IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ カワサキモータース株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-内燃エンジンシステム 図1
  • 特開-内燃エンジンシステム 図2
  • 特開-内燃エンジンシステム 図3
  • 特開-内燃エンジンシステム 図4
  • 特開-内燃エンジンシステム 図5
  • 特開-内燃エンジンシステム 図6A
  • 特開-内燃エンジンシステム 図6B
  • 特開-内燃エンジンシステム 図7A
  • 特開-内燃エンジンシステム 図7B
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077777
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】内燃エンジンシステム
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20240603BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
F02D45/00 362
F02D29/02 321C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189920
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】521431099
【氏名又は名称】カワサキモータース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 恭太郎
(72)【発明者】
【氏名】寺井 昭平
(72)【発明者】
【氏名】多田 知希
【テーマコード(参考)】
3G093
3G384
【Fターム(参考)】
3G093AA02
3G093BA21
3G093DA07
3G384AA27
3G384BA24
3G384DA13
3G384FA58
3G384FA60
(57)【要約】
【課題】複雑な制御を用いることなく、簡素な構成にて迅速かつ安定的にエンジンを始動させる。
【解決手段】少なくとも1つのバランスウェイトの全体の重心が回転軸線よりも下方に位置する特定クランク角において、シグナルロータの回転方向における基準部の中心は、被感知位置よりも前記回転方向の後側に配置され、かつ、前記シグナルロータの回転軸線周りに前記被感知位置から45度の角度範囲内に配置されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向に延びるクランク軸と、前記クランク軸に接続された少なくとも1つのバランスウェイトと、を含み、前記少なくとも1つのバランスウェイトが前記クランク軸の回転軸線周りの周方向において不均等に配置された内燃エンジンと、
クランク角センサと、
前記クランク軸に連動して回転するシグナルロータであって、前記シグナルロータの外周部において前記周方向に一定間隔をあけて並び且つ前記クランク角センサに検出される複数の被検出部と、前記シグナルロータの前記外周部の一部において前記一定間隔よりも前記周方向に広い幅を有し且つ前記クランク角センサに検出されない基準部と、を含むシグナルロータと、を備え、
前記シグナルロータの前記外周部のうち前記クランク角センサに対向する部分の位置が、前記クランク角センサに感知される被感知位置であり、
前記少なくとも1つのバランスウェイトの全体の重心が前記回転軸線よりも下方に位置する特定クランク角において、前記シグナルロータの回転方向における前記基準部の中心は、前記被感知位置よりも前記回転方向の後側に配置され、かつ、前記回転軸線周りに前記被感知位置の中心から45度の角度範囲内に配置されている、内燃エンジンシステム。
【請求項2】
前記内燃エンジンの始動時の点火時期に対応する点火クランク角において、前記シグナルロータの前記回転方向における前記基準部の中心は、前記被感知位置よりも前記回転方向の前側に配置され、かつ、前記被感知位置の中心から前記回転軸線周りに45度の角度範囲内に配置されている、請求項1に記載の内燃エンジンシステム。
【請求項3】
前記内燃エンジンは、単気筒エンジン、又は、360度クランクの二気筒エンジンである、請求項1又は2に記載の内燃エンジンシステム。
【請求項4】
前記クランク軸に接続可能な電気モータと、
前記内燃エンジン及び前記電気モータを制御する処理回路と、を更に備え、
前記処理回路は、前記内燃エンジンが停止するときに前記内燃エンジンのクランク角が前記特定クランク角になるように前記電気モータを制御する、請求項1又は2に記載の内燃エンジンシステム。
【請求項5】
第1気筒及び第2気筒を含む複数の気筒と、前記複数の気筒に連結されたクランク軸と、を含む内燃エンジンであって、膨張行程を不等間隔に発生させ、隣接する点火時期の間隔のうち前記第1気筒の点火時期から前記第2気筒の点火時期までの間隔が最小間隔となる内燃エンジンと、
クランク角センサと、
前記クランク軸に連動して回転するシグナルロータであって、前記シグナルロータの外周部において周方向に一定間隔をあけて並び且つ前記クランク角センサに検出される複数の被検出部と、前記シグナルロータの前記外周部の一部において前記一定間隔よりも前記周方向に広い幅を有し且つ前記クランク角センサに検出されない基準部と、を含むシグナルロータと、を備え、
前記シグナルロータの前記外周部のうち前記クランク角センサに対向する部分の位置が、前記クランク角センサに感知される被感知位置であり、
前記シグナルロータの回転方向における前記基準部の中心は、前記外周部のうち前記第1気筒の前記点火時期に前記被感知位置にある点火時期部分よりも前記回転方向の前側に配置され、かつ、前記シグナルロータの回転軸線周りに前記点火時期部分の中心から45度の角度範囲内に配置されている、内燃エンジンシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、内燃エンジンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃エンジンのクランク軸の端部には、前記クランク軸と一体に回転するシグナルロータが設けられている。前記シグナルロータは、その外周部において周方向に一定間隔をあけて並んだ複数の歯(突起)と、前記シグナルロータの前記外周部の一部において前記一定間隔よりも前記周方向に広い幅を有する欠歯(隙間)と、を含む。前記シグナルロータの近傍に配置されたクランク角センサは、前記クランク軸とともに回転する前記シグナルロータの前記歯を検出してパルス信号を出力する。エンジンECUは、前記パルス信号に基づいてクランク角を把握し、前記内燃エンジンの現在の行程を判別しながら点火時期及び燃料噴射時期を決定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-232539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エンジン始動時に、スタータモータによってクランク軸が回転し始めてから最初の点火が行われるまでの時間が長くなると、車両発進時のフィーリングが良くない。また、パラレルハイブリッド車両の場合には、エンジン始動に遅れがあると、EV走行モードからHEV走行モードへの切替が遅れ、走行モード変更のフィーリングが良くない。
【0005】
そこで本開示の一態様は、複雑な制御を用いることなく、簡素な構成にて迅速かつ安定的にエンジンを始動させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る内燃エンジンシステムは、水平方向に延びるクランク軸と、前記クランク軸に接続された少なくとも1つのバランスウェイトと、を含み、前記少なくとも1つのバランスウェイトが前記クランク軸の回転軸線周りの周方向において不均等に配置された内燃エンジンと、クランク角センサと、前記クランク軸に連動して回転するシグナルロータであって、前記シグナルロータの外周部において周方向に一定間隔をあけて並び且つ前記クランク角センサに検出される複数の被検出部と、前記シグナルロータの前記外周部の一部において前記一定間隔よりも前記周方向に広い幅を有し且つ前記クランク角センサに検出されない基準部と、を含むシグナルロータと、を備える。前記シグナルロータの前記外周部のうち前記クランク角センサに対向する部分の位置が、前記クランク角センサに感知される被感知位置である。前記少なくとも1つのバランスウェイトの全体の重心が前記回転軸線よりも下方に位置する特定クランク角において、前記シグナルロータの回転方向における前記基準部の中心は、前記被感知位置よりも前記回転方向の後側に配置され、かつ、前記シグナルロータの回転軸線周りに前記被感知位置の中心から45度の角度範囲内に配置されている。
【0007】
本開示の他の態様に係る内燃エンジンシステムは、第1気筒及び第2気筒を含む複数の気筒と、前記複数の気筒に連結されたクランク軸と、を含む内燃エンジンであって、膨張行程を不等間隔に発生させ、隣接する点火時期の間隔のうち前記第1気筒の点火時期から前記第2気筒の点火時期までの間隔が最小間隔となる内燃エンジンと、クランク角センサと、前記クランク軸に連動して回転するシグナルロータであって、前記シグナルロータの外周部において前記周方向に一定間隔をあけて並び且つ前記クランク角センサに検出される複数の被検出部と、前記シグナルロータの前記外周部の一部において前記一定間隔よりも前記周方向に広い幅を有し且つ前記クランク角センサに検出されない基準部と、を含むシグナルロータと、を備える。前記シグナルロータの前記外周部のうち前記クランク角センサに対向する部分の位置が、前記クランク角センサに感知される被感知位置である。前記シグナルロータの回転方向における前記基準部の中心は、前記外周部のうち前記第1気筒の前記点火時期に前記被感知位置にある点火時期部分よりも前記回転方向の前側に配置され、かつ、前記回転軸線周りに前記点火時期部分の中心から45度の角度範囲内に配置されている。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、迅速かつ安定的にエンジンを始動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、第1実施形態に係る内燃エンジンシステムのブロック図である。
図2図2は、図1のシグナルロータ及びクランク角センサの拡大図である。
図3図3は、図1の内燃エンジン(単気筒)の行程とシグナルロータとの対応関係を示す遷移図である。
図4図4は、図3のシグナルロータにおける基準部の別の配置例を示す図である。
図5図5は、第2実施形態に係る内燃エンジン(360度クランクの二気筒)の模式図である。
図6A図6Aは、図5の内燃エンジン(360度クランクの二気筒)の行程とシグナルロータとの対応関係を示す遷移図である。
図6B図6Bは、図6Aの続きを示す模式図である。
図7A図7Aは、第2実施形態に係る内燃エンジン(不等間隔爆発エンジン)の行程とシグナルロータとの対応関係を示す遷移図である。
図7B図7Bは、図7Aの続きを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0011】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る内燃エンジンシステム1のブロック図である。図1に示すように、内燃エンジンシステム1は、内燃エンジン2、クランク角センサ3、シグナルロータ4、電気モータ5、及び、コントローラ6を備える。内燃エンジンシステム1は、自動二輪車、自動三輪車、オフロード四輪車等のような乗物に走行駆動源として搭載される。
【0012】
内燃エンジン2は、例えば、単気筒エンジンである。内燃エンジン2は、気筒10を有する。気筒10には、ピストン11が往復動可能に収容されている。ピストン11は、コンロッド12、クランクピン13及びクランクアーム14を介して、クランク軸15に接続されている。クランク軸15は、水平方向に延びている。クランク軸15には、バランスウェイト16が接続されている。バランスウェイト16は、クランク軸15の回転軸線X周りの周方向において不均等に配置されている。バランスウェイト16の全体の重心Gは、回転軸線Xからずれた位置にある。
【0013】
内燃エンジン2は、例えば4ストロークエンジンである。気筒10内には、ピストン11の上側に燃焼室17が画定されている。内燃エンジン2は、燃焼室17と連通する吸気ポート18と、燃焼室17に連通する排気ポート19と、を有する。吸気ポート18には、吸気弁20が配置され、排気ポート19には排気弁21が配置されている。吸気ポート18には、その吸気通路に燃料を噴射する燃料インジェクタ22が設けられている。吸気ポート18には、その吸気通路を流れる吸気の圧力を検出する吸気圧センサ23が設けられている。内燃エンジン2には、燃焼室17の混合気を着火するための点火プラグ24が設けられている。
【0014】
クランク軸15の端部には、シグナルロータ4が固定されている。クランク角センサ3は、回転軸線Xに直交する方向からシグナルロータ4に対向している。クランク角センサ3及びシグナルロータ4の詳細については、後述する。電気モータ5は、クランク軸15を駆動可能なようにクランク軸15に機械的に接続されている。電気モータ5の駆動軸は、ギヤ機構、ベルト・プーリー機構、又は、チェーン・スプロケット機構を介してクランク軸15に接続されている。
【0015】
コントローラ6は、内燃エンジン2及び電気モータ5を制御する。コントローラ6は、プロセッサ31、システムメモリ32及びストレージメモリ33を含む。プロセッサ31は、例えば、中央演算処理装置である。システムメモリ32は、例えば、RAMである。ストレージメモリ33は、コンピュータ可読媒体の例であり、非一時的で有形な媒体である。ストレージメモリ33は、ROMを含み得る。ストレージメモリ33は、ハードディスク、フラッシュメモリ又はそれらの組合せを含み得る。ストレージメモリ33は、プログラムを記憶している。システムメモリ32に読み出された当該プログラムをプロセッサ31が実行する構成は、処理回路の一例である。
【0016】
コントローラ6は、クランク角センサ3で検出されるクランク角と、吸気圧センサ23で検出される吸気圧とに基づいて、内燃エンジン2の運転中の行程(吸気・圧縮・膨張・排気)を判定する。吸気圧は、行程ごとの燃焼室17の状態によって変化する物理量の例である。コントローラ6は、その判定された行程に基づいて、燃料インジェクタ22及び点火プラグ24の動作時期を制御する。
【0017】
図2は、図1のシグナルロータ4及びクランク角センサ3の拡大図である。図2に示すように、シグナルロータ4は、クランク軸15の回転軸線X周りにクランク軸15と一体的に回転するようにクランク軸15に固定されている。シグナルロータ4の外周部は、その周方向Cに一定間隔をあけて並んだ複数の被検出部4aと、前記一定間隔よりも周方向Cに広い幅を有する基準部4bと、を含む。被検出部4aは、クランク角センサ3の検出部3aによって検出される部分である。基準部4bは、前記一定間隔よりも周方向Cに広い幅を有する。基準部4bは、クランク角センサ3によって検出されない部分である。
【0018】
例えば、クランク角センサ3は、電磁ピックアップセンサであり、シグナルロータ4は、金属からなる。被検出部4aは、シグナルロータ4の外周部から径方向外方に突出した突起(歯)である。互いに隣接する2つの被検出部4aの間の隙間4cは、クランク角センサ3の検出部3aによって検出されない部分である。基準部4bの周方向Cの幅は、隙間4cの周方向Cの幅よりも大きい。具体的には、基準部4bは、シグナルロータ4の外周部の全周にわたって周方向Cに等間隔をあけて並んだ複数の突起のうち1つを欠落させてなる幅広の隙間(欠歯)である。
【0019】
シグナルロータ4の外周部のうちクランク角センサ3の検出部3aに対向する部分の位置は、クランク角センサ3に感知される被感知位置Pである。隙間4cの周方向Cの幅と基準部4bの周方向Cの幅とが互いに違うことにより、コントローラ6は、クランク角センサ3の検出信号に基づいて、隙間4cとは区別して基準部4bを認識できる。コントローラ6は、基準部4bが被感知位置Pにあることを認識することで、クランク角の基点角度を検出する。コントローラ6は、基準部4bの検出後に検出される被検出部4aをカウントすることで、基点角度からの角変位量を算出する。
【0020】
図3は、図1の内燃エンジン2(単気筒)の行程とシグナルロータ4との対応関係を示す遷移図である。図3に示すように、内燃エンジン2は、排気・吸気・圧縮・膨張の各行程からなるサイクルを繰り返す。図3の例では、「(1)排気」から「(8)吸気」までのクランク角範囲におけるバランスウェイト16の姿勢と、「(9)圧縮」から「(16)膨張」までのクランク角範囲におけるバランスウェイト16の姿勢とは、互いに同じになる。特に、「(3)排気」から「(5)吸気」までのクランク角範囲、及び、「(11)圧縮」から「(13)膨張」までのクランク角範囲は、バランスウェイト16の重心Gがクランク軸15の回転軸線Xよりも下方に位置する範囲である。このクランク角範囲を特定クランク角範囲と称し、その特定クランク角範囲における1つのクランク角を特定クランク角と称することとする。
【0021】
特定クランク角範囲のうち少なくとも1つの特定クランク角において、シグナルロータ4の回転方向における基準部4bの中心は、被感知位置Pよりも前記回転方向の後側に配置され、かつ、回転軸線X周りの周方向Cにおいて被感知位置Pの中心から45度の角度範囲内に配置されている。ここで、「被感知位置Pよりも回転方向の後側」とは、被感知位置Pの中心を基準としてシグナルロータ4の回転逆方向における180度の範囲内の角度領域を意味する。図3の例では、特定クランク角範囲の全域において、シグナルロータ4の回転方向における基準部4bの中心は、被感知位置Pよりも前記回転方向の後側に配置されている。
【0022】
内燃エンジン2の始動時の点火時期においてシグナルロータ4の外周部のうち被感知位置Pにある部分を点火時期部分4dと称する。シグナルロータ4の基準部4bは、シグナルロータ4の外周部のうち点火時期部分4dとは異なる部分に配置されている。内燃エンジン2において運転状況により点火時期が変わる場合には、シグナルロータ4の基準部4bは、シグナルロータ4の外周部のうち点火時期となり得る各時期に被感知位置Pに存在する各部分と異なる部分に配置されると好ましい。
【0023】
バランスウェイト16は回転軸線X周りの周方向Cにおいて不均等に配置されているため、バランスウェイト16の全体の重心Gが回転軸線Xよりも下方に位置する状態で内燃エンジン2が停止する可能性が高い(図3の二点鎖線で囲まれた各状態)。本実施形態では、シグナルロータ4の基準部4bを前述したように配置しているため、内燃エンジン2の始動時には、クランク角センサ3によってシグナルロータ4の基準部4bが速やか検出される。よって、内燃エンジン2の始動時に、コントローラ6は現在のクランク角を速やかに把握でき、迅速かつ安定的に内燃エンジン2に始動させることができる。
【0024】
コントローラ6は、稼働していた内燃エンジン2が停止するときに、内燃エンジン2のクランク角が前記特定クランク角になるように電気モータ5を制御してもよい。即ち、コントローラ6は、内燃エンジン2が停止するときに、シグナルロータ4の回転方向における基準部4bの中心が被感知位置Pよりも回転方向の後側に配置され且つ被感知位置Pの中心から45度の角度範囲内に配置されるように、電気モータ5を制御してもよい。そうすれば、内燃エンジン2の始動時に、クランク角センサ3によってシグナルロータ4の基準部4bが速やか検出される可能性を更に高めることができる。
【0025】
なお、シグナルロータ4の基準部4bの配置は、気筒10の向きにかかわらずバランスウェイト16の姿勢を参照して決定されるため、気筒10は鉛直方向に延びて配置されていなくてもよい。例えば、気筒10は、鉛直方向に対して斜めに延びていてもよいし、水平に延びていてもよい。
【0026】
図4は、図3のシグナルロータ4における基準部4bの別の配置例を示す図である。図4の例では、「(12)圧縮」のときに点火が行われる。内燃エンジン2の始動時の点火時期に対応する点火クランク角において、シグナルロータ4の回転方向における基準部4bの中心は、被感知位置Pよりも前記回転方向の前側に配置されている。ここで、「被感知位置Pよりも回転方向の前側」とは、被感知位置Pを基準としてシグナルロータ4の回転方向すなわち回転順方向における180度の範囲内の角度領域を意味する。そして、前記点火クランク角において、シグナルロータ4の回転方向における基準部4bの中心は、回転軸線X周りの周方向Cにおける被感知位置Pの中心から45度の角度範囲内に配置されている。
【0027】
この構成によれば、クランク角センサ3がシグナルロータ4の基準部4bを検出してから速やかに点火時期が到来する。よって、内燃エンジン2の始動時に短時間で点火時期が到来し、迅速に内燃エンジン2を始動させることができる。
【0028】
なお、図4の例では、特定クランク角範囲のうち少なくとも1つの特定クランク角において(例えば、「(3)排気」及び「(11)圧縮」)、シグナルロータ4の回転方向における基準部4bの中心は、被感知位置Pよりも回転方向の後側に配置され、かつ、被感知位置Pの中心から45度の角度範囲内に配置されている。
【0029】
また、シグナルロータ4の基準部4bの配置は、回転軸線X周りに不均等に配置されたバランスウェイト16の姿勢を参照して決定されるため、気筒の数は1又は2に限られない。全体としてバランスウェイト16が回転軸線X周りに不均等に配置されるものであれば、気筒の数は3以上であってもよい。
【0030】
(第2実施形態)
図5は、第2実施形態に係る内燃エンジン102(360度クランクの二気筒)の模式図である。なお、第1実施形態と共通する構成については同一符号を付して説明を省略する。図5に示すように、内燃エンジン102は、360度クランクの二気筒エンジンである。即ち、第1気筒10Aにおけるクランク軸15周りのクランクピン13の配置角度と、第2気筒10Bにおけるクランク軸15周りのクランクピン13の配置角度とは、互いに同じである。第1気筒10A及び第2気筒10Bは、クランク角において互いに360度ずらして行程を実施してもよいし、同時に同じ行程を実施してもよい。
【0031】
図6Aは、図5の内燃エンジン102(360度クランクの二気筒)の行程とシグナルロータ4との対応関係を示す遷移図である。図6Bは、図6Aの続きを示す模式図である。図6A及びBに示すように、360度クランクの二気筒エンジン102の場合も、基本的な考え方は単気筒エンジン2の場合と同じである。第1気筒10A及び第2気筒10Bは、クランク角において互いに360度ずらして行程を実施する。図6A及びBの例では、第1気筒10Aの「(1)排気」から「(12)膨張」までのクランク角範囲と、第2気筒10Bの「(1)圧縮」から「(12)吸気」までのクランク角範囲とは、互いに同じである。
【0032】
第1気筒10Aの「(2)排気」から「(4)吸気」までの範囲であり且つ第2気筒10Bの「(2)圧縮」から「(4)膨張」までの範囲である第1クランク角範囲と、第1気筒10Aの「(8)圧縮」から「(10)膨張」までの範囲であり且つ第2気筒10Bの「(8)排気」から「(10)吸気」までの範囲である第2クランク角範囲とでは、バランスウェイト16の全体の重心Gがクランク軸15の回転軸線Xよりも下方に位置する。前記第1クランク角範囲及び前記第2クランク角範囲を特定クランク角範囲と称し、前記特定クランク角範囲における1つのクランク角を特定クランク角と称する。
【0033】
特定クランク角範囲のうち少なくとも1つの特定クランク角において、シグナルロータ4の回転方向における基準部4bの中心は、被感知位置Pよりも前記回転方向の後側に配置され、かつ、回転軸線X周りの周方向Cにおいて被感知位置Pの中心から45度の角度範囲内に配置されている。図6A及びBの例では、特定クランク角範囲の全域において、シグナルロータ4の回転方向における基準部4bの中心は、被感知位置Pの中心よりも前記回転方向の後側に配置されている。
【0034】
バランスウェイト16は回転軸線X周りの周方向Cにおいて不均等に配置されているため、バランスウェイト16の全体の重心Gが回転軸線Xよりも下方に位置する状態で内燃エンジン102が停止する可能性が高い(図6A及びBの二点鎖線で囲まれた各状態)。本実施形態では、シグナルロータ4の基準部4bを前述したように配置しているため、内燃エンジン102の始動時には、クランク角センサ3によってシグナルロータ4の基準部4bが速やか検出される。よって、内燃エンジン102の始動時に、コントローラ6は現在のクランク角を速やかに把握でき、迅速かつ安定的に内燃エンジン2に始動させることができる。なお、他の構成は前述した第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0035】
(第3実施形態)
図7Aは、第3実施形態に係る内燃エンジン202(不等間隔爆発エンジン)の行程とシグナルロータ4との対応関係を示す遷移図である。図7Bは、図7Aの続きを示す模式図である。なお、第1実施形態と共通する構成については同一符号を付して説明を省略する。図7A及びBに示すように、内燃エンジン202は、不等間隔爆発エンジンである。即ち、内燃エンジン202は、第1気筒10C及び第2気筒10Dの全体において膨張行程(爆発行程)を不等間隔に発生させる。本実施形態では、隣接する点火時期の間隔のうち第1気筒10Cの点火時期から第2気筒10Dの点火時期までの間隔が最小間隔となっている。即ち、第1気筒10Cの点火時期から第2気筒10Dの点火時期までの間隔は、第2気筒10Dの点火時期から第1気筒10Cの点火時期までの間隔よりも小さい。
【0036】
シグナルロータ4の回転方向における基準部4bの中心は、エンジン始動時の点火時期部分4dよりも回転方向の前側に配置され、かつ、シグナルロータ4の回転軸線X周りに点火時期部分4dから45度の角度範囲内に配置されている。ここで、「点火時期部分4dよりも回転方向の前側」とは、点火時期部分4dの中心を基準としてシグナルロータ4の回転方向すなわち回転順方向における180度の範囲内の角度領域を意味する。
【0037】
これにより、クランク角センサ3がシグナルロータ4の基準部4bを検出した後に短時間で第1気筒10Cの点火時期が到来し、その後に短時間で第2気筒10Dの点火時期が到来する。よって、迅速かつ安定的に内燃エンジン202を始動させることができる。なお、他の構成は前述した第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0038】
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、前記実施形態を説明した。しかし、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施形態にも適用可能である。また、前記実施形態で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施形態とすることも可能である。例えば、1つの実施形態中の一部の構成又は方法を他の実施形態に適用してもよく、実施形態中の一部の構成は、その実施形態中の他の構成から分離して任意に抽出可能である。また、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、前記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれる。
【0039】
本明細書で開示する要素の機能は、開示された機能を実行するよう構成またはプログラムされた、汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、従来の回路、及び/又は、それらの組み合わせ、を含む回路又は処理回路を使用して実行できる。プロセッサは、トランジスタやその他の回路を含むため、処理回路又は回路と見なされる。本開示において、回路、ユニット若しくは手段は、列挙された機能を実行するハードウェアであるか、又は、列挙された機能を実行するようにプログラムされたハードウェアである。ハードウェアは、本明細書に開示されているハードウェアであってもよいし、又は、列挙された機能を実行するようにプログラム若しくは構成されているその他の既知のハードウェアであってもよい。ハードウェアが回路の一種と考えられるプロセッサである場合、回路、手段若しくはユニットは、ハードウェア及びソフトウェアの組み合わせであり、ソフトウェアはハードウェア及び/又はプロセッサの構成に使用される。
【0040】
以下の項目のそれぞれは、好ましい実施形態の開示である。
【0041】
[項目1]
水平方向に延びるクランク軸と、前記クランク軸に接続された少なくとも1つのバランスウェイトと、を含み、前記少なくとも1つのバランスウェイトが前記クランク軸の回転軸線周りの周方向において不均等に配置された内燃エンジンと、
クランク角センサと、
前記クランク軸に連動して回転するシグナルロータであって、前記シグナルロータの外周部において周方向に一定間隔をあけて並び且つ前記クランク角センサに検出される複数の被検出部と、前記シグナルロータの前記外周部の一部において前記一定間隔よりも前記周方向に広い幅を有し且つ前記クランク角センサに検出されない基準部と、を含むシグナルロータと、を備え、
前記シグナルロータの前記外周部のうち前記クランク角センサに対向する部分の位置が、前記クランク角センサに感知される被感知位置であり、
前記少なくとも1つのバランスウェイトの全体の重心が前記回転軸線よりも下方に位置する特定クランク角において、前記シグナルロータの回転方向における前記基準部の中心は、前記被感知位置よりも前記回転方向の後側に配置され、かつ、前記シグナルロータの回転軸線周りに前記被感知位置の中心から45度の角度範囲内に配置されている、内燃エンジンシステム。
【0042】
この構成によれば、少なくとも1つのバランスウェイトが回転軸線周りの周方向において不均等に配置されているため、バランスウェイトの全体の重心が回転軸線よりも下方に位置する特定クランク角で内燃エンジンが停止する可能性が高い。そして、シグナルロータの基準部の回転方向の中心は、特定クランク角において、被感知位置よりも回転方向の後側に配置され且つ被感知位置から回転軸線周りに45度の角度範囲内に配置されている。そのため、エンジン始動時には、クランク角センサによってシグナルロータの基準部が速やか検出される。よって、エンジン始動時に現在のクランク角が速やかに把握され、迅速かつ安定的にエンジンを始動させることができる。
【0043】
[項目2]
前記内燃エンジンの始動時の点火時期に対応する点火クランク角において、前記シグナルロータの前記回転方向における前記基準部の中心は、前記被感知位置よりも前記回転方向の前側に配置され、かつ、前記被感知位置の中心から前記回転軸線周りに45度の角度範囲内に配置されている、項目1に記載の内燃エンジンシステム。
【0044】
この構成によれば、クランク角センサがシグナルロータの基準部を検出してから速やかに点火時期が到来する。よって、エンジン始動時に短時間で点火時期が到来し、迅速にエンジンを始動させることができる。
【0045】
[項目3]
前記内燃エンジンは、単気筒エンジン、又は、360度クランクの二気筒エンジンである、項目1又は2に記載の内燃エンジンシステム。
【0046】
この構成によれば、少なくとも1つのバランスウェイトが回転軸線周りの周方向において不均等に配置されるエンジンにおいて、シグナルロータの基準部の適切な配置によって迅速なエンジン始動を実現できる。
【0047】
[項目4]
前記クランク軸に接続可能な電気モータと、
前記内燃エンジン及び前記電気モータを制御する処理回路と、を更に備え、
前記処理回路は、前記内燃エンジンが停止するときに前記内燃エンジンのクランク角が前記特定クランク角になるように前記電気モータを制御する、項目1乃至3のいずれか1項に記載の内燃エンジンシステム。
【0048】
この構成によれば、エンジン始動時にクランク角センサによってシグナルロータの基準部が速やか検出される可能性を更に高めることができる。
【0049】
[項目5]
第1気筒及び第2気筒を含む複数の気筒と、前記複数の気筒に連結されたクランク軸と、を含む内燃エンジンであって、膨張行程を不等間隔に発生させ、隣接する点火時期の間隔のうち前記第1気筒の点火時期から前記第2気筒の点火時期までの間隔が最小間隔となる内燃エンジンと、
クランク角センサと、
前記クランク軸に連動して回転するシグナルロータであって、前記シグナルロータの外周部において周方向に一定間隔をあけて並び且つ前記クランク角センサに検出される複数の被検出部と、前記シグナルロータの前記外周部の一部において前記一定間隔よりも前記周方向に広い幅を有し且つ前記クランク角センサに検出されない基準部と、を含むシグナルロータと、を備え、
前記シグナルロータの前記外周部のうち前記クランク角センサに対向する部分の位置が、前記クランク角センサに感知される被感知位置であり、
前記シグナルロータの前記回転方向における前記基準部の中心は、前記外周部のうち前記第1気筒の前記点火時期に前記被感知位置にある点火時期部分よりも前記回転方向の前側に配置され、かつ、前記シグナルロータの回転軸線周りに前記点火時期部分の中心から45度の角度範囲内に配置されている、内燃エンジンシステム。
【0050】
この構成によれば、クランク角センサがシグナルロータの基準部を検出した後に短時間で第1気筒の点火時期が到来し、その後に短時間で第2気筒の点火時期が到来する。よって、迅速かつ安定的にエンジンを始動させることができる。
【符号の説明】
【0051】
1 内燃エンジンシステム
2,102,202 内燃エンジン
3 クランク角センサ
4 シグナルロータ
4a 被検出部
4b 基準部
4d 点火時期部分
5 電気モータ
6 コントローラ
10 気筒
10C 第1気筒
10D 第2気筒
15 クランク軸
16 バランスウェイト
G 重心
P 被感知位置
X 回転軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B