(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077732
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】耐摩耗性絶縁組成物及び電線
(51)【国際特許分類】
C08L 27/18 20060101AFI20240603BHJP
C08K 7/00 20060101ALI20240603BHJP
C08K 5/02 20060101ALI20240603BHJP
H01B 3/24 20060101ALI20240603BHJP
H01B 7/02 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
C08L27/18
C08K7/00
C08K5/02
H01B3/24 A
H01B7/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189854
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000129529
【氏名又は名称】株式会社クラベ
(72)【発明者】
【氏名】山本 悟
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 光治
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 恵梨佳
【テーマコード(参考)】
4J002
5G305
5G309
【Fターム(参考)】
4J002BD151
4J002BD152
4J002BD153
4J002FD203
4J002GQ00
5G305AA02
5G305AB15
5G305AB24
5G305BA13
5G305CA38
5G305CA51
5G305CA54
5G305CC02
5G305CD01
5G305CD05
5G305CD13
5G305CD15
5G305DA23
5G309RA09
(57)【要約】
【課題】組成物の混合不良の課題を解決するとともに、ISO6722に準拠したスクレープ摩耗試験に合格するような非常に高度な耐摩耗性を有する組成物を提供すること。
【解決手段】エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体100重量部に対し、ポリテトラフルオロエチレンマイクロパウダー0.8重量部以上5重量部以下、テトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体2重量部以上4重量部以下を混合されることを特徴とする組成物。上記ポリテトラフルオロエチレンマイクロパウダーと上記テトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体が3:2~0.8:2の範囲で混合されるものであることを特徴とする請求項1記載の組成物。導体線の外周に、請求項1又は2記載の組成物からなる被覆が形成されていることを特徴とする電線。導体線の外周に、請求項1又は2記載の組成物からなる被覆が形成されており、上記組成物が架橋されていることを特徴とする電線。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体100重量部に対し、
ポリテトラフルオロエチレンマイクロパウダー0.8重量部以上5重量部以下、テトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体2重量部以上4重量部以下を混合されることを特徴とする組成物。
【請求項2】
上記ポリテトラフルオロエチレンマイクロパウダーと上記テトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体が3:2~0.8:2の範囲で混合されるものであることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項3】
導体線の外周に、請求項1又は2記載の組成物からなる被覆が形成されていることを特徴とする電線。
【請求項4】
導体線の外周に、請求項1又は2記載の組成物からなる被覆が形成されており、上記組成物が架橋されていることを特徴とする電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に絶縁材料やシース材料として好適な耐摩耗性絶縁組成物とそれを被覆した電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フッ素系重合体の中でエチレン-テトラフルオロエチレン共重合体は、極めて優れた機械的強度を有しているとともに、架橋することにより機械的強度面での耐熱性が向上することが知られている。また、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体にポリテトラフルオロエチレンマイクロパウダーを混合することで、優れた機械的強度と耐熱性を兼ね備えた組成物を提供できることが開示されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
組成物を混合する際、予めテトラフルオロエチレンマイロパウダーをフッ化ビニリデン系フッ素ゴムに混合させておき、その後エチレン-テトラフルオロエチレンにポリテトラフルオロエチレンマイクロパウダーとフッ化ビニリデン系フッ素ゴムに混合させることで混合作業を容易にすることも知られている(特許文献2,3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-67904:クラベ
【特許文献2】特開平11-105097:クラベ
【特許文献3】特許第3897373号:クラベ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1,2に記載された組成物は混合不良の課題を有し、生産が困難である。また、特許文献2,3に記載の組成物では、押出成形時及び架橋時に意図せぬ着色が生じてしまい、生産が困難あるいは着色の選択に制限が課せられていた。
【0006】
昨今の市場からは、振動の多いエンジンルーム内等といった環境下での長期使用が可能な耐久性を証明するために、摩耗試験合格性能も要求されてきている。上記特許文献1,2に記載された組成物は混合不良の課題を有し、生産が困難であり、上記特許文献2,3では意図せぬ着色があることから、生産が困難あるいは着色の選択に制限が科せられるため、顧客からの要求に応えることが困難であった。また、上記特許文献1~3に記載された組成物は細径電線への薄肉被覆といった使用が行われず、細径電線への薄肉被覆をした際の耐摩耗性について、十分な検討が成されていなかった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の欠点を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、組成物の混合不良の課題を解決するとともに、ISO6722に準拠したスクレープ摩耗試験に合格するような非常に高度な耐摩耗性を有し、かつ薄肉被覆が可能な組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するべく、本発明による組成物は、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体100重量部に対し、ポリテトラフルオロエチレンマイクロパウダー0.8重量部以上5重量部以下、テトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体2重量部以上4重量部以下を混合されたことを特徴とするものである。
また、上記ポリテトラフルオロエチレンマイクロパウダーと上記テトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体が3:2~0.8:2の範囲で混合されたものであることが考えられる。
また、本発明による電線は、導体線の外周に、上記の組成物からなる被覆が形成されていることを特徴とすることが考えられる。
また、上記被覆は架橋されていることが考えられる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、組成物の混合不良の課題を解決するとともに、ISO6722に準拠したスクレープ摩耗試験に合格するような非常に高度な耐摩耗性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体としては、様々な重合比率の二元共重合体や、他のフッ素含有モノマーと共重合した多元共重合体などが公知であり、それらのいずれを使用しても良い。
【0011】
ポリテトラフルオロエチレンマイクロパウダーは、主の目的として、得られる組成物の耐熱性と耐摩耗性を向上させるために用いられるものであり、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体100重量部に対して、0.8重量部以上5重量部以下混合される。混合量が0.8重量部未満では耐摩耗性の効果が発現せず、また、5重量部を超えると外観性が低下してしまう。
【0012】
ポリテトラフルオロエチレンマイクロパウダーは、好ましくは、平均粒子径が4μm以上8μm以下の粒子を使用する。平均粒子径が4μm以上8μm以下であるものは混合作業が容易であるとともに、得られる組成物の耐摩耗性が著しく向上するため、特に好ましい。
【0013】
テトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体は、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体とポリテトラフルオロエチレンマイクロパウダーの混合を助ける作用を呈するものである。その混合量としては、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体100重量部に対して、2重量部以上4重量部以下程度とすることが好ましい。混合量が2重量部未満ではテトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体とポリテトラフルオロエチレンマイクロパウダーの混合不良の課題が生じてしまい、また、4重量部を超えると耐摩耗性が低下してしまう。
【0014】
ポリテトラフルオロエチレンマイクロパウダーと上記テトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体が3:2~0.8:2の範囲で混合されることで、一般的に耐摩耗性が落ちる被覆の薄肉部分でも高い耐摩耗性を維持するため、特に好ましい。
【0015】
本発明の組成物には、難燃性、耐摩耗性等の特性を損なわない範囲内で一般的に使用される各種の添加剤、例えば、架橋助剤、滑剤、受酸剤、シリカ粉末等を適宜添加することができる。これら各種の添加剤は、単独で用いても複数を混合して用いても構わない
【0016】
架橋助剤として、エチレングリコールジメタクリレート、1,3-ブチレンジメタクリレート、メタクリル酸亜鉛、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなどを添加しても良い。特にトリアリルイソシアヌレートが架橋効率や耐熱性向上の点から好ましい。架橋助剤はエチレン-テトラフルオロエチレン共重合体100重量部に対して、0.1重量部以上4重量部以下を混合されることで、架橋効率を高めることが可能となる。混合量が0.1重量部未満では架橋助剤の効果が発現せず、また、4重量部を超えると加工時に発泡を生じやすくなってしまう。
【0017】
滑剤としては、例えば、パラフィン、炭化水素樹脂、脂肪酸、脂肪酸金属塩(金属石鹸)、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、高級アルコール等が挙げられる。特に脂肪酸エステルであるソルビタントリステアレートが作業性を向上の点から好ましい。滑剤はエチレン-テトラフルオロエチレン共重合体100重量部に対して、0.02重量部以上0.04重量部以下を混合されることで、押出成形時の作業性を向上させる効果を奏する。
【0018】
上記の各構成材料を適宜に混合されたものを、インターナルミキサー、一軸混練機、二軸混練機等の公知の混練機を使用して充分に混練りすることによって本発明の組成物を得ることができる。
【0019】
本発明の組成物は架橋を行うことにより、耐オイル性を向上させることができる。架橋の方法については特に規定はしないが、有機過酸化物を用いた化学架橋法や放射線エネルギーを用いた電子線架橋法を利用することができる。架橋方法としては電子線架橋が好ましい。電子線架橋を利用する場合、電子線の照射量は4~20Mradが好ましい。4Mrad未満の照射量では十分な架橋度が得られず、20Mrad以上では破断時の伸びが低下し、機械的強度が落ちてしまう傾向がある。
【0020】
このようにして得られた本発明の組成物を公知の方法によって導体線の外周上に押出成形して被覆を形成することにより、本発明の他の態様による電線を得ることができる。組成物を公知の方法によって導体線の外周上に押出成形して被覆を形成した後、組成物の耐オイル性を向上させるため適宜に組成物へ架橋を施すこともできる。また、被覆は単層であっても複数層としてもよい。
【実施例0021】
以下、本発明の実施例を比較例と併せて説明する。表1~2に示した割合で混合し、得られた組成物を汎用の電線用押出機を使用して、導体径0.35sqのニッケルメッキ軟銅撚り線に0.2mmの厚さで被覆した。更にこの被覆に4Mradの照射量で電子線照射し、架橋を行った。
【0022】
このようにして得られた電線を試料として下記の評価方法により評価した。その結果を表1~2に併せて示す。尚、表1~2中の各成分量は重量部単位である。
【0023】
評価方法は以下の通りである。
耐摩耗性:
ISO6722に準拠してスクレープ摩耗試験を行った。実施例1で得た電線に対し、直径0.45mmの金属ワイヤを7Nの圧力で擦り付け、往復運動を行った。導体が露出するまでの回数が150回以上のものを合格とした。
【0024】
【0025】
【0026】
表1に示すように、本発明による組成物は、非常に高度な耐摩耗性を備えたものであることが確認された。一方、ポリテトラフルオロエチレンマイクロパウダー及びテトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体の混合量が0である比較例1はスクレープ摩耗最小値が合格の値に満たないものとなり、ポリテトラフルオロエチレンマイクロパウダー及びテトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体の混合量が本発明の範囲以下である比較例2もスクレープ摩耗最小値が合格の値に満たないものであった。テトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体の混合量が本発明の範囲を超える比較例3もスクレープ摩耗最小値が合格の値に満たず、ポリテトラフルオロエチレンマイクロパウダーが本発明の範囲以下である比較例4,5及び6もスクレープ摩耗最小値が合格の値に満たないものであった。
【0027】
尚、ポリテトラフルオロエチレンマイクロパウダーとテトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体が3:2~0.8:2の範囲で混合されることで、一般的に耐摩耗性が落ちる被覆の薄肉部分でも高い耐摩耗性を維持できることが確認できた。
以上説明したとおり、本発明による組成物は、混合不良の課題を解決するとともにISO6722準拠の耐摩耗性試験に合格するような非常に高度な耐摩耗性を有するものである。従って、例えば、電線,ケーブルの絶縁材料やシース材料をはじめとした、種々の絶縁体として好適に使用することができる。