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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077813
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   H01F 7/16 20060101AFI20240603BHJP
【FI】
H01F7/16 B
H01F7/16 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189989
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】入井 俊紀
(72)【発明者】
【氏名】中川 雄介
(72)【発明者】
【氏名】河原 寛之
【テーマコード(参考)】
5E048
【Fターム(参考)】
5E048AC05
5E048AC06
5E048AC07
5E048AD02
(57)【要約】
【課題】小型化を図りつつ、シャフトの中間位置の位置決め精度を向上させることができるアクチュエータを提供する。
【解決手段】アクチュエータ100は、ハウジング108と、ハウジングの内部に収容された円筒状の少なくとも1つのコイル110と、コイルの内側に対向配置された2つの可動鉄心112a、112bと、可動鉄心に挿通されたシャフト102と、コイルが励磁されたときに電流の向きに応じて移動する側の可動鉄心とシャフトとを係合する2つのワンウェイ機構104a、104bと、2つの可動鉄心を初期位置に付勢するリターンスプリング114と、シャフトに形成された複数の溝136a、136bと、溝に係合する係合部材138とを有するラッチ機構106と、を備え、通電時に可動鉄心によってシャフトが送られる毎に、ラッチ機構の係合部材が溝136aを乗り越えて、溝の隣の溝136bに係合する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジングの内部に収容された円筒状の少なくとも1つのコイルと、
前記コイルの内側に対向配置された2つの可動鉄心と、
前記可動鉄心に挿通されたシャフトと、
前記2つの可動鉄心のうち、前記コイルが励磁されたときに電流の向きに応じて移動する側の可動鉄心と前記シャフトとを係合する2つのワンウェイ機構と、
前記2つの可動鉄心を初期位置に付勢するリターンスプリングと、
前記シャフトに形成された複数の溝と、該溝に係合する係合部材とを有するラッチ機構と、を備え、
通電時に前記可動鉄心によって前記シャフトが送られる毎に、前記ラッチ機構の前記係合部材が前記溝を乗り越えて、該溝の隣の溝に係合することを特徴とするアクチュエータ。
【請求項2】
前記可動鉄心によって前記シャフトを送るワンストロークの送り量は、前記溝の間隔の2つ分よりも小さく、
前記可動鉄心によって送られた前記シャフトのストロークエンドにおいて、前記可動鉄心を吸引する吸引力は、前記ラッチ機構による前記シャフトの保持力よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項3】
前記2つの可動鉄心のうち前記ハウジングに密着する側のストローク端に切欠きが形成されていて、前記ストローク端における磁路の断面積が狭くなっていることを特徴とする請求項1または2に記載のアクチュエータ。
【請求項4】
前記2つの可動鉄心の対向面には、非磁性スペーサが配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載のアクチュエータ。
【請求項5】
前記2つの可動鉄心の間には、非磁性弾性体が配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載のアクチュエータ。
【請求項6】
前記リターンスプリングは、圧縮されるほどばね定数が増加する非線形ばねであることを特徴とする請求項1または2に記載のアクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、双方向に能動的にシャフトを移動させることが可能なアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
一例として、コイルと可動鉄心を用いたアクチュエータでは、コイルを励磁すると、可動鉄心が吸引されて移動可能となっている(例えば特許文献1、2)。特許文献1には、往復運動するシャフトを3段階の停止位置で停止させることが可能な電磁ソレノイドが記載されている。
【0003】
この電磁ソレノイドは、2つのコイルと、シャフトに固定された1つの可動鉄心(プランジャ)と、可動鉄心を付勢する2つのスプリングとを備える。2つのコイルは、ケースの軸方向に直列に内蔵されている。可動鉄心は、コイルを通電させると、スプリングの付勢力に抗して吸引されてシャフトとともに移動し、非通電時にはスプリングによって押し戻されて中間位置に復帰する。このようにして電磁ソレノイドは、バルブ制御などに利用可能な中間位置を含む3つの位置でシャフトを停止させることができる。
【0004】
特許文献2には、いわゆるステップ送りの構成を有するアクチュエータが記載されている。このアクチュエータは、1つのコイルと、2つの可動鉄心と、2つのロック機構(ワンウェイ機構)とを備える。ワンウェイ機構は、可動鉄心とシャフトの間に配置されていて、転動体と、可動鉄心に固定された係合部材とを有する。ワンウェイ機構では、コイルの励磁時、非励磁時の可動鉄心の動きに合わせて、転動体が係合部材に当接してシャフトとの間に挟まることで楔として機能して、可動鉄心とシャフトを係合させる。
【0005】
このアクチュエータは、可動鉄心の動きに合わせて可動鉄心とシャフトとの係合と解除を繰り返し、これによってシャフトを少しずつ繰り出すことで大きな移動距離を得ることができ、これによって電磁部の体格を小さくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-253418号公報
【特許文献2】特願2020-163668号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし特許文献1の電磁ソレノイドでは、2つのコイルを対向配置するため体格が大きくなってしまう。また特許文献2のアクチュエータでは、シャフトをストローク両端以外の中間位置で停止させるソレノイドとして使用する場合、シャフトは移動方向の反対方向には動かないが、移動方向にはロックフリー状態であることから、シャフトのストローク量がばらついてしまう場合がある。例えば、シャフトに送り方向の負荷がかかっている場合や、シャフトに接続された部材の質量が大きくて慣性が付いてしまう場合などに、想定(設計)より送りすぎになってしまう。このため、中間位置の位置決め精度が低下してしまう、という問題があった。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑み、小型化を図りつつ、シャフトの中間位置の位置決め精度を向上させることができるアクチュエータを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明にかかるアクチュエータの代表的な構成は、ハウジングと、ハウジングの内部に収容された円筒状の少なくとも1つのコイルと、コイルの内側に対向配置された2つの可動鉄心と、可動鉄心に挿通されたシャフトと、2つの可動鉄心のうち、コイルが励磁されたときに電流の向きに応じて移動する側の可動鉄心とシャフトとを係合する2つのワンウェイ機構と、2つの可動鉄心を初期位置に付勢するリターンスプリングと、シャフトに形成された複数の溝と、溝に係合する係合部材とを有するラッチ機構と、を備え、通電時に可動鉄心によってシャフトが送られる毎に、ラッチ機構の係合部材が溝を乗り越えて、溝の隣の溝に係合することを特徴とする。
【0010】
上記構成では、ワンウェイ機構によって、2つの可動鉄心のうちコイルが励磁されたときに電流の向きに応じて移動する側の可動鉄心とシャフトとの係合と解除を繰り返して、シャフトを少しずつ繰り出すことで大きな移動距離を得る、ステップ送りを行うことができる。
【0011】
また上記構成のように、通電時にワンウェイ機構によってシャフトがステップ送りされる毎に、ラッチ機構の溝を係合部材が乗り越えて、隣の溝に係合部材が係合することで、シャフトのワンストローク毎の送り量を安定させることができる。すなわち、ラッチ機構の保持力によって、送りすぎを防止することができる。
【0012】
また非通電時には、ラッチ機構の溝が係合部材に係合しているため、シャフトの位置は保持される。したがって上記構成によれば、シャフトの中間位置の位置決め精度を向上させることができる。さらにコイルが1つしかないことから、アクチュエータの小型化を図ることができる。
【0013】
上記の可動鉄心によってシャフトを送るワンストロークの送り量は、溝の間隔の2つ分よりも小さく、可動鉄心によって送られたシャフトのストロークエンドにおいて、可動鉄心を吸引する吸引力は、ラッチ機構によるシャフトの保持力よりも小さい。これにより、シャフトが送られるワンストローク毎に、ラッチ機構の溝に係合部材が確実に係合して、シャフトが溝を越えてストロークしないようにできる。よってラッチ機構は、溝の間隔の1つ分でシャフトを確実に保持することができる。
【0014】
上記の2つの可動鉄心のうちハウジングに密着する側のストローク端に切欠きが形成されていて、ストローク端における磁路の断面積が狭くなっているとよい。これにより、コイルの通電時に可動鉄心に流入する磁束を制限して、コイルの磁束による可動鉄心の吸引力を小さくすることができる。このため、シャフトの推力(すなわち可動鉄心の吸引力からリターンスプリングの付勢力を引いたもの)を、ラッチ機構によるシャフトの保持力よりも小さくなるように設定することができる。これにより、シャフトがステップ送りされると、ワンストローク毎にラッチ機構の溝に係合部材が確実に係合して、シャフトが溝を越えてストロークしないようにできる。
【0015】
上記の2つの可動鉄心の対向面には、非磁性スペーサが配置されているとよい。これにより、2つの可動鉄心の対向面の間に磁気ギャップが形成されるため、2つの可動鉄心同士が密着せず、コイルの磁束による可動鉄心の吸引力を小さくでき、シャフトの推力を、ラッチ機構によるシャフトの保持力よりも小さくすることができる。このため、シャフトの位置は、ワンストローク毎にラッチ機構によって確実に保持される。
【0016】
上記の2つの可動鉄心の間には、非磁性弾性体が配置されているとよい。これにより、2つの可動鉄心同士が近づくほど反発力が高くなり、2つの可動鉄心の間に磁気ギャップが形成される。このため、2つの可動鉄心同士が密着せず、コイルの磁束による可動鉄心の吸引力を小さくでき、シャフトの推力を、ラッチ機構によるシャフトの保持力よりも小さくすることができる。このため、シャフトの位置は、ワンストローク毎にラッチ機構によって確実に保持される。
【0017】
上記のリターンスプリングは、圧縮されるほどばね定数が増加する非線形ばねであるとよい。なお、この非線形ばねとしては、例えば不等ピッチスプリングが挙げられる。これにより、2つの可動鉄心同士が近づくほど反発力(すなわちリターンスプリングの付勢力)が高くなる。このため、コイルの磁束による可動鉄心の吸引力からリターンスプリングの付勢力を引いたものであるシャフトの推力を、ラッチ機構によるシャフトの保持力よりも小さくすることができる。したがって、シャフトがステップ送りされると、ワンストローク毎にラッチ機構の溝に係合部材が確実に係合して、シャフトが溝を越えてストロークしないようにできる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、小型化を図りつつ、シャフトの中間位置の位置決め精度を向上させることができるアクチュエータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態におけるアクチュエータの全体構成図である。
図2図1のアクチュエータの要部を拡大して示す図である。
図3図1のアクチュエータの特性を示すグラフである。
図4図1のアクチュエータの動作を説明する図である。
図5図4(b)に後続するアクチュエータの通電時の動作を説明する図である。
図6図5(b)に後続するアクチュエータの非通電時の動作を説明する図である。
図7図1のアクチュエータの変形例を示す図である。
図8図1のアクチュエータの他の変形例を示す図である。
図9図1のアクチュエータのさらに他の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0021】
図1は、本発明の実施形態におけるアクチュエータ100の全体構成図である。アクチュエータ100は、シャフト102を備え、双方向に能動的にシャフト102を移動させることが可能な装置である。シャフト102は、送り方向の負荷がかかる場合や、接続された所定部材の質量が大きくて慣性が付いてしまう場合などがあり得る。
【0022】
そこでアクチュエータ100では、シャフト102が想定(設計)よりも送りすぎにならず、シャフト102をストローク両端以外の位置(中間位置)で高い精度で停止させることが可能な構成を採用した。
【0023】
すなわちアクチュエータ100は、シャフト102に加え、2つのワンウェイ機構104a、104b(図2(a)参照)と、1つのラッチ機構106(図2(b)参照)とを備える。ワンウェイ機構104a、104bは、シャフト102を少しずつ繰り出すことで大きな移動距離を得る、いわゆるステップ送りを可能とする。ラッチ機構106は、その保持力によってシャフト102の送りすぎを防止する。
【0024】
アクチュエータ100はさらに、筒状のハウジング108と、1つのコイル110と、2つの可動鉄心112a、112bと、リターンスプリング114と、2つの永久磁石116a、116bと、2つの固定鉄心118a、118bとを備える。コイル110は、ハウジング108の内部に収容され、円筒状に巻回されている。
【0025】
可動鉄心112a、112bは、コイル110の内側に対向配置されていて、コイル110の軸方向において双方向に移動する。シャフト102は、可動鉄心112a、112bに挿通されている。また可動鉄心112a、112bはそれぞれ、シャフト102に向かって突出した小径部120a、120bを有する。小径部120a、120bの間には、リターンスプリング114が配置されている。
【0026】
可動鉄心112aは、リターンスプリング114によって一方側(図中左側。以下左側という)に付勢され、可動鉄心112aの一端122aがハウジング108の左側の横板124aに当接した状態となっている。可動鉄心112bは、リターンスプリング114によって他方側(図中右側。以下右側という)に付勢され、可動鉄心112bの他端122bがハウジング108の右側の横板124bに当接した状態となっている。
【0027】
このようにリターンスプリング114は、可動鉄心112a、112bを初期位置に付勢する。また可動鉄心112aの他端125aと可動鉄心112bの一端125bとはエアギャップを形成するように対向していて、これらは可動鉄心112a、112bの対向面となる。
【0028】
固定鉄心118a、118bはそれぞれ、コイル110の左側と右側に対向配置され、その内側に可動鉄心112a、112bが位置している。永久磁石116a、116bは、ハウジング108の横板124a、124bと固定鉄心118a、118bとの間に配置されている。また永久磁石116a、116bは、磁束によって可動鉄心112a、112bを初期位置に保持する。ハウジング108および固定鉄心118a、118bは、磁性材料からなり、磁気回路を形成する。
【0029】
図2は、図1のアクチュエータ100の要部を拡大して示す図である。図2(a)は、ワンウェイ機構104aを示している。図2(b)は、ラッチ機構106を示している。なおワンウェイ機構104a、104bは、左右対称の構造を有しているので、以下ではワンウェイ機構104bの説明を適宜省略する。
【0030】
ワンウェイ機構104aは、図2(a)に示すように可動鉄心112aとシャフト102の間に配置されていて、転動体126aと、保持器128aと、テーパ面(傾斜面130a)と、弾性体132aとを有する。転動体126aは、シャフト102の上を転動して楔として機能する。転動体126aは球またはほぼ円筒状のころである。円筒状のころは、その中央部がシャフト102の外周面に倣って窪んでいて、両端部は傾斜面130aの内周面に倣って細くなっている。保持器128aは、転動体126aの姿勢を保持する。
【0031】
傾斜面130aは、可動鉄心112aの内側に形成されていて、可動鉄心112aの一端122aに向かうほどシャフト102に近づくように傾斜している。弾性体132aは、保持器128aと可動鉄心112aの小径部120aとの間に配置されていて、保持器128aを介して転動体126aを傾斜面130aに付勢する。
【0032】
ワンウェイ機構104aでは、コイル110が励磁されていない状態では、弾性体132aで押された保持器128aが横板124aに突き当たることにより、転動体126aが傾斜面130aと接触せず、楔として機能しない。そしてコイル110が励磁されて可動鉄心112aが動き始めると、転動体126aが傾斜面130aに当接してシャフト102との間に挟まることで楔として機能して、可動鉄心112aとシャフト102とを係合する。そしてシャフト102は、可動鉄心112aとともに移動する。
【0033】
ラッチ機構106は、図1に示すように筒状のケーシング134を有する。ケーシング134は、ハウジング108の外側に位置し右側の横板124bに取り付けられている。ラッチ機構106はさらに、図2(b)に示すように複数の溝136と、溝136に係合する係合部材138とを有する。なお図2(b)では、隣接する溝136a、136bに代表的に符号を付している。
【0034】
複数の溝136は、シャフト102のハウジング108の外側に形成されている。また図2(b)には、寸法La、Lbが示されている。寸法Laは、複数の溝136の間隔である。また寸法Lbは、ワンウェイ機構104a、104bおよび可動鉄心112a、112bによってシャフト102をステップ送りするときのワンストロークの送り量である。このワンストロークの送り量Lbは、溝136の間隔Laの2つ分よりも小さくなっている。
【0035】
ケーシング134には、径方向に貫通する孔部140が設けられている。係合部材138は、転動体142と、弾性体144と、支持部材146とを備え、これらはケーシング134の孔部140に配置されている。支持部材146は、ケーシング134の孔部140に取り付けられている。弾性体144は、支持部材146と転動体142との間に配置され、転動体142をシャフト102に向かって付勢する。
【0036】
転動体142は、弾性体144を介して支持部材146によって支持されることにより、図2(b)に示すシャフト102の例えば溝136aに係合する。転動体142は、シャフト102が右側にステップ送りされると、係合した溝136aを乗り越えて、隣の溝136bに係合する。
【0037】
図3は、図1のアクチュエータ100の特性を示すグラフである。図中では、横軸を可動鉄心112aのストロークとし、縦軸を荷重としている。グラフAは、可動鉄心112aを右側に吸引する吸引力を示している。グラフB(図中、点線)は、ラッチ機構106によるシャフト102の保持力を示している。グラフCは、シャフト102に作用する推力(シャフト推力)を示している。なおシャフト推力は、可動鉄心112aの吸引力からリターンスプリング114の付勢力などの荷重を引いたものである。
【0038】
以下、図3の各グラフA、B、Cを参照しつつ、アクチュエータ100の動作を説明する。図4は、図1のアクチュエータ100の動作を説明する図である。図4(a)は、図1のアクチュエータ100の非通電時の状態を示している。
【0039】
非通電時において可動鉄心112a、112bは、図4(a)に示す永久磁石116a、116bの磁束Ra、Rbによる保持力とリターンスプリング114の付勢力によって初期位置に保持されている。またこのとき、ワンウェイ機構104a、104bは機能せず、可動鉄心112a、112bとシャフト102とは係合していない。
【0040】
このため可動鉄心112aは移動することはなく、グラフAの点Dに示すようにストロークが0となっている。また可動鉄心112aのストロークが0であるとき、ワンウェイ機構104aの弾性体132a(図2(a)参照)が可動鉄心112aの小径部120aを右側に押し付ける。なお点Dは、リターンスプリング114を圧縮するために必要な吸引力を示している。
【0041】
図4(b)は、図4(a)に後続してコイル110に電流を流して励磁させた状態を示している。通電時において図4(b)に示すコイル110の磁束Rcは、図示左側の永久磁石116aの磁束Ra(図中、点線)による保持力を打ち消し、可動鉄心112aを右側に吸引する吸引力を生じさせる。
【0042】
一方、コイル110の磁束Rcは、図示右側の永久磁石116bの磁束Rbによる保持力を打ち消さない。このため、可動鉄心112bが初期位置に保持されていて、ワンウェイ機構104bは機能せず、可動鉄心112bとシャフト102とは係合していない。
【0043】
このため、可動鉄心112aは、コイル110の磁束Rcによる吸引力によって、リターンスプリング114を圧縮しながら付勢力に抗して右側に移動する(図4(b)の矢印α参照)。その結果、ワンウェイ機構104aが機能して、図2(a)に示す転動体126aが傾斜面130aに当接してシャフト102との間に挟まることで楔として機能して、可動鉄心112aとシャフト102とを係合する。
【0044】
可動鉄心112aは、グラフCのシャフト推力が生じるタイミング(すなわちグラフAの点E)でシャフト102と係合している。また点Dと点Eを比較すると、可動鉄心112aを右側に吸引する吸引力は、可動鉄心112aの他端125aが可動鉄心112bの一端125bに近づくにつれて大きくなっている。このように点Eで吸引力を大きくすることにより、ワンウェイ機構104aが機能して可動鉄心112aによってシャフト102を動かすときに、ラッチ機構106の転動体142が溝136aを乗り越えることが可能となる(図5(a)参照)。
【0045】
図5は、図4(b)に後続するアクチュエータ100の通電時の動作を説明する図である。シャフト102は、ワンウェイ機構104aにより可動鉄心112aと係合しているため、右側に吸引される可動鉄心112aとともに移動する(図5(a)の矢印β参照)。そしてグラフAの点Fにおいて、可動鉄心112aは、グラフBに示すラッチ機構106によるシャフト102の保持力を上回る吸引力で右側に押し出される。
【0046】
その結果、シャフト102は右側に送られて、図2(b)に示すラッチ機構106の溝136aに係合していた転動体142が溝136aを乗り越えた状態となる(図5(a)参照)。そして図5(b)に示すように、可動鉄心112aが右側にさらに移動すると(グラフAの点G)、ラッチ機構106の転動体142は、溝136aの隣の溝136bに係合する。
【0047】
ここでシャフト102のワンストロークの送り量Lb(図2(b)参照)は、上記したように溝136a、136bの間隔Laの2つ分よりも小さい。またグラフAの点Fと点Gを比較すると、可動鉄心112aを右側に吸引する吸引力は、転動体142が溝136aを乗り越えた後、例えば点Gに示すシャフト102のストロークエンドにおいて、グラフBに示すラッチ機構106の保持力よりも小さくなっている。
【0048】
このため、シャフト102が送られるワンストローク毎に、ラッチ機構106の溝136に転動体142が確実に係合して、シャフト102が溝136を越えてストロークしないようにできる。すなわちラッチ機構106の保持力によって、シャフト102の送りすぎを防止し、溝136の間隔Laの1つ分でシャフト102を確実に保持することができる。
【0049】
したがってアクチュエータ100では、通電時にワンウェイ機構104が機能して可動鉄心112aによってシャフト102が送られるワンストローク毎に、ラッチ機構106の転動体142が溝136aを乗り越えて隣の溝136bに係合し、これによって、シャフト102のワンストローク毎の送り量を安定させることができる。すなわちシャフト102は、溝136の間隔Laの1つ分だけ確実に右側に送られることになる。
【0050】
図6は、図5(b)に後続するアクチュエータ100の非通電時の動作を説明する図である。非通電時においては、コイル110の磁束Rcによる吸引力が生じないため、可動鉄心112aは、リターンスプリング114の付勢力によって左側に移動し(図6(a)の矢印γ参照)、ワンウェイ機構104aによるシャフト102との係合が解除される。このとき、ラッチ機構106は、転動体142が溝136bに係合しているため、シャフト102の位置を保持することができる。また可動鉄心112aは、左側に移動することで、図6(b)に示すように再び初期位置に戻る。
【0051】
このようにアクチュエータ100では、ワンウェイ機構104aによって可動鉄心112aとシャフト102との係合と解除を繰り返して、シャフト102を少しずつ繰り出すことで大きな移動距離を得る、ステップ送りを行うことができる。一例として、ラッチ機構106の溝136の間隔Laが2mmであれば、上記動作を10回繰り返すことでシャフト102を20mm繰り出すことができる。
【0052】
したがってアクチュエータ100によれば、シャフト102の中間位置の位置決め精度を向上させることができる。さらにコイル110が1つしかないことから、アクチュエータ100の小型化を図ることができる。
【0053】
なお上記アクチュエータ100では、通電時にコイル110の磁束Rc(図4(b)参照)による吸引力によって可動鉄心112aを移動させ、さらにワンウェイ機構104aによって可動鉄心112aとシャフト102との係合と解除を繰り返してシャフト102を右側にステップ送りするようにした。ただし、これに限定されず、コイル110に流す電流の向きを逆にして、2つの可動鉄心112a、112bのうち、可動鉄心112bを移動させて、ワンウェイ機構104bによって可動鉄心112bとシャフト102との係合と解除を繰り返して、シャフト102を左側にステップ送りしてもよい。すなわち2つのワンウェイ機構104a、104bは、2つの可動鉄心112a、112bのうち、コイル110が励磁されたときに電流の向きに応じて移動する側の可動鉄心とシャフト102とを係合する。
【0054】
図7は、図1のアクチュエータ100の変形例を示す図である。図7(a)、図7(b)に示すアクチュエータ100A、100Bはそれぞれ、左側の可動鉄心112c、112dの一端122c、122d、すなわちハウジング108の横板124aに密着する側のストローク端に切欠き148、150が形成されている点で、上記アクチュエータ100と異なる。
【0055】
このためアクチュエータ100Aでは、通電時に可動鉄心112cの他端125aが対向する可動鉄心112bの一端125bに近づくほど(矢印α)、図7(a)に示す可動鉄心112cの一端122cが固定鉄心118aと重なるラップ長さLcが小さくなり、磁路Rdが絞られる。
【0056】
またアクチュエータ100Bでは、通電時に可動鉄心112dの他端125aが対向する可動鉄心112bの一端125bに近づくほど(矢印α)、図7(b)に示す可動鉄心112dの一端122dが固定鉄心118aと重なる断面積の径方向の長さLdが小さくなり、磁路Rdが絞られる。
【0057】
したがってアクチュエータ100A、100Bによれば、ストローク終盤において可動鉄心112c、112dに流入する磁束を制限して、図4(b)に示すコイル110の磁束Rcによる可動鉄心112c、112dの吸引力を小さくすることができる。これにより、シャフト102が溝136を越えてしまうことを防止し、ラッチ機構106の溝136に係合部材138を確実に係合させることができる。
【0058】
図8は、図1のアクチュエータ100の他の変形例を示す図である。図8(a)に示すアクチュエータ100Cは、可動鉄心112a、112bの対向面、すなわち可動鉄心112aの他端125aと可動鉄心112bの一端125bとの間に非磁性スペーサ152が配置されている点で、上記アクチュエータ100と異なる。
【0059】
図8(b)は、アクチュエータ100Cの特性を示すグラフである。図中では、横軸を可動鉄心112aのストロークとし、縦軸をコイル110の磁束Rcによる吸引力としている。グラフHに示すように、吸引力は、可動鉄心112aの他端125aが可動鉄心112bの一端125bに近づいて(矢印α)、さらに両者が密着すると点Jに示すように急激に強くなる。
【0060】
そこでアクチュエータ100Cでは、2つの可動鉄心112a、112bの対向面の間に、非磁性スペーサ152を配置し、その厚み寸法Leの分だけ磁気ギャップを形成することで、点Kに示すように吸引力を小さくすることができる。
【0061】
したがってアクチュエータ100Cによれば、ストローク終盤におけるシャフト102の推力を、ラッチ機構106によるシャフト102の保持力よりも小さくすることができ、ワンストローク毎にラッチ機構106によってシャフト102を確実に保持することができる。
【0062】
図9は、図1のアクチュエータ100のさらに他の変形例を示す図である。図9(a)に示すアクチュエータ100Dは、可動鉄心112a、112bの対向面の間に非磁性弾性体154が配置されている点で、上記アクチュエータ100と異なる。なお非磁性弾性体154は、例えば皿ばね、波ばねなどのセット長さの短い板ばねである。
【0063】
このためアクチュエータ100Dでは、可動鉄心112aの他端125aが可動鉄心112bの一端125bに近づいて(矢印α)、2つの可動鉄心112a、112bの対向面同士が近づくほど反発力が高くなり、2つの可動鉄心112a、112bの間に磁気ギャップが形成される。
【0064】
したがってアクチュエータ100Dでは、2つの可動鉄心112a、112b同士が密着せず、コイル110の磁束による可動鉄心112aの吸引力を小さくできる。したがってストローク終盤におけるシャフト102の推力を、ラッチ機構106によるシャフト102の保持力よりも小さくすることができる。このため、シャフト102の位置は、ワンストローク毎にラッチ機構106によって確実に保持される。
【0065】
図9(b)に示すアクチュエータ100Eは、リターンスプリング114aを、圧縮されるほどばね定数が増加する非線形ばね(例えば、不等ピッチスプリング)としている点で、上記アクチュエータ100と異なる。リターンスプリング114aは、図9(c)のグラフLに示すように、スプリング変形量に対して弾性力が非線形特性を有する。つまりリターンスプリング114aは、圧縮されるほど弾性力が急激に高くなる。
【0066】
このためアクチュエータ100Eでは、可動鉄心112aの他端125aが可動鉄心112bの一端125bに近づいて(矢印α)、2つの可動鉄心112a、112bの対向面同士が近づくほど反発力(すなわちリターンスプリング114aの付勢力)が急激に高くなる。
【0067】
このため、ストローク終盤におけるシャフト102の推力をラッチ機構106によるシャフト102の保持力よりも小さくすることができる。したがってアクチュエータ100Eによれば、シャフト102がステップ送りされると、ワンストローク毎にラッチ機構106の溝136に係合部材138が確実に係合して、シャフト102が溝136を越えてストロークしないようにできる。
【0068】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、双方向に能動的にシャフトを移動させることが可能なアクチュエータとして利用することができる。
【符号の説明】
【0070】
100、100A、100B、100C、100D、100E…アクチュエータ、102…シャフト、104a、104b…ワンウェイ機構、106…ラッチ機構、108…ハウジング、110…コイル、112a、112b、112c、112d…可動鉄心、114、114a…リターンスプリング、116a、116b…永久磁石、118a、118b…固定鉄心、120a、120b…小径部、122a、122c、122d…左側の可動鉄心の一端、122b…右側の可動鉄心の他端、124a、124b…ハウジングの横板、125a…左側の可動鉄心の他端、125b…右側の可動鉄心の一端、126a…ワンウェイ機構の転動体、128a…保持器、130a…傾斜面、132a…弾性体、134…ケーシング、136、136a、136b…溝、138…係合部材、140…孔部、142…ラッチ機構の転動体、144…ラッチ機構の弾性体、146…支持部材、148、150…切欠き、152…非磁性スペーサ、154…非磁性弾性体
図1
図2
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図4
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図6
図7
図8
図9