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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077817
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】焼付き防止ボルト
(51)【国際特許分類】
   F16B 35/00 20060101AFI20240603BHJP
【FI】
F16B35/00 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022189994
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】390038069
【氏名又は名称】株式会社青山製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 源太郎
(57)【要約】
【課題】斜めに挿入された場合の焼付き防止効果を維持しつつ、ガイドねじ部の長さを従来よりも大幅に短縮できる焼付き防止ボルトを提供する。
【解決手段】正規ねじ21が形成された軸部20の先端に、ガイドねじ部30が形成された焼付き防止ボルトである。ガイドねじ部30は、正規ねじに連続する第1縮径部31と、それに続く一定径のガイド径部32と、先端に向かって縮径する第2縮径部33とからなる。ガイド径部は、このボルトが螺合されるめねじの内径Dよりも僅かに大きい一定径rである。ガイドねじ部32の軸線方向長さは一般的な荒先ボルトの不完全ねじ長さ2ピッチ以内と同等とすることができる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正規ねじが形成された軸部の先端にガイドねじ部が形成された焼付き防止ボルトであって、
前記ガイドねじ部は、正規ねじに連続する第1縮径部と、それに続く一定径のガイド径部と、先端に向かって縮径する第2縮径部とからなり、
前記ガイド径部は、このボルトが螺合されるめねじの内径よりも僅かに大きい一定径であることを特徴とする焼付き防止ボルト。
【請求項2】
前記ガイド径部が形成される角度範囲を、60°~180°としたことを特徴とする請求項1に記載の焼付き防止ボルト。
【請求項3】
このボルトが螺合されるめねじの谷径をD、めねじの内径をDとしたとき、前記ガイド径部は、直径表示でDより大きく、(D+D)/2より小さいことを特徴とする請求項1または2に記載の焼付き防止ボルト。
【請求項4】
前記ガイドねじ部の軸線方向長さが、1ピッチ以内であることを特徴とする請求項1または2に記載の焼付き防止ボルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めねじに対して斜めに挿入された場合にも、焼付きが生じにくい焼付き防止ボルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ボルトをナット等のめねじに対して斜めに挿入すると、傾斜角度によっては焼付きが生じることがある。焼付きは、ボルトのおねじがめねじの本来入るべき位置から1ピッチずれた位置に噛み込むことによって発生し、おねじのねじ山がめねじのねじ山とクロスして喰い込み、焼付く現象である。焼付きが発生したボルトは抜き取ろうとしても容易には抜き取れず、抜き取れたとしてもめねじのねじ山が破壊されてしまい元に戻すことができない。
【0003】
このようなボルトの焼付きは、自動車の組み立てライン等では重大なトラブルとなる。しかも自動車の組み立てライン等では、上向きや斜め上向きにボルトを締め込まねばならないことがある。そのような場合には下向きの締結作業とは異なり、作業者はめねじの軸芯とボルトの軸芯を正確に一致させることが容易ではなく、焼付きが発生し易くなる。そこで従来から、多くの焼付き防止ボルトが開発されている。
【0004】
例えば特許文献1、特許文献2には、正規ねじの先端にガイドねじ部を形成した焼付き防止ボルトが記載されている。これらの従来の焼付き防止ボルトは、正規ねじの2ピッチ程度の長さのガイドねじ部を有するものが一般的である。ボルトが斜めに挿入された場合にもガイドねじ部がめねじの内面に接触し、更にねじ込むと接触点で生ずる反力によりボルトの姿勢が矯正され、焼付きが防止される効果がある。
【0005】
しかしガイドねじ部は正規ねじの先端側に形成されているため、締結が完了した状態ではナット等のめねじを貫通してめねじの裏面に突出することとなる。このため、めねじの裏面側に十分なスペースを確保できない場合には、ガイド部ねじの先端が干渉して完全な締結ができないこととなる。このような場合にはめねじの裏面側にガイドねじ部を収納できるスペースを確保できるように機器の設計変更が必要となり、機器サイズの小型化を妨げるなどの問題があった。また、ガイドねじ部はボルトの挿入開始時に機能するだけであって、締結完了後は締結強度の向上に寄与する部分ではない。このためガイドねじ部を長くすることは、ボルト材料の無駄につながり、コスト増加の要因ともなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5655208号公報
【特許文献2】特開2013-249919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、斜めに挿入された場合の焼付き防止効果を維持しつつ、ガイドねじ部の長さを従来よりも大幅に短縮できる焼付き防止ボルトを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するためになされた本発明の焼付き防止ボルトは、正規ねじが形成された軸部の先端にガイドねじ部が形成された焼付き防止ボルトであって、前記ガイドねじ部は、正規ねじに連続する第1縮径部と、それに続く一定径のガイド径部と、先端に向かって縮径する第2縮径部とからなり、前記ガイド径部は、このボルトが螺合されるめねじの内径よりも僅かに大きい一定径であることを特徴とするものである。
【0009】
なお、前記ガイド径部が形成される角度範囲を、60°~180°とすることが好ましい。また、このボルトが螺合されるめねじの谷径をD、めねじの内径をDとしたとき、前記ガイド径部の一定径は、直径表示でDより大きく、(D+D)/2より小さいことが好ましい。また、前記ガイドねじ部の軸線方向長さを、1ピッチ以内とすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の焼付き防止ボルトは、ガイドねじ部の長さを短くしても従来と同様の焼付き防止効果を発揮するものであり、機器の小型化やコストダウンに寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態の焼付き防止ボルトの全体図である。
図2】実施形態の焼付き防止ボルトの先端部を示す斜視図である。
図3】先端部のねじ山の展開図である。
図4】焼付き防止ボルトの先端部を3方向から見た、正面図と上面図である。
図5】めねじとの関係を示す説明図である。
図6】標準的なボルトとめねじの模式的な断面図である。
図7】標準的なボルトとめねじにおける寸法説明図である。
図8】標準的なボルトが斜め入りした状態の説明図である。
図9】実施形態の焼付き防止ボルトのガイドねじ部の上面図である。
図10】本発明の焼付き防止ボルトのガイド径部における寸法関係図である。
図11】本発明の焼付き防止ボルトの空転状態を示す説明図である。
図12】本発明の焼付き防止ボルトの姿勢矯正効果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の好ましい実施形態を示すが、まずねじ径の表示について述べる。
ねじの業界においては、ねじ径は直径で表示されるのが普通であり、JISにおいても同様に直径表示がなされている。しかし本発明の要部となるガイドねじ部は軸芯に対して非対称であるため、直径表示が適さないことがある。このため本明細書においては、必要に応じて半径表示を併用することとする。
【0013】
(全体構成)
図1に示すように、本実施形態の焼付き防止ボルトは、頭部10と軸部20とを備え、軸部20には正規ねじ21が形成されている。正規ねじ21の先端には、正規ねじ21に連続し、先端に向かって縮径するガイドねじ部30が形成されている。本実施形態の焼付き防止ボルトの頭部10は六角形の頭部本体11とフランジ部12とを備えているが、頭部10の形状は任意である。22は底面である。
【0014】
正規ねじ21は一定のピッチPで形成されている。本実施形態の焼付き防止ボルトは、ピッチPが1.25mm、呼び径が12mmのM12ボルトである。すなわち、ねじ山のピッチPが1.25mm、ねじ山の直径が12mmのメートルねじが形成されたボルトである。
【0015】
(ガイドねじ部)
ガイドねじ部30は図1図2に示されるように、底面22である先端に向かって順次縮径している。ガイドねじ部30は図3の展開図に示すように、A点において正規ねじ21に連続する第1縮径部31と、B点において第1縮径部31に連続する一定径のガイド径部32と、C点においてガイド径部32に連続し、先端のF点に向かって縮径する第2縮径部33とからなる。すなわち、第1縮径部31は図3のAからBの部分であり、ガイド径部32はBからCの部分であり、第2縮径部33はCからFの部分である。
【0016】
図1図3に示すように、正規ねじ21との接続点であるA点から、第2縮径部33の先端点であるF点までの長さ、すなわち実施形態のガイドねじ部30の軸線方向の長さは、正規ねじ21の1ピッチ以内である。本実施形態ではガイドねじ部30の軸線方向の長さは1ピッチに等しい1.25mmとなっている。また、ガイド径部32が形成される角度範囲θは60°~180°とすることが好ましく、本実施形態では図3に示すようにθは120°~240°の範囲となっている。
【0017】
図4に本発明の焼付き防止ボルトの先端部を3方向から見た図を示す。ボルト先端部を示す図面は底面図とするのが普通であるが、図4の上部にはガイドねじ部30を上方から見下ろした上面図を表示した。図4(イ)は第1縮径部31を正面とした図であり、図4(ロ)はガイド径部32を正面とした図であり、図4(ハ)は第2縮径部33を正面とした図である。これらの図に示されるように、本実施形態ではこれらの各部分は120°ずつ形成されているが、ガイド径部32の角度範囲θは60°~180°の範囲で変更することができる。ガイド径部32の角度範囲が60°未満であると後述する斜め入り防止効果が低下し、180°を超えるとその他の部分におけるねじ山径の変化が急激になり、めねじに引っ掛かって斜め入り防止効果が阻害されるおそれがある。ガイド径部32の角度範囲に応じて、全体が360°に収まるように第1縮径部31と第2縮径部33の角度範囲も適宜調整することとなるが、上記の理由から第1縮径部31の角度範囲は90°以上とすることが好ましい。
【0018】
A点は正規ねじ21に連続する第1縮径部31の始点であるからその径は正規ねじ21の外径に等しく、本実施形態では直径表示で12mmである。正確には、軸芯OからA点までの距離(半径)は正規ねじ21のねじ山半径である6mmである。第1縮径部31のねじ径はB点に向かって徐々に縮径し、B-C間のガイド径部32では縮径せずに一定径rとなる。
【0019】
このガイド径部32の径は、このボルトが螺合されるめねじの内径よりも僅かに大きく設定されている。JISによれば、呼び径12mm、ピッチ1.25mmのボルトが螺合されるめねじの内径は、10.647~10.912mmである。本実施形態では、ガイド径部32の径は、直径表示で僅かに大きい11.1mmに設定されている。換言すると、図4に示されるガイド径部32の半径rは、(10.647/2)mmよりも大きい(11.1/2)mmとなっている。後述するように、ガイド径部32の径をめねじの内径よりも大きくしたことによって、斜め入りを防止する効果が得られる。
【0020】
なお、ガイド径部32の径を大きくし過ぎるとめねじへの螺合が行いにくくなる。このため、図5に示すようにめねじの谷径をD、めねじの内径をDとしたとき、ガイド径部の一定径は、直径表示でDより大きく、(D+D)/2より小さいことが好ましい。具体的には、D=12mm、D=10.647mmであるから、(D+D)/2=11.3235mmとなり、ガイド径部の一定径は直径表示で、10.647mmより大きく11.3235mmより小さくすることとなる。本実施形態ではガイド径部32の一定径は、直径表示で11.1mmとなっている。この値は、10.647と11.3235を両端とする線分の約2/3の位置にある。よってガイド径部の一定径は、直径表示でDとDの間の1/3~2/3程度とすることが最も好ましい。
【0021】
ガイド径部32の終端であるC点から先の第2縮径部33は、先端のF点に向けて再び縮径して行く。本実施形態では、F点の径は正規ねじ部の外径の約70%となっているが、この値はさほど重要ではなく、適宜縮径することができる。
【0022】
(焼付き防止機能)
以下に本発明の焼付き防止ボルトの焼付き防止作用について説明するが、最初に、ガイドねじ部を持たない標準的なボルトの焼付きについて説明する。
図6はガイドねじ部を持たない標準的なボルトと、ナットの模式的な断面図であり、上記と同様にめねじの谷径をD、めねじの内径をDとし、おねじの外径をdとした。なおDとdは呼び径であってJISによればD=dである。ボルトの片側の山から反対側の山までの長さをHとし、ナットの片側の谷から反対側の山までの長さをHとする。またピッチをPとする。
【0023】
図7に示すように、ボルト側のHはdを底辺とし、高さが1/2Pの直角三角形の斜辺である。これに対してナット側のHは、D/2+d/2を底辺とし、高さが1Pの直角三角形の斜辺である。ピタゴラスの定理を用い、D=12mm、D=10.647mm、P=1.25mmの値を用いて計算すると、H=(12+0.6251/2=12.02、H=((6+5.3235)+1.251/2=11.39となり、HがHよりも大きい。
【0024】
図8に示すように、標準的なボルトがナットに対して斜め入りした場合、ボルトの片側のねじ山がナットの谷に入り込み、ボルトの反対側のねじ山がナットの反対側のねじ山に乗る。ここでHがHよりも大きいため、ボルトの姿勢を矯正しようとしても、ボルトの反対側のねじ山がナットの反対側のねじ山を通過することができず、姿勢の矯正ができない。このためそのままねじ込むと焼付くこととなる。
【0025】
これに対して本発明の焼付き防止ボルトは、先端部にガイドねじ部30を備え、そのガイド径部32は上記の通り設定されている。図9に示すように、ガイド径部32の半径rは(11.1/2)mmであり、その反対側の半径Rはおねじ外径Dの半径(D/2)よりも縮径している。もしガイド径部32の反対側が縮径していない場合には、Rは=6mmとなり、半径rを5.55mmとして上記のHxを計算すると、H=11.567mmとなり、先に計算したH=11.39mmよりもやや大きく、やはり姿勢の矯正ができない。
【0026】
しかし本発明の焼付き防止ボルトにおいては、ガイド径部32の反対側はおねじの外径Dよりも縮径している。計算上、Hが11.39mmに等しくなるのは反対側の半径Rが直径表示で11・646mmのときである。図9に示すA点とB点の間では、半径RがB点(直径表示で11.1mm)に向かって縮径している。また、C点とF点との間では11.1mmよりも更に小さい。よって、ガイド径部32の反対側の半径Rは、ほとんどの部分で11.646mmよりも小さくなる。参考のため、本発明のガイド径部における寸法関係図を図10(ニ)(ホ)に示す。
【0027】
このため本発明の焼付き防止ボルトは、図11に示すようにナットに対して斜めに挿入された場合、ボルトの片側のねじ山がナットの谷に入り込んでも、ボルトの反対側のねじ山がナットの反対側のねじ山を通過することができる。このため作業者はボルトの姿勢を矯正し、正しく螺合させることが可能となる。
【0028】
また本発明の焼付き防止ボルトは、ガイド径部32の径をめねじの内径よりも大きくしたので、図12に示すようにボルトが大きく傾いてめねじに挿入された場合には、ボルトがめねじの内径に入り込むことが防止されて空転する。すなわち、図12の状態ではガイド径部32のねじ山がめねじのねじ山の上に当たり、それ以上入ることがない。なお、ガイド径部32が形成されている角度範囲は60°~180°であって全周ではないが、最近の自動車組み立てライン等においては高速回転するドライバが用いられており、ボルトが高速回転するため、ガイド径部32がめねじに当たるとボルトが外側にはじかれる。このため、ガイド径部32を60°~180°の角度範囲と全周よりも狭くしても、焼付きを確実に防止することができる。なお上記した本発明の焼付き防止ボルトの焼付き防止効果について、本発明者は試作品を製造して様々な角度からめねじに挿入するテストを行い、確認済みである。
【0029】
以上に述べた本発明の焼付き防止ボルトの作用効果を整理すると、次の通りである。
(1)本発明の焼付き防止ボルトは、ガイド径部32の径をめねじの内径よりも大きくしたので、ボルトが傾いてめねじに挿入された場合、ボルトがめねじの内径に入り込むことが防止されて空転する(図12)。
(2)ボルトが空転すると、作業者はボルトの軸芯をめねじの軸線に一致させようとする動作を行うが、本発明の焼付き防止ボルトは、ガイド径部32の反対側の大部分が縮径されているので、ボルトの片側のねじ山がナットの谷に入り込んでも、ボルトの反対側のねじ山がナットの反対側のねじ山を通過することができ、姿勢の矯正が可能となる(図11)。
(3)本発明の焼付き防止ボルトは、正規ねじの先端に形成されたガイドねじ部の長さを従来実用されてきた焼付き防止ボルトよりも短くできるので、めねじの裏面側のガイドねじ部を収納できるスペースを小さくすることができる。また、ボルト材料の無駄を省き、コスト低減にも寄与することができる。上記した実施形態ではガイドねじ部の長さは1ピッチであるがこれに限定されるものではなく、一般的な荒先ボルトの不完全ねじ長さ2ピッチ以内と同等としてもよい。
【0030】
以上に説明した実施形態の説明は、ピッチが1.25mmのM12ボルトについて行ったが、サイズやピッチが異なるボルトにも適用できることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0031】
10 頭部
11 頭部本体
12 フランジ部
20 軸部
21 正規ねじ
22 底面
30 ガイドねじ部
31 第1縮径部
32 ガイド径部
33 第2縮径部
P ピッチ
D めねじの谷径
めねじの内径
d ボルトの外径
r ガイド径部の半径
R ガイド径部の反対側の半径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12