(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077783
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】液晶ポリマー組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 101/12 20060101AFI20240603BHJP
C08K 7/00 20060101ALI20240603BHJP
C08L 67/04 20060101ALI20240603BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20240603BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240603BHJP
C08K 3/18 20060101ALI20240603BHJP
C08K 9/06 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
C08L101/12
C08K7/00
C08L67/04
C08K3/34
C08K3/013
C08K3/18
C08K9/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189930
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000189659
【氏名又は名称】上野製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】林 元基
(72)【発明者】
【氏名】土谷 仁志
(72)【発明者】
【氏名】太田 晃仁
(72)【発明者】
【氏名】北林 賢一
(72)【発明者】
【氏名】奥谷 尚矢
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA011
4J002AA031
4J002CF181
4J002DE076
4J002DE106
4J002DE126
4J002DE137
4J002DE146
4J002DE187
4J002DE236
4J002DG026
4J002DG046
4J002DG056
4J002DJ016
4J002DJ036
4J002DJ046
4J002DJ056
4J002DL006
4J002FA016
4J002FB097
4J002FD016
4J002FD017
4J002GQ01
(57)【要約】
【課題】本発明は、液晶ポリマーの特性を保持しつつ、高誘電率を示す液晶ポリマー組成物および該組成物を用いた電気・電子部品を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、液晶ポリマー100質量部、板状充填材3~70質量部およびチタン系フィラー10~150質量部を含有し、10GHzにおける誘電率が4超である液晶ポリマー組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリマー100質量部、板状充填材3~70質量部およびチタン系フィラー10~150質量部を含有し、10GHzにおける誘電率が4超である、液晶ポリマー組成物。
【請求項2】
液晶ポリマーは、式(I)および式(II)
【化1】
で表される繰返し単位を含む液晶ポリエステル樹脂である、請求項1に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項3】
液晶ポリマーは、式(I)~式(IV)
【化2】
[式中、Ar
1およびAr
2はそれぞれ2価の芳香族基を表す]
で表される繰返し単位を含む全芳香族液晶ポリエステル樹脂である、請求項1に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項4】
式(III)~(IV)で表される繰返し単位は、Ar
1およびAr
2がそれぞれ互いに独立して、式(1)~(4)
【化3】
で表される芳香族基から選択される、それぞれ1種以上の繰返し単位である、請求項3に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項5】
式(III)で表される繰返し単位は、Ar1が式(1)で表される芳香族基である繰返し単位であり、式(IV)で表される繰返し単位は、Ar2が式(1)で表される芳香族基である繰返し単位および/または式(3)で表される芳香族基である繰返し単位である、請求項4に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項6】
板状充填材は、マイカおよび/またはタルクである、請求項1に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項7】
板状充填材の平均粒子径は1~50μmである、請求項1に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項8】
チタン系フィラーは、酸化チタンおよび/またはチタン酸カルシウムである、請求項1に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項9】
チタン系フィラーの平均粒子径は0.1~10μmである、請求項1に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項10】
チタン系フィラーは、シラン系カップリング剤で表面処理されたものである、請求項1に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項11】
10GHzにおける誘電正接が0.005以下である、請求項1に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項12】
ASTM D790に準拠して測定した曲げ強度は110MPa以上である、請求項1に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物から構成される成形品。
【請求項14】
成形品は、コネクタ、スイッチ、リレー、コンデンサ、コイル、トランスおよびアンテナからなる群から選択される1種を構成する部品である、請求項13に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的特性に優れるとともに、高周波帯域における誘電特性に優れる液晶ポリマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器は高性能化・機能複合化が進み、一つの製品に多くのセンサー・コネクタ・アンテナ等の部品が混在している。これらの電気信号の授受する際には信号を送り出す側のインピーダンス値と信号を受け取る側のインピーダンス値を同じにする「インピーダンスマッチング」が必要となる。インピーダンスマッチングの方法はいくつかあるが、ほとんどは設計によってインピーダンスを調整でき、材料由来となるものは誘電率のみである。そのような背景から、これまで端子や成形形状といった設計側でインピーダンスマッチングを対処されてきたが、近年の小型化・高性能化に伴い設計での調整に限界が近づいている。そのため、さらなる高性能化が見込まれた際に材料に頼らざるを得ない状況になりつつある。そのような面から、高周波化された情報通信装置に用いられる材料としては、高周波帯域(特にギガヘルツ帯域)における誘電特性に優れ、生産性や軽量性に優れたエンジニアリングプラスチック材料が有望視されており、各種通信機器、電子デバイスなどの筐体やパッケージ、誘電体デバイス等としての適用が期待されている。
【0003】
上述のエンジニアリングプラスチックの中でも、液晶ポリマーは、
(1)誘電率(εr)が使用周波数領域帯域で一定であり、誘電正接(tanδ)が低いなど誘電特性に優れる、
(2)低膨張特性(環境寸法安定性)、耐熱性、難燃性、剛性等の機械物性など種々の物性に優れている、
(3)成形時の流動性に優れ、薄肉部、微細部を有する成形品を容易に加工できる、
などの優れた性質を有することから、高周波用途において特に期待されている材料である。
【0004】
液晶ポリマーは、誘電特性、耐熱性、成型加工性などが特に優れることから、高誘電体であるセラミック粉を含む全芳香族液晶ポリエステルについて、近年、活発に開発が進んでいる。
【0005】
しかし、高誘電体セラミック粉を多量に含む、特許文献1~3に記載の液晶ポリエステルは、誘電特性は優れるものの、機械強度や寸法安定性、流動性に劣るものであり、コネクタやセンサーといった微細・薄肉な成形品に適さない特性がみられる。
【0006】
したがって、誘電特性に優れると共に、機械強度や寸法安定性、流動性に優れる液晶ポリマー組成物が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003-73555号公報
【特許文献2】特開2006-233118号公報
【特許文献3】特開2011-52037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、機械強度、寸法安定性、流動性など液晶ポリマーの特性を保持しつつ、高誘電率を示す液晶ポリマー組成物および該組成物を用いた電気・電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、液晶ポリマーに、板状充填材およびチタン系フィラーを特定の割合で配合することにより、液晶ポリマーの機械強度や寸法安定性、流動性を保持しつつ、誘電率が改善されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の好適な態様を包含する。
〔1〕液晶ポリマー100質量部、板状充填材3~70質量部およびチタン系フィラー10~150質量部を含有し、10GHzにおける誘電率が4超である、液晶ポリマー組成物。
〔2〕液晶ポリマーは、式(I)および式(II)
【化1】
で表される繰返し単位を含む液晶ポリエステル樹脂である、〔1〕に記載の液晶ポリマー組成物。
〔3〕液晶ポリマーは、式(I)~式(IV)
【化2】
[式中、Ar
1およびAr
2はそれぞれ2価の芳香族基を表す]
で表される繰返し単位を含む全芳香族液晶ポリエステル樹脂である、〔1〕に記載の液晶ポリマー組成物。
〔4〕式(III)~(IV)で表される繰返し単位は、Ar
1およびAr
2がそれぞれ互いに独立して、式(1)~(4)
【化3】
で表される芳香族基から選択される、それぞれ1種以上の繰返し単位である、〔3〕に記載の液晶ポリマー組成物。
〔5〕式(III)で表される繰返し単位は、Ar
1が式(1)で表される芳香族基である繰返し単位であり、式(IV)で表される繰返し単位は、Ar
2が式(1)で表される芳香族基である繰返し単位および/または式(3)で表される芳香族基である繰返し単位である、〔4〕に記載の液晶ポリマー組成物。
〔6〕板状充填材は、マイカおよび/またはタルクである、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物。
〔7〕板状充填材の平均粒子径は1~50μmである、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物。
〔8〕チタン系フィラーは、酸化チタンおよび/またはチタン酸カルシウムである、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物。
〔9〕チタン系フィラーの平均粒子径は0.1~10μmである、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物。
〔10〕チタン系フィラーは、シラン系カップリング剤で表面処理されたものである、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物。
〔11〕10GHzにおける誘電正接が0.005以下である、〔1〕~〔10〕のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物。
〔12〕ASTM D790に準拠して測定した曲げ強度は110MPa以上である、〔1〕~〔11〕のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物。
〔13〕〔1〕~〔12〕のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物から構成される成形品。
〔14〕成形品は、コネクタ、スイッチ、リレー、コンデンサ、コイル、トランスおよびアンテナからなる群から選択される1種を構成する部品である、〔13〕に記載の成形品。
【発明の効果】
【0011】
本発明の液晶ポリマー組成物は、機械強度、寸法安定性(低ソリ量)、流動性等の液晶ポリマーの性能を保持しつつ、高誘電率を有し、誘電損失も小さいという効果が得られ、またブリスターの発生が効果的に抑制されるため、例えば、コネクタなどの電気・電子部品に好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の液晶ポリマー組成物に使用する液晶ポリマー(以下、LCPとも称する)は、異方性溶融相を形成するポリエステルまたはポリエステルアミドであり、当該技術分野においてサーモトロピック液晶ポリエステルまたはサーモトロピック液晶ポリエステルアミドと呼ばれるものであれば特に限定されない。
【0013】
異方性溶融相の性質は、直交偏光子を利用した慣用の偏光検査法により確認することができる。より具体的には、異方性溶融相の確認は、Leitz偏光顕微鏡を使用し、Leitzホットステージにのせた試料を窒素雰囲気下で40倍の倍率で観察することにより実施できる。本発明における液晶ポリマーは光学的に異方性を示すもの、即ち、直交偏光子の間で検査したときに光を透過させるものである。試料が光学的に異方性であると、たとえ静止状態であっても偏光は透過する。
【0014】
本発明において用いる液晶ポリマーとしては、示差走査熱量計により測定される結晶融解温度が310~360℃であるものが好ましく、315~345℃であるものがより好ましく、320~343℃であるものがさらに好ましい。
【0015】
尚、本明細書および特許請求の範囲において、「結晶融解温度」とは、示差走査熱量計(Differential Scanning Calorimeter、以下DSCと略す)によって、昇温速度20℃/分で測定した際の結晶融解温度ピーク温度から求めたものである。より具体的には、液晶ポリマーの試料を、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1より20~50℃高い温度で10分間保持し、次いで、20℃/分の降温条件で室温まで試料を冷却した後に、再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を液晶ポリマーの結晶融解温度とする。測定機器としては、例えば、セイコーインスツルメンツ(株)製Exstar6000等を用いることができる。
【0016】
本発明における液晶ポリマーの構成単位を構成する重合性単量体としては、例えば芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族アミノカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、脂肪族ジオールおよび脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。このような重合性単量体は、1種のみを用いてもよく、2種以上の重合性単量体を組み合わせてもよい。好適には、少なくとも1種のヒドロキシ基およびカルボキシル基を有する重合性単量体が用いられる。
【0017】
液晶ポリマーの構成単位を構成する重合性単量体は、前記化合物の1種以上が結合してなるオリゴマー、つまり1種以上の前記化合物から構成されるオリゴマーであってもよい。
【0018】
芳香族ヒドロキシカルボン酸の具体例としては、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、2-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、5-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、7―ヒドロキシ―2―ナフトエ酸、3―ヒドロキシ―2―ナフトエ酸、4’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、3’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、4’-ヒドロキシフェニル-3-安息香酸およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中でも、得られる液晶ポリマーの耐熱性および機械強度ならびに融点を調節し易いという観点から、4-ヒドロキシ安息香酸および6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸からなる群から選択される1種以上の化合物が好ましい。
【0019】
芳香族ジカルボン酸の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシビフェニル、3,4’-ジカルボキシビフェニルおよび4,4”-ジカルボキシターフェニル、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体ならびにそれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中でも、得られる液晶ポリマーの耐熱性を効果的に高められる観点から、テレフタル酸、イソフタル酸および2,6-ナフタレンジカルボン酸からなる群から選択される1種以上の化合物が好ましく、テレフタル酸および2,6-ナフタレンジカルボン酸がより好ましい。
【0020】
芳香族ジオールの具体例としては、ハイドロキノン、レゾルシン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、3,3’-ジヒドロキシビフェニル、3,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニルエーテルおよび2,2’-ジヒドロキシビナフチル、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体ならびにそれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中でも、重合時の反応性に優れる観点から、ハイドロキノン、レゾルシン、4,4’-ジヒドロキシビフェニルおよび2,6-ジヒドロキシナフタレンからなる群から選択される1種以上の化合物が好ましく、ハイドロキノン、4,4’-ジヒドロキシビフェニルおよび2,6-ジヒドロキシナフタレンからなる群から選択される1種以上の化合物がより好ましい。
【0021】
芳香族アミノカルボン酸の具体例としては、4-アミノ安息香酸、3-アミノ安息香酸、6-アミノ-2-ナフトエ酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0022】
芳香族ヒドロキシアミンの具体例としては、4-アミノフェノール、N-メチル-4-アミノフェノール、3-アミノフェノール、3-メチル-4-アミノフェノール、4-アミノ-1-ナフトール、4-アミノ-4’-ヒドロキシビフェニル、4-アミノ-4’-ヒドロキシビフェニルエーテル、4-アミノ-4’-ヒドロキシビフェニルメタン、4-アミノ-4’-ヒドロキシビフェニルスルフィドおよび2,2’-ジアミノビナフチル、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中でも、得られる液晶ポリマーの耐熱性および機械強度のバランスをとりやすい観点から、4-アミノフェノールが好ましい。
【0023】
芳香族ジアミンの具体例としては、1,4-フェニレンジアミン、1,3-フェニレンジアミン、1,5-ジアミノナフタレン、1,8-ジアミノナフタレン、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのアミド形成性誘導体が挙げられる。
【0024】
脂肪族ジオールの具体例としては、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ならびにそれらのアシル化物が挙げられる。また、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどの脂肪族ジオールを含有するポリマーを、前記の芳香族オキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオールおよびそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などと反応させてもよい。
【0025】
脂肪族ジカルボン酸の具体例としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、フマル酸、マレイン酸およびヘキサヒドロテレフタル酸が挙げられる。これらの中でも、重合時の反応性に優れる観点から、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸およびドデカン二酸が好ましい。
【0026】
本発明における液晶ポリマーの構成単位を形成する重合性単量体は、本発明の目的を損なわない範囲で、他の共重合成分として、ジヒドロキシテレフタル酸、4-ヒドロキシイソフタル酸、5-ヒドロキシイソフタル酸、トリメリット酸、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、ピロメリット酸またはこれらのアルキル、アルコキシもしくはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体を含んでいてよい。これらの重合性単量体の使用量は、液晶ポリマーを構成する全構成単位に対して10モル%以下となるような量であるのが好ましい。
【0027】
本発明において液晶ポリマーは、本発明の目的を損なわない範囲で、チオエステル結合を含むものであってもよい。このような結合を与える重合性単量体としては、メルカプト芳香族カルボン酸、および芳香族ジチオールおよびヒドロキシ芳香族チオールなどが挙げられる。これらの重合性単量体の含有量は、液晶ポリマーを構成する全構成単位に対して10モル%以下となるような量であるのが好ましい。
【0028】
これらの繰返し単位を組み合わせたポリマーは、単量体の構成や組成比、ポリマー中での各繰返し単位のシークエンス分布によって異方性溶融相を形成するものと異方性溶融相を形成しないものとが存在するが、本発明に用いる液晶ポリマーは異方性溶融相を形成するものに限られる。
【0029】
本発明に使用される液晶ポリマーとしては、流動性および機械特性に優れる点で、式(I)および式(II)で表される繰返し単位を含む液晶ポリエステル樹脂が好適に使用される。
【0030】
【0031】
さらに、本発明に使用される液晶ポリマーとしては、流動性および機械特性に優れる点で、式(I)~(IV)で表される繰返し単位を含む全芳香族液晶ポリエステル樹脂が好適に使用される。
【0032】
【化5】
[式中、Ar
1およびAr
2はそれぞれ2価の芳香族基を表す。]
【0033】
ここで、式(III)で表される繰返し単位は、それぞれ異なるAr1を含む複数種の繰返し単位であってよく、また式(IV)で表される繰返し単位は、それぞれ異なるAr2を含む複数種の繰返し単位であってよい。すなわち、式(III)で表される繰返し単位は、ある種類のAr1である繰返し単位と別の種類のAr1である繰返し単位などのような複数の繰返し単位であってよく、同様に、式(IV)で表される繰返し単位は、ある種類のAr2である繰返し単位と別の種類のAr2である繰返し単位などのような複数の繰返し単位であってよい。また、「芳香族基」は、6員の単環または環数2の縮合環である芳香族基を示す。
【0034】
流動性および機械特性に優れる点で、式(III)~(IV)で表される繰返し単位は、Ar1およびAr2が、それぞれ互いに独立して、下記の式(1)~(4)で表される芳香族基から選択される、それぞれ1種以上の繰返し単位であることがより好ましい。式(III)で表される繰返し単位は、Ar1が式(1)で表される芳香族基である繰返し単位であり、かつ、式(IV)で表される繰返し単位は、Ar2が式(1)および/または式(3)で表される芳香族基である繰返し単位であることが特に好ましい。
【0035】
【0036】
本発明に用いる液晶ポリマーの構成単位を形成する重合性単量体の組み合わせの具体例としては、例えば下記のものが挙げられる。
1)4-ヒドロキシ安息香酸/6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、
2)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル、
3)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/イソフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル、
4)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/イソフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/ハイドロキノン、
5)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/ハイドロキノン、
6)6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン、
7)4-ヒドロキシ安息香酸/6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル、
8)6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル、
9)4-ヒドロキシ安息香酸/6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン、
10)4-ヒドロキシ安息香酸/6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン/4,4’-ジヒドロキシビフェニル、
11)4-ヒドロキシ安息香酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル、
12)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン、
13)4-ヒドロキシ安息香酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン、
14)4-ヒドロキシ安息香酸/6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン、
15)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン/4,4’-ジヒドロキシビフェニル、
16)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4-アミノフェノール、
17)6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸/テレフタル酸/4-アミノフェノール、
18)4-ヒドロキシ安息香酸/6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸/テレフタル酸/4-アミノフェノール、
19)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル /4-アミノフェノール、
20)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/エチレングリコール、
21)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/エチレングリコール、
22)4-ヒドロキシ安息香酸/6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸/テレフタル酸/エチレングリコール、
23)4-ヒドロキシ安息香酸/6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/エチレングリコール、
24)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル。
【0037】
これらの中でも、1)、9)、10)、および14)の重合性単量体に由来する構成単位からなる液晶ポリマーが好ましく、9)、10)、および14)の重合性単量体に由来する構成単位からなる液晶ポリマーがより好ましく、10)の重合性単量体に由来する構成単位からなる液晶ポリマーがさらに好ましい。
【0038】
上記の液晶ポリマーは単独で用いてもよく、2種以上の液晶ポリマーの混合物として用いてもよい。
【0039】
本発明で用いられる液晶ポリマーの他の好ましい態様の一つとしては、下記式(A)~(D)で表される繰返し単位を含む全芳香族液晶ポリエステル樹脂である。
【0040】
【化7】
[式中、p、q、rおよびsは、各繰返し単位の液晶ポリエステル樹脂中での組成比(モル%)を示し、以下の条件を満たす:
60≦p≦80;
0.1≦q≦10;
10≦r≦20;
10≦s≦20]
【0041】
上記式(A)~(D)を含む全芳香族液晶ポリエステル樹脂において、繰返し単位の組成比の合計[p+q+r+s]は100モル%であることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、他の繰返し単位をさらに含有してもよい。
【0042】
本発明で用いられる液晶ポリマーの好ましい態様の一つとしては、下記式(E)~(I)で表される繰返し単位を含む全芳香族液晶ポリエステル樹脂である。
【0043】
【化8】
[式中、t、u、v、wおよびxは、各繰返し単位の液晶ポリエステル樹脂中での組成比(モル%)を示し、以下の条件を満たす:
25≦t≦45;
2≦u≦10;
10≦v≦20;
10≦w≦20;
20≦x≦40;
v>w]
【0044】
上記式(E)~(I)を含む全芳香族液晶ポリエステル樹脂において、繰返し単位の組成比の合計[t+u+v+w+x]は100モル%であることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、他の繰返し単位をさらに含有してもよい。
【0045】
本発明で用いられる液晶ポリマーの好ましい態様の一つとしては、下記式(J)および(K)で表される繰返し単位を含む全芳香族液晶ポリエステル樹脂である。
【0046】
【化9】
[式中、yおよびzは、各繰返し単位の液晶ポリエステル樹脂中での組成比(モル%)を示し、以下の条件を満たす:
60≦y≦80;
20≦z≦40]
【0047】
上記式(J)および(K)を含む全芳香族液晶ポリエステル樹脂において、繰返し単位の組成比の合計[y+z]は100モル%であることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、他の繰返し単位をさらに含有してもよい。
【0048】
以下、本発明に用いる液晶ポリマーの製造方法について説明する。
【0049】
本発明に用いる液晶ポリマーの製造方法に特に制限はなく、重合性単量体を、エステル結合またはアミド結合を形成させる公知の重縮合方法、たとえば溶融アシドリシス法、スラリー重合法などに供することにより液晶ポリマーを得ることができる。
【0050】
溶融アシドリシス法は、本発明の液晶ポリマー組成物に用いる液晶ポリマーを製造するのに好ましい方法である。この方法は、最初に重合性単量体を加熱して反応物質の溶融溶液を形成し、次いで重縮合反応を続けて溶融ポリマーを得るものである。なお、縮合の最終段階で副生する揮発物(たとえば酢酸、水など)の除去を容易にするために真空を適用してもよい。
【0051】
スラリー重合法とは、熱交換流体の存在下で重合性単量体を反応させる方法であって、固体生成物は熱交換媒質中に懸濁した状態で得られる。
【0052】
溶融アシドリシス法およびスラリー重合法のいずれの場合においても、液晶ポリマーを製造する際に使用される重合性単量体は、常温において、ヒドロキシル基および/またはアミノ基をアシル化した変性形態、すなわち低級アシル化物として反応に供することもできる。
【0053】
低級アシル基は炭素原子数2~5のものが好ましく、炭素原子数2または3のものがより好ましい。本発明の好ましい実施態様において、前記重合性単量体のアセチル化物を反応に供する。
【0054】
重合性単量体の低級アシル化物は、別途アシル化して予め合成したものを用いてもよいし、液晶ポリマーの製造時に重合性単量体に無水酢酸等のアシル化剤を加えて反応系内で生成せしめることもできる。
【0055】
溶融アシドリシス法またはスラリー重合法のいずれの場合においても、重縮合反応は、温度150~400℃、好ましくは250~370℃で、常圧および/または減圧下で行うのがよく、必要に応じて触媒を用いてもよい。
【0056】
触媒の具体例としては、ジアルキルスズオキシド(例えばジブチルスズオキシド)、ジアリールスズオキシドなどの有機スズ化合物;二酸化チタン;三酸化アンチモン;アルコキシチタンシリケート、チタンアルコキシドなどの有機チタン化合物;カルボン酸のアルカリおよびアルカリ土類金属塩(例えば酢酸ナトリウム、酢酸カリウム);ルイス酸(例えば三フッ化硼素)、ハロゲン化水素(例えば塩化水素)などの気体状酸触媒などが挙げられる。
【0057】
触媒を使用する場合、該触媒の量は重合性単量体全量に対し、好ましくは1~1000ppm、より好ましくは2~100ppmである。
【0058】
このような重縮合反応によって得られた液晶ポリマーは、通常、溶融状態で重合反応槽より抜き出された後に、ペレット状、フレーク状、または粉末状に加工され、他の成分と溶融混練に供される。
【0059】
ペレット状、フレーク状、または粉末状の液晶ポリエステルは、分子量を高めて耐熱性を向上させる目的で、減圧下、真空下または不活性ガスである窒素やヘリウムなどの雰囲気下において、実質的に固相状態で熱処理を行ってもよい。
【0060】
本発明の液晶ポリマー組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに他の樹脂成分を含有させてもよい。他の樹脂成分としては、例えば、ポリアミド、ポリエステル、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテルおよびその変性物、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドなどの熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0061】
他の樹脂成分は、単独でまたは2種以上を組み合わせて含有することができる。他の樹脂成分の含有量は特に限定されず、液晶ポリマー組成物の用途や目的に応じて適宜定めればよい。典型的には、液晶ポリマー100質量部に対する他の樹脂の合計含有量が、好ましくは0.1~100質量部、より好ましくは0.2~80質量部となる範囲で添加される。
【0062】
本発明の液晶ポリマー組成物に用いる板状充填材としては、特に限定されないが、例えば、マイカ、タルク、カオリン、クレー、バーミキュライト、長石粉、酸性白土、ロウ石クレー、セリサイト、シリマナイト、ベントナイト、ガラスフレーク、スレート粉、シラン等の珪酸塩、炭酸カルシウム、胡粉、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト等の炭酸塩、バライト粉、沈降性硫酸カルシウム、焼石膏、硫酸バリウム等の硫酸塩、水和アルミナ等の水酸化物、アルミナ、酸化アンチモン、マグネシア、亜鉛華、シリカ、珪砂、石英、ホワイトカーボン、珪藻土等の酸化物、二硫化モリブデン等の硫化物、板状のウォラストナイトなどが挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を併用することができる。これら板状充填材の中でも、寸法安定性に優れる点で、マイカおよび/またはタルクが好ましい。
【0063】
本発明の液晶ポリマー組成物に用いる板状充填材の平均粒子径は通常1~50μmであるのが好ましく、より好ましくは10~40μm、さらに好ましくは20~30μmである。なお、本明細書において、平均粒子径とは、レーザ回折/散乱式粒度分布測定法で測定した体積基準の中央値(メディアン径)をいう。
【0064】
本発明の液晶ポリマー組成物における板状充填材の含有量は、液晶ポリマー100質量部に対して、3~70質量部であり、好ましくは5~50質量部であり、より好ましくは10~40質量部であり、さらに好ましくは15~30質量部である。板状充填材の含有量が上記範囲内であることで、寸法安定性や流動性を高めることができる。
【0065】
本発明の液晶ポリマー組成物は、さらにチタン系フィラーを含有する。本発明の液晶ポリマー組成物に用いるチタン系フィラーとしては、酸化チタン、チタン酸カルシウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸ジルコン酸鉛などが例示され、その中でも酸化チタンおよび/またはチタン酸カルシウムが誘電率に優れるため好ましい。チタン系フィラーは2種以上を併用することができる。
【0066】
チタン系フィラーの平均粒子径は通常0.1~10μmであるのが好ましく、より好ましくは0.15~9μm、さらに好ましくは0.2~8μmである。チタン系フィラーの平均粒子径が0.1μmを下回ると、ハンドリングが悪化する傾向がある。なお、本明細書において、平均粒子径とは、レーザ回折/散乱式粒度分布測定法で測定した体積基準の中央値(メディアン径)をいう。
【0067】
チタン系フィラーは、その表面を公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミ系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で処理したものが好ましく、シラン系カップリング剤で表面処理したものがより好ましく、オルガノシランカップリング剤で表面処理したものがさらに好ましい。
【0068】
本発明の液晶ポリマー組成物におけるチタン系フィラーの含有量は、液晶ポリマー100質量部に対して、10~150質量部であり、好ましくは15~100質量部であり、より好ましくは20~80質量部であり、さらに好ましくは30~50質量部でさらに好ましい。
【0069】
本発明の液晶ポリマー組成物において、上記のように板状充填材およびチタン系フィラーを含有することにより、機械強度、寸法安定性、流動性など液晶ポリマーの特性を保持しつつ、高誘電率が得られる。また、板状充填材およびチタン系フィラーを併用することにより、これを単独で用いた場合と比べ、射出成形時に小さな気泡が残存し易くなり加熱処理によって発生するブリスターを抑制し得ることが見出された。
【0070】
本発明の液晶ポリマー組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、板状充填材およびチタン系フィラーに加えて、他の繊維状、粒状の無機充填材または有機充填材を含有してよい。
【0071】
本発明の液晶ポリマー組成物が板状充填材およびチタン系フィラー以外の無機充填材または有機充填材を含有する場合、その含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、好ましくは0.1~20質量部、より好ましくは0.5~10質量部である。これら他の充填材の含有量が上記上限値を超えると、誘電正接が高くなる傾向がある。
【0072】
他の繊維状充填材としては、例えば、ミルドガラス、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリベンズイミダゾール繊維、ホウ酸アルミニウムウイスカ、ウォラストナイト等の珪酸カルシウム、ゾノトライト、硼酸アルミニウム、針状炭酸カルシウム、テトラポット型酸化亜鉛などが挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を併用することができる。
【0073】
他の粒状充填材としては、例えば、炭酸カルシウム、ガラスビーズなどが挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を併用することができる。
【0074】
また、本発明の液晶ポリマー組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、上述した以外の他の添加剤を含有することができる。
【0075】
他の添加剤としては、例えば、滑剤である高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸金属塩(ここで高級脂肪酸とは、例えば炭素原子数10~25のものをいう)、フルオロカーボン系界面活性剤など、離型改良剤であるポリシロキサン、フッ素樹脂など、着色剤である染料、顔料、カーボンブラックなど、難燃剤、帯電防止剤、界面活性剤、酸化防止剤であるリン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤など、耐候剤、熱安定剤、中和剤などが挙げられる。高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤などの外部滑剤効果を有する添加剤については、液晶ポリマー組成物を成形するに際して、予め、液晶ポリマー組成物のペレットの表面に付着させてもよい。これらの添加剤は、単独で使用してもよく、または2種以上を併用してもよい。
【0076】
これらの他の添加剤の含有量は、液晶ポリマー100質量部に対して、好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは0.5~5質量部である。これら他の添加剤の含有量が上記上限値を超えると、成形加工性が低下したり熱安定性が悪くなる傾向がある。
【0077】
液晶ポリマー、板状充填材およびチタン系フィラーと、所望により他の無機充填材および/または有機充填材、他の添加剤や他の樹脂成分などを所定の組成で配合し、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出し機などを用いて溶融混練することによって、本発明の液晶ポリマー組成物とすることができる。
【0078】
本発明の液晶ポリマー組成物は、機械的性質や熱的性質の低下を起さず、誘電特性に優れる。なお、本発明において、誘電特性が優れるとは、誘電率が高く、かつ誘電正接が低いことを意味する。
【0079】
本発明の液晶ポリマー組成物は、ギガヘルツ帯域の高周波領域において、高い誘電率および低い誘電正接を示すものである。具体的には、長さ85mm、幅1.75mm、厚さ1.75mmのスティック状試験片を用いて、10GHzにおいて測定した誘電率が4超であり、好ましくは4.5以上であり、より好ましくは4.7以上であり、さらに好ましくは4.9以上である。10GHzにおいて測定した誘電率は、通常10以下である。また、同様の条件で測定した誘電正接(tanδ)が0.005以下であるのが好ましく、0.004以下であるのがより好ましく、0.003以下であるのがさらに好ましい。誘電正接(tanδ)は通常0.0001以上である。誘電率および誘電正接は、空洞共振器摂動法によって測定することができる。
【0080】
本発明の液晶ポリマー組成物は、厚み3.2mmのASTM4号曲げ試験片を用いた曲げ試験において、曲げ強度は好ましくは110MPa以上、より好ましくは115MPa以上、さらに好ましくは120MPa以上である。上記曲げ強度の上限値は、特に限定されないが、例えば200MPaである。
【0081】
本発明の液晶ポリマー組成物の曲げ弾性率は15GPa以下が好ましく、より好ましくは13GPa以下であり、さらに好ましくは11GPa以下である。
【0082】
本発明の液晶ポリマー組成物は、後述する方法で測定される溶融粘度が、好ましくは12~45Pa・s、より好ましくは13~42Pa・s、さらに好ましくは14~38Pa・sである。
【0083】
本発明の液晶ポリマー組成物は、後述する方法で測定されるソリ量が、好ましくは900μm未満、より好ましくは800μm未満、さらに好ましくは700μm未満であって、寸法安定性が優れるという利点を有する。
【0084】
この様にして得られた、本発明の液晶ポリマー組成物は、射出成形機、押出機などを用いる公知の成形方法によって成形ないし加工され、所望の成形品を得ることができる。
【0085】
本発明の液晶ポリマー組成物を用いて得られる成形品は、良好なウェルド強度と金属接着性を示すため、コネクタ、スイッチ、リレー、コンデンサ、コイル、トランス、アンテナなどの電子部品に好適に用いられる。
【実施例0086】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例中の誘電率、誘電正接、曲げ強度、溶融粘度、ソリ量(寸法安定性)評価は以下に記載の方法により行った。
【0087】
〈誘電率〉
射出成形機(日精樹脂工業(株)NEX-15-1E)を用いて、シリンダー設定温度を350℃、金型温度80℃で、長さ85mm、幅1.7mm、厚さ1.7mmのスティック状試験片に成形した。
この試験片を用いて、JIS C2565に準拠した空洞共振器摂動法により、ネットワークアナライザー(アジレントテクノロジー社製PNAシリーズE8316A)を使用して、誘電率(10GHz)を測定した。
【0088】
〈誘電正接(tanδ)〉
射出成形機(日精樹脂工業株式会社製 UH1000-110)を用いて、長さ85mm、幅1.75mm、厚さ1.75mmのスティック状試験片を作成し、その試験片を用いて、ベクトルネットワークアナライザー(アジレントテクノロジー社製)にて10GHzにおける誘電正接を空洞共振器摂動法により測定した。
【0089】
〈曲げ強度〉
射出成形機(日精樹脂工業(株)製UH1000-110)を用いて、結晶融解温度+20~40℃のシリンダー温度、金型温度70℃で射出成形し、短冊状曲げ試験片(長さ127mm×幅12.7mm×厚さ3.2mm)を作製した。曲げ試験は、3点曲げ試験をINSTRON5567(インストロンジャパンカンパニイリミテッド社製万能試験機)を用いて、試験速度1.3mm/min、スパン間距離50mmの条件で、ASTM D790に準拠して測定した。
【0090】
〈溶融粘度〉
溶融粘度測定装置(東洋精機(株)製キャピログラフ1D)により、1.0mmφ×10mmのキャピラリーを用いて、剪断速度1000sec-1の条件下、試料の結晶融解温度(Tm)+20℃での溶融粘度をそれぞれ測定した。
【0091】
〈ソリ量(寸法安定性)〉
型締め圧15tの射出成形機(日精樹脂工業(株)製NEX15-1E)を用いて融点+20~40℃のシリンダー温度、金型温度70℃で射出成形し、中央部にスリット状段差を有する平面状試験片(厚さ0.5mm、縦横長さ17mm、中央部スリット幅5mm厚み0.25mm)を作製した。各試験片について、3次元測定機(キーエンス社製ワンショット3D VR-3000)を用いて最大ソリ高さ-試験片厚み(0.5mm)をソリ量として測定した。
【0092】
〈ブリスター〉
射出成形機(日精樹脂株式会社製NEX-15-1E)を用いて結晶融解温度+20~40℃のシリンダー温度、金型温度140℃で射出成形し、箱形試験片(縦30mm×横5mm×高さ6mm、厚さ0.2mm)を作製した。
この試験片10個について、ギアオーブンにて試験片の結晶融解温度-40℃の温度で1分間加熱処理を行い、冷却後、目視により試験片表面にブリスターの発生した個数をカウントした。ブリスターの数が0の場合は〇、ブリスターの数が1~2の場合は△、ブリスターの数が3以上の場合は×とした。
【0093】
実施例および比較例において下記の略号は以下の化合物を表す。
POB:パラヒドロキシ安息香酸
BON6:6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸
HQ:ハイドロキノン
BP:4,4’-ジヒドロキシビフェニル
TPA:テレフタル酸
NDA:2,6-ナフタレンジカルボン酸
【0094】
[合成例1(LCP1)]
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器に、POB、BON6、HQ、BPおよびTPAを表1に示す組成比にて、総量6.5モルとなるように仕込み、さらに全モノマーの水酸基量(モル)に対して1.03倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
【0095】
【0096】
窒素ガス雰囲気下に室温~150℃まで1時間で昇温し、同温度にて30分間保持した。次いで、副生する酢酸を留去させつつ350℃まで7時間かけ昇温した後、80分間かけて5mmHgにまで減圧した。所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器内容物を取り出し、粉砕機により液晶ポリエステル樹脂のペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。得られたペレットの結晶融解温度(Tm)は321℃であった。
【0097】
[合成例2(LCP2)]
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器に、POB、BON6、HQおよびNDAを表2に示す組成比にて、総量6.5モルとなるように仕込み、さらに全モノマーの水酸基量(モル)に対して1.03倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
【0098】
【0099】
窒素ガス雰囲気下に室温~150℃まで1時間で昇温し、同温度にて30分間保持した。次いで、副生する酢酸を留去させつつ350℃まで7時間かけ昇温した後、80分間かけて5mmHgにまで減圧した。所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器内容物を取り出し、粉砕機により液晶ポリエステル樹脂のペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。得られたペレットの結晶融解温度(Tm)は335℃であった。
【0100】
以下の実施例および比較例で使用した充填材を示す。
マイカ:羽田野雲母工業(株)製、マイカ「IND-1」(板状、平均粒子径:29μm)
タルク:富士タルク工業(株)製、タルク「RL119」(板状、平均粒子径:17μm)
酸化チタン:堺化学工業(株)製、酸化チタン「R-39」(棒状、平均粒子径:0.23μm、表面処理:オルガノシラン)
チタン酸カルシウム:共立マテリアル(株)製、チタン酸カルシウム「CT-3」(棒状、平均粒子径:2.96μm、表面処理:アルミナ)
チタン酸ストロンチウム:共立マテリアル(株)製、チタン酸ストロンチウム「ST-S1」(棒状、平均粒子径:1.25μm、表面処理:なし)
ガラス繊維:日本電気硝子(株)製、「747H」(平均繊維長:3000μm)
【0101】
実施例1~7および比較例1~6
合成例1および2にて合成したLCP、および上記充填剤を表3および表4に記載の含有量(質量部)となるように配合し、2軸押出機(日本製鋼(株)製TEX-30)を用いて、350℃にて溶融混練を行い、液晶ポリマー組成物のペレットを得た。上記の方法により、誘電率・誘電正接、溶融粘度、曲げ強度、ソリ量を測定、評価した。結果を表3および表4に示す。
【0102】
表3に示すように、実施例1~7の液晶ポリマー組成物はいずれも、誘電率が5以上かつソリ量および溶融粘度が少なく、寸法安定性および流動性に優れたものであった。
【0103】
これに対して、表3に示すように、比較例1~6の液晶ポリマー組成物は、誘電率、ソリ量、ブリスターおよび溶融粘度のいずれかに悪化が確認され、成形材料として好ましくないものであった。
【0104】