(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077884
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】ミシン
(51)【国際特許分類】
D05B 19/12 20060101AFI20240603BHJP
D05B 27/10 20060101ALI20240603BHJP
D05B 47/04 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
D05B19/12
D05B27/10
D05B47/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190098
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003399
【氏名又は名称】JUKI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 達矢
(72)【発明者】
【氏名】比嘉 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 邦彰
(72)【発明者】
【氏名】中山 元
(72)【発明者】
【氏名】張 娟
【テーマコード(参考)】
3B150
【Fターム(参考)】
3B150AA01
3B150CE01
3B150CE21
3B150CE24
3B150DE08
3B150EA09
3B150FD07
3B150JA03
3B150LA15
3B150LA22
3B150MA03
3B150NA14
3B150NA21
3B150NB03
3B150NB07
3B150NC03
(57)【要約】
【課題】縫製不良の発生を抑制する。
【解決手段】ミシンは、針棒に保持され、上糸を保持して往復移動する縫い針と、上糸の張力を調整する上糸張力調整機構と、ボビンケースに収容され下糸が巻かれたボビンを保持し、縫い針と協働して縫い目を形成する釜と、縫い針の直下の縫製位置に配置される縫製対象物を縫製位置から第1方向に送る無端状の送りベルトが縫製位置に対して第1方向に直交する第2方向の両側に配置され、縫製位置に対して第2方向の一方側の送りベルトと他方側の送りベルトとを独立して駆動するベルト駆動部が設けられた送り機構と、上糸の張力が、縫製対象物の縫い始めから縫い終わりにかけて、縫製位置に対して第2方向の一方側に配置される送りベルトの送り量と縫製位置に対して第2方向の他方側に配置される送りベルトの送り量との差に応じた変化量で徐々に変化するように上糸張力調整機構を制御する制御部とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
針棒に保持され、上糸を保持して往復移動する縫い針と、
前記上糸の張力を調整する上糸張力調整機構と、
ボビンケースに収容され下糸が巻かれたボビンを保持し、前記縫い針と協働して縫い目を形成する釜と、
前記縫い針の直下の縫製位置に配置される縫製対象物を前記縫製位置から第1方向に送る無端状の送りベルトが前記縫製位置に対して前記第1方向に直交する第2方向の両側に配置され、前記縫製位置に対して前記第2方向の一方側の前記送りベルトと他方側の前記送りベルトとを独立して駆動するベルト駆動部が設けられた送り機構と、
前記上糸の張力が、前記縫製対象物の縫い始めから縫い終わりにかけて、前記縫製位置に対して前記第2方向の一方側に配置される前記送りベルトの送り量と前記縫製位置に対して前記第2方向の他方側に配置される前記送りベルトの送り量との差に応じた変化量で徐々に変化するように前記上糸張力調整機構を制御する制御部と
を備えるミシン。
【請求項2】
前記制御部は、前記縫製位置に対して前記第2方向の一方側と他方側とで前記送りベルトの送り量の差が大きいほど、前記縫製対象物の縫い始めから縫い終わりまでの前記上糸の張力の変化量が大きくなるように前記上糸張力調整機構を制御する
請求項1に記載のミシン。
【請求項3】
前記制御部は、前記縫製対象物の縫い始めにおいて縦地方向を前記第1方向とし、前記縫製位置に対して前記第2方向の一方側の前記送りベルトと他方側の前記送りベルトとで送り量に差をつける場合、前記上糸の張力が徐々に小さくなるように前記上糸張力調整機構を制御する
請求項2に記載のミシン。
【請求項4】
前記制御部は、前記縫製対象物の縫い始めにおいて横地方向を前記第1方向とし、前記縫製位置に対して前記第2方向の一方側の前記送りベルトと他方側の前記送りベルトとで送り量に差をつける場合、前記上糸の張力が徐々に大きくなるように前記上糸張力調整機構を制御する
請求項2に記載のミシン。
【請求項5】
前記送り機構は、前記縫製位置に配置される前記縫製対象物の少なくとも下側に配置される
請求項1に記載のミシン。
【請求項6】
前記送り機構は、前記縫製位置に対して一方側と他方側とにそれぞれ複数の前記送りベルトを有する
請求項1に記載のミシン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
ミシンに係る技術分野において、特許文献1に開示されているような、いわゆる本縫いミシンと呼ばれるミシンが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のミシンにおいて、縫い針の直下の縫製位置の両側で縫製対象物の送り量を異なるようにすることで、縫製対象物に湾曲した縫い目を形成することができる。縫製対象物では、巻き方向である縦地方向よりも当該縦地方向に対して傾いた横地方向又はバイアス方向に伸びやすい傾向にある。縫製対象物に湾曲した縫い目を形成する際、上糸の張力を縦地方向の縫製に合わせたまま横地方向又はバイアス方向に縫い目を形成すると、糸締りが強くなり、縫製対象物に縫い皴や生地曲がり等の縫製不良が生じるおそれがある。
【0005】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであり、縫製対象物に湾曲した縫い目を形成する際に、縫製不良の発生を抑制することが可能なミシンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係るミシンは、針棒に保持され、上糸を保持して往復移動する縫い針と、上糸の張力を調整する上糸張力調整機構と、ボビンケースに収容され下糸が巻かれたボビンを保持し、縫い針と協働して縫い目を形成する釜と、縫い針の直下の縫製位置に配置される縫製対象物を縫製位置から縫製対象物の縦地方向に沿った第1方向に送る無端状の送りベルトが縫製位置に対して第1方向に直交する第2方向の両側に配置され、縫製位置に対して第2方向の一方側の送りベルトと他方側の送りベルトとを独立して駆動するベルト駆動部が設けられた送り機構と、上糸の張力が、縫製対象物の縫い始めから縫い終わりにかけて、縫製位置に対して前記第2方向の一方側に配置される送りベルトの送り量と縫製位置に対して第2方向の他方側に配置される送りベルトの送り量との差に応じた変化量で徐々に変化するように上糸張力調整機構を制御する制御部とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、縫製対象物に湾曲した縫い目を形成する際に、縫製不良の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本実施形態に係るミシンを模式的に示す斜視図である。
【
図3】
図3は、送りベルトの送り量の差分と縫製対象物に形成される縫い目の曲率との関係の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、送りベルトの送り量の差分と上糸の張力との関係の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、縫製対象物の縫い始めの方向と上糸の張力の変化との関係の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示に係る実施形態を図面に基づいて説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0010】
本実施形態に係るミシン1について説明する。本実施形態においては、ミシン1に規定されたローカル座標系に基づいて各部の位置関係について説明する。ローカル座標系は、XYZ直交座標系により規定される。所定面内のX軸と平行な方向をX軸方向(第2方向)とする。X軸と直交する所定面内のY軸と平行な方向をY軸方向(第1方向)とする。所定面と直交するZ軸と平行な方向をZ軸方向とする。X軸を中心とする回転方向をθX方向とする。
【0011】
図1は、本実施形態に係るミシン1を模式的に示す斜視図である。
図1に示すように、ミシン1は、ミシンヘッド2と、針棒4と、天秤5と、糸調子器6と、針板7と、押さえ部材8と、釜9と、モータ10と、送り機構11と、制御部30とを備える。
【0012】
針棒4は、縫い針3を保持してZ軸方向に往復移動する。針棒4は、縫い針3とZ軸とが平行となるように縫い針3を保持する。針棒4は、ミシンヘッド2に支持される。針棒4は、針板7の上方に配置され、縫製対象物Sの表面と対向可能である。縫い針3に上糸UTが掛けられる。縫い針3は、上糸UTが通過する糸通し孔を有する。縫い針3は、糸通し孔の内面で上糸UTを保持する。針棒4がZ軸方向に往復移動することにより、縫い針3は、上糸UTを保持した状態でZ軸方向に往復移動する。
【0013】
天秤5は、縫い針3に上糸UTを供給する。天秤5は、ミシンヘッド2に支持される。天秤5は、上糸UTが通過する天秤孔を有する。天秤5は、天秤孔の内面で上糸UTを保持する。天秤5は、上糸UTを保持した状態でZ軸方向に往復移動する。天秤5は、針棒4に連動して往復移動する。天秤5は、Z軸方向に往復移動することによって、上糸UTを繰り出したり引き上げたりする。
【0014】
糸調子器(上糸張力調整機構)6は、上糸UTに張力を付与する。糸供給源から糸調子器6に上糸UTが供給される。上糸UTが通過する経路において、天秤5は、縫い針3と糸調子器6との間に配置される。糸調子器6は、天秤5を介して縫い針3に供給される上糸UTの張力を調整する。
【0015】
針板7は、縫製対象物Sを支持する。針棒4に保持されている縫い針3と針板7とは対向する。針板7は、縫い針3が通過可能な針孔を有する。針板7に支持される縫製対象物Sを貫通した縫い針3は、針孔を通過する。
【0016】
押さえ部材8は、縫製対象物Sを上方から押さえる。押さえ部材8は、ミシンヘッド2に支持される。押さえ部材8は、針板7の上方に配置され、針板7との間で縫製対象物Sを保持する。
【0017】
釜9は、ボビンケースに収容されたボビンを保持する。釜9は、針板7の下方に配置される。釜9は、θX方向に回転する。釜9は、針棒4に連動して回転する。釜9は、下糸LTを供給する。釜9は、針板7に支持されている縫製対象物Sを貫通し、針板7の針孔を通過した縫い針3から上糸UTをすくい取る。
【0018】
モータ10は、動力を発生する。モータ10は、ミシンヘッド2に支持されるステータと、ステータに回転可能に支持されるロータとを有する。ロータが回転することにより、モータ10は動力を発生する。モータ10で発生した動力は、動力伝達機構(不図示)を介して、針棒4、天秤5、及び釜9のそれぞれに伝達される。針棒4と天秤5と釜9とは連動する。モータ10で発生した動力が針棒4に伝達されることにより、針棒4及び針棒4に保持されている縫い針3は、Z軸方向に往復移動する。モータ10で発生した動力が天秤5に伝達されることにより、天秤5は、針棒4に連動してZ軸方向に往復移動する。モータ10で発生した動力が釜9に伝達されることにより、釜9は、針棒4及び天秤5に連動してθX方向に回転する。ミシン1は、針棒4に保持されている縫い針3と釜9との協働により縫製対象物Sを縫製する。
【0019】
送り機構11は、縫製対象物Sを縫製位置PSからY軸方向へ移送する。本実施形態において、送り機構11は、縫製位置PSに配置された縫製対象物Sよりも下方に配置される。なお、縫製位置PSに配置された縫製対象物Sよりも上方に配置された送り機構が別途設けられてもよい。送り機構11は、送りベルト21と、ベルト駆動部22とを有する。
【0020】
図2は、送り機構11の一例を示す図である。
図2に示すように、送りベルト21は、縫製対象物Sの裏面Sbに接触する。送りベルト21は、環状(無端状)である。送りベルト21は、縫製位置PSに対してX軸方向の両側に配置される。送りベルト21は、縫製位置PSに対してX軸方向の両側にそれぞれ2本ずつ、合計で4本配置される。以下、縫製位置PSに対してX軸方向の一方側(-X側)に配置される2本の送りベルト21を送りベルト21Aと表記し、縫製位置PSに対してX軸方向の他方側(+X側)に配置される2本の送りベルト21を送りベルト21Bと表記する。
【0021】
ベルト駆動部22は、縫製位置PSに対して-X側の送りベルト21Aと+X側の送りベルト21Bとを独立して駆動する。ベルト駆動部22は、縫製位置PSの-X側の送りベルト21Aを駆動する駆動系22Aと、縫製位置PSの+X側の送りベルト21Bを駆動する駆動系22Bとを有する。駆動系22Aは、モータ23A及びスプロケット24Aを有する。駆動系22Bは、モータ23B及びスプロケット24Bを有する。
【0022】
モータ23A、23Bが作動すると、プーリ234に支持されるベルト21Aと、スプロケット24Bに支持されるベルト21BとがY軸方向に回転する。ベルト21A、21Bの回転により、縫製対象物SがY軸方向に移送される。縫製対象物Sは、縦地方向が移送方向であるY軸方向に沿うように配置される。縦地方向は、ロール状の縫製対象物Sの長手方向である。なお、ロール状の縫製対象物Sの短手方向は横地方向である。
【0023】
制御部30は、ミシン1の動作を統括的に制御する。制御部30は、処理部31及び記憶部32を有する。処理部31は、各種の情報処理を行う。処理部31は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサと、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等のメモリとを含む。
【0024】
処理部31は、針駆動制御部33と、ベルト駆動制御部34と、演算部35と、張力制御部37とを有する。
【0025】
針駆動制御部33は、モータ10の回転を制御することで、縫い針3のZ軸方向の移動を制御する。
【0026】
ベルト駆動制御部34は、ベルト駆動部22のモータ23A、23Bの回転を制御することで、送りベルト21A、21Bの送り量を制御する。送りベルト21Aの送り量と送りベルト21Bの送り量とが同じ場合、縫製対象物Sに形成される縫い目SEは直線状となる。送りベルト21Aの送り量が送りベルト21Bの送り量よりも大きい場合、縫製対象物Sに形成される縫い目SEが+X側に湾曲する。送りベルト21Bの送り量が送りベルト21Aの送り量よりも大きい場合、縫製対象物Sに形成される縫い目SEが-X側に湾曲する。送りベルト21A、21Bの送り量の差分が大きいほど、縫い目SEの曲率が大きくなる。
【0027】
演算部35は、各種演算を行う。演算部35は、例えば送りベルト21Aの送り量と送りベルト21Bの送り量との差分を算出する。
【0028】
張力制御部37は、上糸UTの張力が、縫製対象物Sの縫い始めから縫い終わりにかけて、送りベルト21Aの送り量と送りベルト21Bの送り量との差分の大きさに応じた変化量で徐々に変化するように糸調子器6を制御する。この場合、張力制御部37は、送りベルト21A、21Bの送り量の差分が大きいほど、上糸UTの張力の変化量が大きくなるように糸調子器6を調整する。また、張力制御部37は、縦地方向から縫製対象物Sを縫い始めた場合には、縫い終わりにかけて上糸UTの張力が徐々に小さくなるように糸調子器6を調整する。また、張力制御部37は、横地方向から縫製対象物Sを縫い始めた場合には、縫い終わりにかけて上糸UTの張力が徐々に大きくなるように糸調子器6を調整する。
【0029】
記憶部32は、各種プログラム、データ等の情報を記憶する。記憶部32は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等のストレージを含む。
【0030】
制御部30では、処理部31においてプロセッサが各種プログラムを読み出してメモリに展開することで、上記各部の機能に対応した情報処理を実行する。各種プログラムとしては、記憶部32に記憶されたプログラム、外部の記録媒体に記録されたプログラム等が挙げられる。制御部30は、各種の情報処理を実行する情報処理装置(コンピュータ)として機能する。なお、制御部13とは異なる他の情報処理装置が各種プログラムを実行してもよいし、制御部30と他の情報処理装置とが協働して各種プログラムを実行してもよい。
【0031】
次に、上記のように構成されたミシン1の動作を説明する。作業者は、縦地方向がY軸方向に沿うように縫製対象物Sを縫製位置PSに配置し、縫製対象物Sを押さえ部材8により押さえた状態とする。この状態において、作業者により縫製開始の操作が行われると、制御部30の針駆動制御部33は、縫い針3がZ軸方向に往復移動するようにモータ10の回転を制御する。また、ベルト駆動制御部34は、ベルト駆動部22のモータ23A、23Bの回転を制御することで、送りベルト21A、21Bの送り量を制御する。
【0032】
縫製対象物Sに対して直線状の縫い目を形成する場合、ベルト駆動制御部34は、送りベルト21Aの送り量と送りベルト21Bの送り量とが同じになるように制御する。また、縫製対象物Sに対して+X側に湾曲する縫い目SEを形成する場合、ベルト駆動制御部34は、送りベルト21Aの送り量が送りベルト21Bの送り量よりも大きくなるように制御する。また、縫製対象物Sに対して-X側に湾曲する縫い目SEを形成する場合、ベルト駆動制御部34は、送りベルト21Bの送り量が送りベルト21Aの送り量よりも大きくなるように制御する。
【0033】
図3は、送りベルト21の送り量の差分と縫製対象物Sに形成される縫い目SEの曲率との関係の一例を示す図である。
図3の上段では、送りベルト21Aの送り量を一定(例えば、単位時間当たりの送り量が1mm)とし、図の左側から右側にかけて送りベルト21Bの送り量を増加させた場合の例を示している。また、
図3の下段では、送りベルト21Bの送り量を一定(例えば、単位時間当たりの送り量が1mm)とし、図の右側から左側にかけて送りベルト21Aの送り量を増加させた場合の例を示している。
図3に示すように、送りベルト21A、21Bの送り量の差分が大きいほど、縫い目SEの曲率が大きくなる。
【0034】
縫製対象物Sでは、巻き方向である縦地方向よりも当該縦地方向に対して傾いた横地方向又はバイアス方向に伸びやすい傾向にある。縫製対象物Sに湾曲した縫い目SEを形成する際、上糸UTの張力を縦地方向の縫製に合わせたまま横地方向又はバイアス方向に縫い目を形成すると、糸締りが強くなり、縫製対象物Sに縫い皴や生地曲がり等の縫製不良が生じるおそれがある。このため、本実施形態では、縫製対象物Sに対して湾曲する縫い目SEを形成する際、上糸UTの張力が強くなり過ぎないように制御する。
【0035】
具体的には、送りベルト21Aの送り量と送りベルト21Bの送り量とが異なる場合、演算部35は、送りベルト21Aの送り量と送りベルト21Bの送り量との差分を算出する。
【0036】
張力制御部37は、縫製対象物Sの縫い始めから縫い終わりにかけて、送りベルト21Aの送り量と送りベルト21Bの送り量との差分の大きさに応じた変化量で徐々に変化するように糸調子器6を制御する。まず、張力制御部37は、縫製対象物Sの縫い始めから縫い終わりまでの上糸UTの張力の変化量を算出する。
【0037】
図4は、送りベルトの送り量の差分と上糸の張力の変化量との関係の一例を示す図である。
図4では、上糸UTの張力の変化量について、縫い始めの張力を基準とした場合の割合(%)で示している。
図4に示すように、送りベルト21の送り量の差分が0(mm)である場合、上糸UTの張力の変化量は0(%)である。この場合、張力制御部37は、縫製対象物Sの縫い始めから縫い終わりにかけて、上糸UTの張力が一定となるように制御する。
【0038】
図4に示す例では、送りベルト21の送り量の差分が1mmずつ増加するにつれて、上糸UTの張力の変化量が5(%)ずつ増加する設定となっている。例えば、送りベルト21の送り量の差分が1(mm)である場合、上糸UTの張力の変化量は5(%)である。この場合、張力制御部37は、縫製対象物Sの縫い始めから縫い終わりにかけて上糸UTの張力を徐々に変化させ、縫い始めの張力に対して縫い終わりの張力の変化量が5%となるように、糸調子器6を制御する。なお、送りベルト21の送り量の差分の増加量と、上糸UTの張力の変化量との関係については、
図4に示す例に限定されない。
【0039】
図5は、縫製対象物Sの縫い始めの方向と上糸UTの張力の変化との関係の一例を模式的に示す図である。
図5の左側に示すように、張力制御部37は、縫製対象物Sを縦地方向から縫い始める場合、縫製対象物Sの縫い始めから縫い終わりにかけて上糸UTの張力が徐々に小さくなるように糸調子器6を制御する。すなわち、張力制御部37は、縫製対象物Sの縫い始めの張力Taよりも縫い終わりの張力Tbが小さくなるように、縫い始めSEaから縫い終わりSEbにかけて上糸UTの張力を徐々に変化させる。
【0040】
例えば、
図4に示す例と併せて、送りベルト21の送り量の差分が1mmであり、縫製対象物Sを縦地方向から縫い始める場合、張力制御部37は、縫製対象物Sの縫い始めから縫い終わりにかけて上糸UTの張力が徐々に小さくなり、張力の減少量が5%となるように糸調子器6を制御する。すなわち、張力制御部37は、縫い始めの上糸UTの張力を100(g)とすると、縫い終わりの上糸UTの張力が95(g)となるように上糸UTの張力を徐々に減少させる。
【0041】
また、
図5の右側に示すように、張力制御部37は、縫製対象物Sを横地方向から縫い始める場合、縫製対象物Sの縫い始めから縫い終わりにかけて上糸UTの張力が徐々に大きくなるように糸調子器6を制御する。すなわち、張力制御部37は、縫製対象物Sの縫い始めの張力Taよりも縫い終わりの張力Tbが大きくなるように、縫い始めSEaから縫い終わりSEbにかけて上糸UTの張力を徐々に変化させる。
【0042】
例えば、
図4に示す例と併せて、送りベルト21の送り量の差分が1mmであり、縫製対象物Sを横地方向から縫い始める場合、張力制御部37は、縫製対象物Sの縫い始めから縫い終わりにかけて上糸UTの張力が徐々に大きくなり、張力の増加量が5%となるように糸調子器6を制御する。すなわち、張力制御部37は、縫い始めの上糸UTの張力を100(g)とすると、縫い終わりの上糸UTの張力が105(g)となるように上糸UTの張力を徐々に増加させる。
【0043】
例えば縫製対象物Sを縫製する針数又は縫い長さを予め設定しておくことで、張力制御部37は、針数又は縫い長さに応じて比例的に上糸UTの張力が変化するように糸調子器6を制御することができる。
【0044】
また、例えば送りベルト21の送り量の差分が最大となる場合(
図4の例では9mm)の上糸UTの張力の変化量(%)を作業者が設定するようにしてもよい。この場合、張力制御部37は、送り量の差分が0から最大値まで増加するにつれて上糸UTの張力の変化量が0%から徐々に大きくなるように設定することができる。
【0045】
以上のように、本実施形態に係るミシン1は、針棒4に保持され、上糸を保持して往復移動する縫い針3と、上糸の張力を調整する糸調子器6と、ボビンケースに収容され下糸が巻かれたボビンを保持し、縫い針3と協働して縫い目SEを形成する釜9と、縫い針3の直下の縫製位置PSに配置される縫製対象物Sを縫製位置PSから縫製対象物Sの縦地方向に沿ったY軸方向に送る無端状の送りベルト21が縫製位置PSに対してY軸方向に直交するX軸方向の両側に配置され、縫製位置PSに対してX軸方向の-X側の送りベルト21と+X側の送りベルト21とを独立して駆動するベルト駆動部が設けられた送り機構11と、上糸の張力が、縫製対象物Sの縫い始めから縫い終わりにかけて、縫製位置PSに対してX軸方向の-X側に配置される送りベルト21の送り量と縫製位置PSに対してX軸方向の+X側に配置される送りベルト21の送り量との差に応じた変化量で徐々に変化するように糸調子器6を制御する制御部30とを備える。
【0046】
この構成によれば、上糸UTの張力が、縫製対象物Sの縫い始めから縫い終わりにかけて、縫製位置PSの-X側に配置される送りベルト21の送り量と縫製位置PSの+X側に配置される送りベルト21の送り量との差に応じた変化量で徐々に変化するように糸調子器6を制御するため、縫製対象物Sの縦地方向に対して傾いた方向に縫い目SEを形成する際の縫製不良を抑制できる。
【0047】
本実施形態に係るミシン1において、制御部30は、縫製位置PSに対してX軸方向の-X側と+X側とで送りベルト21の送り量の差が大きいほど、縫い始めから縫い終わりまでの上糸UTの張力の変化量が大きくなるように糸調子器6を制御する。この構成によれば、縫製対象物Sに縫い目SEを形成する際の補正不良をより確実に抑制できる。
【0048】
本実施形態に係るミシン1において、制御部30は、縫製対象物Sの縫い始めにおいて縦地方向をY軸方向とし、-X側の送りベルト21と+X側の送りベルト21とで送り量に差をつける場合、上糸UTの張力が徐々に小さくなるように糸調子器6を制御する。この構成によれば、縫製対象物Sに縫い目SEを形成する際の補正不良をより確実に抑制できる。
【0049】
本実施形態に係るミシン1において、制御部30は、縫製対象物Sの縫い始めにおいて横地方向をY軸方向とし、-X側の送りベルト21と+X側の送りベルト21とで送り量に差をつける場合、上糸UTの張力が徐々に大きくなるように糸調子器6を制御する。この構成によれば、縫製対象物Sに縫い目SEを形成する際の補正不良をより確実に抑制できる。
【0050】
本実施形態に係るミシン1において、送り機構11は、縫製位置PSに配置される縫製対象物Sの少なくとも下側に配置される。この構成によれば、縫製対象物Sを適切に移送することができる。
【0051】
本実施形態に係るミシン1において、送り機構11は、縫製位置PSに対して-X側と+X側とにそれぞれ複数の送りベルト21を有する。この構成によれば、縫製対象物Sを適切に移送することができる。
【0052】
本開示の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0053】
LT…下糸、PS…縫製位置、S…縫製対象物、Sb…裏面、SE…縫い目、UT…上糸、1…ミシン、2…ミシンヘッド、3…針、4…針棒、5…天秤、6…糸調子器、7…針板、8…押さえ部材、9…釜、10,23A,23B…モータ、11…送り機構、13,30…制御部、21,21A,21B…送りベルト、22…ベルト駆動部、22A,22B…駆動系、24A,24B…スプロケット、31…処理部、32…記憶部、33…針駆動制御部、34…ベルト駆動制御部、35…演算部、37…張力制御部