(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077670
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】セル多重インバータ
(51)【国際特許分類】
H02M 7/49 20070101AFI20240603BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20240603BHJP
H02J 3/26 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
H02M7/49
H02M7/48 R
H02M7/48 M
H02J3/26
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189746
(22)【出願日】2022-11-29
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-01-09
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2022年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 NEDO先導研究プログラム エネルギー・環境新技術先導研究プログラム、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】大井 一伸
【テーマコード(参考)】
5G066
5H770
【Fターム(参考)】
5G066DA06
5G066GA02
5G066GB02
5H770BA11
5H770CA01
5H770DA03
5H770DA23
5H770DA41
5H770EA01
5H770HA03Y
5H770HA05Y
5H770LA00X
5H770LA00Z
5H770LB07
(57)【要約】
【課題】交流系統の各相にスター結線で複数のセルを多重に接続したセル多重インバータにおいて、交流電圧に不平衡が生じた場合や意図的に不平衡な交流電圧を出力する場合でも、該当相にセルを投入する、該当相のみセル直流電圧を引き上げるといった必要をなくし、さらにコモンモード電流を抑制する。
【解決手段】相電圧検出信号v
U,v
V,v
Wまたは電圧指令値v
U*,v
V*,v
W*を系統周波数に同期した回転座標上の値と系統周波数と逆向きに回転する回転座標上の値に変換し直流成分を抽出する。直流成分である正相d軸成分V
1d,正相q軸成分V
1q,逆相d軸成分V
2d,逆相q軸成分V
2qに基づいて零相電圧d軸成分V
0d、零相電圧q軸成分V
0qを演算する。零相電圧d軸成分V
0d,零相電圧q軸成分V
0qに余弦波,正弦波を乗算して足し合わせ、電圧指令値v
U*,v
V*,v
W*に加算して補正電圧指令値v
U*’,v
V*’,v
W*’とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流系統の各相にスター結線で多重に接続した複数のセルと、基本波と同じ周波数の零相電圧を電圧指令値に重畳して補正電圧指令値を生成する補正電圧指令値生成部と、前記補正電圧指令値に基づいて前記セルのゲート信号を生成するゲート信号生成部と、を備えたセル多重インバータであって、
前記補正電圧指令値生成部は、
各相の前記補正電圧指令値の振幅差が小さくなるように、基本波と同じ周波数の前記零相電圧を前記電圧指令値に重畳することを特徴とするセル多重インバータ。
【請求項2】
交流系統の各相にスター結線で多重に接続した複数のセルと、基本波と同じ周波数の零相電圧を電圧指令値に重畳して補正電圧指令値を生成する補正電圧指令値生成部と、前記補正電圧指令値に基づいて前記セルのゲート信号を生成するゲート信号生成部と、を備えたセル多重インバータであって、
前記補正電圧指令値生成部は、
各相の前記補正電圧指令値の振幅に各相のセル台数をかけ各相で故障せず動作しているセル台数で除した値が、三相の間で差が小さくなるように基本波と同じ周波数の前記零相電圧を重畳することを特徴とするセル多重インバータ。
【請求項3】
前記補正電圧指令値生成部は、
系統の交流電圧に同期した位相ωtを出力する位相出力部と、
相電圧検出信号または前記電圧指令値、または、前記相電圧検出信号または前記電圧指令値に、各相のセル台数を各相で故障せず動作しているセル台数で除算した係数を乗算した値を系統周波数に同期した回転座標上の値に変換する第1dq変換器と、
前記相電圧検出信号または前記電圧指令値、または、前記相電圧検出信号または前記電圧指令値に各相のセル台数を各相で故障せず動作しているセル台数で除算した係数を乗算した値を、前記系統周波数と逆向きに回転する回転座標上の値に変換する第2dq変換器と、
前記第1dq変換器の出力から直流成分を抽出した正相d軸成分,正相q軸成分と、前記第2dq変換器の出力から直流成分を抽出した逆相d軸成分,逆相q軸成分に基づいて、各前記セルの交流側出力電圧を均一にする零相電圧d軸成分、零相電圧q軸成分を演算する演算器と、
前記零相電圧d軸成分にcosωtまたはsinωtを乗算する第1乗算器と、
前記第1乗算器でcosωtを乗算した場合は前記零相電圧q軸成分にsinωtを乗算し、前記第1乗算器でsinωtを乗算した場合は前記零相電圧q軸成分にcosωtを乗算する第2乗算器と、
前記第1乗算器の出力と前記第2乗算器の出力を加算する第1加算器と、
前記電圧指令値に前記第1加算器の出力を加算して補正電圧指令値として出力する第2加算器と、
を備えたことを特徴とする請求項1または2記載のセル多重インバータ。
【請求項4】
前記演算器は、(3)式に基づいて、前記零相電圧d軸成分と前記零相電圧q軸成分を算出することを特徴とする請求項3記載のセル多重インバータ。
【数3】
V
0d:零相電圧d軸成分
V
0q:零相電圧q軸成分
V
1d:正相電圧d軸成分
V
1q:正相電圧q軸成分
V
2d:逆相電圧d軸成分
V
2q:逆相電圧q軸成分
【請求項5】
前記演算器は、(4)式に基づいて、前記零相電圧d軸成分と前記零相電圧q軸成分を算出することを特徴とする請求項3記載のセル多重インバータ。
【数4】
V
0d:零相電圧d軸成分
V
0q:零相電圧q軸成分
V
1d:正相電圧d軸成分
V
1q:正相電圧q軸成分
V
2d:逆相電圧d軸成分
V
2q:逆相電圧q軸成分
【請求項6】
前記演算器は、(5)式に基づいて、前記零相電圧d軸成分と前記零相電圧q軸成分を算出することを特徴とする請求項3記載のセル多重インバータ。
【数5】
V
0d:零相電圧d軸成分
V
0q:零相電圧q軸成分
V
2d:逆相電圧d軸成分
V
2q:逆相電圧q軸成分
V
1:電圧正相成分
【請求項7】
前記補正電圧指令値生成部は、
前記逆相d軸成分V2d=V1d、かつ、前記逆相q軸成分がV2q=0の場合、前記零相電圧d軸成分V0d=-V1d/2、前記零相電圧q軸成分V0q=0とし、
前記逆相d軸成分V2d=-V1d/2、かつ、前記逆相q軸成分がV2q=-√3V1d/2の場合、前記零相電圧d軸成分V0d=V1d/4、前記零相電圧q軸成分V0q=√3V1d/4とし、
前記逆相d軸成分V2d=-V1d/2、かつ、前記逆相q軸成分がV2q=√3V1d/2の場合、前記零相電圧d軸成分V0d=V1d/4、前記零相電圧q軸成分V0q=-√3V1d/4とすることを特徴とする請求項6記載のセル多重インバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流系統の各相にスター結線で複数のセルを多重に接続したセル多重インバータに関する。
【背景技術】
【0002】
セル多重インバータの一例として、三相交流の系統に連系するシングルスター・ブリッジセル(SSBC)のモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器(MMCC)が知られている。また、MMCC-SSBCのフルブリッジセルの直流側に別途電源やDC/DCコンバータなどが接続された構成も知られている。
【0003】
この構成の主な例としては、例えば特許文献1にあるようなソリッドステート・トランスフォーマー(SST)がある。
図1にMMCC-SSBCとデュアルアクティブブリッジ(DAB)方式の双方向絶縁型DC/DCコンバータを組み合わせた1相あたりセル3台からなるSSTを示す。
【0004】
高圧の交流電力を直列接続したセルで直流電力に変換し、直流電力を高周波の交流電力に変換し、トランスで絶縁、整流することで直流電力に変換できる。逆向きの電力融通も可能である。SSTは高周波トランスを用いるため、従来の商用周波数トランスよりも小型にできる。
【0005】
また、別の用途としては特許文献2の高圧多重インバータも該当する。
【0006】
SSTで不平衡な三相交流系統に連系する場合、あるいは高圧多重インバータで意図的に不平衡な三相交流電圧を出力する場合では、ある相の相電圧振幅が増加し該当相に接続されるセルが出力すべき交流電圧も増加する。
【0007】
これに対応するためには、セルの直流電圧を増加する必要があるが、部品に要求される耐圧も増加する必要が生じてしまいコストやサイズ増加の原因となる。セルに耐圧の大きなスイッチングデバイスを使用すれば損失が増加する原因にもなる。
【0008】
また、装置によっては一部のセルが故障しても運転継続を求められる場合がある。
【0009】
特許文献1はSSTの主回路構成が、特許文献2は高圧多重インバータの構成が開示されている。
【0010】
特許文献3,4はセルが故障した際に運転を継続するための方法が開示されている。両方の文献にて最初に故障したセルの短絡を行う。ただし、これだけでは故障セルのある相の出力できる交流電圧振幅が低下してしまう。そこで、特許文献3では該当相にあらかじめ用意した予備セルを投入する。特許文献4では該当相の故障していないセルの直流電圧を増加する。
【0011】
特許文献5,6はMMCC-SSBCにおいて零相電圧を用いることで電圧不平衡に対応する技術が開示されている。この技術の目的は、各セルのコンデンサ電圧をバランスさせることである。
【0012】
特許文献7はセル多重を行わない単機の3相インバータの電圧指令値に零相電圧を重畳することで、電圧指令値のピークを下げる技術である。不平衡な三相交流電圧を出力する場合にも対応でき、各相の電圧指令値ピークを等しくすることができる。特許文献7の技術は、MMCC-SSBCや高圧多重インバータに適用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平10-75580号公報
【特許文献2】特開平11-122943号公報
【特許文献3】特開2012-147613号公報
【特許文献4】WO2017/094379 A1
【特許文献5】特開2013-5694号公報
【特許文献6】特開2021-19481号公報
【特許文献7】特開平3-107373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1,2では不平衡な系統への連系や不平衡電圧の出力、セルが故障したときの対処法は特に言及されていない。
【0015】
特許文献3では予備セルを装置に組み込む必要があり、また予備セルを投入するためのスイッチも必要になるため、コストやサイズが増加してしまう。故障が起こらなければ予備セルは使用されず、無駄になることもあり得る。
【0016】
特許文献4では該当相の他のセルの直流電圧を増加するため、それを踏まえたセルの設計が必要となりコストやサイズ、損失増加の問題が生じる。また、特許文献3,4ともに電圧不平衡への対応方法は記載されていない。
【0017】
特許文献5,6では各セルの直流側にはコンデンサのみが接続され無効電力補償装置など有効電力を扱わない用途が想定されている。しかし、高圧多重インバータやSSTでは別途有効電力の通過経路を有するため、この経路を用いてセル間の電力融通を行い、コンデンサ電圧をバランスさせることができる。そのため、特許文献5,6の技術の重要性は低下する。また、特許文献5,6ともにセルの故障への対応方法は記載されていない。
【0018】
特許文献7では、零相電圧として3の奇数倍の高調波を重畳する。しかし、重畳する零相電圧の周波数が高いほど回路の浮遊容量を通して大きなコモンモード電流が流れてしまう。これにより、部品の発熱増加、効率低下、地絡検出器の誤動作、高周波トランスの絶縁破壊、他の機器への電磁障害といった多くの問題を引き起こす恐れがある。そのため、重畳する零相電圧の周波数を下げる必要がある。また、特許文献7もセルの故障への対応方法は記載されていない。
【0019】
以上示したようなことから、交流系統の各相にスター結線で複数のセルを多重に接続したセル多重インバータにおいて、交流電圧に不平衡が生じた場合や意図的に不平衡な交流電圧を出力する場合でも、該当相にセルを投入する、該当相のみセルの直流電圧を引き上げるといった必要をなくし、さらにコモンモード電流を抑制することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、その一態様は、交流系統の各相にスター結線で多重に接続した複数のセルと、基本波と同じ周波数の零相電圧を電圧指令値に重畳して補正電圧指令値を生成する補正電圧指令値生成部と、前記補正電圧指令値に基づいて前記セルのゲート信号を生成するゲート信号生成部と、を備えたセル多重インバータであって、前記補正電圧指令値生成部は、各相の前記補正電圧指令値の振幅差が小さくなるように、基本波と同じ周波数の前記零相電圧を前記電圧指令値に重畳することを特徴とする。
【0021】
また、他の態様として、交流系統の各相にスター結線で多重に接続した複数のセルと、基本波と同じ周波数の零相電圧を電圧指令値に重畳して補正電圧指令値を生成する補正電圧指令値生成部と、前記補正電圧指令値に基づいて前記セルのゲート信号を生成するゲート信号生成部と、を備えたセル多重インバータであって、前記補正電圧指令値生成部は、各相の前記補正電圧指令値の振幅に各相のセル台数をかけ各相で故障せず動作しているセル台数で除した値が、三相の間で差が小さくなるように基本波と同じ周波数の前記零相電圧を重畳することを特徴とする。
【0022】
また、その一態様として、前記補正電圧指令値生成部は、系統の交流電圧に同期した位相ωtを出力する位相出力部と、相電圧検出信号または前記電圧指令値、または、前記相電圧検出信号または前記電圧指令値に、各相のセル台数を各相で故障せず動作しているセル台数で除算した係数を乗算した値を系統周波数に同期した回転座標上の値に変換する第1dq変換器と、前記相電圧検出信号または前記電圧指令値、または、前記相電圧検出信号または前記電圧指令値に各相のセル台数を各相で故障せず動作しているセル台数で除算した係数を乗算した値を、前記系統周波数と逆向きに回転する回転座標上の値に変換する第2dq変換器と、前記第1dq変換器の出力から直流成分を抽出した正相d軸成分,正相q軸成分と、前記第2dq変換器の出力から直流成分を抽出した逆相d軸成分,逆相q軸成分に基づいて、各前記セルの交流側出力電圧を均一にする零相電圧d軸成分、零相電圧q軸成分を演算する演算器と、前記零相電圧d軸成分にcosωtまたはsinωtを乗算する第1乗算器と、前記第1乗算器でcosωtを乗算した場合は前記零相電圧q軸成分にsinωtを乗算し、前記第1乗算器でsinωtを乗算した場合は前記零相電圧q軸成分にcosωtを乗算する第2乗算器と、前記第1乗算器の出力と前記第2乗算器の出力を加算する第1加算器と、前記電圧指令値に前記第1加算器の出力を加算して補正電圧指令値として出力する第2加算器と、を備えたことを特徴とする。
【0023】
また、その一態様として、前記演算器は、(3)式に基づいて、前記零相電圧d軸成分と前記零相電圧q軸成分を算出することを特徴とする。
【0024】
【0025】
V0d:零相電圧d軸成分
V0q:零相電圧q軸成分
V1d:正相電圧d軸成分
V1q:正相電圧q軸成分
V2d:逆相電圧d軸成分
V2q:逆相電圧q軸成分。
【0026】
また、他の態様として、前記演算器は、(4)式に基づいて、前記零相電圧d軸成分と前記零相電圧q軸成分を算出することを特徴とする。
【0027】
【0028】
V0d:零相電圧d軸成分
V0q:零相電圧q軸成分
V1d:正相電圧d軸成分
V1q:正相電圧q軸成分
V2d:逆相電圧d軸成分
V2q:逆相電圧q軸成分。
【0029】
また、他の態様として、前記演算器は、(5)式に基づいて、前記零相電圧d軸成分と前記零相電圧q軸成分を算出することを特徴とする。
【0030】
【0031】
V0d:零相電圧d軸成分
V0q:零相電圧q軸成分
V2d:逆相電圧d軸成分
V2q:逆相電圧q軸成分
V1:電圧正相成分。
【0032】
また、その一態様として、前記補正電圧指令値生成部は、前記逆相d軸成分V2d=V1d、かつ、前記逆相q軸成分がV2q=0の場合、前記零相電圧d軸成分V0d=-V1d/2、前記零相電圧q軸成分V0q=0とし、前記逆相d軸成分V2d=-V1d/2、かつ、前記逆相q軸成分がV2q=-√3V1d/2の場合、前記零相電圧d軸成分V0d=V1d/4、前記零相電圧q軸成分V0q=√3V1d/4とし、前記逆相d軸成分V2d=-V1d/2、かつ、前記逆相q軸成分がV2q=√3V1d/2の場合、前記零相電圧d軸成分V0d=V1d/4、前記零相電圧q軸成分V0q=-√3V1d/4とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、交流系統の各相にスター結線で複数のセルを多重に接続したセル多重インバータにおいて、交流電圧に不平衡が生じた場合や意図的に不平衡な交流電圧を出力する場合でも、該当相にセルを投入する、該当相のみセルの直流電圧を引き上げるといった必要をなくし、さらにコモンモード電流を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図2】実施形態1の補正電圧指令値生成部を示すブロック図。
【
図3】実施形態2の補正電圧指令値生成部を示すブロック図。
【
図5】実施形態3の補正電圧指令値生成部を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本願発明におけるセル多重インバータの実施形態1~3を
図1~
図5に基づいて詳述する。
【0036】
[実施形態1]
まず、セル多重インバータの一例として、
図1に示すMMCC-SSBCの主回路構成を説明する。
【0037】
図1(a)に示すように、交流系統ACのU相には、リアクトルLuを介して、セルcellu1,セルcellu2、セルcellu3が直列接続される。同様に、交流系統ACのV相には、リアクトルLvを介して、セルcellv1,セルcellv2、セルcellv3が直列接続され、交流系統ACのW相には、リアクトルLwを介して、セルcellw1,セルcellw2、セルcellw3が直列接続される。ここで、交流の相電圧(相電圧検出信号)をv
U,v
V,v
Wとする。
【0038】
セルcellu1,セルcellu2、セルcellu3,セルcellv1,セルcellv2、セルcellv3,セルcellw1,セルcellw2、セルcellw3の直流端子は並列接続される。セルcellu1~cellw3の直流電圧をVDCとする。
【0039】
図1(b)にセル1台当たりの構成を示す。セルの一方の交流端子にはスイッチングデバイスS1,S3の一端が接続される。また、セルの他方の交流端子にはスイッチングデバイスS2,S4の一端が接続される。スイッチングデバイスS1,S2の他端は第1コンデンサC1の一端に接続される。スイッチングデバイスS3,S4の他端は第1コンデンサC1の他端に接続される。
【0040】
第1コンデンサC1の一端と他端との間にはスイッチングデバイスS5,S7が直列接続される。また、第1コンデンサC1の一端と他端との間にはスイッチングデバイスS6,S8が直列接続される。
【0041】
スイッチングデバイスS5,S7の接続点にはリアクトルL1の一端が接続される。スイッチングデバイスS6,S8の接続点にはリアクトルL2の一端が接続される。リアクトルL1の他端とリアクトルL2の他端との間にはトランスTrの一次巻線が接続される。
【0042】
セルの一方の直流端子と他方の直流端子との間には第2コンデンサC2が接続される。第2コンデンサC2の一端と他端との間にはスイッチングデバイスS9,S11が直列接続される。また、第2コンデンサC2の一端と他端との間にはスイッチングデバイスS10,S12が直列接続される。
【0043】
スイッチングデバイスS9,S11の接続点にはリアクトルL3の一端が接続される。スイッチングデバイスS10,S12の接続点にはリアクトルL4の一端が接続される。リアクトルL3の他端とリアクトルL4の他端との間にはトランスTrの二次巻線が接続される。なお、
図1(b)のリアクトルL1~L4は省略してもよい。
【0044】
図2に本実施形態1の補正電圧指令値生成部のブロック図を示す。本実施形態1は、各セルの電力責務を均等にする必要がない用途において、各セルの電圧責務を均等にする。
【0045】
位相出力部(例えば、PLL:Phase-Locked Loop)1は、交流系統ACの相電圧検出信号vU,vV,vWから系統の交流電圧に同期した位相ωtを出力する。
【0046】
相電圧検出信号vU,vV,vWは線間電圧を検出し計算により相電圧に変換してもよい。また、相電圧検出信号vU,vV,vWの代わりに、後述する電圧指令値vU*,vV*,vW*を位相出力部1に入力してもよい。さらに、位相出力部1に入力する系統交流電圧は、代表の1相のみでもよい。
【0047】
高圧多重インバータのモータドライブ用途では、ロータリーエンコーダやレゾルバなどから位相ωtを検出してもよく、オブザーバなどで推定した位相ωtを用いてもよい。以下、位相出力部1はPLL1を示す。
【0048】
第1ローパスフィルタ2は、相電圧検出信号vU,vV,vW(電圧指令値vU*,vV*,vW*)からスイッチングノイズなどを除去する。
【0049】
第1dq変換器3は、第1ローパスフィルタ2を適用した相電圧検出信号vU,vV,vWを位相ωtに基づいて、系統周波数に同期した回転座標上の値に変換する。
【0050】
第2ローパスフィルタ4,5は、第1dq変換器3の出力から直流成分のみを抽出する。第2ローパスフィルタ4,5の出力のうちd軸成分が相電圧検出信号vU,vV,vWの正相d軸成分V1d、q軸成分が正相q軸成分V1qとなる。PLL1が正常に動作していれば第2ローパスフィルタ5出力の正相q軸成分V1qは零であるため、使用しない。
【0051】
第2dq変換器6は、第1ローパスフィルタ2を適用した相電圧検出信号vU,vV,vWを位相-ωtに基づいて、系統の周波数とは逆向きに回転する回転座標上の値に変換する。
【0052】
第3ローパスフィルタ7,8は、第2dq変換器6の出力から直流成分のみを抽出する。第3ローパスフィルタ7,8の出力は、それぞれ相電圧検出信号vU,vV,vWの逆相d軸成分V2d,逆相q軸成分V2qとなる。
【0053】
演算器9は、得られた正相d軸成分V1d,正相q軸成分V1q,逆相d軸成分V2d,逆相q軸成分V2qから後述する(3)式を用いて零相電圧d軸成分V0d,零相電圧q軸成分V0qを求める。(3)式の代わりに(4)式や(5)式を用いて零相電圧d軸成分V0dと零相電圧q軸成分V0qを求めてもよい。この演算器9では、交流電圧の正相成分と逆相成分の振幅がほぼ等しい場合にはV0d=V0q=0を出力する。
【0054】
発振器10は、位相ωtから正弦波sinωt,余弦波cosωtを出力する。
【0055】
第1乗算器11は、零相電圧d軸成分V0dと余弦波cosωtの積を求める。第2乗算器12は、零相電圧q軸成分V0qと正弦波sinωtの積を求める。
【0056】
第1加算器13は、第1乗算器11が出力するV0dcosωtと第2乗算器12が出力するV0qsinωtの和を求める。
【0057】
第2加算器14,15,16は、電圧指令値vU*,vV*,vW*それぞれに、第1加算器13で求めたV0dcosωt+V0qsinωtを加算する。電圧指令値vU*,vV*,vW*は固定の正弦波として与えられる場合、電圧や電流のフィードバック制御により得られる場合がある。第2加算器14,15,16の出力vU*’,vV*’,vW*’が補正電圧指令値である。
【0058】
補正電圧指令値vU*’,vV*’,vW*’は、後段(ゲート信号生成部)でキャリア三角波比較などによりゲート信号(オンオフ指令信号)を生成し、各セルのスイッチングデバイスに入力される。
【0059】
本実施形態1では、各相の補正電圧指令値vU*’,vV*’,vW*’の振幅が等しく(差が小さく)なるように、三相の電圧指令値vU*,vV*,vW*に基本波と同じ周波数の零相電圧を重畳する。そのために必要な零相電圧を計算により求める。電圧指令値vU*,vV*,vW*が交流相電圧(相電圧検出信号)vU,vV,vWにほぼ等しいと仮定し、交流相電圧(相電圧検出信号)vU,vV,vWを以下の(1)式のように定義する。
【0060】
【0061】
ここで、V1dは交流電圧の正相d軸成分、V2dは逆相d軸成分、V2qは逆相q軸成分である。V1qは正相q軸成分であるが、PLL1が正常に動作していれば零である。
【0062】
V0d,V0qは本実施形態1により重畳する零相電圧d軸成分、零相電圧q軸成分である。目的は定義した交流電圧の振幅を等しくすることであるため、(2)式を満たす零相電圧d軸成分V0d,零相電圧q軸成分V0qを求める。
【0063】
【0064】
この方程式を解くと、(3)式が得られる。
【0065】
【0066】
正相q軸成分V1qが零に近ければ、(3)式は(4)式に近似できる。
【0067】
【0068】
正相q軸成分V1qが零に等しければ、(3)式は(5)式に簡略化できる。(5)式においてV1は交流電圧の正相成分を示す。
【0069】
【0070】
本実施形態1は、(3)式に基づき必要な零相電圧d軸成分V0d,零相電圧q軸成分V0qを計算し電圧指令値vU*,vV*,vW*に重畳する。まず、交流の相電圧検出信号vU,vV,vWを検出し、または電圧指令値vU*,vV*,vW*を直接入力し、系統周波数に同期した回転座標上の値に変換して直流成分を取り出すことで正相d軸成分V1d,正相q軸成分V1qを得る。また、系統周波数とは逆向きに回転する回転座標上の値から直流成分を取り出すことで逆相d軸成分V2d,逆相q軸成分V2qを得られる。
【0071】
後は(3)式を用いて零相電圧d軸成分V0d,零相電圧q軸成分V0qを計算し、それぞれ余弦波cosωt,正弦波sinωtとの積から重畳すべき零相電圧を求め、電圧指令値vU*,vV*,vW*に加算する。系統連系用途では、PLLが正常に動作していれば正相q軸成分V1qは零であるため、(4)式や(5)式を用いて零相電圧d軸成分V0d,零相電圧q軸成分V0qを計算してもよい。
【0072】
(3)式,(4)式,(5)式では分母が零の場合、すなわち正相電圧と逆相電圧の振幅が等しい場合は解を持たず、各相の電圧指令値vU*,vV*,vW*の振幅を等しくすることができない。そのため、正相電圧と逆相電圧の振幅がほぼ等しい場合は零相電圧d軸成分V0d,零相電圧q軸成分V0qを零に設定する。
【0073】
本実施形態1により、MMCC-SSBCを始めスター結線のセル多重インバータにおいて、交流電圧に不平衡が生じた場合、あるいは意図的に不平衡な交流電圧を出力する場合でもセルの交流出力電圧を均等にできる。これにより、ある相の電圧振幅が増加した場合でも該当相にセルを投入する、該当相のみセル直流電圧を引き上げる、といった必要がなくなる。また、重畳する零相電圧は基本波成分のみであるため、コモンモード電流を抑えることができる。
【0074】
本実施形態1では、すべてのセルの直流電圧をあらかじめ高くしておく、あるいは引き上げる必要があるが、従来技術に比べて直流電圧の増加分を大幅に抑制でき、セルの耐圧増加を最小限に抑えコスト・サイズを減少させることができる。
【0075】
また、本実施形態1で重畳する零相電圧はフィードフォワードにより求めるため、交流電圧に変動があった場合でも高速に追従でき、原理的に装置の安定性が高い。
【0076】
[実施形態2]
図3に本実施形態2の補正電圧指令値生成部のブロック図を示す。本実施形態2は実施形態1に対して以下の点が異なる。
【0077】
係数乗算器17において、相電圧検出信号v
U,v
V,v
W(または電圧指令値v
U*,v
V*,v
W*)に係数N/n
U,N/n
V,N/n
Wを乗算する。係数の分子Nは、各相のセル台数である。
図1の例ではN=3である。係数の分母n
U,n
V,n
Wは各相で故障せず動作しているセル台数である。そして、第1dq変換器3と第2dq変換器6で用いる相電圧検出信号v
U,v
V,v
W(または電圧指令値v
U*,v
V*,v
W*)はこの係数を乗算した値を用いる。
【0078】
本実施形態2は、実施形態1に対して故障したセルのある相の電圧責務を軽減する機能を追加した。必要な零相電圧は、本来ならば(6)式を解いて求める必要がある。
【0079】
【0080】
しかし、(6)式では変数が増え解の導出が困難である上に、導出した式は非常に複雑になり制御プログラムへの実装も困難になるという問題がある。
【0081】
そこで、相電圧検出信号vU,vV,vWに係数をかけ、故障したセルを含む相の交流電圧を故障セル台数に応じて大きく見せかけ正相d軸成分V1d,正相q軸成分V1q,逆相d軸成分V2d,逆相q軸成分V2qを求め、(3)式に代入し近似的に必要な零相電圧d軸成分V0d,零相電圧q軸成分V0qを得る。
【0082】
この零相電圧d軸成分V0d,零相電圧q軸成分V0qを電圧指令値vU*,vV*,vW*を重畳することで、故障したセルのある相の電圧指令値の振幅を減少させることができる。ここでは、係数の例としてそれぞれN/nU,N/nV,N/nWを用いた。
【0083】
図4を用いて本実施形態2の効果を説明する。
図4(a)は各相のセル台数がN=3台、交流電圧は三相平衡で逆相電圧なし(V
2d=V
2q=0)としたときの電圧指令値のフェーザー図である。
【0084】
ここで、U相のセルが1台故障してn
U=2となった場合を考える。
図4(b)は特許文献4を適用して線間電圧を維持する場合を示したものであり、U相の残りのセル2台は1.5倍の交流電圧を出力する必要がある。これに対応するためにはU相セルの直流電圧も1.5倍にする必要がある。
【0085】
図4(c)は本実施形態2の技術を適用した場合である。電圧指令値v
U*,v
V*,v
W*に零相電圧d軸成分V
0d,零相電圧q軸成分V
0qを重畳することにより、U相セルの出力電圧を減少させることができる。V相・W相のセル出力電圧は増加してしまうが、U相も含めすべてのセルの交流電圧を約1.15倍することで同じ線間電圧を維持できる。
【0086】
すなわち、各相の補正電圧指令値vU*’,vV*’,vW*’の振幅に各相のセル台数Nをかけ各相で故障せず動作しているセル台数nU,nV,nWで除した値が、三相の間で差が小さくなるように基本波と同じ周波数の零相電圧を重畳する。
【0087】
なお、
図3に基づいてゲート信号を生成するのは、故障をしていない健全なセルについてである。故障したセルについては、高圧交流側はスイッチングデバイスS1,S3をON、またはスイッチングデバイスS2,S4をONして零電圧を出力、または外付けスイッチで短絡処置を行う。スイッチングデバイスS5~S12はOFFする。
【0088】
本実施形態2により、実施形態1の効果に加えてセルの一部が故障し短絡処置を行った場合でもセルの交流出力電圧を均等にできる。従来技術よりも多くのセルが故障した場合においても運転を継続することができる。
【0089】
[実施形態3]
図5に本実施形態3の補正電圧指令値生成部のブロック図を示す。演算器9よりも前の構成は実施形態1または実施形態2と同様である。本実施形態3は実施形態1や実施形態2に対して以下の点が異なる。
【0090】
本実施形態3は零相電圧d軸成分V0d,零相電圧q軸成分V0qを求める演算器9において、(5)式を用いることとした。
【0091】
比較器18は、逆相d軸成分V2dが正相d軸成分V1dに等しいか否かを判定する。比較器19は、逆相d軸成分V2dが-V1d/2に等しいか否かを判定する。比較器20は、逆相q軸成分V2qが0に等しいか否かを判定する。比較器21は、逆相q軸成分V2qが-√3V1d/2に等しいか否かを判定する。比較器22は、逆相q軸成分V2qが√3V1d/2に等しいか否かを判定する。
【0092】
なお、比較器18は、あらかじめしきい値を設定し逆相d軸成分V2dと正相d軸成分V1dの差がしきい値より小さければ等しいと見なすようにしてもよい。しきい値にはヒステリシス特性を持たせてもよい。比較器19~22についても同様である。
【0093】
AND素子23は、逆相d軸成分V2dが-V1d/2に等しく、かつ、逆相q軸成分V2qが√3V1d/2に等しい場合1を出力し、それ以外の場合0を出力する。スイッチSW1は、AND素子23の出力が1ならば零相電圧d軸成分V0dとしてV1d/4を、0ならば(5)式の結果を出力する。スイッチSW2は、AND素子23の出力が1ならば零相電圧q軸成分V0qとして-√3V1d/4を、0ならば(5)式の結果を出力する。
【0094】
AND素子24は、逆相d軸成分V2dが-V1d/2に等しく、かつ、逆相q軸成分V2qが-√3V1d/2に等しい場合1を出力し、それ以外の場合0を出力する。スイッチSW3は、AND素子24の出力が1ならば零相電圧d軸成分V0dとしてV1d/4を、0ならばスイッチSW1の結果を出力する。スイッチSW4は、AND素子24の出力が1ならば零相電圧q軸成分V0qとして√3V1d/4て、0ならばスイッチSW2の結果を出力する。
【0095】
AND素子25は、逆相d軸成分V2dが正相d軸成分V1dに等しく、かつ、逆相q軸成分V2qが0に等しい場合1を出力し、それ以外の場合0を出力する。スイッチSW5は、AND素子25の出力が1ならば零相電圧d軸成分V0dとして-V1d/2を、0ならばスイッチSW3の結果を出力する。スイッチSW6は、AND素子25の出力が1ならば零相電圧q軸成分V0qとして0を、0ならばスイッチSW4の結果を出力する。
【0096】
表1に、最終的にスイッチSW5が出力する零相電圧d軸成分V0d、スイッチSW6が出力する零相電圧q軸成分V0qを示す
【0097】
【0098】
実施形態1,2で使用した(3)式,(4)式,(5)式は、正相電圧と逆相電圧の振幅が等しい場合は分母が零となり解を持たない。しかし、分子も零ならば解を持つ可能性が考えられる。そこで、簡略化のため系統連系用途を想定し(5)式において分子・分母両方が零になる条件を求めると、その1つとして(7)式が得られる。
【0099】
【0100】
(7)式を(1)式に代入し、V1q=0の条件下で改めて(2)式を満たす零相電圧を求めると、(8)式が得られる。
【0101】
【0102】
この時、零相電圧q軸成分V0qは任意の値でよく、解は無限に存在することを示している。この無限の解の中で零相電圧の振幅が最小になるものは、(9)式で与えられる。
【0103】
【0104】
分子・分母両方が零になる条件は(7)式の他にも2つある。条件と解の組み合わせを(10)式、(11)式に示す。
【0105】
【0106】
【0107】
(7)式、(10)式、(11)式の条件の例は、線間短絡や二相地絡である。
本実施形態3は(7)式、(10)式、(11)式の電圧条件を検出し、各相の電圧指令値の振幅を等しくするための零相電圧を重畳する。系統連系では事故時運転継続(FRT)要件として短絡・地絡事故の際も運転継続が求められる用途があり、本実施形態3はこのような用途にも対応できる。
【0108】
本実施形態3により、交流系統に線間短絡が発生した場合や二相地絡が発生した場合でも、実施形態1や実施形態2の効果を得ることができる。
【0109】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【符号の説明】
【0110】
AC…交流系統
1…PLL(Phase-Locked Loop)
2,4,5,7,8…第1~第3ローパスフィルタ
3…第1dq変換器
6…第2dq変換器
9…演算器
10…発振器
11,12…第1,第2乗算器
13~16…第1~第2加算器
17…係数演算器
18~22…比較器
23~25…AND素子
SW1~SW6…スイッチ