(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077693
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】水硬性組成物用リグニン誘導体含有分散剤組成物
(51)【国際特許分類】
C04B 24/18 20060101AFI20240603BHJP
C04B 24/26 20060101ALI20240603BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
C04B24/18 A
C04B24/26 B
C04B24/26 F
C04B24/26 E
C04B28/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189783
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【氏名又は名称】義経 和昌
(74)【代理人】
【識別番号】100203242
【弁理士】
【氏名又は名称】河戸 春樹
(72)【発明者】
【氏名】岩本 亮司
(72)【発明者】
【氏名】寺井 久登
(72)【発明者】
【氏名】指原 慶彰
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MD01
4G112PB23
4G112PB29
4G112PB31
(57)【要約】
【課題】保形性に優れた水硬性組成物用分散剤組成物を提供する。
【解決手段】
水硬性組成物用分散剤であって、下記(A)成分及び(B)成分
(A)成分:リグニン誘導体
(B)成分:特定の単量体を重合して得られる共重合体
を含む水硬性組成物用分散剤組成物を製造する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性組成物用分散剤であって、下記(A)成分及び(B)成分を含む水硬性組成物用分散剤組成物。
(A)成分:リグニン誘導体。
(B)成分:
一般式(b1)
【化1】
[式中、M
bは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2原子)、アンモニウム、又は有機アンモニウムを示す。]
で表される構成単位(B1)、
及び一般式(b2)
【化2】
[式中、R
2bは、水素原子または炭素数1以上4以下のアルキル基を示す。X
bは、炭素数1以上4以下のアルキレン基またはカルボニル基を示す。nbは平均付加モル数で5以上200以下を示す。R
3bは、水素原子または炭素数1以上18以下のアルキル基を示す。]
で表される構成単位(B2)を有する共重合体。
【請求項2】
リグニン誘導体が、リグニンスルホン酸及び/またはその塩である請求項1に記載の水硬性組成物用分散剤組成物。
【請求項3】
一般式(b2)のXbが炭素数1以上4以下のアルキレン基である請求項1または2に記載の水硬性組成物用分散剤組成物。
【請求項4】
構成単位(B1)及び(B2)の合計に対する構成単位(B1)の割合が0.1質量%以下9質量%以下である請求項1~3のいずれかに記載の水硬性組成物用分散剤組成物。
【請求項5】
(A)成分に対する(B)成分の比率、(B)/(A)、は0.1以上2.0未満である請求項1~4のいずれかに記載の水硬性組成物用分散剤組成物。
【請求項6】
一般式(b2)のXbは、炭素数1または2のアルキレン基である請求項1~5の何れかに記載の水硬性組成物用分散剤組成物。
【請求項7】
一般式(b2)のXbは、炭素数2のアルキレン基である請求項1~5の何れかに記載の水硬性組成物用分散剤組成物。
【請求項8】
(B)成分の重量平均分子量(Mw)が、50000以上100000以下である請求項1~7の何れかに記載の水硬性組成物用分散剤組成物。
【請求項9】
一般式(b2)のnbは平均付加モル数で50以上150以下である請求項請求項1~8の何れかに記載の水硬性組成物用分散剤組成物。
【請求項10】
構成単位(B1)及び(B2)の合計に対する構成単位(B1)の割合が0.1質量%以下7.5質量%以下である請求項1~9の何れかに記載の水硬性組成物用分散剤組成物。
【請求項11】
さらに水を含む請求項1~10の何れかに記載の水硬性組成物用分散剤組成物。
【請求項12】
セメントを含む水硬性粉体、水、並びに請求項1~11の何れかに記載の水硬性組成物用分散剤組成物を含む水硬性組成物。
【請求項13】
水硬性粉体に対する水の比率が40質量%以上70質量%以下である請求項12に記載の水硬性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物用リグニン誘導体含有分散剤組成物及びリグニン誘導体含有分散剤を含む水硬性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
リグニンは、樹木中に存在する天然高分子物質であり、木材の約30%を占めている。リグニンは、クラフトパルプ製造における廃液(クラフトパルプ廃液)、亜硫酸パルプ製造における廃液(亜硫酸パルプ廃液)等に多く含まれている。近年の環境負荷低減の観点から、リグニンはバイオマス資源の一つとして注目されている。
【0003】
クラフトパルプ廃液中に含まれているクラフトリグニン、亜硫酸パルプ廃液中に含まれるリグニンスルホン酸は、それぞれ異なった物性を有しており、様々な用途に使用されている。
また、クラフトリグニンを亜硫酸塩とホルムアルデヒドによりスルホメチル化したリグニン誘導体、リグニンスルホン酸又はリグニンスルホン酸の塩を部分的に脱スルホン化したリグニン誘導体、及び限外濾過処理によって精製したリグニン精製物は、リグニン系分散剤として、染料、セメント、無機顔料、有機顔料、石膏、石炭-水スラリー、農薬、窯業など広範囲な工業分野で多用されている。
【0004】
セメントのような水硬性組成物の分散剤として、特許文献1及び2には、リグニンスルホン酸又はその塩を含有するリグニン誘導体と、アクリル酸及び/メタクリル酸誘導体の共重合体を含む子形状セメント分散剤が開示されている。
【0005】
特許文献3には、25℃における酸化還元電位が0mV以上の水であるA成分、(a)ポリカルボン酸系分散剤、及び(b)リグニンスルホン酸系分散剤から選ばれる少なくとも1つであるB成分、 防腐成分であるC成分を含有する水硬性組成物用分散剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-158317号公報
【特許文献2】WO2020/195910A1
【特許文献3】特開2022-37656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような分散剤を用いた保形性の評価はなされておらず、そのための最適な水硬性組成物用リグニン誘導体含有分散剤組成物は、開示されていない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は水硬性組成物用分散剤であって、下記(A)成分及び(B)成分、
(A)成分:リグニン誘導体。
(B)成分:
一般式(b1)
【化1】
[式中、M
bは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2原子)、アンモニウム、又は有機アンモニウムを示す。]
で表される構成単位(B1)、
及び一般式(b2)
【化2】
[式中、R
2bは、水素原子または炭素数1以上4以下のアルキル基を示す。X
bは、炭素数1以上4以下のアルキレン基またはカルボニル基を示す。nbは平均付加モル数で5以上200以下を示す。R
3bは、水素原子または炭素数1以上18以下のアルキル基を示す。]
で表される構成単位(B2)を有する共重合体。
を含む水硬性組成物用分散剤組成物に関する。また本発明は、該水硬性組成物用分散剤を含む水硬性組成物に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、保形性に優れた水硬性組成物用分散剤組成物を提供することができる。また、本発明の分散剤組成物を含む水硬性組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の水硬性組成物用分散剤組成物は、下記(A)成分及び(B)成分、
(A)成分:リグニン誘導体。
(B)成分:
一般式(b1)
【化3】
[式中、M
bは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2原子)、アンモニウム、又は有機アンモニウムを示す。]
で表される構成単位(B1)、及び一般式(b2)
【化4】
[式中、R
2bは、水素原子または炭素数1以上4以下のアルキル基を示す。X
bは、炭素数1以上4以下のアルキレン基またはカルボニル基を示す。nbは平均付加モル数で5以上200以下を示す。R
3bは、水素原子または炭素数1以上18以下のアルキル基を示す。]
で表される構成単位(B2)を有する共重合体;
を含む水硬性組成物用分散剤組成物に関する。さらに本発明は、該分散剤組成物を含む水硬性組成物に関する。
【0011】
本発明の水硬性組成物用分散剤組成物は、(A)成分のリグニンスルホン酸またはその塩を含む。塩の対カチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属イオン、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属イオン、4級アンモニウムイオン等の有機陽イオン等が例示できる。入手容易な点で、対カチオンがアルカリ金属イオンの塩が好ましく、中でもナトリウムイオンの塩が好ましい。
【0012】
本発明の水硬性組成物用分散剤組成物は、(A)成分のリグニン誘導体を含む。リグニン誘導体としては、クラフトリグニン、ソーダリグニン、リグニンスルホン酸等のパルプリグニン、リグノフェノール、フェノール化リグニン、改質リグニン等が挙げられる。
クラフトリグニンは、例えば紙パルプ工業で、木材からセルロース等の炭水化物をとりだした後の、分子構造が変性したリグニン誘導体である。リグニンスルホン酸は、スルホン基・カルボキシ基・フェノール性水酸基等の官能基を有する高分子電解質であり、その分子量、製法等に特に制限はない。
リグノフェノールは、例えばリグノセルロース系材料中のリグニンをフェノール誘導体で処理することにより得ることができる。構造に特に制限はない。
フェノール化リグニンは、草木質材料を酸処理してリグニンとセルロースとが分離する際に、フェノール誘導体がリグニン中の分子鎖と化学結合して安定化した状態のリグニンである。
改質リグニンは、ポリエチレングリコール鎖がリグニンの骨格に結合したリグニンである。
これらのうち、リグニンスルホン酸及び/またはその塩が好ましい。
【0013】
なお、リグニンスルホン酸及び/またはその塩の化学構造を、一般式などで一律に特定することは困難である。その理由は、リグニンスルホン酸の骨格であるリグニンが非常に複雑な分子構造をしているためである。
【0014】
リグニンスルホン酸及び/またはその塩としては、調製したものを使用してもよく、市販品を用いてもよい。ここで、リグニン誘導体の調製方法を以下に例示する。しかしながら、リグニンスルホン酸及び/またはその塩は、下記の調製方法で調製されたものに限定されない。
【0015】
リグニンスルホン酸及び/またはその塩の調製方法としては、例えば、リグノセルロース原料を亜硫酸処理して調製する方法、好ましくは、リグノセルロース原料を亜硫酸蒸解処理して調製する方法が挙げられる。
【0016】
リグノセルロース原料は、構成体中にリグノセルロースを含むものであれば特に限定されるものではない。例えば、木材、非木材等のパルプ原料が挙げられる。
木材としては、例えば、エゾマツ、アカマツ、スギ、ヒノキ等の針葉樹木材;シラカバ、ブナ等の広葉樹木材が挙げられる。木材の樹齢、採取部位は問わない。そのため、互いに樹齢の異なる樹木から採取された木材や、互いに樹木の異なる部位から採取された木材を組み合わせて用いてもよい。
非木材としては、例えば、竹、ケナフ、葦、稲が挙げられる。
リグノセルロース原料は、これらの材料を1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0017】
亜硫酸処理は、亜硫酸及び亜硫酸塩の少なくともいずれかをリグノセルロース原料に接触させて行うことができ、中間生成物を得る処理である。亜硫酸処理の条件は、特に限定されず、リグノセルロース原料に含まれるリグニンの側鎖のα炭素原子にスルホン酸(塩)基が導入され得る条件であればよい。
【0018】
亜硫酸処理は、亜硫酸蒸解法により行うことが好ましい。これにより、リグノセルロース原料中のリグニンをより定量的にスルホン化することができる。
亜硫酸蒸解法は、亜硫酸及び亜硫酸塩の少なくともいずれかの溶液(例えば、水溶液:蒸解液)中で、リグノセルロース原料を高温下で反応させる方法である。当該方法は、サルファイトパルプの製造方法として工業的に確立されており、実施されている。そのため、亜硫酸処理を亜硫酸蒸解法により行うことにより、経済性及び実施容易性を高めることができる。
【0019】
亜硫酸塩の塩としては、亜硫酸蒸解を行う場合、例えば、マグネシウム塩、カルシウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩が挙げられる。
【0020】
亜硫酸処理を行う際に用いる設備に限定はなく、例えば、一般に知られている溶解パルプの製造設備等を用いることができる。
【0021】
亜硫酸及び亜硫酸塩の少なくともいずれかの溶液から中間生成物を分離するには、常法に従って行えばよい。分離方法としては、例えば、亜硫酸蒸解後の亜硫酸蒸解排液の分離方法が挙げられる。
【0022】
次に、中間組成物を洗浄及び脱水する工程を経て亜硫酸処理物を得る。洗浄及び脱水により、中間組成物に含まれる、亜硫酸処理により除去しきれない成分を除去し得る。
【0023】
洗浄は、亜硫酸蒸解法により得られる未晒亜硫酸パルプの洗浄と同様にして行えばよい。洗浄は、一段階の洗浄であってもよく、多段階の洗浄であってもよい。多段階の洗浄をすることにより、洗浄を十分に行うことができる。なお、多段階の洗浄を行う場合、脱水はその都度行ってもよく、一部の回のみ行ってもよい。
洗浄は、通常、洗浄機を用いる。洗浄に使用する洗浄機は、特に限定されるものではない。例えば、置換洗浄型洗浄機、希釈脱水洗浄型洗浄機が挙げられる。
【0024】
脱水は、通常の条件で行うことができ、例えば、亜硫酸蒸解法において得られる洗浄後の未晒亜硫酸パルプの脱水と同様にして行えばよい。
脱水は、通常、脱水機を用いる。脱水に使用する脱水機は、特に限定されるものではない。例えば、ドラム型絞り脱水機、ロータリープレス、連続圧搾脱水機が挙げられる。
【0025】
その後、洗浄、脱水した亜硫酸処理物を分離精製して、所望のリグニン誘導体が得られる。分離精製は、例えば、アルカリ酸化処理する工程、限外濾過処理工程が挙げられる。
【0026】
アルカリ酸化処理する場合、亜硫酸処理物をアルカリ酸化処理した後、不溶物を遠心分離し、上澄み液として回収し得る。
【0027】
アルカリ酸化処理は、亜硫酸処理物をアルカリ性条件下におけばよい。アルカリ性条件下におくとは、通常、pH値が8以上、好ましくはpH値が9以上の水溶液下におくことをいう。pH値の上限は、通常、14である。
【0028】
アルカリ酸化処理においては、通常、アルカリ性物質を亜硫酸処理物に接触させる。アルカリ性物質は、特に限定されないが、例えば、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、アンモニアが挙げられる。中でも、水酸化ナトリウムが好ましい。
なお、アルカリ性物質は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
(A)成分の添加量は、保形性が良い観点から、水硬性組成物中の水硬性粉体に対して好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上であり、そして、好ましくは1.00質量%以下、より好ましくは0.50質量%以下、更に好ましくはで0.1質量%以下である。
【0030】
(A)成分は、製造の観点から糖類が含まれる。この糖分の含有量はセメントの硬化性低下の観点から、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましい。
【0031】
次に、(B)成分について説明する。
(B)成分は、 一般式(b1)
【化5】
[式中、M
bは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2原子)、アンモニウム、又は有機アンモニウムを示す。]
で表される構成単位(B1)、及び一般式(b2)
【化6】
[式中、R
2bは、水素原子または炭素数1以上4以下のアルキル基を示す。X
bは、炭素数1以上4以下のアルキレン基またはカルボニル基を示す。nbは平均付加モル数で5以上200以下を示す。R
3bは、水素原子または炭素数1以上18以下のアルキル基を示す。]
で表される構成単位(B2)を有する共重合体である。
【0032】
一般式(b1)で表される構成単位(B1)は、一般式(b1’)で表される単量体を原料とすることにより、共重合体B中に導入することができる。
【化7】
[式中、M
bは、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2原子)、アンモニウム、又は有機アンモニウムを示す。]
【0033】
一般式(b1’)のMbとしては、水素原子、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属が例示できる。保形性が良い観点から水素原子又はアルカリ金属が好ましい。
【0034】
一般式(b2)で表される構成単位(B2)は、一般式(b2’)で表される単量体を原料とすることにより、共重合体A中に導入することができる。
【化8】
[式中、R
2bは、水素原子または炭素数1以上4以下のアルキル基を示す。X
bは、炭素数1以上4以下のアルキレン基またはカルボニル基を示す。nbは平均付加モル数で5以上200以下を示す。R
3bは、水素原子または炭素数1以上18以下のアルキル基を示す。]
【0035】
一般式(b2’)のR2bとしては、具体的には、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert-ブチル基等を例示できる。保形性が良い観点から水素原子、メチル基が好ましく、メチル基がさらに好ましい。
【0036】
一般式(b2’)のXbとしてはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等のアルキレン基またはカルボニル基を例示できる。保形性が良い観点から炭素数1以上4以下のアルキレン基が好ましく、メチレン基またはエチレン基がより好ましく、メチレン基がさらに好ましい。
【0037】
一般式(b2’)のnbは、保形性が良い観点から、好ましくは5以上、より好ましくは20以上、さらに好ましくは60以上であり、そして、好ましくは200以下、より好ましくは130以下、さらに好ましくは100以下である。
【0038】
一般式(b2’)のR3bとしては、具体的には、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert-ブチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、シクロオクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等が例示できる。保形性が良い観点から、水素原子、メチル基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0039】
構成単位(B1)及び(B2)の合計に対する構成単位(B1)の割合は、保形性が良い観点から、0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、そして9質量%以下が好ましく、7.5質量%以下がさらに好ましい。
【0040】
(B)成分の重量平均分子量(Mw)は、保形性が良い観点から、好ましくは10000以上、より好ましくは20000以上であり、さらに好ましくは50000以上でありそして、好ましくは100000以下、より好ましくは80000以下、更に好ましくは70000以下である。
【0041】
(B)成分は、汎用のビニル系高分子の共重合の条件で行うことができる。溶媒としては例えば水等を用いることができる。また、反応温度としては50℃以上100℃以下の範囲で行うことができる。反応時間は反応温度にもよるが、0.5時間以上10時間以下で行うことができる。また製造時のpHは3以下が好ましい。
【0042】
(B)成分の添加量は、保形性と経済性の観点から、水硬性組成物中の水硬性粉体に対して好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上であり、そして、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.3質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下である。
【0043】
なお、(B)成分は、共重合体の様態でそのまま加えてもよいが、適当な溶媒(または分散媒)と共に加えてもよい。溶媒(または分散媒)としては水が好ましいく、水と共に加えることが利便性の点で好ましい。水の溶液(または分散液)として加える場合は、本願組成物に必須な水にこれらの量の水を合算する必要があるが、水の溶液(または分散液)の濃度が高い場合や添加量が少ない場合は無視することができる。
【0044】
(A)成分に対する(B)成分の質量比、(B)/(A)は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.1以上、更に好ましくは0.2以上であり、そして、好ましくは3.0未満、より好ましくは2.0未満である。
【0045】
本発明の水硬性組成物用分散剤組成物は、(A)成分及び(B)成分以外に、起泡剤、増粘剤、発泡剤、防腐剤、消泡剤を添加剤として含んでいてもよい。これらの添加剤は、(A)成分または(B)成分に対して0.01質量%以上2質量%以下含むことができる。消泡剤としては、シリコーン系消泡剤、脂肪酸エステル系消泡剤、エーテル系消泡剤、ポリアルキレンオキシド系消泡剤、アルキルリン酸エステル系消泡剤、及びアセチレングリコール系消泡剤から選ばれる1種以上の消泡剤が挙げられる。
消泡剤としては、シリコーン系消泡剤、脂肪酸エステル系消泡剤、及びエーテル系消泡剤から選ばれる1種以上の消泡剤が好ましい。
【0046】
本発明の水硬性組成物用分散剤組成物は、水硬性粉体と水を含む水硬性組成物に添加して用いることができる。水硬性粉体としては、水と混合することで硬化する粉体であり、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、エコセメント(例えばJIS R5214等)が挙げられる。これらの中でも、水硬性組成物の必要な強度に達するまでの時間を短縮する観点から、早強ポルトランドセメント、普通ポルトランドセメント、耐硫酸性ポルトランドセメント及び白色ポルトランドセメントから選ばれるセメントが好ましく、早強ポルトランドセメント、及び普通ポルトランドセメントから選ばれるセメントがより好ましい。
【0047】
また、水硬性粉体として、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカヒューム、無水石膏等が含まれてよく、また、非水硬性の石灰石微粉末等が含まれていてもよい。水硬性粉体として、セメントと高炉スラグ、フライアッシュ、シリカヒューム等とが混合された高炉セメントやフライアッシュセメント、シリカヒュームセメントを用いてもよい。高炉スラグ、フライアッシュを含有することが、低品質水硬性組成物利用の観点から好ましい。高炉スラグやフライアッシュとしては、JIS R5201に記載のものが例示できる。
【0048】
また、水硬性組成物に含まれる水は、不純物を含まず適度に精製されている水が好ましく使用されるが、井戸水、工業用水の使用も可能である。水道水、精製水、イオン交換水が好ましい。
【0049】
水硬性粉体に対する水の比率は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上であり、そして好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下である。
【0050】
(B)成分の添加量は、保形性が良い観点から、水硬性組成物中の水硬性粉体に対して好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上であり、そして、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.3質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下である。
【0051】
本発明の分散剤組成物は、水を水硬性粉体に対して40質量%以上含有する水硬性組成物に対して良好な保形性を発揮することができる。また、本発明の分散剤組成物を含む水硬性組成物を提供することができる。
【実施例0052】
<実施例及び比較例>
以下、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によって限定されるものではない。
【0053】
実施例、比較例で使用した各材料を以下に示す。
<成分(A)>
(A)成分のリグニン誘導体としてリグニンスルホン酸のナトリウム塩を用いた。リグニンスルホン酸のナトリウム塩としてはウルトラジンNA、ボレガード社製、糖含有量(1%以下)を用いた。
【0054】
<(B)成分>
以下の化合物を構成単位(B1)及び(B2)の原料として用い、共重合体Bを製造した。
構成単位(B1)用原料:アクリル酸またはメタクリル酸
構成単位(B2)用原料:下記一般式(1)に示すポリエチレングリコールイソプレニルエーテル(以下、TPEGと称す)、
【化9】
[式中、pは60(TPEG60と称す)または66(TPEG66と称す)である。]
または、下記一般式(2)に示すポリエチレングリコールメタクリル酸エステル(以下、MEPEGと称す)
【化10】
[式中、qは9(MEPEG9と称す)または120(MEPEG120と称す)である。]、
または、下記式(3)に示すポリエチレングリコール(2-メチル-2-プロペニル)エーテル(以下、HPEG64と称す)
【化11】
【0055】
<共重合反応による(B)成分の製造>
比較例2の(B)成分を例に、(B)成分の製造方法を以下に示す。
撹拌機付きガラス製反応容器にTPEG60を200.0部と水128.0部を仕込み、撹拌しながら窒素置換をし、窒素雰囲気中で80℃まで昇温した。その後、過酸化水素(35%)を0.9部添加した。アクリル酸27.8部を41.7に溶解した水溶液と、3-メルカプトプロピオン酸1.4部を水45.4部に溶解した水溶液、の2者をそれぞれ3.0時間かけて、また、L-アスコルビン酸0.4部を水38.4部に溶解した水溶液を3.5時間かけて前記容器内に滴下した。その後、1時間同温度(80℃)で熟成した。熟成終了後に48%水酸化ナトリウム水溶液16.1部で中和し、重量平均分子量35000の共重合体(B)を含む水溶液を得た。と水とを含む反応生成物を得た。
上記の方法に準じて表1に示す実施例及び比較例の(B)成分を製造した。
【表1】
【0056】
<その他材料>
セメント:太平洋セメント(株)製普通ポルトランドセメントと住友大阪
セメント(株)製普通ポルトランドセメントの1:1混合物(密度3.16g/cm3)
細骨材:山砂、密度2.72g/cm3
【0057】
<水硬性組成物の製造>
JISR5201に規定されるモルタルミキサーに、セメント400重量部と細骨材700重量部を加え、空練り(60rpm、10秒)を行い、その後、表2に記載のセメントとの比となるように(A)成分及び(B)成分を含む水200質量部を、加え、加え、混練(60rpm、120秒)し、表2に記載の水硬性組成物を調製した。
【0058】
表2の各実施例及び比較例の水硬性組成物を用い、保形性の評価を行った。
【0059】
<保形性の評価>
混練直後の水硬性組成物を、JIS R5201に記載のフローコーン(上径70mm×下径100mm×高さ60mm)2つに充填した。その内1つのフローコーンを、即座に30cm×30cmのプラスチック板上でフローを測定し、充填直後のフローとした。もう一方のフローコーンは、充填後に3分放置し30cm×30cmのプラスチック板上でフローを測定し、3分放置後のフローとした。充填直後のフローと3分放置後のフローの差を保形性とした。結果を表2に示す。
【0060】
【0061】
表2から明らかなように、(B)成分としてB-1~3を用いた実施例4~6では、36~39mmの良好な保形性を示した。一方、(B)成分を含まない比較例1、(B1)成分としてメタクリル酸を用いた比較例2、及び(B1)/[(B1)+(B2)]が12.1質量%と大きい比較例3では、30~33mmの保形性であった。このように(A)成分のリグニン誘導体と適当な(B)成分である共重合体を用いることにより、良好な保形性を示す水硬性組成物を得ることができた。