(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000777
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】養生設備、及び、それを用いた建物解体工法
(51)【国際特許分類】
E04G 21/32 20060101AFI20231226BHJP
E04G 23/08 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
E04G21/32 B
E04G23/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099674
(22)【出願日】2022-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】鷲ノ上 友里
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 颯
(72)【発明者】
【氏名】濱田 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】星隈 憲二
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176DD61
(57)【要約】
【課題】建物上空の任意のエリアの開閉を可能として外部への飛散を防止しながら効率良く建築工事を行うことのできる技術を提供する。
【解決手段】建物上空に張り渡されて建物上空を閉じる頂部養生シート2と、頂部養生シート2を建物上空に保持するシート保持部3と、シート保持部3にて建物上空に保持された頂部養生シート2を移動させることで建物上空の開閉エリアAを開閉する開閉操作部4とが備えられている養生設備であって、開閉エリアAが多数備えられ、開閉操作部4は、多数の開閉エリアAから選択した開閉エリアAを開閉自在に構成されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物上空に張り渡されて建物上空を閉じる頂部養生シートと、
前記頂部養生シートを建物上空に保持するシート保持部と、
前記シート保持部にて建物上空に保持された前記頂部養生シートを移動させることで建物上空の開閉エリアを開閉する開閉操作部とが備えられている養生設備であって、
前記開閉エリアが多数備えられ、前記開閉操作部は、多数の前記開閉エリアから選択した開閉エリアを開閉自在に構成されている養生設備。
【請求項2】
前記頂部養生シートは、建物上空を区分する複数の帯状エリアに対応した複数の帯状シートにて構成され、当該複数の帯状シートの夫々が前記開閉操作部にてシート長さ方向に沿って別々に移動自在に構成されている請求項1記載の養生設備。
【請求項3】
前記頂部養生シートは、隣接する前記帯状シートのシート幅方向の端部側を上下方向視で重ねた状態で建物上空に張り渡されている請求項2記載の養生設備。
【請求項4】
前記開閉操作部は、建物を挟んで相対向する外部足場間にロープ長さ方向に沿って移動自在に環状に亘らされる操作用ロープを備え、その操作用ロープに前記頂部養生シートのシート長さ方向の端部側が固定されることで、外部足場から操作自在に構成されている請求項1記載の養生設備。
【請求項5】
前記シート保持部には、前記頂部養生シートを建物上空に張り渡すための支持ワイヤが備えられ、
前記頂部養生シートのシート幅方向の両端部には、前記支持ワイヤが挿通される支持ワイヤ挿通部が備えられ、
前記開閉操作部は、前記頂部養生シートを前記支持ワイヤに沿ってシート長さ方向に移動させることで、建物上空の開閉エリアを開閉するように構成されている請求項1記載の養生設備。
【請求項6】
前記シート保持部には、前記支持ワイヤのワイヤ長さ方向の両端部を固定する支持ワイヤ固定部が備えられ、
前記支持ワイヤ固定部は、外部足場における建物の上部フロアから上方に突出する部分を用いて構成され、
前記頂部養生シートは、前記支持ワイヤのみで直接支持される状態で建物上空に張り渡され、
前記支持ワイヤ固定部は、前記頂部養生シートを上空に張り渡すための前記支持ワイヤの張力を外部足場のみで負担するように構成されている請求項5記載の養生設備。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の養生設備を設置して建物の解体を行う建物解体工法であって、
建物の中央側部位の解体は、前記頂部養生シートにて建物上空を被覆した状態で破砕手段にて破砕して行い、
建物の外周側部位の解体は、切断手段にて切断分離するとともに前記開閉操作部にて建物上空の切断分離箇所に対応する開閉エリアを開いて、その開いた開閉エリアを通じてクレーンにて建物の切断分離部分を他の箇所に移動させて行う建物解体工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物上空に張り渡されて建物上空を被覆自在な頂部養生シートと、前記頂部養生シートを建物上空に保持するシート保持部とが備えられている養生設備、及び、それを用いた建物解体工法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、この種の技術として、一対の柱状の垂直支持構造体の最上部に架け渡される上部支持体(15)からなる飛散防止養生体支持体(10)にて、頂部養生シート(飛散防止養生体20)が支持される養生設備、及び、それを用いた建物解体工法が記載されている。上部支持体(15)の上に飛散防止養生体(20)用のガイドレールやガイドワイヤを架け渡し、ガイドレールやガイドワイヤに沿って頂部養生シートがスライドし、建物上空を全体若しくは部分的に開閉するように構成してもよい点が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載の養生設備は、建築工事の一例である解体工事に使用する場合には、解体作業中は頂部養生シートを閉じて解体作業中に発生する破片等の飛散を防止しておき、揚重作業や搬出作業などの必要な場合のみ頂部養生シートを開いて作業を行うことができる。
この点、解体作業中の外部への飛散を防止しながら効率良く建物を解体するのに、例えば、建物中央側部位の解体は、頂部養生シートにて建物上空を被覆した状態で破砕手段にて破砕して効率良く行い、外部への飛散の可能性がより高くなる建物外周側部位の解体については、破砕手段よりも解体ガラ等が飛散し難い切断手段にて切断分離し、その切断分離部位を外部への飛散の可能性の低い別の場所に移動させた上で破砕等して行う建物解体工法が考えられる。
しかしながら、特許文献1記載の技術では建物上空を単に全体又は部分的に開閉するだけであるので、例えば、切断分離部位を別の場所に移動させるために、頂部養生シートの全体を開いてしまうと、飛散を防止できなくなるので、一旦、破砕手段による破砕作業を中止させる必要がある。また、頂部養生シートを部分的に開閉するにしても、実際に開閉できるエリアと建物の切断分離箇所に対応するエリア等の開閉したいエリアとが対応しておらず、離れた箇所となって切断分離部位を移動させるのに時間を要することになる。よって、特許文献1記載の技術では、外部への飛散を防止しながら効率よく解体工事を行うのが難しいという問題があった。
【0005】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、建物上空の任意のエリアの開閉を可能として外部への飛散を防止しながら効率良く建築工事を行うことのできる技術を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1特徴構成は、建物上空に張り渡されて建物上空を閉じる頂部養生シートと、
前記頂部養生シートを建物上空に保持するシート保持部と、
前記シート保持部にて建物上空に保持された前記頂部養生シートを移動させることで建物上空の開閉エリアを開閉する開閉操作部とが備えられている養生設備であって、
前記開閉エリアが多数備えられ、前記開閉操作部は、多数の開閉エリアから選択した開閉エリアを開閉自在に構成されている点にある。
【0007】
本構成によれば、例えば、建築工事の一例である解体工事において、建物中央側部位の解体は、頂部養生シートにて建物上空を被覆した状態で破砕手段にて破砕して効率良く行い、外部への飛散の可能性がより高くなる建物外周側部位の解体については、破砕手段よりも飛散し難いワイヤーソー等の切断手段にて切断分離(所謂、ブロック解体)する。開閉操作部により建物上空の多数の開閉エリアから選択した開閉エリアを開閉できるので、建物上空の切断分離箇所に対応するエリアに近い開閉エリアを選択して開閉操作部にて開いて、その開いた開閉エリアを通じてクレーンにて切断分離部分を他の箇所(建物中央側部位や敷地内の破砕作業箇所)に移動させて行うことができ、建物外周側部位をその場で破砕機等の重機で破砕することで、その破片が建物周囲に飛散するのを適切に防止することができる。
したがって、外部への飛散を防止しながら効率良く建築工事を行うことができる。
【0008】
本発明の第2特徴構成は、前記頂部養生シートは、建物上空を区分する複数の帯状エリアに対応した複数の帯状シートにて構成され、当該複数の帯状シートの夫々が前記開閉操作部にてシート長さ方向に沿って別々に移動自在に構成されている点にある。
【0009】
本構成によれば、建物上空を区分する複数の帯状エリアに対応した複数の帯状シートの夫々を開閉操作部にてシート長さ方向に沿って別々に移動させることで、建物上空において帯状シートのシート幅で構成される比較的小さいエリア単位で緻密に開閉することが可能となり、外部への飛散を一層確実に防止しながら効率良く建築工事を行うことができる。
【0010】
本発明の第3特徴構成は、前記頂部養生シートは、隣接する前記帯状シートのシート幅方向の端部側を上下方向視で重ねた状態で建物上空に張り渡されている点にある。
【0011】
本構成によれば、隣接する帯状シートの隙間を通じて破片等が外部に飛散するのをシンプルな構造で適切に防止することができる。
【0012】
本発明の第4特徴構成は、前記開閉操作部は、建物を挟んで相対向する外部足場間にロープ長さ方向に沿って移動自在に環状に亘らされる操作用ロープを備え、その操作用ロープに前記頂部養生シートのシート長さ方向の端部側が固定されることで、外部足場から操作自在に構成されている点にある。
【0013】
本構成によれば、開閉操作部を操作用ロープにてシンプルに構成しながら、作業者が外部足場から環状の操作用ロープをロープ長さ方向に沿って移動(回転)させることで、頂部養生シートのシート長さ方向の端部側を移動させる形態で、建物上空の開閉エリアを容易且つ安全に開閉することができる。
【0014】
本発明の第5特徴構成は、前記シート保持部には、前記頂部養生シートを建物上空に張り渡すための支持ワイヤが備えられ、
前記頂部養生シートのシート幅方向の両端部には、前記支持ワイヤが挿通される支持ワイヤ挿通部が備えられ、
前記開閉操作部は、前記頂部養生シートを前記支持ワイヤに沿ってシート長さ方向に移動させることで、建物上空の開閉エリアを開閉するように構成されている点にある。
【0015】
本構成によれば、頂部養生シートを2本の支持ワイヤで効率良く支持することができるとともに、開閉操作部にて頂部養生シートの任意の部位を2本の支持ワイヤに沿ってシート長さ方向に移動させることで、建物上空の開閉エリアを容易に開閉することができる。
【0016】
本発明の第6特徴構成は、前記シート保持部には、前記支持ワイヤのワイヤ長さ方向の両端部を固定する支持ワイヤ固定部が備えられ、
前記支持ワイヤ固定部は、外部足場における建物の上部フロアから上方に突出する部分を用いて構成され、
前記頂部養生シートは、前記支持ワイヤのみで直接支持される状態で建物上空に張り渡され、
前記支持ワイヤ固定部は、前記頂部養生シートを上空に張り渡すための前記支持ワイヤの張力を外部足場のみで負担するように構成されている点にある。
【0017】
本構成によれば、建物の上部フロアにおいて、外部足場における建物を挟んで相対向する上方突出部分どうしの間の中央側部位に支柱や支持台等の専用の支持構造体を設置することなく、外部足場の上方突出部分を用いて構成される支持ワイヤ固定部のみに頂部養生シートを支持させる状態で、頂部養生シートを建物上空に張り渡すことができる。
よって、建物の上部フロアにおいて、専用の支持構造体等に邪魔されることなく、建築工事を一層効率良く行うことができる。
【0018】
本発明の第7特徴構成は、第1~第6特徴構成のいずれかに記載の養生設備を設置して建物の解体を行う建物解体工法であって、
建物中央側部位の解体は、前記頂部養生シートにて建物上空を被覆した状態で破砕手段にて破砕して行い、
建物外周側部位の解体は、切断手段にて切断分離するとともに前記開閉操作部にて建物上空の切断分離箇所に対応する開閉エリアを開いて、その開いた開閉エリアを通じてクレーンにて建物外周側部位の切断分離部分を他の箇所に移動させて行う点にある。
【0019】
本構成によれば、建物中央側部位の解体は、頂部養生シートにて建物上空を被覆した状態で破砕手段にて破砕して効率良く行い、外部への飛散の可能性がより高くなる建物外周側部位の解体については、破砕手段よりも飛散し難いワイヤーソー等の切断手段にて切断分離し、建物上空の切断分離箇所に対応するエリアを開いて、その開いたエリアを通じてクレーンにて切断分離部分を他の箇所(建物中央側部位や敷地内の破砕作業箇所、或いは、敷地内の仮置箇所)に移動させて行うことができ、建物外周側部位を破砕機等の重機で破砕することで、その破片が建物周囲に飛散するのを適切に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】建物に設置した養生設備を模式的に示す平面図(上面図)
【
図3】
図1のIII-III線断面を模式的に示す図
【
図4】開閉エリアを開いた状態を模式的に示す平面図(上面図)
【
図5】開閉エリアを閉じた状態を示す養生設備の要部の拡大図
【
図6】開閉エリアを開いた状態を示す養生設備の要部の拡大図
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の養生設備及び建物解体方法の実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明の養生設備は、建物Bの解体工事や新築工事等の建築工事中に破片等や工具類等の飛散防止対象が外部に飛散するのを防止するために設置されるものであり、本実施形態では、建物Bを上方側から下方側に向かって概ねフロア毎に解体する解体工事現場に設置される場合を例に挙げて説明する。
【0022】
図1~
図3に示すように、この養生設備には、上端が建物Bの上部フロア(その時点の最上層の床面)よりも上方位置まで突出する状態で建物Bの外周を囲むように設置される外部足場1と、この外部足場1の上端レベル付近で建物Bの上空に張り渡されて建物上空を閉じる頂部養生シート2とが備えられている。
また、詳細は後述するが、この養生設備には、
図5、
図6に示すように、頂部養生シート2を建物上空に保持するシート保持部3と、当該シート保持部3にて建物上空に保持された頂部養生シート2を移動させることで建物上空の開閉エリアAを開閉する開閉操作部4が備えられている。そして、この養生設備は、上述の開閉エリアAが多数備えられ、開閉操作部4は、多数の開閉エリアAから選択した開閉エリアAを開閉自在に構成されている。
以下、各部の具体的構成について説明を加える。
【0023】
外部足場1は、本実施形態では枠組足場として構成され、
図1、
図6に示すように、建物外周方向に所定ピッチで配置される略門の字状の建枠11を上下方向に多段連結するとともに、建物外周方向で隣接する各段の建枠11の上端部における建物側端部どうし及び外部側端部どうしを横桟や梁枠等の水平連結材16(
図1参照)で連結して構成されている。そして、建物外周方向で隣接する各段の建枠11の上端部における建物内外方向の中間部位間に足場板12(
図6参照)が架設されている。また、風圧力等の外力で外部足場1が倒れるのを防止するべく、上下方向の所定ピッチで配置された壁繋ぎ13により建物Bの外周面に繋がれている。
図6に示すように、この外部足場1の外周面には、横側方への飛散や音漏れを防止するための防音パネル14が備えられている。なお、建枠11は、建物内外方向に並ぶ一対の支柱部11Aと、その支柱部11Aの上端どうしを連結する横桟部11Bと、支柱部11Aと横桟部11Bとに亘る補強枠部11Cとを有して剛性の高い枠部材として構成されている。
【0024】
図2、
図3、
図6に示すように、この外部足場1には、その時点の建物Bの上部フロアよりも所定の突出代(図示例では建枠約3段分)だけ上方位置に突出する上方突出部分15が備えられており、この上方突出部分15が風圧力等の外力や後述する支持ワイヤ31の張力等で倒れるのを防止するべく、その上方突出部分15と建物Bの上部フロアとに亘って方杖17が設置されている。
【0025】
また、本実施形態では、
図2、
図3に示すように、外部足場1の上方突出部分15の建物B側の上端部から建物Bの上部フロアまでの側方範囲を被覆する側部養生シート5が備えられている。なお、側部養生シート5は、
図5~
図10では省略している。この側部養生シート5は、その上端部が外部足場1の上方突出部分15の建物側(内方側)の上端部に掛け止められ、上方突出部分15の建物側(内方側)の上端部に吊り下げ支持されている。なお、外部への飛散を一層防止するべく、外部足場1の上方突出部分15の外部側の上方に養生シート支持枠等を立ち上げて、その立ち上げ部分にも側部養生シート5を張設するようにしてもよい。この外部足場1は、上方側から下方側へ向かう解体作業の進捗に伴い、上方突出部分15の突出代が維持される状態で上方側から下方側に向かって順次撤去される。
【0026】
頂部養生シート2は、
図1~
図3に示すように、通風性を有するシート材やネット材等から建物上空の全域を被覆可能な大きさ(面積)に構成されている。頂部養生シート2は、
図1に示すように、建物上空を複数(図示例では4つ)に区分する複数の帯状エリアDに対応した複数の帯状シート21にて構成されている。図示例では、
図1中で上下方向に複数の帯状エリアDが区分されている場合を例示しているが、
図1中で左右方向に複数の帯状エリアDが区分されていたり、
図1中で上下方向に加えて左右方向にも複数の帯状エリアDが区分されていてもよい。また、建物Bの外周部のうちで特に飛散を防止したい辺に対して、それの直交方向に延びる複数の帯状エリアDが当該辺に沿って並ぶ状態に複数の帯状エリアDを区分すれば、その飛散を防止したい辺に隣接する隣接エリアにおいて各帯状エリアDの幅で構成される比較的小さいエリア単位で開閉エリアAを設定することができ、建物Bの外周部のうちで特に飛散を防止したい辺からの外部への飛散を良好に防止することができる。
図3に示すように、複数の帯状シート21は、隣接する帯状シート21のシート幅方向Yの端部側を上下方向視において所定の重ね代L(本例では1m程度)で重ねた状態で建物上空に張り渡されている。
【0027】
図6に示すように、建物上空には、シート長さ方向Xに沿って延びる支持ワイヤ31が張り渡されており、複数の帯状シート21のシート幅方向Y(
図3参照)の両端部には、その支持ワイヤ31が挿通される支持ワイヤ挿通部22が備えられている。複数の帯状シート21の夫々は、支持ワイヤ挿通部22に挿通された支持ワイヤ31にシート幅方向Yの両端部が支持される状態で建物上空に張り渡されている。支持ワイヤ挿通部22は、各帯状シート21のシート幅方向Yの両端部の縁部において、シート長さ方向Xに沿って所定間隔(例えば、900mm)を空けて固着されたカラビナ等のリング部材22A、22Bにて構成されている。
【0028】
また、
図1に矢印で示すように、複数の帯状シート21の夫々は、開閉操作部4にてシート長さ方向Xに沿って別々に移動自在に構成されており、建物上空を区分する複数の帯状エリアDの夫々においてシート長さ方向Xでの移動距離に応じた広さを有する多数の開閉エリアAを開閉自在に構成されている。そのため、例えば、
図4に示すように、
図4中の上から二つ目の帯状エリアDの左端の開閉エリアAを選択して開いたりするなど特定の開閉エリアAを選択して開くことができる。つまり、区分された複数の帯状エリアDのうち、どの帯状エリアDを開くのかを選択することができるだけでなく、その選択した帯状エリアDにおいて、どれだけの面積を開くのかも選択することができ、任意の開閉エリアAを開閉することができる。
【0029】
図5、及び、
図6に示すように、開閉操作部4は、頂部養生シート2を支持ワイヤ31に沿ってシート長さ方向Xに移動させることで建物上空の開閉エリアAを開閉するように構成されている。具体的には、開閉操作部4は、建物Bを挟んで相対向する外部足場1間にロープ長さ方向(シート長さ方向X)に沿って移動自在に環状に亘らされる操作用ロープ41を備えて構成され、その環状に亘らされる操作用ロープ41に帯状シート21のシート長さ方向Xの一端側(図中左端部)の固定用のリング部材22Bに結束等により固定されている。この操作用ロープ41は、帯状シート21毎に備えられている。
【0030】
そのため、建物上空を閉じた状態(
図5参照)から
図6に示すように外部足場1上の操作者が操作用ロープ41をロープ長さ方向(
図6において左右方向)に沿って移動操作してロープ長さ方向に沿って回転させることで、操作用ロープ41に固定された帯状シート21の一端側を支持ワイヤ31に沿ってシート長さ方向Xの他方に移動させることができ、その移動操作量に応じた帯状シート21の一端側の他方(図中右側)への移動により所望の開閉エリアAを開くことができる。
また、図示は省略するが、開閉エリアAを開いた状態から外部足場1上の操作者が操作用ロープ41をロープ長さ方向に沿って開き側とは逆方向に移動操作してロープ長さ方向に沿って開き側とは逆方向に回転させることで、操作用ロープ41に固定された帯状シート21の一端側を支持ワイヤ31に沿ってシート長さ方向Xの一方に移動させて開閉エリアAを狭くしたり閉じたりすることができる。
なお、帯状シート21の一端側の先端には、帯状シート21の姿勢を安定させるための重量材としての樹脂パイプ23が備えられている。当該樹脂パイプ23は、帯状シート21の先端が巻き付けられる状態で備えられている。
【0031】
ちなみに、本実施形態では、操作用ロープ41は、帯状シート21のシート長さ方向Xの一端側の固定用のリング部材22Bに結束等により固定され、それ以外の多数のリング部材22Aに対しては、操作用ロープ41の姿勢を支持し得る程度の間隔を空けて所定個数置き(例えば1つ置き)に移動自在に挿通されている。
【0032】
図6に示すように、シート保持部3には、上述した支持ワイヤ31と、その支持ワイヤ31のワイヤ長さ方向(シート長さ方向X)の両端部を建物Bよりも外方の位置に固定する支持ワイヤ固定部32とが備えられている。支持ワイヤ固定部32は、外部足場1における建物Bの上部フロアから上方に突出する上方突出部分15を用いて構成されている。頂部養生シート2は、支持ワイヤ31のみで直接支持される状態で建物上空に張り渡されており、支持ワイヤ固定部32は、頂部養生シート2を建物上空に張り渡すために支持ワイヤ31に導入される張力を外部足場1のみで負担するように構成されている。
【0033】
支持ワイヤ31の一端側(
図6中の左側)を固定する支持ワイヤ固定部32は、
図6に示すものでは、建物上空で水平方向に延びる支持ワイヤ31の一端側を外部足場1の上方突出部分15の上端部における建物側端部の方向転換部32Aを屈曲支点にして下向きに方向転換して引き下げ、支持ワイヤ31に張力を導入するレバーブロック(登録商標)32B(緊張手段の一例)を介して外部足場1の上下中間部の建物側端部の被連結部32Cに連結するようになっている。なお、支持ワイヤ31の他方側を固定する支持ワイヤ固定部32については、レバーブロック32Bを省略することもできる。
【0034】
支持ワイヤ31の屈曲支点となる方向転換部32Aは、例えば、支持ワイヤ31を引っ掛け可能なフック、支持ワイヤ31を挿通可能なリング、或いは、滑車などを有するクランプ式の受け部材を使用し、このような受け部材を外部足場1の上方突出部分15の上端の建枠11の建物側端部に固定して構成することができる。
【0035】
外部足場1の上下中間部の建物側端部の被連結部32Cは、例えば、レバーブロック32Bの引っ掛け部を引っ掛け可能なフックやリングなどを有するクランプ式の被連結部材を使用し、このような被連結部材を建物Bの上部フロアと略同じレベルで壁繋ぎ13にて建物Bに繋がれた建枠11の建物側端部に固定して構成することができる。
【0036】
次に、
図7、
図8を参照して上述の如く構成された養生設備を用いて既存の建物Bを解体する建物解体工法について説明する。この建物解体工法は、前述したように建物Bを上方側から下方側に向かって概ねフロア毎に解体するものである。なお、
図7、
図8では、シート保持部3や開閉操作部4は省略している。
【0037】
図7に示すように、建物解体工法の第1工程では、養生設備の頂部養生シート2にて建物上空の全体を被覆した状態で、図中点線で示すように既存の建物Bにおけるその時点の最上層(最上階)の建物中央側部位B1を移動式の破砕機6(破砕手段の一例)にて破砕して解体する。また、既存の建物Bにおけるその時点の最上層の建物外周側部位B2を、脱落しないように支保工7等で支持しながらワイヤーソー等の切断手段(図示省略)にて切断分離する。なお、この第1工程において、建物中央側部位B1の破砕と建物外周側部位B2の切断分離は、別々又は同時のタイミングで行うことができる。
【0038】
図8に示すように、第1工程に引き続き実行される建物解体工法の第2工程では、外部足場1上の作業者が養生設備の開閉操作部4(
図6参照)を操作し、開閉操作部4にて建物上空の切断分離箇所に対応する建物Bの外周側に隣接する一部の開閉エリアAを一時的に開く。そして、その開いた開閉エリアAを通じて、クレーンCのブームから吊り下げられた連結フックC1を降下させて建物外周側部位B2の切断分離部分bを連結し、その切断分離部分bを頂部養生シート2よりも上方に揚重し、その後、水平方向にも移動させて、建物外周側部位B2以外の破砕可能なエリア(例えば建物中央側部位B1や敷地内の破砕エリア等)に移動させ、破砕機6などで破砕する。建物外周側部位B2の切断分離部分bを建物中央側部位B1に移動させる場合には、開閉操作部4にて建物上空の移動目標箇所に対応する一部の開閉エリアAを一時的に開き、その開いた開閉エリアAを通じて切断分離部分bを建物中央側部位B1の移動目標箇所に受け入れる。
【0039】
なお、この第2工程では、建物外周側部位B2の切断分離部分bを移動させる際に建物上空の切断分離箇所に対応する一部の開閉エリアAを一時的に開くようにしており、その一部の開閉エリアAを閉じている間は、一層下の建物中央側部位B1(図中の点線部)を移動式の破砕機6(破砕手段の一例)にて破砕して解体することができる。また、建物外周側部位B2の切断分離部分bの大きさが小さく、破砕までは必要としない場合には、破砕することなく、そのまま撤去することができる。
【0040】
このように、この建物解体工法では、建物中央側部位B1の解体は、頂部養生シート2にて建物上空を全て被覆した状態で破砕機6にて破砕して行い、建物外周側部位B2の解体は、切断手段にて切断分離するとともに開閉操作部4にて建物上空の切断分離箇所に対応する開閉エリアAを開いて、その開いた開閉エリアAを通じてクレーンCにて建物外周側部位B2の切断分離部分bを他の箇所に移動させて行うようにしている。
そのため、建物中央側部位B1の解体は、頂部養生シート2にて建物上空を被覆した状態で破砕機6にて破砕して効率良く行い、外部への飛散の可能性がより高くなる建物外周側部位B2の解体については、破砕機6よりも飛散し難いワイヤーソー等の切断手段にて切断分離し、建物上空の切断分離箇所に対応する開閉エリアAを開いて、その開いた開閉エリアAを通じてクレーンCにて切断分離部分bを他の箇所に移動させて行うことができ、建物外周側部位B2をその場で破砕機6で破砕することで、その破片等が外部に飛散するのを適切に防止することができる。
【0041】
〔別実施形態〕
本発明の他の実施形態について説明する。なお、以下に説明する各実施形態の構成は、夫々単独で適用することに限らず、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0042】
(1)支持ワイヤ固定部32は、前述の実施形態で示した構成(
図6参照)に限らず、各種の構成変更が可能である。例えば、
図9に示すように、支持ワイヤ固定部32は、建物上空で水平方向に延びる支持ワイヤ31を外部足場1の上方突出部分15の上端部の外部側端部の方向転換部32Aを屈曲支点にして下向きに方向転換し、防音パネル14側の水平連結材(
図1参照)と足場板12との間の隙間を通して下方に引き下げ、レバーブロック32Bを介して外部足場1の上下中間部の屋外側端部の被連結部32Cに連結する。このようにすれば、外部足場1のみにて支持ワイヤ31の張力を一層効率良く負担することができる。
【0043】
また、例えば、
図10に示すように、支持ワイヤ固定部32は、建物上空で水平方向に延びる支持ワイヤ31を外部足場1の上方突出部分15の上端部の建物側端部の方向転換部32Aを屈曲支点にして下向きに方向転換して下方に引き下げ、更に、上方突出部分15の1つ下の建枠11の建物側端部の方向転換部32A、当該建枠11の外部側端部の方向転換部32Aを経由して上向きに方向転換する。そして、防音パネル14側の水平連結材(
図1参照)と足場板12との間の隙間を通して上方に引き上げ、レバーブロック32Bを介して外部足場1の上方突出部分15の最上段の建枠11の外部側端部の被連結部32Cに連結する。このようにすれば、外部足場1の上方突出部分15を構成する3段の建枠11の姿勢を支持ワイヤ31で拘束一体化することができ、外部足場1のみにて支持ワイヤ31の張力を一層効率良く負担することができる。
【0044】
(3)前述の実施形態では、開閉操作部4が、操作用ロープ41を操作者が手作業で操作する手動式のものを例に示したが、電動ウインチ等を設けて操作用ロープ41を電動で操作する電動式としてもよい。
【0045】
(4)前述の実施形態では、
図6に示すように、開閉操作部4が、帯状シート21におけるシート長さ方向Xの一端側(図中左端側)をシート長さ方向Xに移動させるように構成されている場合を例に示したが、帯状シート21におけるシート長さ方向Xの他端側(図中右端側)を支持ワイヤ31に沿ってシート長さ方向Xに移動させるように構成されていたり、帯状シート21のシート長さ方向Xの一端側と他端側の両方を支持ワイヤ31に沿ってシート長さ方向Xに移動させるように構成されていてもよい。
【0046】
(5)前述の実施形態では、本発明の養生設備を解体工事に使用する場合を例に示したが、本発明の養生設備は、建物Bの解体工事だけでなく、建物Bの新築工事にも好適に使用することができる。この場合、建物Bの上部フロアでの新築作業は、頂部養生シート2にて建物上空を被覆して外部への飛散を防止した状態で行い、建築資材等を建物Bの上部フロアの新築作業中の特定の搬入目標箇所に搬入する場合に、その新築作業を中断して建物上空の搬入目標箇所の直上部位を開き、クレーンCにて建築資材等を搬入目標箇所に搬入することができ、外部への飛散を防止しながら、効率良く新築工事を行うことができる。
【符号の説明】
【0047】
1 外部足場
2 頂部養生シート
3 シート保持部
4 開閉操作部
21 帯状シート
22 支持ワイヤ挿通部
31 支持ワイヤ
32 支持ワイヤ固定部
41 操作用ロープ
A 開閉エリア
B 建物
C クレーン
D 帯状エリア
X シート長さ方向
Y シート幅方向
b 切断分離部分