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  • 特開-リチウムイオン二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077703
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20240603BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20240603BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240603BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240603BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0567
H01M4/525
H01M4/505
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189804
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅津 智
(72)【発明者】
【氏名】三田 洋樹
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AJ06
5H029AJ07
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL04
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029HJ02
5H050AA02
5H050AA12
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】優れた電池特性を得ることが可能であるリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】リチウムイオン二次電池は、正極および負極と共に電解液を備える。正極は、式(1)で表されるリチウム含有化合物を含み、電解液は、式(2)で表されるニトリル化合物を含む。
Lix M1y M21-y z ・・・(1)
(M1は、少なくとも1種の遷移金属元素である。M2は、少なくとも1種の非遷移金属元素である。x、yおよびzは、1≦x≦2、0<y<1および2≦z≦3を満たす。)
R1R2R3C-CN ・・・(2)
(R1、R2およびR3のそれぞれは、アルキル基およびフッ素化アルキル基のうちのいずれかである。)
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極および負極と共に電解液を備え、
前記正極は、式(1)で表されるリチウム含有化合物を含み、
前記電解液は、式(2)で表されるニトリル化合物を含む、
リチウムイオン二次電池。
Lix M1y M21-y z ・・・(1)
(M1は、少なくとも1種の遷移金属元素である。M2は、少なくとも1種の非遷移金属元素である。x、yおよびzは、1≦x≦2、0<y<1および2≦z≦3を満たす。)
R1R2R3C-CN ・・・(2)
(R1、R2およびR3のそれぞれは、アルキル基およびフッ素化アルキル基のうちのいずれかである。)
【請求項2】
前記式(1)において、前記M1は、Ni、CoおよびMnのうちの少なくとも1種を含む、
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記式(1)において、前記M2は、AlおよびBのうちの少なくとも一方を含む、
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記式(2)において、前記R1、前記R2および前記R3のそれぞれは、アルキル基である、
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機などの多様な電子機器が普及しているため、小型かつ軽量であると共に高エネルギー密度が得られる電源としてリチウムイオン二次電池の開発が進められている。このリチウムイオン二次電池は、正極および負極と共に電解液を備えており、そのリチウムイオン二次電池の構成に関しては、様々な検討がなされている。
【0003】
具体的には、リチウム二次電池において、二次電池用非水電解液が非水溶媒を含んでおり、その非水溶媒がトリメチルアセトニトリル(ピバロニトリル)を含んでいる(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2014/108979号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リチウムイオン二次電池の構成に関する様々な検討がなされているが、そのリチウムイオン二次電池の電池特性は未だ十分でないため、改善の余地がある。
【0006】
そこで、優れた電池特性を得ることが可能であるリチウムイオン二次電池が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本技術の一実施形態のリチウムイオン二次電池は、正極および負極と共に電解液を備え、その正極が式(1)で表されるリチウム含有化合物を含み、その電解液が式(2)で表されるニトリル化合物を含むものである。
【0008】
Lix M1y M21-y z ・・・(1)
(M1は、少なくとも1種の遷移金属元素である。M2は、少なくとも1種の非遷移金属元素である。x、yおよびzは、1≦x≦2、0<y<1および2≦z≦3を満たす。)
【0009】
R1R2R3C-CN ・・・(2)
(R1、R2およびR3のそれぞれは、アルキル基およびフッ素化アルキル基のうちのいずれかである。)
【発明の効果】
【0010】
本技術の一実施形態のリチウムイオン二次電池によれば、正極が式(1)に示したリチウム含有化合物を含んでおり、電解液が式(2)に示したニトリル化合物を含んでいるので、優れた電池特性を得ることができる。
【0011】
なお、本技術の効果は、必ずしもここで説明された効果に限定されるわけではなく、後述する本技術に関連する一連の効果のうちのいずれの効果でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本技術の一実施形態におけるリチウムイオン二次電池(ラミネートフィルム型)の構成を表す斜視図である。
図2図1に示した電池素子の構成を表す断面図である。
図3】リチウムイオン二次電池の適用例の構成を表すブロック図である。
図4】他のリチウムイオン二次電池(コイン型)の構成を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本技術の一実施形態に関して、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。

1.リチウムイオン二次電池
1-1.構成
1-2.動作
1-3.製造方法
1-4.作用および効果
2.変形例
3.リチウムイオン二次電池の用途
【0014】
<1.リチウムイオン二次電池>
まず、本技術の一実施形態のリチウムイオン二次電池に関して説明する。
【0015】
ここで説明するリチウムイオン二次電池は、リチウムの吸蔵放出を利用して電池容量が得られる二次電池であり、正極および負極と共に電解液を備えている。このリチウムイオン二次電池では、リチウムの吸蔵放出を利用して十分な電池容量が安定に得られる。
【0016】
なお、負極の充電容量は、正極の放電容量よりも大きいことが好ましい。すなわち、負極の単位面積当たりの電気化学容量は、正極の単位面積当たりの電気化学容量よりも大きいことが好ましい。充電途中において負極の表面にリチウム金属が析出することを防止するためである。
【0017】
<1-1.構成>
図1は、リチウムイオン二次電池の斜視構成を表していると共に、図2は、図1に示した電池素子20の断面構成を表している。ただし、図1では、外装フィルム10と電池素子20とが互いに分離された状態を示していると共に、XZ面に沿った電池素子20の断面を破線で示している。
【0018】
このリチウムイオン二次電池は、図1および図2に示したように、外装フィルム10と、電池素子20と、正極リード31と、負極リード32と、封止フィルム41,42とを備えている。ここで説明するリチウムイオン二次電池は、可撓性または柔軟性を有する外装フィルム10を用いたラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池である。
【0019】
[外装フィルム]
外装フィルム10は、図1に示したように、電池素子20を収納する外装部材であり、その電池素子20が内部に収納された状態において封止された袋状の構造を有している。これにより、外装フィルム10は、後述する正極21および負極22と共に電解液を内部に収納している。
【0020】
ここでは、外装フィルム10は、1枚のフィルム状の部材であり、折り畳み方向Fに折り畳まれている。この外装フィルム10には、電池素子20を収容するための窪み部10U(深絞り部)が設けられている。
【0021】
具体的には、外装フィルム10は、融着層、金属層および表面保護層が内側からこの順に積層された3層のラミネートフィルムであり、その外装フィルム10が折り畳まれた状態において、互いに対向する融着層のうちの外周縁部同士が互いに融着されている。融着層は、ポリプロピレンなどの高分子化合物を含んでいる。金属層は、アルミニウムなどの金属材料を含んでいる。表面保護層は、ナイロンなどの高分子化合物を含んでいる。
【0022】
ただし、外装フィルム10の構成(層数)は、特に、限定されないため、1層または2層でもよいし、4層以上でもよい。
【0023】
[電池素子]
電池素子20は、図1および図2に示したように、正極21と、負極22と、セパレータ23と、電解液(図示せず)とを含む発電素子であり、外装フィルム10の内部に収納されている。
【0024】
この電池素子20は、いわゆる巻回電極体である。すなわち、正極21および負極22は、セパレータ23を介して互いに積層されていると共に、そのセパレータ23を介して互いに対向しながら巻回軸Pを中心として巻回されている。この巻回軸Pは、Y軸方向に延在する仮想軸である。
【0025】
電池素子20の立体的形状は、特に限定されない。ここでは、電池素子20の立体的形状は、扁平状であるため、巻回軸Pと交差する電池素子20の断面(XZ面に沿った断面)の形状は、長軸J1および短軸J2により規定される扁平形状である。この長軸J1は、X軸方向に延在すると共に短軸J2の長さよりも大きい長さを有する仮想軸であると共に、短軸J2は、X軸方向と交差するZ軸方向に延在すると共に長軸J1の長さよりも小さい長さを有する仮想軸である。ここでは、電池素子20の立体的形状は、扁平な円筒状であるため、その電池素子20の断面の形状は、扁平な略楕円である。
【0026】
(正極)
正極21は、図2に示したように、正極集電体21Aおよび正極活物質層21Bを含んでいる。
【0027】
正極集電体21Aは、正極活物質層21Bが設けられる一対の面を有している。この正極集電体21Aは、金属材料などの導電性材料を含んでおり、その導電性材料の具体例は、アルミニウムなどである。
【0028】
ここでは、正極活物質層21Bは、正極集電体21Aの両面に設けられており、リチウムを吸蔵放出する正極活物質のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。ただし、正極活物質層21Bは、正極21が負極22に対向する側において正極集電体21Aの片面だけに設けられていてもよい。また、正極活物質層21Bは、さらに、正極結着剤および正極導電剤などの他の材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。正極活物質層21Bの形成方法は、特に限定されないが、具体的には、塗布法などである。
【0029】
正極活物質は、リチウム含有化合物を含んでおり、そのリチウム含有化合物は、式(1)で表される化合物のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。高いエネルギー密度が得られるからである。
【0030】
Lix M1y M21-y z ・・・(1)
(M1は、少なくとも1種の遷移金属元素である。M2は、少なくとも1種の非遷移金属元素である。x、yおよびzは、1≦x≦2、0<y<1および2≦z≦3を満たす。)
【0031】
式(1)から明らかなように、リチウム含有化合物は、リチウム(Li)と、遷移金属元素(M1)と、非遷移金属元素(M2)と、酸素(O)とを構成元素として含んでいる化合物であり、層状岩塩型の結晶構造を有している。
【0032】
yの範囲(0<y<1)から明らかなように、リチウム含有化合物は、遷移金属元素(M1)を必ず構成元素として含んでいると共に、非遷移金属元素(M2)も必ず構成元素として含んでいる。
【0033】
リチウム含有化合物が遷移金属元素(M1)と共に非遷移金属元素(M2)を構成元素として含んでいる理由に関しては、後述する。
【0034】
M1は、上記したように、遷移金属元素のうちのいずれか1種類または2種類以上であれば、特に限定されない。この遷移金属元素は、長周期型周期表のうちの3族~11族に属する一連の金属元素である。遷移金属元素の具体例は、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマンガン(Mn)などである。
【0035】
中でも、M1は、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマンガン(Mn)のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいることが好ましい。リチウム含有化合物を用いて十分な電池容量が安定に得られながら、ガスの発生が十分に抑制されるからである。
【0036】
M2は、上記したように、非遷移金属元素のうちのいずれか1種類または2種類以上であれば、特に限定されない。この非遷移金属元素は、いわゆる典型元素であり、より具体的には、長周期型周期表のうちの12族~18族に属する一連の金属元素である。非遷移金属元素の具体例は、アルミニウム(Al)およびホウ素(B)などである。
【0037】
中でも、M2は、アルミニウム(Al)およびホウ素(B)のうちの一方または双方を含んでいることが好ましい。リチウム含有化合物を用いて十分な電池容量が安定に得られながら、ガスの発生が十分に抑制されるからである。
【0038】
x、yおよびzのそれぞれの値は、上記した条件(1≦x≦2、0<y<1および2≦z≦3)を満たしていれば特に限定されないため、任意に設定可能である。
【0039】
中でも、非遷移金属元素(M2)の含有量(モル比)を表す(1-y)の値は、0.001≦(1-y)≦0.1であることが好ましい。非遷移金属元素(M2)の含有量が適正化されるため、電解液の分解反応に起因するガスの発生が十分に抑制されるからである。
【0040】
リチウム含有化合物の具体例は、非遷移金属元素(M2)の種類に応じて任意に選択可能である。一例を挙げると、非遷移金属元素(M2)がアルミニウムである場合におけるリチウム含有化合物の具体例は、LiNi0.82Co0.14Al0.042 およびLiNi0.80Co0.15Al0.052 などである。
【0041】
なお、正極活物質は、さらに、他のリチウム含有化合物のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。上記したリチウム含有化合物は、ここで説明する他のリチウム含有化合物から除かれる。
【0042】
他のリチウム含有化合物は、リチウムと共に1種類または2種類以上の遷移金属元素を構成元素として含む化合物であり、さらに、1種類または2種類以上の他元素を構成元素として含んでいてもよい。他元素の種類は、遷移金属元素以外の元素(リチウムを除く。)であれば、特に限定されないが、具体的には、長周期型周期表のうちの2族~15族に属する元素である。リチウム含有化合物の種類は、特に限定されないが、具体的には、酸化物、リン酸化合物、ケイ酸化合物およびホウ酸化合物などである。
【0043】
酸化物の具体例は、LiNiO2 、LiCoO2 、LiNi0.5 Co0.2 Mn0.3 2 、LiNi0.33Co0.33Mn0.332 、Li1.2 Mn0.52Co0.175 Ni0.1 2 、Li1.15(Mn0.65Ni0.22Co0.13)O2 およびLiMn2 4 などである。リン酸化合物の具体例は、LiFePO4 、LiMnPO4 、LiFe0.5 Mn0.5 PO4 およびLiFe0.3 Mn0.7 PO4 などである。
【0044】
正極結着剤は、合成ゴムおよび高分子化合物などの化合物のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。合成ゴムの具体例は、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムおよびエチレンプロピレンジエンなどである。高分子化合物の具体例は、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミドおよびカルボキシメチルセルロースなどである。
【0045】
正極導電剤は、炭素材料などの導電性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、その導電性材料の具体例は、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノファイバーおよびカーボンナノチューブなどである。ただし、導電性材料は、金属材料および導電性高分子化合物などでもよい。
【0046】
(負極)
負極22は、図2に示したように、負極集電体22Aおよび負極活物質層22Bを含んでいる。
【0047】
負極集電体22Aは、負極活物質層22Bが設けられる一対の面を有している。この負極集電体22Aは、金属材料などの導電性材料を含んでおり、その導電性材料の具体例は、銅などである。
【0048】
ここでは、負極活物質層22Bは、負極集電体22Aの両面に設けられており、リチウムを吸蔵放出する負極活物質のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。ただし、負極活物質層22Bは、負極22が正極21に対向する側において負極集電体22Aの片面だけに設けられていてもよい。また、負極活物質層22Bは、さらに、負極結着剤および負極導電剤などの他の材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。なお、負極活物質層22Bの形成方法は、特に限定されないが、具体的には、塗布法などである。
【0049】
負極活物質は、炭素材料および金属系材料などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。高いエネルギー密度が得られるからである。
【0050】
炭素材料の具体例は、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素および黒鉛などである。この黒鉛は、天然黒鉛でもよいし、人造黒鉛でもよいし、双方でもよい。
【0051】
金属系材料は、リチウムと合金を形成可能である金属元素および半金属元素のうちのいずれか1種類または2種類以上を構成元素として含む材料であり、その金属元素および半金属元素の具体例は、ケイ素およびスズなどである。この金属系材料は、単体でもよいし、合金でもよいし、化合物でもよいし、それらの2種類以上の混合物でもよいし、それらの2種類以上の相を含む材料でもよい。金属系材料の具体例は、TiSi2 およびSiOx (0<x≦2、または0.2<x<1.4)などである。
【0052】
負極結着剤および負極導電剤のそれぞれに関する詳細は、正極結着剤および正極導電剤のそれぞれに関する詳細と同様である。
【0053】
(セパレータ)
セパレータ23は、図2に示したように、正極21と負極22との間に介在している絶縁性の多孔質膜であり、その正極21と負極22との接触(短絡)を防止しながらリチウムイオンを通過させる。このセパレータ23は、ポリエチレンなどの高分子化合物を含んでいる。
【0054】
(電解液)
電解液は、液状の電解質であり、ニトリル化合物を含んでいる。
【0055】
ニトリル化合物は、式(2)で表される化合物のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。このニトリル化合物は、式(2)から明らかなように、嵩高い構造を有する三つ叉の基(-CR1R2R3)と、シアノ基(-CN)とが互いに結合された化合物である。
【0056】
R1R2R3C-CN ・・・(2)
(R1、R2およびR3のそれぞれは、アルキル基およびフッ素化アルキル基のうちのいずれかである。)
【0057】
R1、R2およびR3のそれぞれは、上記したように、アルキル基およびフッ素化アルキル基のうちのいずれかであれば、特に限定されない。
【0058】
アルキル基は、直鎖状でもよいし、分岐状でもよい。アルキル基の炭素数は、特に限定されないが、中でも、1~4であることが好ましい。ニトリル化合物の溶解性および相溶性が向上するからである。
【0059】
アルキル基の具体例は、メチル基、エチル基、プロピル基およびブチル基などである。ただし、アルキル基は、上記したように、鎖状に限られずに分岐状でもよい。このため、一例を挙げると、プロピル基は、n-プロピル基でもよいし、イソプロピル基でもよい。また、他の一例を挙げると、ブチル基は、n-ブチル基でもよいし、sec-ブチル基でもよいし、イソブチル基でもよいし、tert-ブチル基でもよい。
【0060】
フッ素化アルキル基は、アルキル基のうちの1つまたは2つ以上の水素基がフッ素基により置換された基である。アルキル基に関する詳細(構成および炭素数など)は、上記した通りである。
【0061】
フッ素化アルキル基の具体例は、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基およびパーフルオロブチル基などである。ただし、フッ素アルキル基の具体例は、パーフルオロ基に限られないため、モノフルオロメチル基、モノフルオロエチル基、モノフルオロプロピル基およびモノフルオロブチル基などでもよい。
【0062】
正極21(正極活物質)がリチウム含有化合物を含んでいる場合において、電解液がニトリル化合物を含んでいる理由に関しては、後述する。
【0063】
中でも、R1、R2およびR3のそれぞれは、アルキル基であることが好ましい。遷移金属(M1)の溶出に起因するリチウムイオン二次電池の劣化がより抑制されると共に、負極22の表面に高い電気抵抗を有する被膜がより形成されにくくなるからである。
【0064】
ニトリル化合物の具体例は、(CH3 3 C-CNおよび(CF3 3 C-CNなどである。
【0065】
電解液中におけるニトリル化合物の含有量は、特に限定されないため、任意に設定可能である。
【0066】
なお、電解液は、さらに、溶媒および電解質塩を含んでいてもよい。
【0067】
溶媒は、非水溶媒(有機溶剤)のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、その非水溶媒を含んでいる電解液は、いわゆる非水電解液である。非水溶媒は、エステル類およびエーテル類などを含んでおり、より具体的には、炭酸エステル系化合物、カルボン酸エステル系化合物およびラクトン系化合物などを含んでいる。
【0068】
炭酸エステル系化合物は、環状炭酸エステルおよび鎖状炭酸エステルなどである。環状炭酸エステルの具体例は、炭酸エチレンおよび炭酸プロピレンなどである。鎖状炭酸エステルの具体例は、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸エチルメチルなどである。
【0069】
カルボン酸エステル系化合物は、鎖状カルボン酸エステルなどである。鎖状カルボン酸エステルの具体例は、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、トリメチル酢酸メチル、トリメチル酢酸エチル、酪酸メチルおよび酪酸エチルなどである。
【0070】
ラクトン系化合物は、ラクトンなどである。ラクトンの具体例は、γ-ブチロラクトンおよびγ-バレロラクトンなどである。
【0071】
なお、エーテル類は、エーテルのうちの一部がフッ素化された化合物でもよい。エーテル類の具体例は、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサンおよび1,1,2-テトラフルオロエチル2,2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテルなどである。
【0072】
電解質塩は、リチウム塩などの軽金属塩である。リチウム塩の具体例は、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3 SO3 )、ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム(LiN(FSO2 2 )、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3 SO2 2 )、リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド(LiC(CF3 SO2 3 )、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiB(C2 4 2 )、モノフルオロリン酸リチウム(Li2 PFO3 )およびジフルオロリン酸リチウム(LiPF2 2 )などである。高い電池容量が得られるからである。
【0073】
電解質塩の含有量は、特に限定されないが、具体的には、溶媒に対して0.3mol/kg~3.0mol/kgである。高いイオン伝導性が得られるからである。
【0074】
また、電解液は、さらに、添加剤のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。電解液の電気化学的安定性が向上するため、その電解液の分解反応が抑制されるからである。
【0075】
添加剤の種類は、特に限定されないが、具体的には、不飽和環状炭酸エステル、フッ素化環状炭酸エステル、スルホン酸エステル、リン酸エステル、酸無水物、他のニトリル化合物およびイソシアネート化合物などである。
【0076】
不飽和環状炭酸エステルの具体例は、炭酸ビニレン、炭酸ビニルエチレンおよび炭酸メチレンエチレンなどである。フッ素化環状炭酸エステルの具体例は、モノフルオロ炭酸エチレンおよびジフルオロ炭酸エチレンなどである。スルホン酸エステルの具体例は、プロパンスルトンおよびプロペンスルトンなどである。リン酸エステルの具体例は、リン酸トリメチルおよびリン酸トリエチルなどである。酸無水物の具体例は、コハク酸無水物、1,2-エタンジスルホン酸無水物および2-スルホ安息香酸無水物などである。他のニトリル化合物の具体例は、アセトニトリル、バレロニトリル、アジポニトリルおよびスクシノニトリルなどである。イソシアネート化合物の具体例は、ヘキサメチレンジイソシアネートなどである。
【0077】
[正極リードおよび負極リード]
正極リード31は、図1および図2に示したように、正極21のうちの正極集電体21Aに接続されている正極端子であり、外装フィルム10の外部に導出されている。この正極リード31は、金属材料などの導電性材料を含んでおり、その導電性材料の具体例は、アルミニウムなどである。正極リード31の形状は、特に限定されないが、具体的には、薄板状および網目状などのうちのいずれかである。
【0078】
負極リード32は、図1および図2に示したように、負極22のうちの負極集電体22Aに接続されている負極端子であり、外装フィルム10の外部に導出されている。この負極リード32は、金属材料などの導電性材料を含んでおり、その導電性材料の具体例は、銅などである。ここでは、負極リード32の導出方向および形状に関する詳細は、正極リード31の導出方向および形状に関する詳細と同様である。
【0079】
[封止フィルム]
封止フィルム41は、外装フィルム10と正極リード31との間に挿入されていると共に、封止フィルム42は、外装フィルム10と負極リード32との間に挿入されている。ただし、封止フィルム41,42のうちの一方または双方は、省略されてもよい。
【0080】
この封止フィルム41は、外装フィルム10の内部に外気などが侵入することを防止する封止部材である。なお、封止フィルム41は、正極リード31に対して密着性を有するポリオレフィンなどの高分子化合物を含んでおり、そのポリオレフィンの具体例は、ポリプロピレンなどである。
【0081】
封止フィルム42の構成は、負極リード32に対して密着性を有する封止部材であることを除いて、封止フィルム41の構成と同様である。すなわち、封止フィルム42は、負極リード32に対して密着性を有するポリオレフィンなどの高分子化合物を含んでいる。
【0082】
<1-2.動作>
リチウムイオン二次電池は、以下で説明するように動作する。
【0083】
充電時には、電池素子20において、正極21からリチウムがイオン状態で放出されると共に、そのリチウムが電解液を介して負極22にイオン状態で吸蔵される。一方、放電時には、電池素子20において、負極22からリチウムがイオン状態で放出されると共に、そのリチウムが電解液を介して正極21にイオン状態で吸蔵される。
【0084】
<1-3.製造方法>
リチウムイオン二次電池を製造する場合には、以下で説明する一例の手順により、正極21および負極22のそれぞれを作製すると共に、電解液を調製したのち、その正極21、負極22および電解液を用いてリチウムイオン二次電池を組み立てると共に、そのリチウムイオン二次電池の安定化処理を行う。
【0085】
[正極の作製]
最初に、リチウム含有化合物を含む正極活物質と、正極結着剤と、正極導電剤とを互いに混合させることにより、正極合剤とする。続いて、溶媒に正極合剤を投入することにより、ペースト状の正極合剤スラリーを調製する。この溶媒は、水性溶媒でもよいし、有機溶剤でもよい。最後に、正極集電体21Aの両面に正極合剤スラリーを塗布することにより、正極活物質層21Bを形成する。こののち、ロールプレス機などを用いて正極活物質層21Bを圧縮成型してもよい。この場合には、正極活物質層21Bを加熱してもよいし、圧縮成型を複数回繰り返してもよい。これにより、正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bが形成されるため、正極21が作製される。
【0086】
[負極の作製]
上記した正極21の作製手順と同様の手順により、負極22を作製する。具体的には、負極活物質、負極結着剤および負極導電剤が互いに混合された負極合剤を溶媒に投入することにより、ペースト状の負極合剤スラリーを調製したのち、負極集電体22Aの両面に負極合剤スラリーを塗布することにより、負極活物質層22Bを形成する。こののち、負極活物質層22Bを圧縮成型してもよい。これにより、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bが形成されるため、負極22が作製される。
【0087】
[電解液の調製]
具体的には、溶媒に電解質塩を添加したのち、その溶媒にニトリル化合物を添加する。これにより、溶媒中において電解質塩およびニトリル化合物のそれぞれが分散または溶解されるため、電解液が調製される。
【0088】
[リチウムイオン二次電池の組み立て]
最初に、溶接法などの接合法を用いて、正極21のうちの正極集電体21Aに正極リード31を接続させると共に、溶接法などの接合法を用いて、負極22のうちの負極集電体22Aに負極リード32を接続させる。
【0089】
続いて、セパレータ23を介して正極21および負極22を互いに積層させることにより、積層体を形成したのち、その積層体を巻回させることにより、巻回体(図示せず)を作製する。この巻回体は、正極21、負極22およびセパレータ23のそれぞれに電解液が含浸されていないことを除いて、電池素子20の構成と同様の構成を有している。続いて、プレス機などを用いて巻回体を押圧することにより、扁平状となるように巻回体を成型する。
【0090】
続いて、窪み部10Uの内部に巻回体を収容したのち、外装フィルム10(融着層/金属層/表面保護層)を折り畳むことにより、その外装フィルム10同士を互いに対向させる。続いて、熱融着法などの接着法を用いて、互いに対向する融着層のうちの2辺の外周縁部同士を互いに接合させることにより、袋状の外装フィルム10の内部に巻回体を収納する。
【0091】
最後に、袋状の外装フィルム10の内部に電解液を注入したのち、熱融着法などの接着法を用いて、互いに対向する融着層のうちの残りの1辺の外周縁部同士を互いに接合させる。この場合には、外装フィルム10と正極リード31との間に封止フィルム41を挿入すると共に、外装フィルム10と負極リード32との間に封止フィルム42を挿入する。
【0092】
これにより、巻回体に電解液が含浸されるため、巻回電極体である電池素子20が作製される。よって、袋状の外装フィルム10の内部に電池素子20が封入されるため、リチウムイオン二次電池が組み立てられる。
【0093】
[安定化処理]
組み立て後のリチウムイオン二次電池を充放電させる。環境温度、充放電回数(サイクル数)および充放電条件などの各種条件は、任意に設定可能である。これにより、正極21および負極22のそれぞれの表面に被膜が形成されるため、リチウムイオン二次電池の状態が電気化学的に安定化する。よって、リチウムイオン二次電池が完成する。
【0094】
<1-4.作用および効果>
このリチウムイオン二次電池によれば、正極21がリチウム含有化合物を含んでいると共に、電解液がニトリル化合物を含んでいる。この場合には、以下で説明する一連の作用が得られる。
【0095】
第1に、ニトリル化合物(シアノ基)は、正極活物質(リチウム含有化合物)中に含まれている遷移金属(M1)に配位しやすい性質を有している。これにより、充放電時において正極活物質から遷移金属(M1)が溶出すると、ニトリル化合物が遷移金属(M1)を捕獲するため、その遷移金属(M1)の溶出に起因する問題、より具体的には負極22における遷移金属(M1)の析出(いわゆるデンドライトの発生)などが抑制される。よって、遷移金属(M1)の溶出に起因する電池素子20の劣化が抑制される。
【0096】
第2に、ニトリル化合物は、嵩高い構造を有している。これにより、ニトリル化合物は、嵩高い構造を有していない類似の化合物と比較して、低い反応性を有しており、より具体的には、負極22の表面において還元されにくい性質を有している。この類似の化合物は、直鎖状の構造を有している化合物などであり、その化合物の具体例は、スクシノニトリルなどである。これにより、負極22の表面におけるニトリル化合物の分解反応が抑制されるため、そのニトリル化合物の分解反応に起因するガスの発生も抑制される。
【0097】
第3に、正極活物質(リチウム含有化合物)中に非遷移金属元素(M2)が構成元素として含まれているため、その正極活物質中に非遷移金属元素(M2)が構成元素として含まれていない場合と比較して、その正極活物質の表面にニトリル化合物が配位しにくくなる。この非遷移金属元素を構成元素として含んでいない正極活物質の具体例は、LiNi0.33Co0.33Mn0.332 およびLiCoO2 などである。この場合には、特に、正極活物質の表面近傍に非遷移金属元素(M2)が存在していると、その正極活物質の表面にニトリル化合物がより配位しにくくなる。これにより、ニトリル化合物は、正極活物質の表面に配位せずに、電解液中に存在しやすくなると共に、負極22の表面に存在しやすくなる。よって、上記したように、負極22の表面におけるニトリル化合物の分解反応が抑制されるだけでなく、正極21の表面におけるニトリル化合物の分解反応も抑制されるため、そのニトリル化合物の分解反応に起因するガスの発生がより抑制される。
【0098】
第4に、ニトリル化合物は、嵩高い構造を有していると共に、α位に水素基を有していない。これにより、電解液がニトリル化合物を含んでいても、充放電時の電解液中において、求核置換反応および脱プロトン化などの不要な反応が進行しにくくなる。よって、充放電時において、高い電気抵抗を有する被膜が負極22の表面に形成されにくくなるため、電池素子20の電気抵抗の増加が抑制される。
【0099】
これらのことから、充放電時において、電池素子20の劣化が抑制されながら、ガスの発生が抑制されると共に、その電池素子20の電気抵抗の増加も抑制されるため、優れた電池特性を得ることができる。
【0100】
特に、式(1)において、遷移金属元素(M1)がニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいれば、リチウム含有化合物を用いて十分な電池容量が安定に得られながら、ガスの発生が十分に抑制されるため、より高い効果を得ることができる。
【0101】
また、式(1)において、非遷移金属元素(M2)がアルミニウム(Al)およびホウ素(B)のうちの一方または双方を含んでいれば、リチウム含有化合物を用いて十分な電池容量が安定に得られながら、ガスの発生が十分に抑制されるため、より高い効果を得ることができる。
【0102】
また、式(2)において、R1、R2およびR3のそれぞれがアルキル基であれば、遷移金属(M1)の溶出に起因する電池素子20の劣化がより抑制されると共に、高い電気抵抗を有する被膜が負極22の表面により形成されにくくなるため、より高い効果を得ることができる。
【0103】
<2.変形例>
リチウムイオン二次電池の構成は、以下で説明するように、適宜、変更可能である。ただし、以下で説明する一連の変形例は、互いに組み合わされてもよい。
【0104】
[変形例1]
リチウムイオン二次電池の電池構造がラミネートフィルム型である場合に関して説明した。しかしながら、リチウムイオン二次電池の電池構造は、特に限定されないため、円筒型、角型およびコイン型などでもよい。この場合においても、同様の効果を得ることができる。
【0105】
特に、電池構造が電流遮断弁を備えた円筒型である場合には、上記したように、ニトリル化合物の分解反応に起因するガスの発生が抑制されることに応じて、その電流遮断弁が過剰に作動することは抑制される。よって、ニトリル化合物の分解反応とは異なる要因に起因してガスが発生した際に、電流遮断弁を利用して電池素子20の通電が効果的に遮断されるため、より高い効果を得ることができる。
【0106】
[変形例2]
多孔質膜であるセパレータ23を用いた。しかしながら、ここでは具体的に図示しないが、高分子化合物層を含む積層型のセパレータを用いてもよい。
【0107】
具体的には、積層型のセパレータは、一対の面を有する多孔質膜と、その多孔質膜の片面または両面に設けられた高分子化合物層とを含んでいる。正極21および負極22のそれぞれに対するセパレータの密着性が向上するため、電池素子20の巻きずれが抑制されるからである。これにより、電解液の分解反応が発生しても、リチウムイオン二次電池の膨れが抑制される。高分子化合物層は、ポリフッ化ビニリデンなどの高分子化合物を含んでいる。ポリフッ化ビニリデンは、物理的強度に優れていると共に、電気化学的に安定である。
【0108】
なお、多孔質膜および高分子化合物層のうちの一方または双方は、複数の絶縁性粒子を含んでいてもよい。リチウムイオン二次電池の発熱時において複数の絶縁性粒子が放熱を促進させるため、そのリチウムイオン二次電池の安全性(耐熱性)が向上するからである。絶縁性粒子は、無機材料および樹脂材料などの絶縁性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。無機材料の具体例は、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ベーマイト、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化マグネシウムおよび酸化ジルコニウムなどである。樹脂材料の具体例は、アクリル樹脂およびスチレン樹脂などである。
【0109】
積層型のセパレータを作製する場合には、高分子化合物および溶媒などを含む前駆溶液を調製したのち、多孔質膜の片面または両面に前駆溶液を塗布する。この場合には、必要に応じて、前駆溶液に複数の絶縁性粒子を添加してもよい。
【0110】
この積層型のセパレータを用いた場合においても、正極21と負極22との間においてリチウムが移動可能になるため、同様の効果を得ることができる。この場合には、特に、上記したように、リチウムイオン二次電池の安全性が向上するため、より高い効果を得ることができる。
【0111】
[変形例3]
液状の電解質である電解液を用いた。しかしながら、ここでは具体的に図示しないが、ゲル状の電解質である電解質層を用いてもよい。
【0112】
電解質層を用いた電池素子20では、セパレータ23および電解質層を介して正極21および負極22が互いに積層されていると共に、その正極21、負極22、セパレータ23および電解質層が巻回されている。この電解質層は、正極21とセパレータ23との間に介在していると共に、負極22とセパレータ23との間に介在している。
【0113】
具体的には、電解質層は、電解液と共に高分子化合物を含んでおり、その電解液は、高分子化合物により保持されている。電解液の漏液が防止されるからである。電解液の構成は、上記した通りである。高分子化合物は、ポリフッ化ビニリデンなどを含んでいる。電解質層を形成する場合には、電解液、高分子化合物および溶媒などを含む前駆溶液を調製したのち、正極21および負極22のそれぞれの片面または両面に前駆溶液を塗布する。
【0114】
この電解質層を用いた場合においても、正極21と負極22との間において電解質層を介してリチウムが移動可能になるため、同様の効果を得ることができる。この場合には、特に、上記したように、電解液の漏液が防止されるため、より高い効果を得ることができる。
【0115】
<4.リチウムイオン二次電池の用途>
リチウムイオン二次電池の用途(適用例)は、特に限定されない。電源として用いられるリチウムイオン二次電池は、電子機器および電動車両などの主電源でもよいし、補助電源でもよい。主電源とは、他の電源の有無に関係なく、優先的に使用される電源である。補助電源は、主電源の代わりに使用される電源でもよいし、主電源から切り替えられる電源でもよい。
【0116】
リチウムイオン二次電池の用途の具体例は、以下の通りである。ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、携帯電話機、ノート型パソコン、ヘッドホンステレオ、携帯用ラジオおよび携帯用情報端末などの電子機器である。バックアップ電源およびメモリーカードなどの記憶用装置である。電動ドリルおよび電動鋸などの電動工具である。電子機器などに搭載される電池パックである。ペースメーカおよび補聴器などの医療用電子機器である。電気自動車(ハイブリッド自動車を含む。)などの電動車両である。非常時に備えて電力を蓄積しておく家庭用または産業用のバッテリシステムなどの電力貯蔵システムである。これらの用途では、1個のリチウムイオン二次電池が用いられてもよいし、複数個のリチウムイオン二次電池が用いられてもよい。
【0117】
電池パックでは、単電池が用いられてもよいし、組電池が用いられてもよい。電動車両は、駆動用電源としてリチウムイオン二次電池を用いて作動(走行)する車両であり、そのリチウムイオン二次電池とは異なる他の駆動源も併せて備えたハイブリッド自動車でもよい。家庭用の電力貯蔵システムでは、電力貯蔵源であるリチウムイオン二次電池に蓄積された電力を利用して、家庭用の電気製品などを使用可能である。
【0118】
ここで、リチウムイオン二次電池の適用例の一例に関して具体的に説明する。以下で説明する適用例の構成は、あくまで一例であるため、適宜、変更可能である。
【0119】
図3は、電池パックのブロック構成を表している。ここで説明する電池パックは、1個のリチウムイオン二次電池を用いた電池パック(いわゆるソフトパック)であり、スマートフォンに代表される電子機器などに搭載される。
【0120】
この電池パックは、図3に示したように、電源51と、回路基板52とを備えている。この回路基板52は、電源51に接続されていると共に、正極端子53、負極端子54および温度検出端子55を含んでいる。
【0121】
電源51は、1個のリチウムイオン二次電池を含んでいる。このリチウムイオン二次電池では、正極リードが正極端子53に接続されていると共に、負極リードが負極端子54に接続されている。この電源51は、正極端子53および負極端子54を介して外部と接続可能であるため、充放電可能である。回路基板52は、制御部56と、スイッチ57と、PTC素子58と、温度検出部59とを含んでいる。ただし、PTC素子58は、省略されてもよい。
【0122】
制御部56は、中央演算処理装置(CPU)およびメモリなどを含んでおり、電池パックの全体の動作を制御する。この制御部56は、必要に応じて電源51の使用状態の検出および制御を行う。
【0123】
なお、制御部56は、電源51(リチウムイオン二次電池)の電圧が過充電検出電圧または過放電検出電圧に到達すると、スイッチ57を切断することにより、電源51の電流経路に充電電流が流れないようにする。過充電検出電圧は、特に限定されないが、具体的には、4.20V±0.05Vであると共に、過放電検出電圧は、特に限定されないが、具体的には、2.40V±0.1Vである。
【0124】
スイッチ57は、充電制御スイッチ、放電制御スイッチ、充電用ダイオードおよび放電用ダイオードなどを含んでおり、制御部56の指示に応じて電源51と外部機器との接続の有無を切り換える。このスイッチ57は、金属酸化物半導体を用いた電界効果トランジスタ(MOSFET)などを含んでおり、充電電流および放電電流のそれぞれは、スイッチ57のON抵抗に基づいて検出される。
【0125】
温度検出部59は、サーミスタなどの温度検出素子を含んでいる。この温度検出部59は、温度検出端子55を用いて電源51の温度を測定すると共に、その温度の測定結果を制御部56に出力する。温度検出部59により測定された温度の測定結果は、異常発熱時において制御部56が充放電制御を行う場合および残容量の算出時において制御部56が補正処理を行う場合などに用いられる。
【実施例0126】
本技術の実施例に関して説明する。
【0127】
<実施例1および比較例1~8>
以下で説明するように、リチウムイオン二次電池を作製したのち、そのリチウムイオン二次電池の電池特性を評価した。
【0128】
[リチウムイオン二次電池の作製]
以下で説明する手順により、図1および図2に示したラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0129】
(正極の作製)
最初に、正極活物質(リチウム含有化合物であるLiNi0.80Co0.15Al0.052 (NCA),遷移金属元素(M1)=NiおよびCo,非遷移金属元素(M2)=Al)91質量部と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン)3質量部と、正極導電剤(アモルファス性炭素粉であるケッチェンブラック)6質量部とを互いに混合させることにより、正極合剤とした。続いて、溶媒(有機溶剤であるN-メチル-2-ピロリドン)に正極合剤を投入したのち、その溶媒を撹拌することにより、ペースト状の正極合剤スラリーを調製した。
【0130】
続いて、コーティング装置を用いて正極集電体21A(厚さ=10μmであるアルミニウム箔)の両面に正極合剤スラリーを塗布したのち、その正極合剤スラリーを乾燥させることにより、正極活物質層21Bを形成した。
【0131】
最後に、ロールプレス機を用いて正極活物質層21Bを圧縮成型したのち、その正極活物質層21Bが形成されている正極集電体21Aを帯状となるように切断した。これにより、正極21が作製された。
【0132】
なお、比較のために、遷移金属元素(M1)および非遷移金属元素(M2)のそれぞれを構成元素として含んでいるリチウム含有化合物の代わりに、その遷移金属元素(M1)だけを構成元素として含んでいる他のリチウム含有化合物を用いたことを除いて同様の手順により、正極21を作製した。この他のリチウム含有化合物としては、LiNi0.33Co0.33Mn0.332 (NCM,遷移金属元素(M1)=Ni、CoおよびMn)と、LiCoO2 (LCO,遷移金属元素(M1)=Co)とを用いた。
【0133】
(負極の作製)
最初に、負極活物質(人造黒鉛)94質量部と、負極結着剤(スチレンブタジエンゴム)1.5質量部と、負極導電剤2.5質量部(黒鉛0.5質量部およびカーボンナノチューブ2質量部)と、増粘剤2質量部(カルボキシメチルセルロース)とを互いに混合させることにより、負極合剤とした。
【0134】
続いて、溶媒(水性溶媒である水)に負極合剤を投入したのち、その溶媒を撹拌することにより、ペースト状の負極合剤スラリーを調製した。
【0135】
続いて、コーティング装置を用いて負極集電体22A(厚さ=8μmである銅箔)の両面に負極合剤スラリーを塗布したのち、その負極合剤スラリーを乾燥させることにより、負極活物質層22Bを形成した。
【0136】
最後に、ロールプレス機を用いて負極活物質層22Bを圧縮成型したのち、その負極活物質層22Bが形成されている負極集電体22Aを帯状となるように切断した。これにより、負極22が作製された。
【0137】
(電解液の調製)
最初に、溶媒を準備した。溶媒としては、環状炭酸エステルである炭酸エチレン(EC)と、鎖状炭酸エステルである炭酸エチルメチル(EMC))との混合物を用いた。この場合には、溶媒の混合比(重量比)をEC:EMC=30:70とした。
【0138】
続いて、溶媒に電解質塩(リチウム塩である六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 ))を添加したのち、その溶媒を撹拌した。この場合には、電解質塩の含有量を溶媒に対して1mol/kgとした。
【0139】
最後に、電解質塩を含む溶媒にニトリル化合物(ピバロニトリル((CH3 3 -CN)(PN))を添加したのち、その溶媒を攪拌した。これにより、電解液が調製された。この場合には、電解液中におけるニトリル化合物の含有量を5重量%とした。
【0140】
なお、比較のために、ニトリル化合物を用いなかったことを除いて同様の手順により、電解液を調製した。
【0141】
また、比較のために、嵩高い構造を有しているニトリル化合物の代わりに、その嵩高い構造を有していない他のニトリル化合物を用いたことを除いて同様の手順により、電解液を調製した。この他のニトリル化合物としては、スクシノニトリル(SN)を用いた。
【0142】
(リチウムイオン二次電池の組み立て)
最初に、正極21のうちの正極集電体21Aに正極リード31(アルミニウム箔)を溶接したと共に、負極22のうちの負極集電体22Aに負極リード32(銅箔)を溶接した。
【0143】
続いて、セパレータ23(厚さ=25μmである微多孔性ポリエチレンフィルム)を介して正極21および負極22を互いに積層させることにより、積層体を形成したのち、その積層体を巻回させることにより、巻回体を作製した。続いて、プレス機を用いて巻回体をプレスすることにより、扁平状となるように巻回体を成型した。
【0144】
続いて、窪み部10Uの内部に収容された巻回体を挟むように外装フィルム10を折り畳んだ。この外装フィルム10としては、融着層(厚さ=30μmであるポリプロピレンフィルム)と、金属層(厚さ=40μmであるアルミニウム箔)と、表面保護層(厚さ=25μmであるナイロンフィルム)とが内側からこの順に積層されたアルミラミネートフィルムを用いた。続いて、互いに対向する融着層のうちの2辺の外周縁部同士を互いに熱融着させることにより、袋状の外装フィルム10の内部に巻回体を収納した。
【0145】
最後に、袋状の外装フィルム10の内部に電解液を注入したのち、減圧環境中において互いに対向する融着層のうちの残りの1辺の外周縁部同士を互いに熱融着させた。この場合には、外装フィルム10と正極リード31との間に封止フィルム41(厚さ=5μmであるポリプロピレンフィルム)を挿入したと共に、外装フィルム10と負極リード32との間に封止フィルム42(厚さ=5μmであるポリプロピレンフィルム)を挿入した。
【0146】
これにより、巻回体に電解液が含浸されたため、電池素子20が作製された。よって、外装フィルム10の内部に電池素子20が封入されたため、リチウムイオン二次電池が組み立てられた。
【0147】
(安定化処理)
常温環境中(温度=23℃)においてリチウムイオン二次電池を1サイクル充放電させた。充電時には、0.1Cの電流で電圧が4.2Vに到達するまで定電流充電したのち、その4.2Vの電圧で電流が0.025Cに到達するまで定電圧充電した。放電時には、0.1Cの電流で電圧が3.0Vに到達するまで定電流放電した。0.1Cとは、電池容量(理論容量)を10時間で放電しきる電流値であると共に、0.025Cとは、その電池容量を40時間で放電しきる電流値である。
【0148】
これにより、正極21および負極22のそれぞれの表面に被膜が形成されたため、リチウムイオン二次電池が電気化学的に安定された。よって、ラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池が完成した。
【0149】
なお、リチウムイオン二次電池の完成後、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC-MS)を用いて、電解液中におけるニトリル化合物の含有量(重量%)と、電解液中における他のニトリル化合物の含有量(重量%)を測定した結果は、表1に示した通りである。
【0150】
[他のリチウムイオン二次電池の作製]
以下で説明する手順により、他のリチウムイオン二次電池も作製した。図4は、コイン型のリチウムイオン二次電池の断面構成を表している。
【0151】
このリチウムイオン二次電池は、図4に示したように、負極61と、正極62と、セパレータ63と、外装カップ64と、外装缶65と、ガスケット66と、電解液(図示せず)とを備えている。
【0152】
負極61は、外装カップ64に収容されていると共に、正極62は、外装缶65に収容されている。負極61および正極62は、セパレータ63を介して互いに積層されていると共に、電解液は、負極61、正極62およびセパレータ63のそれぞれに含浸されている。外装カップ64および外装缶65は、ガスケット66を介して互いに加締められているため、負極61、正極62およびセパレータ63は、外装カップ64および外装缶65により封入されている。
【0153】
(正極の作製)
正極集電体21Aの片面に正極合剤スラリーを塗布したことを除いて同様の手順により、正極活物質層21Bを形成した。ロールプレス機を用いて正極活物質層21Bを圧縮成型したのち、その正極活物質層21Bが形成されている正極集電体21Aを円盤状(直径=15mm)となるように打ち抜いた。これにより、正極62が作製された。
【0154】
(負極の作製)
負極集電体22Aの片面に負極合剤スラリーを塗布したことを除いて同様の手順により、負極活物質層22Bを形成した。ロールプレス機を用いて負極活物質層22Bを圧縮成型したのち、その負極活物質層22Bが形成されている負極集電体22Aを円盤状(直径=16mm)となるように打ち抜いた。これにより、負極61が作製された。
【0155】
(他のリチウムイオン二次電池の組み立て)
上記した手順により、電解液を調製したのち、最初に、外装カップ64に負極61を収容したと共に、外装缶65に正極62を収容した。続いて、電解液が含浸されたセパレータ63(厚さ=20μmである微多孔性ポリエチレンフィルム)を介して、外装カップ64に収容された負極61と、外装缶65に収容された正極62とを互いに積層させた。この場合には、セパレータ63を介して正極活物質層21Bと負極活物質層22Bとが互いに対向するように、負極61および正極62を配置した。最後に、負極61および正極62がセパレータ63を介して互いに積層されている状態において、ガスケット66を介して外装カップ64および外装缶65を互いに加締めた。これにより、外装カップ64および外装缶65に負極61および正極62が封入されたため、リチウムイオン二次電池が組み立てられた。
【0156】
(安定化処理)
上記した手順により、組み立て後のリチウムイオン二次電池の安定化処理を行った。これにより、負極61および正極62のそれぞれが電気化学的に安定されたため、コイン型のリチウムイオン二次電池が完成した。
【0157】
[リチウムイオン二次電池の特性評価]
以下で説明する手順により、リチウムイオン二次電池の電池特性(電流特性、電気抵抗特性およびガス発生特性)を評価したところ、表1に示した結果が得られた。
【0158】
(電流特性)
電流特性を評価する場合には、コイン型のリチウムイオン二次電池を用いた。
【0159】
この場合には、高温環境中(温度=60℃)においてリチウムイオン二次電池を定電流充電させた。定電流充電時には、0.2Cの電流で電圧が4.2Vに到達するまで充電した。0.2Cとは、電池容量を5時間で放電しきる電流値である。こののち、同環境中においてリチウムイオン二次電池を定電圧充電(充電期間=2週間)させることにより、電流特性を評価するための指標である漏れ電流(μA)を測定した。この漏れ電流は、定電圧充電の開始時から2週間経過後に測定された電流である。定電圧充電時には、4.2Vの電圧で充電した。
【0160】
なお、表1に示した漏れ電流の値は、電解液がニトリル化合物も他のニトリル化合物も含んでいない場合における漏れ電流の値を100として規格化された値である。具体的には、実施例1および比較例1,2における漏れ電流の値は、比較例1における漏れ電流の値に基づいて規格化されている。比較例3~5における漏れ電流の値は、比較例3における漏れ電流の値に基づいて規格化されている。比較例6~8における漏れ電流の値は、比較例6における漏れ電流の値に基づいて規格化されている。
【0161】
(電気抵抗特性)
電気抵抗特性を評価する場合には、コイン型のリチウムイオン二次電池を用いた。
【0162】
この場合には、交流インピーダンス法を用いて、電気抵抗特性を評価するための指標である正極62の電気化学インピーダンス(EIS(Ω))を測定した。この電気化学インピーダンスは、いわゆる電荷移動抵抗である。この場合には、測定装置として、Bio-Logic Science Instruments 社製のマルチチャンネルポテンショスタットVMP-3を用いた。測定条件は、周波数範囲=1MHz~10mHz、交流振幅=10mVとした。
【0163】
なお、表1に示したEISの値は、電解液がニトリル化合物も他のニトリル化合物も含んでいない場合におけるEISの値を100として規格化された値である。具体的には、実施例1および比較例1,2におけるEISの値は、比較例1におけるEISの値に基づいて規格化されている。比較例3~5におけるEISの値は、比較例3におけるEISの値に基づいて規格化されている。比較例6~8におけるEISの値は、比較例6におけるEISの値に基づいて規格化されている。
【0164】
(ガス発生特性)
ガス発生特性を評価する場合には、ラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池を用いた。
【0165】
この場合には、最初に、常温環境中(温度=23℃)においてリチウムイオン二次電池を充電させたのち、同環境中においてアルキメデス法を用いてリチウムイオン二次電池の体積(保存前の体積(cm3 ))を測定した。充電条件は、上記した安定化処理時の充電条件と同様にした。続いて、高温環境中(温度=60℃)において充電状態のリチウムイオン二次電池を保存(保存時間=14日間)したのち、同環境中においてアルキメデス法を用いてリチウムイオン二次電池の体積(保存後の体積(cm3 ))を測定した。最後に、ガス発生量(cm3 )=保存後の体積-保存前の体積という計算式を用いて、ガス発生特性を評価するための指標であるガス発生量を測定した。
【0166】
なお、表1に示したガス発生量の値は、電解液がニトリル化合物も他のニトリル化合物も含んでいない場合におけるガス発生量の値を100として規格化された値である。具体的には、実施例1および比較例1,2におけるガス発生量の値は、比較例1におけるガス発生量の値に基づいて規格化されている。比較例3~5におけるガス発生量の値は、比較例3におけるガス発生量の値に基づいて規格化されている。比較例6~8におけるガス発生量の値は、比較例6におけるガス発生量の値に基づいて規格化されている。
【0167】
【表1】
【0168】
[考察]
表1に示したように、漏れ電流、EISおよびガス発生量のそれぞれは、正極21の構成および電解液の構成に応じて大きく変動した。
【0169】
具体的には、遷移金属元素(M1)だけを構成元素として含んでいる他のリチウム含有化合物(NCM)を正極活物質として用いた場合(比較例3~5)に着目する。この場合には、電解液がニトリル化合物も他のニトリル化合物も含んでいない場合(比較例3)における漏れ電流、EISおよびガス発生量のそれぞれを比較基準とすると、以下で説明する傾向が得られた。
【0170】
電解液が他のニトリル化合物を含んでいる場合(比較例4)には、漏れ電流およびガス発生の双方は減少したが、EISが増加した。また、電解液がニトリル化合物を含んでいる場合(比較例5)には、漏れ電流は減少したが、EISおよびガス発生量の双方が増加した。
【0171】
これにより、正極が他のリチウム含有化合物を含んでいる場合において、電解液がニトリル化合物または他のニトリル化合物を含んでいると、漏れ電流が減少したと共に、場合によってはガス発生量も減少したが、EISが増加した。
【0172】
ここで説明した傾向(比較例3~5)は、遷移金属元素(M1)をだけ構成元素として含んでいる他のリチウム含有化合物(LCO)を正極活物質として用いた場合(比較例6~8)においても同様に得られた。
【0173】
これらのことから、遷移金属元素(M1)と共に非遷移金属元素(M2)を構成元素として含んでいるリチウム含有化合物を正極活物質として用いた場合においても、上記した他のリチウム含有化合物を正極活物質として用いた場合と同様の傾向が得られると予想される。
【0174】
しかしながら、リチウム含有化合物を正極活物質として用いた場合には、上記した予想とは全く異なる結果が得られた。
【0175】
具体的には、遷移金属元素(M1)と共に非遷移金属元素(M2)を構成元素として含んでいるリチウム含有化合物(NCA)を正極活物質として用いた場合(実施例1および比較例1,2)に着目する。この場合には、電解液がニトリル化合物も他のニトリル化合物も含んでいない場合(比較例1)における漏れ電流、EISおよびガス発生量のそれぞれを比較基準とすると、以下で説明する傾向が得られた。
【0176】
電解液が他のニトリル化合物を含んでいる場合(比較例2)には、漏れ電流は減少したが、EISおよびガス発生量の双方が増加した。このため、上記した他のリチウム含有化合物を正極活物質として用いた場合と同様の問題が発生した。
【0177】
しかしながら、電解液がニトリル化合物を含んでいる場合(実施例1)には、漏れ電流、EISおよびガス発生量の全てが減少した。この予想に反する結果は、非遷移金属元素(M2)を構成元素として含んでいるリチウム含有化合物と、嵩高い構造を有しているニトリル化合物とを組み合わせて用いたことにより、そのリチウム含有化合物とニトリル化合物との相乗作用により得られた特別かつ有利な利点であると考えられる。
【0178】
この場合には、特に、以下で説明する一連の傾向も得られた。
【0179】
第1に、式(1)において遷移金属元素(M1)がニッケル(Ni)およびコバルト(Co)を含んでいると、漏れ電流、EISおよびガス発生量のそれぞれが十分に減少した。
【0180】
第2に、式(1)において遷移金属元素(M2)がアルミニウム(Al)を含んでいると、漏れ電流、EISおよびガス発生量のそれぞれが十分に減少した。
【0181】
第3に、式(2)においてR1、R2およびR3のそれぞれがアルキル基であるため、ニトリル化合物がピバロニトリルであると、漏れ電流、EISおよびガス発生量のそれぞれが十分に減少した。
【0182】
[まとめ]
表1に示した結果から、正極21が式(1)に示したリチウム含有化合物を含んでいると共に、電解液が式(2)に示したニトリル化合物を含んでいると、漏れ電流、EISおよびガス発生量がいずれも減少した。よって、電流特性、電気抵抗特性およびガス発生特性のそれぞれが改善されたため、リチウムイオン二次電池において優れた電池特性が得られた。
【0183】
以上、一実施形態および実施例を挙げながら本技術に関して説明したが、その本技術の構成は、一実施形態および実施例において説明された構成に限定されないため、種々に変形可能である。
【0184】
具体的には、電池素子の素子構造が巻回型である場合に関して説明した。しかしながら、電池素子の素子構造は、特に限定されないため、積層型および九十九折り型などでもよい。積層型では、正極および負極がセパレータを介して交互に積層されていると共に、九十九折り型では、正極および負極がセパレータを介して互いに対向しながらジグザグに折り畳まれている。
【0185】
本明細書中に記載された効果は、あくまで例示であるため、本技術の効果は、本明細書中に記載された効果に限定されない。よって、本技術に関して、他の効果が得られてもよい。
【0186】
なお、本技術は、以下のような構成を取ることもできる。

<1>
正極および負極と共に電解液を備え、
前記正極は、式(1)で表されるリチウム含有化合物を含み、
前記電解液は、式(2)で表されるニトリル化合物を含む、
リチウムイオン二次電池。
Lix M1y M21-y z ・・・(1)
(M1は、少なくとも1種の遷移金属元素である。M2は、少なくとも1種の非遷移金属元素である。x、yおよびzは、1≦x≦2、0<y<1および2≦z≦3を満たす。)
R1R2R3C-CN ・・・(2)
(R1、R2およびR3のそれぞれは、アルキル基およびフッ素化アルキル基のうちのいずれかである。)
<2>
前記式(1)において、前記M1は、Ni、CoおよびMnのうちの少なくとも1種を含む、
<1>に記載のリチウムイオン二次電池。
<3>
前記式(1)において、前記M2は、AlおよびBのうちの少なくとも一方を含む、
<1>または<2>に記載のリチウムイオン二次電池。
<4>
前記式(2)において、前記R1、前記R2および前記R3のそれぞれは、アルキル基である、
<1>ないし<3>のいずれか1つに記載のリチウムイオン二次電池。
【符号の説明】
【0187】
20…電池素子、21…正極、22…負極、23…セパレータ。
図1
図2
図3
図4