(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077606
(43)【公開日】2024-06-07
(54)【発明の名称】正孔輸送性組成物、透明電極、光起電力素子
(51)【国際特許分類】
H10K 30/50 20230101AFI20240531BHJP
H10K 50/805 20230101ALI20240531BHJP
H10K 50/828 20230101ALI20240531BHJP
H10K 59/00 20230101ALI20240531BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20240531BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20240531BHJP
H10K 30/82 20230101ALI20240531BHJP
H10K 30/86 20230101ALI20240531BHJP
H10K 102/10 20230101ALN20240531BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K50/805
H10K50/828
H10K59/00
H10K50/10
H10K85/60
H10K30/82
H10K30/86
H10K102:10
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023193409
(22)【出願日】2023-11-14
(31)【優先権主張番号】P 2022188880
(32)【優先日】2022-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2021年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、NEDO先導研究プログラム「高効率シースルー有機薄膜太陽電池を用いた革新的発電窓の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】竹本 明寿也
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 伸博
【テーマコード(参考)】
3K107
5F251
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107AA03
3K107AA05
3K107BB01
3K107CC03
3K107DD22
3K107DD27
3K107DD42X
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3K107FF06
5F251AA11
5F251BA03
5F251CB13
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5F251FA04
5F251FA07
5F251GA03
5F251XA01
5F251XA55
5F251XA56
(57)【要約】
【課題】正孔輸送性に優れた導電膜が形成できる正孔輸送性組成物および、それを用いた透明電極と光起電力素子を提供すること。
【解決手段】少なくとも下記一般式(1)の有機化合物と導電性もしくは半導体性の材料を含有する正孔輸送性組成物。
【化1】
(環Aは、窒素原子を含む五員以上の複素環である。環B、Cは、ベンゼン環、あるいは、少なくとも1つのベンゼン環部分を有する縮合環である。R
1は、アルキレン基またはオキシアルキレン基である。E
1は、親水性官能基である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記一般式(1)の有機化合物と、導電性もしくは半導体性の材料を含有する正孔輸送性組成物。
【化1】
(環Aは、窒素原子を含む五員以上の複素環である。環B、Cは、ベンゼン環、あるいは、少なくとも1つのベンゼン環部分を有する縮合環である。R
1は、アルキレン基、オキシアルキレン基、あるいは、アルキレンジオキシ基である。E
1は、親水性官能基である。)
【請求項2】
前記一般式(1)の有機化合物が下記一般式(2)である請求項1に記載の正孔輸送性組成物。
【化2】
(環B、Cは、ベンゼン環、あるいは、少なくとも1つのベンゼン環部分を有する縮合環である。R
2は、アルキレン基、オキシアルキレン基、あるいは、アルキレンジオキシ基である。E
2は、親水性官能基である。)
【請求項3】
前記一般式(1)の有機化合物が下記一般式(3)である請求項1に記載の正孔輸送性組成物。
【化3】
(環Aは、窒素原子を含む五員以上の複素環である。X
1、X
2はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、もしくは、アリール基である。R
3は、アルキレン基、オキシアルキレン基、あるいは、アルキレンジオキシ基である。E
3は、親水性官能基である。)
【請求項4】
前記一般式(1)の有機化合物が下記一般式(4)である請求項1に記載の正孔輸送性組成物。
【化4】
(X
3、X
4はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、もしくは、アリール基である。R
4は、アルキレン基、オキシアルキレン基、あるいは、アルキレンジオキシ基である。E
4は、親水性官能基である。)
【請求項5】
前記導電性もしくは半導体性の材料が導電性高分子である請求項1に記載の正孔輸送性組成物。
【請求項6】
前記導電性もしくは半導体性の材料が、ポリスチレンスルフォネートが添加されたポリエチレンジオキシチオフェンを含む、請求項1に記載の正孔輸送性組成物。
【請求項7】
請求項1~6いずれかに記載の正孔輸送性組成物から形成される透明電極。
【請求項8】
請求項1~6いずれかに記載の正孔輸送性組成物から形成される層を含む光起電力素子。
【請求項9】
陰極と陽極が400nm以上700nm以下の波長領域において透過率が60%以上の透明電極から形成される請求項8に記載の光起電力素子。
【請求項10】
請求項1~6いずれかに記載の正孔輸送性組成物から形成される層を含む発光素子。
【請求項11】
請求項8に記載の光起電力素子を用いた表示装置。
【請求項12】
請求項8に記載の光起電力素子を用いたガラス建材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は正孔輸送性組成物、ならびに、それを用いた透明電極と光起電力素子に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、光起電力効果を利用して光エネルギーを電気エネルギーに変換する装置であり、人類のエネルギー供給の一翼を担うと期待されている。しかし、従来の太陽電池は、環境負荷の高い真空プロセスや高温プロセスを経て形成されており、一般家庭に大量普及するに至っていない。太陽電池によってエネルギーを安定供給するには、低環境負荷で太陽電池を大量製造することが重要となる。
塗布型の太陽電池は、その光電変換層が溶媒に可溶な材料から構成されているため、簡便な塗布型製造プロセスから形成可能であり、大量普及の可能性を秘めている。例えば、有機半導体を用いた有機太陽電池や、有機無機ペロブスカイト化合物を用いたペロブスカイト太陽電池などが挙げられる。この塗布型太陽電池の実用形状としては、基板上に陰極、光電変換層、陽極の順に形成される構造が、長期的に利用可能な構成として注目されている。この構造では、比較的反応性の高い陰極付近が、大気中の水や酸素から隔離されるため、高い環境耐久性が得られる。この実用化に向けては、塗布型構成部材の改良による高効率化が必要とされている。特に、塗布法により形成される正孔輸送層は、従来の真空蒸着プロセスなどによる金属酸化物系の正孔輸送層を用いた場合に比べ、低い発電効率を示す。この改善には、濡れ性や光電変換層とのエネルギー障壁が課題とされており、例えば、以下のような改善検討がこれまでになされている。
【0003】
特許文献1では、非イオン性の界面活性剤を導電性高分子溶媒に添加した正孔輸送層組成物が開示されている。この組成物は有機半導体光電変換層上で良好な濡れ性を示すため、正孔輸送層が再現よく光電変換層上に塗工することが可能となり、高耐久な有機太陽電池が実現されている。
【0004】
非特許文献1では、フッ素系の界面活性剤を導電性高分子溶媒に添加した正孔輸送層組成物が開示されている。この組成物では、光電変換層上への良好な濡れ性が実現されていると同時に、形成される正孔輸送層の仕事関数が深い。そのため、光電変換層とのエネルギー障壁が低減し、開放電圧のロスが低減する。これにより、高効率な有機太陽電池が実現されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ACS APPL.ENERGY MATER.5,3,3766-3772(2022)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1と非特許文献1の正孔輸送性組成物で用いられるような界面活性剤は、電気的に絶縁性であるアルキル鎖が主成分であるため、光電変換層と正孔輸送層の界面に大きな電気抵抗成分を生じうる。その結果、形成される有機太陽電池の直列抵抗成分が大きくなり、フィルファクターが低減し、発電効率が低くなる。この解決策として、界面活性剤の量を減らすことが考えられるが、正孔輸送層の濡れ性が低減する上に、仕事関数が変わるため、光電変換層との界面にエネルギー障壁や大きな抵抗成分が生じる。
上記の課題は、光電変換層の種類によらず正孔輸送層の組成に起因するため、有機太陽電池のみならず他の塗布型太陽電池や光電変換素子などにもあてはまりうる。そのため、以下では、有機半導体を用いた有機太陽電池や、有機無機ペロブスカイト化合物を用いたペロブスカイト太陽電池、有機色素を用いた色素増感型太陽電池などの、塗布型の光電変換層から光起電力を得る素子を総称して光起電力素子と呼称する。
上記の課題を鑑みて、本発明の目的は、開放電圧とフィルファクターの高い光起電力素子を提供できる正孔輸送性組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、少なくとも下記一般式(1)の有機化合物と、導電性もしくは半導体性の材料を含有する正孔輸送性組成物により、濡れ性が高く、開放電圧とフィルファクターの高い光起電力素子を提供できる。
【0009】
【0010】
上記一般式(1)中の環Aは、窒素原子を含む五員以上の複素環である。環B、Cは、ベンゼン環、あるいは、少なくとも1つのベンゼン環部分を有する縮合環である。R1は、アルキレン基、オキシアルキレン基、あるいは、アルキレンジオキシ基である。E1は、親水性官能基である。ベンゼン環、縮合環、アルキレン基、オキシアルキレン基、アルキレンジオキシ基は、置換されていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の正孔輸送性組成物によれば、光起電力素子の開放電圧とフィルファクターを向上させることができ、高い発電効率が得られる。さらに、本発明の正孔輸送性組成物を用いれば、各種電子素子の正孔輸送層と陽極を兼ねた透明電極を形成でき、この透明電極を用いることで、デザイン性に優れた半透明な光起電力素子を提供することもできる。
【0012】
くわえて、光電変換層上での濡れ性を向上させることも可能なため、簡便な塗布型製造プロセスによる光起電力素子の性能向上も可能となる。
【0013】
また、前記の正孔輸送性組成物は、光起電力素子や光電変換素子、発光素子、整流素子といった機能素子の陽極や正孔輸送材料、p型半導体材料、電子ブロック材料としても利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の光起電力素子の一態様を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、本発明の正孔輸送性組成物や透明電極、発光素子、光起電力素子、および、それらを用いた用途などについて説明する。
<正孔輸送性組成物>
本発明の正孔輸送性組成物について説明する。ここで、本発明における「正孔輸送性」とは、本組成物を用いて作製された単膜で評価される場合は、導電性や正孔移動度と同義である。一方で、光起電力素子などの機能性を有する電子素子に用いられる場合、「優れた正孔輸送性」とは、素子の機能性を奏するために、正孔輸送が滞りなく行われることを意味する。例えば、光起電力素子の場合は、光電変換層と正孔輸送層との間にエネルギー障壁なく正孔が取り出せること、すなわち、高い開放電圧と高いフィルファクター(低い直列抵抗成分)が得られていることを意味し、高い発電効率を得るのに適した特性を指す。光電変換素子の場合も同様である。また、整流素子や発光素子の場合は、素子の低い直列抵抗や高い正孔移動度が得られていることを意味し、高い整流効率や高い発光効率を得るのに適した特性を指す。以下では、光起電力素子を主に例として挙げるが、本発明における用途が限定されることを示すわけではない。
【0016】
本発明では、少なくとも下記一般式(1)の有機化合物(以下では、有機化合物(1)と称する)と、導電性もしくは半導体性の材料を含有する正孔輸送性組成物により、開放電圧とフィルファクターの高い光起電力素子を提供できる。
【0017】
【0018】
上記一般式(1)中の環Aは、窒素原子を含む五員以上の複素環である。環B、Cは、ベンゼン環、あるいは、少なくとも1つのベンゼン環部分を有する縮合環である。R1は、アルキレン基、オキシアルキレン基、あるいは、アルキレンジオキシ基である。E1は、親水性官能基である。かかるベンゼン環、縮合環、アルキレン基、オキシアルキレン基、アルキレンジオキシ基は、置換されていてもよい。
以下では、正孔輸送性組成物のそれぞれの構成材料の詳細について説明する。
〔一般式(1)~(4)の有機化合物〕
一般式(1)で示される有機化合物(以下では有機化合物(1)と称する)の役割を説明する。本発明の正孔輸送性組成物は、有機化合物(1)を含むことにより、形成される正孔輸送層と光電変換層との界面近傍に環A、B,Cに含まれるπ共役系が現れる。くわえて、この環Aの窒素原子と環B、Cとの間に生じる電気双極子が、光電変換層から正孔を取り出すのに有利な自発分極を生む。さらに、E1の親水性官能基を有することで、環境負荷の低い水系やアルコール系の溶媒に可溶となる。また、環A、B,CやR1といった親油基(疎水基)を有するため、機能性の層(光起電力素子の場合は光電変換層)上における濡れ性を向上させることもできる。これにより、導電性材料や半導体性材料のみで生じていたような、機能性の層とのエネルギー障壁や低い濡れ性などの改善が可能となる。これらの特長から、例えば光起電力素子では、直列抵抗成分が低減する効果や、光電変換層との間のエネルギーロスが低減する効果が得られ、光起電力素子のフィルファクターや開放電圧が向上し、高い発電効率が得られる。
以下では、有機化合物(1)の構成に関して説明する。
まず、有機化合物(1)のR1は、アルキレン基、オキシアルキレン基、あるいは、アルキレンジオキシ基であり、これらの構造を含むことで、溶媒への溶解性が向上する効果や有機機能層上への濡れ性が向上する効果が得られる。アルキレン基、オキシアルキレン基、アルキレンジオキシ基は、置換されていてもよく、置換または非置換のアルキレン基、置換または非置換のオキシアルキレン基、および、置換または非置換のアルキレンジオキシ基とは、(-(CR2)n-)、(-O(CR2)n-)、(-O(CR2)nO-)のような式でそれぞれ表される構造である。アルキレン基、オキシアルキレン基、およびアルキレンジオキシ基の主鎖の炭素の一部は、エーテル性酸素(O)、窒素(N)、および硫黄(S)から選ばれる少なくとも1つで置換されていてもよい。アルキレン基、オキシアルキレン基、およびアルキレンジオキシ基において、側鎖Rは、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、もしくはアリール基から選ばれ、それぞれ同じでも異なっていてもよい。側鎖Rにおけるアルキル基とアリール基に関しては、例えば炭素数が1~12程度の置換または非置換のアルキル基や炭素数が6~14程度のアリール基が挙げられる。
正孔輸送性組成物から成る層の電気的絶縁性を抑える観点から、nは1個以上12個以下が好ましく、より好ましくは、1個以上8個以下、さらに好ましくは、1個以上6個以下である。また、有機化合物(1)のパッキング性の向上やπ共役系の界面分極方向を秩序立ったものとする観点から、分岐していない直鎖の非置換のアルキレン基または非置換のオキシアルキレン基、非置換のジオキシアルキレン基が好ましく、より好ましくは直鎖の非置換のアルキレン基である。
有機化合物(1)は、親水性官能基のE1を含むことにより、π共役系が分散しにくい水やアルコール系を代表とする極性溶媒に可溶となる。親水性官能基E1の種類は、正孔輸送性組成物の溶かされる溶媒によって、適宜選択され、親水性を有する官能基であればよい。例えば、水やアルコール系などの極性溶媒と高い親和性を得る観点では、スルホン酸基やカルボキシ基、ホスホン酸基、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基が好ましい。より好ましくは、親水性の強いスルホン酸基やホスホン酸基である。
有機化合物(1)では、環Aが窒素を含む五員環以上の複素環であるため、窒素原子からπ共役系に電子が供与され、強い電気双極子を生じる。そのため、形成される正孔輸送層は光電変換層との界面で~5.0eV以上の深い仕事関数を示すことができる。これにより、正孔輸送層と光起電力素子の電子供与性材料(ペロブスカイト太陽電池の場合は、ペロブスカイト化合物そのもの)の価電子帯および最高被占軌道との間のエネルギー障壁を小さくすることができ、開放電圧が向上する。
また、環Aは、大気中で安定な環構造を得る目的から、五から七員の環構造が好ましい。さらに、π共役系の電気双極子を強める目的から、環Aの窒素原子の対向側に、酸素原子や硫黄原子、ハロゲン原子といった電気陰性度の大きい原子を置くこともより好ましい。さらに、より強い電気双極子を得る目的や大気安定な構造を得る目的から、環Aは、下記一般式(2)の有機化合物(以下では有機化合物(2)と称する)のように五員環であることがより好ましい。
【0019】
【0020】
上記一般式(2)中の環B、Cは、ベンゼン環、あるいは、少なくとも1つのベンゼン環部分を有する縮合環である。R2は、アルキレン基、オキシアルキレン基、あるいは、アルキレンジオキシ基である。かかるベンゼン環、縮合環、アルキレン基、オキシアルキレン基、アルキレンジオキシ基は置換されていてもよい。E2は、親水性官能基である。また、一般式(2)中のR2とE2は、一般式(1)中のR1、E1とそれぞれ同義であり、好ましい範囲も同様である。
一般式(1)および(2)の環B,Cにおいては、環B、C中の置換基を変更することで、有機化合物(1)および(2)のπ共役系で生じる電気双極子の強さを適宜調整できる。例えば、環B,Cがアルキル基やアルコキシ基で置換されていれば、共鳴効果によって電子が環B,Cに供給されるため、有機化合物(1)および(2)全体で生成される電気双極子を比較的小さくすることができる。また、置換される場合は、電気的絶縁性を抑える観点から、炭素数が12以下であるアルキル基およびアルコキシ基で置換されることが好ましく、より好ましくは3以下の炭素数である。
一方で、正孔輸送層において深い仕事関数を得る目的では、一般式(1)および(2)の環B,Cは水素原子やハロゲン原子を含むアルキル基やアルコキシ基で置換されることが好ましく、より好ましくはハロゲン原子のみで置換される場合である。さらに好ましくは、強い電気陰性度を示す臭素原子やフッ素原子で置換される場合である。さらに、一般式(1)および(2)の環B、Cは、同様の構造を有することで、電気双極子の向きが、窒素原子からちょうど環Bと環Cの間の中点を通る向きとなる。そのため、複数並んだ有機化合物(1)および(2)が電気双極子を打ち消しあうことなく並べることができ、狙いの効果が得られやすくなる。上記のような強い電気双極子を得る手法によって、可視域にバンドギャップを有するような光起電力素子(例えば、有機太陽電池)の正孔輸送性を高めるのに有効である。
さらに、環B、Cは、有機化合物(1)および(2)の溶媒への溶解性を高める観点から、それぞれ3つ以下の縮合環であることが好ましく、より好ましくは、2以下である。さらに好ましくは、環B,Cが1つの置換または非置換のベンゼン環である。
具体的には、有機化合物(1)または(2)が下記一般式(3)または後述の一般式(4)で表される構造であることが好ましい。
【0021】
【0022】
上記一般式(3)中の環Aは、窒素原子を含む五員以上の複素環である。X1、X2はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、もしくは、アリール基である。R3は、アルキレン基、オキシアルキレン基、あるいは、アルキレンジオキシ基である。アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アルキレン基、オキシアルキレン基は置換されていてもよい。E3は、親水性官能基である。また、一般式(3)中のR3とE3は、一般式(1)中のR1、E1それぞれ同義であり、好ましい範囲も同様である。
一般式(3)の有機化合物(以下では有機化合物(3)と称する)は、有機化合物(1)と同様に優れた正孔輸送性が得られる上に、有機化合物(1)および(2)の環B、Cに相当する箇所が置換または非置換のベンゼン環であることから、縮合環に比べて、電気双極子の生成効果が強くなる。くわえて、炭素数が比較的少ないため、溶媒への溶解性が向上する。そのため、より環境負荷の低い水系およびアルコール系を含む溶媒に可溶な構造も可能となる。
また、有機化合物(3)の場合では、電気双極子の強さが、X1とX2とベンゼン環の間の共鳴効果と誘起効果から適宜調整することが可能である。例えば、X1およびX2が非置換のアルキル基やアルコキシ基であれば、共鳴効果によって電子がベンゼン環に供給されるため、有機化合物(3)全体で生成される電気双極子を比較的小さくすることができる。また、置換される場合は、電気的絶縁性を抑える観点から、炭素数が12以下であるアルキル基およびアルコキシ基で置換されることが好ましく、より好ましくは3以下の炭素数である。
一方で、正孔輸送層において深い仕事関数を得る目的では、X1とX2は水素原子やハロゲン原子を含むアルキル基やアルコキシ基が好ましく、より好ましくはハロゲン原子のみである。さらに好ましくは、強い電気陰性度を示す臭素原子やフッ素原子である。さらに、X1とX2は、同様の構造とすることで、電気双極子の向きが、窒素原子からちょうどX1とX2の間の中点を通る向きとなる。そのため、複数並んだ有機化合物(3)が電気双極子を打ち消しあうことなく並べることができ、狙いの効果が得られやすくなる。上記のような強い電気双極子を得る手法によって、可視域にバンドギャップを有するような光起電力素子(例えば、有機太陽電池)の正孔輸送性を高めるのに有効である。また、X1とX2の位置は、双極子モーメントを強める目的と立体構造を安定させる目的から、それぞれ、ベンゼン環上の窒素原子の結合位置に対してパラ位に置換されることが好ましい。
さらに、有機化合物(3)においても、環Aは、大気中で安定な環構造を得る目的から、五から七員の環構造が好ましい。さらに、有機化合物(3)中のπ共役系の電気双極子を強める目的から、環Aの窒素原子の対向側に、酸素原子や硫黄原子、ハロゲン原子といった電気陰性度の大きい原子を置くこともより好ましい。さらに、より強い電気双極子を得る目的や大気安定な構造を得る目的から、環Aは、下記一般式(4)の有機化合物(以下では、有機化合物(4)と称する)のように五員環であることがより好ましい。
【0023】
【0024】
上記一般式(4)中のX3、X4はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、もしくは、アリール基である。アルキル基、アルコキシ基、もしくは、アリール基は置換されていてもよい。R4は、アルキレン基またはオキシアルキレン基である。E4は、親水性官能基である。また、一般式(4)中のX3とX4、R4、E4は、一般式(3)中のX1とX2、R3、E3とそれぞれ同義であり、好ましい範囲も同様である。
有機化合物(1)~(4)について上記のとおり説明したが、以下のような構造を有する有機化合物が好適な例である。
【0025】
【0026】
【0027】
〔導電性もしくは半導体性の材料〕
導電性材料は、本発明の正孔輸送性組成物において、厚み方向の導電性を向上させることで、利用される素子における直列抵抗成分を低減させることができる。これにより、例えば光起電力素子においては、フィルファクターの向上が可能となる。
ここで、本発明の導電性材料は、一般的に導電性もしくは半導体性を有する材料であり、例えば、金、白金、銀、銅、鉄、亜鉛、錫、アルミニウム、インジウム、クロム、ニッケル、コバルト、スカンジウム、バナジウム、イットリウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウム、モリブデン、タングステン、チタンなどの金属やこれらの合金;インジウム、スズ、モリブデン、ニッケルなどの金属の酸化物;インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、アルミニウム亜鉛酸化物(AZO)、ガリウム亜鉛酸化物(GZO)などの複合金属酸化物;グラファイト、グラファイト層間化合物、カーボンナノチューブ、グラフェンなどの炭素材料;ポリチオフェン系重合体、ポリ-p-フェニレンビニレン系重合体、ポリフルオレン系重合体、ポリピロール重合体、ポリアニリン重合体、ポリフラン重合体、ポリピリジン重合体、ポリカルバゾール重合体などの導電性高分子;フタロシアニン誘導体(H2Pc、CuPc、ZnPcなど)、ポルフィリン誘導体、アセン系化合物(テトラセン、ペンタセンなど)などのp型半導体特性を示す低分子有機化合物などが挙げられる。上記組成のナノ粒子やナノワイヤなどの微小構造を含む。
【0028】
なかでも、ポリアニリンおよびその誘導体やポリチオフェンおよびその誘導体といった導電性高分子は、低環境負荷の水またはアルコール系溶媒に分散することが可能であるほか、正孔輸送性に優れるため、好ましい。さらに、高い導電性を得る観点から、ポリスチレンスルフォネートが添加されたポリエチレンジオキシチオフェン(以降では、PEDOT:PSSと省略する)が、より好ましい。
【0029】
本発明の導電性材料は、用途に応じた電気特性や光学特性を得る目的から、2種類以上組み合わせることも好ましい。例えば、貴金属ナノ粒子やナノワイヤと導電性高分子を組み合わせることで、金属の高い導電性が得られると共に、導電性高分子のシート面としての導電性を得ることができる。さらに、光学特性としては、貴金属ナノ構造による可視域のプラズモン共鳴により局所的な光散乱の誘導や、導電性高分子の近赤外反射などといった、光電変換の光利用効率を高めるような工夫を凝らすことができる。
【0030】
有機化合物(1)~(4)と導電性もしくは半導体性材料の組成物中の割合は特に限定されないが、導電性材料の機能性(導電性や膜の均一性)を阻害させないため、有機化合物(1)~(4)の質量は、導電性もしくは半導体性材料の質量に対して1/2以下が好ましく、より好ましくは1/5以下であり、さらに好ましくは1/10以下である。
〔溶媒〕
本発明では、塗布プロセスを適用する観点から、正孔輸送性組成物中に溶媒を含むことが好ましい。溶媒の種類は、機能性の層(光起電力素子の場合は、光電変換層)の溶解性や溶媒耐久性、濡れ性によって、適宜選択される。例えば、有機太陽電池においては光電変換層が有機溶媒に可溶な材料から構成されているため、正孔輸送層組成物の溶媒は水系やアルコール系、ポリエーテル系が好ましい。より好ましくは、環境負荷や機能性層への溶媒ダメージを低減させる観点から、水系やアルコール系の溶媒である。また、光電変換層上への濡れ性を向上させる目的から、表面張力の小さいアルコール系溶媒や揮発性の高いアルコール系溶媒などを含むことが、さらに好ましい。 くわえて、導電性材料の塗布後の形態を調整するために、ドーピング用の添加溶媒を含むこともできる。例えば、導電性材料としてPEDOT:PSSを用いた場合、溶媒にエチレングリコールを2~10体積%含む水を採用することで、塗布形成された膜のポリエチレンジオキシチオフェンの結晶性が高まり、導電率が向上する。
【0031】
〔その他の材料〕
本発明の正孔輸送性組成物は、上記構成以外にも、界面活性剤や導電性材料のドープ剤、それぞれの材料を安定分散させるためのキャッピング剤を含んでいてもよい。その際、それぞれの有機化合物(1)の効果が最大限得られるように適宜濃度を選択する。
【0032】
例えば、光電変換層上における濡れ性を向上させる目的から、アルキル鎖系の界面活性剤を微量添加することで、正孔輸送性組成物の膜質を向上させることができる。
【0033】
[正孔輸送性組成物の用途]
正孔輸送性組成物の用途としては、光起電力素子や光電変換素子、発光素子、整流素子の陽極や正孔輸送材料、p型半導体材料、電子ブロック材料として利用できる。これらの素子の材料間のエネルギーギャップや絶縁成分(界面活性剤など)から生じる電力損失を低減させることができる。また、トランジスタを構成する電極として利用することも可能である。例えば、本発明の正孔輸送性組成物をトランジスタのソース、ドレイン電極とp型半導体の界面に導入することで、正孔輸送性に優れたトランジスタ回路を形成することができる。
<透明電極>
本発明の正孔輸送性組成物の導電性材料に、高い導電率を示す材料を利用することで、正孔輸送性に優れた光起電力素子を実現する透明電極を塗布形成することができる。すなわち、この透明電極は、陽極と正孔輸送層の機能を同時に兼ねることが可能であり、本発明の正孔輸送性組成物から形成される透明電極を得ることができる。ここで、本発明の「透明電極」とは、近赤外や近紫外を含む可視光域近傍の電磁波を透過する導電膜および、そのパターン構造などを指す。
本発明の透明電極の例を挙げると、正孔輸送性組成物の導電性材料として高い導電率を示すPEDOT:PSSを用いた場合である。また、別の例では、導電性材料として銀ナノワイヤや金ナノワイヤ、銅ナノワイヤといった貴金属ナノ構造体を用いることで、優れた正孔輸送性だけでなく高い導電率、高い可視光透過率も示す透明電極が形成可能である。
透明電極が機能層(光起電力素子の場合は、光電変換層)の全面から電荷を輸送する用途で用いられる場合は、面として一様に導電する導電性高分子やグラフェン、金属酸化物が、導電性材料として好ましい材料である。さらに、これらの面導電性の優れた材料と、金属ナノ構造体などの高導電率材料とを組み合わせることで、高い導電率を得ることもできる。
〔透明電極の形成方法〕
透明電極の形成方法としては、スピンコート塗布、ブレードコート塗布、スリットダイコート塗布、スクリーン印刷塗布、バーコーター塗布、鋳型塗布、印刷転写法、浸漬引き上げ法、インクジェット法、スプレー法、真空蒸着法などの方法が挙げられる。膜厚制御や配向制御など、得ようとする透明電極の特性に応じて、形成方法を選択することが好ましい。
[透明電極の用途]
透明電極の用途としては、光起電力素子だけでなく、整流素子や光電変換素子、発光素子の陽極や正孔輸送材料、p型半導体材料として利用することができる。これらの素子の材料間のエネルギーギャップや絶縁成分(界面活性剤など)から生じる電力損失を低減させることができる。また、トランジスタを構成する電極として利用することも可能である。例えば、本発明の透明電極をトランジスタのソース、ドレイン、ゲートとして利用し、p型半導体と組み合わせることで、正孔輸送性に優れたトランジスタ回路を形成することができる。さらに、上記の用途では、本発明の透明電極以外の構成材料に可視光透過性の高い材料を用いることで、外観のデザイン性に優れた透明なエレクトロニクスを形成することができる。
<光起電力素子>
本発明の正孔輸送性組成物を用いることで、有機太陽電池を代表とした塗布型の光起電力素子の発電効率の向上や機能性の付加が可能となる。光起電力素子の構造は、以下の(a)~(h)のような正孔輸送性組成物から形成される層を含む構成が基板上に形成されることが例として挙げられる。ただし、以下に限定されるわけではない。
【0034】
(a)陰極/電子輸送層/光電変換層/正孔輸送層/陽極
(b)陰極/電子輸送層/光電変換層/陽極
(c)陰極/光電変換層/正孔輸送層/陽極
(d)陰極/光電変換層/陽極
(e)陽極/正孔輸送層/光電変換層/電子輸送層/陰極
(f)陽極/光電変換層/電子輸送層/陰極
(g)陽極/正孔輸送層/光電変換層/陰極
(h)陽極/光電変換層/陰極
ここで、光起電力素子における「正孔輸送層」とは、光電変換層と陽極との間に形成される層であり、正孔を光電変換層から取り出し、輸送する機能を有している。「正孔取出し層」と称される場合もある。また、光起電力素子における「電子輸送層」とは、光電変換層と陰極との間に形成される層であり、電子を光電変換層から取り出し、輸送する機能を有する。「電子取出し層」と称される場合もある。「光電変換層」とは、光電変換により起電力を生成する機能をつかさどる層である。また、上記の(a)~(h)の構成で、正孔輸送層と電子輸送層が省略される場合は、陽極および陰極がそれぞれの機能を兼ねている場合となる。
上記の構成の中でも、(a)~(d)構成の少なくとも基板上に陰極、光電変換層、陽極を有し、この順に積層されていることが好ましい。例えば、
図1の構成となる。この構造により、~4.0eV付近およびそれ以下の比較的浅い仕事関数を示す陰極(電子輸送層を含む場合は、電子輸送層も含む)が、大気中の水や酸素と接しやすい素子表面に形成されないため、高い環境耐久性の光起電力素子が形成できる。それぞれの構成部材の詳細は、以下のような形態である。
〔基板〕
基板としては、光電変換材料の種類や用途に応じて、電極材料や光電変換層が積層できるものを選択することが好ましく、例えば、無アルカリガラス、石英ガラス、アルミニウム、鉄、銅、ステンレスなどの合金等の無機材料;ポリエステル、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリパラキシリレン、ポリメチルメタクリレート、エポキシ樹脂やフッ素系樹脂等の有機材料から任意の方法によって作製されたフィルムや板などが挙げられる。基板側から光を入射して用いる場合は、基板は80%以上の光透過性を有することが好ましい。
【0035】
〔陰極および陽極〕
陰極に用いられる導電性素材としては、電子輸送層などの隣接する層とオーミック接合するものが好ましく、陽極に用いられる導電性素材としては、正孔輸送層などの隣接する層とオーミック接合するものが好ましい。
本発明の光起電力素子においては、陰極または陽極のうち少なくとも一方が光透過性を有することが好ましい。さらに、陰極または陽極の両方が光透過性を有することで、半透明な光起電力素子を形成することができる。ここで、「光透過性を有する」とは、光電変換層に入射光が到達して起電力が発生する程度に光を透過することを意味する。すなわち、光透過率として0%を超える値を有する場合、光透過性を有するという。光透過性を有する電極は、400nm以上700nm以下の全ての波長領域において、60%以上の光透過率を有することが好ましい。また、光透過性を有する電極の厚さは十分な導電性が得られればよく、材料によって異なるが、20nm~300nmが好ましい。なお、光透過性を有しない電極は、導電性があれば十分であり、厚さも特に限定されない。
〔電子輸送層〕
電子輸送層は、陰極が光電変換層のアクセプタ―材料とエネルギー障壁が十分に小さい場合でないときに用いられる。電子輸送層を形成する材料としては、例えば、NTCDA、PTCDA、PTCDI-C8H、オキサゾール誘導体、トリアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、ホスフィンオキサイド誘導体、ホスフィンスルフィド誘導体、キノリン誘導体、フラーレン化合物、CNT、CN-PPVなどのn型半導体材料;イオン性の置換フルオレン系ポリマー(「アドバンスド マテリアルズ(Advanced Materials)」、2011年、23巻、4636-4643頁;「オーガニック エレクトロニクス(Organic Electronics)」、2009年、10巻、496-500頁)や、イオン性の置換フルオレン系ポリマーと置換チオフェン系ポリマーの組み合わせ(「ジャーナル オブ アメリカン ケミカル ソサイエティー(Journal of American Chemical Society)」、2011年、133巻、8416-8419頁)やアンモニウム塩、アミン塩、ピリジニウム塩、イミダゾリウム塩、ホスホニウム塩、カルボン酸塩、スルホン酸塩、リン酸塩、硫酸エステル塩、リン酸エステル塩、硫酸塩、硝酸塩、アセトナート塩、オキソ酸塩、金属錯体などのイオン性化合物;ポリエチレンオキサイド(「アドバンスド マテリアルズ(Advanced Materials)」、2007年、19巻、1835-1838頁);TiO2などの酸化チタン(TiOx)、ZnOなどの酸化亜鉛(ZnOx)、SiO2などの酸化ケイ素(SiOx)、SnO2などの酸化錫(SnOx)、WO3などの酸化タングステン(WOx)、Ta2O3などの酸化タンタル(TaOx)、BaTiO3などのチタン酸バリウム(BaTixOy)、BaZrO3などのジルコン酸バリウム(BaZrxOy)、ZrO2などの酸化ジルコニウム(ZrOx)、HfO2などの酸化ハフニウム(HfOx)、Al2O3などの酸化アルミニウム(AlOx)、Y2O3などの酸化イットリウム(YOx)、ZrSiO4などのケイ酸ジルコニウム(ZrSixOy)などの金属酸化物;Si3N4などの窒化ケイ素(SiNx)のような窒化物、CdSなどの硫化カドミウム(CdSx)、ZnSeなどのセレン化亜鉛(ZnSex)、ZnSなどの硫化亜鉛(ZnSx)、CdTeなどのテルル化カドミウム(CdTex)などの無機半導体材料などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
【0036】
より具体的には、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、ヘキシルトリメチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムブロミド、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ヘキサデシルピリジニウムブロミド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムブロミド、トリブチルヘキサデシルホスホニウムブロミド、ギ酸亜鉛、酢酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛、酪酸亜鉛、シュウ酸亜鉛、ヘプタデカフルオロノナン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、1-ヘキサデカンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、リン酸モノドデシルナトリウム、亜鉛アセチルアセトナート、クロム酸アンモニウム、メタバナジン酸アンモニウム、モリブデン酸アンモニウム、六フッ化ジルコニウム酸アンモニウム、タングステン酸ナトリウム、テトラクロロ亜鉛酸アンモニウム、オルトチタン酸テトライソプロピル、ニッケル酸リチウム、過マンガン酸カリウム、銀フェナントロリン錯体、AgTCNQや特開2013-58714記載の電子輸送層に用いられる化合物などが挙げられる。
【0037】
電子輸送層は、単層でも積層構造を有してもよい。電子輸送層の厚さは、膜中の電気抵抗や電荷トラップサイト数を低減させる目的もしくは光透過性を得る目的から、200nm以下が好ましい。
〔光電変換層〕
光電変換層は、塗布製造プロセスが適用可能な材料からなり、例えば、有機半導体や有機無機ハイブリッド型のペロブスカイト化合物が用いられる。
高い発電効率を得る観点からは、有機無機ハイブリッド型のペロブスカイト化合物を用いた光電変換層が好ましい。例えば、ハロゲン化鉛メチルアンモニウム(CH3NH3PbX3:MAPbX3,ここでXはハロゲン元素)が挙げられる。また、環境負荷を低減させる観点から、鉛フリーのペロブスカイト化合物材料がより好ましい。
【0038】
外観のデザイン性を付与する観点からは、有機半導体を用いた光電変換層がより好ましい。有機半導体は、分子構造から光学特性が設計しやすい上に、100nm以下まで薄膜化することが容易である。これにより、光起電力素子の色味の調整や光透過性の付与が可能となる。有機半導体を用いた光電変換層は、電子供与性半導体と電子受容性半導体を含む構造からなる。ここで、「電子供与性半導体」とは、p型半導体特性を示すか、または正孔輸送性を有する有機化合物を指し、「電子受容性半導体」とは、n型半導体特性を示すか、または電子輸送性を有する有機化合物を指す。
例えば、500~600nmの可視光を主に吸収する電子供与性半導体と800~900nm付近の近赤外光を吸収する電子受容性半導体を組み合わせた光電変換層を用いることで、オフィスビルなどのガラス建材の色に近い青みがかった色が得られる。例えば、電子供与性有機半導体に関しては、下記一般式(5)と(6)で表されるベンゾジチオフェン骨格とベンゾジチオフェンジオン骨格を有する単位構造を含む電子供与性有機半導体(以下では、電子供与性有機半導体(5)(6)と称する)が、上記の可視光を吸収する最高被占軌道(Highest Occupied Molecular Orbital(HOMO))-最低空軌道(Lowest Unoccupied Molecular Orbital(LUMO))間のエネルギーギャップを有する。このような電子供与性有機半導体は、5.0eV以上のHOMO準位を有しているため、深い仕事関数の正孔輸送層が必要となる。電子受容性有機半導体に関しては、下記一般式(7)で表されるベンゾチアジアゾールを中心に据えた電子受容性有機半導体(以下では、電子受容性有機半導体(7)と称する)が、上記の可視光を吸収するHOMO-LUMOエネルギーギャップを有する。
【0039】
【0040】
上記一般式(5)~(6)中、R5~R6は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基またはアルコキシ基を示す。これらの中でも、電子供与性有機半導体(5)(6)の有機溶媒に対する溶解性や光電変換層中のパッキング性の観点から、アルキル基が好ましい。
X5は、同じでも異なっていてもよく、水素原子またはハロゲン原子を示す。これらの中でも、電子供与性有機半導体(5)(6)のHOMO準位を深め、光起電力素子の開放電圧を向上させる観点から、ハロゲン原子が好ましい。
【0041】
本発明において、「アルキル基」とは、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基などの1価の飽和脂肪族炭化水素基であり、直鎖状であっても分岐状であっても環状であってもよく、非置換でも置換されていてもよい。有機化合物(5)(6)の有機溶媒に対する溶解性を向上させる観点から、分岐状であることが好ましい。置換される場合の置換基の例としては、後述するアルコキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン原子などが挙げられる。R5~R6におけるアルキル基の炭素数は、有機化合物(5)(6)の有機溶媒に対する溶解性を向上させる観点から、4以上が好ましい。一方、有機化合物(5)(6)のキャリア移動度をより向上させる観点から、アルキル基の炭素数は、12以下が好ましい。
【0042】
アルコキシ基とは、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などのエーテル結合を介した1価の脂肪族炭化水素基を示し、脂肪族炭化水素基は非置換でも置換されていてもよい。置換される場合の置換基の例としては、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン原子などが挙げられる。R5~R6におけるアルコキシ基の好ましい炭素数の範囲は、上述のアルキル基の場合と同じである。
【0043】
ハロゲン原子とは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素のいずれかである。これらの中でも、電子吸引性が最も強いフッ素は、原子半径が小さく、パッキング性を保つことができるためより好ましく用いられる。
また、上記一般式(7)中、R7は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、アルキル基またはアルコキシ基を示す。これらの中でも、電子受容性有機半導体(7)の有機溶媒に対する溶解性や光電変換層中のパッキング性の観点から、アルキル基が好ましい。R7におけるアルキル基の炭素数は、電子受容性有機半導体(7)の有機溶媒に対する溶解性を向上させる観点から、4以上が好ましい。一方、電子受容性有機半導体(7)のキャリア移動度をより向上させる観点から、アルキル基の炭素数は、12以下が好ましい。電子受容性有機半導体(7)の有機溶媒に対する溶解性を向上させる観点から、アルキル基は分岐状であることが好ましい。
X6は、同じでも異なっていてもよく、水素原子またはハロゲン原子を示す。これらの中でも、ハロゲン原子が好ましい。さらに、以下の構造式で表される電子供与性有機半導体(5)(6)と電子受容性有機半導体(7)が、上記の光学特性が得られる上に、高い電荷輸送特性を有し、優れた発電効率が得られるため、好ましい例である。
【0044】
【0045】
電子供与性有機半導体と電子受容性有機半導体は、それぞれ1種類ずつであってもいし、複数組み合わせてもよい。例えば、電子受容性有機半導体を2種類用いて、電子供与性有機半導体と電子受容性有機半導体の間のエネルギー障壁を低減させ、開放電圧のロスを抑えることができる。これにより、有機太陽電池の発電効率を向上させることが可能である。
光電変換層は、単層でも積層構造を有してもよく、その厚さは用途によって選択される。例えば、以下で説明するような半透明な光起電力素子を得る目的では、100nm以下の積層構造が好ましい。
【0046】
〔正孔輸送層〕
本発明の正孔輸送層は、上記の正孔輸送性組成物から形成される。塗布形成法に関しては、以下の製造方法が例として挙げられる。
【0047】
正孔輸送層の厚みは、膜中の電気抵抗や電荷トラップサイト数を低減させる目的もしくは光透過性を得る目的から、200nm以下が好ましい。ただし、透明電極として機能させる場合は、この限りではなく、光透過性が得られる範囲の厚みを適宜選択すればよい。例えば、PEDOT:PSSの高導電性グレード品であるPH1000(へレウス(株)製)では、200nm以下の厚みのとき、可視光透過率80%以上が得られるため、好ましい。
【0048】
〔光起電力素子の製造方法〕
次に、本発明の光起電力素子の製造方法について、基板上に、陰極、電子輸送層、光電変換層、正孔輸送層および陽極をこの順に有する有機太陽電池の場合を例に説明する。
基板上に、ITOなどの透明電極(この場合陰極に相当)をスパッタリング法などにより形成する。
次に、電子輸送層を構成する材料を含む溶液を、陰極上に塗布し、加熱して電子輸送層を形成する。無機材料により電子輸送層を形成する場合は、その金属塩や金属アルコキシドなどの前駆体溶液を塗布した後、加熱して電子輸送層を形成する方法や、ナノ粒子分散液を光電変換層上に塗布して電子輸送層を形成する方法などが挙げられる。このとき、加熱温度や時間、ナノ粒子の合成条件などにより、完全には反応が進行しておらず、部分的に加水分解または縮合した中間生成物となったり、前駆体と中間生成物、最終生成物などの混合物となったりしてもよい。
次に、光電変換層を構成する材料を有機溶媒に溶解させた溶液を電子輸送層上に塗布し、加熱して光電変換層を形成する。有機溶媒としては、電子供与性有機半導体と電子受容性有機半導体が適当に溶解または分散できるものであれば特に限定されないが、取り扱い性の観点から、沸点50℃以上の有機溶媒が好ましい。より具体的には、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン、1,3-ジクロロプロパン、1,1,1,2―テトラクロロエタン、1,1,1,3-テトラクロロプロパン、1,2,2,3-テトラクロロプロパン、1,1,2,3-テトラクロロプロパン、ペンタクロロプロパン、ヘキサクロロプロパン、ヘプタクロロプロパン、1-ブロモプロパン、1,2-ジブロモプロパン、2,2-ジブロモプロパン、1,3-ジブロモプロパン、1,2,3-トリブロモプロパン、1,4-ジブロモブタン、1,5-ジブロモペンタン、1,6-ジブロモヘキサン、1,7-ジブロモヘプタン、1,8-ジブロモオクタン、1-ヨードプロパン、1,3-ジヨードプロパン、1,4-ジヨードブタン、1,5-ジヨードペンタン、1,6-ジヨードヘキサン、1,7-ジヨードヘプタン、1,8-ジヨードオクタンなどのハロゲン炭化水素類などが好ましい。光電変換層の形成方法としては、例えば、スピンコート塗布、ブレードコート塗布、スリットダイコート塗布、スクリーン印刷塗布、バーコーター塗布、鋳型塗布、印刷転写法、浸漬引き上げ法、インクジェット法、スプレー法、真空蒸着法などの方法が挙げられる。膜厚制御や配向制御など、得ようとする光電変換層の特性に応じて、形成方法を選択することが好ましい。
次に、正孔輸送層を構成する材料を含む溶液を、光電変換層上に塗布し、加熱して正孔輸送層を形成する。正孔輸送層の形成方法としては、光電変換層の形成方法として例示した方法が挙げられる。
次に、正孔輸送層上に、銀などの金属電極(この場合陽極に相当)を、光電変換層の形成法に挙げたような塗布型プロセスや、真空蒸着法、スパッタ法などにより形成する。低環境負荷の観点から、塗布型製造プロセスがより好ましい。また、正孔輸送層が十分導電性を有していれば、正孔輸送層が陽極を兼ねる。
上記のプロセスは、上記の通り光起電力素子の一例であり、本発明の正孔輸送性組成物の適用範囲を限定するものではない。本発明の正孔輸送性組成物は、真空プロセスからなる電子輸送層と発電層上においても、適用することが可能である。
〔光起電力素子の用途〕
本発明の光起電力素子は、光電変換機能、光整流機能などを利用した種々の光電変換デバイスへの応用が可能である。例えば、光電池(太陽電池など)以外に、電子素子(光センサ、光スイッチ、フォトトランジスタなど)、光記録材(光メモリなど)、撮像素子などに有用である。さらに、以下で説明するように、本発明の正孔輸送性組成物による透明電極を用いた光起電力素子により、外観のデザイン性を活かした用途を開拓することができる。
<発光素子>
本発明の正孔輸送性組成物を用いることで、有機発光素子を代表とした塗布型の発光素子の正孔輸送層および陽極、発光層に利用可能である。本発明の正孔輸送性組成物によれば、電気双極子モーメントにより仕事関数が調整可能なことから、深いイオン化エネルギーを有する発光層に対しても電荷を注入することが容易となる。また、有機発光素子の場合では、有機機能層(発光層や正孔注入層など)の上における濡れ性を向上させることができるため、より簡便な素子作製プロセスを適用可能とする。具体的な素子構造としては、以下のような構成が代表として挙げられる。ただし、以下に限定されるわけではない。
(a)陰極/電子輸送層/電子注入層/発光層/正孔注入層/正孔輸送層/陽極
(b)陰極/電子注入層/発光層/正孔注入層/陽極
(c)陽極/正孔輸送層/正孔注入層/発光層/電子注入層/電子輸送層/陰極
(d)陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極
ここで、発光素子における「正孔注入層」と「正孔輸送層」とは、発光層と陽極との間に形成される層であり、正孔を発光層に輸送する機能と注入する機能をそれぞれつかさどる。上記の(b)、(d)構成のときは、「正孔注入層」が「正孔輸送層」を兼ねている。また、「電子注入層」と「電子輸送層」とは、発光層と陰極との間に形成される層であり、電子を発光層に輸送する機能と注入する機能をそれぞれつかさどる。上記の(b)、(d)構成のときは、電子注入層が電子輸送層を兼ねている。「発光層」とは、発光機能をつかさどる層である。また、上記の構成に加えて、発光層と陰極の間に正孔ブロック層や発光層と陽極の間に電子ブロック層を含んでいてもよい。
上記の発光素子の正孔輸送性を高める目的で、本発明の正孔輸送層形成用組成物を、正孔注入層や正孔輸送層、陽極、発光層に適用することができる。他の構成材料に関しては、例えば、特許第特許4221050号やAdvanced Science 8,2002254(2021)に記載されているような構造の有機発光素子に適用することができるが、上記の材料に限定されるわけではない。
<ガラス建材と表示装置>
上記の透明電極を用いれば、光起電力素子を半透明化することができ、電力生成可能なガラス建材や表示装置を形成することが可能である。ここで、「半透明」とは、可視光域で透過率30%以上の性能を有することを指す。従来、半透明な光起電力素子を作製する場合、特許4261169号で示されているように、空隙の隙間パターンを施すことで透過性を付与していた。これは、Si半導体を用いた光起電力素子は、構成材料が可視光域で非透過であり、通常では半透明とはならないためである。一方で、半透明な光起電力素子は、透過性を付与するための隙間パターンを含む構造を必要とせず、全構成膜が光透過性を有している。そのため、電極パターンが目立たない外観となり、より自然なガラス建材に近い形態で形成可能である。この光起電力素子を用いれば、建造物に設置する太陽電池の面積を向上させることができる。くわえて、表示装置上に形成することも可能であり、腕時計型電子機器などの可搬型携帯電子機器の表示装置への搭載も容易となる。これにより、電子機器やその表示装置に電力供給が可能となり、充電の回数を低減させたり、自立型の電子機器として機能させたりすることも可能である。
【実施例0049】
以下、本発明を実施例と比較例に基づいてさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。また実施例等で用いた化合物のうち、略語を使用しているものについて、以下に示す。
Jsc:短絡電流密度
Voc:開放電圧
FF:フィルファクター
η:発電効率
Rs:直列抵抗
Rsh:並列抵抗
ITO:インジウム錫酸化物
Br-2PACz:下記式で表される有機化合物(1)
Br-4PACz:下記式で表される有機化合物(1)
2PACz:下記式で表される有機化合物(1)
3PACz:下記式で表される有機化合物(1)
6PACz:下記式で表される有機化合物(1)
Me-2PACz:下記式で表される有機化合物(1)
Me-4PACz:下記式で表される有機化合物(1)
MeO-2PACz:下記式で表される有機化合物(1)
MeO-4PACz:下記式で表される有機化合物(1)
PM6:下記式で表される構造式を有する電子供与性有機半導体(5)(6)
L8-BO:下記式で表される構造式を有する電子受容性有機半導体(7)
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
各実施例および比較例における光起電力素子の発電効率の評価方法を以下に示す。
【0054】
〔透明電極の評価方法〕
各実施例および比較例における透明電極の評価方法を以下に示す。
各実施例および比較例により得られた透明電極の電気特性に関しては、日東精工アナリテック社製ロレスタ-AXシリーズの簡易型低抵抗率計を用いてシート抵抗を測定した。透明電極の光学特性に関しては、日立ハイテック社製U-3010シリーズの可視分光光度計を用いて可視光透過率を測定した。可視光透過率は、透明電極の基材の透過率を除き、透明電極の厚み方向のみの波長400~700nmの全光線透過率を平均することで算出した。
〔光起電力素子の評価方法〕
各実施例および比較例における光起電力素子の評価方法を以下に示す。
【0055】
各実施例および比較例により得られた光起電力素子の陽極と陰極をケースレー社製2400シリーズソースメータに接続して、大気中で、擬似太陽光(分光計器株式会社製 OTENTO-SUNIII、スペクトル形状:AM1.5、強度:100mW/cm2)をITO層側から照射し、印加電圧を-1Vから+2Vまで変化させたときの電流値を測定した。
【0056】
得られた電流値から、次式により発電効率(η)を求めた。
η(%)=Isc(mA/cm2)×Voc(V)×FF/照射光強度(mW/cm2)×100
FF=JVmax/(Isc(mA/cm2)×Voc(V))
JVmax(mW/cm2)は、印加電圧が0Vから開放電圧までの間で電流密度と印加電圧の積が最大となる点における電流密度と印加電圧の積の値である。Rsは電流が0Aのときの微分抵抗を面積で規格化した値であり、Rshは電圧が0Vのときの微分抵抗を面積で規格化した値である。
【0057】
また、光電変換層上における正孔輸送性組成物の濡れ性を目視により観察することで評価した。光起電力素子の透過率は、透明電極と同様に、日立ハイテック社製U-3010シリーズの可視分光光度計を用いて可視光透過率を測定した。可視光透過率は、基材を含めた素子全体の厚み方向の波長400~700nmの全光線透過率を平均することで算出した。
【0058】
(実施例1)
クロロホルム(ナカライテスク(株)製)1mLを、PM6(ワンマテリアルズ社製)4.5mg、L8-BO(ワンマテリアルズ社製)5.5mgの入ったサンプル瓶の中に加え、さらに、超音波洗浄機(井内盛栄堂(株)製US-2、出力120W)中で30分間超音波照射することにより溶液Aを得た。
【0059】
エタノール溶媒(和光純薬工業(株)製)0.5mLを、酢酸亜鉛2水和物(和光純薬工業(株)製)10mgの入ったサンプル瓶の中に加え、熱溶解し、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(和光純薬工業(株)製)を1体積%の割合で加えて電子輸送層形成用の前駆体溶液Bを得た。
【0060】
導電性材料と溶媒として、PEDOT:PSS分散液PH1000(へレウス(株)製)を3.7mL、エチレングリコール(和光純薬工業(株)製)を0.3mL、界面活性剤エマルゲン108(花王(株)製)を3mg混合させた。これにより、エマルゲン108の濃度は0.75g/Lであった。さらに、上記一般式(1)の有機化合物として、Br-2PACz(東京化成工業(株)製)を4mg追加し、熱溶解することで、正孔輸送性組成物Cを得た。
【0061】
スパッタリング法により陰極となるITO透明導電層を125nm堆積させたガラス基板を38mm×46mmに切断した後、ITOをフォトリソグラフィー法により38mm×13mmの長方形状にパターニングした。得られた基板の光透過率を日立分光光度計U-3010で測定した結果、400nm~700nmの全ての波長領域において85%以上であった。この基板をアルカリ洗浄液(フルウチ化学(株)製、“セミコクリーン”(登録商標)EL56)で10分間超音波洗浄した後、超純水で洗浄した。
【0062】
この基板を30分間UV/オゾン処理した後に、上記の溶液BをITO層上に滴下し、スピンコート法により3,000prmで塗布し、ホットプレート上で150℃30分間熱処理することにより、膜厚約30nmの電子輸送層を形成した。
【0063】
次いで、基板を窒素雰囲気下グローブボックスに移し、上記の溶液Aを電子輸送層上に滴下し、スピンコート法により塗布し、ホットプレート上で80℃1分間熱処理することにより、膜厚60nmの光電変換層を形成した。
【0064】
さらに、光電変換層が形成された基板上に正孔輸送性組成物Cを大気下で、スピンコート法により塗布し、ホットプレート上で100℃1分間熱処理することにより、100~150nmの正孔輸送層を形成した。実施例1では、導電性の高いPH1000を導電性材料として用いているため、正孔輸送層が陽極を兼ねている。
【0065】
また、このとき5cm×5cmの無アルカリガラス基板EAGLE XG(コーニング社製)上にも、同様の条件で、正孔輸送性組成物Cを塗布乾燥し、透明電極を得た。
この光電変換層と正孔輸送層(この場合、陽極も兼ねる)の積層構造をレーザアブレーション法により、ストライプ状のITO層と陽極の交差する部分の面積が2.5mm×2.5mmとなるようにパターンし、光起電力素子を作製した。
【0066】
前記方法により評価した透明電極のシート抵抗と可視光透過率は、それぞれ149Ω/□と92.5%であった。前記方法により評価した光起電力素子のFF、Voc、発電効率は、それぞれ、0.68、0.84V、7.08%であった。光電変換層上への濡れ性は良好であった。
(実施例2)
エマルゲン108の混合量を2mgに変更し、濃度を0.5g/Lとした以外は、実施例1と全く同様にして透明電極と光起電力素子を作製した。前記方法により評価した透明電極のシート抵抗と可視光透過率は、それぞれ148Ω/□と92.2%であった。前記方法により評価した光起電力素子のFF、Voc、発電効率は、それぞれ、0.67、0.84V、6.84%であった。光電変換層上への濡れ性は良好であった。
(実施例3)
Br-2PACzを2PACzに変更した以外は、実施例1と全く同様にして透明電極と光起電力素子を作製した。前記方法により評価した透明電極のシート抵抗と可視光透過率は、それぞれ157Ω/□と93.0%であった。前記方法により評価した光起電力素子のFF、Voc、発電効率は、それぞれ0.64、0.84V、6.12%であった。光電変換層上への濡れ性は良好であった。
(実施例4)
Br-2PACzを2PACzに変更した以外は、実施例2と全く同様にして透明電極と光起電力素子を作製した。前記方法により評価した透明電極のシート抵抗と可視光透過率は、それぞれ157Ω/□と93.0%であった。前記方法により評価した光起電力素子のFF、Voc,発電効率は、それぞれ、0.64、0.84V、6.69%であった。光電変換層上への濡れ性は良好であった。
(実施例5)
Br-2PACzをBr-4PACzに変更した以外は、実施例1と全く同様にして透明電極と光起電力素子を作製した。前記方法により評価した透明電極のシート抵抗と可視光透過率は、それぞれ150Ω/□と91.8%であった。前記方法により評価した光起電力素子のFF、Voc,発電効率は、それぞれ、0.68、0.83V、6.45%であった。光電変換層上への濡れ性は良好であった。
(実施例6)
Br-2PACzを3PACzに変更した以外は、実施例1と全く同様にして透明電極と光起電力素子を作製した。前記方法により評価した透明電極のシート抵抗と可視光透過率は、それぞれ142Ω/□と91.3%であった。前記方法により評価した光起電力素子のFF、Voc,発電効率は、それぞれ、0.66、0.83V、6.00%であった。光電変換層上への濡れ性は良好であった。
(実施例7)
Br-2PACzを6PACzに変更した以外は、実施例1と全く同様にして透明電極と光起電力素子を作製した。前記方法により評価した透明電極のシート抵抗と可視光透過率は、それぞれ150Ω/□と92.6%であった。前記方法により評価した光起電力素子のFF、Voc,発電効率は、それぞれ、0.66、0.83V、5.44%であった。光電変換層上への濡れ性は良好であった。
(実施例8)
Br-2PACzをMe-2PACzに変更した以外は、実施例1と全く同様にして透明電極と光起電力素子を作製した。前記方法により評価した透明電極のシート抵抗と可視光透過率は、それぞれ139Ω/□と91.4%であった。前記方法により評価した光起電力素子のFF、Voc,発電効率は、それぞれ、0.67、0.83V、6.31%であった。光電変換層上への濡れ性は良好であった。
(実施例9)
Br-2PACzをMe-4PACzに変更した以外は、実施例1と全く同様にして透明電極と光起電力素子を作製した。前記方法により評価した透明電極のシート抵抗と可視光透過率は、それぞれ168Ω/□と93.1%であった。前記方法により評価した光起電力素子のFF、Voc,発電効率は、それぞれ、0.69、0.83V、6.20%であった。光電変換層上への濡れ性は良好であった。
(実施例10)
Br-2PACzをMeO-2PACzに変更した以外は、実施例1と全く同様にして透明電極と光起電力素子を作製した。前記方法により評価した透明電極のシート抵抗と可視光透過率は、それぞれ144Ω/□と91.6%であった。前記方法により評価した光起電力素子のFF、Voc,発電効率は、それぞれ、0.71、0.83V、6.55%であった。光電変換層上への濡れ性は良好であった。
(実施例11)
Br-2PACzをMeO-4PACzに変更した以外は、実施例1と全く同様にして透明電極と光起電力素子を作製した。前記方法により評価した透明電極のシート抵抗と可視光透過率は、それぞれ148Ω/□と91.9%であった。前記方法により評価した光起電力素子のFF、Voc,発電効率は、それぞれ、0.63、0.83V、5.76%であった。光電変換層上への濡れ性は良好であった。
(比較例1)
正孔輸送性組成物CにBr-2PACzを添加せずに、実施例1と全く同様にして透明電極と光起電力素子を作製した。この正孔輸送層の構成は、特許文献1に記載の形態である。前記方法により評価した透明電極のシート抵抗と可視光透過率は、それぞれ151Ω/□と93.3%であった。前記方法により評価した光起電力素子のFF、Voc,発電効率は、それぞれ、0.63、0.80V、5.91%であった。光電変換層上への濡れ性は良好であったが、基板端でややはじきが観測された。
(比較例2)
正孔輸送性組成物CにBr-2PACzを添加せずに、実施例2と全く同様にして透明電極と光起電力素子を作製した。この正孔輸送層の構成は、特許文献1に記載の構成である。前記方法により評価した透明電極のシート抵抗と可視光透過率は、それぞれと150Ω/□と93.1%であった。前記方法により評価した光起電力素子のFF、Voc,発電効率は、それぞれ、0.58、0.81V、5.50%であった。光電変換層上への濡れ性は中央のみで良好であり、各所ではじきが観測された。
【0067】
実施例および各比較例の主な構成と透明電極に関する評価結果を表1に、光起電力素子に関する評価結果を表2に示す。
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
上記の表1によれば、本実施例の透明電極は、シート抵抗が低く透過率の高い透明電極が得られていることがわかる。さらに、上記の表2によれば、それぞれの透明電極を用いた光起電力素子の評価結果では、実施例1~4の光起電力素子が、比較例1~2の従来構成よりも高いフィルファクターと開放電圧を示している。この結果から、本発明の正孔輸送性組成物により優れた正孔輸送性が実現され、従来構成よりも高い発電効率の光起電力素子が得られた。この高い発電効率に加えて、実施例1~11の光起電力素子は、平均可視光透過率50%ほどの半透明な形態であり、デザイン性に優れた青みがかった色である。また、比較例2のように界面活性剤の量を減らしたとしても、実施例2と実施例4のように有機化合物(1)を添加した正孔輸送性組成物では、光電変換層上における濡れ性は良好に保たれた。すなわち、本発明の正孔輸送性組成物によれば、絶縁性の界面活性剤の量を減らしながらも、濡れ性を保つことができる。
実施例1と5、実施例3と6~7、実施例8と9、実施例10と11に、それぞれ着目して、有機化合物(1)のR1を構成するアルキレン基の長さの異なる構造を有する正孔輸送性組成物同士で比較した。同様の環Bと環Cを有している中でも、R1のアルキレン基がより短い構造を有する有機化合物(1)を用いた正孔輸送層組成物によれば、光起電力素子の直列抵抗がより低くなり、高い発電効率が得られていることがわかる。また、環Bと環Cの構造において、電気陰性度の高いブロモ基やメトキシ基を有する有機化合物(1)を用いた、実施例1と5、実施例10と11の光起電力素子が、高い発電効率が得られていることがわかる。このように、有機化合物(1)の種類の中でも、R1が短く、環Bと環Cに電気陰性度の高い材料を有する構造がより好ましいことがわかる。
上記から、本発明の正孔輸送性組成物によって、正孔輸送性に優れた光起電力素子を実現する正孔輸送層および透明電極が提供可能であり、それを用いた光起電力素子は半透明な形態で高い発電効率を示した。このように、本発明の正孔輸送性組成物により、外観やデザイン性に優れた半透明の光起電力素子の性能向上を可能とした。