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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077639
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】防音材及び車両構造
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/16 20060101AFI20240603BHJP
   G10K 11/168 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
G10K11/16 120
G10K11/168
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189706
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100112472
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100202223
【弁理士】
【氏名又は名称】軸見 可奈子
(72)【発明者】
【氏名】安田 賢司
(72)【発明者】
【氏名】田村 駿幸
【テーマコード(参考)】
5D061
【Fターム(参考)】
5D061AA06
5D061AA26
5D061BB17
5D061BB24
(57)【要約】
【課題】従来の防音材に対し、防音性能の向上が求められている。
【解決手段】本開示の防音材は、騒音部に当接し、通気性を有する発泡樹脂部と、前記発泡樹脂部のうち前記騒音源と当接する対向面に陥没形成された複数の凹部と、を備える防音材である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
騒音部に当接し、通気性を有する発泡樹脂部と、
前記発泡樹脂部のうち前記騒音部と当接する対向面に陥没形成された複数の凹部と、を備える防音材。
【請求項2】
前記対向面における前記複数の凹部の開口面積の比率は、15~95%である請求項1に記載の防音材。
【請求項3】
前記発泡樹脂部は、シート状をなし、
前記凹部の深さが、前記発泡樹脂部の厚さの半分以下になっている請求項1に記載の防音材。
【請求項4】
前記発泡樹脂部のうち前記対向面とは反対側の面を覆う非通気性の遮音層を備える請求項1に記載の防音材。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の防音材を備え、
前記発泡樹脂部が、車室内外を区画する前記騒音部としての区画壁に当接している車両構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、防音材及びそれを備える車両構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の防音材として、騒音部に当接する部分が発泡樹脂になっているものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-335684(段落[0038]、図4等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の防音材に対し、防音性能の向上が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の第1態様は、騒音部に当接し、通気性を有する発泡樹脂部と、前記発泡樹脂部のうち前記騒音源と当接する対向面に陥没形成された複数の凹部と、を備える防音材である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】車両のダッシュパネルに宛がわれた防音材の側断面図
図2】防音材の斜視図
図3】実施例1の防音材の(A)平面図、(B)側断面図
図4】実施例2の防音材の(A)平面図、(B)側断面図
図5】実施例3の防音材の(A)平面図、(B)側断面図
図6】比較例1の防音材の(A)平面図、(B)側断面図
図7】比較例2の防音材の(A)平面図、(B)側断面図
図8】(A)実施例及び比較例の透過損失を示すグラフ、(B)比較例1に対する各実施例の透過損失の差を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0007】
[第1実施形態]
図1に示すように、本開示の第1実施形態に係る防音材10は、騒音を発生させる騒音部に宛がわれる。本実施形態の例では、防音材10は、車両構造100に備えられ、車両構造100では、騒音部として、車室R1の内外を区画するダッシュパネル90が設けられている。ダッシュパネル90は、例えば鋼板からなり、車室R1とエンジンルームR2を区画する。本実施形態の例では、防音材10は、ダッシュパネル90に車室R1側から固定される。なお、例えば、車両構造100において、防音材10とダッシュパネル90は、接着剤を介さず(非接着状態で)当接する。
【0008】
本実施形態の例では、防音材10は、騒音部としてのダッシュパネル90に当接する発泡樹脂部20を備えている。発泡樹脂部20は、通気性を有していることが好ましく(例えば、連続気泡構造をなし)、これにより吸音性を高めることが可能となる。また、発泡樹脂部20は、例えば、ポリウレタン樹脂の発泡体であってもよいし、ゴムの発泡体であってもよいし、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン系樹脂の発泡体であってもよいし、ビーズ発泡体であってもよい。
【0009】
図1に示すように、本実施形態の防音材10では、発泡樹脂部20に、ダッシュパネル90とは反対側から遮音層15が積層されている。遮音層15は、非通気性であることが好ましい。遮音層15は、樹脂製であってもよいし、金属製であってもよい。遮音層15は、例えば、EPDM等のゴム製が好ましい。例えば、遮音層15は、発泡樹脂部20よりも見掛け密度や目付量が大きいものであってもよい。
【0010】
発泡樹脂部20と遮音層15は、発泡樹脂部20を発泡成形する際に一体化させてもよいし、別々に形成してからそれらを接着剤等で一体化させてもよい。
【0011】
なお、防音材10は、遮音層15がない構成とすることもできる。この場合、発泡樹脂部20のうちダッシュパネル90とは反対側の表面層として、スキン層が形成されていることが好ましい。スキン層は、非通気性であることが好ましい。このように発泡樹脂部20の内部よりも見掛け密度が高くなったスキン層を設けられることで、遮音材15が無い場合でも、防音材10の遮音性を向上させることが可能となる。なお、スキン層は、防音材10が遮音層15を有する場合にも発泡樹脂部20に(例えば遮音層15側に)設けられていてもよい。
【0012】
ここで、従来から、ダッシュパネル90等の騒音部に対し、全面を接触させる防音材がある。しかしながら、本願発明者は、精査したところ、このような従来の防音材では、騒音部からの振動が伝わり易くなることで、遮音性が低くなるという知見を得た。そして、本願発明者は、鋭意検討した結果、発泡樹脂部20のうち騒音部と対向して当接する対向面20Mに部分的に騒音部と接触しない箇所を設けることで、防音材に騒音部からの振動が伝わり難くなり、遮音性を向上させることが可能であるという知見を得た。この知見をもとに、以下の構成を有する防音材10を発明に至った。
【0013】
具体的には、防音材10では、図2に示すように、発泡樹脂部20の対向面20Mに、複数の凹部30が陥没形成されている。複数の凹部30は、凹部30同士の間に形成された突条35によって区画されている。なお、凹部30の大きさは、発泡樹脂部20の気泡の大きさよりも十分大きい。
【0014】
具体的には、本実施形態の例では、凹部30は、平面視四角形状をなして2次元的に整列すると共に、互いに平行に延びる突条35群同士が、交差(本実施形態の例では直交)して格子状に配置されている。そして、防音材10が騒音部(ダッシュパネル90)に宛がわれると、発泡樹脂部20の対向面20Mのうち、突条35が騒音部に当接することとなり、凹部30によって、発泡樹脂部20の対向面20Mと騒音部(ダッシュパネル90)との間に部分的に隙間が形成される。これにより、防音材10では、防音材10が全面接触する場合に比べて、防音材10と騒音部との接触面積を小さくすることができ、遮音性を向上させることが可能となる。
【0015】
なお、本実施形態の例では、複数の凹部30は、2次元的に並んでいるが、1次元的に並んでいてもよい。また、凹部30の形状は、平面視四角形状でなくてもよく、それ以外の平面視多角形状(例えばハニカム構造等の平面視正多角形状)であってもよいし、平面視丸形であってもよいし、例えば、半球状であってもよい。また、複数の凹部30のサイズや形状や向きは、全て同じでなくてもよい。
【0016】
発泡樹脂部20の対向面20Mにおける複数の凹部30の開口面積(総面積)の比率は、15~95%であることが好ましく、25~90%であることがさらに好ましい。また、凹部30の開口面積[mm]を凹部30の深さ[mm]で除した値が、39~252[mm]であることが好ましい。
【0017】
ここで、凹部30が深すぎると、発泡樹脂部20のうち凹部30の底部が薄くなり、遮音性が低下することが考えられる。これに対し、本実施形態では、凹部30の深さが、シート状をなした発泡樹脂部20の厚さの半分以下になっている。このように、凹部30の底部に発泡樹脂部20の厚さの半分以上の厚さが残されることで、遮音性の低下を抑制可能となる。
【0018】
なお、凹部30は、凹部30を形成する凹凸パターンを発泡成形金型の成形面に形成しておき、発泡樹脂部20の発泡成形時に形成されてもよいし、発泡樹脂部20の発泡成形の後に、切削加工により形成されてもよい。
【0019】
[他の実施形態]
(1)振動等により騒音を発生させる騒音部として、上記例ではダッシュパネル90が設けられていたが、ルーフパネルやドアパネルやフロアパネル等の車体パネルであってもよい。
【0020】
(2)防音材10は、自動車や鉄道車両や船等の乗り物の騒音部に宛がわれてもよいし、建物の騒音部に宛がわれてもよい。このような騒音部に防音材10の対向面20Mが当接した遮音構造によっても、遮音性を向上させることが可能となる。
【0021】
(3)防音材10は、発泡樹脂部20と遮音層15の2層構造になっていてもよいし、さらに層が積層された3層以上の積層構造になっていてもよい。
【実施例0022】
以下、実施例及び比較例によって上記実施形態をさらに具体的に説明するが、本開示の防音材は、以下の実施例に限定されるものではない。各実施例及び各比較例の防音材の対向面20Mを鋼板90Aに対向させた測定サンプルについて、透過損失を評価した。
【0023】
1.実施例及び比較例の防音材の構成
実施例1~3及び比較例1,2の防音材として、シート状をなし、発泡樹脂部20と遮音層15の2層構造のものを用意した。
【0024】
[実施例1~3]
実施例1~3の防音材10は、図3図5の(A)に示すように、複数の凹部30を有している。複数の凹部30は、平面視正方形状をなした直方体状になっていて、防音材10の対向面20Mの縦横に整列している。これら実施例では、凹部30は、25個設けられ、防音材10の縦横に等間隔に配置されている。また、凹部30同士を区画し、互いに平行になった複数の突条35が、直交して格子状に配置されている。発泡樹脂部20は、ポリウレタンの発泡体であり、スキン層を有していない。発泡樹脂部20は、500mm×500mm×厚さ20mmのサイズで、見掛け密度が50kg/mである。遮音層15は、EPDM製であり、500mm×500mm×厚さ2mmのサイズで、目付量が1700kg/mである。発泡樹脂部20と遮音層15は接着剤で接着されている。実施例1~3では、対向面20Mにおいて突条35のみが鋼板90Aと当接する。
【0025】
実施例1(図3参照)では、発泡樹脂部20の対向面20Mにおける複数の凹部30の開口面積(総面積)の比率は、75%である。即ち、実施例1では、対向面20Mにおける鋼板90Aとの接触面積の比率が、25%となる。実施例1では、凹部30のサイズは、87mm×87mm×深さ2mmであり、凹部30同士の間の突条35の幅が13mmである。
【0026】
実施例2(図4参照)では、対向面20Mにおける複数の凹部30の上記開口面積の比率は、50%である。即ち、実施例2では、対向面20Mにおける鋼板90Aとの接触面積の比率が、50%となる。実施例2では、凹部30のサイズは、71mm×71mm×深さ2mmであり、凹部30同士の間の突条35の幅が29mmである。
【0027】
実施例3(図5参照)では、対向面20Mにおける複数の凹部30の上記開口面積の比率は、10%である。即ち、実施例3では、対向面20Mにおける鋼板90Aとの接触面積の比率が、90%となる。実施例3では、凹部30のサイズは、32mm×32mm×深さ2mmであり、凹部30同士の間の突条35の幅が68mmである。
【0028】
[比較例1,2]
比較例1,2の防音材10Aには、凹部30が形成されておらず、対向面20Mは平坦になっている(図6(A)及び図7(A)参照)。
【0029】
比較例1では、図6(B)に示すように、対向面20Mの全体が鋼板90Aと当接する(上記接触面積の比率が100%)。
【0030】
比較例2では、図7(B)に示すように、対向面20Mと鋼板90Aの間にスペーサ99が挟まれていて、対向面20Mと鋼板90Aは当接していない(上記接触面積0%)。スペーサ99は、30mm×30mm×厚さ2mmであり、防音材と鋼板90Aの四隅に宛がわれる。
【0031】
2.評価
各実施例及び各比較例について、透過損失を測定し、評価した。透過損失は、JIS A1441-1:2007に準拠して測定した。図3図7の(B)に示すように、防音材の対向面20Mを騒音部としての鋼板90A(500mm×500mm×厚さ0.8mm)に対向させた測定サンプルについて、鋼板90A側から音を入射した。
【0032】
[評価結果]
図8(A)には、各実施例及び各比較例について、周波数ごとの透過損失が示されている。図8(B)には、比較例1に対する、実施例1~3及び比較例2の透過損失の差(遮音効果)が示されている。図8(A)及び図8(B)に示すように、複数の凹部30を有する実施例1~3の防音材10では、凹部30を有していない比較例1の防音材10Aに比べて、透過損失が良好である(透過損失が大きい)ことがわかった。また、対向面20Mが鋼板90Aに部分的に当接する(突条35が当接する)実施例1~3の防音材10では、鋼板90Aに当接しない比較例2の防音材10Aに比べて、透過損失が良好である(透過損失が大きい)ことがわかった。とくに、発泡樹脂部20の対向面20Mにおける複数の凹部30の開口面積(総面積)の比率が、15~95%(特に25~90%)であると(言い換えると、対向面20Mと鋼板90Aの接触面積が5~85%(特に10~75%)であると)、透過損失が特に良好であることがわかった。
【0033】
<付記>
以下、上記実施形態及び実施例から抽出される特徴群について、必要に応じて効果等を示しつつ説明する。なお、以下では、理解の容易のため、上記実施形態において対応する構成を括弧書き等で適宜示すが、これら特徴群は、この括弧書き等で示した具体的構成に限定されるものではない。
【0034】
例えば、以下の特徴群は、防音材及びそれを備える車両構造に関し、「従来の防音材として、騒音部に当接する部分が発泡樹脂になっているものが知られている(例えば、特開2005-335684(段落[0038]、図4等)参照)。」という背景技術について、「上述した従来の防音材に対し、防音性能の向上が求められている。」という課題をもって想到されたものと考えることができる。また、従来から、新規な防音材やそれを備える新規な車両構造が求められている。
【0035】
[特徴1]
騒音部(ダッシュパネル90)に当接し、通気性を有する発泡樹脂部と、
前記発泡樹脂部のうち前記騒音部と当接する対向面に陥没形成された複数の凹部と、を備える防音材。
【0036】
[特徴2]
前記凹部の開口面積[mm]を前記凹部の深さ[mm]で除した値が、39~252[mm]である特徴1に記載の防音材。
【0037】
[特徴3]
前記対向面における前記複数の凹部の開口面積の比率は、15~95%である特徴1又は2に記載の防音材。
【0038】
[特徴4]
前記発泡樹脂部は、シート状をなし、
前記凹部の深さが、前記発泡樹脂部の厚さの半分以下になっている特徴1から3の何れか1の特徴に記載の防音材。
【0039】
[特徴5]
前記発泡樹脂部のうち前記対向面とは反対側の面を覆う非通気性の遮音層を備える特徴1から4の何れか1の特徴に記載の防音材。
【0040】
[特徴6]
特徴1から5の何れか1の特徴に記載の防音材を備え、
前記発泡樹脂部が、車室内外を区画する前記騒音部としての区画壁(ダッシュパネル90)に当接している車両構造。
【0041】
なお、本明細書及び図面には、特許請求の範囲に含まれる技術の具体例が開示されているが、特許請求の範囲に記載の技術は、これら具体例に限定されるものではなく、具体例を様々に変形、変更したものも含み、また、具体例から一部を単独で取り出したものも含む。
【符号の説明】
【0042】
10 防音材
20 発泡樹脂部
20A 対向面
30 凹部
90 ダッシュパネル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8