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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077873
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】リン含有排水の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/58 20230101AFI20240603BHJP
   B01D 21/01 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
C02F1/58 R
B01D21/01 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190082
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000101042
【氏名又は名称】アクアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003753
【氏名又は名称】弁理士法人シエル国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】市川 真治
(72)【発明者】
【氏名】大貝 久生
【テーマコード(参考)】
4D015
4D038
【Fターム(参考)】
4D015BA19
4D015BB05
4D015BB08
4D015BB09
4D015BB12
4D015BB13
4D015CA02
4D015DA04
4D015DA05
4D015DA12
4D015DA13
4D015DA16
4D015DB02
4D015DB14
4D015DB23
4D015DB24
4D015DC02
4D015DC06
4D015DC07
4D015DC08
4D015EA03
4D015EA13
4D015EA14
4D015EA17
4D015EA19
4D015EA32
4D015EA37
4D015FA01
4D015FA26
4D038AA08
4D038AB46
4D038AB47
4D038BA02
4D038BA04
4D038BA06
4D038BB09
4D038BB13
4D038BB18
4D038BB19
(57)【要約】
【課題】凝集剤の使用量を低減でき、簡便で汎用なリン含有排水の処理方法を提供する。
【解決手段】リンを0.5mg/L以上含有する排水10に対して、無機凝集剤を添加すると共に、無機酸又はアルカリ剤を添加することにより排水のpHを2~5に調整する調整工程S1と、調整工程後の排水にアルカリ剤を添加することによりpHを6~8に調整してリン酸化合物を析出させる析出工程S2と、析出工程後の排水を固形物と処理水に固液分離する分離工程S3を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン含有量が0.5mg/L以上の排水を処理する方法であって、
前記排水に無機凝集剤を添加すると共に、無機酸又はアルカリ剤を添加して前記排水のpHを2~5に調整する調整工程と、
アルカリ剤を添加することにより前記排水のpHを6~8に調整してリン酸化合物を析出させる析出工程と、
前記排水を固形物と処理水に固液分離する分離工程と
を有するリン含有排水の処理方法。
【請求項2】
前記調整工程では、前記無機凝集剤を添加した後で前記無機酸又は前記アルカリ剤を添加する請求項1に記載のリン含有排水の処理方法。
【請求項3】
前記調整工程では、前記無機凝集剤と前記無機酸又は前記アルカリ剤を略同時に添加する請求項1に記載のリン含有排水の処理方法。
【請求項4】
前記調整工程において、前記排水のpHを3~4に調整する請求項1に記載のリン含有排水の処理方法。
【請求項5】
前記無機凝集剤として、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化第二鉄及びポリ硫酸第二鉄のうち少なくとも1種を用いる請求項1に記載のリン含有排水の処理方法。
【請求項6】
更に、前記析出工程後の排水に高分子凝集剤を添加してリン酸化合物を凝集させる凝集工程を行う請求項1に記載のリン含有排水の処理方法。
【請求項7】
前記排水は、活性汚泥により生物処理した処理排水である請求項1に記載のリン含有排水の処理方法。
【請求項8】
前記排水は、リン含有量が1mg/L以上である請求項1乃至7のいずれか1項に記載のリン含有排水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンを含有する産業排水、生活排水及び下水排水などの排水を処理する方法に関し、特にリン含有排水からリンを除去する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、産業排水や生活排水、下水排水などの排水中に含まれるリンによる富栄養化が問題になっている。リンなどの無機イオンを含む排水を浄化する技術としては、不溶化物生成剤添加返送汚泥が添加された無機イオン含有排水に、カチオン基比率が10~50モル%のカチオン系高分子凝集剤を添加し撹拌して凝集フロックを生成させた後、更にアニオン系高分子凝集剤を添加して該凝集フロックを造粒する方法(特許文献1参照)、排水のpHを調整する反応槽と、該反応槽で生成された懸濁液から汚泥を沈降分離する沈殿槽と、分離された汚泥を反応槽に返送する返送ポンプと、反応槽の懸濁物の濃度を測定する濃度測定部と、濃度測定部の測定結果に基づいて返送ポンプを制御する制御部を備える排水浄化装置を用いる方法(特許文献2参照)などが開示されている。
【0003】
また、カルシウムイオンによりリン酸カルシウムを生成することで、リン含有排水からリンを除去する方法もある(例えば、特許文献3参照)。特許文献3には、亜鉛とリン酸を含有する廃水に適量のカルシウム化合物を添加するとともにpHを4~6に調整する第1工程と、次いで当該廃水を種晶が充填されたリン晶析槽に通水して晶析処理する第2工程と、第2工程の処理水を凝集沈澱処理する第3工程とを含む処理方法が開示されている。
【0004】
一方、塩化鉄や硫化鉄などの鉄系凝集剤又は高分子凝集剤により凝集沈殿させることで、リン含有排水からリンを除去する方法もある。鉄系凝集剤を用いる場合は、通常、鉄イオンが水酸化物を取り込みやすいpH6~8の範囲で使用されるが、pHがこの範囲ではリン酸と鉄の反応性が低下するという欠点がある。そこで、従来、水中のリン酸を効率的に凝集させて除去することを目的とし、排水のpHを4~6の領域に調整して鉄(III)塩を添加するリン酸含有排水の処理方法が提案されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-66546号公報
【特許文献2】特開2019-171285号公報
【特許文献3】特開2007-260556号公報
【特許文献4】特開2007-21292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述した従来の技術は、「処理方法が複雑」或いは「利用可能範囲が限定されている」といった理由から、より簡便で汎用な処理方法が要望されている。例えば、排水を回収して再利用する場合は、後工程に影響が出るため、カルシウムイオンの使用は避けられる傾向にある。
【0007】
更に、凝集剤を用いる処理方法では、排水中に含有する夾雑物が増加しており、凝集剤の添加量が理論値よりも多く必要となる。例えば、鉄系凝集剤を用いる場合、理論的には鉄とリンは等モル量で反応するが、実際は、共存する固形分などの影響を受けるため、リン1モルに対して鉄の有効成分量として3倍モル以上の凝集剤の添加が必要となる。このため、排水処理によって発生するスラッジ量が増え、産業廃棄物量が増加することが大きな課題となっている。
【0008】
そこで、本発明は、凝集剤の使用量を低減でき、簡便で汎用なリン含有排水の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために種々検討を行った結果、排水に無機凝集剤を添加すると共に無機酸又はアルカリ剤を添加して排水のpHを2~5に調整した後で、アルカリ剤を添加することにより排水のpHを6~8に調整してリン酸化合物を析出させることにより、凝集剤の使用量を低レベルに抑えることができることを見出し、本発明に至った。
【0010】
即ち、本発明は、リン含有量が0.5mg/L以上の排水を処理する方法であって、前記排水に無機凝集剤を添加すると共に、無機酸又はアルカリ剤を添加して前記排水のpHを2~5に調整する調整工程と、アルカリ剤を添加することにより前記排水のpHを6~8に調整してリン酸化合物を析出させる析出工程と、前記排水を固形物と処理水に固液分離する分離工程とを行うリン含有排水の処理方法である。
前記調整工程は、無機凝集剤を添加した後で無機酸又はアルカリ剤を添加してもよく、また、無機凝集剤と無機酸又はアルカリ剤を略同時に添加してもよい。
また、前記調整工程では、前記排水のpHを3~4に調整してもよい。
本発明のリン含有排水の処理方法では、前記無機凝集剤として、例えばポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化第二鉄及びポリ硫酸第二鉄のうち少なくとも1種を用いることができる。
更に、前記析出工程後の排水に高分子凝集剤を添加してリン酸化合物を凝集させる凝集工程を行ってもよい。
本発明のリン含有排水の処理方法において、前記排水は、活性汚泥により生物処理した処理排水でもよい。
本発明のリン含有排水の処理方法は、特に排水のリン含有量が1mg/L以上である場合に好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、リンを含有する産業排水や生活排水などの排水を、従来よりも少量の凝集剤で処理することができ、簡便かつ汎用な排水処理方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1の実施形態の排水処理方法の各工程を示す図である。
図2】本発明の第2の実施形態の排水処理方法の各工程を示す図である。
図3】本発明の第3の実施形態の排水処理方法の各工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0014】
(第1の実施形態)
先ず、本発明の第1の実施形態に係るリン酸含有排水の処理方法(以下、排水処理方法という。)について説明する。図1は本実施形態の排水処理方法の各工程を示す図である。図1に示すように、本実施形態の排水処理方法は、リンを0.5mg/L以上含有する排水10を処理する方法であり、少なくとも、調整工程S1と、析出工程S2と、分離工程S3を行う。
【0015】
本実施形態の排水処理方法を実施するための装置は、特に限定されるものではないが、例えば、排水貯留槽1、膜分離活性汚泥処理設備2、反応槽3a,3b及び膜分離槽4などを備える排水処理システムにより実施することができる。
【0016】
[排水10]
本実施形態の排水処理方法は、リン含有量が0.5mg/L以上の排水、特にリン含有量が1mg/L以上の排水に好適であり、効果的に排水中のリンを除去することができる。本実施形態の排水処理方法で処理される排水10の種類は、特に限定されるものではなく、産業排水、生活排水及び下水排水などの各種排水、並びにこれらの排水を活性汚泥などで生物処理した処理排水で、リンを排水規制値以上含む排水に適用することができる。ここで、「リン含有量が0.5mg/L以上の排水」とは、直近の一定期間(例えば直近の1週間から1ヶ月間)のリン含有量の平均値が0.5mg/L以上である排水を意味する。
【0017】
処理対象の排水10は、例えば排水貯留槽1に貯留されており、ポンプ11によって汲み上げられて、膜分離活性汚泥処理設備2に導入されるか、又は、反応槽3aに直接導入される。膜分離活性汚泥処理設備2に導入された排水10は、ブロワー21によって曝気及び撹拌しながら活性汚泥で生物処理され、その後、分離膜22及び膜吸引ポンプ23によって吸引濾過されて、反応槽3aに導入される。
【0018】
[調整工程S1]
調整工程S1では、例えば反応槽3aにおいて、排水10に無機凝集剤を添加すると共に、排水のpHが2~5になるよう無機酸又はアルカリ剤を添加する。その際、先ず無機凝集剤を添加し、その後で無機酸又はアルカリ剤を添加してもよいが、無機凝集剤と無機酸又はアルカリ剤とを略同時に添加してもよい。
【0019】
ここで使用する無機凝集剤としては、例えば、ポリ塩化アルミニウム、塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄、硫酸アルミニウム及びポリシリカ鉄などが挙げられ、特に、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化第二鉄及びポリ硫酸第二鉄が好ましい。前述した無機凝集剤は、単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0020】
無機凝集剤の添加量は、特に限定されるものではないが、通常は、排水10に含まれるリンと、無機凝集剤に含まれる鉄やアルミニウムなどの金属イオンとの比が、モル比で、1:1~2.5、好ましくは1:1.1~1.5の範囲になるよう添加される。従来の処理方法では、一般に、排水中のリンに対して金属イオンがモル比で3倍以上となるように添加されるが、本実施形態の処理方法では、無機凝集剤の添加量を従来よりも低い範囲にすることができるため、薬品使用量及び処理コストを抑制できると共に、無機凝集剤の添加に起因して発生するスラッジの量を低減できるため、産業廃棄物量の削減にも繋がる。
【0021】
本実施形態の排水処理方法では、排水10について直近の一定期間(例えば、直近の1週間から1ヶ月間)のリン含有量の変動範囲や平均値を把握しておき、リンに対する鉄やアルミニウムなどの金属イオンのモル比が前述の好ましい範囲になるように無機凝集剤の添加量を調整してもよいが、原水(排水10)や処理水中のリン濃度(リン含有量)を例えば1~2時間おきに自動的にサンプリングし、機器による計測を行い、その結果に応じて、リンに対する鉄やアルミニウムなどの金属イオンのモル比が前述した範囲内になるように無機凝集剤の添加量を手動又は自動で調整することが好ましい。
【0022】
また、調整工程S1で排水10のpH調整に用いる無機酸としては、例えば塩酸、硫酸、硝酸などが挙げられ、アルカリ剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどが挙げられる。無機酸又はアルカリ剤の添加量は、排水のpHが2~5となる量、好ましくは排水のpHが3~4になる量であればよい。排水のpHをこの範囲にすることにより、処理効率が向上するため、薬品使用量を抑制することができる。
【0023】
[析出工程S2]
析出工程S2では、例えば反応槽3bにおいて、調整工程S1で調整された排水にアルカリ剤を添加し、排水のpHを6~8に調整してリン酸化合物を析出させる。アルカリ剤には、前述した調整工程S1と同様に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどが用いられる。
【0024】
[分離工程S3]
分離工程S3では、例えば膜分離槽4において、析出工程S2でリン酸化合物を析出させた排水を、リン(リン酸化合物)を含む固形物と、リンが除去された処理水に固液分離する。その際、分離膜としては、精密ろ過膜(MF膜)及び限界ろ過膜(UF膜)などの除濁処理に一般的に用いられているものを使用することができる。
【0025】
なお、前述した調整工程S1及び析出工程S2では、リン酸化合物の生成・析出・凝集を促すために、反応槽3a,3b内の排水を攪拌することが好ましい。また、反応槽3a,3bにおける滞留時間(処理時間)は、特に限定されるものではなく、リン酸化合物が十分に析出及び凝集し得る時間であればよいが、通常は1分間~3時間程度であり、好ましくは5分間~1時間程度である。
【0026】
以上詳述したように、本実施形態の排水処理方法では、排水に無機凝集剤を添加すると共に無機酸又はアルカリ剤を添加して排水のpHを2~5に調整した後で、アルカリ剤を添加することにより排水のpHを6~8に調整してリン酸化合物を析出させているため、従来よりも少量の凝集剤でリン含有排水からリンを除去することができる。また、本実施形態の排水処理方法は、既存の設備で実施することができ、複雑な処理も不要である。
【0027】
更に、本実施形態の排水処理方法は、リンを含有する産業排水や生活排水などの各種排水及びこれらの排水を生物処理した処理排水などに適用でき、リンイオン濃度が低い処理水が得られるため、処理水を回収して再利用する場合や外部に排出する場合にも好適に利用することができる。
【0028】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る排水処理方法について説明する。図2は本実施形態の排水処理方法の各工程を示す図である。なお、図2においては、図1に示す第1の実施形態の排水処理方法の構成と同じものには同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0029】
本実施形態の排水処理方法は、無機凝集剤と有機凝集剤を併用する処理方法であり、図2に示すように、調整工程S1及び析出工程S2を行った後、有機凝集剤を用いた凝集工程S13を行い、その後、分離工程S14を行う。なお、本実施形態の排水処理方法における調整工程S1及び析出工程S2は、前述した第1の実施形態と同様の方法及び条件で行うことができる。
【0030】
[凝集工程S13]
凝集工程S13では、例えば凝集槽5において、析出工程S2でリン酸化合物を析出させた排水に、有機凝集剤を添加してリン酸化合物を凝集させる。その際、有機凝集剤には、カチオン系、アニオン系、両性及びノニオン性の有機凝集剤が使用できる。
【0031】
各種有機凝集剤の中でも、特に高分子凝集剤が好ましく、具体的には、カチオン性凝集剤としては、ポリアクリル酸エステル系化合物、ポリエチレンイミン系化合物、ポリアルキルアミノアルキルメタクリレート4級塩及びビニルピリジン系化合物塩、アニオン性凝集剤としては、ポリアクリル酸系化合物塩及びポリアクリルアミド系化合物塩、両性凝集剤としては、アクリルアミド・アクリル酸・アルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート4級塩共重合物、ノニオン性凝集剤としては、ポリアクリルアミド系化合物及びポリオキシエチレン系化合物などが好適に用いられる。
【0032】
凝集工程S13で用いる高分子凝集剤の種類は、併用する無機凝集剤の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、調整工程S1においてカチオン性無機凝集剤を用いた場合、凝集工程S13ではアニオン性高分子凝集剤を用いることが好ましい。また、排水への有機凝集剤の添加量は、特に限定されるものではないが、通常は、排水中の濃度が1~8mg/Lとなるよう添加され、排水中の濃度が1~5mg/Lとなる範囲で添加することが好ましい。これにより、無機凝集剤の添加により生成したリン化合物のスラッジ(固形物)を適度に肥大化させることができるため、沈降分離の効率を高めることができ、更に、微細粒子状のスラッジが分離後の処理水に流出することを抑制できる。
【0033】
[分離工程S14]
分離工程S14では、例えば凝沈分離槽6において、凝集工程S13で凝集させたリン酸化合物を沈殿させ、リン(リン酸化合物)を含む凝集固形物と、リンが除去された処理水に固液分離する。
【0034】
なお、本実施形態の排水処理方法においても、調整工程S1、析出工程S2及び凝集工程S3において、リン酸化合物の生成・析出・凝集を促すために、反応槽3a,3b及び凝集槽5内の排水を攪拌することが好ましい。また、反応槽3a,3b及び凝集槽5の各槽における滞留時間(処理時間)は、特に限定されるものではなく、リン酸化合物が十分に析出及び凝集し得る時間であればよいが、通常は1分~3時間程度であり、好ましくは5分~1時間程度である。
【0035】
以上詳述したように、本実施形態の排水処理方法では、無機凝集剤と有機凝集剤とを併用しているため、排水からのリン除去効果を更に高めることができる。本実施形態の排水処理方法は、リン含有排水の処理水を工業用水などとして再利用する場合に特に好適である。なお、本実施形態における上記以外の構成及び効果は、前述した第1の実施形態と同様である。
【0036】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態に係る排水処理方法について説明する。図3は本実施形態の排水処理方法の各工程を示す図である。なお、図3においては、図1及び図2に示す第1及び第2の実施形態の排水処理方法の構成と同じものには同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0037】
本実施形態の排水処理方法は、調整工程S1において、無機凝集剤の添加と、無機酸又はアルカリ剤の添加をそれぞれ別の反応槽で行う以外は、前述した第2の実施形態の排水処理方法と同様である。具体的には、図3に示すように、3個の反応槽3a,3b,3cを設け、例えば反応槽3aにおいて排水10に無機凝集剤を添加した後、反応槽3bにおいて排水のpHが2~5、好ましくはpHが3~4になるよう無機酸又はアルカリ剤を添加する。
【0038】
そして、例えば反応槽3cにおいて、調整工程S1で調整された排水にアルカリ剤を添加することで排水のpHを6~8に調整し、リン酸化合物を析出させる(析出工程S2)。その後、有機凝集剤を用いた凝集工程S13と、凝沈による固液分離工程S14を行い、リン含有排水10を、リン(リン酸化合物)を含む凝集固形物と、リンが除去された処理水に分離する。
【0039】
なお、本実施形態の排水処理方法では、有機凝集剤を用いた凝集工程S13を省略してもよく、その場合、分離工程は膜分離槽による固液分離処理とすることができる。
【0040】
産業排水は、生産品目や洗浄工程によって酸性及びアルカリ性のいずれにもなり得る(変動する)が、本実施形態の排水処理方法は、無機凝集剤の添加と無機酸又はアルカリ剤の添加をそれぞれ別の反応槽で行うため、そのような場合でも確実にpHを調整することができ、薬品の過剰添加を抑制することができる。なお、本実施形態における上記以外の構成及び効果は、前述した第1及び第2の実施形態と同様である。
【実施例0041】
以下、本発明の実施例及び比較例により、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例では、本発明の範囲内の処理方法と、本発明の範囲から外れる処理方法で、リン含有排水を処理し、得られた処理水(分離液)のリンイオン濃度を比較した。
【0042】
<実施例1>
実施例1として、リンを含有する産業排水を膜分離活性汚泥法により生物処理した排水(リンイオン含有量:1週間の平均で12mg/L、pH:約7)を、図1に示す方法で処理した。先ず、処理対象の排水をサンプリングして測定機器によりリン濃度を計測し、その結果に基づき無機凝集剤としてポリ塩化アルミニウムを、排水中のリンとアルミニウムのモル比が1:1.3(Alとして13.6mg/L)になるように添加すると共に、硫酸を添加することにより排水のpHを3.5に調整した。
【0043】
それから10分経過後に排水に水酸化ナトリウムを添加してpHを7に調整し、リン酸アルミニウムを析出させた。更に10分経過後にMF膜により排水の固液分離を行い、リン酸アルミニウム含有固形物を系外に取り出した。この実施例1の処理により得た固液分離後の分離液(処理水)のリンイオン濃度は0.1mg/L未満であった。
【0044】
<実施例2>
実施例2では、無機凝集剤にポリ硫酸第二鉄を使用し、計測されたリン濃度に基づき排水中のリンと鉄のモル比が1:1.3(Feとして28.1mg/L)になるように排水に添加すると共に、硫酸と必要に応じて水酸化カルシウムを添加することで排水のpHを3.5に調整した以外は、実施例1と同様の方法及び条件で調整工程S1及び析出工程S2を行った。その後、析出したリン酸第二鉄をMF膜で固液分離して系外に取り出した。この実施例2の処理により得た固液分離後の分離液(処理水)のリンイオン濃度も0.1mg/L未満であった。
【0045】
<実施例3>
実施例3では、析出工程において水酸化ナトリウムに代えて水酸化カリウムを使用した以外は、実施例1と同様の方法及び条件で調整工程S1及び析出工程S2を行い、析出したリン酸アルミニウムをMF膜で固液分離して系外に取り出した。この実施例3の処理により得た固液分離後の分離液(処理水)のリンイオン濃度も0.1mg/L未満であった。
【0046】
<実施例4>
実施例4では、無機凝集剤であるポリ塩化アルミニウムを添加した排水に対して、硫酸を添加してpHを2.5に調整した以外は、実施例1と同様の方法及び条件で調整工程S1及び析出工程S2を行い、析出したリン酸アルミニウムをMF膜で固液分離して系外に取り出した。この実施例4の処理により得た固液分離後の分離液(処理水)のリンイオン濃度は0.2mg/Lであった。
【0047】
<実施例5>
実施例5では、リンを含有する産業排水を膜分離活性汚泥法により生物処理した排水(リンイオン含有量:1週間の平均で5mg/L、pH:約7)に、サンプリングして測定機器で計測したリン濃度に基づき、無機凝集剤としてポリ塩化アルミニウムを、排水中のリンとアルミニウムのモル比が1:1.3(Alとして5.7mg/L)になるように添加した以外は、実施例1と同様の方法及び条件で調整工程S1及び析出工程S2を行い、析出したリン酸アルミニウムをMF膜で固液分離して系外に取り出した。この実施例5の処理により得た固液分離後の分離液(処理水)のリンイオン濃度は0.1mg/L未満であった。
【0048】
<実施例6>
実施例6では、リンを含有する産業排水を膜分離活性汚泥法により生物処理した排水(リンイオン含有量:1週間の平均で1mg/L、pH:約7)に、サンプリングして測定機器で計測したリン濃度に基づき、無機凝集剤としてポリ塩化アルミニウムを、排水中のリンとアルミニウムのモル比が1:1.1(Alとして1.0mg/L)になるように添加した以外は、実施例1と同様の方法及び条件で調整工程S1及び析出工程S2を行い、析出したリン酸アルミニウムをMF膜で固液分離して系外に取り出した。この実施例5の処理により得た固液分離後の分離液(処理水)のリンイオン濃度は0.1mg/Lであった。
【0049】
<実施例7>
実施例7として、リンを含有する産業排水を膜分離活性汚泥法により生物処理した排水(リンイオン含有量:1週間の平均で12mg/L、pH:約7)を、図2に示す方法で処理した。先ず、処理対象の排水に、サンプリングして測定機器で計測したリン濃度に基づき、無機凝集剤としてポリ塩化アルミニウムを、排水中のリンとアルミニウムのモル比が1:1.1(Alとして11.5mg/L)になるように添加し、更に、硫酸を添加することにより排水のpHを3.5に調整した。
【0050】
それから10分経過後に排水に水酸化ナトリウムを添加してpHを7に調整してリン酸アルミニウムを析出させた後、高分子凝集剤としてアニオン性ポリアクリルアミド系化合物(アクアス社製 アクアスフロックNC)を3mg/Lになるように添加してリン酸アルミニウムを凝集させた。更に10分経過後に凝沈分離槽で固液分離を行い、リン酸アルミニウム含有凝集物を系外に取り出した。この実施例7の処理により得た固液分離後の分離液(処理水)のリンイオン濃度は0.1mg/Lであった。
【0051】
<実施例8>
実施例8では、高分子凝集剤としてアニオン性ポリアクリルアミド系化合物(アクアス社製 アクアスフロックNC)を1mg/Lとなるように添加した以外は、実施例7と同様の方法及び条件で排水を処理した。この実施例8の処理により得た固液分離後の分離液(処理水)のリンイオン濃度は0.1mg/Lであった。
【0052】
<比較例1>
比較例1では、調整工程S1において無機酸又はアルカリ剤によるpH調整を行わなかった以外は、実施例1と同様の方法及び条件でリン含有排水の処理を行った。具体的には、リンを含有する産業排水を膜分離活性汚泥法により生物処理した排水(リンイオン含有量:1週間の平均で12mg/L、pH:約7)に対して、無機凝集剤としてポリ塩化アルミニウムを、排水中のリンとアルミニウムのモル比が1:1.3(Alとして13.6mg/L)になるように添加した。
【0053】
それから10分経過後に排水に水酸化ナトリウムを添加してpHを7に調整し、リン酸アルミニウムを析出させた。更に10分経過後にMF膜により排液の固液分離を行い、リン酸アルミニウム含有固形物を系外に取り出した。この比較例1の処理により得た固液分離後の分離液(処理水)のリンイオン濃度は1.1mg/Lであった。
【0054】
<比較例2>
比較例2では、調整工程S1において排水のpHを5よりも高い値に調整した以外は、実施例1と同様の方法及び条件で排水処理を行った。具体的には、リンを含有する産業排水を膜分離活性汚泥法により生物処理した排水(リンイオン含有量:1週間の平均で12mg/L、pH:約7)に、サンプリングして測定機器で計測したリン濃度に基づき、無機凝集剤としてポリ塩化アルミニウムを、排水中のリンとアルミニウムのモル比が1:1.3(Alとして13.6mg/L)になるように添加すると共に、硫酸を添加することにより排水のpHを6に調整した。
【0055】
それから10分経過後に排水に水酸化ナトリウムを添加してpHを7に調整し、リン酸アルミニウムを析出させた。更に10分経過後にMF膜により排水の固液分離を行い、リン酸アルミニウム含有固形物を系外に取り出した。この比較例2の処理により得た固液分離後の分離液(処理水)のリンイオン濃度は0.8mg/Lであった。
【0056】
<比較例3>
比較例3では、析出工程S2の後に、高分子凝集剤による凝集工程S13を行った以外は、比較例1と同様の方法及び条件でリン含有排水の処理を行った。具体的には、リンを含有する産業排水を膜分離活性汚泥法により生物処理した排水(リンイオン含有量:1週間の平均で12mg/L、pH:約7)に、サンプリングして測定機器で計測したリン濃度に基づき、無機凝集剤としてポリ塩化アルミニウムを、排水中のリンとアルミニウムのモル比が1:1.3(Alとして13.6mg/L)になるように添加した。
【0057】
それから10分経過後に排水に水酸化ナトリウムを添加してpHを7に調整した後、高分子凝集剤としてアニオン性ポリアクリルアミド系化合物(アクアス社製 アクアスフロックNC)を1mg/Lになるように添加し、リン酸アルミニウムを析出させた。更に10分経過後に凝沈分離槽で固液分離を行い、リン酸アルミニウム含有凝集物を系外に取り出した。この比較例3の処理により得た固液分離後の分離液(処理水)のリンイオン濃度は0.6mg/Lであった。
【0058】
このように、本願発明の処理方法によりリン含有排水を処理した実施例1~8は、本発明の範囲から外れる方法及び条件で処理した比較例1~3に比べて、リンの除去効率が優れていた。以上の結果から、本発明によれば、従来よりも凝集剤の使用量を低減でき、簡便で汎用なリン含有排水の処理方法を実現できることが確認された。
【0059】
なお、本発明は、以下の構成を採ることもできる。
〔1〕
リン含有量が0.5mg/L以上の排水を処理する方法であって、
前記排水に無機凝集剤を添加すると共に、無機酸又はアルカリ剤を添加して前記排水のpHを2~5に調整する調整工程と、
アルカリ剤を添加することにより前記排水のpHを6~8に調整してリン酸化合物を析出させる析出工程と、
前記排水を固形物と処理水に固液分離する分離工程と
を有するリン含有排水の処理方法。
〔2〕
前記調整工程では、前記無機凝集剤を添加した後で前記無機酸又は前記アルカリ剤を添加する〔1〕に記載のリン含有排水の処理方法。
〔3〕
前記調整工程では、前記無機凝集剤と前記無機酸又は前記アルカリ剤を略同時に添加する〔1〕に記載のリン含有排水の処理方法。
〔4〕
前記調整工程において、前記排水のpHを3~4に調整する〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のリン含有排水の処理方法。
〔5〕
前記無機凝集剤として、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化第二鉄及びポリ硫酸第二鉄のうち少なくとも1種を用いる〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のリン含有排水の処理方法。
〔6〕
更に、前記析出工程後の排水に高分子凝集剤を添加してリン酸化合物を凝集させる凝集工程を有する〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のリン含有排水の処理方法。
〔7〕
前記排水は、活性汚泥により生物処理した処理排水である〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のリン含有排水の処理方法。
〔8〕
前記排水は、リン含有量が1mg/L以上である〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のリン含有排水の処理方法。
【符号の説明】
【0060】
1 排水貯留槽
2 膜分離活性汚泥処理設備
3a、3b、3c 反応槽
4 膜分離槽
5 凝集槽
6 凝沈分離槽
10 リン含有排水
11 ポンプ
21 曝気・撹拌用ブロワー
22 分離膜
23 膜吸引ポンプ
図1
図2
図3