IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日産自動車株式会社の特許一覧 ▶ ルノー エス.ア.エス.の特許一覧

特開2024-77668内燃機関の制御方法及び内燃機関の制御装置
<>
  • 特開-内燃機関の制御方法及び内燃機関の制御装置 図1
  • 特開-内燃機関の制御方法及び内燃機関の制御装置 図2
  • 特開-内燃機関の制御方法及び内燃機関の制御装置 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077668
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】内燃機関の制御方法及び内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/30 20060101AFI20240603BHJP
【FI】
F02D41/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189744
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 貴義
(72)【発明者】
【氏名】吉村 太
【テーマコード(参考)】
3G301
【Fターム(参考)】
3G301HA04
3G301JA21
3G301LB11
3G301MA26
3G301NA08
3G301NE01
3G301PB02Z
3G301PE08Z
(57)【要約】
【課題】内燃機関の排気中のPNを低減する。
【解決手段】内燃機関1は、燃料噴射弁11から噴射される燃料がBase燃料の場合、シリンダ9の壁面温度が第1温度よりも低ければ1燃焼サイクル中に4回の燃料噴射を行い、シリンダ9の壁面温度が第1温度以上かつ第2温度以下であれば1燃焼サイクル中に3回の燃料噴射を行い、シリンダ9の壁面温度が第2温度よりも高ければ1燃焼サイクル中に2回の燃料噴射を実施する。このように内燃機関1は、燃料性状に応じて1燃焼サイクル中の燃料噴射回数を決定することで、内燃機関1の排気中のPNを効果的に低減することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃焼室内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁を有し、
上記燃料の燃料性状及び上記内燃機関の温度を検出し、
上記内燃機関の温度が予め設定された所定の第1温度よりも低い場合、1燃焼サイクルにおける燃料噴射回数を上記第1温度以上のときよりも増加させるとともに、上記第1温度を上記燃料の燃料性状に応じて補正することを特徴とする内燃機関の制御方法。
【請求項2】
上記内燃機関の温度が上記第1温度よりも高い予め設定された所定の第2温度よりも高い場合、1燃焼サイクルにおける燃料噴射回数を上記第2温度以下のときよりも減少させるとともに、上記第2温度を上記燃料の燃料性状に応じて補正することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御方法。
【請求項3】
上記第1温度及び上記第2温度の少なくとも一方は、燃料性状が軽質になるほど、低くなるよう設定することを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の制御方法。
【請求項4】
上記第1温度及び上記第2温度の少なくとも一方は、燃料性状が重質になるほど、高くなるよう設定することを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の制御方法。
【請求項5】
上記内燃機関の温度は、上記燃料噴射弁の先端温度であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の内燃機関の制御方法。
【請求項6】
上記内燃機関の温度は、燃焼室の壁面温度であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の内燃機関の制御方法。
【請求項7】
内燃機関の燃焼室内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁と、
上記燃料の燃料性状を検出する燃料性状検出部と、
上記内燃機関の温度を検出する温度検出部と、
上記内燃機関の温度が予め設定された所定の第1温度よりも低い場合、1燃焼サイクルにおける燃料噴射回数を上記第1温度以上のときよりも増加させる第1制御部と、
上記第1温度を上記燃料の燃料性状に応じて補正する第2制御部と、を有することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御方法及び内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、筒内噴射式内燃機関において、燃料性状が重質と判定された場合に、吸気行程で複数回に分割して噴射する際の分割噴射回数を多くすることが開示されている。
【0003】
特許文献1においては、燃料が重質燃料の場合に分割噴射回数を多くすることで、重質燃料と吸入空気のミキシング効果を高め、重質燃料の無化を向上させて、燃焼安定性を改善している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-291971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1においては、燃料噴射弁の噴射終了時に燃料噴射弁の先端(噴孔出口周辺)に付着する燃料(Tip-wet)に関する考慮がなされていない。
【0006】
特許文献1においては、燃料噴射弁の噴射終了時に燃料噴射弁の先端(噴孔出口周辺)に付着する燃料(Tip-wet)が多くなるような状況で分割噴射回数を増加させると、燃料噴射弁の先端(噴孔出口周辺)に付着する燃料の増加により排気中のPN(Particulate Number:排気微粒子量)の増加してしまう虞がある。
【0007】
つまり、内燃機関は、排気中のPNを低減するように燃料噴射弁の燃料噴射回数を制御するにあたって更なる改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の内燃機関は、燃焼室内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁を有し、上記燃料の燃料性状及び上記内燃機関の温度を検出し、上記内燃機関の温度が予め設定された所定の第1温度よりも低い場合、1燃焼サイクルにおける燃料噴射回数を上記第1温度以上のときよりも増加させるとともに、上記第1温度を上記燃料の燃料性状に応じて補正することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の内燃機関は、燃料性状に応じて1燃焼サイクル中の燃料噴射回数を決定することで、内燃機関の排気中のPNを効果的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明が適用される内燃機関の概略を模式的に示した説明図。
図2】燃料噴射弁の先端温度の温度特性を模式的に示した説明図であって、(a)はシリンダの壁面温度に対する燃料噴射弁の先端温度の特性を示し、(b)は燃料の蒸発割合に対する燃料噴射弁の先端温度の燃料性状毎の特性を示している。
図3】シリンダの壁面温度に対するPN及び1燃焼サイクル当たりの燃料の噴射回数の関係を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明が適用される内燃機関1の概略を模式的に示した説明図である。なお、図1は、便宜上、1つの気筒についてのみ記しているが、内燃機関1は単気筒であっても多気筒であってもよい。
【0012】
内燃機関1は、筒内直接噴射式火花点火内燃機関であって、自動車等の車両に搭載されるものである。
【0013】
内燃機関1は、吸気通路3と排気通路4とを有している。吸気通路3は、吸気弁5を介して燃焼室2に接続されている。排気通路4は、排気弁6を介して燃焼室2に接続されている。排気通路4には、三元触媒等の排気浄化用触媒14が設けられている。排気浄化用触媒14は、例えば排気マニホールドの集合部に設けられたいわゆるマニホールド触媒である。
【0014】
また、内燃機関1は、シリンダヘッド7と、シリンダブロック8と、シリンダブロック8のシリンダ9内を往復動するピストン10と、筒内となる燃焼室2内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁11と、を有している。
【0015】
ピストン10は、コネクティングロッド12を介して図示せぬクランクシャフトと連結されている。
【0016】
燃料噴射弁11は、ノズル先端に複数の噴射口(図示せず)を有している。燃料噴射弁11から噴射された燃料は、燃焼室2内で点火プラグ13により点火される。
【0017】
燃料噴射弁11の燃料噴射量、燃料噴射弁11の燃料噴射時期、点火プラグ13の点火時期、燃料噴射弁11に供給される燃料の圧力等は、制御部としてのコントロールユニット21によって制御される。
【0018】
コントロールユニット21は、CPU、ROM、RAM及び入出力インターフェースを備えた周知のデジタルコンピュータである。
【0019】
コントロールユニット21には、吸入空気量を検出するエアフローメータ22、クランクシャフトのクランク角を検出するクランク角センサ23、アクセルペダルの踏込量を検出するアクセル開度センサ24、内燃機関1の冷却水温度を検出する水温センサ25、内燃機関1の潤滑油温度を検出する油温センサ26、燃料噴射弁11のノズル先端の温度を検出する先端温度センサ27、排気浄化用触媒14上流側の排気中のPN(Particulate Number)を検出するPNセンサ28等の各種センサ類の検出信号が入力されている。
【0020】
コントロールユニット21は、アクセル開度センサ24の検出値を用いて、内燃機関1の要求負荷(エンジン負荷)が算出する。
【0021】
エアフローメータ22は、例えば、温度センサを内蔵したものであって、吸気温度を検出可能なものである。
【0022】
クランク角センサ23は、内燃機関1の機関回転数を検出可能なものである。
【0023】
なお、燃料噴射弁11のノズル先端の温度は、例えば、燃料噴射弁11のノズル先端温度に影響を与える各種のパラメータを用いて推定してもよい。
【0024】
コントロールユニット21は、各種センサ類の検出信号に基づいて、燃料噴射弁11の燃料噴射量、燃料噴射時期及び点火時期、1燃焼サイクル中の燃料噴射弁11から燃料の噴射回数等を最適に制御している。
【0025】
また、コントロールユニット21は、例えば、水温センサ25や油温センサ26の検出信号に基づいて、燃焼室2の壁面温度やシリンダ9の壁面温度を推定可能となっている。つまり、コントロールユニット21は、温度検出部に相当する。
【0026】
燃料噴射弁11は、筒内噴射用であるため、噴孔直前における燃料温度がある温度よりも高いと、高温高圧の燃料が噴孔を通して低い圧力に晒されたときに、燃料の瞬間的な沸騰つまり「フラッシュボイリング」が生じる。換言すると、筒内噴射用である燃料噴射弁11は、先端温度が所定温度範囲内にある場合にフラッシュボイリングが生じる。
【0027】
図2は、燃料噴射弁11の先端温度(INJ温度)の温度特性を模式的に示した説明図である。図2(a)は、シリンダ9の壁面温度(壁温)に対する燃料噴射弁11の先端温度(INJ温度)の特性を示している。なお、シリンダ9の壁面温度は、換言すれば内燃機関1の温度あるいは燃焼室2の壁面温度である。図2(b)は、燃料噴射弁11から噴射される燃料の蒸発割合に対する燃料噴射弁11の先端温度(INJ温度)の燃料性状毎の特性を示している。図2(b)において、蒸発割合がR1からR2の間の領域がフラッシュボイリング発生領域となる。R1は、R2よりも大きい値である。図2(b)の特性線Aは、燃料噴射弁11から噴射される燃料がBase燃料(例えばガソリン)の場合の燃料噴射弁11の先端温度(INJ温度)の温度特性を示している。図2(b)の特性線Bは、燃料噴射弁11から噴射される燃料が軽質燃料の場合の燃料噴射弁11の先端温度(INJ温度)の温度特性を示している。図2(b)の特性線Cは、燃料噴射弁11から噴射される燃料が重質燃料の場合の燃料噴射弁11の先端温度(INJ温度)の温度特性を示している。
【0028】
軽質燃料は、例えばエタノールのようにベース燃料よりも揮発性が高い燃料である。重質燃料は、例えばアロマ成分が多い燃料であり、ベース燃料よりも揮発性が低い燃料である。
【0029】
燃料噴射弁11から噴射される燃料の揮発性に関する燃料性状は、例えばPNセンサ28の検出値を用いてコントロールユニット21で判定可能である。例えば、PNセンサ28で検出されたPNが基準値(例えばBase燃料の場合のPN)よりも多い場合には、重質燃料と判定する。また、例えば、PNセンサ28で検出されたPNが基準値(例えばBase燃料の場合のPN)よりも少ない場合には、軽質燃料と判定する。つまり、コントロールユニット21は、燃料性状検出部に相当する。
【0030】
燃料噴射弁11の先端温度は、図2(a)に示すように、内燃機関1の運転状態によらず、シリンダ9の壁面温度が高くなるほど高くなる。つまり、燃料噴射弁11の先端温度は、内燃機関1の温度に比例して高くなる。
【0031】
燃料噴射弁11から噴射された燃料の蒸発割合は、図2(b)に示すように、燃料噴射弁11の先端温度(INJ温度)が高くなるほど高くなる。
【0032】
また、燃料噴射弁11から噴射された燃料は、燃料噴射弁11の先端温度が同一温度であれば、燃料性状が軽質なほど蒸発割合が高くなる。
【0033】
つまり、特性線Bで示すように、軽質燃料は、特性線Aで示すBase燃料に比べて、蒸発割合が高く、揮発性が高くなっている。特性線Cで示すように、重質燃料は、特性線Aで示すBase燃料に比べて、蒸発割合が低く、揮発性が低くなっている。
【0034】
また、燃料性状が軽質になるほど燃料噴射弁11の先端温度(INJ温度)が同一温度であれば蒸発割合が高くなるため、フラッシュボイリングが発生する燃料噴射弁11の先端温度(INJ温度)の温度域は、燃料性状が軽質なほど低くなる。
【0035】
Base燃料は、燃料噴射弁11の先端温度(INJ温度)が所定温度T2以上で所定温度T3未満となる温度領域でフラッシュボイリングが発生する。軽質燃料は、燃料噴射弁11の先端温度(INJ温度)が所定温度T1以上で所定温度T2未満となる温度領域でフラッシュボイリングが発生する。重質燃料は、燃料噴射弁11の先端温度(INJ温度)が温度所定T3以上で所定温度T4未満となる温度領域でフラッシュボイリングが発生する。ここで、所定温度の関係は、図2に示すように、所定温度T1<所定温度T2<所定温度T3<所定温度T4である。
【0036】
フラッシュボイリングが生じると、燃料噴射弁11から噴射された燃料は、燃料噴射弁11の噴孔を出た瞬間に少なくとも一部が気化して膨張する。つまり、フラッシュボイリングが生じると、噴孔から細い円錐状に噴出する個々の噴霧は、太く拡がろうとする。
【0037】
この結果、燃料噴射弁11は、フラッシュボイリングが生じると、噴射終了時に先端(噴孔出口周辺)に付着する燃料(Tip-wet)が増加する。詳述すると、噴射終了時に燃料噴射弁11の先端に付着する燃料(Tip-wet)は、燃料噴射弁11の先端温度が上記所定温度範囲内ある場合に極大値をとる。
【0038】
また、噴射終了時に燃料噴射弁11の先端に付着する燃料は、排気に含まれる排気微粒子の性能指標の一つであるPN(Particulate Number:排気微粒子量)の増加に寄与する。従って、内燃機関1にあっては、燃料噴射弁11の先端温度が上記所定温度範囲内にあるときにPNを低減することが求められる。
【0039】
図3は、シリンダ9の壁面温度に対するPN及び1燃焼サイクル当たりの燃料の噴射回数の関係を示す説明図である。ここで、1燃焼サイクルとは、吸気、圧縮、燃焼及び排気の4つの行程からなるサイクルである。
【0040】
燃料噴射弁11の先端に付着する液状の燃料(Tip-wet)が火炎に晒されて発生するパティキュレート量(排気微粒子量)である「Tip wet PN」は、図3に示すように、極大値となる温度範囲が燃料性状に応じて変化する。
【0041】
「Tip wet PN」は、燃料噴射弁11から噴射される燃料がBase燃料の場合、図3中の特性線A1に示すように、シリンダ9の壁面温度が所定温度T2以上で所定温度T3未満となる温度領域で極大値をとる。つまり、燃料がBase燃料の場合には、シリンダ9の壁面温度が所定温度T2以上で所定温度T3未満となる温度領域が上記所定温度範囲内となる。
【0042】
「Tip wet PN」は、燃料噴射弁11から噴射される燃料が軽質燃料の場合、図3中の特性線B1に示すように、シリンダ9の壁面温度が所定温度T1以上で所定温度T2未満となる温度領域で極大値をとる。つまり、燃料が軽質燃料の場合には、シリンダ9の壁面温度が所定温度T1以上で所定温度T3未満となる温度領域が上記所定温度範囲内となる。
【0043】
「Tip wet PN」は、燃料噴射弁11から噴射される燃料が重質燃料の場合、図3中の特性線C1に示すように、シリンダ9の壁面温度が所定温度T3以上で所定温度T4未満となる温度領域で極大値をとる。つまり、燃料が重質燃料の場合には、シリンダ9の壁面温度が所定温度T3以上で所定温度T4未満となる温度領域が上記所定温度範囲内となる。
【0044】
燃焼室2の壁面に付着した液状燃料が火炎に晒されて発生するパティキュレート量である付着PNは、図3中の特性線A2、B2、C2に示すように、シリンダ9の壁面温度が高くなるほど少なくなる。
【0045】
図3中の特性線A2は、燃料噴射弁11から噴射される燃料がBase燃料の場合の付着PNの温度特性を示している。図3中の特性線B2は、燃料噴射弁11から噴射される燃料が軽質燃料の場合の付着PNの温度特性を示している。図3中の特性線C2は、燃料噴射弁11から噴射される燃料が重質燃料の場合の付着PNの温度特性を示している。
【0046】
付着PNは、燃料噴射弁11から噴射される燃料の燃料性状が軽質燃料の場合、図3中の特性線B2に示すように、Base燃料の場合(特性線A2)よりも少なくなる。また、付着PNは、燃料噴射弁11から噴射される燃料の燃料性状が重質燃料の場合、図3中の特性線C2に示すように、Base燃料の場合(特性線A2)よりも多くなる。
【0047】
内燃機関1が低温時に排気中のPNを改善(低減)するためには、燃焼室2の壁面に付着する燃料を低減するために、1燃焼サイクル中の燃料噴射回数を多くして噴射された燃料のペネトレーションを抑制する。
【0048】
高温時に排気中のPNを改善(低減)するためには、噴射終了時に燃料噴射弁11の先端に付着する燃料(Tip-wet)を低減するために、1燃焼サイクル中の燃料噴射回数を少なくする。
【0049】
図3中の特性線A3、B3、C3は、シリンダ9の壁面温度に応じて変化する1燃焼サイクル中の燃料噴射回数を示している。特性線A3は、燃料噴射弁11から噴射される燃料がBase燃料の場合を示している。特性線B3は、燃料噴射弁11から噴射される燃料が軽質燃料の場合を示している。特性線C3は、燃料噴射弁11から噴射される燃料が重質燃料の場合を示している。
【0050】
内燃機関1は、1燃焼サイクル中に複数回の燃料噴射を行う場合、全ての燃料噴射を1燃焼サイクル中の吸気行程から圧縮行程前半までに終了して均質燃焼を行う。ここで、内燃機関1は、1燃焼サイクル中に複数回の燃料噴射を行う場合、1燃焼サイクル中に行う複数回の燃料噴射のうち最後の燃料噴射を点火直前に行って燃焼形態を弱成層燃焼としてもよい。
【0051】
なお、図3中のT1は、図2中のT1と同じ値である。図3中のT2は、図2中のT2と同じ値である。図3中のT3は、図2中のT3と同じ値である。図3中のT4は、図2中のT4と同じ値である。
【0052】
図2及び図3に示すように、燃料性状がBase燃料よりも揮発性の高い軽質な燃料の場合には、フラッシュボイリングが発生する温度範囲がBase燃料でフラッシュボイリングが発生する温度範囲よりも低温化する。また、燃料性状がBase燃料よりも揮発性の低い重質な燃料の場合には、フラッシュボイリングが発生する温度範囲がBase燃料でフラッシュボイリングが発生する温度範囲よりも高温化する。
そこで、内燃機関1は、燃料噴射弁11から噴射される燃料がBase燃料の場合、シリンダ9の壁面温度が第1温度よりも低ければ1燃焼サイクル中に4回の燃料噴射を行い、シリンダ9の壁面温度が第1温度以上かつ第2温度以下であれば1燃焼サイクル中に3回の燃料噴射を行い、シリンダ9の壁面温度が第2温度よりも高ければ1燃焼サイクル中に2回の燃料噴射を実施する。
【0053】
つまり、内燃機関1は、燃料噴射弁11から噴射される燃料がBase燃料の場合、シリンダ9の壁面温度が所定温度T2よりも低ければ1燃焼サイクル中に4回の燃料噴射を行い、シリンダ9の壁面温度が所定温度T2以上かつ所定温度T3以下であれば1燃焼サイクル中に3回の燃料噴射を行い、シリンダ9の壁面温度が所定温度T3よりも高ければ1燃焼サイクル中に2回の燃料噴射を実施する。また、内燃機関1は、燃料噴射弁11から噴射される燃料が軽質燃料の場合、シリンダ9の壁面温度が所定温度T1よりも低ければ1燃焼サイクル中に4回の燃料噴射を行い、シリンダ9の壁面温度が所定温度T1以上かつ所定温度T2以下であれば1燃焼サイクル中に3回の燃料噴射を行い、シリンダ9の壁面温度が所定温度T2よりも高ければ1燃焼サイクル中に2回の燃料噴射を実施する。そして、内燃機関1は、燃料噴射弁11から噴射される燃料が重質燃料の場合、シリンダ9の壁面温度が所定温度T3よりも低ければ1燃焼サイクル中に4回の燃料噴射を行い、シリンダ9の壁面温度が所定温度T3以上かつ所定温度T4以下であれば1燃焼サイクル中に3回の燃料噴射を行い、シリンダ9の壁面温度が所定温度T4よりも高ければ1燃焼サイクル中に2回の燃料噴射を実施する。
【0054】
換言すると、上述した実施例の内燃機関1において、第1制御部及び第2制御部に相当するコントロールユニット21は、シリンダ9の壁面温度がフラッシュボイリングの発生する上記所定温度範囲の下限値である第1温度よりも低い場合、1燃焼サイクルにおける燃料噴射回数をフラッシュボイリングが発生する上記所定温度範囲の下限値である第1温度以上のときよりも増加させるとともに、上記所定温度範囲の下限値である第1温度を燃料噴射弁11から噴射する燃料の燃料性状に応じて補正する。
【0055】
すなわち、内燃機関1は、燃料噴射弁11から噴射される燃料がBase燃料の場合には、シリンダ9の壁面温度が所定温度T2よりも低い場合、1燃焼サイクルにおける燃料噴射回数を所定温度T2以上のときよりも増加させる。内燃機関1は、燃料噴射弁11から噴射される燃料が軽質燃料の場合には、シリンダ9の壁面温度が所定温度T1よりも低い場合、1燃焼サイクルにおける燃料噴射回数を所定温度T1以上のときよりも増加させる。また、内燃機関1は、燃料噴射弁11から噴射される燃料が重質燃料の場合には、シリンダ9の壁面温度が所定温度T3よりも低い場合、1燃焼サイクルにおける燃料噴射回数を所定温度T3以上のときよりも増加させる。
【0056】
このように内燃機関1は、燃料性状に応じて1燃焼サイクル中の燃料噴射回数を決定することで、内燃機関1の排気中のPNを効果的に低減することができる。
【0057】
また、上述した実施例の内燃機関1は、シリンダ9の壁面温度が予め設定された所定の第1温度よりも高く、フラッシュボイリングの発生する上記所定温度範囲の上限値である所定の第2温度よりも高い場合、1燃焼サイクルにおける燃料噴射回数を上記第2温度以下のときよりも減少させるとともに、上記第2温度を上記燃料の燃料性状に応じて補正する。
【0058】
すなわち、内燃機関1は、燃料噴射弁11から噴射される燃料がBase燃料の場合には、シリンダ9の壁面温度が所定温度T3よりも高い場合、1燃焼サイクルにおける燃料噴射回数を所定温度T3以下のときよりも減少させる。内燃機関1は、燃料噴射弁11から噴射される燃料が軽質燃料の場合には、シリンダ9の壁面温度が所定温度T2よりも高い場合、1燃焼サイクルにおける燃料噴射回数を所定温度T2以下のときよりも減少させる。また、内燃機関1は、燃料噴射弁11から噴射される燃料が重質燃料の場合には、シリンダ9の壁面温度が所定温度T4よりも高い場合、1燃焼サイクルにおける燃料噴射回数を所定温度T4以下のときよりも増加させる。
【0059】
内燃機関1は、燃料性状に応じて1燃焼サイクル中の燃料噴射回数を決定することで、内燃機関1の排気中のPNを効果的に低減することができる。
【0060】
フラッシュボイリングの発生する上記所定温度範囲の下限値である第1温度とフラッシュボイリングの発生する上記所定温度範囲の上限値である第2温度は、燃料性状が軽質になるほど、低くなるよう設定されている。
【0061】
すなわち、フラッシュボイリングの発生する上記所定温度範囲の下限値である第1温度は、重質燃料の場合は所定温度T3であり、Base燃料の場合に所定温度T3よりも低い所定温度T2であり、軽質燃料の場合は所定温度T2よりも低い所定温度T1である。また、フラッシュボイリングの発生する上記所定温度範囲の上限値である第2温度は、重質燃料の場合は所定温度T4であり、Base燃料の場合に所定温度T4よりも低い所定温度T3であり、軽質燃料の場合は所定温度T3よりも低い所定温度T2ある。
【0062】
燃料噴射弁11から噴射される燃料は、燃料性状が軽質になるほどフラッシュボイリングが発生する上記所定温度範囲が低温化する。
【0063】
これによって、内燃機関1は、燃料性状に応じてフラッシュボイリングが発生する上記所定温度範囲を補正することで、内燃機関1の排気中のPNを一層効果的に低減することができる。
【0064】
フラッシュボイリングの発生する上記所定温度範囲の下限値である第1温度とフラッシュボイリングの発生する上記所定温度範囲の上限値である第2温度は、燃料性状が重質になるほど、高くなるよう設定されている。
【0065】
すなわち、フラッシュボイリングの発生する上記所定温度範囲の下限値である第1温度は、軽質燃料の場合は所定温度T1であり、Base燃料の場合に所定温度T1よりも高い所定温度T2であり、重質燃料の場合は所定温度T2よりも高い所定温度T3である。また、フラッシュボイリングの発生する上記所定温度範囲の上限値である第2温度は、軽質燃料の場合は所定温度T2であり、Base燃料の場合に所定温度T2よりも高い所定温度T3であり、重質燃料の場合は所定温度T3よりも高い所定温度T4ある。
【0066】
燃料噴射弁11から噴射される燃料は、燃料性状が重質になるほどフラッシュボイリングが発生する上記所定温度範囲が高温化する。
【0067】
これによって、内燃機関1は、燃料性状に応じてフラッシュボイリングが発生する上記所定温度範囲を補正することで、内燃機関1の排気中のPNを一層効果的に低減することができる。
【0068】
以上、本発明の具体的な実施例を説明してきたが、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0069】
例えば、燃料噴射弁11から噴射される燃料の燃料性状は、PNセンサ28を用いる方法以外の周知の方法で判定するようにしてもよい。例えば、内燃機関1の始動時に、点火時期をノッキング限界まで進角させて、進角限界から燃料性状を推定するようにしてもよい。
【0070】
内燃機関1の1燃焼サイクル中の燃料噴射の回数は、上述した実施例の回数に限定されるものではなく、適宜変更可能である。例えば、シリンダ9の壁面温度が第1温度よりも低ければ1燃焼サイクル中に3回の燃料噴射を行い、シリンダ9の壁面温度が第1温度以上かつ第2温度以下であれば1燃焼サイクル中に2回の燃料噴射を行い、シリンダ9の壁面温度が第2温度よりも高ければ1燃焼サイクル中に1回の燃料噴射を実施するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1…内燃機関
2…燃焼室
3…吸気通路
4…排気通路
9…シリンダ
11…燃料噴射弁
13…点火プラグ
14…排気浄化用触媒
21…コントロールユニット
22…エアフローメータ
23…クランク角センサ
24…アクセル開度センサ
25…水温センサ
26…油温センサ
27…先端温度センサ
28…PNセンサ
図1
図2
図3