(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077858
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】山留め壁構造および山留め壁構造の施工方法
(51)【国際特許分類】
E02D 17/04 20060101AFI20240603BHJP
E02D 29/05 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
E02D17/04 E
E02D29/05 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190057
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】眞野 英之
(72)【発明者】
【氏名】坂本 忠
【テーマコード(参考)】
2D147
【Fターム(参考)】
2D147AB08
(57)【要約】
【課題】バットレス型改良体の回転抑止効果を向上することができる山留め壁構造および山留め壁構造の施工方法を提供する。
【解決手段】地盤Aの掘削領域Bの周囲に設ける山留め壁構造1において、地盤と掘削領域の境界に設けられた山留め壁11と、山留め壁の掘削領域側に、山留め壁と平面視で略直交する方向に延びるバットレス型改良体12と、バットレス型改良体の下端に連設される底盤改良体13と、を備え、バットレス型改良体は、山留め壁に接するように配された第1改良体21と、第1改良体に連設し山留め壁とは反対側に延設された第2改良体22と、を備え、地盤内において、第1改良体の底面21aより第2改良体の底面22aの方が高い位置にあり、底盤改良体は、第2改良体の底面に接するように配されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤の掘削領域の周囲に設ける山留め壁構造において、
前記地盤と前記掘削領域の境界に設けられた山留め壁と、
前記山留め壁の前記掘削領域側に、前記山留め壁と平面視で略直交する方向に延びるバットレス型改良体と、
前記バットレス型改良体の下端に連設される底盤改良体と、を備え、
前記バットレス型改良体は、前記山留め壁に接するように配された第1改良体と、該第1改良体に連設し前記山留め壁とは反対側に延設された第2改良体と、を備え、
前記地盤内において、前記第1改良体の底面より前記第2改良体の底面の方が高い位置にあり、
前記底盤改良体は、前記第2改良体の底面に接するように配されている山留め壁構造。
【請求項2】
前記底盤改良体は、平面視で前記第2改良体の端部に該底盤改良体の中心が略一致する円形状に形成されている請求項1に記載の山留め壁構造。
【請求項3】
地盤の掘削領域の周囲に設ける山留め壁構造の施工方法において、
前記地盤と前記掘削領域の境界に設けられる山留め壁を施工する工程と、
前記山留め壁の前記掘削領域側に、前記山留め壁と平面視で略直交する方向に延びるバットレス型改良体を施工する工程と、
前記バットレス型改良体の下端に連設される底盤改良体を施工する工程と、を備え、
前記バットレス型改良体は、前記山留め壁に接するように配された第1改良体と、該第1改良体に連設し前記山留め壁とは反対側に延設された第2改良体と、を備え、
前記地盤内において、前記第1改良体の底面より前記第2改良体の底面の方が高い位置に形成し、
前記底盤改良体は、前記第2改良体の底面に接するように形成し、
前記底盤改良体は、高圧噴射攪拌工法で施工する山留め壁構造の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山留め壁構造および山留め壁構造の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
掘削工事では、地盤の崩壊を防ぐため一般に山留め壁が設けられる。山留め壁の変位を抑制する方法として、山留め壁の剛性の増加や切梁支保工の段数の増加などが行われる。しかし、掘削する地盤が厚い軟弱層である場合は掘削底面以深での山留め壁変位が大きく、これらの対策のみでは十分に山留め壁の変位を抑制することができなかった。このため、軟弱地盤での掘削工事では、山留め壁の変位抑止などを目的として山留め壁に接した掘削側地盤をバットレス型(控え壁型)に地盤改良する工法(バットレス型改良工法)が普及している(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バットレス型改良体は、ほぼ剛体のように移動、回転することが多いため、十分な変形抑止効果を得るためには、改良地盤を硬質地盤まで打設して改良体底面の支持力を大きくして回転を抑止する必要がある。また、地盤が非常に軟弱であり、掘削による山留め壁の変形が深部まで及ぶ場合、変形を効果的に抑止するためには山留め壁の変形が生じ始める深度近傍までバットレス型改良体を施工する必要があった。しかし、バットレス型改良体の深さ/幅比が大きくなると回転抑制効果が低減するという課題があった。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、バットレス型改良体の回転抑止効果を向上することができる山留め壁構造および山留め壁構造の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る山留め壁構造は、地盤の掘削領域の周囲に設ける山留め壁構造において、前記地盤と前記掘削領域の境界に設けられた山留め壁と、前記山留め壁の前記掘削領域側に、前記山留め壁と平面視で略直交する方向に延びるバットレス型改良体と、前記バットレス型改良体の下端に連設される底盤改良体と、を備え、前記バットレス型改良体は、前記山留め壁に接するように配された第1改良体と、該第1改良体に連設し前記山留め壁とは反対側に延設された第2改良体と、を備え、前記地盤内において、前記第1改良体の底面より前記第2改良体の底面の方が高い位置にあり、前記底盤改良体は、前記第2改良体の底面に接するように配されていることを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、バットレス型改良体下端に連設される底盤改良体を設けることでバットレス型改良体の底面積を増やしたのと同じ効果が得られる。結果として底面の反力を増やすことができ、山留め壁の変形抑止効果が大きくなるため、バットレス型改良体の深さを短くしたり、改良体積の増加を抑制したりすることができる。また、バットレス型改良体を第1改良体と第2改良体とで構成し、底盤改良体は深度の浅い第2改良体の底面に接するように設けた。つまり、底盤改良体の深度は山留め壁の変形が生じ始める深度にとらわれず、バットレス型改良体の回転抑止効果が大きい任意の深度に底盤改良体を構築でき、山留め壁の変形抑止に対して大きな効果が得られる。さらに、バットレス型改良体のボリュームも減らすことができる。
【0008】
また、本発明に係る山留め壁構造は、前記底盤改良体は、平面視で前記第2改良体の端部に該底盤改良体の中心が略一致する円形状に形成されていてもよい。
【0009】
この発明によれば、底盤改良体をバットレス型改良体の第2改良体よりもさらに山留め壁から離れた位置まで改良するとともに第2改良体の端部に底盤改良体の中心が略一致するように配設することで、底盤改良体の面積を増やさずに回転変形の抑止効果を高めることができる。
【0010】
本発明に係る山留め壁構造の施工方法は、地盤の掘削領域の周囲に設ける山留め壁構造の施工方法において、前記地盤と前記掘削領域の境界に設けられる山留め壁を施工する工程と、前記山留め壁の前記掘削領域側に、前記山留め壁と平面視で略直交する方向に延びるバットレス型改良体を施工する工程と、前記バットレス型改良体の下端に連設される底盤改良体を施工する工程と、を備え、前記バットレス型改良体は、前記山留め壁に接するように配された第1改良体と、該第1改良体に連設し前記山留め壁とは反対側に延設された第2改良体と、を備え、前記地盤内において、前記第1改良体の底面より前記第2改良体の底面の方が高い位置に形成し、前記底盤改良体は、前記第2改良体の底面に接するように形成し、前記底盤改良体は、高圧噴射攪拌工法で施工することを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、バットレス型改良体の第2改良体の底面に接するように高圧噴射攪拌工法で施工した底盤改良体を設けることで底面積を増やすことができる。結果として底面の反力を増やすことができ、硬質地盤でなくても大きな底面反力が確保できることからバットレス型改良体の深さを短くしたり、改良体積の増加を抑制したりすることができる。また、底盤改良体は、高圧噴射攪拌工法により効率的に施工することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、バットレス型改良体の回転抑止効果を向上することができる山留め壁構造および山留め壁構造の施工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態に係る山留め壁構造の側面図である。
【
図2】本実施形態に係る山留め壁構造の平面図である。
【
図3】本実施形態に係る山留め壁構造の動きを説明する側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態による山留め壁構造および山留め壁構造の施工方法について、
図1~
図3に基づいて説明する。
【0015】
図1、
図2に示すように、本実施形態の山留め壁構造1は、地盤A内に設けられ、地盤Aと掘削領域Bの境界に設けられた山留め壁11と、山留め壁11の掘削領域B側に山留め壁11と平面視で略直交する方向に延びるバットレス型改良体12と、バットレス型改良体12の下部に連設されると共にバットレス型改良体12を安定して保持できる深さに設けられた底盤改良体13と、を備えている。また、例えば、掘削領域Bの地盤Aの表面近傍には切梁14が配設されている。
【0016】
山留め壁11は、従来から知られている工法で施工されたものである。施工法としては、ソイルセメント柱列壁工法、鋼管矢板工法、地中連続壁工法、親杭横矢板工法、鋼矢板工法などがある。なお、山留め壁11は、地盤Aと掘削領域Bとの境界全周に設けられている。
【0017】
バットレス型改良体12は、掘削領域Bの直下の地盤A内に設けられた側面視板状部材である。バットレス型改良体12は、例えば、ソイルセメント柱列壁工法で形成されている。なお、バットレス型改良体12は、深層もしくは中層混合処理工法、板状にも改良できる高圧噴射攪拌工法などで形成してもよい。バットレス型改良体12は、山留め壁11に対して平面視で略直交する方向に所定範囲形成されている。バットレス型改良体12は、地盤Aの表面近傍から掘削領域Bの掘削完了時に底盤付きのバットレス型改良により山留め壁11の変位抑止に十分な効果が期待できる深さまで施工されている。
【0018】
バットレス型改良体12は、山留め壁11に接するように配された第1改良体21と、第1改良体21に連設し山留め壁11とは反対側に延設された第2改良体22と、を備えている。地盤A内において、第1改良体21の底面21aより第2改良体22の底面22aの方が高い位置にある。第1改良体21の底面21aは、例えば、山留め壁11の変形が生じ始める深度近傍の深さに施工されている。第2改良体22の底面22aは、第1改良体21の底面21aよりも高い深度の任意の位置で軟弱な地盤A内に施工されている。バットレス型改良体12は、側面視でL形になっている。
【0019】
底盤改良体13は、バットレス型改良体12の第2改良体22の底面22aに接するように設けられている。底盤改良体13は、平面視で略円形形状で形成されている。底盤改良体13は、平面視で略円形形状のものを複数連結した形状であってもよい。底盤改良体13の上面は鉛直上方を向くように配設されている。底盤改良体13は、平面視でバットレス型改良体12の第2改良体22の山留め壁11とは反対側の端部22bに、底盤改良体13の中心O1が略一致するように配置されている。また、底盤改良体13の平面視の大きさは、施工コストを抑えるために必要な回転抑制効果が期待できる大きさとしている。底盤改良体13は、高圧噴射攪拌工法により形成されている。
【0020】
本実施形態のバットレス型改良体12および底盤改良体13の施工方法について説明する。バットレス型改良体12の施工の前に、計画したバットレス型改良体12の第2改良体22の底部深度付近の地盤を高圧噴射攪拌工法を用いてバットレス型改良体12の第2改良体22の底面幅よりも大きな径で地盤改良(底盤改良)を行い、底盤改良体13を施工する。底盤改良体13を施工した後、この底盤改良体13に支持されるようにバットレス型改良体12の施工を行う。なお、バットレス型改良体12の第1改良体21と第2改良体22とは底盤改良体13の施工後に同時に施工してもよいし、底盤改良体13の施工と並行して第1改良体21の施工を先行して行い、底盤改良体13の施工後に第2改良体22を施工するようにしてもよい。第1改良体21と、第2改良体22とは一体化されている。
【0021】
図3に示すように、山留め壁構造1は、山留め壁11に対して地盤A側から側圧がかかると山留め壁11が掘削領域B側へ変形する。同時に、山留め壁11に接するようにして配されたバットレス型改良体12も同じ方向へ移動しようとする。本実施形態では、バットレス型改良体12の第2改良体22の底面22aに接するように底盤改良体13を設けたため、底盤改良体13に効果的に地反力が作用し、バットレス型改良体12が移動(回転)しようとするのを効果的に抑止できる。結果として、山留め壁11の変形を抑止することができる。
【0022】
本実施形態の山留め壁構造1は、地盤Aと掘削領域Bの境界に設けられた山留め壁11と、山留め壁11の掘削領域B側に、山留め壁11と平面視で略直交する方向に延びるバットレス型改良体12と、バットレス型改良体12の下端に連設される底盤改良体13と、を備え、バットレス型改良体12は、山留め壁11に接するように配された第1改良体21と、第1改良体21に連設し山留め壁11とは反対側に延設された第2改良体22と、を備え、地盤A内において、第1改良体21の底面21aより第2改良体22の底面22aの方が高い位置にあり、底盤改良体13は、第2改良体22の底面22aに接するように配した。
【0023】
このように、バットレス型改良体12の下端に連設される底盤改良体13を設けることでバットレス型改良体12の底面積を増やしたのと同じ効果が得られる。結果として底面の反力を増やすことができ、山留め壁11の変形抑止効果が大きくなるため、バットレス型改良体12の深さを短くしたり、改良体積の増加を抑制したりすることができる。また、バットレス型改良体12を第1改良体21と第2改良体22とで構成し、底盤改良体13は深度の浅い第2改良体22の底面22aに接するように設けた。つまり、底盤改良体13の深度は山留め壁11の変形が生じ始める深度にとらわれず、バットレス型改良体12の回転抑止効果が大きい任意の深度に底盤改良体13を構築でき、山留め壁11の変形抑止に対して大きな効果が得られる。さらに、バットレス型改良体12のボリュームも減らすことができる。
【0024】
また、底盤改良体13は、平面視で第2改良体22の端部22bに該底盤改良体13の中心O1が略一致する円形状に形成した。このように、底盤改良体13をバットレス型改良体12の第2改良体22よりもさらに山留め壁11から離れた位置まで改良するとともに第2改良体22の端部22bに底盤改良体13の中心O1が略一致するように配設することで、底盤改良体13の面積を増やさずに回転変形の抑止効果を高めることができる。
【0025】
以上、本発明に係る山留め壁構造および山留め壁構造の施工方法の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0026】
例えば、上記実施形態の底盤改良体13の配置については一例であり、条件により変形抑止効果の高い底盤改良体の大きさ、位置(高さ)を決定すればよい。
【0027】
また、上記実施形態では、バットレス型改良体12は、山留め壁11と同じ機械攪拌のソイルセメント柱列壁工法などで施工した事例で説明したが、例えば壁状に改良可能な高圧噴射攪拌工法を利用して、底盤改良体13とバットレス型改良体12を連続して施工(地盤改良)してもよい。
【0028】
また、上記実施形態では、底盤改良体13を平面視円形形状で形成した場合の説明をしたが、平面視の形状は円形形状以外であってもよい。
【0029】
また、上記実施形態では、第2改良体22の端部22bに底盤改良体13の中心O1が略一致するように配置したが、バットレス型改良体12の回転抑制効果が見込めるようであれば、必ずしも第2改良体22の端部22bに底盤改良体13の中心O1が一致していなくてもよい。
【0030】
なお、2015年9月の国連サミットにおいて採択された17の国際目標として「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」がある。本実施形態に係る溶接装置は、このSDGsの17の目標のうち、例えば「12.つくる責任つかう責任」の目標などの達成に貢献し得る。
【符号の説明】
【0031】
1…山留め壁構造
11…山留め壁
12…バットレス型改良体
13…底盤改良体
21…第1改良体
21a…(第1改良体の)底面
22…第2改良体
22a…(第2改良体の)底面
A…地盤
B…掘削領域
O1…(底盤改良体の)中心