるガスシールドアーク溶接による溶接処理工程S1の様子を示す図である。図5は、部品W1と部品W3との部品W1の長手方向に対する垂直断面を示している。本実施形態のプロセッサ41は、一例として、部品W3の上面の高さ位置を基準面高さ位置P1として測定し、且つ、部品W3の開先の斜面W30上に存在する、基準面高さ位置P1よりも下方に位置する斜面内基準高さ位置P2を測定する。一例として、斜面内基準高さ位置P2は、基準面高さ位置P1よりも数mm程度下方に位置する。この例では、溶接座標位置情報IF1には、位置P1及びP2の座標位置に関する情報が含まれる。溶接座標位置情報IF1に含まれる座標位置に関する情報は、任意に設定される。この座標位置に関する情報は、溶接位置の座標位置に関する情報でもよいし、溶接位置とは異なる位置の座標位置に関する情報でもよい。溶接位置の座標位置に関する情報は、例えば、溶接の始終端の座標位置情報に関する情報を含む。
【0025】
プロセッサ41は、溶接座標位置情報IF1に含まれる位置P1及びP2の情報に基づき、部品W1、W2と部品W3、W4との接触位置である溶接狙い位置P3の位置を算出する。次にプロセッサ41は、溶接狙い位置P3に応じた溶接ビードBを形成してワークW中の複数の部品W1~W4を溶接するように、ガスシールドアーク溶接装置20と多関節ロボット3とを制御する。これにより溶接処理工程S1が実行され、ワークWに溶接ビードBが形成される(図7参照)。一般的にガスシールドアーク溶接法によれば、他の溶接法に比べて、ワークWを溶接する際、縦曲がり変形である角変形等の面外変形を抑制できると共に、溶接速度を高めることができる。本実施形態では、溶接処理工程S1においてガスシールドアーク溶接装置20を用いることにより、ワークWの複数の部品W1~W4を迅速且つ適切に溶接できる。
【0026】
なおシステム1では、ワークWについての全ての溶接座標位置情報IF1を制御装置4が受信した後に複数の部品W1~W4がガスシールドアーク溶接されてもよい。例えば、先行して形成された溶接終端と後に形成される溶接始端との繋ぎ目が、溶接欠陥や、ワークWとガスシールドアーク溶接装置20との接触点の座標位置の誤センシングの問題になる場合には、ワークWについての全ての溶接座標位置情報IF1を制御装置4が受信した後に複数の部品W1~W4がガスシールドアーク溶接されると、当該問題を抑制できるため好適である。
【0027】
またシステム1では、ワークWについての一部の溶接座標位置情報IF1を制御装置4が取得した後に複数の部品W1~W4の一部をガスシールドアーク溶接する動作が繰り返し行われてもよい。この動作は、例えば、ワークWが有する継手毎に、溶接座標位置情報IF1を制御装置4が取得し、複数の部品W1~W4の一部をガスシールドアーク溶接する動作を含む。これにより、例えば、部品W1を溶接すると部品W1の溶接歪によって部品W2の位置が変化する場合には、当該変化を抑制して部品W1~W4を適切に溶接し易くできるため好適である。
【0028】
図1に示すように、次にプロセッサ41は、多関節ロボット3に装着されたガスシールドアーク溶接装置20をラック10に戻す。その後プロセッサ41は、ラック10に保持されたスラグ除去装置22を多関節ロボット3に装着するように、多関節ロボット3とツールチェンジャー33とを制御する。プロセッサ41は、溶接処理工程S1と表面処理工程S3との間において、多関節ロボット3にスラグ除去装置22が装着された状態で、ガスシールドアーク溶接されたワークWのスラグを除去するように、スラグ除去装置22と多関節ロボット3とを制御する。このとき一例として、プロセッサ41は、ガスシールドアーク溶接前に得られた溶接座標位置情報IF1に基づいて、ガスシールドアーク溶接されたワークWのスラグを除去するようにスラグ除去装置22と多関節ロボット3とを制御する。
【0029】
ここで図3に示すように、本実施形態のワークWが有する複数の部品は、一対の部品である部品W3、W4と部品W1、W2とを含む。また溶接ビードBは、前記一対の部品間で一方向に延びる長尺形状を有する。プロセッサ41は、一例として、溶接座標位置情報IF1に基づいて、少なくとも後述する式1及び式2に示される関係を満たす溶接ビードBの裾の幅内のスラグを除去するようにスラグ除去装置22と多関節ロボット3とを制御することを実行する。
【0030】
図6は、図4に示されるスラグ除去処理工程S2を行う際に用いられる式1及び式2中のL1、L2、slg、ρの関係を示す図である。図6は、図3に示される部品W3の上面を水平面としたときの溶接ビードBの一部を拡大して模式的に示している。図6に示すように、溶接ビードBは、裾B1と、裾B1と連続するビード本体B2とを有する。この例では、接線L1は、部品W3の上面と平行に延びている。図6に示される溶接ビードBの裾B1の形状は、TIG溶接装置21により、部品W3の表面と緩やかに連なるように再溶融仕上げにより形成される目標形状を示す。

[式1]
slg = ρ/tan{(180°-Φ)/2}

[式2]
0.26 < slg/ρ < 1

但し、Φは、溶接ビードBの前記一方向に対する垂直断面において示される、前記一対の部品のうち一方の部品である母材の溶接ビードBの止端部を通る接線L1と、溶接ビードBの前記止端部を通る接線L2との間に位置する、溶接ビードBの立ち上がり角度である。slgは、前記垂直断面において示される、溶接ビードBの幅方向一端に位置する裾の幅である。ρは、前記垂直断面において示される、溶接ビードBの幅方向一端に位置する裾の輪郭を円周の一部とする円の半径、即ち止端半径である。なお、母材が開先を有する場合、立ち上がり角度(Φ)は、母材の開先がないとしたときの接線L1に基づいて算出される。
【0031】
式2の下限値である0.26は、立ち上がり角度(Φ)が30°の場合に対応する。また、式2の上限値である1は、立ち上がり角度(Φ)が90°の場合に対応する。これにより、式2は、通常形成される溶接ビードBの立ち上がり角度(Φ)の範囲(30°より大きく90°より小さい範囲)に対応している。式1及び式2によれば、例えば、再溶融仕上げ後の品質に特に影響を与える溶接ビードBの止端部の領域に対し、再溶融仕上げに先立って表面のスラグを適切に除去できるようにシステム1を設定できる。
【0032】
図7は、図4に示されるスラグ除去処理工程S2の様子を示す図である。本実施形態によれば、少なくとも式1及び式2に基づいて、溶接ビードBの表面のスラグを除去する範囲が確定される。本実施形態では、一例として、溶接ビードBの幅方向両端に位置する一対の裾B1と、一対の裾B1の間に位置するビード本体B2の表面が、スラグを除去する範囲である。これにより、スラグを除去する範囲に溶接ビードBの全表面が含まれるように、スラグを除去する範囲が確定される。プロセッサ41は、この確定された溶接ビードBの表面領域に存在するスラグを除去するように、スラグ除去装置22を制御する。これにより、スラグ除去処理工程S2が実行される。溶接ビードBの表面からスラグが適切に除去されることで、スラグの存在により、TIG溶接装置21を用いた溶接ビードBの再溶融仕上げが影響を受けるのが抑制される。また、溶接ビードBの表面にピット等の欠陥が存在する場合でも、欠陥がスラグに覆われて確認しにくくなるのが防止される。
【0033】
なお図7では、一例として、部品W3の接線L1に基づく溶接ビードBの立ち上がり角度(Φ)を示している。式1及び式2で用いられる立ち上がり角度(Φ)は、前記一対の部品のうち少なくともいずれか(本実施形態では、部品W1及び部品W3の少なくともいずれか)の接線L1に基づく溶接ビードBの立ち上がり角度(Φ)であればよい。これにより、溶接ビードBの幅方向両端に位置する裾B1の少なくともいずれかの表面が、スラグを除去する範囲に含まれることとなり、スラグが適切に除去される。
【0034】
図1に示すように、次にプロセッサ41は、多関節ロボット3に装着されたスラグ除去装置22をラック10に戻す。その後、プロセッサ41は、ラック10に保持されたTIG溶接装置21を多関節ロボット3に装着するように、多関節ロボット3とツールチェンジャー33とを制御する。次にプロセッサ41は、多関節ロボット3にTIG溶接装置21が装着された状態で、ガスシールドアーク溶接されたワークWと、TIG溶接装置21とを接触させて、ガスシールドアーク溶接されたワークWとTIG溶接装置21との接触点の再溶融座標位置情報IF2を第2検出センサ6から受信するように多関節ロボット3を制御する。
【0035】
次にプロセッサ41は、多関節ロボット3にTIG溶接装置21が装着された状態で、再溶融座標位置情報IF2に基づいて、ガスシールド溶接により形成されたワークWの溶接ビードBを、TIG溶接装置21により再溶融仕上げするように、TIG溶接装置21と多関節ロボット3とを制御する。
【0036】
ここで図8は、図4に示される表面処理工程S3の様子を示す図である。本実施形態のプロセッサ41は、一例として、TIG溶接装置21をワークWの表面に接触させることにより、溶接ビードBの幅方向一端の位置P4、溶接ビードBの幅方向他端の位置P5、溶接ビードBの幅方向両端よりも幅方向内側に位置する複数位置P6、P7、部品W3の基準面高さ位置P1、及び、部品W1の表面の任意の位置P8を測定する。この例では、再溶融座標位置情報IF2には、位置P1、P6~P8の座標位置に関する情報が含まれる。再溶融座標位置情報IF2に含まれる座標位置に関する情報は、任意に設定される。この座標位置に関する情報は、再溶融仕上げ位置の座標位置に関する情報でもよいし、再溶融仕上げ位置とは異なる位置の座標位置に関する情報でもよい。再溶融仕上げ位置の座標位置に関する情報は、例えば、ワークWの再溶融仕上げの対象となる領域の始終端の座標位置情報に関する情報を含む。
【0037】
プロセッサ41は、一例として、再溶融座標位置情報IF2に含まれる位置P1、P6~P8の情報に基づき、溶接ビードBの幅方向の一端の位置P4から他端の位置P5までの間の範囲をTIG溶接装置21により再溶融仕上げするように、TIG溶接装置21と多関節ロボット3とを制御する。これにより、表面処理工程S3が実行される。TIG溶接装置21を用いることにより、例えば、ワークWの周辺空気が溶接ビードB中に溶解して気孔が生じるのをシールドガス(不活性ガス)により防止できる。これにより、溶接ビードBの表面を適切に再溶融仕上げできる。
【0038】
なお、再溶融仕上げする範囲は、溶接ビードBの幅方向の一端の位置P4から他端の位置P5までの間の全範囲に限定されず、位置P4と位置P5との間の任意の範囲であってもよい。またシステム1では、ワークWについての全ての再溶融座標位置情報IF2を制御装置4が受信した後に溶接ビードBが再溶融仕上げされてもよい。例えば、先行して再溶融仕上げされた領域の終端と後に形成される領域の始端との繋ぎ目が、欠陥や、ワークWとTIG溶接装置21との接触点の座標位置の誤センシングの問題になる場合には、ワークWについての全ての再溶融座標位置情報IF2を制御装置4が受信した後に溶接ビードBが再溶融仕上げされると、当該問題を抑制できるため好適である。
【0039】
また、ワークWについての一部の再溶融座標位置情報IF2を制御装置4が取得した後に溶接ビードBを再溶融仕上げする動作が繰り返し行われてもよい。この動作は、例えば、ワークWが有する継手毎に、再溶融座標位置情報IF2を制御装置4が取得し、ワークWの複数の溶接ビードBの一部を再溶融仕上げする動作を含む。これにより、例えば、ワークW中の1つの溶接ビードBを再溶融仕上げすると歪によって他の溶接ビードBの位置が変化する場合等には、当該変化を抑制して各溶接ビードBを適切に再溶融仕上げできるため好適である。
【0040】
以上説明したように、本実施形態によれば、ワークWに対して、溶接処理工程S1、スラグ除去処理工程S2、及び、表面処理工程S3が、1台のシステム1により実行される。システム1は、ラック10に保持されたガスシールドアーク溶接装置20とTIG溶接装置21とを含む装置群2を所定のタイミングで多関節ロボット3に着脱自在に装着する。これによりシステム1では、予め定められた装置群2に含まれる複数の装置を使い分けて使用することにより、ワークWを別の場所に移動させることなく工程S1~S3が実行される。従って本実施形態によれば、複数の部品W1~W4をガスシールドアーク溶接し、ワークWの溶接ビードBをTIG溶接装置21により再溶融仕上げして構造物を製造する一連の工程を自動で行う場合において、集約された場所で各処理を適切に行うことにより、構造物の仕上りのバラツキを抑制しつつ、構造物の製造効率を向上できる。
【0041】
また本実施形態では、溶接処理を行う場合にガスシールドアーク溶接装置20を用い、再溶融仕上げによる表面処理を行う場合にTIG溶接装置21を用いることができる。これにより、一般にTIG溶接法に比べて溶接速度が速いガスシールド溶接法に基づいて、ワークWの複数の部品W1~W4を迅速に溶接できる。また、TIG溶接を用いた再溶融仕上げによる表面処理を行うことで、優れた表面形状を有するように、ワークWの溶接ビードBを表面処理できる。また、溶接したワークWを別の場所まで運搬して移動する手間が不要であるため、ワークWの溶接ビードBを効率よく表面処理できる。
【0042】
また従来、高張力鋼を含むワークWに形成された溶接ビードBの表面を切削工具により仕上げる場合、ワークWから切削工具に大きな負荷が掛かり、切削工具が振動する。このため、ワークWを切削工具のみで仕上げるのが困難となる。よって、溶接ビードBの表面を最終的には作業者の手作業により仕上げる必要が生じる。これに伴い、ワークWを溶接設備から切削設備まで移動して、ワークWをセッティングする無駄な工程が生じる。また、ワークWの移動、セッティング、及び手作業等に掛かる作業者の作業負担が増大する。また、ワークWを切削工具のみで仕上げる場合、ワークから受ける大きな反力に耐えうる大型且つ高価な設備が必要となる。また、設備の大型化により、例えばワークWの狭隘部等に対する仕上作業が困難となる。
【0043】
これに対して本実施形態によれば、このような無駄な工程や作業者の作業負担の増大を回避でき、システム1が配置された場所でワークWに対して一連の処理を行える。よって、ワークWが高張力鋼を含む場合でも、構造物の製造効率を向上できる。
【0044】
以下、本実施形態の変形例について説明する。本変形例では、ワークWがアルミニウムを含む。この場合、ワークWは、一例としてアルミニウム合金を含む。システム1によれば、このようなワークWを処理対象とする場合であっても、複数の部品W1~W4をガスシールドアーク溶接し、更にワークWの溶接ビードBをTIG溶接装置21により再溶融仕上げして構造物を製造する一連の工程を自動で行う場合において、集約された場所で各処理を適切に行うことにより、構造物の仕上りのバラツキを抑制しつつ、構造物の製造効率を向上できる。次に第2実施形態について、第1実施形態との差異を中心に説明する。
【0045】
(第2実施形態)
図9は、第2実施形態に係る自動溶接仕上システム101の概要図である。図9に示すように、システム101は、ガスシールドアーク溶接されたワークWの溶接ビードBの表面を撮像して当該表面についての画像データを制御装置4に送信する撮像装置8を備える。一例として、撮像装置8は、CCD等の光学センサを有する。プログラムを読み込んだプロセッサ41は、溶接処理工程S1とスラグ除去処理工程S2との間において、撮像装置8から画像データを受信し、且つ、画像データに基づいてガスシールドアーク溶接されたワークWのスラグの有無を判定することと、画像データに基づいてガスシールドアーク溶接されたワークWのスラグが有ると判定した場合にのみ、スラグを除去するようにスラグ除去装置22と多関節ロボット3とを制御することと、を実行するように構成されている。
【0046】
以下、プログラムを読み込んだプロセッサ41が、撮像装置8から受信した画像データに基づいて、ガスシールドアーク溶接されたワークWのスラグの有無を判定する方法を例示する。一例としてプロセッサ41は、画像データ中の各画素値を、予め設定された閾値以上であれば「1」に変換し、閾値未満であれば「0」に変換する。これによりプロセッサ41は、画像データを二値化処理する。次にプロセッサ41は、二値化処理した画像データ中に、画素値「1」の複数の画素が所定の態様で連続する画素グループがあるか否かを判定する。プロセッサ41は、画素値「1」の複数の画素が所定の態様で連続する画素グループがあると判定した場合、その画素グループに対応するワークWの表面領域にスラグが有ると判定する。またプロセッサ41は、画像データ中に画素値「1」の複数の画素が所定の態様で連続する画素グループが無いと判定した場合、画像データに対応するワークWの表面領域にはスラグが無いと判定する。
【0047】
なお、溶接ビードBの表面のスラグの有無を判定する方法は、上記方法に限定されない。例えば、スラグが付着したワークWの表面を撮像した画像データを用いて、画像データ中に表れるスラグを画像認識するように人工知能(AI)を機械学習させた後、ガスシールドアーク溶接されたワークWの表面を撮像装置8により撮像し、当該撮像した画像データに基づいて、ワークWのスラグが有るか否かを人工知能に判定させる方法でもよい。この場合、ワークWのスラグが有るか否かについての人工知能の判定結果は、制御装置4に送信される。プロセッサ41は、ワークWのスラグが有ると人工知能が判定した場合にのみ、スラグを除去するように、スラグ除去装置22と多関節ロボット3とを制御する。
【0048】
(第3実施形態)
図10は、第3実施形態に係る自動溶接仕上システム201の概要図である。図10に示すように、システム201は、システム1と同様の基本構成を有するが、第3検出センサ50を備える点がシステム1と異なる。第3検出センサ50は、ワークWの表面形状を光学的に検出して当該表面形状の情報を含むワーク表面情報IF3を制御装置4に送信するワーク表面検出センサである。第3検出センサ50は、一例としてレーザセンサである。また第3検出センサ50は、一例としてレーザ偏位センサである。第3検出センサ50の種類は、センサの検出方式が光学式であれば、上記のものに限定されない。また第3検出センサ50は、TIG溶接装置21に取り付けられていてもよいし、TIG溶接装置21とは別体に配置されていてもよい。
【0049】
プログラムを読み込んだプロセッサ41は、ワークW中の複数の部品W1~W4をガスシールドアーク溶接するように、ガスシールドアーク溶接装置20と多関節ロボット3とを制御することと、溶接ビードBをTIG溶接装置21により再溶融仕上げするように、TIG溶接装置21と多関節ロボット3とを制御することとの間において、第3検出センサ50からワーク表面情報IF3を受信し、且つ、ワーク表面情報IF3から溶接ビードBの所定の座標位置を検出することと、検出した溶接ビードBの座標位置の情報に基づいて、溶接ビードBをTIG溶接装置21により再溶融仕上げするようにTIG溶接装置21と多関節ロボット3とを制御することと、を実行するように構成されている。本実施形態の溶接ビードBの座標位置の情報は、一例として、溶接ビードBの止端部の座標位置の情報を含む。
【0050】
上記構成によれば、例えば部品W1のように、ワークWの曲面状の表面上に溶接ビードBの止端部が位置しているために接触式センサでは当該止端部の位置を検出しにくい場合や、溶接ビードBの形状に起因して接触式センサでは溶接ビードBの止端部の位置を検出しにくい場合等でも、プロセッサ41は、光学式の第3検出センサ50により得られたワーク表面情報IF3により、ワークWの表面上の溶接ビードBの止端部を高精度で検出できる。従ってプロセッサ41は、TIG溶接装置21により、溶接ビードBの再溶融仕上げを高精度で適切に行える。
【0051】
尚、システム201では、プログラムを読み込んだプロセッサ41は、TIG溶接装置21による再溶融仕上げが完了した後、第3検出センサ50を再度稼働させて、ワーク表面情報IF3を取得してもよい。この場合、プロセッサ41は、例えば、溶接ビードの再溶融仕上げ後に取得したワーク表面情報IF3を基準情報と比較することにより、溶接ビードBの始端形状の合否判定を行える。また当該比較により、例えば、溶接ビードBのオーバーラップやアンダーカット等の溶接欠陥の有無を確認できる。このようにシステム201を構築すれば、より品質の優れた製品を提供できる。
【0052】
次に、第3実施形態の変形例を説明する。本変形例に係るシステムは、図9に示されるシステム101と同様の基本構成を有する。本変形例に係るシステムの撮像装置8は、ワークWの表面を撮像して当該表面についての画像データを制御装置4に送信する。プログラムを読み込んだプロセッサ41は、ワークW中の複数の部品W1~W4をガスシールドアーク溶接するように、ガスシールドアーク溶接装置20と多関節ロボット3とを制御することと、溶接ビードBをTIG溶接装置21により再溶融仕上げするように、TIG溶接装置21と多関節ロボット3とを制御することとの間において、撮像装置8から画像データを受信し、且つ、画像データ中に示される溶接ビードBの所定の座標位置を検出することと、前記検出した溶接ビードBの座標位置の情報に基づいて、溶接ビードBをTIG溶接装置21により再溶融仕上げするようにTIG溶接装置21と多関節ロボット3とを制御することと、を実行するように構成されている。本変形例の溶接ビードBの座標位置の情報は、一例として、溶接ビードBの止端部の座標位置の情報を含む。
【0053】
以下、プログラムを読み込んだプロセッサ41が、画像データ中に示される溶接ビードBの所定の座標位置を検出する方法を例示する。一例としてプロセッサ41は、第2実施形態と同様に、画像データ中の各画素値を、予め設定された閾値以上であれば「1」に変換し、閾値未満であれば「0」に変換する。これによりプロセッサ41は、画像データを二値化処理する。次にプロセッサ41は、二値化処理した画像データ中の、画素値「0」の複数の画素が、予め設定された基準数以上連続する画素グループと、画素値「1」の複数の画素が、基準数以上連続する画素グループとの境界位置を検出する。プロセッサ41は、この境界位置を、溶接ビードBの所定の座標位置として検出する。
【0054】
上記構成によっても、第3実施形態と同様の効果が奏される。なお、第3実施形態及び変形例において、第2検出センサ6は、省略されてもよい。これにより、第3実施形態では、例えば第3検出センサ50により得られたワーク表面情報IF3により、溶接ビードBの幅方向両端の止端部の位置が検出されてもよい。また第3実施形態の変形例では、撮像装置8により得られた画像データに基づいて、溶接ビードBの幅方向両端の止端部の位置が検出されてもよい。また第2検出センサ6は、第3検出センサ50又は撮像装置8と併用されてもよい。
【0055】
本明細書で開示する要素の機能は、開示された機能を実行するよう構成又はプログラムされた、汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、従来の回路、又は、それらの組み合わせ、を含む回路又は処理回路を使用して実行できる。プロセッサは、トランジスタやその他の回路を含むため、処理回路又は回路と見なされる。本開示において、回路、ユニット若しくは手段は、列挙された機能を実行するハードウェアであるか、又は、列挙された機能を実行するようにプログラムされたハードウェアである。ハードウェアは、本明細書に開示されているハードウェアでもよいし、又は、列挙された機能を実行するようにプログラム若しくは構成されているその他の既知のハードウェアでもよい。ハードウェアが回路の一種と考えられるプロセッサである場合、回路、手段若しくはユニットは、ハードウェア及びソフトウェアの組み合わせであり、ソフトウェアは、ハードウェア、プロセッサ、又は、ハードウェア及びプロセッサの組合せの構成に使用される。
【0056】
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、前記実施形態及び前記変形例を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略等を行った実施形態にも適用可能である。また、前記実施形態及び前記変形例で説明した各構成要素を組み合わせて新たな実施形態とすることも可能である。例えば、1つの実施形態中の一部の構成を他の構成に適用してもよく、実施形態中の一部の構成は、その実施形態中の他の構成から分離して任意に抽出可能である。また、添付図面及び詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、前記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれる。
【0057】
(開示項目)
以下の項目のそれぞれは、好ましい実施形態の開示である。
【0058】
[項目1]
溶極式のガスシールドアーク溶接装置と、TIG溶接装置とを含む、装置群と、
前記装置群から選択された特定の装置が着脱自在に装着される多関節ロボットと、
プログラムが格納されたメモリと、前記メモリに格納された前記プログラムを実行するプロセッサとを有し、前記特定の装置と前記多関節ロボットとを制御する制御装置と、を備え、
前記プログラムを読み込んだ前記プロセッサが、
前記多関節ロボットに前記ガスシールドアーク溶接装置が装着された状態で、複数の部品を含むワーク中の前記複数の部品を前記ガスシールドアーク溶接装置によりガスシールドアーク溶接するように、前記ガスシールドアーク溶接装置と前記多関節ロボットとを制御することと、
前記多関節ロボットに前記TIG溶接装置が装着された状態で、前記ガスシールドアーク溶接により形成された前記ワークの溶接ビードを、前記TIG溶接装置により再溶融仕上げするように前記TIG溶接装置と前記多関節ロボットとを制御することと、を実行するように構成されている、自動溶接仕上システム。
【0059】
上記構成によれば、多関節ロボットに対して特定の装置を使い分けて着脱できる。これにより、ワークを別の場所に移動させることなく、多関節ロボットに装着した異なる装置を用いて、集約された場所で溶接処理と表面処理とを自動で行える。
また、ガスシールドアーク溶接は、TIG溶接よりも溶接速度が速い。上記構成では、溶接をする際にガスシールドアーク溶接により自動で溶接できるため、TIG溶接を行う場合に比べて迅速に溶接を行える。また、溶接を迅速に行えることで、溶接時に中間品の入熱量が増大するのを防止できる。これにより、適切な溶接処理を行える。
【0060】
また、再溶融仕上げをする際にTIG溶接装置により再溶融仕上げを自動で行うことができるため、手動操作による仕上りのバラツキを抑制できる。これにより、適切な表面処理を行える。従って、構造物の製造効率を向上できる。
【0061】
[項目2]
前記ガスシールドアーク溶接装置と前記ワークとの接触点の座標位置を検出し且つ当該座標位置の情報を含む溶接座標位置情報を前記制御装置に送信するガスシールドアーク溶接位置検出センサを更に備え、
前記プログラムを読み込んだ前記プロセッサが、
前記多関節ロボットに前記ガスシールドアーク溶接装置が装着された状態で、前記ワークと、前記ガスシールドアーク溶接装置とを接触させて、前記溶接座標位置情報を前記ガスシールドアーク溶接位置検出センサから受信するように前記多関節ロボットを制御することと、
前記溶接座標位置情報に基づいて、前記ワーク中の前記複数の部品を前記ガスシールドアーク溶接するように前記ガスシールドアーク溶接装置と前記多関節ロボットとを制御することと、を実行するように構成されている、項目1に記載の自動溶接仕上システム。
【0062】
上記構成によれば、プロセッサがガスシールドアーク溶接位置検出センサから受信した溶接座標位置情報に基づいて、前記複数の部品をガスシールドアーク溶接することで、前記複数の部品を正確な位置で溶接できる。このため、集約された場所で、構造物を製造する際の作業者の負担を軽減しつつ、製造物を安定且つ迅速に製造できる。
【0063】
[項目3]
前記TIG溶接装置と前記ワークとの接触点の座標位置を検出し且つ当該座標位置の情報を含む再溶融座標位置情報を前記制御装置に送信する再溶融位置検出センサを更に備え、
前記プログラムを読み込んだ前記プロセッサが、
前記ワーク中の前記複数の部品を前記ガスシールドアーク溶接するように、前記ガスシールドアーク溶接装置と前記多関節ロボットとを制御することと、前記溶接ビードを前記TIG溶接装置により前記再溶融仕上げするように、前記TIG溶接装置と前記多関節ロボットとを制御することとの間において、前記多関節ロボットに前記TIG溶接装置が装着された状態で、前記ガスシールドアーク溶接された前記ワークと、前記TIG溶接装置とを接触させて、前記再溶融座標位置情報を前記再溶融位置検出センサから受信するように前記多関節ロボットを制御することと、
前記再溶融座標位置情報に基づいて、前記溶接ビードを前記TIG溶接装置により前記再溶融仕上げするように前記TIG溶接装置と前記多関節ロボットとを制御することと、を実行するように構成されている、項目1又は2に記載の自動溶接仕上システム。
【0064】
上記構成によれば、プロセッサが再溶融位置検出センサから受信した再溶融座標位置情報に基づいて、前記溶接ビードをTIG溶接装置により再溶融仕上げするように、前記TIG溶接装置と前記多関節ロボットとが制御される。このため、例えばガスシールドアーク溶接によりワークが熱変形を生じても、当該溶接後のワークに対してTIG溶接装置を正確に位置決めできるので、個々のワークに応じて再溶融仕上げを精度よく行える。これにより、安定した品質の構造物を製造できる。
【0065】
[項目4]
前記ワークの表面形状を光学的に検出して当該表面形状の情報を含むワーク表面情報を前記制御装置に送信するワーク表面検出センサを更に備え、
前記プログラムを読み込んだ前記プロセッサが、
前記ワーク中の前記複数の部品を前記ガスシールドアーク溶接するように、前記ガスシールドアーク溶接装置と前記多関節ロボットとを制御することと、前記溶接ビードを前記TIG溶接装置により前記再溶融仕上げするように、前記TIG溶接装置と前記多関節ロボットとを制御することとの間において、前記ワーク表面検出センサから前記ワーク表面情報を受信し、且つ、前記ワーク表面情報から前記溶接ビードの所定の座標位置を検出することと、
前記検出した前記溶接ビードの前記座標位置の情報に基づいて、前記溶接ビードを前記TIG溶接装置により前記再溶融仕上げするように前記TIG溶接装置と前記多関節ロボットとを制御することと、を実行するように構成されている、項目1~3のいずれか1項に記載の自動溶接仕上システム。
【0066】
上記構成によれば、例えば、ワークの表面上の溶接ビードの所定の座標位置を接触式センサでは検出しにくい場合でも、プロセッサは、ワークの表面形状を光学的に検出するワーク表面検出センサにより得られるワーク表面情報により、溶接ビードの当該座標位置を高精度で検出できる。従ってプロセッサは、TIG溶接装置により、溶接ビードの再溶融仕上げを高精度で適切に行える。
【0067】
[項目5]
前記ワークの表面を撮像して前記ワークの表面形状の情報を含む画像データを前記制御装置に送信する撮像装置を備え、
前記プログラムを読み込んだ前記プロセッサが、
前記ワーク中の前記複数の部品を前記ガスシールドアーク溶接するように、前記ガスシールドアーク溶接装置と前記多関節ロボットとを制御することと、前記溶接ビードを前記TIG溶接装置により前記再溶融仕上げするように、前記TIG溶接装置と前記多関節ロボットとを制御することとの間において、前記撮像装置から前記画像データを受信し、且つ、前記画像データ中に示される前記溶接ビードの所定の座標位置を検出することと、
前記検出した前記溶接ビードの前記座標位置の情報に基づいて、前記溶接ビードを前記TIG溶接装置により前記再溶融仕上げするように前記TIG溶接装置と前記多関節ロボットとを制御することと、を実行するように構成されている、項目1~3のいずれか1項に記載の自動溶接仕上システム。
【0068】
上記構成によれば、例えば、ワークの表面上の溶接ビードの所定の座標位置を接触式センサでは検出しにくい場合でも、プロセッサは、撮像装置により得られた画像データ中に示される溶接ビードの当該座標位置を高精度で検出できる。従ってプロセッサは、TIG溶接装置により、溶接ビードの再溶融仕上げを高精度で適切に行える。
【0069】
[項目6]
前記溶接ビードの前記座標位置の情報は、前記溶接ビードの止端部の座標位置の情報を含む、項目4又は5に記載の自動溶接仕上システム。
【0070】
上記構成によれば、ワークの曲面状の表面上に溶接ビードの止端部が位置しているために接触式センサでは当該止端部の位置を検出しにくい場合や、溶接ビードの形状に起因して接触式センサでは溶接ビードの止端部の位置を検出しにくい場合等でも、プロセッサは、ワークの表面上の溶接ビードの止端部を高精度で検出できる。これによりプロセッサは、TIG溶接装置により、溶接ビードの再溶融仕上げを高精度で適切に行える。
【0071】
[項目7]
前記装置群は、前記ワークの表面に存在するスラグを除去するスラグ除去装置を更に含み、
前記プログラムを読み込んだ前記プロセッサが、
前記ワーク中の前記複数の部品を前記ガスシールドアーク溶接するように、前記ガスシールドアーク溶接装置と前記多関節ロボットとを制御することと、前記溶接ビードを前記TIG溶接装置により再溶融仕上げするように、前記TIG溶接装置と前記多関節ロボットとを制御することとの間において、前記多関節ロボットに前記スラグ除去装置が装着された状態で、前記ガスシールドアーク溶接された前記ワークの前記スラグを除去するように前記スラグ除去装置と前記多関節ロボットとを制御すること、を実行するように構成されている、項目1~6のいずれか1項に記載の自動溶接仕上システム。
【0072】
上記構成によれば、ワークの表面に存在するスラグを除去することで、前記溶接ビードをTIG溶接により再溶融仕上げする際、溶接ビードの再溶融がスラグにより妨げられるのを防止できる。よって、安定した品質の構造物を製造できる。また、ワークからスラグを除去する工程を自動化できるので、作業者による作業負担を一層軽減できる。
【0073】
[項目8]
前記ガスシールドアーク溶接装置と前記ワークとの接触点の座標位置を検出し且つ当該座標位置の情報を含む溶接座標位置情報を前記制御装置に送信するガスシールドアーク溶接位置検出センサを更に備え、
前記プログラムを読み込んだ前記プロセッサが、
前記多関節ロボットに前記ガスシールドアーク溶接装置が装着された状態で、前記ワークと、前記ガスシールドアーク溶接装置とを接触させて、前記溶接座標位置情報を前記ガスシールドアーク溶接位置検出センサから受信するように前記多関節ロボットを制御することと、
前記溶接座標位置情報に基づいて、前記ワーク中の前記複数の部品を前記ガスシールドアーク溶接するように前記ガスシールドアーク溶接装置と前記多関節ロボットとを制御することと、
前記溶接座標位置情報に基づいて、前記ガスシールドアーク溶接された前記ワークの前記スラグを除去するように前記スラグ除去装置と前記多関節ロボットとを制御することと、を実行するように構成されている、項目7に記載の自動溶接仕上システム。
【0074】
上記構成によれば、溶接座標位置情報に基づいてスラグが除去されるため、スラグの除去を精度よく行うことができる。これにより、前記溶接ビードをTIG溶接により再溶融仕上げする際、再溶融が残留するスラグにより妨げられるのを一層防止できる。従って、一層安定した品質の構造物を製造できる。
【0075】
[項目9]
前記複数の部品は、一対の部品を含み、
前記溶接ビードは、前記一対の部品間で一方向に延びる長尺形状を有し、
前記プログラムを読み込んだ前記プロセッサが、前記溶接座標位置情報に基づいて、少なくとも式1及び式2に示される関係を満たす前記溶接ビードの裾の幅内の前記スラグを除去するように前記スラグ除去装置と前記多関節ロボットとを制御すること、を実行するように構成されている、項目8に記載の自動溶接仕上システム。

[式1]
slg = ρ/tan{(180°-Φ)/2}

[式2]
0.26 < slg/ρ < 1

但し、Φは、前記溶接ビードの前記一方向に対する垂直断面において示される、前記一対の部品のうちの一方の部品である母材の前記溶接ビードの止端部を通る接線と、前記溶接ビードの前記止端部を通る接線との間に位置する、前記溶接ビードの立ち上がり角度である。slgは、前記垂直断面において示される、前記溶接ビードの幅方向一端に位置する前記裾の幅である。ρは、前記垂直断面において示される、前記溶接ビードの前記幅方向一端に位置する前記裾の輪郭を円周の一部とする円の半径である。
【0076】
上記構成によれば、式1及び式2に基づいてスラグが除去されることで、ワークのスラグを除去すべき領域を中間品毎に個別に調整できる。よって、中間品毎に精度よくスラグを除去できる。
【0077】
[項目10]
前記ガスシールドアーク溶接された前記ワークの前記溶接ビードの表面を撮像して当該表面についての画像データを前記制御装置に送信する撮像装置を備え、
前記プログラムを読み込んだ前記プロセッサが、
前記ワーク中の前記複数の部品を前記ガスシールドアーク溶接するように、前記ガスシールドアーク溶接装置と前記多関節ロボットとを制御することと、前記ガスシールドアーク溶接された前記ワークの前記スラグを除去するように、前記スラグ除去装置と前記多関節ロボットとを制御することとの間において、前記撮像装置から前記画像データを受信し、且つ、前記画像データに基づいて前記ガスシールドアーク溶接された前記ワークの前記スラグの有無を判定することと、
前記画像データに基づいて前記ガスシールドアーク溶接された前記ワークの前記スラグが有ると判定した場合にのみ、前記スラグを除去するように前記スラグ除去装置と前記多関節ロボットとを制御することと、を実行するように構成されている、項目7に記載の自動溶接仕上システム。
【0078】
上記構成によれば、前記画像データに基づいて前記ガスシールドアーク溶接されたワークの前記スラグが有ると判定した場合にのみ、前記スラグが除去される。よって、スラグを除去するために負荷されるシステムの負担を必要最小限に低減できると共に、構造物の製造効率を一層向上できる。
【0079】
[項目11]
前記プログラムを読み込んだ前記プロセッサが、前記多関節ロボットへの前記特定の装置を着脱するように前記多関節ロボットを制御すること、を実行するように構成されている、項目1~10のいずれか1項に記載の自動溶接仕上システム。
【0080】
上記構成によれば、多関節ロボットに対して装置群に含まれる装置を着脱するための別途の装置を省略できる。このため、自動溶接仕上げシステムをコンパクトに構成できる。
【0081】
[項目12]
前記ワークを前記多関節ロボットに対して位置決めするポジショナーを更に備え、
前記プログラムを読み込んだ前記プロセッサが、
前記ワークが前記ポジショナーにより前記位置決めされた状態で、前記ワーク中の前記複数の部品を前記ガスシールドアーク溶接するように、前記ガスシールドアーク溶接装置と前記多関節ロボットとを制御することと、
前記溶接ビードを前記TIG溶接装置により前記再溶融仕上げするように前記TIG溶接装置と前記多関節ロボットとを制御することと、を実行するように構成されている、項目1~11のいずれか1項に記載の自動溶接仕上システム。
【0082】
上記構成によれば、ワークを同一のポジショナーにより前記位置決めした状態で、前記ガスシールドアーク溶接と前記再溶融仕上げとの各工程を行える。これにより、工程毎にワークを移動する作業を低減できる。よって、作業負担の一層の低減を図れる。
【0083】
[項目13]
前記ワークは高張力鋼を含む、項目1~12のいずれか1項に記載の自動溶接仕上システム。
【0084】
通常、高張力鋼は溶接ビードの表面処理に手間が掛かり、グラインダーを用いた手作業では作業負担が大幅に増大する。また従来技術では、溶接と再溶融仕上げとを自動化しようとすると、これらの両方にTIG溶接装置が用いられるため、構造物の製造効率が低下する。これに対して当該構成によれば、ワークが高張力鋼を含む場合であっても、構造物を製造する際の作業者の負担を軽減しつつ、製造物を安定且つ迅速に製造し、構造物の製造効率を向上できる。
【0085】
[項目14]
前記ワークは、鉄道車両台車枠の製造途中の中間品である、項目13に記載の自動溶接仕上システム。
【0086】
鉄道車両台車枠は比較的重量が重く、且つ、総溶接長が長い溶接個所を有する。このため、手作業で溶接部分の表面処理を行うと作業者の作業負担が顕著となる。これに対して当該構成によれは、構造物を製造する際の作業者の負担を軽減しつつ、製造物を安定且つ迅速に製造し、構造物の製造効率を向上できる。
【0087】
[項目15]
前記ワークはアルミニウム合金を含む、項目1~14のいずれか1項に記載の自動溶接仕上システム。
【0088】
上記構成によれば、アルミニウム合金を含むワークを処理対象とする場合であっても、前記複数の部品をガスシールドアーク溶接し、更にワークの溶接ビードをTIG溶接装置により再溶融仕上げして構造物を製造する一連の工程を自動で行う場合において、集約された場所で各処理を適切に行うことにより、構造物の仕上りのバラツキを抑制しつつ、構造物の製造効率を向上できる。
【符号の説明】
【0089】
B 溶接ビード
B1 溶接ビードの裾
IF1 溶接座標位置情報
IF2 再溶融座標位置情報
IF3 ワーク表面情報
L1 母材の溶接ビードの止端部を通る接線
L2 溶接ビードの止端部を通る接線
W ワーク
W1~W4 複数の部品
1、101 自動溶接仕上システム
2 装置群
3 多関節ロボット
4 制御装置
5 第1検出センサ(ガスシールドアーク溶接位置検出センサ)
6 第2検出センサ(TIG再溶融仕上位置検出センサ)
7 ポジショナー
8 撮像装置
20 ガスシールドアーク溶接装置
21 TIG溶接装置
22 スラグ除去装置
23 電極ワイヤ
24 電極棒
40 メモリ
41 プロセッサ
50 第3検出センサ(ワーク表面検出センサ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10