(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077727
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】尾数計測方法及び尾数計測装置
(51)【国際特許分類】
G01S 15/96 20060101AFI20240603BHJP
A01K 61/95 20170101ALI20240603BHJP
【FI】
G01S15/96
A01K61/95
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189848
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】517302413
【氏名又は名称】株式会社AquaFusion
(74)【代理人】
【識別番号】110003236
【氏名又は名称】弁理士法人杉浦特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100123973
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 拓真
(74)【代理人】
【識別番号】100082762
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 正知
(72)【発明者】
【氏名】松尾 行雄
【テーマコード(参考)】
2B104
5J083
【Fターム(参考)】
2B104AA01
2B104CC34
2B104GA01
5J083AA02
5J083AB02
5J083AD04
5J083AE04
5J083CA01
5J083DC03
(57)【要約】
【課題】通過する魚の尾数を簡単な構成で、高精度にカウントする。
【解決手段】水中の通過枠に対して複数の超音波を送波する送波器と、送波器のそれぞれのエコーを受信する複数の受波器により複数の計測エリアを形成し、通過枠において、計測エリアに対して非計測エリアが隣接するようになされ、計測エリアを通過する尾数を求め、求められた計測エリアを通過する魚の尾数から非計測エリアを含む全体エリアを通過する魚の尾数を予測するようにした尾数計測方法である。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中の通過枠に対して複数の超音波を送波する送波器と、前記送波器のそれぞれのエコーを受信する複数の受波器により複数の計測エリアを形成し、
前記通過枠において、前記計測エリアに対して非計測エリアが隣接するようになされ、
前記計測エリアを通過する尾数を求め、
求められた前記計測エリアを通過する魚の尾数から前記非計測エリアを含む全体エリアを通過する魚の尾数を予測するようにした尾数計測方法。
【請求項2】
前記通過枠が扇形又は扇形に類似した形状の開口とされ、前記扇形又は扇形に類似した形状の中心角をN分割した方向に送波器によって超音波を送波する請求項1に記載の尾数計測方法。
【請求項3】
前記送波器の超音波を送波する方向が前記通過枠の断面に対して傾斜している請求項1に記載の尾数計測方法。
【請求項4】
前記計測エリアを通過する尾数を求める場合に、一尾のエコーを連続的に評価し、そのエコー振幅の変化の仕方から、魚の移動方向を判断し、反対方向に移動する魚の尾数を求められた尾数から減算する請求項1に記載の尾数計測方法。
【請求項5】
計測エリアの指向角度と非計測エリアの指向角度の比率によって、前記非計測エリアを通過する尾数を予測し、前記計測エリアで求めた尾数と予測された尾数を加算して総計の尾数を求める請求項1に記載の尾数計測方法。
【請求項6】
送受波器からの距離ごとに計測エリアを設定し、
体幅と検知閾値に対応して送受波器からの距離ごとに指向角度を求め、
前記距離ごとに求めた指向角度に基づいて、前記非計測エリアの尾数を予測し、計測エリアで求めた尾数と予測された尾数を加算して総計の尾数を求める請求項1に記載の尾数計測方法。
【請求項7】
水中の通過枠に対して複数の超音波を送波する送波器と、前記送波器のそれぞれのエコーを受信する複数の受波器により複数の計測エリアを形成し、
前記通過枠において、前記計測エリアに対して非計測エリアが隣接するようになされ、
前記受波器の受信信号を処理する受信信号処理部を設け、
前記受信信号処理部において、前記非計測エリアを通過する尾数を予測し、前記計測エリアで求めた尾数と予測された尾数を加算して総計の尾数を求めるようにした尾数計測装置。
【請求項8】
前記通過枠が扇形又は扇形に類似した形状の開口とされ、前記扇形又は扇形に類似した形状の中心角をN分割した方向に送波器によって超音波を送波する請求項7に記載の尾数計測装置。
【請求項9】
前記送波器の超音波を送波する方向が前記通過枠の断面に対して傾斜している請求項7に記載の尾数計測装置。
【請求項10】
前記計測エリアを通過する尾数を求める場合に、一尾のエコーを連続的に評価し、そのエコー振幅の変化の仕方から、魚の移動方向を判断し、反対方向に移動する魚の尾数を求められた尾数から減算する請求項7に記載の尾数計測装置。
【請求項11】
計測エリアの指向角度と非計測エリアの指向角度の比率によって、前記非計測エリアを通過する尾数を予測し、前記計測エリアで求めた尾数と予測された尾数を加算して総計の尾数を求める請求項7に記載の尾数計測装置。
【請求項12】
送受波器からの距離ごとに計測エリアを設定し、
体幅と検知閾値に対応して送受波器からの距離ごとに指向角度を求め、
前記距離ごとに求めた指向角度に基づいて、前記非計測エリアの尾数を予測し、計測エリアで求めた尾数と予測された尾数を加算して総計の尾数を求める請求項7に記載の尾数計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば養殖用生簀間を移動する魚の尾数を計測するための尾数計測方法及び尾数計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生簀内の尾数の計測は、給餌量及び生産出荷量の調整を行ううえで重要である。養殖の場合、魚の成長に伴い、1つの生簀から2つの生簀に分養することがある。分養の際に、生簀間を通過した魚の尾数をカウントする必要がある。
【0003】
従来の魚の尾数計測方法として、特許文献1及び2に記載されているものが知られている。特許文献1に記載のものは、カメラを用いた方法である。水中カメラを用いて水中視認範囲内の個体数を計測する方法は、低照度や濁りの影響で画像が不鮮明の場合、計測が困難となる。また、従来の尾数カウントシステムでは、カメラの較正など、計測毎に対応する必要がある。
【0004】
超音波を使用する尾数計数装置として、特許文献2に記載されているような第1生簀に接続する開口の幅方向に広がる扇形のファンビームを用いた尾数カウントが知られている。また、特許文献3に記載されているようなマグロの生簀においてマグロの遊泳方向と直交するような音響カーテンを設けて、音響カーテンを通過する尾数を計測することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-81871号公報
【特許文献2】特許第6714261号公報
【特許文献3】特開2021-45102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記の従来技術の構成は何れも、音響カーテンを形成するために多数の超音波送受波器を設ける必要があり、コストが高い問題があった。
【0007】
本発明は、低コストな構成で、高精度の尾数計測ができる魚数計測方法及び魚数計測装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、水中の通過枠に対して複数の超音波を送波する送波器と、送波器のそれぞれのエコーを受信する複数の受波器により複数の計測エリアを形成し、
通過枠において、計測エリアに対して非計測エリアが隣接するようになされ、
計測エリアを通過する尾数を求め、
求められた計測エリアを通過する魚の尾数から非計測エリアを含む全体エリアを通過する魚の尾数を予測するようにした尾数計測方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、計測エリアが間欠的に存在するので,簡単な構成によってコストを削減でき。また、尾数計測の精度を向上できる。なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本明細書中に記載されたいずれかの効果であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る尾数計測システムの概略的な構成を示す断面図である。
【
図2】
図2は、通過枠の一例と計測エリアの関係を説明するための略線図である。
【
図3】
図3は、通過枠の他の例と計測エリアの関係を説明するための略線図である。
【
図4】
図4は、通過枠のさらに他の例と計測エリアの関係を説明するための略線図である。
【
図5】
図5は、本発明の一実施形態のシステム構成を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、受信信号処理部の一例の構成を示すブロック図である。
【
図7】
図7は、本発明の一実施形態の処理の流れの概略を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、本発明の一実施形態の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、一つのチャンネルのエコー強度の一例を示すグラフである。
【
図10】
図10は、エコーのピークの連結処理を説明するための略線図である。
【
図14】
図14は、入射角とエコー強度の関係を示すグラフである。
【
図16】
図16A及び
図16Bは、送受波器の送波方向が上から下に垂直の場合のエコー強度の時間変化の説明に用いるグラフである。
【
図17】
図17は、距離に応じた指向角度の一例を示すグラフである。
【
図18】
図18は、カウントされた尾数と予測された尾数の関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の好適な具体例であり、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において、特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの実施形態に限定されないものとする。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る尾数計測システムの概略的な構成を示す断面図である。魚の養殖のための第1生簀1及び第2生簀2が使用される。第1生簀1は、生簀枠11と、生簀枠11に固定された網12と、生簀枠11に取り付けられた浮体(図示せず)を備えている。網12が海中を区切って飼育スペースを形成する。第2生簀2は、第1生簀1と同様に、生簀枠21、網22、浮体(図示せず)を備え、網22が海中を区切って飼育スペースを形成する。
【0013】
第1生簀1と第2生簀2との間には、網13によって比較的狭い経路3が形成されている。経路3を魚が通って第1生簀1の魚が第2生簀2に移される。第2生簀2と経路3の接続部は、枠14が設けられ、枠14によって形成された開口(通過枠と適宜称する)15を通じて魚が出入り可能とされている。例えば経路3は、断面が円形又は矩形とされ、第2生簀2と経路3の境界に位置して第2生簀2の入口となる通過枠15は、扇形若しくは扇形と類似した形状、又は矩形とされている。
【0014】
一実施形態では、経路3を通過して第1生簀1から第2生簀2に移動する魚の尾数をカウントするために、通過枠15の下から上に向かって超音波ビームを送波する送受波器31が設けられている。送受波器31は、例えば5個の送受波器を有している。各送受波器の送受信経路をch(チャンネル)と表記する。なお、送受波器31は、通過枠15の上側に設けて上から下に超音波ビームを送波するようにしてもよい。さらに、通過枠15に対して水平方向に超音波ビームを送波するようにしてもよい。
【0015】
超音波ビームとしては、例えば指向角が5度の円錐状に拡がる円錐ビームが使用される。円錐形は、送受波器31の振動子の形状が円形の場合であり、振動子の形状が四角の場合は四角錐となる。さらに、ファンビームを使用してもよい。例えば超音波の周波数が240kHz程度とされている。
【0016】
計測においては、1尾1尾の検知が重要である。魚の通過は、一瞬となるので、超音波の送信回数は、1秒間に10回以上、例えば20回とされている。その結果、遊泳速度が速くても個々の魚のエコーを分離して受信することができる。
【0017】
送受波器31の各送波器の超音波ビームの送波方向が同一平面上で所定の角度ずつ異ならされており、複数の超音波ビームによって形成される計測エリア(ch1~ch5)及び非計測エリアの全体形状は、
図2に示すように、通過枠15と略一致する扇状となる。例えば超音波ビームの送波方向が15度間隔とされている。
【0018】
一実施形態では、通過枠15を隙間なく計測エリアが覆う状態に対して、通過枠15を例えば1/2に間引いた領域を計測エリアが覆うようになされる。
図2において濃い影で示す計測エリアと、非計測エリアが交互に存在する。したがって、通過枠15の全体を計測エリアでカバーする構成と比較して送受波器31が有する送受波器の個数を減少することができ、尾数計測装置のコストを低減することができる。なお、通過枠は、
図3に示すように、扇形に類似した形状の楕円形の通過枠16であってもよい。さらに、
図4に示すように。矩形であってもよい。矩形の通過枠17の場合、送受波器が水平方向又は垂直方向に整列された送受波器31’ が使用される。
【0019】
さらに、
図1に示すように、送受波器31の送波方向は、通過枠15の断面と平行ではなく、通過枠15に対して傾斜して配置されている。例えば魚の移動方向の前方に傾斜するようになされる。後述するように、この傾斜配置によって通過枠15を通る魚の移動方向を判定することが容易となる。一実施形態では、第1生簀1から第2生簀2に移動する魚の尾数のカウントが目的であり、高精度の計測のために、逆方向に移動する魚の尾数を除外する必要がある。
【0020】
送受波器31の各送波器から出射され、通過枠15を通過する魚によって反射された超音波(エコーと適宜称する)が各受波器によって受信されて受信信号が発生する。なお、
図2、
図3及び
図4では、超音波ビームの指向角度は、どの深度でも一定値として表されているが、後述するように、一実施形態では、送受波器31の各送受波器からの距離にしたがって指向角度が変化するようになされている。すなわち、非計測エリアが距離ごとに変化するようになされている。
【0021】
送受波器31から送波された超音波の送信強度と、魚で反射して戻るエコー強度との比(TS(TargetStrength):送受波器から1mでのエコー強度)は、概略的に以下の式で表される。Wは、魚の体長であり、Aは信号周波数と魚種により決まる係数である。
TS=20logW+20logA
【0022】
図5は、本発明の一実施形態のシステム構成を示す。送受波器3は、例えば5個の送受波器32a~32eを有する。送受波器32a~32eに対して送受切替部33a~33eが接続されている。送受波器32a~32eのそれぞれの送波器に対して送信部34からの送信信号が供給される。送受波器32a~32eのそれぞれの受波器からは、エコー信号と対応する受信信号が発生し、受信部35に対して受信信号が供給される。
【0023】
受信部35には、受信信号処理部36が接続されている。受信信号処理部36は、デジタルデータを処理するデータ処理装置と、関連するソフトウェアによって実現される。ソフトウェアは、媒体、通信などによって提供される。受信信号処理部36では、送受波器31から送波された超音波の送信強度と、魚で反射して戻るエコー強度との比TSに基づいて、通過枠15を通じて第1生簀1から第2生簀2に移動した魚の尾数がカウントされる。受信信号処理部36において求められた通過尾数が表示部37において表示される。表示と共に音声で尾数を呈示してもよい。なお、受信信号処理部36において、通過尾数に加えて魚の体長及び体高が計測される。
【0024】
なお、受信信号をそのまま利用せずに、受信信号をバンドパスフィルタ等でノイズ除去した信号を使用してもよい。さらに、送信信号と受信信号の相関解析によって求められた相関値を使用してもよい。
【0025】
図6に受信信号処理部36の一例を示す。チャンネル1の受信信号(エコー)が検出部41aに供給される。検出部41aは、受信信号に基づいて各チャンネルの所定距離単位で、所定時間毎の通過尾数を求める。通過魚の尾数を求める場合に、第2生簀2から第1生簀1に戻る魚の尾数を減算する処理がなされる。検出部41aにより求められた尾数が予測部42aに供給される。予測部42aは、非計測エリアの通過尾数を予測する。計測エリアの通過尾数と予測部42aで予測され通過尾数が加算器43aで加算され、チャンネル1の通過尾数が求められる。加算器43aの出力が加算回路44に供給される。
【0026】
他のチャンネル2~チャンネル5のそれぞれに関連して検出部41b~41e、予測部42b~42e、加算器43b~43eが設けられ、加算器43b~43eの出力が可算回路44に供給される。可算回路44の出力に通過枠15を通過する魚の総尾数のデータが得られる。
【0027】
図7は、受信信号処理部36の処理の概要を示すフローチャートである。
ステップS1から処理が開始する。
ステップS2:検出部41a~41eによって例えば1秒間に通過枠15を通過する魚の尾数をカウントする。
ステップS3:予測部42a~42eによって非計測エリアの通過尾数が予測され、毎秒ごとの通過尾数の合計が予測される。
ステップS4:表示部37の画面に通過尾数を表示する。表示と共に/又は表示なしで通過尾数を音声で呈示する。
ステップS5:処理を終了する。
【0028】
さらに、
図8のフローチャートを参照して通過枠15を通過する魚を検出する処理(ステップS2)及び全体通過尾数を予測する処理(ステップS3)の一例について説明する。
【0029】
ステップS11:処理が開始する。
ステップS12:送信信号を所定時間間隔で発生し、エコーが受信され、各チャネル(受波器)で計測されたエコーからピークが検出される。
図9は、一つのチャンネルのエコー強度(相対的な値をグラフの縦軸に示す。以下同様)の一例を示す。
図9の例では、距離m(グラフの横軸)が0.8m付近でエコー強度が最大となっている。点線がピーク検出の閾値を示し、閾値以上のエコー強度がピークとして検出される。閾値は、絶対値又は全体の平均値の定数倍の値とされる。さらに、ピークの存在する距離が求められる。
【0030】
ステップS13:エコーの連続性評価の処理がなされる。一つ前の送信信号でもほぼ同じ深度にピークが存在する場合、
図10に示すように、ピークが連結される。
図10のグラフは、縦軸がピングを示し、横軸が距離(m)を示す。ピングは、送信タイミングで、例えば1/20(秒)の間隔で送信がなされる。推定された距離と1回前の送信に対するピークの距離が閾値より大の場合には、連結が終了される。
【0031】
図11は、
図10のグラフと対応するエコーグラムを示す。縦軸がピングを表し、横軸が距離(m)を表す。ピングの間隔は、0.05秒である。
図11では、エコー強度をモノクロ画像として表示しており、濃い色ほどエコー強度が大きいことを示している。さらに、白いドットが連結されたピークを表しており、
図10と同様に、連結数(連続送信回数)が10の例である。
【0032】
ステップS14:連結終了時に検知基準を満たすか否かが判定される。すなわち、ステップS12の処理でピークとして検出された連続送信回数がある範囲内(例えば5~20回)で、最大エコー強度時に計算されるTSがある範囲内の場合、魚として検知する。検知基準が満たされない場合には、処理がステップS12に戻る。このような処理でノイズの除去を行なうことができる。すなわち、魚からのエコーの場合、連続してエコーが計測されるが、ノイズの場合には一度のみエコーが存在している可能性が高いからである。
【0033】
ステップS15:エコー強度の変化から遊泳方向が検出される。
ステップS16:検出された遊泳方向が正しいかどうかが判定される。一実施形態は、上述したように、第1生簀1から第2生簀2に移動する魚の尾数をカウントするので、精度を高くするために逆方向に移動する魚をカウントしないようになされる。第1生簀1から第2生簀2に移動する方向を正方向と称し、逆に魚が移動する方向を反対方向と称する。
【0034】
ステップS17:検出された遊泳方向が正しいとステップS16で判定されると、正方向の通過魚としてカウントされる。
ステップS18:検出された遊泳方向が反対方向とステップS16で判定されると、反対方向の通過魚としてカウントされる。
ステップS19:反対方向の通過尾数を引き算して通過魚尾数をカウントする。
【0035】
通常の魚群探知機では、海上から真下方向に超音波を送受信する。ここで、入射角度とは、超音波の入射方向と、魚の長軸に対して垂直な背方向の間の角度で表される。
図12A及び
図12Bに示すように、入射角度0度は、背方向から超音波が入射する場合で、頭部が上がった状態が正方向となる。魚の反射のメインである鰾(ウキブクロ)が体軸に対して傾いているため、負の入射角度においてエコー強度が最大となる。
【0036】
一実施形態では、
図13A及び
図13Bに示すように、真下から海面方向に超音波を送受信する。この場合も同様に、入射角度とは、超音波の入射方向と、魚の長軸に対して垂直な腹方向の間の角度で表される。入射角度は、頭部に傾いた場合が正の角度となる。腹側から入射する場合は、
図14に示すように正の入射角において正規化したTS(反射強度)が最大となる。
図13A及び
図13BはTSが強くなるときの位置関係を表している。両方とも、音軸(点線)に対して頭が傾いている角度なので、正の角度となる。
図13A及び
図13BはTSが最大のときの模式図を表している。これに、ソナー方程式にもあるように指向特性が入る。「正の方向」で移動している場合は音軸から外れているのでエコー強度が小さくなり、反対に、「反対の方向」で移動している場合は音軸上で負の入射角度となり、エコー強度が大きくなる。TSの入射角度依存性と、指向特性の違いによって、「正の方向」と「反対の方向」で違いが生まれる。ここで、エコー強度とは受波器で受け取ったエコーレベル、TS(反射強度)は送受波器から真正面1mにターゲットがある場合エコー強度のことで、そのターゲットの入射角度で変わる。
【0037】
このように、エコー強度の変化の仕方が正方向と反対方向で異なることから、そのエコー強度変化を評価し、遊泳方向を決定する。
図15A及び
図15Bは、一実施形態の場合のエコー強度のピング毎の変化(時間変化)を示すシミュレーションの結果を示す。
図15Aに示すように、正方向の正規化エコー強度が反対方向のエコー強度に比して小さなレベルとなる。また、正規化エコー強度の時間変化、すなわち、連続する値の差分値を求めた場合、
図15Bに示すように、正方向のエコー強度の深度変化が反対方向のエコー強度の深度変化に比して小さなレベルとなる。
【0038】
図16A及び
図16Bは、一実施形態とは異なり、送受波器が上から下に向かって超音波を送波する場合(送波方向を通過枠15の断面と平行な場合)の同様のシミュレーション結果を示す。このシミュレーション結果から分かるように、送波方向を傾斜させない場合には、遊泳方向の違いによって正規化エコー強度及び正規化エコー強度の差分値のいずれも大きな相違が生じないことが分かる。したがって、送受波器31を少し斜めに設置することによって、正方向と反対方向の違いがよりはっきりする形とできる。なお、送受波器31の角度に関しては、どちらに傾けても効果がある。
【0039】
図8のフローチャートに戻って説明すると、ステップS19においてあるチャンネルのある時間の通過尾数が計測される。一実施形態では、計測エリアが間欠的に存在するので、通過魚の全尾数を求めるためには、計測エリアでカウントされた尾数から全エリアの尾数を推測することが必要とされる。簡単な推測の方法としては、体積比率を使用して推測する方法である。送受波器の指向角度から計算される円錐形の体積は、(底面積S1×深度D×(1/3))によって計算される。底面積は、指向角度で決まる半径によって計算される。例えば計測エリアと非計測エリアが等しい体積を有している場合には、計測エリアの検知尾数の2倍の尾数が全体の通過尾数とされる。
【0040】
海中の伝搬損失(距離に依存して減衰)、雑音レベルによってエコーレベルが減少することを考慮しない方法では、精度が低くなる問題がある。一実施形態では、その距離における魚のTS、海中の伝搬損失、雑音レベル、魚検知閾値に基づいて、魚として検出できる各深度における指向特性の値を計算し、指向角度が計算される。
【0041】
エコー強度ELは、次のソナー方程式で表される。
EL=SL-2TL+TS
検出閾値をDT、ノイズレベルをNL、指向特性をDIとしたときに以下の式を満たすときに検出が可能となる。
DT≦SL-2TL+TS-(NL-DI)
EL:エコーレベル
DT:検出閾値
SL:送信レベル
TL:海中の伝搬損失(距離に依存して減衰)
TS:目標のターゲット・ストレングス
DI:指向特性→円形の場合はベッセル関数で近似
NL:雑音レベル
魚検出できる最小のエコー強度EL0は以下の式で計算される。
EL0=NL-DI+DT
【0042】
上式からエコー強度EL(=SL―2TL+TS)が魚検出できる最小のエコー強度EL0より大きい場合、魚として検出可能である。しかしながら、距離が長い場合、伝搬損失TL、指向特性DI、雑音レベルNLによりエコーレベルELがEL0より小さい場合、検出できない。そこで、その距離における魚のTS、海中の伝搬損失TL、雑音レベルNL、検出閾値DTに基づいて、魚として検出できる各距離における指向特性DIの値を計算し、指向角度を計算する。
【0043】
ステップS20において、所定の距離例えば10cm単位で、体幅を1cmとし、魚検知閾値を設定したときの検知可能な指向角度が計算される。10cm単位の指向角度が
図17に示されている。その指向角度に基づいて10cm単位の体積比率を計算し、その深度の各チャネルの検知尾数から通過尾数を予測する。この方法は、一定の指向角度で推測するよりは分散が少なく、より正確な計測が可能である。
【0044】
ステップS21:送受波器から距離例えば10cm単位のステップで通過魚の尾数がカウントされる。
ステップS22:距離ごとの通過尾数とステップS20で求められた指向角度に基づいて非計測エリアの通過尾数が予測される。すなわち、計測エリアと非計測エリアの体積比率が計算され、その距離の各チャネルの検知部数から通過尾数が予測される。例えば、送受波器が15度間隔であった場合、指向角度が8度の場合、7度分を予測する必要がある。予測尾数は通過尾数の7/8倍した尾数とする。
【0045】
ステップS23:距離ごとの総通過尾数を積分し、全体の通過尾数を予測する。送受波器からの距離ごとに、通過尾数と指向角度から非計測エリアの通過尾数を予測し、距離ごとの総通過尾数を予測する方法は、一定の指向角度で推測するよりは分散が少なく、より正確な計測が可能である。
ステップS24:処理が終了する。表示部37によって通過した魚の尾数が表示される。なお、通過時のエコー強度からTSを計算し、魚体長を計測してもよい。さらに、通過時のエコーの持続時間から体高を計算するようにしてもよい。
【0046】
図18は、10cm毎の距離でカウントされた尾数(破線で示す)から上述したように予測した尾数(実線で示す)の一例を示すグラフである。
【0047】
さらに、
図19A及び
図19Bは、あるチャンネルのエコーグラム及び魚検知結果の測定例を示すグラフである。横軸が送受波器からの距離、縦軸が経過時間を表している。
図19Aは計測されたエコーレベルをモノクロ画像として表示しており、濃い色ほどエコー強度が大きいことを示している。短時間で魚が通過していることがわかる。
図19Bが検知された魚のエコーのみを残して表示している。通過している魚を検知できていることがわかる。
【0048】
実験結果を次の表1に示す。
【0049】
【0050】
この表1は、全チャンネルのカウントされた通過尾数の複数回の測定結果の平均値と分散を示す。また、一定の指向角度で予測された全体の通過尾数の平均値と分散と、上述した一実施形態のように、可変の指向角度で予測された全体の通過尾数の平均値と分散を示している。表1から分かるように、本発明の一実施形態のように、距離毎の指向角度で予測した場合の分散は、一定の指向角度で予測した場合に比して小さくなり、予測の精度がより高い。
【0051】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、生簀間を通過する魚の尾数計測に限らず、河川に設けた魚道を通過する魚の尾数の計測を行うようにしてもよい。上述の実施形態において挙げた構成、方法、工程、形状、材料及び数値などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、工程、形状、材料及び数値などを用いてもよい。
【符号の説明】
【0052】
1・・・第1生簀、2・・・第2生簀、3・・・経路、15,16・・・通過枠、33a~33e・・・送受波切替器、36・・・受信信号処理部