(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077640
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】ベンゾオキサジン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 265/16 20060101AFI20240603BHJP
【FI】
C07D265/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189707
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000243272
【氏名又は名称】本州化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 千香子
(72)【発明者】
【氏名】浅枝 嵩浩
(57)【要約】 (修正有)
【課題】芳香族炭化水素系溶媒に難溶な原料を用いても、高純度、高収率でベンゾオキサジン化合物が得られる製造方法を提供すること。
【解決手段】ビスフェノール化合物、ホルムアルデヒド類及びアミノチオール化合物を、炭素原子数3~8の脂肪族エステル溶媒の存在下に反応を行う反応工程を含む、一般式(1)で表されるベンゾオキサジン化合物の製造方法。
(R
1:H、C1~C6アルキル。R
2:C1~C10の2価炭化水素。X:単結合、O、S、SO
2、CO、式(1a)または式(1b))
(R
3、R
4:H、C1~C10アルキル、C1~C10ハロゲン化アルキル、C6~C12アリール。または、R
3、R
4は互いに結合してC5~C20のシクロアルキリデンを形成。Ar
1、Ar
2:C6~C12アリール(*は結合位置)。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(2)で表されるビスフェノール化合物、ホルムアルデヒド類及び一般式(3)で表されるアミノチオール化合物を、炭素原子数3~8の脂肪族エステル溶媒の存在下に反応を行う反応工程を含む、一般式(1)で表されるベンゾオキサジン化合物の製造方法。
【化1】
(式中、R
1は各々独立して水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基を示し、R
2は各々独立して炭素原子数1~10の2価の炭化水素基を示し、Xは単結合、酸素原子、硫黄原子、スルホニル基、カルボニル基、一般式(1a)で表される2価の基又は(1b)で表される2価の基を示す。)
【化2】
(一般式(1a)、(1b)中、R
3及びR
4は各々独立して水素原子、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数1~10のハロゲン化アルキル基又は炭素原子数6~12のアリール基を示し、R
3及びR
4はそれぞれ互いに結合して、全体として炭素原子数5~20のシクロアルキリデン基を形成してもよく、Ar
1及びAr
2は各々独立して炭素原子数6~12のアリール基を示し、*はそれぞれ結合位置を示す。)
【化3】
(式中、R
1、Xは一般式(1)の定義と同じである。)
【化4】
(式中、R
2は一般式(1)の定義と同じである。)
【請求項2】
前記一般式(1)及び(2)におけるXが、単結合、スルホニル基又は前記一般式(1b)で表される2価の基である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記一般式(1)及び(3)におけるR2が、炭素原子数1~10の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基又は環状アルカンを含むアルキレン基である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記反応工程における反応温度が30~80℃の範囲である、請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベンゾオキサジン化合物の製造方法に関する。詳しくは、ビスフェノール化合物、チオール基を有するアミン及びホルムアルデヒド類を原料として得られるベンゾオキサジン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベンゾオキサジン化合物は、フェノール類、アミン類及びホルムアルデヒドを反応させることにより合成される化合物であり、加熱することにより揮発性の副生物を生ずることなく、ベンゾオキサジン環が開環重合して硬化する熱硬化性樹脂原料として知られており、絶縁基板用材料として利用可能な成形体、液晶配向剤、半導体封止用樹脂組成物などの原料として利用されている。
一方で、通常ベンゾオキサジン化合物の硬化温度は比較的高く、その重合温度を下げるために触媒、重合促進剤や高反応性ベンゾオキサジン化合物が近年開発されている。その高反応性ベンゾオキサジン化合物の中でも、例えば、構造内にヒドロキシル基を導入したヒドロキシル官能性ベンゾオキサジン組成物が報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これら官能性ベンゾオキサジン化合物を合成する際に用いる溶媒として、一般的にトルエン等の芳香族炭化水素系溶媒が好適であるとされている。しかしながら、後述する比較例のように、当該溶媒に不溶・難溶な原料(例えば、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等)を用いる場合、反応が進行せず、反応温度や時間を著しく増加する必要があり、結果として製品の純度が大幅に低下してしまうという問題が明らかになった。
本発明は、芳香族炭化水素系溶媒に難溶性のビスフェノール化合物を原料に用いた場合であっても、高収率でベンゾオキサジン化合物が得られる製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上述の課題解決のために鋭意検討した結果、難溶性な原料化合物に対して、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒よりも優れた溶解性を示す脂肪族エステル溶媒を採用することにより、これら原料から高収率でベンゾオキサジン化合物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
本発明は以下のとおりである。
1.一般式(2)で表されるビスフェノール化合物、ホルムアルデヒド類及び一般式(3)で表されるアミノチオール化合物を、炭素原子数3~8の脂肪族エステル溶媒の存在下に反応を行う反応工程を含む、一般式(1)で表されるベンゾオキサジン化合物の製造方法。
【化1】
(式中、R
1は各々独立して水素原子又は炭素原子数1~6のアルキル基を示し、R
2は各々独立して炭素原子数1~10の2価の炭化水素基を示し、Xは単結合、酸素原子、硫黄原子、スルホニル基、カルボニル基、一般式(1a)で表される2価の基又は(1b)で表される2価の基を示す。)
【化2】
(一般式(1a)、(1b)中、R
3及びR
4は各々独立して水素原子、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数1~10のハロゲン化アルキル基又は炭素原子数6~12のアリール基を示し、R
3及びR
4はそれぞれ互いに結合して、全体として炭素原子数5~20のシクロアルキリデン基を形成してもよく、Ar
1及びAr
2は各々独立して炭素原子数6~12のアリール基を示し、*はそれぞれ結合位置を示す。)
【化3】
(式中、R
1、Xは一般式(1)の定義と同じである。)
【化4】
(式中、R
2は一般式(1)の定義と同じである。)
2.前記一般式(1)及び(2)におけるXが、単結合、スルホニル基又は前記一般式(1b)で表される2価の基である、1.に記載の製造方法。
3.前記一般式(1)及び(3)におけるR
2が、炭素原子数1~10の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基又は環状アルカンを含むアルキレン基である、1.又は2.に記載の製造方法。
4.前記反応工程における反応温度が30~80℃の範囲である、1.に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のベンゾオキサジン化合物の製造方法は、芳香族炭化水素系溶媒への溶解性が低いビスフェノール化合物を原料として用いても、より向上した収率でベンゾオキサジン化合物が得られるため、非常に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の前記一般式(1)で表されるベンゾオキサジン化合物の製造方法は、前記一般式(2)で表されるビスフェノール化合物、ホルムアルデヒド類及び前記一般式(3)で表されるアミノチオール化合物を、炭素原子数3~8の脂肪族エステル溶媒の存在下に反応を行う反応工程を含む方法である。この反応において、ホルムアルデヒド類としてホルムアルデヒドを用いた場合の反応式は下記の通りである。
【化5】
(式中、R
1、R
2、Xは一般式(1)の定義と同じである。)
【0009】
<一般式(1)で表されるベンゾオキサジン化合物>
一般式(1)中のR
1は、水素原子又は炭素原子数1~4のアルキル基であることが好ましく、水素原子又は炭素原子数1のアルキル基(メチル基)であることがより好ましく、水素原子であることが特に好ましい。R
1が水素原子ではない場合の結合位置は、ベンゾオキサジン環の酸素原子に対してベンゼン環上のオルソ位であることが好ましい。
一般式(1)中のR
2は炭素原子数1~10の2価の基であり、具体的には、例えば、メチレン基、エチレン基、プロパン-1,2-ジイル基、プロパン-1,3-ジイル基、ブタン-1,4-ジイル基、ペンタン-1,5-ジイル基、ヘキサン-1,6-ジイル基、シクロヘキサン-1,3-ジイル基、シクロヘキサン-1,4-ジイル基などの炭素原子数1~10の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基若しくは環状アルカンを含むアルキレン基、エチリデン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基、ブチリデン基、シクロペンチリデン基、シクロヘキシリデン基などの炭素原子数1~10のアルキリデン基、フェニレン基や下記式で表される基などのベンゼン環を含む炭素原子数1~10の2価の基が挙げられる。
【化6】
(式中、*は結合位置を示す。)
これらの中でもR
2は、炭素原子数1~10の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基、環状アルカンを含むアルキレン基又は炭素原子数1~10のアルキリデン基であることが好ましく、炭素原子数1~10の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基若しくは環状アルカンを含むアルキレン基がより好ましく、炭素原子数1~6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基若しくは環状アルカンを含むアルキレン基がさらに好ましく、炭素原子数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基が特に好ましい。
【0010】
一般式(1)におけるXは、単結合、酸素原子、硫黄原子、スルホニル基、カルボニル基、一般式(1a)で表される2価の基又は(1b)で表される2価の基を示す。その中でも、単結合、スルホニル基、(1b)で表される2価の基である場合のベンゾオキサジン化合物に対応する原料ビスフェノール化合物は、芳香族炭化水素系溶媒に溶解し難く、芳香族炭化水素系溶媒を反応に用いてベンゾオキサジン化合物を合成し難い。しかしながら、本発明の製造方法によると、収率を向上してベンゾオキサジン化合物を製造することができるので、より有用性が高い観点から好ましい。
一般式(1)におけるXが一般式(1a)である場合のより好ましいR3及びR4としては、各々独立して水素原子、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数1~6のハロゲン化アルキル基又は炭素原子数6~12のアリール基であり、さらに好ましくは水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、トリフルオロメチル基又は炭素原子数6~8のアリール基である。
また、R3及びR4はそれぞれ互いに結合して、全体として炭素原子数5~20のシクロアルキリデン基を形成してもよく、この場合、このベンゾオキサジン化合物を使用して得られる硬化物は耐熱性に優れる。炭素原子数5~20のシクロアルキリデン基は、分岐鎖としてのアルキル基を含んでいてもよい。シクロアルキリデン基は炭素原子数5~15であることが好ましく、炭素原子数6~12であることがより好ましく、炭素原子数6~9であることが特に好ましい。
シクロアルキリデン基としては、具体的には、例えば、シクロペンチリデン基(炭素原子数5)、シクロヘキシリデン基(炭素原子数6)、3-メチルシクロヘキシリデン基(炭素原子数7)、4-メチルシクロヘキシリデン基(炭素原子数7)、3,3,5-トリメチルシクロヘキシリデン基(炭素原子数9)、シクロヘプチリデン基(炭素原子数7)、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,2-ジイル基(炭素原子数7)、1,7,7-トリメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,2-ジイル基(炭素原子数10)、4,7,7-トリメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,2-ジイル基(炭素原子数10)、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン-8,8-ジイル基(炭素原子数10)、2,2-アダマンチリデン基(炭素原子数10)、シクロドデカニリデン基(炭素原子数12)等が挙げられる。好ましくはシクロヘキシリデン基(炭素原子数6)、3-メチルシクロヘキシリデン基(炭素原子数7)、4-メチルシクロヘキシリデン基(炭素原子数7)、3,3,5-トリメチルシクロヘキシリデン基(炭素原子数9)、シクロドデカニリデン基(炭素原子数12)であり、より好ましくはシクロヘキシリデン基(炭素原子数6)、3,3,5-トリメチルシクロヘキシリデン基(炭素原子数9)、シクロドデカニリデン基(炭素原子数12)であり、特に好ましくはシクロヘキシリデン基(炭素原子数6)、3,3,5-トリメチルシクロヘキシリデン基(炭素原子数9)である。
一般式(1)におけるXが一般式(1b)である場合の好ましいAr1及びAr2としては、各々独立してベンゼン環、ナフタレン環であり、Ar1及びAr2が共にベンゼン環であることがより好ましい。例えば、Ar1及びAr2が共にベンゼン環である場合、一般式(1b)で表される基はフルオレニリデン基である。
一般式(1)におけるXと、2つのベンゾオキサジン環との結合位置は、ベンゾオキサジン環の酸素原子に対してベンゼン環上のオルソ位又はパラ位であることが好ましい。
【0011】
(脂肪族エステル溶媒)
本発明の製造方法で用いる炭素原子数3~8の脂肪族エステル溶媒としては、炭素原子数3~8の酢酸エステル溶媒が好ましく、炭素原子数3~6の酢酸エステル溶媒がより好ましく、炭素原子数4~6の酢酸エステル溶媒がさらに好ましく、炭素原子数6の酢酸エステル溶媒が特に好ましい。炭素原子数3~8の脂肪族エステル溶媒として、具体的には、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル(酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル)、酢酸ブチル(酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec-ブチル、酢酸t-ブチル)、酢酸ヘキシル(酢酸n-ヘキシル等)が挙げられる。この中でも酢酸ブチルが好ましく、酢酸ブチルの中でも酢酸n-ブチルが特に好ましい。なお、酢酸ブチルの化学式はC6H12O2であることから、炭素原子数6の脂肪族エステル溶媒に相当する。当該脂肪族エステル溶媒は、その中でも1種類又は2種類以上を組み合わせて用いることができ、1種のみを用いることが好ましい。また、脂肪族エステル溶媒の使用量は、一般式(2)で表されるビスフェノール化合物に対し1.5~5重量倍の範囲が好ましく、2~4重量倍の範囲がより好ましく、2.5~3重量倍の範囲がさらに好ましい。
【0012】
(一般式(2)で表されるビスフェノール化合物)
一般式(2)で表されるビスフェノール化合物におけるR1及びXについて、その定義及び好ましい態様は一般式(1)と同じである。
一般式(2)で表されるビスフェノール化合物としては、具体的には、例えば、ビスフェノールF(ビス(2-ヒドロキシフェニル)メタン、2-ヒドロキシフェニル-4-ヒドロキシフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン)、ビスフェノールE(1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン)、ビスフェノールA(2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン)、ビスフェノールC(2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル(以下、「BP」という。)、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルビフェニル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-ナフチルエタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビスフェノールZ(1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン)、ビスフェノールTMC(1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロドデカン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)アダマンタン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン等が挙げられる。
この中でも、4,4’-ジヒドロキシビフェニル(以下、「BP」という。)、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルビフェニル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン等は、芳香族炭化水素系溶媒に溶解し難く、芳香族炭化水素系溶媒を反応に用いてベンゾオキサジン化合物を合成し難いが、本発明の製造方法によると、収率を向上して製造することができるので、有用性が高い観点から好ましい。
【0013】
(一般式(3)で表されるアミノチオール化合物)
一般式(3)で表されるアミノチオール化合物におけるR2について、その定義及び好ましい態様は一般式(1)と同じである。
一般式(3)で表されるアミノチオール化合物としては、具体的には、例えば、2-アミノエタンチオール、3-アミノ-1-プロパンチオール、2-アミノ-1-メチルエタンチオール、2-アミノ-2-メチルエタンチオール、5-アミノ-1-ペンタンチオール、6-アミノ-1-ヘキサンチオール、2-アミノチオフェノール、3-アミノチオフェノール、4-アミノチオフェノール、4-アミノベンジルメルカプタン等が挙げられる。この中でも、2-アミノエタンチオール、3-アミノ-1-プロパンチオール、2-アミノ-1-メチルエタンチオール、2-アミノ-2-メチルエタンチオール、5-アミノ-1-ペンタンチオール、6-アミノ-1-ヘキサンチオールが好ましく、2-アミノエタンチオール、3-アミノ-1-プロパンチオール、2-アミノ-1-メチルエタンチオールがより好ましく、2-アミノエタンチオールが特に好ましい。
一般式(3)で表されるアミノチオール化合物の使用量としては、一般式(2)で表されるビスフェノール化合物1モルに対して、2.0~10.0モルの範囲であることが好ましく、2.0~8.0モルの範囲であることがより好ましく、2.0~6.0モルの範囲であることがさらに好ましく、2.0~3.0モルの範囲であることが特に好ましい。
【0014】
(ホルムアルデヒド類)
ホルムアルデヒド類としては、具体的には、例えば、ホルムアルデヒド水溶液、1,3,5-トリオキサン、パラホルムアルデヒド等を挙げることができる。
ホルムアルデヒド類の使用量としては、一般式(2)で表されるビスフェノール化合物1モルに対して4.0~20.0モルの範囲であることが好ましく、4.0~16.0モルの範囲であることがより好ましく、4.0~12.0モルの範囲であることがさらに好ましく、4.0~8.0モルの範囲であることが特に好ましい。
【0015】
(触媒)
本発明において、反応を促進するための触媒は特に必要はないが、必要に応じて、酸触媒又は塩基触媒を使用することができる。この場合、使用できる酸触媒として、濃塩酸、塩酸ガス、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、安息香酸及びそれらの混合物等が挙げられ、使用できる塩基触媒としては、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、トリエチルアミン、トリエタノールアミン及びそれらの混合物等が挙げられる。中でも、p-トルエンスルホン酸、水酸化ナトリウムが好ましく、水酸化ナトリウムがより好ましい。
触媒の使用量としては、一般式(3)で表されるアミノチオール化合物1モルに対して、1~3モル倍の範囲であることが好ましく、1~2モル倍の範囲であることがより好ましく、1~1.5モル倍であることがさらに好ましい。
【0016】
(反応条件および方法)
反応温度は、30~80℃の範囲で行うことが好ましく、40~80℃の範囲がより好ましく、50~70℃の範囲がさらに好ましい。
反応圧力は常圧条件下で行ってもよく、また、加圧下でも、或は減圧下で行ってもよい。
原料となる一般式(1)で表されるビスフェノール化合物、ホルムアルデヒド類、及び一般式(2)で表されるアミン化合物の混合方法に制限はない。例えば、(i)一般式(1)で表されるビスフェノール化合物とホルムアルデヒド類を含む混合物に、一般式(2)で表されるアミン化合物を混合して反応を行う方法、(ii)ホルムアルデヒド類と一般式(2)で表されるアミン化合物を含む混合物に、一般式(1)で表されるビスフェノール化合物を混合する方法などが挙げられる。これらの混合物は上述の溶媒や触媒を含んでいてもよく、触媒を混合する方法にも制限はないが、一般式(2)で表されるアミン化合物を混合するその前に、触媒を混合することが好ましい。
本発明の製造方法は、原料の混合物に対して、残る原料を混合する方法には制限はないが、反応選択率と副生物である高分子量成分の生成を抑える観点から、一気に混合するよりも、連続的に若しくは断続的に混合することが好ましい。
反応に際して、原料に由来する水若しくは反応中に生成した水を系外に除去する手順を含むことができる。反応溶液から生成した水を除去する手順は特に制限されず、生成した水を反応溶液中の溶媒系と共沸的に蒸留することにより行うことができる。生成した水は、例えばコックを備えた等圧滴下漏斗、ジムロート冷却器、ディーンスターク装置等の使用により反応系外に除去することができる。
【0017】
(後処理操作)
前記反応工程により得た反応終了混合物は、反応終了後、公知の方法によりこの混合物から一般式(1)で表されるベンゾオキサジン化合物を得ることができる。
例えば、前記反応工程により得た反応終了混合物は、水や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどを水に溶解したアルカリ性水溶液により洗浄を行う洗浄工程により、洗浄を行ってもよい。アルカリ性水溶液により洗浄をした後は、アルカリが反応液に残らないようにするために、水で洗浄することが好ましい。より具体的な操作としては、例えば、反応終了混合物に純水を反応混合物100重量部に対して約80重量部程度添加して、30分程度撹拌後に静置後、有機層と水層を分離する操作を1回若しくは複数回行うことが好ましい。水による洗浄は洗浄後に分離する水層のpHが7~8の範囲であることを確認して終了することがより好ましい。
前記反応工程により得た溶液には、塩及び未反応のパラホルムアルデヒドが含まれる場合があり、これらをろ過により取り除くろ過工程を行ってもよい。
前記反応工程により得た反応終了混合物若しくは上記洗浄工程やろ過工程を経た反応混合物については、溶媒を留去する溶媒留去工程を行うことができる。
また、その反応混合物若しくは溶媒を留去した反応混合物に対して、溶媒を添加して晶析して結晶を得る晶析工程を行うことができる。得られた結晶はろ過することにより粉体若しくは粒状の目的物を得ることも考えられる。上記方法により、取り出されたベンゾオキサジン化合物は、例えば、溶媒や水での洗浄や再結晶等の通常の精製手段により、高純度品とすることができる。
なお、上述の反応工程、洗浄工程、ろ過工程、溶媒留去工程、晶析工程、その他の通常の精製手段を実施する際においては、酸素の影響による酸化、劣化、着色などを抑制するために、窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下若しくは空気よりも酸素が少ない雰囲気下にて行うことが好ましい。
【実施例0018】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。
<分析方法>
1.原料化合物の残存量の確認(液体クロマトグラフィー:LC)
装置:(株)島津製作所製Prominence UFLC(液体クロマトグラフィー)
ポンプ:LC-20AD
カラムオーブン:CTO-20A
検出器:SPD-20A
カラム:HALO C18(内径3mm、長さ75mm)
オーブン温度:50℃
流量:0.7mL/min
移動相:(A)0.2体積%酢酸水溶液、(B)テトラヒドロフラン
グラジエント条件:(A)体積%
メゾット:20%(0min)→40%(10min)→60%(20min)→100%(37min)→100%(40min)
試料注入量:10μL
検出波長:280nm
2.反応溶液組成及び純度分析(ゲル浸透クロマトグラフィー:GPC)
合成した各種ベンゾオキサジン化合物の純度は、本分析によるベンゾオキサジン化合物の面積百分率の数値とした。
装置:HLC-8320/東ソー(株)製
検出器:示差屈折計(RI)
[測定条件]
流量:1mL/min
溶出液:テトラヒドロフラン
温度:40℃
波長:254nm
測定試料:ベンゾオキサジン化合物含有組成物1gをテトラヒドロフランで200倍に希釈した。
3.目的化合物の化学構造確認(1H-NMR)
装置:フーリエ変換核磁気共鳴AVANCE III HD 400(BRUKER製)
測定サンプルを重クロロホルムに溶解し、1H-NMRスペクトルを測定した。
【0019】
<実施例1>
2Lの4つ口フラスコにシステアミン塩酸塩を231g(2.0moL)加えた後、撹拌しながら48%NaOH水溶液を165g(2.0moL)昇温を確認しながらゆっくりと5分かけて添加した。その後水層のpHが9~10である事を確認した後に、パラホルムアルデヒド(純度:92%)を140g(4.3moL)30分かけて小分けしながら添加した。この際に反応系の温度が30℃から42℃まで昇温が確認された。その後、撹拌をしながら空冷し、温度が30℃に下がったのを確認した後から1時間、30℃で撹拌を行った。その後、フラスコ内に酢酸ブチル508g(BPに対して2.8重量倍)と、BP184gを添加した。その後、液温を60℃まで昇温して7時間反応を行い、上記LCによる反応液の分析を行った結果、BPの残存率をBPの検量線より算出した結果は6.4%(以下同様)であった。そのため、更に70℃で5時間反応を行ったところ、BPの残存率は1.1%であり、原料が殆ど消費されたため、反応を終了した。
フラスコ内の液温を40℃まで下げた後、反応終了液の有機層を水洗するため、純水400gを添加して30分間撹拌した後静置して、有機層と水層の分離を確認した後に水層を除去した。この水洗操作を4回行い、水層のpHが7~8である事を確認した。その後、60℃減圧下に蒸留により溶媒を除去した。蒸留後の蒸留残渣の固形分が15重量%含むワニスになるように酢酸ブチルを添加して、黄色のワニスを291g得た。目的化合物である下記式(A)で表されるベンゾオキサジン化合物の収率は使用したBPに対して64%であった。この得られたベンゾオキサジン化合物の純度は、上記方法によるGPC分析の結果、64面積%であった。
1H-NMRの分析結果から、式(A)で表されるベンゾオキサジン化合物が得られたことが明らかになった。
1H-NMR分析(400MHz、溶媒:CDCl
3、基準物質:テトラメチルシラン)
3.00-3.17(8H,m),3.81-4.06(8H,m),4.84-4.86(1H,br),6.84-7.39(6H,m).
【化7】
【0020】
<比較例1>(芳香族炭化水素系溶媒を用いた試験例1)
100mLの試験管にシステアミン塩酸塩を5.0g(0.043moL)加えた後、撹拌しながら48%NaOH水溶液を3.5g(0.042moL)ゆっくりと添加した。その後水層のpHが9~10程度である事を確認した後に、パラホルムアルデヒド(純度:92%)を3.0g(0.090moL)30分かけて小分けしながら添加した。この際に反応系の温度が30℃から35℃まで昇温が確認された。その後撹拌をしながら空冷し、温度が30℃に下がったのを確認した後に30℃で1時間撹拌を行った。その後、試験管内にトルエン11.0g(BPに対して2.8重量倍)と、BP4.0gを添加した。その後、液温を60℃まで昇温し、7時間反応を行い、上記LCによる反応液の分析を行った結果、BPの残存率は93.3%であった。そのため、更に70℃で5時間反応を行い、上記LCによる反応液の分析を行った結果、BPの残存率は80.6%まで低減し、更に5時間追加で反応を行ったところ、BPの残存率は80.4%であり、更なるBPの消費が殆ど無かったため、反応を終了した。
【0021】
<比較例2>(芳香族炭化水素系溶媒を用いた試験例2)
100mLの試験管にシステアミン塩酸塩を5.0g(0.043moL)加えた後、撹拌しながら48%NaOH水溶液を3.5g(0.042moL)ゆっくりと添加した。その後水層のpHが9~10程度である事を確認した後に、パラホルムアルデヒド(純度:92%)を3.0g(0.090moL)30分かけて小分けしながら添加した。この際に反応系の温度が30℃から35℃まで昇温が確認された。その後、撹拌をしながら空冷し、温度が30℃に下がったのを確認した後から1時間、30℃で撹拌を行った。その後試験管内にトルエン11.0g(BPに対して2.8重量倍)添加し、BPを4.0g添加した。その後試験管内の液温を100℃まで昇温し、3時間反応を行ったところ、ゲル状化合物が生じて、上記LCによる反応液の分析を行うこともできず、目的とする式(A)で表されるベンゾオキサジン化合物を得ることができなかった。
【0022】
上記の実施例1と比較例1における、反応開始時からの原料化合物であるBPの消費率を、下記表1に示す。なおBPの消費率は検量線より算出した残存率を100%から減じたものである。
【表1】
【0023】
表1に示すとおり、本発明の具体例である実施例1は、反応溶媒として酢酸ブチルを用いる事でBPが効率的に消費され反応が進行するのに対して、比較例1では、反応溶媒としてトルエンを用いると、BPの消費率が低く、反応が途中で停止してしまう事が判明した。
また比較例2では反応温度を高く設定したため、目的物であるベンゾキサジンが熱による硬化反応を引き起こし、ゲル状の化合物となったと考えられる。この実験データより、反応温度を上昇させる事でBPを溶解し、反応を進行させる事は困難である事が判明した。
これらの事から、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等の芳香族炭化水素系溶媒に不溶・難溶な原料を用いたベンゾオキサジン化合物の製造方法において、反応溶媒として脂肪族エステル溶媒を採用することにより、反応温度を高くすることなく、より速やかに反応を行うことができ、さらに高収率でベンゾオキサジン化合物が得られることが明らかとなった。