(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077590
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】固体酸化物形燃料電池用アノードのアノード反応助触媒、固体酸化物形燃料電池用アノード、および固体酸化物形燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/90 20060101AFI20240531BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20240531BHJP
B01J 23/83 20060101ALI20240531BHJP
C01G 51/00 20060101ALI20240531BHJP
【FI】
H01M4/90 X
H01M8/12 101
H01M4/90 M
B01J23/83 M
C01G51/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023161662
(22)【出願日】2023-09-25
(31)【優先権主張番号】P 2022189288
(32)【優先日】2022-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年12月6日開催、第32回日本MRS年次大会 [刊行物等] 令和4年12月1日発行、第32回日本MRS年次大会 Abstract
(71)【出願人】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 滋啓
(72)【発明者】
【氏名】森 利之
【テーマコード(参考)】
4G048
4G169
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4G048AA05
4G048AB01
4G048AC08
4G048AD03
4G048AD06
4G048AE05
4G169AA03
4G169BA05B
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC12A
4G169BC12B
4G169BC40B
4G169BC42A
4G169BC42B
4G169BC44A
4G169BC62A
4G169BC66A
4G169BC66B
4G169BC67A
4G169BC67B
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169CC32
4G169DA06
4G169EA01Y
4G169EA02Y
4G169EB14Y
4G169EC25
4G169FA01
4G169FA06
4G169FB06
4G169FB23
4G169FB30
4G169FB57
5H018AA06
5H018AS02
5H018BB01
5H018BB06
5H018BB11
5H018BB12
5H018EE04
5H018EE13
5H018HH05
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】優れた発電性能を実現可能な固体酸化物形燃料電池用アノードのアノード反応助触媒を提供すること。
【解決手段】下記一般式(1)で表される固体酸化物形燃料電池用アノードのアノード反応助触媒を提供する。
Ma
1-pSrpMb
1-qCoqO3-δ (1)
(上記一般式(1)中、Maは、La、Sm、およびGdから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Mbは、Fe、Mn、およびNiから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、pは0.3~0.95、qは0.7~0.95、δは酸素欠損量である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される固体酸化物形燃料電池用アノードのアノード反応助触媒。
Ma
1-pSrpMb
1-qCoqO3-δ (1)
(上記一般式(1)中、Maは、La、Sm、およびGdから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Mbは、Fe、Mn、およびNiから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、pは0.3~0.95、qは0.7~0.95、δは酸素欠損量である。)
【請求項2】
上記一般式(1)において、pおよびqが0.8≦(5q-p)/3.6≦1.2を満たす請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池用アノードのアノード反応助触媒。
【請求項3】
Maが、Laであり、Mbが、Feである請求項1または2に記載の固体酸化物形燃料電池用アノードのアノード反応助触媒。
【請求項4】
請求項1または2に記載のアノード反応助触媒と、
固体電解質と、
金属ニッケル粒子と、を含有する固体酸化物形燃料電池用アノード。
【請求項5】
請求項4に記載の固体酸化物型燃料電池用アノードを備える固体酸化物形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池用アノードのアノード反応助触媒、固体酸化物形燃料電池用アノード、および固体酸化物形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池(SOFC)は通常は900℃を超える高温で動作する燃料電池である。このような動作中の高温に耐えるようにするため、その主要部品の一つであるインターコネクターやセパレーターに使用する材料として非常に高価なセラミックス材料(たとえば、ランタンクロマイト系または酸化チタン系セラミックス材料など)を使用する必要がある。これがSOFCの装置価格、ひいては単位発電量当たりのコスト低減を阻害する大きな要因の一つになっていた。そのため、この温度を700℃から800℃付近に抑えることができれば、インターコネクターまたはセパレーターに安価なステンレスを使用できるうえ、900℃を超える高温動作故に不可避的に発生すると考えられるインターコネクターまたはセパレーターと燃料電池セルとの反応による性能低下の抑制も可能となり、上記問題、すなわち装置製造価格の低減という課題と、性能寿命の改善という課題の両面でのブレークスルーを与えることが期待される。
【0003】
700℃から800℃付近での動作を可能とした固体酸化物形燃料電池用アノードとして、たとえば、特許文献1では、固体電解質と、金属ニッケル粒子と、ブラウンミラーライト構造を有するBa2In1.7(Zn0.5,Zr0.5)0.3O5、Ca2Fe2O5、Sr2Fe2O5、Ca2In2O5、Sr2In2O5、およびBa2In2O5、ならびに酸化物TiO2、CeO2、及びSnO2からなる群から選択された少なくとも一からなるアノード反応助触媒とを含む固体酸化物形燃料電池用アノードが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、700℃から800℃付近での動作を可能とした場合であっても、さらなる高性能化という観点より、固体酸化物形燃料電池を構成するアノードにおいても、発電性能により優れることが求められている。
本発明の目的は、優れた発電性能を実現可能な固体酸化物形燃料電池用アノードのアノード反応助触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、Ma
1-pSrpMb
1-qCoqO3-δ(Maは、La、Sm、およびGdから選ばれる少なくとも1種の元素、Mbは、Fe、Mn、およびNiから選ばれる少なくとも1種の元素、pは0.3~0.95、qは0.7~0.95、δは酸素欠損量)で表されるアノード反応助触媒によれば、優れた発電性能を実現できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明によれば、
〔1〕下記一般式(1)で表される固体酸化物形燃料電池用アノードのアノード反応助触媒、
Ma
1-pSrpMb
1-qCoqO3-δ (1)
(上記一般式(1)中、Maは、La、Sm、およびGdから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Mbは、Fe、Mn、およびNiから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、pは0.3~0.95、qは0.7~0.95、δは酸素欠損量である。)
〔2〕上記一般式(1)において、pおよびqが0.8≦(5q-p)/3.6≦1.2を満たす請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池用アノードのアノード反応助触媒。
〔3〕Maが、Laであり、Mbが、Feである前記〔1〕または〔2〕に記載の固体酸化物形燃料電池用アノードのアノード反応助触媒、
〔4〕前記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のアノード反応助触媒と、
固体電解質と、
金属ニッケル粒子と、を含有する固体酸化物形燃料電池用アノード、
〔5〕前記〔4〕に記載の固体酸化物型燃料電池用アノードを備える固体酸化物形燃料電池、
が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れた発電性能を実現可能な固体酸化物形燃料電池用アノードのアノード反応助触媒、ならびに、このようなアノード反応助触媒を用いた固体酸化物形燃料電池用アノードおよび固体酸化物形燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施例1に係るLa
0.1Sr
0.9Co
0.9Fe
0.1O
3-δの粉末のX線回折パターンである。
【
図2】
図2は、比較例1に係るLa
0.1Sr
0.9Co
0.6Fe
0.4O
3-δの粉末のX線回折パターンである。
【
図3】
図3は、比較例2に係るLaCoO
3-δの粉末のX線回折パターンである。
【
図4】
図4は、実施例2に係るLa
0.6Sr
0.4Co
0.8Fe
0.2O
3-δ(800℃焼成)の粉末のX線回折パターンである。
【
図5】
図5は、実施例3に係るLa
0.6Sr
0.4Co
0.8Fe
0.2O
3-δ(1300℃焼成)の粉末のX線回折パターンである。
【
図6】
図6は、実施例1、比較例1,2のTG-DTA測定の結果を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施例2,3のTG-DTA測定の結果を示すグラフである。
【
図8】
図8は、実施例1~3、比較例1,2の電流密度―セル電圧における電極特性のI-V曲線(IR-free)の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<固体酸化物形燃料電池用アノードのアノード反応助触媒>
本発明の固体酸化物形燃料電池用アノードのアノード反応助触媒は、下記一般式(1)で表されるものである。
Ma
1-pSrpMb
1-qCoqO3-δ (1)
(上記一般式(1)中、Maは、La、Sm、およびGdから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Mbは、Fe、Mn、およびNiから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、pは0.3~0.95、qは0.7~0.95、δは酸素欠損量である。)
【0011】
固体酸化物形燃料電池(SOFC)の電極部位であるアノード層内ではH2+O2-→H2O+2e-の電極反応がアノード層内の三相界面で起こるものである。固体酸化物形燃料電池の発電性能向上につながる因子としてアノード反応の律速段階とされるO2-いわゆるO2(酸素)の制御がアノード表面では重要であるところ、本発明者等が鋭意検討を重ねた結果、上記一般式(1)で表されるアノード反応助触媒によれば、優れた酸素吸蔵・放出機能を有することを見出したものである。そして、本発明者等の知見によれば、上記一般式(1)で表されるアノード反応助触媒を用いることで、その優れた酸素放出・吸蔵機能により、アノード反応を促進させ発電性能の向上に効果的に資することを見出したものである。
【0012】
特に、本発明者等が検討を行ったところ、上記一般式(1)で表されるアノード反応助触媒は、700℃付近で良好に酸素の吸蔵・放出を行うことができるものである。より具体的には、一般式(1)中のCoとMbとの比を、上記の通り限定された範囲とすることにより、酸素放出量を改善できるものである。そのため、本発明の上記一般式(1)で表されるアノード反応助触媒によれば、これを用いた固体酸化物形燃料電池用アノードを、700℃から800℃付近での動作を可能とすることができるとともに、このような動作温度においても、優れた発電性能を実現できるものである。
【0013】
上記一般式(1)中、Maは、La、Sm、およびGdから選ばれる少なくとも1種の元素であり、これらの中でも、発電性能をより高めることできるという観点より、Maは、Laであることが好ましい。また、上記一般式(1)中、Mbは、Fe、Mn、およびNiから選ばれる少なくとも1種の元素であり、これらの中でも、発電性能をより高めることできるという観点より、Mbは、Feであることが好ましい。すなわち、上記一般式(1)で表されるアノード反応助触媒のなかでも、下記一般式(2)で表されるアノード反応助触媒が好ましい。
La1-pSrpFe1-qCoqO3-δ (2)
(上記一般式(2)中、pは0.3~0.95、qは0.7~0.95、δは酸素欠損量である。)
【0014】
上記一般式(1)中、pは0.3~0.95である。電流密度をより向上させるという観点からは、pは、好ましくは0.35~0.45であり、より好ましくは0.37~0.43であり、さらに好ましくは0.39~0.41であり、特に好ましくはp=0.4である。また、酸素の吸蔵放出の絶対量をより向上させるという観点からは、pは、好ましくは0.8~0.95であり、より好ましくは0.85~0.93であり、さらに好ましくは0.87~0.92であり、さらにより好ましくは0.89~0.91であり、特に好ましくはp=0.9である。また、上記一般式(1)中、qは0.7~0.95であり、qは、好ましくは0.77~0.93であり、より好ましくは0.78~0.92であり、さらに好ましくは0.79~0.91であり、特に好ましくはq=0.8~0.9である。なお、電流密度をより向上させるという観点からは、qは、好ましくは0.75~0.85であり、より好ましくは0.77~0.83であり、さらに好ましくは0.79~0.81であり、特に好ましくはq=0.8である。また、酸素の吸蔵放出の絶対量をより向上させるという観点からは、qは、好ましくは0.8~0.95であり、より好ましくは0.85~0.93であり、さらに好ましくは0.87~0.92であり、さらにより好ましくは0.89~0.91であり、特に好ましくはq=0.9である。すなわち、上記一般式(1)で表されるアノード反応助触媒のなかでも、酸素の吸蔵放出の絶対量をより向上させるという観点からは、下記一般式(3)で表されるアノード反応助触媒、あるいは、電流密度をより向上させるという観点からは、下記一般式(4)で表されるアノード反応助触媒が特に好ましい。
La0.1Sr0.9Co0.9Fe0.1O3-δ (3)
(上記一般式(3)中、δは酸素欠損量である。)
La0.6Sr0.4Co0.8Fe0.2O3-δ (4)
(上記一般式(4)中、δは酸素欠損量である。)
【0015】
なお、上記一般式(1)中、δは酸素欠損量であり、組成や温度、雰囲気等によって異なる値をとるが、通常0≦δ≦1の範囲である。
【0016】
上記一般式(1)において、pおよびqが0.8≦(5q-p)/3.6≦1.2を満たすものであることが好ましい。また、発電性能をより向上させるという観点からは、好ましくは0.9≦(5q-p)/3.6≦1.1であり、より好ましくは0.95≦(5q-p)/3.6≦1.05であり、さらに好ましくは(5q-p)/3.6=1である。
【0017】
一般式(1)で表されるアノード反応助触媒の製造方法としては、特に限定されないが、Ma含有化合物(Maは、La、Sm、およびGdから選ばれる少なくとも1種の元素)と、Sr含有化合物と、Mb含有化合物(Mbは、Fe、Mn、およびNiから選ばれる少なくとも1種の元素)と、Co含有化合物とを所定の組成にて混合することで原料混合物を得る混合工程と、得られた原料混合物を加熱装置に導入して800~1300℃で焼成する焼成工程とを含む製造方法により製造することができる。
【0018】
Ma含有化合物としては、たとえば、炭酸ランタン(La2(CO3)3)、水酸化ランタン(La(OH)3)、酸化ランタン(La2O3)、炭酸サマリウム(Sm2(CO3)3)、水酸化サマリウム(Sm(OH)3)、酸化サマリウム(Sm2O3)、炭酸ガドリニウム(Gd2(CO3)3)、水酸化ガドリニウム(Gd(OH)3)、酸化ガドリニウム(Gd2O3)などが挙げられる。
【0019】
Sr含有化合物としては、炭酸ストロンチウム(SrCO3)、水酸化ストロンチウム(Sr(OH)2)などが挙げられる。
【0020】
Mb含有化合物としては、たとえば、酸化鉄(Fe2O3)、酸化マンガン(MnO2、Mn3O4等)、酸化ニッケル(NiO)、炭酸ニッケル(NiCO3)などが挙げられる。
【0021】
Co含有化合物としては、酸化コバルト(Co3O4)、炭酸コバルト(CoCO3)などが挙げられる。
【0022】
混合工程では、有機酸を添加してもよい。有機酸としては、酢酸、シュウ酸、クエン酸、リンゴ酸等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。有機酸を添加すると、原料混合物中で金属元素の有機酸塩が生成することになるため、原料に金属元素の有機酸塩が含まれていてもよい。
【0023】
混合工程における混合方法は、上記した原料化合物が十分に混合されることになる限り特に制限されず、上記した原料化合物を粉末またはスラリー状態で混合してもよく(固相法)、上記した原料化合物を溶媒に溶解させた溶液にして混合してもよい(液相法)。
【0024】
原料化合物を粉末またはスラリー状態で混合する場合(固相法)、混合する方法は特に制限されず、リボンミキサー、スパルタンミキサー、スーパーミキサー、Vブレンダー、ヘンシェルミキサー、サンプルミル、遊星ボールミル、ビーズミル、振動ミル、メディアレス粉砕機等を用いることができる。遊星ボールミル、ビーズミル、振動ミルのいずれかを用いる場合に使用するメディアとしては、ガラスビーズ、アルミナビーズ、ジルコニアビーズ、チタニアビーズ、窒化珪素ビーズ、メノウビーズ、タングステンカーバイドビーズ等が挙げられる。使用するメディアは、直径0.1~5mmのものが好ましい。また、混合する時間は、使用する機器によって大きく異なるが、通常30~500分の範囲内で使用する機器に応じて適宜調整すればよい。
【0025】
また、原料化合物に溶媒を添加してスラリー状態で湿式混合する場合、使用する溶媒の量は特に制限されないが、原料が含む金属元素を含有する化合物の合計100質量%に対して、50~200質量%とすることが好ましい。溶媒を添加して混合する場合に使用する溶媒としては、水、上述した有機酸の水溶液、有機溶媒等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0026】
混合工程を、溶媒を使用した固相法または液相法で行った場合、焼成する工程の前に溶媒を除去する工程を行うことが好ましい。これにより焼成工程を効率的に行うことができる。溶媒を除去する方法は特に制限されないが、溶媒を蒸発させる方法が好ましく、原料混合物を加熱する方法が好ましい。加熱温度は、設備の稼働にかかる電気代等のコストを抑制し、かつ乾燥効率を確保するため、80~200℃が好ましく、より好ましくは100~160℃である。また、加熱する時間は、操業効率の観点から、1~48時間であることが好ましい。溶媒を蒸発させきるために、より好ましくは、6~24時間である。
【0027】
また、液相法で行った場合、溶液のpHを塩基性物質の添加等により制御することで、各金属元素の塩を析出させ、沈殿として分離することにより原料混合物を得ることも好適な手法の一つである。塩基性物質としては、アルカリ金属元素の炭酸塩、水酸化物塩等を用いることができる。
【0028】
混合工程を、溶媒を使用した固相法または液相法により行う場合、溶媒を除去する工程の後、凝集した原料混合物を解砕する工程を行うことが好ましい。これにより原料混合物を後の焼成工程でより十分に焼成することができる。原料混合物を解砕する方法は特に制限されないが、サンプルミル、ロールミル、ハンマーミル、振動ミル、ジェットミル等を用いることができる。
【0029】
混合工程を液相法で行う場合は、焼成工程の前に粗焼成工程を行うことが好ましい。これにより、炭素成分を除去し、炭素成分に起因する副反応や成分金属元素の偏析を抑制できる。上記溶媒を除去する工程や解砕する工程を行う場合は、これらの工程の後に粗焼成工程を行うことが好ましい。粗焼成工程を行う温度は、炭素成分を除去し、かつ成分金属元素の偏析を生じさせないために、300~500℃であることが好ましい。より好ましくは、350~500℃であり、さらに好ましくは、400~500℃である。また、粗焼成工程を行う時間は、操業効率の観点から、1~24時間であることが好ましい。炭素成分を除去するために、より好ましくは、4~24時間であり、更に好ましくは、4~16時間である。
【0030】
上記粗焼成工程を行う場合、粗焼成工程の後、焼成工程の前に粗焼成物を解砕する工程を行うことが好ましい。解砕は、サンプルミル、ロールミル、ハンマーミル、振動ミル、ジェットミル等を用いて行うことができる。
【0031】
混合工程で原料混合物を得た後、得られた原料混合物を加熱装置に導入して800~1300℃で焼成する(焼成工程)。
【0032】
混合工程で原料化合物を粉末状態で混合する場合、得られた原料混合物をそのまま800~1300℃で焼成することができるが、上記混合工程で原料化合物をスラリー状態または溶媒に溶解させた溶液にして混合する場合には、上記方法等により原料混合物のスラリーや溶液から溶媒を除去した後に800~1300℃で焼成することが好ましい。
【0033】
焼成工程における焼成温度は800~1300℃であればよいが、結晶性の高い複合材料を得るため、850~1300℃であることが好ましい。より好ましくは900~1280℃である。粒成長による微細複合構造の破壊を抑制するため、さらに好ましくは900~1250℃である。また、焼成する時間は、操業効率の観点から、1~24時間であることが好ましい。より好ましくは1~18時間であり、さらに好ましくは2~12時間である。
【0034】
<固体酸化物形燃料電池用アノード>
本発明の固体酸化物形燃料電池用アノードは、上記した本発明の一般式(1)で表されるアノード反応助触媒と、固体電解質と、金属ニッケル粒子と、を含有する。
【0035】
固体電解質としては、特に限定されないが、イットリア安定ジルコニア(YSZ)、セリアならびにSm、YおよびGdの少なくとも一の元素を10~20mol%固溶させたセリアからなる群から選択された少なくとも1種が好適に用いられる。これらのなかでも、イットリア安定ジルコニア(YSZ)が好ましく、8モル%イットリア安定化ジルコニア(8YSZ)が特に好ましい。
【0036】
金属ニッケル粒子としては、たとえば、酸化ニッケル(NiOx、ここで1≦x≦4)からなる粒子が好適に用いられる。
【0037】
本発明の固体酸化物形燃料電池用アノードは、固体電解質および金属ニッケル粒子を含む従来のアノードに、アノード反応助触媒として、上記した本発明の一般式(1)で表されるアノード反応助触媒を添加してなるものである。本発明の固体酸化物形燃料電池用アノードは、たとえば、固体電解質の粉末、金属ニッケル粒子、および一般式(1)で表されるアノード反応助触媒を混合し、固体電解質焼結体の上に塗布して、その後、1200℃~1300℃程度の温度で焼き付ける処理を行うことにより作製することができる。これにより、本発明の固体酸化物形燃料電池用アノードは、固体電解質焼結体上に焼成体として形成される。
【0038】
また、この際においては、ニッケル酸化物として存在するニッケル成分を、金属ニッケル粒子に変化させるために、たとえば、水素雰囲気中で800℃程度に加熱してもよい。この水素還元処理過程で、ニッケル酸化物は金属ニッケルに変化し、またこの際にアノード層内に空孔が形成される。これと同時に、一般式(1)で表されるアノード反応助触媒が、還元雰囲気中で固体電解質表面を含むアノード層内に拡散して行き、活性なサイトを形成すると考えられる。そして、これにより、固体電解質と金属ニッケル粒子との粒界界面領域に、一般式(1)で表されるアノード反応助触媒が存在することとなり、アノード層内の、アノード反応触媒の表面上において活性な酸素の拡散が促進されることとなり、これにより、より優れた発電性能を実現できるものとなる。
【0039】
<固体酸化物形燃料電池>
本発明の固体酸化物形燃料電池は、上記本発明の固体酸化物形燃料電池用アノードを備えるものである。
【0040】
本発明の固体酸化物形燃料電池は、たとえば、上記本発明の固体酸化物形燃料電池用アノードと、カソードと、これらの間に配置される固体電解質層とからなるものとすることができる。
【0041】
カソードは、たとえば、ランタン含有ペロブスカイト型複合酸化物を主成分として含有してもよい。ランタン含有ペロブスカイト型複合酸化物としては、LSCF(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)、ランタンマンガナイト、ランタンコバルタイト、ランタンフェライトが挙げられる。また、ランタン含有ペロブスカイト型複合酸化物には、ストロンチウム、カルシウム、クロム、コバルト、鉄、ニッケル、アルミニウムなどがドープされていてもよい。
【0042】
固体電解質層は、酸化ジルコニア(ZrO2)を含むものが挙げられ、酸化ジルコニアの他に、Y2O3および/またはSc2O3等の安定化剤を含んでいてもよい。安定化剤の酸化ジルコニアに対するmol組成比(安定化剤:酸化ジルコニア)は、3:97~20:80程度であればよい。
【実施例0043】
以下に、実施例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0044】
<実施例1>
(La0.1Sr0.9Co0.9Fe0.1O3-δの調製)
La化合物としてのLa2O3 0.817g、Sr化合物としてのSrCO3 6.664g、Co化合物としてのCo3O4 3.623g、Fe化合物としてのFe2O3 0.400gをそれぞれ秤量し、エタノール20g中に入れて攪拌し、スラリー化した後、スラリーを直径1cmのジルコニアボールを粉砕メディアとして使用し、ボールミルを用いて、回転数2500rpmで24時間、分散、粉砕、混合することで、粉砕スラリーとした。次いで、上記のようにして調製した粉砕スラリー中のボールを、篩いを用いて除去し、上記スラリーを温度80℃に設定した乾燥機にて乾燥した後、サンプルミルで解砕し、原料混合物を粉末として得た。
【0045】
次いで、このようにして得られた原料混合物粉末をアルミナ製坩堝に充填し、この坩堝を電気炉に置き、大気雰囲気中、1100~1250℃で5~25時間保持して焼成を行った。そして、このようにして得られた焼成物を、サンプルミルで解砕することにより、La0.1Sr0.9Co0.9Fe0.1O3-δの粉末を得た。
【0046】
(X線回折測定)
得られたLa
0.1Sr
0.9Co
0.9Fe
0.1O
3-δの粉末について、X線回折装置(製品名「MiniFlexII」、Rigaku社製)を用いて、線源をCuKαとして、X線回折測定を行った。結果を
図1に示す。
【0047】
(TG-DTA測定)
また、得られたLa
0.1Sr
0.9Co
0.9Fe
0.1O
3-δの粉末について、示差熱・熱重量同時測定装置(製品名「Thermo plus Evo2」、Rigaku社製)を用いて、TG-DTA測定を下記の条件にて行った。結果を
図6に示す。
昇温速度:10℃/分
降温速度:10℃/分
測定範囲:25~1000℃
測定雰囲気:N
2流通下(N
2流量:500ml/分)
酸素分圧:log(PO
2)=10
-15.5atm
【0048】
(固体酸化物形燃料電池単セルの製造)
まず、上記にて得られたLa0.1Sr0.9Co0.9Fe0.1O3-δの粉末0.016gと、酸化ニッケル(NiO)粉末3.2gと、8mol%イットリアを固溶させたジルコニア(8YSZ)粉末0.8gとを、溶媒としてのテルピネオール0.571gに分散させることで、アノードスラリーを調製した。
次いで、8mol%イットリアを固溶させたジルコニア(8YSZ)焼結体のペレット(厚み:500μm、直径13mm)の片面に、上記にて調製したアノードスラリーをスクリーン印刷法により塗布して、乾燥させた。その後、1300℃で1時間空気中において焼き付け処理を行い、室温までゆっくり冷却した。次に、もう一方の面に、カソード((La0.80Sr0.20)0.95MnO3-x:製品名「LSM20-I」、Fuel cell materials社製)スラリーを塗布、乾燥した後、1100℃の温度で、1時間空気中において、焼き付け処理を行った。焼き付け処理後、800℃の温度において4%水素(ヘリウム希釈)ガスを用いてアノード層内のNiOの還元を行った。NiOがNiに還元される際にアノード層内に大きな空隙が発生することにより、アノード層が多孔体となった固体酸化物形燃料電池単セルを製造した。
【0049】
(電流密度―セル電圧における電極特性)
上記にて作製した固体酸化物形燃料電池単セルを固体酸化物形燃料電池として動作させて、その電流密度とセル電圧との関係を測定した。アノードガスとして純水素(室温、水飽和)を80sccmの流量で供給し、カソードガスとしては純酸素を80sccmの流量で供給した(実際には、発電装置内で先ず800℃で上記還元処理を行った後、供給するガスを切替えて、発電・測定を行った)。また、この発電試験の際の固体酸化物形燃料電池単セルの動作温度は、700℃とした。測定データを得るに当たって、一点の測定のために10分程度の保持時間をとり、測定数値が安定するのを待って当該測定点の測定値とした。これにより電流密度―セル電圧(IR-free)(燃料電池の内部抵抗による電圧降下の影響を補償した正味のセル電圧)特性(動作温度700℃)を求めた。
【0050】
IR-freeの求め方は当業者に周知な事項であるが、本実施例では、電流遮断法により測定した。電流遮断法においては、固体酸化物形燃料電池単セルからの出力電流を、所定電流iを流している状態から、電流0までできるだけ急峻に変化させる。なお、このような動作は、固体酸化物形燃料電池単セルからの電流取り出しを行っている回路に、オシロスコープをいれ、この急峻な電流変化を設定し、これによる電圧変化波形を観測することで実現することができる。IR-freeの測定とは所与の電流Iを出力させているときの燃料電池のセル電圧Vに対して、燃料電池系の内部抵抗Rによるオーミックな電圧降下IRを補償した、燃料電池の正味のセル電圧Voを求めるものである。固体酸化物形燃料電池単セルの出力電流を突然遮断した場合、内部抵抗0の電流源と内部抵抗Rとの直列回路と言う単純なモデルではセル電圧がオーミックな電圧降下分直ちに上昇するが、実際の燃料電池では各種の遅れ要素を系内に含むため、そのセル電圧は切断直後の立ち上がりが垂直ではなく、また立ち上がり領域から定常領域へ移行した後も僅かに変化する。そこで、電流遮断によってセル電圧が変化し始めた時点から垂直方向に延長した垂線と定常状態に移行した直後のセル電圧変化の延長線との交点位置のセル電圧座標の読みをオーミック(IR)電圧降下Voとする。これにより、IR-freeは、「IR-free=V+Vo」として求まる。
測定結果を
図8に示す。
【0051】
<比較例1>
(La0.1Sr0.9Co0.6Fe0.4O3-δの調製)
Co化合物としてのCo3O4の量を2.426g、Fe化合物としてのFe2O3の量を1.604gに変更した以外は、実施例1と同様にして、La0.1Sr0.9Co0.6Fe0.4O3-δの粉末を得た。
【0052】
(各種測定等)
そして、得られたLa
0.1Sr
0.9Co
0.6Fe
0.4O
3-δの粉末を用いて、実施例1と同様にして、X線回折測定およびTG-DTA測定を行った。結果を
図2、
図6に示す。
また、得られたLa
0.1Sr
0.9Co
0.6Fe
0.4O
3-δの粉末を用いた以外は、実施例1と同様にして、固体酸化物形燃料電池単セルを製造し、同様にして、電流密度―セル電圧特性の測定を行った。結果を
図8に示す。
【0053】
<比較例2>
(LaCoO3-δの調製)
La化合物としてのLa2O3の使用量を6.625gとし、Co化合物としてのCo3O4の使用量を3.264gとし、Sr化合物としてのSrCO3およびFe化合物としてのFe2O3を使用しなかった以外は、実施例1と同様にして、LaCoO3-δの粉末を得た。
【0054】
(各種測定等)
そして、得られたLaCoO
3-δの粉末を用いて、実施例1と同様にして、X線回折測定およびTG-DTA測定を行った。結果を
図3、
図6に示す。
また、得られたLaCoO
3-δの粉末を用いた以外は、実施例1と同様にして、固体酸化物形燃料電池単セルを製造し、同様にして、電流密度―セル電圧特性の測定を行った。結果を
図8に示す。
【0055】
<実施例2>
(La0.6Sr0.4Co0.8Fe0.2O3-δの調製(800℃焼成))
La化合物としてのLa2O3を4.3495g、Sr化合物としてのSrCO3を2.6276g、Co化合物としてのCo3O4の量を2.8576g、Fe化合物としてのFe2O3の量を0.7104gに変更した以外は、実施例1と同様にして、原料混合物を粉末として得た。
次いで、得られた原料混合物粉末を用いて、800℃で5時間保持して焼成を行った以外は、実施例1と同様にして、La0.6Sr0.4Co0.8Fe0.2O3-δの粉末(800℃焼成)を得た。
【0056】
(各種測定等)
そして、得られたLa
0.6Sr
0.4Co
0.8Fe
0.2O
3-δの粉末(800℃焼成)を用いて、実施例1と同様にして、X線回折測定およびTG-DTA測定を行った。結果を
図4、
図7に示す。
また、得られたLa
0.6Sr
0.4Co
0.8Fe
0.2O
3-δの粉末(800℃焼成)を用いた以外は、実施例1と同様にして、固体酸化物形燃料電池単セルを製造し、同様にして、電流密度―セル電圧特性の測定を行った。結果を
図8に示す。
【0057】
<実施例3>
(La0.6Sr0.4Co0.8Fe0.2O3-δの調製(1300℃焼成))
実施例2で得られたLa0.6Sr0.4Co0.8Fe0.2O3-δの800℃焼成後の粉末を用いて、さらに、1300℃で1時間保持して焼成を行った以外は、実施例1と同様にして、La0.6Sr0.4Co0.8Fe0.2O3-δの粉末(1300℃焼成)を得た。
【0058】
(各種測定等)
そして、得られたLa
0.6Sr
0.4Co
0.8Fe
0.2O
3-δの粉末(1300℃焼成)を用いて、実施例1と同様にして、X線回折測定およびTG-DTA測定を行った。結果を
図5、
図7に示す。
また、得られたLa
0.6Sr
0.4Co
0.8Fe
0.2O
3-δの粉末(1300℃焼成)を用いた以外は、実施例1と同様にして、固体酸化物形燃料電池単セルを製造し、同様にして、電流密度―セル電圧特性の測定を行った。結果を
図8に示す。
【0059】
図8からも明らかなように、一般式(1):M
a
1-pSr
pM
b
1-qCo
qO
3-δ(M
aは、La、Sm、およびGdから選ばれる少なくとも1種の元素、M
bは、Fe、Mn、およびNiから選ばれる少なくとも1種の元素、pは0.3~0.95、qは0.7~0.95、δは酸素欠損量である。)で表されるアノード反応助触媒によれば、優れた酸素吸蔵・放出機能を実現でき、実施例1では、動作温度700℃における、IR-freeが0.8Vにおける電流密度が100mAcm
-2と大きな値を示すものであり、発電性能に優れるものであった。実施例1のように、La
0.1Sr
0.9Co
0.9Fe
0.1O
3-δの粉末を用いた場合、700℃付近で酸素を放出することで、ペロブスカイト型構造からブラウンミラーライト型構造に結晶構造相転移を起こし、また、700℃付近で酸素を吸蔵することで、ブラウンミラーライト型構造からペロブスカイト型構造に結晶構造相転移を起こすものであり、これにより、700℃付近で良好に酸素の吸蔵・放出を行うことができるものである。さらに、実施例1で用いたLa
0.1Sr
0.9Co
0.9Fe
0.1O
3-δは、酸素の吸蔵放出の絶対量が多いものであり、より高温条件において良好な発電性能が期待される。また、La
0.6Sr
0.4Co
0.8Fe
0.2O
3-δの粉末を用いた実施例2,3においても、動作温度700℃における、IR-freeが0.8Vにおける電流密度が140mAcm
-2と大きな値を示すものであり、発電性能に優れるものであった。
【0060】
一方、La0.1Sr0.9Co0.6Fe0.4O3-δの粉末を用いた比較例1、および、LaCoO3-δの粉末を用いた比較例2は、動作温度700℃における、IR-freeが0.8Vにおける電流密度が、それぞれ35mAcm-2、20mAcm-2と小さな値となり、発電性能が不十分であった。なお、いずれのアノード反応助触媒をも添加しなかった場合には、動作温度700℃における、IR-freeが0.8Vにおける電流密度は、25mAcm-2であった。