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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077674
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】基準電流源
(51)【国際特許分類】
   G05F 3/24 20060101AFI20240603BHJP
【FI】
G05F3/24 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189754
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】715010864
【氏名又は名称】エイブリック株式会社
(72)【発明者】
【氏名】上島 康博
【テーマコード(参考)】
5H420
【Fターム(参考)】
5H420NA16
5H420NB03
5H420NB12
5H420NB25
5H420NB36
5H420NC14
(57)【要約】
【課題】周囲温度の変化に対し安定した基準電流を供給することができる基準電流源の提供。
【解決手段】基準電流源100は、基準電圧Vrefを発生する基準電圧回路110と、基準電圧Vrefを分圧して分圧電圧Vdivを出力する分圧回路130と、分圧電圧Vdivがゲート端子140Gに印加されると基準電流Irefを供給する出力MOSトランジスタ140と、を有し、基準電圧回路110は、デプレッション型MOSトランジスタ111と、そのチャネル111cの導電型及び不純物濃度が同一であり、かつゲート電極111gとはフェルミレベルが異なるエンハンス型MOSトランジスタ112と、を備え、分圧回路130は、0V以上かつクロスポイントXより低い電圧範囲の分圧電圧Vdivを出力MOSトランジスタ140のゲート端子140Gに出力する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準電圧を発生する基準電圧回路と、
前記基準電圧を分圧して分圧電圧を出力する分圧回路と、
前記分圧電圧がゲート端子に印加されると基準電流を供給する出力MOSトランジスタと、
を有し、
前記基準電圧回路は、
デプレッション型MOSトランジスタと、
前記デプレッション型MOSトランジスタにおけるチャネルの導電型及び不純物濃度が同一であり、かつ前記デプレッション型MOSトランジスタとはゲート電極のフェルミレベルが異なるエンハンス型MOSトランジスタと、
を備え、
前記分圧回路は、
0V以上かつ前記出力MOSトランジスタのゲート電圧-ドレイン電流特性が温度に依存しないクロスポイントより低い電圧範囲の前記分圧電圧を前記出力MOSトランジスタのゲート端子に出力することを特徴とする基準電流源。
【請求項2】
前記分圧電圧は、前記出力MOSトランジスタのドレイン電流が温度変動しないように、前記基準電圧の温度特性を打ち消す電圧である請求項1に記載の基準電流源。
【請求項3】
前記分圧回路は、前記分圧電圧を調整可能なトリミング回路を備える請求項1又は2に記載の基準電流源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基準電流源に関する。
【背景技術】
【0002】
モバイル機器、ウェアラブル機器などは、様々な場所や気候で使用されるため、使用環境の変化に対し安定した動作が求められている。これらのような機器に搭載される半導体チップの多くはアナログ回路を備えており、アナログ回路には基準電流源から出力された基準電流がバイアス電流として供給される。
【0003】
基準電流源には、基準電圧回路が発生した基準電圧を、精度の良い抵抗体を備えている素子により電流変換して基準電流を供給するものがある。このような基準電流源について、安定した基準電流を供給することを目的として様々な提案がされている。
【0004】
たとえば、基準電圧回路から発生された基準電圧が変動しても基準電流の変動を抑制できる基準電流源が提案されている。
具体的には、基準電圧が入力される帰還形定電圧回路と、分圧された基準電圧が入力される別の帰還形定電圧回路と、これらの出力間に接続された基準抵抗と、基準抵抗を流れる電流に基づき基準電流を出力する基準電流源が提案されている(特許文献1参照)。この基準電流源では、基準電圧を分圧する分圧回路が基準抵抗と並列に接続されており、分圧回路の合成抵抗値を基準抵抗よりも高くして基準抵抗に流れる電流を少なくすることにより、基準電圧の変動に対し基準電流の変動を抑制している。
【0005】
また、周囲温度の変化に対する基準電圧の変動を抑制できる基準電圧回路についても多く提案されている。
たとえば、周囲温度の変化に影響する素子の構造を共通化することにより、製造上のばらつきを低減することができる基準電圧回路が挙げられる。
具体的には、フェルミレベルの異なるゲートと、同一の導電型及び同一の不純物濃度を有するチャネルと、を備えているペアトランジスタを有することにより、チャネルにおける導電係数の変化の影響を相殺する基準電圧回路が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-219901号公報
【特許文献2】特開2001-284464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一つの側面では、周囲温度の変化に対し安定した基準電流を供給することができる基準電流源を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態における基準電流源は、
基準電圧を発生する基準電圧回路と、
前記基準電圧を分圧して分圧電圧を出力する分圧回路と、
前記分圧電圧がゲート端子に印加されると基準電流を供給する出力MOSトランジスタと、
を有し、
前記基準電圧回路は、
デプレッション型MOSトランジスタと、
前記デプレッション型MOSトランジスタにおけるチャネルの導電型及び不純物濃度が同一であり、かつ前記デプレッション型MOSトランジスタとはゲート電極のフェルミレベルが異なるエンハンス型MOSトランジスタと、
を備え、
前記分圧回路は、
0V以上かつ前記出力MOSトランジスタのゲート電圧-ドレイン電流特性が温度に依存しないクロスポイントより低い電圧範囲の前記分圧電圧を、前記出力MOSトランジスタのゲート端子に出力する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一つの側面によれば、周囲温度の変化に対し安定した基準電流を供給することができる基準電流源を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本実施形態における基準電流源を示す回路図である。
図2A図2Aは、図1で示した基準電圧回路のデプレッション型MOSトランジスタを示す概略断面図である。
図2B図2Bは、図1で示した基準電圧回路のエンハンス型MOSトランジスタを示す概略断面図である。
図3図3は、シリコンにおけるフェルミレベルの温度及び不純物濃度に対する依存性を示すバンド図である。
図4図4は、本実施形態におけるデプレッション型MOSトランジスタ及びエンハンス型MOSトランジスタのゲート電圧-ドレイン電流特性を示すグラフである。
図5図5は、本実施形態における基準電圧回路の基準電圧の温度特性を示すグラフである。
図6図6は、本実施形態における出力MOSトランジスタのゲート電圧-ドレイン電流特性を示すグラフである。
図7図7は、本実施形態における出力MOSトランジスタが供給する基準電流の温度特性を示す説明図である。
図8図8は、基準電圧回路の基準電圧の温度特性の一例を示すグラフである。
図9図9は、出力MOSトランジスタのゲート電圧-ドレイン電流特性の一例を示すグラフである。
図10図10は、出力MOSトランジスタが供給する基準電流の温度特性の一例を示す説明図である。
図11図11は、図1で示した分圧回路の別の一例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態における基準電流源は、以下の知見に基づくものである。
特許文献2の基準電圧回路は、ペアトランジスタにおけるチャネルの導電型及び不純物濃度を同一にすることにより製造上のばらつきを抑制できるものの、各ゲートのフェルミレベルの相違に基づく温度変動の影響を受けてしまう。これにより、この基準電圧回路は、周囲温度の変化に対し高精度で安定した基準電圧を発生することが困難であった。したがって、このような基準電圧回路を用いた基準電流源では、周囲温度の変化に対し安定した基準電流を供給することが困難であった。
【0012】
そこで、本発明の一実施形態の基準電流源では、基準電圧回路における基準電圧の温度変動を、その基準電圧に基づいて基準電流を供給する出力MOSトランジスタの温度変動で相殺するようにした。
【0013】
具体的には、本実施形態の基準電流源は、基準電圧を発生する基準電圧回路と、その基準電圧を分圧して分圧電圧を出力する分圧回路と、その分圧電圧がゲート端子に印加されると基準電流を供給する出力MOSトランジスタとを有する(図1参照)。
この基準電圧回路は、デプレッション型MOSトランジスタと、そのチャネルの導電型及び不純物濃度が同一であり、かつそのゲート電極とはフェルミレベルが異なるエンハンス型MOSトランジスタと、を備える(図2A及び図2B参照)。これにより、この基準電圧回路のペアトランジスタは、チャネルの組成が同一であるため基準電圧のばらつきを低減できるが、ゲート電極のフェルミレベルが異なるため、周囲温度が上昇すると基準電圧が低くなる温度特性となる(図5参照)。
【0014】
出力MOSトランジスタは、図6に示すように、周囲温度が上昇すると、しきい値電圧が低くなるとともにゲート電圧-ドレイン電流特性の傾きが小さくなる。しきい値電圧が低くなるのは、伝導帯に励起されるキャリアの増大によりフェルミ準位が真正フェルミ準位に近づくとともに空乏層幅が縮小するためである。また、ゲート電圧-ドレイン電流特性の傾きが小さくなるのは、温度上昇に伴うフォノン散乱の増加により移動度が低下するためである。したがって、出力MOSトランジスタにおけるゲート電圧-ドレイン電流特性には、周囲温度の変化でゲート電圧-ドレイン電流が変化しない「クロスポイント」が存在する。この出力MOSトランジスタは、ゲート電圧がこのクロスポイントよりも高いか低いかによって、温度特性の正負が反転する。言い換えると、出力MOSトランジスタのゲート電圧がクロスポイントよりも低ければ周囲温度が上昇するとドレイン電流が増加し、出力MOSトランジスタのゲート電圧がクロスポイントよりも高ければ、周囲温度が上昇するとドレイン電流が減少する。
【0015】
そこで、本実施形態の基準電流源では、周囲温度が上昇すると低くなる基準電圧を分圧して出力MOSトランジスタのゲートに印加し、出力MOSトランジスタのゲート電圧をクロスポイントよりも低くして、周囲温度が上昇するとドレイン電流が増加するようにした。つまり、基準電圧を分圧して出力MOSトランジスタのゲート電圧とする分圧回路は、0V以上かつクロスポイントより低い電圧範囲の分圧電圧を出力するようにした(図7参照)。
これにより、この基準電流源は、周囲温度が上昇し、基準電圧回路の基準電圧が低くなっても出力MOSトランジスタのドレイン電流が増加するため、周囲温度の変化に対し安定した基準電流を供給することができる。
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための一形態について詳細に説明する。
なお、図面においては、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
また、図面に示すX軸、Y軸及びZ軸は互いに直交するものとする。X軸方向を「幅方向」、Y軸方向を「奥行き方向」、Z軸方向を「高さ方向」又は「厚さ方向」と称する場合がある。各膜の+Z方向側の面を「表面」又は「上面」、-Z方向側の面を「裏面」又は「下面」と称する場合がある。
さらに、図面は模式的なものであり、幅、奥行き及び厚さの比率などは示したとおりではない。複数の膜若しくは層、又はこれらを構造的に組み合わせて得られる半導体素子の数量、位置、形状、構造、大きさなどは、以下に示す実施形態に限定されず、本発明を実施する上で好ましい数量、位置、形状、構造、大きさなどにすることができる。
【0017】
図1は、本実施形態における基準電流源を示す回路図である。
図1に示すように、基準電流源100は、基準電圧回路110と、バッファアンプ120と、分圧回路130と、出力MOSトランジスタ140と、カレントミラー回路150とを有する。
【0018】
基準電圧回路110は、バッファアンプ120の非反転入力端子に基準電圧Vrefを出力する。この基準電圧回路110は、いわゆる「ED型基準電圧回路」であり、Nチャネルのデプレッション型MOSトランジスタ111と、Nチャネルのエンハンス型MOSトランジスタ112とを備える。
【0019】
デプレッション型MOSトランジスタ111は、ドレイン端子111Dが電源端子に接続され、ゲート端子111Gがソース端子111Sに接続されている。このデプレッション型MOSトランジスタ111は、ドレイン端子111Dに電源電圧が印加されると、電源電圧に依存しない定電流をソース端子111Sからエンハンス型MOSトランジスタ112に供給する定電流源として機能する。
なお、デプレッション型MOSトランジスタ111のバックゲートは、ソース端子111Sに接続されている。
【0020】
エンハンス型MOSトランジスタ112は、ゲート端子112Gがドレイン端子112Dに接続され、ドレイン端子112Dがデプレッション型MOSトランジスタ111のソース端子111Sに接続されている。このエンハンス型MOSトランジスタ112は、デプレッション型MOSトランジスタ111から供給された定電流に基づいた電圧を基準電圧Vrefとしてドレイン端子112Dからバッファアンプ120に出力する。
なお、エンハンス型MOSトランジスタ112のバックゲートは、ソース端子112Sに接続されている。
【0021】
このように、基準電圧回路110は、デプレッション型MOSトランジスタ111及びエンハンス型MOSトランジスタ112のペアトランジスタにより、電源電圧に依存しない基準電圧Vrefをバッファアンプ120に出力する。
なお、デプレッション型MOSトランジスタ111及びエンハンス型MOSトランジスタ112の構造並びに基準電圧回路110の動作については後述する。
【0022】
バッファアンプ120は、基準電圧回路110から出力された基準電圧Vrefが非反転入力端子に入力され、反転入力端子が出力端子に接続されており、基準電圧Vrefと略同一の電圧を出力する。
【0023】
分圧回路130は、抵抗131、132を直列に接続して組み合わせ、その抵抗値の比による所定の分圧比が設定されている。この分圧回路130は、バッファアンプ120から出力された基準電圧Vrefを分圧し、分圧した分圧電圧Vdivを出力MOSトランジスタ140のゲート端子140Gに出力する。
【0024】
所定の分圧比による分圧電圧Vdivの範囲は、0V以上とし、かつ出力MOSトランジスタ140のゲート電圧-ドレイン電流特性が温度に依存しないクロスポイントより低くする。分圧電圧Vdivの下限値は、出力MOSトランジスタ140のしきい値電圧が負の値であるため、0V以上であればよい。
これにより、周囲温度が上昇し、基準電圧回路110の基準電圧Vrefが低くなっても出力MOSトランジスタ140のドレイン電流が増加するため、周囲温度の変化に対し安定した基準電流を供給することができる。
【0025】
また、分圧電圧Vdivは、出力MOSトランジスタ140のドレイン電流が温度により変動しないように、基準電圧Vrefによる温度変動を打ち消す電圧が好ましい。
【0026】
出力MOSトランジスタ140は、デプレッション型MOSトランジスタであり、ゲート端子140Gが分圧回路130の出力と接続され、ドレイン端子140Dがカレントミラー回路150と接続されており、ソース端子140Sが接地されている。この出力MOSトランジスタ140は、分圧回路130から出力される分圧電圧Vdivがゲート端子140Gに入力され、分圧電圧Vdivに基づいてドレイン端子140Dから基準電流Irefをカレントミラー回路150に供給する。言い換えると、出力MOSトランジスタ140は、分圧電圧Vdivがゲート端子140Gに印加されると基準電流Irefを供給する。また、出力MOSトランジスタ140は、分圧電圧Vdivがゲート端子140Gに印加されないと基準電流Irefに達する電流を供給しない。
【0027】
カレントミラー回路150は、MOSトランジスタ151、152を備える。
MOSトランジスタ151は、ゲート端子がソース端子と接続されており、ドレイン端子が電源端子と接続されている。
MOSトランジスタ152は、ゲート端子がMOSトランジスタ151のゲート端子と接続され、ドレイン端子が電源端子と接続されており、ソース端子から基準電流Irefを供給する。
【0028】
<基準電流の温度特性>
次に、本実施形態における基準電流の温度特性について説明する。
本発明の一実施形態では、周囲温度の変化に対し安定した基準電流Irefを供給するために、基準電圧回路110の温度特性を、出力MOSトランジスタ140の温度特性で相殺するようにしている。
そこで、まず基準電圧回路110で発生させる基準電圧の温度特性について説明する。
【0029】
-基準電圧の温度特性-
基準電圧回路110で発生させる基準電圧の温度特性は、デプレッション型MOSトランジスタ111及びエンハンス型MOSトランジスタ112における温度特性による。このため、基準電圧回路110の動作原理の説明も含めながらデプレッション型MOSトランジスタ111及びエンハンス型MOSトランジスタ112の構造及び温度特性について説明する。
【0030】
図2Aは、図1で示した基準電圧回路のデプレッション型MOSトランジスタを示す概略断面図である。
図2Aに示すように、デプレッション型MOSトランジスタ111は、ゲート電極111g、ドレイン領域111d及びソース領域111sが、図1で示したゲート端子111G、ドレイン端子111D及びソース端子111Sとそれぞれ接続されている。
【0031】
ゲート電極111gは、リンが高濃度に注入されたN+型であり、図3のバンド図において伝導帯に近いフェルミレベルを有する。ゲート電極111gの下方に位置するチャネル111cは、P型のシリコン基板111bの表面にリンが低濃度に注入されたN-型の導電型である。
これにより、ゲート・ソース間の電位差が0Vの場合であっても、このN-型のチャネル111cには、これと同じ導電型のN+型のドレイン領域111d及びN+型のソース領域111sの間に電流経路が形成される。
【0032】
図2Bは、図1で示した基準電圧回路のエンハンス型MOSトランジスタを示す概略断面図である。
図2Bに示すように、エンハンス型MOSトランジスタ112は、ゲート電極112g、ドレイン領域112d及びソース領域112sが、図1で示したゲート端子112G、ドレイン端子112D及びソース端子112Sとそれぞれ接続されている。
【0033】
ゲート電極112gは、ボロンが高濃度に注入されたP+型であり、図3のバンド図において価電子帯に近いフェルミレベルを有する。ゲート電極112gの下方に位置するチャネル112cは、P型のシリコン基板112bの表面に、デプレッション型MOSトランジスタ111のチャネル111cと同じプロセスでリンが低濃度に注入されたN-型の導電型である。このため、チャネル112cは、チャネル111cと同一の導電係数及びその導電係数の温度係数である。また、チャネル112cは、ゲート電極112gのフェルミレベルが価電子帯に近いため、フェルミレベルが価電子帯側に引き上げられて空乏化する。
これにより、ゲート・ソース間の電位差が0Vの場合には、このN-型のチャネル112cには、同じ導電型のN+型のドレイン領域112dとN+型のソース領域112sの間であっても電流経路が形成されない。
【0034】
この点で、エンハンス型MOSトランジスタ112は、チャネルに不純物が注入されていない一般的なエンハンス型MOSトランジスタとは異なる。
また、チャネル112cは、チャネル111cと同一の導電係数及びその導電係数の温度係数であることから、デプレッション型MOSトランジスタ111及びエンハンス型MOSトランジスタ112の各チャネルにおける製造上のばらつきを低減できる。一方で、デプレッション型MOSトランジスタ111及びエンハンス型MOSトランジスタ112の各ゲート電極のフェルミレベルが異なるため、「ED型基準電圧回路」の動作原理から周囲温度が上昇すると基準電圧Vrefが低くなる。
【0035】
次に、本実施形態における基準電圧Vrefの温度特性について説明する。
図4は、本実施形態におけるデプレッション型MOSトランジスタ及びエンハンス型MOSトランジスタのゲート電圧-ドレイン電流特性を示すグラフである。この図4は、横軸がゲート電圧、縦軸がドレイン電流である。また、図4は、デプレッション型MOSトランジスタ111及びエンハンス型MOSトランジスタ112のゲート電圧-ドレイン電流特性を示している。
【0036】
図4に示すように、デプレッション型MOSトランジスタ111は、N-型のチャネル111cが形成されていることから(図2A参照)、しきい値電圧Vtndが0Vよりも低い。また、デプレッション型MOSトランジスタ111は、ゲート端子111Gとドレイン端子111Dとが接続されていることから(図1参照)、ゲート・ソース間の電位差(ゲート電圧)が0Vとなる。このため、デプレッション型MOSトランジスタ111は、電源電圧に依存せず、かつ飽和電流特性を利用した定電流であるドレイン電流Idnをエンハンス型MOSトランジスタ112に供給する。
【0037】
エンハンス型MOSトランジスタ112は、デプレッション型MOSトランジスタ111から供給されたドレイン電流Idnに応じた基準電圧Vrefを生成する。この基準電圧Vrefは、次式、Vref=|Vtnd|+Vtne、となる。
【0038】
基準電圧回路110において、デプレッション型MOSトランジスタ111及びエンハンス型MOSトランジスタ112の各チャネルは、導電型及び不純物濃度が同一であるため、導電係数やその温度係数が同一である。これにより、基準電圧Vrefは、各チャネルの導電型及び不純物濃度に基づくばらつきの要因が抑制された温度特性となる。
一方、デプレッション型MOSトランジスタ111及びエンハンス型MOSトランジスタ112の各ゲートは、導電型が異なる上に不純物濃度も異なることから、図3に示すようにフェルミレベルが同一ではない。
【0039】
したがって、デプレッション型MOSトランジスタ111及びエンハンス型MOSトランジスタ112において、各チャネルによる要因を抑制できるが、各ゲートの導電型及び不純物濃度の相違に基づく要因が残り、ゲートの相違による温度特性が存在する。
【0040】
図5は、本実施形態における基準電圧回路の基準電圧の温度特性を示すグラフである。
図5に示すように、基準電圧Vrefは、周囲温度が上昇すると低くなる温度特性となる。これは、デプレッション型MOSトランジスタ111は、図3に示したバンド図のように、周囲温度が上昇するとゲート電極111gのN+型の不純物濃度が薄くなるため、しきい値電圧Vtndが高くなり(プラス方向)、しきい値電圧の絶対値|Vtnd|が小さくなる。また、エンハンス型MOSトランジスタ112は、周囲温度が上昇するとゲート電極112gのP+型の不純物濃度が薄くなるため、しきい値電圧Vtneが低くなる(マイナス方向)。すると、基準電圧Vrefは、次式、Vref=|Vtnd|+Vtne、により、周囲温度が上昇すると低くなる温度特性となる。
【0041】
したがって、基準電圧回路110の基準電圧Vrefは、周囲温度が上昇すると低くなる温度特性を有し、バッファアンプ120を介して分圧回路130で分圧されて出力MOSトランジスタ140のゲート端子140Gにゲート電圧として印加される(図1参照)。
【0042】
-出力MOSトランジスタの温度特性-
図6は、本実施形態における出力MOSトランジスタのゲート電圧-ドレイン電流特性を示すグラフである。
図6に示すように、出力MOSトランジスタ140は、一般的なMOSトランジスタと同様に、ゲート電圧がしきい値電圧Vth以下の場合にはドレイン電流が流れず、ゲート電圧がしきい値電圧Vthを超えた場合には導電係数に基づく傾きのドレイン電流が流れる。また、周囲温度が上昇すると、しきい値電圧Vth及び導電係数が低くなり、ゲート電圧-ドレイン電流特性の傾きが小さくなる。このため、ゲート電圧-ドレイン電流特性が温度特性を示さないクロスポイントXが存在する。
クロスポイントX以下となるゲート電圧を印加した場合には、周囲温度が上昇するとドレイン電流が増加し、クロスポイントを超えるゲート電圧を印加した場合には周囲温度が上昇するとドレイン電流が減少する。
【0043】
本実施態様では、基準電圧回路110において周囲温度が上昇すると基準電圧Vrefが低くなるのに対し、出力MOSトランジスタ140においてクロスポイントX以下となるゲート電圧を印加することにより基準電流であるドレイン電流を増加させる。
これにより、基準電流源100から生成される基準電流の温度特性を小さくすることができる。
【0044】
図7は、本実施形態における出力MOSトランジスタが供給する基準電流の温度特性を示す説明図である。図7において、左のグラフは、図5に示した基準電圧Vrefを分圧回路130で分圧した分圧電圧Vdivの温度特性である。また、右のグラフは、図6に示したゲート電圧-ドレイン電流特性の縦軸及び横軸を入れ替えてクロスポイントXの近傍を拡大した出力MOSトランジスタ140の温度特性である。この図7は、分圧回路130から出力される分圧電圧Vdiv(基準電圧Vref)の温度特性と、この分圧電圧Vdivが出力MOSトランジスタ140のゲート端子140Gに印加された際のドレイン電流(基準電流Iref)の温度特性との関係を示している。
なお、ここではバッファアンプ120及び分圧回路130の温度特性を考慮しない。
【0045】
図7に示すように、基準電流源100においては、分圧回路130の分圧比を調整し、図6で示したクロスポイントX以下のゲート電圧が出力MOSトランジスタ140のゲートに印加されるように設定する。基準電圧回路110が出力する基準電圧Vrefは周囲温度が上昇すると低くなるので、分圧回路130を介して印加される出力MOSトランジスタ140のゲート電圧も周囲温度が上昇すると低くなる。すると、周囲温度が上昇するとゲート電圧が低くなるがドレイン電流がその分増加するため、結果として基準電流Irefの温度による依存性を少なくすることができる。
【0046】
このように、この基準電流源100は、周囲温度が上昇し、基準電圧回路110の基準電圧Vrefが低くなっても出力MOSトランジスタ140のドレイン電流が増加するため、周囲温度の変化に対し安定した基準電流Irefを供給することができる。
【0047】
次に、具体的な例について、図1のほか図8図10を参照しながら説明する。
デプレッション型MOSトランジスタ111は、ゲート電極111gを1.020atoms/cm以上の濃度のN+型とし、ゲート酸化膜を25nmの厚さとした。また、デプレッション型MOSトランジスタ111は、しきい値電圧Vtndが-0.29Vとなるようにチャネル111cの不純物濃度を調整した。すると、デプレッション型MOSトランジスタ111の単位チャネル長及び単位チャネル幅あたりでのゲート電圧-ドレイン電流特性の温度特性は、図8に示すようになった。クロスポイントXのゲート電圧は、0.22Vであった。
エンハンス型MOSトランジスタ112は、このデプレッション型MOSトランジスタ111とはゲート電極112gがP+型である以外は同一とした。
【0048】
これらのデプレッション型MOSトランジスタ111及びエンハンス型MOSトランジスタ112により基準電圧回路110を形成したところ、基準電圧Vrefは、図9に示すように、常温(25℃)で1.13Vとなり-0.35mV/℃の温度特性となった。
【0049】
分圧回路130は、この基準電圧Vrefを0.82:0.18の分圧比で分圧し、常温(25℃)で0.20Vの分圧電圧Vdivを出力MOSトランジスタ140に出力するようにした。また、分圧電圧Vdivの温度特性については、図10の左のグラフに示すようになった。
【0050】
出力MOSトランジスタ140は、デプレッション型MOSトランジスタ111と同じプロセスで形成されていることから、ゲート電圧-ドレイン電流特性がデプレッション型MOSトランジスタ111と同じである(図8参照)。つまり、出力MOSトランジスタ140は、常温(25℃)において、クロスポイントXとなるゲート電圧0.22Vより低い0.20Vの分圧電圧Vdivをゲート端子140Gに入力される。
すると、図10に示すように、基準電流源100は、温度変動が十分抑制されたドレイン電流、即ち基準電流Irefを供給することができた。
【0051】
温度変動を抑制するためにゲート端子に印加すべき分圧電圧Vdivは、出力MOSトランジスタ140のしきい値電圧の変動とともに変わる。この具体的な例においては、出力MOSトランジスタ140のしきい値電圧が-0.29V、クロスポイントXの電圧が0.22Vであり、その差分が0.51Vであった。任意のしきい値電圧に対し、クロスポイントXの電圧との差分(0.51V)よりも小さい差分(0.49V)を加えた分圧電圧になるような所定の分圧比にすることにより、基準電流源100は、周囲温度の変化に対し安定した基準電流Irefを供給できる。
【0052】
(変形例)
分圧回路130は、分圧電圧Vdivを0V以上かつ出力MOSトランジスタ140のゲート電圧-ドレイン電流特性がクロスポイントXよりも低い電圧とするために、分圧電圧Vdivを調整可能なトリミング回路を備えてもよい。
【0053】
具体的には、図11に示すように、分圧回路230は、第1の抵抗部230Aと、第2の抵抗部230Bと、第3の抵抗部230Cと、第4の抵抗部230Dとを備えている。第1の抵抗部230A、第2の抵抗部230B及び第3の抵抗部230Cは、直列に接続されている。第4の抵抗部230Dは、第3の抵抗部230Cに対して並列に接続されている。
【0054】
第1の抵抗部230Aは、直列に接続された複数の抵抗素子と、複数の抵抗素子の各ノードに接続するヒューズとを備える。この第1の抵抗部230Aは、ヒューズを選択的に切断させることにより、分圧電圧Vdivの粗調整を行う。
第4の抵抗部230Dは、直列に接続された複数の抵抗素子と、複数の抵抗素子の各ノードに接続するヒューズとを備える。この第4の抵抗部230Dは、複数の抵抗素子により、第4の抵抗部230Dでの電位差を微小なステップに分割し、ヒューズを選択的に切断にすることにより、分圧電圧Vdivを微調整してOUT端子から出力する。
なお、この変形例ではヒューズとしたが、これに限ることなくスイッチング素子などにしてもよい。
【0055】
このように、分圧回路230は、トリミング回路を備えることにより分圧電圧Vdivを微調整することができるため、高い精度で周囲温度の変化に対し安定した基準電流Irefを供給することができる。
【0056】
以上説明したように、本発明の一実施形態における基準電流源は、基準電圧を発生する基準電圧回路と、基準電圧を分圧して分圧電圧を出力する分圧回路と、分圧電圧がゲート端子に印加されると基準電流を供給する出力MOSトランジスタと、を有する。
この基準電圧回路は、デプレッション型MOSトランジスタと、そのチャネルの導電型及び不純物濃度が同一であり、かつそのゲート電極とはフェルミレベルが異なるエンハンス型MOSトランジスタと、を備える。これにより、基準電圧は、周囲温度が上昇すると低くなる温度特性を有する。
また、分圧回路は、0V以上かつクロスポイントより低い電圧範囲の分圧電圧を出力MOSトランジスタのゲート端子に出力する。これにより、出力MOSトランジスタのゲート電圧-ドレイン電流特性を温度の上昇に対して増加する温度特性にすることで基準電圧の温度特性を相殺することができる。
したがって、本発明の一実施形態における基準電流源は、周囲温度の変化に対し安定した基準電流を供給することができる。
【符号の説明】
【0057】
100 基準電流源
110 基準電圧回路
111 デプレッション型MOSトランジスタ
112 エンハンス型MOSトランジスタ
120 バッファアンプ
130、230 分圧回路
140 出力MOSトランジスタ
150 カレントミラー回路
Iref 基準電流
Vref 基準電圧
Vdiv 分圧電圧
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11