IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社SCREENホールディングスの特許一覧

特開2024-77715印刷システム、調整支援方法、および調整支援プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077715
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】印刷システム、調整支援方法、および調整支援プログラム
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20240603BHJP
【FI】
B41J2/01 125
B41J2/01 451
B41J2/01 401
B41J2/01 305
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189825
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100104695
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 明宏
(74)【代理人】
【識別番号】100148459
【弁理士】
【氏名又は名称】河本 悟
(72)【発明者】
【氏名】薄坂 誼人
(72)【発明者】
【氏名】北村 一博
(72)【発明者】
【氏名】永井 健太
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EB13
2C056EB45
2C056EB46
2C056EB58
2C056EC12
2C056EC14
2C056EC29
2C056EC31
2C056HA47
(57)【要約】
【課題】インクジェット印刷装置におけるパラメータ値の調整を作業経験に関わらずオペレータが適切かつ容易に行うことを可能にする。
【解決手段】管理サーバ20で多数のインクジェット印刷装置10から送信された印刷実績ログ6に基づいて構築された、印刷パラメータについての複数の推奨候補値63を入力印刷条件62に基づいて求める推奨候補値探索モデル61と、複数の推奨候補値63のそれぞれを評価することによって当該複数の推奨候補値63の中から複数の推奨値64としての出力対象を選択する推奨候補値評価部1161とを含む推奨値出力部116が、インクジェット印刷装置に含まれる印刷制御装置110に設けられる。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷媒体を搬送する搬送機構と、前記搬送機構が前記印刷媒体を搬送する搬送速度を制御する搬送制御部と、前記搬送機構によって搬送されている前記印刷媒体にインクを吐出することにより印刷を行う印刷部と、前記印刷部による印刷後の前記印刷媒体を乾燥させる乾燥機構と、前記乾燥機構が前記印刷媒体を乾燥させる乾燥温度を制御する乾燥制御部とを備える印刷装置を含む印刷システムであって、
印刷条件の入力を受け付ける印刷条件入力受け付け部と、
前記印刷条件入力受け付け部によって受け付けられた印刷条件である入力印刷条件に基づいて、印刷パラメータとしての搬送速度および乾燥温度の少なくとも一方についての複数の推奨値を出力する推奨値出力部と
を備え、
前記推奨値出力部は、
前記入力印刷条件に基づいて前記複数の推奨値の候補である複数の推奨候補値を求める、機械学習により学習済みの推奨候補値探索モデルと、
前記複数の推奨候補値のそれぞれを評価することによって、前記複数の推奨候補値の中から前記複数の推奨値としての出力対象を選択する推奨候補値評価部と
を含むことを特徴とする、印刷システム。
【請求項2】
前記推奨値出力部は、さらに、前記複数の推奨値のそれぞれについての推奨度を出力することを特徴とする、請求項1に記載の印刷システム。
【請求項3】
印刷条件に関わる項目である条件項目の値に基づいて求められる値または条件項目の値を説明変数値とし、複数の説明変数値の組み合わせを説明変数値セットとし、1つの印刷パラメータの値または複数の印刷パラメータの値の組み合わせを目的変数値セットとして、前記推奨候補値探索モデルは、前記説明変数値セットと前記目的変数値セットとの組み合わせ毎の出現頻度の情報を含む印刷実績集約データを含み、
前記推奨値出力部は、前記印刷実績集約データに基づいて、前記複数の推奨値を含む複数の推奨目的変数値セットを出力することを特徴とする、請求項1に記載の印刷システム。
【請求項4】
前記推奨値出力部は、さらに、前記複数の推奨目的変数値セットのそれぞれについての推奨度を出力することを特徴とする、請求項3に記載の印刷システム。
【請求項5】
前記印刷装置は、前記乾燥機構として、第1の乾燥機構と第2の乾燥機構とを備え、
前記複数の推奨目的変数値セットのそれぞれは、前記第1の乾燥機構が前記印刷媒体を乾燥させる第1の乾燥温度の推奨値と前記第2の乾燥機構が前記印刷媒体を乾燥させる第2の乾燥温度の推奨値とを含むことを特徴とする、請求項3に記載の印刷システム。
【請求項6】
前記推奨候補値探索モデルは、前記入力印刷条件と前記印刷実績集約データとに基づいて、前記複数の推奨目的変数値セットの候補である複数の推奨候補目的変数値セットを求め、
前記推奨候補値評価部は、前記複数の推奨候補目的変数値セットのそれぞれを評価することによって、前記複数の推奨候補目的変数値セットの中から前記複数の推奨目的変数値セットとしての出力対象を選択することを特徴とする、請求項3に記載の印刷システム。
【請求項7】
前記推奨候補値探索モデルは、
前記入力印刷条件に対応する説明変数値セットに類似する説明変数値セットを類似説明変数値セットとして選択し、
前記類似説明変数値セットと各目的変数値セットとの組み合わせの出現頻度を考慮して、前記複数の推奨候補目的変数値セットを求めることを特徴とする、請求項6に記載の印刷システム。
【請求項8】
前記推奨候補値探索モデルは、前記入力印刷条件に対応する説明変数値セットを表す位置ベクトルと前記印刷実績集約データに基づく複数の説明変数値セットのそれぞれの位置ベクトルとの間の距離を算出し、Nを整数として、短い距離が得られた上位N個の説明変数値セットを前記類似説明変数値セットとして選択することを特徴とする、請求項7に記載の印刷システム。
【請求項9】
前記印刷実績集約データに基づく複数の説明変数値セットが複数のクラスタに分類され、
前記推奨候補値探索モデルは、前記複数のクラスタの中から前記入力印刷条件に対応する説明変数値セットが属するクラスタを求め、その求めたクラスタに属する説明変数値セットを前記類似説明変数値セットとして選択することを特徴とする、請求項7に記載の印刷システム。
【請求項10】
前記推奨候補値評価部は、前記複数の推奨候補目的変数値セットのそれぞれに含まれる印刷パラメータの値が所定の閾値条件を満たしているか否かを判定し、前記所定の閾値条件を満たしていない印刷パラメータの値を含む推奨候補目的変数値セットについては前記出力対象として選択しないことを特徴とする、請求項6に記載の印刷システム。
【請求項11】
前記推奨候補値評価部は、前記複数の推奨候補目的変数値セットのそれぞれについて前記印刷実績集約データに基づいて推奨度を算出し、Kを整数として、高い推奨度が得られた上位K個の推奨候補目的変数値セットを除く推奨候補目的変数値セットについては前記出力対象として選択しないことを特徴とする、請求項6に記載の印刷システム。
【請求項12】
前記推奨候補値評価部は、
前記説明変数値セットと前記目的変数値セットとの組み合わせに基づいて印刷品質を表す品質データを出力する、機械学習により学習済みの印刷品質判定モデルを含み、
前記入力印刷条件に対応する説明変数値セットと前記複数の推奨候補目的変数値セットのそれぞれとの組み合わせを前記印刷品質判定モデルに入力することによって出力される前記品質データに基づいて前記複数の推奨候補目的変数値セットのそれぞれについての印刷品質が高品質となるか低品質となるかを判定し、印刷品質が低品質となる旨の判定がなされた推奨候補目的変数値セットについては前記出力対象として選択しないことを特徴とする、請求項6に記載の印刷システム。
【請求項13】
前記説明変数値セットは、前記印刷媒体に関する値と前記印刷部によって吐出されるインクの量を表す値とを含むことを特徴とする、請求項3に記載の印刷システム。
【請求項14】
前記印刷装置は、さらに、前記説明変数値セットの元となる条件項目の値と前記目的変数値セットの元となる印刷パラメータの値とを含む印刷実績ログを印刷の終了後に出力するログ出力部を備え、
前記印刷実績集約データは、前記印刷実績ログに基づいて前記説明変数値セットと前記目的変数値セットとの組み合わせを教師データとすることによって生成されることを特徴とする、請求項3から13までのいずれか1項に記載の印刷システム。
【請求項15】
複数の前記印刷装置と管理サーバとからなり、
前記印刷実績ログは、前記複数の前記印刷装置から前記管理サーバに送信され、
前記管理サーバは、前記複数の前記印刷装置から送信された前記印刷実績ログに基づいて前記推奨候補値探索モデルを構築するモデル構築部を含み、
前記モデル構築部によって構築された前記推奨候補値探索モデルは、前記管理サーバから前記複数の前記印刷装置に送信され、
前記複数の前記印刷装置のそれぞれは、前記印刷条件入力受け付け部と、前記管理サーバから送信された前記推奨候補値探索モデルを含む前記推奨値出力部とを備えることを特徴とする、請求項14に記載の印刷システム。
【請求項16】
同一のジョブに基づく印刷実績ログが複数存在する場合に最新の印刷実績ログに基づく前記説明変数値セットと前記目的変数値セットとの組み合わせが前記教師データとされることを特徴とする、請求項14に記載の印刷システム。
【請求項17】
1台のみの前記印刷装置からなり、
前記印刷装置は、前記印刷条件入力受け付け部と前記推奨値出力部とを含むことを特徴とする、請求項1に記載の印刷システム。
【請求項18】
印刷媒体を搬送する搬送機構と、前記搬送機構が前記印刷媒体を搬送する搬送速度を制御する搬送制御部と、前記搬送機構によって搬送されている前記印刷媒体にインクを吐出することにより印刷を行う印刷部と、前記印刷部による印刷後の前記印刷媒体を乾燥させる乾燥機構と、前記乾燥機構が前記印刷媒体を乾燥させる乾燥温度を制御する乾燥制御部とを備える印刷装置を含む印刷システムであって、
印刷条件の入力を受け付ける印刷条件入力受け付け部と、
前記印刷条件入力受け付け部によって受け付けられた印刷条件に基づいて、印刷パラメータとしての搬送速度および乾燥温度の少なくとも一方についての複数の推奨値を出力する推奨値出力部と
を備えることを特徴とする、印刷システム。
【請求項19】
印刷媒体を搬送する搬送機構と、前記搬送機構が前記印刷媒体を搬送する搬送速度を制御する搬送制御部と、前記搬送機構によって搬送されている前記印刷媒体にインクを吐出することにより印刷を行う印刷部と、前記印刷部による印刷後の前記印刷媒体を乾燥させる乾燥機構と、前記乾燥機構が前記印刷媒体を乾燥させる乾燥温度を制御する乾燥制御部とを備える印刷装置における印刷パラメータの値の調整を支援する調整支援方法であって、
オペレータが印刷条件を入力する印刷条件入力ステップと、
前記印刷条件入力ステップで入力された印刷条件である入力印刷条件に基づいて、コンピュータが印刷パラメータとしての搬送速度および乾燥温度の少なくとも一方についての複数の推奨値を出力する推奨値出力ステップと
を含み、
前記推奨値出力ステップは、
前記入力印刷条件に基づいて前記複数の推奨値の候補である複数の推奨候補値を機械学習により学習済みの推奨候補値探索モデルを用いて求める推奨候補値探索ステップと、
前記複数の推奨候補値のそれぞれを評価することによって、前記複数の推奨候補値の中から前記複数の推奨値としての出力対象を選択する推奨候補値評価ステップと
を含むことを特徴とする、調整支援方法。
【請求項20】
印刷媒体を搬送する搬送機構と、前記搬送機構が前記印刷媒体を搬送する搬送速度を制御する搬送制御部と、前記搬送機構によって搬送されている前記印刷媒体にインクを吐出することにより印刷を行う印刷部と、前記印刷部による印刷後の前記印刷媒体を乾燥させる乾燥機構と、前記乾燥機構が前記印刷媒体を乾燥させる乾燥温度を制御する乾燥制御部とを備える印刷装置における印刷パラメータの値の調整を支援する調整支援プログラムであって、
前記印刷装置に含まれるコンピュータに、
印刷条件の入力を受け付ける印刷条件入力受け付けステップと、
前記印刷条件入力受け付けステップで受け付けられた印刷条件である入力印刷条件に基づいて、印刷パラメータとしての搬送速度および乾燥温度の少なくとも一方についての複数の推奨値を出力する推奨値出力ステップと
を実行させ、
前記推奨値出力ステップは、
前記入力印刷条件に基づいて前記複数の推奨値の候補である複数の推奨候補値を機械学習により学習済みの推奨候補値探索モデルを用いて求める推奨候補値探索ステップと、
前記複数の推奨候補値のそれぞれを評価することによって、前記複数の推奨候補値の中から前記複数の推奨値としての出力対象を選択する推奨候補値評価ステップと
を含むことを特徴とする、調整支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷媒体にインクを吐出することにより印刷を行う印刷装置を含む印刷システムに関し、より詳しくは、印刷装置で印刷が実行される前に行われる印刷パラメータの値(設定値)の調整に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、熱や圧力によってインクを印刷用紙などの印刷媒体に吐出することにより印刷を行うインクジェット印刷装置が知られている。インクジェット印刷装置には、印刷媒体にインクを吐出する多数のノズルを有する印刷ヘッドの他、印刷媒体を搬送する搬送機構や印刷後の印刷媒体を乾燥させる乾燥機構などが設けられている。搬送機構や乾燥機構などインクジェット印刷装置の構成要素の動作は、印刷パラメータと呼ばれる様々な設定項目の値(設定値)によって制御される。例えば、搬送機構が印刷媒体を搬送する速度である「搬送速度(印刷速度)」や乾燥機構が印刷後の印刷媒体を乾燥させる温度である「乾燥温度」などが印刷パラメータである。一般に、印刷パラメータの値(以下、単に「パラメータ値」という。)は、印刷が実行される前に、印刷媒体の種類、印刷に用いるインクの種類、印刷に使用されることが予想されるインク量などを考慮して(すなわち、印刷条件を考慮して)設定される。このように印刷条件に応じてパラメータ値を適宜に調整することにより、インクジェット印刷装置を用いて様々な態様の印刷を高品質で高速に実行することができる。
【0003】
なお、本発明に関連して、以下の先行技術文献が知られている。特開2022-73092号公報には、布帛に捺染処理を行う捺染プリンタシステムに関する発明であるが、2つの学習済みモデル(第1モデルおよび第2モデル)を用いて捺染パラメータ(前処理装置の前処理に関する前処理パラメータ、インクジェット印刷装置の描画処理に関する描画処理パラメータ、後処理装置の後処理に関する後処理パラメータ)の推奨値を出力する情報処理装置の発明が開示されている。その情報処理装置では、まず、第1モデルによって、捺染前画像データに基づいて布帛の特徴量を示す布帛データが得られる。そして、第2モデルによって、布帛データとインクデータ(インクの種類を示すデータ)とに基づいて、捺染パラメータの推奨値が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-73092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、印刷条件に応じてパラメータ値を適宜に調整することにより、インクジェット印刷装置を用いて様々な態様の印刷を高品質で高速に実行することができる。しかしながら、パラメータ値の調整は一般にオペレータの経験に基づいて行われているため、オペレータが今までに経験したことのない印刷条件に基づく印刷が行われる際には、パラメータ値の調整に多大な時間を要する。これに関し、パラメータ値の調整は、例えばテスト印刷によって十分な品質の印刷物が得られるまで繰り返される。従って、調整の回数が多くなるほどインクや印刷媒体の無駄な消費が多くなる。以上のように、従来においては、パラメータ値の調整が必要なことに起因して時間のロスや資源の無駄が生じることがあった。
【0006】
また、特開2022-73092号公報に開示された発明によれば、捺染処理が行われる前の布帛を画像として電子化する必要があるので、オペレータの作業コストが大きい。また、当該発明では、捺染パラメータの推奨値を求める目的で第2モデルに入力されるデータは、布帛の特徴量を示す布帛データとインクの種類を示すインクデータとに限定されている。そのため、印刷条件として様々な設定が可能なインクジェット印刷装置に当該発明を適用しても、好適な推奨値が求められない可能性が高い。さらに、当該発明では布帛データが必要とされるので、そもそも当該発明を布帛以外の印刷媒体に印刷を行うインクジェット印刷装置に適用することはできない。
【0007】
そこで、本発明は、インクジェット印刷装置におけるパラメータ値の調整を作業経験に関わらずオペレータが適切かつ容易に行うことを可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、印刷媒体を搬送する搬送機構と、前記搬送機構が前記印刷媒体を搬送する搬送速度を制御する搬送制御部と、前記搬送機構によって搬送されている前記印刷媒体にインクを吐出することにより印刷を行う印刷部と、前記印刷部による印刷後の前記印刷媒体を乾燥させる乾燥機構と、前記乾燥機構が前記印刷媒体を乾燥させる乾燥温度を制御する乾燥制御部とを備える印刷装置を含む印刷システムであって、
印刷条件の入力を受け付ける印刷条件入力受け付け部と、
前記印刷条件入力受け付け部によって受け付けられた印刷条件である入力印刷条件に基づいて、印刷パラメータとしての搬送速度および乾燥温度の少なくとも一方についての複数の推奨値を出力する推奨値出力部と
を備え、
前記推奨値出力部は、
前記入力印刷条件に基づいて前記複数の推奨値の候補である複数の推奨候補値を求める、機械学習により学習済みの推奨候補値探索モデルと、
前記複数の推奨候補値のそれぞれを評価することによって、前記複数の推奨候補値の中から前記複数の推奨値としての出力対象を選択する推奨候補値評価部と
を含むことを特徴とする。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、
前記推奨値出力部は、さらに、前記複数の推奨値のそれぞれについての推奨度を出力することを特徴とする。
【0010】
第3の発明は、第1の発明において、
印刷条件に関わる項目である条件項目の値に基づいて求められる値または条件項目の値を説明変数値とし、複数の説明変数値の組み合わせを説明変数値セットとし、1つの印刷パラメータの値または複数の印刷パラメータの値の組み合わせを目的変数値セットとして、前記推奨候補値探索モデルは、前記説明変数値セットと前記目的変数値セットとの組み合わせ毎の出現頻度の情報を含む印刷実績集約データを含み、
前記推奨値出力部は、前記印刷実績集約データに基づいて、前記複数の推奨値を含む複数の推奨目的変数値セットを出力することを特徴とする。
【0011】
第4の発明は、第3の発明において、
前記推奨値出力部は、さらに、前記複数の推奨目的変数値セットのそれぞれについての推奨度を出力することを特徴とする。
【0012】
第5の発明は、第3の発明において、
前記印刷装置は、前記乾燥機構として、第1の乾燥機構と第2の乾燥機構とを備え、
前記複数の推奨目的変数値セットのそれぞれは、前記第1の乾燥機構が前記印刷媒体を乾燥させる第1の乾燥温度の推奨値と前記第2の乾燥機構が前記印刷媒体を乾燥させる第2の乾燥温度の推奨値とを含むことを特徴とする。
【0013】
第6の発明は、第3の発明において、
前記推奨候補値探索モデルは、前記入力印刷条件と前記印刷実績集約データとに基づいて、前記複数の推奨目的変数値セットの候補である複数の推奨候補目的変数値セットを求め、
前記推奨候補値評価部は、前記複数の推奨候補目的変数値セットのそれぞれを評価することによって、前記複数の推奨候補目的変数値セットの中から前記複数の推奨目的変数値セットとしての出力対象を選択することを特徴とする。
【0014】
第7の発明は、第6の発明において、
前記推奨候補値探索モデルは、
前記入力印刷条件に対応する説明変数値セットに類似する説明変数値セットを類似説明変数値セットとして選択し、
前記類似説明変数値セットと各目的変数値セットとの組み合わせの出現頻度を考慮して、前記複数の推奨候補目的変数値セットを求めることを特徴とする。
【0015】
第8の発明は、第7の発明において、
前記推奨候補値探索モデルは、前記入力印刷条件に対応する説明変数値セットを表す位置ベクトルと前記印刷実績集約データに基づく複数の説明変数値セットのそれぞれの位置ベクトルとの間の距離を算出し、Nを整数として、短い距離が得られた上位N個の説明変数値セットを前記類似説明変数値セットとして選択することを特徴とする。
【0016】
第9の発明は、第7の発明において、
前記印刷実績集約データに基づく複数の説明変数値セットが複数のクラスタに分類され、
前記推奨候補値探索モデルは、前記複数のクラスタの中から前記入力印刷条件に対応する説明変数値セットが属するクラスタを求め、その求めたクラスタに属する説明変数値セットを前記類似説明変数値セットとして選択することを特徴とする。
【0017】
第10の発明は、第6の発明において、
前記推奨候補値評価部は、前記複数の推奨候補目的変数値セットのそれぞれに含まれる印刷パラメータの値が所定の閾値条件を満たしているか否かを判定し、前記所定の閾値条件を満たしていない印刷パラメータの値を含む推奨候補目的変数値セットについては前記出力対象として選択しないことを特徴とする。
【0018】
第11の発明は、第6の発明において、
前記推奨候補値評価部は、前記複数の推奨候補目的変数値セットのそれぞれについて前記印刷実績集約データに基づいて推奨度を算出し、Kを整数として、高い推奨度が得られた上位K個の推奨候補目的変数値セットを除く推奨候補目的変数値セットについては前記出力対象として選択しないことを特徴とする。
【0019】
第12の発明は、第6の発明において、
前記推奨候補値評価部は、
前記説明変数値セットと前記目的変数値セットとの組み合わせに基づいて印刷品質を表す品質データを出力する、機械学習により学習済みの印刷品質判定モデルを含み、
前記入力印刷条件に対応する説明変数値セットと前記複数の推奨候補目的変数値セットのそれぞれとの組み合わせを前記印刷品質判定モデルに入力することによって出力される前記品質データに基づいて前記複数の推奨候補目的変数値セットのそれぞれについての印刷品質が高品質となるか低品質となるかを判定し、印刷品質が低品質となる旨の判定がなされた推奨候補目的変数値セットについては前記出力対象として選択しないことを特徴とする。
【0020】
第13の発明は、第3の発明において、
前記説明変数値セットは、前記印刷媒体に関する値と前記印刷部によって吐出されるインクの量を表す値とを含むことを特徴とする。
【0021】
第14の発明は、第3から第13までのいずれかの発明において、
前記印刷装置は、さらに、前記説明変数値セットの元となる条件項目の値と前記目的変数値セットの元となる印刷パラメータの値とを含む印刷実績ログを印刷の終了後に出力するログ出力部を備え、
前記印刷実績集約データは、前記印刷実績ログに基づいて前記説明変数値セットと前記目的変数値セットとの組み合わせを教師データとすることによって生成されることを特徴とする。
【0022】
第15の発明は、第14の発明において、
複数の前記印刷装置と管理サーバとからなり、
前記印刷実績ログは、前記複数の前記印刷装置から前記管理サーバに送信され、
前記管理サーバは、前記複数の前記印刷装置から送信された前記印刷実績ログに基づいて前記推奨候補値探索モデルを構築するモデル構築部を含み、
前記モデル構築部によって構築された前記推奨候補値探索モデルは、前記管理サーバから前記複数の前記印刷装置に送信され、
前記複数の前記印刷装置のそれぞれは、前記印刷条件入力受け付け部と、前記管理サーバから送信された前記推奨候補値探索モデルを含む前記推奨値出力部とを備えることを特徴とする。
【0023】
第16の発明は、第14の発明において、
同一のジョブに基づく印刷実績ログが複数存在する場合に最新の印刷実績ログに基づく前記説明変数値セットと前記目的変数値セットとの組み合わせが前記教師データとされることを特徴とする。
【0024】
第17の発明は、第1の発明において、
1台のみの前記印刷装置からなり、
前記印刷装置は、前記印刷条件入力受け付け部と前記推奨値出力部とを含むことを特徴とする。
【0025】
第18の発明は、印刷媒体を搬送する搬送機構と、前記搬送機構が前記印刷媒体を搬送する搬送速度を制御する搬送制御部と、前記搬送機構によって搬送されている前記印刷媒体にインクを吐出することにより印刷を行う印刷部と、前記印刷部による印刷後の前記印刷媒体を乾燥させる乾燥機構と、前記乾燥機構が前記印刷媒体を乾燥させる乾燥温度を制御する乾燥制御部とを備える印刷装置を含む印刷システムであって、
印刷条件の入力を受け付ける印刷条件入力受け付け部と、
前記印刷条件入力受け付け部によって受け付けられた印刷条件に基づいて、印刷パラメータとしての搬送速度および乾燥温度の少なくとも一方についての複数の推奨値を出力する推奨値出力部と
を備えることを特徴とする。
【0026】
第19の発明は、印刷媒体を搬送する搬送機構と、前記搬送機構が前記印刷媒体を搬送する搬送速度を制御する搬送制御部と、前記搬送機構によって搬送されている前記印刷媒体にインクを吐出することにより印刷を行う印刷部と、前記印刷部による印刷後の前記印刷媒体を乾燥させる乾燥機構と、前記乾燥機構が前記印刷媒体を乾燥させる乾燥温度を制御する乾燥制御部とを備える印刷装置における印刷パラメータの値の調整を支援する調整支援方法であって、
オペレータが印刷条件を入力する印刷条件入力ステップと、
前記印刷条件入力ステップで入力された印刷条件である入力印刷条件に基づいて、コンピュータが印刷パラメータとしての搬送速度および乾燥温度の少なくとも一方についての複数の推奨値を出力する推奨値出力ステップと
を含み、
前記推奨値出力ステップは、
前記入力印刷条件に基づいて前記複数の推奨値の候補である複数の推奨候補値を機械学習により学習済みの推奨候補値探索モデルを用いて求める推奨候補値探索ステップと、
前記複数の推奨候補値のそれぞれを評価することによって、前記複数の推奨候補値の中から前記複数の推奨値としての出力対象を選択する推奨候補値評価ステップと
を含むことを特徴とする。
【0027】
第20の発明は、印刷媒体を搬送する搬送機構と、前記搬送機構が前記印刷媒体を搬送する搬送速度を制御する搬送制御部と、前記搬送機構によって搬送されている前記印刷媒体にインクを吐出することにより印刷を行う印刷部と、前記印刷部による印刷後の前記印刷媒体を乾燥させる乾燥機構と、前記乾燥機構が前記印刷媒体を乾燥させる乾燥温度を制御する乾燥制御部とを備える印刷装置における印刷パラメータの値の調整を支援する調整支援プログラムであって、
前記印刷装置に含まれるコンピュータに、
印刷条件の入力を受け付ける印刷条件入力受け付けステップと、
前記印刷条件入力受け付けステップで受け付けられた印刷条件である入力印刷条件に基づいて、印刷パラメータとしての搬送速度および乾燥温度の少なくとも一方についての複数の推奨値を出力する推奨値出力ステップと
を実行させ、
前記推奨値出力ステップは、
前記入力印刷条件に基づいて前記複数の推奨値の候補である複数の推奨候補値を機械学習により学習済みの推奨候補値探索モデルを用いて求める推奨候補値探索ステップと、
前記複数の推奨候補値のそれぞれを評価することによって、前記複数の推奨候補値の中から前記複数の推奨値としての出力対象を選択する推奨候補値評価ステップと
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
上記第1の発明によれば、機械学習により学習済みの推奨候補値探索モデルによって、入力印刷条件に基づいて印刷パラメータの推奨値の候補である複数の推奨候補値が求められる。それら複数の推奨候補値は推奨候補値評価部によって評価され、評価結果に基づいて複数の推奨値が出力される。以上のように印刷パラメータの推奨値の候補が機械学習により学習済みの推奨候補値探索モデルによって求められるので、従来に比べてパラメータ値の調整が容易になる。また、各推奨候補値についての評価が行われるので、適切なパラメータ値のみを推奨値として提示することが可能となる。以上より、印刷装置におけるパラメータ値の調整を作業経験に関わらずオペレータが適切かつ容易に行うことが可能となる。
【0029】
上記第2の発明によれば、複数の推奨値のそれぞれについての推奨度も出力されるので、オペレータは、各推奨値に関し、設定値としての妥当性を判断することが可能となる。
【0030】
上記第3の発明によれば、説明変数値セット(複数の説明変数値の組み合わせ)と目的変数値セット(1つの印刷パラメータの値または複数の印刷パラメータの値の組み合わせ)との組み合わせ毎の出現頻度を考慮して、印刷パラメータの推奨値が出力される。出現頻度が高い組み合わせ(説明変数値セットと目的変数値セットとの組み合わせ)ほど十分な品質の印刷物が得られると考えられるので、精度良く、好適なパラメータ値を推奨値として出力することが可能となる。また、1つの印刷パラメータの推奨値を複数出力するのみならず、複数の印刷パラメータの推奨値の組み合わせ(推奨目的変数値セット)を複数出力することも可能となる。
【0031】
上記第4の発明によれば、複数の推奨目的変数値セットのそれぞれについての推奨度も出力されるので、オペレータは、各推奨目的変数値セットに関し、設定値としての妥当性を判断することが可能となる。
【0032】
上記第5の発明によれば、2つの乾燥機構を備えた印刷装置が採用されている場合に、乾燥機構の動作を制御するための2つのパラメータ値の調整を作業経験に関わらずオペレータが適切かつ容易に行うことが可能となる。
【0033】
上記第6の発明によれば、推奨候補値探索モデルによって、推奨目的変数値セットの候補である複数の推奨候補目的変数値セットが求められる。それら複数の推奨候補目的変数値セットは推奨候補値評価部によって評価され、評価結果に基づいて複数の推奨目的変数値セットが出力される。以上より、適切なパラメータ値のみを含む推奨目的変数値セットを提示することが可能となる。
【0034】
上記第7の発明によれば、入力印刷条件が印刷実績のない印刷条件であっても、適切なパラメータ値を推奨値として提示することが可能となる。
【0035】
上記第8の発明によれば、上記第7の発明と同様の効果が得られる。
【0036】
上記第9の発明によれば、上記第7の発明と同様の効果が得られる。
【0037】
上記第10の発明によれば、明らかに不適切なパラメータ値を推奨値として提示することが防止される。
【0038】
上記第11の発明によれば、印刷実績が比較的少ない目的変数値セットについては、推奨目的変数値セットとしての出力対象から除外される。これにより、低品質の印刷物が得られるおそれのある目的変数値セットが推奨目的変数値セットとして出力されることが抑制される。
【0039】
上記第12の発明によれば、機械学習により学習済みの印刷品質判定モデルによって印刷品質が低品質となる旨の判定がなされた目的変数値セットについては、推奨目的変数値セットとしての出力対象から除外される。これにより、低品質の印刷物が得られるおそれのある目的変数値セットが推奨目的変数値セットとして出力されることが効果的に抑制される。
【0040】
上記第13の発明によれば、印刷に用いられる印刷媒体と印刷によって消費されることが予測されるインク量とに基づいて好適なパラメータ値を推奨値として提示することが可能となる。
【0041】
上記第14の発明によれば、印刷パラメータの推奨値を求める処理のために過去の印刷実績の情報を容易に取得することが可能となる。
【0042】
上記第15の発明によれば、多数の印刷装置での印刷実績に基づいて印刷パラメータの推奨値を求めることが可能となる。このため、精度良く、適切なパラメータ値を推奨値として提示することが可能となる。
【0043】
上記第16の発明によれば、推奨候補値探索モデルを構築するための教師データとして不適切なデータが用いられることが抑制される。
【0044】
上記第17の発明によれば、サーバを使用しない構成で上記第1の発明と同様の効果が得られる。
【0045】
上記第18の発明によれば、印刷条件に基づいて、印刷パラメータとしての搬送速度および乾燥温度の少なくとも一方についての推奨値が複数出力される。従って、印刷装置におけるパラメータ値の調整をオペレータが容易に行うことが可能となる。
【0046】
上記第19の発明によれば、上記第1の発明と同様の効果が得られる。
【0047】
上記第20の発明によれば、上記第1の発明と同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】本発明の一実施形態に係る印刷システムの全体構成を示すブロック図である。
図2】上記実施形態におけるインクジェット印刷装置の構成を示す模式図である。
図3】上記実施形態におけるインクジェット印刷装置の構成の別の例を示す模式図である。
図4】上記実施形態において、乾燥機構の第1の構成例を示す図である。
図5】上記実施形態において、乾燥機構の第2の構成例を示す図である。
図6】上記実施形態において、乾燥機構の第3の構成例を示す図である。
図7】上記実施形態において、乾燥機構の第4の構成例を示す図である。
図8】上記実施形態において、印刷機構の制御のための構成を示すブロック図である。
図9】上記実施形態に係る印刷システムに含まれるコンピュータの構成を示すブロック図である。
図10】上記実施形態において、説明変数および目的変数について説明するための図である。
図11】上記実施形態において、パラメータ値調整支援処理を実現するための機能的構成を示すブロック図である。
図12】上記実施形態において、印刷実績ログの一例を示す図である。
図13】上記実施形態において、印刷実績ログのレコードフォーマットの一例を示す図である。
図14】上記実施形態において、パラメータ値調整支援処理の概略手順を示すフローチャートである。
図15】上記実施形態において、印刷実績集約処理の詳細な手順を示すフローチャートである。
図16】上記実施形態において、印刷実績ログを数値化する処理について説明するための図である。
図17】パラメータ値の調整の流れを模式的に示す図である。
図18図17に示すパラメータ値の調整の流れに対応する印刷実績ログを模式的に示す図である。
図19】上記実施形態において、説明変数値セットの総数が6であって目的変数値セットの総数が5である場合の重み行列の一例を示す図である。
図20】上記実施形態において、重み行列の生成について説明するための図である。
図21】上記実施形態において、2以上の値の成分値を含む重み行列の一例を示す図である。
図22】上記実施形態において、推奨候補値探索処理の詳細な手順を示すフローチャートである。
図23】上記実施形態において、印刷実績集約データのフィルタリングについて説明するための図である。
図24】上記実施形態において、印刷実績集約データのフィルタリングについて説明するための図である。
図25】上記実施形態において、印刷実績集約データのフィルタリングについて説明するための図である。
図26】上記実施形態において、印刷実績集約データのフィルタリングについて説明するための図である。
図27】上記実施形態において、近傍法を用いて類似説明変数値セットを求めることについて説明するための図である。
図28】上記実施形態において、クラスタリングを用いて類似説明変数値セットを求めることについて説明するための図である。
図29】上記実施形態において、類似説明変数値セットと抽出目的変数値セットとの関連度の算出について説明するための図である。
図30】上記実施形態において、推奨候補値評価処理の詳細な手順を示すフローチャートである。
図31】上記実施形態において、推奨値を求めることができなかった旨を示すメッセージ画面の一例を示す図である。
図32】上記実施形態において、推奨値情報表示画面の一例を示す図である。
図33】上記実施形態における印刷実行の流れについて説明するためのフローチャートである。
図34】上記実施形態の効果について説明するための図である。
図35】上記実施形態の効果について説明するための図である。
図36】上記実施形態の第1の変形例において、パラメータ値調整支援処理を実現するための機能的構成を示すブロック図である。
図37】上記実施形態の第1の変形例において、パラメータ値調整支援処理の概略手順を示すフローチャートである。
図38】上記実施形態の第2の変形例において、推奨候補値評価部内に設けられるニューラルネットワークの構造の一例を示す図である。
図39】上記実施形態の第2の変形例において、ニューラルネットワークの入力層に与えられるデータについて説明するための図である。
図40】上記実施形態の第2の変形例において、推奨値情報表示画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の一実施形態について説明する。
【0050】
<1.印刷システムの全体構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る印刷システムの全体構成を示すブロック図である。この印刷システムは、複数のインクジェット印刷装置10と管理サーバ20とによって構成されている。各インクジェット印刷装置10と管理サーバ20とは、インターネットなどの通信回線30を介して接続されている。インクジェット印刷装置10は、例えば印刷会社に設置されている。印刷会社に複数のインクジェット印刷装置10が設置されていることもある。
【0051】
インクジェット印刷装置10は、印刷機本体120と、印刷機本体120の動作を制御する印刷制御装置110とによって構成されている。インクジェット印刷装置10は、RIP処理によって生成された印刷データに基づいて、印刷版を用いることなく印刷媒体としての印刷用紙にインクを吐出することによって印刷画像を出力する(すなわち、印刷を行う)。なお、RIP処理は、例えば、LANを介してインクジェット印刷装置10に接続されたパソコンで実行される。インクジェット印刷装置10で印刷が行われると、印刷の実行状況を示す印刷実績ログが出力される。
【0052】
管理サーバ20は、各インクジェット印刷装置10の稼働状況を監視するためにインクジェット印刷装置10のメーカーが設置している装置である。各インクジェット印刷装置10から出力された上述の印刷実績ログは、管理サーバ20に送信される。管理サーバ20は印刷実績ログを格納するログデータベース210を有しており、当該ログデータベース210には、管理サーバ20に接続されている複数のインクジェット印刷装置10から送信される印刷実績ログが蓄積される。
【0053】
ところで、本実施形態に係る印刷システムには、オペレータによるパラメータ値の調整を支援する機能が設けられている。本明細書では、当該機能を実現する処理を「パラメータ値調整支援処理」という。パラメータ値調整支援処理は、高品質の印刷物が得られるよう、入力された印刷条件に応じて印刷パラメータの推奨値を提示する処理である。管理サーバ20は、パラメータ値調整支援処理の一部の処理として、ログデータベース210に蓄積されている印刷実績ログに基づいて複数のインクジェット印刷装置10での印刷実績を集約することによって得られたデータを教師データとして用いることにより印刷パラメータの推奨値の候補を印刷条件に応じて求める機械学習モデル(以下、「推奨候補値探索モデル」という。)を構築する処理を行う。管理サーバ20で構築された学習済みの推奨候補値探索モデルは、管理サーバ20から複数のインクジェット印刷装置10へと送信される。各インクジェット印刷装置10は、パラメータ値調整支援処理の他の一部の処理として、管理サーバ20から送信された推奨候補値探索モデルを用いて、オペレータによって入力された印刷条件に基づいて印刷パラメータの推奨値を出力する処理を行う。以上のように、パラメータ値調整支援処理によって、AI(人工知能)の技術を利用して印刷パラメータの推奨値がオペレータに提示される。
【0054】
<2.インクジェット印刷装置の構成>
図2は、本実施形態におけるインクジェット印刷装置10の構成を示す模式図である。上述したように、このインクジェット印刷装置10は、印刷機本体120とそのコントローラである印刷制御装置110とによって構成されている。
【0055】
印刷機本体120は、印刷用紙(例えばロール紙)PAを供給する用紙送出部121と、印刷用紙PAへの印刷を行う印刷機構12と、印刷後の印刷用紙PAを巻き取る用紙巻取部127とを備えている。印刷機構12は、印刷用紙PAを内部へと搬送するための第1の駆動ローラ122と、印刷機構12の内部で印刷用紙PAを搬送するための複数個の支持ローラ123と、印刷用紙PAにインクを吐出することにより印刷を行う印刷部124と、印刷後の印刷用紙PAを乾燥させる乾燥機構125と、印刷用紙PAを印刷機構12の内部から出力するための第2の駆動ローラ126とを備えている。印刷部124は、例えば、C色(シアン色)、M色(マゼンタ色)、Y色(黄色)、およびK色(黒色)のインクをそれぞれ吐出する4つの印刷ヘッドによって構成されている。各印刷ヘッドは、例えば、千鳥状に配置された複数個のヘッドモジュールによって構成されている。各ヘッドモジュールには、インクを吐出する多数のノズルが含まれている。なお、印刷が正しく行われたかを検査するために印刷画像(印刷後の印刷用紙PA)を撮像する撮像部(例えば、CISセンサ)が印刷機構12の内部に設けられているインクジェット印刷装置もある。印刷制御装置110は、以上のような構成の印刷機本体120の動作を制御する。
【0056】
図2には印刷用紙PAの一方の面のみに印刷を行うインクジェット印刷装置10の構成を例示しているが、図3に示すように表面印刷用の印刷機構12aと裏面印刷用の印刷機構12bとを含むインクジェット印刷装置10が採用されている場合にも本発明を適用することができる。図3に示すインクジェット印刷装置10に関し、表面印刷用の印刷機構12aと裏面印刷用の印刷機構12bとの間には、印刷用紙PAの表面と裏面とを反転させる反転ユニット128が設けられている。なお、図3では、表面印刷用の印刷機構12aに含まれている構成要素については参照符号の末尾に“a”を付し、裏面印刷用の印刷機構12bに含まれている構成要素については参照符号の末尾に“b”を付している。
【0057】
ところで、乾燥機構125についても様々な構成を採用することができる。そこで、乾燥機構125の構成についての4つの例を以下に説明する。
【0058】
図4は、第1の例における乾燥機構125の構成を示す図である。第1の例における乾燥機構125は、ヒートローラ401と複数個の温風吹付ユニット402と複数個の回収ユニット403とによって構成されている。ヒートローラ401はハロゲンヒーターなどの熱源を内部に備えており、印刷制御装置110が当該熱源を駆動制御する。これにより、ヒートローラ401は予め設定された温度に加熱される。印刷用紙PAは、そのように加熱されたヒートローラ401に巻き付けられながら搬送される。温風吹付ユニット402は、内蔵されている熱源によって加熱されたエア(温風)を印刷用紙PAに吹き付ける。温風吹付ユニット402に内蔵されている熱源についても、印刷用紙PAに吹き付けられるエアの温度が予め設定された温度となるように印刷制御装置110によって駆動制御される。回収ユニット403は、温風吹付ユニット402から印刷用紙PAに吹き付けられたエアを回収する。以上のように、第1の例では、ヒートローラ401と温風吹付ユニット402とによって印刷用紙PAの乾燥が行われる。
【0059】
図5は、第2の例における乾燥機構125の構成を示す図である。第2の例における乾燥機構125は、ヒートローラ411と複数個の温風吹付ユニット412と複数個の回収ユニット413とを含む乾燥部410と、乾燥部410よりも上流側に配置された予備加熱ユニット420とによって構成されている。なお、この乾燥機構125には、複数個の搬送ローラ430も含まれている。ヒートローラ411、温風吹付ユニット412、および回収ユニット413については、第1の例におけるヒートローラ401、温風吹付ユニット402、および回収ユニット403と同様である。予備加熱ユニット420は、回収ユニット413によって回収されたエアを印刷用紙PAの搬送経路の周辺に供給する。これにより、印刷用紙PAが予備的に加熱される。以上のように、第2の例では、予備加熱ユニット420とヒートローラ411と温風吹付ユニット412とによって印刷用紙PAの乾燥が行われる。
【0060】
図6は、第3の例における乾燥機構125の構成を示す図である。第3の例における乾燥機構125は、1つのヒートローラ441と複数個の搬送ローラ442とによって構成されている。第3の例では、ヒートローラ441のみによって印刷用紙PAの乾燥が行われる。
【0061】
図7は、第4の例における乾燥機構125の構成を示す図である。第4の例における乾燥機構125は、複数個の加熱ユニット451と複数個の搬送ローラ452とによって構成されている。加熱ユニット451は赤外線を発する複数個のカーボンヒーターを備えており、加熱ユニット451が印刷用紙PAを乾燥させる温度が印刷制御装置110によって制御される。以上のように、第4の例では、カーボンヒーターで構成された複数個の加熱ユニット451によって印刷用紙PAの乾燥が行われる。
【0062】
なお、第1~第4の例以外の例として、ヒートローラおよび温風吹付ユニットに加えて近赤外線(NIR)を発する乾燥ユニットを備えた乾燥機構や、大サイズの1つのヒートローラと小サイズの複数個のヒートローラとを備えた乾燥機構などが知られている。
【0063】
乾燥機構125については以上のように様々な構成が考えられるが、以下の説明では、特に断らない限り、第1の例の構成(図4参照)が採用されているものと仮定する。すなわち、乾燥機構125の動作を制御するための印刷パラメータとして、ヒートローラ401の温度(以下、「HR温度」という。)と温風吹付ユニット402から送出されるエア(温風)の温度(以下、「温風温度」という。)とが用意される。これに関し、ヒートローラ401が第1の乾燥機構に相当し、HR温度が第1の乾燥温度に相当し、温風吹付ユニット402が第2の乾燥機構に相当し、温風温度が第2の乾燥温度に相当する。
【0064】
なお、乾燥機構125の動作を制御するための印刷パラメータの数は乾燥機構125の物理的な構成に応じて適宜、増減することは言うまでもない。例えば、第1の例の構成(図4参照)の乾燥機構125における印刷パラメータの数は、当該乾燥機構125がヒートローラ401と温風吹付ユニット402を備えることから、HR温度と温風温度との2つであった。これに対して、第2の例の構成(図5参照)の乾燥機構125における印刷パラメータの数は、当該乾燥機構125がヒートローラ411、温風吹付ユニット412、および予備加熱ユニット420を備えることから、HR温度、温風吹付ユニット412の温風温度、および予備加熱ユニット420の温風温度の3つになる。
【0065】
<3.印刷機構の制御のための構成>
図8は、印刷機構12の制御のための構成を示すブロック図である。印刷機構12は、印刷制御装置110によって制御される。印刷制御装置110は、印刷機構12を制御するための構成要素として、搬送制御部111と印刷制御部112と乾燥制御部113とを備えている。なお、図8には、本発明に関係のある構成要素のみを示している。
【0066】
搬送制御部111は、搬送機構129が印刷用紙PAを搬送する速度(搬送速度)を制御する。なお、本実施形態においては、用紙送出部121と第1の駆動ローラ122と複数個の支持ローラ123と第2の駆動ローラ126と用紙巻取部127とによって搬送機構129が実現される(図2参照)。印刷制御部112は、印刷部124を構成する各印刷ヘッドに含まれている各ノズルからのインクの吐出を制御する。例えば、インクの吐出タイミングやインクの吐出量の制御が行われる。乾燥制御部113は、乾燥機構125が印刷用紙PAを乾燥させる際の温度(HR温度および温風温度)を制御する。
【0067】
<4.印刷システムを構成するコンピュータの構成>
図9は、本実施形態に係る印刷システムに含まれるコンピュータ500の構成を示すブロック図である。管理サーバ20および印刷制御装置110が、コンピュータ500である。図9に示すコンピュータ500は、本体510、補助記憶装置521、光ディスクドライブ522、表示部523、キーボード524、およびマウス525などを備えている。本体510は、CPU511、メモリ512、第1ディスクインタフェース部513、第2ディスクインタフェース部514、表示制御部515、入力インタフェース部516、およびネットワークインタフェース部517を含んでいる。CPU511、メモリ512、第1ディスクインタフェース部513、第2ディスクインタフェース部514、表示制御部515、入力インタフェース部516、およびネットワークインタフェース部517は、システムバスを介して互いに接続されている。第1ディスクインタフェース部513には補助記憶装置521が接続されている。補助記憶装置521は磁気ディスク装置などである。第2ディスクインタフェース部514には光ディスクドライブ522が接続されている。光ディスクドライブ522には、CD-ROMやDVD-ROMなどのコンピュータ読み取り可能な記録媒体としての光ディスク59が挿入される。表示制御部515には、表示部(表示装置)523が接続されている。表示部523は液晶ディスプレイなどである。表示部523は、オペレータが所望する情報を表示するために使用される。入力インタフェース部516には、キーボード524およびマウス525が接続されている。キーボード524およびマウス525は、このコンピュータ500に対して作業者が指示を入力するために使用される。ネットワークインタフェース部517は、通信用のインタフェース回路である。
【0068】
補助記憶装置521には、コンピュータ500で実行するプログラムや各種のデータが格納されている。本実施形態においては、印刷制御装置110の補助記憶装置521に、パラメータ値調整支援処理を実現する調整支援プログラムが格納されている。また、管理サーバ20の補助記憶装置521には、ログデータベース210が含まれている。CPU511は、補助記憶装置521に格納されたプログラムをメモリ512に読み出して実行することにより、各種機能を実現する。メモリ512は、RAMおよびROMを含んでいる。メモリ512は、補助記憶装置521に格納されたプログラムをCPU511が実行するためのワークエリアとして機能する。なお、プログラムは、例えば上記コンピュータ読み取り可能な記録媒体(非一過性の記録媒体)に格納されて提供される。
【0069】
<5.パラメータ値調整支援処理>
以下、パラメータ値調整支援処理について説明する。
【0070】
<5.1 概略および用語の説明>
まず、パラメータ値調整支援処理の概略および本明細書で用いる用語について説明する。多変量解析などの統計処理の分野では、原因となるデータ項目は「説明変数」と呼ばれ、結果を表すデータ項目は「目的変数」と呼ばれている。本実施形態におけるパラメータ値調整支援処理では、印刷条件に関わるデータ項目である条件項目あるいは1または複数の条件項目の値から新たに生成されるデータ項目が説明変数として扱われ、印刷パラメータが目的変数として扱われる。1個の印刷パラメータのみが目的変数として扱われる場合には、オペレータによって入力された印刷条件に対応する複数の説明変数値の組み合わせに基づいて、該当の印刷パラメータについての推奨値が複数提示される。複数の印刷パラメータが目的変数として扱われる場合には、オペレータによって入力された印刷条件に対応する複数の説明変数値の組み合わせに基づいて、該当の複数の印刷パラメータについての推奨値の組み合わせである推奨値セットが複数提示される。
【0071】
以下の例では、図10に示すように、用紙種別(より具体的には、用紙の種別を示す印刷パラメータの値)と用紙幅とインク量とが説明変数として扱われ、印刷速度(搬送速度)とHR温度と温風温度とが目的変数として扱われる(用紙の種別を示す印刷パラメータは、目的変数として扱われる印刷パラメータではない)。そして、印刷条件に対応する「用紙種別の値と用紙幅の値とインク量の値との組み合わせ」に基づいて、「印刷速度(搬送速度)の推奨値とHR温度の推奨値と温風温度の推奨値との組み合わせ」が複数提示される。
【0072】
本明細書では、説明変数として扱う複数のデータ項目の値の組み合わせを「説明変数値セット」といい、目的変数として扱う1つの印刷パラメータの値または目的変数として扱う複数の印刷パラメータの値の組み合わせを「目的変数値セット」という。図10に示した例では、用紙種別の値と用紙幅の値とインク量の値との組み合わせが説明変数値セットであり、印刷速度の値とHR温度の値と温風温度の値との組み合わせが目的変数値セットである。また、パラメータ値調整支援処理によって推奨される目的変数値セットを「推奨目的変数値セット」といい、推奨目的変数値セットを求める過程において推奨目的変数値セットの候補とされる目的変数値セットを「推奨候補目的変数値セット」という。
【0073】
<5.2 パラメータ値調整支援処理を実現するための構成>
図11は、パラメータ値調整支援処理を実現するための機能的構成を示すブロック図である。パラメータ値調整支援処理を実現するための構成要素として、管理サーバ20にはログデータベース210とモデル構築部220とが設けられ、印刷制御装置110にはログ出力部114と印刷条件入力受け付け部115と推奨値出力部116とが設けられている。推奨値出力部116には、推奨候補値探索モデル61と推奨候補値評価部1161とが含まれている。
【0074】
ログ出力部114は、インクジェット印刷装置10による印刷の実行後に、印刷の実行状況を示す上述の印刷実績ログ6を出力する。図12は、印刷実績ログ6の一例を示す図である。この例では、印刷実績ログ6はCSV形式のデータである。但し、印刷実績ログ6のデータの形式については特に限定されない。各インクジェット印刷装置10において、印刷が実行される都度、その実行状況を示す印刷実績ログ6が1行のレコードとしてログ出力部114によって出力される。各インクジェット印刷装置10から管理サーバ20への印刷実績ログ6の送信は、所定のルールに従って行われる。これについては、例えば、「毎日午前0時に印刷実績ログ6をインクジェット印刷装置10から管理サーバ20に送信する」、「印刷実績ログ6のレコード数が100レコードに達する毎に当該印刷実績ログ6をインクジェット印刷装置10から管理サーバ20に送信する」というようなルールが考えられる。なお、ログ出力部114から出力されるログに印刷の実行状況を示すレコード以外のレコード(例えば、RIP処理に関する情報を示すレコード)が含まれていても良く、その場合には、印刷の実行状況を示すレコードのみを抽出して、その抽出したレコードのみからなるログを印刷実績ログ6としてパラメータ値調整支援処理に用いるようにすれば良い。
【0075】
図13は、印刷実績ログ6のレコードフォーマットの一例を示す図である。印刷実績ログ6のレコードを構成するデータ項目には、印刷条件に関わるデータ項目である条件項目と、値の調整が可能なデータ項目である印刷パラメータとが含まれている。図13に示す例では、カラム番号が11~15、21~24であるデータ項目が条件項目であり、カラム番号が31~33であるデータ項目が印刷パラメータである。なお、K使用量、C使用量、M使用量、およびY使用量は、それぞれ、K色(黒色)、C色(シアン色)、M色(マゼンタ色)、およびY色(黄色)のインクの使用量を意味する。以上のように、印刷実績ログ6には、印刷条件に関わる条件項目の値と、パラメータ値(印刷パラメータの値)とが含まれている。
【0076】
ログデータベース210は、各インクジェット印刷装置10から送信された印刷実績ログ6を格納する。管理サーバ20には複数のインクジェット印刷装置10から印刷実績ログ6が送信されるので、ログデータベース210に大量の印刷実績ログ6が蓄積される。
【0077】
モデル構築部220は、ログデータベース210に蓄積されている印刷実績ログ6に基づいて得られるデータを教師データとして学習を行うことにより、オペレータによって入力された印刷条件62に基づいて印刷パラメータの推奨値の候補を求めるための推奨候補値探索モデル61を構築する。なお、モデル構築部220によって構築された推奨候補値探索モデル61には、説明変数値セットと目的変数値セットとの組み合わせ毎の出現頻度の情報を含む印刷実績集約データが含まれている。管理サーバ20で構築された推奨候補値探索モデル61は、各インクジェット印刷装置10に送信される。インクジェット印刷装置10に送信された推奨候補値探索モデル61は、推奨値出力部116の構成要素となる。
【0078】
印刷条件入力受け付け部115は、印刷条件62の入力用の画面を表示部523に表示し、オペレータによる印刷条件62の入力を受け付ける。
【0079】
推奨値出力部116内の推奨候補値探索モデル61は、印刷条件入力受け付け部115によって受け付けられた印刷条件62に基づいて、印刷パラメータの推奨値の候補(推奨候補値63)を複数求める。より詳しくは、推奨候補値探索モデル61は、印刷条件入力受け付け部115によって受け付けられた印刷条件62と上述した印刷実績集約データとに基づいて、複数の推奨目的変数値セットの候補である複数の推奨候補目的変数値セットを求める。
【0080】
推奨値出力部116内の推奨候補値評価部1161は、推奨候補値探索モデル61によって求められた複数の推奨候補値63のそれぞれを評価することによって、当該複数の推奨候補値63の中から複数の推奨値としての実際の出力対象を選択する。より詳しくは、推奨候補値評価部1161は、推奨候補値探索モデル61によって求められた複数の推奨候補目的変数値セットのそれぞれを評価することによって、複数の推奨候補目的変数値セットの中から複数の推奨目的変数値セット(複数の推奨値セット)としての実際の出力対象を選択する。
【0081】
以上より、推奨値出力部116は、印刷条件入力受け付け部115によって受け付けられた印刷条件62に基づいて、複数の推奨値64(複数の推奨値セット)を出力する。ところで、目的変数として扱われる印刷パラメータには、搬送速度および乾燥温度の少なくとも一方が含められる。従って、推奨値出力部116は、印刷パラメータとしての搬送速度および乾燥温度の少なくとも一方についての複数の推奨値64を出力する。
【0082】
<5.3 手順>
<5.3.1 概略手順>
図14は、パラメータ値調整支援処理の概略手順を示すフローチャートである。まず、管理サーバ20が、各インクジェット印刷装置10から送信される印刷実績ログ6を取得する(ステップS10)。その印刷実績ログ6は、ログデータベース210に格納される。次に、管理サーバ20において、ログデータベース210に蓄積されている印刷実績ログ6に基づいて複数のインクジェット印刷装置10での印刷実績を集約する印刷実績集約処理が行われる(ステップS20)。この印刷実績集約処理によって、上述した推奨候補値探索モデル61が構築される。但し、印刷実績集約処理についての詳しい説明は後述する。印刷実績集約処理の終了後、管理サーバ20から各インクジェット印刷装置10に推奨候補値探索モデル61が送信される(ステップS30)。
【0083】
管理サーバ20から送信された学習済みの推奨候補値探索モデル61が印刷制御装置110に保持されている状態において、オペレータによって印刷条件が入力される(S40)。そして、ステップS40で入力された印刷条件(以下、「入力印刷条件」という。)に基づいて印刷パラメータについての複数の推奨値64の候補である複数の推奨候補値63を推奨候補値探索モデル61を用いて求める推奨候補値探索処理が行われる(ステップS50)。これに関し、推奨候補値探索モデル61は機械学習により学習済みのモデルであるので、ステップS50では、AI(人工知能)の技術を利用して複数の推奨候補値63が求められる。その後、複数の推奨候補値63の中から実際の出力対象を選択するために当該複数の推奨候補値63のそれぞれを評価する推奨候補値評価処理が行われる(ステップS60)。そして、推奨候補値評価処理の結果に基づいて、印刷パラメータの推奨値64の出力(複数の推奨目的変数値セットの出力)が行われる(ステップS70)。なお、推奨候補値探索処理および推奨候補値評価処理についての詳しい説明は後述する。
【0084】
ところで、インクジェット印刷装置10での処理と管理サーバ20での処理は互いに独立して行われる。従って、一度でも管理サーバ20からインクジェット印刷装置10に学習済みの推奨候補値探索モデル61が送信されていれば、インクジェット印刷装置10において任意のタイミングでステップS40以降の処理を行うことができる。
【0085】
本実施形態においては、ステップS40によって印刷条件入力ステップおよび印刷条件入力受け付けステップが実現され、ステップS50、ステップS60、およびステップS70によって推奨値出力ステップが実現されている。また、ステップS50によって推奨候補値探索ステップが実現され、ステップS60によって推奨候補値評価ステップが実現されている。
【0086】
<5.3.2 印刷実績集約処理>
図15は、印刷実績集約処理の詳細な手順を示すフローチャートである。印刷実績集約処理は、管理サーバ20で行われる。印刷実績集約処理の開始後、まず、印刷実績ログ6を数値化する処理が行われる(ステップS200)。これに関し、印刷実績ログ6には、用紙幅の情報や印刷速度の情報などの数値データと、用紙種別の情報や印刷モードの情報などの文字列データとが含まれている。数値データについては、そのまま以下の処理に用いることができるが、文字列データについては、以下の処理に用いるために数値データに変換する必要がある。そこで、ステップS200では、文字列データを数値データに変換する処理が行われる。文字列データから数値データへの変換には、ワンホットエンコーディングと呼ばれる手法や順序特徴量を利用する手法などが採用される。
【0087】
例えば、この印刷システムにおいて、用紙種別に関して、「上質紙」、「マットコート紙」、および「グロスコート紙」の3つの選択肢があると仮定する。この場合、3つの選択肢のそれぞれに、1または0を取る数値データ(2値データ)が割り当てられる。すなわち、印刷実績ログ6のレコード毎に、用紙種別を特定するための3つの数値データ(2値データ)が設けられる。ここで、IDを001~005とする5つのレコードの用紙種別が図16のA部に示すようなものであると仮定する。このとき、用紙種別のデータに関して文字列データから数値データへの変換が行われることによって、5つのレコードの用紙種別を特定するためのデータは図16のB部に示すようなものとなる。例えばIDが003であるレコードに着目すると、用紙種別はグロスコート紙であるので、文字列データから数値データへの変換後においては、グロスコート紙に対応する数値データのみが1であり、上質紙に対応する数値データおよびマットコート紙に対応する数値データは0である。
【0088】
また、サイズを表す条件項目が設けられていて、当該条件項目に関して、「L」、「M」、および「S」の3つの選択肢があると仮定する。MはLよりも小さく、SはMよりも小さいので、当該条件項目に関しては順序特徴量を利用して文字列データから数値データへの変換を行うことができる。この場合、例えば、Sは0に変換され、Mは1に変換され、Lは2に変換される。
【0089】
さらに、解像度を表す条件項目が設けられていて、当該条件項目に関して、「高解像度」、「標準」、および「低解像度」の3つの選択肢があると仮定する。この場合、実際の解像度に基づいて、例えば、高解像度は「1,440,000」(=1,200×1,200)に変換され、標準は「720,000」(=1,200×600)に変換され、低解像度は「360,000」(=600×600)に変換される。
【0090】
さらにまた、1または複数の条件項目の値から新たなデータ項目を生成することもできる。例えば、図10に示した「インク量」は、印刷実績ログ6に含まれている複数の条件項目の値から新たに生成されるデータ項目である。そのインク量の値は、1平方メートル当たりの4色(K色、C色、M色、およびY色)のインクの合計使用量(単位:mL)を表し、図13に示したデータ項目(条件項目)のうちのカラム番号が11~15および22であるデータ項目の値を用いて算出される。印刷長の単位がm、K使用量、C使用量、M使用量、およびY使用量の単位がmL、用紙幅の単位がmmであれば、インク量の値Vinkは次式(1)によって算出される。
【数1】
上式(1)において、V(K)はK使用量を表し、V(C)はC使用量を表し、V(M)はM使用量を表し、V(Y)はY使用量を表し、PWは用紙幅を表し、PLは印刷長を表す。
【0091】
ところで、説明変数として扱われるデータ項目に関し、取り得る値の範囲や値の単位が項目によって異なる。そこで、そのような相違に起因して推奨候補値の探索結果として好ましくない結果が得られることを防ぐために、ステップS200では、説明変数として扱うデータ項目の値(説明変数値)に関して正規化または標準化によるスケーリング処理が行われる。これに関し、正規化によるスケーリング処理を行う場合には、該当の説明変数についての最大値および最小値が記憶され、標準化によるスケーリング処理を行う場合には、該当の説明変数についての平均値および標準偏差が記憶される。そして、上記ステップS40でオペレータによって印刷条件が入力されたときに、入力印刷条件に対応する説明変数値に対して同様のスケーリング処理が行われる。
【0092】
ステップS200の終了後、ログデータベース210に蓄積されている印刷実績ログ6およびステップS200の処理で得られたデータから、説明変数として扱うデータ項目の値(説明変数値)および目的変数として扱う印刷パラメータの値(目的変数値)が抽出される(ステップS210)。これにより、複数の説明変数値セットおよび複数の目的変数値セットが抽出される。また、抽出された複数の説明変数値セットのそれぞれに対して一意の識別符号(識別番号)が付与される。同様に、抽出された複数の目的変数値セットのそれぞれに対して一意の識別符号(識別番号)が付与される。なお、説明変数値セットの総数が大きくなることを抑制するために、説明変数値に対して例えば丸め処理を行うことによって複数の説明変数値セットを1つの説明変数値セットとしてまとめるようにしても良い。目的変数値セットについても同様である。
【0093】
ステップS210の終了後、推奨候補値探索モデル61を構築するための学習に用いる教師データの生成が行われる(ステップS220)。これに関し、インクジェット印刷装置10での印刷は、必ずしも高品質の印刷物が得られるようにパラメータ値が設定された上で実行されるとは限らない。上述したように、オペレータが今までに経験したことのない印刷条件に基づく印刷が行われる際には、例えばテスト印刷によって十分な品質の印刷物が得られるまでパラメータ値の調整が繰り返される。このような場合、インクジェット印刷装置10から管理サーバ20に送信される印刷実績ログ6には、印刷品質が低品質となるようにパラメータ値が設定された上で実行された印刷に基づくログと印刷品質が高品質となるようにパラメータ値が設定された上で実行された印刷に基づくログとが含まれることになる。パラメータ値を変更しつつ同一ジョブの印刷を繰り返していることを印刷実績ログ6が示していれば、当該印刷実績ログ6は印刷品質を向上させるためにテスト印刷を行いながらパラメータ値の調整が繰り返し行われたときに得られたログであると判断することができる。
【0094】
推奨候補値探索モデル61を構築するための学習に用いる教師データにテスト印刷(詳しくは、十分な品質の印刷物が得られなかったテスト印刷)の実行で得られた印刷実績ログ6に基づくデータが含まれることは好ましくない。そこで、本実施形態においては、印刷実績ログ6がテスト印刷の実行で得られたログと本番印刷の実行で得られたログとに分類され、本番印刷の実行で得られたログに基づくデータのみが教師データとして学習に用いられる。これを実現する手法を図17および図18を参照しつつ以下に説明する。
【0095】
図17は、パラメータ値の調整の流れを模式的に示す図である。符号701、703、および705を付した矢印は、オペレータがパラメータ値を調整している時間を表し、符号702、704、および706を付した矢印は、パラメータ値の調整後のテスト印刷が行われている時間を表し、符号707を付した矢印は、本番印刷が行われている時間を表している。この例では、パラメータ値の調整およびテスト印刷が3回繰り返され、3回目のテスト印刷の後に本番印刷が行われている。このような場合、模式的には図18に示すような4つの印刷実績ログ6が得られる。図18において、符号Eは、ある1つの説明変数値セットを表し、符号X、符号Y、および符号Zは、互いに異なる目的変数値セットを表している。また、図18で符号712、714、716、および717を付した矢印で示す行の印刷実績ログ6は、それぞれ、図17で符号702、704、706、および707を付した矢印で表される時間に行われた印刷によって得られたログである。なお、IDは、ジョブを識別するための番号である。同一ジョブの印刷が繰り返されている場合、一般的には、図17および図18に示した例のように、実行時刻が最後の印刷が本番印刷であると考えられる。また、本番印刷時のパラメータ値によれば印刷品質は高品質になるがテスト印刷時のパラメータ値によれば印刷品質は低品質になると考えられる。
【0096】
以上を考慮して、本実施形態においては、同一ジョブの印刷が複数回繰り返されたことによる複数の印刷実績ログ6が存在する場合、実行時刻が最後の印刷で得られた印刷実績ログ6に対して高品質ラベルが付与される。そして、高品質ラベルが付与された印刷実績ログ6に基づくデータのみが教師データとして学習に用いられる。より詳しくは、ステップS220では、まず、ログデータベース210に蓄積されている多数の印刷実績ログ6が、ジョブを識別するための番号であるID(ジョブID)に基づいて分類される。その結果、同じIDが1件だけ存在する印刷実績ログ6については、当該印刷実績ログ6に対して高品質ラベルが付与される。一方、同じIDが複数存在する印刷実績ログ6については、実行時刻が最後の印刷で得られた印刷実績ログ6に対しては高品質ラベルが付与され、それ以外の印刷実績ログ6に対しては低品質ラベルが付与される。但し、テスト印刷で得られたとみなされた印刷実績ログ6のうち本番印刷で得られたとみなされた印刷実績ログ6と説明変数値セットが同じログ(図18に示した例では、符号716を付した矢印で示す行のログ)に対しては、低品質ラベルは付与されない。以上のようにして印刷実績ログ6へのラベル付けが行われた後、高品質ラベルが付与された印刷実績ログ6に基づくデータのみが教師データとして抽出される。以下、高品質ラベルおよび低品質ラベルを総称して「品質ラベル」という。
【0097】
なお、印刷部数が多い印刷実績ログ6や実行時間の長い印刷実績ログ6に対して高品質ラベルを付与するようにしても良い。また、全ての印刷実績ログ6を教師データとして用いるようにして、後述する推奨候補値探索処理で、データ空間における距離に基づいて外れ値とみなすことのできるデータをテスト印刷で得られた印刷実績ログ6に基づくデータであると判断することもできる。
【0098】
ステップS220の終了後、ステップS220で生成された教師データを用いて、説明変数値セットと目的変数値セットとの組み合わせ毎の出現頻度(本番印刷の実行回数)を表す重み行列Wが生成される(ステップS230)。図19に、説明変数値セットの総数が6であって目的変数値セットの総数が5である場合の重み行列Wの一例を示す。図19に示す重み行列Wは、模式的には図20に示すような6個の説明変数値セットVE1~VE6および5個の目的変数値セットVO1~VO5が教師データに含まれている場合に生成される行列であって、6行5列の行列である。例えば説明変数値セットVE1に着目すると、図20は、説明変数値セットVE1と目的変数値セットVO1との組み合わせが教師データに含まれていることを示している。また、例えば目的変数値セットVO5に着目すると、図20は、説明変数値セットVE2と目的変数値セットVO5との組み合わせ、説明変数値セットVE5と目的変数値セットVO5との組み合わせ、および説明変数値セットVE6と目的変数値セットVO5との組み合わせが教師データに含まれていることを示している。なお、「用紙種別」に関しては、ステップS200でのワンホットエンコーディング(図16参照)によって、「上質紙」、「グロスコート紙」、「マットコート紙」の3個の印刷パラメータ(上述したように、これらの印刷パラメータは、目的変数として扱われる印刷パラメータではない)に変換されている。図20の模式図では、これら3つの印刷パラメータのうちの「上質紙」についてのみ座標軸を図示し、残り2つの印刷パラメータである「グロスコート紙」および「マットコート紙」については座標軸の図示を省略している。これは後述する図27乃至図29においても同様である。
【0099】
図19に示す重み行列Wに関して、例えば2行目の5個の成分値(数値)は、説明変数値セットVE2と目的変数値セットVO1~VO5のそれぞれとの組み合わせの出現頻度を表している。また、例えば3列目の6個の成分値は、説明変数値セットVE1~VE6のそれぞれと目的変数値セットVO3との組み合わせの出現頻度を表している。従って、例えば、符号721を付した成分値は、説明変数値セットVE2と目的変数値セットVO5との組み合わせの出現頻度を表し、符号722を付した成分値は、説明変数値セットVE6と目的変数値セットVO3との組み合わせの出現頻度を表している。
【0100】
なお、説明の便宜のため図19に示す重み行列Wには成分値として0および1のみが含まれているが、重み行列Wは説明変数値セットと目的変数値セットとの組み合わせ毎の出現頻度を表すものであるので、実際には例えば図21に示すように2以上の値の成分値が重み行列Wに含まれることになる。例えば、図21において符号723を付した成分値は、説明変数値セットVE4と目的変数値セットVO2との組み合わせの出現頻度が3回である旨を表している。
【0101】
また、実際には、説明変数値セットの総数は例えば1万~2万であって、目的変数値セットの総数は例えば200~300である。説明変数値セットの総数をIとし、目的変数値セットの総数をJとすると、重み行列WはI行J列の行列となる。
【0102】
以上のようにして重み行列Wが生成されることによって、入力印刷条件に応じて印刷パラメータの推奨値64の候補(推奨候補値63)を求める推奨候補値探索モデル61が構築される。これにより、印刷実績集約処理は終了する。ところで、重み行列Wを用いて推奨候補値63を求める処理を行うためには、重み行列Wの各行に対応する説明変数値セットの情報および重み行列Wの各列に対応する目的変数値セットの情報が必要となる。従って、推奨候補値探索モデル61は、それらの情報と重み行列Wとからなるデータ(以下、「印刷実績集約データ」という。)を含んでいる。
【0103】
<5.3.3 推奨候補値探索処理>
図22は、推奨候補値探索処理の詳細な手順を示すフローチャートである。推奨候補値探索処理は、インクジェット印刷装置10に含まれている印刷制御装置110で行われる。推奨候補値探索処理では、管理サーバ20からインクジェット印刷装置10に送信された推奨候補値探索モデル61に含まれる印刷実績集約データを用いて、入力印刷条件に対応する説明変数値セットに類似する説明変数値セットが求められる。その際、後述するように、2つの説明変数値セット間の距離(データ空間上における距離)が求められる。しかしながら、説明変数の中には、距離計算に用いることができるものと距離計算に用いることができないものとがある。例えば、インク量や解像度を距離計算に用いることはできるが、機種を距離計算に用いることはできない。機種を距離計算に用いることができない理由は、機種によって使用する乾燥機構の種類や乾燥機構内の構成要素の数が異なり、機種が変化すると目的変数の数(目的変数値セットのデータ空間の次元)が変化するからである。
【0104】
そこで、推奨候補値探索処理では、まず、距離計算に用いることのできない説明変数の値に基づいて印刷実績集約データのフィルタリングが行われる(ステップS500)。ここで、印刷実績集約データに3つの機種T1、T2、およびT3のデータが含まれていると仮定する。また、それら3つの機種T1、T2、およびT3のそれぞれに関連するデータ項目が図23で丸マークを付したデータ項目であると仮定する。この例では、入力印刷条件に含まれる機種に基づいて印刷実績集約データのフィルタリングが行われる。入力印刷条件に含まれる機種がT1であれば、印刷実績集約データの中から機種がT1であるデータのみが抽出される。このとき、図24に示すデータ項目のデータが抽出される。入力印刷条件に含まれる機種がT2であれば、印刷実績集約データの中から機種がT2であるデータのみが抽出される。このとき、図25に示すデータ項目のデータが抽出される。入力印刷条件に含まれる機種がT3であれば、印刷実績集約データの中から機種がT3であるデータのみが抽出される。このとき、図26に示すデータ項目のデータが抽出される。
【0105】
フィルタリングの終了後、入力印刷条件に対応する説明変数値セット(以下、「入力説明変数値セット」という。)に類似する説明変数値セット(以下、「類似説明変数値セット」という。)が求められる(ステップS510)。これについては、近傍法を用いる手法とクラスタリングを用いる手法とが考えられる。
【0106】
近傍法を用いる手法では、入力説明変数値セットと印刷実績集約データに含まれる各説明変数値セットとの間の距離(より詳しくは、説明変数値セットのデータ空間上における、入力説明変数値セットを表す位置ベクトルと印刷実績集約データに含まれる各説明変数値セットを表す位置ベクトルとの間の距離)が算出され、Nを整数として、短い距離が得られた上位N個の説明変数値セットが類似説明変数値セットとして選択される。例えば、図27に示すように、Nを3として、入力説明変数値セットVEinとの間の距離が短い3つの説明変数値セットVE1、VE2、およびVE4が類似説明変数値セットとして選択される。
【0107】
クラスタリングを用いる手法では、印刷実績集約データに含まれる複数の説明変数値セットが予め複数のクラスタに分類される。そして、それら複数のクラスタの中から入力説明変数値セットが属するクラスタが求められる。その求められたクラスタに属する説明変数値セットが類似説明変数値セットとして選択される。図28に示す例では、6個の説明変数値セットVE1~VE6が3つのクラスタCL1~CL3に分類され、それら3つのクラスタCL1~CL3のうちのクラスタCL1に入力説明変数値セットVEinが属している。これにより、クラスタCL1に属する2つの説明変数値セットVE1およびVE4が類似説明変数値セットとして選択される。
【0108】
なお、ステップS510で用いる距離(データ空間上における距離)としては、典型的には、ユークリッド距離(ユークリッドノルム:L2ノルム)が採用される。但し、マンハッタン距離(L1ノルム)や無限大ノルム(L∞ノルム)などユークリッド距離以外の距離を用いるようにしても良い。
【0109】
ステップS510では、さらに、複数の類似説明変数値セットのそれぞれと入力説明変数値セットとの類似度を要素に持つ類似度ベクトルSが生成される。例えば、類似説明変数値セットの数が3であって、iを1以上3以下の整数としてi番目の類似説明変数値セットと入力説明変数値セットとの類似度をsiで表すと、類似度ベクトルSは次式(2)で表される。
【数2】
【0110】
類似度siの具体的な値としては、例えば、上記のようにして算出された距離の逆数を採用することができる。これにより、入力説明変数値セットとの間の距離が短い類似説明変数値セットほど類似度siの値が大きくなる。但し、ステップS520以降の処理で入力説明変数値セットと類似説明変数値セットとの間の距離に応じた重み付けの計算を行わない場合には、次式(3)に示すように、全ての要素の値(類似度siの値)を同じ値にしても良い。
【数3】
【0111】
ところで、ステップS510では、複数の説明変数値セットが類似説明変数値セットとして選択される。以下、印刷実績集約データにおいて複数の類似説明変数値セットのうちのいずれかと組み合わせられている目的変数値セットを便宜上「抽出目的変数値セット」という。ステップS510が終了した時点には、複数の類似説明変数値セットと複数の抽出目的変数値セットとが得られている。
【0112】
ステップS510の終了後、複数の類似説明変数値セットのそれぞれと複数の抽出目的変数値セットのそれぞれとの関係性の強さを表す関連度が算出される(ステップS520)。具体的には、i番目の類似説明変数値セットとj番目の抽出目的変数値セットとの関係性の強さを表す関連度rijは、次式(4)で算出される。
【数4】
上式(4)において、mは抽出目的変数値セットの数を表し、wijはi番目の類似説明変数値セットとj番目の抽出目的変数値セットとの組み合わせの出現頻度を表し、wikはi番目の類似説明変数値セットとk番目の抽出目的変数値セットとの組み合わせの出現頻度を表す。
【0113】
上式(4)によって算出された関連度rijに基づいて、類似説明変数値セットと抽出目的変数値セットとの組み合わせ毎の関連度rijを表す関連度行列Rが得られる。例えば図29に示すように類似説明変数値セットの数が3で抽出目的変数値セットの数が4であれば、次式(5)で表される関連度行列Rが得られる。
【数5】
【0114】
ステップS520の終了後、図14のステップS70での出力対象(推奨目的変数値セット)の候補とする目的変数値セットである推奨候補目的変数値セットとして、類似説明変数値セットとの関連度が高い複数の抽出目的変数値セットが選択される(ステップS530)。本実施形態においては、ステップS520で算出された関連度rijに基づいて、所定数の抽出目的変数値セットが選択される。なお、後述する推奨度が上位の値となる所定数の抽出目的変数値セットが選択されるようにしても良い。所定数の抽出目的変数値セットが図14のステップS70での出力対象の候補として選択されることにより、推奨候補値探索処理は終了する。
【0115】
なお、上記においてはステップS500で機種に基づくフィルタリングが行われているが、これには限定されない。ステップS500でのフィルタリングに代えて、管理サーバ20で機種毎に重み行列Wが生成されるようにしても良い。すなわち、図15のステップS230で機種毎に重み行列Wが生成されるようにしても良い。この場合、推奨候補値探索処理は、対象の機種に応じた重み行列Wを用いて行われる。
【0116】
<5.3.4 推奨候補値評価処理>
図30は、推奨候補値評価処理の詳細な手順を示すフローチャートである。なお、この推奨候補値評価処理の開始時点には、複数の推奨候補目的変数値セットが得られている。推奨候補値評価処理の開始後、まず、パラメータ値として異常値(異常な設定値)を含む推奨候補目的変数値セットが存在するか否かが判定される(ステップS600)。これに関し、例えば、乾燥機構125が印刷用紙PAを乾燥させる乾燥温度(例えば、HR温度や温風温度)が異常に高い値や異常に低い値に設定されていると、印刷用紙PAの乾燥は正常に行われない。そこで、乾燥温度の値については上限値と下限値とが定められ、各推奨候補目的変数値セットに含まれている乾燥温度の値が下限値から上限値までの範囲内に含まれているか否かが検査される。また、乾燥温度以外の印刷パラメータの値(例えば、搬送速度の値やテンションの値)についても、例えば下限値から上限値までの範囲内に含まれているか否かが検査される。このように、各推奨候補目的変数値セットに含まれている各目的変数値が予め定められた閾値と比較され、各推奨候補目的変数値セットに異常値が含まれているか否かが検査される。その結果、異常値を含む推奨候補目的変数値セットが存在すれば、処理はステップS610に進み、異常値を含む推奨候補目的変数値セットが存在しなければ、処理はステップS640に進む。
【0117】
なお、ステップS600での判定については、上述した手法以外にも様々な手法を採用することができる。例えば、乾燥温度の値について1つの下限値を定めておいて、推奨候補目的変数値セットに含まれている複数の乾燥温度(複数の乾燥機構のそれぞれに対応する複数の乾燥温度)のいずれもが下限値未満であれば当該推奨候補目的変数値セットに異常値が含まれている旨の判定を行うようにしても良い。また、例えば、複数の乾燥機構の乾燥温度の合計値に関する上限値を定めておいて、推奨候補目的変数値セットに含まれている複数の乾燥温度(複数の乾燥機構のそれぞれに対応する複数の乾燥温度)の合計値が上限値を超えていれば当該推奨候補目的変数値セットに異常値が含まれている旨の判定を行うようにしても良い。さらに、複数の印刷パラメータ間の関係が考慮されるよう複数の印刷パラメータの値(例えば、乾燥温度の値と搬送速度の値)を含む判定式を用意しておいて当該判定式によって得られた値に基づいて推奨候補目的変数値セットに異常値が含まれているか否かを判定することもできる。
【0118】
ステップS610では、推奨候補値探索処理で選択された全ての推奨候補目的変数値セットに異常値が含まれているのか否かが判定される。その結果、全ての推奨候補目的変数値セットに異常値が含まれていれば、処理はステップS620に進み、異常値を含まない推奨候補目的変数値セットが存在すれば、処理はステップS630に進む。
【0119】
ステップS620では、図14のステップS70でユーザーマニュアルを参照した出力が行われるよう、データが補正される。なお、パラメータ値の推奨値を求めることができなかった旨を示す例えば図31に示すようなメッセージ画面が図14のステップS70で出力されるようにデータの補正が行われるようにしても良い。
【0120】
ステップS630では、推奨候補値探索処理で選択された複数の推奨候補目的変数値セットのうち異常値を含む推奨候補目的変数値セットが図14のステップS70での出力の対象外に定められる。
【0121】
ステップS640では、異常値を含まない複数の推奨候補目的変数値セットのそれぞれについての推奨度が算出され、Kを整数として、高い推奨度が得られた上位K個の推奨候補目的変数値セットが図14のステップS70での出力対象に定められる。換言すれば、高い推奨度が得られた上位K個の推奨候補目的変数値セットを除く推奨候補目的変数値セットについては、図14のステップS70での出力の対象外に定められる。
【0122】
本実施形態においては、上述した複数の抽出目的変数値セットのそれぞれの推奨度を要素に持つ推奨度ベクトルPは次式(6)で表される。なお、Tは、転置を表す演算子である。
【数6】
【0123】
上式(2)および上式(5)より、上式(6)は次式(7)で表される。
【数7】
【0124】
上式(7)に関し、pjはj番目の抽出目的変数値セットの推奨度を表している。ここで、全ての抽出目的変数値セットの推奨度のうちの推奨候補値探索処理で選択された複数の推奨候補目的変数値セットの推奨度に着目され、上述したように高い推奨度が得られた上位K個の推奨候補目的変数値セットが出力対象に定められる。
【0125】
ステップS620あるいはステップS640の処理が終了することによって、推奨候補値評価処理は終了する。
【0126】
以上のように、推奨候補値評価部1161は、複数の推奨候補目的変数値セットのそれぞれに含まれる印刷パラメータの値が所定の閾値条件を満たしているか否かを判定し、当該所定の閾値条件を満たしていない印刷パラメータの値を含む推奨候補目的変数値セットについては出力対象として選択しない。推奨候補値評価部1161は、また、複数の推奨候補目的変数値セットのそれぞれについて印刷実績集約データに基づいて推奨度を算出し、Kを整数として、高い推奨度が得られた上位K個の推奨候補目的変数値セットを除く推奨候補目的変数値セットについては出力対象として選択しない。
【0127】
<5.3.5 推奨値の出力>
上述したように、図14のステップS70では、推奨候補値評価処理の結果に基づいて、印刷パラメータの推奨値の出力(複数の推奨目的変数値セットの出力)が行われる。図32は、図14のステップS70でコンピュータ500としての印刷制御装置110の表示部523に表示される推奨値情報表示画面800の一例を示す図である。この推奨値情報表示画面800には、説明変数値入力領域802と、推奨値一覧出力領域804と、推奨度出力領域806と、評価入力領域808とが含まれている。
【0128】
説明変数値入力領域802には、入力印刷条件に基づいて、各説明変数の値が表示される。すなわち、説明変数値入力領域802には、入力印刷条件に応じた説明変数値セットが表示される。推奨値一覧出力領域804には、推奨候補値評価処理で推奨目的変数値セットとしての出力対象に定められた複数の目的変数値セットが表示される。推奨度出力領域806には、出力対象に定められた複数の目的変数値セットのそれぞれについて、距離と推奨度とが表示される。なお、この推奨度出力領域806に表示される距離は、該当の目的変数値セットとの関連度が高い説明変数値セット(類似説明変数値セット)と入力印刷条件に対応する説明変数値セットとの間のデータ空間上における距離である。評価入力領域808については、出力対象に定められた複数の目的変数値セットのそれぞれについて、オペレータによる複数の選択肢からの評価の選択およびコメントの入力が可能となっている。
【0129】
推奨度出力領域806に表示される推奨度については、上式(7)で算出された値ではなく出力対象に定められた複数個の目的変数値セットの推奨度の合計値が100となるように変換が施された値であっても良い。この場合、出力対象に定められた目的変数値セットの数をQとし、出力対象に定められた任意の目的変数値セットに関して上式(7)で算出された値をpとし、Q個の目的変数値セットのうちのk番目の目的変数値セットに関して上式(7)で算出された値をpkとすると、当該任意の目的変数値セットに関して次式(8)で算出される値paが推奨度として推奨度出力領域806に表示される。
【数8】
【0130】
なお、図32に示した画面例は一例であって、本発明はこれに限定されない。例えば、推奨度出力領域806や評価入力領域808が設けられていなくても良い。また、印刷パラメータとしての搬送速度および乾燥温度の少なくとも一方についての複数の推奨値の出力が行われるのであれば、推奨値を出力する印刷パラメータ(項目)については特に限定されない。さらに、印刷パラメータの推奨値の出力に関し、ここでは表示部への出力を例に挙げて説明したが、印刷物としての出力が行われるようにしても良い。
【0131】
<6.印刷実行の流れ>
上述したパラメータ値調整支援処理によって印刷パラメータの推奨値が提示されるが、例えば推奨候補値探索モデル61を構築するための学習に用いられた教師データの数が不十分である場合などには、提示された推奨値に従ってパラメータ値の設定が行われても高品質の印刷物が得られないことがある。このような場合、十分な品質の印刷物が得られるまでパラメータ値の調整が繰り返される。本実施形態においては、パラメータ値調整支援処理後にパラメータ値の調整が繰り返されたときにも、各印刷で得られた品質の結果が教師データに反映されるよう、以下に記す手順で印刷が実行される。
【0132】
図33は、本実施形態における印刷実行の流れについて説明するためのフローチャートである。まず、オペレータによって印刷条件が入力される(ステップS81)。そして、入力印刷条件に基づいて、パラメータ値調整支援処理が行われる(ステップS82)。その後、パラメータ値調整支援処理で得られた結果に基づいて、オペレータによってパラメータ値の設定が行われる(ステップS83)。
【0133】
パラメータ値の設定後、インクジェット印刷装置10で印刷が実行される(ステップS84)。そして、印刷の実行状況を示す印刷実績ログ6が出力される(ステップS85)。ステップS85で出力された印刷実績ログ6はインクジェット印刷装置10から管理サーバ20に送信され、管理サーバ20において当該印刷実績ログ6を用いてログデータベース210の更新が行われる(ステップS86)。一方、ステップS84での印刷の実行によって得られた印刷物に基づいて、品質が十分であるか否かがオペレータ等によって判定される。その結果、品質が十分であれば、印刷のための一連の処理は終了し、品質が十分でなければ、処理はステップS83に戻る。
【0134】
ここで、ステップS86で行われるログデータベース210の更新について詳しく説明する。図33に示した一連の処理においてステップS83~S87の処理が繰り返されると、同じジョブについて複数の印刷実績ログ6が出力される。それら複数の印刷実績ログ6に関し、実行時刻が最後の印刷で得られたログに対しては高品質ラベルが付与され、高品質ラベルが付与されたログとは説明変数値セットが異なるログに対しては低品質ラベルが付与される。そのように印刷実績ログ6に品質ラベルが付与された上で、ログデータベース210の更新が行われる。上述したように、高品質ラベルが付与された印刷実績ログ6に基づくデータのみが、推奨候補値探索モデル61を構築するための学習に用いる教師データとして抽出される。従って、本実施形態のようにログデータベース210を更新することによって、精度良く、好適なパラメータ値を推奨値として出力することが可能となる。
【0135】
<7.効果>
本実施形態によれば、機械学習により学習済みの推奨候補値探索モデル61によって、入力印刷条件62に基づいて印刷パラメータの推奨値64の候補である複数の推奨候補値63が求められる。それら複数の推奨候補値63は推奨候補値評価部1161によって評価され、評価結果に基づいて複数の推奨値64が出力される。以上のように印刷パラメータの推奨値64の候補(推奨候補値63)が機械学習により学習済みの推奨候補値探索モデル61によって求められる(換言すれば、AIの技術を利用して、印刷パラメータの推奨値64の候補が求められる)ので、従来に比べてパラメータ値の調整が容易になる。また、各推奨候補値63についての評価が行われるので、適切なパラメータ値のみを推奨値として提示することが可能となる。以上より、本実施形態によれば、インクジェット印刷装置10におけるパラメータ値の調整を作業経験に関わらずオペレータが適切かつ容易に行うことが可能となる。
【0136】
また、本実施形態によれば、複数の推奨値64(複数の推奨目的変数値セット)のそれぞれについての推奨度が提示される。それ故、オペレータは、各推奨値(各推奨目的変数値セット)に関し、設定値としての妥当性を判断することが可能となる。
【0137】
さらに、本実施形態によれば、複数の推奨候補値63の探索の際に、説明変数値セットと目的変数値セットとの組み合わせ毎の出現頻度が考慮される。出現頻度が高い組み合わせ(説明変数値セットと目的変数値セットとの組み合わせ)については高品質の印刷物が得られることが担保されていると考えることができる。従って、精度良く、好適なパラメータ値が推奨値として出力される。
【0138】
さらにまた、本実施形態によれば、例えばオペレータが今までに経験したことのない印刷条件に基づく印刷が行われる場合に、十分な品質の印刷物が得られるまでに実行されるテスト印刷の回数が従来に比べて少なくなる。その結果、インクや印刷媒体(印刷用紙PAなど)の無駄な消費が低減される。このように、SDGs(持続可能な開発目標)の達成に貢献することができる。
【0139】
以下、本実施形態の効果を確認するために3つの機種のデータ(印刷実績ログ6)を用いて行ったクロスバリデーション(交差検証)の結果について説明する。なお、ここで説明する例では、管理サーバ20に蓄積された印刷実績ログ6を5つのグループに分割している。図34には、類似説明変数値セットを求めるために近傍法を用いる手法を採用した場合および類似説明変数値セットを求めるためにクラスタリングを用いる手法を採用した場合のそれぞれにおいて正解の結果が得られた割合を示している。ここでは、推奨値として出力された5つの値の中に真の設定値が含まれている結果を「正解」としている。図34から把握されるように、近傍法を用いる手法を採用した場合には全体で94.1%の正解率が得られ、クラスタリングを用いる手法を採用した場合には全体で92.5%の正解率が得られている。また、図35には、推奨順位毎に、推奨値が真の設定値に一致した件数およびその割合を示している。図35より、類似説明変数値セットを求めるために近傍法を用いる手法を採用した場合にも類似説明変数値セットを求めるためにクラスタリングを用いる手法を採用した場合にも、推奨度が1位の推奨値が6割以上の確率で真の設定値に一致したことが把握される。類似説明変数値セットを求めるために近傍法を用いる手法を採用した場合にも類似説明変数値セットを求めるためにクラスタリングを用いる手法を採用した場合にも、平均調整回数は約1.5回となる。ところで、調査によれば、パラメータ値の調整が困難な印刷条件に基づく印刷が行われる場合におけるパラメータ値の平均調整回数は3.8回である。以上より、パラメータ値の調整が困難な印刷条件に基づく印刷に関しては、本実施形態の手法を採用することによって、92%以上の確率でパラメータ値の調整回数を従来よりも約60%少なくすることが可能となる。
【0140】
<8.変形例>
以下、上記実施形態の変形例について説明する。
【0141】
<8.1 第1の変形例>
上記実施形態においては、複数のインクジェット印刷装置10から管理サーバ20に印刷実績ログ6が送信され、複数のインクジェット印刷装置10から送信された印刷実績ログ6に基づいて管理サーバ20で推奨候補値探索モデル61が構築され、管理サーバ20から複数のインクジェット印刷装置10へと推奨候補値探索モデル61が送信されていた。すなわち、上記実施形態においては、インクジェット印刷装置10では、管理サーバ20で構築された推奨候補値探索モデル61に基づいて、印刷パラメータの推奨値64を求める処理が行われていた。しかしながら、本発明はこれに限定されず、管理サーバ20を用いることなくインクジェット印刷装置10内の印刷制御装置110で推奨候補値探索モデル61を構築する構成を採用することもできる。そこで、そのような構成を上記実施形態の第1の変形例として説明する。
【0142】
本変形例におけるインクジェット印刷装置10の構成については、上記実施形態と同様である(図2参照)。図36は、本変形例においてパラメータ値調整支援処理を実現するための機能的構成を示すブロック図である。パラメータ値調整支援処理を実現するための構成要素として、印刷制御装置110には、ログ出力部114と印刷条件入力受け付け部115と推奨値出力部116とログ保持部117とモデル構築部118とが設けられる。このように、本変形例においては、パラメータ値調整支援処理を実現するための構成要素は全て印刷制御装置110に設けられる。
【0143】
ログ出力部114、印刷条件入力受け付け部115、および推奨値出力部116の動作については上記実施形態と同様である。ログ保持部117には、ログ出力部114から出力された印刷実績ログ6が保持される。モデル構築部118は、ログ保持部117に蓄積されている印刷実績ログ6に基づいて得られるデータを教師データとして学習を行うことにより、入力印刷条件62に基づいて印刷パラメータの推奨値64の候補(推奨候補値63)を求めるための推奨候補値探索モデル61を構築する。
【0144】
図37は、本変形例におけるパラメータ値調整支援処理の概略手順を示すフローチャートである。まず、ログ保持部117に保持されている印刷実績ログ6に基づいて過去の印刷実績を集約する印刷実績集約処理が行われる(ステップS20)。これにより、推奨候補値探索モデル61が構築される。次に、オペレータによって印刷条件が入力される(S40)。その後、上記実施形態と同様に推奨候補値探索処理(ステップS50)および推奨候補値評価処理(ステップS60)が行われ、最後に、推奨候補値評価処理の結果に基づいて印刷パラメータの推奨値64の出力が行われる(ステップS70)。
【0145】
<8.2 第2の変形例>
上記実施形態では、推奨候補値評価処理において、上式(6)で算出された推奨度に基づいて推奨値(推奨目的変数値セット)としての出力対象が決定されていた(図30のステップS640)。しかしながら、本発明はこれに限定されない。以下、推奨候補値評価処理においてニューラルネットワークを用いて出力対象を決定する手法を上記実施形態の第2の変形例として説明する。
【0146】
本変形例においては、推奨候補値評価部1161(図11参照)内に例えば図38に示すようなニューラルネットワーク80が設けられる。このニューラルネットワーク80は、入力層と隠れ層(中間層)と出力層とによって構成されている。入力層は、説明変数値セットを構成する説明変数値の数と目的変数値セットを構成する目的変数値の数との和に等しい数のユニットによって構成されている。入力層には、例えば図39に示すように、説明変数値セットを構成する説明変数値および目的変数値セットを構成する目的変数値が入力される。隠れ層は、それぞれが5つのユニットからなる2つの層によって構成されている。但し、隠れ層のユニット数および隠れ層の層数については限定されない。出力層は、0以上1以下の値(出力値z)を出力する1つのユニットによって構成されている。入力層-隠れ層間の結合、2つの隠れ層間の結合、および隠れ層-出力層間の結合は、全結合である。隠れ層および出力層の活性化関数にはシグモイド関数が採用される。損失関数には、交差エントロピー誤差が採用される。なお、出力層から出力される出力値zは、印刷品質を表す品質データに相当する。
【0147】
このニューラルネットワーク80を用いた学習には、上述した品質ラベルが付与されログデータベース210に蓄積されている多数の印刷実績ログ6が使用される。その学習の際には、印刷実績ログ6に基づいて得られる説明変数値および目的変数値が入力層に与えられる。これにより、ニューラルネットワーク80内で順伝播の処理が行われ、出力層から出力値zが出力される。学習に使用される印刷実績ログ6の数がn個であれば、n個の出力値zが出力層から出力される。そして、n個の出力値zとn個の品質ラベルの値とに基づいて、次式(9)で示す交差エントロピー誤差LogLossが算出される。
【数9】
上式(9)において、ztはt番目の印刷実績ログ6に基づいて得られた出力値(ニューラルネットワーク80の出力層からの出力値)を表し、ytはt番目の印刷実績ログ6に付与された品質ラベルの値を表す。
【0148】
上式(9)によって交差エントロピー誤差LogLossが算出された後、誤差の逆伝播の処理で得られる結果に基づいて勾配降下法を用いることによって、ニューラルネットワーク80のパラメータ(重み係数、バイアス)の値が更新される。
【0149】
本変形例においては、上記のようにしてニューラルネットワーク80を用いた学習が予め行われている状況下、図30のステップS640では以下のようにして推奨値(推奨目的変数値セット)として出力対象が決定される。
【0150】
複数の推奨候補目的変数値セットを1つずつ処理対象として、入力印刷条件に対応する説明変数値セットと処理対象の目的変数値セットとがニューラルネットワーク80の入力層に与えられる。これにより、複数の推奨候補目的変数値セットのそれぞれについての出力値zが得られ、各出力値zが予め用意された閾値と比較される。換言すれば、品質データ(出力値z)に基づいて複数の推奨候補目的変数値セットのそれぞれについての印刷品質が高品質となるか低品質となるかが判定される。その結果、閾値以上の出力値zが得られた推奨候補目的変数値セット(印刷品質が高品質となる旨の判定がなされた推奨候補目的変数値セット)は出力対象に定められ、閾値未満の出力値zが得られた推奨候補目的変数値セット(印刷品質が低品質となる旨の判定がなされた推奨候補目的変数値セット)は出力対象外に定められる。なお、これに代えて、Kを整数として、高い出力値zが得られた上位K個の推奨候補目的変数値セットが出力対象に定められるようにしても良い。
【0151】
図30のステップS640で上記のようにして推奨値(推奨目的変数値セット)としての出力対象が決定された後、図14のステップS70では、例えば図40に示すような推奨値情報表示画面810がコンピュータ500としての印刷制御装置110の表示部523に表示される。この推奨値情報表示画面810には、説明変数値入力領域812と、推奨値一覧出力領域814と、評価結果出力領域816とが含まれている。説明変数値入力領域812には、入力印刷条件に対応する説明変数値セットが表示される。推奨値一覧出力領域814には、推奨候補値探索処理で推奨目的変数値セットとしての出力対象に定められた複数の目的変数値セットが表示される。評価結果出力領域816には、出力対象に定められた複数の目的変数値セットのそれぞれについて、評価値(ニューラルネットワーク80からの出力値z)および推奨順位が表示される。なお、図40に示す例では、上記閾値以上の出力値zが得られた目的変数値セットについては、評価値の後ろに「(OK)」の文字が付加され、上記閾値未満の出力値zが得られた目的変数値セットについては、評価値の後ろに「(NG)」の文字が付加されている。また、上記閾値未満の出力値zが得られた目的変数値セットについては、推奨順位は表示されていない。
【0152】
以上のように、本変形例においては、品質ラベルが付与された印刷実績ログ6を教師データとして学習が行われたニューラルネットワーク80を用いて、推奨候補値探索処理で得られた複数の推奨候補目的変数値セットのそれぞれについての評価が行われる。そして、評価結果に基づき、推奨値(推奨目的変数値セット)としての出力対象が決定される。
【0153】
<9.その他>
本発明は、上記実施形態(変形例を含む)に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、上記実施形態ではカラー印刷を行うインクジェット印刷装置の構成を例示したが、モノクロ印刷を行うインクジェット印刷装置が採用されている場合にも本発明を適用することができる。さらに、印刷媒体は紙に限らずプラスチック等の樹脂であってもよく、不透明な印刷媒体だけでなく透明な印刷媒体にも本発明は適用可能である。また、適切なパラメータ値を推奨値として提示するという観点からは精度が低下するが、推奨候補値評価部1161を備えない構成を採用することもできる。この場合には、図14および図37のステップS60の処理(推奨候補値評価処理)は行われず、推奨候補値探索モデル61によって求められた複数の目的変数値セットがそのまま複数の推奨値セットとして提示される。
【符号の説明】
【0154】
6…印刷実績ログ
10…インクジェット印刷装置
20…管理サーバ
61…推奨候補値探索モデル
62…入力印刷条件
63…推奨候補値
64…推奨値
110…印刷制御装置
111…搬送制御部
112…印刷制御部
113…乾燥制御部
114…ログ出力部
115…印刷条件入力受け付け部
116…推奨値出力部
117…ログ保持部
118,220…モデル構築部
120…印刷機本体
124…印刷部
125…乾燥機構
129…搬送機構
210…ログデータベース
800,810…推奨値情報表示画面
1161…推奨候補値評価部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39
図40