(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077794
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】微小物体検出装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/41 20060101AFI20240603BHJP
【FI】
G01N21/41 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189954
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 俊人
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB04
2G059EE02
2G059FF07
2G059JJ05
2G059JJ17
2G059KK02
(57)【要約】
【課題】対象ポイントに設置するだけで、ポイントにおける微小物体を継続的に監視できる微小物体検出装置を提供する。
【解決手段】微小物体検出装置1は、両端が開放された流路を有する流路部10と、コアに複数の回折格子が形成された光ファイバを用いて構成され、少なくとも一つの回折格子が流路内に配置されたファイバセンサ20と、ファイバセンサに接続されたサーキュレータ32と、サーキュレータに接続され、ファイバセンサに光を入射する光源31と、サーキュレータに接続され、ファイバセンサからの反射光を計測し、流路を通過した微小物体を検出可能に構成された計測部33と、計測部の計測結果を記憶する記憶部34とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端が開放された流路を有する流路部と、
コアに複数の回折格子が形成された光ファイバを用いて構成され、少なくとも一つの前記回折格子が前記流路内に配置されたファイバセンサと、
前記ファイバセンサに接続されたサーキュレータと、
前記サーキュレータに接続され、前記ファイバセンサに光を入射する光源と、
前記サーキュレータに接続され、前記ファイバセンサからの反射光を計測し、前記流路を通過した微小物体を検出可能に構成された計測部と、
前記計測部の計測結果を記憶する記憶部と、
を備える、
微小物体検出装置。
【請求項2】
前記流路部は、
第一流路部と、
前記第一流路部の流路と傾斜角度が異なる流路を有する第二流路部と、を有する、
請求項1に記載の微小物体検出装置。
【請求項3】
前記計測結果を外部装置に送信可能に構成された通信部をさらに備える、
請求項1に記載の微小物体検出装置。
【請求項4】
前記流路内に位置する前記ファイバセンサの投影面積が、前記流路の断面積の10%以下である、
請求項1に記載の微小物体検出装置。
【請求項5】
前記計測部は、所定時間内における前記微小物体の検出回数に基づいて、前記流路を通過した液体の所定量あたりの前記微小物体の数を検出可能に構成されている、
請求項1に記載の微小物体検出装置。
【請求項6】
前記流路に配置された流速計をさらに備え、
前記計測部は、前記流速計により計測された前記液体の流速に基づいて前記所定時間を設定する、
請求項5に記載の微小物体検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小物体検出装置に関する。この微小物体検出装置を用いた微小物体検出システムについても言及する。
【背景技術】
【0002】
プランクトンの異常な増殖を原因とする赤潮は、毎年発生し、養殖等の漁業に大きな損害を与えている。
プランクトンの異常増殖を早期に発見することができれば、養殖場を移動する等により、被害を軽減することが期待できる。
【0003】
海洋におけるプランクトンの状態を知るための方法としては、対象海域に船で向かって採水器(例えば、特許文献1参照。)で海水を採取し、これに含まれるプランクトンを検査する方法が一般的である。
しかし、この方法では、対象海域までの往復時間がかかり、海水の顕微鏡検査にも熟練が必要であるため、結果を短時間で得ることが困難である。さらに、海域の多数のポイントを同時に監視することが困難であるという問題もある。
【0004】
他の手法として、特許文献2には、水中に近紫外パルスレーザー光を照射し、照射された近紫外パルスレーザー光で励起された、水分子から発せられる水ラマン散乱光と、水中の被モニタ物質から発せられる蛍光とを集光することで、蛍光成分強度の水ラマン散乱成分強度に対する比から被モニタ物質の濃度を特定する水質モニタ方法が知られている。被モニタ物質をクロロフィルとすることで、赤潮の原因となる植物性プランクトンをモニタすることも可能と推測される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2020-517971号公報
【特許文献2】特開2009-103479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2の方法でも、対象海域まで往復しなければならない点や、多数のポイントを同時に監視することが困難である点は解決できず、依然として改善の余地が大きく残されている。
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は、対象ポイントに設置するだけで、ポイントにおける微小物体を継続的に監視できる微小物体検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、両端が開放された流路を有する流路部と、コアに複数の回折格子が形成された光ファイバを用いて構成され、少なくとも一つの回折格子が流路内に配置されたファイバセンサと、ファイバセンサに接続されたサーキュレータと、サーキュレータに接続され、ファイバセンサに光を入射する光源と、サーキュレータに接続され、ファイバセンサからの反射光を計測し、流路を通過した微小物体を検出可能に構成された計測部と、計測部の計測結果を記憶する記憶部とを備える微小物体検出装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、対象ポイントに設置するだけで、ポイントにおける微小物体を継続的に監視できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る微小物体検出装置の構成を示す図である。
【
図2】同微小物体検出装置の流路部の一断面を示す図である。
【
図3】(a)および(b)は、本発明の第二実施形態に係る微小物体検出装置における流路部を示す図である。
【
図4】微小物体検出装置が海上に設置された状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について、
図1および
図2を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る微小物体検出装置(以下、単に「検出装置」と称する。)の構成を示す模式図である。
検出装置1は、流路部10と、ファイバセンサ20と、インテロゲータ30とを備えている。
【0012】
図2は、流路部10のうち、ファイバセンサ20が取り付けられた部位の断面図である。流路部10は、
図2に示すように、底部11と、側壁12と、蓋13とを有する。底部11、側壁12、および蓋13に囲まれた空間が一方向に延びることにより、両端が開放された流路14が形成されている。
【0013】
底部11、側壁12、および蓋13の材質には特に制限はなく、合成樹脂、ガラス、金属、木材等、各種の材料を使用できる。
測定対象が赤潮を引き起こすプランクトンである場合、検出装置1は海に設置され、流路部10は、常時海水と接触する。このため、耐久性や耐食性に優れたガラスが流路部10の材質として最も好ましいが、その他にも、ポリジメチルシロキサン(PDMS)や、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)等の環状オレフィン系樹脂等も好適な材料として挙げられる。
【0014】
底部11、側壁12、および蓋13は、すべて同一の材料で形成されてもよいし、それぞれ異なる材料で形成されてもよい。
流路部を多数製造する際の好適な手順の一例としては、底部を構成するガラス等の基板にフォトリソグラフィを用いて多数の側壁を構成し、側壁の上部に蓋を接合して覆った後、ダイシングにより流路部を一つずつ個片化する方法が挙げられる。
流路の断面寸法が小さい等の場合は、エッチングにより基板の表面に複数の溝を形成することで、同一材料で一体となった底部および側壁を形成する方法も採用できる。
その他、印刷、転写、成型等の各種の手法によっても形成できる。
蓋の接合方法としては、接着剤、表面改質によるプレス接合、熱溶融による接合、超音波による接合等を例示できる。
【0015】
検出装置1において、流路部10はどのように取り付けられてもよい。例えば、検出装置1の設置時において、蓋13が下側であってもよいし、底部11および蓋13が側方に位置してもよい。
【0016】
ファイバセンサ20としては、FBG(Fiber Bragg Grating)センサを使用できる。FBGセンサとは、光ファイバのコア部分に屈折率が変化する回折格子構造(FBG)を有するもので、その基本構造は公知である。FBGセンサのコアに様々な波長の光を入射させると、格子の周期に比例した波長の光だけが強く反射される。この反射光の波長(ブラッグ波長)は、FBGセンサに外力が作用して歪むことにより変化するため、反射光をモニタすることにより、FBGに微小な歪みが生じたことを検知できる。
【0017】
図2に示すように、ファイバセンサ20は、流路部10の流路14内にアーチ状に曲げられた状態で配置されている。ファイバセンサ20のうち流路14内に位置する部位には、少なくとも一つの回折格子が存在する。微小物体の検出感度を向上する観点からは、複数の回折格子が概ね等間隔で存在することが好ましい。
ファイバセンサ20が形成するアーチの突端部は、底部11に設けられた突起15と接触して支持されている。流路の断面積が大きいと、突起15の後方に渦が生じる可能性があるため、突起15はファイバセンサの後方(流路内における流れの下流側)で支持している。突起15は、側壁12と同様の方法で形成できる。
ファイバセンサ20の両端部は、蓋13に設けられた穴13aに通されている。ファイバセンサ20の一方の端部20aはサーキュレータ32に接続され、もう一方の端部は、穴13aから抜けないように蓋13に固定されている。
【0018】
インテロゲータ30は、ファイバセンサ20に光を入射し、その反射光を取得する。インテロゲータは、
図1に示すように、光源31と、サーキュレータ32と、計測部33と、記憶部34と、通信部35とを備える。
【0019】
光源31としては、ファイバセンサに設けられたFBGに対応する波長を含む、複数の波長の光を出射できるものであればよく、白色光源等を使用できる。
サーキュレータ32は、ファイバセンサ20の反射光を計測部33に導くものであり、公知の光サーキュレータを使用できる。
計測部33は、一定の波長帯域における反射光の波長を計測できるものであればよく、公知の分光分析装置等を使用できる。
市販のインテロゲータを、光源31、サーキュレータ32、および計測部33として利用することもできる。
【0020】
記憶部34は、計測部33のアウトプットを時系列に沿って記憶するものであり、各種記憶媒体を用いて構成できる。必要に応じて、計測部33を動作させるためのソフトウェアやロジック回路等を含んでもよい。
通信部35は、記憶部34に記憶されたデータを外部の装置に送信する機能を有する。通信部35の通信態様は、使用状況に応じて、有線、無線のいずれを採用することもできる。
【0021】
上記のように構成された、本実施形態に係る検出装置1の使用時の動作について説明する。
赤潮を引き起こすプランクトンを検出対象の微小物体とする場合、海上に設置されたブイ等の構造物に取り付けたり、検出装置1にフロートを取り付けて構造物に結びつけたりして海面に検出装置1を設置する。このとき、流路部10の姿勢および位置を、海水が常に流路を通過できる(例えば完全な垂直でない姿勢で、流路の少なくとも一部が常に水面下に位置する状態)態様に設定する。
【0022】
検出装置1の設置後は、海水が流路部10の流路に入り、継続的に流路内を通過する。このとき、海水中にプランクトンが含まれていると、プランクトンが流路内に設置されたファイバセンサ20に接触したり、ファイバセンサの近傍を通過することで水流に変化が生じたりする。これにより、海水のみが通過しているときとは異なる外力がファイバセンサ20に作用し、ファイバセンサ20に微小な歪みが生じる。この歪みにより、ファイバセンサからの反射光が変化するため、計測部33で反射光を持続的に計測することにより、プランクトンの存在状況を検出することができる。
【0023】
計測部33の計測結果は、経時的に記憶部34に記憶される。記憶部34に保存された情報は、一定間隔で、通信部35から外部装置に送信される。送信完了後に記憶部34から情報を消去するよう検出装置1を制御する等により、検出装置1は計測およびアウトプットの外部送信を、電源が持続する限り長期間にわたり継続可能に構成できる。
【0024】
一定時間におけるプランクトンの検出を積算することにより、所定量の海水に含まれるプランクトンの数を計測することもできる。例えば、流路の断面が一辺5mmの正方形である場合、海水が40mm分通過すると1mLの海水が通過することになるため、長さ40mm分の計測におけるプランクトンの検出数を海水1mL中に存在する対象プランクトンの数とすることができる。海水が40mm分通過するために必要な計測時間は、流路中における海水の流速により異なるため、例えば流路の入り口に流速計を取り付けて常時流速を監視しておくと、対象となる測定時の流速に基づいて所定量の海水に含まれるプランクトンの数を算出することができる。
地方自治体等における赤潮の注意や警報の基準は、海水1mL当たりのプランクトンの数で定められていることが多いため、検出装置1を用いて対象プランクトンの数を監視することにより、プランクトンの数が注意基準や警報基準に達したことを早期に把握することができる。
【0025】
以上説明したように、本実施形態に係る検出装置1は、設置することで対象となる微小物体を継続的に検出し、微小物体の増減等の動向を簡便かつ迅速に監視することができる。上述した赤潮については、監視対象の海域に適宜の間隔を空けて多数の検出装置1を設置し、コンピュータ等を組み合わせて各装置から送信される情報を収集および解析するシステムを構築することで、対象プランクトンの増殖が始まっている領域を早期に把握することができる。これにより、赤潮の発生リスクの少ない地点に養殖場を移動するなどの対策を適切に行うことができ、漁業への被害を事前に食い止めたり、軽減したりすることに大きく寄与できる。
【0026】
検出装置1は簡素な構造であり、ファイバセンサ20はそれ自体に通電することなく対象物体の検出を行えるため、海上等の過酷な環境に設置しても故障しにくく、長期間の監視も良好に行える。
【0027】
検出装置1を用いた検出については、例えば以下のような変更を加えることで、より良好に行うことができる。
・流路部の流路を、水平に対してわずかに傾斜させることにより、流路を流れる海水の逆流を防ぐことができる。この際、流路の両端のうち、ファイバセンサ20に対して突起15が位置する側の端部をより低くすると、水流により押されるファイバセンサ20のアーチの突端部を突起15が支持するため、測定値におけるノイズを抑制することができる。
【0028】
・解放された流路の端部に、検出対象の微小物体よりも若干大きい網目のネットを設置すると、検出対象でないゴミ等が流路に進入することによる閉塞や検出不良等の発生を防止できる。上述した例の場合は、例えば北太平洋標準プランクトンネットのNGG54であれば、網目が315μmであり、赤潮を引き起こすプランクトンの中でも比較的大きいシャトネラも通過することができ、好適である。
【0029】
本発明の第二実施形態について、
図3および
図4を参照して説明する。以降の説明において、既に説明したものと共通する構成については、同一の符号を付して重複する内容を省略する。
【0030】
本実施形態に係る検出装置は、複数の流路部を有する。
図3の(a)に示す第一流路部110は、第一実施形態に係る流路部10の底部11の下面にスペーサ111が取り付けられた構成を有する。スペーサ111は、底面が直角三角形の三角柱の形状を有し、底面の斜辺に対応する側面が底部11と接合されている。
【0031】
図3の(b)に示す第二流路部210は、流路部10の底部11の下面にスペーサ211が取り付けられた構成を有する。スペーサ211も底面が直角三角形の三角柱の形状を有し、第一流路部110と同様に、底面の斜辺に対応する側面が底部11と接合されているが、底面の直角三角形の形状がスペーサ111と異なっている。これにより、第二流路部210の流路の傾斜は、第一流路部110の傾斜よりも強くなっている。
【0032】
図4に、本実施形態に係る検出装置101が海上に設置された状態を示す。
図4に示す例では、ブイByのうち常時水面上に位置する箇所に検出装置101のインテロゲータ30が取り付けられている。ブイByの下部からは、支柱301が海中に延びており、支柱301に対して水平に取り付けられたベース302に第一流路部110および第二流路部210が固定されている。
第一流路部110および第二流路部210は、スペーサを有することにより、水平なベース302に取り付けることで、傾斜が異なる2種類の流路を容易に設置できる。
【0033】
第一流路部110を流れる海水と、第二流路部210を流れる海水とは、その傾斜の違いにより、流速が異なる。検出装置101においては、この流速の違いを利用することで、その地点におけるプランクトンの状態をより詳細に把握することができる。
検出対象のプランクトンが、繊毛や鞭毛等を有して自走性を発揮する場合、自走性を有さない場合よりもファイバセンサ20を避けて通過する可能性が高くなる。しかし、海水の流速が上昇するにつれて、よけ切れずにファイバセンサ20と接触する可能性が高くなる。したがって、検出対象のプランクトンが自走性を有する場合、ファイバセンサ20と接触する確率は第一流路部110よりも第二流路部210において高くなり、両者で差が生じる。一方で、死んだりシスト(休眠)状態にあったりして自走性を有さないプランクトンがファイバセンサと接触する確率は、流速によってほとんど変化しないため、このようなプランクトンがファイバセンサ20と接触する確率は、第一流路部110と第二流路部210とでほとんど差がない。
【0034】
プランクトンがファイバセンサと衝突したときのブラッグ波長と、プランクトンがファイバセンサに接触せずに近くを通過したときのブラッグ波長とは、ファイバセンサの歪み量が異なることにより、十分に区別できる程度に異なる。したがって、第一流路部及び第二流路部におけるプランクトンの衝突カウントの差分を用いることにより、設置地点における対象プランクトンの死亡またはシスト状態の割合を推測することができる。
すなわち、検出装置101においては、第一実施形態同様、対象微小物体の常時監視ができることに加え、微小物体によっては、その動態(例えば、今後の増減の傾向等)をより詳細に把握することができる。
なお、検出装置101において、常時監視の値をどのように定めるかは、対象の特性等に基づいて適宜設定でき、第一または第二流路部の検出値をそのまま採用したり、両者の平均値を採用したりできる。さらに、時系列を少しずつずらした複数回の計測値の平均をとることで、精度の安定化を図ることもできる。
【0035】
本実施形態において、第一流路部及び第二流路部の傾斜角度は、対象の運動能力等を考慮して適宜決定できるが、例えば第一流路部の傾斜角度を0.1°以上1.0°以下、第二流路部の傾斜角度を20°以上45°以下程度とできる。
【0036】
検出装置101では、特に第二流路部において、入り口付近で計測された流速と、ファイバセンサが取り付けられた位置における流速とが大きく異なる場合がある。このような場合は、入り口付近で計測された流速値、流路の傾斜角度、および流速計の設置箇所からファイバセンサが取り付けられた位置までの流路長さに基づいて、ファイバセンサが取り付けられた位置における流速を算出すると、所定量の液体あたりの微小物体数をより高精度に検出することができる。
【0037】
上述した例では、スペーサを有する第一流路部および第二流路部を水平なベースに設置する例を説明したが、第一流路部および第二流路部において、スペーサを有することは必須ではない。例えば、スペーサを有さない第一実施形態の流路部10を、角度を変えて支柱301に固定することによっても、流路の傾斜角度が異なる第一流路部及び第二流路部を構成することができる。
【0038】
以上、本発明の各実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせなども含まれる。
以下に変更のいくつかを例示するが、これらがすべてではなく、他の変更も可能である。これらの変更は自由に組み合わせることができる。
【0039】
・第一実施形態で示した単一の流路部や、第二実施形態で示した複数の流路部の組は、異なる高さに複数設けられてもよい。これにより、例えば海上に設置する場合は、複数の異なる深さで微小物体の監視を行うことができる。
このようにすると、対象物体がプランクトンである場合は、昼間に光合成のために水面近くまで上がってくる動きや、水面下での休眠状態などの把握に役立つほか、海面近くで多くのプランクトンが確認される場合は、増殖がかなり活発な状態である等の推測もできるため、より詳細な状況把握が可能となる。
【0040】
・検出対象となる微小物体はプランクトンには限られない。適用が期待される対象物体としては、マイクロプラスチックが挙げられる。
マイクロプラスチックとは、微細なプラスチックごみの総称で、一般には5ミリメートル以下のものを言い、近年は海洋生態系への影響が懸念されている。プラスチックは基本的に自然分解されることはないため、海域(環境中)に長期滞留し蓄積していくと考えられている。
マイクロプラスチックのうち、洗顔料、化粧品などのスクラブ剤としても使用されるマイクロビーズや、柔軟剤や洗剤等の香りを出すために使用されるマイクロカプセルは、ポリエチレンやポリプロピレン等のプラスチックで作られた球状の微小物体で、大きさは数μmから数百μm程度であり、視認が困難である。マイクロビーズやマイクロカプセルは、その小ささゆえに排水処理施設では除去できず、そのまま川を通じて海に流れ込んでいる。マイクロビーズやマイクロカプセルは、環境中の微量の化学物質を吸着し、プランクトンや魚に摂取されることで、人の健康や生態系に影響を及ぼしていると指摘されている。
現状、網で回収できるマイクロプラスチックの下限寸法は350μm程度といわれており、それより小さいマイクロプラスチックの動態には不明な点が多い。本発明に係る微小物体検出装置では、上述した構成により、数μm程度の大きさのマイクロプラスチックを検出することも可能である。したがって、海洋や河川に設置することでマイクロプラスチックによる汚染状況を監視できるほか、工場の排水口等に設置することで、排水に含まれるマイクロプラスチックを監視し、必要に応じて除去等の対策を講じることも可能になる。
【0041】
・検出が想定される微小物体が複数ある場合は、これらを識別できるような変更が施されてもよい。
例えば、対象がプランクトンである場合、特定の励起光により生じる蛍光や、生成する活性酸素等の物質等を並行して検出できる構成を付加することにより、プランクトンの種を識別することが可能になる。
想定微小物体の寸法が異なる場合は、予備実験等によりそれぞれの物体のブラッグ波長のパターンをあらかじめ特定し、計測部に記憶させておく等により、検出した微小物体をある程度識別することもできる。
【0042】
・海水や排水等が流路内を安定して流れるように、流路の入り口付近や出口付近に、スクリュー等を配置して回転させてもよい。
【0043】
・予備実験等により微小物体が存在しない水等を流路に流した際のブラッグ波長のパターンをあらかじめ取得し、これを用いたフィルタを計測結果に掛けることで、微小物体の検出精度を向上させることができる。
【0044】
・本発明において、流路の断面形状や断面積は、検出対象となる微小物体に応じて適宜設定できる。以下に設定の一例を記す。
例えば、測定対象が赤潮を引き起こすプランクトンである場合、比較的小さいカレニア・ミキモトイの寸法は、長さ18~37μm程度、幅14~35μm程度であり、比較的大きいシャトネラは、長さ50~200μm程度、幅30~50μm程度である。赤潮が発生した際にも流路が閉塞しないことを考慮すると、流路の断面形状が正方形である場合、その一辺の長さが、対象とするプランクトンの最大寸法の25~350倍程度であることが好ましい。これらの点を考慮すると、実施形態で示した一辺5mmの正方形の流路断面は、測定対象が赤潮を引き起こすプランクトンである場合に好適であると言える。
他に考慮すべき点として、流路に占めるファイバセンサの面積比率がある。例えば、
図2に示した流路内におけるファイバセンサ20のアーチ形状を三角形に近似すると、ファイバセンサが直径0.15mmのベアファイバである場合、流路断面に占める投影面積は1.677mm
2となり、一辺5mmの正方形の流路に占める比率は6.7%となる。一方、ファイバセンサが被覆で覆われた光ファイバで構成されて直径1.6mmである場合、流路断面に占める投影面積は17.89mm
2となる。この場合は、一辺5mmの正方形の流路に占める比率は70%を超えるため、対象とする微小物体の寸法等によっては、通過が困難となる結果、微小物体により流路が閉塞する可能性も高くなる。このような観点からは、流路断面に占めるファイバセンサの投影面積比率は10%以下であることが好ましい。
【0045】
・計測部から最終的に出力される微小物体のカウント数は、流路断面に占めるファイバセンサの投影面積比率に基づいて補正されたものであってもよい。
例えば、流路断面が一辺5mmの正方形であり、直径0.15mmのベアファイバからなるファイバセンサが
図2に示す態様で配置されていた場合、プランクトンがファイバセンサと衝突する確率は、流路断面に占めるファイバセンサの投影面積比率に基づいて定まり、6.7%前後となる。
したがって、これを100%とするために必要な係数(上記の例では約14.9)を実際に測定された所定量の液体あたりの微小物体のカウント数に乗じることにより、実際の微小物体の数に近似させることができる。例えば、1mLに上記係数をかけた量(上記の例では14.9mL)の海水等が通過した間の微小物体のカウント数を海水1mLあたりの微小物体の数として採用してもよい。
【0046】
・本発明に係る微小物体検出装置において、通信部は必須ではない。例えば、設置ポイントが工場内の排水口等のアクセスしやすい場所である場合は、記憶部の記憶媒体を定期的に回収、交換する等により、即時性は若干低下するものの、検出装置の検出結果を継続的に取得することができる。
【符号の説明】
【0047】
1、101 微小物体検出装置
10 流路部
14 流路
20 ファイバセンサ
31 光源
32 サーキュレータ
33 計測部
34 記憶部
35 通信部
110 第一流路部
210 第二流路部