(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077807
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】耐候性に優れた遮熱テント膜構造物
(51)【国際特許分類】
E04H 15/54 20060101AFI20240603BHJP
B32B 27/12 20060101ALI20240603BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
E04H15/54
B32B27/12
B32B27/20 Z
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189977
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000239862
【氏名又は名称】平岡織染株式会社
(72)【発明者】
【氏名】狩野 俊也
【テーマコード(参考)】
2E141
4F100
【Fターム(参考)】
2E141AA00
2E141AA01
2E141AA02
2E141AA03
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4F100JN02
(57)【要約】
【課題】外観、及び基本性能を維持するために、耐候性(紫外線劣化軽減)、及び防黴(藻)性に優れた遮熱テント膜を装備する建築構造物の提供と、遮熱テント膜の耐用年数を延長することによって、廃棄頻度(張替交換)を減らして廃棄物を削減することによって、地球環境保全に貢献することである。
【解決手段】布帛に熱可塑性樹脂層が積層された複合体シートにおいて、熱可塑性樹脂層が、表面処理酸化チタン粒子(一次平均粒子径を0.4~1.2μm)、ケト/エノール型互変異性体、及び防黴(藻)剤、を必須とすることで耐用年数を延長し、さらに熱可塑性樹脂層内に、酸化亜鉛、または酸化チタンと酸化亜鉛の混合物を含む構成、さらに熱可塑性樹脂層上に、「ケト/エノール型互変異性体、及びN-OR型ヒンダードアミン」、または「酸化亜鉛、または酸化チタンと酸化亜鉛の混合物」、または光触媒性金属酸化物を含む薄膜層を設ける。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間を構成するフレーム構造体の側壁外周、及び天蓋に防水シートを装着してなるテント膜構造物であって、前記防水シートが「(表面)熱可塑性樹脂層/布帛/(裏面)熱可塑性樹脂層」構成からなる複数の可撓積層体による連結縫製物であり、少なくとも前記(表面)熱可塑性樹脂層が、一次平均粒子径0.4~1.2μmの表面処理酸化チタン粒子、ケト/エノール型互変異性体、及び防黴(藻)剤を必須とすることを特徴とする耐候性に優れた遮熱テント膜構造物。
【請求項2】
前記ケト/エノール型互変異性体が、ベンゾトリアゾール系互変異性体、トリアジン系互変異性体、及びジフェニルケトン系系互変異性体、から選ばれた1種以上である請求項1に記載の遮熱テント膜構造物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂層が、酸化亜鉛、または酸化チタンと酸化亜鉛の混合物をさらに含み、かつ前記酸化亜鉛、及び酸化チタンが、粒子表面にコーティング層を有する一次平均粒子径0.3μm以下のものである請求項1に記載の遮熱テント膜構造物。
【請求項4】
前記(表面)熱可塑性樹脂層上に、ベンゾトリアゾール系互変異性体、トリアジン系互変異性体、及びジフェニルケトン系系互変異性体、から選ばれた1種以上のケト/エノール型互変異性体、及びN-OR型ヒンダードアミンを含む薄膜層が形成されている請求項1~3の何れか1項に記載の遮熱テント膜構造物。
【請求項5】
前記(表面)熱可塑性樹脂層上に、酸化亜鉛、または酸化チタンと酸化亜鉛の混合物を含む薄膜層が形成され、かつ前記酸化亜鉛、及び酸化チタンが、粒子表面にコーティング層を有する一次平均粒子径10~50nmのものである請求項1~3の何れか1項に記載の遮熱テント膜構造物。
【請求項6】
前記(表面)熱可塑性樹脂層上に、オルガノシリケート化合物、またはシラノール基含有有機シラン化合物のゾルゲル縮合体を主体とする薄膜層が形成され、この薄膜層内に、酸化チタン、過酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、チタン酸ストロンチウム、酸化タングステン、酸化ビスマス、及び酸化鉄、から選ばれた1種以上の光触媒性金属酸化物を含有している請求項1~3の何れか1項に記載の遮熱テント膜構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に遮熱性を有し長期間の使用に耐えるテント膜構造物、すなわち耐用年数の延長された遮熱テント膜構造物に関し、具体的には、外観を維持するための、経年による日射変色の抑止、日射劣化抑止、黴や藻類の発生抑止、によって耐用年数が延長された遮熱テント膜を装備する建築構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
密閉型のテント膜構造物は、インドアスポーツ(テニス、フットサル、ボルダリングなど)、イベントホール、パビリオン、巡業サーカステント、映像投影ドーム、グランピングなど娯楽(人間)を主体とするものと、テント倉庫のように、工場資材の保管・備蓄、製品の物流(物品)を主体とするものとがある。いずれもポリエステル繊維織物などの合成繊維織物を基材として、その両面に軟質塩化ビニル樹脂などの熱可塑性樹脂層を設けて被覆したターポリン、または防水帆布などが使用されている。密閉型のテント膜構造物とは、出入口扉、開閉窓を有し、これらを閉じることで密閉空間を成すもので、一方、オープン型は、屋根構造を主体とする吹き抜け構造物で、具体的には、公園、テーマパークの日除けモニュメント、ビル間スペースに設けられるガーデンテラス屋根、パーゴラシェードなどである。密閉型のテント膜構造物は人や物品を風雨、日射から守る反面、採光性を得るための光半透過性仕様とするため、夏期の日射熱が内部にこもり易い欠点がある。一方、オープン型では風通しがよい反面、人や物品を風雨から守ることには不適切である。特に密閉型のテント膜構造物において、娯楽(人間)を主体とするものでは空調設備、冷暖房設備を完備するが、物流(物品)を主体とするテント倉庫にはこのような設備を装備するケースは少ない。しかしながらテント倉庫内は夏期の熱気がこもり過酷な環境となるため、工場資材の保管・備蓄を管理・入出庫する従事者にとって、扇風機、スポットクーラーなどの熱中症対策は不可欠となっている。
【0003】
このようなテント倉庫内の熱気を下げるためには、テント膜(ターポリン、防水帆布)の色を白、シルバーなどの反射色とすることが効果的で、特に酸化チタン顔料は屈折率が高いことで光散乱力が大きく、それによって高い日射反射率(遮熱率)が得られることが知られている。しかし、光散乱力が大きい程、隠蔽性が高くなり、テント膜の採光性が阻害されるためテント倉庫内は日中も照明が必要な環境となっていた。このジレンマに対して当出願人は以前に、遮熱効果と採光性とを兼ね備えたテント(倉庫用)膜材として、膜材の熱可塑性樹脂被覆層に、屈折率1.8以上、粒子径分布0.3~3.0μm、アスペクト比1.0~3.0の不定形無機化合物粒子(酸化チタン)を0.3~30質量%の含有量で含ませてなる膜材(特許文献1)を提案した。この実施例では38~65%の遮熱率、及び光線透過率4~45%の採光性を得ることができ、夏期の空調電力、及び通年の照明電力節減効果が期待できるものとなっている。しかし、光線透過率4~45%の採光性の代償として、光線線透過による紫外線ダメージでテント膜(熱可塑性樹脂被覆層)が変色したり、表面に亀裂を生じて膜材の耐用年数を短くするリスクを孕んでいた。昨今のSDGsの取り組みの1つとして長期的使用が可能なテント膜材が望まれている。これはテント膜材の耐用年数を数年延ばすことにより、テント膜材の張替サイクルが長くなり、テント膜材を製造するための合成繊維織物、及び熱可塑性樹脂などの原料となる石化資源の消費を減らし、さらに二酸化炭素排出の削減にも繋がる社会貢献となるからである。
【0004】
具体的に、軟質塩化ビニル系樹脂製のテント(倉庫用)膜材の耐用年数を向上させる手段として、本出願人は、軟質塩化ビニル系樹脂層に紫外線吸収剤を配合する方法(特許文献2)、遮熱性複合体シートの表面に高分子量紫外線吸収剤を配合した塗膜層を設ける方法(特許文献3)、遮熱効果を低下させる煤塵汚れを長期間にわたり防止し、採光性、遮熱性・汚れ除去性に優れた屋外用膜材として、光触媒性最外層を有する採光性遮熱膜材(特許文献4)を提案している。また、煤塵汚れ、カビによる変着色などの環境汚れを長期間にわたり防止できる膜材として、無機防カビ性物質を主成分として含む防カビ剤、及び光触媒最外面層による美観持続性積層膜材(特許文献5)を提案した。これらは何れも有用な作用効果をもたらすものであるが、昨今のSDGsの取り組みの1つとして長期的使用が可能な遮熱テント膜を装備する建築構造物が望まれていて、その耐用年数延長の技術解決が急務となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-055177号公報
【特許文献2】特開昭59-41249号公報
【特許文献3】特開2001-225423号公報
【特許文献4】特開2003-251728号公報
【特許文献5】特開2003-053905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明における解決課題は、遮熱テント膜構造物の耐用年数の向上であり、すなわち外観、及び基本性能を維持するために、耐候性(紫外線劣化軽減)、及び防黴(藻)性に優れた遮熱テント膜を装備する建築構造物の提供である。また、本発明における目的は、遮熱テント膜構造物の耐用年数を延長することによって、廃棄頻度(すなわち張替)を減らして廃棄物を削減することによって、地球環境保全に貢献することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる点を考慮し検討を重ねた結果、本発明の耐候性に優れた遮熱テント膜構造物は、空間を構成するフレーム構造体の側壁外周、及び天蓋に防水シートを装着してなるテント膜構造物であって、前記防水シートが「(表面)熱可塑性樹脂層/布帛/(裏面)熱可塑性樹脂層」構成からなる複数の可撓積層体による連結縫製物であり、少なくとも前記(表面)熱可塑性樹脂層が、一次平均粒子径0.4~1.2μmの表面処理酸化チタン粒子、ケト/エノール型互変異性体、及び防黴(藻)剤を必須とすることによって、耐候性(紫外線劣化軽減)、及び防黴(藻)性に優れた遮熱テント膜を装備する建築構造物が得られ、遮熱テント膜構造物としての耐用年数の向上が可能となり、その結果、遮熱テント膜(防水シート)の廃棄頻度(すなわち張替)が減り、同時に膜材の生産量も減ることで二酸化炭素排出の要因となる石化資源の消費を抑え、持続性の地球環境保全に貢献するものとなることを確信して本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明の耐候性に優れた遮熱テント膜構造物は、前記ケト/エノール型互変異性体が、ベンゾトリアゾール系互変異性体、トリアジン系互変異性体、及びジフェニルケトン系系互変異性体、から選ばれた1種以上であることが好ましい。このケト/エノール型互変異性体は、太陽光(紫外線)の刺激で、エノール型異性体と、ケト型異性体とのナノ秒単位の相互変換を繰り返すことで、熱可塑性樹脂層内にエノール型とケト型の異性体が平衡状態で共存し、受けた紫外線エネルギーを相互変換の分子振動の熱エネルギーに替えて系外放出する、エネルギー減衰作用の発現で紫外線によるダメージを軽減させることができ、それによって遮熱テント膜(防水シート)の耐久性を向上させる。
【0009】
本発明の耐候性に優れた遮熱テント膜構造物は、前記熱可塑性樹脂層が、酸化亜鉛、または酸化チタンと酸化亜鉛の混合物をさらに含み、かつ前記酸化亜鉛、及び酸化チタンが、粒子表面にコーティング層を有する一次平均粒子径0.3μm以下のものであることが好ましい。これによって熱可塑性樹脂層に含まれる一次平均粒子径0.4~1.2μmの表面処理酸化チタン粒子間に生じる隙間に、一次平均粒子径0.3μm以下(0.1μm~0.3μm)の酸化亜鉛、または酸化亜鉛と酸化チタンの粒子が入り込むことを可能とし、この粒子径の酸化亜鉛、及び酸化チタン粒子は、熱可塑性樹脂層内に透過する紫外線を散乱させて紫外線の透過を遮蔽することができ、特に酸化亜鉛はUVA(紫外線A波)の遮蔽効果に優れ、酸化チタンはUVB(紫外線B波)の遮蔽効果に優れるので、酸化チタンと酸化亜鉛の混合物を用いることにより、遮熱テント膜(防水シート)の耐久性を向上させる。本発明に用いる酸化亜鉛、及び酸化チタン粒子は表面処理により光触媒活性が封止された熱可塑性樹脂層を劣化させない紫外線遮蔽剤である。
【0010】
本発明の耐候性に優れた遮熱テント膜構造物は、前記(表面)熱可塑性樹脂層上に、ベンゾトリアゾール系互変異性体、トリアジン系互変異性体、及びジフェニルケトン系系互変異性体、から選ばれた1種以上のケト/エノール型互変異性体、及びN-OR型ヒンダードアミンを含む薄膜層が形成されていることが好ましい。このケト/エノール型互変異性体は、太陽光(紫外線)の刺激で、エノール型異性体と、ケト型異性体とのナノ秒単位の相互変換を繰り返すことで、薄膜層内にエノール型とケト型の異性体が平衡状態で共存し、受けた紫外線エネルギーを相互変換の分子振動の熱エネルギーに替えて系外放出する、エネルギー減衰作用の発現で紫外線による(表面)熱可塑性樹脂層へのダメージを軽減させる。N-OR型ヒンダードアミン化合物は、紫外線ダメージで生じる過酸化物ラジカル(ROO・)をN-OR部で捕獲してアルコール、ケトンに無害化して放出し、自身はニトロキシラジカル(N-O・)に転じ、紫外線ダメージで生じるアルキルラジカル(R・)を捕捉してN-OR型ヒンダードアミン化合物も戻るというナノ秒単位のサイクルを繰り返すことで、有害なラジカルの攻撃による薄膜層内の結合開裂の連鎖進行を抑止することで、遮熱テント膜(防水シート)の耐久性を向上させる。
【0011】
本発明の耐候性に優れた遮熱テント膜構造物は、前記(表面)熱可塑性樹脂層上に、酸化亜鉛、または酸化チタンと酸化亜鉛の混合物を含む薄膜層が形成され、かつ前記酸化亜鉛、及び酸化チタンが、粒子表面にコーティング層を有する一次平均粒子径10~50nmのものであることが好ましい。この薄膜層の存在によって(表面)熱可塑性樹脂層内に透過する紫外線を、一次平均粒子径10~50nmの酸化亜鉛、及び/または酸化チタン粒子により散乱させて紫外線の透過を遮蔽するので、(表面)熱可塑性樹脂層の耐光性をケト/エノール型互変異性体との相乗効果でさらに向上させることができる。特に酸化亜鉛はUVA(紫外線A波)の遮蔽効果に優れ、酸化チタンはUVB(紫外線B波)の遮蔽効果に優れるので、酸化チタンと酸化亜鉛の混合物を用いることが好ましく、それによって遮熱テント膜(防水シート)の耐久性を向上させる。本発明に用いる酸化亜鉛、及び酸化チタン粒子は表面処理により光触媒活性が封止された熱可塑性樹脂層を劣化させないものである。
【0012】
本発明の耐候性に優れた遮熱テント膜構造物は、前記(表面)熱可塑性樹脂層上に、オルガノシリケート化合物、またはシラノール基含有有機シラン化合物のゾルゲル縮合体を主体とする薄膜層が形成され、この薄膜層内に、酸化チタン、過酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、チタン酸ストロンチウム、酸化タングステン、酸化ビスマス、及び酸化鉄、から選ばれた1種以上の光触媒性金属酸化物を含有していることが好ましい。このような薄膜層を(表面)熱可塑性樹脂層上に配置することによって、薄膜層内に含む光触媒性金属酸化物が紫外線励起により光触媒活性を発現させる。この光触媒活性は、煤塵汚れなどの付着異物の除去をセルフクリーニング作用として熱可塑性樹脂層の長期持続に寄与する。この時、本発明の耐候性に優れた遮熱テント膜構造物が受ける紫外線は薄膜層を透過し、さらに熱可塑性樹脂層まで到達するが、薄膜層では、透過する紫外線エネルギーの一部が光触媒性金属酸化物の活性化で消費されるので、下に位置する(表面)熱可塑性樹脂層に到達する紫外線エネルギーは減衰したものとなる。従って薄膜層を(表面)熱可塑性樹脂層上に配置することは熱可塑性樹脂層の保護となり、如いては耐候性に優れた遮熱テント膜構造物の耐用年数の延長に寄与することになる。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、耐用年数が向上した遮熱テント膜構造物を得ることができる。すなわち耐候性(紫外線劣化軽減)、及び防黴(藻)性に優れることで、きれいなままの外観を長期間維持できる遮熱テント膜構造物の提供が可能となる。具体的に、屋内スポーツ施設、イベントパビリオン、移動サーカス、プラネタリウム、テント倉庫などの長期使用(10~15年)のテント構造物などに最適となり、さらに、建築養生(防音)シート、パーゴラシェード(膜天井)、ファサードシート、昇降式シートシャッター、間仕切りシート、トラック幌、野積防水シート、屋形テントなどの10年未満の用途にも展開可能となる。特に、遮熱テント膜の耐用年数が延長されることによって、廃棄頻度(すなわち張替)が減り、同時に膜材の生産量も減ることで二酸化炭素排出の要因となる石化資源の消費を抑え、持続性の地球環境保全に貢献することができるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の耐候性に優れた遮熱テント膜構造物(以下「遮熱テント膜構造物」と記載する)は、空間を構成するフレーム構造体の側壁外周、及び天蓋に防水シートを装着してなるテント膜構造物であって、防水シートが「(表面)熱可塑性樹脂層/布帛/(裏面)熱可塑性樹脂層」構成からなる複数の可撓積層体による連結縫製物であり、少なくとも(表面)熱可塑性樹脂層が、一次平均粒子径0.4~1.2μmの表面処理酸化チタン粒子、ケト/エノール型互変異性体、及び防黴(藻)剤を必須成分として含有している態様、熱可塑性樹脂層に、特定の酸化亜鉛、または特定の酸化チタンと特定の酸化亜鉛の混合物をさらに含む態様、(表面)熱可塑性樹脂層上に、ケト/エノール型互変異性体、及びN-OR型ヒンダードアミンを含む薄膜層が形成されている態様、(表面)熱可塑性樹脂層上に、特定の酸化亜鉛、または特定の酸化チタンと特定の酸化亜鉛の混合物を含む薄膜層が形成された態様、(表面)熱可塑性樹脂層上に、ゾルゲル縮合体を主体とする薄膜層が形成され、この薄膜層内に光触媒性金属酸化物を含有する態様を含むもので、日射条件、立地条件、テント膜構造物の形状、などの理由によって、1棟の遮熱テント膜構造物に、これらの態様を複数使用して機能分担することで、不利な条件を克服することもできる。
【0015】
本発明の遮熱テント膜構造物のパーツとなる防水シートは、「(表面)熱可塑性樹脂層/布帛/(裏面)熱可塑性樹脂層」構成からなる複数の可撓積層体(ターポリン、または防水帆布)を連結して拡張したものである。(表面及び裏面)熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂は、軟質塩化ビニル樹脂(可塑剤配合)、塩化ビニル系共重合体樹脂、塩素化塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂(PE,PP)、オレフィン系共重合体樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)、エチレン-(メタ)アクリル酸(エステル)共重合体樹脂、ウレタン樹脂、酢酸ビニル系共重合体樹脂、スチレン系共重合体樹脂、ポリエステル系共重合体樹脂、フッ素含有共重合体樹脂など、ショアA硬度35~85程度の熱可塑性樹脂、またはエラストマーであり、これらは相溶、または半相溶の状態で2種以上をブレンドしてもよく、また2種以上の多層フィルム、または多層塗膜としてもよい。エラストマーとは2種以上のモノマーからなるブロック共重合体樹脂で、個々のブロック成分がハードセグメント、及びソフトセグメントを構成する可撓性樹脂である。テント膜構造物用のターポリンは、布帛の両面に熱可塑性樹脂組成物フィルムを(表面及び裏面)熱可塑性樹脂層として積層した厚さ0.5~1.5mmの可撓積層体で、熱可塑性樹脂組成物フィルムは軟質塩化ビニル樹脂(可塑剤配合)によるものが、加工性、柔軟性、耐摩耗性、耐候性、防炎性などに優れ最も好ましい。またテント膜構造物用の防水帆布は、布帛の両面に液状の熱可塑性樹脂組成物を含浸塗工し、それを皮膜固化させて、(表面及び裏面)熱可塑性樹脂層を形成してなる厚さ0.3~0.8mmの可撓積層体で、熱可塑性樹脂組成物は軟質塩化ビニル樹脂(可塑剤配合ペーストゾル)によるものが、加工性、柔軟性、耐摩耗性、耐候性、防炎性などに優れ最も好ましい。
【0016】
(表面、または表面及び裏面)熱可塑性樹脂層に必須成分として含む表面処理酸化チタン粒子の一次平均粒子径は0.4~1.2μmであることが好ましい。白色顔料としての酸化チタンは、粒子径を光の波長の約1/2の0.2~0.4μmサイズとすることで可視光線領域(400~700nm)の散乱を最大とすることで高い隠蔽性を得る。一方、粒子径を0.4~1.2μmにサイズアップすることによって隠蔽性は下がるが、日射エネルギーの約50%を占める近赤外線領域(780~2500nm)の反射効果が高くなることで顔料酸化チタンよりも優れた遮熱効果を得ることができる。好ましい一次平均粒子径は0.9~1.1μmの粒子で、これらの表面処理酸化チタン粒子の形状はアスペクト比1:1~1:2の、略球形、卵型、俵型、じゃが芋型、などである。また、短軸粒子径0.4~0.8μm、長軸粒子径2.0~4.0μm、アスペクト比1:5~1:10の棒型、角材型などの表面処理酸化チタン粒子を併用することもできる。表面処理が施されていないと光触媒活性により熱可塑性樹脂層の熱可塑性樹脂をラジカル攻撃して劣化させる。酸化チタン粒子に施す表面処理は、凝集防止、分散性向上、及び酸化チタン粒子の光触媒活性を封止するためのもので、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、及び水酸化アルムニウム、から選ばれた1種以上(選択肢は7種)の金属酸化物による表面処理である。またこれらの金属酸化物による表面処理の上に、さらなる表面処理として、シランカップリング剤、飽和アルキルチタネート、飽和アルキルシラン、ポリシロキサン、アクリルシリコン、及び金属石鹸(ステアリン酸、ラウリン酸などの長鎖脂肪酸と、バリウム、亜鉛などの金属との金属塩)などが1種1層または2種2層が施された多層表面処理であってもよい。このような表面処理によって凝集防止、分散性がさらに向上する。熱可塑性樹脂層に含む、表面処理酸化チタン粒子の配合量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して3~20質量部、好ましくは5~12質量部である。
【0017】
(表面、または表面及び裏面)熱可塑性樹脂層に必須成分として含むケト/エノール型互変異性体の配合量は、熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂100質量部に対して0.1~10質量部、好ましくは0.2~5質量部で、ケト/エノール型互変異性体は、ベンゾトリアゾール系互変異性体、トリアジン系互変異性体、及びジフェニルケトン系変異性体から選ばれた1種以上である。ここで複数のケト/エノール型互変異性体の使用とは、異なる系の組み合わせ、及び同一系での組み合わせのバリエーションを包含する。ケト/エノール型互変異性体とは、R
2-CH-(C=O)-R
1(ケト型異性体)と、R
2-C=CH(OH)-R
1(エノール型異性体)とが可逆変換しうる有機化合物である。ベンゾトリアゾール系互変異性体は、エノール型とケト型が存在し、エノール型異性体(Ia)は、水酸基(1~2個)/ケトン基(0個)のベンゼン環(C1~C10アルキル基、C4~C10分岐アルキル基、アルキル置換ベンジル基から選ばれた1種または2種を有していてもよい)1個と、ベンゾトリアゾール環(塩素基を有していてもよい)とのC-N結合体を骨格とする有機化合物〔化1〕で、具体的にベンゼン環の2位に水酸基を有する構造、ベンゼン環の2位と、3~5位の何れかに水酸基を有する構造、ベンゼン環の2位に水酸基、3位及び/または5位にアルキル基、分岐アルキル基、アルキル置換ベンジル基から選ばれた1種または2種を有する構造である。ケト型異性体(IIa)は、水酸基(0~1個)/ケトン基(1個)のベンゼン環(C1~C10アルキル基、C4~C10分岐アルキル基、アルキル置換ベンジル基の何れかを有していてもよい)1個と、ベンゾトリアゾール環(塩素基を有していてもよい)とのC-N結合体を主骨格とする有機化合物〔化2〕で、具体的にベンゼン環の2位にケトン基を有する構造、ベンゼン環の2位にケトン基、3~5位の何れかに水酸基を有する構造、ベンゼン環の2位にケトン基、3位及び/または5位にアルキル基、分岐アルキル基、アルキル置換ベンジル基の何れかを有する構造である。ケト型とエノール型、双方の異性体が相互変換を繰り返して、双方の異性体が平衡状態で共存するもので、分子量が250~700の範囲のベンゾトリアゾール系化合物、特にエノール型として、ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール誘導体が好ましい。この熱可塑性樹脂層内部では、太陽光(紫外線)エネルギー励起により、ベンゾトリアゾール系互変異性体が、エノール型異性体(Ia)〔化1〕と、ケト型異性体(IIa)〔化2〕に相互変換を繰り返すことによって、紫外線エネルギーを相互変換の分子振動エネルギーに変換して系外放出する作用により、紫外線による劣化ダメージを減衰させる。この熱可塑性樹脂層の紫外線減衰効果が、本発明の耐候性に優れた遮熱テント膜構造物の耐用年数延長に大きく作用する。ここでアルキル置換ベンジル基は、ベンジル基「C
6H
6-CH
2-」を、「C
6H
6-CR
1R
2-」(R
1,R
2はC1~C10アルキル基)にアルキル置換したものを意味する。また、ベンゾトリアゾール系互変異性体は、アクリル系ポリマーの側鎖にグラフトしたものを使用することができる。
【化1】
Rは、水酸基、アルキル基、分岐アルキル基、アルキル置換ベンジル基
から選ばれた1種以上
【化2】
Rは、水酸基、アルキル基、分岐アルキル基、アルキル置換ベンジル基
から選ばれた1種以上
【0018】
また、トリアジン系互変異性体は、エノール型とケト型が存在し、エノール型異性体(Ib)は、水酸基(1~2個)/ケトン基(0個)のベンゼン環(C1~C10アルキルオキシ基を有していてもよい)1~3個と、1,3,5-トリアジン環(アルキル(1~2個)置換フェニル基、及び/または水酸基(1~2個)置換フェニル基を有していてもよい)とのC-C結合体を主骨格とする有機化合物〔化3〕で、具体的にベンゼン環の2位に水酸基を有する構造、ベンゼン環の2位と4位に水酸基を有する構造、ベンゼン環の2位に水酸基、4位にアルキルオキシ基を有する構造、また、アルキル(1~2個)置換フェニル基は2位または4位、2位と4位であり、水酸基(1~2個)置換フェニル基は2位または4位、2位と4位である。ケト型異性体(IIb)は、水酸基(0~1個)/ケトン基(1個)のベンゼン環(C1~C10アルキルオキシ基を有していてもよい)1~3個と、1,3,5-トリアジン環(アルキル(1~2個)置換フェニル基、及び/または水酸基(1~2個)置換フェニル基を有していてもよい)とのC-C結合体を骨格とする有機化合物〔化4〕で、具体的にベンゼン環の2位にケトン基を有する構造、ベンゼン環の2位にケトン基と4位に水酸基を有する構造、ベンゼン環の2位にケトン基、4位にアルキルオキシ基を有する構造、また、アルキル(1~2個)置換フェニル基は2位または4位、2位と4位であり、水酸基(1~2個)置換フェニル基は2位または4位、2位と4位である。ケト型とエノール型、双方の異性体が相互変換を繰り返して、双方の異性体が平衡状態で共存するもので、特に分子量が250~700の範囲のトリアジン系化合物、特にエノール型として、ヒドロキシフェニル-1,3,5-トリアジン誘導体が好ましい。この遮熱層内部では、太陽光(紫外線)エネルギー励起により、トリアジン系互変異性体が、エノール型異性体(Ib)〔化3〕と、ケト型異性体(IIb)〔化4〕に相互変換を繰り返すことによって、紫外線エネルギーを相互変換の分子振動エネルギーに変換して系外放出する作用により、紫外線による劣化ダメージを減衰させる。この熱可塑性樹脂層の紫外線減衰効果が、本発明の耐候性に優れた遮熱テント膜構造物の耐用年数延長に大きく作用する。具体的にアルキルオキシ基は、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、tert-ブチル基、ペンチルオキシ基などである。また、トリアジン系互変異性体は、アクリル系ポリマーの側鎖にグラフトしたものを使用することができる。
【化3】
R
1は、水酸基、及び/またはアルキルオキシ基
R
2,R
3は、アルキル置換フェニル基、及び/または水酸基置換フェニル基
【化4】
R
1は、水酸基、及び/またはアルキルオキシ基
R
2,R
3は、アルキル置換フェニル基、及び/または水酸基置換フェニル基
【0019】
また、ジフェニルケトン系互変異性体はエノール型とケト型が存在し、エノール型異性体(Ic)は、水酸基(1~2個)/ケトン基(0個)/アルキルオキシ基(0~1個)のベンゼン環2個がC=O結合で連結された主骨格の有機化合物〔化5〕で、具体例にベンゼン環の2位に水酸基を有する構造、ベンゼン環の2位と4位に水酸基を有する構造、ベンゼン環の2位に水酸基、4位にアルキルオキシ基を有する構造である。また、ケト型異性体(IIc)は水酸基(0~1個)/ケトン基(1個)/アルキルオキシ基(0~1個)のベンゼン環(A)1個と、水酸基(1~2個)/ケトン基(0個)/アルキルオキシ基(0~1個)のベンゼン環(B)1個がC=O結合で連結された主骨格の有機化合物〔化6〕で、具体例にベンゼン環(A)の2位にケトン基を有する構造、ベンゼン環(A)の2位にケトン基、4位に水酸基を有する構造、ベンゼン環(A)の2位にケトン基、4位にアルキルオキシ基を有する構造、ベンゼン環(B)の2位に水酸基を有する構造、ベンゼン環(B)の2位と4位に水酸基を有する構造、ベンゼン環(B)の2位に水酸基、4位にアルキルオキシ基を有する構造である。このケト型とエノール型、双方の異性体が相互変換を繰り返して、双方の異性体が平衡状態で共存する分子量200~400の範囲のジフェニルケトン系化合物、特にエノール型として、ヒドロキシジフェニルケトン誘導体が好ましい。この熱可塑性樹脂層内部では、太陽光(紫外線)エネルギーにより、ジフェニルケトン系互変異性体が、エノール型異性体(Ic)〔化5〕と、ケト型異性体(IIc)〔化6〕に相互変換を繰り返すことによって、紫外線エネルギーを相互変換の分子振動エネルギーに変換して系外放出する作用により、紫外線による劣化ダメージを減衰させる。この熱可塑性樹脂層の紫外線減衰効果が、本発明の耐候性に優れた遮熱テント膜構造物の耐用年数延長に大きく作用する。具体的にアルキルオキシ基は、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、tert-ブチル基、ペンチルオキシ基などである。また、ジフェニルケトン系互変異性体は、アクリル系ポリマーの側鎖にグラフトしたものを使用することができる。
【化5】
R
1,R
2は、水酸基、及び/またはアルキルオキシ基
【化6】
R
1,R
2は、水酸基、及び/またはアルキルオキシ基
【0020】
熱可塑性樹脂層に必須成分として含む防黴(藻)剤は、黴、藻、細菌(グラム陽性、グラム陰性)、真菌などの細胞壁、細胞膜、細胞質、及び細胞核などに対して、酸化的リン酸化阻害、電子伝達系阻害、-SH基阻害、DNA合成阻害、細胞表皮機能阻害、脂質代謝阻害、キレート形成などの作用を及ぼす官能基、例えば-Cl、-Br、-F、-I、-S-、-(S)n-、-NO2 、-CF3 、-SCN、-NCS、-SCF3 、-CHI2 、-CH2 Cl、-CCl3 、-SCCl3 、-OCCl3 、=CHCCl3 、-CI=CI2 、-CI=CIBr、-CH2 C≡CI、-OCH2C≡Cl、=NC(S)S-、-NHCOC≡Cl、-CO-N(OCH3 )-、-CO-NR-CO-、-NSCCl3 、-NSCCl2 F、-SO2 -CH3 、-SO2 -S-CH3 、-SO2 C6 H4 CH3 、-NC6 H4 (p-CH3 )SO2 C6 H4 (p-CH3 )、及び-NC6 H4 (p-CH3 )SO2 N(CH3 )2 基を有する化合物である。これらの防黴(藻)剤は、イミダゾール系化合物、チアゾール系化合物、N-ハロアルキルチオ系化合物、ピリジン系化合物、ピリチオン系化合物、イソチアゾリン系化合物、トリアジン系化合物、有機金属系化合物などの有機系化合物が挙げられ、これらの化合物から選ばれた少なくとも1種以上を、熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂100質量部に対して0.01~5質量部、特に0.1~2.0室量部を含むものが好ましい。また、銀イオン担持ゼオライト、銅イオン担持ゼオライト、などの無機系防黴(藻)剤と併用することで、初期~中期を主に有機系化合物による防黴(藻)効果とし、中期~後期を主に無機系防黴(藻)剤による効果とに分担させることで、総合的に美観持続性を延長させることができる。
【0021】
具体的にイミダゾール系化合物としては、2-(4-チアゾリル)-ベンズイミダゾール(略称TBZ)、2-(カルボメトキシアミノ)ベンズイミダゾール(略称BCM)、1-(ブチルカルバモイル)-2-ベンズイミダゾールカルバミン酸メチルなど、チアゾール系化合物としては、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-(チオシアノメチルチオ)ベンゾチアゾール、2-(チオシアノメチルスルホニル)ベンゾチアゾールなど、N-ハロアルキルチオ系化合物としては、N-(フルオロジクロロメチルチオ)フタルイミド、N-トリクロロメチルチオテトラヒドロフタルイミド、N-(トリクロロメチルチオ)-4-シクロヘキサン1,2-ジカルボキシイミド、及びN,N-ジメチル-N′-(フルオロジメチルチオ)-N′-フェニルスルファミドなど、ピリジン系化合物としては、2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルホニル)ピリジン、ピリチオン系化合物としては、ビス(ピリジン-2-チオール-1-オキシド)亜鉛塩(略称ZPT)、(2-ピリジンチオール-1-オキサイド)ナトリウム塩、2,2′-ジチオ-ビスピリジン-1-オキサイドなど、イソチアゾリン系化合物としては、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリル-3-オン、2-トリクロロメチルチオ-4-イソチアゾリン-3-オンなど、トリアジン系化合物としては、ヘキサヒドロ-N,N′,N″-トリス(2-ヒドロキシエチル)-S-トリアジン、ヘキサヒドロ-N,N′,N″-トリエチル-S-トリアジンなど、有機金属系化合物としては、10,10′-オキシビスフェノキシアルシン(略称OBPA)、8-オキシキノリン銅、2-エチルヘキサン酸ニッケルなどが挙げられる。これらの防黴(藻)剤は、シリカ、ゼオライト、珪藻土などの無機系多孔質微粒子、またはシクロデキストリンの微細空孔に担持させた徐放性タイプを使用することが耐用年数向上の観点において特に好ましい。
【0022】
本発明の遮熱テント膜構造物の態様として、(表面、または表面及び裏面)熱可塑性樹脂層に、酸化亜鉛、または酸化チタンと酸化亜鉛の混合物を紫外線遮蔽材としてさらに含むことができる。この酸化亜鉛、及び酸化チタンは、粒子表面にコーティング層を有する一次平均粒子径0.3μm以下のものであることが好ましい。これによって熱可塑性樹脂層に含む一次平均粒子径0.4~4.0μmの表面処理酸化チタン粒子間に生じる隙間に、一次平均粒子径0.3μm以下(0.1μm~0.3μm)の酸化亜鉛、または酸化亜鉛と酸化チタンの粒子が入り込むことを可能とし、このような粒子径の酸化亜鉛、及び酸化チタン粒子の表面積が増大することで、熱可塑性樹脂層内に透過する紫外線を散乱させて紫外線の透過を効果的に遮蔽する。この紫外線遮蔽効果によって、熱可塑性樹脂層の耐光性をケト/エノール型互変異性体との相乗効果をさらに向上させる。特に酸化亜鉛はUVA(紫外線A波)の遮蔽効果に優れ、酸化チタンはUVB(紫外線B波)の遮蔽効果に優れるので、酸化チタンと酸化亜鉛の質量比率10:6~6:10の混合物、特に10:10の混合物を用いることが好ましい。本発明に用いる酸化亜鉛、及び酸化チタン粒子は表面処理により光触媒活性が封止されたものが好ましい。表面処理が施されていないと光触媒活性により熱可塑性樹脂層の熱可塑性樹脂をラジカル攻撃して劣化させる。酸化亜鉛粒子、及び酸化チタン粒子に施す表面処理は、凝集防止、分散性向上、及び酸化チタン粒子の光触媒活性を封止するためのもので、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、から選ばれた1種以上(選択肢は7種)の金属酸化物による表面処理である。またこれらの金属酸化物による表面処理の上に、さらなる表面処理として、シランカップリング剤、飽和アルキルチタネート、飽和アルキルシラン、ポリシロキサン、アクリルシリコン、及び金属石鹸(ステアリン酸、ラウリン酸などの長鎖脂肪酸と、バリウム、亜鉛などの金属との金属塩)などが1種1層または2種2層が施された多層表面処理であってもよい。このような表面処理によって凝集防止、分散性がさらに向上する。熱可塑性樹脂層に含む、一次平均粒子径0.3μm以下(0.1μm~0.3μm)の表面処理酸化亜鉛、及び/または表面処理酸化チタン粒子の配合量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して3~20質量部、好ましくは5~12質量部である。
【0023】
本発明の遮熱テント膜構造物の態様として、(表面)熱可塑性樹脂層上に、ベンゾトリアゾール系互変異性体、トリアジン系互変異性体、及びジフェニルケトン系系互変異性体、から選ばれた1種以上のケト/エノール型互変異性体、及びN-OR型ヒンダードアミンを含む薄膜層を形成することができる。薄膜層に含むケト/エノール型互変異性体の量は、薄膜層の熱可塑性樹脂バインダー100質量部に対して1~25質量部、特に3~10質量部が好ましい。また、薄膜層に含むN-OR型ヒンダードアミンの量は、薄膜層の熱可塑性樹脂バインダー100質量部に対して0.5~12質量部、特に1~6質量部が好ましい。熱可塑性樹脂バインダーとして、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、フッ素系共重合体樹脂、アクリル系樹脂/ウレタン系樹脂併用、アクリル系樹脂/フッ素系共重合体樹脂併用が挙げられる。薄膜層の厚さは1~20μm、特に3~12μmが好ましい。薄膜層の形成は、グラビアコート、ワイヤーバーコート、キスコート、クリアランスコートなど公知の塗工方法から選択して実施できる。
【0024】
薄膜層のバインダーとなるアクリル系樹脂は、アルキル基の炭素数1~18のアクリル酸アルキルエステル類、及びアルキル基の炭素数1~18のメタアクリル酸アルキルエステル類から選ばれた1種以上のモノマーによる重合体、及び共重合体樹脂、また、エチレン性不飽和カルボン酸類、アミド化合物類、エポキシ基含有(メタ)アクリル酸類、α-オレフィン類、ビニルエーテル類、アルケニル類、ビニルエステル類、芳香族ビニル化合物類などを上記アクリル系モノマーと共重合させたもの、さらにオルガノシロキサン類と共重合したアクリル/シリコン系共重合体樹脂も使用できる。ウレタン系樹脂は、芳香族ポリウレタン(エステル系、エーテル系、ポリカーボネート系)、脂肪族ポリウレタン(エステル系、エーテル系、ポリカーボネート系)、脂環式ポリウレタン(エステル系、エーテル系、ポリカーボネート系)などが挙げられ、耐光堅牢性において脂肪族ポリウレタン、脂環式ポリウレタンが好ましく、耐候堅牢性(耐加水分解性)においてエーテル系、ポリカーボネート系のウレタン系樹脂が特に好ましい。また、ウレタン/シリコン系グラフト共重合体樹脂、ウレタン/フッ素系グラフト共重合体樹脂なども使用できる。フッ素系共重合体樹脂は、フッ化ビニル、ビニリデンフルオライド、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンなどのフッ素原子含有モノマーから選ばれた2種以上を共重合して得られる共重合体、上記フッ素原子含有モノマーとビニルモノマー(β-メチル-β-アルキル置換-α-オレフィン類、アルキルビニルエーテル類、アルキルアリルエーテル類、ビニル基含有エステルなど)との共重合によって得られるフルオロオレフィン共重合体などを単独種、または複数種で使用することができる。これらはイソシアネート化合物、アジリジン化合物、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物などの反応性化合物との併用で架橋部位を生成する水酸基、カルボキシ基を分子構造内に含有する共重合体が好ましい。特にイソシアネート化合物は脂肪族化合物、または脂環式化合物が好ましく、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、及びこれらの三量体(イソシアヌレート型、トリメチルプロパン型、ビウレット型)など、及びこれらのブロックイソシアネート体などが使用できる。またオキサゾリン化合物は、アクリル系樹脂(アクリル共重合体樹脂、アクリル/スチレン共重合体樹脂)の側鎖にオキサゾリン基を有するポリマー型架橋剤(エマルジョン型)を使用することもできる。
【0025】
ケト/エノール型互変異性体は、明細書の段落〔0017〕~〔0019〕に記載したものと同じものを使用できる。N-OR型ヒンダードアミン系化合物としては、その分子構造中に少なくとも1個以上、好ましくは2個、または好ましくは4個、または好ましくは6個のヒンダードアミン構造を有するものが用いられ、特に塩化ビニル樹脂の耐光安定性の向上に効果的である。これらの下記式〔化7〕に示すヒンダードアミン構造のN位には、炭素数2~18のアルコキシ基、または、炭素数5~12のシクロアルコキシ基から選ばれた1種以上の置換基を有し、かつ、これらの分子量は200~400(ヒンダードアミン構造1個)、400~700(ヒンダードアミン構造2~3個)、700~1000(ヒンダードアミン構造4~5個)、1000~2500(ヒンダードアミン構造6個以上)であるものが薄膜層への残留保持性に優れ好ましい。
【化7】
上記〔化7〕中、R
1,R
2,R
3及びR
4は各々独立して、a)水素原子、b)炭素数1~20の直鎖アルキル基、または分枝アルキル基、c)1個以上の-O-,-S-,-SO-,-SO
2-,-CO-,-COO-,-OCO-,-CONR-,-NRCO-または-NR-を含む上記b)のアルキル基、d)炭素数3~20のアルケニル基、e)炭素数6~10のアリール基、f)炭素数1~20のアルキル基、炭素数5~12のシクロアルキル基、及び炭素数7~15のフェニルアルキル基から選択された1~3個の置換基を有するアリール基などであるが、本発明の耐候性に優れた遮熱テント膜構造物に用いるN-OR型ヒンダードアミン系化合物としては、R
1,R
2,R
3及びR
4は全て水素の態様、もしくは全てメチル基の態様が特に好ましい。またR
5は、i)炭素数2~18のアルキル基、すなわち、ヒンダードアミン構造のN位が炭素数2~18のアルコキシ基、特に好ましくは炭素数6~12のアルコキシ基で置換されたもの、ii)炭素数5~12のシクロアルキル基、すなわちヒンダードアミン構造のN位が炭素数5~12のシクロアルコキシ基、好ましくは炭素数5または6または8のシクロアルコキシ基、特に好ましくはシクロヘキシルオキシ基で置換されたものである。
【0026】
これらのN-OR型ヒンダードアミン系化合物の具体例としては、ヒンダードアミン構造〔化7〕のN位に、R5=炭素数2~18のアルキル基、または、R5=炭素数5~12のシクロアルキル基から選ばれた1種以上の置換基R5を有する化合物で、これらは、ビス(1-ウンデカオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)カーボネート、4,4’-ヘキサメチレン-ビス(N-OR5-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン)及び2,4-ジクロロ-6-第三オクチルアミノ-s-トリアジンの重縮合物;1-(2-ヒドロキシエチル)-N-OR5-2,2,6,6-テトラメチル-4-ヒドロキシピペリジン及びコハク酸の重縮合物:N,N’,N’’,N’’’-テトラキス[4,6-ビス(ブチル-(N-OR5-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)アミノ)-s-トリアジン-2-イル]-1,10-ジアミノ-4,7-ジアザデカン;4,4’-ヘキサメチレン-ビス(N-OR5-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン)及び2,4-ジクロロ-6-モルホリノ-s-トリアジンの重縮合物;ポリ[メチル3-(N-OR5-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イルオキシ)プロピル]シロキサン;ビス(N-OR5-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)シクロヘシレンジオキシジメチルマロネート;ビス(N-OR5-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)[[3,5ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート;ビス(N-OR5-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート;1,3,5-トリス{N-シクロヘキシル-N-[2-(N-OR5-2,2,6,6-テトラメチルピペラジン-3-オン-4-イル)エチル]アミノ-s-トリアジン;4,4’-ヘキサメチレン-ビス(N-OR5-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン)及び2,4-ジクロロ-6-シクロヘキシルアミノ-s-トリアジンの重縮合物;及びポリ{N-[4,6-ビス(ブチル-(N-OR5-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)アミノ)-s-トリアジン-2-イル]-1,4,7-トリアザノナン}-ω-N’’-[4,6-ビス(ブチル-(N-OR5-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)アミノ)-s-トリアジン-2-イル]アミン、などの化合物が例示できる。
【0027】
N-OR型ヒンダードアミンによる光安定化は、N-OR型ヒンダードアミンが酸素、紫外線及びパーオキサイドなどにより酸化され、ニトロキシラジカル(NO・)に転化することにより光安定化サイクルが始まり、ニトロキシラジカル(NO・)は熱可塑性樹脂層の熱可塑性樹脂の光劣化により発生したアルキルラジカル(R・)を捕獲してアミノエーテル(NOR)に転じ、次いでアルキルラジカル(R・)と空気中の酸素との反応により生成した過酸化物ラジカル(ROO・)をN-OR部で捕獲して、アルコール、ケトンに無害化して放出し、自身は元のニトロキシラジカル(N-O・)に戻るというナノ秒単位のサイクルを繰り返すことで有害なラジカルの攻撃による熱可塑性樹脂の結合開裂の連鎖進行を抑止することができる。このラジカル無害化のサイクルはNH型ヒンダードアミン、N-アルキル型ヒンダードアミンにおいても同様であるが、塩化ビニル系樹脂の耐光性安定化においてはN-OR型ヒンダードアミンが最も好ましい。本発明においてN-OR型ヒンダードアミンとNH型ヒンダードアミンとの併用、またはN-OR型ヒンダードアミンとN-アルキル型ヒンダードアミンとの併用も可能であり、その併用比率は10:1~10:10、特に10:2~10:5が好ましい。塩化ビニル系樹脂を主体とする配合系でのN-OR型ヒンダードアミンの使用比率が低いと著しい耐光性向上効果が得られなくなることがある。またケト/エノール型互変異性体とN-OR型ヒンダードアミンとの併用比率は10:1~10:5、特に10:3~10:4が好ましい。ケト/エノール型互変異性体の使用比率が低いと著しい耐光性向上効果が得られなくなることがある。
【0028】
また、本発明の遮熱テント膜構造物の態様として、(表面)熱可塑性樹脂層上に、酸化亜鉛、または酸化チタンと酸化亜鉛の混合物を含む薄膜層を形成することができる。この酸化亜鉛、及び酸化チタンは粒子表面にコーティング層を有する一次平均粒子径10~50nmのもので、薄膜層に占める酸化亜鉛、または酸化チタンと酸化亜鉛の混合物の含有量は、0.1~10質量%、特に0.5~5質量%が好ましい。このような超微粒子の酸化亜鉛、及び酸化チタンは、白顔料に適した粒子径から遠ざかることで隠蔽性が低下して薄膜層を透明化すると同時に、超微粒子であることで単位質量に対する表面積(比表面積)が増大し、酸化亜鉛の有するUVA(紫外線A波)遮蔽効果、及び酸化チタンの有するUVB(紫外線B波)遮蔽効果が飛躍的に向上する。超微粒子酸化亜鉛、及び超微粒子酸化チタンは、質量比率10:6~6:10の混合物、特に10:10の混合物で用いることが好ましい。超微粒子の酸化亜鉛、及び酸化チタンにおいても、同じ理由で段落〔0016〕に記載した表面処理によって光触媒活性が封止されたものが好ましい。薄膜層は、オルガノシリケート化合物、またはシラノール基含有有機シラン化合物のゾルゲル縮合体により主構成される。オルガノシリケート化合物は、化学式:SinOn-1(OR)2(n+1)で表される4官能加水分解性シラン化合物であり、式中、Rは炭素原子数1~10のアルキル基(特に炭素数1~3の低級アルキル基)、またはアリール基(特にフェニル基)、nは4官能加水分解性シラン化合物の縮合分子数を表す多量化度(n量体)で、1以上の整数、nが1の化合物として、テトラメトキシシラン「Si(OCH3)4」、テトラエトキシシラン「Si(OC2H5)4」、テトラプロポキシシラン「Si(OC3H7)4」、テトラブトキシシラン「Si(OC4H9)4」、テトラフェノキシシラン「Si(OC6H6)4」、ジメトキシジエトキシシラン「Si(OCH3)2(OC2H5)2」などである。nが2以上の化合物は4官能加水分解性シラン化合物が加水分解して生成するシラノール基同士の反応で2分子以上が縮合して生成する多量体であり、nの表す多量化度は多量体1分子中に含有するSi原子数を意味する。本発明においては多量化度2~10、好ましくは4~6のテトラメトキシシラン、またはテトラエトキシシランを加水分解して得られるシラノール基含有シラン化合物を用いることがゾルゲル縮合体の構造が細密化され好ましい。薄膜層を形成する塗工液(水/アルコール)に含有する、オルガノシリケートの加水分解生成物の濃度は0.01~30質量%、特に0.1~5質量%の範囲が好ましい。またこの塗工液中には薄膜層の柔軟性、屈曲性を付与するためにセルロースナノファイバーを、オルガノシリケートの加水分解生成物の濃度に対して1~10質量%含むことができる。セルロースナノファイバーは、平均アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)10以上50以下、平均繊維径3nm~100nm、平均繊維長100μm以下、特に300nm~500nmの短繊維を用い、これらはシランカップリング剤、ホウ酸化合物、リン酸化合物、ケイ酸化合物などで化学変性されたものであってもよい。
【0029】
また、本発明の遮熱テント膜構造物の態様として、(表面)熱可塑性樹脂層上にオルガノシリケート化合物、またはシラノール基含有有機シラン化合物のゾルゲル縮合体を主体とする薄膜層を形成することができる。この薄膜層内には、酸化チタン、過酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、チタン酸ストロンチウム、酸化タングステン、酸化ビスマス、及び酸化鉄、から選ばれた1種以上の光触媒性金属酸化物を含有することが好ましい。この光触媒性金属酸化物は、平均粒子径50nm以下、特に20nm以下が好ましく、この粒子径サイズでは比表面積が広大となり、十分な光触媒活性を発現することで、油性の煤塵汚れなどを分解し、降雨によりセルフクリーニング除去することができる。それによって本発明の遮熱テント膜構造物の遮熱効果を長期間安定持続させることができる。この薄膜層の形成にはゾル状態の光触媒性金属酸化物を用い、薄膜層に対して10~50質量%含有することが好ましい。これらの光触媒性金属酸化物には、Pt,Rh,RuO2 ,Nb,Cu,Sn,NiOなどの金属及び金属酸化物を相乗化剤として添加することができる。本発明の遮熱テント膜構造物が受ける紫外線は薄膜層を透過し、さらに熱可塑性樹脂層を透過するが、薄膜層では、透過する紫外線エネルギーの一部が光触媒性金属酸化物の活性化に消費されるので、下に位置する熱可塑性樹脂層に到達する紫外線エネルギーは減衰したものとなる。従って薄膜層を熱可塑性樹脂層上に配置することは熱可塑性樹脂層の保護となり、如いては遮熱テント膜構造物の耐用年数を延長することに寄与する。光触媒性金属酸化物は光触媒活性による酸化還元で、有機物を分解する作用を有するので、薄膜層は、オルガノシリケート化合物、またはシラノール基含有有機シラン化合物のゾルゲル縮合体を主体として、薄膜層の摩耗負荷に対する抵抗耐性を向上させ、遮熱テント膜構造物の長期使用を可能とする。また薄膜層にシランカップリング剤(アミノシラン、ビニルシラン、エポキシシラン、メタクリルシラン、アクリルシラン、クロルシラン、メルカプトシラン、イソシアヌレートシラン、イソシアネートシランなど)を1~10質量%含ませて、シランカップリング剤の加水分解物が、ゾルゲル縮合体と光触媒性金属酸化物との間に結合して介在する効果によって、薄膜層の耐屈曲性と摩耗負荷に対する抵抗耐性をより向上させることができる。薄膜層は10nm~5μm、薄膜層に含む光触媒性金属酸化物は、10~50質量%、好ましくは5~35質量%である。また、セルフクリーニングとは、光触媒活性で分解された汚物(煤塵、タール)、黴、藻などの有機物残滓が降雨で洗い流されることで汚物などが付着する以前の外観を取り戻す効果である。薄膜層は、段落〔0027〕に記載したオルガノシリケート化合物、またはシラノール基含有有機シラン化合物のゾルゲル縮合体により主構成され、薄膜層の耐摩耗性、及び耐久性をより延長するために無機コロイド(シリカゾル、アンチモンゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾルなど)をオルガノシリケートの加水分解生成物の濃度に対して0.1~25質量%含むことができる。
【0030】
本発明の遮熱テント膜構造物の熱可塑性樹脂層には、必要に応じて任意の添加剤を含むことができる。耐候性向上に寄与する添加剤として、酸化防止剤(ヒンダードフェノール系、ホスファイト系、イオウ系、ビタミンE系など)、艶消剤として、シリカ、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウムなど、着色剤として有機系顔料、無機系顔料、アルミ光輝性顔料、パール顔料、染料など、帯電防止剤として、界面活性剤、イオン性液体、導電性カーボン、カーボンナノチューブ、フラーレンなど、耐炎剤として、セピオライト、モンモリロナイト、スメクタイトなど、耐摩耗強化剤として、イソシアネート、アクリレート、エポキシ、シランカップリング剤、シリコーンオイルなど、その他、抗菌剤、抗ウイルス剤、などが挙げられる。(表面及び裏面)熱可塑性樹脂層は、例えば軟質塩化ビニル樹脂コンパウンドをカレンダー法、またはTダイス押出法で厚さ0.1mm~1.0mmに溶融圧延(延伸)して得ることができる。また例えば軟質塩化ビニル樹脂ペーストゾルをコーティング、またはディッピングし、これを加熱ゲル化させることで厚さ0.05mm~0.5mmに被膜形成させて得ることができる。
【0031】
本発明の遮熱テント膜構造物に用いる布帛は織物が好ましく、マルチフィラメント糸条、短繊維紡績糸条、及びカバリング糸条、から選ばれた1種以上の糸条を含んで、1)経糸条及び緯糸条からなる織物、または2)経糸条及び左上/右上バイアス糸条からなる三軸織物、または3)経糸条、緯糸条及び左上/右上バイアス糸条からなる四軸織物、の何れかである。特に経糸条及び緯糸条からなる平織物、斜子織物(2×2、3×3、4×4などの正則斜子織、3×2、4×2、4×3、5×3、2×3、2×4、3×4、3×5などの不規則斜子織)、綾織物(経糸、緯糸とも最少3本ずつ用いた最小構成単位を有する:3枚斜文、4枚斜文、5枚斜文、6枚斜文など)、朱子織物(経糸、緯糸とも最少5本ずつ用いた最小構成単位を有する:2飛び、3飛び、4飛び、5飛びなどの正則朱子)、その他、模紗織物、もじり織物(紗織物、絽織物)などが使用できる。特に三軸織物、四軸織物などを使用すれば、糸条同士の交差が複雑、かつ緻密となり、多軸方向に拡がるネットワークによって耐候性に優れた遮熱テント膜構造物に加えられる屈曲、はためきなどの外力ストレスの伝播性が増し、ストレスを広域に分散して受け流すことでダメージを緩和し、同時に引裂などの外力に対する抵抗力を増強する。織物の目付量は100~500g/m2で、空隙率(糸条の交絡によって生じる空間の総和の占有率)はターポリンでは6~25%程度、帆布では0~10%程度が好ましい。これらの織物には精練、漂白、染色、柔軟化、撥水、防黴、防炎、カレンダー、などの公知の染色整理加工を施したものを使用することもできる。ターポリンは布帛の両面に熱可塑性樹脂フィルムをラミネート積層した形態で、帆布は布帛の両面に液状の熱可塑性樹脂組成物を含浸塗工し、それを皮膜化した形態である。
【0032】
織物(布帛)を構成する糸条は、合成繊維、天然繊維、半合成繊維、無機繊維、及びこれらの2種以上から成る混合繊維など、何れの繊維も使用できるが、汎用的には、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート:PET、ポリブチレンテレフタレート:PBT、ポリナフタレンテレフタレート:PNTなど)繊維、ナイロン繊維、及び、これらの混用繊維(混撚・合撚)などの合成繊維による、1)マルチフィラメント糸条、2)短繊維紡績糸条、3)及びカバリング糸条、から選ばれた1種以上の糸条が使用できる。マルチフィラメント糸条は、ナイロン、ポリエステルなどの熱可塑性樹脂を紡糸口金から押出して紡糸した長繊維紡原糸を3~5倍に延伸した長繊維紡糸束(50~500本のフィラメント束)を無撚のまま、または10~200回/m撚りを掛けた、繊度125~2000デニール(139~2222dtex)の糸条が使用できる。これらのマルチフィラメント糸条には、タスラン糸条、ウーリー糸条などの嵩高加工糸条を包含する。短繊維紡績糸条は、ナイロン、ポリエステルなどの熱可塑性樹脂を紡糸口金から押出して紡糸した長繊維紡糸束(延伸していてもよい)を3.8~5.8mm長程度に切断したステープルを開繊練条したスライバを引き伸ばしたロービング(粗糸)とし、これに所定の番手太さにドラフトと撚りを掛けてトウ紡績したものである。撚糸は単糸または単糸2本を引き揃えてS(右)撚りもしくはZ(左)撚りしたもの、また単糸または単糸2本を引き揃えて下撚りした加撚糸を2本引き揃えて上撚りを掛けてなる双糸が挙げられる。これらの撚糸の撚り回数は200~2000回/m程度である。またカバリング糸条は、上記マルチフィラメント糸束の外周に上記短繊維を巻き付けたカバリング糸条が挙げられ、本願においては芯鞘複合糸条もカバリング糸条に包含する。
【0033】
特に本発明の遮熱テント膜構造物の引張破壊強度、引裂(切裂)強度、防爆耐圧、耐熱性、及び耐火性などを向上させるために特別な布帛(織物)を用いることができる。この布帛には、フッ素樹脂繊維、全芳香族ポリエステル繊維、全芳香族ポリアミド繊維などのマルチフィラメント糸条を主体とする織物設計、あるいは上記汎用合成繊維による糸条との併用設計(リップストップ構造の挿入)が適している。また国土交通大臣認定の不燃材料(テント構造物用不燃膜材)の用途向けには、ガラス繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維、炭素繊維、及び、これらの混用繊維(混撚・合撚)などの無機マルチフィラメント糸条を主体とする織物が適している。そして特に引張破壊強度、引裂(切裂)強度、防爆耐圧、耐熱性、及び耐火性などを飛躍的に向上させるために、織物が、ポリベンゾイミダゾール(PBI)系、ポリベンゾオキサゾール(PBO)系、ポリベンゾチアゾール(PBT)系、及びこれらの共重合高分子(ベンゾイミダゾール-ベンゾオキサゾール共重合系、ベンゾイミダゾール-ベンゾチアゾール共重合系、ベンゾオキサゾール-ベンゾチアゾール共重合系、ベンゾイミダゾール-ベンゾオキサゾール-ベンゾチアゾール共重合系、芳香族ポリアミド成分を含む上記共重合系)、の群から選ばれた1種以上の芳香族複素環高分子繊維からなる糸条(マルチフィラメント糸条、短繊維紡績糸条、カバリング糸条)を主体に含む織物設計、あるいは上記汎用繊維による糸条との併用(リップストップ構造の挿入)が適している。リップストップ構造とは例えば、ポリエステル繊維糸条を経糸条及び緯糸条とする平織物において、経糸条、及び緯糸条の任意の位置に芳香族複素環高分子繊維からなる糸条を規則的、またはランダムに配列したもので、外観上、格子柄(または変則格子柄)を形成する織物、三軸織物、四軸織物が適している。具体的に経糸群及び緯糸群の糸条配列1,2,3,4,5・・・n(nは整数)において、10の倍数(10,20,30・・・)本目毎に、芳香族複素環高分子繊維糸条が挿入され、格子模様を形成するような態様である。また四軸織物において、経糸、緯糸、左上バイアス糸、右上バイアス糸の何れか、または全部を全て香族複素環高分子繊維糸条とすることもでき、具体的に経糸と緯糸を香族複素環高分子繊維糸条、左上バイアス糸と右上バイアス糸を他の繊維糸条とする構成、または左上バイアス糸と右上バイアス糸を他の香族複素環高分子繊維糸条、経糸と緯糸を他の繊維糸条とする構成である。
【0034】
本発明の遮熱テント膜構造物に用いるターポリン態様は、熱可塑性樹脂組成物(特に好ましくは塩化ビニル樹脂/可塑剤など)を熱混練し、カレンダー法、またはTダイス押出法で溶融圧延した厚さが0.1mm~1.0mm、特に0.15mm~0.3mmフィルム(シート)が使用できる。また織物に対する樹脂加工は、熱ロール/ゴムロールの連続圧着ユニットを1~2と、冷却ロールユニット、及び巻取ユニットを有するラミネーターを用い、ラミネーターの1回通しまたは2回通しの工程により熱溶融圧着した樹脂加工物織物である。ターポリンは、カレンダー成型して得たフィルムをラミネーターにより目開き織物の両面に熱圧着して製造され、厚さ0.5~1.5mm、質量500~2000g/mの範囲の「(薄膜層)/(表面)熱可塑性樹脂層/布帛(マルチフィラメント糸条)/(裏面)熱可塑性樹脂層」の態様が、大型テント(パビリオン)、サーカステント、テント倉庫、建築空間の膜屋根(天井)、日除けテントなどの膜構造物に使用できる。帆布の態様は、溶液状の熱可塑性樹脂組成物(特に好ましくは塩化ビニル樹脂/可塑剤などによるペースト)を織物の表面、及び内部にナイフコート、クリアランスコートなどのコーティング法により含浸塗工し、これを熱乾燥、または加熱ゲル化させるか、または溶液状の熱可塑性樹脂組成物(特に好ましくは塩化ビニル樹脂ペースト)を充填した液浴中に織物を浸漬し、これを引き上げると同時に1対のゴムロール間で圧搾し、直後に熱乾燥、または加熱ゲル化させるディッピング法によって製造された樹脂加工物織物である。帆布の製造は、塩化ビニル樹脂/可塑剤などによるペーストによるディッピング法が適し、厚さ0.3~0.8mm、質量400~1000g/mの範囲の「(薄膜層)/(表面)熱可塑性樹脂層/布帛(短繊維紡績糸条)/(裏面)熱可塑性樹脂層」態様が、トラック幌、トラック荷台シート、屋形テント、シートハウスなどの用途に適している。この段落で「(薄膜層)/」は任意の追加層であるが、耐用年数の延長の観点において本発明の遮熱テント膜構造物の最良の態様である。
【0035】
テント膜構造物には、インドアスポーツ、イベントホール、パビリオン、巡業サーカステント、テント倉庫などがあるが、テント倉庫を例に説明する。テント倉庫は、空間を構成するフレーム構造体の側壁外周、及び天蓋に防水シート(ターポリン縫製物、または防水帆布縫製物)を装着してなるもので、屋根部がアーチ屋根の蒲鉾型、三角屋根の切褄型が主流である。その規模は、平屋建てで軒高が5m以下、1棟当たりの床面積が1000m2以下との建設省の規定がある。テント倉庫の構築方法は、主架構材を構成するトラス構造などの柱をあらかじめ地組みし、各柱の建方作業を行い、各柱間を水平梁及び横継材で連結し、その後立設された柱の柱頭部にアーチトラスを吊り込んで架設してフレーム構造体を完成させ、最後に防水シート(ターポリン縫製物、または防水帆布縫製物)で外構を覆う工法が一般的である。防水シートは、ターポリン(または防水帆布)の長尺反(1~3m幅、20~50m巻)をテント倉庫のパーツサイズに合わせて裁断したパーツを複数連結して拡張したものである。連結はターポリン(または防水帆布)端部同士を2~10cm重ね合わせ、互いの熱可塑性樹脂層同士(上側のターポリンの裏面の熱可塑性樹脂層と、下側のターポリンの表面の熱可塑性樹脂層)を、高周波溶着、熱風溶着、熱コテ溶着などの公知の方法で熱溶着させることで達成できる。防水シートの施工配置は、ターポリン(または防水帆布)の長手方向(巻き方向)が、テント倉庫正面に対して「左側壁-天蓋-右側壁」に連続する配置が一般的である。防水シートの内側(縫製物の内側)には、防水シートをフレーム構造体に固定するための、ハトメ、フック、ロープなどの使用が可能な加工が施されている。
【0036】
本発明の遮熱テント膜構造物の具体例、及び性能について、下記の実施例及び比較例を挙げて更に説明する。遮熱テント膜構造物の耐候性、遮熱性、防黴(藻)性は、遮熱テント膜構造物を構成するシート片により評価し、その性能を遮熱テント膜構造物の性能に適用した。
〈耐候促進試験〉
JIS K5600-7-7「塗料一般試験方法(第7部)塗膜の長期耐久性」に準拠して、耐候促進機1000時間、1500時間、2000時間の照射ごとにシート片(熱可塑性樹脂層の表面)の変色を色差ΔE(JIS Z8729)で評価した。(促進前のシート片を基準とする)
ΔE=0~2.9 : 1=着色を認めない(適合)
ΔE=3~5.9 : 2=僅かな着色を認める(適合)
ΔE=6~11.9 : 3=薄い褐色に変色(外観に影響する)
ΔE=12~19.9 : 4=茶褐色に変色(外観異常)
ΔE=20~ : 5=黒褐色に変色(外観異常)
〈耐候促進試験後の屈曲耐久性〉
耐候促進機1000時間、1500時間、2000時間の照射時間ごとのシート片を用い、JIS L1096の 8.19項「摩耗強さB法(スコット法)」により、1kgf荷重500回の屈曲揉みの負荷を与えた時の(表面)熱可塑性樹脂層の摩耗状態、及び亀裂の有無を、デジタルマイクロスコープ(VHX-1000:(株)キーエンス)を使用して熱可塑性樹脂層の100倍の拡大画像観察を行い評価した。
1:熱可塑性樹脂層に異常を認めない(適合)
2:熱可塑性樹脂層に軽微な亀裂を認めるが、剥離、脱落は認めない(適合)
3:熱可塑性樹脂層に多数の亀裂を生じ外観に影響している
4:熱可塑性樹脂層に多数の亀裂を生じ、亀裂片の剥離、脱落を伴う
5:熱可塑性樹脂層が劣化、脱落して布帛が露出している
〈遮熱率(%)〉
太陽光線を想定した赤外線ランプを使用し、シート片が輻射熱を遮蔽する割合をシートの遮熱率として、以下の試験方法に従って測定した。
〈試験環境〉
内径が、高さ60cm×幅70cm×長さ70cmの外気温遮断性と気密性とを有する箱型構造体の天井部中央に赤外線ランプ(100V,125W,アイR型:岩崎電気(株))を取り付け、またこの試験箱内部の底面部の中央には熱流量計(Shothrm HFM熱流量計:昭和電工(株)製)のセンサーを取り付けた台座(高さ8cm)を構成した。このとき天井部から赤外線ランプ先端までの距離は22cm、赤外線ランプ先端からセンサーまでの距離は30cmである。(22cm+30cm+8cm=60cm)この環境でランプを点灯し、熱流量(kcal/m2h)を1分ごとに測定し、30分後の熱流量qn(kcal/m2h)を測定した。箱型構造体内の温度を20℃まで戻した後、このセンサーを取り付けた台座上に試験シート片(タテ10cm×ヨコ10cmサイズ)を乗せ、その上に厚さ3.5mmの透明ガラス板を載せた状態でランプを点灯し、熱流量(kcal/m2h)を1分ごとに測定し、30分後の熱流量qc(kcal/m2h)を測定し、式(2)に従って遮熱率pf(%)を算出した。
遮熱率pf(%)=〔(qn-qc)/qn〕×100・・・(1)
遮熱率pf(%)は数値が大きいほど遮熱効果が高いと判断する
<光線透過率(%)>
JIS Z8722(条件g)に準拠し、コニカミノルタ(株)製の分光測色計CM-36dGVにより測定した。
<防黴性>
JIS K5600-7-7の耐候促進試、1000時間、1500時間、2000時間を行い、シート片の(表面)熱可塑性樹脂層の表面に、Aspergillus niger FERM S-1(黒黴)、(B)Penicillium citrinum FERM S-5(青黴)、及び(C)Cladosporium cladosporioides FERM S-8(クロカワ黴)の胞子混合物を含む寒天培地を滴下し、シャーレ中28℃×7日間の黴の発生状況を観察し、下記の判定基準で評価を行った。
1:黴の発生を認めない
2:部分的に黴が発生(コロニーの占有面積20%未満)
3:部分的に黴が発生(コロニーの占有面積21~50%)
4:大部分に黴が発生(コロニーの占有面積51~70%)
5:ほぼ全面に黴が発生(コロニーの占有面積71%以上)
【0037】
[実施例1]
〈布帛(1)〉
1000デニール(1111dtex)のポリエチレンテレタレート(PET)繊維(フィラメント数192本)からなり、S撚50T/mを施したPETマルチフィラメント糸条を経糸群及び緯糸群に用い、経糸群は1インチ間16本の織組織とし、また緯糸群は1インチ間16本の織組織とする平織物を布帛に用いた。この布帛(1)の質量は150g/m2、空隙率(目抜け部総和)は14%であった。
<ターポリン>
この布帛(1)を基材として、その両面に下記〔配合1〕の軟質塩化ビニル樹脂組成物からなる厚さ0.2mmのカレンダー成型フィルムを表裏の熱可塑性樹脂層として、ラミネーターでの熱圧着による溶融ラミネートを施して、厚さ0.7mm、質量830g/m2のターポリン(1)を得た。
〔配合1〕:軟質塩化ビニル樹脂組成物(コンパウンド)
塩化ビニル樹脂(重合度1300) 100質量部
フタル酸ジイソノニル(可塑剤:Mw419) 55質量部
リン酸トリクレジル(防炎可塑剤) 10質量部
エポキシ化大豆油(安定剤兼可塑剤) 5質量部
バリウム/亜鉛複合安定剤 2質量部
三酸化アンチモン(難燃剤) 10質量部
表面処理酸化チタン粒子(一次平均粒子径1μm) 10質量部
※酸化アルミニウムによる表面処理(最外層ステアリン酸処理)
ヒンダードフェノール系酸化防止剤 0.5質量部
ベンゾトリアゾール系互変異性体 3質量部
※エノール型として〔化1〕において、2位-水酸基(1個)/ケトン基(0個)のベ
ンゼン環(5位tert-ブチル基)1個の1位Cと、ベンゾトリアゾール環(置換基なし)
とのC-N結合体によるMW267の有機化合物
※ケト型として〔化2〕において、水酸基(0個)/2位-ケトン基(1個)のベンゼ
ン環(5位tert-ブチル基)1個の1位Cと、ベンゾトリアゾール環(置換基なし)と
のC-N結合体(MW267)
※1位、2位、5位、はベンゼン環の炭素の位置を表す
10,10′-オキシビスフェノキシアルシン(防黴剤) 0.8質量部
【0038】
[実施例2]
実施例1の〔配合1〕のベンゾトリアゾール系互変異性体3質量部を、トリアジン系互変異性体3質量部に置き換えた〔配合2〕を用いた以外は実施例1と同様として、厚さ0.7mm、質量830g/m2のターポリン(2)を得た。
※トリアジン系互変異性体は、エノール型として〔化3〕において、2位-水酸基(1
個)/ケトン基(0個)のベンゼン環(4位ブトキシ基)3個の各々1位Cと、1,3
,5-トリアジン環の2,4,6位CによるC-C結合体によるMW367の有機化合物
※ケト型として〔化4〕において、水酸基(0個)/2位-ケトン基(1個)のベンゼ
ン環(4位ブトキシ基)3個の各々1位Cと、1,3,5-トリアジン環の2,4,6
位CによるC-C結合体(MW367)
※1位、2位、4位はベンゼン環の炭素の位置を表し、トリアジン環の2,4,6位C
は炭素の位置、1,3,5位は窒素Nの位置を表す
【0039】
[実施例3]
実施例1の〔配合1〕のベンゾトリアゾール系互変異性体3質量部を、ジフェニルケトン系互変異性体3質量部に置き換えた〔配合3〕を用いた以外は実施例1と同様として、厚さ0.7mm、質量830g/m2のターポリン(3)を得た。
※ジフェニルケトン系互変異性体は、エノール型として〔化5〕において、2位-水酸
基(1個)/ケトン基(0個)/4位-オクトキシ基(1個)のベンゼン環(他の置換
基なし)1個の1位Cと、ベンゼン環(他の置換基なし)とがC=Oを介在して結合し
たMW296の有機化合物
※ケト型として〔化6〕において、水酸基(0個)/2位-ケトン基(1個)/4位-オ
クトキシ基(1個)のベンゼン環(他の置換基なし)1個の1位Cと、ベンゼン環(他
の置換基なし)とがC=Oを介在して結合(MW296)
※1位、2位、4位はベンゼン環の炭素の位置を表す
【0040】
[実施例4]
実施例1の〔配合1〕に、一次平均粒子径0.2μmの酸化チタン粒子(水酸化アルミニウム表面処理/最外層ステアリン酸処理)1質量部と、一次平均粒子径0.2μmの酸化亜鉛粒子(水酸化アルミニウム表面処理/最外層ステアリン酸処理)1質量部を追加した〔配合4〕を用いた以外は実施例1と同様として、厚さ0.7mm、質量833g/m2のターポリン(4)を得た。
【0041】
[実施例5]
実施例2の〔配合2〕に、一次平均粒子径0.2μmの酸化チタン粒子(水酸化アルミニウム表面処理/最外層ステアリン酸処理)1質量部と、一次平均粒子径0.2μmの酸化亜鉛粒子(水酸化アルミニウム表面処理/最外層ステアリン酸処理)1質量部を追加した〔配合5〕を用いた以外は実施例2と同様として、厚さ0.7mm、質量833g/m2のターポリン(5)を得た。
【0042】
[実施例6]
実施例3の〔配合3〕に、一次平均粒子径0.2μmの酸化チタン粒子(水酸化アルミニウム表面処理/最外層ステアリン酸処理)1質量部と、一次平均粒子径0.2μmの酸化亜鉛粒子(水酸化アルミニウム表面処理/最外層ステアリン酸処理)1質量部を追加した〔配合6〕を用いた以外は実施例3と同様として、厚さ0.7mm、質量833g/m2のターポリン(6)を得た。
【0043】
[実施例7]
実施例1のターポリン(1)の片表面に、ベンゾトリアゾール系互変異性体と、N-OR型ヒンダードアミンを、3:1質量比で含むフッ素系共重合体樹脂による薄膜層(8μm)を追加した以外は実施例1と同様として、厚さ0.7mm、質量835g/m2のターポリン(7)を得た。薄膜層の形成は〔配合7〕の溶液を120メッシュのグラビアロールコーターにて実施した。
〔配合7〕:薄膜層
フルオロアルキルビニルエーテル(水酸基含有) 100質量部
※フッ素系共重合体樹脂40質量%の塗料:溶媒トルエン/MEK(1:1)
ヘキサメチレンジイソシアネート(硬化剤) 5質量部
ベンゾトリアゾール系互変異性体 6質量部
※実施例1と同じケト/エノール互変異性体〔化1〕/〔化2〕
N-OR型ヒンダードアミン 2質量部
※ビス(1-ウンデカオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)
カーボネート(MW681)
※〔化7〕において、R1~R4が全てメチル基、R5がウンデシル基(-C11H23)
【0044】
[実施例8]
実施例2のターポリン(2)の片表面に、トリアジン系互変異性体と、N-OR型ヒンダードアミンを、3:1質量比で含むフッ素系共重合体樹脂による薄膜層(8μm)を追加した以外は実施例2と同様として、厚さ0.7mm、質量835g/m2のターポリン(8)を得た。薄膜層の形成は〔配合8〕の溶液を120メッシュのグラビアロールコーターにて実施した。〔配合8〕は、〔配合7〕のベンゾトリアゾール系互変異性体6質量部を、実施例2と同じケト/エノール互変異性体〔化3〕/〔化4〕6質量部に置換した組成である。
【0045】
[実施例9]
実施例3のターポリン(3)の片表面に、ベンゾフェノン系互変異性体と、N-OR型ヒンダードアミンを、3:1質量比で含むフッ素系共重合体樹脂による薄膜層(8μm)を追加した以外は実施例3と同様として、厚さ0.7mm、質量835g/m2のターポリン(9)を得た。薄膜層の形成は〔配合9〕の溶液を120メッシュのグラビアロールコーターにて実施した。〔配合9〕は、〔配合7〕のベンゾトリアゾール系互変異性体6質量部を、実施例3と同じケト/エノール互変異性体〔化5〕/〔化6〕6質量部に置換した組成である。
【0046】
[実施例10]
実施例1のターポリン(1)の片表面に、一次平均粒子径10nmの酸化チタン粒子(水酸化アルミニウム表面処理/最外層ステアリン酸処理)と、一次平均粒子径10nmの酸化亜鉛粒子(水酸化アルミニウム表面処理/最外層ステアリン酸処理)を、1:1質量比で含むゾルゲル縮合体による薄膜層(1~3μm)を追加した以外は実施例1と同様として、厚さ0.7mm、質量835g/m2のターポリン(10)を得た。薄膜層の形成は〔配合10〕の溶液を120メッシュのグラビアロールコーターにて実施した。
〔配合10〕:薄膜層
エチルシリケート(Si(OC2H5)4:SiO2換算40質量%)
※[Si5O4(OC2H5)12]のテトラエトキシシラン5量体 100質量部
加水分解触媒:2%塩酸 5質量部
酸化チタン(粒子径10nm) 2質量部
酸化亜鉛(粒子径10nm) 2質量部
ビニル系シランカップリング剤(ビニルトリメトキシシラン) 5質量部
ホウ酸エステル化変性セルロースナノファイバー(2質量%水溶液) 100質量部
※3質量%ホウ酸+78質量%エチルセロソルブの水溶液をカルボキシメチル化セルロ
ースナノファイバー「セルロースの1級、2級水酸基(2,3,6位)をカルボキシメ
チル化」のカルボキシメチル基に反応させた変性体:繊維幅3~10nm:繊維長30
~100μm
【0047】
[実施例11]
実施例2のターポリン(2)の片表面に、実施例10と同じゾルゲル縮合体による薄膜層を追加した以外は実施例2と同様として、厚さ0.7mm、質量835g/m2のターポリン(11)を得た。
【0048】
[実施例12]
実施例3のターポリン(3)の片表面に、実施例10と同じゾルゲル縮合体による薄膜層を追加した以外は実施例3と同様として、厚さ0.7mm、質量835g/m2のターポリン(12)を得た。
【0049】
[実施例13]
実施例1のターポリン(1)の片表面に、一次平均粒子径10nmの光触媒性酸化チタン(表面処理なし)を含むゾルゲル縮合体による薄膜層(1~3μm)を追加した以外は実施例1と同様として、厚さ0.7mm、質量834g/m2のターポリン(13)を得た。薄膜層の形成は〔配合11〕の溶液を120メッシュのグラビアロールコーターにて実施した。
〔配合11〕:薄膜層
エチルシリケート(Si(OC2H5)4:SiO2換算40質量%)
※[Si5O4(OC2H5)12]のテトラエトキシシラン5量体 100質量部
加水分解触媒:2%塩酸 5質量部
光触媒性酸化チタンゾル 50質量部
※硝酸酸性:粒子径10nm:固形分30質量%エタノール溶液
ビニル系シランカップリング剤(ビニルトリメトキシシラン) 5質量部
シリカゾル(粒子径12nm:固形分30質量%エタノール溶液) 50質量部
【0050】
[実施例14]
実施例2のターポリン(2)の片表面に、実施例13と同じゾルゲル縮合体による薄膜層を追加した以外は実施例2と同様として、厚さ0.7mm、質量834g/m2のターポリン(14)を得た。
【0051】
[実施例15]
実施例3のターポリン(3)の片表面に、実施例13と同じゾルゲル縮合体による薄膜層を追加した以外は実施例3と同様として、厚さ0.7mm、質量834g/m2のターポリン(15)を得た。
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
表面処理酸化チタン粒子(一次平均粒子径1μm)、ケト/エノール型互変異性体、及び防黴(藻)剤、を必須成分として含有する(表面)熱可塑性樹脂層を少なくとも有する、実施例1~3のターポリン(1)~(3)は、遮熱性、耐候性、及び防黴性に優れ、特に耐候性の向上(紫外線劣化軽減)により耐用年数の延長が可能となることが、比較例1~3で得られたシートとのとの対比で明らかとなった。特に表面処理酸化チタン粒子(一次粒子径0.2μm)を用いた比較例1のシートでは耐候性には優れるものの十分な遮熱効果が得られなくなり、またケト/エノール型互変異性体を省略した比較例2のシートでは遮熱効果には優れるものの十分な耐候性が得られなくなり、また防黴(藻)剤を省略した比較例3のシートにおいても遮熱効果には優れるものの十分な防黴性が得られなくなる。また、実施例1~3の遮熱テント膜構造物の熱可塑性樹脂層に、一次平均粒子径0.2μmの表面処理酸化チタン粒子と、一次平均粒子径0.2μmの表面処理酸化亜鉛粒子を1:1質量比で追加した実施例4~6のターポリン(4)~(6)は、熱可塑性樹脂層での紫外線遮蔽効果(紫外線A波・B波)が向上し、遮熱性、及び耐候性に優れ、特に耐候性の向上(紫外線劣化軽減)により更なる耐用年数の延長が可能となることが、実施例1~3のシートとのとの対比で明らかとなった。また、実施例1~3の遮熱テント膜構造物の(表面)熱可塑性樹脂層上に、ケト/エノール互変異性体と、N-OR型ヒンダードアミンを3:1質量比で含むフッ素系共重合体樹脂による薄膜層を追加した実施例7~9のターポリン(7)~(9)は、熱可塑性樹脂層に対する紫外線遮蔽効果が向上し、遮熱性、及び耐候性に優れ、特に耐候性の向上(紫外線劣化軽減)により更なる耐用年数の延長が可能となることが、実施例1~3のシートとのとの対比で明らかとなった。また、実施例1~3の遮熱テント膜構造物の(表面)熱可塑性樹脂層上に、一次平均粒子径10nmの表面処理酸化チタン粒子と、一次平均粒子径10nmの表面処理酸化亜鉛粒子を1:1質量比で含むゾルゲル縮合体による薄膜層を追加した実施例10~12のターポリン(10)~(12)は、熱可塑性樹脂層に対する紫外線遮蔽効果(紫外線A波・B波)が向上し、遮熱性、及び耐候性に優れ、特に耐候性の向上(紫外線劣化軽減)により更なる耐用年数の延長が可能となることが、実施例1~3のシートとのとの対比で明らかとなった。また、実施例1~3の遮熱テント膜構造物の(表面)熱可塑性樹脂層上に、一次平均粒子径10nmの光触媒性酸化チタンを含むゾルゲル縮合体による薄膜層を追加した実施例13~15のターポリン(13)~(15)は、薄膜層のセルフクリーニング効果が発現し、遮熱性、及び耐候性に優れ、特に防汚性の向上により更なる耐用年数の延長が可能となることが、実施例1~3のシートとのとの対比で明らかとなった。これら実施例の結果、廃棄頻度(膜構造物の張替交換)を減らして廃棄する膜材(ターポリン)量を削減し、同時に膜材(ターポリン)の生産量を削減することで、二酸化炭素排出の要因となる石化資源の消費を抑え、地球環境保全に貢献するものとなることを確信できた。
【0058】
[比較例1]
実施例1の熱可塑性樹脂層[配合1]の表面処理酸化チタン粒子(一次平均粒子径1μm)10質量部を、表面処理酸化チタン粒子(一次粒子径0.2μm)10質量部に置き換えた[配合12]を用いた以外は実施例1と同様として、厚さ0.7mm、質量830g/m2のターポリン(16)を得た。近赤外線領域(780~2500nm)の反射効果が高い一次平均粒子径1μmの表面処理酸化チタン粒子の使用を省略したことで、ターポリン(16)の遮熱性はターポリン(1)よりも劣るものとなった。但し耐候性はターポリン(1)と同等であった。
【0059】
[比較例2]
実施例1の熱可塑性樹脂層[配合1]からベンゾトリアゾール系互変異性体3質量部を省略し、N-OR型ヒンダードアミン1質量部を3質量部に変更した[配合13]を用いた以外は実施例1と同様として、厚さ0.7mm、質量830g/m2のターポリン(17)を得た。紫外線エネルギーを分子振動エネルギーに変換放出する効果の高い互変異性体の使用を省略したことで、ターポリン(17)の耐候性はターポリン(1)よりも劣るものとなり長期間使用に耐えないものであった。但し遮熱性はターポリン(1)と同等であった。
【0060】
[比較例3]
実施例1の熱可塑性樹脂層[配合1]から防黴(藻)剤0.5質量部を省略した[配合14]を用いた以外は実施例1と同様として、厚さ0.7mm、質量830g/m2のターポリン(18)を得た。防黴(藻)剤の使用を省略したことで、ターポリン(18)の防黴性はターポリン(1)よりも劣るものとなり長期間使用に耐えないものであった。但し遮熱性はターポリン(1)と同等であった。
【0061】
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明により、耐用年数が向上した遮熱テント膜構造物を得ることができる。すなわち耐候性(紫外線劣化軽減)、及び防黴(藻)性に優れることで、きれいなままの外観を長期間維持できる遮熱テント膜構造物の提供が可能となる。具体的に、屋内スポーツ施設、イベントパビリオン、移動サーカス、プラネタリウム、テント倉庫などの長期使用(10~15年)のテント構造物などに最適となり、さらに、建築養生(防音)シート、パーゴラシェード(膜天井)、ファサードシート、昇降式シートシャッター、間仕切りシート、トラック幌、野積防水シート、屋形テントなどの10年未満の用途にも展開可能となる。特に、遮熱テント膜の耐用年数が延長されることによって、廃棄頻度(すなわち張替)が減り、同時に膜材の生産量も減ることで二酸化炭素排出の要因となる石化資源の消費を抑え、持続性の地球環境保全に貢献することができるようになる。