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特開2024-77886スイッチ制御装置、超音波プローブ、超音波診断装置、およびスイッチ制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024077886
(43)【公開日】2024-06-10
(54)【発明の名称】スイッチ制御装置、超音波プローブ、超音波診断装置、およびスイッチ制御方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/00 20060101AFI20240603BHJP
【FI】
A61B8/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190100
(22)【出願日】2022-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】芝沼 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】長野 玄
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 翔平
(72)【発明者】
【氏名】大橋 穣
(72)【発明者】
【氏名】中沢 尚之
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601DE08
4C601EE02
4C601HH01
(57)【要約】
【課題】超音波プローブまたは超音波診断装置が有するTRスイッチで発生するスイッチングノイズを低減する。
【解決手段】一実施形態に係るスイッチ制御装置は、第1スイッチング回路と、第2スイッチング回路と、制御回路とを備える。第1スイッチング回路は、一端が超音波振動子に接続され、他端が超音波信号の受信回路に接続される。第2スイッチング回路は、一端が前記超音波振動子に接続され、他端が超音波信号の前記受信回路に接続されるとともに、前記第1スイッチング回路と並列に接続される。制御回路は、前記第1スイッチング回路の切り替えによって生じる第1スイッチングノイズと、前記第2スイッチング回路の切り替えによって生じる第2スイッチングノイズが互いに逆位相となるように、前記第1スイッチング回路と前記第2スイッチング回路とを制御する。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が超音波振動子に接続され、他端が超音波信号の受信回路に接続される第1スイッチング回路と、
一端が前記超音波振動子に接続され、他端が超音波信号の前記受信回路に接続されるとともに、前記第1スイッチング回路と並列に接続される第2スイッチング回路と、
前記第1スイッチング回路の切り替えによって生じる第1スイッチングノイズと、前記第2スイッチング回路の切り替えによって生じる第2スイッチングノイズが互いに逆位相となるように、前記第1スイッチング回路と前記第2スイッチング回路とを制御する制御回路と、
を備えるスイッチ制御装置。
【請求項2】
前記第1スイッチング回路は、直列接続された2つのNMOSFET(n-channel metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)を第1スイッチング素子として有し、
前記第2スイッチング回路は、直列接続された2つのPMOSFET(p-channel metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)を第2スイッチング素子として有する、
請求項1に記載のスイッチ制御装置。
【請求項3】
前記制御回路は、
第1送信期間から第1受信期間に切り替えるときには、前記第1スイッチング素子をオフからオンに切り替える一方、前記第2スイッチング素子はオフの状態を維持し、
前記第1受信期間に続く第2送信期間から第2受信期間に切り替えるときには、前記第2スイッチング素子をオフからオンに切り替える一方、前記第1スイッチング素子はオフの状態を維持するように、
前記第1および第2スイッチング回路を制御する、
請求項2に記載のスイッチ制御装置。
【請求項4】
前記第1受信期間に発生する前記第1スイッチングノイズと、前記第2受信期間に発生する前記第2スイッチングノイズは、前記第1受信期間に対応する第1受信信号と、前記第2受信期間に対応する第2受信信号とが前記受信回路で加算処理されることによって、互いにキャンセルされる、
請求項3に記載のスイッチ制御装置。
【請求項5】
前記受信回路での前記加算処理は、パルスサブトラクション撮像法に対応する信号処理である、
請求項4に記載のスイッチ制御装置。
【請求項6】
前記第1および第2スイッチング回路が前記超音波振動子に接続される前記一端には、送信用の超音波パルスを生成するパルサ回路、がさらに接続される、
請求項1に記載のスイッチ制御装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のスイッチ制御装置、
を備えた超音波プローブ。
【請求項8】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のスイッチ制御装置、
を備えた超音波診断装置。
【請求項9】
一端が超音波振動子に接続され、他端が超音波信号の受信回路に接続される第1スイッチング回路をオフにし、
一端が前記超音波振動子に接続され、他端が超音波信号の前記受信回路に接続されるとともに、前記第1スイッチング回路と並列に接続される第2スイッチング回路をオフにし、
前記超音波振動子に第1送信パルスを印加し、
前記第1スイッチング回路をオンにして、前記第1送信パルスに応じて反射される第1受信信号を受信し、
前記第1スイッチング回路をオフにし、
前記超音波振動子に第2送信パルスを印加し、
前記第2スイッチング回路をオンにして、前記第2送信パルスに応じて反射される第2受信信号を受信し、
前記第1受信信号と、前記第2受信信号とを加算処理する、
スイッチ制御方法。
【請求項10】
前記第1スイッチング回路は、直列接続された2つのNMOSFET(n-channel metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)をスイッチング素子として有し、
前記第2スイッチング回路は、直列接続された2つのPMOSFET(p-channel metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)をスイッチング素子として有する、
請求項9に記載のスイッチ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書および図面に開示の実施形態は、スイッチ制御装置、超音波プローブ、超音波診断装置、およびスイッチ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、超音波プローブに内蔵された超音波振動子から発生する超音波パルスや超音波連続波を被検体内に放射し、被検体組織の音響インピーダンスの差異によって生じる超音波反射を超音波振動子により電気信号に変換して、被検体内の情報を非侵襲的に収集するものである。超音波診断装置を用いた医療検査は、超音波プローブを体表に接触させる操作によって、被検体内部の断層画像や3次元画像などの医用画像を容易に生成し、収集することができるため、臓器の形態診断や機能診断に広く用いられている。
【0003】
超音波の送信に超音波パルスを用いる場合、送信時においては、送信回路から出力される送信パルス信号が超音波プローブの超音波振動子に供給され、受信時においては、超音波振動子で変換された受信信号が受信回路に供給される。
【0004】
送信パルス信号が受信回路に回り込むと、受信回路に損傷を与える恐れがある。これを防ぐため、通常、超音波振動子と受信回路との間に送受切換スイッチが設けられている。送受切換スイッチは、TRスイッチとも呼ばれる。
【0005】
TRスイッチは、受信期間中はオンとなって超音波振動子で受信した受信信号を受信回路に供給する一方、送信期間中はオフとなって、送信パルス信号の受信回路への回り込みを遮断することで受信回路を保護している。
【0006】
TRスイッチとしては、回路構成が簡素であるとの観点や、集積回路化が容易であるとの観点から、半導体のスイッチ素子、たとえば、MOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)をスイッチ素子とする能動制御TRスイッチが用いられることが多い。
【0007】
MOSFETをスイッチ素子とする能動制御TRスイッチでは、クロックフィードスルーやチャネルチャージインジェクションと呼ばれる現象によって、スイッチのオン/オフ時にスイッチングノイズが発生することが知られている。
【0008】
一方、超音波診断装置の撮像法の1つに組織ハーモニック撮像法があり、さらにこの組織ハーモニック撮像法の1つに、パルスサブトラクション法あるいはパルスインバージョン法と呼ばれる撮像法がある。
【0009】
パルスサブトラクション法では、たとえば、同一方向に極性あるいは位相の異なる超音波パルスを複数送信し、それぞれの送信に対応する受信信号を加算する処理が行われる。この撮像法では、解像度が高く、かつ、アーティファクトの少ない画像が得られるものの、上述したスイッチングノイズが、同位相で加算されることになる。このため、パルスサブトラクション法を用いない他の撮像法に比べ、スイッチングノイズの振幅が大きくなってしまい画質が劣化してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2017-051403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本明細書および図面に開示の実施形態が解決しようとする課題の1つは、超音波プローブまたは超音波診断装置が有するTRスイッチ回路で発生するスイッチングノイズを低減することである。ただし、本明細書および図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限らない。後述する各実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置付けることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一実施形態に係るスイッチ制御装置は、第1スイッチング回路と、第2スイッチング回路と、制御回路とを備える。第1スイッチング回路は、一端が超音波振動子に接続され、他端が超音波信号の受信回路に接続される。第2スイッチング回路は、一端が前記超音波振動子に接続され、他端が超音波信号の前記受信回路に接続されるとともに、前記第1スイッチング回路と並列に接続される。制御回路は、前記第1スイッチング回路の切り替えによって生じる第1スイッチングノイズと、前記第2スイッチング回路の切り替えによって生じる第2スイッチングノイズが互いに逆位相となるように、前記第1スイッチング回路と前記第2スイッチング回路とを制御する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る超音波診断装置の外観の一例を示す斜視図。
図2】実施形態に係る超音波診断装置の構成例を示すブロック図。
図3】振動子回路の回路構成例を示すブロック図。
図4】実施形態に係るTRスイッチ回路の回路構成例を示す図。
図5】TRスイッチ回路の動作を説明するタイミングチャート。
図6】パルスサブトラクション法におけるエコー信号の振る舞いを模式的に示す図。
図7】パルスサブトラクション法におけるスイッチングノイズの振る舞いを模式的に示す図。
図8】実施形態に係るスイッチ制御方法の処理例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を添付図面にもとづいて説明する。
(超音波診断装置)
図1は、実施形態に係る超音波診断装置1の外観の一例を示す斜視図である。図1に示すように、超音波診断装置1は、装置本体10と超音波プローブ20を備えている。装置本体10は、キャスタ付きの本体ケースに収納される各種回路(図2参照)の他、ディスプレイ110およびユーザインタフェース120を備えている。
【0015】
ディスプレイ110は、装置本体10の各種回路で生成された超音波画像や各種データを表示する。ディスプレイ110は、たとえば、液晶ディスプレイパネルや、有機EL(Electro Luminescence)パネルを備えて構成される。
【0016】
ユーザインタフェース120は、ユーザ操作によって、ユーザが各種のデータや情報を装置本体10に入力する、あるいは、各種の動作モードを装置本体10に設定するデバイスである。ユーザインタフェース120は、たとえば、操作パネル121とタッチパネル122の2つのデバイス(図2参照)を備えて構成されている。
【0017】
操作パネル121は、たとえば、トラックボール、各種のスイッチ、ダイアル等の操作デバイスが配置されており、これらの操作デバイスをユーザが操作することにより、各種のデータや情報を装置本体10に入力することができる。
【0018】
一方、タッチパネル122は、液晶パネル等のディスプレイパネルにタッチスクリーンが重ねられて構成される表示兼入力デバイスである。ユーザは、ディスプレイパネルの表示にしたがってタッチスクリーンに触れる、または、押下することにより、各種のデータや情報を装置本体10に入力することができる。
【0019】
図2は、実施形態に係る超音波診断装置1の構成例を示すブロック図である。超音波診断装置1は、装置本体10と、装置本体10に接続される少なくとも1つの超音波プローブ20とを備えている。超音波プローブ20は、超音波振動子210が列アレイ状に配列された1次元プローブ(1Dプローブ)でもよいし、超音波振動子210が面アレイ状に配列された2次元プローブ(2Dプローブ)でもよい。
【0020】
装置本体10は、図2に示すように、送受信回路30、Bモード処理回路130、ドプラ処理回路140、制御回路150、画像生成回路160、フレームメモリ170、ディスプレイ110、および、操作パネル121とタッチパネル122とを含むユーザインタフェース120を有する。
【0021】
送受信回路30は、送信回路31と受信回路32を備えている(図3参照)。送信時においては、超音波プローブ20が有する多数の超音波振動子210のそれぞれに対して、超音波パルスを発生するためのパルス信号を供給する。一方、受信時においては、送受信回路30は、超音波プローブ20の各超音波振動子210から出力される受信信号をデジタル信号に変換し、デジタル化された各受信信号を重み付け加算して、受信ビームを形成する。また、送受信回路30は、たとえば制御回路150からの制御信号にもとづいて受信ビームの方向を走査する。
【0022】
Bモード処理回路130は、ビーム形成された受信信号に対して、対数検波処理等を施し、走査方向の情報を用いてBモード画像を生成する。また、ドプラ処理回路140は、ビーム形成された受信信号に対して、相関処理やフーリエ変換等の信号処理を施し、走査方向の情報にもとづいてカラードプラモード画像やパルスドプラモード信号を生成する。
【0023】
制御回路150は、送信や受信の走査制御を含めた超音波診断装置1全体の制御を行うほか、図5-7を用いて後述するようにTRスイッチに対するスイッチング制御も行っている。
【0024】
画像生成回路160は、Bモード画像やカラードプラモード画像をディスプレイ110に表示するための表示用画像に変換するほか、表示用画像に各種の補助情報を付加する処理などを行う。フレームメモリ170は、所定のフレームレートで生成される表示用画像を、フレーム画像として逐次記録していくための記録媒体である。
【0025】
上述した送受信回路30、Bモード処理回路130、ドプラ処理回路140、制御回路150、および画像生成回路160は、FPGA(field programmable gate array)やASIC(application specific integrated circuit)等のハードウェアで構成してもよいし、たとえば、CPUや専用または汎用のプロセッサを備える回路で構成してもよい。
【0026】
プロセッサを備える回路でこれらの回路を構成する場合は、図示しない記憶回路に記憶した各種のプログラムを実行することによって、各回路の所定の機能をソフトウェア処理によって実現することができる。また、1つの回路に1つまたは複数のプロセッサを備える構成でもよいし、複数の回路の機能を1つのプロセッサで実現する構成でもよい。また、上記の各回路の各種の機能を、プロセッサとプログラムによるソフトウェア処理と、ハードウェア処理とを組み合わせて実現することもできる。
【0027】
図3は、振動子回路200の回路構成例を示すブロック図である。図3に示すように、超音波診断装置1は、複数(たとえば128素子~256素子)の振動子回路200を有する。
【0028】
それぞれの振動子回路200は、超音波振動子210、TRスイッチ回路230、スイッチ制御回路240、パルサ回路250、およびプリアンプ(前置増幅回路)260を有する。TRスイッチ回路230とスイッチ制御回路240とで、スイッチ制御装置220を構成している。スイッチ制御回路240は、特許請求の範囲の記載における制御回路の一例である。
【0029】
各パルサ回路250は配線201を介して送受信回路30の送信回路31に接続され、各プリアンプ260は配線202を介して送受信回路30の受信回路32に接続され、各スイッチ制御回路240は配線203を介して制御回路150に接続されている。
【0030】
送信時において、送信回路31は、Bモード、カラードプラモード、パルスドプラモードなどの動作モードに応じたPRF(pulse repetition frequency)に対応するレートパルスを発生するとともに、送信ビームの方向や集束位置に応じて超音波振動子210ごとに定まる遅延時間をレートパルスに付与する。そして、送信回路31は、超音波振動子210ごとに異なる遅延時間で遅延されたレートパルスを、配線201を介して、各振動子回路200のパルサ回路250に分配する。
【0031】
パルサ回路250は、レートパルスに同期させて所定の送信波形を有する送信パルスを生成し、超音波プローブ20の超音波振動子210に供給する。超音波振動子210は、電気信号である送信パルスを超音波信号に変換して、被検体に送信する。
【0032】
なお、送信回路31は、超音波振動子210ごとに異なる遅延時間で遅延された送信パルス信号を生成し、パルサ回路250が、配線201を介して分配された送信パルス信号を所定の電圧に増幅して超音波振動子210に供給するようにしてもよい。
【0033】
一方、受信時においては、被検体の体内から反射された超音波信号は、それぞれの超音波振動子210において電気信号に変換されて受信信号となる。これらの受信信号は、TRスイッチ回路230を経由したのち、各プリアンプ260で増幅され、配線202によって受信回路32に集められる。
【0034】
受信回路32は、各受信信号をデジタル信号に変換し、デジタル化された各受信信号を重み付け加算することによって、受信ビームを形成する。ここで、重み付け加算の重みは、形成される受信ビームの走査方向や、受信ビームの焦点位置等によって定まる。
【0035】
図2および図3では、送受信回路30および振動子回路200が超音波診断装置1の装置本体10に含まれる構成としているが、送受信回路30および振動子回路200の全部または一部は、超音波プローブ20に含まれてもよい。
【0036】
(スイッチ制御装置)
図3に示したスイッチ制御装置220のTRスイッチ回路230は、パルサ回路250で生成あるいは増幅した送信パルスが、プリアンプ260に漏れ込むことを防止するために設けられる回路である。送信時に、プリアンプ260への送信パルスの流入をTRスイッチ回路230によって遮断することにより、プリアンプ260の損傷や性能劣化を防止することができる。
【0037】
TRスイッチ回路230としては、前述したように、回路構成が簡素であるとの観点や、集積回路化が容易であるとの観点から、半導体のスイッチ素子、たとえば、MOSFETをスイッチ素子とする能動制御TRスイッチが用いられることが多い。MOSFETをスイッチ素子とする能動制御TRスイッチでは、クロックフィードスルーやチャネルチャージインジェクションと呼ばれる現象によって、スイッチのオン/オフ時に、スイッチングノイズが発生することも知られている。
【0038】
また、超音波診断装置の撮像法としてパルスサブトラクション法(あるいは、パルスインバージョン法)と呼ばれるハーモニック撮像法を撮像モードとして選択した場合に、上述したスイッチングノイズが顕著になることも知られている。本実施形態に係るTRスイッチ回路230は、スイッチングノイズが画質に与える影響を抑制するように構成される。
【0039】
図4は、実施形態に係るTRスイッチ回路230の回路構成例を示す図である。図4に示すように、TRスイッチ回路230は、第1スイッチング回路231と、第2スイッチング回路232とを有する。
【0040】
図4に示すように、第1スイッチング回路231は、たとえば2つのNMOSFET(n-channel metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)(Q1)およびNMOSFET(Q2)が直列接続されて構成される。また、第2スイッチング回路232は、たとえば2つのPMOSFET(p-channel metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)(Q3)およびPMOSFET(Q4)が直列接続されて構成される。
【0041】
第1スイッチング回路231の一端(たとえば、図4の左側の端部)は、超音波振動子210に接続され、他端(たとえば、図4の右側の端部)は、プリアンプ260(即ち、受信回路側)に接続される。そして、第2スイッチング回路232は、第1スイッチング回路231に対して並列に接続されている。つまり、第2スイッチング回路232は、第1スイッチング回路231と同様に、一端が超音波振動子210に接続され、他端がプリアンプ260(即ち、受信回路側)に接続されている。
【0042】
なお、図4において、「超音波振動子側」と記載している左側の端部を、プリアンプ260(受信回路側)に接続し、「プリアンプ側」と記載している右側の端部を超音波振動子210に接続してもよい。
【0043】
図4において、抵抗R1、R2、R3、R4は、NMOSFETとPMOSFETを適切に動作させるためのバイアス電圧を与えるための抵抗である。
【0044】
第1スイッチング回路231の2つのNMOSFET(Q1)およびNMOSFET(Q2)のそれぞれのソースは抵抗R1を介してグランド(GND)に接続され、それぞれのゲートには、スイッチ制御回路240から出力されるスイッチ制御信号(1)が印加される。
【0045】
一方、第2スイッチング回路232の2つのPMOSFET(Q3)およびPMOSFET(Q4)のそれぞれのソースは抵抗R3を介して電源電圧Vdd(正の電圧Vdd)に接続され、それぞれのゲートには、スイッチ制御回路240から出力されるスイッチ制御信号(2)が印加される。
【0046】
図5は、TRスイッチ回路230の動作を説明するタイミングチャートである。図5には、パルスサブトラクション法におけるTRスイッチ回路230の動作の一例を示した。パルスサブトラクション法では、送信パルスを同一方向に2回続けて送信し、それぞれの送信に対応する2つの受信信号を加算する処理を行う。
【0047】
図5(a)は、送信パルスの発生を示すタイミングチャートである。第1送信期間において第1送信パルスが送信され、第2送信期間において第2送信パルスが送信される。パルスサブトラクション撮像法では、図5(a)に示したように、第1送信パルスと第2送信パルスでは、互いに位相が反転した信号が送信される。
【0048】
図5(b)は、スイッチ制御信号(1)と、第1スイッチング回路231におけるNMOSFETのオン、オフ状態を示すタイミングチャートである。第1スイッチング回路231における2つのNMOSFET(Q1とQ2)のオン、オフ状態は、同一となるよう制御される。
【0049】
図5(c)は、スイッチ制御信号(2)と、第2スイッチング回路232におけるPMOSFETのオン、オフ状態を示すタイミングチャートである。第2スイッチング回路232における2つのPMOSFET(Q3とQ4)のオン、オフ状態も、同一となるよう制御される。
【0050】
第1送信期間では、スイッチ制御信号(1)はGNDレベルに設定され、スイッチ制御信号(2)は正の電圧Vddに設定される。この設定により、第1送信期間では、第1スイッチング回路231の2つのNMOSFETと第2スイッチング回路232の2つのPMOSFETは、どちらもオフの状態となる。このため、第1送信期間では、TRスイッチ回路230のすべてのスイッチング素子がオフとなることにより、送信回路31が配線201およびパルサ回路250を介して超音波振動子210に印加する送信パルス(図3参照)が超音波振動子210側の一端(図4参照)から受信回路32に流入することを防ぐことができる。
【0051】
第1送信期間に続く第1受信期間では、第1スイッチング回路231のNMOSFETは、スイッチ制御信号(1)によりGNDレベルから正の電圧Vddに変化してオンとなる。一方、第2スイッチング回路232のPMOSFETは、スイッチ制御信号(2)により正の電圧Vddが維持されてオフの状態が維持される。このため、第1受信期間における受信信号は、第1スイッチング回路231を経由して受信される。
【0052】
第1受信期間に続く第2送信期間では、第1スイッチング回路231のNMOSFETは、スイッチ制御信号(1)によりVddレベルからGNDレベルに変化してオフとなる。一方、第2スイッチング回路232のPMOSFETは、引き続きスイッチ制御信号(2)により正の電圧Vddが維持されてオフの状態が維持される。このため、第2送信期間では、第1送信期間と同様に、第1スイッチング回路231のNMOSFETと、第2スイッチング回路232のPMOSFETはどちらもオフの状態となる。つまり、第2送信期間でも、TRスイッチ回路230のすべてのスイッチング素子がオフとなり、受信回路32が送信信号から遮断される。
【0053】
第2送信期間に続く第2受信期間では、第1スイッチング回路231のNMOSFETは、スイッチ制御信号(1)によりGNDレベルが維持されてオフの状態が維持される。一方、第2スイッチング回路232のPMOSFETは、スイッチ制御信号(2)により正の電圧VddからGNDレベルに変化してオンの状態になる。このため、第2受信期間における受信信号は、第1受信期間とは異なり、第2スイッチング回路232を経由して受信されることになる。
【0054】
図6は、上述したTRスイッチ回路230の動作の下での、パルスサブトラクション法における所望の受信信号(エコー信号)の振る舞いを模式的に示す図である。
【0055】
図6(a)は、図5(a)と同じ図である。図6(b)は、被検体の体内の所定の深度の組織から反射された受信信号の波形を模式的に示す図である。パルスサブトラクション法は受信信号の非線形成分、すなわち高調波成分を抽出して画像化する撮像法である。図6(b)では、説明の便宜上、受信信号の波形歪を誇張して表現している。
【0056】
図6(c)に示すように、第1受信期間の受信信号における基本波成分と、第2受信期間の受信信号における基本波成分の位相は、互いに逆位相となる。これに対して、第1受信期間の受信信号における高調波成分(たとえば、第2高調波成分)と、第2受信期間の受信信号における高調波成分(たとえば、第2高調波成分)の位相は互いに同位相となる。パルスサブトラクション法では、この性質を利用して、第1受信期間の受信信号と第2受信期間の受信信号とを加算処理することにより、基本波成分をキャンセルし、高調波成分を増強させ、受信信号から高調波成分のみを抽出している。そして、抽出した高周波成分を用いた画像化処理により、高解像度で、かつ、サイドローブからの不要波の影響が低減された高品質の画像の生成が可能となっている。
【0057】
図7は、上述したTRスイッチ回路230の動作の下での、パルスサブトラクション法におけるスイッチングノイズ(即ち、不要信号)の振る舞いを模式的に示す図である。
【0058】
図7(a)は、図5(b)と同じ図であり、第1スイッチング回路231におけるスイッチ制御信号(1)とオン、オフ状態とを示すタイミングチャートである。
【0059】
図7(b)は、第1受信期間に発生するスイッチングノイズ(第1スイッチングノイズ)の振る舞いを模式的に示した図である。前述したように、第1送信期間から第1受信期間に移行するとき、スイッチ制御信号(1)により第1スイッチング回路231はGNDレベルからVddレベルに遷移する。このとき、NMOSFET(Q1およびQ2)のゲート電圧は正方向に変化する。この過渡的な電圧変化が、NMOSFET(Q1およびQ2)のゲート端子からソース端子やドレイン端子にカップリングし、これがスイッチングノイズとなる。この場合、スイッチノイズ(第1スイッチングノイズ)の形状は、スイッチ制御信号(1)の立ち上がり直後から上昇してその後下降し、上に凸の形状を示す。また、場合によっては、図に例示したように、所定の短期間の間、減衰振動を示す。
【0060】
一方、図7(c)は、図5(c)と同じ図であり、第2スイッチング回路232におけるスイッチ制御信号(2)とオン、オフ状態とを示すタイミングチャートである。
【0061】
そして、図7(d)は、第2受信期間に発生するスイッチングノイズ(第2スイッチングノイズ)の振る舞いを模式的に示した図である。第2送信期間から第2受信期間に移行するとき、スイッチ制御信号(2)により第2スイッチング回路232はVddレベルからGNDレベルに遷移する。このとき、第1スイッチング回路231のスイッチ制御信号(1)とは逆に、PMOSFET(Q3およびQ4)のゲート電圧は負方向に変化する。この過渡的な電圧変化が、PMOSFET(Q3およびQ4)のゲート端子からソース端子やドレイン端子にカップリングし、これがスイッチングノイズとなる。この場合、スイッチノイズ(第2スイッチングノイズ)の形状は、スイッチ制御信号(2)の立ち下がり直後から下降してその後上昇し、下に凸の形状を示す。また、第1スイッチングノイズと同様に、場合によっては、所定の短期間の間、減衰振動を示す。
【0062】
スイッチ制御信号(1)の立ち上がりスピードと、スイッチ制御信号(2)の立ち上がりスピードとを同一にし、かつ、NMOSFET(Q1およびQ2)とPMOSFET(Q3およびQ4)のゲート-ソース間静電容量、および、ゲート-ドレイン間静電容量を同一にすることで、第1スイッチングノイズの波形と第2スイッチングノイズの波形を、正負のみが反転された同一形状のノイズ波形にすることができる。言い換えれば、第1スイッチングノイズと第2スイッチングノイズは、互いに逆位相の同一波形となる。
【0063】
説明の便宜上、図6ではエコー信号のみを図示し、図7ではスイッチングノイズのみを図示しているが、実際には、エコー信号とスイッチングノイズとは互いに重なっており、また、これらは、パルスサブトラクション法の下で同じ処理に供されることになる。
【0064】
したがって、パルスサブトラクション法の下では、第1スイッチングノイズと、これと逆位相の第2スイッチングノイズとが加算されるため、加算処理後において、これらのスイッチングノイズは互いにキャンセルされゼロとなる。また、第1スイッチングノイズの波形と、これと逆位相の第2スイッチングノイズの波形の形状が完全には一致しなくとも、加算処理後において、スイッチングノイズを大幅に減少させることができる。
【0065】
従来は、第2スイッチング回路232に相当する回路がなく、第1スイッチング回路231に相当する回路のみでTRスイッチ回路を構成していた。この場合、第1受信期間で発生する第1スイッチングノイズと、第2受信期間で発生する第2スイッチングノイズは、形状のみならず、位相も極性も同一となってしまう。このため、パルスサブトラクション法の下で両者を加算すると、スイッチングノイズの振幅が加算前の2倍程度にまで増加されてしまう。
【0066】
これに対して、TRスイッチ回路230では、上述したように、スイッチングノイズをゼロにする、あるいは、大幅に減少させることが可能となる。
【0067】
図8は、実施形態に係るスイッチ制御方法の処理例を示すフローチャートである。この手順は、図5(a)に示す第1送信期間の開始とともにスタートとなる。
【0068】
まず、ステップST100において、スイッチ制御回路240は第1スイッチング回路231をオフにする。同様に、ステップST101において、スイッチ制御回路240は第1スイッチング回路231と並列に接続された第2スイッチング回路232もオフにする。
【0069】
次に、ステップST102において、送信回路31は、配線201およびパルサ回路250を介して超音波振動子210に第1送信パルスを印加する。そして、ステップST103において、スイッチ制御回路240は、第1スイッチング回路231をオンにしつつ第2スイッチング回路232をオフの状態で維持する。この結果、第1送信パルスに応じて反射された第1受信信号は、第1スイッチング回路231を経由して受信される。
【0070】
次に、ステップST104において、スイッチ制御回路240は第1スイッチング回路を231オフにし、ステップST105において、送信回路31は配線201およびパルサ回路250を介して超音波振動子210に第2送信パルスを印加する。そして、ステップST106において、スイッチ制御回路240は第2スイッチング回路をオンにする。この結果、第2送信パルスに応じて反射される第2受信信号は、第2スイッチング回路232を経由して受信される。最後に、ステップST107で、第1受信信号と第2受信信号とが加算される。
【0071】
以上説明してきたように、実施形態に係るスイッチ制御装置220によれば、超音波プローブ20または超音波診断装置1が有するTRスイッチ回路230で発生するスイッチングノイズを低減することができる。
【0072】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0073】
1 超音波診断装置
10 装置本体
20 プローブ
30 送受信回路
210 超音波振動子
220 スイッチ制御装置
230 TRスイッチ回路
231 第1スイッチング回路
232 第2スイッチング回路
240 スイッチ制御回路
250 パルサ回路
260 プリアンプ
Q1、Q2 NMOSFET
Q3、Q4 PMOSFET
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8