(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077599
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】歯科補綴物を製造する方法
(51)【国際特許分類】
A61C 13/007 20060101AFI20240531BHJP
【FI】
A61C13/007
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023183728
(22)【出願日】2023-10-26
(31)【優先権主張番号】22209984.8
(32)【優先日】2022-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】596032878
【氏名又は名称】イボクラール ビバデント アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100064012
【弁理士】
【氏名又は名称】浜田 治雄
(72)【発明者】
【氏名】アティリム,エーザー
(72)【発明者】
【氏名】ヘンドリック,ジョン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】装着感を向上させるとともに、歯科補綴物の装着時の苦痛および不快感を低減する歯科補綴物を提供する。
【解決手段】この発明は、歯科補綴物100の三次元データセットおよび口腔粘膜105の三次元データセットに基づいて歯科補綴物100による口腔粘膜への圧力分布101を計算するステップと;計算された圧力分布に基づいて歯科補綴物内部の弾力性製造材料109のための空間領域107を判定するステップを有してなる歯科補綴物を製造する方法に関する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科補綴物(100)の三次元データセット(103-DS)および口腔粘膜(105)の三次元データセット(103-MS)に基づいて歯科補綴物(100)による口腔粘膜(105)への圧力分布(101)を計算するステップ(S101)と;
計算された圧力分布(101)に基づいて歯科補綴物(100)内部の弾力性製造材料(109)のための空間領域(107)を判定するステップ(S102)を有してなる
歯科補綴物(100)を製造する方法。
【請求項2】
空間領域(107)に対応する製造材料が圧力分布(101)に基づいて判定される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
有限要素法を使用して圧力分布(101)が計算される請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
歯科補綴物(100)に対する所与の応力が存在している場合の圧力分布(101)が計算される請求項1ないし3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
所与の応力をバイトブロックセンサによって検出する請求項4に記載の方法。
【請求項6】
口腔粘膜(105)に対する圧力分布(101)から歯科補綴物(100)に対する圧力分布(111)が計算される請求項1ないし5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
空間領域(107)の厚みが歯科補綴物(100)に対する圧力分布(111)に比例する請求項6に記載の方法。
【請求項8】
空間領域(107)内部の製造材料(109)が空間領域(107)外部の製造材料(113)に比べて低い弾性係数を有する請求項1ないし7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
歯科補綴物(100)の製造が三次元印刷方法を使用して実行される請求項1ないし8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
三次元印刷方法がフリージェット式材料塗付を使用する請求項9に記載の方法。
【請求項11】
歯科補綴物(100)の三次元データセット(103-DS)および口腔粘膜(105)の三次元データセット(103-MS)に基づいて歯科補綴物(100)による口腔粘膜(105)への圧力分布(101)を計算する演算装置(201)と;
計算された圧力分布(101)に基づいて歯科補綴物(100)内部の弾力性製造材料(109)のための空間領域(107)を判定する判定装置(203)を有してなる
歯科補綴物(100)を製造するための製造装置(200)。
【請求項12】
有限要素法を使用して圧力分布(101)を計算するように演算装置(201)が構成される請求項11に記載の製造装置(200)。
【請求項13】
空間領域(107)の厚みを歯科補綴物(100)に対する圧力分布(111)に比例して判定するように判定装置(203)が構成される請求項11または12に記載の製造装置(200)。
【請求項14】
空間領域(107)外部に比べて低い弾性係数を有する製造材料(109)を空間領域(107)内部に適用するように製造装置(200)が構成される請求項11ないし13のいずれかに記載の製造装置(200)。
【請求項15】
製造装置(200)が三次元プリンタを含んでなる請求項11ないし14のいずれかに記載の製造装置(200)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、歯科補綴物を製造する方法ならびに歯科補綴物を製造するための製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現行の義歯の製造は労働集約的な処理である。特に、最良の装着感を達成するための義歯の幾何学形状の最適化がしばしば数多くの診療を必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、歯科補綴物の装着感を向上させるとともに、歯科補綴物の装着時の苦痛および不快感を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記の課題は、独立請求項の対象によって解決される。技術的に好適な実施形態が、従属請求項、発明の詳細な説明、および添付図面の対象である。
【0005】
第1の態様によれば、歯科補綴物の三次元データセットおよび口腔粘膜の三次元データセットに基づいて歯科補綴物による口腔粘膜への圧力分布を計算するステップと;計算された圧力分布に基づいて歯科補綴物内部の弾力性製造材料のための空間領域を判定するステップを有してなる、歯科補綴物を製造する方法によって技術的な課題が解決される。前記の空間領域は歯科補綴物の副容積を形成する。この方法によれば、歯科補綴物の装着感が改善されるという技術的な利点が達成される。加えて、長期的な歯科補綴物の歯槽堤吸収を防止することができる。
【0006】
この方法の技術的に好適な実施形態によれば、空間領域に対応する製造材料が圧力分布に基づいて判定される。製造材料は、複数の製造材料の中から選択することができる。それによって例えば、空間領域の延伸のみでなく、製造材料も圧力分布に基づいて決定し得るという技術的な利点が達成される。それによって、歯科補綴物の装着感をさらに改善することができる。
【0007】
この方法の技術的に好適な別の実施形態によれば、有限要素法を使用して圧力分布が計算される。それによって例えば、高速な方式でかつ高い精度をもって圧力分布を計算し得るという技術的な利点が達成される。
【0008】
この方法の技術的に好適な別の実施形態によれば、歯科補綴物に対する所与の応力が存在している場合の圧力分布が計算される。それによって例えば、圧力分布の計算に際して、ならびに空間領域の設計に際して発生した応力を考慮し得るという技術的な利点が達成される。
【0009】
この方法の技術的に好適な別の実施形態によれば、所与の応力をバイトブロックセンサによって検出する。それによって例えば、圧力分布の計算に際して実際の応力と係合点が使用されるという技術的な利点が達成される。
【0010】
この方法の技術的に好適な別の実施形態によれば、口腔粘膜に対する圧力分布から歯科補綴物に対する圧力分布が計算される。それによって例えば、歯科補綴物内部で空間領域を精密に適合させ得るという技術的な利点が達成される。
【0011】
この方法の技術的に好適な別の実施形態によれば、空間領域の厚みが歯科補綴物に対する圧力分布に比例する。それによって例えば、簡便な方式で空間領域を計算し得るという技術的な利点が達成される。
【0012】
この方法の技術的に好適な別の実施形態によれば、空間領域内部の製造材料が空間領域外部の製造材料に比べて低い弾性係数を有する。それによって例えば、歯科補綴物の装着感を向上させ得るという技術的な利点が達成される。
【0013】
この方法の技術的に好適な別の実施形態によれば、歯科補綴物の製造が三次元印刷方法を使用して実行される。それによって例えば、簡便な方式で歯科補綴物を製造し得るという技術的な利点が達成される。
【0014】
この方法の技術的に好適な別の実施形態によれば、三次元印刷方法がフリージェット式材料塗付を使用する。それによって例えば、歯科補綴物の製造がさらに改善されるという技術的な利点が達成される。
【0015】
第2の態様によれば、歯科補綴物の三次元データセットおよび口腔粘膜の三次元データセットに基づいて歯科補綴物による口腔粘膜への圧力分布を計算する演算装置と;計算された圧力分布に基づいて歯科補綴物内部の弾力性製造材料のための空間領域を判定する判定装置を有してなる、歯科補綴物を製造するための製造装置によって技術的な課題が解決される。
【0016】
この製造装置の技術的に好適な実施形態によれば、有限要素法を使用して圧力分布を計算するように演算装置が構成される。それによって例えば、高速かつ高精度に圧力分布を計算し得るという技術的な利点が達成される。
【0017】
この製造装置の技術的に好適な別の実施形態によれば、空間領域の厚みを歯科補綴物に対する圧力分布に比例して判定するように判定装置が構成される。
【0018】
この製造装置の技術的に好適な別の実施形態によれば、空間領域外部に比べて低い弾性係数を有する製造材料を空間領域内部に適用するように製造装置が構成される。
【0019】
この製造装置の技術的に好適な別の実施形態によれば、製造装置が三次元プリンタを含む。それによって例えば、歯科補綴物を簡便な方式で製造し得るという技術的な利点が達成される。
【0020】
次に、本発明の実施例につき、添付図面を参照しながら、以下詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2】口腔粘膜に対する圧力分布を示した説明図である。
【
図3】歯科補綴物と口腔粘膜を介した断面図である。
【
図4】歯科補綴物と口腔粘膜を介した別の断面図である。
【
図5】歯科補綴物を製造するための製造装置を示した概略説明図である。
【
図6】歯科補綴物を製造する方法を示したブロック線図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、口腔内の歯科補綴物を示した立体図である。歯科補綴物100は、少なくとも部分的に口腔粘膜105上に設置され口腔粘膜と接触する、例えば部分義歯あるいは総義歯である。歯科補綴物100の形状は、三次元データセット103-DRで定義される。そのデータセットは、追加的に色データならびに使用される歯科補綴物100の製造材料に関するデータを含むことができる。患者の口腔粘膜105の形状も、三次元データセット103-MS内に記憶される。装着に際して歯科補綴物に多様な応力Fが作用し、例えば食物の咀嚼に際しての応力である。
【0023】
図2には、歯科補綴物100による口腔粘膜105への圧力分布が示されている。圧力分布101は、歯科補綴物100の三次元データセット103-DRと口腔粘膜105の三次元データセット103-MSから計算される。その目的のため、歯科補綴物100の口腔粘膜105に対する接触の圧力分布101をシミュレートするための有限要素法(FEM)を実行することができる。計算において、口腔粘膜および義歯の両方の機械的な材料特性が考慮される。口腔粘膜の機械的な特性を描写するために非線形の材料モデルが使用される。他方、義歯材料の材料特性を線形弾性であると推定することができる。さらに、義歯と口腔粘膜の間の接触点に対して幾何学的な非線形性を考慮する必要がある。各材料の機械的な特性を完全に描写することによって、FEMに基づいた接触アルゴリズムの支援を用いて圧力分布を計算することができる。口腔粘膜105上には、歯科補綴物100が口腔粘膜105に対して低い圧力を作用させる領域と、歯科補綴物100が口腔粘膜105に対して高い圧力を作用させる領域とが存在する。
【0024】
圧力分布101のシミュレーションに際して、咀嚼プロセス中の歯科補綴物100の咬合面を考慮することができる。従って、口腔粘膜105上の歯科補綴物100の接触圧の圧力分布101を取得するために、場所および食物の種類に応じて異なった咀嚼プロセスをシミュレートすることができる。歯科補綴物100を最適化するために、最も不都合な応力(ワーストケースシナリオ)が発生する場合を選択することができる。そのことは、口腔粘膜105に対する最大のピーク接触圧につながる。
【0025】
シミュレートされた局部的なピーク接触圧を歯科補綴物100の弾力性の製造材料109によって最小化することができ、その製造材料109は歯科補綴物100の他の製造材料113より低い弾性係数を有する。このシミュレーションによって、ピーク接触圧を圧力苦痛限界以下に抑えるために、低い弾性係数を有する製造材料109の厚みを最適化することができる。製造材料109のショア硬度(スケールA)は、例えば35ないし60となる(ISO7619-1)。引張強度は例えば5.5ないし8.5N/mm2(ISO37タイプ4)となる。
【0026】
空間領域107のための弾力性の製造材料109は、例えばシリコン等のエラストマである。歯科補綴物100の製造材料113は、例えば非充填あるいは充填メチルメタクリレート(MMA)であり、一般的に41.63±2.03ないし34.62±2.1の範囲の硬度(ビッカース硬度)を有する。曲げ強度(MPa)は、例えば86.63±1.0ないし69.15±0.88である。衝撃強度(KJ/m2)は、例えば6.32±0.50ないし2.44±0.31である。
【0027】
空間領域107のための製造材料109は、歯科補綴物100の製造材料113に比べてより柔軟あるいは弾力的である。
【0028】
図3には、歯科補綴物100と口腔粘膜105を介した断面が示されている。歯科補綴物100上に所与の応力が定義された後、歯科補綴物100のピーク接触圧を患者の圧力苦痛限界以下に抑制する最適化アルゴリズムを使用することができる。その場合に、歯科補綴物100の三次元データセット103-DRが口腔粘膜105の三次元データセット103-MSと組み合わせて使用される。まず、所与の応力下で口腔粘膜105上の圧力分布101が計算される。
【0029】
その場合に、可能な限り均等な圧力分布P(x,y,z)が口腔粘膜105上に作用するような方式で、弾力性の製造材料109の空間領域107の厚みt(x,y,z)が最適化される。最初に一体型あるいは均質な材料分布が歯科補綴物100の基礎中に存在することを前提として、弾力性の製造材料109の三次元の分布がシミュレートされた圧力分布P(x,y,z)によって口腔粘膜105上に誘導される。その処理を、例えば圧力分布101のピーク接触圧が所与の値未満になるまで、複数回反復して実行することができる。
【0030】
アルゴリズムは、この方法を実行するためのプログラムが記憶されたコンピュータ上で実行することができる。従って、そのコンピュータは、アルゴリズムを実行する命令を処理可能なプロセッサと、口腔粘膜105と歯科補綴物100の三次元データセット103が記憶されたデジタルメモリを含む。
【0031】
図4には、歯科補綴物100と口腔粘膜105を介した別の断面が示されている。表面の圧力分布101は面積単位ごとに力ベクトルによって定義され、その場合に力ベクトルは頂点を起点にし、理想的な場合において面あるいは頂点上に垂直に突立する。義歯基台の基底面上における弾力性の製造材料109の局部的な厚みは、各力ベクトルに一定の変換係数を適用することによって計算される。
【0032】
この方式により、新規に計算されるベクトルの終端ごとに新規の頂点を定義することによって新規の内面が生成される。それによって空間領域109を計算することができ、それの局部的な厚みが歯科補綴物100の圧力分布111に依存する。外側の基底表面上で力ベクトルが頂点上に突立し、その外側の基底表面と共に、新規に生成された内面が歯科補綴物の副空間を形成する。副空間の空間領域107内に弾力性の製造材料109が配置される。空間領域107の形状および位置は、歯科補綴物100の三次元データセット103-DR内に統合することができる。
【0033】
元々の基本容積と新たに生成された歯科補綴物100の弾力性の製造材料109のための空間領域109との交差あるいは重複を防止するためにブール演算を使用し、それによって元々の歯科補綴物100の容積から新規に生成された空間領域を減じる。プリントCAMソフトウェア内で、弾性係数に応じて材料の種類が分割された各空間領域に割り当てられる。
【0034】
一般的に、その他の方式で弾力性の製造材料109のための空間領域の計算を実行することもできる。例えば、圧力分布101の数値が所与の数値を超えると同時に、所与の厚みを有する空間領域107も存在することができる。
【0035】
図6には、歯科補綴物100を製造する方法のブロック線図が示されている。ステップS101において、歯科補綴物100の三次元データセット103-DSおよび口腔粘膜105の三次元データセット103-MSに基づいて歯科補綴物100による口腔粘膜105への圧力分布101を計算する。続いてステップS102において、計算された圧力分布101に基づいて歯科補綴物100内部の弾力性製造材料109のための空間領域107を判定する。その後、弾力性の製造材料109を有する歯科補綴物100を製造する。
【0036】
三次元モデル中で多様な製造材料109を多様な位置に配置するために、多様な材料の選択的な材料塗付が可能になる付加製造方法(押し出し、フリージェット方式、インクジェット)を好適に使用することができ、その場合前記多様な材料が異なった弾性係数を有する。
【0037】
硬質かつ高強度の歯科補綴物100の製造材料は、例えばメチルメタクリレート(MMA)とすることができ、弾力性の製造材料109は光硬化性の医療用シリコンとし得る。システム内に硬質および軟質の製造材料を有することにより、両方の製造材料を特定の比率で合成することによって中間的な弾性係数を達成することもできる。
【0038】
この方法によって、患者の個別の解剖学要件を考慮しながら歯科補綴物装着感を改善することができる。歯科補綴物100上の不均一な圧力分布による苦痛あるいは不快感を最小化することができる。長期的な歯槽堤吸収を防止することができる。加えて、口腔粘膜と接触する弾力性の材料によってより良好な長期装着感を達成することができ、それが口腔粘膜の解剖学的な成長を有効に許容する。
【0039】
本発明の個々の実施形態に関連して説明および図示した全ての特徴を、多様な組み合わせで本発明の対象とすることができ、それによって同時に有効な利点が達成される。
【0040】
全ての方法ステップは、各方法ステップを実行するために適した装置を使用して実行することができる。対象である特徴によって実行される全ての機能は、この方法における方法ステップとすることができる。
【0041】
本発明の保護範囲は添付の特許請求の範囲によって定義され、説明中に記述されたあるいは図示された特徴によって限定されるものではない。
【符号の説明】
【0042】
100 歯科補綴物
101 圧力分布
103 データセット
105 口腔粘膜
107 空間領域
109 製造材料
111 圧力分布
113 製造材料
【外国語明細書】