(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077747
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】ガス警報器及びガス検知方法
(51)【国際特許分類】
G08B 21/16 20060101AFI20240603BHJP
G01N 27/12 20060101ALI20240603BHJP
G01N 27/16 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
G08B21/16
G01N27/12 C
G01N27/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189879
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】501418498
【氏名又は名称】矢崎エナジーシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145908
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136711
【弁理士】
【氏名又は名称】益頭 正一
(72)【発明者】
【氏名】小澤 尚史
(72)【発明者】
【氏名】柴田 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】宮城 敦子
【テーマコード(参考)】
2G046
2G060
5C086
【Fターム(参考)】
2G046AA02
2G046BA03
2G046BJ02
2G046DA05
2G046DC02
2G046DD03
2G060AA01
2G060AE19
2G060AF07
2G060BA03
2G060BB02
2G060HC02
2G060HC15
2G060HD02
2G060HD03
2G060KA01
5C086AA02
5C086AA38
5C086CB01
5C086DA08
5C086DA19
5C086FA06
5C086FA11
(57)【要約】
【課題】温度に起因したガス検知精度の低下を抑制することができるガス警報器、及びガス検知方法を提供する。
【解決手段】ガス警報器1は、触媒に付着した被検対象ガスの燃焼により発生した燃焼熱によって出力が変化するガスセンサ10と、ガスセンサ10の出力に基づいて被検対象ガスの濃度が閾値以上であるかを判断する判断部22と、判断部22により被検対象ガスの濃度が閾値以上であると判断されたときに警報を発するスピーカ30及び表示部40と、周囲の温度を検出する温度検出部24と、周囲に被検対象ガスが存在する環境での、周囲の温度に応じたガスセンサ10の出力の変化に基づく補正内容を記憶した記憶部25と、温度検出部24により検出された周囲の温度と記憶部25により記憶された補正内容とに基づいて、被検対象ガスの濃度又は閾値を補正する補正部26とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒に付着した被検対象ガスの燃焼により発生した燃焼熱によって出力が変化するガスセンサと、
前記ガスセンサの出力に基づいて被検対象ガスの濃度が閾値以上であるかを判断する判断手段と、
前記判断手段により前記被検対象ガスの濃度が前記閾値以上であると判断されたときに警報を発する警報手段と、を備えたガス警報器であって、
周囲の温度を検出する温度検出手段と、
周囲に被検対象ガスが存在する環境での、周囲の温度に応じた前記ガスセンサの出力の変化に基づく補正内容を記憶した記憶手段と、
前記温度検出手段により検出された周囲の温度と前記記憶手段により記憶された前記補正内容とに基づいて、前記被検対象ガスの濃度又は前記閾値を補正する補正手段と、
を備えることを特徴とするガス警報器。
【請求項2】
前記記憶手段は、前記温度検出手段により検出された周囲の温度が基準温度より高くなるほど、前記被検対象ガスの濃度が高くなる方向に補正し、又は前記閾値が低くなる方向に補正する前記補正内容を記憶している
ことを特徴とする請求項1に記載のガス警報器。
【請求項3】
前記ガスセンサに対して所定のパルス幅の駆動電圧を印加する電圧印加手段をさらに備え、
前記記憶手段は、予め求められたエアベース比に基づくと共に、周囲の温度に応じた前記ガスセンサのエアベース値の変化に基づく第2補正内容を記憶し、
前記エアベース比は、前記所定のパルス幅よりも長い仮想パルス幅の駆動電圧の印加により前記ガスセンサが駆動される仮想条件での前記仮想パルス幅の終端における仮想エアベース出力に対する前記所定のパルス幅の終端におけるエアベース出力の比率であって、
前記補正手段は、前記温度検出手段により検出された周囲の温度と前記記憶手段により記憶された前記第2補正内容とに基づいて、前記被検対象ガスの濃度又は前記閾値を補正する
ことを特徴とする請求項1に記載のガス警報器。
【請求項4】
触媒に付着した被検対象ガスの燃焼により発生した燃焼熱によって出力が変化するガスセンサからの出力に基づいて、被検対象ガスの濃度が閾値以上であるかを判断するガス検知方法であって、
周囲の温度を検出する温度検出工程と、
前記温度検出工程において検出された周囲の温度と、周囲に被検対象ガスが存在する環境での、周囲の温度に応じた前記ガスセンサの出力の変化に基づく予め記憶された補正内容とに基づいて、前記被検対象ガスの濃度又は前記閾値を補正する補正工程と、
を備えることを特徴とするガス検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス警報器及びガス検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、接触燃焼式又は吸着燃焼式のガスセンサを備えたガス警報器が提案されている(例えば特許文献1参照)。このガス警報器に係るガスセンサは、被検対象ガスを触媒に接触又は吸着させたうえで被検対象ガスを燃焼させることにより被検対象ガスの濃度に応じた出力を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、本件発明者らは、特許文献1に記載のようなガス警報器に搭載されるガスセンサに関し、温度に応じて感度が変化することを見出した。
【0005】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、温度に起因したガス検知精度の低下を抑制することができるガス警報器、及びガス検知方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のガス警報器は、触媒に付着した被検対象ガスの燃焼により発生した燃焼熱によって出力が変化するガスセンサと、前記ガスセンサの出力に基づいて被検対象ガスの濃度が閾値以上であるかを判断する判断手段と、前記判断手段により前記被検対象ガスの濃度が閾値以上であると判断されたときに警報を発する警報手段と、を備えたガス警報器であって、周囲の温度を検出する温度検出手段と、周囲の温度に応じた前記ガスセンサの出力の変化に基づく補正内容を記憶した記憶手段と、前記温度検出手段により検出された周囲の温度と前記記憶手段により記憶された前記補正内容とに基づいて、前記被検対象ガスの濃度又は前記閾値を補正する補正手段と、を備える。
【0007】
また、本発明のガス検知方法は、触媒に付着した被検対象ガスの燃焼により発生した燃焼熱によって出力が変化するガスセンサからの出力に基づいて、被検対象ガスの濃度が閾値以上であるかを判断するガス検知方法であって、周囲の温度を検出する温度検出工程と、前記温度検出工程において検出された周囲の温度と、周囲の温度に応じた前記ガスセンサの出力の変化に基づく予め記憶された前記補正内容とに基づいて、前記被検対象ガスの濃度力又は前記閾値を補正する補正工程と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、温度に起因したガス検知精度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係るガス警報器のブロック図である。
【
図2】
図1に示したガスセンサ及び電圧印加部の詳細を示す構成図である。
【
図4】
図1及び
図2に示した電圧印加部により印加される駆動電圧を示す図である。
【
図5】ガスセンサを3000ppmの被検対象ガスに曝したときの出力変化を示すグラフである。
【
図6】記憶部に記憶される第1補正内容の一例を示す概念図である。
【
図7】
図6に示した補正後の感度状態を示すグラフである。
【
図8】応答波形の相違を示す図であって、(a)はケース1を示し、(b)はケース2を示し、(c)はケース3を示し、(d)は応答波形を示している。
【
図9】パルス幅を50msecと100msecとに設定した場合の応答波形を示す図であって、(a)はパルス幅が50msecである場合を示し、(b)はパルス幅が100msecである場合を示している。
【
図10】本実施形態に係るガス警報器のエアベース変動量を示すグラフである。
【
図11】第2補正内容に基づく補正を実行しない状態の50msecの時点における個体毎のエアベース変動量を示すグラフである。
【
図12】第2補正内容に基づく補正を実行した状態の50msecの時点における個体毎のエアベース変動量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を好適な実施形態に沿って説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す実施形態においては、一部構成の図示や説明を省略している箇所があるが、省略された技術の詳細については、以下に説明する内容と矛盾点が発生しない範囲内において、適宜公知又は周知の技術が適用される。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係るガス警報器のブロック図である。
図1に示すように、ガス警報器1は、ガスセンサ10、CPU20、スピーカ(警報手段)30、表示部(警報手段)40、スイッチ50、及び電源Eを備えるものであり、これらが樹脂ケース(不図示)に収納されて構成されている。
【0012】
ガスセンサ10は、周囲に被検対象ガスが存在する場合にその濃度に応じた信号を出力するものである。本実施形態においてガスセンサ10は、接触燃焼式又は吸着燃焼式のセンサで構成されている。接触燃焼式又は吸着燃焼式のガスセンサ10は、触媒に付着した被検対象ガスの燃焼により発生した燃焼熱によって出力が変化する構成となっている。
【0013】
また、CPU20は、ガス警報器1の全体を制御するものであって、電圧印加部(電圧印加手段)21を備えている。電圧印加部21は、ガスセンサ10に対して所定パルス幅の駆動電圧を印加するものである。
【0014】
図2は、
図1に示したガスセンサ10及び電圧印加部21の詳細を示す構成図であり、
図3は、
図2の一部構成図である。
図2に示すように、ガスセンサ10は、検出素子11、参照素子12、及び固定抵抗R1,R2を有するブリッジ回路によって構成されている。ガスセンサ10は、電源Eの正極に接続される接続点Aと、電源Eの負極に接続される接続点Bとを有している。検出素子11は、一端が接続点Aに接続され、他端が接続点Cに接続されている。参照素子12は、一端が接続点Cに接続され、他端が接続点Bに接続されている。第1固定抵抗R1は、一端が接続点Aに接続され、他端が接続点Dに接続されている。第2固定抵抗R2は、一端が接続点Dに接続され、他端が接続点Bに接続されている。
【0015】
図3に示すように、検出素子11は、マイクロチップ上にパターニングされたヒーター11aを備える。参照素子12も、マイクロチップ上にパターニングされたヒーター12aを備える。ヒーター11a,12aは、ダイアフラムタイプ、エアブリッジタイプ、カンチレバータイプ等のものを例示できる。本実施形態に係るヒーター11a,12aは、エアブリッジタイプのマイクロヒーターである。また、ヒーター11a,12aの材料としては白金(Pt)等を例示できる。
【0016】
検出素子11は、ヒーター11aを覆う検知部11bを備える。この検知部11bは、酸化反応に触媒活性を持つ物質で構成されている。検知部11bは、触媒と、触媒を担持する触媒担体とを備える。検知部11bの触媒の材料としては、白金、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)等の白金族系や、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)等のその他の金属を例示できる。また、検知部11bの触媒担体の材料としては、アルミナ(Al2O3)、酸化チタン(TiO2)、酸化セリウム(CeO2)、酸化スズ(SnO2)等を例示できる。
【0017】
参照素子12は、ヒーター12aを覆う参照部12bを備える。この参照部12bは、酸化反応に触媒活性を持たない物質で構成されている。参照部12bは、検知部11bの触媒担体と同様の材料で構成されている。
【0018】
このようなガスセンサ10は、
図2に示す電圧印加部21によって所定パルス幅の駆動電圧が印加される。
図4は、
図1及び
図2に示した電圧印加部21により印加される駆動電圧を示す図である。まず、
図2に示すように、ガス警報器1は、例えば電源Eと接続点Aとの間にMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)等のスイッチング素子SWを備えている。電圧印加部21は、スイッチング素子SWをオンオフ制御することで、ガスセンサ10に所定パルス幅の駆動電圧を印加する。具体的には電圧印加部21は、
図4に示すように、30秒周期で50msecだけスイッチング素子SWをオンすることで、50msecパルス幅の駆動電圧をガスセンサ10に印加する。ガスセンサ10は、駆動電圧の印加によって数百度に加熱される。
【0019】
ガスセンサ10は、数百度に加熱された状態で
図3に示す検知部11bに検知対象の可燃性のガス分子Gが接触(又は吸着)すると、検知部11b上で接触燃焼反応(又は吸着燃焼反応)が起こる。検出素子11は、この反応熱によりヒーター11aの温度が上昇して抵抗値が増大する。一方、参照素子12の参照部12bに可燃性のガス分子Gが接触(又は吸着)しても接触燃焼反応(又は吸着燃焼反応)は起きない。よって、周囲に被検対象ガスが存在しない状態では
図2に示す接続点C,Dの電位差Voutが特定値となっているが、周囲に被検対象ガスが存在する場合にはブリッジ回路のバランスが崩れ、接続点C,Dの電位差Voutが被検対象ガスの濃度を示す信号としてCPU20に出力される。
【0020】
再度
図1を参照する。CPU20は、判断部(判断手段)22、及び、警報制御部23を備えている。判断部22は、ガスセンサ10からの出力に基づいて被検対象ガスの濃度が閾値以上であるかを判断するものである。警報制御部23は、判断部22により被検対象ガスの濃度が閾値以上であると判断されたときに警報を出力させるものである。警報は、警報音声を出力可能なスピーカ30及びLED(Light Emitting Diode)等の発光によって警報表示可能な表示部40から出力される。
【0021】
スイッチ50は、ユーザ操作可能な操作部であって、例えば押下操作可能な押しスイッチによって構成されている。ユーザは、スピーカ30及び表示部40から警報出力されているときにスイッチ50を操作することで、警報を止めることができる。
【0022】
さらに、本実施形態に係るガス警報器1は、ガス検知精度の低下を抑制すべく補正機能を備えている。ここで、本件発明者らは、被検対象ガスが周囲に存在する場合のセンサ出力(被検対象ガスに対する感度)が温度環境に応じて変化することを見出した。さらに、本件発明者らは、被検対象ガスの濃度を求めるための基準となるエアベース値についても温度環境(さらには後述のケース)に応じて変化することを見出した。そこで、本実施形態に係るガス警報器1は、第1の補正(前者変化に対する補正)と、第2の補正(後者変化に対する補正)とを行う。ガス警報器1は、第1の補正及び第2の補正を行うために、温度センサ60を備えると共に、CPU20内に温度検出部(温度検出手段)24と、記憶部(記憶手段)25と、補正部(補正手段)26とを備えている。
【0023】
温度センサ60は、自身の周囲の温度を検出するものであって、例えばサーミスタによって構成されている。この温度センサ60は、周囲の温度に応じた信号をCPU20に送信する。温度検出部24は、温度センサ60からの信号に基づいて周囲の温度を検出する。
【0024】
ここで、温度センサ60はガスセンサ10に近接配置されていてもよいし、ガスセンサ10から離れた箇所に配置されていてもよい。温度センサ60がガスセンサ10に近接配置されている場合、ガスセンサ10が置かれている温度環境を正確に測定し易く、補正を精度よく行うことに貢献することができるためである。なお、温度センサ60がガスセンサ10に近接配置されている場合、ガスセンサ10の加熱時(所定パルス幅の駆動電圧印加時)における温度上昇が温度センサ60に検知されることが懸念される。しかし、前述したように所定パルス幅が例えば50msec程度の規定時間以下である場合には、ガスセンサ10の熱が温度センサ60に伝達される前に駆動電圧がオフされるため、温度センサ60をガスセンサ10に近接配置させても問題ない。
【0025】
なお、温度センサ60はガスセンサ10に近接配置される場合に限らず、ガス警報器1内において最もガスセンサ10から遠い箇所に設けられる等、離間配置されていてもよい。加えて、ガスセンサ10が加熱されることから、温度センサ60はガスセンサ10の鉛直上方を避けた位置に設けられていてもよい。さらに、温度センサ60は、ガス警報器1の樹脂ケースに形成されたガス導入孔(図示せず)とガスセンサ10との間に設けられてもよい。ガス導入孔はガスセンサ10まで外部の気体を導くように形成されている。よって、両者の間に温度センサ60を設けることで、ガスセンサ10の下流側に温度センサ60を配置することなく、ガスセンサ10の熱が温度センサ60に至り難くできるからである。加えて温度センサ60とガスセンサ10との間には熱遮断のために隔壁が設けられていてもよい。
【0026】
記憶部25は、ガス警報器1を制御するためのプログラム等を記憶したものであって、本実施形態においては周囲の温度に応じたガスセンサ10の出力の変化に基づく第1補正内容(補正内容)を記憶している。この第1補正内容は、上記した第1の補正を行うための補正データである。補正部26は、この第1補正内容に基づいて補正を行う。これにより、判断部22は、補正された状態で被検対象ガスの濃度が閾値以上であるかを判断することとなり、より精度が高いガス検知を行うことができる。以下、詳細に説明する。
【0027】
図5は、ガスセンサ10を3000ppmの被検対象ガスに曝したときの出力変化を示すグラフである。
図5においては、周囲の温度が20℃である場合にガスセンサ10を3000ppmの被検対象ガスに曝したときのセンサ出力を基準(すなわち0mV)とし、基準に対する差を図示したものである。
図5に示すように、3000ppmの被検対象ガスにガスセンサ10を曝した場合、基準温度(例えば20℃)よりも高くなるほど、センサ出力が低下する傾向にある。このため、例えば周囲の温度が50℃である場合、3000ppmで警報を行うところ、被検対象ガスの濃度が3600ppmまで達しないと警報できなくなってしまう。
【0028】
さらに、
図5に示すように、3000ppmの被検対象ガスにガスセンサ10を曝した場合、第2基準温度(例えば0℃)よりも低くなるほど、センサ出力が低下する傾向もある。
【0029】
図6は、記憶部25に記憶される第1補正内容の一例を示す概念図である。記憶部25は、
図5に示したようなセンサ出力を補正するための補正テーブル(補正内容の一例)を記憶している。
図6に示すように、補正テーブルは、1次の補正式の係数a及び定数項bを温度域(
図6においては8つの温度域)に応じて示したものである。補正テーブルの係数a及び定数項bは、周囲の温度が基準温度よりも高くなるほど、被検対象ガスの濃度が高くなる方向に補正する値となっている。同様に、係数a及び定数項bは、周囲の温度が第2基準温度よりも低くなるほど、被検対象ガスの濃度が高くなる方向に補正する値となっている。
【0030】
このように記憶部25は第1補正内容を記憶している。よって、補正部26は、温度検出部24により検出された周囲の温度と、記憶部25に記憶された第1補正内容とに基づいて、被検対象ガスの濃度を補正することとなる。これにより、本来的には警報すべき濃度であるにもかかわらず、警報が行われなくなってしまう事態の抑制を図ることとなる。
【0031】
図7は、
図6に示した補正後の感度状態を示すグラフである。
図7に示すように、補正部26による補正が行われた場合、基準温度(例えば20℃)以下の温度域と基準温度より高い温度域との双方において感度が略フラットとなっている。同様に、補正部26による補正が行われた場合、第2基準温度(例えば0℃)以上の温度域と第2基準温度より低い温度域との双方において感度が略フラットとなっている。よって、基準温度を超える場合のセンサ感度の低下、及び、第2基準温度を下回る場合のセンサ感度の低下に応じた補正が行われ、温度に起因したガス検知精度の低下が抑制されている。
【0032】
なお、補正部26は、
図5に示した感度低下に対応して、センサ出力を高める方向に補正してもよいし、エアベース値を低める方向に補正してもよい。いずれの補正を行っても被検対象ガスの濃度が高まる方向に補正されるためである。さらに、補正部26は、被検対象ガスの濃度を補正することなく、被検対象ガスの濃度が閾値以上であるかを判断する際に用いる閾値を低める方向に補正してもよい。
【0033】
さらに、記憶部25は、予め決定されたエアベース比(ケース)に基づくと共に、周囲の温度に応じたガスセンサ10のエアベース値の変化に基づく第2補正内容を記憶している。この第2補正内容は、上記した第2の補正を行うための補正データである。補正部26は、この第2補正内容に基づいて補正を行う。この補正によっても、判断部22は、補正された状態で被検対象ガスの濃度が閾値以上であるかを判断することとなり、より精度が高いガス検知を行うことができる。以下、詳細に説明する。
【0034】
まず、エアベース比(ケース)について説明する。
図8は、応答波形の相違を示す図であって、(a)はケース1を示し、(b)はケース2を示し、(c)はケース3を示し、(d)は応答波形を示している。
【0035】
まず、ケース1は、
図8(a)に示すように、検知部11bよりも参照部12bの膜厚が大きい場合である。ケース2は、
図8(b)に示すように、検知部11bと参照部12bとの膜厚が略等しい場合である。ケース3は、
図8(c)に示すように、検知部11bの膜厚が参照部12bよりも大きい場合である。
【0036】
図8(d)に示すように、本実施形態において電圧印加部21は、ガスセンサ10に対して50msecのパルス幅の駆動電圧を印加する。このときにガスセンサ10から得られる応答波形は、
図8(d)に示すようにケース1,2,3で異なるものとなる。
【0037】
具体的には、ケース1の場合に最大のピーク出力が出現し、ケース2の場合には、ケース1の場合に比してピーク出力が低くなる。さらに、ケース1,2の場合には、パルスがオンになってから10~30msecの間にピーク出力を示すのに対し、ケース3の場合には、パルスがオンになってから50msecの時点でピーク出力を示す。このケース3の場合におけるピーク出力は、ケース1,2の場合におけるピーク出力に比して低い。
【0038】
ここで、パルスがオンになってから50msecの時点(以下、50msecの時点という。実際のパルス幅の終端)におけるケース1~3の場合におけるセンサ出力にもバラツキが生じる。具体的には、50msecの時点でのセンサ出力は、ケース1が最も高く、ケース2が次に高く、ケース3が最も低くなる。即ち、50msecの時点では、ケース1、ケース2、ケース3のセンサ出力は収束しない。
【0039】
図9は、パルス幅を50msecと100msecとに設定した場合の応答波形を示す図であって、(a)はパルス幅が50msecである場合を示し、(b)はパルス幅が100msecである場合を示している。
【0040】
図9(b)に示すように、100msecの時点では、ケース1~3のセンサ出力が収束する。このように、ケース1~3のセンサ出力が収束する点を飽和点と称する。
図9については飽和点が縦軸の応答率100%となるように図示している。ここで、飽和点(100%)に対する50msecの時点におけるセンサ出力の比率がエアベース比である。
【0041】
図10は、本実施形態に係るガス警報器1のエアベース変動量を示すグラフである。
図10に示す縦軸の「エアベース変動量/mV」は、ガスセンサ10の周囲の温度が20℃の場合におけるケース1~3のエアベース出力を基準(すなわち0mV)とし、基準に対する差を図示したものである。
【0042】
ここで、本件発明者らは、エアベース変動量が、
図8に示したケース(すなわち、
図9に示したエアベース比)によって変化するほか、周囲の温度によっても変化することを見出した。
【0043】
図10に示すように、ケース1については、周囲の温度が20℃より高くなるほどエアベース変動量が正方向に増加する傾向があり、周囲の温度が20℃より低くなるほどエアベース変動量が負方向に増加する傾向がある。また、ケース2については、全ての温度域においてエアベース変動量が一定に近い傾向を示している。さらに、ケース3については、周囲の温度が20℃よりも高くなるほどエアベース変動量が負方向に増加する傾向があり、周囲の温度が20℃よりも低くなるほどエアベース変動量が正方向に増加する傾向がある。
【0044】
本実施形態において記憶部25は、
図10に示したような傾向に基づく第2補正内容を記憶しており、補正部26は、周囲の温度と第2補正内容とに基づいて補正を行う。第2補正内容は、
図6に示した第1補正内容と同様に、温度域毎に異なる1次の補正式の係数a及び定数項bであってもよいし、単なる補正係数であってもよい。さらに、第2補正内容は、2次以上の補正式に応じた係数等であってもよい。
【0045】
なお、ガス警報器1に搭載されるガスセンサ10がどのケースに該当するかについては、予め実験等により確認をしておくことで明らかとされる。一例を挙げると、所定温度(例えば20℃)でのエアベース比ABRが1.05≦ABR<1.1の個体をケース1とし、所定温度でのエアベース比ABRが1≦ABR<1.05の個体をケース2とし、所定温度でのエアベース比ABRが0.95≦ABR<1の個体をケース3とする。また、所定温度でのエアベース比ABRがABR<0.95、ABR≧1.1の個体を不良品等とする。なお、ここでの数値は一例であり、これらの数値に限定されるわけではない。
【0046】
図11は、第2補正内容に基づく補正を実行しない状態の50msecの時点における個体毎のエアベース変動量を示すグラフである。
図12は、第2補正内容に基づく補正を実行した状態の50msecの時点における個体毎のエアベース変動量を示すグラフである。
【0047】
図11に示すように、第2補正内容に基づく補正を実行しない場合には、50msecの時点におけるエアベース変動量はバラツキが大きく、特にケース1及びケース3についてエアベース変動量は0mVから大きく離れた値となる。これに対して、
図12に示すように、第2補正内容に基づく補正を実行した場合には、エアベース変動量はバラツキが小さく、特にケース1及びケース3についてエアベース変動量は
図11に示すものと比較して0mVに近づいた値となる。
【0048】
なお、第2の補正については、エアベース値を補正することを想定して説明したが、例えばエアベース値を減少させることに代えて、センサ出力を増加させる補正を行ってもよいし、閾値を減少させる補正を行ってもよい。すなわち、第2の補正についても、被検対象ガスの濃度又は閾値が補正されれば補正対象を問うものではない。
【0049】
次に、本実施形態に係るガス警報器1の製造方法を説明する。まず、本実施形態に係るガス警報器1を製造するにあたっては、ガスセンサ10を製造し、ガスセンサ10のエアベース比を算出する。この際、被検対象ガスが周囲に存在しない環境で、例えば50msec(所定のパルス幅)の駆動電圧を印加したときのセンサ出力と、100msec(飽和点に達する仮想パルス幅)の駆動電圧を印加したときのセンサ出力とが取得され、エアベース比が算出される。
【0050】
次に、エアベース比に応じたケース分けが行われ、記憶部25にはケースに応じた第2補正内容が記憶される。この際に記憶部25には、第1補正内容も記憶される。次に、記憶部25を含む各種構成(スピーカ30や温度センサ60等)が用意され、これらが樹脂ケースに組付収納されることでガス警報器1が製造される。
【0051】
次に、本実施形態に係るガス検知方法を説明する。まず、記憶部25には、周囲の温度に応じたガスセンサ10の出力変化に基づく第1補正内容(例えば
図6に示した補正テーブル)が記憶されている。さらに、記憶部25には、予め求められたケース(エアベース比)に基づくと共に、周囲の温度に応じたガスセンサ10のエアベース値の変化(すなわち
図10及び
図11に示す変化)に基づく第2補正内容が記憶されている。
【0052】
本実施形態に係るガス検知方法において温度センサ60は、周囲の温度に応じた信号をCPU20に出力する。CPU20の温度検出部24は、温度センサ60からの信号に基づいて周囲の温度を検出する(温度検出工程)。その後、ガスセンサ10は、被検対象ガスの濃度に応じた電位差VoutをCPU20に出力する。ここで、出力された電位差Voutであるセンサ出力は、周囲に被検対象ガスが存在する場合に
図5に示したように周囲の温度に応じて変動する。このため、補正部26は、検出した周囲の温度に対応する補正係数等を記憶部25(
図6に示す補正テーブル)から読み込み、センサ出力に対して補正処理を実行する(補正工程)。これにより、周囲の温度に応じたガスセンサ10の感度変化に応じた補正が行われる。
【0053】
さらに、この補正処理においては、第2補正内容から抽出された補正係数等による補正も行われる。これにより、エアベース比及び周囲の温度に応じたエアベース値の変化に対しても、適切な補正が実行されることとなる。
【0054】
その後、判断部22は、補正された状態で被検対象ガスの濃度が閾値以上であるかを判断することとなる。これにより、より正確性が高い判断を行うことができ、ガス検知精度の低下を抑制することができる。
【0055】
以上説明したように、本実施形態に係るガス警報器1及びガス検知方法によれば、周囲に被検対象ガスが存在する環境での、周囲の温度に応じたガスセンサ10の出力の変化に基づく補正内容を記憶し、検出された周囲の温度と記憶された補正内容とに基づいて被検対象ガスの濃度又は閾値を補正する。ここで、本件発明者らは、周囲に被検対象ガスが存在する環境において、周囲の温度に応じてガスセンサ10の出力が変化することを見出した。このため、周囲に被検対象ガスが存在する環境での、周囲の温度に応じたガスセンサ10の出力の変化に基づく補正内容を記憶しておき、この補正内容に基づく補正を実行することで、温度に起因したガス検知精度の低下を抑制することができる。
【0056】
また、周囲の温度が基準温度より高くなるほど、被検対象ガスの濃度が高くなる方向に補正し、又は上記閾値が低くなる方向に補正する補正内容を記憶している。ここで、本件発明者らは、ガスセンサ10が晒される周囲の温度が基準温度より高くなるほどガスセンサ10の出力が低下することを見出した。よって、出力の低下を補うように、被検対象ガスの濃度を高くなるように補正したり、閾値が低くなるように補正することで、温度に起因したガス検知精度の低下を抑制することができる。
【0057】
また、予め決定されたエアベース比に基づくと共に、周囲の温度に応じたガスセンサ10のエアベース値の変化に基づく第2補正内容を記憶し、検出された周囲の温度と記憶された第2補正内容とに基づいて被検対象ガスの濃度又は上記閾値を補正する。ここで、本件発明者らは、エアベース比と周囲の温度とに応じてエアベース値が変動することを見出した。このため、エアベース比に基づくと共に、周囲の温度に応じたエアベース値の変化に応じた第2補正内容を記憶しておき、この第2補正内容に基づく補正を実行することで、より一層温度に起因したガス検知精度の低下を抑制することができる。
【0058】
以上、上記実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、適宜公知や周知の技術を組み合わせてもよい。
【0059】
例えば、上記実施形態においてガス警報器1は、予め個体毎にどのケースに属するかが実験等によって求められ、求められたケースに応じた第2補正内容のみを記憶している。すなわち、記憶部25は、ガスセンサ10がケース1に属する場合、ケース1の特性に応じた第2補正内容のみを記憶している。しかし、これに限らず、記憶部25は、予め全てのケースに応じた第2補正内容を記憶しておいてもよい。この場合、例えばガス警報器1の設置時にガス警報器1が自ら所定パルス幅の駆動電圧の印加と、仮想パルス幅の駆動電圧の印加とを行って、エアベース比を算出しどのケースに属するか特定されるようになっていてもよい。さらに、ガスセンサ10は被毒等によって特性が変化することがある。よって、ガス警報器1の設置後に定期的にエアベース比を算出しどのケースに属するかを特定し、属するケースに応じた第2補正内容に基づいて補正を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 :ガス警報器
10 :ガスセンサ
21 :電圧印加部(電圧印加手段)
22 :判断部(判断手段)
23 :警報制御部
24 :温度検出部(温度検出手段)
25 :記憶部(記憶手段)
26 :補正部(補正手段)
30 :スピーカ(警報手段)
40 :表示部(警報手段)
50 :スイッチ
60 :温度センサ
E :電源