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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077729
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】撥水層及び撥水層付きガス拡散層
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20240603BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20240603BHJP
【FI】
H01M4/86 H
H01M4/86 M
H01M8/10 101
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189851
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】大村 哲賜
(72)【発明者】
【氏名】米倉 弘高
(72)【発明者】
【氏名】神谷 厚志
(72)【発明者】
【氏名】松永 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】工藤 憲治
(72)【発明者】
【氏名】秋元 裕介
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018EE05
5H018EE08
5H018EE18
5H018EE19
5H018HH01
5H018HH03
5H018HH04
5H018HH05
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】排水性能に優れた撥水層、及び、これを備えた撥水層付きガス拡散層を提供すること。
【解決手段】撥水層は、複合粒子を含む。前記複合粒子は、カーボン粒子と、前記カーボン粒子の表面を被覆する第1撥水性分子からなる撥水性被膜とを含む。前記カーボン粒子は、カーボンブラックが好ましい。撥水層は、第2撥水性分子からなる撥水性結着剤をさらに含むものでも良い。撥水層付きガス拡散層は、ガス拡散層基材と、前記ガス拡散層基材の表面に形成された、前記撥水層とを備えている。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構成を備えた撥水層。
(1)前記撥水層は、複合粒子を含む。
(2)前記複合粒子は、
カーボン粒子と、
前記カーボン粒子の表面を被覆する第1撥水性分子からなる撥水性被膜と
を含む。
【請求項2】
前記カーボン粒子は、カーボンブラックである請求項1に記載の撥水層。
【請求項3】
前記カーボン粒子は、平均粒子径が5.0μm未満である請求項1に記載の撥水層。
【請求項4】
前記撥水性被膜の被覆率が5.0%以上である請求項1に記載の撥水層。
但し、前記「撥水性被膜の被覆率」とは、前記撥水性被膜が前記第1撥水性分子の単原子層からなると仮定した時の、前記カーボン粒子の総表面積に対する、前記撥水性被膜で被覆されている前記カーボン粒子の表面の面積の割合をいう。
【請求項5】
前記撥水性被膜は、厚さが2.0nm以下である請求項1に記載の撥水層。
【請求項6】
第2撥水性分子からなる撥水性結着剤をさらに含む請求項1に記載の撥水層。
【請求項7】
前記撥水性結着剤の含有量は、50.0mass%以下である請求項6に記載の撥水層。
但し、前記「撥水性結着剤の含有量」とは、前記複合粒子と前記撥水性結着剤の総質量に対する、前記撥水性結着剤の質量の割合をいう。
【請求項8】
平均細孔径が0.1μm以上1.0μm以下である請求項1に記載の撥水層。
【請求項9】
ガス拡散層基材と、
前記ガス拡散層基材の表面に形成された、請求項1から8までのいずれか1項に記載の撥水層と
を備えた撥水層付きガス拡散層。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水層及び撥水層付きガス拡散層に関し、さらに詳しくは、排水性能に優れた撥水層、及び、これを用いた撥水層付きガス拡散層に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、固体高分子電解質膜の両面に触媒層が接合された膜電極接合体(MEA)を備えている。触媒層の外側には、通常、ガス拡散層が配置される。触媒層は、電極反応の反応場となる部分であり、一般に、白金等の電極触媒を担持したカーボンと、触媒層アイオノマとの複合体からなる。ガス拡散層は、触媒層へのガスの供給/排出、及び、触媒層と電子の授受を行うためのものである。ガス拡散層には、通常、カーボンペーパー、カーボンクロス等の多孔質基材が用いられる。
【0003】
固体高分子形燃料電池のガス拡散層は、高いガス透過性に加えて、高い撥水性が求められる。そのため、ガス拡散層には、一般に、カーボンペーパーなどの多孔質基材の表面に撥水層(「マイクロポーラス層(MPL)」とも呼ばれている)が形成されたものが用いられる。また、撥水層は、一般に、導電性粒子及び撥水性粒子を含むペーストを多孔質基材の表面に塗布し、乾燥及び焼成することにより形成されている。
【0004】
多孔質基材の表面に撥水層を形成する場合において、撥水層の構造を最適化すると、高ガス透過性を維持しつつ、排水性能を高めることができる。そのため、このような撥水層及び撥水層付きガス拡散層に関し、従来から種々の提案がなされている。
【0005】
例えば、特許文献1には、
(a)球状黒鉛からなる第1粒子の表面に、撥水性高分子を介して第2粒子が結合している造粒体、及び、
(b)このような造粒体を基材表面に塗布し、熱処理することにより得られる撥水層
が開示されている。
同文献には、このようにして得られた撥水層は、第2粒子の間隙に由来する小細孔と、隣接する造粒体同士の間隙に由来する大細孔とを備えているために、ガス透過性、撥水性、及び導電性に優れている点が記載されている。
【0006】
特許文献1に記載の方法を用いると、ガス透過性及び撥水性に優れた撥水層が得られる。しかしながら、同文献に記載の撥水層は、第2粒子の表面が撥水性高分子で被覆されていないために、排水性能の向上に限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-002444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、排水性能に優れた撥水層、及び、これを備えた撥水層付きガス拡散層を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明に係る撥水層は、以下の構成を備えている。
(1)前記撥水層は、複合粒子を含む。
(2)前記複合粒子は、
カーボン粒子と、
前記カーボン粒子の表面を被覆する第1撥水性分子からなる撥水性被膜と
を含む。
【0010】
本発明に係る撥水層付きガス拡散層は、
ガス拡散層基材と、
前記ガス拡散層基材の表面に形成された、本発明に係る撥水層と
を備えている。
【発明の効果】
【0011】
カーボン粒子の表面に撥水性被膜を形成して複合粒子とする場合において、成膜条件を最適化すると、カーボン粒子の表面に撥水性被膜を薄く、かつ、均一に形成することができる。次いで、必要に応じて、複合粒子に撥水性結着剤を添加した後、複合粒子又は複合粒子と撥水性結着剤との混合物を基材表面に散布及びプレスして前駆体層とし、前駆体層を加熱すると、本発明に係る撥水層が得られる。このようにして得られた撥水層は、従来の撥水層に比べて、排水性能に優れている。
【0012】
これは、
(A)カーボン粒子の表面に撥水性被膜を薄く、かつ、均一に形成することによって、カーボン粒子の表面の撥水性が高くなるが、細孔(カーボン粒子間、又は、カーボン粒子を構成する1次粒子間にある空隙)は閉塞することなく残存するため、及び、
(B)閉塞せずに残存した細孔を介した液水の排出が促進されるため
と考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例7で得られた攪拌後の複合粒子(PTFE量:2.8mass%)のSEM像及びF元素マップ重ね合わせ像である。
図2】実施例1で得られた攪拌後の複合粒子(PTFE量:0.8mass%)のSEM像及びF元素マップ重ね合わせ像である。
図3】比較例3で得られた攪拌後のカーボンブラックのSEM像及びF元素マップ重ね合わせ像である。
【0014】
図4】実施例7で得られた攪拌後の複合粒子(PTFE量2.8mass%)のTEM像の経時変化である。
図5】複合粒子に含まれるPTFE(第1撥水性分子)量と、撥水層付きガス拡散層の電子抵抗との関係を示す図である。
図6】カーボンブラック(CB)及びカーボンブラックにPTFEをプラズマPVD処理した複合粒子(PTFE-CB)(実施例1、PTFE量:0.8mass%)の水蒸気吸着等温線である。
【0015】
図7】複合粒子のBET比表面積と細孔容積に及ぼすPTFE(第1疎水性分子)量の影響を示す図である。
図8】実施例1~3及び比較例1~3で得られた撥水層の液水透過量である。
図9】実施例1~3及び比較例1~3で得られた撥水層の光学顕微鏡写真である。
図10】基材の細孔径分布である。
図11】実施例1~3及び比較例1~3で得られた撥水層/基材の細孔径分布である。
【0016】
図12】実施例1~3の細孔径分布であって、図11に示す細孔径分布の細孔径0.1μm近傍の拡大図である。
図13】比較例1~3の細孔径分布であって、図11に示す細孔径分布の細孔径0.1μm近傍の拡大図である。
図14】撥水層に含まれるPTFE(第2撥水性分子)量と、撥水層付きガス拡散層の電子抵抗との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 撥水層]
本発明に係る撥水層は、以下の構成を備えている。
【0018】
[構成1]
以下の構成を備えた撥水層。
(1)前記撥水層は、複合粒子を含む。
(2)前記複合粒子は、
カーボン粒子と、
前記カーボン粒子の表面を被覆する第1撥水性分子からなる撥水性被膜と
を含む。
【0019】
[構成2]
前記カーボン粒子は、カーボンブラックである構成1に記載の撥水層。
【0020】
[構成3]
前記カーボン粒子は、平均粒子径が5.0μm未満である構成1又は2に記載の撥水層。
【0021】
[構成4]
前記第1撥水性分子は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、及び、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)からなる群から選ばれるいずれか1以上を含む構成1から3までのいずれか1つに記載の撥水層。
【0022】
[構成5]
前記撥水性被膜の被覆率が5.0%以上である構成1から4までのいずれか1つに記載の撥水層。
但し、前記「撥水性被膜の被覆率」とは、前記撥水性被膜が前記第1撥水性分子の単原子層からなると仮定した時の、前記カーボン粒子の総表面積に対する、前記撥水性被膜で被覆されている前記カーボン粒子の表面の面積の割合をいう。
【0023】
[構成6]
前記撥水性被膜は、厚さが2.0nm以下である構成1から5までのいずれか1つに記載の撥水層。
【0024】
[構成7]
第2撥水性分子からなる撥水性結着剤をさらに含む構成1から6までのいずれか1つに記載の撥水層。
【0025】
[構成8]
前記第2撥水性分子は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、及び、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)からなる群から選ばれるいずれか1以上を含む構成7に記載の撥水層。
【0026】
[構成9]
前記撥水性結着剤の含有量は、50.0mass%以下である構成7又は8に記載の撥水層。
但し、前記「撥水性結着剤の含有量」とは、前記複合粒子と前記撥水性結着剤の総質量に対する、前記撥水性結着剤の質量の割合をいう。
【0027】
[構成10]
平均細孔径が0.1μm以上1.0μm以下である構成1から9までのいずれか1つに記載の撥水層。
【0028】
[1.1. 複合粒子]
撥水層は、複合粒子同士、又は、複合粒子と撥水性結着剤とが結着している層からなる。また、複合粒子は、カーボン粒子と、カーボン粒子の表面を被覆する第1撥水性分子からなる撥水性被膜とを含む。
【0029】
[1.1.1. カーボン粒子]
[A. 材料]
本発明において、カーボン粒子の種類は、特に限定されるものではなく、目的に応じ最適な材料を選択することができる。
カーボン粒子としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラックなどがある。
複合粒子は、これらのいずれか1種のカーボン粒子を含むものでも良く、あるいは、2種以上を含むものでも良い。
【0030】
カーボンブラックは、1次粒子が数珠状に繋がった構造を備えており、1次粒子間には多量の空隙(細孔)がある。このようなカーボンブラックの表面に撥水性被膜を薄く、かつ、均一に形成して複合粒子とし、これを用いて撥水層を作製すると、撥水層の排水性能が向上する。
【0031】
[B. 平均粒子径]
「平均粒子径」とは、レーザー回折・散乱法により測定された、体積基準のメディアン径(D50)をいう。
【0032】
本発明において、カーボン粒子の平均粒子径は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な値を選択することができる。しかしながら、カーボン粒子の平均粒子径が大きくなりすぎると、撥水層にしたときにカーボン粒子間の接触点数が減少し、電子抵抗が増大する場合がある。従って、カーボン粒子の平均粒径は、5.0μm以下が好ましい。平均粒径は、さらに好ましくは、4.0μm以下、さらに好ましくは、3.0μm以下である。
【0033】
[1.1.2. 撥水性被膜]
[A. 材料]
撥水性被膜は、第1撥水性分子からなる。本発明において、第1撥水性分子の種類は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。
第1撥水性分子としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)などがある。撥水性被膜は、これらのいずれか1種の第1撥水性分子からなるものでも良く、あるいは、2種以上の第1撥水性分子からなるものでも良い。
【0034】
これらの中でも、第1撥水性分子は、PTFEが好ましい。PTFEは、他の第1撥水性分子と比べて撥水性が高いので、これを第1撥水性分子として用いると、少量の添加で複合粒子に高い撥水性を付与することができる。
【0035】
[B. 被覆率]
「撥水性被膜の被覆率(%)」とは、撥水性被膜が第1撥水性分子の単原子層からなると仮定した時の、カーボン粒子の総表面積に対する、撥水性被膜で被覆されている前記カーボン粒子の表面の面積の割合をいう。
【0036】
一般に、撥水性被膜の被覆率が大きくなるほど、撥水層の排水性能が高くなる。このような効果を得るためには、撥水性被膜の被覆率は、5.0%以上が好ましい。被覆率は、好ましくは、10.0%以上、さらに好ましくは、20.0%以上である。
なお、被覆率が高くなるほど、撥水層の電子抵抗は増大するが、被覆率が100%であっても、撥水層の電子抵抗が著しく増大することはない。これは、第1撥水性分子が多層吸着しているためと考えられる。但し、被覆率が大きくなりすぎると、電子抵抗が過度に増大する場合がある。従って、被覆率は、200%以下が好ましい。
【0037】
[C. 担持量]
「撥水性被膜の担持量(mass%)」とは、複合粒子の総質量に対する、撥水性被膜の質量の割合をいう。
【0038】
一般に、撥水性被膜の担持量が多くなるほど、撥水層の排水性能が高くなる。このような効果を得るためには、撥水性被膜の担持量は、0.125mass%以上が好ましい。担持量は、好ましくは、0.25mass%以上、さらに好ましくは、0.50mass%以上である。
一方、撥水性被膜の担持量を必要以上に多くしても、排水性能が飽和するため、実益がない。従って、撥水性被膜の担持量は、3.0mass%以下が好ましい。担持量は、好ましくは、2.8mass%以下、さらに好ましくは、2.6mass%以下である。
【0039】
[D. 厚さ]
「撥水性被膜の厚さ」とは、複合粒子をTEM観察することにより測定された値をいう。
【0040】
一般に、撥水性被膜の担持量が多くなるほど、カーボン粒子の表面に第1撥水性分子が多層吸着しやすくなる。多層吸着が過度に進行すると、撥水性被膜の厚さが過度に厚くなり、撥水層の電子抵抗が増大する場合がある。従って、撥水性被膜の厚さは、2nm以下が好ましい。厚さは、好ましくは、1.5nm以下、さらに好ましくは、1.0nm以下である。
【0041】
[1.2. 撥水性結着剤]
[1.2.1. 材料]
撥水層は、複合粒子に加えて、第2撥水性分子からなる撥水性結着剤をさらに含むものでも良い。撥水層に撥水性結着剤を添加すると、複合粒子間が撥水性結着剤で結着している撥水層が得られる。
【0042】
本発明において、第2撥水性分子の種類は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。
第2疎水性分子としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)などがある。撥水性結着剤は、これらのいずれか1種の第2疎水性分子からなるものでも良く、あるいは、2種以上の第2疎水性分子からなるものでも良い。
【0043】
これらの中でも、第2撥水性分子は、PTFEが好ましい。PTFEは、他の第2撥水性分子と比べて撥水性が高いので、これを第2撥水性分子として用いると、少量の添加で複合粒子に高い撥水性を付与することができる。
【0044】
[1.2.2. 含有量]
「撥水性結着剤の含有量(mass%)」とは、撥水層の総質量に対する、撥水性結着剤の質量の割合をいう。
【0045】
本発明に係る撥水層は、撥水性結着剤がなくても、高い排水性能を示す。しかしながら、撥水層が撥水性結着剤をさらに含む場合には、カーボン粒子間、撥水層と基材、あるいは、撥水層と触媒層との接着強度が向上する場合がある。
一方、撥水性結着剤の含有量が過剰になると、撥水層付きガス拡散層の電子抵抗が増大する場合がある。従って、撥水性結着剤の含有量は、50.0mass%以下が好ましい。含有量は、好ましくは、45.0mass%以下、さらに好ましくは、40.0mass%以下である。
【0046】
[1.3. 撥水層の特性]
[1.3.1. 平均細孔径]
「撥水層の平均細孔径」とは、水銀圧入法を用いて測定された撥水層由来の細孔のモード径をいう。
【0047】
撥水層の平均細孔径は、撥水層の排水性能に影響を与える。一般に、撥水層の平均細孔径が小さくなりすぎると、液水が撥水層を透過しにくくなり、排水性能が低下する場合がある。従って、撥水層の平均細孔径は、0.1μm以上が好ましい。
一方、撥水層の平均細孔径が大きくなりすぎると、かえって排水性能が低下する場合がある。従って、撥水層の平均細孔径は、1.0μm以下が好ましい。
【0048】
[1.3.2. 撥水層の厚さ]
本発明において、撥水層の厚さは、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な厚さを選択することができる。
一般に、撥水層の厚さが薄くなりすぎると、排水性能が低下する場合がある。従って、撥水層の厚さは、150μm以上が好ましい。厚さは、好ましくは、200μm以上、さらに好ましくは、250μm以上である。
一方、撥水層の厚さが厚くなりすぎると、撥水層のガス拡散抵抗が増大する場合がある。従って、撥水層の厚さは、450μm以下が好ましい。厚さは、好ましくは、400μm以下、さらに好ましくは、350μm以下である。
【0049】
[2. 撥水層付きガス拡散層]
本発明に係る撥水層付きガス拡散層は、以下の構成を備えている。
【0050】
[構成11]
ガス拡散層基材と、
前記ガス拡散層基材の表面に形成された、構成1から構成10までのいずれか1つに記載の撥水層と
を備えた撥水層付きガス拡散層。
【0051】
[2.1. ガス拡散層基材]
ガス拡散層基材は、導電性多孔物質からなる。ここで、「導電性多孔物質」とは、電子伝導性を有し、かつ、ガスを拡散させることが可能な大きさの気孔を有する物質をいう。
本発明において、ガス拡散層基材の材料は、導電性多孔物質である限りにおいて、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。ガス拡散層基材の材料としては、例えば、炭素繊維不織布、カーボンペーパー、カーボンクロス、多孔質の金属焼結体などがある。
【0052】
[2.2. 撥水層]
ガス拡散層基材の表面には、撥水層が形成される。撥水層は、複合粒子のみを含むものでも良く、あるいは、複合粒子と撥水性結着剤とを含むものでも良い。撥水層の詳細については、上述した通りであるので説明省略する。
【0053】
[3. 撥水層及び撥水層付きガス拡散層の製造方法]
本発明に係る撥水層は、
(a)複合粒子を調製し、
(b)必要に応じて、複合粒子に撥水性結着剤を混合して混合粉末とし、
(c)複合粒子又は混合粉末を基材表面に散布及びプレスすることにより、基材表面に前駆体層を形成し、
(d)前駆体層を焼成する
ことにより製造することができる。
また、基材として、ガス拡散層基材を用いると、上述した方法により、撥水層付きガス拡散層が得られる。
【0054】
[3.1. 第1工程]
まず、複合粒子を調製する。カーボン粒子の表面に撥水性被膜を形成する方法は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法を選択することができる。
撥水性被膜を形成する方法としては、例えば、第1撥水性分子(例えば、PTFE)からなるターゲットを用いて、カーボン粒子をプラズマPVD処理する方法などがある。
【0055】
[3.2. 第2工程]
次に、必要に応じて、複合粒子に撥水性結着剤を混合して混合粉末とする。
撥水性結着剤の配合比は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な値を選択することができる。また、複合粒子及び撥水性結着剤の混合方法は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法を選択することができる。
【0056】
[3.3. 第3工程]
次に、複合粒子又は混合粉末を基材表面に散布及びプレスし、基材表面に前駆体層を形成する。前駆体層の形成方法は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法を選択することができる。前駆体層の形成方法としては、例えば、
(a)静電スクリーン印刷法を用いて、基材表面に複合粒子又は混合粉末を降り積もらせ、室温において複合粒子又は混合粉末の層をプレスする方法、
(b)静電塗装等の乾式成膜法、
などがある。
【0057】
[3.4. 第4工程]
次に、前駆体層を焼成する。これにより、本発明に係る撥水層又は撥水層付きガス拡散層が得られる。
焼成温度は、目的に応じて、最適な温度を選択することができる。一般に、焼成温度が低すぎると、複合粒子間、又は、複合粒子-撥水性結着剤間の結着が不十分となる。従って、焼成温度は、250℃以上が好ましい。焼成温度は、好ましくは、300℃以上、さらに好ましくは、350℃以上である。
一方、焼成温度が高くなりすぎると、第1撥水性分子及び/又は第2撥水性分子が熱分解するおそれがある。従って、焼成温度は、500℃以下が好ましい。焼成温度は、好ましくは、450℃以下、さらに好ましくは、400℃以下である。
【0058】
[4. 作用]
カーボン粒子の表面に撥水性被膜を形成して複合粒子とする場合において、成膜条件を最適化すると、カーボン粒子の表面に撥水性被膜を薄く、かつ、均一に形成することができる。次いで、必要に応じて、複合粒子に撥水性結着剤を添加した後、複合粒子又は複合粒子と撥水性結着剤との混合物を基材表面に散布及びプレスして前駆体層とし、前駆体層を加熱すると、本発明に係る撥水層が得られる。このようにして得られた撥水層は、従来の撥水層に比べて、排水性能に優れている。
【0059】
これは、
(A)カーボン粒子の表面に撥水性被膜を薄く、かつ、均一に形成することによって、カーボン粒子の表面の撥水性が高くなるが、細孔(カーボン粒子間、又は、カーボン粒子を構成する1次粒子間にある空隙)は閉塞することなく残存するため、及び、
(B)閉塞せずに残存した細孔を介した液水の排出が促進されるため
と考えられる。
【実施例0060】
(実施例1~7、比較例1~3)
[1. 試料の作製]
カーボン粒子には、カーボンブラック(デンカ(株)製アセチレンブラック、商品名:Li400、平均粒子径:4μm、平均一次粒子径:48nm)(以下、「CB」と略す)を用いた。
PTFE(第1疎水性分子)をターゲットに用いて、カーボン粒子に対してプラズマコPVD処理を施し、複合粒子を得た。処理時間は、
(a)CB(17g)に対して1時間(実施例1~3)、
(b)CB(6.8g)に対して0.5時間(実施例4)、
(c)CB(6.8g)に対して1時間(実施例5)、
(d)CB(6.8g)に対して2時間(実施例6)、又は、
(e)CB(6.8g)に対して4時間(実施例7)
とした。
【0061】
次に、複合粒子と撥水性結着剤(第2撥水性分子)とを所定の比率で配合し、攪拌機にて混合した。撥水性結着剤には、平均粒径が0.2μmであるPTFE粉末を用いた。攪拌機には、大阪ケミカル(株)製、商品名:LAB MILL II、型番:OML-2を用いた。さらに、攪拌は、撥水性結着剤の有無にかかわらず、同一条件下で行った。
次に、静電スクリーン印刷法にて、混合粉末を基材の表面に降り積もらせた。基材には、カーボンペーパーを用いた。さらに、混合粉末の堆積層を室温、3MPaの条件下において1分間プレスし、前駆体層/基材の積層体を得た。さらに、積層体を電気炉にて、常圧、350℃の条件下で30分間保持し、撥水層/基材の積層体を得た。
表1に、第1撥水性分子の含有量、及び、複合粒子と第2撥水性分子の配合比(質量比)を示す。
【0062】
【表1】
【0063】
[2. 試験方法]
[2.1. 複合粒子の評価]
[2.1.1. PTFE被覆率]
CBと、CBにPTFEをプラズマPVD処理した複合粒子(PTFE-CB)について、燃焼イオンクロマトグラフィー(IC)を用いて、F原子の定量分析を行った。F原子量からPTFE(第1疎水性分子)量を算出した。さらに、CBの表面が単層のPTFEで被覆されていると仮定して、PTFE被覆率を算出した。
【0064】
[2.1.2. SEM観察及びTEM観察]
複合粒子のSEM観察及びTEM観察を行った。
【0065】
[2.1.3. 電子抵抗-第1撥水性分子の含有量の影響-]
複合粒子のみを含む撥水層を備えた撥水層付きガス拡散層(実施例1、4~7)について、2端子法を用いて、撥水層付きガス拡散層の膜厚方向の電子抵抗を測定した。
【0066】
[2.1.4. 水蒸気吸着測定]
CB及びPTFE-CBについて、水蒸気吸着測定を行った。測定には、(株)アントンパール・ジャパン製、AUTOSORB-IQを用いた。
【0067】
[2.1.5. N2吸着測定]
CB及びPTFE-CBについて、N2吸着測定を行った。
【0068】
[2.2. 撥水層の評価]
[2.2.1. 液水透過量]
撥水層が上になるように、撥水層/基材の積層体をフランジで挟み、撥水層に約250kPaの水圧をかけた。撥水層側から基材側に透過した5分間の液水透過量を質量分析法(mass spectrometry)で検出した。
【0069】
[2.2.2. 光学顕微鏡観察]
撥水層の表面を光学顕微鏡で観察した。
【0070】
[2.2.3. 平均細孔径]
水銀圧入法を用いて、基材、及び、撥水層/基材の積層体の平均細孔径を測定した。
【0071】
[2.2.4. 電子抵抗-第2撥水性分子の配合比の影響-]
第2疎水性分子の配合比の異なる撥水層を備えた撥水層付きガス拡散層(実施例1~3、比較例1~3)について、2端子法を用いて、撥水層付きガス拡散層の膜厚方向の電子抵抗を測定した。
【0072】
[3. 結果]
[3.1. 複合粒子の評価]
[3.1.1. PTFE被覆率]
表2に、PTFE(第1撥水性分子)量とPTFE被覆率との関係を示す。表2より、PTFE含有量が多くなるほど、PTFE被覆率が高くなることが分かる。また、PTFE含有量が2.8%になると、PTFE被覆率が100%を超えることが分かる。これは、PTFEの多層吸着が起こっていることを示していると考えられる。
【0073】
【表2】
【0074】
[3.1.2. SEM観察及びTEM観察]
[A. SEM観察]
図1に、実施例7で得られた攪拌後の複合粒子(PTFE量:2.8mass%)のSEM像及びF元素マップ重ね合わせ像を示す。図2に、実施例1で得られた攪拌後の複合粒子(PTFE量:0.8mass%)のSEM像及びF元素マップ重ね合わせ像を示す。さらに、図3に、比較例3で得られた攪拌後のカーボンブラックのSEM像及びF元素マップ重ね合わせ像を示す。図1図3より、いずれの複合粒子も、F元素を含むPTFEが均一に分散していることが分かる。
【0075】
[B. TEM像]
図4に、実施例7で得られた攪拌後の複合粒子(PTFE量2.8mass%)のTEM像の経時変化を示す。複合粒子をTEM観察したところ、CBの表面にある堆積物の形状が経時変化している部分(複合粒子の中央の領域)と、形状が経時変化していない部分(複合粒子の右上の領域)とが認められた。
堆積物の形状が経時変化している部分は、電子線照射により、PTFE以外の汚染物質の揮発及び堆積が生じている部分と考えられる。一方、形状が経時変化していない部分は、PTFEが堆積している部分と考えられる。形状が経時変化していない部分から測定されたPTFE被膜の厚さは、2.0nmと見積もられた。
【0076】
[3.1.3. 電子抵抗-第1撥水性分子の含有量の影響-]
図5に、複合粒子に含まれるPTFE(第1撥水性分子)量と、撥水層付きガス拡散層の電子抵抗との関係を示す。図5より、PTFE(第1撥水性分子)量が多くなるほど、撥水層付きガス拡散層の電子抵抗が高くなるが、PTFE被覆率が100%を超えても(実施例7)、電子抵抗が過度に高くなることはないことが分かる。
【0077】
[3.1.4. 水蒸気吸着測定]
図6に、カーボンブラック(CB)及びカーボンブラックにPTFEをプラズマPVD処理した複合粒子(PTFE-CB)(実施例1、PTFE量:0.8mass%)の水蒸気吸着等温線を示す。PTFE-CBは、未処理のCBに比べて水蒸気吸着量が減少した。図6より、PTFE-CBは撥水化されたと判断できる。
【0078】
[3.1.5. N2吸着測定]
図7に、複合粒子のBET比表面積と細孔容積に及ぼすPTFE(第1撥水性分子)量の影響を示す。複合粒子(PTFE-CB)のBET比表面積及び細孔容積は、PTFE(第1撥水性分子)量が増えるにつれて減少する傾向があるものの、劇的な減少ではなかった。図7は、プラズマPVD処理により、CBの細孔閉塞が生じないことを示している。
【0079】
[3.2. 撥水層の評価]
[3.2.1. 液水透過量]
図8に、実施例1~3及び比較例1~3で得られた撥水層の液水透過量を示す。図8より、撥水性結着剤の配合比が同一である撥水層同士(実施例1vs比較例1、実施例2vs比較例2、実施例3vs比較例3)を比較すると、PTFE-CBを含む撥水層は、未処理のCBを含む撥水層に比べて、液水透過量が多いことが分かる。この結果から、PTFE被膜による撥水効果が液水透過量(排水性)の向上に効果的であることが分かった。また、液水透過量を増加させるためには、撥水性結着剤の配合比よりもプラズマPVD処理を施した複合粒子を用いているか否かの方が重要であることがわかった。
【0080】
[3.2.2. 光学顕微鏡観察]
図9に、実施例1~3及び比較例1~3で得られた撥水層の光学顕微鏡写真を示す。図9より、実施例1~3及び比較例1~3のいずれもひび割れ等がないことが確認された。この結果は、液水透過量の差がひび割れの有無等によるものではないことを示している。
【0081】
[3.2.3. 平均細孔径]
図10に、基材の細孔径分布を示す。図10中、「CP」は未処理のカーボンペーパーを表し、「PTFE/CP」は、5mass%のPTFEで撥水処理されたカーボンペーパーを表す。
図11に、実施例1~3及び比較例1~3で得られた撥水層/基材の細孔径分布を示す。図12に、実施例1~3の細孔径分布であって、図11に示す細孔径分布の細孔径0.1μm近傍の拡大図を示す。図13に、比較例1~3の細孔径分布であって、図11に示す細孔径分布の細孔径0.1μm近傍の拡大図を示す。
【0082】
図10図13に示すように、実施例1~3及び比較例1~3には、いずれも細孔径0.1μm近傍にピークが認められた。0.1μm近傍のピークは、図10には認められないため、基材由来のピークではなく、撥水層由来のピークであることが分かる。さらに、実施例1~3のモード径が比較例1~3のそれとほぼ同等であることから、撥水性被膜の形成によってCBの細孔が閉塞されないことが分かった。
【0083】
[3.2.4. 電子抵抗-第2撥水性分子の配合比の影響-]
図14に、撥水層に含まれるPTFE(第2撥水性分子)量と、撥水層付きガス拡散層の電子抵抗との関係を示す。図14より、PTFE(第2撥水性分子)の含有量が多くなるほど、電子抵抗が高くなる傾向があること、及び、PTFE(第2撥水性分子)を40mass%添加した場合であっても電子抵抗の増加は比較的少ないことが分かる。
また、実施例1~3の撥水層は、比較例1~3の撥水層に比べて、電子抵抗が高いことが分かる。但し、電子抵抗の増加は僅かであるため、PTFE(第1撥水性分子)による撥水層の性能への影響は小さいと考えられる。
【0084】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明に係る撥水層は、燃料電池に用いられるガス拡散層基材の表面に形成される撥水層として用いることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14